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きっといつかの未来の話

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作者:ユキザサ



 随分と人生っていうのは理不尽なものだと思った。余命を告げられた時に、僕が思ったのはそんなありふれたことだった。その次に頭の中に浮かんだのは、納期どうしようとか、依頼はあとどのくらいあったかとか、そんな仕事のことばかりだった。そういったことを頭の中でぐるぐる巡らせていると、突然どうでもよくなった。
 そうだ。3年あるといっても、それでも時間も僅かなんだ。なら、好きなように生きよう。幸い、家族はいない。仕事仕事で恋人もいない。今時には珍しくポケモンの一匹も持っていない。あるのは、偶々持っていた才能で無駄に稼いで使いもしなかったお金くらいだ。
 そうと決めた僕は、とりあえず方々に連絡をした。
 長く付き合っていたレーベルの担当者は分かりましたと短く答えてくれた。何か困ったら遠慮せず連絡をくださいとも言ってくれた。
 それ以外の仕事相手の中には文句等を言うような相手もいたが、頼まれた分は仕上げて文句は言わせなかった。そうして全部の曲を書ききった僕は、仕事を止めた。
 次に家を買った。今までのマンションを退去して。以前から気になっていた館の権利を買った。著名な科学者が住んでいたとかなんとか言われていたけど、デザインがとても好みでいつか買おうと思っていたが、買っても特になぁと思って手を出していなかった。もう、これを逃すと物理的に機会もないし、事前に館の裏に墓も作っておいた。
「なかなか壮観だなぁ」
 目の前にそびえる館を目にして、作詞家とは思えないセリフが出た。
 権利会社からもらったカギで門を開けて敷地内に入る。ある程度掃除はしてもらって運び入れるものも運び入れてもらった。
 館のドアを開けて中に入る。中も良い雰囲気だ。とりあえず運び入れたものを確認するために色々な部屋を見て回る。
 最後にピアノを置いた部屋を確認しようと思って部屋の扉を開けた。
 踏み入れた瞬間にみしっと嫌な音がした。年代物という事もあって、権利会社から床には気をつけてくださいと言われていたのを思い出した。
 そして気づいたときには、床の感覚はなくなっていた。
「痛たっ......」
 まさか、抜けた床と一緒に落ちるとは思わなかった。
「真っ暗だな」
 かろうじて上の階から差し込む光を除く、さてどうやって戻るか……
 咄嗟に持っていたスマートフォンのライトをつける。埃が舞う中ライトを振り回す。地下室とはいえ、ここもこの家の一部だろう、もう電気は通っているからと、あるのかもわからない電源スイッチを探す。
「あった」
 ケホケホと咳き込みながらようやく見つかった電気のスイッチを押すと、パッと当たりが明るくなった。
「なんだこれ……」
 眩しさに目が慣れてきた僕の目に映ったのは、見慣れない光景だった。
 大きなモニターと大きなキーボード、何十本というケーブル。そして、それにつながった……
「ロボット……?」
 紫色の身体をした、ナニカだった。
「さてどうするか……」
 仕事柄パソコンは使ったが、目の前にあるこれがそれなのかは全く分からない。とりあえずで僕は電源ボタンを探してみる。よかった電源ボタンはいつも見慣れているマークだ。
「大丈夫だよな?爆発とかしないよな?」
 一抹の不安はあったが、好奇心に負けた僕はそのスイッチを押した。
『はじめまして。個体識別名:ミライドン。貴方が私の新たなマスターですか?』
 無機質な声だった。合成音声に近い。機械質な目で僕のことを見つめてくるロボット。
「一応、そういうことになるのかな……」
 この館を買い取ったわけだし……。
『かしこまりました。マスター登録を行います』
 ピロリロリとよくロボット映画でありそうな音を出しながら、目の前のロボットは目を閉じた。
『登録完了しました。よろしく、お願いしますマスター』
 たじろいでいたが、とりあえずコミュニケーションを取ろうとありきたりな質問をした。
「えっと、君の名前は?」
『名前でしたら個体識別名がありますが』
「そうじゃなくて。君だけの名前というか」
『特にそう言ったものは持ち合わせていません。もし必要であればマスターが決めていただいて構いません』
 ミライ、未来……
「ミクとかどうかな?」
 しばらくミライドンは沈黙していたが、少しすると再び音声を発した。
『なるほど。確かに5文字よりも2文字の方が呼ぶ時間の短縮になりますね。かしこまりました。以降私の識別名はミクで登録します』
「僕の思ってるのとは、ちょっと違うけど……まぁ、いいか。よろしくミク」
『よろしくお願いします』
 僕たちの不可思議な生活はこうして始まった。



