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この瞳が金色に輝けば

/この瞳が金色に輝けば

執筆者文書き初心者
獣姦描写がありますのでご注意下さい。また、ポケモンに胸の描写がありますので苦手な方はご注意ください。


 透視出来る私の能力は、別に便利だと思った試しなんてない。
 ご主人と暮らしている私は、野生の子達みたいに獲物なんて捕らえようとはしない。野生の子達なら獲物の居場所が直ぐに分かるから便利な能力だと思うが、外に出歩くことすらあまりしない私にはそうする機会なんて無い。だからこんな能力なんていらないと思っていた。
 だけど、ご主人が紛失物を探しているときにはこの能力が役に立つ。たとえ物陰に隠れていようとも、箱の中に入っていようとも、透視できるから直ぐに見つけ出すことが出来る。探し当てたときにはご主人が私のことを褒めてくれたり撫でてくれたりするから、そういった点ではこの透視能力があって良かったなと思うことが多々あった。
 ただ、問題が一つあった。それは私の透視能力が強過ぎた事である。
 透視出来るのは何も物だけではないのだ。胸に秘めている心からの本音まで覗けてしまうのだ。だから私が透視しているうちには、近くにいる人やポケモン達の心の声が聞こえてしまう。聞きたくなくても瞳が金色に光っているうちは絶対に聞こえてくるのだ。
 私はこの強過ぎる透視能力を、今までご主人に打ち明けたことはなかった。いや、言えるはずがない。言ったらきっと、気味が悪いと思われるに決まっている。人は誰しも隠し事の一つや二つ持っている。それを私には覗けてしまうのだから、不都合なこと極まりないであろう。現に私だって、ご主人に嫌われたくないからこの特異な力をご主人に隠している。この力がばれた暁には最悪の場合、私はご主人に捨てられてしまうだろう。
 でも、ご主人が私の能力を薄々勘付いているのか、最近私に対してそっけない態度を取る。その証拠に、学校から帰ってきて私が出迎えても撫でてくれないようになった。以前なら撫でてくれたのに拘らずである。それに、私との口数も減った。疲れたからゆっくりさせてくれ、とか私に告げて直ぐに寝てしまうのなんてざらだ。実際、最近のご主人は学校生活が忙しいらしく、疲れているように見えるからそれは仕方がないのだが。
 とにかく、前のような和気藹々とした関係ではなかった。普段から家に居て、ご主人としか基本喋らない私は物寂しい感じがしてならなかった。学校でご主人の身に何かあったのではないかと思って、学校に連れてってとせがんでもご主人は頑なに拒否する。何でも、学校にポケモンを連れていったらポケモンバトルを挑まれるからだとか。ご主人はバトルを好まないし、私も好きじゃないから連れていけないのも仕方ない。
 結局、私はひとりぽつんと家に居るしかないのだ。その気になれば外に出れるが、出たところで行くところなんて無い。見知らぬポケモンに話し掛けられたところで暇潰しぐらいにしかならないし、なによりご主人に取って代わる筈がない。それなら、家でご主人の布団で寝そべっている方がまだ良いのだ。微かに残るご主人の匂いを嗅ぎながら、寂しさを紛らわしてる方が。


「あのさ、レントラー……その、メモリーカードを探して貰ってもいいかな? このくらいに小さくて四角い形をしてるんだけどさ」
 久々にご主人の方から話しかけられて私は喜んでいたのだが、聞いてみれば単なる探し物をして欲しいという要求だった。ご主人の口から一緒にどこかに出かけようとか、毛づくろいしてあげるよという言葉が出てくるのを期待していた私が愚かだった。がっかりして、心の中で私は溜息を吐いてしまう。
「うん、いいよ」
 だけど、別に断る必要もないので私は快諾する。最近、探し物をして欲しいだなんて頼まれていなかったし、何よりご主人とまともに話すのは久々だったからだ。これで前みたいに話すきっかけとなればいいなと淡い期待を私は密かにしていた。
 早速、私は瞳を金色へと輝かせて透視していく。そうすれば、ありとあらゆる物が透けて見えるのと同時に、近くにいるご主人の心の声が無意識に聞こえてくる。
『多分、この辺で無くしたと思うんだけどなあ』
 聞こえてきたご主人の心の声を頼りに私は辺りを隈無く探していく。物と物との間に挟まっていないかとか、どこかへ紛れてしまっていないかと念入りに確かめながら。しかし、探しているものが小さいということもあってかなかなか見つからない。
『うーん、バッグの中だったりするのかなあ』
 ご主人がそう心の中で呟いたので、私はご主人が普段学校に行くときに使っているバッグへと眼を向ける。だが、バッグの中には色んな物が詰まっていてご主人が探している物がどれなのかいまいち掴めない。
 近くで見てみないと、そう思った私はバッグへと近寄っていく。そうしてバッグの中に顔を突っ込んでは覗いて、中身を隅から隅まで確認していく。そうしているとご主人がなんとこんな事を胸の内で呟くのだ。
『レントラーの後ろ姿……うん……良い……』
 あまりにも唐突にご主人がそんな事を心の中で呟くものだから、私は心臓をどきりとさせてしまう。でも、ここで驚く訳にはいかない。私はあくまでもご主人の物を探しているのであって、本来ならばご主人の心の声なんて聞こえない筈なのだから。
 だから私は一旦深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。そして平然を装って、バッグの中身を念入りに確認する。しかし、ご主人が胸の中で更に呟くのだ。
『……今日はこれにしようかな』
 これにするって何だろう。今日の晩御飯のことなんだろうか。だけど、私の後ろ姿を見て晩御飯が思い浮かぶなんてあるのだろうか。
 そんな風に考えていたら、バッグの底に沈んでいるご主人が探していそうな物を見つけてしまう。ご主人の言われた通りに小さくて四角いものに違いなかった。
 このまま探している振りをしてご主人の心の中を探ろうか、でも心中を詮索するのはあまり好ましいことではないと自覚している。だから私は瞳を金色に光らせるのを止めて、バッグから顔を出してはご主人の方へと振り返って言ってしまうのだ。
「バッグの底にあるね」
 私がそう言うと、ご主人は今まで上の空だったと言わんばかりに身体をぴくっと反応させる。そうして、
「え、本当?」
と言いながら私の傍へと来てバッグを漁り始める。ご主人がバッグの中身をどんどん抜いていき、中身が殆ど空っぽになったバッグを見る。すると、あっ、とご主人が口ずさむ。そして、ご主人はバッグに手を突っ込んで、バッグから指先で摘める程度の小さい四角い状の物を取り出した。
「あった。これだよ、レントラー。探してくれてありがとう」
 ご主人からお礼の言葉を言われて私は嬉しくなる。ご主人の力になれて本当に良かった。そう思いながら私が密かに尻尾を振って喜んでいると、ご主人が私に手を伸ばそうとしてくる。だからいつものように撫でられるのを期待していた。
 だが、ご主人は私の鬣へと触れようとした途端、はっとしたように慌てて手を引っ込めた。一体全体、どうして引っ込めてしまったのだろうか。探し物を見つけ出したときは決まって、私をよしよしと優しく撫でてくれたのに。
「本当にありがとうね、レントラー」
 撫でなかった代わりとして、ご主人は再度私にお礼の言葉を言う。そうして、すたすたとパソコンの方へと向かってしまった。ご主人は私の方へは振り返りもせずに、パソコンに対して意識を向けていく。ご主人と同じ部屋に居るとはいえ、ぽつんと取り残された気分に私はなる。
 やはり、ご主人は変わってしまった。探し物を見つけたご褒美に撫でてくれる事すらしてくれないようになってしまった。ご主人は、私がいけない仔になったから気に食わないのだろうか、それとも単純に私の事が嫌いになってしまっただろうか。
