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いいゆめみれるだきまくら

/いいゆめみれるだきまくら

人×ポケモンの描写がありますので、苦手な方はご注意下さいませ。




 宅配便で無事に届いた例の物。しかし予想以上に箱が重たいのと大きいのは気のせいなのだろうか。まあ、気のせいなのだろう。なんて言ったって原寸大であるのだから。
 値段も決して安くは無かったから、その分忠実につくられているに違いない。そう思うと心無しかどんなものなんだろうとわくわくしてくる。
 そんな期待を胸に抱きながら、段ボール箱を開けようとする。貼られたガムテープを剥がして、封を切る。そして段ボール箱を思い切って開けた。
「どうも、この度は商品のご購入有難うございます!」
 そう耳にした途端に、僕は自分の耳と眼を疑わざるを得なかった。


 最近、よく眠れない。
 理由は不明確で全く分からない。でも睡眠時間は人並みかそれより少し多いくらいで、寝不足ではないのは確かだ。寝過ぎ、というのもありえない。
 問題があるとしたら、毎日毎日うんざりするくらい夢を見てしまう事ではないのだろうか。とりとめのないような夢を毎度見せられて、日常との境が溶け込んでしまっている。
 たまにはぐっすり寝たいものだ。それこそ夢なんて見てるという実感がないくらいに。
 九十分周期で寝れば大丈夫とか、よくテレビとか巷で耳にしていたから試してみたのだけれでも効果無し。うんと疲れるくらいの運動をして寝たとしても同様であった。色々とよく眠れる方法は実践したのだが特に影響は無かった。
 唯一、手を出していないのが睡眠薬である。しかし薬には頼りたくないのが実情である。
 薬物、ダメゼッタイ!
 と掲げる警察の売り文句に便乗する訳ではないけれでも、睡眠薬を服用してそのまま薬漬けになったら堪らない。そういった理由で薬は避けたいところだ。
 しかし、他に何があるのだろうか?
 この不満を解消できる術は。僕の睡眠障害を取り除けるものは。
 いくら悩んでいても手段が浮かばなくては仕方がない。取り敢えず、気晴らしがてらに僕はテレビを点けた。
『――に紹介するのは枕でございます』
 テレビの電源を入れると、丁度通販番組が放送されていた。この通販番組はやたらはきはきと喋る若い男の人が売りである。商品の質は決して良くはなかったとしても、この人の手にかかると不思議と欲しくなってしまうのだ。この人のお陰で繁盛していると言っても過言ではないくらいである。
 まあ、僕は通販に興味無いから関係無いないんだけど。
 さてチャンネルを変えるか、そう思うとテレビのリモコンを手に取りボタンを押そうとした途端に、
『この抱き枕さえあれば、不眠症の貴方も今日から寝られます!』
 ……嘘でしょ?
 よりによって現在進行形で睡眠について悩まされてる時に、この売り文句ですか。
『今話題となっているこのオオタチ型抱き枕。この通り原寸大となっており、長い体長であるオオタチは抱きやすいですよ。しかもこの抱き枕はとってももふもふ! これに抱きつけばもう安眠間違いなし!』
 話題になっているのかは謎だが、ふかふかなオオタチ(抱き枕)に抱きつく通販の人を見ていると、確かに気持ち良さそうだ。クッション性も良いらしく、ふかふかな体つきをしているオオタチを忠実に再現しているようだ。それにしても、この光景を見せつけられて殺意が芽生えてくる。僕にも抱かせてあの柔らかさを堪能させて欲しい。
『お子様へのプレゼントや大切な人への贈り物、また独りで寂しい貴方に是非ともこのオオタチ型だきまくらを!』
 最後のは独り暮らしである僕への当て付けだろうか……って自意識過剰か。
 にしても、贈り物か。そういえば最近、実家に何も仕送りしてないなあ。そういえば、父さんは寝相が悪かったから、この抱き枕を使えば少しは改善されるんじゃ……うん、きっとするな。そうと決まれば、この抱き枕買わなくちゃ。自分の為に買うんじゃない、これも寝相の悪い父さんの為であって、僕が抱きたいなんて欲求はさらさら無い。でもこの枕を実家宛てに頼んだとして、父さんに文句言われるくらいの出来具合だったら駄目だから、先ずは自分で使ってみないといけないなあ。使ってみて良かったら実家に送ればいいんだし、うんそうだ、そうしよう。それに睡眠障害も取り除く為でもあるから、購入する正当な理由もちゃんとあるし。断じて、もふもふしたいからじゃない。
 そして僕はテレビに映る通販の電話番号を凝視しながら、携帯電話にその番号を打ち間違いないようにゆっくりと押していた。




