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ありえない種族同士の恋物語? 2月編

/ありえない種族同士の恋物語? 2月編

作者 フィッチ

 たくさんのポケモンが行き交い賑わっている大通り。そこから通じる一本の道を行くと、その外観から廃墟とも呼べるビルが建っていた。窓ガラスは所々割れ、周りの壁はひびが入ったり汚れたりしている。
 そんなビルに一匹のキノガッサが入っていった。ビルの中も酷いありさまだった。照明もなく、まだ昼前だというのに薄暗い。
「このビル、確かに誰も来なさそうだが……、やっぱ少しくらい工事した方がいいんじゃないかな……」
 キノガッサはそう呟くとある扉の前で止まった。キノガッサは鍵を取り出し、その扉の鍵穴に差し込む。鍵の外れる音がし、キノガッサは扉を開けた。扉の先には地下へと降りる階段があった。
 キノガッサは懐中電灯を取り出す。照明が全くなく、見えるのは懐中電灯の光で照らされた自分の足元だけ。踏み外さないようにゆっくりと階段を下りていく。降りた先も真っ暗であった。しかしある扉の隙間から、光がこぼれていた。キノガッサはその部屋へと入っていった。

「あの……クロードさん、ちょっといいスかね」
 部屋の中は、謎の薬品、実験器具、ぐつぐつと煮えたぎった液体の入った大釜と、明らかに異質だった。そして一匹のヤナッキーが椅子に座りその大釜を見つめている。
「あ? どうしたカプチーノ。何か雰囲気出ていいだろ? 誰も近づかない事は分かってるから何やってもばれないしな」
「そうっスけど……」
 その時、大釜からすさまじい勢いで煙が発生した。クロードは立ち上がる。
「こっ……これはっ!!」
「どうなるんすかクロードさん!?」
 2匹が見つめる中、煙は1分ほどたって出なくなった。クロードは大釜を覗き込む。
「よし、大成功だぜ! これで俺はさらに強くなれる!」
「おめでとうございますクロードさん! で、何の薬っスか?」
 カプチーノがクロードに質問する。
「ふふふ、まあ使ってからのお楽しみだ。それより一回テストしてみたいぜ。とりあえず誰かとバトルしてボコボコにしたいんだが……」
 カプチーノはびくっとする。
「ええ!? お、俺は嫌っす! 実験体だけは!」
「心配するな。この薬は俺が飲むものだからな。そして俺にしか効果のない薬だ。ついでに言うと、相手は俺が不利な相性の奴がいい。誰かいねーかな……」

クロードの言葉にほっとした表情を浮かべるカプチーノ。

「なあカプチーノ、誰かいねーのか? お前がぶっ飛ばしたい相手でいいぜ」
「不利な相性でぶっ飛ばしたい相手っすか……あっ!」
 カプチーノはふとあるポケモンの事を思い出した。彼が当たり屋をしていたあの日、上手くいきそうだった寸前でそのポケモンに邪魔され、ボロ負けしたのである。
「い、いるッスクロードさん! この前話したハブネークっス!」
「そういえば言ってたな、ボロ負けしたって。でもお前なら勝てるんじゃなかったのか?キノコの胞子とか使えばよ」
「あ、あの時は油断してたっス……。とにかくクロードさん、俺の仇を取ってください! お願いします!」
 悔しがるカプチーノ。そんな彼の兄貴として頼みを聞かない訳にはいかないだろう。クロードは頷いた。
「ハブネークか……。俺の相性も悪い相手だ。だが……この薬さえあれば絶対に勝てる! 実験もできてお前の仇もとれるいい相手だぜ!」
「おおっ! じゃあ早速ハブネークをボコボコにしに行きましょう!」
 部屋を出ようとするカプチーノだったが、クロードが止めた。
「まだだ、この薬が覚めて飲めるようになるまで、2日ほどかかる。それにハブネークの事、お前何か分かってるのか?」
「……そういえば何も知らないっス」
 クロードは再び椅子に座った。
「とりあえずだ、お前はハブネークについて情報を集めて来い。居場所さえ分かればこっちのもんだ。分かったか?」
「は、はいクロードさん! 俺に任せるッス!」
 カプチーノはすぐ部屋を飛び出した。クロードは大釜を見る。
「さて、どんなハブネークかは知らねーがこの俺、クロードがカプチーノをボロ負けさせた事を後悔させてやるぜ!」



