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きいろとももいろ

/きいろとももいろ

官能描写があります。苦手な方はご注意下さい。


 きよらかな こころと つよく あいたいという きもちを もつと すがたを あらわすらしい。






 そんな事を言われるなんて自分でもよく分からなかった。
 その日は空が雲一つすら見受けられずとても澄みきった青色をしていて、僕の気分も同じくらいに晴れ渡っていたのは確かである。そうだからと言って、夏に雪が降るとか、冬が暑いみたいにいきなり天変地異でも起きたくらいの衝撃的な出来事が待ち受けているなんて僕は予想もしてなかった。
 それにしてもどうすればいいのだろうか素直に喜べばいいのだろうか、それともこのまま沈黙を押し通せばいいのか、と深刻に思い詰める。こんな調子だと、答えを出すのにはまだまだ時間が掛かりそうだ。
 僕がこんなにも悩むのにはきちんと訳がある。もやもやと霧がかかってぼんやりとしている如く、自分の気持ちを素直に言葉に出来ないから。
 ただそうしている間にも、当たり前の様に風は吹くし、波は砂浜へと押し寄せては退いていく。僕に流れる時間は止まったとしても、この世界に流れる時間は止まらない。それは目の前にいる相手にも例外ではない。だから急いで応えなくてはならない。おまけにもたもたしていると太陽が水平線へと沈んでしまう。
「あの……無理しなくてもいいんですよ? 駄目ならいいんです」
 僕がなかなか返事を出さないのを心配して、相手は気を遣ってくれていた。震える声を押し殺し、瞳が潤むのを堪えてまでも僕の事を考えてくれている。そんな思いやりのある相手に辛い返事なんて出しては駄目だ、と僕の良心が訴えてくる。その呼び掛けに応じてしまうのだから、僕は余計に何も言えなくなってしまう。
 それでも僕は言わなくてはならない。この仔の為にも、僕の為にも。
「あの、さ」
 波音にかき消されずにどうにかして響いた僕の声。ここまできたのならまた黙り込むのは許されないであろう。
 僕は自分なりに精一杯考え気を配った結論を言おうと、手を握り締めて覚悟を決めた。



 昨日の事があってなのか、気味が悪くなりそうなくらい目覚めの良い朝を僕は迎えていた。
 普段の僕は朝にとても弱い。身体に毒だと分かっていながらもついつい二度寝をしてしまう。それほど彼は起きるのが苦手である。
 だが、今日は違っていた。目がやけに冴えていて、眠気なんて全くもって感じさせない。いつもは眠気覚ましとして食べているカゴの実なんていらない、と思ってしまうくらいだ。
 普段より早く起きてしまったが故に、朝食まで特に何もする事が無い。僕はただ呆然と上体を起こしているしかなかった。ただそうしているだけでも時は流れゆくけど、退屈な時間を埋めるにはまだまだ物足りない。
 もう一度寝よう、と僕は考えてはみたものの、先程言った通り眠気は皆無である。そんな状況で寝ようとするのは無謀にも程がある。
 他に何かする事はないのか、と頭を抱えこみながら必死で思い詰める。しかしなかなか良い案は浮かんでこない。
 とりあえず、外に出よう。そうすれば適当に何かしら思い付くだろう。
 そう思った僕は、すくっと立ち上がった。

 水面には僕の姿が写し出されていた。全身が黄色でほっぺたには赤い丸、耳の先は黒く、幾つかに折れ曲がっている尻尾。尻尾の根元辺りは茶色をしている。僕は俗に言うピカチュウという種族である。しかしこの辺に住んでいるピカチュウは僕一匹しかいない。
 僕は手で水をすくって顔へとかける。次に身体へとかけた。早朝なので水はひんやりとして冷たかったが、綺麗さっぱりと何もかもが洗い流せる様な気がしたので我慢した。
 あの後、二度寝の代替案として出てきたのが、小川で一浴びしてくるだった。独りで退屈しのぎをするには、それくらいしか考え付かなかった。
 こんな朝早くから誰が起きているかなんて分からない。分かっていれば一緒に水浴びや木の実狩りを出来たのかもしれない。
 しかし、こうして気を紛らしても結局は昨日の仔について考えてしまう。
 夕方の海岸で偶然に出逢ったあの仔。夕陽を見つめながら静かに佇むあの仔の姿を僕は目に焼き付けている。
 もしかして、あれは夢では無かったのだろうか。いや、夢じゃない。あれもこれも。本当なんだ、事実なんだ。
 でも、あの仔がどうして僕なんかにあんな事を言ったのだろう。
 考えても答えは出てこない。僕はあの仔じゃないのだから分からないのは当たり前だ。
 小川から岸へと上がり、体毛をぶるぶる振って乾かす。よく乾かさないと風邪を引いてしまうのでちゃんと丁寧にやる。
「もしかしてピカチュウさんですか?」
 身体を乾かしている最中に何処からと聞こえた声。それに反応して、僕はきょろときょろと辺りを見回した。しかしその声の持ち主は見当たらない。声の大きさからして直ぐ側にいる筈なのに姿がちっとも見えない。
 分かる事としては、聞き覚えのある声なのは確かであった。僕の声と比べたら高めの声であり、女の仔と考えられるものであった。
「こっちですよ、ぴーかーちゅーうーさん!」
 背後から唐突と聞こえた声に対応しようと、僕は振り向こうとした。しかしほんの少し手遅れであった。
 どすんっ。
 僕が振り向く前に何かがぶつかった。背中には衝撃が走る。するとその反動で僕は体勢を崩してしまい前のめりになる。
「ちょっと、押さないで!」
 手をばたばた振ってどうにかして体勢を整えようと努力するものの、なかなか上手くはいかない。ぶつかった時の衝撃が遥かに強かったらしい。
 そして僕は体勢を維持するのが難しくなってきて、僕の顔と川面が徐々に近くなってくる。
「うわあっ!」
 ざぶんっ。
 盛大に水しぶきが飛ぶのと同時に川へ飛び込む音が辺りに響き渡った。結局、僕は小川へ身体を投げ込む羽目となってしまった。
 そのお陰で僕の身体が水浸しになる。早朝の冷たい水に何時までも浸かっていると風邪を引いてしまうので慌てて出る。
 それでも、身体をびっしよりと濡らしてしまった為か寒気がする。
「ごめんなさい。突き落とそうとした訳じゃないんです」
 多分、僕を驚かそうとするつもりだったのだろう。しかし結果としては僕を小川へ突き落とす事態になってしまった。
 いつもはぴんと張っている筈の彼女の耳は、今はしょんぼりうな垂れていた。
 僕は彼女にそんな顔をして欲しくなかった。だって彼女は元気が取り柄なのだから。
 落ち込んでしまった彼女を僕は慰める。彼女の茶色い頭を撫でながら。
「イーブイ、気にしなくていいよ。さっきまで水浴びしてたし」
 茶色の身体に、ふかふかとした胸の辺りの白い毛を持つ彼女。更に小さい身体ながらも少し大きめな尻尾がある彼女。そして先程の僕を呼んでいた声も彼女。その彼女であるイーブイだ。
「でも……。そうだ! さっき採ってきたマトマの実を食べて下さい。ぽかぽかしますよ」
 そう言ってイーブイはマトマの実を口に咥えて渡してくれた。
 突き落としてしまったお詫びという訳なのだろう。そこはイーブイの律儀な性格が表れていると感じた。また、寒そうにしている僕を見てマトマの実を選んだのもイーブイなりの配慮だなと感じる。
「ありがとう。それじゃあ頂くよ」
 僕はそれを手で受け取って、早速一齧りする。口の中でマトマの実特有の味が広がった。そしてマトマの実の効用で、ほんのりと温かくなってくる身体。ついさっきまで身体が冷えていたのに、そうなると寒気なんて綺麗さっぱり吹き飛んでいく。
 僕はマトマの実を食べつつもイーブイに言う。
「イーブイの旦那さんになる仔はいいなあ」
「どうしてですか?」
「だって君は頭も良いし、僕より歳が下なのにしっかりしているし、将来は良いお母さんになる事間違い無しだよ」
 僕がそう言うと、イーブイは照れくさそうにして俯いてしまった。頬も僅かながらも赤みを帯びているのが見てとれる。
 イーブイは恥ずかしがっているためなのか、小さな声でぼそりと呟くように言う。
「……良いお母さんだなんて、そんな。……私はただピカチュウさんのおよめ――」
 ただでさえ小さな声なのに、更にイーブイは段々と声を小さくしていくので僕はよく聞き取れなかった。恐らく、僕の事を取り上げていたと思う。僕に関してなので、イーブイに訊かない訳にはいかない。
「あのさ、後半部分が聞こえなかったんだけど何て言ったんだい?」
 僕が訊いてみると、何故かイーブイのほっぺたが更に赤くなった。イーブイは僕と視線を合わせようとはせずにきょろきょろと動かして逸らす。
「ああっ、えっと、気にしなくていいんですよっ。単なる私の独り言ですからっ」
 口調も形相も慌てた様子なので、どうやら僕が訊いてはいけない事だったらしい。当のイーブイも独り言だと言っているからこれ以上は言及しないでおく。
「そうなの? ならいいけど」
 はい、気にしないで下さい、とまだ落ち着かないイーブイが返答してくる。
 本当は気になって仕方が無いが、ここは我慢して黙っておこう。
 僕はまだ食べ終えていないマトマの実を齧りながら、イーブイが大人しくなのを待つ。依然として身体は温かったけど、イーブイのように頬が赤くなるくらいに熱くなる気配はちっとも無かった。
 僕が最後の一口を飲み込む頃には、イーブイは大分大人しくなっていた。僕が食べ終えたのを見計らって、イーブイが口を開いた。
「失礼な事を言ってしまいますが、ピカチュウさんが早起きだなんて意外ですよね」
「はは。まあ、ね」
 僕とイーブイは小さい頃からの仲だ。イーブイが幼かった頃は兄貴分の様によく面倒をみたものだ。だから僕とイーブイはお互いをよく知っている。僕が朝起きれないというのもイーブイは知っているのだ。
 そういう僕はイーブイが進化に対してずっと悩んでいるのを知っている。だからイーブイは僕に将来何に進化すれば良いのか相談してくる。
 僕の曖昧な返答が気に掛かったのか、イーブイは心配そうに尋ねてくる。
「もしかして何かあったんですか?」
 何か、で真っ先に思い浮かべたのは昨日の出来事であった。
 夕方に浜辺でぽつんと佇んでいたあの仔。その仔に言われた言葉が脳裏で再生される。
 ――わたしとおつきあいしてくれませんか?
「いや、特には無いよ」
 今日早く起きたのはたまたまだよ。たまたま。
 そう言って僕は笑顔をイーブイに見せる。誤魔化した作り笑いを。
 昔ながらの仲だから相談しても構わない筈だった。だけど、昨日の事が原因だなんてイーブイには言えなかった。
 よく分からないけど言ってはいけないと僕の心がそう命令してくる。自分の心には逆らう事は出来ない。
 僕が嘘をついているとイーブイは分かっていると思う。これも長年の付き合いの賜物だから。
 しかし有り難い事に、イーブイは深く追及してこなかった。きっと先の独り言の件もあるのだろう。
 更に助かった事にイーブイは話題を変えてくれた。
「じゃあ明日も会えますか? この時間帯に」
「どうだろう。普段の僕なら無理だろうね」
 ねぼすけである普段の僕を知ってるでしょ、とイーブイに訊く。
 そうすると、イーブイはええもちろん、と即答したので僕は思わず苦笑してしまう。
 そんなに起きないと思われているとなると、頑張って早起きしようかなと考えてみる。だが、遅く起きる癖がついてしまっているので、無理だろうと決め付けてしまう。
 だからイーブイには悪いけど、明日も会えるとは言えなかった。出来ない約束をするよりかはしない方が良い。
「会いたかったですけど、残念です」
「別に会えなくたって、いつもみんなと一緒に遊んでるじゃない」
「……最近、ふたりっきりでいられる機会って少ないじゃないですか」
「うーん、イーブイがそんなに進化の相談がしたいなら、予め言っておけば予定は空けとくけど」
「それだけじゃないんですけど……」
 イーブイから続けられる筈の言葉はなかなか出てこない。僕がイーブイの様子を窺う。すると、イーブイは言うか言うまいなのか悩んでいる様子であった。
 そんなに悩む相談があるのだろうか。
 僕が遠慮しないで話してごらん、と言おうとした瞬間に、
「……まあいいです」
 とイーブイが言ってしまったので、僕は言えず仕舞いだった。
 だけども、イーブイの少し暗い表情から判断すると、後悔しているように思えた。
 やっぱり何かあるんじゃないの、と尋ねようと口を開いた途端に、
「これ、持っていって下さい。少し多く採りすぎちゃって」
 そう言って、イーブイからキーの実とチーゴの実を渡された。僕は思わず流されてしまう。
「ありがとう。今日の朝食にするよ」
 僕が木の実を二つ受け取ってお礼を言う。僕が快く受け取ってくれた為か、イーブイが嬉しそうに微笑む。
 その笑顔を見た僕は感じた。
 さっきの顔色は単なる見間違いかな、と。
 じゃあもう帰るよ、本当にありがとう、とイーブイに告げて僕はその場を後にした。

