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きみはおんなのこ

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きみはおんなのこ 

writer――――カゲフミ

 大きく息を吸い込んで両目を閉じる。この広々とした空間は私の力を発揮するには申し分ない。障害物を気にせずに存分に動き回れる。
さて、どこから来るか。前か、後ろか、あるいは上か。毎回パターンは違えどどんな順番でも反応しきる自信はあった。
神経を研ぎ澄ませて集中していると私の背後、やや左側で微かに空気の流れが変わった。今回はそこからか。
私は振り向きざまに左手を素早く振り上げる。突如、紫色の衝撃波が私に向かって飛んできていた白い球を真っ二つに打ち砕く。
切り口もすぱっと綺麗に揃っている。片手でこの威力と精度ならば十分だろう。正面から来た球は両手で四つ切にしてやったっていい。
サイコカッター。私が最も気に入っている技だ。と、次は真上からの直撃だ。私は両手をさっと上に上げて真っ黒な球を放つ。白い球とは随分と対照的な色。
黒球は瞬時に白を飲み込むと、軽い爆発音と共に周囲に白球の残骸を飛び散らせた。落ちてきた破片が私の肩や背中、尻尾に当たる。
ぶつかったときの衝撃は大きいものの、その後が美しくないのが難点だ。シャドーボールの餌食になった破片を、私は軽く体を震わせて払い落とす。
おや、今度は前後か。二つ同時に来ようとも同じように対応するまで。両手を前と後ろに伸ばし、目を閉じて軽く念じる。
三本の指の先に淡い念力の波がゆらゆらと揺れ始め、私を挟み撃ちしようとしていた白球の動きがぴたりと止まった。
念波は球全体を覆いつくし、そして。私がぐっと手を握りしめるといとも容易く白い球はまるで紙のようにくしゃくしゃになって床へ空しく転がった。
む、次は四方からのようだ。数を増やせばいいってもんじゃない。角度も丁度九十度区切りので、球の高さもすべて同じときている。
これでは私に上手くかわしてくださいと言っているようなもの。さっきのようにまとめてサイコキネシスで捻り潰してやってもいいが、それでは芸がない。
四つまとめて相手をしてやるとしよう。球が私に迫ってくる。十メートル、まだ遠い。五メートル、まだだ。二メートル、そろそろか。
ぎりぎりのところまで白球を引き付けて私は素早く身を屈め、丁度四つの球が一点でぶつかるタイミングを見計らって。両手で渾身の力を籠め、光球を放つ。
至近距離ではどうだんの直撃を受けた四つの球はほとんど消し飛んでしまったらしく、残骸がどこに行ったかも分からない状態だ。少々本気になりすぎたか。
もう新しく球が飛んでくる気配はない。終わったと見せかけて不意打ちされたときもあったが、ありがちな見え透いた手口。
私の身体能力を馬鹿にしてもらっては困る。どんな場合であろうと白い球の直撃を食らったことは一度たりともなかった。
操作室のドアが開いてこの空間に一人の男が入ってくる。無精髭を生やして黒縁の眼鏡を掛け、白衣を着ている。私を取り巻く研究員の一人。
やや不自然な笑顔と乾いた拍手の音。称賛という名の社交辞令でもある。近づいてきた男に、私も戦闘モードで強張っていた表情を少しだけ緩めた。
「今日も調子がよさそうだな、レイ」
 私の名を呼び、彼は親しげに話しかけてくる。数ある研究員の中でも彼はかなり社交的な部類だ。
私とは必要最低限のことしか話さず、研究以外には無関心といった者もいるのだ。その点彼は親しみやすいタイプであると言えよう。
「ああ、悪くはない」
 しかしどうして研究員と言うのは誰も彼も同じような顔つきや体格をしているのか。名前と顔が一致するまでに時間が掛かった。
最初は名札を見なければ誰が誰なのか判別が付かなかったくらいだ。私の認識能力が低いのか、あるいは彼らの外見が特徴に乏しいのか。
男性だけならともかく、女性でもほとんど男性と外見に差がない者までいるから余計に紛らわしい。白衣には個性を潰す力でもあるのかと疑ってしまいたくなる。
慣れないうちは随分と混乱させられた。もちろん今は私も彼の顔を見るだけで、ジェンという名前で呼ぶことが出来るようにはなっている。
「私に球を命中させたければ、もっと工夫することだ」
