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うさぎぴょこぴょこ

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 最近私の道具がよく荒らされている。ファンデはひび割はブラシがバサバサ。
 チークやシャドーは恐る恐るだったのかカラフルな毛が残っていた程度だったが、何より洗顔剤の減りが異常に早い。あとグロス。
 まさかご主人様がポケモン用の私の使っているとも思えないので、じゃあ他に誰がやりそうなのと言われれば。
 消去法で犯人はすぐに見つかった。
 最近外国土産とばかりに新加入したオシャレに無縁そうなウサギ。ウチのパーティにメイクに目覚めそうな仔といえば彼女しかいない。最も今まで健全な外遊びとバトルが大好きでお淑やかの欠片もなくほんとに彼女が犯人なのかという気持ちもあったけど。
 早寝早起きが得意技のくせに―まあその辺は見習うべきなんだけど―いつまでたっても彼女がそわそわしてるのが犯行の合図。寝たふりをして現場を押さえるのに苦労した。深夜にこっそり♀ポケ部屋から抜け出して鏡台に向き合うフットサルカレーウサギちゃん。本当は私も寝ぼけてて夢かもと思ってたのだけど。
 毛布に半分くるまったままビードルのようにずるずる這いつつ小さなオレンジ色の明かりがつけられた部屋を覗いてみれば今まさにぺとぺと塗りたくっている真最中だった。
「エーちゃん」
 フルだとエースバーンだけど親しみを込めてエーちゃんとみんな呼んでいる。ピクリと彼女の耳が跳ね上がり、雷に打たれたように痙攣した。
「えっと……ロップちゃん……あはは」

 ◇

「で、なんでこんなことしたの? エーちゃん」
 エーちゃんはいわゆる外様だけど私はあまり悪い感情は持っていない。警戒しているのか耳の先まで逆立ててわたわたしている様を見るとちょっと可愛そうにも思わなくもない。
「その……」
 目を逸らしていかにも言いにくいことをしていましたと。うーん、私だって好きで怒ってるわけじゃないのよ。ただ、ちゃんと筋は通さないとね?っていう話。
 だから敢えて、力なんてありもしない拳をぽきぽき鳴らしてみたり、怖い顔をしてみたり、エースバーンと本気で喧嘩なんかしたら返り討ちにされちゃう。
 エーちゃんがそういうところ素直で良かった。
「どうやったらロップちゃんみたいに可愛くなれる?」
 ぶっ。
 ちょっと違うかもしれないが、今までずっと好きだった男の子に想いを伝えるような、それほどの重大事項……を告白したように見えた。半ば恥じらい半ばヤケクソ。
 だから思わず吹いてしまった。だって、いかにも彼女らしすぎてツボに入ったもの。いいよエーちゃん、オッケー了解。
「そうやってちゃんと正直に言えば悪いようにはしないのに」
 



 鏡台の前に座るように促して、自分はしまってある道具をかき集めた。
 冗談ってなんなのさと不満をこぼしたげな彼女のお口をひんやり冷たいメントールでチャック。
「で、エーちゃんは誰に見てもらいたいの?」
「そ、そんなの言えない……ひゃう!」
 ぽーんとおしりを持ち上げて椅子に転ぶように座らせる。ぽんと肩を叩いたらもさっとした。……これは本格的にやろうとすると大変なやつ。
 誰もオスに見てもらいたいからお化粧してみたいんだよね?なーんて聞いてないのに、話が早くてとても助かる。まあでも言わないよね。候補は何匹かいるけど。
「誰にどう見てもらいたいとか、どんなイメージがあるとかで結構かわるんだけどー、まあしょうがないか」
「うにに~……」
