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さかさまの恋心

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Writer:&fervor
※いわゆるえっちな小説なので駄目な人は戻るボタンで戻っておくべし


さかさまの恋心 

1:外見による第一印象は思った以上に強いけれどそれがあるいは自分らしさという可能性 

森を抜けた先にある、小川のせせらぐ広い広い草原。生い茂る深緑は力強く逞しい。照りつける日差しを目一杯に受けて今にも輝くかのような。
ちらほらと開いている花々は、緩やかに流れる風に揺れる。ここを通る獣たちに何度踏まれようとも、力強く立ち上がる。
そんな草原を緑を揺らしてひらひらと跳ね、草花を掻き分けて、踏み越えて、あるいは避けながら小川へと一直線に向かう。
水面に映るのは辺りの風景とはかなり色合いの違ったその体。白と桃の柔らかな毛並み、首元と左耳には蝶の形のアクセントが。
そこから伸びる長い触手で川の水を器用に掬い上げ、自らの口元へ。ニンフィア、と呼ばれる種族は皆、この触手を自由自在に、細やかに動かせる。
そんな自分の周りには、草木の影からその様子を食い入るように見つめる多くの獣たちが集っている。口々に呟く言葉は皆同じ。
「あの仔、可愛いなあ……」
季節は春。木々が萌え、新しい始まりを告げる季節。獣たちも新たな、あるいは生涯の番を探すべく地域を転々と駆け回る。
当然皆思うことは同じであって、牡たちは可愛らしい牝を、牝たちは顔立ち凛々しい牡たちを射止めようと必死になる。同性は皆ライバルなのだ。
人気の高い異性はあっという間に相手が決まってしまう。時期を逃せば逃すほど、良い相手に出会えるチャンスが減ってしまうということ。
周りの獣たちは隣の同性の動きを探り合っている様子。いきなり付き合いを要求しに行くか、あるいは慎重に情報を集めることから始めるか。隠れている割には見え見えだけれども。
ガサリ、と草むらが揺れた。飛び出したのはオレンジの体、クリーム色の毛玉。そのポケモン、ウインディはゆっくりと自分の方へ近づいてくる。
「君、お腹は空いてない? この小川、もうちょっと上流に行くと珍しい木の実が生ってるんだけど、良かったら案内するよ?」
小川へと入れかけた触手の動きが止まる。左右を見渡す。どうやらその言葉は、やはり自分に向けられたものらしい。ああ、またこれか。
自信たっぷりのウインディと、周りにはそれを見守る多くの牡たち。失敗すればチャンスは自分たち、しかも話のネタも少しは考えやすくなる。
しかしここで自分が彼に付いていくようなら自分たちのチャンスはほぼ無いも同然。願わくば断られてくれ、と祈りを捧げていることだろう。
全く馬鹿馬鹿しい。下心が丸わかりで、全く品がなさ過ぎる。そのウインディを暫く眺め、ため息混じりに一言釘を刺してやる。
「見た目が大事なのは分かるけど、見た目で何もかも判断するのは関心しないな」
断るでも無く、いきなり駄目出しを食らうウインディ。流石に予想外だったらしく、表情が揺らぐ。一方で周りは少し安堵の表情。分かりやすい奴らだ。
ウインディも次に出す言葉を考えているようだ。ここで引き下がれるはずも無く、なんとしてでもチャンスを掴まなければ次は無いのだから、当然と言えば当然か。
「いや、別にそういうわけじゃないんだよ。ただ君、ここらじゃ初めて見かけるから、もしかして遠くから来たのかなと思ってね」
確かにその通りだけど、と答えを返す。もちろん君たちと同じ目的があってここまで来ているわけだけど、残念ながら君に興味はないってことだ。
そんな答えに何を感じ取っているのだろうか、ウインディは慎重に相手の様子を伺っている。勘違いしてなきゃいいんだけど。
「だから、食べ物の場所とか教えてあげたら喜ぶかなっていう、ただのおせっかいだよ。もちろん……君が可愛いから、っていうのもあるんだけど、ね?」
並大抵の牝であれば恐らく一瞬で虜にされるであろう流し目。このウインディも一般的に見ればかなりイケているのだが、もちろん靡くつもりはさらさらない。
ウインディの様子をじろじろと眺め、次の言葉を考える。一体どうやって追い返そうか。周りのポケモンたちも、この身持ちの堅さにざわつきだしている。
「一つだけ聞いておくけど、彼女探し中ってわけ?」
「あ、ああ……ま、それは今は関係ないんだ。もっとも、もし君がいいっていうなら、僕は喜んで付き合いたいけどさ」
直球な質問を軽く受け流し、なおもアタックを続けてくるウインディ。はあ、とまた一つ大きなため息をつく。そして、ウインディをキッと睨んで一言。
「……俺は、れっきとした牡だっての!!!!!!!!」
その大声はウインディだけではなくギャラリーの面々にも悠々届くほど。目が点になる、とはこのことなのか、というほど皆が皆驚いている。またか、またこれか。
そう、俺は決して可愛らしい牝などではない。誰もが目を疑うだろうが、俺はきちんと牡であって、俺が求めているのは可愛らしい牝なのだ。
「どいつもこいつも見た目でふらふらよって来やがって、中身なんてまるで気にしちゃいない。あーやだやだ、俺はお前らのライバルなんだよ!」
「な、あ、おま、お前……嘘だろ?」
あまりのショックにまだ言葉つたないウインディ。彼だけではない、周りも皆狼狽えている。そうは言われても、本当に牡なんだから仕方ない。
中性的ではあるが可愛らしい声、すらっとした体つきにつぶらな瞳。牡だと気づく方が難しい、とか言われたこともある。確かに、ニンフィアという種族は元々可愛い要素が強いんだけども。
「嘘なんかじゃない、俺は間違いなくきちんと牡だ! 分かったらさっさと帰りやがれちくしょー!」
伸ばした触手でウインディの体をぱしぱしと叩く。ようやく我に返ったウインディはそそくさとその場を後にする。もちろん、周りのポケモンたちも皆。
誰もいなくなった小川で、自らその流れに顔を突っ込む。熱く火照った顔を冷やし、ついでに頭も冷やしておく。ぷるぷると水を払い、触手で毛並みを整える。
「大体なんだよ、俺だって少しは牡らしく牝を捕まえてみたいのにさ、可愛すぎてそういう対象として見れないだとか、自分より可愛くて嫉妬するだとか」
俺もあいつらと同じで、番を求めて遠くの住処から移動してきた内の一匹。今まで牡から付き合いを求められたことは数あれど、牝からの誘いは一度も無い。
そうなれば逆に自分から牝を求めていくほかないのだが、未だにここで牝を探しているのが何より一番今の俺の状況を表している。
可愛い、という一面は牝と友達になる上ではかなり有利なのだが、付き合うとなれば話は別だ。付き合う理想の相手は牡らしい牡、という牝はかなり多い。
当然探せばそうでは無い牝もたまに居たりはするはずなのだが、俺にも俺なりの好みはある。どちらかというと俺は内面を重視するタイプであって、外見はよほど酷くなければ問題ではない。
それは自身が何より一番内面を見てもらえない辛さを分かっているから。外見だけで相手を判断したくはない、と普段から心がけているからだ。
しかし、最初に声を掛けるとき、牡か牝かの判断をする手段は状況にもよるが大抵は外見しかない。俺にだって、さっきのウインディの気持ちも分からなくはない。
それでも、何度もそういったことが続けばやはり怒りたくなるもの。今まで散々言われてきたせいで溜まっていたイライラが、ここに来て爆発した感じだ。
「はーあ、やっぱもっと牡らしく振る舞う方法とか、見つけないと駄目なのかな、俺」
牡らしく、と言っても一体どうすれば良いのかが分からない。一番良いのはそれを身につけている牡に教えてもらう事なのだが、相手は同じ牡であっていわばライバル。
相手としても、ライバルを有利にするような行為なんてよほどのことが無い限りはしてくれないだろう。親しい友達でもいれば良いのだが、あいにくここは故郷を遠く離れた地。
教えてもらう事が出来ないのなら、せめて身近でじっくりと観察が出来れば良い。その中でどんな発見があるかは分からないが、本気で観察すれば見えてくるものもあるはずだ。
けれどもこれもまず無理だろう。大体隣に牡を置いた状態で一日を過ごす牡なんて、よほど仲が良いか、あるいはそういう通常ではない関係でないとあり得ないのだから。
と、ここまで考えてふと気づく。そういう関係になる気は無いが、少し嘘をつけば簡単に牡の隣で一日二日を過ごせるのでは無いだろうか。
普通の牡だったら絶対に無理だろう。されど俺にはそれが出来る。ぼろが出ないかどうかだけが不安ではあるが、やってやれないことはないはずだ。
散々忌み嫌ってきたこの外見を何とかするために、この外見を利用する。嘘をつく相手には申し訳ない事をするが、そこはもう目をつぶるしか無いだろう。
そうと決まればすぐに行動だ。俺は小川を後にして、登り始めた太陽を背に走り出す。今さっきのウインディとのやりとりが知られていない場所でないと、この案はまず上手くいかない。
「あとはかっこいい牡が居るかどうかだよな。……ま、俺のこの見た目なら、たぶん向こうから寄ってきてくれるぐらいなんだろうけど」