 こうして、遂に念願のオオタチ型抱き枕を手に入れたのだが、中身的な意味で明らかに可笑しい。
 物である枕が喋る筈が無いし、これはどう見ても、
「これからお世話になります」
 正真正銘オオタチである。
 呆気に取られている僕とは大違いで、オオタチはせっせと段ボール箱から出て、がさごそと段ボール箱の中身を漁り始める。すると冊子のようなものを取り出して、営業スマイルを浮かべながらご丁寧に手渡してくる。
「どうぞ。これが取扱説明書です。きちんと読んで取り扱って下さいね」
「あ、うん」
 僕は取扱説明書を受け取り、ぱらぱらと頁を捲ってざっと目を通す。
 これが所謂取説という奴か。後でちゃんと読んで優しく扱っていかないとなあ……って、なに流されているんだ自分は。
 さて、何から突っ込んでいけばいいのだろうか。どうして段ボール箱の中にポケモンが入っている所から突っ込もうか。この取説はオオタチ型抱き枕についてしか書かれてなくてオオタチには一切触れてないし、色々と多すぎて逆に困る。
「……あの、何かご不満でもあるのですか?」
「不満って訳じゃないんだけど……どうして中身が抱き枕じゃなくてポケモンのオオタチなんだろうって」
 オオタチは僕の言葉を聞いて思い出したのか、ああと相槌を打つ。そしてまたもや段ボール箱の中を漁る。少しするとオオタチは紙切れ一枚を取り出した。そうしてオオタチは僕に手渡してくれて、僕は手に取ったその紙に視線を移した。そこに書かれた文字を確認しながら声に出して読んでいく。
「えーと、おめでとうございます。この度は厳正な抽選をもってあなたがご当選となりました。どうぞオオタチを可愛がって下さい……。つまりどういうこと?」
 それに、抽選って初めて聞いたような……。
 全くもって僕の理解の範疇を越えている。この宅配物を受け取ってから今に至るまでが。
 僕の様子を見て、段々と不安になっていくオオタチ。そんなオオタチが僕の疑問を解消する為に弁明をしてくる。
「一応、手持ちポケモンがいない方で抽選をご希望になったお客様だけが対象だったんですけど……」
「……手持ちポケモンだって?」
 手持ちポケモン、オオタチが口にしたその言葉に、僕は通販の電話でのやり取りを思い起こしていく。
 ――そうだ。あの時に手持ちポケモンがいないって答えて、あとは生半可に受け答えして聞いていなかったからだ。
 結局は自分が蒔いた種だったのか。あの時もふもふする事しか頭に無くて、適当に応答したから。まさかこんな取り返しのつかない事になるとは思っていなかった。
 さらに悪い事に、僕はポケモンなんて飼ったことが無い。親が飼う事を許してくれなかった事もあるが、元々僕はポケモンとふれあうのが苦手だった。義務教育時代にポケモンとのふれあい方等は習ったとはいっても、当時は触れる事はおろかどうする事も出来ない程にポケモンが怖かった。今は大学で、ポケモンを出している人達が沢山いるから見慣れてきたし、時々友人のポケモンが戯れてくるから、まだ一時よりはまともにふれあえる。
 しかし一緒に生活するとなると様々な問題が浮上する。先ずは両親を説得しなくてはならないのである。ポケモンを飼うことすら許さなかった両親をいかに丸くさせるか。その次の問題は生活費である。大学生である僕は、アルバイトをしているとはいえ生活費は殆どは両親の仕送りに依存しているのが現状だ。そんな中、オオタチの分の食費や雑費が掛かると生活は四苦八苦となる。ましてや今月は抱き枕(オオタチ)を購入してしまったから尚更である。質素な生活に徹しなくては恐らく今月は乗りきれないだろう。
 僕はもやもやと考えながら、悩みの種であるオオタチを見る。先程の僕の受け答えもあってなのかオオタチは表情を曇らせている。そんなオオタチの表情を見ていると、胸が締め付けられているような気がした。
 ポケモンの事は分からない。でも僕が原因を作ったのだから、オオタチを見捨てるなんて訳にはいかない。後先なんて考えず、今は僕が責任を持ってきちんとこの仔の面倒を見よう。
 そう、心に強く誓った。
 僕は俯いているオオタチに声を掛けて、手を差し出す。
「心配しなくても大丈夫だよ。今日から此所が君の家だよ。これから宜しく、オオタチ」
「……は、はいっ!」
 そう言ってオオタチが僕の手を握り締めてくる。僕よりも小さな手ではあったけれどもちゃんと温もりが伝わってくる。オオタチはだきまくらなんかではなくて僕のポケモンなんだと改めて認識する。
 不安は勿論ある。でもオオタチの嬉しそうな顔を見ると、これから沢山楽しい事が待ち受けていそうだ。そんな気がした。
 さて、これでオオタチと仲良く一緒に生活する事に決まったのだが、僕は肝心なポケモンに対する知識が乏しい。人生で一度もトレーナーやブリーダーを志そうとはしなかったので、ポケモンに関してはど素人である。どれくらい素人なのか具体的に示すと、ポケモンセンターに入った試しが生まれてから一度も無い程である。
 とは言っても、今更ポケモンについてのノウハウを身に付けるのも面倒なので、至って普通に接していく事にする。何か困ったらポケモンがいる友人にメールでも電話でも入れて相談すればある程度の対処は出来るだろう。
 取り敢えずは、オオタチについて知る事からだ。だけども何から訊いていけば良いのだろう。いきなり私事に突っ込むのは憚れるので、ベタに好きな食べ物からか。
 そろそろ晩御飯にしなくてはならないし、お金に困っていると言えども今日だけオオタチの歓迎を記念に贅沢したって罰は当たらない筈だ。最悪の場合には今月乗りきれそうになかったら、貯金から幾らか引き出せば良いだろう。頭の片隅にその事を置いて、僕はオオタチに訊ねる。
「オオタチの好きな食べ物って何?」
「え、あ、えーっとですね、私はモモンの実が大好きです」
「ふうん、そっか」
 成る程、オオタチはモモンの実が好きなのか。となると、オオタチは甘いものが好みなのか。
 そう考えながら、頭の中にはオオタチがモモンの実が大好物だという知識を取り入れていく。
「だけど、どうして私の好物を訊くのですか?」
 いきなり好物を訊ねられて不思議と感じたのだろうか、オオタチは理由を求めてきた。オオタチに訊かれた僕は率直な訳を話す。
「オオタチの事を知りたいからだよ。それに、オオタチが今日から暮らすんだし、ぱーっと贅沢しようと思って」
 僕がそう言うと、オオタチは迷惑だと思ってか慌てたように手を振りながら口にした。おまけにオオタチの長い尻尾まで横に振りながら。
「いえいえ、わざわざ私の為なんかに……」
 そんな遠慮がちなオオタチに僕は、
「気にしない、気にしない。祝うときには祝わないと」
 と言った。するとオオタチは折れたのか、ではお言葉に甘えて、と了承してくれた。
 オオタチの好きな木の実はモモンの実だから買い物の際には忘れずに買っておかないと。
 その事を念頭に入れておくと、オオタチが僕の下から見上げてくる。そしてオオタチがぐいっと僕のズボンを引いてきた。僕は思わずオオタチの方を向いて、どうしたのと訊いた。途端にオオタチが、
「あの、私からも質問をしても良いですか?」
 と言ってきた。オオタチも僕の事を知りたいのだろうか、と思いつつ肯定の言葉を口にした。
「うん、いいよ」
 するとオオタチが興味津々そうな眼差しをしながら、僕に訊ねてくる。
「ご主人さまはどうして私を買ったんですか?」
 私を買った、と聞くと人身売買のような響きがして、あまり好ましい感じがしない。
 正確に言えば、僕が買ったのはオオタチ型抱き枕だが、オオタチからして見れば僕が買ったと見なしても可笑しくはない。だからオオタチは僕にその理由を訊ねてきたのだろう。
「えっと、最近よく眠れないから、ぐっすり寝るために買ったんだよ」
 僕の言葉を聞いたオオタチは首を傾げた。納得も反感もしない中途半端な対応に僕は何も言えずに不安を抱く。
 しかしオオタチの返事はあまりにも予想外な物であった。
「……よく眠れないってどういう意味ですか?」
 オオタチは首を傾げて、今にも頭の上にはてなマークでも浮かびそうなくらいであった。
 冗談混じりの口調でもなく、またオオタチの真面目な顔を窺うに本当に意味が分かっていないのだろう。もしかしたら睡眠不足なんて人間が悩まされる症状であって、ポケモンには無縁なのかもしれない。
 オオタチによく眠れないを説明する為に簡単な言葉を見つけ出そうと頭を捻りながら、僕は言う。
「うーん、寝たのに寝た気にならないって事かな」
 簡略な説明がこれくらいしか浮かばなかったが、これはこれで的を射ているだろう。
 自分では分かりやすく述べたとは思うが、依然として晴れない表情をオオタチはしていた。終いには、
「そんな事ってあるのですか?」
 とオオタチは更なる疑問を口にした。あるんだよ、と苦笑しつつも僕はオオタチの質問に答えてあげた。 それに対して、今度は試しにこちらが訊ねてみる。
「オオタチはそういう経験は無いの?』
 僕の質問に、そうですねえ、と言いながらオオタチは腕組みつつ真剣な趣でじっくり考える。十秒、二十秒と時間は刻々と過ぎていく。結局の所、オオタチが出した結論は覚えがない、というものだった。
 寝不足に悩まされる事が無いとは羨ましい限りである。寝ても寝足りない僕とはまるで正反対だ。
 そっか、と僕が言葉にすると、今度はオオタチは誇らしげに言う。
「そもそも私の得技は“眠る”ですから」
 えへん、と手を人間で言うと腰に位置する部分に当てて、胸を張りながら自信を示す。オオタチの態度を見て呆気に取られた僕は堪らず訊いてしまう。
「え? 寝るのが特技なの?」
 寝るのが特技ってまるで漫画みたいな話である。そんな特技が自分にあったら、睡眠の苦労なんて知らずに済んだだろう。
 僕の質問に、胸を張って堂々とオオタチは答える。
「はい。私が来たからには今日からご主人様もよく眠ることが出来ると思いますよ!」
「ふふっ、だと良いけどね。さて、そろそろご飯の準備もしなくちゃいけないし、買い物に行こっか」
 部屋に飾られているデジタル時計を見れば、もう夕刻を指していた。窓を見れば、空はすっかり夕焼け模様となっていて、部屋に射し込む太陽からの光もすっかり茜色となっている。
「はい、ご一緒させて頂きます」
 そしてオオタチが僕の後に続いてくる。それも長い尻尾をゆらゆらと楽しそうに振りながら。その光景を見た僕は、こうしてポケモンを連れ歩くのも悪くないなと感じた。