「いらっしゃいませ! お席に案内します!」
 昼下がりのカフェは多くのポケモン、お客さんが来店してくるの。あたしは様々なポケモン達を席へ案内して、注文を用紙に書いて店長さんに伝える。出来上がったらお客さんの所に運ぶ。忙しい!
 あたしはモカ。少し前までウイルスでダウンしてたけど、今は完全に回復! お店のためにどんどん働かなくちゃ!

 あたしの仕事は……もう分かるわね。それに今のあたしは、水色のワンピースにエプロン、頭にヘッドドレスをつけているの。そう、あたしはカフェでウエートレスの仕事をしているわ。従業員はあたしだけで毎日大変……。でも、この仕事結構給料高いし、初めは嫌がってたけどこの衣装気に入っちゃって! だから頑張って働いてるの!
 え? 何でポケモンのあたしが服を着て仕事をしているかって? それはあたしも初仕事の時に思ったの。でも店長の言いつけで……。
「コーヒー入ったよ。早くお客様の席に持っていってね」
「あ、はーい!」
 忙しそうにコーヒーカップにコーヒーを注ぐのは店長の唐津さん。彼、ポケモンじゃなくて人間なの。この世界の人間は……。
「あのー、ブラックまだですかー?」
「カフェモカおかわりー」
「はーい! すぐにできますのでお待ちください!」
 ごめん、説明してる時間が無い! とにかくあたしが服を着てる理由は唐津さんの趣味なの! 彼は20代のお兄さん的な感じの人で、普段は真面目だけど中身は酷いのよ! 「やはりポケモンがコスプレしても興奮するな……」って。
 まあ唐津さんの淹れたコーヒーはとっても美味しいし、あたしの丁寧な接待(と可愛さもかな?)もあってカフェが始まってから4年、今では大人気のカフェなのよ! 

「ありがとうございましたー!」
 ふう、やっと落ち着いた。一番ピークな時間帯を過ぎ、お客さんの数はまばらになった。注文もしばらく無さそう。この隙にあたしはテーブルを拭いたり使用済みコーヒーカップを洗ったり。やっぱり一人と一匹しかいないと休む時間はほとんどないの。
「さて、落ち着いたところでモカさん」
 洗ったカップについた水滴をふき取っている最中唐津さんが話しかけてきた。
「はい、何ですか?」
「今日は何月何日かな?」
 え、いきなりどうしたのかしら? 今日の日付ってそこの壁にカレンダーがあるじゃないの。
「今日は2月13日ですけど、どうかしましたか?」
「うん、2月13日だ。さて、明日は何の日かわかるかい?」
 拭き終わったカップを片づける。明日が何の日か、あたしが思い当たるのは……。
「誰かの誕生日……ですか?」
「忘れていたのかい? モカさん、明日はモテる男には待ち遠しい日じゃないか。僕も楽しみにしているよ」
「え、イベント……?」
 あたしはしばらく考え込む。えーっと……。

「ああ!! バ、バレンタインデー!!」
「そうだよ、明日は女の子が好きな、いや好きじゃなくてもいいけど男性にチョコを渡す、毎年恒例のイベントじゃないか。で、君は作るのかい?」
 す、すっかり忘れてた……。うーん、仕事終わったらデパートで義理チョコでも買ってこようかしら? あたし、手作りのバレンタインチョコは作った事が無いの。一応料理は出来るけど、別に好きな雄なんていないから。