2:海の事は舟子に問おうと思っても舟子との出会いは時の運がかなり絡むから実際厳しい 

「ごめんね」
それだけ言うと、私……いや、俺は目の前のカエンジシから離れていく。ショックを隠せないカエンジシに背を向けて、ひらひらと触手をはためかせながら。
もう一体どれほどの牡に誘われただろうか。しかし俺の求めているような牡はなかなか居ない。単に見た目で選ぶのではない、内面もきちんと含めた、牡らしい牡。
まるで絵に描いたかのような完璧な牡などそうそう居ないことぐらい分かっている、分かっているのだが。しかし今更諦めるというわけにもいかない。
何しろこの前の出来事から既に一週間。こうしている間にも周りの牡はどんどんと他の牝と番になっていく。このままではいざ自分の番、となったときに残っている牝が居なくなる。
「あーあ、こんだけ可愛く振る舞ってるんだから、もうちょっといい牡が寄ってきて、くれ、た……ら」
なにやら向こうが騒がしいな、と声のする方向に首を向けた。浮いているのは大きな黒、青、紫。手にも顔がついている、非常に特徴的なそのポケモン。
その周りには何匹もの詰め寄る牝ポケモンたち。けれどもそれも無理はない。なぜなら彼には、どんな牝であろうと、牡の俺でさえも目を奪われるほどの風格があった。
もちろん見た目そのものもそうだが、それだけでなく彼の醸し出す雰囲気だとかそういったものもまた、彼の人気に一役買っていることは間違いない。
あれだ、あれが俺の目指す牡だ。ああいう感じを身につけることが出来たとしたら、きっと俺だって。そうと決まれば、今やるべきことはただ一つ。
群がるポケモンたちの後ろで、触手を大きく広げる。当然彼の目にもその様子が映る。目が合った。ここで失敗するわけにはいかない。なんとしても、この場で彼のハートを射止めなければ。
さらに近づこうと思ったのだが、まだ周りのポケモンたちは彼を捕らえて放そうとはしない。どうしようか、と思った矢先、なんと彼の方からこちらにふわりと寄ってきた。
「なあ、君。あー……俺と、今日だけでもいいから付き合ってくれないか?」
さわやかな笑顔、濁りの無い美声。一体どこまで完璧なんだろうか。別に下心がありそうにも見えないし。それに時折やや乱雑に頬を掻くその仕草が奥ゆかしくて、しかし牡らしさを演出している。
なるほどこういうことなんだな、と早速一つの収穫を頭の中にとどめておく。今日一日で一体どれほどのことが学べるかは分からないけれども、俺にとっては願っても無いチャンス。
「君みたいな牡に誘われちゃ、断るわけにはいかないな。いいよ、お……私も、君のこと、もっと知りたいなって思ってた所だし」
できる限り可愛く、そして少し思わせぶりに。ふふ、と笑ってみせる俺。周りのポケモンが皆俺の方に釘付けになる。彼にもその笑顔は強烈に刺さったようだ。
悔しそうに、しかしどこか諦めがついたかのような牝ポケモンたち。そして騒ぎに駆けつけた他のポケモンたちから見ても、恐らく美男美女というにふさわしい俺と彼。
「それじゃ、早速だけど食事でも。ほら、俺の背中、乗った乗った」
ちょいちょい、と顔のついた手で背中を指す彼。地面すれすれまで降りてきてくれた彼の背中にひょいと飛び乗ると、彼は再び元の高さにまで浮かび上がる。
「しっかり掴まっててくれよ、そのひらひらでもなんでも巻き付けといてくれていいからさ」
確かに落ちたらたまったものではない。言われるがままに彼の腕に数回触手を巻き付ける。仮に落ちたとしても、これなら背中に戻ってくることが出来るはずだ。
見た目は華奢なこの触手だが、そのパワーは見た目とは裏腹にかなり強力だ。何なら触手を使って立つことが出来るくらいには鍛えてあるし、ある程度の岩なら軽々持ち上げることも出来る。
かといって今ここでそのパワーを発揮してしまっては彼の腕が大変なことになりかねない。落ちかけたときは我慢してもらうしかないけど、とりあえず気をつけておこう。
「大丈夫か? じゃ、飛ぶぞ!」
彼女が思っていた以上に抵抗なく、ふわりと浮かび上がる彼の体。翼の力で飛んでいる、というわけでもどうやらなさそうだ。確かに多少動かしてはいるけれど、こんな翼だけでは到底飛べそうにはない。
あっという間に木のてっぺん辺りまで上ると、普段では見られない広い広い景色が辺り一面に広がる。緑、緑、緑。大きな川も途中に見える、ぐるりと首を回せば崖の多い山もある。
前に進み始めても揺れることなく、まさしく快適な空の旅。風はまだ若干冷たいが、それ以上にこの空の景色が俺の目にはとても新鮮で、感動的だった。
「すっごいなあ……初めてだよ、空なんて飛んだの」
「そっか、まあそりゃそうだよな。あ……俺も初めてだな、他の誰かを乗せて空飛んだの」
その一言はかなり意外だった。彼ほどの牡なら、誘えばいくらでも牝を乗せることが出来ただろう。もしかして、実はかなりの面喰いだったりするのだろうか。
けれども実際の所、俺だって人のことは言えない。散々牡の誘いを断ってきた俺は、牝からすればとんだ面喰いであるに違いない。案外似たもの同士なのかもな、なんてことを思ってみたり。
「っと、もう到着だ。地面につくまでそのひらひら、放さないでくれよ?」
時間にして数分、それなりに遠くまで来ただろうか。確かに上から見ても実の生る木が多いのが分かる。未だ食べたことのない色をした木の実もちらほらと見えた。
またしても静かに、抵抗なく高度を下げていく彼。彼にとっては普通なことなんだろうが、一体どうやってこんな風に飛ぶんだろうか。うーん不思議だ。
「うわあ、木の実がたっくさん。その割には誰も居ないし、いいとこだね、ここ」
「ああ、この辺は周りに茨が多いみたいで、歩いてくるのだけでも大変らしいからな。飛んでくる奴は結構居るけど、大抵木の上だし」
上を見上げると、なかなか立派な木がいくつも生えている。木に登って実を取るのにも一苦労しそうな高さだ。これなら陸上で暮らすポケモンが来ないのも仕方ない。
ちらほらと鳥ポケモンの影らしきものもあるがよく見えない。居ないも同然、と考えるとここがかなり良い場所なのは言うまでもなかった。
催促されたので、俺は早速触手を木の上へ伸ばしてみた。合計四本のそれを全て使って、とりあえず手当たり次第に木の実をちぎってみる。へえ、と彼はこの触手に興味津々。
自在に伸び縮みする不思議な触手、に見えるのだろうか。彼の飛行と同じで、俺にとってはごく当たり前の道具なんだけど。どうやって動かしているのかと聞かれると返答に困るな。
「取れた取れた。はい、あなたの分。って、そういえば自己紹介がまだだったっけ」
「ああ、確かにすっかり忘れてたな。あー、俺はリートっていうんだけど、君は?」
「クリン、だよ。はいこれ、えっと……見たことない木の実だけど」
触手の先には色とりどりの木の実が。どうやら四個が四個とも別の木の実らしい。俺には全くなじみのない色をした木の実たち。しげしげとその木の実を眺める彼。
その中から黄色い一つを手に取り、パキンと半分に折ってしまう。細長かったその木の実の先の方を、再び俺の触手へと差し出した。
「これ、ソクノの実っていうんだけど、甘酸っぱくってたまんないんだ。ほら、食べなよ」
そう言うと彼は自分の持っていた木の実を一気に口の中へ。口の大きい彼ならではの食べ方だが、さもおいしそうなその表情を見て俺も真似して一口で、といきたかったのだが。
当然丸ごと入るはずもなく、ちょこんと一口かじるだけになってしまう。こういう細かい部分も気になるんだよな、と木の実を噛み砕きながら思う。なんか可愛く見られるし。
肝心の味はというと、甘さの中にほどよい酸味がきいていて、すっきりとした味わい。思わずこぼれる笑みに、彼はなにやら思うところがある様子。あんまり気に入られても後々困るんだけどな。
そんな彼のにっこりとした快活な笑顔は、文句の付けようがないほど男前で。ああいうさわやかさはどこから来るのだろうか、自分の力で何とかなるものなのだろうか。
頭の中でいろいろ考えながら、次の木の実にも手を出していく。時折とんでもなく苦いのがあったりしたのだが、それで崩れたお互いの顔に笑い合ったりと、端からみればかなりお似合いのカップルだろう。
それでも俺は、決してそれ以上踏み込もうとはしない。そして彼も、なぜだかそれ以上踏み込んでは来ない。近くもなく、かといって離れているわけでもない微妙な距離感。
彼はこれで満足なのだろうか。この距離感は、自分だけが作っているものとも思えない。彼には彼で、何か近づけない理由があるのだろうか。だとすれば、それは一体。
もしかして牝が苦手だったりするのかもしれない、だから逆に牝が寄ってきたりするのだろうか、いやでもそんな感じには見えなかったけれど。
そんなもやもやを抱えながら、俺と彼だけの時間は過ぎていく。その心に、嘘偽りと罪悪感を抱えたまま、別れの時間はやってくる。

