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「はいけい」ではじまる長いお手紙

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警告官能要素&同性愛♂×♂要素あり

「はいけい」ではじまる長いお手紙 作:群々

目次


1 ポニの大きょう谷のみんなに対して、この手紙を書いた理由を説明して、許しをこうこと 


 はいけい、ポニの大きょう谷のみなさん。
 まず、おれは、立ぱなジャラランガになることができなかったこと、期待をかけてくれた長老方、兄上、姉上たちには、申し訳ない気持ちでいっぱいであること。目をかがやかせて、おれにあこがれてくれた弟たち、妹たちに合わせる顔がないことを、ざんげいたします。
 あまりにはずかしいので、今すぐのどをかっ切って死んでしまいたい気持ちではありますが、申し開きというわけではないのですが、おれの犯した取り返しのつかないあやまちというものを、洗いざらい告白しておかなければならないと決心して、こうして、長い手紙をしたためた次第です。ですから、おれのことをおろか者と決めつける前に、ぜ非ともご一読ください。文字のわからぬ仲間たちの前で、声に出してでも構いません。その後でしたら、おれをカプ・レヒレ様のいけにえにでもなんでもしてください。こんな見下げ果てた身ではありますが、それでもおれは勇もうな戦士たるジャラランガの血をつぐべきものでしたから、この身を引きさいて五臓六ぷをささげる覚ごもできています。
 ここにおいて、おれはいさぎよく、みなさんにありのままの姿を示そうと思うのです。我らのはじとののしられても、一向に構いません。ですが、せめてこれから語る出来事をかくし立てせず伝えた、その気がいだけはほめていただきたいと切に願うところなのです。
 おれが修行の旅に出るまでの経いは、みなさんもご存知でしょうし、わざわざここに語るまでもないと思われるでしょうが、おれといたしましては、先ほども申し上げました通り、全てをさらけ出すつもりでいます。ですがおれは頭があまりよくないので、やはりどうしても一から順を追って話し始めなければいけませんでした。おれはそこつ者ですから、器用にかいつまんでお話しすることができないのです。その点はどうかお許しいただきたいと思います。

2 ジャラコとして生を受け、さまざまな幸運にめぐまれたこと 


 おれはポニの大きょう谷で、母たるジャラランガたちが産んだ卵のうちの一つから生を受けましたが、生まれて間もなく、他のジャラコたちの例にもれず、一しょくたにまとめられて育てられることになりました。おれたちは、生まれたしゅん間から、親であるジャラランガへの強いあこがれを持っているものですが、もち論早くおれもジャラランガになりたいという気持ちでいっぱいでした。おれたちは来る日も来る日も、頭のうろこをぶつけ合って、切さたくましていました。うろこがわれれば、また一つ強くなれたと思って、それを自まんし合ったものでした。仲間との勝負に敗れたときには、心の底からくやし涙を流して、もっと強くなるんだとちかったものでした。
 おれはみるみるうちに強くなっていきました。体格も、他のジャラコたちよりも一回りほどは大きくて、長老方も目を見はってくれるほどでした。もしかしたら、「ぬし」になれるいつざいかもしれないなどとほめられもして、その時のおれは本当にうれしかったです。それにおれの仲間たちも、しっとするようなことはなく、心からおれの強さをたたえてくれたのがありがたかったです。むしろ、おれに続けとばかりにみんなの切さたくまにもみがきがかかっていき、訓練の士気は高まりました。
 そして、おれは他のみんなよりも早く、進化の時をむかえたのです。ある日の切さたくまの後、とつじょ、おれの体は光に包まれました。何が起きたのかわからないうちに、すべては終わっていました。おれはジャランゴになっていました。立って歩けるようになった体は細く引きしまってオスらしく、新しいうろこがうでやのどについていました。頭のうろこもますます大きく、こがね色にかがやいているようでした。まわりのみんなはみんなほれぼれとしておれのことを見ています。そして口ぐちにおめでとうと言ってくれるのでした。おれは興奮して、長老方のもとにかけこんで報告に行きました。するとだれもが口ぐちにおれのことをたたえてくれます。おれは本当にうれしくて、もっともっと修行をして強くなって、立派なジャラランガになりたいという思いを強くしました。
 そのうち、一しょに切さたくましてきた仲間たちもジャランゴに進化していきましたが、おれがみんなよりも一回りは大きく、しかも強じんな体つきをしているということが、一そうはっきりとわかりました。しかしそれでうぬぼれるようなことがあってはならない、だからこそむしろ、おれはだれよりもきびしく自分を律さなければならないと固く心にちかったのでした。
 そうして、自分に厳しくして、より過こくな修行にはげむ中で、おれはある方の目にとまることになったのです。そのジャラランガのことを、おれは尊敬をこめて、兄さんと呼んでいました。今でさえ、あの方への尊敬の念はちっとも変わっていません。こんな手紙なんかを書いた理由の一つに、なんといっても、どんな形であれ、兄さんに許しをこいたかった、というのがありました。もちろん、許してもらえないとは十分にわかっていますが、万が一でも許してもらえるのなら、おれ、兄さんのあのがっちりとした足にすがって、どんなことでもするつもりです。せめて、兄さんだけにはどうにか、直接お会いしたいと思っているのです。ころされるのなら、兄さんのあの強じんなつめで一思いに切りきざんでほしいとこがれています。
 そのころのことはおれの中でも一番の思い出なのです。日課の仲間たちとの修行にあき足らず、夜になるとおれは一ぴきでこっそりと「祭だん」に向かい、そこで秘密の特訓にはげんでいました。「祭だん」は大きょう谷の一番おくにあるので、そこに行くためには、ゴツゴツした岩をよじ登ったり、湖を泳いでわたったりしないといけないので、それだけでもすごくいい運動になるのでした。手前味そではありますが、みんなからほめられるようなおれの足こしは、こういうことできたえられていったのだと思います。
 「祭だん」にたどり着くと、おれはここまで来る間に温まった体のまま、さっそく秘密の訓練を始めました。そのころには、空は夜空になって、きれいなお月様がかがやいています。その光に照らされながら、おれは岩を相手に、うでのうろこをぶつけていました。集中し、神経をとぎすませて、的確で力強い一げきを当てるように意しきしながら、パンチを当て続けるのです。うまくこうげきが決まって、パンチをした岩にほんの少しひびが入ると、おれはとてもうれしくなり、パンチにもより気合が入りました。うろこがはがれれば、またがんじょうなうろこが生えてくるのが楽しみで仕方がありませんでした。すっかり、おれはこの一ぴきでの訓練に夢中になっていたのでした。
 そんなおれの努力を、こっそりと見守ってくれていたのが、兄さんでした。ある日、クタクタになって一休みしているおれのそばに兄さんが現れて、ポンと背中を叩いて、ねぎらいの言葉をかけてくれました。
「おつかれさん。がん張ってんな」
 おれは頭の中が真っ白になっていました。なぜなら、ふだん群れをひきいる立場のジャラランガたちは、おれたちの目の前にはめっ多に姿を見せることはなかったからでした。
「ジャランゴ一ぴきでここまで来るとは、結構なこったぜ」
 その時に手わたされた木の実は、なんてことはないオボンの実でしたが、声をかけていただいた思いがけないうれしさで、いつもの何十倍もおいしく感じられました。体のつかれもしゅん時に回復したように感じられて、次のしゅん間にはもうおれは特訓をしたくてたまらなくなりました。なにより、すぐそばにこんなにあこがれていたジャラランガがいるのですから、いてもたってもいられないに決まっています。
 おれは兄さんの足下にひざまずいて、早速手合わせをお願いしていました。手合わせなんてよくよく考えれば、身分不相応きわまりない申し出でしたが、兄さんはこころよくおれの相手を引き受けてくれたのです。
「よーしっ! じゃあ、試しにおまえの力、思いっきりぶつけてみろや」
 兄さんは、ふ段はじっくりとかがめている上体をゆっくりと持ち上げると、まるで宝石のようなうろこをまとった、太いうでをほこらしくおれに見せつけました。頭から両うで、それに体全体をおおううろこがぶつかり合って、ジャラジャラときれいな音を鳴らしました。おれはあらためて、そのかっこよさにドキっとしました。美しさと言ってもいいかもしれません。兄さんは大きょう谷のジャラランガたちの中でもとくに若々しく、精かんな体つきをしています。その勇もうさは、立ち上がることで、もっとよくわかりました。いつもはよく見えない胸からお腹まで、全体が筋肉のよろいをまとっているみたいに引きしまっていて、どれだけの厳しい修行をつめば、こんな体になるのだろうとくらくらするくらいでした。
 いどみかかるような目は、頭のうろこに少しかげって、ますますりりしくて、え物をにらみつけるときの目つきはいったいどれくらいのものなのだろう、と敵でもないのにおびえ上がってしまうくらいでした。とがった鼻先の傷、まるで岩でもかみくだいてしまいそうなあごに目がいくと、なおさらでした。
 おれは自分から言い出したくせに、あまりのきん張でまともに打げきに力を入れることができませんでした。兄さんのうろこはびくともしません。あんなに固いものは、おれは体験したことがありませんでした。むしろ、おれのめめしいこぶしの方がひびわれてこなごなにくだけ散ってしまいそうでした。それなのに、おれはその一げきで、体力を全て使い切ってしまって、足下からくずれ落ちてしまったのでした。
「おっと、あぶねえ」
 たおれかけたおれを、兄さんはとっさにだき上げました。それほど強い力ではないはずなのに、そのたくましいうでっぷしに、きつくだきしめられているようでした。ちょっと汗ばんだ体はとても温かくて、たくましい心臓のこ動とか、体内に脈打つ血の流れとか、そういった兄さんのすさまじい生命力が、おれの体にも伝わってくるかのようでした。
「気ぃつけろや。適度に休むのも修行のうちだぜー」
 おれはまだできると言い返そうとしましたが、なにか言う前に兄さんはおれのことを背中から持ち上げて、そのまま「祭だん」の長い階段を下りて行きました。なんだかはずかしい気持ちでしたが、おれはだまってされるがままにしていました。体が熱いのは、はずかしいのと、さっきまでいっぱい体を動かしていたからだろうとばく然と考えていました。兄さんのうでの中で、ゆりかごのようにゆられていると、お月様がよく見えました。一際きれいでした。
 それからというもの、毎日、みんなとの特訓が終わって、お月様がよくかがやき始めるころに、「祭だん」で一しょに秘密の特訓をするという約束を兄さんとしました。たとえどんなことがあったとしても、おれは一ぴきで「祭だん」まで通いました。兄さんは、いつもおれより早く、そこで待ち構えていました。そして、おれは兄さんのうでのうろこに向かって、今度こそはと力をこめてパンチをするのです。兄さんのうろこは、岩なんかよりはるかにかたくてがんじょうで、それでいてとてもきれいで美しくて、とてもおそれ多いのですが、こんなおれを相手にしてくれる方の好意を無だにしてはいけないと自分をふるい立たせて、おれはできる限りこん身の力をふりしぼって何度も立ち向かいました。そうすることで、おれは兄さんに恩義を返そうとしていたわけです。
「まあ、そこそこ、って言ったとこかな!」
 おれがくたくたになってその場にたおれこむと、兄さんは笑いながら、いつも決まってゆったりと背のびをするのですが、そうすると兄さんの姿は、ねそべったおれからすると、まるでポニ島からも見えるあのラナキラの山よりもはるかに高く感じられるのでした。たくましいうでから垂れる汗のしずくが、上わんから肩までぽっこりとふくらんだ筋肉のみぞをたどって、わきのくぼみへと流れていくのを、おれはぽうっとして見つめていました。なんてかっこいいんだろうと思いました。勇もうなジャラランガは流れる汗までかっこいいんだと感激しました。それと同時に、とても不安な気持ちにもさせられました。おれは兄さんみたいなジャラランガになれるのかどうか、自信が持てなくなってきていました。兄さんと秘密の特訓を続けていくうちに、その不安はどんどん大きくなっていくのでした。
 おれはある時、兄さんにたずねました。おれは立ぱなジャラランガになることができるでしょうか、と。正直に言って、そんな質問をすること自体、あまりオスらしくないと自分を責めていました。そんな弱い心なんて持っていては、過こくな修行なんてのりこえられるわけがありません。とはいえ、ほんの少しでも気休めになる言葉をもらえれば、がんばることができるかもしれないという期待もあったのです。
「おい、ちょっとよく見てみいや」
 兄さんは、おれの問いかけに答えないで、のっそりと立ち上がると、「祭だん」の周りの一きわ巨大な岩の前に立って、深く息を吸いました。そして、いきなり目の前の岩に向かってそのがっしりしたうでをふり上げたのです。けたたましいしょうげき音とともに、兄さんの一回りも二回りも、それ以上に大きな岩が粉ごなにくだけちってしまいました。近くで見守っていたおれも、そのしょうげきで少し後ろにふき飛ばされてしまいました。あまりのことに、全然言葉が出てきませんでした。
「なあ、すげぇだろ?」
 兄さんはおれの方をふり向いて、あごから生えたするどいきばを見せつけるように、にやりと笑いました。
「ジャラランガになれば、こういうこともできんだぜ。お前も、なってみたいだろ、な?」
 ああ、もう次のしゅん間には、おれは兄さんのそばにかけ寄って、熱いほうようを交わしていました。おれは声を出して泣いていました。おれの中でわだかまっていたなやみが、一気に消え去ったように思いました。なるか、なれないか、なんて大した問題なんかじゃなかったのです。信じる心こそが全てなんだ、兄さんのような勇かんで、かっこよくて、みんなを守れる力を持った、そんなジャラランガになりたいという思いだけで十分なんだということを、兄さんはうつろな言葉なんかじゃなくて、たった一回のアッパーカットだけで教えてくれたのでした。それだけではなく、感るいにむせぶおれに、兄さんはとっておきの技を伝授してくれました。
 みんなには秘密だぜ、と一言入れてから、兄さんは長いしっぽをピンと立てて、先たんのうろこを鳴らすようにゆらしはじめました。その音を合図に、兄さんはうでを高くかかげ、頭は低くたらした姿勢で、全身のうろこをふり鳴らします。その姿には、ききせまるものがあって、おれは思わず息を飲みました。気持ちが高まったしゅん間に、兄さんは片ひざをついて、いのりをささげるように両手をしっかりとかち合わせます。じゅ文のような言葉をつぶやきながら、深く呼吸をして、ゆっくりと立ち上がると、耳をつんざくようなかけ声と共に、大地をつかむように足を広げ、両うでは大きく広げて、どく特な構えのポーズをとりました。
 けたたましいおたけびをあげながら、激しくおどりはじめる兄さんの勇姿におれは圧とうされていました。宝石のようなうろこが音高く鳴るように、いかくするようなポーズをほこらしく見せつけて、へびのようなしっぽをしたたかにふりながら、兄さんは戦士の歌を歌っていました。それはおれたちが小さいころから口ずさんで親しんでいる、戦いに向かうジャラランガたちの歌で、敵に向かって自分たちの勇かんさやい大さをほこらしく歌い上げるものでしたが、兄さんの低く野太い声で歌われると、戦いの真っただ中にいるような気がして、ただただ見とれているばかりでした。しゃららん、しゃららんといううろこのこすれる音を立てて、兄さんは戦いのまいを続けました。血走った目つきをしてジャンプすると、砂けむりと一しょにしかと大地を足でふみ鳴らしながら着地し、両こぶしを強くぶつけ合いました。そして、ほえるようにいかくの身ぶりをかましたあとで、高くはね上がって、空中で全身を丸めるような姿勢をとったかと思うと、次のしゅん間、ためこんだ力を解き放つようにしこをピンと張りながら、けたたましいおたけびをあげました。そのしゅん間、おれにはその力の波動をはっきりと見ることができました。その力はすさまじくて、「祭だん」全体が地しんでも起きたかのようにゆれて、またしてもおれは後ろにふき飛ばされてしまいました。おれは地面にひっくり返って、すごいとかどうとか思う以前に、頭が真っ白になってしまっていました。
 兄さんは、ぼう然とするおれをだき起こしながら、無じゃ気な笑みをうかべました。今のおれの勇姿を見たかと言わんばかりの、さわやかな笑顔でした。
「これが『ブレイジングソウルビート』ってやつよ。すごかったろ?」
 おれは高熱にかかったかのように、ぼうっとしていました。兄さんの姿があんまりまぶしすぎて、かっこよすぎて、なにも言うどころか、なにも考えることさえできませんでした。その日のおれが、またもや赤ん坊のようにだっこされて帰ったのは言うまでもありません。おれはその晩ずうっと、頭が高熱にかかったみたいに、ぽうっとなんてしてしまいました。何度も何度も兄さんの「ブレイジングソウルビート」のリズムが頭によみがえってきて、その度おれは、まるで兄さんが目の前にいるかのようにさっ覚して、なんだか夢見ごこちでした。おれにだけ見せてくれたことに深く感動して、おれも早くあんなジャラランガになりたいと強く心にちかったものです。
 そのころのおれは、いきいきとした希望に満ちていました。兄さんと共に特訓する喜びで胸が一ぱいになって、なんの不安もありませんでした。おれの前とは光かがやいている、そんな感じがしていました。ですが、おれはざんげするのですが、それと同時に、おれはおかしてはならない過ちも犯すことになってしまったのでしたが、もっと不幸なことに、それに気づいたころには、おれはもう手おくれになっていたのです。あの時にもどることができるというなら、ああ、カプ・レヒレ様、おれはもうなんでもいたします。

3 旅立つまでのいきさつ、第一の過ちを犯しながら過ちに気づかなかったこと 


 兄さんのはげましに、なやみなんてふっ飛んだおれは、いっそう真けんに特訓にはげむようになっていきました。そして、ぐんぐんと力が付いていっているという自信に満ちあふれていきました。兄さんのうでのうろこにおれの力をぶつけるにつけて、おれのこぶしも力強さが増しているなという実感も出てきました。それに何より兄さんがおれをほめてくれる言葉の一言一言がうれしくってたまらなかったのです。
「ようし! そこそこうでのふりもよくなってきたぜ。まー、こんくらいなら、そろそろ一人で旅に出てもいいんじゃねえかな?」
 今度、長老にもお前が旅に出られるように言っといてやるよと受け合ってくれた時、おれは飛び上がりそうになりました。ああ、ずっと前から心にかけて来たことではありましたが、いざそれが現実になろうとすると、うれしいと同時に、身の引きしまる思いがしてきました。ジャラランガになるための修行の旅は、おれにとってだけではなく、おなじ群れで暮らしてきたみんなを代表するものですから、責任重大だな、と思いました。身のすくむ思いでした。
「ほれな、だったら」
 そう言うと兄さんは、目元を少しかげらせて、そのするどい点のようなひとみでおれをしかと見すえて、にんまりと笑いました。悪だくみをしているみたいな表情は、さながらおれをさそっているみたいで、ぞくぞくしてきました。
「前祝い、とすっか!」
 その時のおれの高ようした気持ちをなんて言い表せばいいのか、まったくわかりません。あの時間は、おれのそれほど長くない人生の中で、一番幸せなしゅん間だったと言っても言い過ぎではありません。だって、兄さんが、おれだけに特別に、あの「ブレイジングソウルビート」のおどりを授けてくれる、というのですから、おれの心はとてつもなくまい上がりました。まい上がらないわけがありませんでした。
「まずなー、しっぽをこう、ピンと、高く掲げて、な?……」
 兄さんが教えてくれるおどりの一挙一動を、おれはほうけながら聞いていました。言葉なんて全然、耳には入って来ていなくて、ただ必死に、兄さんのしなやかで力強い動きについていこうとしていました。おれのおどりは身ぶり手ぶりで、とてもぎこちないものだったし、とてもかたじけないなというじくじたる思いはありましたが、兄さんと一しょに戦士のまいをまっていることが、本当に信じられなくて、おれの心の中でたかぶるものをおさえることなんて、とう底できそうもありませんでした。
 夢のような時間は、どうしてこんなに過ぎてしまうのが速いんだろうって、おれは不思議でなりませんでした。カプ・レヒレ様、できるものなら、この時間を永遠に続けてくれたってかまわなかったのです。それでおれはとても幸せだったでしょうし、何よりこの先、くやんでもくやみきれない過ちを犯すことになった後からしたら、ああ、何て残こくな仕打ち。おれは一体どんなつみを生まれながらに犯したというのでしょうか。
「へへっ、ま、いつかのためにな! ようく覚えとけや」
 そう言って、兄さんはおれの額のうろこをがしがしとなでてくれました。とてもうれしくて、おれは顔が真っ赤になっていました。兄さんの手つきはあらっぽくて、全身のうろこがジャラジャラと鳴りました。その音はとてもきれいで、水のせせらぎというやつにそっくりで、耳がとても気持ち良くて、おれはくらくらしてたおれそうなのをなんとかこらえていました。いよいよジャラランガになるべき旅へ出るからには、こんなことでこしの力をぬかして、またしても兄さんのうでに運ばれるなんてヨワシみたいな真ねをしてはいけないと思ったのです。
「おっ、今日はぶったおれなかったな。上出来、上出来!」
 そんなおれの強がりすら見ぬいていたように、兄さんはにやりと笑いました。ああ、兄さんにはやっぱりかなわないなと思って、結局おれはこしをぬかしてしまいました。情けないながらも、うれしいのか、おれは泣き笑いなんてして、兄さんを思わず苦笑いさせたのでした。 
 まもなく、兄さんが長老方にうけ合って、おれが修行の旅に出ることが正式に決まりました。仲間たちはみんなそろっておれのもとに集まって、口々に応えんの言葉をかけてくれ、その日はごく自然に、厳しい修行も一たん忘れて、盛大にお祝いをすることになりました。ふ段は、厳しい長老方も大目に見てくれたので、おれは大勢の仲間たちに担がれながら、ポニの大きょう谷のあちこちをめぐっては、老にゃくなんにょからお祝いとかおいのりの言葉をかけてもらったのです。その日のおれは間ちがいなくラナキアの山よりも高いところに登った気持ちだったと思います。
 仲間たちにもまれながら、おれは片すみの方でじっと様子を見守っている兄さんに気が付きました。目が合うと兄さんはいつものように不敵な笑みをうかべながらうなずいて、「祭だん」の方へとのそのそと歩いていきました。後で、いつものとこへ来いや、と語っているのが、言葉を交えずともよくわかりました。
 お祝いは夜ふけまで続きました。おれはうれしかったけれど、「祭だん」で兄さんが待っていると思うと、気が気ではありませんでした。だからといって仲間たちの気持ちを無下にするなんてとんでもなくて、とてももどかしい思いで時間を過ごしていました。やっと、みんながね静まったときには、辺りは真っ暗になっていました。いつもならとっくにおれもねているころでしたが、やっぱり兄さんのことが気がかりだから、何もしていないのにつかれた体をふるい立たせて、大きょう谷の一番おくの「祭だん」へと向かいました。
 長い階段を上った先で、兄さんは待っていました。待っていたのです。でも、ああ! 今思えばそのしゅん間に、おれは全てを誤ったのです。でもカプ・レヒレ様、なんて無じゃ気にも、残こくなみわざをしたものでしょう、それが誤りだということに気がついたのは、だいぶ後になって、もはや手おくれになってしまってからだったというのは!
 さすがの兄さんでも待ちくたびれてしまったのか、「祭だん」の中心、何やらおれにはよくわからないもん様がえがかれているところで、兄さんはうたたねをしていたのです。もち論、兄さんはね姿さえも勇ましかったです。「祭だん」のど真ん中という場所ということもあって、まるで本当に生にえになるのではないかとさえ思い、背すじがぞっとするほど美しいと思いました。真の戦士というのは、堂々と死に立ち向かうものだとおれたちは教えられていましたが、深いね息を立てながら、胸を大きく上下させる兄さんの姿には、その言葉通りにすう高なものを感じたのです。
 ですが、おれは情けないことに、それとはちがうものに視線をうばわれてしまったのです。目をそらして、見なかったことにすることもできたはずですし、おそらくそうしなければならなかったのでしょう。ああ、ありのまま、かくし立てせずに伝えると初めにちかったはずなのに、遠まわしな言い回しをする、おく病なおれをしかってください。でも、その時いだいた感想というのは、先ほど兄さんのね姿をながめた時にいだいていたものと一しょなのでした。うそをつくな、おろかな言い訳をするやつだと笑ってくれてもかまわないのですが、それもまたおれは立ぱだ、かっこいいな、と素ぼくにも考えていたのでした。どうか、おれの率直な告白にめんじて信じてください。
 どぎまぎとしている、おれの気配を察したのか、兄さんは起きる素ぶりを見せました。その光景にあっ気にとられていたおれはかくれるひまもありませんでした。
「お……やっと来たか、って、おっと!」
 兄さんもそれに気づきましたが、ちっともあわてることもなく、そのすさまじいそれをしまってから、おれに同意を求めるようないたずらごころのある目線でおれを見やりました。
「へへっ。見ちまったか」
 兄さん、申し訳ありませんでした。あの時、おれはうそをついていました。いま来たばかりだと言ったけれど、本当は、それをしっかり見てしまったし、しかもまじまじと、長々と見て、しかも見とれてしまっていたのです。でも優しい兄さんのことだから、きっとわかっていてもだまっていてくれたんだと信じています。いや、信じているなんて所せん、方便だってことも承知しています。おれがそう思いたいだけだなんてことくらい、頭が悪いおれでもわかることですから!
 おくれて来たおれをとがめることもなく、そのね姿をだまってながめていたことをあやしんだりもせず、兄さんはいつものようにおれをむかえてくれました。今日は特別だな、と言って木の実でつくったさかずきも交わすことができました。初めて口にふくんだお酒は、ちょっと辛くて、ほんの少しすすっただけで、おでこが熱くなって、意識ももうろうとしてくるほどでした。これから旅に出るおれに向かって、兄さんはいろいろなお話をしてくれました。
 ポニ島を去ってから、メレメレ島の戦の遺せきを訪ねて、カプ・コケコ様にいのりをささげたこと、アーカラの島ではヴェラの火山に登って、ガラガラたちとともにおどったこと、ウラウラ島では修行の合間に、紅の花がさきほこる花園をながめながら昼ねをしたこと。なつかしみながら兄さんがしてくれる旅の思い出話を聞いていると、わくわくしてきて、行ったことはもち論、見たこともない場所への想像がふくらんで、お酒のよいも手伝って、もう自分がそこにいるかのようなさっ覚におちいってしまうほどでした。
「旅はいいぜえ。修行もいいけど、島巡りしてっと、おもしれえもんがいっぱい見れるからなっ!」
 ま、がん張れや、そしたらお前ももっと強くなって、立ぱなジャラランガになれるぜ、と兄さんはおれのひたいから生えたうろこを強くなでてくれました。お酒のせいですっかり陽気になっていた兄さんはいつまでもおれたちがなでられると一番うれしいところをさすっていました。あこがれの、兄さんのようなジャラランガになれると、兄さんからおすみつきをもらえたのが、とても心強くて、その重みのある声のひびきがいつまでも耳にこだましていました。おれの前とは有望だったのです。ただ、頭の片すみにさっきのあの映像がほんのちょっぴりこびりついてはなれないのが、なんだか気になりました。まるで、拳のうろこをしつこくさわられているようないやな感じでした。でも、考えの浅かったおれは、そんなものはすり傷みたいなもので、そのうちきれいさっぱりなくなるだろうとしか思っていませんでした。
 今からすれば、何度、この時のことを後かいしたことでしょう。ですが、皮肉なことに、その原因がなんなのかをわかるためには、おれにはあまりにも知識と経験が足りませんでした。広い世界に出なければ、何一つはじまることはありません。でもこれは、おれの弱さでもあるのです。これから旅にでるみなさんなら、たとえおれと同じような事態に直面したとしても、強じんな心でもって、打ち勝つことができるものだと信じます。くり返しますが、おれみたいな部族の風上にも置けないジャランゴのことが教訓となるように、おれはこうして長くて、まだまだ終わりそうもない手紙なんていうものをしたためているのです。
 ジャランゴが修行に旅立つ前に、やらなければならないことが残っていました。島巡りのために必要な遊泳の技術を身につけなければいけませんでした。おれのことを推せんしてくれた兄さんが、特別な訓練の指導者となってくれました。おれは一日中、大きょう谷の湖で泳ぎの練習をしました。兄さんも水につかって、水中での体の姿勢だとか、つかれにくい泳ぎ方を、手取り足取り教えてくれました。実際の島巡りでは、太陽が上って、てっぺんに達するまでの時間は泳ぎ続けなければならないというから、それはとても大変なことのように思いました。兄さんは優しくも厳しく、おれのことを指導しました。泳ぎ方がさまになってきたら、今度はひたすら泳ぎ続けました。一休みもせずに、湖のはしからはしまで泳ぎ、それができたらきょりを少しずつ増やして、なん往復もできるように特訓しました。体力をつけるために、いっ層体もきたえないといけませんでした。
 特訓は、兄さんがもう大じょう夫だと判断するまで続きましたが、おれはくじけることなく、のりきることができました。がん張れや、という兄さんの声が、おれにとってのお守りになっていました。そのご加護があれば、どんなことでものりきることができるんだと心弱くも思っていました。
 そうして、ついに、おれは意気よう々と、ポニの大きょう谷のみんなにしばらくの別れを告げて、出立しました。特に兄さんに必ず立ぱなジャラランガになって帰って来て、今度は一しょにさまになった「ブレイジングソウルビート」をおどりますとちかいました。
「おうし。約束してやる。ぜってえに、大きくなって帰って来いよ、な?」
 兄さんはやはり、おれにわるだくみをさそうようににやりと笑いました。別れ際に、兄さんと美しくかがやくうろこをまとった、太くたくましいうでを上げて、おれとハイタッチを交わしました。おれの心は高鳴り、必ずこの修行の旅ものりこえて見せるぞと、強く思いました。
 ああ! これが兄さんとも、ポニの大きょう谷のみんなとの本当の別れになってしまうなんて、この時のおれにはとても想像できませんでした。果たして想像なんてできたでしょうか?

