writer――――カゲフミ
ようやく春の足音が近づき始めた季節。身を突き刺すような朝の厳しい冷え込みも大分和らいできたとは思う。
晴れた日の陽気はぽかぽかとして気持ちの良いもの。だが、家の中はどこにいても日光が差し込むような都合の良いつくりになっているわけではない。
二階への階段をふよふよと浮かんで移動しながらエスプは小さく体を震わせた。日当たりが悪い場所はやっぱり冬の痕跡がまだまだ残っている。
部屋から出てすぐの廊下は確かに寒い。彼がなかなか起きられないのもこの冷たい空気に阻まれてるからなのかなあ。
今日も例によって起きてこないから、トレーナーに起こしてきてくれと頼まれて向かってるわけだけど。
どうせまた布団のなかでもぞもぞしてるんじゃないだろうか。基本的に寝起きが良くなく、その上寒いのが大の苦手と来ている。
おかげで寒い朝はほとんどの場合誰かが起こしに行かないと目覚めない。下手すると昼を過ぎても眠ったまま、なんてことも多々ある。
冬も終わりかけたこの時期でも寒いものは寒いらしく、今朝のようにエスプが起こしに向かっているというわけだった。
「シェルムー、起きてる?」
部屋の前まで来て、ドア越しに呼び掛けてみるも案の定返事はない。もしも自分に手があれば軽くノックもしてみたはずだ。結果は同じだったろうけれど。
エスプは小さくため息をついて、左右の稲妻模様に似た形の腕をドアノブに伸ばす。物を掴むことはできなくても、押して開くドアならばこの両腕で十分開けられるのだ。
入った部屋の中は日当たりもあって廊下よりもずっと温かい。それなのにシェルムときたら、部屋の真ん中でトレーナーが用意してくれたクッションの上。
さらには、寒がりな彼のためにこれまたトレーナーが用意してくれた毛布にくるまってお休み中だ。
まったく。シェルムには背中にもこもこしたあったかそうな綿毛があるのに、どうしてここまで寒いのが苦手なんだろう。
確かに草タイプであるエルフーンは氷タイプ、つまり寒さに弱いというのも仕方ないことなのかもしれないけど。
その中でも彼の場合、輪をかけて寒がりなように思えてならない。それに寝起きの悪さが加われば朝方の彼はすっかり布団の虜になってしまっている。
「もう朝だよー、起きなって」
「んうぅ……エスプ、もうちょっとだけ」
片方の腕でシェルムの頬をつついてみたものの、効果はいまひとつ。彼がぐっすり眠っているとこの程度で意識は戻ってこないから、ある程度は目覚めかけているのだろう。
起きようとはしたけれどやっぱり外が寒いから布団から出たくない。おそらくこんなところか。ほんと寒がりなんだから、もう。
他にも両腕で左右の頬をむにっと挟んだり、頭の綿毛に腕を引っかけて軽く引っ張ったりしてみたけれど、効いているかどうか怪しい。
シェルムも小さく反応は示すものの、結局また布団の誘惑に負けて眠りの世界へ戻って行ってしまうのだ。
「もー、いいかげんにしてよ」
起きようとしないシェルム。エスプの声にも若干の苛々が籠ってくる。毛布の端を思いっきり引っ張って冷たいフローリングの上に転がせばさすがに目覚めるだろうか。
彼をさっさと起こしたいのならおそらくその方法が一番手っ取り早い。ただ、毛布の隙間に見えるシェルムの幸せそうに眠る表情を見ていると。
何だか強硬手段に出るのは申し訳ない気がして。エスプの気持ちは揺らいでしまうのだ。
もともと愛らしい姿をしているエルフーン。シェルムもその例に漏れず、とても男の子とは思えない可愛さを持ち合わせている、とエスプは思っていた。
シェルムにぐっと顔を近づけて、寝顔を眺めるエスプ。外見は言わずもがなだし、声だって割と高めだから言われなければ本当に女の子と間違ってしまいそう。