3:嘘に嘘を重ねてもいつかはぼろが出るからその前にさっさと白状して謝る方が後々困らないかと 

「ありがとう、楽しかったよ」
空は茜色に染まり始め、あれほど燦々と輝いていた太陽はもうどこにも見当たらない。徐々に肌で感じる風の冷たさ。春とは言え、夜はまだ少し寒さが残る。
こんなにも長く話し込んでしまったのか、と今になって気づいた。彼にそれとなく話を聞いていて、彼のこのかっこよさが一体どこから来るのかを探ろうとしていたはずなのだが。
いつの間にか、彼を仲の良い友達として見てしまっていた。他愛のないことを話しては笑い、ちょっとした冗談でからかってみたり、ちょっかいを出しては仕返しされたり。
けれども、おかげで気づいたことがある。俺には、彼のような牡らしさを持つことは出来ないし、そもそも牡らしさなんてなくてもいい。彼のように、ちゃんと自分を見てくれる相手なら、そんな事は関係ないのだから。
こんなにもたくさん、そして長々と話せる相手は昔の友達にも居ない。初めて自分のことをじっくり見てくれる相手を見つけたような、そんな気がしていた。
「……俺の方こそ、こんなにきちんと話ができたのは久しぶりだったな。見てくれだけで寄ってくる奴が多かったし」
きっと、俺も彼女も似たもの同士なのだろう、と思う。その方向性はちょっと違うものの、同じ牡として、見てくれだけで寄ってくる奴にうんざりしていたのは彼も同じだったのだ。
もちろん最初の一歩が外見なのは仕方のないこと。それを責める気はないけれど、それだけしか見る気がない奴らが多いのには心底呆れてしまう。
その点彼は違った。他の牡のように下心見え見え、見た目に釣られてくるような牡ではない。しっかりと俺の内面を見ようとしてくれているのは、話していれば自然と分かる。
その所為で、もしかしたら嘘をついていることがばれるんじゃないかとかなり焦ったりもしたが。それは彼が俺ときちんと向き合ってくれていたことの何よりの証拠。
だからこそなおさら、この外見を利用して嘘をついたことが申し訳なく思えてくる。もしもっと別の形で、きちんと出会えていたとしたら。そうすれば、大の親友にだってなれたかもしれないのに。
あるいは、もしも俺が本当に牝だったら。もしそうだったら、間違いなく自分は彼と付き合っていたに違いないのに。なぜこうも、運命というのは残酷なのだろうか。
彼の少し寂しげな顔。離れていくのが惜しいのだろうか。そんな彼の顔を見て、少し胸が痛くなる。告白をしてこないのは、もしかしたら何かの事情を察してのことなのだろうか。
だとしたら、ますます彼に申し訳ない事をしていることになる。このまま彼から離れていけば、自分の心にも、彼の心にも、ちょっとした曇りを残していくことになってしまう。それでいい、のだろうか。
「それじゃあ、そろそろ送っていくから乗ってくれ。今日は本当に……ありがとう」
「……あの、さ。私、やっぱり、一つだけ、謝っておきたいことがあるんだ」
いや、やっぱり良くない。良いはずがない。怒られるのは分かっている、それでも、このまま黙っていることは出来やしない。彼の瞳はしっかりと自分を見据えている。もう、後戻りは出来なかった。
「私……いや、俺。俺、牝じゃなくて、牡……なんだ」
えっ、という声が漏れた。彼の驚いた表情が、俺の胸を締め付ける。言わない方が良かったのかもしれない、ひょっとしたら彼に一発ぐらい攻撃されるかもしれない。
でも、やっぱりきちんとけじめは付けたい。自分でついた嘘なのだから、俺がその罰を受けるのは仕方のないこと。それでもいいから、やっぱり彼には、本当のことを伝えたかった。
「最初は、かっこよさの秘訣を見つけようと思っただけだったんだ。でも、話してるうちに、リートの内面が見えてきて、だんだんリートと仲良くなりたいって思うようになってて」
最初こそ驚いていたものの、その後はただただじっと黙って俺の話を聞いているだけの彼。その顔は怒っている、というよりは真剣に俺のことを見てくれているかのような、そんな顔。
「だから、このまま黙って離れるなんて出来なかった。こんな良い奴相手に、嘘をついたままだなんて……嫌だったんだ」
「クリン……君は」
「でも、もし俺が本当に牝だったなら。それだったら、絶対俺は、リートを好きになってる。その気持ちは、嘘じゃないんだ」
伝えた。自分の思いを、自分の心を。日中ずっと引っかかっていた心の棘が、ようやくぽろりと取れたような。苦しいけれど、どこかすっとしたような、上手く言葉には表せないそんな気持ち。
「君は、一緒なんだね。……あたしと」
えっ、という声が漏れた。ただ、声を漏らして、今驚いているのは他の誰でもなく自分だった。彼の言葉が、頭の中をぐるぐる回る。一緒。あたし。俺と、一緒。それって、つまり。
「あたしも……やっぱり、言おうと思ってたんだ。今日一日、ずっと嘘ついてて、ごめん」
「もしかして、リート……君」
「あたしは、歴とした牝。いっつも牡に間違われるけどね」
やっぱりそういうことなのか。どこからどう見ても、一見牝には見えないその外見。喋りさえしなければ、誰もが紛う事なき美青年だと言うに違いない。現に自分だってそう思っていたわけだし。
「それで、可愛い牝に付き添って、何か可愛く見られる、感じてもらえる方法を探してみようと思ったんだけど……君のこと、いつの間にかライバルなんかじゃなくて、友達みたいに見えてきちゃって」
恥ずかしそうに頬を掻くその仕草は、牡の振りをしていたときと全く同じ。こういう癖が、彼女をより牡らしく見せる原因なのかもしれない。あるいは俺にも、そんな癖があるんじゃないだろうか。
癖なんてものは簡単に抜けるものじゃない。きっと意識し続ければ変わるだろうけど、その癖も含めて自分らしさ、なんだろうと思う。それを無理に変える必要はないんじゃないか。
「だから、嘘をつくのはやめにしようって思ったの。でも、あたしが本物の牡だったとしたら、間違いなくクリンに告白してる。一生のパートナーでいて欲しいって、そう思ったのは……嘘じゃないよ」
似たもの同士、と思ったのはやっぱり間違いじゃなかった。俺と同じように生きてきて、俺と同じ望みを持っていて、俺と同じ目的で出会って、俺と同じ思いを感じていたんだ。
結局俺達が求めていたものは手に入らなかったけれど、今はもうそんなものを必要とはしていない。必死になって、牡らしさだとか牝らしさなんて求めている方がおかしかったんだ。
どう見られようが、どう言われようが自分は自分。外見に惑わされず、中身を覗いてくれる相手は必ずどこかにいる。そして、それを好きになってくれる相手に出会うことができる。
だから、俺はもう無理に背伸びをすることはやめようと思う。いくら牡が寄ってこようがそんな奴ら撥ね除けて、俺は俺のままで、最高のパートナーを見つけてみせる。
「今日は本当にありがとう。おかげで、大切なことは見た目じゃないって気づけた気がする」
「あたしも、これからくじけずに自分を見せていける自信がついた気がするよ。ありがとね、クリン」
ふふ、と笑うリートの顔は、相変わらずさわやかで、かっこよくて。でも、それがリートらしさで、それが彼女の良さなんだと思う。その良さを分かってくれる牡が、きっとこれから。これから……?
「……なあ、リート。一つ、いいかな」
はてなを浮かべるリートの首に、触手を二本巻き付ける。そのままぐいっと引っ張ると、よろめきながらその首が、顔が俺のすぐそばに。彼女からするとかなり首を地面に下ろした格好だ。
「これから俺、頑張って牝を見つける自信がついたんだけど……考えたら、もうそんなこと、必要無かったんだな。リート、俺、お前と一生……付き合っていたい」
「えっ、え、あ……あ、う、うん。あたしも、クリンなら……ううん、クリンに、パートナーでいて欲しい」
ずいぶんと唐突な告白に、かなり慌てた様子のリート。そういう一面は、どちらかというと可愛くみえる。彼女のことを見ていれば見ているほど、やっぱり彼女は牝なんだな、という面が見えてくる。
そんな彼女のいろんな面を見てあげられるのは、自分しか居ない。ちょっと自惚れているかもしれないけど、俺にはリートの内面をきちんと見ることが出来るっていう自信がある。
一つだけ反対な似たもの同士。だからこそ分かること、だからこそ通じ合うことがある。出るものが引っ込んで、引っ込むものが出ていても、合わされば同じ。
俺と彼女の関係は、まるで示し合わせたかのようにぴったりと嵌まる、唯一無二の組み合わせ。運命って、案外と慈悲深かったりするんだろうか。

