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きみのどくどく

/きみのどくどく

流血表現、捕食の表現があります。

きみのどくどく 

writer――――カゲフミ

 いつからだろう。たびたび自分の周りに自分以外の気配を感じるようになったのは。初めのうちは気のせいだと思っていた。しかし時間が経てば経つほどにそれは鮮明に。森の木々の影、茂みの中、場所は異なれど息を潜めてこちらの様子を伺っている。襲いかかってくるでもなく、逃げ出すでもなく一定の距離を保ったまま。目的も意図も分からない相手にだんだんと辟易してき始めた矢先のことだった。すぐ近くの茂みまでその気配が迫ってきたのは。ぴたりと足を止めて息を殺す。茂みに身を潜めている主も同じように、じっと身動きせずに佇んでいる様子だった。
「誰、そこにいるんでしょう?」
 しびれを切らして声を掛ける。これで何も反応がなかったら、茂みに向かって突進していってやってもいい。それくらいの気持ちだった。少し間があった後、茂みから素早く飛び出してきたのは一匹のジュプトル。時間を掛けて自分を遠巻きに観察していた相手だというのが信じられないくらい、真っ直ぐにこちらを見据えている。
「ずっと私の周りをうろうろと、何か用?」
「俺、あんたのことが気になっててさ。なかなか声掛けられなくてごめん」
 謝られても困る。気になっているとはどういうことなんだろう、自分の記憶する限りではこんなジュプトルとは話したことがない。初対面だ。しつこく付きまとわれたりするようなことをした覚えはなかったけれど。
「それで?」
「す、好きなんだ……俺と付き合って欲しい」
 意外な言葉だった。自分はジュプトルを知らないが、どうやら彼は一方的にこちらを知っていて声を掛けるチャンスを伺っていたのかもしれない。声を掛けるタイミングが掴めなかったのならば、ずっと監視のようなことをされていたのも納得がいく。端的に言えば、このジュプトルに一目惚れされたのだ。しかし彼には申し訳ないが、嬉しさよりも先にため息が先に出てしまった。
「やめときなよ、私はあなたの苦手なタイプでしょう。深く関わりすぎない方がいい」
 好みのタイプという話ではなく相性的なもの。ペンドラーである自分の持つ二つのタイプはどちらも草タイプが苦手としているもの。苦手を二つ併せ持つ相手は天敵と言っても過言ではないくらい。ジュプトルがいくら好意を寄せてくれていたとしても相性はきっと良くない。そのこともあってやんわりと否定の意思表示をしてみたのだが、彼は一歩も引く気配がなかった。
「タイプなんて関係ないよ。何だったら、友達からでも」
 きっぱりと言い切られてしばし黙り込むペンドラー。清々しいくらいまでに迷いがない。ここまで熱心な彼を頑なに拒み続けるのもちょっと申し訳ないように思えてきた。以前から強く押されるとどうも弱い部分がある。確かに外見だけで言えばジュプトルに魅力を感じなくはない。どんな異性が好みかを意識したことがあまりないペンドラーでも、何となくは良い面立ちをしていると評価できる。もちろん今日が初対面なので彼の内面までは分からない。それはこれから知っていくという選択肢はないわけでもない。
「じゃあ、あなたの言うように友達から……でもいい?」
「いいさ。興味を持ってもらえるように、俺が努力する」
 右手でとん、と胸を叩いて自信有りげに笑うジュプトル。彼のこの信念は一体どこから来るんだろう。その迷いのなさがペンドラーには少し羨ましく思えた。
「……変わってるわね。名前は何ていうの?」
「俺はベルデ。あんたは?」
「スコラ。まあ、よろしくね。ベルデ」
 初めましての挨拶にしては素っ気なくて何ともちぐはぐなもの。じゃあとりあえず、と言った感じのやりとりではあった。とはいえ、全くどうでも良いと思っている相手に自己紹介をしたりはしないだろう。この時点で無意識のうちにペンドラーはこの変わり者のジュプトルに興味を持ち始めていたのかもしれない。

