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『強い』という意味

/『強い』という意味

writer is 双牙連刃
皆さん明けましておめでとうございます。新年一発目の作品でございます。
今年もまたぼちぼちと投下していきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします!



 ん、朝日か……窓が頭の先にあるから日差しがリビングで寝てた時より強く感じるぜ。
それにしても、やっぱり慣れってのは恐ろしいもんだよなぁ。太陽が顔出しただけで目が覚めるようになるんだから、なかなか健康的なもんだろ。
それと……一応離れてるとは言え、隣の気持ち良さそうな寝息を聞くのにもな。

「すぅ……すぅ……」
「5時か、まぁまだ起こすのにも早いわな」

 この(元)レンの部屋で寝るようになってから、ある程度緊張感を持って寝てるからな。必ずレンよりも早く起きるようにしてるんだ。
そうしないと……いや、思い出さないでおこう。あれはマジで心臓止まるかと思ったし動けないしで散々だったし。
あれのお陰でその日は朝から色々と散々だった。まぁ、家事仕切り役のレンが居ないとどうなるかは大体分かるだろ。朝食の献立や奴の弁当の中身を決めるのはレンだからな。
ここまで言えば何があったかは想像出来るだろ……あぁ、俺が寝てるのをいい事にレンがこっちのベッドに潜り込んできて、しかもそのまま二度寝を決めたんだ。
あれは本当に驚かされた。なんか妙な感じがすると思ったら目の前にレンの顔があるし、軽くパニックになったぞ。

「ん、んん……」
「っと、起きたか?」
「ふぁ……あ、ライトお早う」
「お早うさん」

 こうなってから二週間、そう、奴のテスト期間とやらからもう一週間経ってんだ。テストの結果? 危なかったってぼやいてたからなんとかなったんじゃねぇか?
最初こそレオも口喧しかったが、だんだんとそれも落ち着いた。どうしたのか聞いたら、毎朝見るレンが楽しそうなのを無理やり止めるのも偲びなく思うから、だとさ。そんなに変わった様子は無いがなぁ?
ま、他の奴も何も言わないし、しばらくはこのままだろう。

「ん~、はぁっ。今日も良い天気だね」
「そうだな。そういや天気予報でしばらくは晴天が続く~とか言ってたっけな」
「そうなんだ。あ、それならちょっと何処かにお出掛けしようかな。天気が良いのにお家に居るのって勿体無いし」
「おぉ、いいんじゃないか。……俺もたまにはあいつ等の様子でも見に行くとするか」
「それって、ジルさん達?」
「あぁ。たまに顔見せには行ってるが、最近からかってやってはいなかったからな」

 リィも会いたいって言ってる事だし、連れて行ってやるとするかな。グリやウェスも喜ぶぜ。

「私もゆっくりジルさんとお話してみたいなぁ……そうだ、お弁当持って皆で行こうか」
「そいつはいいや。あいつ等もがっつり飯にありつけるなら喜ぶだろうしな」
「うん。それじゃ、まずは朝ご飯だね。じゃ、行こうか」
「あいよ」

 今日はこんな感じで予定決定っと。皆、か。どういうメンバーになるかねぇ?
レンと一緒にリビングまで来ると、なーんて言っても誰も居ないんだがな。変わったのが、俺がソファーの上に居ないでレンの隣に居るって事ぐらいか。
ま、ここからは変わらん。俺はキッチンまで行ってレンの話相手、レンは飯作り開始ってな。
そうしてりゃいずれレオかリィ辺りが降りてくる。リィはまぁ最近だが、レオはもう大分朝の家事にも慣れたようだからな。
どうやら今日の朝はベーコンエッグにホットケーキらしい。ホットケーキの焼ける香りってのはなかなかに腹の空いてくる良い香りだ。

「む、この香りは……ホットケーキか」
「お、お目覚めかレオ」
「お早うレオ君。あ、でもごめん、今日は簡単なものにしたからお手伝いしてもらう事ないんだ……」
「そうか……それなら寝覚めのコーヒーでも淹れるか」
「なら俺とレンの分も淹れてくれよ」
「ま、ついでだからな」

 そう言ってから、お前もコーヒー飲むのか!? って驚かれたのには俺も驚いた。そういやレオの前で飲んだ事無かったっけな。
レンの朝食作りももう終わってるようだし、後は他の奴らが起きてくるのを待つだけだ。レンもソファーの方に来てゆっくりし始めたぜ。
そこにレオも淹れたコーヒーを持ってきた。……ブラックだな。

「あ、レオ君ありがとー」
「あぁ。ん? レンはブラックでは飲まなかったんだったか?」
「う、うん、ちょっと苦過ぎて……あ、ライトのもミルクとか入れてくるね」
「おう、頼むわ」
「なんだ、お前もか」
「ただ苦いだけよりいいじゃねぇかよ」
「まぁ、その辺りは好みの差だからな。だが、寝覚めに苦さで気を引き締めるのならブラックが効果的だぞ」
「生憎俺はゆるーくまったりしてたいんでね。しゃっきりしなくていいんだよ」

 ……こうして考えると、俺とレオって本当に正反対だよな。その、性質と言うかなんというか。
だが、嫌いじゃないぜこういう奴。何にでも一生懸命になれるってのは俺には無い感覚だからな。
俺は……誰と、何をしてても一歩引いたところから見ようとしちまう。根っからの卑怯者だよなぁ。

「はい、ライト」
「ん、サンキュ」
「……その分だと、特に問題は無さそうだな」
「ったく、まだ気にしてたのか? 俺がレンに何かする訳無いだろうに」
「しかしだな、いい年の牡と牝が一緒の部屋に寝泊りするとなると、やはりそういう懸念があるだろう」
「まぁ、分からんでは無いが、俺だってその辺の分別は弁えてるさね」
「お前の心配じゃない、俺はレンの方の事も気にしてるんだ。……薄々は分かっているんだろ」

