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きみは話を聞かない

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きみは話を聞かない


>作者:布吉はも
>目次


はじめに 

 ご訪問いただきありがとうございます。
 本作品は以下の内容を含みますのでご注意ください。
 
 □ポケモン同士が話します
 □関西弁を話すポケモンがいます

 ※本作品は、作者が #ポケモン版深夜の140字ワンラ にて投稿したものを元にしたお話です。
  どこかで見たことがあるな、という方はありがとうございます。
 

あらすじ 

 ポケモン達が暮らす世界の、大きな森と広場が自慢のとある町に家族で引っ越してきたクスネ。お昼ごはんを探して森の中、かわいいミミロルに出会ったのでした。
 カンサイ訛りのクスネと、明るくて押しが強めのミミロルが腐れ縁になるまでのお話。


きみは話を聞かない_01 


 紅葉が綺麗な秋の広場で、クスネは木のうろを覗く。赤や黄色の落ち葉に覆われた、誰かの秘密の隠し場所。こんなに沢山あるんやもん、ちょっとくらい。クスネは心中で言い訳をしながら、積み上げられたきのみの一つを掴み上げる。


「なにしてるの?」
「ひわあ! え、だ、だれ……?」
 突然のしっぽを掴まれる感覚と高めの声に、かわいくない悲鳴が口からこぼれた。なんなら折角見つけたズリのみも手からこぼれ落ちた。振り向けば、一匹のミミロルが真っ黒でつぶらな瞳を輝かせてこっちを見ている。

 その小さな両手で、私のしっぽを抱きしめながら。
「え、ちょっと、なにすんの……?」
「ね! きみ、名前は?」
 ――どうしよう。話を聞かへんタイプのポケモンや。

「いや、あの、うちのしっぽ。はなしてくれへん……?」
「ウチ? ウチっていうの?」
「いや、名前はシノメやけど、そうやなくてしっぽ……」
「シノメ! よろしくね!」
「……はあ」
 相変わらずしっぽを抱きしめる手は緩めずに、にこりと笑みを向けられる。ここまで一方通行だといっそすがすがしい。見た感じ、私と同じくらいの子どもみたいだけれど、この辺りに住んでいるのだろうか。

「えっと、その、この辺の子?」
 しっぽのことはもう諦めて、とりあえずは素性を知ろうと聞いてみた。
「あっ! そうだよ! メレンって呼んで! シノメは今日初めて見た!」
 気さくに、春の花が咲くみたいに笑う。その気さくさに中てられつつも、何とか会話を続ける。
「……メレンくんな、よろしゅうね。うちは三日くらい前に、家族でこの森に引っ越してきたんよ」
 その時、彼の笑顔がふっと消えて、真ん丸な目が更に見開いたように見えた。
 先ほどから忘れていた、後ろめたい感情を思い出す。
「……! シノメ、あの、」
「あっ! こ、このきのみ、たまたま見つけたんやけど!」
 何かを言おうとした彼の声を、早口で遮る。

「……え、あ、うん……? あ、でもその木はヨルノズクのリンダねーさんの倉庫だから、そこのきのみは食べちゃ駄目だよ!」
「そ! そうなん! 知らんかった、せやったら、戻しとかなね」
 笑顔に戻ったメレンにほっとしつつ、うるさい心臓の音が聞こえないようにと声がつい大きくなる。

「あっちにぼくの秘密基地があるから、一緒にいこ! きのみもあるよ!」
 やっとしっぽを開放されたと思ったら、今度は森の奥へと手招きされる。
「いや、うちはそろそろ、」
 おいとましよかな、と言いかけたところでお腹の白い毛の奥からくるると控えめな音が響く。自分に聞こえていたのなら、種族上耳がいい彼にも聞こえているのは当たり前で。
 案の定、ふわふわの耳がぴょこりと両方長く伸びて、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「ほら、お腹空いてるでしょ? オレンも、モモンも、とっておきのロメのみだってあるからさ!」
 にやにやと嬉しそうなメレンに促されるまま、広場から北の森へと進んでいく。

 赤、黄、橙に染まった落葉の絨毯を踏みしめる足音が秋風に混ざる。さく、さく。ゆっくりと踏みしめる彼の足音に合わせて、四つ足の歩幅を少し狭める。

 ゆったりと進む木々を背景に、隣で歩むメレンを見る。彼は全体的に少し色素が薄いようで、体はミルクティー色をしている。ふわふわの耳の先やおしりも、ベージュというよりは白に近いクリーム色をしていた。自分の暗い赤色とは違う、柔らかい色彩。

 五分足らずで蔦が絡んだ煉瓦がそこかしこに見え始める。そのいくつかにぴょんぴょんと器用に飛び移りながら、メレンはここでいつも遊んでいること、雨の日は雨宿りができる場所もあることなどを教えてくれた。

