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さざんかの髪飾り

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さざんかの髪飾り

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水のミドリ


目次



1 


 今朝仕入れてきたばかりのヒマワリをバケツに差し、軒先のウッドデッキに出す。背の高いチューリップの飛び出た花筒を、緑の短い腕で段差をつけて店内に陳列する。ウォールシェルフには精いっぱい背伸びして蔦の鉢植えを乗せる。キーパー*1から取り出した自分の身体よりもずっと大きいアジサイを、剣の舞の要領で素早く剪定(せんてい)する。満開になってしまったバラはお客様のサービス用にまとめ、元気のなくなってきたユリの水切りも手際よくこなす。
 5月の下旬は花がいちばん喜ぶ季節である。
 ミアレシティは西の大通り、エテアベニューの格調高い建物が軒を連ねる石畳に面して、フラワーショップ『ほうし』は店を構えている。ミアレ出版社のすぐ隣、喧騒の飛び交う都会に忽然と現れるオアシスのようなその花屋は、丁寧な接客と3割くらいの頻度でオマケしてくれるというお客様への奉仕っぷりで、小さいながらもなかなかに繁盛していた。
 看板娘で今年19になるキレイハナのミーリアは、フラワーアレンジメントを作る手を休めて、ひとつ大きく伸びをした。
「う~ん、ちょっと疲れたかなぁ……」
 昼時を過ぎ客足もまばらになり、やっとひと息つける時間帯になった。開け放たれたフレンチウィンドウ*2からは、傾き始めた太陽の光がヒマワリの長い影を投げかけている。木製のカウンターに肘をつくと、ミーリアは力を抜くように大きく息を吐き、ゆったりと目を細めた。
 様々なひとたちが石畳を行き来する。楽しそうに談笑するマダムのグループに、手と手を繋いで歩く人間とニャオニクスのカップル。50年ほど前にポケモンと人が会話できるようになってから、これもごく当たり前の光景になった。通りを挟んではす向かいにあるカフェ『おことまえ』からは、豊かなコーヒーの香りとご機嫌なクラシックが流れてくる。穏やかな午後の陽気が広がる街並みを眺めているだけで、全身の疲労感が溶け出していくようだ。お客がいなければ踊りだしたい気分だった。
 頭の側面に誇らしげに咲いている、さざんかのような花の髪飾りを弾いてくるくる回す。甘い新緑のにおいをあたりに漂わせるそれは、同じ種族のそれよりもひと回り大きく咲き誇っていた。店の中のどの花よりもみずみずしく、これから満開になるであろう若さと力強さを秘めている。
 エテ通りをゆったりと行き交うミアレっ子たちの中に常連客の姿を見つけて、ミーリアは大きく手を振った。気づいたフラージェスの沙羅(サラ)が、バケツに差された花々の間からひょっこりと顔を出す。カウンターの高椅子から飛び降りると、ミーリアは葉っぱのスカートを躍らせて駆け寄った。
「いらっしゃいませ! 沙羅さん、いつもご利用ありがとうございます」
「ミーリアちゃんごめんやすぅ、今日もお花がよう喜んどるねぇ」
 はんなりとしたイントネーションで、沙羅はかがんで挨拶を返す。綿雲のような首周りの紅い襟飾りが、故郷のシンオウの楓の木みたいに色鮮やかに輝いていて、こんな大人の女性になりたいな、とミーリアは思う。
「お母さんのお手伝い始めてからもう1ヶ月とちょっとやんねぇ。お仕事ぶりもだんだんと板についてきたんとちゃうやろか」
「えへへぇ、そうでしょうか。私だって今年の秋から立派な社会人*3ですもん。一生懸命お仕事しないと!」
 胸の前でぎゅっと手を握り込むミーリアのきりりとした表情とは対照的な、あどけなさの残る笑い方。気持ちは立派な大人でも、まだまだ子供らしさは抜け切れていない。そのギャップに、つられて沙羅も笑顔になる。
「元気そうで何よりや……て、あまりそうにも見えへんなぁ。目の下にクマがびっしり付いとるよ。どないしなはったの?」
「昨日ちょっと眠れなくて……」
 褒められたときよりも数段力なく、乾いた声を出すミーリア。その目には化粧ではごまかしきれないほど黒い三日月模様が、判を捺されたように浮き出ていた。せやろなぁ、と小首をかしげてちょっと考えたあと、沙羅はああ、と納得した。
「今週末は母の日*4やんな? やっぱりお花屋さんはこの時期忙しいもんなんやなぁ」
「今日は金曜日なのでこれからの時間帯に人が多くなるんです。明日の土曜日はもっと忙しいし、母の日当日はこんなもんじゃないんですよ。なのに私、体調管理もできないなんて、社会人失格ね」
「あらまぁ……」
 みるみるしょげていくミーリア。いつもは大きく元気いっぱいに咲いているさざんかの髪飾りも、彼女の気持ちを代弁するかのようにしおらしく(すぼ)んでしまっている。
「ミーリアちゃんはまだまだオトシゴロなんやから、そんなに気張らんでもええんやのぅ思うよ」
「子供扱いしないでください! ちっちゃいけど、もう十分大人になったつもりですから!」
 今度は肘を突っ張らせ、平たい胸を突き出し顔を真っ赤にして叫ぶ。感情がすぐさま表に出てしまうところが子供らしい、と沙羅は再びやんわりと笑った。
「なんでそないに早よ大人になりとうの? 遊べるのは子供のうちだけやさかい、今のうちたんと遊んどこ、とは思わへんの」
「だってお母さん、私のやりたいことに何でもかんでも口出ししてくるんですよ!? 『まだアンタは子供だから~』って、いつもそればっかり! 宿題やったの、とか、万引きはしちゃダメよ、なんて分かりきっていることを毎日毎日聞かされるんです。門限なんて小学校の時からずっと8時なんですよ、いくらなんでも早すぎません? もう成人したんです、自分の面倒くらい自分で見れるんですからねっ!」
 やれやれ、といったふうに小さく肩を落とし、沙羅はその若葉色をした頭を撫でてあげる。まるでわが子を見るようだった。中学2年になる沙羅の娘のラヴェンナは、誰に似たのかミーリアをふた回りほどおてんばにした性格なのだ。
 柔らかい笑みを浮かべて、沙羅は言った。
「確かにそうやね、ラヴェンナもよう言うんよ、『なんでババァなんかにそんな指図されなアカンねん!』てなぁ。ウチもそんことにはよう分かっとるつもりなんやけどな、どしても“お母さん”は心配して口うるさく言うてしまうんよ。どこか知らんとこで道に迷てへんかー、学校で仲間外れにされてへんかー、てな。ラヴェンナには自由に生きてほしいし、縛りつける気なんてまっとう無いのに、娘には煙たがられてまう。ミーリアちゃんも、大人になってええ旦那はん(もろ)て、子供ができたらこの気持ちもわかるもんよ」
「そういうもの……なんですかね」
「そうよ、そういうものなんよ」
 神妙な面持ちで目を(しばたた)かせたミーリアは、何となしに頷いた。よくわからないけれど、すとんと心に落ちる。そんな重みが、沙羅の言葉にはあった。
 と、店の奥で客にサービスの花束を包んでいたラフレシアの木春(こはる)が、娘の騒がしい声に何事かと出てきた。
「ちょっとミーリア、何サボって……あー沙羅さん、いらっしゃってたのね。ゆっくりしていって。ミーリアがまた迷惑かけてない? うちの子すぐ甘えるから」
「甘えてなんてないもんっ!」
「そないなことないよ? あ、そうそ。木春はんに聞いておきたい事やぁあって立ち寄ったんやった。覚えてはります? ミーリアちゃんのお世話になってたダンスの師匠(せんせ)、明後日から1週間ほどイッシュへ行かれはるんやって。3月に納めたブーケ、まだ取り換えてないんとちゃいますの?」
「あ゛っ……。すっかり忘れてた。今週……って土日は忙しくてそんな暇ないからなぁ、実質今日しかないじゃない! わたしが向かうにしてもミーリアにお店を任せられないし……」
「もっとウチが早よう気づいておけばよかったんになぁ」
「そんなことないのよー、わたしがすっとぼけてただけだから。仕方ない、せんせには断りの電話をいれておかないと」
 肩を落として奥に引っ込んでいく木春の背中を眺め、ミーリアは思った。こういうトラブルが起こったとき、ミスせず処理できるのが大人というものだ。ここは私がちゃんと送り届けて、お母さんにちゃんとできるぞってところを見せてやろう。それに、久しぶりに先生にも顔を合わせておきたい。
 ミーリアがダンスを師事していたのはマクロビという人間の女性で、現役時代は名だたる大会の優勝をかっさらったと言われる妙齢のダンサーだった。ボリュームのある白髪に切れ長のまつげが映え、大人らしさが醸し出されていてミーリアは好きだった。木春を手伝うにあたりひと月前にマクロビのダンス教室を辞めてしまっていたのだが、久しぶりにその朗らかな顔を思い出すと途端に会いたくなったのだ。
 それに、もう1週間ほど花屋の仕事につきっきりでいとしのカレとも会っていない。ちょっと遠くに出かけるついでに、木春の見ていないところでこっそりキスしてもらいたかった。
「じゃあじゃあ、私が行ってくるよ! ぱっと行ってぱっと帰ってくるからさ!」
「……アンタが?」
 木春の営む『ほうし』は、落ち着いた雰囲気のブティックや地元の人たちでにぎわう市場のある大人なミアレっ子に人気の6区に店を構えている。エテ通りを東に進みプリズムタワーのそびえるメディオプラザに一端出て、そこから北東に延びるイベール通りに入ってしまえばマクロビの住む3区はすぐそこだ。地下鉄を使えば15分程度、歩いても1時間はかからないだろう。
 けれど、これから仕事帰りの大人たちや観光客でごった返す時間帯。とくにミアレを東西に走るセンヌ川を渡ると途端に治安が悪くなる。カロス中から物やひとの集まる光の街ミアレだが、だからこそ暗い影があるというもの。特に観光客の多い北のオトンヌ通りやルージュ広場付近は、夜な夜な恐喝やひったくりが横行しているのだ。人ごみに流され裏路地に迷い込んでしまった娘の末路を想像して、木春は背筋を震わせた。
「あーダメダメ、アンタは二十歳にもなっていないんだから。こんな時間から遠くに行って、何かあってからじゃ遅いんだからね? 自分ひとりじゃ責任とれないでしょ? どーせアンタ陽太くんとこに遊びに行くんだから。なりふり構わず恋愛しちゃうとか、そんなんだから店も任せられないんだって」
「ち、ちがっ……!!」
 カレに会おうとしていたのが見透かされ、ミーリアは大げさに手を振った。けれど木春の言うことはもっともで、自分のことを優先して仕事を放り出すなんて社会人としてあるまじき行いだ。二の句の継げないミーリアはひたすらぶんぶん首を振るだけ。見かねた沙羅が助け舟を出してくれた。
「ミーリアちゃんはしっかり者やし、ちょっとくらい羽延ばさせたってええんやないの? ウチのラヴェンナはまだ14やぁ言うのに、『今日はお友達のうちでお泊り会や!』言うて聞かんのよ。そそっかしいところあるさかい、どないしても心配で……」
 やんわりとミーリアの肩を持ってくれた沙羅の提案に、木春はにべもなく首を振る。
「だめだめ、うちのは口だけどんどん達者になって中身は全然お子ちゃまなんだから。この間もカモネギのお客さんが傘立てに差しておいたネギを花の落ちたスノードロップだと思って処分しようとしたのよ。気づいてわたしが止めたからよかったものの、あのまま目を離しておいたらと思うとぞっとするの」
「あ、あれはたまたま間違えたんだってばっ!」
「たまたまでお店の評判を落とされちゃたまったもんじゃないわよ!」
 しつこい埃をはたきで叩き落とすようなため息。毒々しい斑点の散らばる赤い笠から、ぼふっと胞子が舞い落ちる。吸い込んでも体には無毒だが、人間がフケをばらまいているようで見ていていい気はしない。曇らせた眉をいっそう曲げて、ミーリアは縮こまった。追い打ちをかけるように、木春は言う。
「お店の手伝い、やりたくないなら別に無理してやらないでもいいのよ。別に強制してるわけじゃないんだから。自分のやりたいことには全力でぶつかりなさい。ダンスが好きなら、そっちの道に進んだ方がいいわ」
「……ごめんなさい」
 完全に髪飾りをしぼませてしまったミーリアがますますわが娘のように思えてきて。親子の口げんかを見守っていた沙羅がまた後押ししてくれた。
「ウチ、今日は娘も帰ってこうへんし、旦那も出張やから家戻っても誰もおらへんのよ。木春はん、お店手伝わせてもらえへんやろか」
「ええ!? そんな悪いですし、お給料出せませんよ」
「そんなんええんよ、困ったときはお互いさまやろ? 代わりに、ミーリアちゃんに行ってきてもらいましょ」
「うーん、沙羅さんがそこまで言うなら……」
「やった! すぐ用意してくるから!」
「ああもうそうやってすぐ立ち直って! 現金なんだから……」
 満開の笑顔でポーチを取りに店の奥の階段から2階の自室へ跳び上がっていくミーリアの小さい背中を目で追って、木春は頭にかぶさる重たい笠を持ち上げた。
「……まったく誰に似て――似ないで(・・・・)くれているんだか」