 まぁ、な。好きでもない相手のベッドにいきなり潜り込んでそのまま添い寝を決め込む訳無いわな。
でも、俺は……それに答えてやる訳にはいかない。なんで俺のような存在が生まれたのか分からない内は……。
もし俺の消滅の光を含む力が遺伝子的な物なら、俺はその業を増やす訳にはいかない。この力を、他の誰かに背負わせる事もな。

「俺だって気ぃ付けるからよ、そこまで心配しなさんな」
「……本来なら、レンの気持ちを優先すべきなんだろうがな。この家の事も考えると、なかなか難しいものだ」
「なぁに、頭のお前がしっかりしてんだ。なんとかならぁな」
「ねぇ、ライトもレオ君もさっきからなんの話してるの?」
「ん? ちっと男同士の話ってな」
「まぁ、そんなところだ」

 不思議そうに首を傾げてはいるけど、どうやらレンには聞こえてなかったようだ。聞かれてたら……うん、軽く気不味い。
気不味いって言うか、色々不味い。そもそも俺は各方面に素っ気ない態度を取ってるんだから、そのスタンスが崩れるのも頂けない。
にしても意外だな、レオがレンの事をそんな風に気遣っていたとは。優しいところあるじゃないか。
そんな感じでのんびりしてても時間は過ぎる。良い感じに時間潰しも終わって、そろそろ全員が起きてくる頃だ。
辛気臭い事を考えるのはこれくらいにして、朝飯食ってリィにジルのところ行く事伝えてやらないとな。喜べばいいがね。



 さて、あいつも学校に行って今日の出掛けるメンバーが決まった。

「なるほど、ジル殿のところに行くのか。こちらから行くのは初だな」
「リィの友達も居るんだよねー?」
「うん、グリとウェスって言うんだ。楽しみだなぁ」
「……どうやら、行く気になってよかったみたいだな」
「だね。これ詰めたら終わりだよ」

 俺はキッチンでレンが弁当を詰め終わるのを眺めてる。行くのは俺達と、レオとプラス、そしてもちろんリィだ。
皆同意してくれたから話が早くて助かったぜ。あ、因みに奴について行ったメンバーには話してない。絶対にソウが後で恨めしそうな顔してこっち見てくるのが分かってた事だし。

「よし、出来た」
「オッケ、そんなら行くか」
「うん! 皆ー、出来たよー」
「そうか。……って、なにか多くないか?」
「ジルさん達の分もあるからね」

 弁当をレンに背に固定してもらって、運搬は俺がやる。おにぎりやらサンドイッチが詰まって結構重くなってるから、適任だろうよ。

「おっし、そんじゃあ行くか」
「そうだな。早く行けば、それだけゆっくりとする時間も増えるだろう」
「僕はエーフィになってから始めて会うし、ちょっとドキドキするな」
「でもリィってイーブイに戻れるよねー」
「いや、そうだけどね……」

 とかなんとか言いながら全員で家から出た。家の鍵はポーチを付けてるレンに任せよう。
で、一応レオなんかに野生のポケモンのテリトリーに入るって事がどういう事かを説明だ。ジル達なら問題無いが、他の奴のところに入るのは避けたい。

「なるほど、野生のポケモンだからと言って無為に争う必要は無い事だ。覚えておこう」
「でもトレーナーって野生のポケモンと自分のポケモン戦わせるよねー? それってどうなのー?」
「野良からしてみれば迷惑千万な話だぜ。こちとら侵入者を追い出す為に戦ってるんだからな」
「確かに……」
「ま、あんまりにも面倒なら身を隠してやり過ごすし、やたらめったら襲ってくるのはアホな奴だけだぜ」
「ならば、野生の実力者と戦う事は滅多に無いと言うことか?」
「よっぽどの事が無ければな」

 その辺を理解してる奴は下手なトレーナーなんかより遥かに強い。ちょっかい出せば、確実にトレーナーが畳まれて終わるだろ。
そんな実力者は格下の相手なんかして労力を使うのをバカバカしく思ってるもんだ。だから遭遇する事もめちゃくちゃ難しいだろうな。

「ライトのお話を聞いてると、世界って広いんだなぁって思うよね」
「まったくだ。やはり経験という面では歯が立たんか……」
「伊達に放浪者をやってた訳じゃないぜ? 寧ろ歯を立てられたらこっちの立つ瀬が無いっつの」
「やっぱりライトって凄いな。……僕も、ライトみたいに色々なところを旅すれば強くなれるかな」
「いや、飯の心配なりなんなりあるから止めておいた方がいいぞ? 10日くらい何も食えなかった時なんか、マジで死ぬかと思ったもんだぜ」
「10日!? そんなに何も食べなかった死んじゃうよー!?」

 あれはガチでやばかった……まぁ、リィを最初に見つけた時もかなりニアデスだったがな。
よし、とりあえず問題無く町から出る事は出来た。流石にこの状態でバトル吹っ掛けられると、戦えるのレオくらいしか居ないしなぁ、割ときつかったろ。
あ、でも俺がトレーナーの真似事をすればなんとかなったかもな。プラスは言う事聞くか分からんが、リィなら指示を出してやったら戦えた筈だ。……今度、奴相手に試してみるか。
レオ達は自分らだけで町から出るのが始めてだろうし、ちょこっと周りを警戒してるようだな。

「そんなに気ぃ締めて歩かなくても平気だぜ? 何かあれば俺が知らせてやるからよ」
「そ、そうか? むぅ、こうして主殿無しで町から出ると、妙な不安感に襲われるな……」
「トレーナー付きのポケモンなら仕方ないやね」
「ライトは分かるけど、なんでリィも落ち着いてるのー?」
「あ、僕はライトに結構連れて来てもらってるし、元々人間さんの居ないとこの方が落ち着いてたから」
「うーん、なんだかリィちゃん、だんだんライトに似てきてない?」
「え、そうかなぁ?」