 そう言って私は肩に残った最後の白い破片を払いのけた。まあ、工夫してみたところで私に球を当てることなど不可能に近いだろうが。
研究員の中でも球の動かし方にはそれぞれ違いがある。一球ごとに角度や速度を変えて対応し辛くしてくる者。
何度も連続で球を放ち数で勝負しようとしてくる者。お疲れ様と声を掛けてきた後で奇襲してきた卑怯な者もいた。
その中でもジェンの球は読みやすい。正面からの一本勝負を好むらしく、変化球や小細工らしき方法を一切使わない潔さ。
おかげで対応は一番楽で私も余裕をもって迎え撃てるが、楽に勝て過ぎて終わったあと少々物足りなくなってくるのだ。
「はは、善処するよ」
 眼鏡の奥の目を細めてジェンは苦笑いを零す。そういいながらも次の時に大した進歩は見られないのが彼の特徴だった。
やる気がないだけだと思っていたのだが、最近では私に白球を当てることに興味がないのではないかと感じるようになってきた。
彼の瞳は私の身体能力ではなく、別の面を見据えているのではないか、と。それが何なのか判断するまでには至っていないが。
「今回はちょっと新しいことに挑戦してみたいと思う」
「また何かの実験か。どうせなら退屈しないものがいいが」
 これまで私は幾度となく、彼らの言う実験や研究とやらに携わってきた。私はジェンを含む彼ら研究員の手によって生み出されたポケモン、ミュウツー。
幻と呼ばれるポケモン、ミュウの遺伝子をもとにより強い力を持つポケモンへと遺伝子を操作して造られた、らしい。
私はそのミュウがどんなポケモンなのかも知らないし。それに、人間に作り出された存在だからと悲観的になったりしたこともなかった。
自分がどこから、誰によって生み出されてきたか。そうした事柄を深く考えることに私は大して興味などないし、どうでもいい。
貴重な研究対象として研究員たちの実験に付き合わされるのは少し面白くないときもありはしたが。私はこれでも割と研究所の生活が気に入っている。
むしろ、こんなにも素晴らしい力を持ったポケモンとして生み出してくれた研究員たちには感謝しているくらいだ。
私が軽く念じるだけで形あるものが簡単に真っ二つになったり、砕け散ったりするとき。私は私が特別な存在なのだと実感する。
私が何か力を発揮するたびに、研究員達の目の色が変わる。歓声が起きる。堪らなく心地良かった。それはきっとここでしか味わえない。
と、私が自惚れに近い優越感に浸っているうちにジェンが何やら長々と今回の実験の説明をしていたらしい。
研究員たちは話が長くて困る。それにちゃんと聞いていても分からない用語が多いし、最近では途中から聞き流すことが多い。
私に研究内容を聞いて欲しければまずは分かりやすく聞かせる努力をしてもらわねば。とりあえず私は適当にうんうんと頷いておいた。
彼の話をかいつまんでみたところ、私の体に特殊な波動を当ててその後変化が起こるかどうかを調べたいらしい。
纏めれば一言で済むようなことをなぜこんなにも喋りたがるのか、研究員のそんなところは私には理解できそうにない。
「波動を起こす装置は別の部屋で用意しているから、一緒に来てほしい」
「良いだろう。一応聞いておくが、危険はないのだろうな?」
 数々の実験に手を貸してきた私が言うのも今更ではあるが念のために。これまでの実験で私が身の危険を感じたことは、私が記憶する限りでは一度もなかった。
研究員達にとって私はとても貴重な研究対象。もし何か命に関わるようなことがあれば、被る損失は計り知れないはずだ。
私がこうして二つ返事で実験に協力しているのも、自分自身が彼らにとってなくてはならない存在だという自覚があるからこそ。
大して面白みのなさそうな実験にわざわざ付き合ってやっているのだから、最低限の安全性くらいは重視してもらわなくては。
「理論上はな。万が一レイが体に異常を感じたら、遠慮なく装置を壊してくれて構わないよ」
 ジェンにとっても他の研究員にとっても、研究所内の装置は大事な財産なはず。開発には莫大な費用と時間が掛かっていると思われる。
もしもの時はそれを切り捨てると簡単に言い切れるのは、よほど自信があるからなのか。あるいは、私の身を案じてくれているのか。
まあ、どちらでもいいさ。そんなに乗り気はしないが、白球の相手をするのも飽きてきたところだし。ジェンの実験を手伝ってやるとしよう。



