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さあ月を掴みましょう

/さあ月を掴みましょう



 -- さあ月を掴みましょう --




 -簡単人物紹介-

カノン(Canon)
主人公。牝のキルリア。夏休み真っ最中の、何処にでもいる普通の女の子。姉と二人暮らし。


ノルウェン(Nolwenn)
カノンの姉。牝のサーナイト。お花屋さんで働くしっかり者。カノンのお母さん代わり。




 -1-

 その日の晩は満月が夜空に昇るはず。大きな大きな丸い満月が夜の街の照明となる。淡いけれども頼りある月光が人々を照らすはずだった。
 月は普通に昇った。私の部屋のカレンダーには、日にちの右下に今晩昇る月の形が予想として描いてある。今日は満月の図。空を眺めるとやはり満月だった。時刻は一時。今宵はなんだか眠れない。だから私は月をぼーっと眺めていた。街は静かだ。まるで今現在この世界は私しか起きていない………そんな錯覚も覚えてて。

 二時になった。月の位置は少し変化。部屋に差し込む白いカゲも違う所を照らす。ベッドに寝てて見れる角度ではなくなったのでベランダに出た。外は夜風が心地よく、虫の音で一層涼しさを感じだ。月はまだある。少し山の方へ進んで行ったが、まだまだ見れる。この分だと今夜は寝れそうに無いなと思った。たまにあるのだ。月を観察しすぎて夜寝れないことが。そして次の日の朝が辛くなる。ボーっとした一日になってしまうのだ。こんな悪循環をわかっていても、月観察は止められない。自分に何の得も無いのだが、目を離せない。変な魔力で引き付けられている様だ。
 そんなこんなで夜の時間をひたすら消化していった。寝るべき時間を月観察に費やしている私はなんなのだろう? 馬鹿なのだろう。眠さを感じない今宵、私は馬鹿なのだろう。
 月はまだまだ見れる位置にいる。私はまだベランダにしゃがみ込んでいる。寒くは無い。タオルケットを肩にかけながら、風鈴の音を聞く。虫も鳴いている。時間はわからない。ベランダから時計は見れない。今何時なのだろうか。そんな事をボーっと考えながら首を上げる。首が疲れたら顎を手で支えながらでも見る。

 少し瞼が重くなってきた頃、それは起こった。何時だかわからない。月は普通にある。暗い夜空にぽつんと浮かんでいる。雲はひとつも無い。星も無い。星が無いのは月が眩しすぎるからだろうか? 良くはわからない。今現在も相変わらず私は月観察を行っているのだが、流石に瞼が重くなりつつあった。欠伸も出る。いい加減眠ろうかと思う。ずっと座りっぱなしで体もなまってきた。私は背伸びをしようと立ち上がった。肩にかけたタオルケットは窓を開けてベッドに放り出した。外を向く。やはり街は真っ暗だ。月だけが輝く。私は深く深呼吸をした。冷たい空気が体の中に染みこんでいくのがわかる。両手を伸ばし、空へと突き上げた。目を瞑って、背伸びをして、大欠伸をして、一気に手を下ろす。心地よい脱力感だ。

 大あくびを終えたとき、私は瞬時に異変に気付いた。嫌に暗い。空が黒い。一面闇だ。目を閉じる前にあったはずの月が無い。一瞬しか目を瞑っていないはずなのに月が消えてしまった。まだ空の真ん中らへんにあったのに、山の向こうに沈む訳も無い。なんだろう。何なんだろう。訳がわからない。でも不思議と頭が働かない。そうか解った。私は寝ぼけているのだ。
「はやく寝なきゃなぁ………」
 月が消えた夜空を見ると、代わりに星が輝いていた。満天の星空だ。綺麗だ。でも眠い。物凄く眠い。星空観察する余裕なんてあるわけが無い。
 私は目を擦りながら部屋に入った。


 -2-


 朝日が昇りきる七時。私はこの時間に起きるのが日課になっているので、睡眠時間の長短関係無く目が覚めてしまう。
「ふあぁ………。おはよう」
 私は背伸びしながらキッチンの椅子を引く。テーブルの上にはトーストに目玉焼きにサラダ、お決まりの朝食セットだ。毎朝作っているのは私の姉のノルウェン。毎朝ご苦労様です。
「どうした? 髪ぐっちゃぐちゃではしたない」
 エプロンをたたみ、姉も椅子に座る。
「うるさい。昨日寝れなかったから、寝不足でさ」
 私は寝癖だらけの髪を手でとかしつつ、朝食を早々ととってしまおうと思っていた。