 ……それ、前にフロストにも言われたんだよなぁ。話し方なんかも牝らしさが欠如してきてるように感じる……ってか知らない奴が聞いたり見たりしたら、リィはカッコイイ系の牡のエーフィにしか見えないだろうな。
俺の影響かねぇ? リィ自身が気にしてないみたいだし、俺はそれでも悪くないと思うんだが、フロスト的には不満なようだ。

「でも、ライトに似るんなら悪い事じゃないんじゃないかな。ほら、ライト強いし」
「いやリィ、それはいかがなものかと思うぞ? 適当の塊のようなこいつに似てしまうと、色々と問題がある」
「おいこらレオ、言うに事欠いて適当の塊とはなんだこの野郎」
「でもライトって基本的になんでも適当だよねー。ソウ兄ちゃんに特訓するのもやる気になった時にしかしないしー」
「確かに、ライトってその時の気分で動いてるのは確かだよね」
「レンまで!? 拗ねるぞーこの野郎ー」

 なんて笑い話をしながら、ジル達の居る林に入った。たまにはこういうのも悪くないよなー。
さて、いつものところに居ればいいんだが、気配でも探ってみるか。
……やれやれ、何を企んでやがるのかねぇ? こっちにわざわざ気配をばらしてんじゃねぇか。こっちに来いってか?
皆に一声掛けてそっちへ向かう。いつもよりちょい林の深いところに居るみたいだな。
で、そこに来てみたんだが……ありゃ、気配が消えた。代わりに、あのチビ助共の気配が後ろにある。なーるほど、ドッキリを仕掛けたって訳か。
それなら盛大に引っかかってやろう。もちろんレオとプラスが。
それではカウント入ります。3、2、1……GO!

「「わっ!」」
「ぬぅぉ!?」
「ひょわ!?」
「あ、グリとウェスだ。久しぶりー」
「あー、リィは驚かせられなかったかー」
「こんにちはーリィちゃん」
「で? 首謀者は出てこないのか?」
「まぁ、気配でこっちに誘導してたんだから分かってるだろうねぇ」

 ジルも顔を出して、レオ達の様子を見てニヤリと笑った。ドッキリ成功、ってか?

「にしても今日は大勢で来たねぇ?」
「ま、天気も良いし、軽くピクニックってとこかね」
「やれやれ、あんただって分かってなかったらこんな風に迎えないところだよ」
「飯も持ってきてんだ、ちっとは歓迎してくれよ」

 背負ってる弁当を見せると、軽くジルの尻尾が揺れた。飯にありつけるかは、野良では死活問題だからな。
おっと、腰抜かしてたレオも軽く咳払いして俺達のところに来た。

「お久しぶりです、ジル殿」
「あぁ。確か……レオ、だったね。会うのはあの時以来だねぇ、ふふふ……」
「ぬ!? あの時の俺は俺であって俺でなかったので、出来れば忘れて頂きたい」
「いいじゃないか。可愛かったよ、あの時のあんた」

 あ、こりゃ完全に手綱取られたな。弱み握られてるんだからしゃあねぇか。
どうやらチビ集団も挨拶し終わったみたいだ。おぉ、エーフィになったリィにグリ達が驚いてる。因みに、リィは気を効かせたのか分からんが、林に入る前にイーブイになってたのだよ。

「こんにちは、ジルさん」
「おやレンかい。久しぶりだね、またあんたの料理を食べれるのは嬉しいよ」
「あはは、多めに作ったから、たくさん食べてもらえれば嬉しいです」

 ま、挨拶はこんなもんで終わりでいいだろ。リィ達は早速遊び始めたようだし、俺達はまったりするかねぇ。

「にしても、チラッと見えたけどリィはどうしたんだい?」
「それがな、なんかイーブイとエーフィ、どっちの姿にもなれるようになったんだとさ」
「それも空間の神パルキアが一策講じたからだとリーフは言ってたな」
「なるほどねぇ……能力だけ言えば、あの子の力は相当なもんだね。……ライト、ちゃんと見ててやるんだよ?」
「分かってるって、言われるまでもねぇよ」

 保護者の視点って奴なのか、やっぱりジルにはこれからリィが苦労するであろう事が分かってるんだろうな。
もちろん俺だってそれは分かってる。異常な力ってのはどう足掻いてもそれを持つシワ寄せってのを送りつけてくるもんなんだよ。
真剣な顔をしたジルも、俺の変わらない様子を見て少し笑った。……今のリィの幸せ、それは……誰にも変えさせねぇさ。
不思議そうにこっちを見てたレン達に何でもないって言って、弁当を下ろしてもらった。固定するのに風呂敷を選んだのは正解だったな、敷けば汚れる事は無いだろ。
さーて、身も軽くなった事だし、俺も奴らを構ってやるとするか。

「そんじゃ、俺はチビ共の相手してくるわ」
「む、そうか?」
「グリ達も久々に思い切り遊べて喜ぶだろうさ。頼んだよ」
「あいよー」
「行ってらっしゃい、ライト」

 ってな訳でリィ達の方に来たが、なんかグリとプラスが競争を始めようとしてるみたいだ。

「よぉ、何を始めんだ?」
「あ、ライト。なんか、プラス兄ぃが足速いって事を言ったら、グリがどれくらいか試してやるって事になっちゃって……」
「それでこれから勝負するんだよ」
「へへん、負けないもんね」
「それはこっちのセリフだー」
「ほーん……それはいいが、ゴールは何処だよ?」

 ……何故全員でキョトンとするのか。まさか、何も考えてなかったのか?