 無事に買い物を終えた後に、晩御飯をせっせとつくってオオタチの歓迎会を簡易ながらも行った。その折に、僕はオオタチに関してもっと知る事が出来た。
 実はオオタチはトレーナーから逃がされた仔だったらしく、今までずっと施設に預けられていたそうだ。その施設は里親を探しているようで、今回の通販の件を通して僕の元へとやってきたという訳だ。開封されたら飛び出す演技や言葉だって覚えさせられたんですよ、とオオタチは嬉々として語っているのを聞いて、僕はまさか中身がポケモンだとは思わなかったと苦笑いしながら返していた。
 夕食を終えた後には、お風呂をオオタチと一緒に入った。そこで初めてオオタチが牝であるのに気が付いた。しかし、オオタチも僕も種族が異なる事もあって、お互いともやましい気持ちなんか持たず平然と湯船に浸かっていた。オオタチの身体を丁寧に洗ってあげたら当の本人も喜んでくれたし、反対にオオタチは僕の背中を洗い流してくれた。僕にとってのオオタチは例えて言うならば、子供が出来たような感覚だった。
 そして、今に至っては同じ布団で身を寄せあって寝ている。更に言えば、この手でオオタチを抱いてしまっているのだ。これが人間の異性であったら簡単には済まされない行為だが、相手はポケモンだ。恋愛感情を抱く異性としての対象にすらならないので、何ら問題はない。
「どうですか、ご主人さま?」
 オオタチが抱き心地はどうなのかと僕に訊いてくる。対する僕は直ぐ様に答えた。
「もふもふしてて、柔らかいよ」
 文句無しだった。オオタチの胴体は勿論の事、尻尾までふかふかと柔らかくて大満足だ。おまけに、オオタチからは仄かに心地好い匂いがしてくる。恐らくは今日、フレンドリィショップで買ったポケモン用のボディソープの匂いだが、オオタチから漂ってくると何故か良い匂いだと感じられた。おまけに優しい肌触りがして、僕は余計にオオタチを手放したくなくなってしまう。
「ふふっ、それはなによりです」
 オオタチも僕が喜んでお陰か、嬉しそうに微笑んだ。そしてオオタチが僕の胸へと顔を沈めてくる。なんだかこそばゆいと思ってしまうが、オオタチが可愛くて堪らなかった。
 手を通してオオタチの温もりが伝わってくる。熱すぎでもぬるすぎでもない程好い温もりに、僕の瞼は次第に重たくなっていく。僕の眠たそうな様子を窺ってか、オオタチは言ってくる。
「おやすみなさいませ、ご主人さま」
 オオタチの言葉に、僕もおやすみオオタチと返す。その矢先に、僕の意識はまどろみへと溶けてしまっていた。

 瞼を開けると、目の前にはオオタチの顔があった。気持ち良さそうに寝ている姿はとても和やかであった。
 僕が眼を覚まして間もなく、オオタチも起き始める。ぷるぷると身体を小刻みに揺らしながらも、オオタチの瞼が開き始める。そして僕の顔を捉えたのか、彼女がにっこりと爽やかな挨拶をしてきた。
「おはようございます、ご主人さま」
「おはよう、オオタチ」
 清々しい朝の挨拶に僕の気分は晴れ渡る。親元を離れてからはずっと独りだったので、おはようだなんて言った試しがなかった。この家に移ってから誰かに挨拶するなんて初めてだった。
「その様子ですと、昨晩はぐっすりお休みになれたようですね」
「うん、これもオオタチのお陰だよ。有難う」
 起きてみれば、いきなり朝を迎えられた。夢を見ない程までに、こんなにもぐっすり寝たのは久々だった。普段は残っている妙な気だるさも眠気も、今日に限ってはない。どうやら早速、眠るが得意技であるオオタチの恩恵を受けられたようだ。
「それは良かったです」
 僕にお礼を言われてにっこりと笑うオオタチ。オオタチの笑みに釣られて僕も微笑む。こんなに朝から楽しい気分なのは久し振りだった。これもオオタチが僕の元へとやって来てくれたお陰だ。
 こんな気分の良い朝が、これからずっと迎えられたら良いなと僕は思った。