2 


「でもねぇ、ミーリアちゃんがダンスを辞めちゃうなんて、本当にもったいないのにねぇ」
「仕方ないんです、私がお花屋さんを手伝わないと。ちゃんとお仕事できるようになって、お母さんを安心させなくちゃですから」
 (よわい)70にしてようやく皺の目立ち始めた顔を寂しそうにほころばせて、マクロビはカールした白髪を指で()いた。シルクの朱いストールが目を引く人間のマダムで、3年間ミーリアに踊りのイロハから教えてきたのだ。ダンススクールの練習場の脇に設えられた事務室で、ミーリアから受け取った花束をデスクの上の花瓶にせっせと移し替える。ピンクと赤のまだら模様が、味気ないリノリウム張りの部屋を鮮やかにさせた。
「今回はミーリアちゃんがお花を届けてくれるのね、ありがとうっ。そういえば明後日は母の日だったわね! だからカーネーションなのかしら。確か、そういう意味の花なのよねぇ!」
「はいっ! カロスだと母の日に送る花はお母さんの好きなものがよく選ばれますけど、カントーやイッシュだとカーネーションを贈る習慣があるんですよ。私の住んでいたシンオウでもそうでした。特にピンクのカーネーションの花言葉は『母の愛』『感謝』なので、今日という日にはもってこいなんです。陽の当たる窓際で育てれば7月上旬まで花は保ちますので、またその時に交換しに来ますね」
「まぁ、ありがとう! 悪いわねぇ、毎回お花を届けてくれるなんて」
「いえ、ご贔屓にどうぞ今後ともよろしくお願いしいます!」
「あらー、そんな営業トークまで覚えちゃって! もうすっかりお花屋さんね!」
「えへへぇ……ありがとうございますっ!」
 スクールをやめる話はひと月前に正式につけていたとはいえ、多少気まずくなると思っていたミーリアはマクロビの以前と変わらない態度に助けられた。生徒と師匠の関係が変わっても、ひととしてミーリアを好きでいてくれる。それも大人らしさなんだろう。
「最後のレッスンからひと月経つけど、自分で踊りは続けてる? お母さんのお手伝いが終わった後でもいいから、ちょっと身体を動かすといいと思うわ。ジャンプは克服できた?」
「それは……まだちょっと」
「不思議ねぇ、ほかの技術はとんとんと身に着けちゃったのに、ジャンプだけはどうしてもできないなんて……」
「……」
「木春ちゃんなんて、トランポリンに乗っているみたいにぴょんぴょん跳んでいたっていうのに」
「へぇ、お母さんが……えぇっ、お母さん!?」
 思わず叫んだミーリアと同じくらい目をぱちくりさせて、マクロビはどこか嬉しそうに言った。事務椅子の後ろの壁にかけられているコルクボードから、端が淡く退色した写真を1枚抜き取ってミーリアに見せる。
「聞いたことなかったの? 木春ちゃん、高校2年生の時ミアレに留学しに来ていたのよ。懐かしいわねぇ、あの時は、まさか親子二代を指導することになるなんて思わなかったわ! ほら見て頂戴、この写真。もう25年も前になるのかしら」
 差し出されたものはいつかのダンス大会の集合写真らしかった。華麗にホバリングするビビヨンに、水層からきらめく視線を投げかけるサクラビス。手前に並ぶドレディアやシザリガー、きらびやかな衣装を身にまとった人間たちの間に、4,5体のキレイハナが固まって笑っている。その中に、ひとりぽつんと飛び出た背丈のクサイハナが。
「もしかしてこのクサイハナ……お母さんなの!?」
「そうなのよー! こうしてよく見てみると、手元とかミーリアちゃんにそっくりなのねぇ!」
「び、びっくりしたぁ。お母さんからそんな話、一度も聞いたことなかったから……」
「今の彼女からは想像もつかないと思うけど、昔はかなり引っ込み思案でね。3年前あなたを連れてこっちに越してきて初めに会ったとき、すっかり明るくなって別人かと思ってびっくりしちゃったのよ。ええ、もちろんラフレシアに進化して姿は変わっていたのだけれどね。それ以上に、何か吹っ切れたというか、そういうオーラがにじみ出ていたわ」
 高校2年生にもなって中間進化に留まっているというのは珍しい。クサイハナのように石で進化するポケモンは、高校入学を期に新しい姿へと変わるのが通過儀礼のようになっているから、17にもなって発達途上のままの姿をした木春は、当時は好奇の目を向けられていたのだろう。
 ミーリアが写真に目を落としていると、勝手に甘酸っぱい青春に浸りだしたマクロビはうっとりと喋りはじめた。
「木春ちゃんはね、17歳とは思えないほどダンスが上手かった。花びらの舞だって剣の舞だって、教えればあっという間に自分のものにしちゃうんだもの。ミーリアちゃんのセンスはお母さん譲りね、嫉妬しちゃう。このときの大会だって、1位とかなりいい勝負をしていたのよ? 競り合った相手はイッシュから来た、やっぱりキレイハナの女の子だったのだけれど、技術面では確実に木春ちゃんの方が上だったわねぇ。でもやっぱり、審査員たちはクサイハナではなくキレイハナを選んだ。――本来そうあるべきではないのにねぇ」
 改めてミーリアは写真の中の木春を見る。きっと結んだ唇とカメラから逃げるようにそらされた顔はどこか悔しそうで、開いていないように見える細い瞳から涙を流しているようにも映った。明るい華を咲かせるキレイハナたちに囲まれて、彼女はひどく惨めにも思えてしまう。
「お母さんは……なんでキレイハナに進化しなかったんですか? 進化していれば、優勝できたかもしれないんですよね」
「それがね、さっぱりわからないの! 大会の前にキレイハナに進化するよう私はしきりに勧めていたんだけれど、木春ちゃんは頑なに首を横に振っていたわ。なんで? って聞いても理由を決して教えてくれなかったときは、ちょっと寂しかった。あ、でも、数年後には立派なラフレシアに成長していたから、きっとラフレシアになろうか迷っていたのね。――なかなかそんな女の子はいないんだけれど、ひとたび進化してしまえば、選ばなかった方を取り戻すことはできないもの」
 毎日叱りつけてくる母親の、過去。写真に写っているような表情は、ほとんどミーリアに見せたことがなかった。シンオウから引っ越す前も近所の花屋で働いていて、物心ついた頃にはすでに植物の手入れをする木春の背中を見ていたから、いつの間に母親はずっとそういうひとだと思い込んでいた。当たり前だが、ミーリアと同じように木春も昔は学生であったのだ。
 いったいどんな子だったのだろう。もしかしたら、私と同じような――
「そうそう! ところでミーリア、あなた、明日のダンス大会に出る気はない?」
「え、それはまた急な話ですね。どうしたんですか。以前にちゃんと断ったはずですけど……」
 明るいマクロビの声で、ミーリアは思考の底から引っ張り上げられた。ダンススクールでは毎年5月の中旬になるとイッシュにある提携校と親善試合をする習慣がある。去年と一昨年は母の日に被らなかったためミーリアも出場し上位入賞を果たしていたのだが、今年はマクロビがイッシュで開かれる国際大会に招聘(しょうへい)されるとかで一週間後にずれ込んだ。その結果大会が母の日とかぶさりミーリアは出場を辞退していたのだが、それをマクロビはひどく気にしていたようだった。
「大会に出る予定だった子がね、風邪を引いちゃったのよ。なんでも五月病? みたいな名前の病気らしくてね、スクールにも顔を出さないの」
「はぁ……そうなんですか」
「あなたも、引退前の最後の試合になるんだし、結果はともあれ3年間の集大成として華々しく終わりたいと思わない? お母さんに言ってどうにかしてもらえないものかしら。陸上の部で大会に相応しい実力者は、あなたが適任なんですもの!」
 きらきらした笑顔で肯定の返事を待ち受けているマクロビに重ねて断るのは気が重いが、大会と花屋の稼ぎを天秤にかけ、傾いたのはやはり仕事の方だった。自分の趣味で激務を休んでしまっては、これからの生活も危ぶまれるというもの。
「大変魅力的なお話なのですけど……やっぱり辞退します。明日は『ほうし』の書き入れ時なんです。花屋の娘が仕事を放りだしてステージで華を散らしていちゃ、笑われちゃいますからね」
「あら……それは残念、本当に。じゃあ、チラシだけでも持っていって頂戴。優勝賞品のペンダント、あたしの娘がデザインしたものなのよ! どう、とっても綺麗でしょ?」
 大会は陸上の部、水中の部、空中の部に分かれており、それぞれの部門の優勝者にはその種族にちなんだペンダントが贈呈されるのだとか。あたふたと渡されたビラには、真ん中に堂々とそのブローチの写真が載せられていた。例として掲載されたそれはまさしくキレイハナ用のもので、太陽の石をかたどったそれは、内からあふれ出る進化のエネルギーを輝きに乗せて訴えてくるようで。その大人びたデザインがミーリアには魅力的ではあったが、あいにくどうすることもできなかった。唾を飲んで諦めるほかなさそうだ。
「ありがとう……ございました。私生活が落ち着いたら、またダンスを始めるかもしれません。その時は、よろしくお願いします」
「ええ、ええ! きっかけはなくても、寂しくなったり、辛くなったりしたら来ていいからね。ミーリアちゃんなら、いつでも大歓迎なんだから! ……あ、そろそろレッスンが始まる時間! 私は教室の方にいるけど、この部屋は自由に使っていいわ。……帰るのは、ちょっとだけ踊ってからにしたらどう?」
「……そう、ですね。お気遣いありがとうございます」
 せわしなく手を振るマクロビがドアの向こうに消えると、部屋には沈黙が訪れた。取り残されたミーリアは、ぐるりとあたりを見回してみる。さして広くもない事務室、綺麗好きのマクロビのおかげか、床はピカピカに磨き上げられ、端に据えられた小さな事務机のほかには壁に姿見鏡が立てかけられているくらいだ。それはいつか自分の立った大会のステージの記憶を、ミーリアに思い出させていた。
 横から西陽が差すだけのリノリウムは、オレンジのライトが照らされ始まる前の静けさに張りつめたステージに似ている。お客さんのいないミーリアのためだけの舞台が用意されていた。
「……ちょっとだけなら、遅れてもいいかな」
 肩にかかるポーチを事務机に乗せ、身体を軽く曲げストレッチ。ミーリアを映す大きな鏡に向かい合うと、ふぅ、と肩の力を抜いて脱力する。とん、とん、とん、とその場で小さくジャンプ。大丈夫、動ける。なまってはいるだろうけど、身体はまだ凝り固まっていない。
 重心を傾け、身体をすべらせる。
 腰を跳ね上げ振り子のように揺らし、照りのある葉を艶めかせる。葉っぱのスカートの切っ先が、掃くように床面をなぞる。よどんでいた空気がざわり、と波を立てる。
 身体の隅々にまで情熱が迸るよう胸を張り脇を伸ばす。スポンジ生地をかき混ぜるように背中をそらせ、ケーキの一番上に苺を載せるように腕先をつま弾く。あふれ出す熱量を噛みしめ、表情に花を咲かせる。髪飾りをたおやかに回転させ、癒しの心をあたりに振りまく。満開の桜並木を切り崩すように、今度は腰蓑を鋭くひらめかせる。ともすると凍てつくような鋭敏さで、温かい空間を引き裂いて回る。悪魔のように不敵な笑みを浮かべ、小さく囁く。鏡の中の自分に向かって。
 踊りとは、問いかけの連続だ。なぜステップを踏むのか。リズムを身体に刻むためだ。舞台の上で、私が私であるように、問い続ける。なぜ身を翻すのか。ひとの一生には転機があるからだ。空間に、観客に、自分自身に向かって、問う。なぜ私は踊っているのか。ダンスが好きだからだ。なぜ、なぜ、なぜ――
 なぜ私は、踊りをやめるのか。
 まるで繊細な絹織物をたぐり寄せるような、腕の先端まで行き届いたしなやかさ。表情や息遣いすべてに、彼女の感性が内包されているような没入感。ときにはらはらと舞い散る4月の桜の花弁のように、ときに闘志を高めあう戦士たちの鼓舞のように、ミーリアは舞った。
 西陽の差すダンススクールの事務室には、不規則に擦れる葉の音と、かすかに上気したミーリアの息遣いだけが延々と響いていた。
 それでも、実際は30分くらいだったのだろう。時が止まったかのように思えた問答の時間も、いずれは終わりが来る。ミーリアの集中力が切れたところで、事務所の入り口を叩く音がした。見るとミーリアの恋人の陽太が、空けたドアにもたれかかるようにして小さく拍手をしている。ミアレ生まれにしては珍しい黒曜石のような黒い髪、優しくも力強いまなざし。高身長で、キレイハナの中でも背の高い方であるミーリアでも4倍以上身長差がある。ひょろっとした見かけによらず筋肉質で、茶色い春物の革のジャケットの上からでも逞しい腕だと見て分かる。質の良いジーンズに履き慣れたこげ茶のスニーカー。ミアレに住む人間は服を10着以上持たないというがそれは彼も同様で、ミーリアの中でこの格好はもはや彼のトレンドマークのようになっていた。
 スクールへ向かう途中、ミーリアが携帯電話で呼び出していたのだ。大学で授業を受けていたようだが、抜け出してきてくれた。
「……よー君、いつの間にいたの?」
「10分前にはついていたんだけど、ミーリアがあまりに可憐だから、俺なんかが声かけられないと思ってな。素敵だったよ、辞めてしまうのがもったいないくらいだ」
「っふふ、ありがと」
 陽太の手から水のペットボトルを受け取ると、ひと息に空にしてしまった。心地よい疲労感がすっと抜けていくようだった。
「ごめんね急に呼び出したりして。得に用事はないんだけど、たまたま近くに来れたし、もう1週間も会ってないと寂しかったから」
「俺もミーリアに会えて嬉しいさ」
 視線を合わせるようにしゃがんだ陽太の武骨な手が、うっすらと汗のにじんだミーリアの背中を優しくなでる。1週間ぶりの恋人の温かさに、ミーリアはまた踊りだしそうだった。
「この後なんだけど、ちょっといいか? ミーリアから誘ってくれたの、初めてだろ。嬉しくてさ、急いでレストランを予約した」
「でも……お母さんの手伝いがあるのよ。今もちょっと抜けてきちゃっただけで、すぐ戻らないとなの」
「今日の仕事はもうほとんど残ってないだろ、明日明後日を乗り切るにも、今日くらいは休んだっていいんじゃないか」
「……そう、かな……?」
 今日休んでしまった分は、土曜日と日曜日の正念場に汗を流せばいい。残りの作業を木春と手伝ってくれているだろう沙羅に任せて、ミーリアはしばし甘い夢に身をゆだねることにした。



 大抵のミアレっ子がそうであるように、陽太とのデートも格段にお金をかけて楽しむというものではなかった。
 センヌ川沿いをふたりで並んで歩いて、沈んでいく夕陽を眺めていた。途中にかかるシャン・デラール橋は恋人たちの聖地になっていて、ミアレの観光名所でもある。クレッフィの鍵商人から買った南京錠を橋のフェンスにかけて、その鍵を川へ投げ込むことでふたりの愛が永遠にロックされるんだとか。ミーリアは人ごみが苦手で、橋でいちゃつくカップルをベンチに腰掛けて遠巻きに眺めるだけだったが、その小さい手は他の恋人たちと同じようにパートナーの指をぎゅっと握っていた。
 小さなパティスリーで新作のエクレアを分けっこして食べた。「ちょうど半分にすると体の大きさで釣り合わないから」と遠慮して少し(かじ)っただけのミーリアを陽太は茶化す。「そんなこと言って、実はダイエット中だったりする?」「な、なんでそう思うの……?」頬を赤らめてきゅっとスカートを引き上げる仕草をするミーリア。その表情は悪戯がばれてしまった幼子のようだ。「カワイイなぁ」と陽太がミーリアの頭をぽんぽんすると、「子供扱いしないで!」と返ってくる。もう何十回とやったやり取り。頭の上を往復する心地よい重みを感じながら、ミーリアは寄り添うように体重を預けた。
 街の外環を遊覧するゴーゴートの背に揺られて、夜のいろに染まっていく街を行く。立ち並ぶカフェのテーブルテラス、婦人の下げるトートバッグから飛び出たフランスパン。ノースサイドストリートを横切る野良猫でさえ、みな一様に濃紫に染まっていく……。
「……へくしっ」
「大丈夫? あったかい季節になってきたけど、まだまだ夜は冷え込むからね」
「ありがとう、準備がいいのね」
 陽太のかけてくれたストールは、寒さで鳥肌の立ったミーリアの首元をちょうどすっぽりと覆うことのできる大きさだった。優しく微笑む陽太の横顔。歳はふたつしか違わないのに、自分よりよっぽど大人っぽい陽太に憧れたのかもしれない、とミーリアは笑みをこぼす。
「スニーカーが擦り切れちゃってさ、新しいのを買いたいんだ」
 と陽太が言うので、途中で靴屋に寄ることになった。どうも陽太は同じブランドのものが欲しかったらしく、グランブルがロゴに使われているその店を探していたようだった。靴がかけられている陳列棚は照明が明るすぎて、どことなくぎこちない。ポケモンは靴を履かないから店内はもっぱら人間だらけで、ミーリアはショーウィンドウから手持無沙汰に大通りを眺めていた。
「お客様、こちらのアタッチメントなどはいかがでしょう?」
 そんなミーリアに近づいてきたのは、30歳になるかならないかというくらいの人間の男性店員。手には洒落たデザインのミサンガを固めて作られたアンクレットが乗せられている。なんでも新進気鋭のデザイナーの最新作らしく、スタイリッシュなミアレっ子たちがこぞって身に着けていることはミーリアも耳にしていた。
「……私、ですか? すみません、そういうの興味ないんです」
「いちどお着けになってみてはいかがでしょう。きっとお似合いになると思うんですけど」
「いえ、いいですからっ……!」
「そんなことおっしゃらずに、ぜひ試してみてください。……あちらにいらっしゃいますの、彼氏さんですよね? 恋が成就するミサンガの結び方は、右足首に括り付けるのが効果的だそうですよ。さぁ、こちらの椅子にお座りになって」
 こうやって迫られると、どうしても顔が引きつってしまう。無理にミーリアを椅子に案内する男性店員のにこやかな顔に、思わず手が出てしまいそうになる。
 ミーリアの心の機微に気づくはずもなく、店員は張り付いたような営業スマイルで押しつけがましく迫る。
「あの、だから、私そういうの嫌だって……!!」
「すぐ終わりますから、ぜひ、ぜひに――」
「ミーリア待たせたね、ごめん」
 待ちに待った助け舟に飛びつき、陽太の膝の裏に身を隠す。敵意をにじませた目線でミーリアが睨みつけるとさすがに気づいたのだろう、店員はばつが悪そうにたじろいだ。
「君は気にしなくていいよ、彼女、俺以外の男と話したがらないんだ。ラブラブだろ?」
「……ご来店あざっしたー」
「そこは元気良く挨拶した方がいいぞ」
 背中に集まる視線からそそくさと逃げ出ると、ミーリアは陽太のジャケットの裾を引っ張った。
「自分だけ買い物楽しんでないで、ひとりにしないでよっ! 次のデートは私の買い物に付き合ってもらうんだからね!?」
「ごめんごめん。じゃ、そろそろレストランでふたりだけの時間だ」
「むー、そうやってすぐ誤魔化そうとする」
「仕方ないな、じゃあ……だっこでもしてあげようか」
「ほら子供扱い!」
 抱き上げようとする陽太の手を、険しい目つきでミーリアは叩き諫めた。少しだけ淋しそうに苦笑いを浮かべた陽太は、新しい靴にその場で履き替えるとルージュ広場を西に歩いていく。そのすぐ横を、会わない歩幅を埋め合わせようと小走りにミーリアがついていった。