  ◇

 次の日のこと。がさがさと揺れ動く茂みの音でスコラは目を覚ました。普段ならばまだ寝ている時間。遠慮のない足音の主は何となく想像が付きはした。気だるそうな表情を取り繕おうともせずに、スコラは目の前の草ポケモンに視線を移す。スコラの瞼とは対照的に歩み寄ってくるベルデの足取りは軽かった。彼の両手には木の実が四つ抱え込まれている。どれも種類が違っていて、スコラにはあまり見覚えのない木の実だった。
「一緒に食べようと思ってさ」
 ベルデは抱えていた木の実を草の上に転がす。朝食にはまだ少し早い。そんなにお腹は減ってなかったけれども、せっかく用意してくれたんだし一緒に食べるくらいならいいか。のそりと頭を上げるスコラ。
「これ、どうしたの?」
「結構探すの苦労したんだぜ」
 確かにこの辺りでは見かけない木の実だ。身のこなしの軽いベルデなら行動範囲も広そうだし、あちこち巡って探してきたのかもしれない。若干恩着せがましい態度はさておき、これをわざわざ自分のためにやってくれたのだと考えるとそんなに悪い気はしないのが本音だった。
「じゃ、遠慮なくいただくわ」
 頭を伸ばして草の上に転がっていた一つをぱくり。ジュプトルとペンドラーでは体格も口の大きさもまるで違う。ベルデにとっては両手で持つような木の実でも、スコラにしてみればたったの一口で済んでしまう。適当に選んだ長細くて黄色い木の実は強めの酸っぱさの中に仄かな甘さが入り混じった、朝一で食べるにはあまり優しくない口当たりだった。食べられなくはないが評価は今ひとつといったところ。木の実の珍しさを優先するあまり、味の方は二の次になったりしてないといいんだけれど。ベルデが一つ目を齧っている間に、スコラは二つ目、三つ目とぺろりと平らげてしまった。二つ目はぴりりとした辛味と渋みが半々くらいの絶妙な味。三つ目は全体的にほろ苦くて何となく身が引き締まるような味。この三つ目が一番スコラの好みには合っていた。ベルデの持ってきた木の実の味を評価するならば中の下と言ったところか。しかし、木の実三つだけでは何となく物足りなさが残ってしまっていた。
「悪いな、これだけしかなくて」
「別に何も言ってない」
 少しむっとして言い返すスコラ。ベルデにはそんなに物欲しそうな顔をしているように映っていたのだろうか。体が大きいから大食らいだと判断されては、それは偏見というものだ。まあこの場合、彼の憶測はそこまで間違ってはいなかったのだけれども。
「今度はもっとたくさん持ってくるよ」
 体格のないベルデのたくさん、だからあまり期待はできない。下手にスコラがお願いでもしてしまうと、はりきりすぎて本当に木の実の重さで潰れてしまいかねないのではないか。
「あんまり無理はしないでね。食べ物くらい自分で探せるし」
「いや、少しでもスコラに気に入ってもらえたら嬉しいからさ」
 さらりと顔色も変えずにベルデは言う。最初に会ったときからそうだ。スコラにしてみれば、異性相手に伝えることを躊躇ってしまうような台詞をベルデはすらすらと言ってのけてしまう。彼が異性と接するのに慣れているのか、それとも自分に対して本気だからなのか。前者ならそれはそれで別に構わないと思ってはいた。ただ、もし後者ならば今後のベルデの行動次第でスコラの気持ちも変わってくるかもしれない。自分の隣で屈託なく笑うベルデを見て、彼女は何故かそう感じたのだった。