「イーブイは何が言いたかったんだろう」
 帰り道に、あの時にイーブイが浮かべた表情や、口に出そうとした言葉を僕は気にかかっていた。
 僕は間違っていたのだろうか。
 きちんとイーブイに訊いておけば良かったのか。だけど今となってみれば後の祭りである。
 もしかしてゼニガメとフシギダネみたいにふたりだけで遊びたかったとか? それには流石に気づかなかったなあ。僕は大勢で遊ぶことの方が多いから、ふたりで遊ぶなんてそんなのは浮かばなかったなあ。
 まあ、本当にそうならば後日イーブイから誘ってくるだろう。僕は誘いが来るまでひたすら待つだけだ。
 そんな事を考えてたら、自分の寝床である洞窟が見えてきた。
 さあ、帰って朝食だ。そう思った矢先に感じる殺伐とした視線。
 こんな視線を投げ掛けてくるのはこの辺りだとあの仔しかいない。
「いるのはばればれだから出てきたら?」
「むっ、流石は黄色い悪魔。ばれてるんだったらしょうがないね」
 予想していた声が響き渡ったので、僕は身構えた。何故ならあの仔は僕にいつも挑んでくるから。
「先手必勝! あやしいひかり!」
 何処からともなく眩い光が飛んできて、僕の視界を奪う。
「うわっ!」
 視界に埋め尽くされる一面の光。その光が目に焼き付き、僕はくらくらと目眩を起こしてしまう。その所為で、よろめいてしまう。ふらふらになってしまった足を立て直すのは難しく、目の前に広がるのは依然として光である。これではあの仔の位置が掴めない。一応、戦闘体勢を取り直してはいるが、あの仔の事だから何か仕掛けてくる筈である。
「まだまだ! おにび!」
「ぐっ!」
 だいもんじやかえんほうしゃほど熱くはないが、怪しげに漂う火が僕をじわじわと焼いていく。
 予想していた通り、あの仔に補助技であるおにびをやられて、やけどを負ってしまう。焼かれた所がひりひりと痛み、僕の体力を徐々に蝕んでいく。長期戦になればなる程僕が不利となり、反対にあの仔は有利となる。
「うふふっ、状態異常にさせるのは戦いの基本よ。さあて、どうやって黄色い悪魔を料理しましょうかね」
 勝負とは常に流れが大事なものである。それなのに僕は完全にあの仔の勢いに飲み込まれた。ここから形勢逆転をするのは簡単ではない。それでも僕は勝たなくてはならない。
 こんらん、やけど、これらの状態異常を背負って戦っていくのは完璧に不利だ。状態異常から回復さえ出来れば、僅かでも勝機が見えてくる。
「さっきからじっとしちゃって、為す術なくて降参かしら?」
 僕に挑発して余裕綽々としているあの仔。あの仔がそんな態度を取る気持ちが分からなくもないが、僕は少しむっとする。
 いや、ここで苛立ってはあの仔の思うつぼになってしまう。ここは冷静にいこう。
 僕の状態異常はこんらんとやけど。そういえばさっき僕は……。
 この状況を打開する方法を僕は閃いた。思わず口許が緩んでしまう。
「誰が為す術が無いって?」
「きゃっ!」
 僕のでんこうせっかが見事に当たる。
 どすんとぶつかった音が響いて、吹っ飛ぶあの仔。あの仔は背中からに地面に着いて、少し勢いが止まるまで身体をずるずるひきずられる。あの仔が地面と擦れる事で土煙が漂う。停止すると、地べたの上で四肢を投げ出し、六つの尻尾が着く形となる。
 やはり予想通り、あの仔だった。赤い身体に頭にはくるくるとした毛、特徴的な六つの尻尾があるロコンだ。
「こんらん、やけどになった筈なのにどうしてっ?!」
 でんこうせっかを当てたものの、ロコンは痛がる事なく起き上がる。しかしロコンは驚いた表情を浮かべて僕を見ている。
 そりゃそうだろう。
 何故なら、こんらんは少し時間が経過しないと治らないし、やけどに至ってはこんなにも早く回復しないからである。
 僕が立ち直る事が出来たのもあの時に、
「イーブイから貰ったんだ。チーゴの実とキーの実をね」
 まさかこんなところで役に立つとは。僕は心の中で密かにイーブイに感謝する。
 過去に母さんから木の実は便利だと教わっていた。戦う時には木の実は持っておけ、これは母さん口煩く言っていた。ちなみに母さんのお気に入りの木の実はオボンの実。そのお陰で父さんとの喧嘩にも勝てたらしい。
 不測の事態に、ロコンは戸惑いを隠しきれていなかった。ロコンが大分焦っているのが一目で分かる。
「イーブイったら余計な事をして。木の実をあげなかったら今頃ピカチュウはあたしの――」
 計画通りにいかなかったのが納得出来ないロコン。ぶつぶつと呟き始めて作戦を練るものの、平常心を失っているなかでは無理に等しい。
「ごちゃごちゃ言ってるんだったら、今度はこっちの番だよ。でんじは!」
 僕はでんじはをロコンに目掛けて飛ばす。でんじははおにびと違って容易に避けられる物ではない。命中率は百パーセントと言っても過言ではない。
「きゃあっ!」
 でんじはを直撃したロコンはぶるぶると身体を震わせる。いつものロコンは軽やかな足取りをするのに、まひ状態となった今は重たそうにする。
 まひ状態になってしまったら動きは鈍くなる。これによりロコンの長所である素早さを奪ったようなものだ。
「まひ状態になったらロコンちゃんでも素早く動けないよね。そして――」
 まひ状態はそれだけに留まらない。偶に発生する追加効果があるのだ。
 僕に反撃しようと口を開くロコン。しかし開いた口から炎は出ない。
「まひして、う、動かない……」
 まひ状態では痺れて攻撃出来ない時があるのだ。これで追撃の機会を貰ったようなものだ。
「行動不能になってしまって反撃できない。そして、僕はボルテッカーでロコンちゃんを――」
 僕のほっぺからばちばちと電気を作り出す。発生させた電気を自分の身体全体へ集めていく。そうすると僕は電気を纏うことになる。
「倒す!」
 僕はロコンに目掛けて勢いよく地面を蹴る。僕は物凄い速度でロコンに向かっていく。速度が上がれば上がる程、ボルテッカーの威力は増す仕組みになっている。
 ロコンとの距離が縮まっていく。まひ状態で身体が思うように動かないロコンは僕の攻撃を避けられない。
「や、やめてっ!」
 迫り来る僕に恐怖を抱いて、ロコンが目を瞑りながら叫んだ。それを見計らって僕は、進行方向とは逆に力をどんどん加えていくと共に足の先から電気を逃がしていく。
 ロコンの側へ着く頃にはボルテッカーの勢いも収まり、身体に収束していた電気も無くなっていた。
 僕はロコンの頭に手をぽんと置く。それに反応してロコンが僕の事を見上げた。
「……そんなひどい事はしないよ、ロコンちゃん」
 緊張が解けたのかがっくりとがっくり地面に倒れるロコン。はあはあ、息を切らしてとても疲れきった様子である。
「きょ、今日も負けた」
「そんなにショックを受けなくても。僕なんか木の実使ったし……」
 僕の言葉に対して、同情なんかされたくない、と言わんばかりにロコンは僕の手を払いのけた。
「負けは負けなの。黄色い悪魔さんは何がお望み? なんならあたしを奴隷したっていいのよ?」
「君はそんな事を僕がすると思ってるの? ロコンちゃんを奴隷だなんて僕には出来ないよ」
 そんな事をしたら僕の良心が傷む。それにロコンを奴隷しても、気の弱い僕では扱いに困るだけだ。
「それじゃあ、あたしに何をして欲しいの? 勝者は敗者の言う事を絶対守らなきゃいけないのだから」
 敗者は勝者に従わなくてはならないというのは古くからある掟である。しかし、この掟も平穏無事である今日に至っては使われなくなってきた。だが、ロコンが僕に対戦を仕掛けてくるときにはこの掟を適用してくる。
 僕がロコンに勝つ度に毎回悩むのが、何を命令するかである。いつも他愛の無い事を命令するが、いざとなってなかなか思い付かないものである。
 この間は対戦じゃなくて、普通に遊ぼうって言ったから……。
「じゃあ、一緒に朝食を食べよう。折角僕の家の前まで来たんだから」
 我ながら良い考えだと思う。身体を動かしたからお腹が減ってきたのもあるし、丁度朝食の頃合いだし。
 そんな他愛も無い命令をしてくる僕に、ロコンは呆れた様子だった。
「ふん、馬鹿ね。毎回毎回勝ってもしょうもない事に使うんだから」
「それでも構わないよ。ロコンちゃんが悲しまないのが一番だよ」
「……っ。今度、あたしが勝ったらピカチュウが負けて後悔するような事を命令してやるんだから」
 そう言うと、ロコンからぐうっとお腹の音が鳴る。その音を出してしまったロコンは顔を真っ赤にして下を向いた。
 やっぱりロコンもお腹が空いてるんだ。ご飯を一緒に食べる命令をして良かった。
「はいはい。でも今はご飯だ、ご飯」
 それじゃあ行こうか、と言って僕はロコンへ手を差しのべる。ロコンはまだ先程の事があってか僕に顔を向けてはくれない。でも、ロコンは僕の手に片方の前肢を乗せてくれた。