あまりにも彼が無防備だったせいか、エスプの中に微かな邪な気持ちが浮かび上がる。起きないんだったら、シェルムが起きそうなことをやってみればいいんだ、と。
「ねー。あんまり抵抗しないと、いたずらしちゃうよ……?」
シェルムからの返事はない。拒まないってことは、いいのかな。いいよね、とエスプは都合よく解釈した。
寝ぼけている相手に真面目な質問をぶつけるのは卑怯かもしれないけど、元はと言えば起きないシェルムが悪いんだから。
エスプはにやりと笑うと、彼がくるまっている毛布の電源が入っていることを確認する。
シェルムが今使っているのは、電源を入れれば勝手に毛布が温めてくれる電気毛布。
もともとはトレーナーの物だけど、暖かくなってきたからいらないとのことで。寒がりなシェルムのために貸してくれていたのだ。
ロトムは電化製品に乗り移って悪さをすると言われている。電源さえ入っていればたとえ電気毛布でも、エスプが憑りつくには十分な条件だった。
ねぼすけのシェルムに対する苛立ち半分。いたずら心が半分でエスプは彼がくるまっている電気毛布に乗り移る。
何の衝撃も音もなく。静かに。ひっそりと。エスプは毛布を侵食していく。のんきに眠ったままのシェルムがそんなことを知る由もなく。
「ふふ、シェルムの体。あったかいんだねえ」
今や毛布そのものがエスプの分身であると言っても過言ではない。自分の両腕を動かすのと同じ感覚で、自在に毛布を操ることが出来てしまう。
もちろん、毛布にぴったりと密着しているシェルムの感覚が手に取るように分かるわけで。
もこもこふわふわの柔らかい綿毛、くるりと丸まった二本の角、小さくて短い両手両足。そして、寝起きでやや元気になっている彼の股間すらも。
見た目がどんなに可愛くても、こういうところではちゃんとシェルムも男の子。生理現象まで防ぐことはできない。
ふうん。これがシェルムのか。体の割には……いや。少し元気になって今の状態だとすれば体相応、なのかな。
いくら彼の寝起きが悪くても、こうすればどうだろう。エスプは毛布の一部をシェルムのそれに宛がって、軽くしゅっしゅっと擦ってみる。
「うひゃっ」
意識が朦朧としていても敏感な場所を弄られればさすがに。体に電撃を流されたかのようにはっと目を開くシェルム。
慌てて毛布から抜け出そうとするも、エスプの憑りついた毛布は彼の両手両足にきゅっと絡み付き、そう簡単には離してくれなかった。
何度か手足をばたばたさせていたが、自分の力ではどうしようもないと分かったのか次第に大人しくなっていく。
「こ、これっ、エスプだよね? 起きるよっ、起きるからさあ。離してよお」
「んーどうしよっかなあ。こんなに元気なのに?」
「あっ……」
エスプが再び股間の一物をさらりと撫でると、想像通りの可愛らしい反応をシェルムは見せてくれる。
口では拒んでいるシェルムの気持ちとは裏腹に、一旦刺激を加えられた肉棒にはどんどん熱が集中しているのが分かる。
せっかくシェルムの体を感じられる機会。エスプはもっと楽しみたかった。彼はあんまり乗り気じゃなさそうだけど、問題ない。
これからその気にさせてしまえばいいだけのこと。何と言っても自分は今、シェルムの体を好きなように撫でまわせるのだから。
「もうちょっと遊ぼうよ。それっ」
今度はシェルムの胸の部分にある綿毛の奥に毛布を滑り込ませて。普段は毛で覆われていて曝されることのない二つの小さな突起を撫でる。
「やっ、そこはだめっ……ふああっ」
胸元の毛布を払いのけようとするシェルムの手から力が抜けていく。もともと大して腕力はない。抵抗する気力を失ってしまえば、後はエスプの成すがまま。