 そうして煉瓦が散らばる空間を抜けた先で、細い木々の隙間をかいくぐって辿り着いた秘密基地。それは古めかしい大木と、その根元にずしりと腰を下ろした巨岩だった。
 風化した岩の表面は所々結晶のように鈍く日光を反射している。岩の下からは木の根が盛り上がり這い出し、その周りにたくさんの煉瓦が並んでいた。

 先ほどまでと同じように煉瓦を足場にしながらメレンはあっという間に岩の頂上まで登り切り、こちらに呼びかけた。
「シノメ! こっちだよ!」
 数メートル頭上からの声が、私の耳を素通りしていく。

 ――いやいや、今、最後の煉瓦から岩のてっぺんまで一気に跳んだ、よな? ゆうに二メートルはあったんやけど……?
「いや、それは無茶やわ……」
 ぽそりとツッコミを入れつつ首を振るうちの様子を見て、どうやら跳躍力の差に気付いた様子で、メレンが岩から飛び降りて戻ってくる。

「えっと、えっと……やっぱりこっち!」
 あせあせと忙しなく手を招きながら、岩の裏側へと案内される。恐らくは彼が積み上げたのであろう煉瓦は綺麗に岩と木の接地面に沿って積み上げられ、固定されている。
「ここを登ったら、入り口だから!」
 先ほどから秘密基地の大きさと、雰囲気に圧倒されていたこともあり口数が減ってしまっていたのを、もしかしたら機嫌が悪いと勘違いしているのかもしれないメレンは、そう言って岩の上の方を指し示す。
 相槌を打って階段のように煉瓦を登ったその岩のてっぺんで、思わず後ろ足の力が抜けて尻餅をつく。尻尾が少し遅れてぽふりと跳ねる。

 そこにあったのは、滑り台だった。半円状に削られた岩の断面を、苔と落葉が覆っている。一メートルに満たないくらいのなだらかな滑り台は、そのまま木の幹にぽっかりとあいた穴へと続いていた。

「えと、シノメ、大丈夫? 階段、きつかった?」
 ちょっと心配そうなメレンの声。そんなことないよ、うちも一応、体力には自信あるから。そう返そうと思ったのに。
「す……」
「す?」
「すごい! かっこええ! こんなおおきい基地、こないに綺麗に……!」
「んえ?! そ、そお?」
 口元を手で隠して照れくさそうに言うメレン。
「……こほん。……うん、かっこええと、思う。メレンくんは器用やねえ……」
 取り繕うように白々しく咳ばらいをしてみたけれど、見れば見るほど壮大な秘密基地。外観だけでも巨大なオブジェのようだったのに、簡単に辿り着けないてっぺんに滑り台まであるなんて。
 ほう……と息を吐いて穴の向こうを見ようと身を乗り出す。
「あっ」
 突如ひっくり返った視界は青一色。ざざざ、と耳元で鳴るのは木の葉が擦れる音。視界が再び反転して、みるみるうちに木の幹が眼前に迫る。

 内臓が浮き上がる、感覚。

 滑り台から放り出され、でんぐり返りの後みたいな体制のまま重力に沿って落下した。頭から落ちた先は、蔦で編まれたハンモックと、木の葉のベッド。
「むぎゃ! い、いったぁ……へぶ!」
 情けない悲鳴を上げて起き上がったところに、もふりとした何かが視界を埋める。クリーム色の、ふわふわの、
「ふは! びっっくりしたあ。シノメ、だいじょうぶー?」
 のんきに私の頭の上で笑いながら、踏みつぶした相手の心配をする彼のお尻を、しっぽで少し強めに押しのける。
「……おかげさまで。鼻が低くなるかと思ったわ」
「ね、ね、滑り台、どうだった?」
 嫌味なんてものともせず、メレンはへらりと笑って首を傾げてくる。なんか癪やから、努めて冷静に「まあ、すごいな?」とだけ返した。楽しかったことは、今は黙っておこう。