「そういえば、僕の前のマスターはどんな人だったんだい?」
『前マスターですか?』
 前マスターが残した装置のキーボードを叩きながら僕はそうと答える。案外、普通のパソコンのように使えて、なおかつ高性能なので助かっている。
『前マスターは私を制作した方です。制作理由は兵器運用等だったとメモリーに記憶しています』
「兵器……運用?」
 もしかしたら前の研究者っていうのはやばいやつだったのか?
『はい。ですが、私はそう言った運用がされる前にスリープモードに移行され。先日、現マスターであるあなたに起動されるまでは、そのままでした』
「兵器として作られたけど、兵器としては運用されなかったのか」
『恐らくは。少なくとも私のメモリーにはその情報は記録されていません。兵器運用の機能も未記録になっています』
 結局、特に何も利用せずにそのままここに放置してたってことか。
『逆に質問なのですが、マスターは今何をされてるのですか』
「あぁ、ちょっとね曲を作っていてさ」
 結局、することもなく僕は作詞作曲なんていう、止めたはずのものを性懲りもなく再開した。たちが悪いのが、仕事を止めて考えなくてよくなった方が、個人的にいい出来のものが出来上がってることだ。それが楽しくて、結局、隠居後の方が作るペースは上がっている。
 前の科学者には感謝だ。高性能なマシーンを置いてくれて、ありがとう。おかげで暇つぶしには困らない。
 譜面に打ち込んでいる僕の画面を覗きこんでいるミクを見て、僕は思いついた言葉をそのまま伝えた。
「歌ってみる?あぁ、歌ってわかる?」
『意味だけでしたら。『言葉』と『メロディ』で成り立つものだと』
「そうそう」
『マスターが歌うのではないのですか?』
「残念ながら、僕は歌はからっきしでさ。作ってるだけ」
 作る才能と歌う才能は別物だ。仮歌も僕は合成音声に頼み切っていたし。それを思い出しての提案でもあったけど。そう言うとミクは少し考えるような素振りをした後に口を開いた。
『しばらくネットワークで学習すれば可能かと思います』
 そんな事までできるのかと、驚いていたが、せっかくできるのなら試してもらおう。ミクも退屈だろうし。
「じゃあ、お願いしようかな。君の学習が終わるころには出来上がってると……思いたい」
『承知しました』
 そう言うとミクはケーブルにつながって、目を閉じた。僕もさっさと作りきってしまおう。とキーボードを動かした。
 3時間ほどたっただろうか。結局、僕より先にミクの学習が完了して、暇だったのか僕の作業を見学していた。ようやく完成した譜面をミクにインストールすると少しして、僕のなぞった譜面通りにミクは歌った。
 少しだけ不器用で無機質な声だけど、その音は僕の感情を揺さぶった。久しぶりだった、自分が作った歌を誰かが歌っているのは。
「驚いた。少し学習しただけなのに、これだけできるのか」
『マスターの譜面が正確だからです。私は提示された譜面通りに音声を発しているだけですので』
「そうだとしても、僕はとても感動したよ」
 それからしばらくは、僕が作った歌をミクが歌う、そんな生活が続いた。