4:リア充が爆発すると近くに居る人が迷惑なので困りますがリア獣はお願いだから爆発せずに詳細を録画でもして見せやがれ下さいお願いします 

とうとう空は黒く輝きだした。雲一つない満天に散らばった星々が見守る中、俺と彼女は未だあの秘密の場所に留まっていた。お互いに体を寄せ合って、ただ静かに。
「これだけ暗いと、帰るのもちょっと危ないかな」
静寂を打ち破ったのは、彼女の声。その声は残念そうと言うよりは寧ろ嬉しそうな。きっと彼女は、帰ることを望んでなどいない。今のこの時間が続くことを願っているんだと思う。
俺だって、このまま朝が来なければ良いのにと思ってしまう。そうすれば、誰にも邪魔されることなく、この場所で彼女と永い永い時を過ごすことが出来るのだから。
「もしかしてリート、帰りたかった?」
「……分かってるくせに」
分かっているからこそ、こうして意地の悪い質問をぶつけているんだけどな。にっと笑う彼女の頬に、触手を這わせてそっと自分の顔へと寄せる。特に抵抗なく、彼女の顔はすぐ隣へ。
かっこいい、けれども可愛い。目と目が合ったまま、お互いの顔を見つめ合う。彼女は何も言わない。俺も何も言わない。でも、何となく。何かをしなくちゃいけない気がする。
だから、ただ黙って彼女の口へ自らの口を重ねてみた。それを待ち望んでいたかのように、彼女は目を閉じて、俺の口付けを受け入れる。一秒、五秒、十秒。ああ、時間ってこんなにすぐだっけ。
そっと彼女の顔を離し、またお互いに見つめ合う。星に、月に、闇に照らされた彼女の頬は、どこか赤く火照っているかのよう。実際に赤くなっているわけではないけれど、俺にはそう感じた。
「ねえ、クリン。このまま寝るだけでもいいんだけど……何か、やりたいことある?」
さっきの意地悪を根に持っていたのか、今度は彼女がそんな質問を投げかけてくる。良いわけがない。こんなにも思わせぶりな態度を取っておいて、何もない方がおかしいじゃないか。
「それってさ、もしかして誘ってる?」
「誘ってるって、何を? 言ってくれなきゃ分かんないな」
もどかしい。絶対分かって言ってるくせに。大方、恥ずかしげにその言葉を口にする俺をからかおうっていう魂胆なんだろうけれど、そうはいかない。言うのはやっぱり恥ずかしいし。
だから、ちょっと強引に、彼女の顔をぐいっと引き寄せて口を重ねた。今度はもっと積極的に、舌でその入り口をなぞるようにして。すると彼女は、その口を少し開いて俺を受け入れる。
舌と舌が絡まる。これが彼女の味なのだろうか。唾液が糸を引きながら、俺と彼女の舌を繋ぐ。そっと口を離していくと、その橋が重力に引かれ、ぽとりと地面へ落ちていく。
「ひあっ」
突如首筋をなぞる違和感。湿ったものが首を這っている。でも彼女の顔はすぐ目の前に。一体何が、と見てみると、彼女の手がその口を開いている。なるほど、こんな使い方も出来るのか。
急な刺激に一度は驚いたが、種が分かってしまえばそう気になるものでもない。ぴちゃぴちゃと首元を舐められつつも、俺はもう一度彼女と舌を絡め合う。
目をつぶって彼女の香りに酔っていると、さっきまで首を味わっていた彼女の手が、いきなり俺を持ち上げ、ひっくり返し、地面に寝かせた。短く生えた草ががさがさと音を立てて俺の背中に押しつぶされていく。
「へえ、やっぱきちんと牡なんだね。顔と一緒で、可愛らしいけど」
「ばっ、馬鹿にするなよ」
今までの行為だけで十分興奮していた俺の子息も、いつの間にかこれでもかと自己を主張していたらしい。屹立し、天へとそびえるそれだが、彼女の体からするとやはり可愛らしく見えるのだろうか。
他の牡のそれと比べたことはないけれども、たぶん平均ぐらいの大きさはある、と思う。思いたい。牡らしさなんて要らないと言ったけれども、ここだけは牡らしくあって欲しい。
「ところで、やっぱり初めて、だったりする?」
「……そりゃ、ね」
「そっか。じゃあ、一緒だね」
今まで付き合ったことがないのだから、初めてなのは当たり前。それはきっと、彼女も同じはず。お互い初めてのことばかりだが、何となくどうすればいいのかぐらいは知っている。
彼女は未だなんの刺激も加えられずにご不満のそれを手で優しく挟み、ぐにぐにと動かし始めた。単純な上下の運動だが、温かくて、恥ずかしくて、気持ちよくて。
自分だけで処理しようとすると、どうしても地面にこすりつけて吐き出すほかなかった。そんな普段の刺激とは違って、表も裏も、隅から隅まで満遍なく弄られる。
「ね、気持ちいい?」
「そりゃあ、もちろん……ふああっ!」
答えたとたん、さっきまでとは違った刺激が。温かい、いや、熱い。彼女の手の顔が、舌を伸ばして俺の肉棒をぺろぺろと舐めている。その刺激にたまらず声を漏らす俺。
さっきまでとは比べものにならないほど大きな刺激。ああ、彼女の体はこんな事も出来るんだな、とそんな事を頭の片隅で考えながら、快感に溺れ、悶える。
さらに彼女は顔を近づける。やばい、このままじゃ、と思った時にはもう遅く、彼女はその口で先端付近を咥えると、くちゅくちゅと舌でなめ回し始めた。
「やめっ、ああっ、やばいって、で、あっ、ああああっ!」
抵抗空しく、大きく震える俺の体。吐き出されたその精は、全て彼女の口の中へ。それを表情一つ変えることなく受け止め、さらにゴクリと飲み込む彼女。
「ん、変な味。だけど、クリンのものだって思うと……悪くないかな」
「はあっ、は、あ……」
快感の余韻は未だ消えることなく、俺の頭の中を駆け巡っている。ああ、好きな相手との行為って、こんなにも気持ちいいものなのか。これは是非、彼女にも味わってもらわないと。
油断している彼女の体を、触手を使って拘束する。えっ、と驚く彼女の下半身、脚と脚の間。僅かに月明かりに濡れそぼった部分に、触手を二本持っていく。
「やっぱり、牝も興奮するものなんだな」
「あっ、や、ああ」
全神経を集中して、触手をそっと彼女の割れ目に這わせ、中へと納めていく。思ったより抵抗なく、彼女の中は俺の触手を受け入れてくれた。
彼女の体温を感じつつ、ねっとりと液体が滲むその肉壁をなぞり、外側の割れ目の輪郭をなぞり。ぐいっと自分の近くまで彼女の体を寄せてきて、間近でその様子を見てみる。
「は、恥ずかしいよ、これっ」
「今度は俺の番、だろ? 俺だってこの体勢、十分恥ずかしいんだからな」
そう、仰向けのままのこの体勢、俺としてはとても恥ずかしい。再び興奮しだした俺の愚息も、そこからわき出す透明な滴も、全部彼女に丸見えだ。
だから今度は俺が彼女を眺める番だ、と思ったから。だからこうして、触手で彼女をすぐ近くまで持ってきた。ちょっとしんどいが、彼女も浮いてくれているから持ち上げるだけの力は要らない。
中に入れた触手をぐいっと左に押しつければ、その割れ目が開いてピンク色の中が見えた。こんな風になってるんだな、と隅から隅まで眺めてみる。上の方には変な突起があるが、これはなんだろうか。
「やあっ、は、あっ、だめっ」
その突起に触手を当ててみると、彼女の喘ぎが一気に大きくなった。どうやらここはかなり敏感らしい。なるほど、ここを攻めればいいわけだ。
そうと分かれば話は早い。二本の触手は両方とも中へ埋めて、後で困らないように肉壁を押し広げていく。ぐにぐにと弄るだけでも彼女の息は荒くなっていくが、止めにするには少々刺激が弱い。
そこで俺は彼女の割れ目を口元まで近づけて、その輪郭を舌でなぞった。気持ちよさそうな声を上げて善がる彼女に、とどめとばかりにその突起を舌でチロチロと攻め立てた。
「あっ、ああ、あああああああっ!」
彼女の身体が跳ねた。ぷしっ、と液体が割れ目からほどばしる。俺の顔をべっとりと濡らしたその液体を、舌で掬って舐めてみる。なんというか、彼女の香りが、味がする。
「ふーん、これが牝の体なんだ」
「は、あ……もう、激しすぎるよ、クリン」
ごめんごめん、と謝りながら、触手を離して彼女の体を解放する。そしてまた顔を近づけ、長く、深い接吻を。精にまみれた彼女の舌と、愛にまみれた俺の舌が、絡み、繋がり、溶け合っていく。