 波動を出す装置のある部屋までレイを案内して、中央の床に掛かれた円の中へ入ってもらった。その中へ波動が送り込まれる仕組みになっている。
僕の申し出に今回も快くとまではいかないが、首を縦に振ってくれた。レイの興味が湧く実験と湧かない実験では明らかに後者の方が多いだろうに。
実験への協力を渋らないレイには僕も他の研究員達も随分と助けられている。今回の実験、何としてでも成果を残してみせなければ。
テーマはフォルムチェンジ。本来の姿から外見を変化させる、しかし進化とも違い元の姿に戻ることもできる現象のことを指す。
このフォルムチェンジが可能なポケモンは何体か報告がされている。有名なのはロトムのフォルムチェンジだろうか。
ロトムは電気、ゴーストタイプのノーマルフォルムからそれぞれ五種類のフォルムに姿を変えることが出来る。
能力が変動したり、新しいタイプが付いたり、新たに使えるようになる技が出来たりとポケモンの身に起こる変化は様々だ。
ミュウツーでこのフォルムチェンジを行うことが出来ないだろうか、と考えたのが今回の実験を行う切っ掛けになった。
もしフォルムチェンジが可能になった暁には、レイに秘められたさらなる能力を開花させることが出来るはずだ。
元々レイは強い。その先にあるもっと上の力を。僕は一研究員としてこの目で見てみたくなった。
この部屋の装置はポケモンの体の細胞に一時的な変化を起こす波動を発生させる仕組み。だが、いきなり変化の波動を送るとレイの細胞が驚いてしまい危険だ。
そこで拒絶反応を起こさないために、送る波動の中にはレイの細胞の情報も組み込んでいる。
装置の起動は今回が初めてではあるが、もし失敗だったとしてもレイの体に変化はなく何も害は起こらないはず、理論上は。
もちろん、フォルムチェンジを起こすほどの強い波動は最初の実験で送るべきではない。今回はフォルムチェンジのための前段階の実験と言ったところか。
外見そのものを変えてしまうのではなく、まずは内面からのアプローチ。本来性別を持たないミュウツーに性別を持たせられるかどうか。これが今回の目的だ。
僕個人の独断と偏見で変化させる性別は雌を選んだ。本来無性別であるレイは雌雄どちらともつかない中性的な雰囲気を持っていて非常に迷いはしたのだが。
技を放つときや僕ら研究員と会話をしているときでも、時たま仕草や身のこなしに優雅さが見え隠れするレイ。僕の中では雄ではなく、雌のイメージが強かった。
「じゃあ、波動を送るぞ。もし危険を感じたら無理はしないでくれ」
「言われなくてもそうさせてもらうさ」
 レイは右手にゆらりと念力の影をちらつかせてみせる。不具合が起こった場合はこの装置の大破も覚悟しておかなければ。
壁のレバーに掛けた手に一瞬躊躇いが生まれる。レイの手前、自信満々にああは言ったものの。僕も装置を大事にはしたいと思っているし。
いや、大丈夫さ。波動にずれがないか何度も計算して確かめたんだ。きっとうまくいく、はず。
軽く息を整えて僕は思い切って壁のレバーを一気に引き下ろした。鈍い音がして天上から淡い光が発生した。部屋の中央、レイが立っている円を覆うように。
最初、緊急事態に備えて少し身構えていたレイ。緊張していたのは僕も同じ。何しろ初めての試み。全例がない分、安全性にはどうしても不安が残る。
しかし時間が経過しても特に体に異常は起こらなかったらしく、レイも後半は落ち着いて波動の光を受け入れていた。