「お、お前達なぁ……」
「うん、僕もうっかりしてたよ……」
「あ、それなら……ライトさん、ちょっと耳貸して」

 ん、ウェスには何か考えがあるみたいだな。どれ、乗ってやるか。
ふんふん……なるほど。まぁそれなら良さそうだな。

「分かった、適当に距離測って待ってるぜ」
「うん」
「ウェス、ライトに何頼んだの?」
「えっとね、ライトさんには目印になってもらおうと思って」

 ウェスの案は簡単さね。ゴールはウェスとリィの間って事にして、何処かで引き返してくればいいんじゃないかって事さ。
んで、俺はその引き返しポイントになるっつー訳。走る二匹を除けば、俺が黄色で一番目立つもんな。
説明はウェスに任せて、俺はこいつ等が見える程度のところまで移動する。見えないところまで行ったら、変に迷っちまうかもしれないからな。
……ん、こんなもんか。正確じゃないが、往復50メートル走ってところだろ。間に林の木もあるし、単純な速さだけじゃ勝負は分からないぜ。
説明が終わったのか、プラスとグリがリィ達の間に並んだ。さて、どっちの方が速いかね?
ウェスが片前足を上げて……振った! おっと、走り出しはプラスが優勢だな。まぁ、パチリスは足の速い種族だし、プラスは負けず嫌いだしな。
でもここは障害物がある。この林で暮らしてるグリは木の間を抜けるのに慣れてるからスイスイ走れるわな。プラスは結構走り難そうだ。
初速はプラス、速度維持はグリ、プラスが木に阻まれてる間にグリが進んで、それをプラスが追い抜くって感じになったぜ。さて、どっちが先に折り返すかな?

「よし、残り半分!」
「負けるもんかー!」
「おっとグリがリードか……ほれ、プラスも頑張れよ」

 なんにも言わずにカーブしてったな。……よし、これで俺の標識としての役目終わりっと。
うーん、流石に頑張ってるあいつ等の横を走り抜けるのも可哀想だよな。それなら、木の上でも進むか。
良さそうな枝を選んで……跳ぶ。そして更に枝から枝へ飛び移ってと。おぉ、デッドヒート状態だな。まぁその上を超えさせてもらってと。
ほい、リィ達の後方に着地っと。我ながら満点の着地だぜ。
リィ達は……気付いてないみたいだな。ま、プラス達に集中してたんなら気付かなくても分からんくもない。
おっ、もうゴール寸前だ。どうやら並んで……ん?

「あっ!」
「うわ!?」

 あーらら、どっちも慌てた所為か、足元の木の根に躓いてら。そのまま腹ばいに滑ってゴール。……ありゃ同着だな。

「う~……」
「いててて……」
「やれやれ、プラス兄ぃもグリも慌て過ぎだよ」
「だってぇ~」
「負けたくなかったんだもん! で、どっちの勝ち!?」
「同着だろ? なぁウェス」
「その通り。って、へ!?」

 ははっ、驚いてる驚いてる。ん? リィはそんなに驚いてないみたいだな。

「なんだ、リィは驚かなかったのか?」
「だってライトが上に跳んだの見えたもん。そのまま木の上跳んでくるのもね」
「えっ、木の上!?」
「嘘だ~」
「嘘じゃねぇよ。走ってるお前らにちっと気を遣ってやったんだよ」

 あっさり俺に抜かれてた事にグリもプラスもがっくりしてら。まだまだどっちもお子ちゃまよなぁ。

「ぐ~、こうなったらライトと勝負だぁ!」
「おっ、やるかチビ助!」
「日頃の恨み、僕も行くぞー!」
「ははん、いいぜ……まとめて相手してやる!」

 そんじゃ、飛びかかって来たこいつ等をからかってやるとするか。ウェスとリィは……横で笑って見てるだけみたいだな。
あっちはあっちで仲良さそうだし、今はこいつ等の相手に集中してやるとするか。



「んー、美味しい!」
「良かった。いっぱい食べていいからねグリ君」
「うん!」

 日も高くなって、時間的に昼飯を食うのに丁度良くなったから弁当を広げてる訳だ。
早速グリはレンから渡されたハムサンドに齧りついてる。良い食べっぷりだ、結構動いたから腹も減ってるだろうし。
他の面々も各々に食べたい物を選んで食べてるし、俺もおにぎりでも食うかね。

「でも、今日はあんた等が来てくれて丁度良かったよ。これから厄介な客も来る事になってたからね」
「……それが、いつもの場所より林の深い場所に居なきゃならなかった理由か?」
「気付いてたかい……それなら話は早いね」

 少し、愛おしげにグリとウェスの事を見ると、また俺の顔を見た。

「グリ達を、そっちで預かってほしいんだよ」
「何?」
「私は……最悪、ここを離れないとならなくなるかもしれないからね」
「……横から聞かせてもらったが、どういう事ですか、ジル殿」

 俺の隣で飯食ってたレオも気が付いたみたいだな。やっぱり気になるよな。

「二~三日前から、変な奴らに目を付けられちゃってね……最初はこの林に入ってきたから追い返そうと思って露払いしたんだけど……」
「変な奴ら? まさか、トレーナーか?」
「いいや、その正反対と言ってもいいね」

 ……やれやれそういうタイプの馬鹿の集団か。徒党を組めば人間にも勝てる、こそこそしなくてもいいって考える奴らがたまに居るんだよ。
そのタイプの奴らがここにも来たか。そういや、前にそんな奴等一つ潰した事もあったな……一人や二人倒せても意味無いってのによ……。

「んで、そいつ等に仲間になれって言われたんだろ?」
「察しがいいね。おまけに、断り続けたら「なら息子さん達に仲間になってもらう」なんてほざきやがったのさ」
「それはもう脅迫ではないですか」
「あぁ、その通り。だから、ここいらできっちりケリを付けようかと思ってね」

 なるほど、それに巻き込まないようにする為に俺達にグリとウェスを……それに、どうやら勝てるかは怪しいみたいだな。
確実に勝てるなら、預かってほしいって言った後にあんな事言わんからな。

「ジル殿、勝てる見込みはあるのですか?」
「無い事は無いさ。さっきも言った通り、一度は露払い出来てるからね」
「けど、確定ではないってところか?」
「……正直、ね。あいつ等も最初のは本丸じゃなかったようだし、数だけは居るみたいなんだよ」