 今は夏休み。学生達は一ヶ月以上の長期休暇をとれると大喜びの今、私は時間を微塵も無駄にしたく無いと考えていた。去年の夏休みは部屋でごろごろと過ごす日々が連なり、学校で私だけ日焼けしていなくて恥をかいた。だから今年は充実した夏休みを過ごしたいと張り切っている。日焼けしたくて外出するわけではないが、今日は友達と遊ぶ約束をしていた。
 そんなこんなで朝食を速くとりたい私だが、脳裏に昨晩の出来事が浮かんだ。あの不思議な夜のこと。眠い中見たことだが鮮明に覚えている。今思えばとてつもなく不思議な事だ。私はこの事を他人に話したくてたまらなくなっていた。

「ねえ、お姉ちゃん。月って突然消える?」
「どうだろ?」
 姉はトーストをかじり、新聞を読みながら答えた。予想通りのリアクションを取らなかった。絶対「はぁ?」とか「何言ってるの?」とか、馬鹿にした感じで変な目を向けるのだと思っていたが、実際の所ドライだった。
「これでしょ?」
 姉は一枚の紙を私に差し出した。
「号外?」
「月、突如に消える! 信じてる人は少ないようだけど、あんたも見たの?」
「どうだろ? 半眠状態だったから記憶が微かなんだけど」

 号外には大体こう書いてあった。

 七月二十八日午前三時三十分頃、月が突然喪失するという事件が起きた。その日の天気は快晴。月は満月で西に沈みかけていた。が、三時三十分頃、何の前触れも無く姿を消してしまう。数少ない目撃者は全員「瞬きをしいている間に消えてしまった」と述べている。

「瞬きしている間に月って沈む?」
「そんな速くに沈むわけ無いでしょ。速く食べないと、お皿洗ってあげないよ?」
 私は号外に何度も目を通しながら、のろのろと朝食をとっていた。姉はすでに食べ終えたようで、食器を水道に移している。
「やっぱり夢じゃなかったぁ」
「トースト持って。お皿洗っちゃうから」
 トーストが一枚残ったお皿のみテーブルに残った。私はトーストを手に取り、右手にトースト、左手に号外、頭が本来背中の位置に来るくらい椅子に浅く腰掛け、だらしない格好でのろのろと朝食をとった。姉はお皿をさっさと持っていってしまった。
「あ………。速く出かけなきゃなぁ」
 時計を見たらもう八時だった。約束の時間は九時。グチャグチャの寝癖を計算に入れていない私は、余裕で約束の場所に着くと考えていた。


 -3-


 街の大通りはざわついていた。理由はもちろん昨晩の事件の事。月が無くなったと、街中大騒ぎだ。号外の普及によって月の消失を信じる人。やはり月が突然無くなるなんてありえないだろうと、証言者も号外も断固として信じない人。それぞれが言い合っていた。
 いや、もしかしたらこの街の中だけではなく、世界中が騒いでいるのかもしれない。世界中の生き物達が動揺しているのかもしれない。それもそうだろう。今までに事例が無い事態………いや、誰もが考えもしない、考えられもしない事がおきているのだから。この星の事件では無い、天体の事件なのだから。

 そんなざわつく街を私はひたすら走っていた。家を出た時は既に九時を回っていた。遅刻だ。住宅街を抜け、王城に向かって大通りの真ん中を突っ切る。仁王立ちして街を見下すようにそびえる王城。私の目的地はその広大な城の横にある森だった。あの森で友達と待ち合わせをしている。もう皆集まっているだろう、急がなくては。今はそれしか頭に入っていない私は、走っている間に何人もの人にぶつかった。その度に走りながら後ろを振り向いて「ごめんなさい!」と叫ぶ。肩から提げている鞄が何度も腿に当たる。とても足が痒くなった。
 天気は晴。王城よりも大きな入道雲が城の後ろに居た。石畳の地面は水まきをしたのか、冷たい水溜りが広がっている。街中だと言うのに、蝉の鳴き声が何重にも重なり、響く。こんな夏にしか無い光景が私は大好きで、自然と頬が上がった。湿った風で髪が靡く。帽子を持ってきたほうが良かったかなと、強い日差しに思わされた。

 王城の大きな門は何時も空いている。一般人でも入れるのだ。噴水もあり、まるで公園の様な人盛り。その門から北が王城、南が街。東も街だが、道をずっと行くと森に入る。私はその門前広場からひたすら東に走った。左には大きな城壁。右には家や店。城と町の境目を走っているようだ。
 森はそう遠くは無い。この分だと後十分くらいで着くだろう。ずっと先の通行止めが目に入らなかった私は、そう考えていた。




本当にちょびちょび更新なので、たまにしか"最新の150件"に載せません。

そぉい!



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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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