4 旅の始まりのもろもろの出来事がつづられ、戦の遺せきで思いがけない出会いをしたことが語られる 


 大きょう谷のみんなに別れを告げて、ポニの大古道を後にしたおれは、いよいよポニ島からはなれる前に、一たんふもとにある海の民の村というところを訪ねました。そこは、本来修行の旅で行くのとは逆の方向でしたが、兄さんが旅に出る前に一度寄っておくといいぜと教えてくれたのでした。
「それに、ちょいと泳ぐにはちょうどいいからなあ」
 その海の民の村には、ホエルオーやハンテールやナマズンという種族を模した船がうかんでいました。おれはその種族の姿を見たことはありませんでしたが、特訓の合間に兄さんが、地面にその姿をつま先でえがいて教えてくれていたので、おれにはすぐどれがどれだかわかりました。ポケモンセンターと呼ばれるし設のそばのさん橋のはしっこから、遠くをながめると、それほど遠くない辺りにぼんやりと小さな島が見えたので、ぎらぎらとかがやく太陽の下、おれはそこを目指して泳ぎ始めました。
 大きょう谷の湖で毎日のように泳ぎ続けていたとはいっても、本当の海を泳いでわたるのは初めてだったので、飛びこんだときはどきどきしましたが、兄さんに教えられた通りに体をうかせて、つかれにくい立ち泳ぎの姿勢で、しん重に水をかいて前へ進みました。湖とはちがって、海には波があって、おれのことをもみくちゃにするので、なかなかうまく泳ぐことができないので大へんでした。でも、そのためにおれは兄さんと二人三きゃくでがん張ってきたのだし、兄さんもこれなら大じょう夫だと言ってくれたのだから、絶対大じょう夫だとおれ自身に言い聞かせながら泳ぎました。すると、おれはだいぶ自信がついてきて、それに体も少しずつ海に慣れてきたのか、ぐんぐんと泳ぎ進めることができるようになっていました。できるようになってくると、海を泳ぐのがとても楽しくなってたまらなくなりました。そんな気分で泳いだので、向こう側の島の岸辺にたどり着いてしまったときには、あっ気なくて、物足りない感じさえしてしまいました。でもとにかく、兄さんがいなくても、おれ一ぴきだけで海を泳ぐことができたのは、うれしかったです。
 でもそんなこと以上に、おれをおどろかせたのは、その島のあちこちに住んでいるきょ大なものでした。初め、それはとても長い樹のように見えましたが、おれの気配を察すると、みんな一様にもぞもぞと動き出したので、おれは思わずあっという声を出しました。しかし、それが兄さんが話していたナッシーだと気がつくのに、それほど時間はかかりませんでした。その長い長い幹というか首というか、そういうところのてっぺんについた三つの顔たちが、一せいにおれのことをじろりと見ました。どうも、こんにちは、とおれは言いました。すると、ナッシーたちもゆ快そうに笑いながら、ゆさゆさと体全体をゆらして応じてくれました。
 ようこそ、ナッシー・アイランドへ、とナッシーたちは言いました。ジャランゴがここへ来るのは久しぶりだなあ、とも感がい深そうに言いました。せっかく来たんだから、あまりお見せできるものはないけれど、ゆっくりしてらっしゃいとも言いました。おれは兄さんの話を思い出していました。あそこのナッシーたちはおうようで、好き心もおう盛だから、礼ぎ正しくふるまえば、みんな親切にむかえてくれるぞと話していました。確かに兄さんの言った通りで、ナッシーたちは見ず知らずのおれのことを手厚くもてなしてくれました。前に来たジャランゴと君はよく似ているね、とあるナッシーが言いました。それはおそらく修行に出ていたころの兄さんで、そんなことを言われるとうれしいと同時に、かたじけない気持ちにもなりました。その日は、夜おそくまでナッシー・アイランドはにぎやかでした。ナッシーたちは歌ったりおどったりしてくれましたが、その様子は見ているだけでもおもしろくて、あきることがありませんでした。うたげが終わると、おれは島にある小さなほら穴の中で眠りました。
 がん張りなさんや、というナッシーたちの激れいの言葉を背にしながら、翌朝、おれはナッシー・アイランドを後にして、再び海を泳いでポニ島へ戻りました。そして、今度は島を逆に横切るように歩いて、ポニのあらいそのおくにあるひ岸の遺せきを訪ねて、カプ・レヒレ様においのりをして、修行の旅の無事をき願するとともに、身のけがれも落としていただきました。しかし、カプ・レヒレ様、あの時おれは本当に真けんになっておいのりをしたのに、願いをかなえて下さらなかったことは、いやしいおれが言うのは身分不相応とは承知していますが、とても遺かんなのです。おれはあなたの石像の前で片ひざをついて、何度もおいのりしたのに、やはりおれは未熟者だったのでしょうか?……ああ、ごめんなさい、カプ・レヒレ様、おれは馬鹿でした。あなたに物言いなんてしようとするなんて!
 長いおいのりを終えたおれは、とにかくも、あらいそを出て、ポニの広野をぬけた先にある海岸にたどり着くと、はるか向こうに見えるメレメレ島を目指して海をわたり始めました。一度ナッシー・アイランドを往復して泳いでいたので、ちょっときょりがあるのは不安だったけれど、おれは今までと同じようにすればいいんだと思って泳ぎました。なんだかんだ言っても、泳いでいるうちに気分は楽になってきました。気持ちに余ゆうが出てくると、おれはあちこちに目をやりました。海の上をぷかぷかとメノクラゲやドククラゲがただよっていました。トレーナーという人たちが乗るサメハダーやラプラスがおれのそばをすうっと通り過ぎて行って、がん張れよとでも言うように目配せしました。時々は島と島と行き来する連らく船が海を走って、水面がぐらりとゆれました。何もかも、兄さんが話してくれたことそのままで、その景色をこのおれの目で見ることができて、ああ、俺は旅に出ているんだなという気持ちがますます高まっていきました。
 強い気持ちがあれば、どんなことだってこわくないし、のりこえられるのだと改めて思いました。最初は遠かったメレメレの島もすぐ近くにまでせまっていました。島で一番高い山であるテンカラットヒルがでかでかとしています。おれはますます興奮して、泳ぐ速度を速くしました。やがて、メレメレの海に入ると、次第に人やポケモンたちの数も増えてきて、にぎやかになってきました。その間をぬうように進んで、テンカラットヒルの山の岩はだに沿うように泳いでいくと、街から少し離れた静かな海岸があって、おれはそこに上がりました。
「ま、なんでも最初は不安だろうけどな。やってみれば、大したことないってわかるぜ。何事も経験は大事だから、な?」
 と、兄さんの言ったことは確かにそうなんだと思いました。街の外れの、暖かい南風が運んでくる潮の香りを胸いっぱいに吸いこみながら、初めてアローラの島わたりをやりきった喜びにおれはひたっていました。ひたいや首元、うでのうろこをなでながら、おれはおれによくやったぞと心の中でつぶやきました。ナッシー・アイランドと比べると、その何倍ものきょりをおれは泳ぎきったのですから、達成感はひとしおでした。でも、それと同時におれのことをほめたたえてくれるみんなはここにはいないのだと思うと、ほんのちょっぴりさみしい気持ちになりかけるのでした。おれは勢いよく首を横にふって、そんな弱々しい考えを捨てました。これもまた、立ぱなジャラランガになるために、みんなを守れる勇かんなジャラランガになるためにたえなければならないことなのだと改めて思ったのです。
 海岸のそばには、板でつぎはぎをしたあばらやがありました。家の裏側の窓ガラスをのぞくと、誰もいませんでしたが、中は意外ときれいでした。ゆかから天井まで伸びている大きな容器の中にラブカスとサニーゴがいました。他にもおれが知らないようないろんなものが中のあちこちにありました。大きょう谷にいたころも、時々は仲間たちと調子にのってふもとまで下りてくることがあって、ヒトの家をのぞいてみたことはありましたが、ポニ島の家とはまるでちがうふん囲気でした。本当におれは知らないところへ一ぴきでやってきたのだなあと思ったものです。その時のおれは、その家の主が、アローラで有名なヒトだということはもち論知らなかったので、そこまで注意ははらいませんでした。
 長く泳いだつかれがやわらいでくると、おれは立ち上がって、海岸からなだらかで自然ゆたかな道を歩いて行きました。一ぴきになってしまったおれに寄りそってくれるのは、やはり兄さんの暖かい言葉でした。メレメレ島に着いたらまず、神様のところにあいさつしてこいよ、と兄さんは言いました。その言葉をしっかりと守って、おれはカプ・コケコ様のいる遺せきを目指したのです。ツツケラの鳴く声やヤングースが草むらをかけ回る音が聞こえました。てっぺんに上ったばかりの太陽のさんさんとした光が、道にこもれびを作っていて、とてもおだやかでした。おれは仲間たちよよく歌った戦士の歌を口ずさみながら、足取りも軽やかでした。
 リリィタウンに着くと、そこの住人たちは笑顔でおれをむかえてくれました。これも兄さんの話し伝えてくれたことですが、アローラのヒトたちもおれたちと同じように大人になる前には島めぐりの旅をするそうです。だからふ段はポニ島でしか見かけないはずのジャランゴを見かけても、おどろいたりすることもせず、むしろかんげいしてくれると聞いていましたが、まさにその通りだったのです。おれが何も言わなくとも、町のヒトは、戦の遺せきの場所へ案内してくれました。遺せきへの道は、町のおくの、カプ・コケコ様にささげるお手製のとう技場のある広場にありました。うっそうとした森の中の、マハロと呼ばれるくねくねとした山道をひたすら上っていくと、深い谷があって、そこには長いつり橋がかけられていました。その先にカプ・コケコ様がまつられる戦の遺せきがあるというのですが、おれがいる側からは草木に囲まれてよく見えませんでした。
 谷はとても深く、つり橋は風にぐらぐらとゆれるので、おれは橋の入り口の前でついわたるのをちゅうちょしていると、とつ然誰かに強く背中をたたかれたので、おれは思わず大きなさけび声をあげそうになりました。
「ようっ、お前、島めぐりしてんだって?」
 ふり向くと、おれの後ろには一ぴきのルガルガンがねこ背の姿勢で立っていました。赤色と白色を織り交ぜた毛をまとって、おれと同じくらいの背丈をしています。背中から生えた雲のような毛が逆立って、まるで角のように頭から飛び出し、さらにわきにも伸びて、先っぽには岩のような黒いとっ起がありました。体はふさふさとした毛におおわれてはいましたが、特訓を積んだおれの目から見ても、きたえられていて、かなり強いふん囲気がただよっていると感じられました。おれはそのルガルガンに向かい合って、身がまえましたのですが、相手は立ち向かうどころか、かえってへらへらと笑ってみせるので、おれも力がぬけてしまいました。
「おいおい。カプ神の住んでるところでさわいじゃ、いけねーぜ」
 とさかのような毛をぽりぽりとかきながら、ルガルガンは大きなあくびをしました。
「こっちにジャランゴが来たって言うから、どんなやつか見にきてやったのさ。ふーん、なかなか骨のありそうなやつだな」
 見た目のい圧感とは裏腹に、ルガルガンの態度には友好的なものがありました。おれが何か返事をする前に、相手はおれのかたを組んで、なれなれしくほほをすりすりしてくるのでした。へきえきする間もなく、おれはどんどんルガルガンの調子に飲みこまれていきました。
「カプ・コケコ様んとこへお参りするならちょっとした決まりがあるのさ。せっかくだから、おれがお前に付き合ってやるけど、どうだ?」
 それと、とルガルガンは付け加えました。
「んで、お参り済んだら、広場でおれの相手するんだ、いいな」
 目をあやしく光らせながらルガルガンが言った言葉に、おれはうなずいていました。見知らぬ相手にいきなり声をかけられた戸まどいこそありましたが、戦士のはしくれとして、このルガルガンと手合わせをしてみたいという欲求はおさえきれませんでした。そのためにおれは修行の旅に出てきたのだし、おれの種族以外の相手と戦うのはもち論初めてのことだったからです。
「うし、じゃあおれについて来な。さっさとカプ・コケコ様にあいさつして来ようぜ」
 おれはルガルガンと長いつり橋をわたって、戦の遺せきに足をふみ入れました。同じカプの神様でも、ひ岸の遺せきとはまたおもむきがちがっていました。なんだかずっと誰かに見られているようで心臓がばくばくと鳴っていました。おくの石像がまつられた部屋に入ると、体がむずがゆくなるくらいで、おれはつい片うでのうろこをさすってしまいました。ルガルガンはなれたように、ずかずかと石像の前に進むと、ひざをついていのる姿勢をとり、だらしなく垂らしていた片手をおれの方に向けて、となりに来いと指示しました。
「カプ・コケコ様は戦いが好きだからな。こう、石像の前でいのるといいんだ。『おれたちの戦いをあなたにささげます』、ってな。そうすっと、大喜びしてくれるってわけさ」
 おれも言われた通りに片ひざをついて、目を閉じながら、カプ・コケコ様にそのようにおいのりをしました。すると、今まであちこちからじろじろとながめられているような気配がうそのように消えてしまったのです。
「な?」
 ルガルガンはさもゆ快だと言うようにへらへらと笑いました。
「カプ・コケコ様が広場に向かったようだぜ。待たせきゃいけねえから、おれたちも戻るとすっか!」

5 カプ・コケコ神にささげる戦いについて、同時に気がかりなことが密かに語られる 


 広場へ戻ると、もううわさを聞きつけたのか、町のヒトたちがとう技場に集まっていました。ここ、メレメレ島をつかさどるカプ・コケコ様へのおいのりは少し独特で、いのりをささげた後には、こうして必ずリリィタウンのとう技場で戦とうを行って、その様をお供えするというのでしたが、兄さんはそこまでおれに話しはしませんでした。ただ、行けばわかる、おもしれえから楽しみにしとけよ、とだけ言ってどうしても教えてくれなかったのですが、どうしてあえて兄さんがだまったのか、理由がよくわかりました。試合を見守るヒトたちのもり上がりと、やる気に満ちたルガルガンの表情を目にしただけで、おれの心は燃えさかりました。
 片方の段からとう技場に上がると、おれは両うでのうろこをかちん、とたたき鳴らします。ルガルガンはねこ背の体勢のまま、つめ先をくいくいと動かして、おれをちょう発しました。かん声があがりました。それを戦いの合図と見たおれは、ルガルガンに応じるように、しきりにうろこを鳴らしながら、飛びかかってこうげきします。自まんのつめで切りかかると、ルガルガンは少しもかわすことなく、おれのこうげきをそのまま受け止めました。その行動が意外で、おれは一しゅん動きを止めてしまったわずかなすきを見のがさずに、ルガルガンはにたりと笑うと、いきなりおれにむかって頭つきをくらわせてきました。おれはなんとかよけましたが、ルガルガンが頭をぶつけた所は、板が破れて大きな穴が開いていました。あのとさかのようなたてがみは岩のように固く、まともにぶつかったらひとたまりもないものだと思いました。
「ほら、びびってねえで、かかってきな!」
 そう言って、またルガルガンはちょうはつをしてきました。頭に血が上ったかのように、興奮した口ぶりでした。それならばと、おれは今度は高くとび上がって、素早く相手の後ろに回りこむと間ぱつ入れずに、こぶしの一げきをその背中に叩きこみました。それはうまく決まり、ルガルガンは思い切り前へふき飛びました。お手せいのとう技場の外に落ちて、わっという人びとのおどろきの声とともに、辺りには砂ぼこりがあがりましたが、すぐにルガルガンはとう技場の上へ戻って来ました。両うでで体についてほこりをはらって、こうげきをまともに受けたというのにむしろうれしそうな表情をしていました。
「へへへ、あらぶってきたぜ!」
 高笑いをするルガルガンはとても楽しそうに笑いながら、勢いよくおれに向かってとっ進してきました。おれがこしを低くしてこうげきを待ち受けていると、軽快に足でステップを踏みながら、ルガルガンはおれ目がけてとっ進してきます。しゅんびんな身のこなしで、またたく間にしゅん間移動してきたかと思うと、目にも止まらぬスピードでおれ目がけてパンチを続けざまに打ちこんできました。うでを前に交差させて、うろこで防ぎょしましたが、い力はすさまじくて、あっという間にうろこにはいくつもひびが入りました。あまりのこうげきにたえきれず、おれはとう技場のはしっこにまで押し出されてしまいました。うろこが傷付いたことで、おれもいっそう戦う気力がみなぎってきました。ルガルガンのこうげきのわずかなすきをなんとかついて、おれも負けないくらいのスピードで自まんのこぶしをぶつけると、素早く相手はとび上がって、おれからきょりをとりました。
 不敵な笑みをうかべて、ルガルガンは前かがみの姿勢になって、またしてもつめを立ててちょうはつの身ぶりをしていました。向こうが、わざとおれにこうげきをさせて、カウンターを仕かけようとしているのは明らかだったので、おれは少しずつきょりをつめながら、様子を見て、せめるタイミングを測っていました。
「そう、こなくっきゃな」
 おれとルガルガンはたがいににらみ合ったまま、たがいの様子をうかがっていました。戦いを見守っているヒトたちは誰もがだまって、かたずを飲んでおれたちをながめていました。静かでした。おれと相手のルガルガンの息だけがやたらと聞こえて、ひびいていました。心臓の高鳴る音が、おれの体をゆるがしていました。
「お前の力はわかったぜ、なら、さ」
 ルガルガンが言いました。
「こっからは、純すいに力勝負しようじゃねえか? 3・2・1って合図したら、同時になぐりかかる。もち論、カウンターすんのはなし。どうだ?」
 おれはこくりとうなずいていました。おれ自身の意志というよりは、本能みたいなものでした。ルガルガンも力のあるやつで、しかもいいやつだということを、おれはこぶしを通じて確信していましたから、断る理由なんて何一つとして、ありませんでした。
「なら、いくぜ! 3! 2! 1!」
 おれたちは相手に向かってとっ進していきました。その後のことは、なんだか頭がぼうっとしてよく覚えていません。気がついたら、おれはとう技場の側で横になっていたのです。目についたのは空にかがやくきらきらとした星たちでした。辺りはすっかり夜になっているのでした。あれだけたくさんいたヒトたちも、今はそれぞれの家に帰ったようでした。おれは起きあがろうとしましたが、自分でも思いがけないほどにつかれ切っていて、自力では起きれそうには思えませんでした。
「起きたか」
 とつ然、おれの顔をのぞきこんできたのは、ほんのりと赤く目を光らせたルガルガンの顔でした。頭からつき出したたてがみの先っぽが、おれの口先にふれていました。岩になっていたそこは確かに固く、こつこつとおれを叩いていました。
「おれの勝ち、だな」
 口元をつり上げながら、ルガルガンのやつは笑いました。でも、おれはまだ何が起こったのかわからなかったので、おいそれと負けを認めるわけにはいかないと思いました。おれはむっとして、口をぎゅっと閉じてだまっていました。
「じょう談、引き分け、だよ」
 苦笑いをしながら、ルガルガンはおれのすぐ側にこしを下ろして、垂れたうでを手持ち無さたそうにぷらぷらとゆらしながら、おれが気を失っている間のことを話してくれました。3、2、1の合図の後でこぶしをぶつけ合ったおれたちの勝負は、ご角に終わったということでした。それはあまりに一しゅんのことだったということです。なぜなら、おれたちが全力をぶつけ合ったそのしゅん間に、おれたちの戦いを見守っていたカプ・コケコ様が興奮して、間に割って入ってきたといいます。どうやら、自分自身も戦いに参加したいと感じたらしく、とう技場に乱入するやいなや、いきなり全力をふりしぼって電げきを放ってきたそうです。思いがけないことだったから、反応することができずに、まともにカプ・コケコ様のこうげきを受けたおれたちは、あえなく気を失ってしまった、ということでした。
 その上、おれは今の今まで気を失っていたのに加えて、カプ・コケコ様が姿を見せられたことすら覚えていないというのは不覚だと思い、おれはとてもはじ入る思いでした。カプ・レヒレ様もそうですが、カプ神がおれたちの前に姿を現されることはめっ多にないことですし、それはとても光栄なことなのですから、はずかしいのも当然でした。
「まあ安心しな、引き分けだって言っただろ? おれだって見てねえし」
 そう言いながらルガルガンはちょっといまいましそうにほおづえをつきました。
「カプ・コケコ様は気まぐれだからな。頭より体で考えるから、こういうとっぴょう子のないことをよくやるのさ。はた迷わくな話だが、神様のやることは、おれたちの理解をこえるから、仕方のねえことさ」
 そのカプ・コケコ様はどうしたのかとおれは尋ねました。おそらくは、満足して戦の遺せきに帰ったのだろうとルガルガンは言いました。
「とにかくな、お前も島巡りしてるんだったらようく覚えとけよ。旅のと中でカプ神が何か災難をもたらすことが一度や二度、あるかもしれねえ。でも、神様ってのはおれたちとはちがう。そこには、善意も悪意もねえのさ。だから、うらみっこは絶対になしだ」
 そう言うとルガルガンは立ち上がって、おれに向けて手を伸ばしました。おれはそのふさふさの手をとって、起き上がりました。立ち上がると、足に力が入らなくてたおれそうになりましたが、ルガルガンが受け止めて、肩を組んでくれました。
「ま、そういうのは一たん忘れようぜ。どっちにしろ、おいのりは成功したわけだ。よかっただろ? 今度はおれがお前の旅の無事をいのってやんだから、しっかりしろよ」
 おれはとう技場の近くにあった石像の側まで連れて行かれて、そこに背中をもたれかけました。ちょっと待っていろとルガルガンは言って、その場を離れたのでしばらくそこで休んでいると、ルガルガンがうでいっぱいに木の実をかかえて戻って来ました。さっきまでとはうってかわって、なんだか気まずそうな様子で、おれのそばに立ちつくしてだまりこんでいました。
「おう」
 言葉少なに、おれのわきであぐらをかいて、かかえた木の実を地面に転がし、その中から赤いクラボの実を一個しゃにむにつかみ取ると、一口かじりました。半分ほど残ったクラボの実を、とつ然ルガルガンはおれの目の前に差し出しました。おれがとまどっていると、一そう強くおれの口に木の実を押し付けるようにしてきました。
「コケコ様のこうげき受けて、体しびれてるだろ、食えよ」
 おれはだまって、ルガルガンから食べかけのクラボの実を受け取って、そのまま口にふくみました。あごに力を入れなくてもかめるくらいにはやわらかかったですが、そのやわらかさからは思いがけない辛さが口の中いっぱいに広がって、飛び上がりそうになるほどでしたが、おれのその姿を見て、ルガルガンは口元をゆるめ、なにかつぼにはまったみたいに、おなかをひくひくさせながら笑いました。
「そんなに一気食いしたら、そりゃ辛えわな。でも、まひした体にゃよく効く。ま、これでも飲めや」
 と言って、渡された木の実でできた器を受け取るや否や、おれは中身もよく確かめずに一気に飲み干したものだから、たっぷりと注がれた木の実酒だとルガルガンに教えられるころには、あっという間に、つかれた体によいが回って、おれは頭がくらくらになってしまいましたが、ルガルガンはまたしてもこらえるようにわらっていました。
「すげえだろ? アローラ相もうの勝者だけが飲める特別なお酒さ。しまキングからちょっと分けてもらったんだけど。お前の門出の祝いにゃちょっとし激が強過ぎたかな?」
 でも、おれの飲む分が無くなっちまったじゃねえか、とつぶやきながらルガルガンがお酒のおかわりをもらいにまた離れると、おれは生まれたばかりみたいに座らない首をゆらしながら、うつらうつらしてめまぐるしく過ぎた今日のことを考えていました。メレメレ島にたどり着いてからおれは、このリリィタウンにやって来て、戦の遺せきであのルガルガンと出会って、一しょにカプ・コケコ様においのりをして、とう技場で戦いをささげて、辛いクラボの実を食べて、さらにお酒を飲んでよって、くらくらとしている。たった一日であまりにもいろいろなことが起こったので、おれはなんだかもう一年も経ったかのようにさっ覚してしまうほどでした。それまでのおれの一日は、ポニの大きょう谷での修行に始まり修行で終わっていたのですから、それが同じ一日だというのはとても不思議なことでした。
「やれやれ、おれに負けずむこうみずな野ろうだぜ。ジャランゴってみんなそうなのか?」
 器に注がれたお酒をすすりながら、ルガルガンは戻って来ました。おれが飲んだお酒は相当効くのか、ルガルガンの足取りはふらふらとしていて、引きしまりながらもほっそりとした足を見ると、体を支えきれずにたおれてしまうのではないかとひやひやしました。
「イワンコだったころに見たジャランゴを思い出すぜ。そいつも、お前みたいにクラボの実を一気食いした勢いで、この酒を一気飲みしてぐでんぐでんによっぱらっていたもんさ」
 それを聞いたしゅん間、おれははっとして、一気に目がさえたような気がしました。兄さんはリリィタウンでのしきたりについて深くは教えてくれませんでしたが、それはおれへの気づかいだけではなくて、ちょっとおれに言いにくいはずかしいことがあったからでもあったのだとわかったのです。よいでおれの顔はぼんやりしていたと思いますが、その時はきっとにやりと、まるでルガルガンの浮かべるような不敵な笑みを浮かべていたにちがいありません。立ぱなジャラランガになってポニの大きょう谷に帰った日には、きっとそのことで兄さんをからかって困らせてやろうと思いました。
「ま、お前の修行に付き合えて楽しかったぜ。そういや自己しょうかいがまだだったよな。おれはふ段はテンカラットヒルに住んでて、ちょくちょく町の方まで木の実を取りに来てんだが、お前みたいにカプ・コケコ様においのりするやつを見かけたら、とう技場で相手してやることにしてんのさ。ってわけで、以後お見知りおきを、ってな?」
 ルガルガンはさっきと同じようにおれのとなりであぐらをかくと、たてがみの先たんの岩になって固い部分を、すりすりとおれのほほにこすりつけてきました。それがルガルガンの親愛の情の表現の仕方なのだとは、後になって知ったことでしたが、おれは他の誰かの体の一部とふれ合うのは初めてだったし、体が余計に熱くなった気がしました。たてがみだけじゃなくて、ルガルガンはすっかりおれに寄りかかっていたので、短いながらもふわふわとした毛の向こうのはだの温かさを感じて、よくわからない気分になりました。兄さんにひたいの大きなうろこをなでられた時とはまたちがうものでした。その時のおれにはそう言うことしかできませんでした。
 翌朝、つかれもよいもとれたおれは、リリィタウンを離れ、ルガルガンに連れられてテンカラットヒルへ行きました。ポニの大きょう谷を思わせる場所だったし、ルガルガンをはじめいい修行相手がたくさん暮らしていたので、しばらくはここをきょ点に修行をしていくことに決めたのでした。