 なのにやりあうか。俺ならそんな無茶も効くが、ジルはそうもいかねぇだろ。

「そんならジル、お前も来いよ。わざわざそんな馬鹿共に付き合ってやる事無いだろ」
「そうしたいところだけどね……ここを荒らされるのも癪じゃないか。したくもない苦労して、あの子達と一緒に暮らしてきたんだからさ」
「ジル殿……」

 ったく、ウインクなんかしても可愛いなんて言ってやらねぇぞ二児の母。
こいつも、大切なもんを守ろうとしてるってことか。大切な、思い出を……。

「……いけませんよ、ジル殿。子にとって、親と居られる時間は何よりも大切なものです。あの二匹には、ジル殿が必要です」
「レオ? ……ま、その意見には同意だ。それに、あんなやんちゃの面倒を毎日みせられるのも御免だぜ」
「あんた等……でも、他にどうする事も出来ないじゃないか」
「ライト、分かっているな」
「考える事は一緒か。ま、久々に暴れてやるとするかね」

 ジルにそいつ等はいつ頃来るのか聞いたら、夕方頃にまた来るって言って去っていったらしい。
どれだけの数で来るかは分からないが、準備をするには十分な時間はあるってことか。

「あんた等、どうするつもりなんだい?」
「なぁに、知り合ったダチが困ってんだ」
「助太刀しても、罰は当たらんな」
「……まったく、お人好しだねどっちも」
「へへっ、言いっこ無しだぜ」
「では、しっかり食って備えなければならんな」
「そうだね。……ありがとう」

 聞かないフリしてまた飯を食い始める。……レン達を巻き込む訳にはいかんし、戦るのは林の入口辺りだな。
グリ達もレンに懐いたようだし、任せておけば勝手に動き回る事は無いだろ。それよりも気になるのは……。

「レオ、さっきのあれはなんだったんだ?」
「あれとは?」
「子にとってってあれだよ」
「あぁ。親が居ない子と聞くと、どうも主殿を連想してしまってな。主殿のご両親も、方々を巡る方々ゆえにあまり主殿の傍に居られぬのだ。それに……」
「それに?」
「……いや、何でもない」

 ふむ……気になるが、言わない事を聞く事も無いだろ。寂しそうに笑う辺り、どうやらレオ自身の事みたいだな。
っと、どうやらチビ集団はあらかた食い終わったみたいだ。今度はレンも誘って遊ぼうとしてらぁ。
この分だと、そんなに心配しなくてもあっちは任せておけそうだ。なら、久々に暴れる事になりそうだし、軽く体でもほぐしておくとするか。



 ……日は傾いて、空は茜色に染まり始めた頃だ。
ジルは、林から少しだけ出た所に居る。その前からは、十数匹のポケモンが向かって来ていた。やれやれ、目立つ集団でご苦労な事だ。
俺の隣で気絶してる奴らもその一味なんだろう。ったく、不意打ちなんて企むとは器の小せぇ奴らだぜ。

「やぁ、ジル」
「ふんっ、何処の馬の骨だか知らない奴に馴れ馴れしく名を呼ばれたくなんか無いね」
「そうつれない事を言わないでくれないか? 今日からは仲間じゃないか」
「巫山戯た事言ってくれるじゃないか。あんた等の仲間になる気は無いって言った筈だよ?」
「そうか、残念だよ。なら君の子供達を先に仲間にさせてもらおう」
「……あの子達には一歩たりとも近付かせるつもりは無いよ。来るなら……噛み殺すだけさね」

 ヒュゥ、すっげぇ殺気だ。かなりの実力者だとは思ってたが、こりゃあレオクラスの強さかもしれねぇな。そりゃあ仲間に欲しいなんて言い出す奴が出てきてもおかしくないわ。
それでも群れの頭であろうウインディはにやりと笑う。ま、自信の原因は俺とレオとでもう潰してはいるんだが。
天を仰いで、一つ火炎放射を出した。どうやらあれが合図みたいだな。

「確かに君は強い。だが……これならどうかな?」

 余裕たっぷりにそんな事言ってるが、そんなクソ野郎はヘコませてやるとするか。
脇でノびてるサンドパンを掬い上げて、ジルの傍に落ちるように放り投げてやる。さて、どんな反応するかな?

「よし、や……ん!?」
「おや、どうしたんだい? このサンドパンが何をやるって?」
「な、どうした!? 他の奴らは何故出てこない!」
「下らんな、こんな策を労せねば交渉も満足に出来んとは」
「悪ぃがてめぇ等のお仲間はリタイアだ。誰も出てくるこたぁねぇよ」

 ゆっくりと林から出る。レオも同時に出て来たみたいだな。

「バクフーンのレオ。義により、友であるジル殿に加勢する」
「サンダースのライト。てめぇ等みたいな馬鹿に居心地の良い場所の一つを潰されたくないんでな、悪いが……てめぇ等、潰させてもらうぜ」
「と、言う事さ」
「仲間!? 馬鹿な、この辺りにサンダースとバクフーンなんて居ない筈……まさか!?」
「確かに、俺はそこの町で暮らす者だ。だが、ジル殿が友である事には変わらない。そこに、トレーナー付きだの野生だ等の隔ては無い」
「俺は放浪者さ。ま、ここんとこしばらくはこの辺に留まってるがな」

 ジルに仲間が居たのによっぽど動揺したのか、ウインディもその後ろの烏合の衆もたじろいだ。所詮寄せ集めって事だな。

「ふ、ふん、それでもたかが三匹だ。ジル、君は仲間になってもらうが……他の二匹は必要無い。この意味が分かるな?」
「あぁ。そんじゃおっかねぇから……」

 俺がそう言ったのにまたウインディがにやりと笑った。その顔、見てると腹立ってくるな。
後ろ脚に思いっきり力を込めて……蹴る。周りの風景が線を引くように伸びて、目の前に奴らが迫る。度肝抜いてやるぜ。