 朝食を食べ終えた途端にロコンはそそくさと帰ってしまった。しかし帰り際にはちゃんとごちそうさまと僕に伝えてくれた。ロコンは可愛い所があるのに、牡みたいに対戦が好きだから勿体無いなと思う。もっと女の仔らしく振る舞えば牡からもてると思う。だから、僕はロコンの事をロコンちゃんと呼んでいるのだけど全く効果が無い。ロコンが女の仔っていう自覚を持つにはもう少し先になりそうだ。
 今度、僕が勝ったらロコンに女の仔らしくしろって命令しようかな。うん、きっとそれが良いよね。
 そんな事を考えながら、僕は独り住み処で仰向けとなっている。見慣れた岩肌が視界を埋め尽くしている。
 今日は特に用事がないという訳ではないが、太陽が真上に昇るくらいまでは暇である。それまでどうやって時間を潰そうかと考える。
 独りで出来る事がいいな。皆で遊んだとしても途中で抜けなくてはならないから。
 海へ行って、波にでも乗ろうか。
 うん、それがいい、と僕は思って住み処を後にした。

 海岸へ着いて真っ先に目についたのはゼニガメとフシギダネであった。しかし当のふたりは僕に気付いてはいなかった。
 それもその筈で、ふたりは海に入っていたからである。恐らく、ゼニガメがフシギダネに泳ぎを教えているのだろう。前々からフシギダネは泳げるようになりたいと言っていたし、ゼニガメも練習に付き合うと言っていたから。
 声を掛けようと僕が歩み寄ろうとすると、ふたりの笑い声が耳に入る。それを聞いて、僕はふと思いがけずに立ち止まる。
 お邪魔しちゃ悪いかな。
 折角、良い雰囲気で練習してるのだから僕が入る訳にはいかない。寧ろ、僕があの環に入る余地はないのだ。
 また、ふたりの声が聞こえた。今度は先程よりも楽しそうであった。僕には全然目もくれないでいるふたり。
 僕は少しだけ寂しく感じた。ゼニガメとフシギダネは友達の筈なのに、今は何故か友達じゃない気がしたから。
 僕は一歩後ろに置いた。そしてもう一歩と次々に後退りしていく。僕はあのふたりからどんどん離れていく。
 僕は来た道に戻ろうとした。でもそれは出来なかった。
「……ピカチュウ?」
 僕を呼ぶ声が耳に入った。でもそれはゼニガメとフシギダネのものではなかった。その代わりに普段はあまり聞き慣れない声だった。
 でも僕は知っている。この声の主が誰だかを。昨日、僕に初めて話し掛けてきたあの仔だ。
 僕は声が聞こえた方である後ろへ振り向いた。そしたら案の定、あの仔がいた。淡い桃色をした身体に、細長い尻尾を持つあの仔。
「……ミュウ」
 更に付け加えると、昨日、ミュウは僕に告白してきた仔だ。
 僕は昨日、ミュウと会う約束をしていた。
 しかし、まだ約束の時間じゃない筈だ。どうしてミュウがここにいるのだろうか。
「えっと、確かお日様が真上に昇るとき此処で待ち合わせだったよね?」
 僕は念のため、上を見上げて確認するが、まだお日様は斜めの位置にあり真上にはきていない。
「そうですけど、待ちきれなくて……。だから早めに来てしまったのです」
 いくらなんでも早すぎるよ、と僕は突っ込みたかったけどそこはぐっと堪える。
「そっか。僕は波に乗ろうかなって思って来たんだけど、ミュウが来てくれたからもういいや」
「……手、繋いでくれますか?」
「あ、うん」
 僕はミュウと手を繋いだ。すると普段とは違う感覚に襲われる。
 何でだろう。凄くどきどきする。
 こんな気持ちは初めてだった。いつもなら手を握っただけでは胸が高鳴る事はない。それなのに今は収まりきらないくらい心臓が動いている。
 友達だと、こうならないのに。可笑しな気分だ。
「えへへ、じゃあ移動しましょうか」
「――うん」
 繋いだだけなのに、ミュウは嬉しそうにしながら僕を見てくる。そんなミュウの嬉しそうな顔を見てると、つられて僕の心も躍る。
「何処に行きましょうか?」
 ミュウが移動すると言ったからには何処か行きたい場所があるのだろうと思っていた。だから僕に訊いてくるとは予想もしてなかった。
 僕はうーんと首を捻りながら考えてみる。
 僕とミュウはお互い余り知らないのだから、ゆっくりと喋れる所がいいな。ミュウと一緒にいるところをみんなに見られると騒ぎになってしまうから、なるべく目がつかないような所にしないと。
「……じゃあ僕の家にする? のんびりくつろぎながら話せるよ」
 僕の返事に、ミュウは直ぐこくりと首を縦に動かした。
 すると、後ろの方から叫び声が聞こえた。僕はミュウと手を繋いでいるので、その方向に顔を傾ける。
「おーい、ピカチュウ! 暇なら一緒に遊ぼうよ!」
 今更ながらもゼニガメが僕に気付いたのだ。見れば、いつの間にかゼニガメとフシギダネは砂浜へ上がっていた。ゼニガメの側にいるフシギダネも僕を見ている。
 もう少し気付くのが早かったら一緒に遊べただろうに。でも今はミュウといるから無理な話だ。
「ごめん、この仔と用事があるから遊べないや」
 僕の手を握り締めているミュウの手は解けない。手を離してゼニガメ達の方へ行くわけにはいかない。ミュウを独りになんて出来ない。
「この仔って誰だい? 独りじゃないの?」
「え? いや僕の隣に――」
 いるじゃない、と言おうとした途端に、ミュウが口を挟んだ。
「いきましょう、ピカチュウ」
「あ、うん」
 ミュウに急かされて僕はうん、としか言えなかった。おまけにミュウは僕の手をぐいと引っ張ろうとしてくる。
 一刻も早くこの場から立ち去りたい、と言ってるようだった。
 ミュウがそうしたいなら、僕はそうするしかない。ここは急いでゼニガメ達に別れを告げなくては。
「とにかく、遊べないや。また今度ね」
「分かったー」
 僕はミュウに手を引かれながら浜辺を後にする。その際にちらりとゼニガメとフシギダネの方を見たが、やはりミュウの事なんて気にも掛けてない雰囲気だった。
 あの二匹は僕が女の仔と側にいるのが気に食わなかったのだろうか。とは言ってもフシギダネだって女の仔だし、関係無いとは思うのだろうけど。
 それじゃあわざと見てみぬふりをしたとか?
 ミュウはこの辺りじゃ見掛けない仔だから警戒してたのかもしれない。でも僕が一緒にいるのだから危害を加えない仔と分かる筈だ。
 ああもう、考えても答えが見付からない。こんな事なら考える癖なんて無ければいいのにな。こればかりは父さんからの遺伝だから仕方無いのだけど。
「浮かない顔をしてますけど、どうかしたのですか?」
 いつの間にか、僕の手を引いていたミュウが僕の目前で立ち止まっていた。心配そうに僕の事を見つめながら。
 別に大したことはないんだけどね、と僕は口を動かす。それでもミュウは不安そうな眼差しを投げ掛けてくる。
 そんな風にされると、僕は言わざるを得ない。
「あーいや、ゼニガメ、ミュウの事が見えなかったのかなって」
「そうですよ」
 僕の疑問にミュウは躊躇う事無く即答する。
 なるほど、やっぱりそうだったんだ。そうじゃないと可笑しいよね――って。
 ちょっと待てよ、ミュウはどうしてそんな事を言うのだろう。
 ミュウの冷静な対応とは反対に、僕は戸惑ってしまう。ミュウの姿が見えないとはどういう意味なのか、と。
「そうですよって、ふたりでいたから目立つと思うんだけど……」
「でも、あの方には私の姿が見れなかったのは間違いないです」
 ミュウは頑固として言い張り続ける。だけど僕の目にはミュウが映っている。僕が見えるのだからゼニガメとフシギダネも見れるに決まっている。
「そんな訳ないでしょ。だって君はここにいるよ」
 僕はこうして話している間にもミュウの手から温もりを感じている。この温もりはミュウがいなかったら感じる訳が無い。ミュウが夢の様に幻ではないと物語っている。
 それなのに、ミュウの口からは無情な言葉が発せられる。
「私なんか本当はいないような存在なんです」
「いないような存在?」
「そうです」
「じゃあミュウは僕と逢うまで今までどうしてたのさ?」
「テレポートをして放浪する生活ですよ。色んな所をテレポートで回って……。後はこうやってです」
 突如ミュウが眩い光に包まれていく。それに対して、僕はあまりに眩しいので思わず目を閉じてしまう。僕が再び目を開ける頃にはミュウの姿が無く、代わりにいたのは、
「……? 僕と同じピカチュウ?」
 目の前にはミュウがいる筈なのに、実際にいるのは僕と同じピカチュウだった。僕と唯一違う点は牝を象徴とする尻尾の先が少し窪んでいるだけだった。
 僕は掴んでいる手を見てみる。僕が握り締めていた桃色の手は黄色へとすり変わっていた。おまけに手の形までもが僕と同じであった。強いて言うならば僕よりも大きさが少し小さいくらいだろうか。
 手を離した覚えはない。したがって、このピカチュウはミュウなのだと確信した。
「へんしんをすれば、私の姿が他の方にも見えます。とは言っても本来の私ではなくてへんしん後の私ですけど」
 ミュウがへんしんする前の声で、目の前にいるピカチュウは喋る。どうやら姿形は変えられても声色だけは変えられないらしい。しかしミュウがピカチュウの姿だと違和感が残る。
 そして最大の疑問点がまだ取り残されている。
「それじゃあ、何で僕は本当のミュウの姿が見れるのさ?」
 他の仔達にはミュウの本来の姿は見れない。だとしたら僕も同じように見えない筈である。
 だけどミュウからの返事は呆気ないものであった。
「それは私にも分かりませんが……。でも私、嬉しかったんです。ちゃんと私を見れる方がいるんだって。そんな方に初めて出逢えたあまりに言ってしまったんです」
 昨日、ミュウが僕に告げた台詞が頭の中で流れる。
 わたしとおつきあいしてくれませんか?
 いくら自分が鈍感といっても、その言葉が軽はずみな物ではないと知っている。
 だからこそ僕は言いたくなる。こんな自分で良いのかと。間違いでは無いかと。
「僕には勿体無い言葉だよ。それに僕はどこにでもいるような普通のピカチュウなんだよ? そんな僕なんかと――」
「それなら私の事嫌いなら嫌いとはっきり言って下さい」
 彼女の言葉に、僕は口を動かせない。昨日みたいに僕は黙ってしまう。
 ミュウはきっぱりと述べるのに対し、僕は曖昧にして先延ばし。自分の優柔不断さにはことごとく嫌気がする。
 昨日だって僕が必死に考えた挙げ句ミュウに返した言葉は、
 悪いけど僕は君の事を知らない、でも君の気持ちを無駄にしたくない。
 だから今日はこうしてミュウと会う約束をしたのだ。彼女について分かろうとする為に。でもそれにも裏がある。
 本当はミュウが傷付くのが怖かった。僕の言葉でミュウの言葉を台無しにして、悲しませたくなかった。
「ミュウの事は嫌いじゃないよ。でも会ったばかりで好きかどうかはまだ言えないんだ、ごめん」
 誤魔化すのは出来ても、僕は嘘はつけなかった。今の僕ではミュウを嫌いとも好きとも言えない。
「そうですよね、無理を言ったのは私の方でした。こちらこそごめんなさい……」
 僕はまたミュウを困らせている。
 だから僕は胸の内に秘めていた感情をミュウに伝える事にした。
「初めてと言えばね――」
 ミュウの手を強く握り締める。
「僕にとっては君に言われたのが初めてだったんだ。それまで誰からもあんな事を言われた事なんか無かったし、言った事も無かった」
 これまで、仲良くなった仔達は僕と付き合ってくれなんて言わなかった。それもそうだと思う。みんなは僕を友達としか見てないのだから。それは僕だって例外では無かった。
「誰と一緒になるか想像もつかなかったし、ずっとみんなの友達でいるつもりだった。誰かの旦那さんになるなんて考えられなかったから」
 だから僕はみんなの内に誰かを選んで寄り添い合うのは想い描けなかった。みんなとは全員で笑いあっていきたかったから。
 みんなの中で誰かと誰かがくっつくのは構わない。でも僕には誰かを選ぶ勇気は無い。
「後付けになってしまうかもしれないけど、初めてミュウと逢った時、みんなとは違うって思った」
「みんなって、先程の方達ですか?」
「うん、僕の友達であるみんなさ。君だけは友達とは違うんだ。どう表現したら良いのかよく分からないんだけどね」
 どうしてなのか、ミュウだけは友達という枠組みにはくくれないのだ。恐らく、まだミュウと逢って間もないという理由もあるだろう。しかしそれだけではないと思う。僕がミュウを見れるように、特別な訳があるのかもしれない。
 だけど今の僕には理解出来ない。たとえ自分に関してであってもだ。多分僕が分かる為には、ミュウとの時間が徹底的に足りないのだ。だから僕は言う。
「君と付き合うのには役不足かもしれないけど、こちらこそ宜しくお願い」




 それからというものの、僕はミュウと過ごす時間が多くなった。
 一緒に何処かへ行ったり、一緒に食事をしたり、一緒にお昼寝をしたり。
 ミュウが僕の家へと転がりこんだ、という所為もあるが。
 ミュウは元々住み処なんて持ってはいなかった。無かったから各地を放浪出来たらしい。僕と付き合うことになったからには、住む場所を見つけなくてはならない。そこで僕が提案したのだ。僕の住み処で一緒に住もうよ、と。その方が互いの仲を深めるのが早いと思ったからだ。
 最初、ミュウは反対だった。ピカチュウの迷惑になるので止めておきます、と言っていた。でも僕はどうにかしてミュウを説得する事が出来た。
 だが今となっては、
「ほら起きて下さい、新しい朝が来ましたよ!」
「……んー」
 僕がミュウに迷惑を掛けっぱなしである。朝が苦手な僕は毎日のようにミュウを困らせている。僕が起きる前にミュウは必ず起きていて、僕を起こしてくる。
 負担が掛かるから起こさなくていいよ、と前に言ったのだがミュウは受け入れてくれなかった。寝過ぎは身体に毒なんですよ、とミュウはまるで世話好きな母さんのように口にする。仕方無いので、僕は毎朝眠い目を擦り頑張っている。
「朝ごはん取ってきますね」
「……うん」
 僕が重たい瞼を擦り終えると、ミュウの姿はこれっぽっちも無かった。僕が先程まで見ていた夢の内容をすっかり忘れてしまったように。
 それでも僕は心配しない。どうせミュウは木の実を取ってくるだけだし、もう少ししたら戻ってくるからだ。
 いきなり消えたのはミュウがテレポートしたからだ。ミュウはテレポートが出来るから、木の実がある場所まで歩いて移動する必要が無いのだ。どんな所へ行くのに対しても時間は掛からないし、ましてや距離なんて関係無いのだ。
 だから僕はたまに恐く感じるんだ。