 オオタチが家にやってきてからというものの、僕の睡眠不足は綺麗さっぱり解消された。それにつけ加えて勉強やバイトで疲れていたとしても、オオタチを抱いて寝れば決まって疲労を感じさせないぐらいに元気となっていた。
 両親にも訳合ってオオタチと暮らしていると話したら、思いの外あっさりと認知してくれた。あの頃はまだ子供だったし、ひとり暮らしをするほどに自立したのだから、別にポケモンを持とうが構わないとの事であった。それと両親はどうやら僕がひとり暮らしをして淋しいのを埋め合わせるのにオオタチを飼っていると勘違いしているようでもあった。それを聞いた途端に、こっ恥ずかしくなって全力で否定はした。
 しかし、強ち間違いでもないのはここだけの話である。オオタチが家に来てくれたから生活に彩りがついたのも事実だった。大学でも連れ歩いたり、一緒に何処かへ行ったりと、オオタチといるだけで楽しかった。
 しかし、その一方で全てが順調に上手くいっていた訳ではなかった。僕が気付かぬ内に問題が膨らみ始めていたのだ。
 それは、あれほど眠るのが得意なオオタチがあまり寝付けなくなった事だ。
 僕が朝起きるとオオタチが眠たそうに瞼を擦る光景が、毎朝決まったように見れた。今まではしなかったのに、時々あくびをする仕草も見受けられようになった。
 僕が心配しても、当のオオタチは大丈夫だと口を揃えて言う。恐らく、オオタチの迷惑を掛けまいという配慮だろうが、事態がここまで進行してくると僕は不安で仕方なかった。
 一度、オオタチの容態を見て貰うが故にポケモンセンターに連れていった事もあった。しかし、検査の結果は肉体面にも精神面に関しても特に異常は見られなく、体調は至って万全だという判断であった。終いにはジョーイさんからよく貴方に懐いていますね、と言われるくらいの異常の無さであった。
 ジョーイさんからはポケモン用の睡眠薬を出しておきましょうと言われて、一応受け取った。だが、自分が断固として口にしなかった睡眠薬をオオタチに飲ませるのは抵抗があった。しかしオオタチの体調の為と思いつつ、それ以降オオタチに服用させている。だけども、一向に快復しなかった。それどころか日が経てば経つほど余計に悪化している気もしなくなかった。
 状況は良い方向には決して傾かず、ますます悪い方向へと傾いていく。いつになったら歯止めが効くのか、僕は分からずにいた。