「先手必勝だ」

 手近に居たハリテヤマの顔面に前足の突きを突き立てる。おっほぉ、顔面凹んだんじゃねぇかと思うくらいめり込んで吹っ飛んでったぜ。

「は? な!?」
「相変わらず化物じみた加速だな」
「レオ、私らも始めようかね」
「おらぁ! 身構えないとどうなっても知らないぜぇ!」

 脚が地面に付いた瞬間にまた蹴る。まだ何が起こったのか分かっていないピジョットに狙いを定めて、飛び上がろうとしたところを打ち下ろしで叩き落とす。

「うげぁ!?」
「すっとろい!」
「ぐぅぅ!? そ、そのサンダースを倒せ! 早く!」
「ならばこちらは倒さなくていいのか? 燃え尽きるがいい!」

 俺の横に居た数匹が火炎の中に消えた。レオの火炎放射、場所の制限やらが無いと横に吹き出る火柱じゃねぇか。気合い入ってんなー。

「な、くそっ!」
「よそ見してると仲間がどんどん居なくなるよ、構わないのかい?」

 気付けば、ジルの居る辺りの奴らが自分の首元を押さえて倒れてる。噛み付くか噛み砕くを選んだかは……まぁ、倒れてる奴らがまだ生きてるところから想像は付くわな。
ウインディの方を向いてるジルに、一匹のオコリザルが殴りかかってる。が、直線的過ぎるぜ。
案の定その拳は避けられて、腕に噛み付かれる。そこから回転を加える辺りがまたえげつないよなぁ。

「ぎゃあぁぁぁ!」
「ば、馬鹿な……悪タイプが格闘タイプにこうもあっさりと……」
「これまでこの林を守ってきたんだ、あまり嘗めないでほしいねぇ」

 レオの炎が辺りを燃やし、俺が殴り倒してジルの牙が確実に急所を捉える。ま、こうなりゃ結果はもう見えてるわな。
30分もしないうちに、辺りは満身創痍で倒れるポケモンだらけになった。もちろん、俺達は血どころか擦り傷すらも無いぜ。

「さて、残るは……てめぇだけだぜ、大将」
「そんな、俺は夢でも見てるのか? 皆各地で名を馳せた者を集めたんだぞ!」
「真の実力者は、己の力をひけらかす事は無い。名を馳せた時点で、底が知れていたのであろう」
「そもそも、野良で実力のあるポケモンは別に人間に干渉する気は無いし、させるようなヘマはしないだろうねぇ」
「どう足掻いても、てめぇ等は三流以下なんだよ。それが調子に乗った報いって奴だ」

 なーんて言ってみるが、俺が言えた義理はねぇよなぁ。ま、俺はあいつに何かしてやってる訳じゃないからまぁいいか。

「さーて、こいつを畳んで二度とここに近づかないようにして終いにすっか」
「くぅ……この恨み、必ず晴らしてやるからな!」

 ま、そりゃ逃げるわな。でもそうは問屋も卸さねぇよ。

「愚かな……」
「ジル、乗れ」
「まぁ、きっちり止めは刺しておかないとね」

 レオが片足を軽く上げて、一気に地面に振り下ろす。俺はそれを確認して、ジルを乗せて走り出す。
奴が十分にスピードに乗る前に、その下の地面が火を噴いた。そう、レオの噴火だ。

「何!? ぐぁぁ!」
「ナイス! ジル!」
「任せたよ!」

 ジルが飛び降りたのを確認して、噴火に怯んだ馬鹿の前へ先回り。そのまま、奴の顎を渾身のアッパーでかち上げる!

「ぶべぁ!?」

 角度よーし。そのままジルがスタンバイする辺りに落とすのも成功。んでもって、仰向けに倒れた奴の首元に、ジルの牙が食い込む。

「ひぃっ……こ、殺さないで……」
「殺しゃしねぇよ。だが、まだここにちょっかい出そうとするなら、この場で……死ね」
「に、二度とここには近付かない! だから、だから殺さないでくれぇ!」

 ここは喋れないジルの代弁をさせてもらったぜ。ジルの言いたい事も、だいたいそんなとこだろ。
近付いてウインディの目を見ると、さっきの威勢は微塵も無くなって情けなく泣いてやがった。ガキかてめぇは。

「……じゃ、あばよ」
「そ、そんな! 嫌だ、嫌だぁぁぁぁ!」

 俺の喋ったのに合わせて、多分ジルが顎に力を入れたんだろ。叫んだ後に気ぃ失っちまった。
そこでジルも牙を外した。元々殺る気までは無いし、ここまで恐怖が染み込んだらもうここに近付く事なんか出来る訳無いわな。

「お見事ってところだね」
「そりゃどうも」
「あんな脅し文句をお前が言うとはな」
「俺だって気のいいヘラヘラした奴ってだけで世渡り出来た訳じゃねぇのよ」

 時にはこうやって脅迫紛いの事をしなきゃならん事もあるんだ。俺的には、ヘラヘラしてる方が楽だがな。
レオが来たついでに周りを見ると、どうやら集まってた奴らはウインディの最後を見て、散り散りになって瓦解したようだ。もう俺達に向かってこようとするこた無ぇだろ。

「まさか、これだけ簡単に済むとは思わなかったよ」
「なーに言ってんだ。これだけ質の良いところが集まったら、大抵の奴に負けるなんて事ある訳無いだろ」
「過信するつもりは無いが、この程度の輩に遅れを取っていては他の皆に笑われてしまうだろう」
「いやレオ、十分胸を張れる強さじゃないか。あんたとも良い線で戦えるんじゃないかい?」
「なっはっは、俺はもうレオに二回ほど勝ってんだよ。まだまだ追いつかれてはやらねぇよ」
「ふん、言っていろ。その内、その全身の毛を焦がしてみせるからな」