  ◇

 それから数日後のことだった。例によってスコラの元を訪れたベルデから、どうしても見せたいものがあると告げられたのは。彼が手ぶらだったのを残念に思ってしまったのは秘密にしておく。木の実とはまた別の事柄なのだろう。森の中でのスコラの行動範囲は狭い。基本的に出不精なので場所があんまり遠くないことをベルデに確認してから、スコラは重い腰を上げた。出発してから数十分ほど。森の木々と茂みの間を縫うようにして進んでいく。茂みの間をベルデは通れても、スコラは木の枝を潜らないと進めないような箇所もいくつか。あんまりこんな状態が長く続くようだったら引き返すことも少し考えたが、今更になって戻るのも億劫だったので渋々彼の背中についていった。どうやら目的地は森に住む他のポケモンにもあまり馴染みがない場所なのだろう。今通っている道なき道は誰かが使ったような形跡がほとんどない。ベルデだけが知っているような秘密の場所と言っても過言ではなさそうな雰囲気があった。
「ここだ、スコラ」
 ずっと茂みと木々の枝を相手にしてきてうんざりしていたところ、ふいに目の前の景色が開けた。普段は気だるそうで伏し目がちなスコラも、この時ばかりは目を大きく見開いてしまっていたかもしれない。目前に広がっていたのは大きな大きな水たまり。ほとりを木々にぐるりと囲まれて、青く澄んだ水を湛えている。湖面が映し出した森の景色はまるで現実ともう一つの別の世界を見ているかのようだった。森の奥にこんな湖があったなんて、そんなに遠くない場所なのに気がつかなかったな。
「……確かに、綺麗なところね」
「だろ?」
 自信満々なベルデの表情もこの時ばかりは気にならなかった。何かに心を動かされるという感覚自体スコラにとっては久しぶりのことだったのだ。畔を取り囲むように伸びている木々が風を遮っているらしく、湖面は波立つこともなくどこまでも静かだった。しんと静まり返っている湖の畔で佇むベルデとスコラ。なかなか良いムードであるかのように思えた。
「ここ、いつから知ってたの?」
「だいぶ前だな。珍しい木の実がなる木がどこかにないか探してる途中で、偶然見つけたんだ」
 なるほど。自らの足であちこち探索を試みるベルデだからこそ発見できたというわけか。スコラのように限られた範囲の中で完結する生活を送っていたのでは、きっと一生見ることのなかった景色だろう。
「そう。どうして私をここへ?」
「そりゃあ……とてもいい景色だから、一緒に見られたらいいなと思って」
 一緒に、か。確かにこの湖は美しい風景ではあるし、心惹かれるものはある。ただ、この景色を一人で見るのと誰かと見るのとで見え方が変わってくるものなのだろうか。少なくともスコラは、隣にベルデが居ることで景色が違ってくるようには思えなかったのだ。
「……なあスコラ。もっと、傍に行ってもいいか?」
「どうして?」
「好きな相手の傍に居たいと思うのに、理由はいらないだろ」
 今日も今日とて直球だ。反応は鈍くても強い勢いで何度も突かれれば、じわじわと伝わってくるものはあるのだ。スコラの気持ちが一瞬揺らいでしまった。
「ねえ、私に肩入れするのはこれくらいにしておいたほうがいい。戻れなくなるよ」
 これはベルデに対しての忠告か、それとも。徐々に彼の方へ傾きつつある自分自身を戒めるための言葉か。もちろん最初から退くつもりがなかったベルデが、これしきのことでで引き下がるはずもなかったのだが。あわよくば彼の方から、というスコラの儚い望みだった。
「引き返すつもりなんてない。俺はスコラと居られるならどこへだって……」
 彼女が身を退く間もなく、ベルデはスコラのお腹へともたれかかってきた。背中の硬い甲殻とは対照的に、スコラの体の中でも柔らかい場所。彼が身を任せたくなるのも何となく分からないでもない。体重を掛けたベルデの頭と肩と背中がスコラの腹に少しだけ沈む。一方的な気持ちの押し付けと言ってもいい、強引なやり方だと思った。本気で彼のことが嫌なら逃げ出せばいい。力で訴えればいい。否定の意思表示の方法はいくらでもあった。そうは思いながらも、久々に伝わってくる他者のぬくもりを愛おしく感じてしまったのもまた事実だったのだ。ぴたりと体を密着させたベルデからは、ほんのりと鼻をくすぐる若葉のような香りが漂ってきた。
「しばらく、こうしていたいんだ」
「……後悔しても知らないからね」
 口ではそう言いながらも、スコラもスコラでそのまま地面に腹ばいになって。腰を下ろしてお腹へを背もたれにしているベルデと一緒に。暫しの間、湖を眺めていた。体格差があるので視線を合わせるのは難しい。でも、こうやって同じ立ち位置から同じ景色を見ることくらいはできる。その日は太陽が傾くまでのんびりと、二人だけの時間が流れていったのだ。