6 メレメレ島での喜びの日々について、やがてあき足らずに新たな旅を決意すること 


 メレメレ島での修行の日々は、とてもじゅう実した日々でしたし、今思い返してもなつかしく、かけがえのないものに思われます。カプ・コケコ様のご加護のおかげか、おれはルガルガンという好敵手にもめぐまれましたし、ルガルガンをはじめとしたテンカラットヒルに住む奴らとの戦いもとても手応えのあるものでした。ポニの大きょう谷とは違って、多種多様の相手を前にして、おれは戦いのかんがみがかれつつあることを強く感じていました。もち論、それは決して楽なことではありませんでした。しかし、おれはやがて立ぱなジャラランガになって、ポニの大きょう谷のみんなを守る立場にならなければならないし、兄さんだって乗りこえて来た道なのですから、おれもがん張ってこの過こくな修行にはげまなければならないと自分を奮い立たせていました。
 おれの努力は、おれのひび割れたうろこが何よりもゆう弁に物語っていました。修行のための戦いのくり返しの中で、おれのうろこは何度もくだけては割れ、くだけては割れました。その度におれはおれが強くなったという確かな手応えを感じていたのです。精かんな兄さんの姿が何度も頭の中に浮かんでは消え、浮かんでは消えました。まだまだ至らないところがあるおれでも、少しずつではありますが、あの勇かんな兄さんに近づいているのだなと思うと、うれしいながらもまだはずかしいというのが正直な気持ちでした。体はたくましくなったとしても、心はまだまだ未熟なのですから、修行はこれからなのだなと、だからこれでうぬぼれてはいけないと思いました。
 ある日、ルガルガンがおれのねどこにしているほら穴にききとした表情でやってきました。いきなり激しくゆり起こされておれはちょっとね不足で正直機げんがよくありませんでしたが、どうしてもとルガルガンが言うから、仕方なく話を聞いたのでした。
「お前もここの暮らしにな染んできたころだろ? だったら、メレメレ島ってのも満きつしないと損だからさ。おれが案内してやろうと、思ってだな!」
 なんだかいつもよりもルガルガンの目がかがやいていたような気がするし、とても楽しそうな様子をしていたから、おれとしても無下に断るわけにはいきませんでした。ぼんやりとうなずくや否や、ルガルガンはおれの手を引っ張って、テンカラットヒルを出ていきました。おれは連れられるままに、ルガルガンに付いていくと、ポニ島から泳いでたどり着いた海岸を通って、以前向かったリリィの町ではない方へと向かいました。
 町へと上る坂道の手前で左に折れて、ポケモンセンターの前を通って、整備された道を道なりに進んでいくと、ヒトの建物もちらほらと増えてきて、ふん囲気もじょじょににぎやかになってきました。やがて、メレメレの中心であるハウオリタウンへとおれたちはたどり着いていました。明るい浜辺に沿った道路には、おれにはよくわからないいろいろなお店が立ち並んでいます。浜辺には、旅の最初の日に訪れたナッシー・アイランドのナッシーたちを思わせるような大きく高いヤシの木が植えられていて、たくさんのヒトが海水浴を楽しんでいます。波打ち際にはナマコブシが何びきかたたずんでいるのが見えました。キャモメの鳴く声があちこちから聞こえてきて、なんだか楽しげなふん囲気でしたが、ルガルガンはそれには目も暮れずに、ぐいぐいとおれの手のうろこをにぎって先へと進んで行ってしまいます。
 ルガルガンは何も言わないでおれを引っ張りながらも、なんだかそわそわして急いでいるような様子をしていました。ハウオリの街のことはあまりよく知らなかったものだから、どうすることもできず、時々、つまずいて転びそうになりながら、つき当たりを左に曲がってそのつき当たりをさらに左へ曲がり、そこからまっすぐに歩いて行きましたが、ある建物の前でとつ然立ち止まりました。オレンジ色の屋根の建物で、中には何人もヒトやポケモンの姿が見えました。そしてみんな同じものを食べているように見えました。ルガルガンはおれの方を見て、口元をゆるめてにやりと笑って、指の一本でその建物を指し示しました。
「おれに付いてきな。ま、ちょいと見とけって」
 おれはルガルガンに連れられるままに、建物の中に入りました。目の前には二人の同じ服装を着たヒトが並んで、おれたちをニコニコとした表情で見つめていました。どうやら何かのお店のようで、至るところから香ばしくていいにおいがただよっていました。店のヒトたちの視線がおれ一ぴきに注がれているような感じがして、おれは戦の遺せきでたぶんカプ・コケコ様にじろじろ見られていた時のことを思い出しました。体がむずがゆくて、片うでをもう一方のうでとわき腹の間にはさんでもじもじとしていると、横にいたルガルガンがおれのことを指差しながら、店のヒトたちに何かを伝えようとしていました。片手のつめがおれのこしをさっきから軽くつねっていて、少し痛かったのでしたが、それでも店のヒトたちは何かを察したのか、ルガルガンとおれを交ごに見やりながらニコリと笑って、手際よくとう明なケースの中にある、食べもののようなものを二つ取り出して、おれたちに手渡したのでした。
 手渡されたものは、こんがりとした色をして、香ばしいにおいがしていました。初めて見てさわるものでしたが、においをかいだとたんもうおいしそうで、ポニの大きょう谷にいたころも、テンカラットヒルで修行にはげんでいる時だって、木の実以外のものを食べたことはなかったし、その日はもち論まだ何も食べていなかったので、お腹がぐうと鳴りました。その時はなんと言えばいいのかわかりませんでしたが、しゃにむにこれに食いつきたいという気持ちでいっぱいになっていたのでした。
「へへっ、しめしめ」
 しかし、ルガルガンの方がおれよりもはるかに食べたそうにしていたので、おれは笑いそうになりました。それを受け取った時から、もうほほはゆるんでいて、口元から少しだけよだれが垂れているのが見えました。まるで自分がそれを食べたくてわざわざここへやってきたかのようなふるまいでした。
「マラサダっていうもんだ。へっ、食うのも見るのも初めてって顔だな? ま、ポニ島にはもともと店がないし、お前ずっと山のおくでこもって暮らしてたからな。島巡りをするんだったらマラサダの味を知らなきゃ損さ。しかも、これたまにしか売らないマボサダだぜ」
 ルガルガンが言うことによれば、アローラのヒトたちは、おれたちジャランゴが立ぱなジャラランガになるために島巡りをするという習慣があるということを知っていて、それはちょうど島の子どもたちが通過ぎ礼として4つの島を巡って、様々な試練を乗りこえていくのに似ているから、そういうジャランゴのことは親切にしてくれるんだという話でした。先ほどルガルガンが身ぶり手ぶりで店のヒトに伝えたのは、そのことであったらしいのです。
「困ったときのために覚えとくといいぜ。利用できるもんはなんでもかしこく使いこなすのがコツだってな。やってみると案外、ちょろいもんだ。島巡りをするやつなら、ずるがしこいことの一つや二つするもんだ、今みたいな感じで、な!」
 そしておれの背中を強く叩き、手のひらのぷにぷにとした肉球を口元に押し当てながら、ルガルガンはお腹をふるわせながら笑いました。
「ご協力感謝するぜえ、ジャランゴくん!」
 おれたちは、ハウオリタウンの波止場というところへ移動し、そのはしっこにこしを下ろして、行き来する船をながめながらマラサダを食べました。初めて口にしたマラサダですが、それはなんとも不思議な食べものでした。その香りは熟れたウタンの実の香りともちょっとちがうもので、甘さの中に混じったこげたにおいは、火を通したシュカの実の香ばしさとも少しちがっていました。一口かじった感しょくはサクサクとして、固いのでもなくやわらかいと言うのでもなく、カムラの実とソクノの実をかじった感しょくにほんの一しゅん似ているような気がしました。そしてその味はとても甘くておれたちがよくポニの原野で集めてきた木の実のいずれともちがっていました。おれの経験の浅さからくる言葉足らずな説明をみなさんご容しゃください。しかし、このマラサダという食べものは今まで見たこともかいだことも食べたこともないものですし、そういうものに対してはおれが知っていることのはん囲でしか表現することができないのです。とにかく、できるものならみんなのところへ持っていってぜ非食べさせてあげたいし、これから旅に出るであろうみんなには、絶対に食べてほしいものだということは伝えておきます。
 おれはハウオリからながめるきれいな海の景色も、波の音も、海の上をすべっていく船も、キャモメの鳴き声も、暖かい風も、となりのルガルガンのことさえみんな忘れてしまうくらいに、夢中になってマラサダ、ルガルガンが言うにはマボサダを食べていました。最後の一口を食べて、手元に何も無くなった時になって、おれはあまりのことにはっとしました。あの「祭だん」で初めて兄さんが声をかけてくれた時にくれたオボンの実を思い出しました。兄さんはマラサダの話はしませんでしたが、果たして兄さんも食べたのでしょうか。やはり、それも旅のお楽しみのためにという心づかいでふせておいてくれたものでしょうか。いずれにせよ、そんなことはもはや無いとはわかりすぎるほどにわかっていますが、もしおれがポニの大きょう谷へ帰ることが許されたなら、おれはみんなとマラサダを食べたいし、何より兄さんとこの味を分かち合いたいと強く願っていますし、この真しな気持ちは決してうそなんかではないのです。
 おれのとなりでルガルガンはにやにやしながらおれの食う姿を見ていましたが、おれが感激のあまりに相手の手を強くにぎって感謝を伝えるものだから、びっくりしてのけ反り返っていました。
「おいおい、うまかったのはわかるけどよ。これじゃ、なんだか、告白されてるみたいじゃねえかよ」
 照れくさそうにルガルガンが言うので、おれも照れくさくなりました。みょうにたがいに顔が赤くなっていたようで、なんだかおかしくて、おれたちは笑いました。お返しとでも言わんばかりに、ルガルガンのやつがふさふさの毛におおわれたうでをおれのこしに回して、ぎゅうとだき寄せてきて、以前とう技場で戦った後にしたように、すりすりとたてがみの固いところをすりすりとしてきました。前はただどぎまぎするばかりでしたが、マラサダを食べた後だと、相手の心からの気持ちがよりわかった気がしたので、おれはだまってそれを受け入れていました。ポニのみんなと別れることはさみしいし辛いことではあったけれど、その代わりに新しい出会いもあって、おれはすごく自分が豊かになっていると、そんなことを考えさせられた出来事でした。
 ルガルガンの奴とはそれからいっそう、テンカラットヒルで切さたくまする間がらになり、おれのメレメレ島での修行はますますじゅう実したものになっていきました。ポニ島から遠く離れていても、決して故郷のことを忘れたことはなかったですし、頭の片すみにはずっとかっこいい兄さんの姿がありました。あこがれのあなたに少しでも追いつくために、おれはいっそう自分の肉体をたんれんすることにはげみました。試行さく誤しながら、おれ自身のうでや足の力を発揮できるような体にするために、努力をしました。自分に厳しくなればなるほど、修行は過こくになりましたが、これしきでみんなや兄さんを裏切るようなことはしてはならないと、ちかって言いますが、おれは自分自身を限界まで追い込むように取り組んでいました。すっかり友だちと言ってもよくなったルガルガンとはそれからも、時々はテンカラットヒルからハウオリの街へ行って、マラサダを食べたり、浜辺でナマコブシを投げて遊んだりしました。
 おれのうろこは何度もはげては、また新しく、強く、美しいものへと生え変わっていきましたが、修行を積むうち、そのペースはにぶくなっていき、やがて、テンカラットヒルの修行ではちょっと物足りないと感じるようにもなりました。ルガルガンは相変わらず強かったけれど、それでももっと他の場所を巡って、強い奴らをどんどん相手にしたい、さらなる強さのためにおれはまだまだ打ちのめされねばならないと思いましたし、ポニを去った時のような身を切るような辛さにたえることも立ぱな戦士たるジャラランガには必要なことだと理解してもいたので、そろそろまた旅立つ時なのだとおれは決意したのでした。
 そのことをルガルガンに伝えると、いつもいかつい表情が一しゅんさみしそうになりましたが、すぐ気を取り直してルガルガンは、おれの背中を押してくれました。おたがいに戦えたり遊んだりできたのは楽しかったし、ここからいなくなってしまうのは正直さみしいという気持ちは同じでした。だからこそ、おれたちは一たんは別れるけれども、また強くなった時に再会して、その時にはもう一回、カプ・コケコ様の前で戦おうと約束を交わしたのでした。
「旅のせん別ってわけじゃあないが、立ぱなジャラランガになるだろうお前にいいこと教えてやるよ」
 と、去り際に、ルガルガンはおれの耳元にささやきました。
「テンカラットヒルを出て、リリィの町のわきの小道を上って、海沿いに進んでいくと、メレメレ島の花園ってところがあってな。いっぱい花がさいててきれいなところなんだがな、時々あそこに見たこともねえ、とんでもなく強いやつが現れるってうわさなのさ。生にく、おれは見たことがねえし、本当かどうかは知らねえんだけど。まあ、別の島行く前にちょっと試しに行ってみたらどうだ?」

7 メレメレの花園での思いがけない出来事、そして気まぐれは災いのもとであるという教訓を得たこと 


 ですから、おれは楽しかったメレメレ島を後にする前に、その花園へ行くことにしたのでした。そこは黄色い花がさき乱れていて、アブリーやオドリドリが至る所を飛び交っていて、楽しげでした。おれは思わずこしを下ろして、その美しい景色に見とれていました。おれのことがめずらしかったのか、何びきかのアブリーやオドリドリがおれのそばにやってきて、ずっとおれのことをじっと見ているのも、なんだか面白いことでした。しかし、それ以外にはこれといって変わったこともありませんでしたから、おれはそろそろ、日がかたむかないうちに次の島へと泳いでいかなければと、こしを上げた時でした。とつ然、辺りの花がざわざわとそよぎだして、さわがしいふん囲気になったのです。おれはきょろきょろと辺りを見回しました。アブリーやオドリドリたちはいつの間にか姿を消していて、気がつけば花園にはおれだけがいるみたいでした。急に心細くなりましたが、おびえる気持ちを我まんしてじっと様子をうかがっていると、何やらおくの方に変なかげが見えました。それは大きくて、とても見たことのないような形をしていて、おれはひたいのうろこをピクリとふるわせましたが、もしかしたらルガルガンが言っていた奴かもしれないと思うと、はやる気持ちもあって、ゆっくりとかげに向かって近寄りました。
 それは本当に一しゅんのことだったのですが、かげがいきなりおれに向かって体当たりをしてきて、そのとっ進ぶりはすさまじくて、まるでケンタロスにでもひかれたかと思うほどで、おれはあっという間もなくふき飛ばされてしまいました。ただ幸い、花畑のおかげでしょうげきは少なくて、息も絶え絶えではありましたがすぐには気を失わずに済みました。そのおかげで、おれはそのかげの正体を少しではありますが見ることができたのです。
 そいつは、兄さんくらいの体の大きさをしていましたが、その姿は兄さんとは似ても似つかないものでした。全身は真っ赤で、頭から2本のしょっ覚が伸びて、細長いくちばしがついていました。ですがおどろきだったのはその体つきで、胸やお腹からうでや足の筋肉がモリモリとしていて、その一つ一つが大きく、くっきりとおれの目に映りました。顔が小さく見えるほどまでにきたえられた体は、見るからにすさまじい力を秘めているようでした。そいつは、見たこともないそれは、おれをふき飛ばした力でさえ、軽い運動であるかのように平然と花畑にたたずんでいましたが、起き上がれずにぼう然としているおれを見てそれ以上は何もせず、おもむろに片ひざをつくと、といってもそいつの足は何本もあったように見えたので正確なところはわからないのですが、それに両うでを高く掲げて力いっぱいにひじを曲げて、おれの頭ほどもある力こぶを思い切り見せつけるかのようにしました。きん張した筋肉はとても力強くて、胸板はなんと言えばいいかわからないほどにふくらみ、腹筋はおそろしいほどに割れていました。
 おれをい圧するためなのか、単に自分の体を自まんしたかったのかはわかりませんが、それからそいつはおれの前で何度もポーズを変えながら、筋肉を見せつけるように動かしていました。おれにおそいかかるでもなく、むしろおれのことなど気がついていないかのように体を動かし続けるそいつを見ながら、おれは兄さんのことを考えました。兄さんならこのえも言われぬ奴に勝てるだろうかと自問して、すぐにそんな馬鹿な思いつきを打ち消しました。兄さんだったら、勝てるか負けるかなどと考える前に立ち向かい、何があろうとおれみたいにすぐへこたれたりはしないでしょう。おれは本当は立ち上がってそいつにいどみかかるべきだったのに、それができないことがとてもくやしかったのです。あれだけうろこをくだいてきたのに、それでも全然およばないものがあるということを思い知らされて、おれはただ花畑で横たわりながら、そのポーズをながめていたのでした。
 同時に、おれはみょうな視線を感じていました。目の前のそいつとはちがう、体をなめ回されているみたいにむずがゆい視線でした。その時、おれはすぐには思い出すことができなくて、身もだえするように気だるく体を動かしていましたが、いきなり、とつ然走った電げきでおれは思い出すより先に気を失ってしまったのでした。カプ・コケコ様の電げきを2回も浴びた者はおれ以外には決して多くはないと思います。なぜ、そこにいらっしゃったのか、それがおれの目の前でずっと筋肉を見せつけていたそいつと関係があるのか、おれには今でもよくわからないのです。
 気がついた時には、花園は最初に来た時と同じふん囲気に戻っていました。黄色い花々はとてもきれいだったし、アブリーやオドリドリたちが何事も無かったのように、相変わらずあちこち飛び回っているのでした。おれは夢を見ていたのかもしれませんでしたが、あそこまでくっきりとした夢を見るなんて初めてでしたし、何より体はぐったりしていたし、ほんのりとしびれも残っていました。日はかたむき出していました。本当なら、まだ日がてっぺんにあるうちには町外れの海岸からアーカラ島へと泳いで渡るつもりでいました。出発は一日伸ばそうかとも思いましたが、さっきあの得体のしれない相手に手も足もでなかったくやしさでいてもたってもいられず、おれは無理をしたい気分になっていたのでした。メレメレの花園を後にして、道ばたにあった木の実の山からクラボの実を取ってむしゃむしゃと食べて、それで体力を回復した気になって、そのままこの島へ上陸した時と同じ海岸から、アーカラ島目指して泳ぎ始めたのでしたが、カプ・コケコ様、あなたの神がかった気まぐれをどうしてあの時おれに分けあたえてしまったのでしょう? おれがあなたへいのる時に、なにか間ちがったことをしでかしていたのでしょうか。今となってはもはやわからないことですが、ただそれさえ無ければ、おれがここまでみじめな思いをすることは決してなかったのに!
 アーカラ島まであと半分まで来たところで、日は暮れ始めました。それでもおれはまだまだ行けると思いこんでいて、ひたすらに両うでで水をかき続けていましたが、さらに悪いことには急に空は黒い雲でおおわれて、雨がふり、雷まで鳴り始めてしまったのです。おれが泳いでいた海も波があれて、おれはもみくちゃにされて、前も後ろもわからない、進んでいるのか後退しているのかわからないまま、ただ根性だけで泳いでいるような有様でした。その時のおれはまったくおかしくなっていたとしか言いようがないのですが、旅で味わった初めてのざ折感を打ち消そうと必死になっていたとしか言いようがないのですが、こんな状況に至っても、不思議と後かいみたいな気持ちはなくて、なんのこれしきというつもりで、必死に泳ぎ続けていたと思います。おれの目は多分、じゅう血していきり立っていたものと思います。ほとんど気がふれたみたいに、激しい波に心の内で悪態をつきながら、海の上で暴れているうちに、おれはどうなったのかよくわからなくなっていました。決して気を失っていたわけではないのですが、おれの頭は真っ黒になっていたのです。
 気がついたというのか目を覚ましたというのか、おれはいつの間にか、みょうな所で横になっていました。目の前は真っ白でした。どこかの部屋の中の天井、とでも言うべきでしょうが、とにかく真っ白な部屋でした。今さっきまで海にいたはずなのに、いまいち状況をはあくできないでいると、おれの視界をふさぐものがありました。
「気づいたか、旅の若者」
 落ち着いた口調で語りかけたのはヤレユータンでした。森のけん者という呼び名はポニの大きょう谷にいたころから少しだけ聞いたことがありますが、本物と会うのは初めてで、おれが戸まどっているうちに相手の方から名乗ってくれたのでした。たんたんとした口調で、手にしたもので自分をあおぎながら、おれがこの建物のすぐ近くの海岸で気を失ってたおれていたのを、このエーテルハウスと呼ばれる場所へと連れてきて、ヤレユータンがずっと看病していたということ、そしてここがもともとおれが目指していたアーカラ島ではなくて、ウラウラ島だということを、おれは聞かされました。おれはあ然としてしまいました。知らないうちに、おれはとんでもないきょ離を流されてきていたのでした。少し間ちがえていたら死んでいたかもしれなかったのでした。とんでもない気紛れをはじていると、それをも見すかしているようにヤレユータンはおれに説教するのでした。
「ずい分とばん勇をふるったものではないか。天候が悪い中、島々を渡ろうとしたこともさておき、そもそも夕暮れに島渡りをするというのは感心できない。ジャラランガとなるべく旅をするお前にそのような分別がないとも思えぬのに。時が来ればポニへと戻り、群れを率いるべきなのに、こんな下らないことで命を落としてはせっかくの努力が文字通り水ほうに帰してしまったら元も子もないであろうことは、お前が一番理解しているのではなかったのか……」
 けん者であるヤレユータンのおっしゃることはことごとく正しくて、おれは横になって説教に耳をかたむけながら、あわや命を落としかけてしまったおれの過ちをくやんで、落ちこんでしまいました。手にした葉っぱでねこむおれの顔をあおぎながら優しくも厳しく語りかけてくるその声は、いつの間にか次第におれの無ぼうをしかる兄さんの声と取りちがえて聞いていました。
 まったく、島と島を泳ぐ時はおてんと様がどこにあるかとか、天気はどうなるとかをちゃんと確かめてからにしろって、旅に出る前にちゃんと教えておいたよな? 何があったか知らねえが、そういう一しゅんの判断ができねえなら、戦士になるにゃあまだまだってことだよ。自分の命さえろくに守れねえようなヤワな野ろうに、群れのみんなを守れると思うか? まあ、思わねえよな? 旅に出るってことは、単なる力試しじゃねえぜ? お前に力があることは確かだ。けどな、力があったって、それを使うためには体が強いだけじゃダメだ。そんなもの、所せんはむなしいものだってことは学ばなきゃならねえ。そうだ、そんなものよりはるかに大切な何かってのを、お前はこの旅でつかまえなきゃいけねえんだ。油断すんじゃえねえぞ。なんてったって、おれが見こんだお前なんだから。裏切ってもらっちゃ、困るんだぜ?
「おい、大じょう夫かね、旅の若者よ」
 気がつくと、ヤレユータンが真上からおれの顔を心配そうに見つめていた。おれは慌てて首をふって正気になって、大じょう夫です、ちょっとぼうっとしていただけですと伝えました。ため息をついてヤレユータンは、再び旅に出る体力が戻るまで、ここでゆっくり休んでいくと良いと言ってくれました。エーテルハウスというところは至るところが真っ白だったし、おれのいたところには外を見られるところはなかったので、その時はもう朝だったか夜だったかわかりませんでしたが、おれはしばらく横になって眠ることにしました。
「このエーテルハウスを出て、道なりに進むとすぐにカプの村というところがある」
 と、ヤレユータンはおれのそばを離れる際に言いました。
「かつてカプ・ブルル様のお怒りにふれた故にほろぼされてしまった所だ。思りょなき力のおろかさとむなしさを知るにはちょうどいい。これもある意味ではお導きかも知れぬ。己の心を見つめ直すには、ふさわしいのではあるまいか……」
 一眠りをすると、すっかりつかれはとれて、体力にも自信が戻ってきたので、おれはヤレユータンとエーテルハウスのヒトたちに頭を下げて礼をして、思いがけないことではありましたが、ウラウラ島での旅に出発しました。まずはヤレユータン、あるいは兄さん、の言う通り、集落のあとみたいな土地にたどり着きました。ポニの大きょう谷のあの「祭だん」から何度もながめたラナキラ山の入り口に面したこの土地には、ポケモンセンター以外には何もありませんでした。ヒトの住む家々があったであろうところには、土台のようなものしか残されておらず、けん者であるヤレユータンの言ったことによれば、たった一晩でこのようなあれ果てた姿になってしまったと思うと、やはりカプ・ブルル様のおれたちにはおよびもつかないほどの力とおそろしさに身のすくむ思いがし、おれは改めておれのことを思い返し、手を胸にあてながら、ごうまんになってはいけないと強く思ったのでした。
 ウラウラ島には修行のできそうな場所が数多くありました。ラナキラの山もそうだし、すぐ近くのハイナ砂ばくにホクラニだけやホテリ山など、あちこちを場所を移りながら修行で体と心をきたえようと思いました。ただ、ラナキラの山には最後に上ることにしました。ウラウラの島を巡って、ヤレユータンと兄さんが言った大切なものをつかめたと思ったときに上ってやろうと考えたのです。
 まずは、ハイナ砂ばくへ行き、そのおく地にある実りの遺せきでカプ・ブルル様においのりをささげてから、そこでしばらくの修行にはげもうと、おれはカプの村をまっすぐにつっ切りました。ああ、その時のおれのことを、今のこんなにもだ落してしまったおれが思い返しているというのは、なんという皮肉でしょう! もし時をさかのぼることができたなら、おれはハイナ砂ばくへ向かうおれの背中をつかんで、行ってはいけないと必死に警告をしたことでしょう。せめて、今は出発をもう少し待ってほしいとこん願したでしょう。もしおれがその時のおれを止められなくても、その止めた時間のおかげで、おれの悲さんなだ落はなかったかもしれないのですから。ですが、その時、そんなおれはいませんでした。ただ、旅での反省を胸に、この島でもっとたくましく、立ぱなジャラランガになるためにがん張ろうとばかり思っていたのです。なぜ、メレメレ島の時みたいに、道ゆく景色に足を止めたりしなかったのでしょう、なぜ、砂ばくの手前のオアシスで水を飲んで一休みしようと考えなかったのでしょう?