 どんなに考えたって私はご主人ではないから分からない。出来ることならご主人が私の事をどう想っているのか確かめてみたい。だけど今、ご主人の心を覗いたってきっと作業の事で一杯になってるだろうから、私の事なんてちっとも考えてないだろう。
 する事も無くなって暇になった私は鬣や尻尾をしょんぼりと項垂らしながら自分の寝床へと移動する。重たい身体を下ろし、寝そべりながらただご主人の背中をぼんやりと眺めるしかなかった。



 気付いた時には、もうお天道様が窓から見えなくなっていて部屋が真っ暗だった。どうやら私は自分でも気づかない内に寝てしまっていたらしい。私はふわあと欠伸をさせては、意識を覚醒させていく。ぼんやりとしていた景色がはっきりしていけば、いつの間にか私の身体の上に毛布が掛けられていたのに気付いた。寝る前に私が自分で掛けた覚えはない。だから、きっとご主人が掛けてくれたのだろう。そういうとこは優しいのだ、ご主人は。
 それなら最近のご主人はどうしてそっけないのだろう。嫌いなら、わざわざ毛布なんて掛けずに私の事を放っておくだろうし。ますますご主人が私をどう思っているのか分からなくなる。私はご主人に掛けられた毛布を前脚で抱きながらそう思う。毛布を自分の顔へと近づけて匂いを嗅ぐが、ご主人の匂いはそこには無くて自分の匂いしかなかった。
 私は瞼を前脚で擦った後に起きようと伸びをしようとする。だが、目の前の光景に心を奪われて、伸びをせずとも眠気が無くなっていく。
 部屋が真っ暗だと言うのに、電灯も点けずにご主人はまだパソコンに面と向かっているのだ。それだけ作業に熱心になっているのだろう。ご主人の邪魔をしちゃいけない、そう思ったのも束の間でご主人の方から何か聞こえてくる。
「はぁ……れんとらぁ……ぁっ」
 私の名前を呼んだのだろうか。しかし、私の方へとご主人は振り向かない。依然としてパソコンを見つめている。気のせいだったのか、それとも空耳だったのか。だけど、私がじっと目を凝らして注意深く見てみれば、ご主人の右腕が小刻みに揺れているのに気がついた。
 しかしご主人の右腕はパソコンの方には伸びていない。ご主人の手は自分の身体へと伸びているのだ。確かに、パソコンを使っているらしいのだが、テレビでも見ているかのようにただじっと見つめているだけなのである。だが、画面はご主人の背中に遮られて何を見ているのかはこちらからでは確認できない。それに、私が耳をそばたてれば、不気味な物音さえ聞こえてくる。
 しゅ、しゅ、くちゅ、しゅ、しゅ、ぬちゅ、しゅ、しゅ。
 時折、水っぽい音が聞こえてくる。これはもう明らかに可笑しかった。私が心配でご主人に声を掛けようとも、掛けられる雰囲気ではない。今のご主人は何かに取り憑かれたかのごとく異様な雰囲気に包まれているのだから。
 詮索するにもここからではそれ以上のことは知り得ないと思った私は止むを得ず、透視能力を使ってしまう。私は瞳を金色に光らせれば、真っ先にご主人の心の声が私に飛び込んでくる。
『レントラーの舌遣い、いいよ、うん……』
 舌遣い? 舌遣いって何だろうか。私はそう考えた矢先に、ありとあらゆる物が透けていく。そしてご主人がパソコンの画面で何を見ているのかが遂に発覚する。
 私は自分の眼を疑いたくなった。だが、何度瞬きをしても、自分の瞼を前脚で擦ろうとも目の前の光景は真実に変わりはなかった。
 ご主人はパソコンの画面に映った私を見つめていたのだ。
 私がご主人から棒状のアイスを貰ってそれを食べているときの写真だった。あれを撮ったのは確か数年前の夏の日だったと思う。あの時は、ご主人が美味しそうにアイスを食べていたのを私が物欲しそうな眼で見てたからなのか、食べ掛けをわざわざくれたのだ。そんな思い出の写真を眺めて懐かしんでいる、という訳ではなさそうであった。
『今度はこっちかな』
 ご主人が心の中でそう呟き、空いている左手でパソコンを操作すれば画面に映った写真が切り替わる。すると、今度は私の後ろ姿の写真が映し出される。それは紛れも無く私が今日、ご主人に言われた物を探しているときに取られたであろう写真であった。
 私のお尻がよく強調とされている写真だった。私に物を探させている間に、ご主人はよくこんな写真をいつの間に撮ったなと思う。
「はぁ……あっ……うっ」
 そんな写真を見ながらご主人は荒げた息遣いをする。どうしてそんな風になってまで写真を見るのか私には分からない。私がそう思っていると、ご主人が心の中で呟くのだ。
『これをレントラーのお尻にすりすりしたい……』
 何をすりすりさせたいんだろう。そう疑問に感じた私は、ご主人の右手が摑んでいる物を確認する。
 それを見た私は最初は信じられなかった。だが、どんなに瞬きしたって変わりはなかった。ご主人が掴んでいたのは、熱り立つ牡の肉棒だったのだ。それを見た私は思わず息を飲んだ。
 ご主人のは私がコリンクだったときに見たことがある。だが、私の記憶とはとても似つかなかった。皮を被っていた筈の先端部分は露出しているし、小さかったのに今では血管が浮き出るくらいに肥大化しているのだから。
 そんなのをご主人は私のお尻に擦り付けたいだなんて何を考えているのだろうか。ましてや相手が人間ならまだしも、どうして私なんだろう。いや、ここまで露骨にされたら理由なんて決まっている。
『そして、レントラーの中へと入れて』
 ご主人は私の秘部に当てがう素振りをしたかと思うと、自分の手で肉棒を扱いていくのだ。ずちゅ、ぬちゅ、と先端部分から溢れんばかりに透明液を流しながら。
『後ろから思いっきり突く』
 ご主人の手の動きが速くなっていく。きっとご主人が想像している通りに私を後ろから突いているつもりなのだろう。
『甘えた声で鳴かせてあげて、そうして』
 ご主人の頭の中では私が感じて甘い声で叫んでいるらしい。そりゃあ、激しくされたら喘ぐしかないだろう。ご主人の手がどんどん速くなっていき、やがて、
『たっぷりと僕のを中にっ!』
いつのまにか左手に添えていたティッシュで肉棒を受け止める。すると、ご主人がびくりっと身体を一旦大きく震わせた後で、肉棒が大きく脈を打ちながら白い液体を溢れさせていくのだ。
「はぁ、はぁ……」
 ご主人が息苦しそうに声を漏らす。そして、力が抜けたように肩をがっくりと落としていった。肉棒の方はといえば、出すものを出したのでどんどん萎縮していっている。上を向いていた先端部分は今は元気無く下へと垂れてしまっていた。
 不可抗力とはいえ、ご主人の自慰行為を見てしまった私。ご主人が自慰行為をしている時に、想像している事が私に流れ込んできたのもあって、身体が火照ってしまっていた。尻尾の先で秘所を弄って自分を満足させない限りは落ち着きそうにはない。
『レントラー、ごめん……こんなことして』
 性欲を発散して目が覚めたのか、ご主人が心の中で私に謝る。でも、謝ったところでご主人が目にしてるのは写真の中の私だ。本当に謝りたいのなら私の方へと来るはずなのだから。
 写真の私に目を向けるのでなくて、現実の私に目を向けて欲しい。たとえ、性欲の捌け口の対象としか見てなくともちゃんと現実世界の私を構って欲しい。そんな欲望が自分の中で渦巻くのと同時に、冷めない身体の熱に動かされて私は忍び足でご主人の元へと向かう。
『レントラーが起きないうちに片付けないと』
 ご主人はティッシュを包むのに夢中で私に気づかない。ご主人の肉棒や、私の写真が曝け出されている内にご主人の元へと行かなくてはならない。
 息や物音、気配さえも殺して私はご主人の傍へと寄る。そうして、遂にご主人の背後を取った。今なら十万ボルトでご主人を殺すことだって出来るだろう。いや、これからすることはご主人にとってはある意味で死刑のようなものだ。