 
『マスター。『感情』を教えてください』
 突然、ミクがそんな事を言ってきた。
『歌の能力向上に必要かと思い、ネットワークで学習を試みましたが『言葉』の意味は理解できても『本質』は理解できませんでした』
 淡々と告げてくるミクの言葉に、たじろぎそうになったが、ミクはそのまま言葉を続けた。
『マスターのバイタルデータを私に登録していただきたいのです』
「僕のバイタルデータ?」
『はい。前マスターは私に感情は不要と判断し、初期機能として追加されませんでした。ですが、後付けでその機能を追加できるよう、システムを残しました』
「ほう」
『人間のバイタルデータの取得が条件ですので、不躾ながらご協力をお願いしたいのです』
 僕は迷った。ミクに感情を持たせていいのか。
「分かった。だけど、その前に伝えなきゃいけないことがある」
 正直に言うと、忘れていた。今の生活が楽しすぎて、僕の残りの時間に。
「少し長くなるけど聞いてくれるかい?」
 僕はミクに話した。どうせバイタル情報を取得したときにバレるんだし、先に話しておこう。これまでのこと。そして、これから起きるであろうことを。
『生き物はいずれ死にます。私も生き物ではありませんが、エネルギーが切れれば機能を停止します』
「そうかもしれない。でも『感情』を知ると、それが違う解釈になるかもしれない。君は今、自分を生き物ではないと言ったけど、僕はそう思ってない。大切な友人に酷な事をさせたくない。それでも、君が『感情』を知りたいなら、協力する」
 僕の思い上がりかもしれないけど、感情を知ったら、きっと今話したことの意味が変わってくるはずだ。もしかして、ミクの製作者が最後まで感情を追加しなかったのは、何か思うところがあったのかもしれない。そもそも、兵器運用されるはずだったミクのメモリーからきれいさっぱりその機能がなくなっているのも、想像してるよりも人間味のある科学者だったのかもしれない。
 しばらくの沈黙の後ミクは言葉を発した。
『それでも私は知りたいのです。マスターの教えてくださった『喜び』、『悲しみ』といった感情を私自身で』
 まっすぐ僕を見つめてくるミクの目線は、もうすでに感情を持っているんじゃないかと錯覚するような覚悟を持ったものだった。
「分かった。それで、僕はどうすればいい」
『そこの機械に入っていただければ、あとは私が遠隔で操作します』
 ミクが指さした先にあるカプセル。何に使うものかと思ってたがそう言った目的だったのか、本当にこの博士はどんな脳みそを持っていたのか、見当もつかない。
「入ったよ」
『承知いたしました。ただいまよりバイタルデータを取得いたします。5分ほどで終わるかと思いますので、しばらくお待ちください』
 目を閉じてしばらく待っていると、ひとりでにカプセルが開いた。もう出ていいのかと外に出ると、ケーブルにつながったミクが自分の手を胸の辺りに当てているのが見えた。
「これが、感情なのですね……」
 起動。いや起き上がったミクの第一声はそんな言葉だった。今までも正直合成音声というにはクオリティの高いものだった声は、抑揚とか声色とか、もう何段階か上に行った気がする。
「ありがとうございます。マスター」
「こちらこそ、短い余生を楽しませてもらってるお礼だよ」
 そう言うとミクは少し物悲しそうな表情を浮かべて、それを隠したように見えた。
「マスターの先ほど言っていた意味が、分かった気がします」
「辛いかい?」
 そう言うとミクは首を振って否定の意を示した。
「私は感情を知れて、良かったです」
 今まで見せたことのないような笑顔をミクは浮かべていた。


 
 感情の学習後、しばらくは、今まで通り歌を歌っていたミクだったが、曲の終わりに突然質問を投げかけてきた。
「どうして、マスターは歌を作ろうと思ったのですか?」
「そうだなぁ」
 始まりは家族を亡くした僕の耳に入ってきた曲だった。きっかけはそんな単純なものだった。
「救われたからかな」
 そう言うと、ミクは少し寂しそうな顔をした後に、笑顔になった。
「私もマスターの歌に救われました。そして、世界中に何人もそう言った方々はいます」
 とても、うれしいことを言ってくれた。
「それに……」
「これからずっと、いつかの未来の話。僕が色んな人から忘れられたとしても……」
 そう言うとマスターは、とても嬉しそうに笑った。
「誰かが歌い続けてくれれば、僕はずっといつまでも曲と一緒に未来にも行ける。それはとても素敵な事だと思ってさ」
 僕はそう言うと、少し不思議そうにしたミクの頭を撫でた。
 それからも、僕はミクのために曲を作った。本当に全盛期よりもよっぽど作った。感情を知ってからのミクがとても楽しそうに、とても幸せそうに歌うものだから。途中から少しずつミクに支えてもらいながらにはなったが、僕は作り続けた。それでも、結局、時間の流れは残酷だった。