8 ハイナ砂ばくでの最悪の災難のてん末についてはじをしのんで告白すること 


 ハイナ砂ばくはいつも砂あらしがふきあれるところで、天然の迷路になっていました。そこは旅に出る前にも兄さんから話はあったのですが、兄さんはおれになぞをあたえるだけでした。2個、1個、4個、3個という合言葉はしっかりと記おくにとどめていましたが、その意味するところはまだわかりませんでした。おれは砂あらしを我まんしながら、砂ばくを歩き回ってみましたが、カプ・ブルル様のいらっしゃる実りの遺せきは見つかりません。そう簡単にたどり着くわけはないとは予想できたとは言え、そのうち遺せきどころか、おれがいま砂ばくのどこにいるのかもよくわからなくなってきました。このままやみ雲に歩き回っているだけでは、砂ばくから出ることすら難しくなってくると思いました。
 おれは何度も通りがかったような気がする岩場のかげで砂あらしをさけながら休みつつ、辺りを散さくしていると、おれはあるものを見つけました。兄さんから教えてもらった合言葉と合わせて考えると、これが実りの遺せきへ行くための手がかりになるにちがいないと思いましたが、これから修行の旅に出るであろうみんなのために、くわしいことはふせなければなりません。でも、きっと旅に出てここまでたどり着くことができるジャランゴであれば、乗りこえられないことは決してないものと信じています。
 その手がかりを元にしておれは砂ばくを探検することにしましたが、おれがいまどこにいるかがはっきりしないと、かえって迷ってしまうかもしれなかったので、おれは道を引き返したかったのですが、今になって無やみに歩き回ったつけが出てしまい、早速どちらへ行けばいいのか、わからなくなっていました。またしてもおれは先走って間ちがった判断を下してしまったものだとくやみました。ああ、ついさっきもよく考えずに行動する過ちを犯してしまったというのに、反省する間もなく同じことをくり返してしまうのは、やはりおれは修行中の身としてまだまだだということが痛感されました。とはいえこのままここで考えこんでいても仕方がない、しかし下手に動いて余計に迷っても意味がない、という考えと考えにはさまれてしまって、おれは身動きが取れなくなっていました。
「おっ、あんた、もしかして旅のもんか?」
 岩かげで考えこんでいるおれに声をかけてきたのは、一ぴきのワルビアルでした。白いお腹を手なぐさみにもみながら、陽気に笑いながら、ワルビアルは見た目からは意外な身のこなしでおれのそばに座りこみました。まるで初めて会った気がしないとでもいうように、ワルビアルの態度は手慣れていました。
「いきなりで悪いな。おれはこの砂ばく暮らしが長くてよ。見慣れねえジャランゴがここへ来るってえと、もち論遺せきへおいのりに来たんだろ? ま、おれの老ば心でな、よそもんのためにこの砂ばくを案内してやってんのさ。どだ? ちょいと、おれに任してもらえねえか?」
 ワルビアルが現れたのは、と方に暮れかけていたおれにとってまさしく渡りに船なことでした。修行の旅は、おれ一ぴきの心と体をきたえることが一番の目的ではありますが、一方で群れを率いるジャラランガにふさわしい経験を積むということも大切でした。まだ始まったばかりともいえるおれの修行の旅でも、すでにナッシーたちにルガルガンにヤレユータンなど、様々な出会いがありました。予定通りのこともあれば、思いがけないこともありましたが、その出会い一つ一つは、おれにとって確かな経験となっていたわけですし、いずれポニの大きょう谷へ帰ることができた日には、おみやげ話として話すこともできるだろうと思えました。だから、おれはワルビアルの提案に素直に従うことにしました。お安いご用だと、白く丸いお腹を叩きながら、ワルビアルは受け合ってくれました。
 二ひきで並んで砂ばくを歩きながら、おれとワルビアルは意気投合したかのようにいろいろなことを話していました。おれはここに来たまでの修行の経いを洗いざらいワルビアルに話して聞かせていましたし、ワルビアルはいくつも質問をはさみながら、興味深く話を聞いてくれました。ワルビアルも、おしゃべりがうまくて面白くて、ウラウラ島のことであればなんでも知っていました。どうしてそんなにくわしく知っているかといえば、やはりここに訪れる者たちとこんな風におしゃべりをしながら、いろいろな情報を仕入れるのだそうです。ジャランゴが旅をすることももち論知っていましたし、ワルビアルの記おくでも何ひきかのジャランゴを案内したことがあると話していました。おれはさりげなく、兄さんのことを尋ねてみると、いつか案内したジャランゴに、ものすごく強いやつがいたと言いました。
「ああそうだ、あれはヤバいジャランゴだったな。いかにも精かんって感じの野郎でな、見るだけでこいつぁ強えなあ!……って感じたよ。とつ然おそいかかってきたフライゴンの群れを軽くいなしやがってよ、おれはビックリしちまっていい大人なのにションベンちびりそうになったもんだぜ……いや、別にあんたが強くねえと思ってるわけじゃねえぜ? ここに自力で来られただけでも大した雄だぜあんた?……おっと、もうすぐだ」
 その岩場の裏側だぜ、とワルビアルがつめで差したところへおれはかけ寄りました。ですが、そこはどうやら何かを収めるためのほこらのようなものがあるだけでした。それに似たものはポニの大きょう谷の、「祭だん」へ向かうと中で見たことがありましたが、遺せきがある気配はなく、道は行き止まりのように見えました。
 おれは不思議に思って、ワルビアルの方へふり向こうとした時、いきなりおれは背中を強く押されて、その場にうつぶせにたおれこんでしまいました。何もわからないまま立ちあがろうとしましたが、今度は何かに両うでを押さえつけられて動くに動けなくなってしまったのです。
「あんたは大した雄だ。けど、前来たジャランゴほど注意深くはなかったみてえだな」
 おれの背後の声は、先ほどまで一しょに歩いてくれたワルビアルのものでしたが、ふん囲気はまるで別のポケモンであるかのようでした。言葉の一つ一つになんだかじゃ悪な感じがあって、おれの背筋が一気に冷たくなりました。こんな時、すぐに体勢を立て直して、相手に向かっていかなければならないのに、あまりに不意をつかれたせいで、おれはすくみあがって体が思い通りに動いてくれませんでした。それに、おれはワルビアルのことを、ルガルガンと同様にすっかり信用しきっていて、とつ然おそわれるなんてことをおろかにも考えもしなかったせいもあって、余計に混乱してしまっていたのです。
「前のやつには、すぐにかん付かれちまってしくじっちまったが、どうやら今回はうまくいったみてえだな……」
 ワルビアルの話し方には変なところがありました。落ち着いてしゃべっているように見えて、なにか待ちきれなくてたまらないとでもいうように、変に声が上ずったり、みょうに早口になったりするのです。おれは首を上げたまま、目の前のほこらの一点を見つめたまま、そらおそろしくてふり変えることもできなくなっていました。頭の中では、おれは今から死ぬかもしれないとそればかり考えて、考えようとしても何も考えられなくなっていました。体験すればわかることですが、命の危けんを感じている時には、何も考えられないものなのです。
「悪くねえ体だ。ちと筋肉のつき具合がほっそりしてるが、むしろおれ好みだぜ」
 その時のおれには何やらわからないことをつぶやきながら、ワルビアルは内心でふるえているおれのこしの辺りをにわかに両つめでわしづかみにしました。そしてゆっくりと、こねるような手つきでおれのおしりをさわり始めました。あまりのことにおれはびっくりして、反射にこしをくねらせると、ワルビアルは思いきり、おれのおしりをたたいたので、おれはあっと声を上げてしまいました。
「へっ、たたかれて気持ちいいってか、だったらもっとたたいてやろうか」
 続けざまにおしりをたたかれて、おれは泣きそうになりました。おしりをたたかれるなんてジャラコのころに仲間とけんかしたお仕置きを受けた時からなかったですし、まさかジャランゴになって修行の旅をしている時に、こんなところでたたかれるなんてとても恥ずかしかったのです。それに、おしりをさする合間にしっぽの裏側をくすぐるようになでられると、体が自然にピクリとふるえました。あまりにもしつこくさわられるので、おれはいやでたまりませんでしたが、おれの足こしはまひしたように思うように動いてくれず、結局ワルビアルにされるがままになってしまいました。
「ほら、ジャランゴくん、おしりをもっとつき出すんだよ」
 ワルビアルはおれの首すじを甘くかみながらささやきました。両のつめはまだおれのおしりとしっぽにかくれたところをしつこくなでさすっていて、次第におれはくすぐったいというか、なんとも言えないいやな気分になっていましたが、このままていこうしたらそのまま首を食いちぎられるだろうと思うと、ひたすら我まんするしかありませんでしたし、言うことを聞かないでいて、またワルビアルにおしりをたたかれるのがいやだったので、おとなしくおれはこしを高くつき出して、ちょうどせまい穴をくぐるときのような姿勢になりました。
 背後のワルビアルはもう何も話さず、あらい息だけがやたらとおれの耳に聞こえていました。おそろしくて気味の悪い息の音に、おれはおびえているばかりでした。すっかりワルビアルにくっしてしまったおれは、なんてドジなのだろう、メレメレの花園での思いがけない出来事から、なんだかしくじってばかりで情けないと思い、くやんでもくやみきれず、殺されたとしても死ねやしないではないかというくらい無念でしたが、ポニの大きょう谷のみなさん、次のしゅん間にはおれは、とう底想像もできないような仕打ちを受けることになったのです。
 いきなり、ワルビアルはつめをおれのおしりにつき立てて、ぐりぐりと押しこむようにそのつめと指を中へとつきさしたのです。するどい痛みでおれは大声でさけんでしまうと同時に、思わずおしりに力を入れましたが、痛みは増すばかりでした。それでもワルビアルは指を引っこめることはなく、いらだたしげにさらにおれのおしりをきつくたたき続けたので、おれは我まんして受け入れるしかありませんでした。必死に息をはきながらおしりの力をゆるめると、ワルビアルの指はおれのおしりのおくまで入ってしまいました。ちょうど付け根のところが、おれのおしりにくっついていました。そのままワルビアルは、おれのおしりの中でグチュグチュと指を動かし始めたので、おれは訳がわからずさけんでいました。痛かったのはもち論ですが、なんと言ったらいいのかわからないむずがゆい感じが同時に起こって、それがあまりにもたえられないので、おれは顔を砂にうずめながら必死に首を横にふっていました。
「初めてにしちゃあ、いい反応だな。見こみ以上かもしれねえぜ、ジャランゴくん」
 おれはワルビアルが何を言っているのかちっともわかりませんでした。おしりの中をほじくられる訳のわからない苦しみにじっとたえるのにあまりにも必死だったのです。おれの声は上ずっていました。故郷から遠く離れたこんな砂ばくで、おしりをいじられるなんてあまりにもくつじょく的ですし、みなさんにこんな話をするのはとても良心がとがめるのですが、おれは意を決しておれの過ちを告白しなければならないのではじをしのんでこのことを話さなければなりません。
 やっと指がおしりからぬかれたので、おれは水面から顔を出した時のように思いきり息をはきましたが、ほっとしたと思う間もなく、何かヌルヌルとして生温かいものがおれのおしりの入口にふれて、おれはこわくなって、体中がヒヤリとしました。つめとは明らかにちがう感しょくで、ずっと大きいそれをおれのおしりに押しつけて中へ入ろうとしていました。その先っぽが少しとんがったものがなんなのかわからずに、おれは思わずおしりにきゅっと力を入れてしまいました。
「おい、ごらっ!」
 ワルビアルは怒鳴りましたが、おれの体を一しゅん離したので、おれは気をふりしぼってしっぽを左右に大きくふって、ワルビアルをなぎはらってやりました。ここでそうされるのは思いもよらなかったのか、ワルビアルがひるんだので、おれは意を決して起き上がって、何かを考えるよりも先に足を動かしてその場からにげ出しました。その時、おれはほんの一しゅんだけワルビアルの方を見ましたが、その太く短い足と足の間から反り上がっていたそれを、さっきまでおれのおしりに押し当てられていたものの形を、おれは見てしまいました。
 おれは必死ににげて、命からがらハイナ砂ばくをぬけ出すことができましたが、すっかり気が動転していたおれは、遺せきのことなどすっかり忘れてしまって、カプ・ブルル様においのりするのを忘れてしまいました。そのことに気がついたのは、しばらく経ってからのことでしたが、あのワルビアルがいるかもしれないハイナ砂ばくへと戻る気持ちにはなかなかなれませんでした。とはいえ、カプ神様たちにはおれのそうした事情など関係はありません。いのりをおこたったおれはそれに対してばつを受けなければならなくなりましたが、おろかにもおれがそのことに気づいたのはしばらく経ってからでした。怒ったカプ・ブルル様がそうなるように仕向けたからでしたし、カプ・レヒレ様もカプ・コケコ様もそれをがえんじたからです。

9 ウラウラ島での修行の日々について、また思いがけない一夜の出来事 


 やっとハイナ砂ばくをぬけ出すと、その日はまんじりともせずに一晩を過ごしました。砂ばくの入り口のあるオアシスの、ヒトやポケモンたちが集まっている辺りにこしを下ろして、気持ちが落ち着くまでずっとそこで過ごしていましたが、ワルビアルのやつにおそわれるのではないかとおそろしくて、体が勝手にガタガタとふるえるのをおさえることができませんでした。おれの頭の中にはにげ出すしゅん間に見たワルビアルのそれがずっとこびりついていましたし、おれのおしりの辺りにそれがまだふれているかのようで、気持ちがよくありませんでした。なんだか体がゾッとしてきて、おれは何度もオアシスの水で体を洗い、おしりのところはゴシゴシとみがくように洗っていました。
 とにかく、一たんこの場所を離れようと思って、気力を取り戻したらすぐにオアシスを出発して、あのいまいましいハイナ砂ばくを後にしました。とにかくそこからできる限り離れて、あんなことをすぐに忘れてまた修行に専念できるようにしたいと思いました。おれが実りの遺せきのことを思い出したのは、道中のことでしたが、それは気持ちを整えて、また修行して強くなってあのワルビアルに不覚を取らないまでにきたえてからにしようと決めたのでした。
 おれはホテリ山にこもって気を取り直して修行を再開しました。ちょうどいいほら穴をねどこにすると、しばらくは手応えのありそうな相手を見かけたらとにかく勝負をいどんでいました。中でもくっ強なポケモンたちの胸を借りてはおれはひたすら己のうろこにみがきをかけていましたが、その中で戦うために体を動かすことは、やはり楽しくかいのあることだと確かめられました。ポニの大きょう谷でみんなと切さたくましていたころのことを思い出して、混乱していた気持ちもだいぶすっきりとしてきました。おれはとにかく修行のことだけを考えるようにしました。立ぱなジャラランガになることを考えていました。おれに立て続いて起こったことは、おれに対してあたえられた試練なのだから、乗りこえるしかないではないかと、おれは思うようにしていました。きっと、強くなって帰ってきたあかつきには、このなやみごとも笑い話として話すことができるだろうと楽観していたし、おれのたんれんもまたじゅう実してきたので、その気持ちはますます強まっていきました。
 修行を積むうちにおれはバンバドロとバクガメスの二ひき組と仲良くなって意気投合し、よくその二ひきとつるんでホテリ山を下りて遊びに行くこともありました。ホテリ山からけわしい道をしばらく進んだ先にはマリエシティがあって、おれは特訓の合間に、そこでくつろぐこともしました。街の名所である庭園では、おれをジャランゴと知っているヒトたちが親切にももてなしてくれました。メレメレ島のルガルガンが言った通りだと思いました。そこで、おれたちはいかりまんじゅうとか、フスベせんべいと言われているものを食べさせてもらいましたが、もち論どちらもまったく食べたことはありませんでしたが、ルガルガンと一しょに食べたマラサダともちがうおいしさなのでした。マリエの庭園はとても素敵な場所で、その景色をいつまでもながめていることができそうなほどでしたし、バクガメスのじょう談やバンバドロの武勇伝に耳をかたむけるのもおもしろかったです。
 日がしずむころには、みんなでマリエシティを見下ろすようにあるホクラニだけを上ることもありました。長くけわしい坂道の先にある頂上にたどり着くと、ちょうど空はきれいな星空で、この場所からは空の星たちがどこよりもくっきりと見えるということでしたし、そのきらきらした空はあの「祭だん」で見た空とはまたちがう美しさがありました。ホクラニだけのあちこちにはメテノが落ちてきて、からの破れたメテノたちが色とりどりの姿を見せて、それもまた星のようにきれいにかがやいていました。おれは展望台であぐらをかいて、この夜の星空を感たんしながら見つめていました。おれたちが生を受けたところはなんて素晴らしい世界なのだろうと思いました。それに、このすき通った気持ちのいい空をながめていたら、ハイナ砂ばくでのいやな出来事なんて所せんはちっぽけなものに過ぎないとさえ思いました。やはりくよくよしているだけではダメなのだと実感しました。
 ああ、おれはポニ島のことを思いました。ポニの大きょう谷のことを思いました。そしてあこがれの兄さんのことを思いました。おれは立ぱなジャラランガになるために旅に出ているのです。絶対に、みんなを裏切ることはできないと決意したのです。ちかって言いますが、おれの決意は固く、それはすう高なちかいであったとすら言えるはずです。そしてすがすがしい思いでおれはホクラニだけをおりていくのでした。気分は高らかで、ジャラランガの戦士の歌を口ずさみながら、そのせん律に合わせてうでのうろこをふっていました。しかし、おれの運命はすでにおれのものではなく、怒り狂ったカプ・ブルル様のものであったことを、おろかにもおれは忘れてしまっていたのでした。おれはおれを知らなかったことで、大いなるとがを受けなければならないなんて、不そんなことに考えもしなかったのです。
 バンバドロと手合わせしていた時に、おれはどこかでぼうっとしていたのか、構えの姿勢をとった時にうっかりバランスを崩して、変なたおれ方をして、足をくじいてしまいました。立ちあがろうとするととてもさけび出しそうなくらいの痛みが起きて、その場を動くことができずに、心配してくれたバンバドロの背中に乗せてもらって、ねどこまで運んでもらわなければなりませんでした。その後で、すぐにバクガメスが近くの発電所から傷薬を持ってきてくれたので、ひとまず応急処置はできたのでした。感覚として、足の骨が折れているわけではないようだったので安心はしましたが、当分は安静にしてほら穴で過ごし、おれはできる限りの特訓だけしていることにしました。座って足を伸ばしたままで、岩にこぶしをぶつけたり、上体や背中を起こしたりして足が回復するのを待っていました。顔なじみになったバクガメスが気をつかって木の実を運んで来てくれたのはありがたかったです。
 そのようにしておれはけがをした日々を送っていましたが、おれの足はよほど変なくじけ方をしたせいか、いくら待っても痛みが残って、歩くことは多少できるようにはなっても、地面に力を入れることはまだまだできそうもありませんでしたし、この状態で戦うことはもってのほかでした。おれなりの努力はしていたものの、そうした日々が長引くとやはりゆううつになってしまうことがありましたし、バクガメスやバンバドロがおしゃべりに来てくれるときは良かったですが一ぴきでいる夜などは考えこんだり、不安にさいなまれたりしてしまうこともしばしばありました。こんなめめしいことをしているとおれはどうしても情けなく、まだまだ力がおよばないのだなと思ったのです。そう思うにつけて、兄さんの勇かんな姿を、おれをこぶしの一ふりでなぐさめてくれた兄さんのことを強く思いました。おれは弱々しいことでしたが、ほんの一しゅんだけでもいいから、兄さんに、ポニの大きょう谷のみんなに会いたいと思ってしまいました。故郷のことを思うと自然に涙が流れてきてしまうくらいでした。おれの気分はどんどん落ち込んでいくようで、はっとしておれはそんな気持ちをふりはらうように上体を何度も起こして上体と足こしをきたえました。
 その時も、そのようにして、おれは一ぴきでつかれた体を横たえたのでしたが、全身が熱くなっていましたが、それと一しょに、心まで熱くなっているような気がしました。ちょうどまた兄さんのかっこいい姿を思い出していた時のことでした。おれは何かといったらすぐに兄さんのことを考えてしまって、雄らしくないとばかり思っていたのですが、おれの兄さんへの思いが強まるにつれて、おれの心が熱くなって、胸が苦しくなり、身をよじってしまうほどになっていきました。おれは勝手に兄さんの姿をあれこれと思い出していました。もう、おれにはとどめようがありませんでした。あの勇かんな風ぼう、きれいなうろこ、すごんだ目つき、たくましくて太いうで、引きしまった体つき、そうしたものを支えるじょう夫なこし、大地を強く踏みしめる太い足。「ブレイジングソウルビート」をおどる時の見事な立ちふるまい。オスもメスも関係なくほれぼれとしてしまう姿。
 おれは熱くなった体からそれが立ち上がるのを見ました。一目見てそれがおれのものであることはすぐにわかりましたが、なんでいきなりこうなったのかその時のおれには何がなんだかさっぱりでした。しかし、その勢いよく立ち上がっているものを見て、おれをおそったワルビアルから出てきていたものを連想しないわけにはいかなかったし、そして何より、いつか「祭だん」でうっかり見てしまった兄さんのあのすさまじいものを思いださないわけにはいかなくなってしまったのです。それに比べたらおれのものなんて大したものではとう底ありませんでしたが、ただ、「祭だん」でうたたねをしていてそれを立ち上がっていた兄さんのものを考えていると、反応するかのようにおれのものも背伸びをして、さらには固くなりました。おれはそれをおさえましたが、どうしてもそれが小さくなる気配はありませんでした。それを中に押し戻そうとしても全然体の中にしまりませんでしたし、ていこうするようにそれはかたくなになりました。
 おれは困り果てていましたが、一方でとつ然大きくなったおれのものに対する不思議な興味があったことを否定しようとは思いません。初めにも言ったようにおれはおれのありのままの姿をみんなのもとにさらそうとちかったからです。説明しがたい力とでも言えばいいのか、おれはおれのものをさわりたくなりました。おそるおそる手を伸ばして、その先っぽをさわると、びくりとしました。固いけれどそれなりにぷにぷにしたそれをさわっていると、とても熱くて、おれの体が熱くなっていたのは、こいつがたきぎのようにおれの全身を温めていたのではないかとさえ思いました。しかも一度さわってから、おれはついついさわり続けてしまいやめられなくなっていました。おれのものをさわると体がまた熱くなったような気がするのに、体が熱くなるとおれのものをさわりたいという不思議な気持ちが高まって、またさわってしまうのでした。
 おれは息をもらしながらおれのものをさわっていました。とてもおかしなことでしたが、さっきまでの身もだえするほどのやり場のなさをぶつけるようにいじっていると、気持ちいいと感じたのです。おれを苦しめていたむずがゆさがすべておれのこの立ち上がったものに集まっているような気がして、どうなるのかも知らずにおれはただはやった思いでさわり続けていました。やがて興奮が高まって、おれの頭もぼうっとしてきましたし、さわられ続けていたおれのものも心臓みたいにどくどくと大きな音を立てていました。
 おれが初めておれの手でそれを出したのは、そんな夜のことでした。あれだけ大きく固かったおれのものは出した後にはみるみる小さくなってまたおれの中へ戻っていきましたが、手に見たことがない白いものがべったりとまとわりついているのを見たしゅん間、おれはおどろいてしまって、あわてて地面に手とつめをこすりつけてそのよごれを落としました。何かまずいことをしてしまったかのように、おれは全身をふるわせましたが、一方でさっきまでおれの体と心を支配していた、もどかしい感情はきれいさっぱりとなくなっていることに気づきました。わけがわからなかったとはいえ、とりあえずおれはほっとした気持ちでぐったりと横になってその日は眠りました。
 そんなことをこっそりと何度もくり返しているうちに、おれのものが立ち上がって、それをいじっている間、おれはずっと兄さんのことばかり考えていることに気がつきました。誰もいないところで遠い故郷でみんなを見守っているはずの兄さんの姿を想像すると、あっという間に体が熱くなって、おれのものがそそり立ってくるし、そのままそれをさわっていると、すぐになんとも言えない気持ちになって、まもなく手とつめを白くよごすものをそこから出しました。なぜそうなるのかは全然わからないのに、だけど出した後は少し胸の苦しさが楽になるし、出すしゅん間の気持ちいい感じがちょっとおもしろくもあったので、ずっとそんな真ねを続けていました。
 ようやくひねった足が治って思い通りに全身をささえたり、けったりすることができるようになりました。思いがけないことが続きましたが、そういうことでけがした日々のさみしさをなぐさめることができたのでよかったと思いました。これもまたせいちょうの証だとおれは思っていました。バンバドロとバクガメスにもお礼を言いに行きました。おれに良くしてくれただけでなく、けがをしている間も親身になって世話をしてくれたのでおれは二ひきに心から深く感謝していました。そうしたら、二ひきともけがが治ったお祝いをしようというので、その夜は三ひきで木の実と近くの発電所からくすねてきたというお酒を交わしながら過ごすことになりました。
「しかしまあ、ジャランゴ君よお、そんなカッコイイならきっとメスにモテモテだろ、なあ? なあ? なあ?」
 細長い口をいっそう伸ばしてニヤニヤしながらバクガメスが言いました。ヒトの飲むお酒をたくさん飲んでいたせいで、いつもよりまして、陽気でさわがしい物言いをしていて、おれはおもしろおかしく思いました。
「ぶっちゃけおれがメスだったら、おれ相手してやんなくもなかったって思うんだぜ、いや、これマジだよ、マジ」
「馬鹿、てめえの顔じゃメスでもモテんわ!」
 バンバドロが前足でバクガメスを小づきながら垂れ下がった何本ものたてがみをふりながら笑いました。それにつられてバクガメスも大きな穴が開いたお腹をかかえて笑い転げました。二ひきの笑い声は、ホテリ山がゆれ動いたと思うくらい大きくて、楽しげでした。
「でもよおジャランゴ君、修行だかなんだか知らねえけど、いいオスならちゃあんと女をしらなきゃいけねえよ」
 笑いをこらえながらバクガメスはおれの肩を組んできて、からかうように言いました。細長い口がおれの鼻先にぺったりとふれました。
「ここだけの話だけどよう、アーカラ島のヴェラ火山ってとこにはエンニュートって女王様がいてな。そいつがまあベッピンだっつう話なんだわこれがな。ほっそりとしたエロい体してて、アソコもすげえいいんだってさ。アローラ一の名器さ、名器! うわさじゃ、アーカラに住んでるオスは誰しもそいつの下の世話をしてもらってるって話らしいぜ? ま、イケメンジャランゴ君ならあ、あいつからまた開くんじゃねえかな? うらやましいぜまったく、おれもうこんなだ馬と一しょにいたくねえよお、アーカラに行ってエッチざんまいしたいぜえ、チクショウめっ」
「てめえみてえなのは、アーカラ島の方からお断りだっての、デバガメ!」
「うるせえ、だ馬だ馬野郎! おめえだって、あそこのデカさしか取りえねえじゃねえか」
「少なくともてめえには勝ってるよ」
「いれる穴がなけりゃ、同じ穴のジグザグマだろうがよ! ふんっ、どうせ今夜もギャロップやゼブライカのケツのこと考えて、その立ぱなだけのデカブツぬいてむなしいもんだなあ……どいつもこいつも高ねの花だぜ、あきらめたらどうなんだい?」
「へらず口たたくんなら、お前のそのアホみたいな口にでもつっこんでやろうか?」
「お前のデケえだけのそチンなんざ、おれの口にはもったいねえぜ……あ、でもジャランゴ君のだったらやぶさかでもねえけどお?」
「ボケ」
 バンバドロは前足に今度は勢いをつけてバクガメスのことをつき飛ばして、ひっくり返って立ち上がれなくなって悪態をつくバクガメスの姿をながめながら馬鹿にするように笑っていました。
「モテねえオスこじらせてホモるってか! いい迷わくだぜ、やれやれ……」
 陽気にたがいをからかい合っている二ひきの会話を聞きながら、正直なところおれは内心気が気ではなくなっていたのでした。