3 


「なんだか誰かに尾行()けられているような気がするの」
 メイン料理の魚のムニエルが出てきたところで、ミーリアは思い切って打ち明けた。オトンヌアベニューの二ツ星レストラン、リストランテ ニ・リュー。観光客でごった返すこの大通りを眺められる半個室は半透明のガラス張りになっていて、自分たちの話に聞き耳を立てている者なんていないはずなのに、つい小声になってしまう。
 モダンな風合いのテーブルを挟んで座っていた陽太は、テーブルと同じくらいの高さの高椅子に座るミーリアに顔を寄せた。普段底ぬけて明るい恋人のキレイハナが、しおらしく視線を落とす不安げな様子にただならないものを感じたのだ。
「いつからそんな気がするのさ?」
「昨日、仕事が終わって花屋の店頭から出たところで、誰かに見られているような気がして……。あたりを見回しても誰も居なくて。気のせいだと思ってさっさと2階の自分の部屋に上がろうとしたんだけど、くるっと背を向けた途端すぐ背後から気配がしたの。でもやっぱり誰もいなかった。気にしないようにしようと思ったんだけど、部屋に戻っても誰かがすぐそばにいる感じがして……。それで、こんなになってしまったの」
 ミーリアはわざとらしく目の下のクマをこすって、あはは、と力なく笑った。昨日ベッドに潜っても視線が気になって、意識がまどろんできてもすぐに目が冴えてしまったのだ。おかげで一睡もできず夜を明かしてしまった。いつもはほとんどしない化粧を頑張って重ねてみても、染みのようにこびりついたクマは消えてくれなかった。
「原因はわかったのか?」
「それがさっぱりなの。すぐ近くで見られている感じが、昨日の夜から続いたままなのよ」
「デート中も?」
「うん、実はずっと誰かの視線を感じていて……。靴屋さんでよー君が夢中になっているとき、気が気じゃなかったんだからね?」
「俺以外にもミーリアをそんな目で見る輩がいるとはね。気のせいじゃない? と言いたいんだけど、最近ミアレに出るらしいんだよね、変質者。けっこう騒ぎになっているんだよ」
「ええっ!? もう、よー君脅かさないでよ?」
「ホントなんだって。ミーリアはちっちゃくて可愛いから、そういう輩に目を付けられやすいんじゃないかな」
「あ、また子供扱いした! 歳はふたつも離れてないでしょ!」
「年齢なんて見た目で分からないし、そういうのが好きな奴だっているんだ。ともかく、仕事終わりとか、暗い時間帯は特に気を付けるべきだね。騒ぎが静まるまで、これからはデートも少し控えた方がいいかもしれないな。母の日が過ぎてお店が落ち着いても変質者騒ぎが大きいままだったら、しばらく会えそうにないね」
「そ、そんなぁ!?」
 ただでさえこれから2日は会えないことが決まっているのだ、それ以上長引かせられるのは、ミーリアも黙っていられなかった。陽太が自分のことを考えて提案していることはわかるのだが、頭で理解していても心は納得してくれなかった。煮え切らない心うちを紛らわそうと、切り分けた魚の白身をフォークで付き差し口へ運んでいく。なんだかやけにしょっぱかった。
「駄々をこねちゃいけない。ちょっとの間寂しくなるだけじゃないか」
「でも……でもぉ……!!」
「だからさ……」
 陽太は声を小さくして、ぐずるミーリアに耳打ちした。
「今日はもうこんな時間だし、うちに泊まってかない?」
「なっ……」
 かしゃん。ミーリアがフォークを握り損ねて、食器が高い音を響かせた。
 意味を理解したミーリアの顔が、頭についている花弁よりも赤くなった。何度か目を瞬かせ、陽太の顔をまじまじと見る。
 彼氏のうちにお泊り。高校では友達がカレとどこまで行ったとか、そういう話になるときがある。ミーリアは決まって聞き手に回るしかなかったが、カレに誘われるということがどういうことなのかの知識だけはなんとなく身についていた。
 それってつまり、つまり……
「はわ、はわわわわ……!」
「落ち着いて」
 渡されたコップの水を一気に飲み干す。それから出された肉料理は言うまでもなく、ほとんど喉を通らなかった。



 寄木張りのフローリングにロココ調のモールディング*5。クラシックな内装には一見ミスマッチに思えるモダンなクローゼットに、女性が喜びそうな大きな鏡。壁にはマンガントルの丘で買ってきた絵画がかけられていて、サイドテーブルにはミーリアの髪飾りにそっくりな花の鉢植えが置いてある。
 陽太のアパルトマンに初めて招かれたのだが、それはもう想像以上に大人びていた。深い藍色のモノトーンのシングルベッドに浅く腰掛け、淡い間接照明に照らされたミーリアはカチコチに緊張していた。これから自分と陽太のすることを想像するだけで、頭の中に蝋を流し込まれたように固まってしまう。
 隣のバスルームからはゆったりとした流水音。いざこれから、というときでさえ、陽太の方は落ち着いていた。
「お風呂出たよ……って、そんなに緊張しなくてもいいのに」
 浴室のドアが開かれる音で、ミーリアはびくっと我に返った。胸元のぐっと開いたバスローブにくるまれた陽太を見て、すぐに顔をそらしてしまう。
「ほら、これでも飲んで落ち着いて?」
「……ありがと」
 差し出された、今日何度目かわからない水のカップ。喉がカラカラになっていることにも気づかないくらい緊張していて、ミーリアは震えるため息をついた。
 バスローブを着たまま、陽太はミーリアの横に腰かける。ベッドのスプリングがぎしっ、と響いて、ミーリアの心臓も飛び跳ねるようだった。
「気分が乗らないなら、無茶しなくていいけどさ」
「ううん、嬉しいよ。私を大人の女性として見てくれてるってこと、ちゃんと伝わってくる」
 ベッドに着いた陽太の手の甲に、植物の手を重ねて置く。身体をずいと寄せて、真剣なまなざしで陽太を見る。真意を確かめるように陽太が見つめ返してそのまま10秒経って、それから力を抜いたように息を吐いた。
「かなり無茶してないか。……ミーリア、実は男のひとが苦手なんだろ」
「……やっぱり、気づいてたんだ」
「恋人なんだ、それくらいわかるさ。いつもじゃないけど、俺でさえミーリアからふと突き離された気分になることがある。頬に触れると表情が引きつったり、頑なにだっこさせてくれなかったりね。ドッキリさせようとして後ろから驚かせたら、痺れ粉で麻痺させられたこともあったっけ」
「あっ、あの時は……その、ごめんなさい。男のひとに急に迫られるの、苦手なの。でも大丈夫、陽太と付き合い始めて3か月になるんだよ? もう何されたって大丈夫だもん」
「本当かい? ……いきなりこんなことされても?」
 言うなり思い切り身をかがめて、陽太はミーリアの唇を奪った。
 獲物に飛びかかるヘビみたいに陽太の舌が迫ってきて、驚いて固まっているミーリアの口許をさらっていく。熱だけを残して離れていくそれを、ミーリアは目で追うことしかできなかった。
「俺は怖くない?」
「だ、大丈夫……なんとか」
「じゃあ……ミーリアに先にやってもらおうかな。できなかったら、今日はそこまでだ」
「……わかった」
 陽太が座ったままベッドの上に脚をくつろげると、はだけたローブの股のあいだから、見えた。
 初めて見た男性の象徴。高校の保健体育で教科書の模式図を見たことはある。だがそれはあまりにも――当然ではあるが――リアルだった。
 ――こんなものが、私の中に入るの……?
 ミーリアの片腕ほどはありそうないびつな肉のカタマリは、重力に従って先端を下に向けている。恐る恐る触れてみると、叱られた子犬みたいにぴくっ、と震えた。思わずミーリアは手を引っ込めて陽太を窺ったが、彼は目で催促するだけ。再び向き直ったミーリアが震えを押さえつけるようにやんわりと握り込むと、びくん、と先ほどよりペニスは大胆に軋み、油圧で内から押し出されるようにひと回り大きくなる。持ち上げようと片手で支えてみると予想外に重い。ずっしりと筋肉が詰まっているようだった。
 その鋭利な切っ先が自分の中を進んでくる想像をするだけで、ミーリアは縮こまる思いだった。
 考えあぐねている間にも、そんな初々しい反応が陽太には新鮮だったのだろう、ぴくん、と小さく震えて、ペニスはさらに太さと固さを増した。
「ど、どうすればいいのこれ……」
「手で扱いてくれ。腕で包んで前後にゆするんだ」
「ぅ、わぁ……」
 陽太の指の動きを真似して、ミーリアは腕を動かした。もうすっかり怒張した先端はつるつると軟らかく力をかければ張り裂けてしまいそうで、そっと表面に腕を滑らせるだけ。 張り付く感触が破れてしまいそうで怖く、汗のにじむ手先をうまく動かせない。恋人が頑張ってくれている、という心地よさは伝わって来るものの、それでは陽太は満足いかなかった。
「もう少し強くしても大丈夫だぞ。こう、全体をまんべんなく撫でつける感じで……」
「そう……? で、でも、私には大きすぎて上手くいかないの」
「ミーリアがちっちゃすぎるんだろ。俺の4分の1しかないじゃないか」
「こんな時にまで子供扱い? ……頑張っちゃうんだから」
 咲き初めの桜のように紅潮した頬で、すでに大きく反り返った肉棒にミーリアは平たい胸をこすりつける。なるべく擦れる面積を増やしてあげようと抱きつくと、肉棒は喜ぶようにわなないた。暴れるそれを押さえつけようと力を込めると、先端から透明液がにじみ出てきた。これも陽太が気持ちよくなってくれている証拠なのだ、不快感はない。全体のぬめりが良くなるように身体で擦りつけると、吐出する量がさらに増えていった。
「いいよ……。あとは、口でやってみるとか」
「く、口……?」
「怖いなら無理しないでいい。俺としてはやってくれた方が嬉しいけど」
「……なら、やるよ。よー君には大人な私で気持ちよくなってほしいもん」
 表面の凹凸を確かめるように。赤黒い表皮に舌を這わせる。生臭さはない。風呂場で丹念に汚れを洗い流したのか、それとも日ごろから清潔にしているかミーリアには分からなかったが、ともかく口をつけるのに抵抗感はなかった。それでも海水を煮詰めたような塩味が舌先を震わせる。
「そうそう、そのまま舌の先で筋をなぞるように……」
「うん」
 山脈みたいな裏筋をミーリアが下から上へと舐めあげると、陽太は目を細めて震えた吐息をこぼした。カリ首の形を覚えるように舌を何度も往復させると、背中に回された陽太の掌に力がこもったのがわかった。
「いいよミーリア、そのままこっち見て」
「……?」
「く、上目遣いの破壊力すごいな……」
「……なに言ってるの」
 ミーリアが顔を膨らませると、さいっこう、と陽太はまたうなりをあげた。
 呼応するように、肉棒が痙攣する。初めはとくんとくんと穏やかなものだったが、今ではびくびくとまるで張り裂けそうだ。地脈のように走る太い血管が、血液を亀頭に充填させるべく躍動する。たまらず漏れ出したような痙攣が、腰にまで及び下半身全体を打ち震わせている。こんなことをしたのが初めてのミーリアでも、陽太が限界を迎えそうなことは明らかだった。
「ミーリアそろそろ、ぉ、止めにしよう」
「……うん」
「すごいな、初めてとは思えないくらい気持ちよかったよ。危うく我を忘れるところだった。……もしかして、やったことあった?」
「そ、そんなワケないでしょ!」
「あれ、“大人扱い”したのに怒るんだ?」
「そーいう問題じゃないでしょ、もう!!」
「悪い悪い、お詫びに今度は俺がやってあげよう」
「きゃ」
 陽太のしなやかな両腕が伸び、ミーリアの脇をすくう。シーツに張り付けられるように抱きすくめられると、駆け巡る緊張にミーリアは一瞬目を大きくさせた。
 凝り固まって筋張った首元をほぐすように落とされる淡いキス。いざとなって目の合わせられなくなったミーリアに、仕方ないな、というふう陽太はたおやかに笑ってみせた。
「大丈夫、誰だって初めては怖いもんだ。俺がしっかりほぐしてやるから」
「……お願い、だからね?」
 霜の降りたように逆立ったミーリアの肌をなだめるように、陽太の大きな掌が全身をやんわりと解きほぐす。好きだ、と甘い言葉をささやきながら、舌と舌を交えるように視線どうしを絡め合わせる。腕、わき腹、上下するお腹、平べったい胸、少し圧をかければ沈み込むほっぺた。触れられたところから熱が伝播して、全身が火に当てられたように熱い。じんわりと湧き出てきた汗が、肉厚な葉のスカートからしたたり落ち、妖しく反射する。だんだんと息が乱れてくる。
 湿り気を帯びた指が、ミーリアの髪飾りを撫でた。
「この頭の髪飾りも、いいにおいだ。こんな立派な花を咲かせているミーリアが彼女だなんて、俺は幸せ者だな」
「……」
 とくん、とくん。心臓が跳ねる。それは、気持ちの昂奮だけじゃない。ミーリアが心の奥底にしまっておいた、忘れがたい記憶。
 ――まるっきり似たようなことが、前にもあった。その時のカレもしきりに自分の髪飾りを褒めてくれていたのだ。
 目じりに涙が勝手に溜まる。溺れて喘ぐように息が荒ぶる。心臓が見えない何かに握りつぶされそうになる。
「……はー……。……はー、はあっ、はあっ!」
「ミーリア、愛してる」
 甘い言葉をささやきながら、優しくミーリアを抱え込みベッドへ倒れる陽太。彼のたくましい腕が、ミーリアのスカートにかけられた。
 ……そう、この後カレは私に言ったんだ、あのひと言を。どうして――!?
「――!! いや、いや、イヤああっ!!」
「うわっぷ!? ミーリア、なん、で……」
 悪夢を振り払うように、ミーリアはさざんかの髪飾りから、陽太の顔めがけて緑色の粉を吹き付けていた。