5:一度認めてしまうと後戻りは出来ないもののそっちの方が楽だったりもするから悩みどころだよね 

「後は本番、だけだよね。……この体勢だと、まるであたしが牡みたい」
「そう思うなら、早く下になってくれよ」
そう、この体勢だと俺が彼女に攻められるような格好になる。一応牡としてのプライドだってあるし、俺としてはきちんと立って、彼女に覆い被さるようにして事を行いたい。
「えー。だって……この方が見た目的にも合ってそうだし。そうだろ? クリンちゃん」
しかし、どうやら彼女にそんな気はさらさらないらしい。しっかりと両手で俺の体を押さえつけている。動こうにも動けない。流石はドラゴンポケモン、力もかなりあるようだ。
「そ、そんな風に呼ぶなって! 牡は俺の方なんだか、らぁっ」
必死で起き上がろうとする俺の肉棒に、ぐにゅりとした生々しい刺激が。首を曲げて下半身の方を見ると、俺の肉棒はすっかり彼女の割れ目に飲み込まれている。普通、もっとこう躊躇いとかあるものじゃないんだろうか。
それに、下から見上げた彼女の顔は、どこか妖しげで、淫らな笑いを浮かべている。何か嫌な予感がする。噂によれば、ドラゴンポケモンの行為はかなり激しいとか、聞いたことはあるけれど。
「やめ、ちょ、まだイったばっかりだから、だめ、うごかっ、ああああっ」
やっぱりこうなるのか、なんてことを考える余裕もあんまりなく。ぐちゅ、ずぽ、ぐちゅ、ずぽっ、と繰り返される水音と運動。そのたびに擦られる俺の愚息が、早くも限界を訴えて小刻みに震えている。
まだ先ほどの快感からそれほど時間は経っていない。もちろん一応固くはなっていたけれど、十分に戦えるほど回復していたわけではない。そんな状態で激しく動かれれば、一体どうなるか。
「あっ、あ、ひああああああっ!」
情けない声が響く夜の森。天の光が二重に、三重にとぼやけていく。その快感に思わず笑みを浮かべる俺と、それを満足そうに上から眺める彼女。ああ、これで解放されるのかな。
「やっぱり、俺が牡で君が牝の方がしっくりくるかも。俺が精魂尽き果てるまで、きっちり付き合ってもらうとするかな」
勘弁してくれよ。抗議の声を上げる前に、乗りに乗った彼女はまたその運動を再開する。気持ちいい、気持ちいいのは確かだけれど、このまま続けていたら俺の体が間違いなくもたない。
しかし俺に出来るのは、彼女の動きに合わせて喘ぐことだけ。牡のものとは思えない可愛らしい声の主は、他でもない俺だった。これは確かに、俺が牝の方がしっくりくるかもしれないな。
「ほら、一回止めて欲しかったら、牝としてきちんとおねだりしなよ?」
たぶん……いや、間違いなく彼女はサドっ気がある。それも重度の。もしかして、牡として振る舞ってたの、半分ぐらいそれが趣味だったからだったりするんじゃなかろうか。
彼女ほど俺は乗り気ではないけど、牝として振る舞ってた今日一日が楽しくなかったと言えば嘘になる。案外俺もそういう事に楽しさとか、快感とかを感じていたのかも。
「り、リートっ、やめ、やめて、ストップ、すと、ふああっ」
それでも彼女は止まらない、止まる気もない。駄目だ、視界がくらんでいく。このままもう一発絶頂を迎えれば、そのまま気を失って朝になりそうだ。でもいっそのこと、その方が楽かも、なんて思ってみたり。
限界を察してくれたのか、彼女は一度その動きを止めてくれた。相変わらず淫らな笑いをその顔に貼り付けたまの彼女が、少し恐ろしく見えてきた。いや、彼、と呼んだ方がいいだろうか。
「仕方ないなあ。ほらクリン、それじゃあ今度は君が上になりなよ。牝が上になるのも……たまには悪くないと思うよ?」
「わ、私が……わ、分かったよ」
どうやらここで逆らっても良いことはなさそうだ。何をどこでどう間違えたかな、と考えながら、俺は牝として振る舞ってみる。うーん、出だしはきわめて順調だったと思うんだけど。
途中で彼女のサドっ気に火を付けてしまったのが運の尽きだ。真面目に戦えば相性的には勝てるはずだけども、性的な勝負となれば間違いなく勝てない。真面目なバトルじゃお互い怪我するだけだし。
仕方がない、この場はきちんと彼女に満足してもらうことだけを考えよう。そう思って、俺は自分の体を起こし、四本脚を地面に付けて立ち上がる。目の前には、仰向けになって俺の行為を誘う彼女が。
一歩一歩が重い。脚ががくがくと震えているのが自分で分かる。さっきまでの激しい攻めのせいで、俺の体が早くも限界に達しかけている。ぷるぷると震えるその様子を見てにやける彼女は、悪タイプそのものだ。
「そうそう、その調子その調子。俺を満足させてくれないと……ふふふ」
私、いつか死ぬんじゃないだろうか。なんて思えてくるほど恐ろしい。でも今はやるしかない。そう思って、俺は彼女の尻尾を跨ぎ、彼女の割れ目に自らの肉棒をそっとくっつける。
くちゅ、くちゅと何度か肉棒が彼の割れ目を滑ったかと思うと、ようやく先端が彼の中へと入り込んだ。外気に触れてひんやりとしていた肉棒が、急に熱い肉壁に押しつけられて驚き跳ねる。
「ふああっ」
「ほらほらどうした? まだ始まったばかりだろ?」
頑張れ、頑張れ私。彼の攻めに負けないよう、必死で腰をかくかくと振り続ける。それでも彼は平然とした顔で、まだまだ余裕とばかりに私の首筋に手を添えて、チロチロと舐ってくる。
前脚は彼のお腹の上に、後脚は何とか地面を捉えて。しかしその脚は今やがくがくと震えて力が余り入らない。時折崩れるようにして彼のお腹の上にもたれかかってしまう。
それでも必死に腰を振る私の胸に、もう一方の彼の手が差し込まれた。お腹、臍の辺りをぺろっと舐められ、そんな微弱な刺激でももう私にとっては十分すぎるほどのきっかけで。
「あっ、ああああああああっ!」
どくん、と彼の中で脈打った私の愚息は、三度目だというのにずいぶんな量の精を吐き出していく。少し縮んだ所為で空いたスペースからは、どろりと温かい、白い液体が零れている。
そんな様子を彼から離れて観察していると、彼は私を乱雑に押し倒し、再び仰向けに戻してきた。さっき見ていた月は、まだ余り変わらない場所で輝いている。夜はまだ終わりそうにない。
「やっぱり、俺が上じゃないと駄目みたいだな。牝は牝らしく、鳴いているのが一番だ」
「や、やめっ、もう無理、無理だって、わた、し、はぁっ」
今度は三つの口が私の肉棒を横から、上から銜え込む。幾度もの絶頂を超えて、随分と敏感になった肉棒には辛すぎる刺激。それでも、彼を満足させようとその割れ目に向けて触手を這わせる。
「そうそう、賢いじゃないか。それじゃあご褒美だ、もう一回イかせてあげよう」
「待って、私、さっきイったばっかり、だ、か、らあああああっ! やあ、ああっ、ふあああん!」
ぴくぴくと限界を訴える私の体、愚息。そんな事は知らないとばかりにじゅるじゅると音を立ててそれを舐る彼の三つの舌。触手で何とか彼の割れ目を、突起を刺激するが、その動きに集中できない。
これでもかというほどの悦楽が、刺激が、快感が、気持ちよさが、私の頭の中を埋めていく。艶やかな悲鳴を上げる私と、それを満足げに眺める彼。
四度目の射精は自らの毛を、顔を濡らしていく。精に汚れた私の体に、またしても彼の体がのしかかってくる。ああ、やっぱり休ませてはくれないんだ。
このままでは本気で限界を超えてしまいそうだ。だから私は必死で触手を動かして、彼を満足させようとする。悦に入った彼の声。さらに早く、さらに強く。
彼の吐息が荒くなった。触手が感じる彼の密壷の動きが激しくなる。もうちょっと、もう少し、とばかりに彼の体を顔に寄せて、さっきと同じく舌でその突起を刺激した。
「うああっ、ふ、あああああっ!」
彼が声を上げた。再び噴き出す液体を、体全体で浴びる私。顔とお腹の毛はお互いの体液でどろどろしていて、そういう気分を煽る香りがむんと漂う。これで満足してもらえただろうか、と彼の顔を覗いてみる。
「ふふ、まさか終わりなんて思ってないよな? ほら、もっと善がってくれないと、俺はまだまだ満足しないぞ」
「えっ、あっ、やらぁあ、ああっ、ふああああああっ!」
油断していた。触手を彼の体から離した途端に、彼は私の肉棒をその割れ目で飲み込んだ。その刺激だけでもう一度絶頂を迎えてしまう私。苦しいような、気持ちいいような。
それでもまだ物足りないとばかりに動き始める彼の顔は、まさしく貪欲な牡の顔。もう快楽に身を任せてしまおうと、私はそれを受け入れる。きっと、私はマゾっ気があるんだろうな。
まさかこんな所まで、相性がぴったりだとは思わなかったけれど。その気持ちよさは嘘じゃないし、好きだって気持ちは変わらない。好き、大好きと呟きながら、私は一晩中、ただただ彼に身を任せていた。