「マスター、いつものお願いできない?」
入り口についているベルの音がして、入ってきたのはあたしの親友のマニューラ、ビター。いつもこの時間にこのカフェにブラックコーヒーを飲みに来るの。
「ねえビター、お仕事の方は順調なの?」
「もちろんよ。まあ今月は収入大きかったから生きていけそうね」
 ビターの仕事はフリーライター。とにかく毎日記事になりそうな出来事なんかを探して書いて、出版社に送る。採用されたら原稿料が貰えるってビターは言ってたわ。大変そうだけど、彼女はもう名の知れたベテランらしいから毎日カフェに来るくらいの余裕は持ってるみたい。ちなみにここが人気になったのも彼女が記事を書いてくれたおかげ。あたしも唐津さんも感謝しているの。
「はい、ブラックコーヒーだよ」
「ふふ、ありがとう。ところでモカ、話があるんだけど」
「え……、でも今仕事中で」
「いいじゃない、しばらく誰も来ないと思うし」
 なんて自己主義な発言……。確かにお客さんは今はいないけど。
「まあ来たら僕がやるから大丈夫だよ。休憩ってことで」
「わ、分かりました。じゃあお言葉に甘えて」
 あたしはビターが座っているカウンター席の隣に座る。ふう、しばらく立ちっぱなしでようやく楽になれたわ……。

「ねえモカ、明日はバレンタインデーよね?」
「え、ええ……」
 ビターも唐津さんと同じ話題を……。
「去年はあなた買ったチョコをアタイ達に渡してたけど、今年は勿論作るに決まってるわね? だって最愛の彼氏が」
「か、彼氏じゃないって言ってるでしょ! エスプール君とあたしは」
「あら? アタイ、エスプールなんて一言も言ってないわよ? それに顔赤くしちゃって」
「あ……」
 うう……す、好きって思ってないのにエスプール君が出てきちゃったよぉ……。これってもしかしてビターに乗せられてたりして……。
「でも一応エスプールに作った方がいいわよ? モカ、まだ薬草のお礼してないでしょ?」
「そ、そうね……。バレンタインなんてさっきまで忘れてたけどお礼と思って作った方がいいかな。買ったチョコだと悪そうだし」
 はぁ……。あたしの初チョコが好きでも何でもないポケモンになるなんて。

「と・こ・ろ・でっ! アタイもモカのチョコ食べたいの! 一生のお願い! 今年作ってくれない?」
「え? ……毎年思ってたけどビターは雌だからあげる方じゃ」
「フン、気色の悪い雄共なんかに誰があげるもんですか。アタイは雌からの心のこもったビターチョコが食べたいの。ねぇお願い、いいでしょ?」
 ビターはあたしに必死に頼み込むような表情を見せる。もう作るしかないわね……。
「はぁ……、分かったわ、作るわよ」
 あたしがそういうと唐津さんが話に入り込んできた。
「じゃあ、僕のチョコも作ってくれないかな?」
「ええ!? 唐津さんも手作りチョコが欲しいんですか!?」
「カフェ初開店から4年、もう僕とモカちゃんは親しい関係じゃないか。義理でもいいから君の料理を食べてみてもいいだろう?」
「う、うーん。確かにそうかもしれませんね……」
 結局今年は3つもチョコを作ることになった。はぁ……。

「エスプール君にどんなチョコ贈ればいいのかな?」
 義理だってことは分かっても、この間のお礼もあるからちゃんとしたチョコを作らないと。
「それならバレンタイン特集の雑誌、見てみる? アタイが作った記事だけど」
 ビターはハンドバッグから雌ポケモン向けの雑誌を取り出す。どんなものがあるのかしら。あ、ハート型チョコかー……。これ可愛くていいかも……。
「ハート型チョコってあなた、やっぱり気があるのね」
 ……あっ! た、確かにハート型はエスプール君が好きって思われちゃう! 却下!
「これなんていいんじゃないかしら?」
 ビターが指した爪の先には、トリュフチョコの写真。これならいいかも。
「うん、これにするわ! 仕事が終わったら早速材料買わないと!」
「役立ててうれしいわ。ところで……アタイが食べたいチョコなんだけど……ハァハァ」
 あれ、ビターの鼻息がすごく荒い。な、何か想像したの?
「な、何の種類がいいの?」
「アタイはハァハァ、種類なんてもんじゃないハァハァ、モかが、体中にチョコをたっぷりつけて……」
 
「却下。同じトリュフチョコね」
「や、やっぱり駄目……」
 残念そうにブラックコーヒーを飲み干すビター。誰かこの彼女の変態思考をしてくれないかしら?