 ほほぅ、俺の守りの雷を超える火力か。そいつは楽しみだぜ。
町から多少離れてるとはいえ、これだけ派手に戦ったら誰かに見られたかもしれねぇ。俺達もさっさと林に戻るとするか。

「しかし……ジル殿の実力、野生のそれとは思えぬものでした。驚嘆させられましたよ」
「なぁに、私のは大したもんじゃないよ。ただ、どうしても強くなる必要があったってだけさ」
「あいつ等の為に、か?」

 林に入ってすぐの辺りまで他の奴らは来てたか。まぁ、帰る時間も考えたらそうなるわな。

「母さ~ん。何処行ってたの?」
「レオ君もライトも、気が付いたら居なくなってるんだもん。心配したよ」
「悪ぃ悪ぃ、ちょっと野暮用片付けてたんだよ」
「うむ、何も言わずに離れたのは済まなかったな」
「……あれ? なんだか……皆、別のポケモンの匂いが微かにしない?」

 うぉ、ウェスの奴結構鼻が効くじゃねぇか。まぁ、戦りあったらそりゃ多少移るだろうが、ちょっとくらいじゃ分からん筈なんだが。

「気の所為じゃないかい? ちょっと厄介な知り合いが来たから、それに相手させる為に付き合わせただけだからね」
「そうなの?」
「あぁ。話が長くてうんざりしたぜ。なぁ?」
「全くだ」

 これでとりあえずは誤魔化せたかな。……リィ以外には。
リィは、なんとなく何があったか分かったのか、俺の方をチラッと見た。ふぅ……後で何があったか話してやるか。

「まぁ、とりあえず何事も無く終わったから気にする事ないよ」
「はぁ……」
「さて、良い感じに夕方になっちまった事だし、そろそろ帰らねぇとやばいよな」
「うん……あ! 大変、晩御飯の事すっかり忘れてたよぉ!」
「ふむ、この日の感じだと……後一時間ほどなら時間はありそうだな。急ぎ帰ればなんとかなるだろう」

 ははっ、飯の事忘れるくらいだからレンも大分楽しんだって事かね? たまにはいいんじゃねぇかな。
空になった弁当箱を片付けて、また俺が背負う。後半はちっと予想外もあったが、まぁ楽しめたし良かったよな。

「あー、もう皆帰っちゃうんだ。つまんないなー」
「グリとはまだ勝負終わってないから、また来るから今度こそ決着だー!」
「なにー!? プラスになんか負けないもんね!」
「……あ、あの……リィもまた、来るよね?」
「ん? もちろん。僕だって友達とは遊びたいし」

 チビ集団も良い感じに打ち解けてるようだし、やっぱりここを守ったのは正解だよな。
レンがそわそわしてるし、ぼちぼち帰り足になるとするかね。あんまり待たせたら可哀想だ。

「……今日は本当に世話になったよ。感謝してる」
「気にすんな。どーせ俺達が勝手にやっただけだし」
「俺としては、野生の実力者の片鱗を見れたので、十二分に満足させてもらいましたよ」
「私なんかはそこそこでしかないよ。でもま、また今度ゆっくりしにおいで。今度は、あんな騒動無しでもてなすから」
「その時を楽しみにさせてもらいます」
「そんじゃ、またな」

 見送る三匹に一声掛けて、前に居た三匹に追いつく為にレオと一緒に歩き出す。

「……やはり、世の中というのは広いものだな」
「あぁ、ジル以上に強い奴なんてのも確かに居る。会える機会は無いだろうが」
「いや、それもあるが……ジル殿のあの子達を守ろうとする意志の強さ、あれは……純粋に凄かった」
「確かに、母親ってのの強さってのかね。あれはやっぱ凄ぇと思う」
「……少々、あのグリとウェスが羨ましく感じるものだ。立派な親の傍に居られるのだからな」

 それから、ぽつりぽつりとレオが話した事で、どうしてレオが親の大事さを力説したのかが分かった。
レオも……親を知らない奴だったんだ。最も、俺と境遇は違うが。
トレーナー同士ではよくある事さ、タマゴでのポケモン交換なんて。交換された後の子がどう思うかなんて無視して、な。
レオも、そうやって今のあいつの親父の元に来たんだと。だから、ポケモンの親は知らない訳だ。

「無論、俺を育ててくれた父上殿や母上殿を自分の親のように思ったこともある。が……」
「種族の壁は厚い、か」
「……やはり、一度は会ってみたかったよ。自分を産んでくれた者達に」
「ははっ……妙なところは似てたみたいだな、俺達」

 親、か……。知らない分、やっぱりジルみたいな親が居るあいつらは、羨ましいのかもしれん。

「強くなるならば、ジル殿のように……大切な者を愛しみ、守れるようになりたいものだ」
「違ぇねぇ。喧嘩やバトルが強いだけなら、今日戦りあった奴等となんも変わらねぇもんな」

 それにそういう強さを持てれば……消滅の力に負けるような事も無いかも、な。

「……あーあ。強くなりてぇなぁ!」
「あぁ、まだまだ……強く!」

 夕日を背負いながら俺達を待ってる三匹を見て、本当に……心の底からそう願った。きっと、レオもな……。



番外編も合わせて、新光もこれで早15作めと相成りました。終わりはどこだ。
今回はレオ&ジル回、と言ったところでしょうかね? ライトの変わっていく部分と、頑なに変わろうとしない部分を垣間見れたらよかったなぁ…といった感じでございます。
最近ちょっとリィが日陰気味なのが気になるところ、第二の主人公として目立たせねば! といっても、次の話も主人公はライトなんですが…。
まぁ後書きであまり語ってもしょうもなし。今回はこの程度と致しましょう。
では、次回作まで…ご機嫌よう。