10 思いなやんだ末に、ふがいない自分にばつをあたえたこと 


 ふ段だったら頭がくらくらするはずなのに、おれの頭はすっかりさえてしまっていました。バンバドロとバクガメスはよっぱらって眠りこけてしまっていたので、おれはそそくさとねどこに帰って来ましたが、ようこともできず、ねることもできず、おれの頭はぐるぐると考えこんでしまいました。
 おれは兄さんのことを考えたらおれのものが立ち上がりました。兄さんのことを考えながらおれのものをさわったら、白いものがそこから出てきました。しかしおれがやっていたことは別に特別なことではなく、バンバドロとバクガメスもやっていることで、しかもどうやらとても強い思いを持っている相手のことを考えながらするようでした。それは、アーカラ島にいるというエンニュートの「アソコ」であり、ギャロップやゼブライカの「ケツ」であり、兄さんの「もの」なのでした。だとしたら、おれは兄さんのことをどう思っていたのでしょうか。おれは兄さんのことが好きです、あこがれています、心から尊敬もしております、愛しています。ですが、それとおれのものが立ち上がったことはどんな関係があるのだろうと、おれはつい考えてしまったのです。
 そんなことを考えてしまったのは、元をたどればあのワルビアルのせいでした。ハイナ砂ばくであのワルビアルはおれをつき飛ばして、四つんばいになったおれのおしりをつめと指で中までさわってから、さらに自分のものをおしりの中に入れようとしました。何食わぬ顔でおれと砂ばくを歩いていたときにはそんなものは立ち上がっていなかったのですから、きっとワルビアルはおれのことを強く考えて自分のものを立ち上がらせたにちがいありません。そして、きっとおれのおしりの中にあのドロっとした白いものを出そうとしていたのだと思いました。そう思うと、今さらおれはこわくなりましたが、本当にこわかったのはそんなことよりも、おれが兄さんに対して立たせたおれのものから白いものを出したいのではないかという考えが頭をよぎったからでした。兄さんと、兄さんのもののことを思うと、全身が熱くなっておれのものを立ち上がらせてしまっていたおれは、そうとも知らずに兄さんに対してあのワルビアルと同じことを考えていたのではないか。
 しかも、バクガメスやバンバドロが自分のものを立ち上がらせていたのは、オスではなくてメスでした。兄さんは言うまでもなくオスでした。そして言うまでもなくおれと同じオスでした。だとしたら同じオスに対して自分のものを立ち上がらせたおれは彼らの言葉を借りれば「ホモ」ということになってしまいます。つまり、言葉に出すのはちゅうちょしてしまうのですが勇気をもって告白するのですが、おれは師でありあこがれである兄さんの体まで愛したいということになります。
 その考えにたどり着いた時、おれは頭をかかえました。おれは兄さんにあこがれて、兄さんのようにたくましくて立ぱなジャラランガになるために、ポニの大きょう谷から遠く離れたところで修行をしているのです。なのに、そんな兄さんに対して白いものを出してしまったのは、ジャランゴとしてあるまじきことではないだろうか、おれの体は他のジャランゴたちよりもがっちりとしていて、修行によってさらにみがきをかけていましたが、そんなことより前に、おれはジャラランガになるべきではないのではないかとおれはおれ自身を疑ったのです。おれはおれが知らない間に二重のつみを犯していたのだという考えに苦しまざるをえませんでした。おれはジャランゴとしてジャラランガの兄さんを犯し、オスとしてオスを犯すことになります。それはおれたちのきずなをゆるがすものではないかと思えてしまったのです。
 でも、おれが心の底から兄さんが大好きで、あこがれであることも疑うことはできませんでした。おれはおれがわからなくなってしまいました。おれのあまり良くない頭では、何を考えてもうまく頭がまとまりそうにはありませんでした。兄さんならば、きっとこんななやみでも簡単にふき飛ばしてくれるにちがいないのに、おれはくよくよするばかりでした。もしくは、こんな女々しいおれをしかり飛ばして欲しいとも思いました。
 おれはあまりにも頭が混乱していたのだと思います。だから、これから告白することもみんなもおろかな話と笑ってくれてかまわないですし、むしろそうしてくれるとおれのたましいも少しはなぐさめられると思います。ねどこのほら穴の岩はだに生えたとっ起を見ておれの頭に浮かんだある考えがこびりついてはなれなくなってしまいました。角ばってはいるけど、その大きさも、そそり立ち具合も、なんだかそれにそっくり似ていました。おれは何度も首をふって、そいつを頭からかき消そうとしましたが、決して消えてはくれませんでした。
 心から尊敬している兄さんの、ただ一度見たことのあるギョッとするほど大きいものを、おれはその岩の出っ張りに見つけてしまったのです。そのしゅん間、おれはおれのものを立たせましたが、それと一しょに、おしりの中がどくどくと心臓みたいに音を立てる感覚におそわれました。おれはワルビアルにおしりの中をさわられた時の感しょくを思い出していました。さわられている間は痛くていやでしたが、そこに少し混じるむずがゆい感じにはみょうに不思議な気持ちにもさせられていたのでした。
 岩はだからつき出たとっ起に兄さんのそれを見出しながら、おれはおそるおそる、おれのつめをおしりの中に入れようとしました。入り口のあたりをいじってみましたが、うまく入らなかったので、つめをよだれでぬらしてから、ゆっくりと息をはいてみると、少しずつつめがおれのおしりの中に入っていきました。ワルビアルとはちがって、しん重につめを中で動かすと、痛みは少しあったけれどあの不思議なむずがゆい感じが出てきて、女々しい声を出してしまいそうなほどになったので、おれは止められなくなって、ずっとおしりの中をいじっていました。やがて、とても言葉にできない気持ちよさでおれの体はふるえました。たまらなくなって、おれはずっと兄さんのことを思いながら、立ち上がったままのおれのものもなぐさめて、白いものまで出してしまいましたが、そのままぐったりとうつぶせになって、おれはおれのことがきらいでした。立ぱな兄さんのことを考えながら、おれは一ぴきで気持ちよくなっているのは、兄さんだけでなくみんなへの裏切りのようにも思えました。これは絶対に修行を通して乗りこえるべきものだと思いました。
 それなのに、おれはまたしても兄さんのあれこれを思いながら、体中がもだえて言うことを聞きませんでした。他のことならいくらでも努力し、我まんもできるのに、これだけはどうしてもやめられませんでした。夜が来ると、その岩の出っ張りを見ながら、おれはおれのおしりとものをいじって気持ちいい思いをしていました。何度もやっていると、それが当たり前になってしまって、それも修行の一つであるかのように平然とおれはそれらをしていたのです。そしておれはまた同じ苦しみを感じながら涙を流して眠ったのです。こんなやり場のない苦しみにさいなまれて、おれはカプ神様たちのどんな怒りにふれてしまったものなのだろうと、おれはおれをなげいていました。
 しかしなげく一方でおれはなげかわしいことに神様をぼうとくするほどの大たんさも生まれていました。おれのおしりはおれのつめだけではあき足らず、もっと気持ちがよくなりたいと感じ始めたのです。そしてあの時、おれのおしりに押し当てられたワルビアルのもののことを思い出して、あれをもし中に入れられていたらどんな気持ちだったのだろうかと考えてしまい、おれのものを立ち上がらせてしまうくらいに気持ちを高ぶらせてしまいました。それがまた兄さんのものだったら! それを考えるだけで、白いものが出て来ました。
 おれはくるった情熱に囚われてしまいました。過こくな修行でうでからはがれ落ちたうろこを使って、岩はだからとび出た、あらけずりな岩をしかるべく整え始めていたのです。丸いうろこをうまく使って、ところどころにつき出た余計なトゲを取り除いて、表面をなめらかにしました。けずり過ぎてせっかくの大きいものが小さくなってしまわないように、神経をとぎすませました。記おくにこびり付いたイメージだけをたよりにして、少しでもそうであるべき形に仕上げていこうとしました。
 おれはその作業にすっかり夢中でした。何度もそいつをにぎりしめては、実際にはにぎったこともさわったこともないもののりんかくを確かめようとしていました。頭に浮かんできたしょう動はおれにはおさえようがなくなっていて、兄さんのものを考えると、中と半ぱな形では終われなくなっていました。
 そんなことをしているおれは、ジャランゴとしてあるまじきことをしていることは自覚していたし、そのことをはずかしく思ってはいました。しかし同時に、今こうして生み出そうとしているものが、おろかなおれをばっしてくれるのが本当に楽しみでしょうがなくて、おれはおれのものを立ち上がらせながら、うろこで岩をけずっていました。
 兄さんの、おれに失望し切って見下す顔が浮かんでいました。あれだけおれのことを見こんで、将来をたくそうと期待までしていた兄さんが、くさった死がいを見るような目でにらみつけている姿がありありと想像できました。それはとてもおそろしかったですが、おれはうっとりとしてもいました。おれはあちらこちらからながめて、おれの記おくにある兄さんのものとよく見比べました。おれはひどく真けんでした。ほんの少しだけでも、おれのもう想が本物の感覚として味わえるような気がしたからです。
 仕上げに岩のとんがりをこすってなめらかにしました。おれの目には、かべ穴からそれだけをつき出てきたかのように、兄さんの大きなものが、見事に立ち上がっていました。
 おれはもうすっかり興奮して息を切らしていました。おれのものも、今からなぐさみ者にされるつみを犯したもののように、弱々しく立ち上がっていました。ゾクゾクとしました。おれはもう勇かんたる部族の長たるべき者としてふさわしくないことをしてしまった。だから、ちょうばつとしてみんなの前でおしりにそれを入れて欲しいと思いました。そしてみんなから軽べつの眼差しを受けたいと思いました。
「お前は落ご者、おろか者めだ。だからおれがばつをあたえてやる」
 兄さんの声が聞こえました。頭部の編み上げのようなうろこがきれいな音をひびかせるのが聞こえましたが、それとは逆に、兄さんの声はとても冷ややかでした。舌を打って、ならず者になったおれをあざけるように見つめています。おれはがけからつき落とされたような絶望と、兄さんにおれのことをばっしてもらいたいという欲望で頭だけでなく、体までもいっぱいでした。
「早く、ケツを出しな」
 おれは進んで四つんばいになって、許しをこうようにしっぽを上げておしりをつき出し、勝手にヒクヒクとふるえるおしりをそっと近づけました。ささるような痛みに、思わず夢からさめそうになってしまいそうでした。どんなに形を近づけても、石は石でしたがそんなことはとうにわかりきっています。でもカラダはすっかり発情し切っていたし、その狂った気持ちはどうにもなりませんでした。自分でおしりを平手で打って、おしりを両手でぐっと開いて、先たんをおしりの中に受け入れました。
 深く息をはきながら、しばらく石の先っぽにくすぐらせるようにして、穴を広げます。おれは前方に視線を集中しました。だれがなんと言おうと、背後にはあこがれの兄さんがいて、あわれなおれをその正義の鉄ついでばっそうとしているんだ。そう思いこむことで、こんな石でも、みるみるうちにおれのおしりの中に入りこんでいきました。
「けっ」
 あざける声がしました。あんなに心も健やかな兄さんでも、こんなことを言うんでしょうか? そうであって欲しくないし、そうであって欲しいと、素直におれは告白します。
「あっさり収まっちまったぜ。お前、ケツしか取りえがねえんだな! おれとしたことが、見こみちがいをしちまったか!」
 おしりの中はとても冷たかったです。まるで氷を中につっこまれたみたいでした。それに、受け入れるだけでもいっぱいいっぱいの大きさで、しばらく動くことすらできませんでした。そのままの姿勢を保って、片手でおれのものをさわって気持ちを高めながら、おれはゆっくりとこしを前後させていました。
「だらしねえお前を、おれがたたきなおしてやっからな! ありがたく思えよ、ジャランゴのクズ!」
 深くこしをつっこむと、大きなものがおれをつらぬきました。おしりの中のおくの辺りがつかれると、おれは一ぴきで大声を出して気持ちよくなりすぎて、ほら穴によろこびのさけびをひびかせてしまいました。周りなんて何も見えなくなっていて、おれのこしは動きを早めていました。おれと、後ろにいる兄さんだけの世界にいるつもりで、遠りょなくおれのおしりにばつをあたえてもらいました。ああ、もっと激しくついて欲しいっす兄さんと、おれはもうそのつもりで、さけんでいました。
「言われなくても、やってやるよ!」
 興奮して、おれのこしがくるったようにうねりました。おしりいっぱいにつめこまれたものは、痛みがなくはないけど、とても気持ちがよかったです。兄さんの大きなものなら、どんなに乱暴されて、おしりがおかしくなってしまってもいいと心から思いました。むしろ、おれのなんかぶっこわして、おれをダメにしてほしいです兄さん! と心の中で何度もさけびました。
「ほら、いけっ、ほらほらっ!」
 う゛っ、うれじぃです、おれ、気持ぢぃです、おしりがとても気持ちいいでずぅ、とどめをさすように、あらんばかりの力をこめてこしをくねらせたし、おれのものをさわる手もくるったように動きを早めました。体の中が燃え盛って、火が出てしまいそうなくらい、おれはどうかしてしまっていたのでした。生まれたてのドロバンコが必死に立ち上がろうとするように、おれは激しく全身をふるわせながら、すさまじい気持ちよさにひたっていました。
 ああ、さけびながら、おれは出しました。おれの中にたまりにたまった、兄さんへのありとあらゆる想いがぶちまけられて、ほら穴の地面を真っ白くしてしまいました。しつこくつき続けたおしりのおくの辺りもドクドクと強れつにうずいています。打ち寄せる波みたいに何度も押し寄せてきて、いつ収まるともしれませんでした。
 ううっ、兄さあんっ、おれ、やっぱりダメです、気持ちよさがおを引きながらも、白いものをはき出したおれはすでにいんうつな気分に落ちこんでしまいました。こんなことをするために、おれはどれだけの貴重な時間を無だにしてしまったのだろう。その時間をもっと、たんれんに使うことだって当然できたはずなのに。だ落もいいところでした。
 決して後ろを見ることなく、その大きなものからおしりを引きぬくと、お腹が白いものでよごれるのも気にせず、おれはその場にへたりこみました。まんじりとすることもなく、目とおれのものとおしりからだらしなく白いものを垂れ流すのも気にならず、グチャグチャな思考を頭の中でめぐらせていました。白いものの鼻をつくにおいだって、なんとも思いませんでした。おれ、兄さんのこと愛してる、ダメなやつだから、もっと、いっぱいお仕置きして情けなく気持ちよくさせてほしいっす兄さんっ、とおれはつぶやきました。
 おれはとてもざんげしたい思いなのですが、それからというもの、おれは毎晩、兄さんと兄さんのもののことを思いながらおれはおしりを気持ちよくしていました。慣れというのは実におそろしいものだと思いますが、おれはすっかり兄さんにお仕置きを受けているつもりでこしをふりました。とても気持ちよかったですし、兄さんからしった激れいを受けているような気がして、おかしなことではありますが、修行への気持ちも高ぶったものでした。ですが、今から思えばこんなことはあまりにも言い訳に満ちていて、おれは本当のことを見ておらず、ただおれが気持ちよくなればいいものとばかり考えていた、つみ深い一ぴきのあわれなジャランゴに過ぎませんでした。
 カプ・ブルル様はそんなおれに怒ってばつをあたえ、ある日の夜に、おれがまた兄さんのものでおれのおしりをなぐさめてもらっていた時に、あろうことか、酒によったバクガメスをおれのいたほら穴へとけしかけさせたのです。こしを熱心にふっていたおれは、バクガメスと目が合い、バクガメスは目を丸くしましたが、すぐにおもしろいものを見たとばかりにゆがんだ表情を見せました。
「へえ、修行一筋の頭でっかちかと思ってたが、岩の出っ張りを張り型にアナニーったあ、ずい分特しゅなプレイしやがって。かくれホモってやつか、へへへっ、ジャランゴ君もすみに置けねえなあ?」
 おれは固まってしまって、岩の出っ張りをおしりに深くいれたままの姿勢でいるおれのことをおもしろがっているバクガメスのことをまじまじと見ていました。おれのものがたちまちにして小さく縮こまりました。兄さんのものとばかり思いこんでいたそれは、もはやただの岩のかけらでしかなくて、おれのおしりの中をひんやりと冷やして、おしりの中がきゅっきゅっと引きしまりました。
「ま、おれは何も言わねえぜ。好きな相手がいるんならおれにでも教えてくれてもいいんだぜ? 誰にお前のケツを犯してもらいたいんだ? ええ? そんなもんじゃケツがボロボロになっちまうよ。なあ、よかったらおれのもの貸してやるけどどうでえ……」
 ニヤニヤとしながら近寄ってくるバクガメスに、おれは気が動転してしまいました。にわかに立ち上がるバクガメスのすさまじいそれを見て、あわててただの岩をおしりからぬいて、ぬけたこしを気持ちだけで起き上がらせて、別れのあいさつをすることもなく、頭は真っ白のまま、ほら穴を飛び出し、ホテリ山をかけ下りました。カプの村を走り過ぎ、ヤレユータンのいたエーテルハウスもかけぬけ、流されてきた海岸に何も考えずに飛びこんで、一心不乱に、逃げるようにウラウラ島を泳ぎ去りました。もはやカプ・ブルル様のことも、実りの遺せきのことも、あのうらめしいワルビアルのことも、それに兄さんのことだって考えるひまはありませんでした。

11 アーカラ島の出来事、とりわけ女王様とのいきさつについて語られる [#5cvpuU8] 