 ビターが店を出て行って、お客さんも結構来たわ。対応してる間に辺りはもう真っ暗。時刻は7時50分。閉店時間は8時だから仕事がようやく終わりなの。お客さんも誰も店にいない。
「さて、今夜も来るかな?」
 唐津さんは窓の先を見ながらエスプレッソマシンからコーヒーを淹れる。
「来ると思いますよ。もっと早く来れないものですかね……。ごめんなさい、唐津さん」
「君が謝る事ないさ。まれに彼以外のポケモンも来る事があるし、何より君の」
 唐津さんが言いかけた時、入り口のドアが勢いよく開く。ベルの音と同時に入ってきたのは、黒くて細長い体の、そう……。

「モカちゃーん!! 今日も会いに来たぜーっ!! まだ閉店してないよなーっ!!」
 さっき話してた、チョコをあげる事になったエスプール君。去年までこのカフェに来なかったのが今年から(というよりあたしがここで働いてる事を口に滑らせてから)毎日来るようになったの。しかも閉店間際に。
「うおおおおっ!! 制服姿のモカちゃんは何回見ても萌えるぜっ!! あ、いつもの頼む!」
「はい、もうできてるよ」
 唐津さんが淹れたカフェモカをエスプール君は長い舌を使ってゆっくりと飲む。
「いやー、マスターのカフェモカは最高だぜ! 実はこいつを飲み始めてから仕事がはかどるように感じてるんだ!」
「それはとても嬉しいよ。ありがとう」
 エスプール君が何の仕事をしているのか、あたしは分からない。前聞こうとしたけれどエスプール君、それまでへらへらしてたのが真面目な顔になって、
「それだけは教えられねぇ。悪いな」
 もしかして危ない仕事をしてるんじゃって思うけど、まあ毎日会ってるから大丈夫かな……?

「あ、そうだモカちゃん!! 明日は何の日か分かってるよな?」
 エスプール君、それもう今日3回目の質問。要するにチョコ欲しいんでしょ? 
「心配しなくても明日作るから、楽しみにしてて!」
「分かってるじゃねーか! 美味しくてでっかい奴頼むぜ!」
「え、でっかいチョコ?」
「ああ、大きい方が貰ってお得だしモカちゃんの愛を感じるじゃねーか?」
「いやそんな事は……って何であたしがあんたの事を好きって勝手に決めつけてるのよー!」
「まあまあ、でっかいチョコが嫌ならそうだな……あ、お前が体中にチョコたっぷりつけて俺n」

 エスプール君は頭に決めた一撃で伸びている。彼には彼女なんて一生できないはずね。誰がチョコ塗ったくってプレゼントになるって? あたしの周りにはそんな考えを持つ変態が2人もいるの?

「わ、分かった……普通のチョコ期待してるぜ……。マスター、ご馳走さん」
 ずるずると軽くふらつきながら店を出るエスプール君。ようやく閉店ね。
「じゃあ後は僕が後片付けしておくから。トリュフチョコの材料買わないとお店閉まっちゃうからね」
 唐津さんが入り口のドアの札を裏返して「closed」にする。
「あ、そうですね、分かりました! お疲れ様でした!」
「僕の分、くれぐれも忘れないようにね」
「はい! ではまた明日!」
 急いで材料を買いに行かなくちゃ! 今夜は頑張って作るわよ!

「あのザングースの近くにやっぱりいたか、ハブネーク……。今に見てろよ、あの時ボコボコにされた恨み、クロードさんが晴らしてやるぜ!」


 まず、刻んだチョコを沸騰させた生クリームに入れて混ぜる。それをしばらく冷やして、同じ大きさになる様に並べる。冷蔵庫で冷やして丸くして、溶かしたチョコを手に付けて丸めたものを転がす。で、さらにバッドに入ったココアの中で転がして、仕上げにココアを振り掛ければ完成……だけど……。
「美味しくてでっかい奴を頼むぜっ!!」
 ビターや唐津さんは普通サイズでいいはずだけどエスプール君、どうしようかな……。