どうやら波動を送る時点での問題は特になさそうな雰囲気で一安心。あとはちゃんとフォルムチェンジが行えているかどうか。レイが雌になっていれば成功だ。
やがて天上からの光が収束し、波動の送信は終了する。ふむ、どうやらここまでは順調に進んでいると言ってもいいだろう。
レイは自分の体を隅々まで見渡してみたり、念力のエネルギーを軽く宙へ放出してみたりして変化を確認している。
外見的な違いはないはずだ。ポケモンでは雌雄で見た目の違いがない種族も多いし。安全のことも考えて外見の変化は加えていない。
性別が付いたかどうかを見極めるには、おそらく下半身をチェックするのが一番分かりやすい方法になる。ちょっと失礼して、と。
「何をしている?」
 僕は身をかがめ、レイの下腹部を眺めさせてもらう。ミュウツーの下腹部の部分から尻尾の先に掛けては濃い紫色になっている。
その股の辺りにこれまでになかった切れ込みが確かに入っていた。長さはおよそ十五センチあるかないかと言ったところ。
ミュウツーの体格を考えると、妥当な大きさであると考えられる。どうやらちゃんと雌の体に変化しているようだ。僕の計算は間違っていなかった。
「実験は成功だよ」
「成功したのか、これで?」
「今回は君を一時的に雌に変える実験だったんだ。ほら、ここに切れ込みが入っている。雌になった証拠だよ」
「私が雌に、ふむ」
 どうもぴんと来ていないのかレイは筋に沿って指を動かしてみたり、割れ目を指で広げてみたりと不思議なものを触るような手つき。
今まで自分になかったものなのだから無理もないか。雌の体に慣れるまでは若干の違和感が付きまとうかもしれない。
何はともあれ成功したようで一安心。次は雄にも変化できるようにして、最終的にはフォルムチェンジまで辿りければと思う。
どのみちレイにはこれからも実験に協力してもらうことになるだろう。感謝の気持ちを込めて僕はレイの手を取った。
「今回もありがとう、レイ」
「……っ!」
 僕が両手で手を握った瞬間、レイの体がびくりと震えた。明らかに何かに動揺したようなレイらしからぬ大きな動き。
何か違和感でもあったのか。もしかしてフォルムチェンジが上手くいっていなかったのだろうか。どこか体に痛みでもあったとしたら大変だ。
「ど、どうかした?」
「何だ、今のは……?」
 レイ自身も困惑した様子で、さっき僕が触れた手を自分の顔の前にかざしてまじまじと眺めている。見た感じだといつも通りのレイの手だけど。
特に手に異常は無かったらしく首を捻るレイ。気のせいだったのか、いやそれにしては妙だ。さっきの彼女の反応だと、気のせいで済む範囲ではない。
体全体を引きつらせてしまうくらいの大きな動作だったのだ。実験に不具合が隠れているならそれを放置してはおけなかった。
僕は再びレイの手を握ってみる。やはりさっきと同じようにレイは体を引き攣らせた。やっぱり何かがおかしい。
「痛い?」
「い、いや……そうじゃない。これは何と言えばいいのか」
 レイはどことなくばつが悪そうな表情をしている。これはひょっとすると照れているのか。言われてみれば頬がちょっぴり赤いような。
まさかな、と思いつつも。僕は手に力を込めて、彼女の手を今よりも強く握ってみる。瞬間、明らかにレイの顔つきが変わったのだ。
「ふあぁっ」
 聞いたことがないようなレイの艶のある声だった。息も荒くなっている。痛みを感じている風ではない。と、なると僕は一つの結論にたどり着く。