 自慢の耳で顔を隠して恥ずかしがってるのはいいけれど、こっちは一人で盛り上がられても困るのよう。丸すぎて不器用そうなお手手を掬い上げ、耳をかき上げる。
 潤んだ半開きの目が出てきた。……何さ、もう。
「まずはまだ冬毛の残っている顔を綺麗にしましょう」
 気を取り直して耳元で手を叩く。
 エーちゃんはお世辞にも手入れが好きではない。炎タイプの上に短気だから泡でこすって水で流すだけで嫌になってしまう。たまにご主人様が怒ってちゃんと洗ったりするけど、まあ正直下手くそで。
 よく運動する子だから体型はシュッとしてて綺麗なのに磨かないからもったいないとは思っていた。
 ゴムブラシでこすると冬毛がモコモコ抜けてくるけれど、それは時間がかかりすぎるので今日は梳きバサミ。 
「うわー……めっちゃ小顔になる」
 いくら活発でも注射とはさみには弱い。だって動くと痛い目に遭うもんね。ただでさえスタイルがいいのに、伸びた冬毛を整えれば輪郭も減るなんてうらやましい限り。
 しょりん、しょりんとスッキリした音が入るたびに悲しむような不安になるような、ころころ表情を変えるエーちゃんをむにゅり。梳いても奥に埋まってしまった毛がごっそり取れた。
 本来ならコーディネーターやブリーダーがやる仕事だが、かと言って我が家の主人は豪気にそういったプロを利用させてくれるわけでもないので、試行錯誤である程度はできるようになった。
 プロには遠く及ばないが、これくらいなら。
「へい、いっちょあがり」
 戸惑っている彼女に、鏡に写る自分を見せる。二、三瞬戸惑ったあと、私が整えたほっぺたとか耳の下をつーっとなぞりながら、こっちを見てきた。いや、何か言いなさいよ。
「おーい。次行くよ~」
 あぱあぱ口を動かして何か言いたげな彼女を、強制的に鏡の前から呼び戻す。何も見えなきゃ文句の言いようもないでしょ。輪郭は整えたから、次は。
 むにゅ。
「んううう???」
「化粧水。ちゃんと刷り込むの」
「???」
「毛じゃなくて地肌に!」
 アレルギーとかでなさそーなからだしてるから何も聞かなかったけど、たぶん自分もどんなアレルギー持ってるか気になんてしたことないだろう。額の赤い立派の所から眉毛の付け根、耳の裏にも念入りに。
「毛にもやるの?」
「当然でしょー」
 次にとったのはヘアクリーム。油分と湿度を保つためには必須。素肌を見せる人間と違ってポケモンはこっちの方が大事なの。あ、人間にも髪の毛はあるか。
 これもまたいくつか種類があるんだけど、エーちゃんの髪質とかわかんないし。結構凹凸のある顔してるエーちゃんに馴染ませていく。
「エーちゃんシャンプーなに使ってんの? だめだよー、ちゃんとしたやつ使わなきゃ。ただでさえ紫外線でボロボロなんだから」
 こうしてぬるぬる世話を焼くうちに当然の感想が出てくる。せっかくの真っ白な毛が紫外線に焼けて変色、抜け出してきた。道理で馴染ませ甲斐があると思ったら。
 とうのウサギはまるで他人事かのように空を眺めて恥ずかしがっていた。いや、ちょっと待てや。エーちゃんあなた今度から自分でやるんだからね???と言いたくなる。言わないけど、だってずるいんだもん。もとがカワイクて。
 ていうか、顔の隅々まで撫でまわして、私いったい何してんだろ。
「ロップちゃん、これでいいの?」
 エーちゃんが満足してくれるのにそこまで嫌悪感はなかったが……さすがに無知すぎるぜ。
 日々の積み重ねが大事だから今すぐ肌や毛そのものを改善することはできないが、まだまだできることはある。確かにこれまで何一つ興味も知識もなかったフットサルウサギには難しすぎるかもしれないけど。
「そんなとんでもない。これからが本番なんだけど?」