 改めて辺りを見渡すと、その木のうろは小型のポケモンが五匹はゆうに入れるくらいに広かった。あまり人工的なものはないけれど、落ち葉や土埃が少ないことから掃除のあとが見える。 
「これ、全部メレンくんがつくったん?」
「うん、部屋の中のお片付けはぼくがちょっとずつやったよ! あ、でも、滑り台は磨いてはっぱを敷いただけなんだけど……」
 さっき私が褒めたからか、後半の声は少し気まずそうにしぼんでいった。
「いや、それでも十分すごいよ。こんな大きさの秘密基地、はじめて見たわ……」
「へへ、ありがとう! あんなに喜んでもらえると、やっぱり嬉しいね!」
「う……さっきのは忘れてもらってもええからね?」
「え、やだよ! 折角褒めてもらえたのになんで! ……!」
 頬を膨らませて不満げに言った後、さっきお腹の音を聞かれた時と同じいたずらな笑みを浮かべる。嫌な予感。
「もしかして、はしゃいじゃったの、恥ずかしいんだ……?」
 手を腰において、にやにやとこちらに詰め寄ってくる。ぐうの音も出ない私を見る瞳が楽しそうに、嬉しそうに弧を描く。
「かわいかったんだから、恥ずかしがらなくていいのにぃ」
「ああもう! 思ってもないこと言わんでええから! ていうか、あんたの方がよっぽどかわいいねんから!」
 しつこい追撃に耐え切れず、半ば叫ぶように反論しながらメレンを前足で押し返す。
「いや思ってるからね! それに、ぼくは、……ぼくはかわいくなんてない!」
 さらっと今日会ったばかりのポケモンに、しかもクスネにかわいいなんて言えるのは、きっと彼くらいだろうな、と思った。けれどそんなことよりも、後に続いた彼の主張に違和感を覚える。それは、今日会ったばかりだから、そう言ってしまえばそれまでだけれど。彼がこんなに低くて憂いを含んだ声を発するのだ、ということを、私は知らなかった。知る由も、なかった。
「え、」
 言葉に詰まった私の目と、戸惑いに揺れる黒い目。重なった視線を先に逸らしたのは、彼の方だった。不自然な沈黙がおりる。メレンは踵を返して、立ち幅跳びのように両足で大きな一歩を跳んだ。なんだか急にその背中との距離が途方もなく長いような錯覚を覚える。何か、何か言葉を、
「はい! きのみ、どれにする?」
 目の前に現れる、青、桃、緑。色とりどりのきのみが差し出されている。その声の主は、もちろんメレンである。
 出会った時の春の花が咲くような笑顔、によく似た、取り繕うような穏やかな笑みを浮かべたミミロルがそこにいた。気を遣われている、それくらいは分かった。
「……じゃあ、ロメにしよかな。はんぶんこにしよ」
 どうしたん、とか、ごめん、とか、深く踏み込む勇気も、気の利いた言葉を掛ける器用さも持ち合わせていないものだから、隣できのみを食べる提案くらいしかできなかった。

「さっきはなんか、おっきい声だしちゃってごめんね! 思わずむきになっちゃって」
 二匹で並んでロメの実をちまちまと食べている時、ふと思い出したふうを装って彼が言った。眉尻を下げて笑う、その言い訳はきっと、嘘なんだろうけれど。申し訳なく思う気持ちは本当なのだろうから、もうそれ以上は聞かない方がいいのだろうと思った。

「会った瞬間からしっぽに抱きつかれてたら、今更大声くらいで怒ったりせんよ。それに、」
 ロメのみももろたし、と現金に笑って見せる。彼は安心したように、今度こそ花が咲いたような笑顔を浮かべた。


 ロメの最後の一欠片を口に放り込み、立ち上がる。ふと入り口を見上げれば、丸く切り取られた空が朱色に染まっていた。
「あ、もう日が暮れそうだね! ……そろそろ帰らなきゃまずい?」
 うちの視線を追って気付いた様子で、メレンが尋ねてくる。
「せやねえ。広場に行くとしか親にも言うてないから、せめて元おったとこまでは行っとかんとまずいかもなあ」
「そっか……。じゃあ、基地の案内はまた! また、……あした、とか、どう?」
「……秘密基地の家主が良ければ、うちはいつでも」
 この秘密基地まで連れてきた勢いが嘘のように、なんだか控えめに様子を窺ってくる。もちろん、と言いかけたのを内心の天邪鬼が咎めたせいで、なんとも、本当にかわいくない返事になってしまった。
「! やったあ!」
 それなのにそんなに嬉しそうに声をあげるものだから、もう訂正も言い訳もできなくて口を引き結ぶ。


 その後は少し急ぎ足で、入り口の穴へ続く縄梯子を登って、煉瓦の階段を下って。蔦が茂る煉瓦の小道と秋色の絨毯を駆け抜けて。最初に出会った木の近くで「また明日」と約束をして、ヤミカラス達が起き出す日没間近には別々の帰路についた。


 家に帰ると案の定、両親は出かけていた。キッチンに置かれていたきのみとパンを少し食べて、自分の部屋のベッドで丸くなる。

 どたばたと引っ越してきてから初めての外出で、広場と森と、秘密基地に行ったこと。そしてこの森に来て初めて出会った、気さくで優しくて、かわいいを嫌うミミロルを思い浮かべて、彼女はゆっくりと眠りについた。

■つづく
 


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Last-modified: 2021-02-08 (月) 23:25:40
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