 私はご主人の肩を目掛けて、両方の肩をぽんと乗せた。そうしたら、ご主人ときたら素っ頓狂のように身体を跳ねさせた。
「……ご主人、何してるの?」
 私はしらばっくれたようにご主人に問いかける。だけど、ご主人は私の方を向かない。向くのが怖いのだ。事実、ご主人の心の中は焦りと不安でぐちゃぐちゃになっている。ご主人がこちらを向かないから、私はまだ瞳を金色に光らせてご主人の心を覗くことができるのだ。ご主人の気持ちを読み取れる私は、意地汚いながらも愉しんでいた。
『空耳……じゃないよな。肩に乗っかるこの感覚は本物だし……今までの行為をレントラーに見られてたのか?』
 うん、見てたよ。と、私はご主人に聞かれない自分の心の中で呟いた。決して声には出さないで、ご主人の不安な心境を面白がるのだ。
「ご主人、これ……私の写真だよね」
 私は肩に乗せた片方の前脚で、パソコンに映る写真を指す。ただの後ろ姿だとは思っていたが、近くでよく見たら私のお尻の穴や秘部まで映し出されてる写真であった。こんな卑猥な写真を、私に内緒でご主人は撮っていたのだ。
「……」
 ご主人はだんまりとしたままであった。でもそんなの関係ない。ご主人が黙っていても私には筒抜けだからだ。実際、ご主人の心の中では、
『何て言い訳しよう……アルバムでも見て懐かしんでたとかか? いや、駄目だ、この写真は明らかに今日のらやつだし……』
と必死になっているのだ。今更、弁解の余地なんて無いのに、必死に言い訳を作ろうとしているから滑稽で笑えてくる。さっさと白状してしまえば楽になるのかもしれないが、そうしたら私に幻滅されるからご主人は隠そうとし続ける。
 私が野生だったらご主人は獲物だ。今の状況を例えるなら、獲物であるご主人を追い込んだといったところだろうか。そうしたら今度はがぶりと牙で捕らえるしかないだろう。
「ご主人のズボンから出てるけど、ここトイレじゃないよ?」
 私はご主人のズボンの穴から飛び出ている肉棒についてわざとらしく訊く。自慰行為をしていたときは大きかったが、今の状況が状況なだけにご主人の肉棒は小さかった。揺るがない証拠を指摘して、私は遂にご主人を捕らえた。ご主人の顔は見てないが、きっと今頃は蒼白になっているだろう。
『もう、駄目だ……』
 そう、もう駄目なのだ。私から逃げられないのだ、ご主人は。どんなに頭を使って言い訳しようとも、私を性的興奮の対象としていた事実は揺るがない。
「……ごめん、レントラー」
 ご主人が苦し紛れに謝る。もう謝るしか術はないと思ったのだろう。だけどご主人が謝ったところで、たとえ土下座して謝ったところでも私が赦す筈がない。
 私はふふっと鼻で笑い、そして口元が釣り上がる。これからご主人をどう料理してあげようかなと。ただ、謝らせ続けるだけじゃ味気ない。私がご主人に構って貰えなくて今まで味わった苦痛はこんなものじゃ済まされないのだから。
「ねえ、ご主人……私のために何でも言う事を聞いてくれる?」
 本来ならポケモンである私の方がトレーナーであるご主人の言う事を聞かなくてはならない。だが、こうなった以上、主従関係が逆転しても構わない筈だ。
『なんでもって……そんな』
 ご主人ときたら黙ったままで絶句している。だが、ご主人にそんな暇を与えていられる程に、今の私はお人好しなんかではない。ご主人の心の声に対して突き刺すように私がこう言う。
「ご主人に拒否権は無いんだよ? ねえ?」
 そう言って、私はぺろりとご主人の首筋を舐める。その気になれば噛み砕くことだって今の私には出来る。これは脅しなんかではなくて強制だ。
 手も足も出ないご主人は、漸く私の言葉に頷いてくれた。それを確認した私はご主人に知られない心の中でにんまりと笑うしかなかった。自分の望みが何でも叶えられると思うと笑わない訳にはいかない。
「じゃあ、先ずは私をご主人の寝床まで連れてって欲しいな」
 私はご主人の肩から前脚を下ろして、背中を向けているご主人が振り向いてくれるのを待つ。ご主人に知られないよう、私は今のうちに金色の瞳から普通の瞳へとすり替えていく。
 そして、ご主人が私の前を向く。ご主人は罰が悪そうな眼で私の事を見たが、何も言ってはこなかった。私に言われた通り、ご主人が両手を使って私を抱え上げる。抱き方は特に言わなかったけど、ご主人はご丁寧にも私のことをお姫様抱っこをしてくれた。
 私がルクシオだった頃までは、寝る前にお姫様抱っこをして寝床まで連れていって貰ったものだ。だけど、私がレントラーになってからはして貰った試しが無かった。まあ、私が重くなったのが原因だろうし、またご主人が私に対してそっけなかったのもあるだろう。
 ご主人のズボンから肉棒が晒されたまま、という不恰好なのを除けば久々のお姫様抱っこは悪くなかった。ご主人に抱かれる感覚が懐かしくて堪らなかった。それに、ご主人に触られるという自体が久々過ぎた。このままご主人にすりすりと頬を寄せてしまいたい。でも、布団に連れてって貰えばそれ以上の事が出来る。だから今は辛抱するしかない。
 抱え上げられた私はご主人の寝床まで連れていかれる。そうして、ご主人はゆっくりと私を下ろす。でも、これで終わった訳じゃない。寧ろこれからが本番なのだ。
「次は着てるもの全部脱いで仰向けになって」
 私がそう言えば、ご主人は人形のように黙って首を縦に振ると、自分の身体に纏った衣服を脱いでいく。シャツを脱げばご主人の上半身が、ズボンを脱げば下半身が曝け出される。久方ぶりにご主人の裸を見たけど、随分と逞しくなった気がする。ポケモンである私が人間の身体の肉体美なんてとやかく言えるようなものではないけど、私にとっては魅力的に感じた。
 ご主人が衣服を脱げば、私に言われた通りに布団へと仰向けで寝そべる。ご主人の頬は心無しか赤らめていた。普段、人間は裸で生活することなんて無いから他者に見られることが恥ずかしいのだろう。現に、萎縮していた肉棒はもう元通りと言わんばかりに大きくなっている。
 それにしても、ご主人は変態だなと改めて思う。先の件もあるが、まさかポケモンである私に対して興奮してくれるだなんて。でも、変態なのはご主人だけじゃないのだ。私だって、人間であるご主人に対して興奮してしまって身体の火照りが収まらないのだから。
 ご主人を仰向けにさせたら私はその上へと乗っかっていく。ご主人の熱り立つ肉棒が、私の身体へと当たるのを感じながら。私はご主人の胸に前脚を置くと、ご主人を見据える。
 ご主人は困惑とした表情をしている。喰われるんじゃないかと怯える獲物のようだ。ご主人からしてみれば私とするなんて妄想はしても予想していなかっただろう。だが、これは紛れもなく現実なのだ。私はご主人の妄想を現実にしてあげるのだ。
 私はご主人の鼻先に、自分の鼻先をすりすりと擦り付けていく。擽ったい感触が鼻先に伝わるのを感じながら、私はご主人と触れ合っているのを噛みしめる。最近は全くご主人に触って貰えなかったから、ご主人とこんな風に出来るだけでも幸せだ。でも、今の私は欲深いからこれ以上の事をしたくなってしまう。
 鼻先を擦り付けるのを止めて、今度は自分の口をご主人の口へと押し当てていく。ただの口付けには終わらせずに、舌先をご主人の口内へと捻じ込んでいく。私の言う通りに従うと頷いたご主人は、私が舌を絡めてきても抗うことなんかせずに、ただ弄ばれているだけだった。まあ、万が一にでも抵抗しようとするのならば、私が微弱な電気を流して身体を麻痺させてしまうが。
 それでも、ご主人の方もたのしんでいる様子であった。私と同じように目を細めて濃厚な口付けを堪能している。私が何も命令していないというのに、私の背中へと手を回して抱き寄せている。それもあって、口と口とが重なっているのは勿論だが、身体と身体同士も密着していた。