 ――彼女が何処か遠くへ行ってしまいそうで。



 夕陽を観に行こうと言った彼女は宙に浮きながら独り早々と進む。僕は砂浜に足を取られながら、彼女を追いかける為に必死に走る。たまに彼女がこちらを向いて、僕との距離が近いと判断すると急いで離れようとする。そして僕は彼女に近付こうとして地面を蹴り出す。気付けば鬼ごっことなっていた。
 僕の足下からは長い影が伸びている。だけど彼女の足下から影は伸びていない。おまけに彼女は砂浜に足を着かないから、足跡はひとつも残らない。それに対して走っている僕の足跡だけが残る。ふたりでいるのに、僕が独りでいるみたいに感じる。
 そう感じてしまった所為なのか、僕の頭の中で疑問が生まれる。
 このまま彼女がすうっと消えたりしたらどうなるのだろうか。
 砂が波にさらわれて消えてしまうみたいに、もしも彼女もいなくなってしまったら。
 そうなった場合、僕には彼女を見つけられないだろう。何の手掛かりも残さないで消えてしまうのだから、捜しても捜しても彼女を見つけられる筈がないのだ。テレポートを使えない僕には、あちこち飛び回れる彼女に追い付けない。テレポートを使っていない今でさえ、彼女に鬼ごっこで勝てないんだから。
 そうやって考えると、ちっとも埋まらない距離感がもどかしく、同時に怖いと感じた。彼女が僕の元からどんどん離れていくような気がしてしまったから。
「待って!」
 僕は思わず叫んだ。お腹の底から力一杯に。
 すると、僕の呼び掛けに応じて彼女は止まる。そして僕の方を向き、どうしたの、とでも言いたげな表情を浮かべて待っている。
 僕は彼女のところへと急いで駆け寄る。彼女が僕の目の前から消えてしまわぬうちに。
 しかし、急ごうとすると余分な力が入って足が砂の中へと沈んでしまう。その所為で速く走っている筈なのにそう出来ない。
 それでも彼女の元へ向かおうと必死に砂浜に対抗する。足が砂に飲み込まれようが抜け出して一歩、また一歩と踏み出す。それと同時に体力が少しずつ蝕まれていく。だけども、徐々に彼女との距離は縮まっていく。
 彼女のところへ着く頃には、僕の息遣いはとっくに荒かった。はあはあ、と息を切らしつつも、漸く彼女の側へ近寄ることができ、僕は少し安心した。
 それでも僕の不安は拭いきれずに残っている。
 彼女は僕の疲れた様子を見て心配してくれている。だけど、僕にとって自分の身体の様態なんてどうでも良かった。不安要素は僕自身に無いのだから。
 この不安を解消する為にも、僕は両手を使って彼女を抱き締める。
 彼女にさわれた。ちゃんと僕の前に彼女がいる。
「……ピカチュウ?」
 僕がいきなり抱きしめた事もあってか、彼女は恥ずかしそうに頬を紅く染めた。紅は淡い桃色をした彼女の身体に際立っている。
 ふわりと軽やかに浮いていた彼女の身体は僕が抱いたことにより、浮かなくなっていた。砂浜に彼女の足跡がくっきりと残る。
 本当は彼女が宙に浮いているのでさえも恐い。雲のようにふわふわ流れてしまいそうで。そうして、僕の手が届かない場所へと彼女が行ってしまいそうだから。
「いきなりでごめん。でもそうしないと恐いんだ」
「恐いって何がですか?」
「君が消えてしまいそうで」
 彼女がいなくなる、それが僕の奥底にいつも存在する不安である。彼女と一緒にいるだけでなく、独りでいる時も。彼女と楽しい時を満喫している時でさえ、この不安を抱えている。常に抱えているのだ。
 僕がそう不安を告白すると、彼女はにこりと微笑んだ。
 そして彼女は口を開いて、
「ふふ、心配性なんですね、ピカチュウは」
 よしよし、と彼女は僕の頭を優しく撫でて、僕を宥めようとする。これでは僕が母にしがみつく子供の立場のようで、少し恥ずかしくなった。でも彼女の感触や身体に温かみがあって僕は安心になれる。だからより一層、温もりを得るために、僕はがっちりと彼女を抱く。温もりを求めるだけでなく、願いも込めて。
 彼女が僕の側にいてくれるようにと。
「どうして私が消えるって言うのですか?」
 僕がより深く抱き付いてきたためなのか、彼女はそう口を開いた。そして声の調子は普段と比べて低かった。
 聞き慣れない彼女の声色に、摘み取った筈であった僕の不安は再び芽生える。
 自分の不安を素直に彼女へと伝える。
「……君はさ、へんしんも出来るしテレポートも出来るから、僕が気が付かない内にはぐれてしまいそうなんだ」
 こうして僕が抱いている間にも、彼女が僕の手からすり抜けてしまうのではないだろうか。そうして、彼女がいなくなってしまっているのではないか。
 彼女は僕の身体にしがみつき、俯いた。心無しか彼女はぶるぶる震えている。震えが僕に伝わる事で、彼女の気持ちが読み取れた。
 彼女も僕と同じように不安を抱えているのだと。
「……私はピカチュウが離れていきそうで恐いです」
 彼女に言われて、どくんと大きく僕の心に響いた。どうしてそう言われるのか、僕は驚きを隠せなかった。
 僕を見透かしたように彼女は言葉を続ける。
「ピカチュウは皆に好かれているじゃないですか。牡牝問わず。でも特に異性と仲が宜しい気がします。イーブイさんとかロコンさんとか」
「あの仔達とは昔からの友達だって。イーブイからは進化の相談を毎日されるし、ロコンはロコンで僕に色々してくるし、こっちだって大変なんだよ」
 僕の返答に、彼女の表情はどんよりと曇っていってまった。今日の清々しく晴れ渡った天気とは不釣り合いなくらいに。
「……それだから、私の事なんてどうでもよくなってしまうんじゃないかって考えてしまうのです。色んな仔達に構って、私に構わなくなってしまうんじゃないかって」
 彼女の声が震える。紛れもなく彼女は哀しんでいる。それも僕の所為でだ。
 自分が知らず知らずのうちに彼女を悩ませていた。
 その事実が僕の心にぐさりと突き刺さる。刺された傷痕から血は出ていない。だけど、血が出ていないのにとても痛くて辛い。もしかしたら本当は流れているのかもしれない。
 彼女を想いやる事が出来なかった自分に苛立ちを覚えた。苛立つのと同時に、
「……」
 何も言えなかった。寧ろ僕が何か言えるのだろうか。
「ごめんなさい。私だってピカチュウが自分だけのものじゃないって分かっています。でもちゃんと私を見て欲しいのです」
 今まで彼女と過ごした時間を、僕は無駄にしてきた訳ではない。
 何の為にこれまで僕は彼女と過ごしてきた? そんなの決まっている、自分の気持ちを整理する為だ。
「――見てるよ、僕は充分に」
 少し前までは何も言えなかった。いつも自分は誤魔化して、彼女の気持ちだけを優先させていた。でももうそんな事はしない。僕はもう覚悟を決めたから。
 そしてこれだけは言わなくてはならない。僕の口から絶対にだ。
「あの仔達よりもミュウ、君は僕にとって大切なんだ」
 君はイーブイやロコンとは違うんだ。ましてや他の皆でさえも。
 君に対して僕が抱いている感情は他の仔達とは全然違う。
 はじめてだったんだ。
 こんなにもとくべつなきもちになるのは。
「でしたら、それを示してくれる証拠が欲しいです」
「僕の胸に手を置いてみてよ。さっきからどきどきが止まらないんだ」
 それを聞いて彼女は何も言わずに僕の胸へ手を置いた。
 ただ彼女を抱き締めるだけで僕の鼓動はどくどくと高鳴っている。脈を打つ速度も何時もと比べたら断然速い。
「単なる友達だったらどきどきなんてしないよ。友達じゃないからこんなにもどきどきするんだ」
 友達と手を握り締めても何も思わない。でも彼女と手を繋いだら胸が高鳴るのを感じる。
「あれから考えてたんだ。どうして僕なんかが君を見れるのかって」
 他のみんなは彼女は見えない。だけど僕は瞳の中にまで彼女が映る。その理由は彼女といる事で芽生えていった自分の気持ちに気付いて漸く分かった。
「僕は心の奥底でいつまでも一緒にいれるような仔が欲しかったんだと思う。母さんが父さんを選んだようにね」
 ずっとみんなの友達として生涯を独りで過ごしても良いと思っていた。だけど内心は違っていた。単純に僕は逢いたかったのだ。ずっと側にいてくれる仔に。
「僕にとって君は離れたくない存在なんだよ。いつまでも一緒にいたい仔なんだよ」
 そして僕は彼女だと気付いた。きっと僕は前から彼女に逢いたかったのだ。
「ごめん、今までずっと待たせて……」
「いえ、嬉しいです、けど……」
 彼女が躊躇うのに僕は不安を覚える。彼女はもう僕なんかどうでもいいと考えているのか。