4 


 眠り粉で夢の中に落ちた陽太を残しアパルトマンから逃げるように飛び出して、ミーリアは夜の街をがむしゃらに駆け抜けた。首筋に脂汗が浮き出て、まだ走り始めてから間もないのに息が切れる。犯罪の現場を覗き見てしまったような脅迫感と罪悪感。それに様々な感情が入り混じって、芯から震える身体をどうにか押さえつけて走り続けた。
「ごめん、はぁっ、ごめんなさい……!! でも、どうしても無理なのッ……!!」
 おぼろげな街の景色を頼りに家までの道を急ぐ。あたりはすっかり暗くなっていて右も左も分からない。とぐろを巻く暗がり、ぼんやりと周囲を照らすネオンサイン。動きを止めれば、深い闇に引き込まれてしまいそうで。できるだけ早く、ひとりになりたい。――そんな思いが、ミーリアを街頭のない薄暗い裏路地へ誘い込んだ。
「おじょーうちゃん!」
「――え?」
 ブルー広場のわき道、コンクリート製のビルとビルの隙間から花屋『ほうし』の2階に灯る明かりが見えたとき、ミーリアは不意に声をかけられた。振り向くと、彼女ほどの小さなポケモンしか通り抜けることのできなさそうな小路の脇の物陰から、彼女と同じくらいの身長の何者かがひょっこりと顔を出した。
「だ、誰――きゃぁあッ!?」
 暗がりから飛んできた虫が抗うようなおぞましい雑音に、ミーリアは全身の力が抜けてへたり込んでしまった。植物の身体には効果が抜群な虫の力を纏った技だ。
「そんなに急いでどこ行くのさ? キミみたいなお子ちゃまがうろついていい時間じゃないよ?」
 暗闇からぬっとあらわれたのは、マイマイポケモンのチョボマキ。その顔には優しげな笑顔が(たた)えられている。
「こ、子供扱いしないでくださいっ! 私、こう見えて19ですからね!」
 叫んで、一瞬あとに後悔した。いくら気が動転しているからといって、初対面のひとに喚き散らすのはそれこそ大人ではない。案の定チョボマキの三日月みたいに垂れ下がった眼が満月になった。
 そこから放たれたひと言は、ミーリアの予想をはるかに上回るものだったのだが。
「オレっちと同じくらいの大きさなのに19ぅ!? てっきり中学生ドンピシャかと思ったのになァ……。っチ、趣味じゃないや」
「あなた、なんなんですか! いきなり失礼ですよっ!! あとこの、音、ですか? やめてください!」
「ん……? 待てよ、見た目が中学生でも成人してる……これが合法ロリってやつか? ッてことはつまり、どんなにメチャメチャにしてもオッケーのヤりたい放題!?」
「ふえぇっ!?」
 包み隠さない悪意にミーリアの声が裏返る。このひとは何を言っているんだろうか。陽太の元から逃げ出してきて、頭も心もぐちゃぐちゃだ。さらに知らない男のひとにほの暗い路地裏で迫られる。騒音で力が抜けていなければ、なりふり構わず花吹雪を吹き上げていたかもしれなかった。
 錯乱した頭の中に、陽太との何気ない会話が蘇ってくる。『最近このあたりに変質者が出るらしいよ』――それか。まさか自分がターゲットになるなんて思っていなかったミーリアの顔がみるみる青ざめていく。
 おびえるミーリアに気づき、チョボマキは顔をゆがませて下衆な笑みを浮かべた。
「もう分かっちゃったかな? だめだよこんな夜道をカワイイ子がひとりで歩いちゃ。オレっちみたいなヤツに狙われちゃう」
 甘くキザったるい声で歯の浮くことを言ってのける。思わずミーリアは顔をしかめていた。
「まぁそんな怖い顔するなって、せっかくのベッピンさんが台無しだよぉ? あんななり振り構わず走ってたってことは、失恋? さては彼氏に捨てられたな? オレっちが慰めてやるよ。いいかいよ~く覚えておきな、今夜限りの彼氏の名前は『ロイコ』さ。まずは手始めにキスとでも――」
「このっ!!」
 自分の心が完全に恐怖に侵食される前に、ミーリアは身体を動かしていた。さざんかの花に似た髪飾りを勢いよく回転させ、陽太を寝かせたのと同じ眠り粉を、今にも迫ってくるひょっとこ顔に吹き付けた。
「うっぷ!? てめ、なにしや、が……。あれ、だんだん眠く……?」
「はあっ、はあっ、はー、こ、子供だと思って油断するからよ! すぐに警察に突き出してあげるんだから!」
 緑の粉末をまともに吸い込んだらしいロイコは咄嗟に身体を二枚貝で覆ったが、間に合わなかったようだった。宿主のいない魔神のランプのように、ことり、とミーリアの目の前に転がった。
 数秒動かなくなったのを確認して、ミーリアは安堵のため息をつく。念のため腕先で2,3度つっついてみたが、反応はない。
「……ふぅっ、あ、危なかった……」
「なぁんてね!!」
「きゃあぁッ!!」
 見開かれたミーリアの双眼に気づき、ロイコは口許を厭らしく釣り上げた。
「オレっち、粉モノは効かない*6んだよねぇ。残念でしたー!」
「……ふぇ……」
 腰を抜かしたミーリアが後ずさった位置はちょうど室外機の陰になっていて、大通りを歩くひとが怪しげな物音に気付いても、野良猫がケンカしているのだろうか、くらいにしか思わないだろう。コンクリートの壁で細長く切り取られた夜空から、チョボマキの垂れた眼のような月がじっと覗きこんでくる。
 小さく震えるミーリアに、ロイコはずいと顔を近づける。
「オレっちの技で骨抜きにされる感じはどう? 何も考えられなくなっちゃうでしょ。いーんだよ、そのままオレっちに身を任せて」
「い……、嫌ぁッ!? だ、誰か助け――!?」
 叫ぼうと大きく開いたミーリアの口に、スポイトのような赤いものが差し込まれる。
 それはロイコの飛び出した口吻(こうふん)だった。歯医者の使う細長い鏡のように、無遠慮に頬の裏を掻き回してくる。そのとてつもない嫌悪感に、ミーリアは必死に吐き出そうとするが、舌に力を込めて押し返すなんてしたくないし、それではロイコの思うツボだ。
 腕でその外殻を引き剥がそうとするも、絶え間なく続く虫の抵抗にもはやミーリアに反抗する力は残っていない。
「うーん……その顔、ゾクゾクしちゃうよ。でもね、キミがもっといい表情できること……オレっち知ってるんだぁ」
 そのとんがった唇だけが宙に浮いているようで、ミーリアは再度背筋を震わせた。身を包む恐怖には、自分が襲われているというものもあるが、それよりもむしろ狂人を相手にしてしまったかのような――
「ちょっと“お注射”してあげようじゃないか。大丈夫ヘンなものじゃない、オレっち特製の毒々がふんだんに盛り込まれたドクドクお注射だよ! あっはは、目じりに涙なんて貯めて、そんなに怖がらないで。日常生活じゃ味わえないちょっとスリリングな体験じゃないか。大丈夫だって、そうか、進化する前もともとキミは毒タイプだったんだ、全身に毒が回る感覚は、もしかしたら懐かしい感じがするかもよぉ?」
 ――やっぱり狂ってた!
「いや、やえぇっ!!」
「やだね」
 待ってくれる素振りなど微塵にも見せず、ミーリアの口内粘膜に差し込まれた漏斗型の口から紫の毒液が流し込まれる。異物感に拒絶反応を起こして激しくむせび込むが、身体が大きく揺れて漏斗が喉奥に引っかかりえずくだけ。涙とよだれを垂れ流し、もはや抵抗する気力も失せかけているミーリアをじっとりと視姦して、ロイコはうっとりとほくそ笑む。
「これはみんなオレっちにお注射してもらった娘の体験談なんだけどねぇ、辛いのは初めの20秒だけなんだ。全身に針を流されたみたいな痛みと熱が駆け回るけど、そのあとはね……フフ、みんな幸せそうな顔しちゃってさぁ。この間やってあげたマラカッチの女の子、それだけなのに気持ちよさそうにおしっこ漏らしちゃって……。ああいう娘は決まってリピーターになるんだよねぇ。1ヶ月くらい経つと『あの時の感覚が忘れられなくて……』って、夜な夜な向こうから会いに来てくれるんだ。ヤミツキになっちゃってたんだろうねぇ、禁断症状を起こしていたのか、全身に自傷の跡を残してさ。もういっかい流し込んでやったら絶叫しちゃって! だらしなく端を釣り上げた口からよだれをまき散らして、目をカッと見開いて、全身を震わせて必死に生きようとしてるの。自分で求めたってのに、笑っちゃうよねェ」
「ひっ……!!」
「そうそうそう、まさにその顔! そそるそそる、そそっちゃうよォ!? はじめは19って聞いてガッカリしたけど、キミぜんぜんお子ちゃまなんだねぇ。もしかしたら本当の中学生より中学生らしいんじゃない!? いつにも増して興奮しちゃうよオ!!」
「えぐ、わだ、わたしはもう子どもじゃ、おえっく、ない、よぉ……!!」
「そうやって健気に意地を張るところがまた……う~~~ん、ロイコ、サイコー!!」
 背中の巻貝に収められているはずのロイコ下半身が、腰を引くように曲げられた腹の下からはみ出している。それは薄明りの中でもわかるほど気色悪い緑色に変色していて、突き出した舌のようなおぞましい形をしていた。
「ほらぁ見て。キミを眺めているだけでもうこんなになっちまったよォ……、どう責任とってくれるのかなぁ? きっともうすぐだよ、口から浸透した毒素は体内を駆け巡って、じわじわジワジワとキミの体力を奪っていくはずさ。ざぁんねんだったねぇ、ラフレシアに進化していれば、免疫がついて毒で苦しむこともなかったろうに。身体の内側から犯されていく感覚はどうだい? ゾクゾクしちゃうだろォ?」
「……ぇう、あぁ……」
「すぐに恐怖だけじゃなくてじゅくじゅく痛くなるからねぇ。もしかしたらその感覚にキミもヤミツキになっちゃうかも。でも安心して、その時はまたオレっちが相手してあげるからさぁ……ってあれ」
 ひとり盛り上がるロイコをよそに、ミーリアの身体には一向に変化が表れなかった。業を煮やしたロイコは、苛立ちを虫の抵抗に乗せていっそう五月蠅くがなり立てると、吐き捨てるように言った。
「気分が削がれちまったな……。まあいい、とっとと犯してずらかるか」
 犯して、という生々しい響きにミーリアの身体は再度硬直する。ほの暗い街明りに照らされたロイコの横顔が、おぞましいほどに爛々と照らされていた。陰になって大きく開かれた右目の瞳孔はまさに犯罪者のそれで、かつてない恐怖にミーリアの身体は完全に戦意を喪失してしまっている。
「うーん……こうか? そりゃ!」
「ひッ!!」
 ミーリアの腰蓑が勢いよく跳ね上げられる。下半身が夜の外気にさらされる。慣れない感覚とすぐそこに迫った恐怖に、ミーリアはぎゅっと目をつぶった。
 時が止まったようだった。
 次に来る衝撃に、何をされるかわからな恐怖に耐えるよう身を固めたミーリアだったが、一向にその気配がない。息をつくようにそっと目を開けると、
「……なんだ、こりゃ……。どうなってやがる。なんで――」
 涙でにじむ視界に、月に半分照らされたロイコの驚愕の表情が映しだされた。
「今やでッ!!」
 すぐ近くから聞こえてきた声に、ミーリアは慌てて我に返る。気の動転しているロイコに向かって――それ以上にミーリアはパニックに陥っていたが――咄嗟に頭の髪飾りを開き高速で回転させる。焼け付く妖精の光が、たじろいで反応の遅れたロイコを突き射した。
「こ、このおッ!」
「あンぎゃああああああ!!」
 吹き飛ばされた甲殻質の身体は、固い壁に衝突してごちん、と固い音を立てた。今度こそ気絶したロイコからほうほうの(てい)で遠ざかり、震える腰蓑が言うことを聞くようになるとすぐさま走り出していた。今はとにかく、自分を抱きしめてくれるひとの側にいたかった。さっき逃げ出してきてしまった陽太のもとに。
 優しく迎えてくれるだろうか、許してくれるだろうか。
 彼をひどく傷つけただろうことは、ミーリア自身がよくわかっていた。ふたりでベッドに入ってから拒絶されたときのショックの壮絶さは、かつて彼女自身が経験していたことだったからだ。


