作者:両谷 哉
Twitter投票お題【こんな寒い日には】
※ポケモン超不思議のダンジョン・エンディング後のお話です。
コノハナさんと主人公(ワニノコ)のCP要素が見受けられます。
こんな寒い日には
口をやや大きめに開き、はぁ、と体内で温めた空気を口より流す。
外気に触れたそれは白い靄となってしばし鼻先を漂ったが、やがて闇に融けていった。
ちらり、と、鼻先に先ほど吐いた息と比べ物にならないほど白く、そして冷たい粒が落ちた。
鼻先だけでは確認が取れず身を乗り出して天(そら)を仰いで見れば、粒はちらりちらりと顔から肩にかけて冷感を刺激していった。
「あー、雪だ……」
窓から外へと身を乗りだしつつ、冷たい外気と雪の刺激を感じながらポツリと呟いたのはワニノコの子供である。
彼──彼女──未だに己の性別を思い出せずにいるワニノコは乗り出した身体を室内へひっこめ、ブルブルと軽く全身を振るって雪から水滴に解けたそれを払った。
「もう春になるって言うのに、参ったなぁ……」
ワニノコは水タイプである。例えオーダイルに進化しようがその性質は変化をすることはない。そのため水の刺激や氷の刺激には強い方である。なので雪が降って困ると言うことはまず、無い。
つまりはワニノコは自分以外に対し、雪が降る状況に困ったのだ。
「ああ~~~……さむっ……寒いぃぃ……ど……」
ワニノコ以外の誰かの声。その主が雪の降る状況に困る当事者である。
ワニノコは首を動かさず目だけで視線をまず、自分の足元へ移した。
足元に散らばる藁は、寝床の材料。点々と床に落ちた藁は一直線にある場所へ結びを付けていた。それを目でゆっくり辿ればまず大きく平たい足の裏が2枚見え、少し視線を上げて見れば藁がこんもりと不自然に積みあがっており、さらに視線を上げれば大きな緑の葉が1枚、藁から生えていた。それは寒さの影響か、内側へ縦にやや丸まっていた。
もちろん乾燥させた藁から新緑の葉が生えるわけはない。
「コノハナさん、大丈夫です?」
身を切るような冷気から身を守るため、コノハナが藁の中に潜って震えていたのだった。
ワニノコの気遣いにコノハナが首を横に振ると頭部の葉と共に藁も揺れ、バサバサと音を立てて散った。
草タイプのコノハナは寒さが相当苦手である。虫タイプのポケモンに葉を齧られるよりはマシだとワニノコへ伝えたのはいつであっただろうか。
確か初めて冬を迎えた頃あたりだったけな、とワニノコは漠然と思考に耽りながら目先で震えるコノハナを眺めていた。
「うううう……い、いつもならまだ耐えられるんだけどな……今日は随分寒くてだな……」
「こうなる前に竈くらい作りましょうって前から言って」
「オラ、火も苦手だど」
だからと言って自分の寝床の藁まで防寒の為に持って行かれては困るのですけど。と、ワニノコが続けるとコノハナは面目ねぇだど、と苦く笑って返した。
「あぁー……確かに火は苦手だど。 でもこう言う日なら炎タイプのポケモンがいたら良かったんだけどな。アチャモとかフォッコとかなら抱きしめたらさぞかしあったけぇだろうなぁ」
藁の中で身体をうつ伏せから仰向けへ直し、コノハナは両腕を伸ばしては今口にしたポケモンたちを抱きしめる動作を取った。
「炎タイプのポケモンに限らねぇどな。体温が高めのポケモンでもええだ」
「あぁ、ハリマロンとかですね」
「おー、おー、そうだ……な、なわけねぇだどが!」
今一つであるはずのワニノコ不意打ちに、コノハナは焦ったように声を張り上げて否定し、ワニノコから顔を逸らすため身体を伏せた。だがワニノコは彼が自分のパートナーであるハリマロンの少女に邪(よこしま)な念を抱いていることを知っていた。
「あ、そうですか」
わざと、ワニノコは口角を釣り上げて文字通り上から目線でコノハナを見下した。
「──あ、そうだ。 あれもしかしたら……」
ふと、ワニノコはある物の存在を思い出し、今のように一人呟いて床に無造作に置いたバックを手に取った。
背をかがめてバックの中へ腕を入れ、しばらく中を漁っては目的の物を取りだした。
「コノハナさん、これ。 ちょっと身体に巻いてみてください」
その声にコノハナはうつ伏せた顔を再度上げ、枕元に立つワニノコを見上げてから上半身を起こしあげた。
「ん、何だどコレ……」
ワニノコの小さな両手を覆い隠している【それ】は、見た目立派な襟巻であった。
促されて、コノハナがその襟巻を手に取ると途端に手からじんわりとした熱が伝わった。
「お?」
毛皮だろうか。とコノハナが思いながらそれをまず肩に、次に腰へ、余った部分を再度肩へと巻いた。
「おお??」
黄一色の襟巻はかなり長く、伸ばせばコノハナの身体全体を包み込むのには十分であった。