 しかし僕が予想していた言葉とは違っていた。
「どうせだったら、言葉じゃなくて行動で示して欲しかったです」
「え?」
 彼女の言葉に、僕は呆気にとられてしまう。そして僕は言葉よりも大切な物に気付かされる。
 彼女は物欲しそうな目をしながら僕を待っている。でもその表情は一瞬だけで、ころりと笑みに変えてしまう。
「じょうだんですよ、じょう――っ」
 彼女の開いた口が余計な言葉を発しないように、僕は自分の口を彼女へと押し付けた。
 冗談の一言なんかであっさり片付けられて欲しくはなかったから。
 彼女にそう言わせてしまった自分に少し後悔をした。でも彼女に少し意地悪したくなったのも事実。
 この手段を使ってしまえば僕自身も口を開けなくなってしまう。彼女に僕がどんなに想っているのかを言葉にする事は出来ない。
 それでも、これならいとも簡単に彼女に伝わる訳で。綺麗な言葉を沢山並べるよりも遥かに。言わば論より証拠という奴なのだ。
「ずいぶんと強引ですね」
「嫌だった?」
「いえ、でも安心しました。ピカチュウがこんなにも私に必死になるなんて思ってもいませんでしたから」
 彼女の顔は真っ赤に熟した林檎だった。夕焼けに照らされているお陰もあるだろう。
 そして彼女の言葉で漸く自分がした行為の重大さに気付く。彼女に負けないくらいに僕の頬は恥ずかしさで熱を帯びていく。頬っぺたの色は元々赤いから関係はないけど、夕陽の所為にしたくなる。
「ピカチュウが強引だったら私だって」
 僕は自分の尻尾に異変を感じた。何かが突然僕の尾に絡みついて離れない。
 ぎゅっと締め付けが強くなって、だけども不快感は一切感じられない。それどころか、安心感が僕の心を満たしていく。
「ピカチュウは私がいなくなると言いましたけど――」
 彼女が僕に微笑みながら言葉を続ける。僕が今まで彼女を見てきた中で、一番嬉しそうな表情をしている。
「私は結構、執念深いので覚悟してくださいね?」
 テレポートを使ってまでも追いかけますから。
 彼女にそう言われて僕は苦笑い。
 これはもう後には退けないな。
 そう思いながら、僕も負けじと言い返してやる。
「だったら、僕は静電気でミュウが離れないようにするよ」
 だから、いつまでもいっしょにいよう。
 僕の台詞に反応して、彼女は何か言いたげに口を開いた。だが、彼女が喋る事なかった。何故なら、僕がもう一度彼女の口を閉ざしてしまったから。
 少し背伸びをしたくちづけ。
 おとなたちならば、躊躇いもなくするだろう。
 でもこどもともおとなともとれない僕達ならば、危険な感じがするくちづけ。だから余計に胸が躍る。悪い事を黙ってするような感覚。
 自分が聞いた知識を基にして、拙いながらも舌を動かしていく。彼女の舌へとねっとり絡めたり、口内を舐めたり。舌先から心地好い感覚が伝わる。こんなにも良い事を今までしていなかったのを後悔してしまうくらいに、気持ちが良い。
 彼女の方はと言うと、僕の行為を受け入れるのに精一杯であった。状況に流されるように彼女は僕の舌をすんなり受け入れる。拒む様子は無いが、嫌がる様子も無い。それよりも彼女は悦んでいた。目を細目ながら僕の行為を堪能している。
 背徳感は多少なりともある。でも彼女の悦んでいる姿を見てしまえば、全てがどうでも良く感じた。
 舌と舌とが離れる。離れると唾液が淫らに糸を引いた。口から漏れる息遣いは先程よりも荒い。
 疲れて呼吸が乱れているんじゃない。感情が高ぶっているから乱れているんだ。そしてこの膨れ上がった感情が僕の自制心を奪おうとする。
 しかし、このくちづけ以上を望んでしまって良いのだろうか。彼女は嫌がり、僕を恐がるのではないかと不安になる。
 何も出来ない、立ち尽くすしか事しか出来ない僕を彼女は真っ直ぐな瞳で見つめる。そして、一言告げる。
「……よろしくおねがいします」
 その言葉のお陰で、僕の心にあった迷いは消えた。導かれるように、僕は体重を彼女へと預けた。そうして僕達ふたりは砂浜の上へと倒れた。
 反動で砂が宙に舞い上がる。太陽はもう水平線へと沈んでしまった。夕陽の代わりに月明かりが僕達を照らす。
 僕は両手で砂浜を捉えて彼女に覆い被さるようになっている。だから、彼女の身体を空の上から見るような形になっている。
 普段は体型なんてあまり気にかけない。でも、この場の雰囲気に合わせて見とれてしまう。
 無駄のない肉付きでしなやかな身体の線で単純に言ってしまえば、華奢である。
 僕が身体をじろじろと見ている所為か、彼女は俯いてしまう。頬は勿論のこと、耳まで真っ赤に染め上げながら。
 そういう態度を取られると益々のじっと眺めていたい衝動に駆られる。でも触ってみたいという欲求も出てくる。前者よりも後者の方が強かった。
 だから僕はこれからこの手で彼女を汚しにかかる。
 お腹に置いた右手は段々上部へと滑らせていき、遂には胸元へと辿り着く。熟れた木の実を摘むかの様に、優しくしながら彼女の乳房を捉える。その途端に彼女が喘ぎ声を発したので、僕は手を引っ込めてしまった。
 唐突な彼女の反応に、心配になった僕は、震えた声色で彼女に安否を問い掛ける。
「だいじょうぶ?」
「あ、は、はい。初めての感覚にちょっと驚いただけです。どうぞ、続けてください」
 彼女の返答で改めて気付く。僕達ははじめてなんだ、と。はじめてだから何もかもが新鮮で、同時に怖かいと感じた。それでも怖さよりも上回る感情に僕は動かされる。彼女をもっと触れたい、という感情に。
「出来る限り優しくするから」
 僕はそう告げると彼女はこくりと頷いた。
 彼女は胸の膨らみはあまりない。だけどもふにふにとしていて柔らかい。僕は夢中になって胸ばかり触る。僕はピチューに退化した赤子のようだった。
 僕の動きに合わせて、時折彼女は熱い吐息を出す。だからと言って苦しそうにしているのではなく、心地良さそうにしている。
 気持ち良さそうでなによりだ。
 僕は営みが初めてだから、どこかで聞いた知識しかない。間違っていないか不安で仕方がなかったが、彼女を見る限りでは上手い具合に事を運べている。
「胸だけじゃなくて、その……他も宜しくお願いします」
 胸ばかり触っていた所為か、彼女から別の場所も要求される。
 胸以外で敏感な所と言えばあそこしかない。
 僕は今まで両手で胸を触っていたが、左手だけ離していく。そうする代わりに彼女のお腹へとずらしていく。
 しかしお腹に手は置かない。更に移動させていき、僕は彼女とある位置まで手を近付けていく。
 彼女と一緒に生活してきたとはいえども、そんな所を触るのは勿論だが、見るのも初めてで緊張してくる。それと同時に僕は健全な牡だから興奮もする。
 指先を彼女の恥部へと侵入させていく。余計な力は加えずにゆっくりと。
 彼女は我慢しているのか、目を瞑ってびくびくと震える。口を開けてはいるものの声にはならない。
 指が彼女の奥まで沈んだ。思っていたよりも滑らかに動かせた。僕の指は熱いものに包まれていて、とろけてしまいそうだ。
 それもその筈で彼女の恥部からはぬめりを帯びた液体が垂れていたからだ。
 十二分にその液で潤っていたから僕は滞りなく指を動かせたのだ。
 それにしても触る前からこんなに湿っているとなると、彼女は余程敏感なのか。それとも、
「――君ってもしかしてえっちなのかな」
 胸に触れただけでこんな風になっているのを考えると、そうやって捉えてしまう。僕の言葉に、先程まで大人しかった彼女が猛反論してくる。
「ちがいますっ、ピカチュウのせいですよ!」
 さっきどれだけさわったかじぶんにきいてください。
 彼女は怒ったのか僕からぷいと目線をずらした。それを聞いて彼女に申し訳無いと、僕は思う。自分でも狂ったように大分胸にがっついていた気がする。それでも、責任を僕だけに押し付けるのは可笑しい筈だ。
 だってたのんだのはきみだよね。つづけてくださいといってさ。
 ものにはげんどってものがあるんです。
 僕は彼女のお願いをしっかり聞いてあげたのに、これでは僕がまるで変態みたいに聞こえるではないか。
 もういっそ、変態でもいいよ。
 変態と認める代わりに、僕は好き勝手に触らせて貰おう。
 未だに彼女は怒っているのか僕を見てくれない。だけど、それはかえって僕にとって好都合なのだ。ふいうちを仕掛ける絶好の機会となるから。
 彼女に気付かれないようにこそこそと、僕の顔を恥部に近付ける。すると、強烈な匂いに嗅覚が過敏に反応した。それは決して花のように香しい匂いではない。