5 


 悲劇はミーリアが1段階進化したときから始まった。
 ナゾノクサの進化形であるクサイハナは、その種族名から想像できるように独特の芳香を纏っている。身の危険を感じたときに発せられる刺激臭は、2キロ先の相手を昏倒させる威力があると言われているほど強烈なものだ。もちろん本人にその気がなければ臭いを抑えることが可能なのだが、彼女にとってはそうもいかなかった。
 それまではちょっと逃げ足の速い程度のナゾノクサだったが、進化して悪臭が鼻につくようになった。母親の遺伝子を色濃く受け継いだ*7のだろう、ミーリアの生まれ持った特性が、抑えることができる以上の臭気を生み出してしまっていたのだ。
 もともと夜行性だったミーリアは母親と日課の深夜徘徊を終えると、明け方になってようやくベランダのプランターに埋もれて眠った。中学2年生になったばかりの秋のある日、普段通り昼前に起きると*8何だか頭が重い。
 明け方に霜が降りたのだろうか、と幼いミーリアはおぼろげに考えていた。頭の葉が傷んでしまえば、当分のあいだ光合成ができなくなってしまう。それはまだ消化器官の発達していないナゾノクサにとって致命的だった。
 どうか凍傷にはなっていませんように。恐る恐る頭頂の葉に灰紫の腕を伸ばす。
 ――腕?
「あっ!?」
 ミーリアは歓喜の声を上げた。眠気など瞬時に吹き飛んでしまった。夢にまで見た腕が、自分の身体からするりと生えていたのだった。
 進化したきっかけは分からない。前日、好物の納豆を食べ過ぎたのが原因かもしれなかった。同級生が次々と進化していく中、まだかまだかと待ち望んでいたミーリアにとってそれは飛び上がってしまうほど嬉しいことだったのだ。
 窓の(さん)をぴょんと飛び越すと、足裏の泥も払わずに和室を横切り、洗面台の鏡を覗きこむ。そこにはやはり、立派に成長を遂げたクサイハナの姿があった。
「こらミーリアーっ! 昼に起きてきてドタバタうるさいよっ! だいたいアンタはいつも――」
「ねぇ見てお母さん! 私、進化したよ! どう、かわいくなったかな?」
 昼食を作っている最中だったのだろう、おたまを握ったまま絶句する木春に向かってその場でくるりと一回転。甘い香りを振りまいて、ミーリアは木春に飛びついた。
 できたばかりの腕で母親の身体をしっかりと抱き込むと、それに応じるように木春もぎゅっと抱き返す。興奮してよだれを垂らすミーリアの頭の房を撫でてあげる。
 娘のものよりひと回り太く逞しいその腕が、力強く震えていた。
「うえ、お母さん、苦しいよ」
「ああ、よくやったよミーリア。これから、これからがんばるんだよっ!」
「うんっ!」
 元気よく返事を返したミーリアは、教科書の入った手提げ鞄を引っつかみ飛び切りの笑顔でアパートを飛び出ていった。跳ねる身体の振動に伴ってゆれる鞄が、いつもより軽く感じられる。今日はきらきらした1日になるに違いない。明るい確信が、ミーリアを取り巻いていた。
 けれど。その日登校したときのみんなのミーリアを見る目が、彼女の深く閉ざされた暗い記憶の中にしまい込まれている。
「みんな、私進化したんだよ!」
「うん、おめでと……」
「なんか臭わねぇ?」
「ミーちゃん、昨日ちゃんとお風呂入った?」
 ミーリアを囲む視線は進化を祝ってくれるような柔和なものではなく、それは嫌悪のまなざし。シンクの端に溜まった生ごみをつまむような目線が、彼女の頭に、記憶に、へばりついて離れない。
 くしくもそれは少年少女が最も多感な中学2年生の中頃で、彼女は格好のいじめの的になった。
 仲の良かった女の子たちからは当然のように無視をされ、男の子からも「ニオイ菌が伝染(うつ)る!」と嘲笑(わら)われた。初めのうちは気丈に振る舞っていたミーリアであったが、夏の夕日が沈んでいくように闇がじわりと彼女の心を蝕んでいった。1ヵ月もたたないうちにミーリアは、暗く塞ぎ込み笑うこともほとんどなくなってしまった。
 努力をしなかったわけではない。当時すでに亡くなっていた父親はウツボットで、形見として貯めてあった彼の胃液を薄めて作った香水を身体に吹き付けて学校に通った*9が、いちど染みついてしまった脂染みがなかなか落ちないのと同じように、彼女はのけ者にされ続けた。
 それから中学卒業までの1年と半年、ミーリアは耐えた。机に悪口を書かれても、ひとりだけ給食が用意されなくても、ドッジボールのチームに入れてもらえなくても。決して泣くようなことはしなかった。
 忍耐強さもきっとお母さんの影響が大きかったのだろう。どんなに家計が苦しくても、木春も娘の前では弱音ひとつ吐かなかった。きっと唇を固く結び、明日を向く。母親の背中を見て育ってきたミーリアだからこそだ。
 遠くはカロス地方のミアレ高校を受験して、入学を期に太陽の石で進化した。毒タイプも無くなり臭気が抜け落ち、ミーリアは癒しの心を持った明るい女の子に戻ることができた。
 頭に咲いた立派なさざんかの髪飾りが、太陽のようにミーリアの未来を照らしているかのように思われた。
 高校生活が始まると、ミーリアは今までの暗い性格が嘘のように活発な女の子になった。
慣れない環境にもかかわらず友達とよく遊び、片思いの恋をし、幼い頃からの夢だったダンサーになるためにスクールに通い始めた。
 後ろ暗い過去とは決別できると思っていたのも束の間、同じクラスで裕福な家庭の娘だったドレディアの女の子がこんなことを言った。
「わたくしのお父様もキレイハナなのですけれど、頭のお花飾りがもっと小振りなものなのです。わたくしもお花を頭に持つ種族としてお尋ねしたいのですが、ミーリアちゃん、お花を大きくみずみずしく保つにはどのような秘訣があるのでしょうか?」
「私自身何か特別に気にしていたことはないんだけど、うーん。しいて言うなら、毎日明るく過ごすことかな。嫌なことは引きずらないでサッパリ忘れることとか?」
「まあ、そうなんですの! 確かにミーリアちゃんを見ていると、こちらまで元気になってくるようですものね」
 そのあとすぐ、種族別概論の授業で『より臭いクサイハナから進化したキレイハナが美しく大きな花をつける』と教わったミーリアの絶望は凄まじかった。一斉に振り向いたみんなの眼が、忘れかけていた辛い中学の記憶をフラッシュバックさせる。
 へぇ、昔は臭かったんだ。
 なんか臭わない?
 ミーちゃん、昨日ちゃんとお風呂入った?
 そんな暴言を吐く心無いクラスメイトなんてひとりもいないはずなのに、あのとき聞いた忌々しい声が頭に響く。ぽかんと開いたドレディアの小さい口が、担任である人間の男性のばつの悪そうな声が、ひそかに思いを寄せていたジュカインの男の子の鋭い視線が。すべてがあの時と重なってしまった。
 気づけば逃げるように教室を飛び出していた。
 走って、走って、葉っぱのスカートを乱しながら、引っ越して間もないミアレの街をさまよった。走ることであふれる涙を必死になって堪えていた。つまずいて転び、途中何度かゴーゴートにひかれそうになりながら、ミーリアは当てもなく走った。夕方になって陽が傾き始めると、沈む夕陽を追いかけるように西へ向かった。耐えに耐えぬいた暗黒にようやく差したひと筋の光。それが奪われる気がしてならなかった。
 ミアレの外環道を抜け13番道路に出たところで、あたりは夕闇に包まれた。うなだれて振り返ると、薄闇に浮かび上がる旧市街の城壁が、ミーリアを拒むように佇んでいた。
「何やってるんだろ、私……」
 自嘲を込めて、大きくため息をついた。振り切ったと思っていた過去を、むざむざと引きずっていたなんて。夜の冷気にだんだんと冷えていく身体を、小さな腕でぎゅっと抱え込む。
「こんなところでつっ立ってちゃ風邪ひくよ。いい子はお家に帰る時間だ」
 ふいにかけられた言葉とともに、背中には温かい布地の感触。振り返れば、見ず知らずの人間の青年が、ジャケットを脱いでミーリアにかけてあげていた。黒に赤毛の混じったような短髪、凛とした顔立ち、そして優しそうに見つめる両目が、クラスのみんなとは違ってこんな汚らしい自分でも受け入れてくれそうで。
「もう仔供じゃないです……ぐすっ」
「……何か嫌なことがあったんだね。大丈夫、俺が味方だからさ」
 いつの間にか、身体は細くとも頼りがいのある胸に飛び込んでいた。
 その初めての恋人は、高校を中退してしがない絵描きをしている歳がひとつ上の青年だった。ミアレにはそんな生活を送るものは少なくないのだが、自分の身ひとつで生活している彼が当時のミーリアにはひどく輝いて見えたのだ。
 半年ほど経って初めて一夜を共にするとき、事件は起こった。
 口づけを交わし、お互い高まってきたところで彼がミーリアを抱きすくめる。普段筆を握っている手でスカートをめくると、ぎゅっと目をつむるミーリアに、苦々しくこう言ったのだ。
「……まさかこうなっているとは思わなかったよ。ごめん、キミを抱くことはできない」
 はじめは、何を言われているのかさっぱりわからなかった。さっさと服を身に着けたカレに寒空の下へと放り出されるなんて思いもしなかった。
 ぴしゃりと閉め切られたドアの外で、ミーリアは思い出す。高校のクラス全員から目を向けられた記憶が、カレのその視線と重なって。ふたつの強烈な印象が混じりあい、いつしか男のひとの視線がひどくおぞましいものに感じてしまうようになった。
 こうしてミーリアは男性が信じられなくなった。近寄ってくる男どもはみんな、いつかは絶対に裏切るものなんだ。そうした強迫観念が、ミーリアを無意識のうちに見えない鎖で縛りつけている。
 それでもミーリアは強かった。夜ひとりで枕を濡らすようなこともしなかった。思いつめることも、スカートの葉を引きちぎるような自傷行為にも陥らなかった。不登校にもならず、その次の日からドレディアとはよりを戻していた。それらすべてに繋がる負の感情を、一夜にして心のうちに封じ込めていた。
 季節は巡り傷口に3度雪が積もって見えなくなったとき、今の恋人の陽太に出会った。初めは単なる『ほうし』のお客さんだった。ミアレ大学で植物の光合成を研究しているとかで、その研究試料となる花を毎週買いに来てくれていたのだ。
「木春さんの仕入れる花は肥料を使わずに育てられたものが多いので、いつも助かってます」
「あらー、そんな褒めてもサービスしないですよー? あ、そこの棚に咲いてるのもうほとんど満開じゃない、持っていってちょうだい」
 持ちきれないほどのオーニソガラムを両腕で抱えて去ってゆく陽太の後姿を、ミーリアは2階の自室から見追っていた。振り返った彼と目が合って、心がドキンと跳ねた感覚を、ミーリアは今でも鮮明に思い出すことができる。
 いつから淡い恋心を抱いていたのかはわからなかったし、なぜか陽太にだけ拒絶反応が出なかったのも不思議だった。植物が好きなひとに悪い奴はいない。口癖のように母が言っていたそんな持論が、いつの間にか擦り込まれていたのかもしれなかった。
 付き合い始めたのは今年の2月からで、1年以上は目と目を合わせるだけの日々が続いていた。それでもミーリアは嬉しかったのだが、『ほうし』の向かいにある男前なムード漂うカフェで告白されたときには躍り上がるほど嬉しかった。
 彼との毎日は楽しかったし、ミーリアを傷つけない大人な雰囲気がなにより彼女を落ち着かせてくれた。時が傷を癒すというけれど、まさしくそのような状況だったのだ。
 それでも、ふとしたことで記憶のふたが取り去られそうになることがある。
 男性にグイグイこられたりすることは、どうしても身が固くなってしまう。花屋で突然男性客に話しかけられると肩に冷水を浴びせられたみたいにびくっとなるのだ。デート中に靴屋でミーリアに脚飾りを進めてきた店員を邪険に扱ってしまったのも、そのせいだった。
 そのたびにクラスメイトの視線、元カレとの心苦しい記憶の影が脳裏をよぎる。嫌な汗が染み出し、心臓がバクバクする。それは、陽太とともにしたベッドでも変わらなかった。大きな腕で抱きすくめられ、差すような目線を向けられると、気力だけで押しとどめていた身体が拒絶反応を起こした。吐き気を堪えるので精いっぱいだった。
 矢も楯もたまらず逃げ出していた。裏切られる前に裏切っていた。
 それがなによりも悔しかったし情けなかった。走っている途中、罪悪感で押しつぶされそうだった。ふがいなさで涙が出た。
 およそ40分前の出来事だった。



「……なるほど、それで男性不信になっちゃったのか」
 胸の辺りをぎゅっと押さえ、震える唇で語ってくれたミーリアをいたわるように、陽太は彼女の頭を優しくなでた。ふたつの花がゆっくりと開閉して、それは「気遣ってくれてありがとう」と言っているようだった。
「男性不信、って言うほどじゃないと思うんだけどさ。男のひととうまく関係を築けないの。ごめんね、お水をもう1杯くれる?」
「もちろん」
 差し出されたコップをまたひと思いに飲み干して、ミーリアはふぅ、と息を吐いた。今まで抱え込んできた過去の記憶を吐き出した心の隙間が、温かい優しさで満たされるようだった。
「それじゃ、変質者に襲われたときなんて、辛かったでしょ?」
「ううん、それがそうでもないの」
 へぇ? と陽太はミーリアの顔をまじまじと見た。だいぶ落ち着きを取り戻したみたいで、瞳にはいつもの爛漫な輝きが戻りつつある。
「誤解してほしくはないんだけど……ほんとはね、変質者に襲われたとき、内心では嬉しかったんだと思うの」
「え」
 固まった陽太に、ミーリアは慌てて撤回する。
「そういう願望があるとかじゃなくてね、私、前のカレにフられたとき、女の子であることを否定されたんだ。それで、よー君が私と付き合ってくれているのはもちろん嬉しいけど、見ず知らずの男のひとでもそういうふうに見てくれるっていうことが、純粋に嬉しかったんだと思う。……よくわからないけど、心の底ではそう思っていたんだ、きっと」
 ミーリアは慎重に言葉を選ぶように話を続ける。陽太も口を挟まずにただ黙って聞いていてくれた。その優しくも真剣なまなざしが、ミーリアには大きな助けになった。震える胸の辺りを両手で押さえ、なんとか言葉をつむぐ。
「でも……でも、やっぱりダメだった。私がこうやって逃げてこられたのは、あいつが私のスカートをめくったときにショックで固まってたからなんだ。前のカレと同じように、私の身体を見てショックを受けたからなんだ」
 悪い虫が身体を蝕む感覚が蘇ってきて、ミーリアは自身の胸をきゅっと抱き込む。その小さな背中を、陽太はゆっくりとさすっていた。
「さっき元カレに『女の子であることを否定された』って言ったでしょ? ベッドでね、カレ、こう言ったんだ」

「『なんで脚が生えてないんだ』って」

 言い切ったミーリアは泣いていた。悔しくて、悲しくて、胸をえぐられたような表情に、陽太は言葉をかけてあげることさえできなかった。
 脚が、ない。
 それ自体は格段珍しいことでもなかった。浮遊するゴーストポケモンのように脚の無い種族なんてざらにいるし、今のご時世、身体的特徴が原因で他人を嫌いになるひとの方が珍しい。あの時のカレも、単純にミーリアの身体に失望したわけではなかったようだった。事件の後に送られてきたメールには、カレが以前付き合っていた女性はサーナイトやオーベムなど、まるで人間のスカートのような構造を持っていて、そこから生えている脚がたまらなく好きなんだ、と淡々とつづられていた。ミーリアにはただただ気持ち悪いとしか思えない内容だったのだが、つまり自分のフェチにそぐわないので思いがけず否定してしまったということなのだろう。ミーリアの身体が気持ち悪いから突き離したというわけではなかったが、ごめんね、のひと言もないメールに、ミーリアはにべもなく削除のボタンを押した。それから元カレには会っていない。よりを戻したいとも思わなかった。
 植え付けられたトラウマは、付き合っていた元カレに自分の身体を否定されたこと。特性という生まれ持った特徴でいじめられてきたミーリアにとって、その仕打ちは傷口に塩を塗り込むようなものだ。
 しかもそれが、心も身体も許した元カレといざ交わろうとしたときなのだ。それはちょうど、ミーリアが陽太にした裏切りとまさに同じことだった。その時のショックは、陽太も身をもって体感している。
 もし陽太に脚がないことが知られてしまったら。前のカレと同じように否定されてしまうかもしれない。幼少期から積み重ねられてきた嫌な思い出が、知らず知らずのうちに普段のミーリアの仕草をぎこちないものにしていたのだろう。
 3ヵ月と短い交際期間ではあるがそれまでを思い返していた陽太は、合点がいったようにああ、と呟いた。
「あんなに抱っこを嫌がっていたのは、そんな理由があったんだね。脚が無いのがおれに気づかれちゃうから」
 ひっく、えっぐ、とすすり泣きながら、ミーリアは頷いた。
「だから、怖かった。よー君にも同じ仕打ちをされるんじゃないかって。ううん、分かってる。よー君がそんなこと言わないってこと、しっかり分かっているんだけど、どうしても素直になれないの。あのときの記憶が蘇ってきて、いてもたってもいられなくなるの。ごめんなさい、私がよ―君を信じきれないばっかりに、私と同じ目に合わせちゃうなんて」
「ずっと辛かったんだね、大丈夫。俺は何ともないからさ」
 小さく震える背中を、陽太はゆっくりとさすってやる。いっく、えっぐと繰り返す嗚咽が、これまで蓄積されてきた苦痛を吐き出しているようで。
 しばらくして、触れる温かい手にすがるようにミーリアは腕を回した。泣き腫らした眼はまだ赤いものの、強いまなざしで陽太の目を見返している。
「でも、このままじゃダメだよね。うん、よー君には私を知ってほしい。今の私も、昔の私もぜんぶ知ったうえで、私を好きになってほしい」
 言うと、ミーリアは無防備に仰向けになった。きっ、と強いまなざしで陽太を見つめる。それが何を意味するか、陽太はすぐに悟った。
 脚が無いことを実際に確かめてほしい、というミーリアの意思表示だ。
 上体を起こし、ベッドに横たわるミーリアの身体をまじまじと見る。ついさっきも同じ状況になっていた。あのときはここで眠り粉を食らったんだな、と陽太は苦笑する。
「……めくるよ?」
 問いかけに、ミーリアは目をぎゅっとつむったまま頷いた。覚悟はとうにできている。
 スカートに、陽太の手が触れる乾いた感覚。一拍間があって、下半身に冷たい空気が流れ込む。
 いま、脚の生えていない自分の下腹部が陽太の視線にさらされている。高校受験の合格発表のときのような縮み上がるほどの緊張。ものの数秒もしていないはずなのに、息を止めたまま10分ほど過ぎたような気がしていた。
 陽太の反応は、どうだろうか。おそるおそる開いたミーリアの眼の端が、彼の顔を捕らえた。彼女の下半身を見た陽太の表情が変わっていく。目を見開き、咄嗟に出てしまった驚きを身体から逃がすように口がぽかんと開いている。理解できないものを見てしまったような、呆気にとられた表情。
 それが意味するのはひとつだけ。ミーリアの純粋な目が泣き出しそうに歪んだ。震える呼吸を隠すように、視線を落とす。
「ああ、やっぱり、脚が無いなんて気持ち悪いよね……。ごめんねよー君、変な頼み事しちゃって。私は女の子じゃないんだ、私は男のひととお付き合いできないんだ。このままじゃお互い辛いだけだよ、別れ――」
「……あははっ!」
 驚いた表情で固まっていた陽太の顔が、日向みたいにほころんだ。今度は理解の追いつかないミーリアが固まる番だった。
「……えっ……?」
「ミーリア、見てみなよ!」
 ミーリアのスカートに手を突っ込んで、陽太は何かをすくい上げた。それは、彼の手に収まるほどの、10センチに満たない何か。
 割れ物を扱うように大事そうに抱え、ミーリアの目の前で開いて見せた。陽太の掌の上で小さく震えていたのは。
 妖精の花を失くした、フラベベの幼子だった。
「……ラヴェンナちゃん!?」
「あー、どうも、ええ雰囲気のとこ邪魔してもうて、なんかスンマセン」