 オオタチを心配しつつも、僕はいつものように抱きながら寝ていた。それなのにオオタチがいきなり僕の腕を乱暴に振り解いてきた。普段のオオタチの様子からじゃ想像もつかない荒々しい姿に、僕は度肝を抜かれてしまった。
 力を思いきり使った為か、オオタチの息遣いは荒かった。静寂で何も聞こえない筈の夜に、オオタチの呼吸が耳に残るほど響いてくる。
 僕の視界は当初、無限に広がる暗闇であった。だが、徐々に眼が馴れてきたのか景色がぼんやりと浮かんでくる。そして僕の目の前に何かがそびえ立っているのに気が付いた。
 僕は目元を擦ってそれが何であるか確認しようとする。時間が経つにつれ、眼がくっきりと輪郭を捉える。薄々気配から感じ取っていたが、案の定オオタチであった。
 普段のオオタチとは似ても似つかぬ形相で、僕の鼓動は心なしか速くなっていく。オオタチとは親しい仲なのに、なんて声を掛けたらいいのか僕は分からなかった。
「ご主人さま……」
 オオタチが僕を呼ぶ。オオタチはただ呼ぶ訳ではない、どこか切なげで、僕に救いを求めているようだった。
 これまでは睡眠障害で留まっていたのにオオタチの容態が急変してしまったのだろうか、と僕は不安に押し潰されてそう考えざるを得なかった。
 僕は大丈夫か、と夢中でオオタチに安否を問う。しかしオオタチが口にした言葉は決して宜しいものでは無かった。
「……もうだめですよ」
 弱々しくぽつりと溢れ落ちたオオタチの言葉に、僕の心には衝撃が走った。
 まだ暮らして間もないというのにこんなのって。
 考えたくもない、認めたくもない。これが夢であったらどんなに気分が良いか。僕はまだオオタチと出逢う前に見ていた惰性な夢の続きを見ているんだ、きっと。
 そう思いたくなったが、これは現実だ。僕に突きつけられているのだ。したがって、猶予なんて物は無い。僕は早急に決断を下さなければならないのだ。
 必死に考えた挙げ句、思い付いたのはオオタチをポケモンセンターに連れていく事だった。急いでポケモンセンターに連れていけば、まだオオタチが助かる余地はある筈だ。僕はそう思ってオオタチを抱えようと手を伸ばした途端に、
「抱かせませんよ」
 僕の肩にはオオタチの手が置かれた。僕が身体に力を加えて起き上がろうとしても、その分だけオオタチが手に力を込めて起き上がれなくさせてくる。したがって、僕は身動きが取れずに何も出来ない状態となっていた。
 オオタチの行動に僕はどうして、と疑問を投げ掛けざるを得なかった。オオタチの容態が悪化しているというにも拘わらず、頑なに僕を拒絶してくる真意が分からなかった。
「ご主人さまだけずるいんですよ、私を抱いて。本当ならこんな事を考えてはいけないのでしょうけれど」
 そう言いながら、ぎろりと鋭い眼でオオタチに見られた。まるで獲物を捕らえようとするかのようだった。
 オオタチの眼をまともに見てしまった僕は途端に、恐怖で力が入らなくなってしまった。すっかり抵抗する気力さえも失せてしまったのだ。
 僕が恐怖に怯えた表情を浮かべた為なのか、オオタチは萎縮する。先程の鋭い眼からいつもの円らな眼へと戻っていた。
「ごめんなさい。今日だけはご主人さまをぐっすり寝かせそうにありません」
 オオタチがそう言うと、僕に向かってすっと身体を落としてくる。僕の身体の上にはオオタチの身体が乗せられていく。僕はオオタチの重みを感じ取っていた。言わば、オオタチにのし掛かれたのだ。
 そしてオオタチは視線を逸らさせないように、僕の頬に手を置いて顔の向きを固定してくる。オオタチのぷにぷにとした肉球で触られるのはくすぐったかった。
 無言でオオタチは僕をじっと見据えてくる。がっちりと固定されたので、僕もオオタチから視線を逸らせずにいる。その時だった。
 オオタチの瞳が潤んでいるのが発覚したのは。
 しかし気付いた刹那に、僕の唇はすんなりとオオタチに奪われた。
 あまりにも脈絡が無さすぎて、僕は動揺を隠しきれなかった。しかしその驚きを埋め合わせるかの如く、オオタチの行為は止まらない。オオタチは僕の隙をついては舌先を口内へと捩じ込んでいく。あっさりとオオタチの侵入を赦してしまえば、僕の口内が犯されるのはあっという間であった。
 ねっとりと絡み付く舌、送り込まれるねばついた唾液、絶えず漏れる吐息、そして火照ていく身体。
 何とかしてオオタチを引き剥がそうとしても、身体は石になったかの様に言う事を聞かなかった。手を伸ばせば容易に彼女の身体へと触れられるのに、僕は出来ずにいる。その間にも、着々とオオタチのは絶えず流れ込んできては僕の口内が汚されていく。
 円らな彼女の瞳はとろんと微睡むかのようだった。まるで夢でも見ているかのように。
 口と口とが離されると今度は唾液でオオタチとの繋がりを保つ。しかし重力には逆らえず、次第に崩れ始めていく。跡形も無くなるのに大した時間は掛からなかった。
 寝て冷めていた筈の身体が汗をかいてしまう程に熱かった。背中や額だけでなく、全身から滴る汗で身体がべたついて寝れそうにもない。
 もっとも、オオタチの言葉が本当なら僕は寝れる筈もない。オオタチの呼吸はまだ荒く、興奮が収まっていなかった。そして僕の興奮までも。
 ここにきて愚息が存在を誇示してきた。萎縮しようと考えても、先のオオタチとのくちづけが頭に残ってしまい、出来ず終いだった。
「ご主人さま」
 オオタチが僕を呼んでくる。赤子が母に甘えるように、はたまた牝が牡に媚びるように。今の僕が聞き入れてはいけない禁じられた言葉でもあった。
 僕は何も出来なかった。喋る事も、指先すら動かすのもままならない。ただひたすらに餌を与えられるのを待つだけの雛鳥の如く。
「――私、知ってるんですよ。ご主人さまが密かにかたくしてるのを。隠そうたって私にかかればお見通しですから」
 そう言うと、オオタチがそこを意識させながら身体を寄せてきた。牝の柔らかな肉が生半可に膨れ上がっている僕の愚息へと擦り付けられる。だきまくらとして抱いているいつもの僕ならば、オオタチの身体を感じ取っても興奮なんかしなかっただろう。しかし、状況が状況なので、オオタチの行為で一層膨れ上がっていく。最早、包み隠せぬくらいに愚息は熱を帯びて大きくなっていた。
 オオタチはポケモン、僕は人間。種族は違えども、僕は牡であり、オオタチは牝。牡が牝に反応するのは至って生理的であった。だが、世間一般からすれば人間がポケモンと情事を行うのは非常識だ。
 それでもオオタチは止まらない。オオタチは僕の寝巻きの下に手を掛ける。抵抗もままならない僕は物を言わない人形の如く、黙りこくってオオタチにされるがままとなる。
 オオタチは器用に寝巻きの下だけでなく肌着ごとずり下ろしてきた。すると愚息は衣服で覆われた息苦しさから解放されて、びくりと勢いよく弾けた。
「とっくに元気ですね、ご主人さまの」
 がちがちに堅くなった僕の愚息を見るなり、嬉々とした表情でもってオオタチは呟いた。
「私は単なるだきまくらじゃないのですよ。歴とした生き物なんですから」
 ですから私がご主人さまを抱くのも可笑しくないですよね?
 妖艶な笑みを僕へと投げ掛けて、オオタチは言った。モモンの実を美味しく頬張って食べるような普段の無邪気なオオタチとは想像もつかない姿だった。僕の知らないオオタチが確かに此処にいて、その姿に僕の心は奪われてしまった。
 躊躇いもなくオオタチの手が僕の愚息を捉える。オオタチの手では僕の愚息を掴めないのであくまでも押しつけるようにだ。しかしそれだけでも僕の愚息を刺激するのは充分であった。
 オオタチが小刻みに手を動かして振動させてくる。振動された愚息からは刺激が伝わり始め、僕は喘ぎ声を漏らしてしまう。刺激された事により、先端からは唾液のように滑りのある透明液が滴り始めた。オオタチはそれを手で触り、弄ぶ。手と愚息の間で淫らに糸を引く光景を、オオタチは愉しそうに眺めている。すっかりオオタチの手には僕の透明液が纏わり付いていて、オオタチはぺろりと美味しそうにそれを舐め取った。
「ご主人さまのもっと……」
 舐めるだけではまだ物足りないのか、オオタチはうわ言のように呟いて、欲しがってくる。そして僕を覆っていた筈のオオタチの身体はどんどんずれていく。そうしてオオタチの顔の位置が僕の愚息の辺りへと移動した。
 嫌な予感しかしなかった。
 止める術もなければその気もない。ただ食べられるのを見ているだけ。
 オオタチが味見するようにぺろりと舌先で愚息を舐める。僕が瞬きをした後には、オオタチが僕の愚息を口に含んでいた。しかし、オオタチの小さな口では僕の愚息全体が入りきっていなかった。にも係わらず、オオタチは懸命に口を動かして愚息を呑み込もうとする。
 頑張って頬張ろうとするオオタチの仕草が可愛いと思ってしまった自分は、人として末期なのだろうか。目の前に行われている行為は悠長な話では済まされないというのに。
 流石に、オオタチも諦めたのか出来る範囲内で僕の愚息を咥える。そして口を前後に動かして、愚息を満足させようと奉仕する。時折、舌を使って愚息の柄から先端にかけて隅々と丁寧に舐めていく。
 気付けば愚息は自身の液体の所為か、それともオオタチの唾液の所為か区別がつかぬ程に湿っていた。
 やってもらうのと自分で慰めるのとでは勝手が違う。故に僕はオオタチの口淫が気持ち良いと感じてしまっていた。たとえそれが過ちだとは知りながらもだ。
 オオタチが口や舌を動かす毎に愚息から押し寄せる快感。生まれてこの方初めての行為に僕はろくに耐えきれなかった。
 そして、オオタチの口内で僕の愚息は爆ぜた。
 愚息からは勢いよく白濁液が噴射する。その後、愚息はびゅくびゅくと脈を打ちながら快感の余韻と伴に、余った白濁液を一滴残さず出していく。オオタチはそれを溢さぬように喉を鳴らして飲んでいく。僕が頼んでもいないのに、オオタチ自ら進んで。