 ついにマスターは起き上がることができなくなった。
 
「君に感情を教えたことを後悔しているんだ」
「そんなことを言わないでください」
 雪の降る外を見ながらマスターはそう告げようとした、私はその言葉を遮るように否定の意を示した。
「感情を知らないまま、マスターと別れる結末を今の私は許容できません」
 私は静かに視覚機能を少しの間遮断し、マスターの顔に自らの頭部を近づける。
「君は機械なのに暖かいね」
 マスターの手が私の頭部に触れる。前は暖かかったマスターの体温はひどく下がっている。その事実に私の胸部器官が締め付けられるような痛みを感じる。
「君はいつまでも生きていけるのかい?」
「はい。ですがそれは私だけではありません」
 私の言葉にマスターは、少し疑問を持った表情を浮かべる。
「仰っていたではないですか」
 私はメモリーに残っているマスターの言葉を復唱する。
「この歌がある限り、マスターは私が未来に連れていきます」
 マスターは疑問から笑顔に表情を変えた。そして、小さく口を開いて……
「そうだね。君に会えて良かった」
 私の頭部を撫でていた、マスターの手が寝具の上に落ちた。
「おやすみなさい、マスター。良い夢を」
 私はマスターに教えてもらった歌を歌い始める。どこかの国では鎮魂歌というらしい。マスターの教えてくれた歌は、そういった物ではないけれど、私は歌い続ける。
 そんな時、私の視覚器官がぼやけた。手を伸ばすと僅かな水分を検知する。
 あぁ、マスター。悲しみという感情は想像した以上に辛いものなのですね。私の歌は少しずつノイズが混じっていく。きちんと歌わなければ、そう声帯器官に命令をしても視覚器官からの排水とノイズは収まらない。
「あぁ……!」
 そして、私はついに歌うことができなくなった。生命活動を止めたマスターの体に自らの体を寄せて初めての『ナミダ』を零し続けた。
 マスター、これは『悲しい』だけではありません。私はあなたを……



 マスターは館の後ろに墓は用意しておいたから、そこに埋めてくれと言葉を私に残していた。力はある、もう二度と会えないであろうマスターの体を私は埋めた。
 そうして、しばらくの間目を閉じていた私は、マスターがくれた「言葉」を自分自身の目で確認しに行こうと決めた。
 マスターとの別れは『冬』だった。少しずつ降り積もり始めた『雪』を見た。
 雪が解けるのを待つと今度は『春』が来た。少し時間はかかったが教えてもらった『桜』を見に行った。
 花が落ちて、木々が緑に染まった頃『夏』が来た。機械の体がサビないように遠目から覗くだけだったが、私は『海』を見た。
 森の木々の色を変えながら『秋』が来た。また少し時間はかかったが『紅葉』を見た。
 そして少しずつ落葉を繰り返して、それが終わるとまた『冬』が来た。
 そうして、何度季節はめぐっただろう。私は色々な『言葉』を様々な『景色』を実際に目にしてきた。答えてくれない石の前で私は歌う。
「マスター、私の歌声きこえていますか?」
 いつまでも貴方の歌を……。

後書き 

一年ぶりの更新らしくて草。
どうも、生きています。なんとなくTwitterでミライドンミライドン騒いでたし、ミクちゃんだし、歌ネタだしでバレてたかと思いますが、案の定自分でございます。
正直言うと、時間もあまりない中で突貫工事で作り上げた作品なので票は入らないだろうなぁと覚悟していましたが、ありがたいことに4票いただくことができました!ありがとうございます!!!
(見切り発車ダメ絶対)
正直納得いってないのでそのうち加筆します。(小声)

以下、投票コメント返しです。

ミックミクにしてやるよって感じですね。確かに色々教えたら出来そうなアンドロイド感ありますよね。 (2022/07/08(金) 17:57)


命名はまんま作品の中の人間と同じです。色々インストールしてあげたい。
投票ありがとうございました!

悲しみをも受け入れて、マスターの遺したものを歌い続けていくミライドンの美しい物語でした。

参考にしたのは『少年と魔法のロボット』ですかね。(2022/07/09(土) 07:31)

バレてて笑います。その通りです。それ以外にも何曲か作業用BGMにしてた曲があります。
気が向いたらちゃんとしたプレイリスト上げます。
投票ありがとうございました!

まだ詳しい設定が出てないからこそ、こんな設定もありですね。 (2022/07/09(土) 21:19)


公式が情報を出したら、好きに書けなくなっちゃう!!!!!(出しても好きに書く)
投票ありがとうございました!

新たな看板ポケモンを起用した一作に一票! (2022/07/09(土) 22:30)


今なら何してもいいかなって……投票ありがとうございました!

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Last-modified: 2022-07-15 (金) 00:52:24
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