 私のやり方ではこの前―っていうか最初―に下地を何とかするんだけど、エーちゃんは地がキレーな真っ白。日に焼けたりとは言え、焦げてるような色したミミロップとは文字通り根本が違う。
「いいなあ白毛で。私みたいなのだと全然わかんないもん」
 嫉妬しちゃうよなあ。怖がっているらしく大きい目を細めたり瞑ったりして私のやることを無視。やることは一つしかないんだよね。
 下地をうす~く伸ばして……全然ケアしてないからまるで伸びないなこの野郎。
「くすぐった……ふふっ」
「あーはいはい静かにね」
 割れたファンデは責任取って使ってもらわないと……と思ったけど、これエースバーン向けじゃないわ。
「うーん……まあ陰影くらいは出せるかな」
 割った責任は取ってもらおうと思ったけど、色が違うんじゃどうしようもない。というか使ってて気づかなかったんだろうか。体毛の表面と付け根でだいぶ色に差がつくけど。
 そう、例えるなら白髪染めしてから数か月たったくらいの高齢人間。
 もういいや。変になってるところコンシーラーで潰して終わらせよ。ところどころ茶色だったり黒かったりする毛を抜いて、おかしな色してるところを覆うように。
「こういうのって取れちゃわないの?」
「んー? 取れるよ?」
「ええ……」
 チークをとって頬骨のでっぱりから溝に沿ってポンポンポンと載せていく。私は全然目立たないからドギツイピンク色を使ってるけど、エーちゃんには健康的なオレンジ色がよかっただろうか。
 でも、仕方ないよね。私のしかないもん。
「オシャレって言うのはね、無駄なことのカタマリなの」
 はい。地はある程度完成。ファンデもコンシーラーも閉じて引き出しの中へ。もう勝手に漁っちゃだめよ。ぽんと肩を叩く。
「……おしまい?」
「まーだ」
 ずらり。ここからが楽しいんだよね。ラメにブラシにシャドーにペン。
「エーちゃんの場合は整えるより書いた方がいいよね。特に目尻」
 まあ、今すぐに肌とか毛づやとかを改善できるわけじゃないので、他にできることは何かって言ったら日々の地の改善じゃなくて小手先のメイク術だよね。というわけで、目の周り。
 生まれてこの方一度も整えたことのなさそうな眉と額の飾りを大胆に添っていく。剃刀と小さなハサミがメインだから、彼女も怖がっていたらしい。それが終わったらキラキラしたアイシャドウやら、陰影のためのラインやら。
 それ本当につけんのという表情をしていたがどうやらこの子はおしゃれというものを舐めているらしい。
「~~~~~~!!!」
 にゅい。シャドウで陰影をつけたら次はハイライトで飾る。目元と瞼が重要だから嫌がるエーちゃんの目をぐりぐりしちゃう。
「エーちゃんもともとお目目おっきいよね~。ずっこ~い」
 ミミロップだってそんなに目がちっちゃいわけじゃないけど。一般的に言う可愛いには近い種族とはいえ、それなりの苦労があるものだ。眉毛とか長くて立派だから滅茶苦茶気をつかったりするし。
 エーちゃんには眉毛と額の象徴があるのでこれはどう扱ったらいいんだろうか。
「エーちゃんみたいにエースバーンなら剃っちゃうより書いた方がいいよね」
 古い人なら黛っていうやつ。私が買ったはいいもののいまいち使う機会が無かった道具たちを引きずり出す。エースバーンの可愛さは大きな目を強調する目元の模様。
 動いちゃだめだよ~と釘をさしながら、決して器用ではない指先でもとからある模様を濃くしていく。
 ああ、なんて働き者な私だろう。シャドーってラメ入ってるからあんまりゴリゴリ塗るとドン引かれてしまう。
 エースバーンのまん丸お手手じゃ絶対に無理な―まあ私の手もそんなに細かい作業に適してるわけでもないけど―このへんの模様も、まあきっと彼女でも大丈夫なようにできたんだろう。