 さざんかと同じツバキ科である『妖精の花』は、咲く季節がかなり限定されている。高山草原が花畑になる5月中旬にはもうすでに花を落としてしまっていて、この時期に自生しているものを見つけるのは難しい。栽培するにもかなり神経質にならなければならず、キーパーのある花屋でさえ取り扱わない店も多いほど。特に『ほうし』などの個人経営のフラワーショップでは受注してから花卉(かき)市場で仕入れてくることがほとんどである。
「ラヴェンナちゃん、妖精の花を失くしちゃったの!?」
「そうなんよぉ。ウチ、もうどーしたらええかほんまに分からんくなってもうて……」
 妖精の花と共生関係にあるフラベベにとって、それは死活問題である。花との間でエネルギー循環が行われなければだんだんと衰弱していき、最後には自力で飛ぶ力もなくなってしまう。目の悪いひとが眼鏡を常に携帯しているように、まさにライフラインとも言うべき大切なものなのだ。
 とくに都市部に住むフラージェスは出産が近くなると、生まれてくる娘のために妖精の花を購入する。子供がすくすくと育っていく間ずっと肌身離さずしがみついている1輪で、例えるなら怖い夜を抱きしめて一緒に眠ってくれるぬいぐるみを買い与えるようなもの。いや、やがては進化して身体の一部になるのだからそれ以上だ。ありったけの愛をこめて沙羅は選び抜いたのだろう。
 そんな母親の愛の結晶を、ラヴェンナは失くしてしまったのである。
「もうこの時期だとそこいらの花屋には出回ってないんやろ? ほんなら、花に詳しいミーリアはんについていけばどうにか1輪くらい見つかるんちゃうかなー思て。おかんには『友達の家でお泊り会してくる』言うて出てきたんやけど、アテもなくてほとほと困っててん。でもよかったわ、あんさんがいてくれて。あんさんの髪飾り、妖精の花にそっくりで落ち着くんよほんまに。栄養はもらえないんやけど、掴んでるだけでしっくりくる言うんかな、ほかの花より断然頼りがいあるんよ」
「沙羅さんに相談すればよかったじゃない!」
「そないなことできへんよぉ! ウチのおかんなら『失くしたんはアンタの責任なんやから、アンタひとりでなんとかしい!』て言うに決まっとるもん!」
「で、でででででも!! なんで私のスカートの中に入ってたの!?」
「あ、や、それは、なんとなく見つかるのが気恥ずかしかってん……。あんさんが誰かと一緒のときは、スカートん中で息を止めてたんよ。ほんまにごめんなさい、まさかこんなことになるなんて」
「ずっとスカートの中にいたって今知ったこの状況の方が私は断然恥ずかしいよ!?」
 顔を真っ赤にして早口に叫ぶミーリアだったが、その嬉々とした大声の裏には、陽太に嫌われなかったという安心と照れ隠しが透けて見えていた。興奮状態のミーリアをなだめるように、陽太が口を挟んだ。
「ともかく、これからどうするんだい? ラヴェンナちゃん、って言ったっけ。君も、妖精の花がないといい加減限界だろう。ミーリアにひっついてまわってもいい成果は得られなかったみたいだし、正直にお母さんに謝った方がいいと思うな」
「いんや、そない心配はしてくれる必要ないんよ。ウチの予想はビンゴやったぁいうことや! だってもう見つけてしもたんやから」
 陽太の大きな手にくるまれながら、ラヴェンナは短い腕をふいと振り、サイドテーブルを指した。その上の小さな鉢植えに生けてあるのは、ミーリアの髪飾りにそっくりな、黄色い花粉に赤い5枚の花弁をつけた1輪の花。
 まさにラヴェンナの探し求めていた妖精の花だった。
「ホンマにずーずーしいお願いなんやけど……この花、ウチに譲ってくれへんか? あんちゃんとは初対面やさかい、こんな頼み事するんは気ぃ引けるんやけど……背に腹は代えられへん言うやろ。ここは人助けする思て、な?」
「俺は構わないんだけど、ミーリアに貰ったものだからなぁ。ミーリアはどう?」
「私も別にいいけど……ラヴェンナちゃんは本当にそれで満足なの?」
「かまへんかまへん。じゃ、決まりやな。重ねて悪いんやけど、あんちゃんウチをそこまで運んでくれへんか。もう飛ぶ力も残ってないみたいで」
 情けなさを苦笑いで誤魔化すラヴェンナを、陽太は丁寧に鉢植えまで運んであげた。ぴんと立つ花の柱頭にラヴェンナがしがみつくと、花全体がうすいベールに覆われる。ぱちり、と小さく弾けるような音がして、妖精の花は茎の根本から断ち切られた。
「ん……んんんっ! これこれ、この感じやぁ! くぅーっ、生き返る!」
「ラヴェンナちゃん、ビール飲んだおじさんみたい」
「今は見栄もなにもあらへんよ。あーよかった、これでおかんに怒られずに済む……ワケはないんやけど、なんや、ちゃんと顔合わせられるて思うと、気が抜けたというか……。なんて言うんやろなぁ、しっかり叱ってもらえる、って気になるんや」
「叱ってもらえる……?」
 安心しきった表情にすこし疲れの色を混ぜて、ラヴェンナは恥ずかし気に笑ってみせた。
「ほんとはな、ずっと不安だってん。普段はおかんのことなんてこれっぽっちも考えておらへんかったけど、こうして丸1日も()うてないと有難みも身に染みるっちゅーもんなんやな。いっつもウチのことを気にかけて、全力で幸せにしてくれようとする。耳にタコができるほど聞かされている小言も、思えばぜんぶウチのためやったんやなぁ。世の中には自分の娘が言うことを聞かなくってヒスになったり、なんなら虐待して物みたいに扱こうてる親までいるん言うのに、ウチのおかんはそんなこともない。部屋を掃除してくれる。毎日ご飯作ってくれる。習い事にも通わせてくれるし、夜寝る前にガッコで何があったか、ウチの話を静かに聞いてくれる。今日みたいな日は、ウチを甘やかしもせずちゃんと叱ってくれるんや。……ぜんぶ当たり前のように思えるんやけど、実はかなりありがたいことなんやなって。自分のやりたいことぎょーさんあるはずやのに全部ガマンして、娘のことを最優先に考えてくれるんよ。ウチのおかんやない、ミーリアはんも分かるやろ? 木春はん、会うたびにあんさんのことばっかり笑顔で話しよるんやで」
「そう……なんだ」
 沙羅やラヴェンナと嬉しそうに自分のことを話している母親なんて、いつもの姿からはあまりに想像できなかった。そもそも毎日のように顔を合わせている相手に、何を話すことがあるというのだろう。思いを巡らせるうちに、ラヴェンナが沙羅に思う気持ちと、ミーリア自身が母親の木春に思う気持ちが同じもののように思えてきた。
 そうだ、ダンススクールに出向くと言って家を出てから、今の今まで連絡できずにいた。きっと心配しているんだろう。携帯には電話の着信が何件も残っているかもしれない。
 ベッドからのそのそと這い出したミーリアがポーチから携帯電話を取り出すと、すかさずラヴェンナが飛んできて画面を覗きこんだ。
「あ! やっぱしおかんから電話来とるやん! ウチまだケータイ持たせてもろてないからなぁ、やっぱりミーリアはんのところに来てると思ててん!」
 小さい手で液晶画面をタップすると、2コールもしないうちに電話の向こうで沙羅が出て、娘を心配する母親の声が漏れ聞こえてきた。
「あーおかん? 今ミーリアはんと一緒におるんやけどね――」
 その横顔が、沙羅に心の底から大事にされてきたんだなとミーリアには思えて。
 着信履歴には、木春からの通知が十件以上残っていた。



 電話を入れるとほどなくして沙羅が駆けつけてきて、1日ぶりにわが娘を胸に抱くことになった。緊張の糸が途切れたのかラヴェンナは泣き出し沙羅に甘え、「勝手なことしてごめんなさいぃ……!!」と何度も謝る。見かねた沙羅もそれ以上追及するようなことはせず、「陽太はん、ほんまにおおきに。今度ご飯でも一緒せんとどうやろか」と頭を下げて帰っていた。
「まさか不眠の原因がラヴェンナちゃんのフラワーベール*10だったなんて。どうりで眠れなかったわりに今日1日元気だったわけだよ」
「災難だったね。でも、変質者から助けてくれたのもラヴェンナちゃんだったわけだろう?」
「あの時は気が動転して気づかなかったけど、絶対そうだよ。アイツから毒を浴びせられても何ともなかったのは、傍にラヴェンナちゃんがいてくれたからだし、トドメに放った私のマジカルシャインはあんなに強い光は出せないもの。きっと一緒に撃退してくれたんだ。じゃあ、変質者に絡まれたときからずっといたんだね、怖い思いをさせちゃったかな……」
「ミーリアが気に病むことはないだろ」
「うん、そうね、ありがとう。けっきょく私もラヴェンナちゃんも無事だったんだしね」
 ラヴェンナの話から察するに、彼女は昨日の夕方からまる1日以上、ミーリアにくっついていたことになる。誰かと一緒のときはスカートの中に隠れていたというから、木春も陽太も気づかなかったのだろう。
 ……ん? 陽太といた時も一緒……?
 それはつまり、彼とふたりっきりでベッドの中に潜っていたときもすぐそばにいた、ということになる。陽太と熱い口づけを交わし、彼のモノを愛撫し、ひっそりと自分の秘所を濡らしていたこともすべて、ラヴェンナちゃんに筒抜けだった……!?
「んキュ~~~~っ!」
「ミーリア! どうしたしっかりしろ、大丈夫か、水飲むか!?」
 玄関にへたり込んでしまうミーリアに、すかさず陽太の手が伸びてきて身体を支えてくれる。彼のたくましい腕がミーリアを抱え上げても、もう身体がびくつくことはなかった。