 ご主人の歯、ご主人の口肉、ご主人の舌。ありとあらゆるところを貪るように私は舐める。ねっとりと唾液が纏わり付いた舌で、ご主人の口を私の味へと染め上げていくように。
 十分に堪能したところで、私はご主人の口から自分の口を離した。そうすると、ご主人と私のが溶け込んだ唾液がいやらしくも糸を引いては儚げにぷつりと切れた。
 すっかり出来上がった様子のご主人の顔。私も多分同じような表情をしているのだろう。口からぜえぜえ呼吸をして酸素を取り込んでいるご主人。それに対して、私も舌先を出してはあはあと口で呼吸をしている。
 口付けだけで終わらせはしない。お楽しみはこれからだから、これでへたるなんて冗談も甚だしい。これからご主人に私が今まで辛い思いをした分の埋め合わせをして貰わなくてはならないのだ。
 私は身体を揺さぶっては抱き締めてくれていたご主人の腕を振り解く。そして、自分の身が自由になると、私はご主人の上に乗ったまま身体を百八十度回転させていく。要するに、私はご主人の顔の前に自分のお尻を向ける。
 私の恥ずかしい部分がご主人に間近に見られてしまうが、写真で満足されるくらいなら実際に見て貰った方が良かった。直に見るのと、写真じゃ大違いなのをご主人に知らしめてやりたい。でも、私は最初にご主人に釘を刺していく。
「ご主人、私が言うまでお尻とか触っちゃ駄目だよ」
 私はわざと尻尾をふりふりと揺らして、ご主人の注意が向くように仕向ける。見せつけといて触らせないとは、我ながら意地汚いとは思う。だが、ご主人を弄んで愉しむのには十分な材料だ。
 私はご主人の顔を十字の星型をしている尻尾の先で擽る。また、ぺしぺしと顔を叩いておちょくってあげる。言われて手を出せないご主人に対して、私は弄んで愉しんでいた。
 私が身体を反転させたことで、目の前にはご主人の肉棒が突きつけられる。こんなにもご主人の肉棒を間近で見たのは生まれてこのかた初めてであった。ぴくぴくと脈を打つ様子に、先端からとろりと垂れてくる透明液、そして鼻先にまで漂ってくる強烈な匂い。これらが私の心を魅了としてくる。
 自分には付いていない肉棒に心を奪われるのは勿論だけど、袋の方にも目がいってついつい触ってしまう。前脚でそっと触ってみるとふにゃっとした袋の中に球状の物がふたつあるらしく、私は不思議に感じた。球状の物をころころと転がすのだが、それでは物足りないと言わんばかりに肉棒がぴくぴくと反応する。
 生殺しをして愉しむのもまた一興だろう。だけど、私の身体自体がもう我慢出来ずにいる。実際、口元からは涎が滴り、下腹部に至ってはじんわりと熱くなっていた。
「ご主人が私にして欲しかったこと今からしてあげるからね」
 私は一旦、ご主人の方へと顔を向けてはそう言う。その後で、再び顔を肉棒へと向けて、口の中一杯にご主人の肉棒を含む。ご主人の肉棒は想像していたよりも熱くて、熱いのは苦手である自分の舌は火傷してしまいそうになる。
 それでも私はご主人の肉棒に舌を押し当ててはぺろりと舐めていく。私の涎をたっぷりと付けてあげて、舐めるのをスムーズにしてやるのだ。肉棒の先端からは透明液が溢れてくるので、それをじゅるりと吸い上げては飲んでいく。決して美味しくはないけど、ついつい飲んでしまう。
「はぁ……あっ」
 私が肉棒を舐めるとご主人は喘ぎ声を漏らす。それもきもちがよさそうにだ。本当にきもちよくなってくれてるのか確かめるべく、私は自分の瞳を金色へと輝かせてご主人の心を覗いていく。
『さっきは妄想だったけど、レントラーにして貰ってるなんて、夢みたいだ……レントラーの舌……ざらざらしててきもちいいや……』
 全く、私がアイスを舐めてる写真で自慰にふけるなんて困ったご主人である。そして今はポケモンに舐められて善がっているどうしようもないご主人だ。
 ご主人と口付けをした時に分かったけど、どうやら私の舌はご主人のものとは違うらしい。私の舌はご主人のと比べてざらついているらしいのだけど、それが却ってご主人をきもちよくさせているようだ。
『あと袋の方も触ってくれたらいいんだけど……』
 袋も触って欲しいらしい。何とも欲が深い人である。私は仕方なくご主人が思った事を実行に移して、ふにゃふにゃと前脚で袋を弄っていく。鞠を転がすように、ふたつの球も触ってあげる。勿論、舌で舐めるのはおろそかにせずにだ。
「ああ、うん、レントラー、いいよ……」
 ご主人は口に出して私の事を褒めてくれる。肉棒の方もぴくぴくと反応してはとめど無く透明液を垂らして喜んでいる。褒められるのは悪い気はしない。だけど、ご主人の為に舐めているのではなくて、あくまでも自分の為にである。それをご主人は分かっていない。
 ご主人のを舐めているだけでも自分の身体は疼いてくる。私は堪えきれずに自分の尻尾で秘部を擦り付けては慰める。その際に、ご主人に見せ付けるように時々尻尾で秘部の入り口を開いてやる。ご主人が私のを見て、どんな事を思うのか確かめるのだ。
『汁があんなに垂れて……レントラーの……舐めたい』
 ご主人も私が肉棒を舐めてるように、秘部を舐めたいようだ。ご主人ときたら、自分の置かれている立場を理解していない。ご主人は私の言いなりなのに。
 私はお遊びにご主人の顔に自分のお尻を乗せてやる。そして、ご主人が理性を保っていられるかどうか試すのだ。
『レントラーの匂いが……どうにかなりそう』
 どうにかなってしまえばいい。どうせご主人は私に興奮するような異常者なのだから。
 ご主人の顔は私のお尻に埋れて見えない。だから私は振り向いて透視能力を使って眺める。私から溢れてくる愛液が垂れてご主人は顔に浴びる。口元に垂れたそれをご主人はぺろりと舌先で舐めるのだ。舐める必要なんて無いのに、わざわざ舐めるなんて異常にも程がある。
 このままいけばご主人の理性はぶつりと切れる。事実、ご主人の肉棒は私の秘部が間近で見れるようになってからはこれ以上に無いほどがちがちに堅くなっているのだから。私の写真で自慰をするようなご主人が、私の愛液を舐めるだけで満足する筈が無い。
『もう我慢の限界だ』
 ご主人が心の中で呟くと、私の秘部に舌先を這わせていった。その刹那、私には全身を駆け巡る刺激が入り込んできて、思わず身体をぴくんっと身動ぎさせてしまう。
 ご主人ったら本当にどうしようもない人だ。私が許すまで触っちゃいけないと言っておいたのに。
 でも、きもちいいのは事実だった。自分の尻尾で慰める以外は知らなかったから余計にだった。ご主人に汚いところを舐められて悦んでいる自分がいる。
 ご主人の舌遣いはぺろぺろと美味しく味わって舐めるような感じではない。じゅるりと下品に貪るように私の秘部を舐めては、止めどなく溢れてくる雫を受け止めるのである。
 私はポケモンだからご主人からしてみれば匂いがきついと思う。でもご主人の方はそんな事なんて全く気にせずに、内心ではこう思うのだ。
『レントラーの匂い、もっと嗅ぎたい……』
 そうしてご主人はすうすうと鼻の穴を大きくさせるように私の匂いを嗅いでくるのである。勿論、舌の動きはおろそかにせずに。そんなに私の匂いを嗅ぎたいのならいっそのことマーキングでもしてしまいたくなる。でも、流石に私にはそこまでの趣味はない。そうはせずとも、愛液でご主人にマーキングしてるようなものだが。
 私とご主人、互いに性器を舐め合う時が流れていく。そうしていく内に、自分の鼻が馬鹿になったのかご主人の肉棒の匂いしか感じ取れなくなっていた。また、秘部からの駆け巡る快感も募って、脚先の感覚が可笑しくなってぷるぷると震えてくる。
 ご主人より早く舐め始めたというのに、身体の方は限界を感じ始めていた。このままだと果ててしまう。だから私は少しだけ腰を浮かせて、ご主人の舌から逃れようとする。だが、ご主人の舌は私の秘部を追いかけてくるのだ。終いには、両手を使って私のお尻を掴んできて私の身動きを取れないようにしてきた。