6:足りないものを補い合って一緒に生きていく組み合わせのことを夫婦と言うのかもしれないよ 

ざわつく周りをよそに、俺と彼女は悠々と森の中を進んでいく。木の下に穴でも掘るか、それとも適当な洞窟でも探すか。住処に出来そうな場所を見つけないと、これからの生活に困ってしまう。
それにしても周りが煩い。聞こえてくる言葉は決して悪口なんかではなく、まさしく美男美女のお似合いの番だと見惚れるポケモンがほとんどだ。
ただ、たぶん全員が俺と彼女の性別を勘違いしていることだけは間違いない。俺だって、こんな組み合わせの二匹が歩いてきたら間違いなく思い違いをするはずだ。
今まではそう言われることをできる限り避けてきたけれど、今はもうそんな事気にしていない。これが俺と彼女で、これがありのままの自分なんだ。何もそれを隠す必要はない。
「でも、どうするんだ? このまま森を探したって埒があかないし、適当な木があったらそこに決めちゃえばいいんじゃないか?」
「一生住む場所になるんだよ? それを適当に決めちゃうのはどうかと思うな」
近くに水や食料が確保できる場所はあるか、出来ることなら広い住処にしたい、変な奴に見つからないようなちょっと奥まった場所の方が良いんじゃないか、と考え出すときりがない。
木を利用するなら穴を掘れる広さには限界があるし、洞窟だとしたら広げるのはかなりの重労働。どっちも一長一短で、どちらにするかもまだ決まっていない。
「リートさえ良ければ、私は洞窟の方が良いかな。広げられる限界は絶対洞窟の方が大きいし」
「あのな、広げるのは俺の方なんだぞ? 土に穴掘って木の根元に住む方が簡単だから俺はそっちの方が良いな」
でも、だけど、だって、の応酬が始まる。そうこうしているうちに朝が昼になって、夕が夜に変わってしまいそうだ。幸い今はまだ雨が降ってないから良いものの。
天気が悪くなる前に、さっさと仮住まいでも何でも見つけないと。出来ることならすぐにでも落ち着ける場所を見つけて休みたいというのに。
昨晩の一件からほとんど寝ていない、というか寝る間もなく朝だったし。ドラゴンポケモンは絶倫だという噂を聞いていたけれどどうやら噂は本当だったらしい。
本当なら牡の俺が思いっきりリードを奪って彼女を気持ちよくさせるはずが、気づけば逃げ腰の俺を捕まえて空っぽになるまで搾り取ってくる始末だから手に負えない。
体の節々が岩のように固くて重いし、触手を持ち上げとくのさえしんどい。普段はこんな疲れなんて感じたことなかったのに、どうやらあの情事に俺の元気も持って行かれたようだ。
「仕方ない、それじゃあ希望通り洞窟でも探すとするか。山の方……よし、まずはあのごつごつした形の山から」
彼女が指さした山は、木があまり生えていない岩山。確かに洞窟はありそうだけど、ああいう場所には結構な強者が住んでいたりして危ないと昔よく親に言われた。
「で、でも……大丈夫なの? ああいう場所って、強いポケモンが多かったり」
「俺に任せとけって。俺の強さは、クリンが一番よく知ってるはずだろ?」
にやりと含み笑いをする彼女。そっち方面の強さは嫌と言うほど味わわされたけど、実際戦いとなっても強いのだろうか。強いんだろうな。見るからに強そうだ。
昔から頑張って鍛えてたから、俺だって決して弱いわけじゃない。見た目で弱く見られることはよくあったけど、実際バトルとなれば結構相手を泣かせることもあった。
「さ、それじゃあひとっ飛びしますか」
手についた顔、いや顔のような手が背中を指す。その背中にぴょんと飛び乗って、触手は彼女の両腕に。背中に伏せるような形で落ち着き、両前足を彼女の肩に引っかける。
ぐん、と彼女の体が浮き上がる。そのままどんどんと周りの木々を追い越して、そのてっぺんよりもさらに上に。煩かった周りのポケモンたちの声も聞こえなくなる。
「ふあー、やっぱり俺達ってそう見られるんだな。ま、確かにこの方がいちいち誤解を解かなくて楽ではあるけど」
「ずっとあんな調子で喋ってると、ほんとにいつの間にか自分たちの性別間違いそうだね」
確かに、あの喋りに慣れてしまうといつの間にか俺が牡の娘になってしまいそうだ。周りから見れば完全に牝だっただろうし、違和感はなかったと思うけど。
朝、出発前に彼女にあんな提案をされたときは耳を疑ったけれど。いちいち説明するよりもこうやって暮らした方が気楽なのはどうやら確からしい。
「俺はなんというか、まだちょっと恥ずかしいんだけどな」
「えー、でもクリン、牝の振りしてるとき、すっごい可愛いよ? そんなところが、俺は大好きだぜ」
「ば、馬鹿、からかうなよ!」
どうやら彼女は意外とお調子者らしい。順応が早いのはいいが、いきなりそんな事を言われると俺が戸惑ってしまう。本当に俺、性別が分からなくなりそうだ。
牡の振りをするリートの声がまさしく男前のそれで、ちょっとどきどきしてしまう。いやこんな気持ちを抱くつもりは決してなかったんだけど。
意外とノリノリな彼女の事だし、恐らくずっとこんな感じでこれからも過ごしていくんだと思う。牡の彼女と牝の俺。ふたりきりの時だけ見せる本当の自分。
「夜もこんな感じの方があってるかもね。だってクリン、すぐバテちゃうし、可愛い声で喘ぐし、あたしが牡の振りしたら、きっとしっくりくるんじゃない?」
「なんで牡の振りにドハマリしてるんだよ……大体、俺が弱いんじゃなくてリートが強すぎるんだよ!」
このままじゃ、本当の自分がどこかに消えてしまうんじゃないだろうか。一抹の不安を感じてしまう。俺としては、一回くらい彼女をリードしてあげたいというのに。
これからの生活を考えてため息をつく俺。飛んでいるから見えないけれど、恐らくニコニコ笑顔の彼女。牡に見られるの、嫌だったんじゃなかったのか。
かくいう俺も、牝として振る舞うのがちょっと楽しくなってきているから困る。意外と牡を騙して気づかれないようにするのが楽しいんだよな。
「はいはい、それじゃあこれからはか弱いクリンちゃんのために、俺が手加減してあげますよ」
「だーかーらー、それやめてくれって! うー、私がもっと強ければ……」
「あ、今私って言った! クリンも、なんだかんだ楽しんでたりするんじゃないの?」
図星だから返す言葉がない。一日真剣に牝の振りをしていたからか、牡の振りをリートにされるとつい牝の振りをして返してしまう。この癖、たぶん抜けないんだろうな。
黙りこくる俺をよそに、彼女はいつの間にか岩山のすぐそばまで飛んできていた。周りをぐるぐると飛びながら、その中に空いた洞穴を探している。
「あ、あそこなんてどうかな。ほら、入り口狭そうだけど、目の前の岩を壊せば広がりそうだし」
彼女が指し示したその先には、一見穴なんて見当たらない岩肌が。でも確かによく見ればその奥には洞窟が広がっていそうだ。よく見つけたな、あんなとこ。
でも、わざわざ岩があんな風に入り口を塞いでいるなんて、何か嫌な予感がする。もしかして、先客が居たりするんじゃなかろうか。いや、居るに違いない。
「それじゃあ早速、いくとしますか!」
「ちょ、リート、まっ」
静止も空しく、その岩目がけてはかいこうせんを打ち込むクリン。がらがらと大きな音を立てて岩が壊れたのを確認して、その洞窟へ一直線に飛んでいく。
彼女は俺が思っている以上に男々しかった。行動力もあるし、パワーもある。慎重派で躊躇いを覚えた、女々しい俺とは大違い。そんな俺達だからこそ、きっとぴったりのパートナーになれるはず。
だから俺は、彼女に付いていこうと思った。そう、この後のとんでもない出来事、地を裂くような大バトルを知らなかったあのときの俺は、彼女をびしっと止めることなんて、全く考えていなかったんだ。