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最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • ほのぼのとした作品に見せかけて実は乱闘とは... 野生のポケモンにも気をつけなければ(笑
    次の話も決まって来ているみたいですね 執筆頑張ってくださいませ
    ――ポケモン小説 ? 2013-01-06 (日) 21:48:46
  • キタァァァッッ!!
    待ってましたよっ、新光!
    やはり、双牙連刃さんの作品は素ん晴らすぃぃ!
    もう、大好きでっす!
    ライトとレンの行方も気になりますねぇ。
    執筆、これからも頑張ってください!
    応援してます!
    ―― 2013-01-06 (日) 22:10:28
  • バトルシーンがとてもかっこよく、流石と思いました。これからも頑張ってください。
    ――ハカセ ? 2013-01-06 (日) 23:06:43
  • >>朱雀フェニックスさん
    おや、お読み頂きありがとうございます。読みやすさに重点を置いてますからね、短い文でも伝わってくれたのなら何よりです。
    「さね」については方言と言うより奴等の癖ですね。特に何処のという事はありませんです。
    ほうほう、どっちかと言うと普段とはライトが違う反応をする組み合わせですね。なるほど、これからも出番はあるのでお楽しみ頂ければ幸いです。
    それとライトは…文章にはしてませんけど、大抵の事には気付いてますから、感は物凄く働きますよ。色々あって気付かない振りしてたり、あえて気付かないようにしてることもありますがね。
    朱雀フェニックスさんも今年から作者デビューされたようですし、お互いここを盛り上げられるように頑張りましょう!

    >>作者リストの中の誰かさん
    ギクッ、そ、そこに気付いてしまいましたか…サマバケ外伝は書いてるのですが、色々調べながら書いてるのでちょっと遅延気味で、先にこっちが出来てしまったのですorz
    レオとジルも然ることながら、ライトが居ると完璧にバランスブレイカーになりますからねぇ、ウインディには南無と言わざるを得ませんw
    ウインディについては…これから顔を出すにしても、件の三匹を見ただけで逃げ回るビビリキャラになってしまうのは目に見えてますし、そういうシチュエーションがあればまた出てくるかもしれませんね。完全に噛ませ犬やw
    質問板の質問は解決したようで何よりです。私ももうちょっとまともに答えられればよかったですね、失礼しました。

    >>優気さん
    まぁ、たまにはライト達を暴れさせようかと思ってあんな展開にしてみました。お楽しみ頂けたのなら何よりです。
    おっと、デビューですか! 楽しみですね、優気さんも体調に気をつけて頑張って下さいませ!

    >>ポケモン小説さん
    前半と後半で雰囲気をガラリと変えてみました! 作中の説明通り、危険なポケモンは滅多な事では会えないから平気ですよ、多分w
    ある程度形が固まってはいるので、またその内に投下出来ると思いますのでゆるりとお待ち頂ければ幸いです!

    >>01-06の名無しさん
    いやはや、お楽しみ頂けて何より。ありがとうございます!
    ライトとレンはどっちもかなりお互いを気にしてはいますけど、ライトの方に大きな壁がありますからね。これからも見てやって頂ければ幸いです!

    >>ハカセさん
    バトルシーン、かっこよかったでしょうか。ありがとうございます!
    でも、主人公側のメンバーが異様に強くて接戦を書けないって欠点もありますけどねぇ…まぁ、ライトを出さなければ割と接戦に出来るんですが…。
    ――双牙連刃 2013-01-07 (月) 21:56:36
  • 2日で一気読みしました!
    ガンバー、レン!(スミマセン。)
    イヤー、自然的展開で読みやすくて面白いです!
    ライト、君には命のリレーの権利があるよ、あぁ、私も新光に出演したいものデス。(´∇`)ツタエタイ。
    双さん、これからも頑張って下さい、私も諸事情がもしかしたら近々に終わるので、このサイトの小説作家&絵師に成れるように頑張ります!
    長文失礼しました、そして執筆頑張って下さいね、応援しています!・゜・(つД`)・゜・
    ――7名無し ? 2013-02-04 (月) 00:54:26
  • >>7名無しさん
    おっと、一気読みとは…ありがとうございます。レンは頑張ってますよー。頑張らないといけないのは寧ろ奴でしょうねw
    展開は自然、でしょうか? 自分でもちょっと無理やりかなーと思ってる時があったり無かったり…。
    あー…ライトがその権利を持っていると自覚出来る日が来るかは分かりませんね。自分の力がどういった物なのか分からない限り、そのリレーを繋ぐ事を拒否し続けるでしょう…。
    7名無しさんも作者を目指してらっしゃるようですね。しかも絵師もですか…そっちのスキルの無い私には羨ましい限り。ぜひデビュー出来るように頑張ってください、応援しております!
    ――双牙連刃 2013-02-05 (火) 19:08:17
  • 楽しく読ませていただきました。

    ライトとレンがくっついて、ますます楽しみになってきました。
    がんばってください。

    『人間に物申す!!
    お前ががんばって、レンに楽させてやれ!!』
    ――通りすがりの傍観者 ? 2013-03-04 (月) 11:35:27
  • 面白かったですよ~
    此処を見ている人全員楽しみにしていると思うから執筆頑張ってくださいね~。楽しみにしてますよ!
    ――ピカチュウ大好き人間 2013-05-01 (水) 15:21:00
  • >>通りすがりの傍観者さん
    ライトとレンの距離は近付きつつありますね。二匹のやり取りなんかもお楽しみ頂ければありがたいです。
    人間というか、ハヤトについてはこれから変わる…かもしれませんので、レンの負担は減るかもしれませんw どっちにしろ微々たるものでしょうがw

    >>ピカチュウ大好き人間さん
    お楽しみ頂いてる人が居る限り頑張っていくつもりでございます。お読み頂きありがとうございます!
    ――双牙連刃 2013-05-02 (木) 16:11:36
  • 改めてライト速えぇw何だか超!エキサイティンッ!に動き回る反応弾のようなしがない願い星様みたいですねw
    ――エーテル ? 2013-10-30 (水) 23:34:05
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Last-modified: 2013-01-06 (日) 00:00:00
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