 一緒に暮らしてからは全く愚息を慰めていなかった事もあって、オオタチが飲みきれないくらいに愚息は白濁液を吐き続けた。オオタチの口元から透明な唾液ではなくてとろりと白い液体が垂れているのが何よりも証拠であった。
 溢したりはしたものの、オオタチが僕の白濁液を飲み干した。その頃には僕の愚息も萎縮し始めている筈であった。だが、オオタチの口から解放されても愚息は尚も膨れ上がっている。オオタチを汚す程に出したというのに、愚息はまだ足りないと訴えていたのだ。
「ごしゅじんさまったら、まだほしいんですね」
 そうオオタチが顔を上げながら口を開いた途端に、可愛らしい八重歯とまだ残っている白濁液で口内で糸を引いてる光景が垣間見えた。オオタチが嫌らしいと思ってしまうのと同時に興奮を覚えてしまう。
 元はと言えば、オオタチは僕のだきまくらなんだ。だから、こんな一時くらいいいゆめみさせてくれたって罰は当たらないじゃないか。
 今まで微動だにさえしなかったというのに、己の欲望には動かされる僕の手。オオタチの身体を捉えると、僕はぎゅっと抱き締め、オオタチを胸元へと寄せた。オオタチの毛並みは寝る前と同様、綺麗に整っていた。
 しかし、下腹部の辺りで違和感を覚えた。僕の愚息がオオタチの下腹部に当たっているのもあるが、異変を感じたのはそれだけで留まらなかった。
 異変を感じた僕はオオタチの下腹部の辺りを触る。さらさらとしているオオタチの体毛を手探りでかき分けていくと、指先に濡れる感触が伝わった。それで僕はオオタチの体毛が局所的に湿っているのに気付けた。
「うふふっ、ばれてしまいましたね。ご主人さまに」
 オオタチは羞恥心を剥き出しにするどころか、まるで待ち望んでいたかのように言ってくる。それでも若干は恥ずかしかったのであろうか、はにかみながらオオタチは僕に言う。
「ご主人さまがいけないんですよ? 私を寝かせないようにしたのは」
 オオタチの衝撃的な台詞に、僕は戸惑いを露としてしまった。オオタチの言った意味が、混乱した僕には理解出来なかった。
 そんな、僕が知らず内にオオタチの不眠症の原因をつくっていたというのか。
 真相を知る為、僕はオオタチに訊ねようと口を開こうとした。しかしその刹那、僕の唇にはオオタチの口が押し付けられてしまう。突如、唇を重ねられた僕は言葉の代わりに鼻息を漏らしてしまう。オオタチにくちづけをされて話す手段を失ってしまった僕。結局オオタチからは訊けず終いとなってしまう。
 女の仔に訊くのは野暮ですよ、とオオタチは僕の唇を口から離すと端的に述べた。オオタチにそう言われてしまっては、僕は訊くに訊けなくなってしまう。そしてオオタチは続けざまに述べる。
「それに今宵は私がご主人さまを抱くのですから」
 オオタチは僕の胸に手を置いては、背筋をぴんと張るように上体を起こす。そうなると、オオタチは僕に跨ぐような形となった。オオタチの体重が僕の下腹部に集中する。するとオオタチの体毛が濡れた位置、つまり蜜壺と僕の愚息が重なりあっていた。
 オオタチは少しだけ僕の身体に着けていたお尻を宙に浮かせると、愚息が天を指すかの如く熱り立った。愚息が指す方向には愛液が滴らせて牡を待ち兼ねている蜜壺があった。
 この後どうなるかぐらい、容易に想像がついていた。
 オオタチがゆっくりと腰を落としていき、蜜壺と愚息を触れ合わせる。そして僕の承諾を待たずに、オオタチの蜜壺は愚息を受け入れていった。
 オオタチは少しずつと慎重に蜜壺へ愚息を沈めていく。オオタチの肉壁はとても熱く、締め付けられて愚息は今にも溶けてなくなってしまいそうだった。
 行為の真っ只中で、僕はオオタチが顔をしかめているのに気が付いた。恐らく、僕の愚息を受け入れる苦痛の所為だ。
 これまでずっとペースを握られていたので、僕はてっきりオオタチは手慣れているのかと勘違いしていた。しかしそうではないのが、今の痛みを露としているオオタチの表情が物語っていた。
 もしもこれが初めてだとすると、オオタチは何故僕と――。
 僕の心境はお構い無しに、オオタチは愚息を着々と飲み込んでいく。途中、腰を静止させて休憩を入れながらも、めげずに僕の愚息を蜜壺へと入れていく。
「……はいりましたよ、ごしゅじんさまの」
 息を絶え絶えにして苦しそうなのに、オオタチが甘美な口調で言ってきたものだから、僕が頭で考えた事は消え失せてしまう。オオタチに言われて、結合部に視線を移せば僕の肉の上にはオオタチの肉があった。どうやらすっかり僕の愚息はオオタチの蜜壺に飲み込まれたようで、姿形が全然見えなかった。
「うごきますね」
 動悸が収まっていないのにも拘わらず、オオタチがゆっくりと腰を動かし始める。お尻を持ち上げ、愚息が蜜壺の外へ出たと思ったら、再び下ろして隠れていく。そうする事で、愚息が見え隠れして、肉壁と擦れあって互いに刺激を伝え合う。
 換気もろくにしてないので、部屋にはすっかり如何わしい臭いがこもっていた。おまけに外界とは切り分けられた静かな空間なので、嫌でも耳に残る淫靡な音がとてもよく響き渡る。
 例えば、僕の喘ぎ声。またはオオタチの嬌声。更には、肌と肌とがぶつかる音に、蜜壺が愚息を飲み込むあるいは愚息が肉壁と擦れてかき混ぜられるぐちゅぐちゅとした水音。
 オオタチに弄ばれてるとは知りつつも、全身に巡る刺激の前には為す術もなかった。ポケモンと人間、異種同士がこのような契りを交わすのは禁忌だが、押し迫る快楽の波に溺れて最早どうでもいいと感じてしまう。
 オオタチがこんなにも魅力的だなんて考えてもなかった。今までであったら異性の対象にすらならないというのに。暗闇で妖艶に舞う姿の所為なのか、はたまた現実とは隔てられた夢の中である所為なのか。
 いずれにしても僕はオオタチに抱かれている。それだけは揺るがない事実であった。
 蜜壺からは愛液を、愚息からは透明液を止めどなく分泌させる。お陰で僕の下腹部にはぬるぬるとしたそれらが付着してしまっている。おまけに愛液と透明液は布団のシーツにまで及んでいた。それだけではない。身体の火照りを鎮める為に、湧き出る汗もシーツを汚している。
 性行の最中にゆらゆらと蠢くオオタチの尻尾。まるで僕の興奮を誘うかの如く。尻尾に魅せられて、興味を抱いた僕はこの手でオオタチの尻尾を掴まざるを得なかった。
「ああっ!」
 ただ尻尾を掴んだだけだというのに、この場にそぐわない頓狂な声をオオタチは上げた。先程まで項垂れていた毛までも逆立たせている。
 これはもしかして、と思いながら僕は夢中になって両手で尻尾を弄る。
「ひゃあ、あっ、だ……」
 甘ったるく喘ぎながら身体をびくびくと震わせるオオタチ。そんな一方的に為されるがままのオオタチを見て、僕は確信する。
 尻尾はオオタチの弱点なのか。
 一緒に暮らしてから、幾ばくか月日は流れた。だがオオタチの尻尾が敏感な所とは今になって漸く発覚した。僕はオオタチの反応に興奮を覚え、調子に乗りながら尻尾を揉んだり扱いてみたりする。
 僕が毎日、毛繕いしているのもあってオオタチの尻尾はふかふかと柔らかい。しかし、オオタチの尻尾も身体同様に熱くさせていた。
 オオタチが尻尾を弄られて善がる姿はとても官能的であった。堪らず自分からも進んで腰を動かしてしまう。やられるがままであった愚息が今度は蜜壺を何度も突いていく。僕はすっかりオオタチの淫らに乱れた姿を欲していた。
「ごしゅじんさまっ、だめですよっ!」
 何が駄目なのだろうか。散々、君は僕を弄んできたというのに。これでやっとお相子だ。
 僕が下から突く度にオオタチの身体は跳ねる。尻尾と耳を揺らしながら。すっかり熱を帯びた吐息を出し、口元からは唾液が溢れ出ていた。
 オオタチも抑制が効かないのだろう。ただ上下に身体を動かして自身の身体を満足させるだけだ。まるで快感の檻に囚われた僕と同じだ。
 いつまでも交尾が出来るという訳ではない。幾度も愚息と肉壁を擦り合わせれば、次第に身体は限界だと訴えてくる。僕だけでなくオオタチも同様であった。
 終着点へと近付く為に、僕は最後の力を振り絞って愚息をオオタチの蜜壺へと突いていく。オオタチも蜜壺に愚息を沈めていく。狂ったように何度も何度も。
 そして遂に、僕の愚息はオオタチの奥で果てた。それと同時にオオタチが麻痺したかのように身体をぴくぴくとさせていた。
 二度目の絶頂を迎えた愚息からは白濁液がどくどくと吐き出され、オオタチの蜜壺へと注がれていく。オオタチの蜜壺からは愛液がだらしなげに漏れ始める。
 オオタチに注がれた筈の白濁液は、蜜壺が満たされると直ぐに行き場を失った。すると、白濁液が愛液と混ざり合いながら外界へと溢れてくる。僕の皮膚をどろりと伝うと、やがてはシーツに異臭を伴う染みをつくらせた。
 快感で満たされ身体に力が入らなくなったのか、それとも肉体的疲労からか、オオタチがばたりと僕の胸へと倒れてくる。僕は慌てて受け止めて、オオタチをこの手で抱く。ふと、触ってみるとオオタチの頬は熱くて、出される吐息も熱を帯びていて荒かった。それだけ僕はオオタチに負担を掛けていたのを物語っていた。それでもオオタチは僕に言う。
「……っ、ご心配なく」
 心配しない訳がない。結合部から漏れた液体は白濁している筈なのに、淡く紅で滲んでいたのだから。
 僕はオオタチの初めてを奪ってしまった。それなのに彼女は満足そうに言うのだ。
「――別に私はご主人さまのだきまくらで構いません。ただ、私はご主人さまを慕っているのだけは忘れないで下さい」
 そう言って彼女が僕の唇に口を重ねてきた。舌なんて交じらわせない、ただ触れ合うだけのくちづけ。所謂、よくドラマや小説とかに出てくるような寝る前のおやすみのキスだ。
「……それではおやすみなさいませ」
 僕から口を離した彼女がその台詞を言った刹那に身体がどっと疲労を感じる。それと伴に瞼が泥のように重くなっていった。
 先の彼女とのくちづけが本当におやすみのキスとなってしまった。僕の意識は彼女の柔和な笑顔を最後にぶつりと途切れてしまったのだから。