 そうなってくると、私はもう逃げられない。ご主人の舌に執拗に舐められて私はもう耐えられない。故に、私は今まで我慢していたのを全て吐き出してしまうのだ。
「あっ、はぁっ!」
 その刹那、火花を散らすような突き抜ける刺激が身体へと走った。それと同時に、私はご主人の口に目掛けて愛液をぷしゃあと派手に噴出させていく。
 ご主人は口で私の愛液を受け止めては、喉を鳴らしながらごくごくと飲んでいく。決して美味しいものではないのにも拘らず、ご主人は美味しそうに飲んでいくのである。
『レントラーのならいくらでも飲んでられるな』
 ご主人は心中ではそう思っていた。それを聞いていると恥ずかしい気分にはなる。
 果てた直後というのもあって、私の身体はふわふわとしていた。身体に力が入らないというか、熱でもあって身体が言うことを聞かないといった具合だ。お陰で私はぐったりとご主人の身体に自分の体重を掛けてしまう。
 でも、目の前にあるご主人の肉棒だけは前脚で捉えたままだった。絶頂する時に声がどうしても出したくなったので、一旦口から離してしまったものの、もう一度含んでいく。じゅる、じゅるると吸い付くようにご主人の舐める。そうすれば流石のご主人も我慢出来なくなってきたようで、心の内でこう呟いてくる。
『このままだともう出てしまいそうだ』
 でも、ご主人が簡単に果てられる訳がない。何故なら私がそうさせないから。私に許可を取らずに触った罰は受けて貰わなければならない。
 私はご主人の肉棒を舐めるのを激しくさせていく。そうすれば、私の愛液を飲み終えたご主人が、叫ぶように私の名前を呼び続ける。
「レントラーっ、レントラーっ!」
 すっかり心身ともに昂ぶっている様子だった。このままいけばご主人は間違いなく射精を迎えるであろう。さっさと出す態勢になってしまえば良い。私がそう思えばご主人が心の中で口にする。
『このまま、いくっ!』
 その呟きを聞いた瞬間に、今だと思って私はぴたりと舌で舐めるのを止めた。私が急に止めた所為か、ご主人は拍子抜けしたように、
『あれ……?』
と心の中で思うのである。これにはにんまりとほくそ笑むしかなかった。まさか私の企みがこんなに上手くいくとは思わなかった。
「……レントラー、なんでやめたのさ?」
 お預けを食らったご主人は、私に訊いてくる。私に訊いてくる前に、自分の胸に訊いた方が早いと思うのだが。現にご主人はまだしれっとして私のお尻に触っているし。いつまでもご主人の好きなようにべったりと触らせる訳にはいかない。
 感電死はさせない。だが、身体の自由を奪い取るのに十分な電磁波をご主人に流してやる。途端に、ご主人は鈍く身体を震わせては呻き始める。
「うぐっ!」
 これで暫く手足は動かせないだろう。私は自分のお尻に置かれていたご主人の手を身体をぶるっとさせて振るい落としていく。そうして、ご主人の肉棒を咥えるのを止めて口から出した。
 私の口から解放されたご主人の肉棒は、私の唾液なのかそれとも我慢汁なのか区別がつかない程に透明な液体で湿っていた。また、肉棒はもう我慢の限界と言わんばかりに膨れ上がっていた。私が前脚でちょっと触ってしまえば、直ぐにでも爆ぜてしまいそうなくらいに。
 私は金色に瞳を輝かせるのを止めた。そうして、ご主人の身体の上でくるっと回転させていく。そうすれば私の目の前が、肉棒からご主人の顔へと変わる。
 ご主人は不服そうな顔を浮かべていた。そりゃそうだろう。私だけがきもちいい思いをして、ご主人はそうでないのだから。
 ふふっ、と私は面白可笑しくて声に出して笑った。そうすれば、ご主人は急に気味が悪そうに私の顔を見つめた。そんなご主人の表情が今の私には可愛く見えて仕方が無い。
「ご主人ったら、私が許可するまで触っちゃいけないって言ったの忘れたの?」
 私がそう言うと、ご主人は言われてやっと気付いたのかはっとしたような顔をした。そして罰が悪そうな顔色へと変わっていく。今頃、ああそういえばそうだった、とご主人は心の中で呟いていそうだった。
 これからどんな罰を与えてあげようか。ご主人の身体は麻痺しているから反抗なんて出来ない。私の思うがままにご主人を弄ぶことが出来るのだ。
 ご主人ときたら私の顔を見て、表情を強張らせていく。折角、きもちいいことをしているというのにそんな表情は似つかわしくない。だから私はご主人の首筋や頬をぺろりと舐めてリラックスさせようとする。しかし、却って逆効果だったのか、身体がびくびくと震えるようになっていく。
「大丈夫だよ、ご主人。ご主人にはもっときもちいいことしてあげるから」
 私がそう宥めてもご主人のおどおどした様子は収まらない。だから私は、ご主人の肉棒に自分の秘部を押し当てていく。まだ肉棒が蜜壺へと入らない程度に、また肉棒が射精をしたら困るのでなるべく刺激を与えないように細心の注意を払いながら。
 ご主人の肉棒全体が湿っているからか、それとも私の秘部が熟れて準備万端だからかは分からないが、腰を落とせばすんなりと肉棒を飲み込めそうであった。
 肉棒を私の秘部に押し付けられて、取って食べることはしないと分かったご主人は目の色を変えていく。ましてや、そわそわとした様子で私のことを見つめてくる。ご主人はなんて虫がいい人なんだろう。それを含めて私はご主人が好きなのだが。
「ご主人は楽にしてていいんだよ? 私が動いてあげるから」
 そして、私はゆっくりと腰を下ろしていく。一応、牡の身体をろくに知らない私なので、無理はしないで念には念を重ねていく。少しずつだけど、私の中にご主人が入り込んでいく。それも、痛いようなきもちがいいのか分からない感覚に満たされながら。その所為で私は呼吸を乱しながらご主人のを必死に沈めざるを得なくなる。
 やる前は余裕そうな態度をしておきながら、いざとなったらこんな虫の息になるなんて情けないとは思う。でも、ここで苦い表情を見せたらご主人を心配にさせてしまうので必死に取り繕う。
 もしかしたらゆっくりやるから辛いのかもしれない。いっそのこと、一気にやった方が楽なのかもしれない。そんな短絡的な発想に陥った私はすとんっと腰を下ろしてしまった。
「レントラー、ちょっと、まっ!」
 ご主人が叫んだのは聞こえたが私は無視した。というよりかはもう腰を落としてしまっているので遅かった。私の中がご主人ので拡がっていくような感じを覚えながらも、漸く完璧に入り込んだ。その刹那、私とご主人の肉と肉とが重なり合って、私の奥にまでご主人の肉棒が届く。
 だが、その直後に私は違和感を覚えた。中に入り込んでいるご主人の肉棒がいきなり蠢いたからだ。
「ううっ!」
 最初は何だろうと思った。だけど、何かが逆流してくるような感覚を元に、私はそれが何なのかが分かった。そう、ご主人が果てたのだ。呻き声のような喘ぎ声を漏らしながら、びゅくびゅくと肉棒を脈打たせて私へ精液を注いでくるのである。愛液を出すことはあっても、精液を注がれた試しなんか全く無い私は違和感でしかなかった。
 ご主人の身体がぷるぷると震える。痙攣しているのか、はたまた快感の余韻に酔いしれているのか。いずれにせよ、ご主人が果てたという事実には変わりない。
 まだ入れただけだと言うのに射精をしてしまうなんてなんて情けないのだろう。まあ、これまで射精させずに寸止めをしていたから仕方ないと言えば仕方ないが。
 だが、これを餌にしてご主人をからかうことが出来る。そう思うと、私はにんまりと口元を緩まざるを得なかった。そうして早速、ご主人に言い放ってやるのだ。
「ご主人ったら、入れただけで出しちゃうなんて牡として恥ずかしくないの?」
 ご主人は何も答えなかった。反論でもしてくるのかと思ったが、顔を真っ赤に染め上げて大人しく黙ったままであった。また、大人しいのはそれだけじゃなくて、肉棒も大人しくなっていってしまう。
「でも、ご主人が私に一杯に出してくれたのは嬉しいよ」