 でも僕にとってその匂いはとある欲求を一層駆り立てる。その欲は勿論、性に関する物。
 僕はもう我慢が出来なかった。自分のしたい事をせざるを得なかった。
 ぺろっ。
「ひゃあっ!」
 僕は舌先で恥部の入り口をなぞった。そうすると、彼女は驚いた声をあげて反応した。
 僕が顔を恥部の前にあるからなのか、彼女は慌て口調で言う。
「はっ、はやく離れて下さい」
 だけど僕の耳は彼女の言葉を聞き流す。そして、止まることなく舌を使ってぺろぺろ舐めていく。
「そこは汚いから舐めてはいけませんよっ」
「汚くなんかないよ、だってミュウのだから」
 彼女が注意しても僕は止めない。
 だって彼女は口ではああ言っているが、態度としては真っ赤な嘘を吐いているからだ。本当にやめて欲しいのなら僕を突き放すに決まっている。彼女がそうしないのは止めて欲しくないと思っているからだ。
「うぅ……あっ」
 僕がしたでなめるをしていると、時折気持ち良さげな声を出す。そうしてぴくりと身体を反応させる様子が僕にとって可愛いと感じた。
 そう思うと余計に歯止めが効かなくなっていた。舌先を恥部の内部にまで入れていき、熱い肉壁を舐める。
「うっ、ああっ」
 僕の蠢く舌に彼女の声は大きくなっていく。いくらここが海で波打つ音が響くからとはいえ、もしかしたら他の仔へ聞こえてしまっているのかもしれない。それでも恥じらいもせず、彼女は夢中になって喘ぐ。
 舌を恥部の内部から出して、頻りに溢れ出てくる液体を舐めとる。液体を舌で拭き終わった後は、舌でまた線をなぞり、内部へと入れていく。それを何度も繰り返す。
 僕は彼女をそうやって堪能していく内に気付いた事がある。それは彼女の過敏に反応するところである。
 それは僕は恥部の近くにある。種くらいの大きさで突起した部分である。僕はそこを舌で弄る。
「そこはあっ、だめっ」
 彼女が駄目だと言っても僕は続けていく。舌先で舐めたり、舌を押し付けてやったり。
 そうしていくと彼女の様子が段々と可笑しくなる。そわそわして落ち着かない。
「らめ、やめ、とまっ……」
 そんな彼女の不自然の様子を見ても、僕の動きは止まらない。そうした所為なのか、
「ぁああっ!」
 突如、甲高い声をあげる彼女。それと一緒に恥部からは液体が勢いよく噴出されていく。恥部に顔を近付けていた僕は液体をもろに被った。これには流石に驚いて、僕は遂に動きを止めた。
 顔に掛かった液体を手で拭う。そうした手はべたついていく。潮水でも触ったように。
 心配になった僕は彼女の様子を窺った。彼女はぐったりと疲れたようにしていた。はあはあ、と忙しなく口から呼吸をして辛そうだ。ぽかんと開ききった口からはよだれがだらしなく垂れている。
 何よりも気掛かりなのは彼女の潤った瞳。目から滴が一筋垂れていく。
「……だから、やめてっていったのに」
 ぐっしょりと崩れた彼女の姿に僕の背筋は凍りついて呆然と立ち尽くしてしまう。
「ごめん、つい夢中で……」
 慰めようとして、僕は彼女に手を伸ばそうとした。でも僕の手は動かない。おまけに指先すらも。石のように固まっていた。
 心臓の鼓動がどくどく速くなっていく。不安で背中からは汗が滲み出てくる。何も出来ない自分が恨めしい。
 僕はついさっきにした自分の行動に後悔するが、後の祭だと考えてしまう。最悪な場合、彼女に嫌われたのかもしれない。
 でも、もう一度彼女の様子をよく見ると、涙ぐんではいるが泣いてはいない。
「ひどいですよ……でも、その、気持ち良かったです」
 終いには彼女の口から予想外な言葉が出てきて、僕はどう対応すれば良いのか分からなかった。
 再び、ごめんと言うべきなのか、それは良かったと言うべきか。
 どちらを取るにしても、相応しくない。どう返事をしようか悩み続ける。
 そうしている間に、妙な視線を感じた。この場にはふたりしかいないので、僕でなければ必然的に彼女の物である。
「あう、ピカチュウのが……」
 見れば、彼女の目線は僕のモノに釘付けになっていた。おまけに頬を紅く染めながら見ている。
 むくりと彼女は上体を起こして、物欲しそうに僕のモノへと手を伸ばしてくる。
「いや、僕のはっ!」
 僕のモノで彼女を汚す訳にはいかない。
 だから触らせまいと僕は彼女を止めようとする。しかし、未だに手が動かない。
 手が駄目なら足を使おう。
 迫りくる彼女から退こうと、足を一歩後ろへと下げようとする。だがそうする事も儘ならない。これには流石に可笑しいと僕は考え始めた。
 まさか、ねんりきなのでは。
 今更気付いても遅かった。既に彼女は顔を僕のモノにへと寄せていたからだ。自由を奪われて何も出来ない僕はモノを手で覆い隠せず、彼女の目の前に曝してしまう。
 僕のモノは先程まで彼女に触って興奮していた事もあってか、元々膨れ上がっていた。だが、今は彼女にじろじろ見られているという事もあってか、モノは脈を打ちながらどんどん大きくなっていく。
 彼女は僕のモノに恐る恐る手を掛けた。ただそうしただけなのに、びくんと僕のモノは反応してしまう。
 自分ではない誰かにモノを触られるなんて、違和感でしかなかった。その違和感を僕は快感として捉えている。
「うわ、すごいです」
 モノの反応を見るなり、彼女が驚嘆するので、僕は真っ赤な顔を俯いて隠すしかなかった。
「ピカチュウのにおい……」
 すうっと鼻で吸う音がしたと思いきや、そんな言葉を呟く彼女。彼女の興味は完全に僕のモノへと集中しているようだ。
 そうして今度は彼女が慣れない手付きで僕のモノを触る。モノの先端や根本の辺りまで隅々まで。僕のモノから溢れてくる透明な液も手ですくってとる。彼女は手についた液体をぺろっと舐めるが、美味しいと不味いとも言えない味に言葉を詰まらせていた。
「これがピカチュウの味……」
 でも彼女は最終的に僕の味だと判断した。僕の味とは何だろう、と疑問に感じるものの、その事に突っ込むのは止めておく。そう言うと彼女が僕のモノを舐めて確認しそうだから、何も言わないのが一番である。
 このまま彼女が事を終えるのを期待していた。でもそんな期待は微塵にも崩れ去る。
 彼女がもう一度僕のモノを掴むと何かを食べるように口を大きく開けていく。その行動に僕は慌てながら説得を試みる。
「咥えなくていいんだよ? 僕のは君と違って汚いから……」
「私だって汚いって言ったのに。だからそのお返しです」
 僕が無理矢理やったのに対抗してか、既に彼女は聞く耳を持っていなかった。
「それに、言うと逆効果ですよ。立場がひっくりかわって分かりましたけど」
 よけいにやりたくなっちゃうんですね。
 ふふ、と妖しげに笑う彼女に僕は思わず固唾を飲んだ。
 彼女って結構根にもつ性格なんだな。
 そう思うと、どう言おうが無駄だと感じてしまう。そんな僕に残された手段は潔く腹を括るだった。
「いただきます」
 その一言で、彼女が僕のモノをはむっと頬張っていく。途端に、空気に晒されていた僕のモノは彼女の口の肉に包まれる。
「うわっ……」
 手で触られた時よりも勝る刺激が僕のモノから伝わる。口に含まれてしまったからにはもう逃げられない。彼女からは勿論、この快感からもだ。
 彼女は手を緩めてはくれない。べっとりと唾液を纏った舌が僕のモノへ襲いかかってくる。モノの先端を重点にしながらぺろぺろ舐めてくる。
 そしてモノの根本には手が添えられていく。すると、彼女は手を使ってゆったりと僕のモノを扱き始める。僕のモノは舐められたり、扱かれたりと完全に弄ばられる。
「んっ、あっ!」
 僕のモノから伝わる快感が全身に走って、僕は我慢出来ずに声を漏らしてしまう。
 すごく、気持ちが良い。
 本来だったら止めて欲しい筈なのに、この感覚を味わってしまうと何も言えなくなってしまう。
 彼女が僕のモノを一生懸命咥えている姿が可愛くて堪らない。時々、上目遣いで僕の様子を窺ってくるのにも、どきりと心臓が高鳴る。そんな彼女に僕は興奮を覚えてしまう。
 いけないとは思っている。彼女は折角頑張って僕を気持ち良くさせようと努力しているのに。でも彼女のこんな姿に反応しない訳にはいかない。牡ならば当然だろう。
 はあ、はあと息を切らしつつも、彼女が与えてくれる刺激に僕は虜となっていた。
 それでも、刺激を重ねれば重ねる程に、問題が生じてくる。
「ミュウっ、口をはなしてぇ」
 徐々に僕のモノにある物が込み上げてきた。幾度となく押し寄せてくる快感に、僕のモノは限界を訴えていた。