 いや少なくとも未経験のエーちゃんよりは綺麗にできたと思う。マンガ的化粧失敗表現にある能面塗りのゴッテゴテにはなってないもの。
「うーん、一応完成かな?」
 とりあえず今日の所はこれでおしまい。エーちゃんに手鏡を渡して仕上がりを見てもらう。
「ロップちゃん、ありがとう!」
 あ、やばい。変な気分になってきた。額の飾りから耳の先まで、唾液を付けてぺたぺた均していくと、化粧品特有のアノ香りが唾液と混ざって重く濃厚な匂いを飛ばす。
 こんなのどうだってことないはずなんだけど、なぜか今日は気になってしまう。
「これ、かわいいんだよね!?」
「あーんしんしなさい。私を何だと思ってんの」
 自分で育てた野菜を収穫し、調理し、食べてしまう。
 概念としては似たようなものなんだろうな。自分で作ったものはとてもおいしい。だから私がこの子に変な思いをするのも至極当然。
 目をキラキラさせて同意を求めてくる彼女をどうどうどう、と落ち着かせる。ごくり。口の中に溜まった唾を飲み込んだ。おかしいな、初めての経験じゃないんだけど。
「あー……でも、まだまだ可愛くなれる方法、あるけど」
 あーあ、言っちゃった。やっちゃうんだ、私の助平。こっちに振り向いて、ちょっと不満のような、それとも期待をしているようなよくわからない顔をするエーちゃんに、そっと手を伸ばした。



「前向こっか」
 こっちを向くエーちゃんの頭をぐりっ。三面鏡の前へ。中クエスチョンマークになってるだろうな。
 直に見るより、鏡越しの方が盛り上がるじゃん?
「おんなのこが可愛くなるって言ったら、アレしかないよねえ」
 だってさ、私はもともと悪くないでしょ。我慢してたんだもん……エーちゃんが、可愛すぎるのが悪いんだからね? エーちゃんのせいで変な気分になっちゃった。
「えっ、ちょ」
 最初に手を出したのは脇腹から。鏡台の前の座椅子に座る彼女の、なめらかで筋肉質なそこを滑るように背中からお腹側へ。ぴゃいん、となんだかよくわからない声を出して跳ねとんだ。ウサギだけに。
 わかる。わかるよ。私もウサギだもん。そこを刺激されたらそうなっちゃうよね。
「ちゃあんとからだの中からキレイにならなくちゃ」
「それはおかしい……にー!」
 いやあ鍛え抜かれた太ももだ。ちょっとつまんでみたら全然柔らかくない。筋繊維がギッシリ詰まっている。むいむいと揉みしだきながらもう片方の手はお腹を上に滑り、胸元へ。
「うっわあ筋肉質……腹筋割れてんじゃないのお?」
 お腹のところはちょっと毛をかき分ければすぐに固いかたまりと溝が確認できた。体が緊張して浮いてきたのだろう。これはちょっと雄側が気の毒になる。あと、胸は性感帯じゃないっぽい。
 でも、力は抜こうねエーちゃん。
「あむぅ~~」
 ふとももをいじっていた手はお腹に回し、もう片方はあごの下から顔の方に回す。そして、私は大げさに声を出しながらエーちゃんの耳をぱくり。
 まさか耳垢はちゃんと取っているでしょう、鼓膜に届けとばかりに舌を奥深くに突っ込み、耳介のくぼみに沿って舐め上げる。エーちゃんの身体は一層強張り、一つびくりと大きく跳ねた。
「ロップちゃん……ひう!」
 耳から力が抜けて、目が泳ぐ。混乱8割、本能2割といったところだろうか。これはヤバいと思ったのか、股を閉じて腕をほどき、椅子の上から飛びのいた。
 しかしもう足元が覚束ない。たたらを踏んで尻からバランスを崩した。観念しなさい、エーちゃん。
 ペタンと尻もちをついたところに、両腕で柵をする。逃げ場がなくなって一層びくびくする彼女の上に覆いかぶさり、まっすぐ目を見つめた。
 今の私どんなカオしてんだろーなー。エーちゃんも大概だけど。
 もぐ。