 次の日の朝。あたしはトリュフチョコの入った色つきで中の見えないきれいなビニールの袋を3袋持ってカフェに来た。
「唐津さん、おはようございます! あら? その大量のチョコ、何に使うのですか?」
「おはようモカさん。バレンタインだから、ちょっとしたサービスをしようと思ってね。ところでトリュフチョコ、作ってきたかい?」
「はい、勿論です!」
 あたしはチョコの入った袋を見せつける。すると唐津さんは目をぱちくりさせた。
「君……その一つだけ異様に大きい袋は何だい?」
「こ、これはまあ……。とにかく、ビターが来たら渡しますね!」

 今日もたくさんのお客さんが来店してくる。そのお客さん達に唐津さんはある飲み物を作りあたしに運ばせた。
「あれ、モカちゃん俺今日こんなもの頼んでないぜ。というより何だよこれ?」
「チョコを溶かして牛乳なんかを混ぜ合わせたチョコレートドリンクです。バレンタインサービスで、お金は取りませんよ」
「マジか! おお、上手いぞこれ!」
「あ、美味しそう! ねーモカちゃん、早く私にもちょうだい!」
「はーい! 少々お待ちください!」
 このチョコレートドリンク、大成功みたい! みんな喜んで飲んでくれたわ! でも本当にタダで提供して大丈夫なのかしら?

「そろそろ誰もいない頃合いと思ってきたわ。モカ、アタイのチョコはある?」
昨日とほぼ同じ時間にビターが店に入ってきた。
「あ、ビター! 勿論できてるわよ! あ、唐津さんもどうぞ!」
 あたしは袋を持ってきてビターと唐津さんに差し出す。2人はすぐに中を開ける。
「あら、美味しそうにできてるじゃない! ねぇ、今食べていい?」
「いいわよ! 自分では上手くできたつもりなんだけど……」
 とりわけ失敗した所は無いからあたしは大丈夫って思うけど、どうかしら? 不安の中2人は黙々と食べる。そして……。
「うん、美味しいよ。市販の物と同じか、それ以上だと思うよ」
「ちゃんと砂糖は使わないでくれたのね。苦みが効いてとっても美味しいわ」
「ほ、本当!? 良かった、ありがとう!」
 ちゃんと美味しくできていたみたい。実はあたし、味見を全くしていないの。だって2人に使ったチョコや材料の残りは全部……。
「あ、そうそう、エスプールの分は大丈夫かい?」
「うん、ちょっと待ってて」
 あたしはもうひとつの袋を持ってくる。あ、やっぱりビターも驚いてるわね。
「これ……中に入ってるの同じトリュフチョコでしょ? よく作ったわね……」
 その袋の大きさはビター達の物よりも大きい。中のチョコの大きさは……野球ボールよりも少し大きい位かしら? 
「まあ買ってきたチョコ全部使ったし、エスプール君大きいチョコ食べたいって言ってたし」
「彼、どんな反応をするか楽しみね……」

「よっしゃあああああ!! 今日はバレンタイン!! つー訳で愛しのマイハニー!! チョコの準備は出来てるよなー!?」
 だ、誰がマイハニーですって……? いつものように一撃与えようと思ったけど、そこは我慢した。それにしても今日のエスプール君、どうしたのかしら? まだビターもいるのに……。するとビターの存在に気付いた彼はいきなりビターを睨みつける。
「ってお、お前は!! 言っておくが俺の彼女に手を出したら許さねーからな!!」
「フン、別にアタイはアンタ達を邪魔するつもりはないよ。だけどモカが望むなら一線を……」
 あのー、あたしはどっちにも純潔を奪われるつもりは……。