 しかし僕の要求を呑まずに、行為を続ける彼女。流石にこれはまずいと思って彼女を引き剥がそうとするが、依然として身体が思うようにいかない。ねんりきはまだ行使させているようだ。
 どうにか出すまいと我慢しようとするが、彼女が動きを止めない限り無理だ。刻々と約束の時間が迫ってくる。
 仕上げとばかりに彼女がモノの先端部を念入りに舐めてくる。
「ふぁっ、だっ、め」
 僕はもう堪えきれなかった。快楽を迎えて全身の力が一気に抜けていく。それと並行して、僕のモノから勢い良く精液が溢れていく。
「っ!」
 突然噴出した精液に彼女は見開きながら驚く。彼女は急いでこくこくと喉を鳴らしながら飲むものの、口許から精液が漏れてくる。そしてどろっとした精液が彼女の頬をゆっくり汚していく。
「こほ」
 飲み込むのが苦しくかったのだろう。僕のモノから口を離して、彼女は一旦咳払いをする。次に彼女は頬へ垂れた精液を手で拭き取って舌でぺろりと舐めた。
 でも彼女はそれだけでは終わらない。僕のモノから精液が出てくるのが収まっているのにも拘わらず。
 彼女は僕のモノに纏まり付いた精液を見るなり、また舐め始める。彼女は舐めてくる。先端からきちんと根本まで舐めて精液を取っていく。お陰で僕のモノは綺麗になっていく。
 精液を出したばかりな為か、彼女が舐めるだけでも僕のモノは敏感に反応する。だから、彼女が精液を舐めて取るのを終える頃には、僕のモノは固さを取り戻していた。また、その頃になって僕は気付いた。
 あれ、身体が動く?
 指先から足先まで全てが自由となっていた。きっと彼女がねんりきを解いてくれたのだろう。
 では何のために?
 その疑問を解消しようと、僕は彼女を見た。彼女が僕の視線に気付くいて、にっこりと笑う。その笑みが何を意味しているのかは、僕は分からない。
 でも彼女の瞳を覗いた途端に、僕は理解する。彼女の眼が何を伝えているのかを。
 束縛から解かれた手を使って、僕は彼女を押す。彼女は拒む事なく、すんなりと後ろへ倒れた。彼女は仰向けのまま、じっと静かにしている。ずっと僕を見据えたままで。
 そんな彼女の落ち着いた姿に、僕は羨ましいと感じた。反対に、僕なんか彼女に聞こえるくらい鼓動が速くなっている。
 これからする事にかなり緊張している。
 でもそれは彼女も同じであった。一見、大人しくしていると思えた彼女だが、気持ちを落ち着けようと深呼吸をしながら待っている。緊張しているのは僕だけではないと自覚する。
 ここで彼女を心配にさせてはいけない。僕がしっかりと彼女をリードしなくては。
 僕は彼女へと覆い被さる。そして、自分のモノを手で掴む。自分のモノを彼女の恥部へと宛がう。これで準備は万端である。僕が少し腰を落とすだけで始まってしまう。
 僕は彼女を何も言わずに見つめる。彼女も僕を無言で見てくる。
「……いくよ」
 沈黙を破る僕の一言。また始まりを告げる一言でもあった。
 彼女はこくんと静かに首を縦に振った。僕も彼女も、お互いとっくに覚悟を決めていた。
 僕は慎重に腰を落としていく。そうすると、僕のモノが彼女の中へと沈んでいく。
 しかし彼女の中は締め付けが強く、先端部を入れるだけでも一苦労である。彼女の意志とは反対に、彼女の身体は僕を拒もうとしていた。
 僕は懸命にモノを彼女の中へ押し込もうとする。だが、入れる際に彼女が辛い表情をしているのを見てしまう。そうなると、僕は本当に続けていいものなのかと躊躇ってしまう。
 僕が動きを止めた所為か、彼女が僕に言ってくる。
「わたし、がんばりますからっ」
 痛い筈なのに、僕を安心させようと無理に笑顔をつくる彼女。彼女の決意は痛みで崩れる程脆くはなく、寧ろ固かった。
 彼女の言葉に、僕は気持ちを切り換える。
 ここまできたら、やるかやらないかの問題じゃない。何があってもやりきるんだ。
 僕は再び腰を動かしていく。慎重に少しずつモノを彼女の中へ侵入させていく。すると彼女が苦しそうに身体をびくびく震わせる。
 例え、彼女の身体が僕を拒んだって僕はめげずに挑むまでだ。彼女が身を捩るくらい痛みを感じたとしても、僕は乗り越えてくれると信じている。
 入れると、モノと彼女の中にある肉壁が擦れ合う。その都度、彼女は悲鳴を上げるが、僕は迷わず突き進んでいく。
 漸く僕のモノが彼女の中へと消えた。それは僕と彼女が繋がったのを意味している。
 入れるだけで僕の全身が汗でびっしょり濡れている。対して、彼女はぜえぜえと呼吸を乱している。決して楽では無かった。
 でも嬉しかった。これで心も身体も、僕は彼女と一緒になれたのだ。
 僕は嬉しくてそっと彼女へとくちづけをした。重ねるだけだけど、祝うのには十分だった。僕が終えると、今度は彼女がしてくる。それくらい僕達の気分は有頂天だった。
 しかし、あれだけで終わらないのを僕達は知っている。あと一つ越えなければいけない壁がある。彼女の身体はまだ完璧に僕を受け入れた訳ではないのだから。
 僕は彼女に動くよ、と言う。彼女がうん、と了承したので、僕は営みを再開する。
 ゆっくりと優しく彼女に負担を掛けないように。
 そう思いつつ、僕は一旦腰を引く動作をし、自分のモノを彼女の中から引き抜こうとする。しかし、丸々全部を抜くのではなく先端部分だけ中に残す。
 そうしただけでも僕は気持ちが良いのだが、彼女にとっては苦痛なのである。僕だけ良くて彼女が悪いなんて不公平だ。彼女の中が僕のモノに慣れるまで凌がなくてはならない。
 もう一度、僕は彼女の中へ沈めていく。彼女の中は潤滑油で満たされている筈なのに、まだ思うようにモノが動かない。
「いっ、あっ」
 そして無情にも響くのは彼女の痛々しい叫び。涙を目に浮かべながらも彼女は頑張って堪えてくれている。
 僕に何か出来ないのか。どうにかして摩擦で生じる痛みを和らげる事が出来ないのか。
 そう思って僕は彼女に抱き付いた。そうしたところで気休めにしかならないと分かっている。
 それでも少しでも彼女の苦しみが和らぐようにと願いを込めて、僕は強く抱き締める。
 僕が抱き締めてきたこともあり、彼女も僕へと抱き付いてくる。それに加え、彼女は自身の尻尾を僕の尻尾へと絡めてくる。
 ぴったりとくっついているから、彼女の温もりが膚を通して伝わってくる。きっと彼女も僕の温もりを感じているのに違いない。
 心なしか、僕のモノを締め付けてくる彼女の肉壁が緩くなった気がした。多分、余分な力が抜けたのだと思う。
 僕は試しにモノを動かしてみる。すると前よりも滑らかに動く。それでも安心し切れないからゆっくりと彼女の中へモノを出し入れしていく。
「ふぁ、あ、いい、ですっ」
 すると彼女の気持ち良さそうな艶っぽい声を出し始める。その声に僕は安堵して、段々とモノを動かすのを速くしていく。
 ぐちゅ、ぐちゅと厭らしい音を響かせながら僕が突く度に彼女の中で僕と彼女から溢れ出てくる液体がかき混ざりあう。彼女の肉壁と僕のモノが擦れあって快感を生み出していく。
 この快感をふたりで分かち合えるのが、純粋に嬉しい。
 ふたりで悦に入った声を出しあって、そして快楽に溺れていく。僕は狂ったように彼女の中へモノを沈めて、対する彼女はモノを求める。お互いが身体から発する熱に動かされている。
 そろそろ僕と彼女、お互いともに限界を迎えようとしていた。何度も彼女を貫いてきた僕のモノは暴発しそうなくらい極限状態にあり、対する彼女の方は僕に突かれて発生する刺激を受け入れる許容範囲を越えていた。
 永かった彼女との営みも遂に終わりを迎えようとしている。締めくくるのはやはりふたりで一緒が良い。
「いくよっ」
 そう言って、僕はぐっと勢い良くモノを彼女の一番奥まで沈めた。その時に生じた刺激が僕達ふたりに止めを刺した。
「うああっ!」
「あああっ!」
 身体の隅々まで快感が浸透していく。全身に入った力が抜け落ちて、僕は彼女の横へと崩れ落ちる。
 僕のモノから二回目にも拘わらず精液がびゅくびゅくと脈を打ちながら噴出させていく。噴出された精液は彼女の中を満たしていく。やがて精液は溢れて、繋がった部分から外へと逃げていく。
 僕の目の前には彼女の顔があって、彼女は僕へ悦んだ表情を見せてくる。彼女は僕の額に自身のおでこをこつんと当ててくる。そんな彼女が可愛く見えて、同時に愛しかった。
 慣れない事をして疲れた所為なのか、ずっしりと眠気が襲ってくる。彼女も僕と同じように眠たそうに目をとろんっとさせる。
 僕達はお互い、瞼を閉じて落ちていく。夢の世界へと。
 この胸に彼女を抱きながら。