僕は今回の実験でレイの性別を雌に変えることに成功した。そして、性別を持つことは性の営みの悦びを知ることにも繋がる。
雄には雄の、雌には雌の快楽を得る瞬間がある。レイの体もちゃんと雌として機能するように波動を調整しておいたはず。
ただ、どこかで計算を間違えてしまったらしく、今の彼女の体は非常に敏感で感じやすい状態になってしまっているようだ。
さっきレイが自分で割れ目に触れていたときは特に異常はなかったので、おそらくは他の者に触れられた場合に過敏に反応してしまうのだろう。
手のひらだけでこの調子だ。直接筋に触れたりしたら、レイの体が壊れてしまうのではなかろうか。このままではまずい。早く元に戻さねば。
「すまない、レイ。僕の調整ミスだ。すぐに元に戻すから……」
「ま、待ってくれ」
 壁のレバーに手を掛けようとした僕の腕をレイに掴まれる。思っていたよりも強い力で。着ていた白衣の繊維が腕に擦れるのを感じた。
「い、今の感覚、私が味わったことがないものだ。こんなにも胸が高鳴るのは初めてなんだ。だから、ジェン……もっと触れていてくれないか?」
 荒い息を零しながら目をぎらぎらと輝かせてレイは僕に訴えかけてくる。なるほど、ミュウツーでさえ雌としての体の反応には病みつきになってしまう、と。
これはこれで新しい発見だな。なんて呑気に分析している場合ではないのだが、普段感情に波が少ないレイが自分の気持ちを前に出してくるのは新鮮だったのだ。
レイの頼みでもはい分かりましたと手放しに首を縦には振れなかった。これは僕の不手際で招いた事態。
性的な感度を一般的なレベルに抑えられていれば、不用意に反応してしまうこともなかっただろうに。レイが満更でもなさそうなのが唯一の成果か。
善がるミュウツーなんてなかなか見られるもんじゃない。僕も興味はあった。だけど、レイの体に負担を与えてしまいそうで躊躇われる。
どうしようかと逡巡していたところ、しびれを切らしたのかレイは掴んでいた僕の腕をそのまま自分の胸の突起に押し当てたのだ。
とにかく何でもいい。体に刺激が欲しい。そう言わんばかりに僕の腕を擦りつける。何度も上下に、強く強く。
「んああぁっ!」
 服と手と、二種類の違った感触が敏感な肌に擦れてとても具合が良かったのだろう。レイは喘ぎにも近い甘ったるい声を零す。
焦点の合わなくなった瞳にうっすらと涙まで浮かべて。もう、快楽を貪ることしか頭になさそうな蕩けきった表情をしている。
全身を駆け巡る甘美な刺激に立っていることが難しくなったのか、レイはがくりと膝を床に付いた。両手で握りしめていた僕の腕が解ける。
膝を付いた際、彼女の割れ目からぴちゃりと透明な雫が床へ散る。蜜が外へ溢れ出るくらいには、しっかり体の準備が整ってしまっているようだ。
「ジェン……焦らさないで」
「わ、分かったよ」
 ただひたすらに悦楽を求めるレイの迫力に、僕はもう頷くことしか出来なかった。ここで駄目だと言っても彼女は到底納得してくれそうにない。
きっと僕の腕を掴んだまま放してくれはしないだろう。レイの懇願を断る術は。拒否するという選択肢は。僕には、ない。
覚悟を決めた僕はレイの胸の中心部、丁度真ん中の辺りで出っ張っている個所にそっと手を伸ばす。
おそらく体のどこでも感度は抜群だろうけど、レイとしてはこの胸の突起が一番気持ちいいらしい。両手で表面を撫でるように、優しく擦ってやる。