 ああ、ポニの大きょう谷のみなさん、おれは兄さんのことを愛していました。ですが、それはよこしまな愛し方でした。だからそんなおれを兄さんにばっしてもらいたいとおれは願っていました。どれだけ自らをはじ、心の中でざんげしたことでしょう。兄さんのものをおしりの中につめこまれていると、たまらない気持ちとともに、このよこしまな思いも改まるのではないかと思ったのはおれに単なる独りよがりでした。おれはまだ本当のことを、カプ・レヒレ様、カプ・コケコ様、カプ・ブルル様があたえたおそろしいばつの意味を知らずにいたのでした。
 おれは無我夢中で夜の海を泳ぎました。ただ島にポツポツと灯る光をたよりにしてひたすら泳いだのです。おれの頭の中にあったのは、どこの島へ向かおうというよりは、ただのろわしく、いまいましいことばかりだったウラウラ島から遠く離れました。おれはあまりに興奮し過ぎていて、海を泳いでいるのか、空を飛んでいるのかもわからず、どちらでも変わらないような気持ちでいました。
 いつの間にか日はのぼり、空は明るくなっていました。おれは浜辺にたどり着くと、そこがどこかもわからないままにぐったりと波打ち際にたおれました。ほっぺたにナマコブシがまとわりついてきて気持ち悪いのを我まんしながら、おれはしばらく波の音を聞きながらぐっすりと体を休めることにしましたが、目が覚めた時にはおれはちがう場所でねかされていました。たおれたおれを見つけた近くのヒトたちによって近くの大きな建物へと運ばれていたのでした。とても広くて、キラキラとしたところで、そこはハノハノリゾートホテルという場所だとおれの様子を見に来ていたニャースに教えてもらいました。おれはアーカラ島にいました。本当はウラウラ島の前に来るべきだったところへ、ようやくたどり着いたのでした。
 アーカラ島のヒトたちは相変わらずやはり修行の旅に出ているおれのことを優しくもてなしてくれました。ハノハノリゾートホテルでふるまわれるごち走はとてもおいしくて、むやみに動かしてつかれた体がすぐに回復したみたいになり、表のプールという水をためたところのそばに置かれたものに横たわっていると、とても心地よくておれはしばらくうとうとと眠ることができました。さっきおれがたどり着いた浜辺では軽い運動としてナマコブシを海に返していると、メレメレ島のルガルガンのことを思い出しました。一しょにメレメレの浜辺でこのようにしてナマコブシをからかって遊んでいたからです。あいつはどうしているだろうと自然と考えたりもしました。
 そんなことをしているうちに、島渡りのつかれも取れてきたのでおれはアーカラ島をめぐることにしました。ホテルでお世話になったニャースからこの島の歩き方は教わってもらって、あとは兄さんがおれに話してくれたことの記おくをたよりにしました。ディグダがほったという長いほら穴をぬけた先の命の遺せきを訪ねてカプ・テテフ様においのりをしました。ウラウラ島での過ちについておれはうそをつかず、素直にカプ・テテフ様に告げて、心からざんげし、過ちを乗りこえて立ぱなジャラランガになれるように、すがるような思いでおいのりしました。
 おいのりを終えると、おれは島一番の大きさであるヴェラ火山を目指すことにしました。そこが修行のきょ点としてふさわしいのは言うまでもありませんでした。と中オハナタウンの牧場のミルタンクがおいしいミルクをふるまっていましたが、おれはそそくさとその前を歩いて、にぎやかなロイヤルアベニューをゆうわくに負けないように素早く通り過ぎると、ヴェラ火山への入り口がありました。辺りの地面は赤く、踏みしめるとほんのりと温かい気がしました。山のてっぺんからはほかほかと大きな湯気が立っているのが下の方からでも見えました。
「あれっ、何か用すか?」
 ほれぼれとヴェラ火山をながめていたおれに足元から声をかけてきたのは、一ぴきのヤトウモリでした。灰色の体に、何か黒い布でもかぶったように黒い頭からは興味深そうにおれを見つめる横に長い目が見えました。背中からしっぽには赤い模様が血のように流れています。おれが何かを言い出す前に、ヤトウモリはまるでおれが言うことはわかっているとでも言いたげに話し始めました。
「あ! 火山に上るんならおれが案内してあげますよ。おれ、ここに住んでるし、ヴェラのことならなんでも知ってるっすよ? ね? ほら、せっかく来たんだから素通りすんのはつまんないっすから、ねっ? ほら、ほら! おれに付いて来てって!」
 まくしたてるようなヤトウモリの勢いにおれは押されてしまって、そのまま腹ばいになって進むヤトウモリの後ろを付いて歩くことになってしまいました。火山のごつごつとした岩の道をものともせずにするするとはって進みながら、ヤトウモリは時折おれが付いてきていることを確かめるためにふり返りつつ、ずっと話し続けます。
「へー、ジャランゴ一ぴきで? ってことはポニ島からわざわざ? ここまで? つまりあれすか、島めぐり? ジャラランガに進化するためにするってやつ? マジで? あー、じゃあおれ初めて見るっすよ。うっわー、そんなやつに会えるなんてスゲーうれしい。なんっつーか、メチャクチャ強そうな体っすね。ちょっとさわってみてもいいすか? スゲー、カッチカッチですやん。チョーイケメンってこういうのを言うんすねえ。ねー、そんなカッコいいなら、あっちこっちでモテたでしょ? メスなんかみんなメロメロになっちゃったりして? あれ? ちょっと照れちゃってる? も、もしかして、そういうの経験なし? えー! そんなムキムキで『ドーテー』なんて、いやーストイックっすねえ! でも、おれからしたらマジでもっ体ないと思うっす。立ぱなオスになるんなら、やっぱえっちなこともたしなまなきゃ、一度きりの命なんだから、ねえ?……はははっ、首かしげちゃってえ、『ドーテー』って言葉がわかんないってさすがにヤバいと思うっすよ? いやー、初々し過ぎて逆におれがドギマギしちゃうなー」
 ヤトウモリはおれに口をはさませることは一切させてくれませんでした。そうしてヴェラ火山のてっぺん辺りまでずっとしゃべり続けていたので、おれは困わくしてしまうほどでした。そんなに口を動かす者がいたなんておどろくべきことに思えたのです。とはいえ、なんだか手慣れたヤトウモリのじょう舌のおかげで、坂道を上って、ほら穴を通って、火山のてっぺんまではあっという間でした。そこには、メレメレ島のリリィタウンにあったあのとう技場によく似た祭だんがあって、ガラガラたちが骨に青い炎を灯しながらおどっていました。
「あっ、ちょうどよかったっす!」
 二本足で立ち上がってガラガラたちを見たヤトウモリは、みょうにウキウキした様子でキョロキョロと祭だんの周りを見渡しました。火山のてっぺんではあちこちの岩場から湯気が多くこく上がっていて、近づくとそれだけであせが体から流れてきました。そんなところでさらに骨に炎を灯しておどり続けるガラガラたちの姿は、おれよりも一回りも小さいのにたくましい体つきをしていて、一目でその強さもうかがいしれたので、ぜ非とも手合わせしたいと思わせました。そんなガラガラたちにヤトウモリは軽く頭を下げてあいさつをすると、そのまま何かを待つように立ち止まりました。
「ま、これからいいことあるっす、から」
 にやりとして、何がおもしろいのかはわかりませんでしたが、ヤトウモリはしのび笑いをしていました。おれもだまってあぐらをかいて、ガラガラたちのおどりを見物しながら待つことにしました。青く燃える骨をふり回しながら、じん形をひっきりなしに変えながらおどる姿はとても美しいもので、とにかく思いなやみの多いおれの心をなごませてくれました。兄さんの「ブレイジングソウルビート」みたいなたましいに近いものを思い出させて、すごく感動してもいました。ほんの少しの間ではありましたが、初心の気持ちに帰ることができました。
 物かげから音がして、そちらの方へふり向くと何か細長いかげがおれの前に現れました。まるで水みたいにするっとおれの方へとやってきたのは、横にいるヤトウモリが大きくなって、背たけがおれと同じくらいに伸び、体はすらりとして、うでや足がしなやかになった一ぴきのポケモンでした。そばにいたヤトウモリの目がそれがいる方へと向くと、すぐさまその足元へとかけ寄って行き、その時に今やってきたのがエンニュートだとわかりました。口を開くや否や、ねえさん、とヤトウモリはさけんで、おれに聞こえないように小声でなにかを話し合っていました。なんだか兄さんのことが思われました。祭だんのガラガラたちはまだおどり続けていました。
 エンニュートがおれのことをちらりと見ると、にっこりと笑いかけましたが、その表情にはなんだかドキドキさせられました。させられていると言った方がいいかもしれませんでした。少し姿勢を低くして、こしを左右にゆらしながらおれの方へ歩いてきたので、おれは思わず立ち上がって、背筋をピンと伸ばしてしまいました。
「こんにちは」
 首を少しかたむけながらあいさつをされたので、おれもあいさつを返しましたが、声が上ずってしまいましたが、それがかえってエンニュートにいい印象をあたえたようでした。ちらりと横目で祭だんを見ましたが、ガラガラたちはおれやエンニュートのことはお構いなしに体と心をふりしぼっておどっています。
「ここまで来てずい分つかれちゃったでしょ。一ぴきで旅をしているんですって、えらい。ジャランゴなんてめっ多に来ないから、会えてとてもうれしい。ねえ、ここじゃ暑くていやだから、私のところへ寄って休んでいかない?」
 おれはエンニュートのことをまじまじと見つめました。むらさき色をした胸はほんの少しふくらんでいるように見え、その胸やお腹からまたにかけて、もも色をした不思議な模様がついていましたし、両またを大きく開いた姿勢で立っていたので、いやでも目に入って来ました。首から背中、背中からこしにかけてのくねり方も、どこかおれを落ち着かなくさせましたし、しなるような長いしっぽや、エンニュートから放たれるただならぬ香りのおかげで、おれの心臓は理由もわからず高鳴っていました。
 エンニュートはずっとそばにいたヤトウモリにおつかれ様とだけ言いました。そして棒立ちしたおれのこしにその細く長い手を回すと、そのままおれをどこかへ連れて行こうとするようだったので、おれもされるがままに歩きました。
「じゃあ、おれはここで。ねえさんにかんげいされるなんて、あんた、やるじゃんか!」
 ニヤニヤしながらエンニュートとおれを見送るヤトウモリの表情は、どこかうさんくさげでしたが、その意味をいちいち考える余ゆうはその時のおれにはありませんでした。
 エンニュート。あのバクガメスとバンバドロの二ひきが話していたことをおれは考えました。おれと体を寄せ合いながら歩いているのが、女王様と呼ばれるエンニュートなんだろうか、おれが兄さんのものでおれのものを立ち上がらせるのと同じように、バクガメスが自分のものを立たせているという女王様なのだろうかと。おれはドキドキはしてはいましたが、まだバクガメスが言うようにはおれのものは立ち上がっていませんでしたが、きん張もしていたので、そこまで気にはなりませんでした。
 どこかへ向かうと中で、ついおれはエンニュートにあなたは女王様なのですかと尋ねてしまいました。エンニュートは一しゅんあ然とした表情をした後で、にこやかに笑いました。
「なんだか、よその島では変なうわさが立ってるらしいけど」
 エンニュートは笑顔を少しもくずさずに言いました。
「私はただヤトウモリたちの群れを率いているだけ。私たちの社会はメスが強いから、エンニュートになれるのは私みたいなメスしかいないし、そのメスだって数はそんなに多くはないのね。事情を知らないと、話が一人歩きして、変態なオスたちがエンニュートはいん乱とかどんなオスにでも手を出すとか勝手なことを言ったりするの、ヤな感じ」
 そう話している間にも、エンニュートの細長い指におれの頭の大きなうろこや、こしのくびれたところをなでられて、そのねっとりとした指で体をさわられるとなんだかくすぐったくておれはソワソワして、はずかしさでおれの体はますます固くなって熱くなりました。おれはエンニュートと、ヒトが通る道とはちがうけわしい山道を並んで歩いていき、向かった先には小さなほら穴でゆったりとエンニュートはおれの目の前で横になりました。
「さあ、ここ、ここ。せまいところでごめんね。でもいいところだから、横になって、ゆっくりしていって」
 ほら穴の中はせまくて、エンニュートとおれが入るだけでいっぱいになりそうでしたし、横になるとおれとエンニュートの体がぴったりとくっつきそうになるほどでした。おれも言われるがままに横になると、エンニュートのなめらかな黒とむらさきのはだがすぐそばにあって、はだからはあせとはちがう不思議な香りが、おれの鼻につんときました。ほんの少しあせばんでぬれているはだは、取ってきたばかりのおいしそうな木の実のように見えました。
「ねえ」
 エンニュートは横たわったままおれの耳元でささやいて、細長いうででおれのお腹をやさしくさすりました。
「あなた、『ドーテー』らしいわね。ずい分と真けんに修行にはげんで立ぱな体をしてるのに、かわいいっ。でも、立ぱなオスになるんなら、いつまでもうぶじゃダメなんだから。あなたはすごくたくましいオスだから、私が手伝ってあげる、特別ね」
 そう言って、エンニュートはおれを包みこむようにぎゅっとだきしめてきました。やわらかいはだがおれのガッチリとした体に水のようにくっついて、おれは頭がぐるぐるしました。エンニュートの体の温かさがそっくりおれの体へと伝わってきて、不思議な香りと一しょにだきしめられるおれをぼうっとさせました。生を受ける前に卵にいたころもこんな感じだったのかと思わせる心地いい感じでした。
 おれはされるがままにエンニュートと口を押しつけあいました。ふ段食べ物を食べるところがくっつき合わさると、エンニュートの細長い舌がおれの口に入って来て、口の中をいっぱいなめました。エンニュートが急かすような眼差しでおれを見たので、おれも真ねをして舌を動かすと、おれはエンニュートと舌をなめ合う形になりました。だき合って、口と舌をくっつけ合わせながら、エンニュートのほっそりとした指がおれのからだをあちこちさわって、なでさすってくると、おれの体はピクピクしてきて、熱気と不思議な香りも合わさって、もえるように熱くなりました。
「ほら、もっと、もっと」
 急かされるように、おれはエンニュートのひょろひょろとした体をあちこちとさわりました。その体は、オスであるおれとはちがって、ガッチリとはしていない代わりに、すべすべとしてやわらかくてきれいでした。おれのつめがさすようにはだをつかむと、エンニュートは声を高く上げて、ゆっくりと息をはきました。おれはそれをくり返し、何度もエンニュートにため息をつかせていると、相手の体もピクピクとうずいて、くねくねとこしを動かし始めました。その動きは思わずおれをきん張させました。おれが兄さんにばつを受けていると想像しながらこしをくねらせた動きも、そんな感じだったのだろうと思いました。
 エンニュートは息を激しくしながら、上体を起こすと、いきなりおれのお腹へとその長い顔を押し当ててきたので、おれはつい首を後ろにかたむけてさけびました。さっきまでおれの口の中に入れた舌を今度はおれのお腹の、おれのものが立ち上がるところへ伸ばして、細かく動かすと、横たわったままの姿勢で体をのたうち回らせて気持ちよくなりました。ぐちゅぐちゅという音がせまいほら穴の中にひびいていました。エンニュートの口で熱くさせられたおれのお腹から、おれのものが立ち上がってくるまでにはそうは時間はかかりませんでした。おれはいろいろなもので頭がぐるぐるしてぐったりしていたので、立ち上がってくるおれのものの感覚がびん感に感じられました。
「素敵」
 すっかり飛び出して、もわっとした外の空気にふれたおれのものを見てエンニュートはうれしそうに言いました。
「こんな素敵なもの、久しぶりに見たあっ……」
 はっと息をはきながら、感激したような口ぶりでエンニュートはぐったりとしたおれの体を起こしました。おれは横たわっていただけなのに、すっかりあせだくになって、頭もくらくらしてしまっていましたが、起き上がっておれがびっくりしたのは、エンニュートがまたを大きく開いて、自分のお腹をその細長いうででさわっていて、さらにはその指さきを中へと入れていました。ゆっくりと指をぬくと、エンニュートのお腹がポニの大きょう谷で食べていたビアーの実みたいにぱっくりと開いていました。そこがふくらんだり縮んだりしてドクドクと動かしながら、エンニュートは興奮した口ぶりでおれにそこを見せつけました。
「ああっ、あなたのそれ、見てるとすっごく興奮しちゃう……欲しい、欲しいなあっ。私に、あなたのそれを、ちょうだいっ!」
 おれは立ち上がらされたおれのものをぶら下げながら、エンニュートがさそうようにこしをくねらせながら、おれに近づけてくるその部分をまじまじとながめました。ここが、あのバクガメスとバンバドロの話に出てきた女王様のあそこなのだと思いました。バクガメスはそのことを考えて自分のあのものを立たせていました。一方でおれは兄さんのものを考えながらおれのものを立たせました。だとすれば、おれもエンニュートのあそこによって、自分のものを立たせ、白いものを出すことができれば、おれが兄さんに対していだくよこしまな思いをやわらげることもできるかもしれない、そのようなことをあのしゅん間におれは考えていたのだと思います。

12 引き続きアーカラ島での悲喜劇が語られる。卒業と旅の終わりについて 


 おれはしっかりと立ち上がっていたおれのものをしっかりとにぎりしめました。おれにはまだわからないことこそたくさんありましたが、このおれのもので、エンニュートのあそこの中に入ればいいことくらいはわかりましたし、そうすることによって、おれは立ぱなオスに、立ぱな兄さんみたいなジャラランガになることができるのだし信じて、おれ自身にもそう言い聞かせました。
 エンニュートが細長い指でずっといじっていたあそこは、せまいほら穴にもひびくようなびちゃびちゃという音を立てていて、しかも入り口は大きくて、小さな木の実くらいならすっかり入ってしまうのではないかと思えるくらいのものでしたし、そこからはとろりとしたものがあふれ出していました。おれがまじまじと見つめていたから、エンニュートはあそこを両の指で押さえてさらに左右に大きく開いて見せると、まるでその中にたくさんの小さな何かがうごめいているかのようにピクピクしていておれをおどろかせました。
「女王様だとかなんとか、バカなオスたちは言うけど」
 エンニュートはあえぎながらおれに話して聞かせました。
「私、誰にでもまたを開くようなメスじゃない。女王としょう婦はちがうの、わかる?……開いてもいいけど、それならオスが破めつしちゃうくらいの見返りを求めてやる。だけどあなたは別。一目見て、もう体が興奮して、だかないと気が済まなくなっちゃった。そんなオスに出会えることはなかなかない。そのために、私はきれいなメスであり続けてる。ねえ、お願いだから、私と一つになって?」
 そう言ってエンニュートはあお向けにたおれて、大きくまたを割るように開いた細長い足と足の間のあそこがいっそう広く見えるようにしました。エンニュートのむらさきのお腹が激しい呼吸でふくらんだり縮んだりしていて、苦しげに身をよじらせているようで、おれはどうしても放っておけない気にさせられるのでした。
 にぎっていたおれのものはまだしっかりと固かったです。おれは意を決しました。このおれのものをエンニュートの中に入れて、ぐちゃぐちゃになっていた兄さんに対する思いを、きれいさっぱり忘れるとまではいかなくても、おれがそれだけじゃないってことを行いで示そうとしたのです。
「ああっ、早くっ、欲しいっ、もうダメっ」
 と息も絶え絶えでさけぶエンニュートのあそこへ、おれはエンニュートのことをおそるおそるそっとだきしめながら、いよいよおれのものの先っぽでふれました。おれのそれはエンニュートのそこに吸い付くようにくっついた、その感しょくはあまりにもよく覚えています。まるでそこが口であるかのように、おれのものに食いついてきて、熱かった体はますますほてって、全身の力が思わずぬけてしまいそうになりました。あとは、おれがその立ち上がったままのおれのものを、こしを前へとつき出してエンニュートの中へさしこめば良かったのでした。
 ですが、ポニの大きょう谷のみなさん、カプ・テテフ様の気まぐれによって、おれはそれをすることがかないませんでした。何が起こったのかといえば、あまりにもおろかなことだとはつくづくわかってはいますが、おれがエンニュートの中に踏みこもうとしたそのしゅん間、おれの目の前に兄さんが現れました。兄さんのたくましいうろこ、うで、胸、お腹、足がおれの目の前にあり、そしてお腹の下からはとても立ぱとしかたたえようのない兄さんのものが修行を終えた夜に見た三日月のように立ち上がっていたのです。
 おれはあ然として、体の動きをピタリと止めてしまいました。おれはそのまぼろしを頭を横にブンブンとふってかき消そうとしましたが、ダメでした。忘れようとすればするほど、見せびらかすように兄さんのものはおれの目の前、鼻先につき出されて、おれをぽうっとさせずにはいないのでした。おれの目に浮かんでくる兄さんの姿はとてもオスらしく、おれの心を熱くさせ、今すぐにでもおれの体を預けたいとさえ思ってしまいましたが、実際におれの目の前にいるのは兄さんではなくエンニュートなのでした。
 おれはエンニュートのそこにおれのものをさしこむよりも、兄さんの体とふれ合いたかったのだとその時思いました。それでおれはよく合点がいったのです。おれは兄さんをあらゆる意味で好きなのだと。兄さんとして尊敬しているだけではなくて、それ以上に、兄さんの体と一つになってしまいたいという強い気持ちがあったということに。おれはウラウラ島で、岩のとっ起を兄さんのものに見立ててばっしてもらっていましたが、それはばっすることなんかではなく、おれはおれをいつわっていただけであって、おれは兄さんのものでおれのおしりを気持ちよくさせて欲しかったのに過ぎなかったのですし、兄さんに心だけでなく体も愛してもらいたかったのです。
 全てはおれがうっかり兄さんのものを見てしまったことから始まったことでした。おれはその時にはその意味をよく知らずにいましたが、修行の旅をする中で少しずつそのことがなんなのかをわかるようになってきたのです。ワルビアルのものにおしりをいれられそうになったことで、おれはそのことに気づくように仕向けられたのだとも思います。ものをおしりに押し付けられることは、本当はいやではなかったのです。でも、ワルビアルのものよりは兄さんのものの方を先にいれてほしかったのだと思います。それを考えたとたんにおれはもうダメになってしまいました。エンニュートのあそこになんて、おれのものを入れたくはありませんでした。これは、おれの本能としかいいようのないもので、これを否定すれば、おれはおれでなくなってしまうほど重大なものだったのです。
 あまりのことに、おれのものはしゅるしゅると縮まって、ドヒドイデのしょく手のように垂れ下がってしまいました。あお向けになっておれをさそっているエンニュートのなめらかな体も、あせと香りが混じり合ったにおいも、兄さんのあの素晴らしい体とそのものに比べたら、取るに足りないもののように思えてしまいました。
 垂れ下がったおれのものを見て、エンニュートはだまりました。おれは何も言いませんでした。だまり合っている間、息がつまりそうな熱さとにおいでした。時がとてもゆっくりと流れているように感じられました。おれはいたたまれなくなって、おれのものを中にしまい、ゆっくりと立ち上がって、そそくさとその場を立ち去ろうとしました。
「ああ、残念」
 エンニュートは肩を落として言いましたが、さっきまでとはちがって、その口ぶりはとても冷ややかで、おれの心はぞっとさせられました。
「前にここに来たジャランゴはいっぱい私を楽しませてくれたのに。せっかくいい体をしてるのに。期待はずれだったわ、じゃあね」
 おれは顔を真っ赤にしてそのせまいほら穴から逃げるように飛び出しました。はずかしさからだったのか、くやしさだったのか、それとも他のものか、それら全てが混じりあったものだったのか、おれにはよくわかりません。ですが、エンニュートの口から、前に来たジャランゴのことが出てきたしゅん間に、おれはいてもたってもいられなくなりました。ああ、兄さん、おれは兄さんのことを心から尊敬し、深く愛してもいるのに、このことを教えてくれなかったのは、あまりにもひどいではないですか! いや、ちがいます、ごめんなさい、おれはどうしてもこの時のことを思い出すと興奮して、うまく物事を考えることができなくなってしまうのです。
 ちがいます、やはり悪いのは、つみ深いのはおれの方だったのです。おれはエンニュートのその一言で高いがけからつき落とされたような気持ちになりました。ああ、兄さん。兄さんはあのエンニュートをだいて、兄さんのものをエンニュートの中に入れて、しかもたっぷりと楽しんだのですね。ですが、おれはそれをすることができませんでした。おれはエンニュートの体よりも、兄さんの体をあの時強く欲してしまったのでした。おれのものがそれを証明してしまいました。兄さんができたことをおれはできなかった、そのことがおれを深く絶望させました。
 それだけではありません。兄さんはエンニュートをなんのためらいもなくだいたのですから、兄さんはおれのようなぐちゃぐちゃした気持ちをもってはいないということは間ちがいがないと思いました。だからたとえおれが兄さんのことを愛していて、兄さんに深く愛されたいと願ったとしても、それはかなわぬことなのでした。兄さんはエンニュートをふ通に愛することができるからには、おれを愛そうなどとは夢にも思わないでしょうから。おれはかなわぬ思いをいだいて、しかもそれに今の今まで気づかず、目を背けさえしていたのです。
 おれにとっての師であり、オスとしてのあこがれである兄さんに、おれはウラウラ島のバクガメスがエンニュートにいだくようなものと同じよこしまな思いをいだいていることは、もはや否定しようがなく、おれはそれを受け入れざるをえませんでしたが、そのことは、おれがもはや立ぱなジャラランガになるべき資格がないということでもありました。だって、もしポニの大きょう谷に戻ることができたとしても、おれは未来のジャラランガになるべきジャラコたちに生をあたえるためには、メスのジャラランガを愛さなければならないのに、おれにはとう底そんなことができるはずもないのですから。それまでの修行が全て無だになってしまったと感じて、おれはとても悲しかったです。
 おれはさっきまでいたヴェラ火山のてっぺんへと走っていました。おれにわかるところはそこだけでしたし、道がわからなくても、高いところへ行けばてっぺんに着くことは明らかだったからです。とにかくおれは必死に走って、息を切らしながら、お腹のわきが痛くなってくるくらいに走りました。
 ヴェラ火山のてっぺんにたどり着いた時、そこにある祭だんには、ヤトウモリがまだいたので、おれはヤトウモリの前に飛びこみました。
「わっ! マジビビるわあっ!……あれ? なんすか、もう戻ってきちゃったんすか? さては、ねえさんのチョー絶テクに我まんできずに逃げ出しちゃったってとこ? いやーウブっすね。さすがに、それはウブじゃないすか?」
 ヤトウモリはあきれたような口調でおれに言いましたが、それは全くちがうことだったのでおれは何も感じませんでした。しかし、小さいながらもヤトウモリの体を見ていると、同じオスとしておれは感じるものがありました。それにこんなところで、エンニュートのために働いて、いたいけで、かわいくて、なぐさめてやりたいと思いました。ああ、おれのものは、なんの助けも借りずともしっかりとおれのお腹から立ち上がりました。
「ひぇっ! ちょっと、ちょっと! あんた! こんなところでそんなもの見せちゃダメっすよ! わいせつ! わいせつ!」
 立ち上がったおれのものは、おれの弱い頭よりもしっかりとおれの意志を表現していると思いました。おれはおれのものの指し示す道に従うより他にありません、そう、感じていました。おれはいきなりこしをぬかしたヤトウモリのしっぽをつかんで、そのまま宙にぶら下げるようにしました。ヤトウモリの背中の模様は赤くぼんやりと光ってきれいでしたし、それがその小さな体をなまめかしく見せているようにおもいました。
「な、何するんすか! いやだっ、はなせ、はなしてええっ!」
 別におれは、このヤトウモリがおれの知らないうちに、勝手にエンニュートのところへ案内させて、エンニュートのあそこにおれのものを入れさせようとしていたことについては、何も気にしていませんでした。おれはエンニュートの相手をすることをこばんでしまい、その原因である兄さんにもこばまれたも同然なのですから、おれのこの気持ちをなんとかするためには、なんとしてでも代わりが必要でした。
 おれはまずはヤトウモリのしっぽの付け根のあたりをつめでいじりました。ワルビアルがおれのしっぽの付け根をいじった時の感しょくを思い返しながらいじると、すぐにおしりの穴は見つかりました。ヤトウモリがさわぐのも気にせずに、おれはそこをほじくるようにさわってみました。きゅっとひきしまるせいで、なかなか入りにくかったので、おれはつめをよだれでぬらしてから入れてみると、今度は少し中へと入りました。
「やだ、やだっ! なにすんだよっ。ざっ、ざけんなよ、わけわかんねーよ! ねえさんとヤれなかったからって、八つ当たりにも程があるだろうがよう! おれ、おれはっ……」
 うるさかったので、おれはしっぽをぎゅっとにぎってヤトウモリをだまらせると、つめをさらにヤトウモリの中へといれました。しばらくがん張ってつめを前後に動かしていると、いっぱいに入ってくれたので、おれは兄さんのもののおれのおしりをばっしてもらっていた時のように、ヤトウモリのおしりをおれのつめで全力でつきました。
「あっ! あっ! やだっ! やだっ! やめでっ! 助けてっ! ああああっ! ああああああっ!」
 おれ、ねえさんにもまだだかれたことないのに! とヤトウモリが泣きむせびながらおしりを気持ちよくさせられているのに、おれは不思議な喜びを感じていました。これはきっと、もしワルビアルにおれのおしりを気持ちよくさせられた時に、おれがさけんだにちがいないことであると思われたからです。実際、ヤトウモリの黒いお腹の下からはとてもかわいいヤトウモリのものが出てきていました。おれのつめをいやがる声にも、どことなく喜んでいるような気配が感じられたので、おれはどんどんおれのつめを動かして、ヤトウモリのおしりを喜ばせてやりました。すると、おしりの穴がゆるんできて、つめがもう一本入るくらいの大きさになってきたのがおもしろかったです。ワルビアルがやりたかったことが、今になっておれにもよくわかってきました。
 乱暴にヤトウモリを祭だんの上に組みふせると、おれは片手でヤトウモリの赤い模様のついたしっぽをつき上げて、おしりの穴が見えるようにして、そのままおれの立ち上がったものをそこへ近づけました。さっきエンニュートのあそこへ引っ付いたように、おれのものはヤトウモリのおしりにぺっとりとくっつきましたが、エンニュートの時とはちがって、兄さんのまぼろしはおれの目の前に浮かんできませんでした。
「あっ……そんな、うそだっ」
 ヤトウモリは絶望したようにそうつぶやきましたが、うそではありませんでした。おれはためらわずに大きくなったヤトウモリのおしりの穴におれのものを、おれのこしを思い切り前へつき出しながら入れました。ていこうするようにおしりの中が引きしまりましたが、むしろおれのものにとってはちょうどいいものでした。そのままさらにおくへとおれのものをさしこむと、やがて何かにぶつかり、おれのものはしっかりとヤトウモリの中に入りました。
「おれ、おれ、オスに犯されるなんていやだよっ……助けて、助けてえ、ねえさあん!」
 おれはだまって、こしを動かしました。気分はおれのおしりにものを入れている兄さんでした。ヤトウモリを気持ちよくさせながら、おれは兄さんになりきって、おれに見立てたヤトウモリのおしりの中でおれのものを動かして、気持ちよくなっていました。おれは兄さんのようなオスしか愛せないのに、それを知らずにメスのエンニュートと一つにさせようとしたのだから、ヤトウモリはばつを受けてしかるべきでした。おれはおれのおしりの中で自分のものを動かそうとしたワルビアルの気持ちがよくわかりました。
「あっ。ああっ。ああっ。ああっ。いぎゃああっ! うあああぅ!」
 たまらずにヤトウモリが首をふると、首の後ろの二本のふさのようなものがぴらぴらとはためきます。おれのこしの動きの合わせて、黒く長い口は開いたり閉じたりし、大声で助けを求めたりおれに許しをこうたりするかと思うと、ぎゅっと歯を食いしばって声がもれないようにがん張っていて、いたいけでした。ヤトウモリのおしりは外も中もナマコブシのようなさわり心地で、立ち上がったおれのものをしっかりと受け止めてくれていて、おれが息をはきながらこしをつき出してお腹とおしりを合わせると、我まんできずに高い声を出してさけんで、エンニュートよりも色っぽいように聞こえました。
 おれはすっかり、おれの本当の姿を受け入れて、楽しんでいました。エンニュートとできなかったことと、兄さんにはしてもらそうにないことへのまとまりのつかないおれの素直な気持ちをヤトウモリのやわらかしぷにぷにしたおしりにぶつけるのは、おれが思いもしなかったくらいにすさまじいものでした。こしをふるだけでは足りなくなって、おれはヤトウモリを背中からだきかかえて、全身ごとおれのものでつきさすように上下に動かすと、もうヤトウモリは声を出すことすら難しくなって、かすれた悲鳴のようなものをおれのものが入ったりぬけたりする音と一しょにあげていました。背中からしっぽに伸びる赤い模様が弱々しく灯っていてきれいに見えました。おれはおれをばっする兄さんを想像し、ハイナ砂ばくでおれをおそおうとしたワルビアルの気持ちを想像し、その二ひきにおしりの中をものでいじられているおれのことを考えて、とても興奮したような気持ちになり、さらに激しくヤトウモリの体を上下させると、頭の中に火花が走ったようなしゅん間の後に、ドロっとしたおれの白いものを、ヤトウモリのおしりの中に全部出してしまいました。 
「ああっ! はあっ! はあっ!  はああっ、はあっ。うっ。うううううっ! うっ」
 おれはうつろな頭をしながら、ゆっくりとおれのものを泣きじゃくるヤトウモリのおしりから出しました。ヤトウモリの黒いおしりのあなは真っ白なものでいっぱいになっていました。深いため息とともにおしりがふくらんでは縮み、それと一しょに、白いものがおしりから垂れてきます。ヤトウモリのおしりをさわると、モチモチとしてやわらかくて、もみほぐされたおしりの間の穴からおれが出した白いものがトロリとあわを立てながらゆっくりと流れていくのが、なんだかかわいらしいと感じました。
 ただ白いものをすっかり出し切ってしまったせいで、おれはなんだかぞっとした気持ちにもなりました。おしりの中に白いものを出すのはとても気持ちがいいことでしたが、その後にぐったりとしたつかれた感じと、おれは何をしているんだろうという真っ白な気持ちがおれをおそってくるのです。それに、おれはこうしたことによって、いよいよ兄さんのような立ぱなジャラランガになる道は絶たれたと強く感じました。おれは修行を続ける意味がないし、ポニの大きょう谷へと戻ることも許されません。だとしたらおれは一体なんなのだろう。どうすればいいのだろうと思いました。おれはおしりの中にたっぷりとおれのものをつめこまれて、まだおしりの中からそれを垂らしたままのヤトウモリをその場に放っておいたまま、ヴェラ火山をおりました。おれの修行の旅はそこで終わってしまいました。
 きっとポニの大きょう谷のみなさんも、おどろきあきれておれのことをなんておろかなのだろうと、あの日おれにかけた希望を何もかも捨て去ってしまっていることだろうと察しますが、おれは最初に書いた通り、おれの身に起きた悲さんな出来事を包みかくさずお伝えするために、この長いお手紙を書いたのです。ありのままのおれを示し、おれのことについてのあらゆる判断をみなさんに求めることが、おれにとっての未来の立ぱなジャラランガになるべき誰かにとってのつぐないになるのだと、おれは信じています。