 あの日の出来事があっても僕達の生活は大して変わらなかった。
 いつものように彼女に起こされて、いつものようにご飯を食べて、それからいつものように寝て――。
 以前と変わらない毎日だった。それでも変わった事がある。
 僕は彼女が消えるなんて心配をしなくなった。彼女は僕が離れてしまうのを考えなくなった。
 彼女はいつでも僕の側にいてくれる。そして僕はいつでも彼女と一緒にいる。
 僕が彼女に手を差し伸べれば握ってくれる。彼女が僕に手を出せば繋いであげる。

 今日もきいろとももいろ、ふたつの手が絡み合う。


作品タイトル きいろとももいろ

原稿用紙(20×20) 89.45 枚
総文字数 28917 文字
行数 705 行
台詞:地の文 4290文字:24627文字



後書き
この場を使って、先ずは大会に参加した作者の方々、お疲れ様でした。
作者はwikiの大会不参加に定評がある自分となっています。
今回の作品は、ミュウって本当は存在しないポケモンだったという事実から膨らませたものだったり。気になった方はウィキペディアでミュウのページを見てください。
この作品の執筆当初はリハビリ感覚で書いていて、ワンレスで収めるつもりでした。が、書いていくうちに色々と詰め込んで長めになってしまいました。
更新停止の間、文章は書いていたのですが、小説とは逆方向な文章でしたので、久々の小説表現が上手くいかなかったり……。
徐々に勘を取り戻しつつ、次は短めな作品を書いていきたいところです。


作品に対する感想、コメントご自由にどうぞ。


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Last-modified: 2013-01-08 (火) 00:00:00
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