 頭が痛かった。誰かに鈍器で頭をぶつけられたかのようだった。
 眠気は無いものの、以前のような気だるさが身体には残っていた。こんな事はオオタチがやって来て以来、初めてだった。
 すやすやと寝息を立てて和やかに眠るオオタチの姿に、僕は安堵した。というのも、ここ最近オオタチはよく眠れてなさそうだったから。
 しかし、どうしていきなりオオタチがぐっすり寝られるようになったのか。睡眠薬を飲ませてもろくに改善しなかったというのに。不思議でならなかった。
 不思議といえばもう一つある。それは今日は珍しく夢を見たという感覚はあるのだが、全くと言うほど思い出せないのだ。あたかも霧がかかったかのように、記憶が曖昧ではっきりしない。どうにか思い出そうとする最中に、
「おはようございます、ごしゅじんさま!」
 いきなり快活な挨拶が飛んできた。久しく聞いてなかった清々しい挨拶に僕はびくりと身体を飛び上がらす程、驚いてしまった。
「えっと、あっ、おはよう。オオタチ」
 自分でも分からないくらいに焦りながらオオタチに挨拶した。
 何故こうもオオタチと顔を合わせただけで焦ってしまうのか。普段ならそんな事無いというのに。
 そんな僕の気持ちなんか知らずに、オオタチは尻尾をふりふりとさせ楽しそうに訊いてきた。
「ごしゅじんさま、今日はなんだかとっても気持ち良さそうな表情してますね。昨晩はいいゆめでもみたのですか?」
「それが度忘れしちゃったみたいでどんな夢だったか……」
 良い夢どころか内容がさっぱり思い出せない。
 そして僕はオオタチにそう言われる程、気持ち良さそうな表情をしているのだろうか。身体には妙な疲労感があって決して快いとは言えないのだが。
 僕の返答に、何故かオオタチがにやけながら返事をしてくる。
「そう言うわりにはこちらが元気ですけどねえ?」
 そう言ったオオタチの視線の先には、朝特有の整理現象でもって寝巻きの下からでも形が浮き出ている物の姿があった。それは、位置や形から誰がどう見ても愚息で間違いなかった。
「えっ? うわっ、オオタチごめんっ!」
 僕は急いでオオタチから離れた。起きてからずっとオオタチに擦りつけていたと考えると、セクハラもいいところである。そんな慌てている僕とは打って変わってオオタチは至って冷静であった。
「いえいえ、お気になさらずに。ご主人さまも男の子ですから仕方無いでしょう?」
「うん、まあ……」
 たとえオオタチが仕方無いと言ってくれても、これには流石に僕は言葉を濁すしか無かった。
 気にしないとは言いつつも、オオタチは頬を淡く染めている。対して僕は愚息にオオタチの肉の柔らかさを残らせている。こんな事になるなら何で起きてから気付けなかったと、僕は余計に自己嫌悪に浸りたくなった。
 そんな僕を前にして、彼女が妖しく微笑みながら、
「――なんだったら今夜もいいゆめみさせてあげましょうか?」