 バタンっ!!
「おっとそこまでだ、そのザングースのカワイコちゃんは俺がお持ち帰りさせてもらうぜ!」
「あん?」
「あら、誰なの?」
 ヤナッキーとキノガッサが入店、いや明らかに乱入ね。……ちょっと待って、今あたしをお持ち帰るするって言わなかった? それにあのキノガッサ、どこかで……。
「俺の名はカプチーノ! おいハブネーク、貴様俺を忘れたとは言わせねーぞ!」
「いや、全然覚えねーな」
「…………」
「そして俺はクロード。部下のカプチーノと共に活動しているヤナッキーだぜ!」
 確か初詣の時連れて行かれそうになったキノガッサ……で合ってる? もしかして、今度は仲間を連れて改めてあたしを狙ってるの? ぜ、絶対嫌よ!
「フン、アンタらどう見ても草タイプだろ? 氷タイプのアタイに勝てるのかい?」
 まあ確かにビターは相性いいから、少なくとも負けはしないと思うけど……。クロードは「フン」と声を出してビターを鋭い目つきで見つめる。
「確かに今は相性は不利だがな。それより今日はザングースをさらいに来たわけじゃねえ。用があるのはハブネーク、貴様だっ!」
 クロードは視線をエスプール君に向ける。じゃあ最初の一言は何だったのよ……。
「俺に用かよ……。あーそうか、あの時キノガッサをボコボコにした恨みを晴らしに来たのか?」
 あれ、エスプール君覚えがないって言ってたんじゃなかったの? そんな事に誰も突っ込む様子が無いみたいだから、あたしも言わない事にした。
「ああ、俺が貴様を再起不能にしてやるぜ! この新開発した薬を使ってな!」
 クロードは謎の液体の入ったビンを懐から取り出す。な、何あの気色悪い色は……。
「つー訳で勝負だっ! 断るのは駄目だからな!」
「めんどくせーな……。さっさとぶっ倒して、モカちゃんが俺のために作ったバレンタインチョコを頂くとするか」
 エスプール君とクロードはお互いに睨み合う。ど、どうなっちゃうのかしら……。すると唐津さん、そんな雰囲気の中こう言ったの。
「とりあえず、店の中で戦闘は禁止だから。狭いし片づけとか面倒だから。店の裏にある空き地でやってくれないかな?」
「あ、すんません店主さん。よし、行くぜっ!!」
 素直に店を出た。……思ったより悪党じゃなさそうね。

 お店の裏にある、本当に何もない空き地。その中心でエスプール君とクロードの2匹が対峙する。あたしと両隣にいるビターとカプチーノは端っこでその様子を見ているの。
「ところでハブネーク、さっき『俺のために作ったバレンタインチョコ』って言ったな?」
「俺はエスプールだ。その通り、彼女であるモカちゃんが愛をこめて作った逸品だぜ」
 べ、別に愛なんてこめてないけど……。クロードは、それを聞いてこんな事を言い出した。
「よし、俺が勝ったらそのチョコは頂くぜ!」
「な、何だと!?」
「うるせえ! 俺はまだチョコ1つも貰ってねーんだよ! で、お前の方は、勝ったら誰にも邪魔されず食うことができる。どうだ、公平な条件だろ?」
 いや、全然公平じゃないわよ……。エスプール君、さすがに反論を、
「くっ……。やってやるぜ!」
「条件を飲んだな! それで行くぜ!」
 か、彼って馬鹿だったの……?
「さて、いよいよこの薬を使う時が来た」
 クロードはビンのふたを開ける。そして、一気に飲み干した! 
「一体何の薬なんだよ? 何も変わらないように見え……」
 エスプール君が言い終わりかけた時、クロードの体が急に光り出した。だ、だんだん強くなってきて、まぶしい!
「うおっ!? な、何だ!?」
 あたし達はみんな目をつむってる……はず。見えなくて確認できないけど。すると光の中から、クロードの声がした。
「元々、ヤナップ、バオップ、ヒヤップが同じポケモンだったという事を知っているか?」
「……聞いたことないけど*1
「とにかく、姿やタイプ以外、進化後もほとんど同じ! だから、この薬の効能で遺伝子を組み替える事により……!」
 光がだんだん弱まってきたみたい。目を開けると……え、まだ弱い光に包まれているあの影、ヤナッキーとは違う!? 光が完全に消え、姿を現したのは……。
「よっしゃあ! 実験成功! これで俺はタイプ弱点を気にしないで戦える、万能ポケモンになったぜっ!」
 あの赤い体、バオッキー!? あれは変身する薬だったの!?
「ク、クロードさん……っスよね?」
 あたしの隣で目を丸くしているカプチーノが尋ねる。彼も今起きた事を信じられなかったみたい。
「勿論だぜカプチーノ、バオッキーになることで毒タイプと互角に戦えるようになった! さあ、俺の力を見せてやるぜ!」
 クロードって意外にすごいのね。まあバオッキーになったところでエスプール君が弱点を突かれるわけじゃないんだけど。
「よっしゃあ! かかってこい! さっさと終わらせて、チョコを美味しく頂くからな!」
 バトルが始まった! どうなるんだろう……。