だがその長さよりも、コノハナば別の感覚へ意識を強制的に移動させられていた。
「おおおおおおお!??? な、何だどコレぇ?? あったけぇぇぇぇぇぇ!!」
ただの毛皮ではなかった。手に取った瞬間から温もりが身体を包み、身体へ巻き付ければ温もりが留まって冷めることが無い。まるで襟巻そのものが生きた炎タイプのポケモンであるかのような感覚であった。
「それ、ほのおのえりまきって言うんです。専用道具です」
「……専用道具? って、何だど?」
襟巻にくるまりながらコノハナは首を傾げてワニノコへ返した。
「結構昔に流行ったそうですよ。タイプ別や種族そのものに力を与える道具って言うのが。
先日ダンジョンで出会った旅人さんがくれましてね。ほのおのえりまきはブースター専用なんですけど熱は帯びたままみたいだったので、使えるかなって」
思いまして。と、ワニノコが続けた言葉をコノハナは聞いている様子はなかった。
「へぇ、ブースターのかぁ。どーりであったけぇワケだ」
「本来は攻撃してきた敵をやけどにさせる効果があるんだそうですけど」
「げ……危なくねぇか?」
思わず、肩から襟巻を落とすコノハナに対してワニノコは大丈夫ですと、と返した。
「ん、あーー~~……にしてもあったけぇ……これがあればいくら寒くても平気だど」
にへらと笑みを浮かべながらコノハナは襟巻に身を包みながら身を藁の中へ落とした。
そんな彼を見、ワニノコはやや不機嫌そうに目を細めた。
自分は水タイプであり、尚且つ体温も低い身体であるためコノハナへ温もりを与えることは出来ない。それはそう持った性質なのだから仕方ないので最速諦めが付いていた。だからこそ、彼に温もりを与えた礼くらいしてくれても良いじゃないか。
ワニノコは不躾なコノハナの行動に内心苛立っていた。
……まぁいいか。これで藁を取り戻せるのだし、もう寝てしまおうか。
と、ワニノコは一度大きくあくびをしてからコノハナに積み上げられた藁を腕一杯に抱えようとした。
「──ワニノコ」
「ん」
何ですか、とワニノコが尋ねるより早く、コノハナが動作を見せた。
横に身体を寝かせたまま肩に巻いた襟巻を軽めに解き、左肘で身体を支えながら右手で襟巻の先を掴んで広げ、まるで鳥ポケモンが翼を広げるかのように寝床に空間を作り、上目使いで彼はワニノコを誘った。
「オメーも入れ。 あったけぇぞ?」
大きな両目を笑みで隠すコノハナに対し、ワニノコはしばし理解が追い付つけず、藁を抱えようとしている所で固まっていた。
ワニノコは、姿は子供であるが元々は大人である。
そんな大人である自分が、子供のように保護者の寝床へ潜りこむ事は恥も同然だ。
……だが、今は子供なのだから
「……あ、はい」
素直に言葉を受けてしまえばいいのだ。
「──あぁ、温かいですね」
藁と襟巻に包まれて、温もりに思わず安堵の声が出た。
「なー、ぬっくぬくだど」
温かいのは藁と襟巻だけではない。ワニノコは自分の背に回された大きな手の体温も感じていた。
初めてこの世界へ来た時の事を思い出す。
人間であったはずの自分がポケモンとなっており、何も分からないでいたところを襲われ、保護してくれたコノハナと共に夜を過ごした、あの時。
あの時と、今は、何となく似ている。
「コノハナさん」
「んー、何だど?」
「……今夜、このまま寝てもいいですか?」
「おー、ええど! オメーもやっぱり温い方がええだろ? 襟巻があればオメーとくっついていても冷たくねぇからな!」
そうですね。
小さく、そう返してかすかに微笑み、ワニノコは目を閉じた。
「あー、あと、な」
「はい」
「襟巻、ありがとうだど」
「……どういたしまして」
今夜みたくこんな寒い日には、こうやって一緒に眠ろう。
そう思ったのはどちらか、どちらもか。
お久しぶりです、両谷 哉です。覚えていらっしゃる方はいますかな。
今回久々にwikiへ文章の投稿、かつ文章執筆となりました。
Twitterの方で募った投票型お題、1位の【こんな寒い日には】です。
いやぁ超ダン、いいですね。発売日から結構経ちましたがまだまだプレイが熱く、二次同人も熱いです。
中でもパートナーが最愛ですが、今回はコノハナさんと主人公のお話です。
自分の中ではカップル、とは言えず、家族、とも言えない何とも地に足が付かない関係です。
そうなったのも、主人公の性別付けのタイミングを誤って不明のままずるずる続けていたらそれが定着してしまったと、言う。ダメですね!
最近、でもないですが主に出現している場はTwitterなのでご興味がある方は作者ページより飛んで見て下さい。
それでは失礼いたします。
またお会いできればうれしいです。