こんなに彼女の体にじっくりと触れたことなんてなかった。胸の突起は硬めの感触だったが、微かに弾力を感じた。
「あっ……あっ」
 レイの肩が、背中が、痙攣でも起こしているかのようにがくがくと揺れて。嬌声を漏らす彼女の姿に、白い球を前にに技を放っていたときの威厳は微塵もない。
快楽に喘ぐレイを目の当たりにして、僕は見てはいけないものを見てしまっているような途方のない罪悪感に襲われる。
彼女をこんな状態にしてしまったのは間違いなく僕の責任だ。もう、一思いに終わらせてしまおう。胸の突起を包み込むようにして僕は強く力を込めた。
指先を巧みに動かす技術なんていらないだろう。今の彼女はタオルで体を拭いてやるだけで失神しかねないくらいなんだから。
「あ、あ、あああっ!」
 悲鳴とも取れる、一際激しいレイの叫び。思わず耳を塞いでしまいそうになるくらいの。こんなにも大きな声が出せたのか。
予想通り限界だったらしく、膝を付いたまま体を大きくのけぞらせてレイは果てた。股ぐらの割れ目からぷしゅっと勢いよく愛液が噴き出す。
ああ、体もちゃんと雌として機能してくれたみたいだな、と。僕はひどく冷静に、はあはあと喘いで善がるレイを見つめていた。 
彼女の秘所から噴き出した愛液はぴちゃぴちゃと床を湿らせていく。それにしてもすごい量だ、後で床を拭いておかなければ。
「あっ……はっ、はあぁぁ……」
 暴れていた彼女の雌がようやく治まって、残った快楽の余韻に浸っているのだろう。
床に両膝を付いてだらりと肩から両腕をぶら下げたまま、天井を見上げる瞳には何も映し出されていない。
目も、口も、肩も、背中も、尻尾の先まで。ただただ快楽に真っ白に塗りつぶされて。そのまま糸の切れた操り人形のように仰向けに倒れこんでしまった。
僕は慌ててレイの元へと駆け寄る。息はある。胸に耳を当ててみる。少し鼓動は早いがちゃんと心臓は動いている。気を失ってしまっただけのようだ。
異常なまでに敏感になった体で雌として初めての感覚を体験して、刺激が強すぎたのか。レイが失神するなんて相当のこと。
最初はレイが雌になっているのを確認さえすれば、すぐに元に戻すつもりだった。それがまさかこんなことになってしまうなんて。
あの時彼女の頼みを無理にでも断って、レバーを引くべきだったのだろうか。レイの迫力に負けて、つい流されてしまった自分が情けない。
普段の高潔で凛としたレイとは掛け離れた今の姿を見て、僕は。彼女を穢してしまったようで、彼女を濁してしまったようで。後ろめたさを感じずにはいられなかった。
ただ、仰向けに寝転がっているレイは。今まで僕が見てきたどんな表情よりも幸せそうな顔をしていた。
いつも研究に付き合ってくれているレイにとても気持ちいいことをプレゼント、なんて無理矢理こじつけられるほど僕の面の皮は厚くない。
すっかりご満悦のレイには悪いが、目を覚ましたら元のフォルムに戻ってもらわなければ。当分雌の体は封印することになるだろう。
まずは性的な感度を一般的なレベルに。外見のほとんど変わらない雄と雌にすらまともに変化できないようでは、フォルムチェンジなど夢のまた夢。
今回の実験には課題が多く残される結果になった。これからも様々な積み重ねが必要になると思われるが、まずは。
至福の表情で眠っているレイが目を覚ましたら、今回のことをちゃんと謝っておこうと僕は思ったのだった。