  ◇

 一緒に湖を見てから何日か後のこと。スコラの所へベルデはやってきた。今日はどこかを案内したり、木の実を食べたりするわけではなさそうだ。神妙な面持ちで、一歩間違えばこちらを睨みつけていると取られてもおかしくない真剣な眼差しが彼からは感じられた。
「どうしたの?」
「あれから考えてたんだけどさ、やっぱりもっとスコラを近くで感じていたいって思うようになって。気持ちを抑えられそうにないんだ……」
 胸に右手を当ててこちらを見上げてくるベルデの息遣いはどこか荒かった。以前の彼とはどこか違う。自信満々で余裕のある立ち振る舞いが見受けられない。何かに追われて焦っているかのようにも見て取れた。
「私の傍にいるだけで……それだけでいいの?」
 スコラはぐっと頭を伸ばして、ベルデの方へ近づける。至近距離、お互いの息が触れ合うくらいの近さ。ベルデの少し震えている吐息がスコラにも伝わってきた。
「いや、それだけじゃだめだ。俺は……」
 ベルデの細い両腕がすっとスコラの頭へ伸びてくる。スコラの顔を引き寄せる、なんてことはベルデの力では出来そうもなかったので結果的には彼の方が頭を近づけての接吻だった。スコラも拒むことなく、というよりも彼女がベルデからの口づけを遠まわしに誘っていたと言っても過言ではない。頭ごと飲み込んでしまえそうなくらいの小さくて控えめな口。唾液と唾液を絡みつかせながら、スコラはベルデの口内を貪った。湖のときよりもずっと濃い雄の匂いに、図らずとも胸の鼓動が早くなっているのを感じていた。久しく異性から距離を取っていても、本能的な感覚は案外残っているものだ。かなり濃厚なものではあったにせよ、口づけだけで既にベルデは息を荒げていた。こんな調子でこの後大丈夫なのだろうかと心配になってくるが、ベルデの気持ちは先へ先へと進みたがっているようだった。
「スコラ、俺はお前が欲しい……!」
 彼女のお腹へぎゅっと抱きついて、頭を埋めるベルデ。どうやら湖で身を預けた時からスコラのこの柔らかいお腹が随分と気に入ったらしい。埋まったベルデの鼻先や口元からはスコラの匂いを味わっていると思われる激しい呼吸音が溢れ出ていた。そうするうちに彼の下腹部の方から体温とはまた別の、煮えたぎるような熱の感触がスコラのお腹に。直接見えたりはしなかったけれど、ベルデが今どういう状態になっているかくらいは予測がついた。
「我慢できそうにないんだ、続けていいか」
 黙って頷くスコラ。ここでやめてと言ったところでベルデの勢いを止められはしないだろう。もう彼が望むまま最後まで突き進めばいいと思った。スコラの承諾を得たベルデはへへ、と下品に笑うと下半身の一物を彼女のお腹へぐりぐりと擦りつけていく。鼻先だけでなく、今度はスリットから這い出したペニスの先端部分でスコラのお腹を堪能していった。何度も何度も腰を振るうちに、次第にお腹に撫でられる面積は増えていく。腹の肉と肉の間に挟まれて、だらだらと先走りの汁を零しながらベルデの肉棒はスコラの上で踊った。
「あ、うあぁっ」
 果てるときは案外あっけないものであった。情けない声を上げてベルデは自身の欲望をスコラのお腹へと吐き出した。彼女の黒い腹部がベルデの精で白く白く濁っていく。重力に逆らえなくなった精液がとろとろとスコラのお腹を伝って地面へとゆっくりと流れ落ちていった。気を失いそうになるくらい気持ちがよかったらしく、絶頂後に仰向けに倒れ込んだベルデの目はどこまでも虚ろだった。初対面のとき彼に感じた精悍さは見る影もない。役目を終えてくったりとしたベルデの一物をスコラはぺろりと舐め上げる。少しだけ残っていた精液の味がほろ苦い。肉棒へのスコラの舌の刺激で、ベルデはどうにか意識をつなぎ止めたような感じであった。ぴくりと体を震わせて緩慢な動作で上半身を起こす。
「続きはまた今度にしましょうよ。今日はもう戻って休みなさいな……」
 思いのほかベルデの体力の消費が激しかった。これ以上無理して続けると本当に意識を失ってしまいかねない。
「あ、す、すげえよかった。こんなの初めてだぁ……。でも、ちょっと疲れたな。そう、するよ……」
 半分くらい噛み合っていない会話。それでもスコラの意図は多少なりとも伝わっていたらしい。両手を膝に当ててどうにか腰を上げると、ベルデは背中を向けて彼女の元を後にする。小さくなっていく彼の背中をスコラはぼんやりと見送っていた。