おまけ:物事には何かしらの理由がついて回るので行動する前には是非ご一考を 

中の洞窟は思った以上に広そうだ。ひんやりとした空気が入り口から外へと流れている。外に比べるともちろん暗いが、かといって真っ暗というわけでもない。
もしかしたら中にも日差しが入り込むような穴が空いているのだろうか。そんな都合の良い洞窟、本当に自然にあるのだろうか。
「クリン、見て見てこれ! 木の実が落ちてる!」
先に洞窟の奥へ入っていった彼女が大きな声を上げた。声のした方向へと俺は走り出す。木の実がこんな洞窟に都合良く落ちているなんて、やっぱり何かおかしいんじゃないか。
「いやー、良いとこ見つけたなーこれ。結構おいしいし」
「ちょ、勝手に食べるなって! ここ、間違いなく誰か住んでるに決まってるだろ」
僅かばかり転がっている木の実に手を伸ばしては三つの口でがりがりとかじっている彼女。その手の動きを触手で封じて、辺りの様子を確認する。
間違いない、ここは誰かの住処だ。というかなぜリートがその発想に至らないか不思議でならない。もしかして結構天然だったりするのだろうか。可愛いな……じゃなくて。
「貴様ら、何をしている?」
とにかくここを出よう、と触手で彼女の手を引いて振り向く。目の前にはずっしりとした四つ足に、青い体で赤い翼を背中に生やしたポケモン。俺はそのままぴたりと動きを止めた。
その後ろには鋭い鎌を口元に携えた黄土色。どちらも見たことはあるドラゴンポケモン。青い方は口からじりじりと炎が漏れ出しているような気がするが気のせいだろう。たぶん。
黄色い方は怒っている様子ではなく、寧ろ慌てている様子。恐らくこのポケモンの番だろうか。まだこっちの方が話が通じそうだ。分かってくれると良いんだけど。
「お、おいダーチェ、気持ちは分かるけどちょっと落ち着こう、な?」
「トゥファム、貴様は黙っていろ。例え貴様が許したとしても我が許さん。白昼堂々と盗みを働くとは良い度胸だな。微塵も残さず消し去ってやる」
びたん、と尻尾がを勢いよく地面に打ちつける青いポケモン。ダーチェ、がこのポケモンの名前だろうか。とにかく怒り心頭といったところか、それにしても物騒な話だ。
その勢いに押されてトゥファムと呼ばれたポケモンは黙り込んでしまう。これはきちんと謝って、誤解を解くしかないだろう。果たして聞き入れてくれるかは疑問だが。
「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! ほんっとごめんなさい! 違うんですただちょっと住処を探して洞窟に入っただけで……ほら何やってんだよリート、お前も早く謝れって!」
「いや、まさかこんなとこ誰か住んでるなんて思わなくて……ごめんなさーい」
ほんとにその通りだから仕方ないんだけれども、それにしてもこんな理由で許してくれるだろうか。もし自分がこんな状況に出くわしたとしたら、こんな奴らを信用するだろうか。
「貴様ら、そんな阿呆な言い訳が通用するとでも思っているのか?」
当然答えはノーだろう。やっぱりこのままおとなしく逃げるしかなさそうだ。リートの全速力なら恐らく逃げ切れるはず。リートと出口、交互に目を遣って合図を送る。
「阿呆な言い訳って、本当のこと言っただけなんだけど。それに何その喧嘩腰、少しはこっちの話も聞いてくれない?」
その努力空しく、リートの方も火が付いてしまったらしい。阿呆、といわれたのが癪に障ったのだろうか、ずい、と一歩前に出て上からそのポケモンを見下ろしている。
これはまずい、と触手を伸ばして彼女を引っ張ろうとするが、その触手が彼女にはたき落とされる。ちょっと黙って、と言われて俺はそれ以上何も言い返せなくなってしまった。
一触即発なこの空気の中、俺ともう一匹の目が合った。なんというか、お互い苦労しているんだろうなあ、という目に見えたのはきっと気のせいなんかじゃないんだろう。
「貴様、後で後悔しても遅いからな」
「それはこっちの台詞。この(なり)が伊達じゃないって事、見せてやろうじゃないの」
双方から噴き出す火炎。慌てて逃げる俺ともう一匹。タイプ相性では俺の力で止められそうな気がしたんだけれども、あの迫力に気圧されてしまってちょっと近づきがたかった。
「なんというか……俺の方もすいません。ほら、うちのダーチェ、気性荒いから」
「いや、気づかず岩壊して入ったうちのリートも悪かったし……ほんとごめんなさい」
洞窟の奥で始まったバトル。洞窟の外まで逃げてきた俺達は、互いの苦労を何となく察して力なく笑い合う。牝っていうのはいまいちよく分からない生き物だ、って聞いたことはあったけれど。
しかもその後、互いにぼろぼろになりながらもお互いを認め合って笑いながら出てきたんだから信じられない。後のお隣さんとなる俺とトゥファムは、あるいはこの時、選択を間違ってしまったのかもしれない……。

          おしまい

あとがき:タイトルも長いのを付けようと思ったけど管理の立場に立って考えるとファイル名的に凄い辛いことになるんですよ 

ニンサザが熱いと思うんですがどうでしょうか。ここまでお読みいただいてありがとうございました。
おまけを見ていただければ分かる通りですが、このニンサザ、サザンドラが強いんです。牝の方が強いのは良くあることです(?
文体がいつも通りだったり、牡受けだったりと分かる人にはすぐ分かったんじゃないでしょうか。随分久しぶりの執筆になりました。
その中でも今回頑張ったのは区切りごとの見出しです。こういうちょっとふざけたこと考えるのって楽しかったりしませんか?
……とまあ、そんな事やってた結果、書き上げたのはなんと投稿時間の数分前です。あれほどぎりぎりに書くなといっていたのにです。反省します。
結果としてとんでもない誤字をやらかすという大惨事ではありましたが、思っていた以上に皆さんからの票がいただけて感謝感激雨あられです。
最初はニンサザの予定一個もなかったんですが、触手だったり三つの口だったりと特殊な事も書けるので変更になりました。あと某絵師さんのおかげです。
実は同じタイトルで過去にエントリーしたこともあるんですが、非官能部門の作品を書き上げるだけで限界だったのであえなく没になったネタです。
それをキャラを変え中身を変えの大改装をして投稿させていただきました。牝が牡で牡が牝というはちゃめちゃ純愛。さかさまだけどその恋心は嘘じゃないんです。
きっとこれからも、二匹は仲良く暮らしていってくれると思います。大会投稿時には載せられなかったおまけ部分に出てくるお隣さんも含めて、幸せになって欲しいですね。
ただ、トゥファム君とクリン君は大変そうですよね。特にダーチェさんの貞操観念にリートちゃんが刺激されたりしちゃったらry

それでは、また次の作品でお会いいたしましょう。今書いてる途中のもきちんと仕上げないとですね。がんばります(

投票コメントへのお返事:まさかの優勝ですがブイズの強さに助けられた感がありすぎて実はちょっと複雑 

皆さんほんっとーに投票ありがとうございました!

>ふたりともかわいい!(2014/04/28(月) 06:34)
クリン君が怒りますよ(?

