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お昼ご飯は秋の味覚

/お昼ご飯は秋の味覚

呂蒙 





 リクソン=ハクゲンの家には毎日何かしらのものが届けられる。といっても、九割方はダイレクトメールなので、捨ててしまうことにしている。燃えるゴミとして処理できればいいのだが、近頃はゴミの分別にうるさいこともあって、チラシや新聞紙は「紙ごみ」として燃えるゴミとは別にしないといけないのである。小さく切り刻めば普通に燃えるゴミとして処理できるのだが、それはそれで面倒である。いくら再生紙を使っているとはいえ、どうせ5秒も目を通せば捨てられてしまうのだから、資源の無駄使いのような気もする。
 季節は秋。何をするにもいい季節である。空は澄み渡り、日差しは穏やか。一年のうちでもっとも過ごしやすい時期であると、リクソンは思っていた。
 リクソンはブースターを呼ぶ。暖色系の豊かな体毛が特徴のこのポケモン、紅色や黄色に色づいた葉っぱが舞う木の下に座らせると、実に絵になる。個人的にそう思っているだけなのだが、写真に撮ってみると、なかなかいい出来栄え。パソコンにデータを入れておくだけではもったいないので、プリントアウトをして部屋に飾っておくことにした。
 ブースターは、博学でいろいろと物を知っている。それでいて、謙虚なので雑談をしているとなかなか楽しい。もっとも、これからの季節、何かと理由をつけて、膝の上にのせたり、抱きしめたりしたいからというのもないわけではなかった。
「昼さぁ、焼きイモにしようと思うんだけど、どうだろう?」
「秋らしくて、いいんじゃない?」
 ブースターは賛成してくれたが、家にはサツマイモがなかったので、買いに行かなければならなかった。リクソンは上着を羽織ると、近所のスーパーマーケットに出かけた。サツマイモは売ってはいたが、高かったので、ここでは買わずに、その隣にあるホームセンターで買うことにした。最近のホームセンターは、日用大工用品や園芸品以外にも様々なものを売っており、雑貨品や衣類、家具はもちろんのこと、米や野菜まで安価な値段で売っている。野菜コーナーに行くと、何種類かの野菜が箱売りされており、その中にはサツマイモもあった。1本あたりの値段を計算してみると、先ほどの店よりも安かった。いささか、吝嗇臭い行いのように見えるかもしれない。だがこんなことをするにも理由があった。リクソンは経済的にかなり恵まれている方だったが、何匹ものポケモンと暮らしているため、削れるところで削らないと、学費を圧迫してしまう。学生である以上、学費を削ることは避けたかった。リクソンはサツマイモを箱買いすると、家に戻った。
 家に戻ったリクソンだったが、イモを包むための新聞紙がなかった。これをどこからか調達しなければならなかった。購読料が勿体ないという理由で新聞はとっていなかったからだ。しかし、それは余所から調達しようと思えば調達できるので、大した問題ではなかった。
 リクソンは、友人のカンネイに電話をかけた。庭の落ち葉と、いらない新聞紙があったら譲ってほしいと言うと、勝手に持って行ってくれという返事が来た。
 友人の屋敷に行くと、そこにはギャロップがいた。顔見知りのポケモンのうちの一匹である。リクソンは、そういえば、知り合いのポケモンには四本足のやつが多いな、と今更ながらに思った。
「おう、リクソンさんか。カンネイなら、さっき出かけちゃったぞ。新聞紙と、落ち葉で何をするんだ?」
「うん? ちょうどいいや。ギャロップも一緒に昼飯を食べよう。今日の昼飯、焼きイモなんだ。秋らしくていいかなと思ってね」
「はぁー、まぁ、いいか。どうせカンネイも昼は勝手に済ませるだろうし」
「奴には、連絡しておくよ」 
 リクソンは庭の落ち葉を持ってきたゴミ袋に詰め、いらない新聞紙をもらうと、ギャロップとともに家に戻ることにした。ギャロップの背中に乗っていけば速いだろうが、ゴミ袋と新聞紙で片手でふさがった状態で、手綱を持ち、落馬しないようにバランスをとることはリクソンには難しすぎた。なので、家までは歩いていくことにした。
 家に帰ると、リクソンは下ごしらえを始めた。新聞紙を水で濡らし、それでサツマイモを包み、さらにその上からアルミホイルで包む。新聞紙を濡らすのは、その方しっとりするからだということは、知識で知っていたし、実際にやったことがあった。
 あとは、庭にある集めた落ち葉に火をつけて、その中に先ほどのサツマイモを放り込んで、しばし待つだけだ。
「ギャロップ、ブースター。火を点けてくれ」
 2匹が落ち葉と木の枝を集めて作った山に火を点けてくれる。マッチやライターのように火元が小さくないので、たちまち落ち葉や木の枝に火がついた。
 しばらくして、リクソンが火箸を使って、サツマイモを焚火の中から一つ取り出し、包みをとって、半分に割ると、湯気とともにサツマイモの内側にある黄色い部分が顔を見せる。
「じゃあ、毒見といきますか」
 リクソンが焼き芋をほおばる。
「んっ、あっ、中、熱っちいな……。もぐもぐ……。うん、甘い。でも、やっぱり熱いから気をつけた方がいいかな」
 それぞれが、秋の味覚を味わっているようだ。サツマイモは手に入れようと思えば、一年中手に入るかもしれないが、やはり、食べ物がおいしくなる季節すなわち旬というのは必ずある。旬のものは旬の時期に食べるべきなのだ。
 焼きイモを食べているリクソンが、ブラッキーを見てこんなことを言う。
「ブラッキー」
「ん? 何だよ、リクソン」
「思ったんだけどさぁ……。お前の耳って、サツマイモみたいな形してるよな」
「……で?」
「触りごごちって言うか、揉み心地がいいからな、お前の耳、あったかいし。もみもみ」
「痛てぇよ、やめろ。セクハラじゃねぇか」
「お前はオスだから、セクハラにならないんだよっ」
(なんだかんだ言って、親子だよな。会長もオレらをいじくり回したりするのが好きだからな……)
 澄んだ青空の下を、涼やかな秋風が吹き抜けていった。