13 最後に改めてポニの大きょう谷のみんなに許しをこい、けいぐという言葉によって長いお手紙はしめくくられる 


 ヴェラ火山の出来事でおれはおれがなんであるかを知り、なんでないのかを知りました。おれは兄さんのことを心も体も愛していていましたが、兄さんはおれの心しか愛さず、エンニュートの体を愛しましたし、おれではなく、オスでもないジャラランガを愛するのですから、おれは泣くしかありませんでした。おれはもう立ぱなジャラランガになることはできないし、そのためにがん張るわずかに残った気力も消えてしまいました。
 ああ、こうなるのはきっと神様たちの思しめしであり、おれへのばつであったのです。カプ・レヒレ様は真しにいのっていたつもりのおれのうそを見ぬき、カプ・コケコ様はおれの心を乱してウラウラ島へ流れるように仕向け、カプ・ブルル様はワルビアルをおれに差し向けておれのおしりと心を開くようにさせ、カプ・テテフ様はエンニュートとヤトウモリをけしかけておれがおれに絶望するようにさせました。しかしおれは決してカプの神様たちをうらんではいません。そんなことをして果たしてよいでしょうか? ああ、カプ・レヒレ様、カプ・コケコ様、カプ・ブルル様、カプ・テテフ様、おれはあなたたちがおれにばつをあたえたなどと言ってしまったのをお許しください。あれは決してばつではありません。だからといってめぐみでもありません。そのどちらでもなく、おれはただそれをそれそのものとして受け入れなければならないというそれだけです。ポニの大きょう谷のみなさん、そして心から尊敬する兄さんも、おれの言葉をお聞きください。そしておれのお話を最後までお聞きください。
 おれは頭が真っ白になって、アーカラ島を後にしました。おれは何も考えることができず、どこへ行こうとも思いませんでしたが、カプ・テテフ様はおれがどこへ行くべきなのかを知っており、そうなるようにおれの空っぽな体を導きました。太陽が海の遠くにしずむころに、おれはメレメレ島の浜辺にぼんやりと立っていました。左手にはテンカラットヒルが見えます。おれが島に着いて最初に見たあの建物もその時と変わりません。浜辺の向こうのゆるやかな坂も、遠くから聞こえてくるハウオリの街のヒトやポケモンたちのにぎわいも、初めてここにたどり着いた時と同じでしたが、おれの心だけはちがっていました。あの時ははやる気持ちでいましたが、今は何も心が高ぶることはありませんでした。遠くには、さっきまでおれがいたヴェラ火山が見えました。もっと遠くにはおれが上ることの決してなかったラナキラの山も見えました。ただ、ポニ島の方へふり返ることだけはどうしてもできませんでした。おれがジャラランガとしてそこに戻ることは決してないからです。
 ぼう然としたおれのことをカプ・テテフ様はカプ・コケコ様にお渡しして、今度はカプ・コケコ様がおれをしかるべき場所へと導きました。おれの足はゆっくりと動き、けわしい岩の道をこえた先にあるテンカラットヒルに向かっていました。ほら穴をぬけた先の、とても開けた場所で、草がいっぱい生いしげり、ぽっかりと開いた空は青空でも星空でもとてもきれいで、そこに住んでいる者たちのにぎやかな声や息がよく聞こえて、ここでたんれんをしていたなつかしい日々が思い出され、おれは涙ぐみました。おれはひざを地面について、意味もなくきたえてきた体をつっぷして、これまでのおれの生きてきた間に出会ったすべてのものにわびるように、頭を垂れてうずくまり、暗い気持ちになりました。とてもやりきれない気持ちでした。すっかり夜になって辺りが静まりかえったそこで、おれはもうなにをすることもできないし、する意味もないのだから、死のうとふと思いました。死ぬことでしかおわびをすることができないとその時のおれは思ったのです。思いのままにならないこんなおれなんてほろんでしまうがいいと、おれは心の中でさけびました。
 片ひざをついて、首を後ろにたおすと、真っ暗な空と星と月が見えました。つき出たおれののど仏に、おれの自まんだったするどいつめの先っぽでちょんとふれました。そのままグサリとつきさせば、おれのたましいはおれの体からぬけ出て、太陽へとのぼっていったことでしょう。おれはこの身をもって太陽のごくうであろうとしたのです。このしゅん間、間ちがいなく、おれはすう高なジャランゴでした。しかし、カプ・コケコ様はおれのそうした行いを許さず、おれはそれをかなえることができませんでした。のどを引きさき、切りさこうとしたおれを背中からそっと押さえつける感しょくがありました。おれを包みこむように温かくてくすぐったい感覚があり、それでいて少し骨張ったようにゴツゴツとしたものでした。おれのわき腹にやわらかくつめが食いこんでいました。見上げたおれの目には空と星と月の代わりに、大きく反りだった岩のようなものが見え、そのすぐ下には暗い中に赤く光る目が、おれの鼻先にありました。それはおれがメレメレ島で一番世話になったルガルガン以外のものではありえませんでした。
「久しぶりだな」
 おれのつめをおれののどからはらいのけて、ルガルガンはさらに赤と白の混じった毛をおれの体にぎゅっと強くだき寄せて、たてがみの固い岩みたいなところをすりすりとおれのうろこにこすりつけました。一しょにハウオリでマラサダを食べた時のようでした。
「だが、どうもいい再会、ってわけでもなさそうだな?」
 にやりと笑うルガルガンの表情を見て、おれは体の力がぬけて、そのまま体をひるがえしてそのふさふさとした胸に頭をうめて、勝手に涙が流れてくるのをこらえることができずに、大声で泣きました。ジャラコだったころに夜がこわくて大泣きしたときのような気持ちにそれはにていました。おれは何も言うことができないでいましたが、ルガルガンも何も言わずおれが涙を流すままにさせてくれました。顔をうずめながらおれは、ルガルガンの体の温かさを顔から体へと感じていました。ルガルガンは手をおれのこしに回し、なぐさめるようにおれの背中とこしとしっぽをなでました。おれが泣き止むまで、おれたちはそうしていたのでした。
 気持ちが落ち着いたおれが顔を離すと、ルガルガンの胸からお腹にかけてのさらさらとして白い毛がおれの涙でぐっしょりとぬれて、ぺったりとルガルガンの体にはりついて、きたえられたルガルガンの体の形がくっきりとよく浮かんで見えたので、おれはハッとしてまじまじと目をこらしました。体の無だという無だな肉はそこにはなくて、険しい岩はだのようにしゅんとしている体は、兄さんにはおよばないとはいえ、ですが兄さんの体を見た時におれの心で感じたのと同じものが、おれの体の中でわき立っているのを感じました。おれはまたルガルガンの体にたおれかかって、すがるようにルガルガンにだきつき、どうしようもいられなくなって、その体に長く口をつけました。
「そうか、そうか、わかったわかった」
 ルガルガンはやさしくおれに語りかけました。
「話したいことがあるんだな。ほら、聞かせてみろよ」
 切さたくました友の優しい言葉に心がほぐされて、おれはルガルガンにおれのここまでに起きた全てのことを打ち明けました。ルガルガンと別れた後におれに起きた信じられないことを全部です。おれが今ポニの大きょう谷のみなさんに手紙でお伝えしたいるのと同じことを、おれはルガルガンにも長い時間をかけて話して聞かせたのでした。おれが夢中になって話す間に、夜はますます暗くなり、月や星はもっとかがやきました。
 テンカラットヒルまで戻ってきたことまで話し終わって、おれはおぼれかけていたかのように激しく息をつきました。おれの舌はおれ自身もおどろくほどに回り、すらすらと言葉が羽根が生えたように出てきて、話しているおれがおれだという感覚もなくなりそうなほどでした。おれは何を話しているのだろうと思って、急にはずかしくなりました。おれは何もかもをルガルガンにさらしたのです。おれの心という心を裏返して見せたのです。ああ、でもルガルガンはそんなおれの長い話をだまって全て聞いてくれていて、おれが息をつくと同時に、ぎゅっとおれをだきしめ、しかもヴェラ火山でエンニュートとした時のように口と口を合わせ、さらに舌もなめ合わせてきましたので、おれはあ然としてされるがままになりました。
「にぶいな」
 口をよだれでいっぱいにして、激しく息を吸いたりはいたりしながら、ルガルガンは言いました。目はますます赤く光って、おれの顔や体をなめるようにきょろきょろと見ているのが感じられましたが、切さたくましてきた相手だからか、悪い気はしなかったのです。
「簡単なことじゃねえか。お前は『ホモ』なんだ。でも、見て見ぬふりをし続けてた。部族のためにさ。でも、とうとう限界が来ちまった。それだけの話、だろ?」
 ルガルガンは、おれが長い夜をかけて話したことをあっさりと言い表して、おれのこんがらがったおろかな頭を見事にすっきりとさせてくれました。おれがうすうす感づいていながら、おれがその言い方や話し方も知らなかったことを、ルガルガンはおれに指し示してくれたのです。おれはオスでホモで、兄さんのようなオスしか愛することができない身でした。でも、それを認めることのおそろしさのために、おれはその気持ちをおさえつけてきました。ですが、修行の旅をした中でおれにふりかかった災難と、その教訓によって、おれは気づかざるをえなくなりました。全ては「祭だん」であの日見た、兄さんのそれはそれはとても立ぱなものであり、おれが密かに思ったのはきっとその立ぱなそれでおれを愛してもらいたかったという、赤子のジャラコのあいまいな言葉のようななんとも判別のしがたい気持ちでしたが、そこからおそるべき物事の連なりによって、おれはその気持ちの意味を知り、立ぱなジャラランガとしての道を断たれることとなったのです。
「お前はおれだった、おれはお前だった……」
 ルガルガンはつぶやきました。うなだれるような姿勢で、しみじみとして、月に向かってほえました。
「なあ、いつだったか、一しょにマラサダを食いに行ったことがあったろ。そんでおれはお前にこのたてがみをこすりつけてやったよな。おれたちは親愛の情を示すためにそうするんだ。でも、それだけじゃなかったのさ。あわよくば……あわよくば、おれは」
 ルガルガンはおれの肩を強くつかんで、きつくおれをだき寄せて、また長くおれと口を合わせました。ルガルガンの舌はとてもやわらかく、おれを包みこむようで、口を合わせている時の気分は言葉にできないような、心地よさがあって、いつまでもしてしまいそうでした。口の中で混じったおれとルガルガンのよだれを一しょに分かち合っているのは、なんだかとてもいいことでした。
「おれはな、高めあう友ってだけじゃなくて、オスとして、オスのお前を愛したかった。かつ望していた。恋いこがれていた。なあ、今だったら、おれの言ってること、わかるだろ?」
 おれはうなずいていました。頭の中でルガルガンの言ったことをくり返しました。オスとしてオスを愛すること、かつ望すること、恋こがれること。おれが兄さんに恋こがれ、かつ望し、愛したいと思っていたこと。ルガルガンはおれの無知な頭を開いたのです。そして、ルガルガンはこのおれをオスとして恋こがれ、かつ望し、愛したいと言ってくれたのでした。
「お前はジャラランガの兄さんが好きだったんだな。でもな、い大なその兄さんの代わりができるかどうかはわからねえが、お前に行く当てがねえって言うんなら、な、おれとこれからも共にいてくれねえか? もち論、お前が、良ければ、だけど」
 それがルガルガンからの言葉であり、それが意味することも今やおれにはよく理解できました。おれは立ぱなジャラランガになるべき者としてはだ落して破めつし、兄さんやポニの大きょう谷のみなさんを裏切って、単なる一ぴきのつまらないジャランゴとしてですが、おれはおれとして、後ろめたさを感じながらも、おれの本当の心に素直に生きていくということに他なりませんでしたが、おれがすんなりと覚ごを決めることができたのは、それがあれだけ一しょに切さたくました同士であるルガルガンの言葉だったからであり、それをバクガメスやワルビアルが言ったとしてもむなしく、もしもカプの神様たちのものであったとしても、おれは決して受け入れることはなかったでしょう。
「うし」
 おれがルガルガンの言葉を受け入れると、ルガルガンはうなずいてやさしく笑って、おれのうでをつかんで立ち上がりました。
「じゃあおれについて来な、『兄弟』。記念に、おれたちにゃあうってつけの場所で一発かましてやろうぜ!」
 おれたちは、テンカラットヒルを出て、すっかり暗くなった道を歩きました。坂を上り、ヒトのね静まったリリィタウンをぬけ、さらに坂道を上って、つり橋を渡って、ルガルガンにうでを引かれて連れて行かれた先は、ああ、なつかしいカプ・コケコ様のまつられる戦の遺せきでした。一番おくの部屋の、カプ・コケコ様がふ段宿る石像の前に、おれとルガルガンは立っていました。おれたちはあの時、片ひざをついて長い間おいのりをしていましたが、ルガルガンはひざまずくこともせずに、だまってたたずんでいます。
「なあ、兄弟。ちかいを立てようぜ。これからおれがすること、ようく見とけよ……」
 すると、ルガルガンは毛におおわれてはいるけれどしっかりとした足と足の間をつめでゆっくりといじると、たちまちにして、ああ、ルガルガンのものがみるみると立ち上がってきました。それはルガルガンのお腹から胸に沿うように立ち上がって、根っこのところは木の実が二つ並んだようにふくれ上がっていて、びっくりしましたが、それをなんとも思わないようにルガルガンは、つめでぎゅっとにぎりしめて、次のしゅん間にはそれを上下に動かし始めました。おれが兄さんのことを意識し、立ち上がらせたおれのものをなぐさめるのと同じまさにそのやり方でした。ルガルガンは運動しているようにあらく息をしながら、つかんだつめの動きをみるみるうちに早めました。
「ほら、おれの真ねをしてくれよ、兄弟」
 ルガルガンはつめを動かしながらおれを見てわるだくみするように笑いましたが、おれのものはおれ自身でさわるまでもなく、しっかりと高く立ち上がっていたのでした。ルガルガンの表情は、とても素敵で、いつか兄さんがおれに見せてくれた表情をそこに見出しました。言われるがままに、おれは一しょにルガルガンとそれぞれの自分のものを、つめを上下に動かしながらさらに立ち上がらせ、心を気持ちよくしました。体の中は、ヴェラ火山のにえたぎる赤いマグマのように熱くて、ルガルガンと一しょにしていることで、もっと熱くなりました。おれたちはカプ・コケコ様の目の前でおれたちのものを見せつけ、なぐさめ、オスとしてオスを愛する姿を、ちかいを見せたのです。
 おれたちは声をあげてさけびながら、一しょに白いものを出しました。白いものは、ああ、どうかお許しください、目の前にあったカプ・コケコ様の石像にそっくりぶちまけてしまいました。ドロドロとしたもので石像は真っ白くよごれてしまいました。おれは、ルガルガンと共にカプ・コケコ様を白くけがしたのです。おれはおれのやったことの大たんさにのけぞりそうになりましたが、ルガルガンがおれの背中を強くたたきました。
「これくらいでビビっちゃダメなんだぜ、兄弟。お前はポニ島の奴らを捨てて、新しく生きなきゃいけねえんだから。おれも一しょだ、安心しろ。もっと、カプ神に見せつけてやらなきゃいけねえ、おれたちの生き方ってのを、なあ」
 ルガルガンはまたおれと口を合わせました。白いものを出したはずのおたがいのものはまた立ち上がり、それもまた口を合わせて、枝のようにたわみました。むせかえるような遺せきの空気で、おれたちは一層たがいをしたって一しょになろうと一所けん命に体のあちこちをくっつけ合わせました。あの時リリィタウンのとう技場でカプ・コケコ様に戦いをささげた時のように全力でした。その感覚は、美しいと思いました。
 白くよごれた石像の前で、おれたちは折り重なるようにたおれて、夢中になっておたがいの体を求め、感じ合っていました。ルガルガンがおれの上にいました。その長く、やわらかく、熱い舌でおれのほおをなめ、首をなめ、うろこをなめ、胸をなめ、お腹をなめ、足をなめ、おれのものをなめ、おれのおしりをなめましたが、その度におれの気持ちは高まり、この体を何かい大なものにささげたいような気持ちになりました。おれもルガルガンの岩のようなたてがみをなめ、長く黒い鼻をなめ、赤く光る目元をなめ、細長くも筋のしっかりのしたうでをなめ、胸元のふさふさとした毛をなめ、その下にかくされたたくましい筋肉をなめ、お腹をなめ、すらっとしたわきとこしをなめ、ももをなめ、ひざをなめ、かかとをなめ、ルガルガンのものとおしりをなめました。おれたちは舌が体にふれるたびにうなるように声を出しました。
「はあ、ああっ!……ふああっ、いいぜ兄弟、おれたち、いい感じだぜっ」
 ルガルガンはおれの体を転がしてうつぶせにして、そのままつめでおれのこしを持ち上げて、つき出されたおしりをカプ・コケコ様の石像に向けると、両つめでおれのおしりをぐっと左右に押し開いて、穴を広げて見えるようにしました。おれはカプ・コケコ様におれのおしりを中まで見せつけていました。まじまじとした視線のようなものをおれは感じて、ゾクゾクしました。気のせいだったかもしれません。でもそんなことをしたらなんだか勇気としか言いようのないものがおれの中にわき起こっていました。おれのものはよく立って、おれの体に寄りそっていました。
「さて、ケツでおいのりかましたところでよ、そろそろ欲しくなってきただろ? 兄さんの代わりにおれがやってやる、言うまでもねえが、覚ごはできてるよな?」
 ルガルガンは、自分のその大きく木の実が二つくっついたようなものを、おれのおしりに当てました。おれは思わず声を出しました。ワルビアルにおそわれた時の感しょくと同じものを感じましたが、今度はそれにおそれおののくことはなく、おれはそれを自分から強く求めて、おしりを無じゃ気にふりました。ルガルガンはおれのおしりをなでながら、さながら筋肉に思いっきり力を入れる時のように大きく息をはきながら、そのすごいものをゆっくりとおれの中へと入れてくれました。
 とても温かく、やわらかくて固くてぶよぶよしてぷにぷにしたそれがおれのおしりへとはいった時、おれがずっとこがれて想像してきたけれど、その形をはっきりと見たりふれたり言ったりすることができなかったものがなんだったのかが、はっきりとわかりました。それは、おれ自身をむなしくもいましめるためにホテリ山のほら穴で密かにおれのおしりに入れてきもちよくなり、やがてよっぱらったバクガメスにその様を見られてしまった、あの兄さんのまぼろしとは全然ちがって、ルガルガンはこれでおれをたっぷりと幸せにしてくれました。ラナキラの山よりもっと高いところに上ったような気分でした。
「温かいだろ? 気持ちいいだろ? 胸がいっぱいだろ? あんな冷たい岩より、本物の方が断然いいだろ? まぼろしよりも、今ここにある現実の方がずっといいって思うだろ? なあ、ホテリ山でやってたように、おれにしてみてくれよ」
 おれはたまらずにこしをくねくねと動かし始めました。一ふりするたびに、ルガルガンのものはおれのおしりの中に、そのもっとおくへと入っていくのが体で感じられ、その熱っぽさがおれをたちまちにして満たしてくれました。ああ、それはなんて気持ちよかったことでしょう! おれは今までのおれがとても馬鹿らしくなってしまいました! なんでおれは兄さんのものを見た時にこのことをさとらなかったのでしょう! ルガルガンにたてがみをこすりつけられた時に、ワルビアルのものをおしりに押し付けられた時に、そのことをさとらなかったのでしょう! なんておれはにぶかったのでしょう! もっと早くおれはおれの本当のことに気づいていれば、ホテリ山のつまらないほら穴の岩で、あんなにもむなしい行いをすることなんてなかったのに! おれは本当におろかでしたし、やはり立ぱなジャラランガになるなんてとんでもないそこつ者なんだと強く思い、ルガルガンのものに愛されたくて、おしりをくねらせました。
 おれはルガルガンのものをしっかりとおしりの中に入れましたが、最後にルガルガンのものの根本の木の実のようにふくらんだところまで、大きくだらしなく開いたおれのおしりに入って、それ全部が収まったしゅん間に、おれのおしりの中はふたをされたようにきつくしまりました。おれは口を大きく開いてお腹の底からさけびました。ルガルガンにおれの気持ちを伝えるために一層強くこしをふって見せました。おれはとても気持ちが良すぎて、おしりのおくが激しくどくどくとうずいて止まらなくなりました。足こしの力がぬけて、まるで卵から生まれたばかりで本能で立ち上がろうとしていたジャラコのころそのままに、おれはなっていました。おれは言葉にできない気持ちでいっぱいになって、目の前はぼんやりとして、くちからよだれを垂らしていました。
「はははっ! 思ってた以上だ! 最高! お前、こんなにドすけべだったんだな、もっと早くおれに教えてくれりゃ、もっともっと気持ちよくさせてたのにようっ! ああっ、くそっ! おれは、お前とカプ神の前ですけべできて、本当に幸せだぜっ!」
 ルガルガンは勢い任せにめちゃくちゃにこしをふりました。しっかりとおれのおしりのなかにふたをしたルガルガンのものは、おれのおしりのなかにしっかりとしがみついて、おれを愛してくれていました。おれはわけがわからなくなるくらいに気持ちよくなって、頭を思いきり上へとつき出して、ずっとさけび続けていました。おれの気持ちは高まり、もうなんでもできるような、なんでも言えるような気になりました。クソくらえだと思いました、おれとおれをこんなにも心からいっぱいに愛してくれるルガルガン以外の、およそ全てのものに対して、クソだとおれは思いました。ルガルガンのもので気持ちよくなっているおれに対して、ポニの大きょう谷のみなさん、あんなおきてがなんの役に立つと言うのでしょう? 兄さん、本当に、本当に申し訳ありません、おれの馬鹿げた言い分をあなたのすう高な精神ゆえに聞き流していただきたいのですが、こんなに広い世界を旅して、いろんなことを経験したのに、どうして最後はあんなせまい、縮こまった世界に戻らなければいけないのでしょう? 誰が、そんなことを決めたんです? こんなに、気持ちよくて、素晴らしいものがあるのに、なんで立ぱなジャラランガになるために、我まんなんてしないといけないんでしょう? ああ! おれにはわからなくなりました。わかるならぜひおれに教えて、説きふせて欲しいです。そして、説きふせられたなら、おれを完ぷなきまでにばっして、できるものなら殺しておれの存在をなかったことにして欲しいです! できるものなら!
 ルガルガンはおれの中にめいっぱいに、白いものを出しました。おしりに初めて出されるそれはとても熱くて、たっぷりで、おれのおしりではとても受け止めきれず、だからといっておれのおしりはルガルガンのものでとてもしっかりとふたをされていたので、おれの体のさらにおくへと流れていくのを感じて、おれは満たされていると感じました。おれの体がルガルガンのものと白いものにとくとくとひたされていくのは、とても心地よいことに思えました。おれはおれでなくなりますが、ああ、おかしいことをおれは言っているなととても思うのですが、だからおれはおれになったのです。とにかくおれ、おれ、おれなのです。ポニの大きょう谷のみなさん、おれがこの長い手紙で言いたかったことは、つまるところこれなのです! おれはおれのありのままの姿をみなさんに示すことがようやくできて、申し訳ないと思いながらも、なんだかほっとしているのです。
「あぁ……ふうっ」
 ルガルガンが白いものを出した後も、そのものは全く縮こまることはありませんでした。それどころか、ルガルガンはおれのおしりの中にルガルガンのものをいっぱいに押しこんだまま、ぐるりと体の向きを変えて、四つんばいになり、おれとルガルガンのおしりをぴったりとくっつけました。
「ルガルガンってのはなあ、知ってるか、すげえ一ずなんだ……好きになったら、てめえの欲望を何もかも相手にぶちまけねえと気がすまねえ。それが同じオスだったとしてもな! 最初に会った時から思ってたんだ、やっぱりお前は骨があるやつだった。おれの目に狂いはなかった。ここまできたら、死ぬほど気持ちよくなって、カプ神にぜえんぶ見せつけてやりてえよなあ? おれたちのおぞましさ、素晴らしさをよう!……」
 そう言ってルガルガンもおれと同じようにおしりをくねるようにふって、おれのおしりとおしくらしてきたので、おれもおしりをくねらせて、ポンポンとおたがいのきたえて引きしまったおしりをぶつけ合いました。おしり同士がぶつかってはずむたびに、おれのお腹の中にたまった白いものがちゃぷちゃぷいって、ルガルガンのものからもまた白いものなのかなんなのかわからないものがおれの中に出されて、おれは息をあらくして、ルガルガンも息をあらくして、それはとても気持ちよくて幸せな時でした。体も、そして心もつながっているという実感を、つまりは生きているという実感を、おれはこの時にこの身ありったけに受けたのでした。おれが全身を波のようにしてふると、ルガルガンもそれに応えて大波のようにふりました。おしりとおしりがぴったりと合わさる時、おれたちは一つでした。おれと別のおれであるルガルガンが混じり合って、おれであっておれでないおれがおしりのぶつかり合いの中で生まれた、そんな気がしました。
 とても長い間、おれとルガルガンはつながり合って、たがいに尊敬し、愛する心を持ち続けていて、やっと出すものを出し切ったルガルガンのものがおれのおしりの中を、特に根っこの木の実のようにふくらんだ部分が、いちいちえぐりながらすぽんとぬけてしまった時、おれは心に空きょなものを感じていました。と同時に、おれのものはかつ望するように激しく、強く立ち上がりました。
「やべえ……オスを求めるオス同士でヤることがこんなにやべえなんて、ちくしょう、もうおれもお前も戻れねえな……カプ神に天ばつくらおうが知ったこっちゃねえよ……死んだって別に構いやしねえ……こんな気持ちいいことしちまったらなあ……そうだろ、兄弟!」
 おれは思わず、そうだとさけんでいました。そして立ち上がって立ち上がったおれのものをルガルガンに見せつけました。にやりとしたルガルガンはおれを押したおしてあお向けにして、おれのものをピンと上へまっすぐに立ち上がるようにさせると、大たんにもルガルガンはその上に座りこんで、ルガルガンのおしりの中におれのものをすっかり入れてしまいました。おれのものはルガルガンの中にあって、まるでおしりの中でだきしめられているようにぎゅっとされました。ルガルガンが呼吸をすると、おしりの中も動いて、おれのものをきつくにぎってはゆるめて、おれは声をあげっぱなしになってしまいました。
「ああちくしょう!……おれ、おかしくなっちまいそうだぜ!」
 のけぞった姿勢のまま、ルガルガンは体ごとこしを上下にゆり動かして、まるで全身でおれのものをなぐさめるつめのようになりました。そうしながら、ルガルガンはおどるように上の体を動かして、そのおれに負けずおとらずたんれんされた素晴らしい体をおれに披ろうしました。あせだくになって、豊かな毛がねそべっていたおかげで、うで、わき、胸、お腹の筋肉の形を見ることができ、そのオスのたまらなさかっこよさ美しさがおれの体を熱くし、おれのものを燃え立たせて、ルガルガンの体へとおれの思いが伝わりました。ルガルガンは大声で遺せき中にひびき渡るようにさけびました。
「おい! カプ・コケコ! 見てるか! これが、おれたちのありったけだよ! 悪いか! うらやましいだろ! 混ざりてえだろ! でも、ダメだぜ! これは、おれと、兄弟だけのもんだ! こうなったのはてめえのせいだ! てめえのおかげだ! くそっ! けがしてやる! けがしてやる! おれたちは自由なんだ! 自由でいていいんだ! こんなことをしてもいいんだ! 許されるんだ! おれたちの命は一つだ! ありがてえこの命を、ようカプ・コケコ、せいいっぱい無だにしてやるから、見てろよ! 見てろよ! ああっ!」
 ルガルガンは筋肉の形を一層浮き上がらせながら、ますます熱っぽく体を上下させながら、カプ・コケコ様をりょうじょくするおそるべき言葉を投げかけ続けながら、気持ちよさそうに声をもらしました。おれも全く同じ気持ちでした。全てはカプ・レヒレ様の冷たんさに始まり、カプ・コケコ様の気まぐれ、カプ・ブルル様の短気、カプ・テテフ様の無情さのために、おれはこうなったのでしたが、そのおかげでおれはこうなることができたのでした。おれはちっともうらんでいません。ルガルガンがいつか言ったことを思い出し、まさにその言葉の通りだと思います。お前も島巡りしてるんだったらようく覚えとけよ。旅のと中でカプ神が何か災難をもたらすことが一度や二度、あるかもしれねえ。でも、神様ってのはおれたちとはちがう。そこには、善意も悪意もねえのさ。だから、うらみっこは絶対になしだ。だから、おれの心にもうらみもなく、ありがたみもありません。ただ、おれの身に起きたことをただありのままに受け入れて生きていくだけです。それが、ポニの大きょう谷のみなさんを裏切ってしまったおれのせめてもの、言い訳じみてはいるとは思いますが、せめてものつぐないだとおれは信じています。
 ああ! ルガルガン! おれはお前とおれの世界を生きるんだ! おれはもうくよくよすることなんてないんだ! 身を切るようで辛いけれど、それがおれを生きるということなんだ! ああ! 心優しいまさに海のような心をもった兄さんなら、おれのことをわかってくれるはずです! よしんばわからなかったとしても、兄さんにあざけられるならおれはちっとも構わないんだ! とてもいいんだ! わかってください! わからないでください! おれの心はそう気持ちよくなりながらさけんでいました。
 おれはおれのものの中にある白いものをすべてルガルガンのおしりの中へ出しました。白いものはルガルガンのおしりから流れ出し、おれのお腹を、そして戦の遺せきに流れました。その白いものの熱っぽさ、ねばっこさこそ、おれのいろいろなことがあった修行の果てにたどり着いた答えではなかったでしょうか? おれはジャラコとして生を受けてから出会った全ての命に感謝します。ポニの大きょう谷のみなさん、改めて、おれが立ぱなジャラランガになることができず、二度と大きょう谷に戻ることができないことを、とても申し訳なく思います。おれは約束通り、いさぎよく、おれのありのままの姿を示しました。後は何を言っても構いません。もしお許しいただけないなら、おれの内臓をそっくりカプ・レヒレ様にささげる覚ごはできています。ですが、おれはそれだけのほこりを持って生きてきましたし、幸か不幸か、これからも生きていくことになるでしょう。
 最後に、兄さん。こんなことになってしまい、兄さんと「ブレイジングソウルビート」をおどる約束がかなわなかったのは、本当に無念です。おれは今でもあなたへの尊敬は捨てていませんし、もし、できることならあなたと、ああ、なんておれは馬鹿なんでしょう、ルガルガンとしたように交わりたいと思うのです。もち論、そんなことはできない相談であるとはわかりきっています。ですが、ようやく、この手紙を通して伝えることができたおれの思いを軽く受け取らないでください。あなたになら、おれはどんなばつを受けてもいいと思っているし、殺してくれたら本望です。
 愛しています、兄さん。けいぐ