 そして、観念したように目を瞑った彼女の――頬を軽く食んだ。……さっき整えたばかりだから舌触りがシャリシャリするのと、パウダーの油っぽい味がする。
 あれ、そういえばお化粧って食べてよかったんだっけ。……まあいいか。
「ダメだよーエーちゃん。意中のあの殿方といざ初夜へ……って時にこんなに緊張してちゃ」
 頬を喰われたことで逆に落ち着いたのか、目を開いた時には揺れる目線は安定していた。ちょっと期待した?まさかね。そして、殿方という言葉に再び耳を反応させる。
「あ、あいつと……こんなこと……」
 この変色はチークじゃない。密度の問題なのか、それとも気持ちが昂るとほっぺの毛も逆立つのだろうか、上からわかるくらいその部分に血が集まっていって赤くなるのが分かった。
 実にわかりやすい娘だ。でも、目線がこっちを外れて虚空の方に行っている。
 むう。焚きつけたのはこっちだが他の奴のこと考えられるとそれはそれで腹立つ。一途なのは微笑ましいことだが、今くらいは私を見てるくらいの空気を読む力を……無理か、経験なさそうだし。
「でも今は」
 柵をしていた両腕を上げて、エーちゃんの顔を挟み込む。さすがにほっぺは柔らかいんだねえ。う゛っという変な音とともに、私の顔の真正面。
 知らないことなら教えてあげるのが優しさってえもんよ。
「私がお相手だからねぇ~」
 さすがにここまでされれば自分がどんな立場にいるのか分かったみたい。右見て左見てざっと逃げ場を探してみたが、私に覆いかぶさられているのが分かっただけ。観念したのか、きゅっと目を瞑る。
 目を瞑るのは良いけど、それは力を入れすぎてしかめっ面になっちゃってる。これはこれで可愛いけど……眉間の溝にぶにゅりと指を入れ、力抜きなさ~いと耳元でささやいた。
 ぴくりと体が跳ねたところで、エーちゃんのお鼻の頭に口を付ける。ちゅっ、と綺麗な音が立ってエーちゃんが目を見開いた。
「心配しないで、こっちはちゃあんと取っておいてあげるから」
 ちょん、と指を立ててエーちゃんの唇に軽く触れる。お化粧中もした気がするなあコレ。
 エーちゃんもエーちゃんで自分の唇をなぞる。守るべきところはきちんと守られた安心感と、その裏にわずかにあった期待感を裏切られたという残念そうな表情がよく出ている。
「……不満?」
「~~~~いじわるいじわる!」
 あれ、この仔ってメロメロ使えたんだっけ? じゃなくて。いけないいけない。ちょっとつまみ食いするだけなんだら。本当に、本当に味見をするだけ。
「じゃあ、はじめよっか」
 首筋に歯を当てる。痕が残らないように、エーちゃんが当てられていると認識できる程度に。これが結構効く。任蔵はドキドキするし胸の所からじんわりした興奮物質が沁みだして来るんだ。
 責められて悦ぶ根っからのウサギともいえる。
 と、同時に、首筋から正中線に沿って指を這わせる。そこに触れていることに集中するような、触れるか触れないかくらいのタッチを滑らせる。
 あーあ、やっぱり緊張しちゃって。力抜かなきゃ苦しいだけなのに。カチカチに強張っている鍛え抜かれた腹筋がほぐれるのはどこかしら。
 柔らかくなーれと念じながら、おへそ周りをくるくる。エーちゃんがじっとこちらの目を見て、そして逸らした。
 んー? 何を期待しているのかな? なーんて。おへそ周りからちょっと下に……行ってはまた戻る。両手にかえて脇腹のほうまで範囲を増やし、体がほぐれていくのを感じた。
 こういうふうに”熟成”されるからこそ、おいしくなるんだよねえ。
 こうして、だんだん下腹部に寄っていく。ただ、肝心の所には触れずに、やっぱり遠くから。なんなら太ももの方から鼠径部まで征服して、その先は放置。エースバーンは短パン模様なのでそのぶんデリケートゾーンは分かりにくい。