原稿用紙(20×20) 52.95 枚
総文字数 18118 文字
行数 314 行
台詞:地の文 1860文字:16258文字


後書き
最初から仮面なんて被る気がなかった作者は自分です(
この度は作品を読んで頂き、有難うございました。
この作品は没ネタからだったりします。本当ならば「誓いのくちづけを」よりも早く投稿する予定でした。
しかし、執筆が思うように進まなくてお蔵入りに。今回の大会をきっかけに再び書くことにしました。とは言っても、参加表明した後に筆を投げた所から、のんびりと執筆を再開したので投稿期間内には間に合いませんでした。ですが、自分が納得するまで書けたので良かったと思います。
オオタチって小話やワンレスで登場させるわりにはヒロインで扱う作品が少ないんですよね。人×ポケモンを書くようになったのもこの仔がいてくれたお陰なのですが。
実際にオオタチのだきまくらがあったらもふもふしてみたい今日この頃です。

この場をお借りして、運営に回って下さった管理人様、有難うございました。また、参加した作者様全員、お疲れ様でした。

自分はあまり大会に気乗りしない方です。一応、ワンレス大会には出た経験がありますが、wikiの大会にはこれまで一度も出た事がありませんでした。いつもは読み手側に回って楽しんでいました。
しかし、今回に至っては参加してみる事にしました。出れる時に出ておかないと、後になって後悔するかなと思いましたので。いつまでも作者を続けられる保証もありませんからね。今回の大会、出れただけでも良い経験になったと思います。

以下からは投票時に下さった感想、コメントの一覧ならびに返信です。


とってもとってもおもしろかったです (2012/04/04(水) 00:06)

こちらこそ気に入って頂けたようで嬉しいです。


オオタチが可愛かったです!読みやすい文章でどんどん引き込まれる良い小説でした。 (2012/04/04(水) 00:09)

オオタチ可愛いですよね。途中、主人公の台詞が一切無くなるので読みにくいかと思いましたがそう言って頂けたら幸いです。


面白かったです! (2012/04/04(水) 06:25)

こちらこそ有難うございます。


とにかくオオタチが可愛いのなんの!!
物語の最後まで丁寧な構成で目が離せませんでした
こんなだきまくらがいたら毎日不眠症でも良いですよね… (2012/04/06(金) 03:13)

オオタチは本当に可愛いです(
お蔵入りにする前まではもっと場面を考えていました。しかし、テンポが悪くなりそうでしたので今回の構成とさせて頂きました。最後までお付き合い頂き有難うございました。
オオタチがいたら自分も不眠症になりたいです。


実際に抱いてみたいと思ったけど、ここまでされてもみたいなと思ってました。GJ! (2012/04/06(金) 11:34)

抱いてみたいですよね、本当に。そして、オオタチに抱かれたいです。
GJだなんて言って頂き、有難うございます。


オオタチもふりたい('-'*) (2012/04/06(金) 18:38)

オオタチはもふもふしたい仔ですよね。


おもしろかったです (2012/04/07(土) 11:58)

そう言って貰えるなんて嬉しいです。


軸軸! (2012/04/07(土) 16:33)

軸軸とは一体何でしょう?


オオタチ可愛かったです!
俺も欲しいなぁ・・・ (2012/04/08(日) 11:26)

この作品を通して、オオタチを好きになってくれれば良いなと思います。
自分もオオタチの抱き枕が欲しいです。


そりゃーずっと抱かれてたら眠れなくなっちゃうよねぇー(笑)、という気持ちになりました。
この後もまた寝不足の日々になるのでしょうかねぇ?  末永く(?)良き関係である事を願って投票します。 (2012/04/08(日) 21:59)

心臓の鼓動が伝わるくらいくっつきますからね。それでも図々しくも寝れるご主人は(ry
寝不足に付け加えて疲労感が残るでしょう(
貴方のお陰でこれからも良き関係となるでしょうね。投票、有難うございました。


オオタチをモフモフしたくなりました。
僕にも、ぜひ良い夢を見せに来てほしいです。 (2012/04/08(日) 23:13)

それならオオタチをもふもふしましょう。貴方もきっといいゆめみれます(


そんな抱きまくらが私はほしい (2012/04/09(月) 01:36)

こんなだきまくらがあれば安眠、否、不眠症間違いなしです(


最後に、投票して下さった方々、本当に有難うございました。


作品に対する感想・コメントご自由にどうぞ。

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • とても面白かったです!オオタチに僕も犯されたい!!
    ――ピカチュウ大好き人間 2013-03-15 (金) 19:22:37
  • 末永くだいばくはつしろ
    こんちくしょう!可愛いよう!
    文さんのせいでまた好きなモフモフが増えてしまったじゃないですか!
    しかも雄受け!貴方とはいい酒が飲めそうだ
    ――COM 2013-03-16 (土) 15:07:34
  • 不眠症という訳ではありませんが欲しいですね…オオタチ型抱き枕。
    更に懸賞に当たると嫁が家に来るという素晴らしさ(違
    オオタチ可愛かったです。あの長い体に抱きついてもふもふしたいです…。
    ――フィッチ 2013-03-16 (土) 19:44:38
  • >ピカチュウ大好き人間様
    こちらこそ読んで頂き有難うございました。
    オオタチに押し倒されたいですよねー。彼女は肉食なのでどんなにこちらが頑張っても喰べられるとは思いますが(

    >COM様
    リア充全開の作品ですみません(
    オオタチは可愛いのですがなかなか作品が無いのがorz
    自分の作品でオオタチを好きになって頂いたとは、書いた本人としては嬉しい限りです。
    雄受けなのは完璧自分の趣味ですw 機会があれば是非呑みましょう(

    >フィッチ様
    確かにオオタチ型抱き枕は欲しいですよねー。
     オオタチのあの身体はまさに抱き枕に相応しいです。毎晩もふもふしたいところです(
    嫁の当選確率は恐らく天文学的な確率かとw

    最後にコメントして頂いた皆様、どうも有難うございました。
    ――文書き初心者 2013-03-16 (土) 21:49:58
  • とても面白いです。
    ――S ? 2014-11-14 (金) 23:16:57
  • とても面白いです。
    ――S ? 2014-11-14 (金) 23:17:26
  • >>S様
    読んで頂き有難うございました。また、面白いと言って下さってこちらとしては嬉しいです。
    ――文書き初心者 2014-11-15 (土) 21:31:32
  • 文書き初心者様のオオタチ
    凄く可愛らしいですね!!
    次の作品も楽しみにしてます!
    ――DERI ? 2014-11-18 (火) 20:42:56
  • すみません
    間違えて連続で同じコメントを
    してしまいました
    ――DERI ? 2014-11-18 (火) 20:47:48
  • >>DERI様
    自分が書いたオオタチを可愛いと言ってくださり、有難うございます。
    楽しみにして頂いてるところ申し訳ないのですが、次回作の予定は今のところ未定です。
    連投してしまったコメントは、こちらで削除しますのでお気になさらずに。
    ――文書き初心者 2014-12-05 (金) 23:55:36
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Last-modified: 2014-11-19 (水) 01:03:19
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