  ◇

 おぼつかない足取り。瞳もちゃんとスコラを捉えているのかどうか曖昧だった。あれから一日経ったというのに、両方の足で立つのがやっとなのではと思うくらいにベルデはよたよたしている。それでもスコラの所までたどり着けたのは、彼の執念が成せる業なのか。
「す、スコラ……俺」
「せっかちなのね」
 立つのがやっとな体力であるくせに、ベルデのスリットからは既に元気そうな肉棒がスコラへと狂おしいまでに自己主張していた。彼の体調とは裏腹に不自然なまでにやる気満々な状態だ。
「お、俺、あんたの匂いだけで、こんなになって……もう」
「分かったわ。そんなに欲しいなら……」
 スコラは頭を伸ばしてベルデの一物を口に含む。舌を絡ませてぐにぐにと弄ぶうちに、あっという間に彼はびくびくと果ててしまった。二日連続でもあるせいか量は少ない。これでは喉に引っかかるほどでもなかった。スコラはベルデが出したものをこくりと嚥下する。
「あ、ああ……い、いいっ」
 伸びてきたスコラの頭を抱き抱えるようにしながら、ベルデはがくがくと下半身を痙攣させる。彼女の頭の支えがなければ今にでもばたりと倒れ込んでしまいそうな勢いだった。何とも幸せそうな緩んだ表情で射精後の余韻に浸っていた彼だったが、ようやく快感だけではない自身の体の異変に気がついたらしい。
「あ、あれ……く、苦し」
 げほりと大きくむせこんだベルデの口から飛び出してきたのは血の塊。足元の草がびちゃりと赤く染まった。がくりと膝をついたベルデは、自分の身に何が起こっているのか分からずにぽかんとしている。きっと、口から出てきたものが何なのかも分からずにいるのではないだろうか。
「す、スコラ……んっ……」
 有無を言わせずに、スコラは自分の口で彼の口を塞いだ。むせ返るような濃い血の匂いも味もどこか愛おしい。口を離したスコラに、ベルデは何かを言おうとしたが言葉にはならずそのまま草の上に倒れ込んだ。二度と起き上がることはなかった。やっぱり彼もだめだったか。最終的に毒に体も心も依存するようになって、身を滅ぼしてしまう。最初の時点で彼を拒絶していれば、こんな結果にはならなかったかもしれない。心のどこかで感じていた寂しさから、自分が中途半端にベルデを求めてしまったばっかりに。スコラの持つ毒は身を寄せているだけでも皮膚から染み込んでじわじわと体を侵食していく。特にベルデの場合は激しく粘膜を擦りつけていた分、毒の回りも早かったのだろう。
「……ごめんなさい」
 やはり草タイプの天敵である毒タイプと虫タイプ。最初から相容れない関係であり、それはお互いの気持ちだけで簡単に覆すことはできないのだ。でも、少しの間だけであっても。スコラの虚ろな心の隙間を埋め合わせてはくれた。わずかながらの安らぎを与えてはくれた。誰かが傍にいる心地よさを思い出させてくれた。そのありがとうの気持ちも含めて、スコラは彼の頭部へ口を近づけていく。頭を咥え、お腹で体を押さえつけて力任せに引っ張ると、思ったよりも簡単に彼の頭は体から外れてくれた。最初に頭を口に運んだのは、事切れた彼の表情を長く見ていたくなかったから。続いて、手、足と元々ベルデだった体をスコラは黙々と口へと運んでいく。彼が大好きだったスコラのお腹。そのお腹の中に収められるならばベルデも本望なのではないだろうか。
「ごちそうさま、ベルデ」
 残った胴体まで飲み込み、もはや彼の残骸は草の上の血の跡を残すのみ。血の生臭さを除けば、ジュプトルの味はその辺りに生えている草を齧った時とさほど変わらなかった。若干の青臭さとほんのりとした苦味。この優しい苦味はベルデが最初に送ってくれた木の実とどこか似ているような気がした。