 エーちゃんこういうとこちゃんと手入れしなきゃダメだよ~。
 さっきからチラチラ、何か、いや、アレを期待する目でこちらに目配せをしてくる。炎の力が漲る体は、いつにも増して熱を帯びていた。もうそろそろいいかな。私も満足してきたし。
 エーちゃんの目線がそれたところで、ちらり。急所をロックオン。もちろん雄なんて知っているとは思えないようなきれいな筋。
「ここ?」
 
 ぐちゅんっ

「……えっ」
「……えっ」
 触ったこっちがビックリした。エーちゃんも目を点にして、見る見るうちに表情が消えていく。そりゃびっくり……するんでしょうね。
 エースバーンの股間の秘密の花園は、洞穴から流れ出る愛液の洪水でひたひたになっていた。
 穴の周りはラブジュースで潤潤に毛羽立ち、筋はこの次の段階に備えてひくひくと蠢いていた。
「自分で触ってないの?」
「そ、そんなわけぇ……っ!」
 あら? あらららら?
 これはちょっと想定外。いやあ、イタズラして良かった。いきなり本番じゃかわいそうだもの。
 耳をすませば粘液が音を立てて穴の動きに合わせて糸を引くのが聞こえるだろう。中までは入らないだろうから、入り口のごく浅くだけ。私の指を添えた。
「ぴゃうっ!!」
 少し肉に沿ってなぞってみれば、蠢くそれは指を咥えこんで、雄のそれと認識しているのか奥へ奥へと誘導しようとする。そのたびに引き抜こうとすればたちまち快感が産まれ、胎の奥から脳天へと突き抜けるリズミカルで攻撃的な波になる。
 応えるように奥からどんどん潤滑油が溢れてくる。エーちゃんの荒い息遣いが聞こえないほどの撹拌音。
 ちょっといじり方を変えてひだをつまんだり内壁をしごいてみても、面白いように体が飛び跳ねる。ウサギだけに。手が虚空を掴んで戦慄いていた。
「うっひゃー……」
 雄はいないというのに本気モードのウサギちゃん。
 性器が温まってきたとはこのことだ。
 密壺の浅いところだけで大きく感じられるというところと、それとは別に存在を主張している繁殖とは関係ない快感を得るだけのポッチの器官。 
 被った包皮を捲り上げるほど存在を主張したそれ、ピンク色というか、トマト色に赤黒く充血してゆらゆら揺れている。口の中に唾液を溜めて、触れても痛くないように。
 空気に触れているだけでヤバそうなそれを――唾液ごと口に含んだ。
「ロップちゃ……怖いっ!」
 蹴りが飛んでくるかと思った。
 咥えてるこっちも、あんまり現状を認識する余裕はないけど、エーちゃんは痙攣してる。悶えている。例の穴から愛液がドロドロ出ては私の指からの刺激を和らげようとしていた。
 でも、まだ”小さいの”しか来てないらしい。
 まだイケる。まだイケるけど、それはちょっとどうなんだろうか。
 ……まあ、一度くらい、大きいのいっとこっか。
 と、いうわけで、手加減はなし。
 含んだだけの突起に、そっと舌を這わせる。舌は生物の中で最も敏感な器官の一つだ。……今触れている器官とは別の意味で。そいつの形状や窪みから、どこをどうしたらどう反応するかまで。
 ぷっくり。ただでさえ肥大していたソレが、さらに大きくなる。裏スジ?といえばいいのか。神経が集まってるから細かくて小さい刺激なら有効らしいけど、ここだけ舐めやすくなっているなら、つるつるしてるし、せっかくなら味わっていいよね。
 孔の奥浅くで相変わらずくちゅくちゅしていた指が、不意に急に締め上げられた。
「~~~!!!!!」
「きゃっ!」
 来た。キタキタキタ。責めてるこっちも胸がきゅぅっと締め付けられて、多幸感と満足感に包まれる。エーちゃんは言わずもがな。イキまくっている。
 