14 


「ふぅ」
 そこまで書き終わると俺は深く溜め息を吐いた。頭の中の語るべきものを全部出し切って空っぽになった俺は、ぼんやりと宙を見上げていた。
「あ、あのう」
「……」
「ジャランゴの兄さんっ」
「……」
「けいぐ、って書いたってことはこれで終わりってことでいいっすか? いいってこと、っすよね……?」
「……」
「りょ、了解ってことでいいすか? じゃあ、後はこれをポニの大峡谷に届けて来る、ってことで……」
 ヤトウモリが上目遣いをしながら、不安そうに俺のことを見つめている。勿論、ヴェラ火山で出会ったのと同じヤトウモリだ。俺のかたわらには、積み重なった紙の山があった。俺がヤトウモリに命令して、たくさんの紙と俺でも使えそうなペンをどこかからくすねてきてもらったものだ。それで、紙いっぱいに細々とした字で書かれた「はいけい」で始まり、今さっき「けいぐ」で終わった長いお手紙を書いたのだ。
 全てが終わった後で俺は、はっきりとポニの大峡谷と決別するために、今までのことを振り返ろうなんて突拍子もないことを思った。それは俺にとっての通過儀礼のように思えたのだ。でも、どう書けばいいかなんて別にうまく読み書きできるわけじゃない俺にはちっともわからない。最初はうまくいくけれど、後から続かなくなった。あれこれと試した挙句、ポニの大峡谷のみんなに俺の行いを告白するように書いたらうまくいきそうだったから、それで書いたのだった。それにしても、ずいぶんと長い手紙になってしまった。こんな俺でも、俺自身のことについてなら、いくらでも紙を無駄にできるのだと思った。
「じゃ、ジャランゴの兄さんっ!」
 ヤトウモリは細長い手を擦りながら、俺をちらちらと見た。俺が次に口にする言葉を、待ち望んで、ドキドキしているようだった。
「じゃ、じゃあ、今すぐにでもポニ島へ届けに行ってきてやるっすか?……」
 俺は黙って宙を見つめていた。考えるのが面倒になっていた。
「そうだなー、ヤトウモリ」
 俺は言った。ヤトウモリは心底嬉しそうに目を引きつらせたのに、俺は少しイラッときた。
「でも、もういいんだ」
「えっ」
 ヤトウモリが驚く間も無く、俺は黒い尻尾を引っ掴んで、あの時のように宙にぶら下げた。吊り下げられたヤトウモリの使い古された尻の穴がよく見えた。
「俺はただ手紙を書きたかっただけだよ。大体、届けろなんて俺は一言も言ってないだろ? それに、届けに行くっつって、ヤトウモリ、やることやったら俺から逃げるつもりだろ? そうだろ? そうなんだろ? そんなこと、思っただけで罪、だろ?」
「そ、そんなあっ……ち、ちがう、ちがううっ、俺はっ、兄さんんっ、お願いっす、だからあっ……!」
 ジタバタと暴れるヤトウモリの尻尾をきつく握りしめると、あっさりと大人しくなる。えずくように動くヤトウモリの尻の穴に、俺はいつものように手際よく爪を挿れて、中を思うがままにほじくり回した。
「やあだっ! やだあっ! あっあっあっあっあっ! あああ! やああっ! ああっ! ううっうっうっうっうっ……」
 もう何回もしているというのに、ヤトウモリのやつは一向に慣れなかった。尻の中に異物が入るたびに、泣き喚きながら善がった。それが俺たちをひどく興奮させるのにもかかわらず、ヤトウモリはそうして喘ぐことをやめなかった。
 俺は勃起していた。
 騒ぐヤトウモリの尻を弄りながら、俺は住みかにしている洞窟の奥まったところに行った。少し広まったところに、ところどころ岩壁の隙間から光が差し込んでほんのり明るいところがあるのだ。
「おっ、ようやく終わったのか」
 ヤトウモリを獲物のようにぶら下げた俺を見て、ルガルガンは狡猾に笑った。俺が長いお手紙に没頭している間、ルガルガンもまた同じように没頭していた。
「あっ……ううっ……んんううっ……」
 ルガルガンは、初めて俺と交わった時のようにその「イヌチン」を挿し込んだままの姿勢で雄の交尾を楽しんでいるところだった。ということは、あらかた射精はしてしまったのだろう。楽しげに繋ぎ合わさった尻を振るルガルガンの相手をし、甘やかな喘ぎ声を恥じらいながら漏らしているのは、俺がヴェラ火山に上った日、あの頂上の祭壇で踊っていたガラガラたちの内の、一際たくましい体つきをした一匹だった。背中に白く彫られた背骨と骨盤をあしらったという模様が、うねる腰に合わせて歪んで見える。
 戦の遺跡で晴れて「兄弟」同士になった俺とルガルガンは、二匹してアーカラ島のヴェラ火山を訪れた。ヤトウモリは相変わらず、火山の入り口あたりでエンニュートの相手を探すために佇んでいて、俺たちを見た瞬間に逃げ出そうとするところを取り押さえて、散々に弄んでやった。解放されたいんだったら、ここで踊っているガラガラのうち一番いい奴を紹介してくれと頼んだ。
 哀れなヤトウモリは、言葉巧みに俺たちにふさわしいガラガラを連れてきてくれた。俺たちと同様に、肉体は過酷に鍛錬されて、小柄ながらも隆々とした筋肉が浮かび上がっていた。俺たちは満足して、そいつの腹に不意打ちをかけて気絶させると、そのまま俺たちのところへ連れ去った。仲間を裏切っておいて、自分は解放されるつもりでいた狡猾なヤトウモリも、勿論逃しはしなかった。
「へへっ、コイツの腰つき本当エッチだぜ……」
「んっ……ああ、ああっ……んぐ」
 俺はルガルガンの「イヌチン」を通じて一つに繋がっている二匹の尻を真上から覗き込んだ。無骨な尻と、整った毛並みの尻が作り出す谷間に、俺は鼻先を突っ込んで、雄の汗やその他諸々の臭いをたっぷりと嗅いだ。いつも、これが俺たちの臭いだと思う。そして、ルガルガンとガラガラの尻をぺろりと舐めると、ルガルガンは興じるように腰を横に振り、ガラガラは恥ずかしげに骨で覆われた顔を洞窟の地べたに埋めて声を漏らした。
「なあ、早くお前も混ざってくれよ……俺、先にイッちまうぞ」
「わかってるって」
「い、いや……お、俺は遠、慮したい、っすううううっ! あああんっ! ああがっ!」
 ヤトウモリの尻の穴に舌を挿れて、腸壁を舐め回して気絶するほどに叫ばせた俺は、快楽を耐え忍んでいるガラガラの頭を無理やりアゴから持ち上げる。泣き腫らして充血した三白眼には、まだ挑みかかる調子があって、俺を満足させた。睨みつけてくるガラガラに俺は言葉をかける、頭に刻まれた星形を撫でながら。
「嫌がるなよ。気持ちよくなってるくせして」
「ううっ!」
 ガラガラは何かを言おうとしたが、ルガルガンが激しく腰をくねらした刺激で、言葉に詰まった。ヤトウモリの腹からペニスが勃起してきたのを、俺はマケンガニの腕を食うようにしゃぶった。俺は水の立つような音を立て、ヤトウモリは泣き叫び、ルガルガンは煽るように声をあげ、ガラガラは黙りこもうとした。
「気持ちいい、って一声あげれば済むことだろ。な、俺たちに目をつけられたんだから、もう逃げ場はないんだからさ」
「……むうっ」
「強情だな、でもそういうところ、ガラガラらしくて好きだな」
「へっ、同意だぜっ……それに、ケツの振りもなかなかいい。さすが、踊り子だぜ。しかも、隠れホモだなんてなっ」
「……それは違ううっ」
 ルガルガンは振り向いて、俺に目配せした。さあ、始めようぜ。俺たちのこの雄々しい肉体を、精々無駄遣いしてやるんだ。
 おれは片膝をついて、勃起したペニスをガラガラの口にあてがった。口を開かないから、ペニスで何度も頬を叩いた。精悍なガラガラは諦めて口を開いた。俺のペニスを咥えたガラガラは、どうにでもなれというように、モグモグと口を動かしながら、不器用なフェラをした。悪くはなかったけれど、まだまだ鍛えようがあった。俺たちの楽しみが増える。
「い、いやだっ、兄さんっ、もうやめて欲しいっすこんなことっ! まだ、まだ間に合うっすから……こんな、あっ、ことしてたらあっ、俺たち、地獄に堕とされてえええっ!」
 馬鹿なことをまだ言っている臆病なヤトウモリを、仰向けに抱えて、俺は勃起したままのペニスを貪った。俺は腰をゆっくりとうねらせながら、ガラガラの口の中に勃起しきったペニスを出し挿れする。ガラガラはむせながらその熱い舌を絡ませる。嗚咽が聞こえる。喘ぎが聞こえる。俺たちの生きるべき現実そのものの音が、世界から隔絶したかのようなこの洞窟を満たしていた。
「ははははっ! 最高! 気持ちいいぜっ! こんな素晴らしいことがあるかよおっ! みんな、世の中の逞しい雄どもは、俺たちみたいにケツをくっつけて、チンコを舐め合って、善がっちまえばいいんだっ! くそっ!」
 快楽が高まったルガルガンが勢い任せに吠えた。
「助けて! 助けて! 俺っ、やだっ、姉さん、姉さんっ!」
「…………っ!」
 ヤトウモリは意味もなく叫び、ペニスに走る刺激で悶絶しながら涙と涎をばら撒いた。ガラガラは雄ながら可愛らしく腰を振った。ルガルガンが終わったら、俺がたっぷりとガラガラの尻に楽しみを教えてやりたいと気が急いた。俺は無我夢中で腰を振りながらフェラし続けてた。ルガルガンも留まることのない性欲を尻を通してガラガラにぶつけ続けていた。いびつだけれど、俺たちはこうして一つになっていた。
 もうポニの大峡谷も、兄さんも、俺には必要なかった。今までそうだったところの俺は、あの長いお手紙の中に置いてきてしまったんだから。



 本当に長くなったお手紙の後書き(※ネタバレあり

 まずは、本当に長くなってしまったこのお手紙を読んでくれた小説wikiの読者の皆様に感謝します。
 中書きでもたびたび話していた通り、ジャランゴくんを主役にした話は『サン・ムーン』発売当時から考えていたものでした。
 ジャランゴの、中間進化系特有の少年と大人の淡いにあるかのようなデザインが、当時の自分にはビビッときたのですね。
 筋書きも大体変わりはありません。ジャラランガになるために修行の旅に出たけれど、旅で遭遇する出来事によって自分の「性」に気づいて堕落していくケモホモ小説……
 ハイナ砂漠でワルビアルに襲われる重要なくだりは、最初期からあったイメージです。ただ、当初はガブリアスを想定していたのですが。
 とはいえ、4年前、自分は書くことができず、その後書くこともなく長らく放置をしていたネタを、ポケ字書きで色々書けるようになった今、挑戦しようとしたのです。
 問題は、どうやって書くか、なのでした。それまでのように普通に書いてみたけれど、筆が乗りません。進まないけれど、書きたい欲は収まらずにまた書いて詰むの繰り返しでした。
 そしてある時、まるで小学生が書いたみたいな、語彙も構文も貧弱にして書いてみたら、今までで一番書き進められた(2章までがその書き進められた部分にあたります)
 それでも正直、これで書き上げられるかどうかはわかりません。でも、ここまで書いたならやるっきゃない、と気を引き締めて望んだのがようやく今年の11月だったわけですね。
 漢字にするかひらがなにするかの基準は単純です。小学校で学ぶかどうか。だから、いちいち『漢字◯ディア』で検索をかけて、教育漢字かどうかチェックする手間が増えたわけですね!
 あとは、同じ言葉は使うなとか、「〜して」とか「〜ので」を乱用するなとか、文章読本とかで言われそうな規則を尽く破るように書いたり。
 それで、肉体は逞しいけど、精神はなお未熟みたいなジャランゴの性格を描写できていたかは読み手の感想に委ねます。
 ただ言えるのは、「この書き方が一番ラクだと思います」。
 物語は当初想定していたよりも倍以上の文量になってしまいました。こんな文体だから、量書くのはそうでもないけど、その分話を考えなきゃならない。
 初めて連載というスタイルで書いたこともあって、書いてる最中の思いつきとか、いただいた感想から展開を思いつくみたいなことがいくつもありました。
 ハイナ砂漠でジャランゴを襲うのがガブリアスからワルビアルに変わったのもそう。でも何より意外だったのはルガルガンの存在でした。
 なぜルガルガンをジャランゴと絡ませたかといえば、4〜6章と妙に出番が多かったこと。これにつきます。結局は構成上の要請に他なりませんでした。
 とはいえ、思いがけずアローラのポケモンを多く登場させていると、こいつらみんな可愛いなかっこいいな……となります。正直全員エロネタを書きたい。
 最後にアローラガラガラをちょい出ししているのは字書きの欲望の現れでしかありません。そもそも14章自体、蛇足かもしれない。そうでないかもしれない。自分にもわかりません!
 何もかも自分で語ってしまうのは興醒めなので後書きはここまで。ただ、夏から書く書く言っていたものをようやく書きあげられたので、やっと肩の荷が降りた気分。
 さて、次は何を書こうか(2020/12/22)


作品の感想やご指摘はこちらかツイ垢 へどうぞ

お名前:
  • 4話まで読みました。
    難しい言葉を理解する年頃でもないジャランゴくんの兄さんへ対する盲信を柔らかな文体で表すの、難解な言葉を使うよりかえって難しいんじゃないかと思います。特に漢字の習熟度的なところで。島の一族の期待を一身に背負って旅に出た前途洋々なジャランゴくんなんですけど、その末路には破滅が待っているのだとあらかじめ教えられているのがね……。兄さんとの修行風景を読んでも、これから裏切ってしまうのだよな……、といたたまれない心地になりました。寝ていた兄さんのそれに釘づけになってしまったあたり、やはり鍛錬ばかりに心血を注いでいては、そういう思春期的な誘惑に負けてしまうのでしょうか……。友達っぽいルガルガンが登場して、さてどうなることやら……続きが気になります! -- 水のミドリ
  • ここまでお読みいただいてありがとうございます!
    ジャランゴもそうですが、ジャラランガ系統は漢字が弱いとかわいいなあと思います、からのあの文体。詳しくは完結したら後書きで話すつもりです。作者としては、やっとジャランゴくんを旅に出させられたので一安心。ですが、兄さんのあれはともかく、ルガルガンを登場させたのはまったく思いがけないことで……なんとなく先の展開は頭にあるけど、さてさてどうなることやら……続きはゆるりとお待ちください。 -- 群々
  • 最後まで読みました。
    兄さんを一途に慕い修行に明け暮れていたジャランゴが、島巡りをすることで己の性自認に煩悶し、向き合い、堕落していく物語。気づきから葛藤、そして決別までが丁寧に描かれていて、長いお手紙ですがスムーズに読み切れました。ワルビアルに襲われるが辛くも逃れる、 バクガメスに秘密が露呈し辱めを受ける、エンニュートに誘われるが振り払う……etc。物語の構成力というか、こうしたひとつひとつのエピソードの配置がちょうどいい塩梅でした。
    サンムーン本編でも、島巡りからドロップアウトしたスカル団のことを思い起こさせます。彼らは同じ者同士で寄り集まっていましたが、ジャランゴとルガルガンははてさて……。
    ジャラランガの兄さんやポニの大峡谷のみんなへの裏切りに、カプ・コケコへの冒涜を重ねて御神体の石像へぶっかけるの、最高に冒涜的でアゲインスト(?)でした……! ルガルガンの叫びがまた凄まじい。彼も彼なりに思い詰めていたのですねえ……。
    手紙には書かれなかったこと――肉体関係を持ったルガルガンとふたりしてアーカラへ赴きガラガラを誘拐したこと、もしくは快楽堕ちした彼らのこれからについてが一切記されていないのがね……いたって興味深い。強姦されるガラガラの嗚咽や喘ぎを耳にして、『俺たちの生きるべき現実そのものの音が、世界から隔絶したかのようなこの洞窟を満たしていた』ように思うジャランゴの心うちが気になります。手紙の最後で兄さんへ向けて『あなたになら、おれはどんなばつを受けてもいいと思っているし、殺してくれたら本望です。』と書かれていましたが、その裏には〝そうでもしないと俺はアローラ中の雄を襲いますよ〟とほのめかしていそうな意思の強さが私には垣間見えました。お手紙が小学校漢字までで書かれていたのに対し最終章の独白が漢字なのも、実直だったジャランゴが成長して得た暗い二面性を覗き見ているようでぞくりときました。ともかく泣きついたルガルガンも理解者でよかったね……あれだけ掟やら修行に縛られていたジャランゴくん独りだったら思い詰めて自らの命を断つことまでしそうだな……と思っていたので最後ハラハラでしたよ。己の生き方を見つけられた、という点ではしっかりハッピーエンドしてましたね! -- 水のミドリ
  • ミドリさん、これほどまでに長いお手紙を最後までお読みいただき、しかも細部まで読み解いていただきありがとうございます! 返信するこちらも身が引き締まります……
    想定したよりも遥かに長いお話になってしまったのですが、これは当然の帰結、とでも言うべきものがありました。これが手紙であり、告白録であり、小学生が書いたような文章で綴られる以上、やたらと細かく、無駄に丁寧に来し方が語られる必要があったのでした。それに、禁欲的で性に疎いジャランゴが自分の嗜好を自覚するには、かなりの紆余曲折を織り込む必要がありました。なにせ「ペニス」とかそれに相当する単語を知らないのですから……結果的に本格的なエロへの導入にかなりの字数を費やすことになりました。
    この修行の旅というのは、コメントの通り、原作の島巡りを踏襲したものなわけですが、スカル団に象徴される暗い側面というのも、物語を進める上で重視していたところです。物語上、ポータウンをスルーしたこともあって、深堀りはできませんでしたが、スカル団の心理とジャランゴの堕落には、重なるものがありました。
    twitterの方でもお話があった「神への冒涜」は「神の懲罰」というモチーフの裏返しでもあります。ジャランゴは、自分に降りかかった災難を、一貫してカプ神の思し召しだとみなしています。ですが、それに対してはルガルガンの言葉にあるように、「そこには善意も悪意もない」のだから「うらみっこはなし」なのでした。しかし、スカル団の面々同様に、修行の旅から落伍せざるを得ない状況に追い込まれたジャランゴが、それでも生きていくためには、ルガルガンに誘われるままに、神を冒涜するしかありえなかったのでした(残念ながら、ルガルガンがジャランゴと同様に葛藤を抱えていたことまで語ることはできなかったわけですが、その叫びから少しでもそれを感じ取っていただけて幸いです)。
    ジャランゴとルガルガンがこれからどうなるのかは、杳として知れない、といったところです。迷いはあるのでしょうが、退路を絶ってしまった以上、ジャランゴは兄さんの影を追い求めながらルガルガンと共に雄を求め、交わり続けるのかもしれません(ミドリさんの作品で言えば、テッカニンがレディアンに対して抱くような)。
    つまるところこの手紙に書かれた物語は、実直なジャランゴの思弁のために引き起こされたものとも言えます。自分の抱いている想いは兄さんには受け入れられないだろうと、兄さんに直接聞いてもいないのに思いこんでしまうところが、掟にがんじがらめにされたジャランゴの弱さです。ルガルガンがいなければ、きっと命を絶っていたでしょう。
    「手紙」を書いたことで、少なくともジャランゴはそうした自分と決別し、歪んだ形ではあれ、生き方を手にしたわけです。とはいえそれは、誘拐して強姦しているガラガラ(とヤトウモリ)の嗚咽と悶絶の声に満ちた、悪意と良心が混濁し歪曲されたような得も言われぬ錯乱した世界なわけですが。とはいえ、これもまたはっぴいえんどです。めりいばっどなのです。
    自分で書いたくせに、すごく考えさせられてしまいました。繰り返しになりますが、丁寧かつ細やかなご感想、ありがとうございました! -- 群々

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Last-modified: 2020-12-22 (火) 20:30:50
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