6 


 改めてベッドに陽太と並んで腰かけて、ミーリアはぎこちなく笑った。
「あ、あはは……。もう恥じらいなんてないんだけどさ、その……もう1回ちゃんと抱いてよ?」
「無理するなよ、今日はいろいろあって疲れてるだろ」
 思い返してみると、偶然にも偶然が重なった1日だった。眠れなくて、ケンカして、トラウマを思い出して、襲われそうになって。確かに今日は散々だったしくたびれた。緊張の糸が途切れた今、気を抜けばベッドに倒れ込んですぐに寝息を立ててしまいそうだ。
 眠気を追い払うように、ミーリアは首を振った。
「でもね、今だからこそ、トラウマを乗り越えられそうな気がするの。よー君にしてもらえば、今までの過去が清算できるような気が、ね。私のわがままだけど、つきあって欲しいの」
「俺も今日は元々そのつもりだったし、ミーリアがいいなら遠慮しないけど、本当にいいのか。ムードもなにもないぞ」
「うん……いっぱい愛して、昔のことを忘れさせて?」
「なんかその言い方はやりづらいんだけど……まぁいいか」
「きゃっ」
 腰に回した腕でミーリアの身体をすくい上げ、陽太は自身の股ぐらの上に座らせた。秘部のすぐ下に感じる確かな彼の熱量にミーリアがきゅっと身体を硬くしていると、首筋を這う太い指に顎を持ち上げられ、小さな口が陽太のにおいで塞がれた。ペンギンの親が子に餌を分け与えるような姿勢で、遠慮なく熱い舌先が押しつけられる。ミーリアの口では陽太の舌を中に受け入れることはできない。唇にあてがわれた彼の舌の表面、裏側、ふちの辺りを丁寧に舐めとっていく。
「すごいな、甘い香りで頭がくらくらしてくる。花の蜜を直接塗りつけられているみたいだ」
「なぁに、その褒め言葉。変なの」
「変じゃないさ。ミーリアがあまりに魅力的で、虫ポケモンだけじゃなくて男なら誰でも吸い寄せてしまう魅力を持っている。髪飾りの色も、大きさも、においも味も。みんな俺を虜にしてくれる」
「もうっ、そんなこと言って……」
 言われて、嫌な思いはしなかった。大きい髪飾りはミーリアの暗い過去そのもので、この間まで陽太にでさえ褒められて快くは思わなかったのだけれど、今耳元でささやかれて、身体の奥底からこそばゆさに似た悦の感情が湧き上がってくるのを、ミーリアはしっかりと感じ取っていた。
 髪飾りがくるくると回って、甘いにおいをいっそう振りまいた。
 スカートの中で、毛の揃った肉棒がミーリアの陰唇を叩き、体全体をびくっと跳ねあがらせた。
「ちょっとよ、よー君!?」
「言ったろ、ミーリアは自分の甘いにおいで無意識に男を興奮させているんだぞ」
「もぅっ、変なこと言わないで!」
 口では非難するものの、ミーリアの口許は淫らにほつれていて。頭を厚い胸板にあずけ、振り返るように陽太の顔を仰ぐ。自然と上目遣いになったミーリアの目には興奮と期待と、拭いきれない不安が映っている。
 柔和な笑顔で見つめ返した陽太はスカートの隙間に右手の指を差し入れ、するすると手首までを内部に侵入させる。自室を覗かれているような緊張感に思わず身がすくむのを、ミーリアはなんとか堪えていた。
 それを悟ったのだろう、指もそれ以上に侵入させず、スカートの内側から身体を支えただけだった。もう片方の手で陽太の胸の前までしかない座高の、彼女の頭を撫でる。
「なんだかこの体勢だと、中学生を相手にしてるみたいだ」
「それさっきの変質者にも言われたんだけど……。子供扱いしないでよ!」
「しないからこんなことするんじゃないか。むしろ、なんか背徳感があってそそる」
「ええ!? 陽太にもそんな趣味が――ひゃっ!?」
 ミーリアの言葉を遮るように、陽太はスカートの中のふくらみに指を滑らせた。短い悲鳴を後目に、輪郭を縁取るようにその周りを何度も何度もなぞる。触れそうで触れない位置を往復する刺激に、ミーリアはたまらず音を上げた。
「も、もうっ、そんなに焦らさないでようっ!」
「すぐに欲しがるなんて、ミーリアはお子ちゃまだなぁ。ほら見て? 鏡の中のミーリア、すっごくもの欲しそうな顔してる」
「子供じゃない、こんなことするの、大人だけでしょっ……!!」
 壁に立てかけてある姿見鏡に映る自分のあられもない姿に、思わず手で顔を覆うミーリア。ちらっと視界に映った自分の顔が、おしっこを漏らしてしまった幼子のように呆けていて。
「子供だって大人の真似事くらいするさ。セックスはコミュニケーションだ、ふたりで先に進まないと。ほら、自分の表情くらいで恥ずかしがってないでちゃんと見なよ。脚のない下半身のトラウマを克服するんだろ? もういちど俺にしっかり見せてくれ」
 腰葉から入る彼の手に揺らされて、隠す両腕のあいだから下半身が見えそうになると反射的に眼を覆ってしまう。
「でも……でもっ!」
「脚が無いのも、立派なミーリアの個性だよ。少なくとも俺には魅力的に思えるな」
 駄々をこねるミーリアの耳元で囁いて、とっかかりのない腰回りを陽太は大きな掌で万遍なく撫で回した。んんっ、とこそばゆそうに喘いだミーリアは、初々しい自分の声に恥ずかしそうに口を閉じる。思わず口許に手が映ったところで、
「愛してる」
 と陽太に囁かれると、ミーリアの身体がぴくり、と止まった。チャンスとばかりに、武骨な皮膚が若葉のカーテンをそっとめくっていく。
 露わになった下半身。本来そこにあると思われる両脚のない、つるりとした丸み。中央に走るのは、陽太の指に焦らされ切なくなったミーリアの秘裂。すぐ下にそびえる半勃起した肉棒に、濃密な生唾を唇の端からこぼしていた。
 恥ずかしくって辛くって。身体の奥からじりじりした痺れが襲ってくる。口を押えたまま、細められた目元から涙が流れ落ちていく。
「――ねがい」
「ん?」
「……おねがい、早く……っ!」
「……わかった、よく頑張ったな」
 それだけ言うと陽太は固まったミーリアを持ち上げ首筋に淡くキス。こぼれた涙をぬぐい取ってやると、割れ物をそっと置くようにベッドへとミーリアを寝かせた。
 背中に感じるシーツが、ゆっくりと汗を吸い込んでいくのがわかる。しっかりと陽太に押さえつけられ柔らかい笑顔で見下ろされると、ミーリアの華奢な肩が小さく震えた。見上げる顔はやはり泣き出しそうだったが、その瞳にはもう不安のいろは映されていない。桃色の涙が薄くにじみ、唇のあでやかに輝く口は蕩けたように半開きになっている。手持無沙汰の両手は、たくし上げられたスカートの襟を握ったり離したりする。
 陽太が膝立ちになると、はだけたガウンの間から、大きく勃ち上がったペニスがミーリアに切っ先を突きつけていた。限界が来ているようではなかったが、それでも彼女の身体に興奮しているのは明らかで、それにミーリアは胸が詰まる思いだった。
「なんだかんだいって、準備は万端みたいだね」
「……よー君だって」
「ミーリアがあまりにも魅力的だからだ」
 露わになったミーリアの秘部。陽太の指ですでにとろとろにほぐれた花弁の隙間から、とろり、と蜜が尻を這って流れ落ちる。蒸し返す芳香の奥に、黄緑の肌に映える淡いピンクの粘膜。こんなところだけもうすっかり大人になっているんだな、と苦笑う陽太の目には、確かな肉欲の気配が差していて。
「……ね、ぎゅって、して?」
「もちろん」
 抱きすくめるように身体を折り曲げた陽太の高い体温を感じていると、ぴと、と敏感なところに煮だったように熱いものがふれた。
「――っふぁ!!」
 それが何かを意識しただけで、ミーリアは一瞬にして気が遠くなるようだった。先走りをしたたらせたペニスの先端が、切なく疼く陰部に擦りつけられる。微弱な刺激でさえさらに淫液を分泌させ、尻に敷かれたスカートの上に水たまりを作った。
 ――来る。
 ミーリアが確信して、蜜壺がきゅっと締まる。ぷし、と愛液が跳ねた。
 きゅうきゅうの膣肉を掻き分け、陽太の肉棒はミーリアを貫いた――と、ミーリアは思ったのだが、一向にその気配がない。緊張して凝り固まった陰唇の表面を、ねちゅねちゅと肉棒がなぞるだけ。手の届かない背中の部分がどうしようもなく痒くなったみたいに、ミーリアは身体をもぞつかせる。無意識に物欲しそうな視線を送り、震える吐息を絞り出す。もどかしく腰を揺らしても何処吹く風、陽太は一定のリズムで肉棒を花弁に合わせ上下にこすり合わせる。
「ね、え……お願い、このままだとおかしくなりそうなの」
「ふぅん、そんなおねだりなんかして、ミーリアはまだまだ子供なんだな」
「やっ、そんなこと、ないもん! ――んっ」
 ミーリアの必死の懇願にも陽太は取り合わず、おしゃべりな口を舌でそっと塞いだ。応じようとミーリアが舌を出すと、淡く触れただけでふっと遠のいてしまう。寂しくなったベロをひっこめると、また口に蓋をされる。ふたりの距離を保つようにくっついたり離れたりするのは、まるで大人の恋の駆け引きみたいだ。
「ミーリア、キス好きだよな」
「んちゅ、ぁ、でも、キスもいいけど……っ!」
 けれどそれにも限度はある。潮の満ち引きのように繰り返される口づけは、大切にされているという多幸感をミーリアに与えてくれたけれど、身体の奥底から湧き上がるびりびりした疼きがなだめられたのも一瞬だけだった。ぶり返した熱のように、一層の熾烈さを増してミーリアを焼き焦がす。微弱な刺激を与え続けられた花壺はもう開きっぱなしで、深々とえぐるようなキスを待ち望み擦れる竿に吸い付いていく。上下するペニスの動きに合わせて、ミーリアは腰を自らすり合わせていた。吐き出される蜜が、次第に透明から白く濁ったものに変えられてゆく。粘りが強く、糸を引く濃密なシロップ。荒い呼吸に合わせるように、むせ返すような淫汁があふれ出してくる。ミーリアの心にも体にも限界が来ていることは、まだ余裕を残している陽太には筒抜けだった。
「はぁっ、んちゅ、お願い、……ふあぁっ、はやく、ちょうだいよお!」
「頂戴ってなんだ、俺がミーリアに与えてばっかりじゃないか。これじゃコミュニケーションになってないぞ。たまにはミーリアからも何か欲しいな」
 かけられる恋人の甘い声に、ペニスの薄皮を食むように花唇が呼応する。混ざり合った先走りと愛液が、ぬめりの良くなった雄蕊でじっくりと塗り込まれていく。
 断続的に繰り返されるキスでもうミーリアの頭の中は真っ白だった。蕩け切った声を押さえることもできず、ただ陽太のなすがまま。息切れすれば、すぐ近くで呆けた顔を見つめられる。やせ我慢で大人びた表情をつくれば、ほだされるようにまた口づけが落とされる。
 もどかしかった。
 タイミングを見計らい、押し付けられた舌を絡めとるようにミーリアは舌をなすり付ける。ちゅぷ、と糸を引いて舌と舌が離れると、頬に汗を流しながらミーリアは意地っぽく言った。
「……どう? 私のあげた、キスの味は。ぁ、私だって、はぁ、もう大人なんだから」
「いくよ」
「――え」
 ぶちゅん。
 さっきのキスの延長みたいにあっけなく、小さな水音が響く。迫り来るはずの陽太のベロを迎え撃とうと半端に飛び出たミーリアの舌が、今まで意識を外していた下半身から押し寄せる膨大な熱量に、びくびくと痙攣し始めた。
 何がなんだか分からなかった。
 痛みなど、意識する瞬間もなかった。下腹部に感じた違和感に目を向ければ、陽太のペニスが半分と少し見えなくなっている。隆々とした肉の棒に押し出されるようにして、ミーリアの腹から呆けた声が出た。
「ぁ……、ふぇ……?」
 ――入っちゃっ、た……?
 理解した途端、貫かれた腹の底から快楽がうなりをあげて身体の隅々にまで伝播する。子宮を鷲掴みにされて揺さぶられるような激感、全身が脱力させられ筋肉が痙攣し跳ね上がる。ミーリアと同じように快感に歯を噛みしめる陽太の顔、それを映す視界が大きくぶれる。
「んぁ、ふわっ……!!」
 無意識に蜜壺をきゅっと締めこむと、確かに感じられる彼の質感。痛みを慮って抱きしめてくれる陽太の力強さ、首筋に感じる荒い吐息。ひっついて離れない汗に濡れた肌と肌。同じように繰り返される淡いキス。
 好きなひとと、やっとひとつになることができた。積み重ねてきた想いが成就したと悟った瞬間、途方もない悦びをしっかりと受け入れることができて。
「あぁっ――っあああああああああ!!!!」
 盛大に喚き散らして、ミーリアは絶頂に達した。初めて味わう快感に頭も身体も処理が追い付かず、全身をぎしっと引きつらせただただ泣き叫ぶ。体格差により極太のペニスを入れただけで限界にまで拡張された膣肉が、真っ赤に充血して中のものを搾り上げる。
「なにっ……コレぇっ!? すご――ふぁあっ!? やぁあああああっ!!」
「痛みはなさそうだね。そんなに()がられちゃうと……俺も我慢できない」
「や、待って、わたし今イったばっかりだから、ぁ、まっひぇ、まっ――ひゃああああああ!!」
 ベッドにミーリアをやんわりと押さえつけたまま、陽太は身体を前後にゆする。押し寄せる快楽になんとか耐えようと握り込まれた緑の腕が、シーツに波模様の皺を作った。
 ペニスをぎっちりとつかみ離さないミーリアの秘所は、子宮の入り口に何度もキスを繰り返す亀頭を、弾力のある肉粒でくすぐるように迎え入れる。ゆっくりと蠢く竿により限界まで膨らんだ膣肉はポッコリと腹を押し上げ、それでも足りないというふうに襞をくねらせてさらに奥へ咥えこもうとする。
 初めてとは思えないほど完熟したミーリアの秘肉に、陽太はたまらず快楽のうめき声をあげた。
「っぐ……、すごいな、ぴっちりと吸い付いてくる……!!」
「んやぁぁぁあ!! ゆっくり、んはぁっ、よー君もっとゆっくりぃ――っぁあああ!!」
「そんなに乱れて……ミーリアって実はエッチだったりする?」
「やっ、そんなこと、ぁあああっ、ないよおっ! ――ぃヒッ!!」
 十分にほぐされたミーリアの膣が再度収縮し、精を吐き出せと陽太にせがんでくる。面白いように喘ぐミーリアに嗜虐心をくすぐられたのか、陽太は張り裂けそうなペニスを突き刺したまま、押さえつける手をミーリアの背中に回し――すくい上げた。
「い゛っ……!? んひゃあアアアア!!?」
「おいおいミーリア、俺のをがっちり掴んで離さないつもりか……? 独り占めしようとするなんて、いかにも子供っぽいぞ」
「こ、こどもあちゅかいしな――ぁいッ!」
 甘噛みするように柔肉へと食い込んだカリ首が、まだ知らない女の部分を優しく教えるようにじりじりとなぞる。重力にしたがい突き進んだ肉棒に、子宮がむにっと持ち上げられる。先ほどとはうってかわって暴力的な刺激に、ミーリアのろれつが回らなくなる。
 ベッドのふちに腰かけるよう陽太が身体をずらし足を降ろす。下から串刺しにしたままのミーリアをボルトを締めるように回転させ、背面座位の体勢に。最奥をほじるような荒々しい刺激に、ミーリアはまた唾を飛ばして絶叫した。
「さっきみたいに鏡でやろうか」
「ぁ、ま、まっひぇ、うごかな――ぁひィ!!」
 姿見に映るミーリアの乱れた醜態を本人に見せつける。先ほどまでの恥じらいなんてどこへやら、鏡の中には逞しい肉棒を蜜壺で咥えこみ、幸せそうに顔をほころばせるミーリアが映っている。
「ほら見てみろよ、ミーリアのココ、俺のを飲み込んで離さないぞ。本当にエッチなんだから」
「やあぁっ、そんにゃこと、ひゃ、いわりゃいでぇ……!!」
 恥ずかしさから顔を覆い隠すミーリアの短い腕を、陽太はそっと外してやる。鏡に映っているのは、恍惚とした表情のミーリア自身。陽太の手ではだけさせられた秘所は、串を刺された柘榴みたいに、膨らんだ子房から大量の粘蜜をしたたらせていた。あふれ出た果汁は、水分を含んだ葉っぱのスカートからしんなりと垂れ流れている。
「お、どうしたんだ、そんなに締め付けてきて。……もしかして、言葉に弱い? ミーリアはほんとどスケベなんだな」
「そ、しょんなことないもんっ!」
「ぅお、やっぱりそうじゃないか、動くぞ……!!」
 言葉とは裏腹に、喜ぶように蜜壺がぎゅっと締まる。何度か絶頂を味わいとろとろにほぐれた膣肉は、重力も伴ってさらに深く陽太のものを飲み込んでいく。ミーリアの身体の半分ほどまで入ってしまったのではないだろうか。陽太の肉棒はもうほとんどが隠れて見えなくなるほどだった。
「だめ、ふぁ、こんにゃの……ぁ、わたしじゃにゃいよぅ、んああ!!」
「ほら、しっかり見て。おれのペニスで善がっているのは紛れもなくエッチなミーリアだぞ」
「しょんな、ぁ、こと――ふにゃぁああああ!!」
 視線を覆い隠そうとする両腕を陽太の大きい掌がまとめて遮って、余った指を蕩けた口に突っ込んだ。身体を支えている右腕の人差し指の伸びる先は、あけっぴろげになった秘所の端にちいさく引っ掛かっているような肉芽。浮きたったそれを指の腹で軽くノックするだけで、ミーリアの体全体がびくんと痙攣した。
「――っぃアあぁ!!」
「またイった? こうして鏡を前にしてやると、さっき事務室で踊っていたのを思い出すな。――ちょっと踊ってくれよ」
「な、に、ぁ、言ってるの……っ!」
 それでも度重なる絶頂ですこし余裕が出てきたミーリアは、意地を見せようと軽く腰を振る。コリコリの子宮口でぱんぱんに膨らんだ亀頭を揉みしだくと、首筋にかかる陽太の吐息が震えるように乱れた。
 腰を跳ね上げ振り子のように揺らし、肉厚な葉を艶めかせる。葉っぱのスカートの切っ先が、くすぐるように陽太の股ぐらをなぞる。性のにおいに満ちた空気がさざめき立つ。
 髪飾りをたおやかに回転させ、癒しの心をあたりに振りまく。自分のにおいに陽太を酔いしれさせたら、今度は腰を鋭くひらめかせる。ともするととどめを刺すような鋭敏さで腹のなかの相手を責め立てる。小悪魔のように不敵な笑みを浮かべ、小さく囁く。陽太に向かって。
「……どう?」
「ミーリア――本当はダンスを続けたいんだろ?」
 ダンスを続けたい。
 その言葉だけは、真っ白に染められたミーリアの頭でもすっと受け取ることができた。
 もうどこから上げているのか分からないよがり声に混じらせ、すがるように叫んでいた。
「――うんッ! ほんとは、もっと踊っていたいのぉ! こうやって、身体を動かして……ァあッ!!」
「これじゃただの水商売人か、ぅおぉ……AV女優だろっ」
「ちがっ……ぃヒ、そうじゃなくってぇっ、わたし、わたしはぁッ……!!」
「分かってるって――っお、ミーリア、出すぞ!」
「ぃあっ!? よー君、イくの? ぁあっ、ちょうだいっ!! ひァ、わたしのなかにたっぷり注いでぇ!‼」
「……ここまでくると、もうなかなかいないぞっ……くぅ!!」
 いつの間にか、ぐにぐにとしなる肉筒に陽太の陰茎は根元まですべて飲み込まれてしまっている。密着したぷにぷにの子宮口に、ディープキスのように亀頭全体を甘く噛まれたかと思うと、こめかみに汗をにじませ歯を食いしばる陽太はもう耐えられない。限界まで縮み上がったミーリアの腹の中に、ドロドロの精液を流し込んだ。
「あアアアぁッ……!! あ、あっちゅいの……きてふ、ぁ、あはひゃ……!!」
「おいおい……そんなに乱れて、大丈夫か」
「う、ん……にゃんとかぁぁ……」
 脱力しきったミーリアの身体を陽太が両手で持ち上げると、抜け出るペニスから肉襞で拭われきれなかった精液がべっとりと垂れ落ちた。赤いものが混じっていなければ、ミーリアの乱れっぷりに初めてだったということをすっかり忘れていただろう。
 それは、陽太にありったけの愛情を注いでもらったという確かな名残に思えて。度重なる絶頂の余韻に混じって身体を包み込む幸福に、だらしない表情のミーリアの口の端が吊り上がる。
「ミーリアがすさまじいから、激しくしすぎたな。とりあえず風呂に入って……」
「ぁひ、あは、はーっ……。ぇへ、ェヘヘぇ……」
「おい……聞こえてる?」
 陽太はサイドテーブルのカップを渡し、慣れた手つきでミーリアに水を飲ませてやる。落ち着いたのを確かめると、ベッドに崩れた彼女の小さな背中をさすりながら陽太も身体を横たえた。
「初めてなのにこんなに無茶しやがって……。あとは俺が片付けておいてやるから、もう寝てしまったほうがいい。確実に明日に響くぞ。家の手伝い、ほったらかしてきちゃったんだから」
「あ、あまりにもよー君が激しくするから、寝つくにもお股がヒリヒリして気になっちゃうじゃない。それよりも――」
 腰蓑を片手でたくし上げ、うなる蜜壺から垂れ落ちる精液を見せつけると、小悪魔みたいな笑みを浮かべてミーリアは言った。
「ねぇ、もう1回……してほしいんだけど」
「……まいったな、ミーリアがここまで淫乱だとは思わなかった」
「もしかして……嫌だった?」
 そんなの、答えるまでもないだろう。
 顔に浅く落とした不安をぬぐい取るようにミーリアの首筋をくいっと持ち上げ、触れるだけのキス。きゃ、とわざとらしく嬌声をあげたミーリアにそのまま覆いかぶさると、陽太はなんとか硬さを保ったペニスをどろどろの肉壺にあてがった。