 出せるところからあらかたの体液を噴出して、びくびくしてるウサギちゃん。さすがにちょっとやりすぎてしまったと罪悪感が湧いてくる。せめて部屋の跡片付けだけはしてあげようか。
「ごちそーさま」
 指先についた愛液をぺろりと舐めとり、ふと、可愛い可愛いと盲目になっていたところに目を向ける。そりゃあ、ポケモンとしては中の中以上の手入れにはなっていたが、私ならこんなお粗末にはしない、というところが多数。
 ……ボディケアも教えてあげたほうがいいかなあ……。



「というのは冗談でえ……」
「……えっ」
 絶え絶えだった息をようやく整え、睦事の後の気まずいが訪れる。ちょっと悪戯にしてはやりすぎた気もするけれど、もとはといえばエーちゃんのせい。
「でも、いい予行演習にはなったでしょ」
「~~~知らないっ!!」
 今度の今度こそ、エースバーンお得意の上段蹴りが飛んできた。ぶへえ。



 さて。
 俄か仕込みの付け焼刃とは言え、それなりに見られるようにはなってきたエーちゃん。どーも最近の様子を見るに、ご主人様の友達が持ってる気取ってるつもりの初心なトカゲがお目当てらしい。
 なーんか詰まんないの。ご主人様は友達と二人であーでもないこーでもないとカレーにばっかり興味を示してこっちはまるで無視。友達とやらはロックを極めるために数年間ガラル留学にしてたという怪しさ満載の男性だけど、この人に会うためだけに短期で旅行に行ってたりする。
 ご主人様は見る目ないんじゃないかなあ。ま、持ってるポケモンの方は全員ガラル出身だけあって紳士的だけど。
 足の衰弱したレジャーテーブルに両肘を預けて二匹を見守っているけれども、進んでるのか進んでないのかよくわからない。二匹とも慎重ってーか臆病だから。もーっとグイグイ行けばいいのに。
 ご主人たち二人から悲鳴が――この人ガラル冒険は無理だな、うん。カレーも作れないようじゃあね。どうやってエーちゃん捕まえてきたんだろう。
「エーちゃんエーちゃん、どこまで行った?」
「んなっ……!!」
 あきらめて片づけを始めたお馬鹿人間を尻目に、お互いの手持ちごとに分かれたポケモンたち。エーちゃんもこっちに帰ってきた。エーちゃん片づけみたいなの一番苦手でしょ。だからあなたの仕事はこっち。
 ちらり。
 向こうの主人がぶちまけたガラムマサラを洗い流すトカゲくんに目をやる。せっかくの本格スパイスが無駄になったねえ。かわいそうに。
 私が視線を送ったのにはまるで気づいていなかったけど、赤くなったエーちゃんがつられてそっちを見ると目が合ってしまった。そして、サフランパウダーを滑り落とす。おお、環境汚染環境汚染。
「え~っと……おめかしした君も可愛いけど普段通りでも安心するって言われた」
「へー、あっそ」
「あっそ!?」
 毛を逆立てて飛び跳ねるエーちゃん。いや、好きあってるのは良いんだけどさ。
「だってそれせっかくお化粧したエーちゃんのこと全否定じゃん。化粧してもしなくても一緒って」
「う~~~~屁理屈屁理屈!!」
 なんでこんなに意地悪するかって? 何でだろうね、一つには向こうの主人が信用ならないって言うのもあるけど……。
 ほっぺをぷくうと膨らませて、腕を組んでそっぽを向く。
 あーあ、怒っちゃって可愛いの。
「フラれても慰めてあげるからね~」
「余計なお世話!」


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Last-modified: 2020-05-16 (土) 01:13:11
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