 おしまい


・あとがき
ペンドラーに惚れた草タイプ単体のポケモンが毒で依存してしまい最終的には死ぬお話。ざっと思いついた流れがこれでした。最初は食料を得るためにペンドラーが相手の好意に乗ったふりをして毒で身動きができなくなったところを美味しくいただくという展開にしていましたが、どうも私はそこまでペンドラーを非道なキャラ付けにできなかったようです。ジュプトルからの好意を受け取りつつも、心のどこかでは今回もダメなんだろうなと諦観しているちょっとダウナーな感じのキャラに。とはいえ投稿期間に間に合わせるために全体的に駆け足になってしまった感は否めません。次回参加するならもう執筆を計画的にせねば。

以下、コメント返し

>毒に侵されてオチが見えたところで不意打ち気味にぱっくんちょされた衝撃は大きかったですね。毒表現と併せてとても印象深いです。ペンドラーちゃんの台詞や行動に葛藤する心の機微が表れていて、1度は読み返すべき作品。ストーリーを盛り上げる余地はまだありそうですが、インパクトは群を抜いて強烈でした。 (2017/07/04(火) 02:25)の方

最後は食べられてしまうというオチはかなり前から決まっていたのです。ムカデは肉食ですからね。全体的にスコラの心理描写を主として進んでいく物語、一人称にしようかどうか迷いましたがあえて一人称よりの三人称で進めさせていただきました。

>種族の壁は高く厚く。恋をするというのはなんとも難しいものですね。 (2017/07/04(火) 22:19)の方

いくら相手のことが好きでも越えられない壁というのはどうしても存在すると思います。スコラにはいずれ毒に耐性のある伴侶が見つかると幸せになれるかもしれませんね。

>とても読みやすく、そして切ないお話でした。
苦しんでも最後までスコラに対して真っ直ぐな気持ちだったベルデに、スコラも真心で最後まで答えてあげたのがまた哀しい。
多くない文字数ながら、とても胸に響いた素晴らしい作品でした。 (2017/07/04(火) 23:56)の方

スコラにベルデへの愛があったかどうかは定かではありませんが、真心はきっとあったと思います。息絶えてしまったベルデを食らったのは、彼女なりのけじめのつけ方だったのではないかと。

最後まで読んでくださった方、投票してくださった方々、ありがとうございました!

【原稿用紙(20×20行)】23.6(枚)
【総文字数】8298(字)
【行数】108(行)
【台詞:地の文】13:86(%)|1081:7217(字)
【漢字:かな:カナ:他】32:63:6:-2(%)|2726:5232:537:-197(字)


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Last-modified: 2017-07-06 (木) 23:29:01
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