 おわり


最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • お久ぶりです。196です。
    今回もいい感じの日常感最高でした。
    ほのぼの系はリアルを忘れることができて凄くいいと思います。
    さて、改めまして、今回も楽しく読ませていただきました。次回の作品も楽しみに待ってます。執筆頑張ってください。応援してます!
    ――196 ? 2015-11-07 (土) 03:38:51
  • お久しぶりです。楽しんで読ませていただきました。ほのぼの系は大好きなのですごく面白かったです。これからも頑張ってください。呂蒙さん執筆お疲れ様です。長文失礼しました。
    ―― 2015-11-07 (土) 08:09:06
  • 196様
    いつも、コメントありがとうございます。読んでいただけるだけでもうれしいのに、その上コメントまでいただき、何と感謝してよいものやら。本当にありがとうございます。イーブイ一家の中でも、出演回数に偏りが出てきたので、何とかしたいと思っているところであります。年内にもう一つくらい短編を仕上げることができたな、と思っています。
    悪タイプでほのぼの系は無理かと思ったんですが、案外、そうでもないですね。お手柄だよ~、ブラッキー。
    ――呂蒙 2015-11-08 (日) 01:12:57
  • 2番目にコメントをいただいた名無し様
    コメントをいただき、大変うれしく思っています。ありがとうございます。
    「お久しぶりです」ということは、どこかで以前コメントをいただいていたか、何かしらの形で接点がおありだと思うのですが、どなたなのかわからず、大変申し訳ないです。悪タイプでほのぼの系は無理があるかと思うのですが、何とかなってよかったです。
    Wikiの中では、特に文才があるわけではない私ですが、これからも精進していきます。
    ――呂蒙 2015-11-08 (日) 01:21:26
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Last-modified: 2015-11-07 (土) 00:33:38
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