 おわり


・あとがき

 今年の映画のミュウツーがなかなか可愛かったので女の子になってもらいました。
性別を持たないポケモンに波動によって性別を持たせるとどうなるか、というのが今回のお話のメイン。
ミュウツーなのでどうしても研究所や研究員が出てきて以前書いた他の研究所の物語と雰囲気が被ってしまうのが困りもの。
とはいえ今後も研究所での作品はいくつか書きそうな気がします。まだまだポケモンの体の研究は奥が深いですからね。

以下、コメント返し。

>長すぎず、そしてあっさりとした後味…
なにより、かつてないその発想に惹かれてしまいました
(2013/09/01(日) 19:22)の方

官能シーンはかなりあっさり目に書いたので、どちらかというと発想勝負なお話でした。
どうも最近一話完結の短編を長く書けない傾向にあります。

>性転換ネタはいくらでもあるものの、無性別に性別を与えるというのはなかなか見かけませんでした。
いかに変態か、という基準に照らし合わせれば間違いなくこの作品がNo1ですね!
大好きな作品です
(2013/09/07(土) 23:32)の方

今まで性別がなかった分、初めて性別を持つことで戸惑いとかあると思うんですよね。
今回のレイはそれどころではありませんでしたが(

お二方、コメント・投票ありがとうございました。

【原稿用紙(20×20行)】26.9(枚)
【総文字数】9076(字)
【行数】179(行)
【台詞:地の文】6:93(%)|602:8474(字)
【漢字:かな:カナ:他】37:60:4:-2(%)|3374:5499:437:-234(字)


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  • はじめましてになりますかね?COMといいます。
    伝説ポケモン、ミュウツーの性別不明という特色からの科学の力によって少しばかり敏感にされすぎたミュウツーというシチュエーションは見ていて可愛いと思えました。
    大体こういう所の住人は伝ポケでもみんな勝手にイメージとかで性別付けますからねw
    ――COM 2013-09-08 (日) 19:53:11
  • ロリ進化ではなく、まさかのそのままの状態での行為とは非常に恐ろしい。しかし、いつものミュウツーも下半身が大きくエロイ体型をしているので非常によろしいと思います。
    この後思い出して赤面するミュウツーの表情でも眺めてみたい気分ですが、そんなことをしてしまえば絞め殺されてしまいそうなので、どうせなら恥ずかしがる暇もないくらいに敏感にさせてあげたい気分です。
    ――リング 2013-09-08 (日) 22:49:28
  • 些細な刺激でオーガズムに達してしまう病気が実際にあるらしいので、あながちフィクションでは無いらしいですね。調べてみたら1日100回もイクとか…凄い世界だ。
    ツー様に取っては災難でしたが、いつもクールなのは、性別不明故に性の悦びを知らないからなんじゃ…。そういう意味では今回の実験は成功なのかもしれませんね。
    淫乱で正直に求めてしまうツー様も素敵です。
    ――パック ? 2013-09-09 (月) 00:16:39
  • 大会お疲れ様でした。
    この雰囲気はもしかしてと思ってたらやっぱりw以前の「身体計測」を彷彿とさせるような、穏やかな作品ですね。
    ミュウツーを戦闘ではなく、こういうことで使うなんて。しかも違和感が感じられないです。僕にはこういう書き方はできないので、いつもすごいなって思います。
    これからも頑張ってください。
    ――カナヘビ 2013-09-15 (日) 04:14:13
  • COMさん>
    おそらく初めましてでしょうか。よろしくお願いします。
    私もルギアを登場させたときは勝手に性別雌にしましたからねw
    今回は無性別であるということをヒントに物語を構成してみました。

    リングさん>
    メガミュウツーも確かに大変よろしいのですが、元の体型もなかなかに官能的であると思われます。
    今後目を覚ましたレイがどんな反応をするのかは、後日談として色々と妄想が膨らむところではありますね。

    パックさん>
    私もそうした病気があると聞いたことがあります。もしかするとレイはそれに近い状態だったのかもしれません。
    普段は冷淡な子が乱れてしまう姿はなかなかそそられるものが(
    ジェンは納得いかないかもしれませんが、今回の実験はある意味成功ですね。

    カナヘビさん>
    私も途中まで書いてあー雰囲気似ちゃってるなあと思いました。
    ですが、大会に参加した以上放棄は出来なかったのでそのまま突き進みました(
    ミュウツーとなるとその力ばかりに目が行きがちですが、こうした研究員との日常を書いてみるのもなかなか楽しいものですよ。

    皆様、レスありがとうございました。
    ――カゲフミ 2013-09-16 (月) 22:10:06
  • 初めましてかな?
    とりあえず誤字の報告です。

    「全例がない」→「前例がない」
    ↑とちゃいます?
    ――通りすがりの傍観者 ? 2014-04-12 (土) 22:11:48
お名前:

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Last-modified: 2013-09-08 (日) 00:00:00
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