毛布の細かい毛先一本一本がまるで意志を持っているかのように、彼の突起に襲い掛かる。
乳首をさわさわと撫で回すように何度も何度も動かされ、眠気とは別の方向にシェルムの意識は飛んでしまいそうだった。
弄り始めてそんなに時間も経ってないと言うのに、彼の表情はすっかり蕩けてしまっている。
顔を赤くして息を荒げて。口元が笑っていなければ風邪でもひいているのかと勘違いしてしまいそうなくらいに。
「思ったよりも敏感なんだねぇ。綿毛で隠れてるからなのかなあ」
肉棒を弄るだけじゃ面白くないから試しに胸に刺激を移してみたところ、想像以上の反応だった。
心なしか、撫でる前よりも突起が硬くなったような気がする。ふふ、シェルムの弱点は寒さと朝以外にもあったんだね、覚えておこう。
「あ……うぅ」
もはや心ここに非ずと言った様子の力ないシェルムの呻きに反して、彼の股間の一物はむくむくと元気いっぱいだった。
もしもシェルムが仰向けになって布団を被っていれば、立派なテントと小さな染みをつくってしまうくらいには。
「さてシェルム。君はワタシにどうして欲しいかなー?」
彼の堤防が決壊してしまわないぎりぎりのラインを保ちながら。竿の裏筋をエスプは優しく、優しく擦り続ける。
それだけでもシェルムの手足が、背中の綿毛がびくびくと震えているのがひしひしと伝わってくる。こんなにも感じてくれているなんて、嬉しいな。
こんな中途半端な生殺しの状態を持続させられてなお、やめてと言えるほど彼の精神力は強くない。
毛布に捕まって毛先の魔力にすっかり溺れさせられてしまったシェルムに、この期に及んで抗うという選択肢は存在していなかった。
「も、もっと強く……お願い、エスプぅ」
「いい返事だね。それじゃあいっくよー」
そそり立ったシェルムの肉棒をぐるりと一周毛布で包んで。エスプは上下に擦り始める。もちろん毛先の一本一本をくまなく動かすことも忘れない。
弾けてしまう一歩手前まで上り詰めていたところへの一撃。当然、シェルムが耐えきれるわけがなく。二、三度擦った時点でいとも容易く彼は限界を迎えてしまう。
「んああっ!」
全身をびくりと硬直させてシェルムは果てた。彼の肉棒の先端から生暖かい感触がとくん、とくんと毛布へ広がっていく。
達した直後の心地よさと本来の毛布の気持ちよさが合わさったらしく、再びシェルムの意識は遠のいてしまいそうになる。
荒い息を零しながら毛布を両手両足できゅっと抱きしめると、彼はうっとりと目を細めた。おそらく、余韻に浸っているのだろう。
「ああ。シェルム……君の温もり、ワタシにもしっかり届いてるからね」
今度はそっと優しく、エスプは毛布でシェルムを抱きしめた。自分に身を預けてくれている彼が、何よりも愛おしい。
いくらシェルムの体を実感したくても。ロトムの体のままでは触れることはともかく、彼を抱きしめるなんて出来なかった。
となると、こうやって電気毛布に乗り移るのが一番確実にシェルムを近くで感じ取れる方法なのだ。
彼の体を隅から隅まで覆い尽くすのは表面積が広く、柔軟な動きが出来る毛布だからこそ成せるわざ。
ロトムであるエスプに性別はない。シェルムのように絶頂を迎えたときの悦びを感じることは無理だとしても。
こうして彼を抱きしめている間、彼の吐息や鼓動を感じている間、エスプは確かな安らぎと喜びを実感するのであった。
洗濯するのが大変な電気毛布を汚してしまったシェルムとエスプが二人仲良くトレーナーに大目玉を食らうのは、また別のお話。
おしまい
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