「まずはニトロチャージ食らいやがれ!」
 クロードが炎をまとって突進する! それをエスプール君はギリギリでかわす。すると彼の長いしっぽの先が水に包まれて……。
「アクアテール! 弱点技食らえ!」
「な、何だと!? そんな技覚えてたのかよ!?」
 技を外して隙のできたクロードに見事に命中! やったわ、大ダメージよ!
「くっ……ならこれでどうだ!」
 クロードはそう言ったと同時に地面に穴を掘り、地中に潜る。これって穴を掘る攻撃!? 
「毒タイプに地面技は効果抜群。食らうと痛いわね……」
 じっと見ていたビターはそう言いながらあたしの胸の場所に手を……って、
「こんな時にどこ触ってるのよこの変態がー!!」
 ビターを思いっきり殴って吹っ飛ばす。……ってああ! 吹っ飛んで行った先にはエスプール君が!
「あ、危ない!」
「ん? おわぁっ!」
 エスプール君、ギリギリのところで気付いて体をさっと横へ移動させる。これでぶつかりそうに済みそう……その時、彼が移動する前にいた地面から何かが飛び出した。
「おらぁ! どうだ……ってふ、不発だと!? そんな馬鹿な!」
 あ、クロードだったわ。で、そのまま飛んできたビターに衝突! あ、あれは痛そうね。
「な、何かよく分からねーが、とどめを決めるチャンスだな」
 クロードは再びアクアテールを、立ち上がろうとするクロードに決め込む。
「ぐわぁぁぁぁっ!!」
 クロードは気絶し、そのまま戦闘不能。別に苦戦することもなく、エスプール君勝っちゃったわね……。
「い、今の試合は無しだろ! モカがマニューラを吹っ飛ばしたのがいけないだろっ!」
 カプチーノがあたしの横で言う。確かにそうかもしれない、というよりそうよね。でも元凶はクロードのそばで倒れてるあの変態マニューラが……。あ、彼女が起きた。
「さ、作戦成功ね……」
 ビター、起きたらいきなりこんな事言った。作戦って、わざと吹っ飛ばされる作戦? 嘘臭いんだけど……。
「とにかく、俺が勝ったことに変わりはない! それに再戦しようにも今日は無理だろ?」
「くっ……」
 カプチーノはクロードの元へと行き、まだ気絶している彼を背負いあげる。あの体格でよくできるわね。
「今日の所はエスプールの勝ちって事にしてやる! だが、次はそうはいかないからな! 覚えてろよっ!」
 そう言ってカプチーノは急いでこの場から去っていった。彼らは完全にやられキャラのような気がするな……。

「マスター、勝利したぜ! カフェモカ頼む!」
 あたしたちはカフェへと戻ってきた。唐津さんはにっこりしてホットミルクを淹れる……あれ? カフェモカは?
「エスプール君、これからチョコを食べるんでしょ? だったらホットミルクの方がチョコに合うよ」
「あ、確かにそうだな! ありがとよ!」
 あ、そうそうチョコを渡さないと! あたしはしまっておいた袋を持ってきて、エスプール君に見せつける。
「うおお! でかい袋じゃねーか!」
「あなたが大きいチョコが食べたいって言ったからよ。それじゃあ……」
 エスプール君の顔を見る。彼の嬉しそうな表情……あ、あれ? ずっと見てると、む、胸がどきどきしてきたような……。
「ん? どうしたんだよモカちゃん、顔あけーぞ」
「べ、別に何でもないわよっ! とにかくはいっ! さっきのバトルの勝利おめでとう! あと……」
 向き合うあたしたち。な、何これ!? 恥ずかしくない!? ビター達が無言でニヤニヤしながら見てる! は、早く言って終わらせないと!