 現に、私の蜜壺から精液がどろっと溢れてくる。たとえ肉棒という栓代わりになるものがあったとしてもだ。それだけ、ご主人がきもちよくなってくれて、精液が溜まりに溜まっていたという事だ。こんなに量を出されると、私がもしも人間であったらきっと孕んでしまっているに違いない。
 しかし、ご主人の肉棒は一発出しただけで堅さを失ってしまう。射精をしたから萎縮し始めるのは生理現象ではあるが、私の方としては面白くない。だって、まだ入れただけで、私はちっとも動いてないしは愉しんでもいないのだから。
「ご主人の柔らかくなってきちゃったなあ。だけどまだ交尾は始まったばかりだよ? ほら、堅くしないと」
 私は腰を振って、ご主人の肉棒を刺激してやるのだがなかなか堅くなろうとはしない。それどころかますますふにゃふにゃに柔らかくなっていくような気がした。このまま腰を振ったところで堅くなる気配は無い。止むを得ず私はある強行手段に走る。
 私は前のめりになって、ご主人の首筋目掛けて口を押し付ける。最初は舌先でぺろぺろと舐めて擽ってやる。ただの擽りだとご主人が油断して気を抜いたところで、私は牙を立てて首筋を噛んだ。
「あがっ!」
 一応、力の加減は注意していて、あくまでも甘噛みである。しかしご主人にとっては敏感な部分であるので。そうしただけでも素っ頓狂に身体が跳ねる。また、私の中に入り込んでいる肉棒もぴくっと脈を打った。刺激を与えたことにより、萎縮していた肉棒は幾らか大きくはなる。射精をする前までには肥大化しなかったが、それでも交尾が出来るだけの堅さと大きさは取り戻す。
 ご主人ははあはあと息遣いをしながら若干涙目になっていた。首筋を噛むなんて流石にやり過ぎたかな、でもこんな苦しんで喘ぐご主人も可愛らしい。私はそんな事を考えては、ご主人の頭を前脚で撫でながらこう言う。
「よしよし、頑張ったね、ご主人。これからご褒美に動いてあげる」
 乱暴にも程がある、と言いたそうなご主人の顔であったが、私はそれに対してにこにこと笑って誤魔化す。それに対してご主人の表情は笑って済まされるものではないと書いていた。だから私は更に誤魔化す為に、腰を上下に動かしては肉壁でもってご主人の肉棒を扱き始めた。
「あっ、はっ!」
 そうした途端に、口から蒸気になる程の吐息が漏れるのと同時に、自分でも信じられないくらいの甲高い声が出てしまう。
 私が腰を振るう度に、ご主人のが私の奥を何度も突いてくる。その感触が私にとってはきもちよくて堪らなかった。それこそ、目の前が真っ白になって意識が飛んでしまいそうな程に。
「ふぁっ、うっ!」
 ご主人の方も、私の動きに合わせて嬌声を上げ始める。口をぽかんとだらしなく開けては、私が腰を落とす度に何度も何度も漏らすのだ。
「ねえ、ご主人……きもちいい? 私はとってもきもちいいよ」
 心身共に満たされるような感じだった。身体を駆け巡るこの快感の虜となる。ご主人とこの快感を共有しているとなると尚更であった。プラスからマイナスへ電気が流れるように、私からご主人へと快感の授受が行なわれる。
「ああ……レントラー、ぼくもきもちいいよ……」
 ご主人の方もきもちいいと口にする。それを聞いた私はつい嬉しくなって口元を綻ばせる。そして、ふわふわとした気持ちで身体を上下に跳ねる。
 私が動けば結合部からはじゅぷ、ぬちゅと卑猥な音が奏でられる。それに加えて、ご主人と私とがぶつかって発生する肉と肉とが叩き合う音も響いてくる。
 肉壁と肉棒が擦れる度に電気が走るような快感に襲われる。それを私は全身で受け止めるのと同時に、ご主人とこの快感を分かち合う。それが私としてはしあわせだった。ご主人と触れ合う時間なんて最近無かった私にとっては尚更だった。
 いけない事をしているだなんて気はちっとも無かった。それどころか、ご主人と私はどうして最初からふたりで愉しもうとしなかったのだろうと思ってしまう。もっと早くお互いの気持ちに気付いていたら独りで処理するなんて事はしなかった筈だ。
「ごしゅじん、すきだよ……」
 快感の所為か、場の雰囲気の所為かは知らない。でも、私はついぽろっと自分の奥底に隠していた気持ちを吐露してしまう。
 言わなきゃ良かったかもしれない。ご主人は私の素性を知ったらきっと気味が悪いと思うから。だからいっそのこと、嫌いだと言ってくれた方が清々しかった。
 でもご主人からの返答は私が予期したものではなかった。
「レントラー、ぼくもだよ……」
 好きだと言われたら嬉しくない筈がない。今すぐにでもご主人に口付けしたいくらい私は嬉しかった。でも心が私の身体を縛り付けてしまってそれが出来ない。ご主人は表面だけの私しか知らないから本当に私の事が好きだとは言えない。
 だからせめて今だけは幸せで居よう。そう思いながら、私は身体を振り続ける。だけど、不慣れなことをしている所為か、段々と疲れを感じ始めてくる。
 ご主人に任せたかったが、ご主人の身体は未だに痺れているであろう。お仕置きとは言え、私がそうしてしまったのがいけないのだが。
 ならば、私がご主人を意のままに動かしてやればいいのだと思った。少々手荒な手段であるが、こうするしか術はない。
 私はご主人と身体を重ねている部分から微弱な電流を流していく。ご主人でも感じることが出来ないような程度の電流を身体から脳へと伝えていくのだ。
 そうすると、動かない筈のご主人の手が唐突に私の胸元の毛へと伸びていく。そして、ご主人の手にぐっと力が入ると、私は身体を乱暴に倒されて仰向けへとされてしまう。
 ご主人が驚いた顔をしながら私の身体を覆っていく。しかしその束の間、ご主人の腰が動き始めて私へと打ち付けてくる。一心不乱に狂ったように何度も何度も肉棒を膣奥へと沈めるのだ。それも、ご主人の意思とは無関係に。
「あっ、ああっ、ぅ、レントラー……何したのさっ?」
 ご主人が腰を揺さぶるながら私に問いかけてくる。そりゃそうだろう。自分の身体なのに、勝手に動くのだから不思議がらない訳がない。私はにこりと笑うだけで何も言わなかった。ここでご主人にバラしてしまうと面白味なんて無いと思ったからだ。
 手品の種としては簡単だ。ご主人の身体に流れる電気信号に私の電気を流しただけだ。ポケモンも人間も、電気信号を流すことによって身体を動かしている。その電気信号に私が手を加えてご主人が私を押し倒すように書き換えただけだ。そして今もご主人が私に向かって肉棒を打ち付けるように電気を流しているのだ。下手に強い電気を流したらご主人が絶命してしまう危険もあるので、本来ならばやってはいけない事だが手段は選んでられない。
 人間同士がするような体位はなんか恥ずかしく感じる。ご主人に私の身体を舐め回すように見られているような気がしてならなかった。普段家にばかり居るから野生の仔達に比べて身体の曲線美はそこまでない。それどころか、ある程度はだらしない肉が付いているだろう。みっともない身体をご主人に曝け出してしまうのが正直恥ずかしい。だけども、ご主人と顔を合わせながら交尾が出来るのは良いと思った。
 今は金色の瞳へと光らせていないので、あくまでも私の勘だがご主人が私の胸を触りたそうな顔をしていた。だが、ご主人が触ったところで面白くは無いと思う。だって私の胸は人型のポケモンみたいに膨らんでいる訳ではないし、寧ろ真っ平らと言ってもいいくらいなのだから。
 それでも、ご主人の目線は私の胸から動かない。時々、物欲しそうに私の瞳を見つめてくる。まるでおねだりをしてくる子供のようであった。
 私は心の底で仕方のないご主人だなあ、と呆れるのと同時に内心嬉しくも思った。こんな身体で良ければいくらでも触らせてあげようと私は思い、遂にご主人の身体を自由にさせてあげた。