7 


「……お母さん、とんでもなく強い人だね」
「え?」
 うすい毛布を掛けられたベッドの中で、深く感心したように陽太はつぶやいた。どろどろになった身体を風呂で洗い流し、取り換えたシーツの上に並んで横になっていた。ミーリアが入浴している間に部屋の換気もしていたのか、行為のにおいは夜の湿った空気にまぎれて分からなくなっていた。
 甘いピロートークのあいまに、明日お母さんに謝らなきゃ、と呟いたミーリアに陽太はそう言ったのだ。どういうこと、と上体を起こしたミーリアに、陽太は横になったまま顔だけを向けて続ける。
「ミーリアのおばあちゃんはきっと娘に――お母さんに、キレイハナになってほしくて『木春』なんて名前を付けたんだ。だって明らかに、椿(つばき)から取った名前だからね。キレイハナの髪飾りは、椿やさざんかの花にそっくりだろう。なのに、木春さんはキレイハナではなくラフレシアに進化した。どうしてそうなったかは分からないけど、そこには相応の覚悟があったんだと思うな」
 フラベベのラヴェンナが花の代わりにしていたほど、キレイハナの髪飾りは妖精の花の属するツバキ科の特徴を色濃く持っていた。雄蕊や雌蕊は退化してしまっているが、中央の花粉嚢は変化して眠り粉や痺れ粉が蓄えられるようになっている。花びらをくるくる回すことで――もちろんこれは椿の花にはない特徴であるが――花粉のように粉を舞い散らせる。花が枯れる時のように5枚の花弁を1枚ごと切り離せば、花びらの舞を繰り出すことができる。キレイハナの踊る舞は、天性の明るさも相まって全ポケモンの中でも最も華やかだと言われるほどだ。
 ラフレシアに進化してしまえば、そのような美しさとは程遠い、お世辞にも華麗だとは言えない容姿になってしまう。キレイハナが明るさ、陽気さを象徴するとすれば、ラフレシアにはどうしても陰鬱な、じめじめしたといった暗いイメージが付きまとう。
 ダンススクールの事務室に立てかけられていた写真の中で、キレイハナに囲まれてただひとり進化していなかった母親の姿をミーリアは思い出していた。
「……だけど、お母さんがキレイハナに進化しなかったことが、どうして強いってことになるの?」
「ミーリアがキレイハナに進化したように、お母さんだってキレイハナに進化したかったはずさ。なにも女の子が可愛い姿になりたくないとは思わないからね。それでもわざわざラフレシアを選んだ。なんでか聞いたことはあるかい? ミーリアも身をもって知っているだろ、キレイハナに進化すれば暗黒のクサイハナの時代を何とか忘れられるんだって。ラフレシアを選ぶってことは、それまで受けてきた嫌悪の目をそれからもずっと受け続ける覚悟があったってことだろう」
「私自身、昔にいい思い出がないから普段お母さんとそういう話はしないんだけど……。あ、でも、引っ越す前は結構貧しかったの。それがなんでかは聞いたことはなかったけど」
 スクールでマクロビから聞いた母親の、知られざる過去。考えたこともなかった。思えば、ミーリアと同じ種族、特性、性別に生まれ落ちた以上、木春も同様の過去を背負っていてもおかしくはない。むしろ、異種族で結ばれることがまだ珍しかった時代、そうした暗いイメージの特徴を持った他者への理解は今以上に陰惨としていた可能性だってある。
 ふーん、と呟いて陽太は押し黙った。眉に皺を寄せてしばらく考え込むと、ふと思いついた陽太はミーリアに確かめるように言う。
「ここからは全部俺の予想にすぎないんだけどさ、きっと木春さんは娘のことを思って――君のことを思って、ラフレシアに進化したんだと思う。お手伝いしているならわかると思うけど、花屋はかなりの激務だろう? 生モノを扱っているから、病気で寝込んだりして手入れができなくなると途端に大赤字だ。明日の食いぶちを稼ぐには、絶対に風邪を引くことはできない。だから、ラフレシアに進化した。毒タイプが入っているのと入っていないのとでは、免疫力が格段に違うんだ」
「ちょっとまって、私のためを思って、お母さんはクサイハナに進化して花屋を始めたってこと? なによそれ、話が大きすぎる!」
「根拠になるのはそれだけじゃない。キレイハナに進化するには太陽の石が必要だ。ここらじゃめったに取れない貴重品で、ミアレの石屋にも店頭に太陽の石は置いてないんだ。ラフレシアに進化するためのリーフの石なら比較的簡単に、安く手に入れることができる。昔何かのテレビ番組で見たんだけど、純正の太陽の石は一般家庭の父親が1年で稼ぐ金額と同じくらいの価値があるらしい」
 大会のパンフレットに景品として仰々しく載せられていた太陽の石のブローチ。高校進学が決まったあの日のことを思い出す。ぽん、と無造作に渡された石が、まさか花屋の1年分の稼ぎに相当するとは、ミーリアにはまったく見当もつかなかった。
「うそ……。自分は安いリーフの石でラフレシアに進化して花屋を始めて、私がキレイハナに進化する太陽の石を買うために必死にお金を稼いでいたってこと? そんなの、一度も聞いたことがないよ!」
「娘に気を使わせないようにした木春さんの配慮だろう。そして、自分が叶えられなかった夢をミーリアに託した。立派なキレイハナに進化して華やかな人生を送るっていう夢さ。話を聞いていて納得できたよ。娘の人生がどうか成功するよう、母親はその名前に願いを込めた。ミーリア、君の名前の由来になったさざんか(camellia)の花言葉は――」
「――『困難に打ち勝つ』、だよ……!!」
 ツバキ科の中では珍しく、さざんかは秋の終わりから冬にかけて花を咲かせる。ミアレではあまり目にすることは少ないが、寒さの厳しい中でも力強く花を咲かせるそれは、冬の風物詩として重宝されている。故郷のシンオウに住む友達から送られてきた絵葉書に描かれていた、紅い花弁に雪を積もらせながらも色鮮やかに咲き誇ったさざんかを、ミーリアは克明に思い出していた。
 点と点が結ばれて、一本の線になってゆくようだった。
「そうだ、そうだったんだ……。ラフレシアに進化したのも花屋さんを始めたのもぜんぶ、私のためだったんだ。なのに、私何も考えてなかった。変な特性で私を生んだお母さんなんて、嫌いだとも思ってた」
「ちゃんと謝らないとな。ケンカして飛び出してきちゃったんだろう?」
「うん……ホントに何やっちゃったんだろ私……」
 しゅんとしょげながらも、ミーリアの顔はほころんでいた。ずっとその紫の背中を見て従ってきたと思っていたのだが、ちゃんと木春もこっちを向いてくれていた。むしろずっとミーリアの背中を支えていたのだ。
「……これは言わない約束だったけど、俺がミーリアと付き合いだしたころ、木春さんに言われたんだ。『陽太君みたいにしっかりした子なら安心して娘を預けられる』って。もう木春さんの中じゃ、俺たち結婚するみたいだぞ」
「ふぇっ!? そっ、それは話が飛び過ぎでしょう!!」
 冗談だよ、と陽太は言わなかった。ああ、私は近いうちにこのひとと結婚するんだろうな。陽太の温かい腕に抱かれながら、ミーリアは直感していた。



 5月最後の日曜日、日が昇りエテアベニューにも活気が出てきたころ。
 店先に花のバケツを並べ終え、バルコニーを掃こうとほうきを持った木春の元に、今日ひとり目の客が現れた。お客さんを歓迎する準備は整っているが、店の前に掲げられた札はまだクローズのままだ。
 背後で小さな気配が動かないのを感じたまま、木春は振り向かずにそっけなく言う。ざっざっ、とほうきが石畳をこする音だけが、休日の朝のまどろんだ空気の中に響いている。
「……土曜日まるまるすっぽかして店を手伝わないなんて、良い度胸じゃないの」
「……」
 小さく縮こまったミーリアには、その逞しい背中が石像のように見えた。手に大事そうにそれを抱えたまま、なかなか話を切り出せない。
 時間だけがいたずらに過ぎてゆく。汗のにじむ掌で握りなおして、重い口を開いた。
「お母さん、これ」
 言葉尻を濁してミーリアが渡したのは、いつか母親から手渡されたことのある小さな木箱。ところどころ汚れ染みがつき傷んでいるそれを、ミーリアは部屋の戸棚の奥から引っ張り出したのだ。
 ほうきを壁に立てかけミーリアに向き直った木春は、差し出された箱を怪訝そうに眺めた。どういうことかと腕を組んで待ったが、娘は目をそらし黙ってうつむいたまま。説明してくれる雰囲気ではなかった。
 はぁ、と小さく息を吐いて、木春はその箱を仕方なく受け取る。さして重いもののようでもなく、中に何が入っているのか見当もつかなかった。リボンをほどき、蓋を開ける。
 出てきたのは、太陽の石を加工して作られた、椿の花を模したネックレス。
「……アンタ、これ、どこで盗ってきたの」
「違うの! ごめんなさい、昨日お店をすっぽかしちゃったの、これを勝ち取ってくるためだったの」
 そろり、とミーリアがポーチから取り出したのは、しわの入ったダンス大会のチラシだった。土曜日、昼過ぎに陽太の家から飛び出たミーリアはそのままマクロビのダンス教室に向かったのだ。大会のエントリーを何とか済ませ、ほとんどぶっつけ本番で挑んだにもかかわらず、陸上の部でミーリアは優勝した。前の夜、陽太に“大人に”してもらったのが良く作用したのだろう、スカートの中を見られることに抵抗のなくなったミーリアは、今まで成功させられなかったジャンプを連発し会場に花吹雪と拍手喝采を巻き起こしたのだ。
 渡されたものと同じブローチが中央に掲載されたチラシに木春は一瞬だけ怪訝な顔を作り、しかしまたすぐに口をへの字に曲げた。
「なに勝手なことやってるのよ! もし優勝できなかったらまる1日無駄にしていただけじゃない! 花屋、趣味でやってるんじゃないんだよ!? わたしとアンタだけでひーひー言いながらなんとか回してるの、分かってんでしょ!? 父さんに死なれて、わたしは店の経営も、アンタを育てるのも全部ひとりでやんなきゃならない。装飾品なんて贅沢、うちにはする余裕なんてないんだからね!? 昨日アンタが抜けたせいで夜の12時まで作業が終わらなかったし、というかラヴェンナちゃん連れ回してアンタいったい何していたの!? お友達の家に来てないって知った沙羅さんがずっと心配していたんだからっ‼ 他人(ひと)ん家の子に何かあったら、アンタどう責任とっていたのよ!? いつまで経っても自分勝手、将来のことも考えない子供のままなんだから!」
 ぴしゃりと木春は言い放つと、ネックレスを乱暴に戻し入れた箱をそのままつき返した。街路樹から小鳥が飛び立ち、また静けさがあたりを包む。
 またミーリアの胸の中へ戻ってきたさざんかのブローチ。浜辺の砂をすくうような丁寧な手つきで取り出し、自分の胸の前で握り込んだ。
「これね、お母さんにと思ってね。大会で優勝して貰えるブローチにはいくつか種類があって、自分で選んだんだ。お母さん、いつも頑張っているでしょ? 私のためにキレイハナへの進化もあきらめて、花屋さんなんて大変な仕事して、それなのに弱音なんて1回も吐いたことなくて。全部、私のためだったんだよね。私が私の好きなように、不自由なく生きていけるように、お母さんがみんな我慢してくれてたんだよね。それを分かんなくって私、今まで散々好き勝手してきたよね」
「……」
「だから、それ、私とお揃いのブローチなの。ほら、私の髪飾りと大きさもちょうど一緒なんだよ。私を生んでくれた――私をお母さんと同じ特性で産んでくれたから、私の髪飾りは今こんなに大きく咲いているんだ。高校生の頃はそれで苦労したし、恨んじゃってたこともある。……けど、けどね、今はとても誇らしいよ。お母さんも体験してたんだよね、同じこと。クサイハナの頃は苦労するって。だから『困難に打ち勝つ』って花言葉のさざんか(camellia)から名前をつけてくれたんでしょう?」
「……」
「私ね、決めたんだ。お母さんが諦めたダンサーの夢、追いかけてみようと思うの。自分に実力があるとも思わないし、それで稼いでいけるなんてそれこそ夢のまた夢だろうけど、とにかく頑張ってみる。お母さんがずっと期待してくれるんだもん、途中でなんか諦めない。いけるところまで行って、私もお母さんも満足できたら『ほうし』に戻ってくるよ。それまでにはきっと花の切り方も忘れちゃってるから、また教えてね?」
「……」
「だからさ……なんて言えばいいのかな。言いたいことはいろいろあるはずなんだけど、言葉にしようとすると出てこなくてさ。でも、これだけは言いたいの、いままでずっとありがとう。そしてこれからも」
 握り込んだブローチを木春の首に回し、後ろに回り込み金具を回す。かち、と小さい音がして、太陽の石のペンダントは木春の胸の前に収まった。照り付ける日差しを反射するそれは、まるで本物の太陽みたいにふたりの間を明るく照らしていた。
「お母さん、とっても似合ってる。……大好き!」
「ったく、アンタって娘は……」
 それから何も言わず、木春はミーリアをぎゅっと抱き返した。それはあの日、クサイハナに進化した彼女を抱きしめた時のようには震えていなかった。
「今までよく頑張ってきたよ、バカ娘め。これからも頑張るんだよ!」
 そして。

 5月29日。ミアレシティのすべての家々で、花に包まれた母親たちは笑顔を咲かせるのだった。





あとがき 



 圧倒的キャパオーバーです!

 あれも書きたいこれも入れたいと広く手を伸ばした結果あれよあれよと文章量が肥大し、書きつくした後は5万字超え。気づけば収拾がつかない規模にまで膨れ上がっていました。
 大会の投稿日初日とリアルで忙しくなるタイミングが重なってしまった(とてもひどい言い訳)ため、ロクに推敲や論理展開の整理もできず物語はボロボロ、投稿後いちばん大事なシーンで混乱をきたす表現を見つけたときにはひとり悶絶していました。あとから指摘をいただいたところもあり、もっとしっかり書けばよかったなァ、と後悔の念が耐えません。
 設定が5月29日(2016年のパリの母の日)で、なら投稿するのはできる限り近い方がいいだろうと翌日に焦って投げたのですが、忙しいと思っていた期間も週末はさすがに余裕があったためあまりそうする必要もなく……。もっとちゃんとするべきでしたね。
 ともかく何が書きたかったかというと、ラフレシアのパルレが可愛すぎってことです。左右にたんたんっ、と刻むステップの裏には、実はダンサーになる夢をあきらめたという過去話を付け加えてみました。
 モチーフはキレイハナに脚が無いことと髪飾りがフラベベの持っている妖精の花にそっくりなこと。最近キャラを創るときにその仔の過去やトラウマはどのようなものがあるかを考えるようにしていて、それはすなわちキレイハナをキレイハナたらしめてくれる要素になります。ミーリアがドレディアだったらこのお話は全く成り立ちませんからね。キレイハナはナゾノクサをひっくり返したデザインと言われているようですが、なるほどその通りなんだなとスカートの中を覗いて思いました(下衆)。
 初期は官能なしの親子愛が詰まったお話にするつもりが、ベッドインしても何があったか書かないのは流石に期待外れかと思い追加することに。正直濡れ場のバリエーションがもうないのでどう工夫したものかと悩んだのですが、キレイハナが2段階進化後で最も小さい(40cm)らしいので体格差をメインに。絶対痛くてそれどころじゃないしそもそも入れるという発想自体がありえないレベルなんですけどファンタジーなので大丈夫です。ポケモンは丈夫なんです。
 


では大会時いただいたコメントに返信を。


・ストーリーがあり、とてもよみやすかったです。 (2016/06/13(月) 04:25)

 ストーリーを凝り過ぎて膨大になりすぎました。当初はせいぜい2万字超えくらいの予定だったのですが、まさか倍以上に膨れ上がるなんて……。それでも読みやすいといっていただけるのは嬉しい限りです。文に緩急をつけたのがよかったのでしょうか。


・ミーリアさんエロ過ぎますw 官能シーンの激しさでは間違いなくブッチギリでしたwww
 エロ以外の点でも、カロス(フランス)の母の日と大会時期とを重ねたり、椿とさざんかに絡ませた伏線を多数忍ばせていたりと見所が多く、すれ違いながらも深まっていく木春とミーリア母娘の絆にも心を打たれました。 (2016/06/19(日) 16:04)

 忍ばせた伏線は数知れず、自分でも処理しきれていないのが丸分かりな感じになってしまっていましたが、書いていて楽しかったです。露骨すぎる部分もあったり荒が目立ちますが、またいつか書き直すときが来れば(来るのか?)もっとうまく混ぜることができそうですね。
 小ネタとしてはフラベベのフラワーペール、石進化、ダンスに防塵などなど……。詰め込み過ぎました。もっとスッキリさっせたいもの。課題ですね。
 官能は……うん、まぁ官能部門ですからね。これくらいあっても許されるでしょう(


・圧巻の描写力。最後まですらすらと読み進めることが出来ました。 (2016/06/19(日) 22:12)

 私の文体はクセが凄く読み辛いと思っていましたが……ありがとうございます。描写に凝りすぎてキャラが動こうとしなかったりなかなか難産な作品だったのですが、書ききってよかった。こんな長いものを3人称で書いたためしがなかったので途中何度か心を織られそうになったのですけれど。


 投票してくださったお三方、読者の皆様、管理人様、ありがとうございました。

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お名前:

*1 花が満開にならないように入れられる展示用冷蔵庫。この中に保管しておくことで開花時期をずらし、花の鮮度を保ちつつ年間を通して様々な種類の植物を販売することができる。
*2 バルコニーやテラスへの出入り口に設けられることの多い、ガラス窓になっている観音開き扉のこと。
*3 ミアレシティの学期区切りは9月である。ミーリアはあと2か月程度で高校3年生の課程を修了する。
*4 カントーやジョウト、イッシュでは5月の第2日曜日に定められているが、カロスでは5月最後の日曜日である。
*5 壁や天井に奥行きを持たせるために作られた凹凸のある装飾のこと。築100年を超える代表的なオスマニアン建築である。
*6 隠れ特性:防塵
*7 隠れ特性のこと。逃げ足→悪臭→胞子or癒しの心となる。
*8 昼行性のポケモンは9:00~15:00、夜行性のポケモンは13:00~19:00が中学校の就学時間である。どちらにも共通する13:00~15:00の時間帯はクラスの生徒が一同に会するため、そのようなときにしか行えない体育や総合の時間が割り当てられることが多い。
*9 技”いえき”の効果で特性を打ち消そうとした。
*10 本来は戦闘中にのみ効果を発揮し日常生活に支障をきたすことはないが、その時はミーリアが「誰かに見られている」と思い緊張状態であったため発動していた。

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Last-modified: 2016-07-07 (木) 23:56:51
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