「この間は……や、薬草持ってきてくれて、あ、ありがとう!」
「あ、あれか? あーそういえばあったな、そんな事。いやー、あの時の死にかけてたお前面白かったなー。もしかしてその時のお礼含めてるのか? おいおい、それでこの大きさは無いだろ、命救ったんだし。せめてサッカーボールみたいにしてくれよ」

 …………。うん。雰囲気ぶち壊し。
「やっぱりあげないっ!」
「げっ! そ、それはねーだろ! 分かった、サッカーボールは言い過ぎた! だがバレーボール位なら」
 彼の言葉を無視して、袋を開けて大きなトリュフチョコを一口。あ、ちゃんとできてる。
「あああああああああっ!!」
「うん、ビター達が美味しいって言うの分かるわ!」
 チョコを必死で食べるあたしをエスプール君はしばらく見ていたけど、いきなり、
「こ、こうなったら意地でも食べてやるぜ! うおおっ、モカちゃんの口づけチョコ、貰ったぁ!」
 チョコを強奪しようと飛びかかるエスプール君。でももう遅い! あたしは急いで残りのチョコを口に入れ込む!
「ああああっ!! お、俺の貰うはずだったチョコが……全部……」
 あたしの目の前で落胆するエスプール君。その時、入り口のドアが開いて、お客さんが入ってきた。あ、そろそろ仕事に戻らないと!
「いらっしゃいませ!」
「モカさん、口にチョコついてるよ」
「あ、ごめんなさい! すぐ落とします! えっと、お席へどうぞ!」
 急いで食べたから口にチョコがたっぷり付いちゃった。唐津さんから受け取った布巾で拭いて……と。これでよし! さあ、仕事頑張るわよ!


 そうそう、やっぱりエスプール君がかわいそうだから、後日チョコ作って送ったの! え、どんなチョコで大きさはどれくらいか? それは……秘密よ!


to be contenued…(恐らく)


まだいきなりつまずいた1月編の改善が全然できていませんが、時期的に出す事に…。
有言実行ほど難しいものはありません…orz

このシリーズの世界観やキャラ設定をこちらに書いておきます。
なおカフェの元ネタは木曜午後5時30分から放送中のアニメからです。知らない方、すみません…。

指摘など遠慮なくどうぞ。

お名前:
  • >>03-21(木)00:21:35の名無しさん
    はい、その通りです。それが元ネタです。
    好きなのですがもうアニメ終了という事で残念です…。
    ――フィッチ 2013-03-21 (木) 19:45:42
  • ●ろく●カフェ………www
    ―― 2013-03-21 (木) 00:21:35
  • >>フォームさん
    コメントありがとうございます。まさか全員好みとは、予想もしなかった俺得でしょうね。
    ちなみにビターの百合は月を重ねるごとに重症化…するかもしれません。

    た、確かに店長だけでよく乗り切れましたね…はい、作者自身そこはいけませんでした。元ネタアニメを意識しすぎましたね。従業員、もう一匹加えることにしましょう。
    あと違和感を指摘してくださりありがとうございます。
    少なくとも4月編までは確実に持つ…はずです。楽しみにしてくださり嬉しいです。
    ――フィッチ 2013-02-14 (木) 15:12:18
  • モカちゃんツンデレすぎるw というか、登場ポケモンがみんな僕の好みという、何という俺得。バレンタインを題材にした作品でしたが、ほのぼのしていて面白かったですー。なにより百合百合サイコーでへへ(

    ただ、四年も続いていて繁盛しているカフェで、従業員がモカちゃん1人っていうのはちょっと極端すぎる気がしました。
    1月編でモカちゃんが寝込んでいますしその間は店長1人だったなんてことになってしまいます。そんな状態で、モカちゃんがいてもあれだけ忙しいんじゃやっていけないと思います……エスパーポケモンやツルのむちが使えるならともかく、人間だし……

    また、モカちゃん視点なので〔頭に一撃“決め込まれ”伸びているエスプール君。〕は違和感がありましたー。“エスプール君は頭に決めた一撃で伸びている。”などがいいかもしれません。

    1月編から続けて読ませてもらっています。今後もあれば、楽しみにさせてもらっちゃいますねー。
    ――フォーム ?2013-02-13 (水) 20:14:54

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*1 そんな説明が図鑑に書いてあったよな……と思って書いている途中、不安になり調べたら全然載っていませんでした。間違っていてもそういう事にしてください

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