>ニンサザは大好物です(^q^) (2014/04/28(月) 10:01)
自分も大好物です(^q^)

>ニンサザの小説ですか…
>タイプ的にはニンフィアの方が上ですが、こういうものも新鮮でよかったです!
>いやぁ…ごちそうさまでした(( (2014/04/29(火) 22:20)
いやぁ……お粗末様でした(
タイプだけでははかれない強さもあるんです。勢いに気圧されたりとかしちゃいますよ、たぶん(

>なかなか見当たらなかった最高の組み合わせをありがとうございましたぁぁぁ!! (2014/04/29(火) 22:24)
絵だと結構あるんですが小説ってなかなかないですよね。組み合わせとしてはかなりメジャーなんですけどねえ。

>性別を間違えられるからこそ、あえて間違えられる性別の振りをしてみるっていうのはありそうでなかなか無いように思いました(あくまで自分自身が読んでいる中で、ですけども)。
>リートが♂の振りをしているということは話の中盤から薄々気づいてはいたのですが、最後のところでやっぱりと思いつつもそういう様式美もまたいいなと。
>ただ一人称視点の地の文で、リートが♀だということを分かっていない場面で、彼女と称してしまったのは惜しいと思ってしまいました。
>読者が気づくにしても地の文では明かすその時まで嘘を通して欲しかったです(
>でも読んでいて楽しかったです。投票させていただきました。 (2014/04/29(火) 22:47)
このコメントを読んだ瞬間血の気が引きました。いやほんとに。
実は元々三人称で書いていて、彼と彼女、となっていた部分だったので直す際に間違っちゃったみたいです。うわああああああ(白目
急いで書くのはほんとよろしくないですね。ちょっと気をつけようと思います……はい。

>読んでいて大変萌えさせていただきました(
>ニンサザはこのwiki内でもありそうで意外となかったキャプなので非常に良かった出来でした。この後2匹はずるずると口調が逆転しちゃってる未来が浮かびます…
>お疲れ様でした! (2014/04/30(水) 00:05)
いつか本当に逆のまま過ごす日が来るんだろうなあと思っております。牡の娘のニンフィアは結構ありだと思います。思います(迫真
ありそうで無かったので今回書けて良かったです!

>ニンサザ好きにはたまらない話でした。性別逆転(?)というのも面白いですね。 (2014/04/30(水) 22:39)
さかさまなんですよ。性別逆転というとうちの別の仔を思い浮かべちゃいますが(

>とてもよかったです!
>ごちそうさまでした(*^^*) (2014/05/01(木) 20:42)
いえいえお粗末様でした。ニンサザもっと流行れ(

>リートはサザンドラですよね?
>とっても可愛く表現できてますよ!! (2014/05/01(木) 22:41)
リートちゃんがきっと喜んでくれると思います。あの仔超イケメンなので……というと怒られますがw

>体格差と性格のギャップに萌えました (2014/05/02(金) 18:32)
体格的に間違いなくサザンドラには勝てないと思います。思ったからこうなってるんです。
でも牡受けっていいですよね(

>ゲーム中でこの2匹揃えようとすると、ニンフィアの♂♀比率のせいで大体こうなりますよね。
>最後は2匹とも幸せそうで良かったです。
>おや、何やら続きがあるようですが… (2014/05/03(土) 08:31)
続きも含めて書かせていただきました。ブイズは牡の仔が多いのできっとこうなることも多いはず……!
幸せ(?)な2匹もきっとこれから暮らすのは大変だと思いますです、はい。

>ニンサザもといサザニン美味しくいただきました(^q^)男の娘ニンフィア可愛いかったです!もちろんサザンドラも可愛いかったですよ(
>この大会では珍しく仮面の中身がモロバレルしてなかったのと続きのありそうな終わり方でしたのでその期待も込めてこの作品に一票をば。 (2014/05/03(土) 15:59)
割と仮面剥がれかけてるかなあと不安だったのですが良かったです。サランラップ巻くわけにはいかない(
この二匹は王道感ありますよね。でも王道には王道の良さがあると思うんです。あと牡の娘かわいい!(

>ウホッ! イカ臭いニンフィア! まーいーか?
>ニンサザ4倍ダメージCPいいですよねいいですよね。
>……エントリーのキャプションでカラマネロの先入観でいたために、サザンドラだと気づいて切り替えるまでに時間がかかったのは内緒www (2014/05/03(土) 20:53)
まーいーか。というわけでキャプション詐欺やってみました。先入観に囚われてはいけないのです。
4倍ダメージにもかかわらずサザンドラ優位なのはあれです、いつものことです(

>まさに俺得な作品でした (2014/05/04(日) 00:39)
自分得なので書いてました。ニンサザもっと流行れ(二回目

>どうしても見た目で性別のイメージは付きまとうもの。
>それを逆手にとった物語でしたね。ニンサザは割と見かけますが、ニンフィア♂とサザンドラ♀の組み合わせはかなり珍しいのではないでしょうかw (2014/05/04(日) 23:11)
見た目に囚われてはいけないのです。とはいえ目次どおり見た目の果たす役割って大きいので難しいですがw
案外ありませんよね性別逆の組み合わせ。それはそれで良いと思うんですけどねえ。

>こういうのが嫌いじゃないです。 (2014/05/04(日) 23:56)
性別が逆だって良いじゃない! という気持ちで書かせていただきました!

>心理描写が丁寧でとてもよかったです! (2014/05/05(月) 00:14)
ありがとうございます。風景描写ばっかり入れるとくどいというかそもそもあんまり移動してなかったのでry

>ニンサザ!(これだとサザニンかな? (2014/05/05(月) 01:35)
細かいことは気にせず可愛ければそれで良いと思います(

>なかなか面白かった (2014/05/05(月) 17:43)
ありがとうございます。これからも面白い小説書けると良いんですが……ぐぬぬ。

>逆のニンサザもいいですね。 (2014/05/06(火) 00:56)
サザニンもニンサザももっと流行れ(三回目

>途中まではクリン優勢だったのに、本番でリートのサドっ気が半端なく驚きました。
>続きも気になります…… (2014/05/07(水) 00:00)
ドラゴンポケモンはSっぽい仔多いと思ってます(個人的見解
続きは続きでしょーもないですがご覧下さいませ(

というわけでまさかまさかの一位でした。ニンサザのちからってすげー!
組み合わせに助けられた感満載なので思うところもあるんですが、皆さんのコメントに癒やされながら喜んでおこうと思います。
重ね重ね投票ありがとうございました!

コメント:一行でも百行でも生きていける気がするのがコメントです 

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 大会のことすっかり忘れてて今になって読ませていただきました。
    男装キャラと女装キャラの組み合わせが大好きなのですごく自分得な作品でした。
    ポケモンでそれをやるのは難しそうなものですが種族の見た目のイメージを利用してうまく描かれていたと思います。
    優勝おめでとうございます!
    ―― 2014-05-07 (水) 02:59:23
  • 性別を逆転させたような出会いをして、そのままくっついてしまうとは、私もたまにやってしまうことですが、短篇では出来なかったことなので、新鮮な気分でした。男勝りの女の子というのも良いものですよね。
    行為の方に関しては、安定のあなたらしさと言ったところでしょうか。相変わらずのドMのようで……
    ――リング 2014-05-11 (日) 20:56:42
  • >>↑↑の名無しさん
    読んでいただいてありがとうございました。
    ポケモンだとあんまり服を着たりってのはないですが性別のイメージが固定されがちだな、と思ってます。
    だからこそ敢えてぶち壊しにいってみたんですが結局なんかいつも通りになっちゃいました(

    >>リングさん
    性別のくくりにこだわらない作品を作った結果がこうなりました。
    牡牝で見た目にわかりやすい変化が無い限りは出会った時の雰囲気で判断しちゃいますからね。
    牝はやっぱりちょっとぐらい腕っ節が強い方がかえって可愛いと思います。タブンネ。

    お二方、コメントありがとうございました!
    ――&fervor 2014-07-12 (土) 01:27:19
  • 今更ですが、もう100回は致させて頂いてます。ありがとうございます。
    やろうと思えばタイプ相性で逆転できそうなのに、ガンガン責めてくるリートを受け入れてめっちゃ感じてるクリン可愛すぎて、作者様にはもう感謝しかありません。
    今度とも素晴らしい作品を期待しています! --
  • >>↑の名無しさん
    どういたしまして、そしてご利用ありがとうございます(?)
    かわいさ、たくましさが全面に出るような作品にしたつもりだったので、そう感じて頂けていれば幸いです。
    コメントありがとうございました! -- &fervor
  • サザニンもっと流行って良いと思う -- ミー ?
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Last-modified: 2014-05-07 (水) 01:13:42
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