 その刹那、ご主人の手が一目散に私の胸元へと伸びていった。胸元の毛にご主人が手を沈めていって、体毛を掻き分けていく。久々に触られた胸元は、くすぐったいような感じがしてならなかった。以前ならば、私がご主人の役に立った時には決まって撫でて貰っていたが、最近はめっきりなかった。
 それに加えて、ご主人の手つきはただ私の胸元を撫でるようなものではないから尚更だった。ご主人はやらしい手つきで私の胸元をまさぐってくるのだ。そうして、ご主人は目的のものを見つけては、口元が釣り上がるのと供に鼻の下が伸びる。スケベなのも甚だしいという言葉に尽きる。
「ご主人、私の胸じゃ触っても満足しないと思うよ?」
 期待外れだ、と思われないよう念のために私はそう言うのだが、ご主人の手はぴくりとも動かない。私の胸に置かれたままで動く気配が無かった。
「レントラーのだから良いんだよ」
 私の言葉を受けてご主人がそう答えると、私の胸を手のひら全体を使って揉んでくる。私の胸は膨らみなんて無いと言っても過言ではないので、触っているのと変わりはしないのだが。ご主人は、手のひら全体を胸に押し付けたり、指先で私の乳首へと触ってくるのだ。
 私は胸なんてろくに触られたことない。強いて言うなら、お風呂場で身体を洗って貰っている時には触られたことがある。しかし、こんな下心丸出しな手つきで触られた試しなんて無い。だから、胸を触られて気持ちいいなんて思ったのは今が初めてなのである。
 ご主人は私の乳首を興味津々な手付きで、何度も弄くってくる。指と指とで摘まんで引っ張ったり、指先で押し付けたりするのだ。自分の前脚では乳首をご主人みたいに器用に触れないし、そもそも触る都合なんて無い。それ故に、乳首が自分の性感帯なんて思いもしなかった。
 癖になりそうだった。ご主人とする時には乳首を責めるのを頼みたくなってしまう程に。それ以前に、もうポケモンではなくて人間でないと満足出来ないような身体になってしまいそうだった。いくらポケモンは体力があるといっても、人間の器用な手付きには敵いそうにない。
 手垢が付きそうなくらい弄った後で、ご主人は私の乳首へと口を付けてくる。そうして赤子のように私の乳首を吸ってくるのだ。ただ吸うだけには収まらず、舌で乳首を重点的に舐めてきたり、舌先で転がしてきたりする。それに加えて、ご主人の両手は複数ある乳首を弄ってくるのだ。それに対して、私はただただ口をあんぐりと開けて善がるしかなかった。
 ご主人は人間なのに、すっかり私の胸や乳首を気に入ってくれたようだ。ほぼ真っ平らで面白みなんて無いのにも拘らず、飽きることなく触ってくる。だけども、肉棒の動きは止めずに私の奥を何度も突く。もう何回突かれたのか頭では数えられないほどだった。だから今頃はきっと、私の秘部から滴る愛液で布団に水溜りを作らせているだろう。
 下半身だけでなく上半身も責められるとなると、ポケモンである私でも限界へと近付いてくる。ご主人の方は大丈夫なのだろうか。相も変わらず腰を振り続けているがそろそろ疲れたのではないだろうか。そう思っていると、ご主人が私の胸に沈めていた顔を上げ、更には両手を乳首から私の腰へと移動させていく。
 何をするつもりなんだろう。そう思っていると、私は両手でご主人に抱きかかえられてしまう。腰に据えていたご主人の両手は滑らせて私の背中へと回していき、私の背筋を布団に対して垂直にさせる。ご主人の股の上に私のお尻が乗せられて、ご主人は上下に跳ねるようにして私の膣を刺激してくる。先程、私がご主人の身体に跨った体位に似てるが、ご主人と向き合う形なので少し違う。人間ならではの体位と言っても良かった。
 ご主人の顔が目と鼻の先となると何だか恥ずかしく感じる。先程までは幾らか距離があったから良かったものの、こんなに至近距離となると自分自身が曝け出されている感じがする。
「レントラー」
 ご主人が私に優しく、そして甘く囁いてくる。ご主人がこんなに親しげに、いや、愛しげに呼ぶのを久々に聞いた気がする。私はそれに心を奪われてしまって、ご主人の胸に前脚を置いて拒むことなんて出来なくなる。
 ご主人が顔を私の顔へと更に近付けてくる。ご主人の息遣いまでもが聞こえてくる程に。そして、ご主人は私の口を、有無を言わさず奪ってくる。勿論、ただ口と口とが重なるような口付けではなくて、舌と舌とが絡まる激しい口付けをご主人はしてきたのだ。
 瞳を光らせなくとも、ご主人の気持ちがよく分かる。私の舌先に絡みつくご主人の舌、私を強く抱くご主人の手が表しているから。そして、私の中で暴れるご主人の肉棒が種を残したいと求めている。
 人間とポケモンとの間に子供なんて授かることは出来ないだろう。出来ないけど、ほんの少しでも期待している私がいる。番いになったらご主人ももっと私に振り向いてくれるだろうし、私ももっとご主人に素直になれるだろう。でも現実はそんなに甘くないって知っているし、私はこの眼があるからしあわせにはなれない。
 ご主人の肉棒が最後のもう一踏ん張り、と言わんばかりに私の膣奥を激しく突いてくる。それに伴い、ご主人の腰遣いも激しさを増していく。私は喘ぎ声を漏らしてご主人の口から離れてしまうが、またご主人が口を押し付けてくる。執拗にご主人が求めてくるが、それに私は悦んでいた。こんなにもご主人が求めてくれるなんて出逢って始めてだったからだ。
 いつまでも身体を委ねたくても、募る快感で限界に近かった。私がそう眼で訴えると、ご主人が分かったように頷く。そして最後に、思い切り私の膣奥を肉棒で突くのと同時に、私の敏感な部位である尻尾を引っ張ってきた。すると、私の身体には全身を電流のように駆け巡る快感が走った。私はその所為で、不規則に身体をぴくぴくと震わせてしまう。まるで生まれて間も無く立とうとする子供のようだった。
 口はご主人に塞がれているから吐息だけが漏れる。塞がれていなければ私は悲鳴のように叫んでいたであろう。
 私の一番奥ではご主人の精液が放たれている。二回目なのにも拘らず、ご主人の肉棒は最初の時と比べて劣らないくらいの精液を私の中へと注いでくる。そのお陰で、私のお腹が膨らんでいくような感じがしてならなかった。でも、ご主人の精は温かくて、私はその温かさで違和感があっても落ち着いてしまう。
 身体には疲労感があった。私が四肢をだらりとさせていても、ご主人はぎゅっとまだ抱き締めてくれている。重たければその両手を私から離してしまえばいいのに、ご主人はそうしようとはしない。だから私も、力は入らないけどご主人の身体に添えるように前脚を置く。
 眼と眼は合わせているけど、ご主人に焦点が合わなかった。でも、時間が経つにつれてご主人の顔の輪郭が浮き彫りになっていく。だが、それに伴って絶頂時に味わった快感が薄れていく。
 夢のような時間もこれで最後だと思うと寂しくなる。私は僅かに残る快感の余韻に浸り、まだご主人を感じようとする。だが、そんなのは消え去り、ご主人のだって段々萎縮してきて終いには私の中から出ていってしまう。ご主人が私のことを抱き締めているのがまだ救いであったが、ご主人が私の素性を知ったらきっと手放すであろう。
 それでも良かった。一時的ではあれ、ご主人と私は互いに想い合っていたのだから。その事実さえあれば私は後悔なんてしない。
 覚悟を決めて、私は金色に瞳を光らせてご主人を見つめる。ご主人の心の底では、私が何故透視能力なんか使ってるのか気にすることなくこう思っていた。
『レントラーの瞳はいつも綺麗だけど、金色に光ると更に綺麗だなあ』
 そう言われたら、私は吐露しにくくなってしまう。でも、言うのを渋ってしまったらご主人のためにもならないし、私のためにもならない。だから私は固唾を飲んで、ご主人に思っていた事を言い放った。
「……レントラーの瞳はいつも綺麗だけど、金色に光ると更に綺麗だなあ」
 私がそう口にすれば、ご主人の眼が丸くなる。終いには、ぽかんと空いた口が塞がらなくなる。そりゃそうだろう、誰だって自分の考えてる事を言われたら変に思うに決まっている。
「……ねえ、ご主人、驚いた?」
「え、あ、あれ? もしかして今、思ってる事を口にしてた感じ?」
 ご主人の問いに私はううん、と首を横に振って答える。すると、ご主人は尚更驚いたような顔をする。もしかして、とご主人が口ずさんだが、私はご主人の言葉を掻き消すように自分の正体を漏らす。
「今まで内緒にしてたけど、瞳が金色に――透視能力をしているときは思ってる事まで読み取れるの。だからご主人が自慰してたときも、さっきのご主人が思ってた事が口に出来たんだよ」
 ご主人は黙って私の話を聴いていた。動揺しているのか、気持ちの整理が出来ないのかは分からないが、ご主人の心の声は聞こえてこない。でも、これだけは訊かせて貰おう。
「ご主人はこんな私を気持ち悪いと思うよね?」
 たとえ黙っていようとも、心で呟けば私に筒抜けだ。私の瞳が金色に光っている以上は、ご主人は嘘を吐いて誤魔化すことは出来ないのだ。ご主人の本当の気持ちを聞ける私は気持ち悪いと言われるのを待っていた。でもご主人ときたら私に心の中でこう言ってくるのだ。
『相手がレントラーなら、気持ち悪いなんて思わないよ』
「嘘だっ!」
 予想もしていなかった言葉に、つい私はご主人に叫んでしまう。出来ることならご主人の胸に爪を立てて引っ掻いてしまいたい。普通なら心の声が聞こえる私なんて気味が悪いに決まっている。でもご主人の心は正直だ。私の事をちっとも気持ち悪いだなんて思っていない。お人好しにも程がある。だけど、それでは私から距離を置いていた事と辻褄が合わないのだ。
「じゃあなんで、今まで私を遠ざけてきたの? 最近は撫でてもくれなかったし、口もろくに効いてもくれなかったのに!」
「……ごめんよ、レントラー」
 ご主人が申し訳なさそうに謝る。そして私の頭を撫でながら心の中で言ってくる。
『僕がレントラーを性的な意味合いでも好きになってしまったから遠ざけてたんだよ。そうでもしないと、君を襲ってしまいそうで』
 ご主人の言う通りなら一応辻褄は合っている。自制心を保つために私となるべく関わらないようにしてきたと。だが、あんなに素っ気ない態度を取られるくらいなら襲われた方がましだったと思う。現に、私が我慢出来なくて襲ってしまった訳だし。
 私はまだまだ言いたいことはあった。でも今度は逆にご主人が私へと訊いてくる。
「レントラーの写真をオカズにしてたし、僕の方がよっぽど気持ち悪いんじゃないかな……」
 ご主人の声は震えている。ご主人の心は嫌悪感で一杯であった。ご主人の気持ちを察するに、どれだけ私に隠れて、自慰をしたのか数えられない程にしたのだろう。
 立場が変わったからこそ分かる。ご主人も私と同じで気持ち悪いと言って貰いたいのだと。お互いが咎められるのを求めているのである。
「ご主人は……きもちわるくなんかないよ」
 でも私もご主人と同じく気持ち悪いとは言えなかった。誰かを想って自慰をするなんて誰でもあることだろうから気にも止めないし、寧ろご主人が私の事を想ってくれてたのなら寧ろ嬉しいぐらいだ。だけど、
「レントラーこそ、無理して嘘ついてない?」
ご主人は目を見開いてこう言い放ってくる。レントラーからしてみれば気持ち悪いに決まっている、さっきのは嘘で本当は僕の事なんて嫌いなんだ、と心の中で呟く程に今のご主人は疑心暗鬼に満ちていた。ご主人の心の声を聞いていると私はいたたまれない気持ちになる。だからこそ、ご主人の心に潜む闇を拭い去る為に、私は言葉を連ねるのではなくて態度で示してあげる。
 金色の瞳でご主人を見据える。そしてご主人の頬にそっと優しく口付けをした。私は心の底からにこりと笑うとともにご主人にありのままの気持ちを伝える。
「嘘なんかじゃないよ。ご主人は私の大切な人だから」
 その刹那、ご主人の心にあった闇が晴れていく。ご主人は私はぎゅっと強く抱くとともに、ご主人も私の頬に口付けをしてくれた。
「それは僕もだよ。僕だってレントラーが大事だ」
 ご主人の口から、否、心からの本音に嬉しくなる。これまではすれ違いだったけど、こうして再びご主人の温もりに触れることが出来るなんて私はしあわせだと思う。
「嘘……じゃないね。嘘だったら雷の牙しようと思ったけど」
「それは冗談だよね?」
「うふふっ、どうだろうね」
 勿論、冗談に決まってるけど。ご主人ときたら若干本気に捉えているのが私にとっては面白かった。
「ご主人、私に隠し事はもうしないでね」
「ははっ、レントラーの瞳が光っているうちは嘘も隠し事も出来ないよ」
 私の言葉に対して、ご主人は苦笑しながらそう言う。だから私は意地悪をしたくてあえてこう言った。
「じゃあずっと瞳を光らせようかな」
「えっ?」
「嘘だよ、ご主人……ふふっ」
 素っ頓狂に言うものだから私は声に出して笑ってしまう。ご主人は勘弁してくれと言わんばかりな表情をしていたが、私が笑ったのに釣られて微笑む。
 この瞳なんて、こんな心の声が聞こえる力なんていらないと思ってた。だけど結果的にはこの瞳によって救われてしまった。ご主人が綺麗と言ってくれた金色の瞳に。
 だけど私は瞳を光らせるのを止めた。だってもう必要なんて無いと思ったからだ。ご主人の気持ちも私の気持ちも、嘘偽りなんて何処にも無いのだから。
 ご主人と眼が合う。するとご主人が私の頭を撫でくれた後に、鬣を指先で梳いてくれる。指先から伝わる感触に身体を通して授受される温もりが心地好いと思いながら、私はご主人に身を委ねていた。


原稿用紙(20×20) 70.5 枚
総文字数 24880 文字
行数 332 行
台詞:地の文 2147文字:22733文字


後書き
レントラーと言えば眼ピカーですよね。公式だと瞳が金色に光る設定だそうです。
眼ピカーは透視能力が発動したときにしますが、透視能力だけでなく読心術も付けたら面白いんじゃないかと思って書いたのがこの作品になります。
ぱっと思いついて勢いだけで書いてましたが、なかなか書き終わるのが遅くなってしまいました。実は3月には挙げる予定でした(白目
何はともあれ、ここまで読んで下さった読者の皆様、ありがとうございました。


作品に対する感想やコメントがありましたらお気軽にどうぞ

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  • 待ってました文書き初心者さん!!
    新たな作品をいまかいまかと待っていたかいがありました!
    レントラー大好きなんで個人的にはかなり嬉しい作品でございました!
    レントラーの金色の眼に見透かされたら私は煩悩だらけなんで逆にレントラーが困ってしまうかもですww
    ごちそうさまでした!!w
    ――名無し ? 2015-04-29 (水) 01:19:02
  • >名無し様
    まず初めに、こちらが気付かなくて数ヶ月もコメントをスルーしてしまい、申し訳ないです。
    最近はポケモンに対する熱が冷めてて、あんまりネタが浮かばないのですよね…。
    ともあれ、レントラーの出る今作が気に入って下さったようでこちらとしては嬉しい限りです。
    自分も煩悩だらけですのでレントラーを困らせるどころか、呆れさせてしまいそうです(
    こちらこそ、楽しんで読んで頂きありがとうございました!
    ――文書き初心者 2015-07-05 (日) 01:28:34
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Last-modified: 2015-04-24 (金) 01:21:53
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