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◇ 街灯の幻影 ◇ 前編

/◇ 街灯の幻影 ◇ 前編

「・・・?」
ふわり、とその髪――鶏冠、と呼称をつけるようがよいだろうか、山吹と朱の毛並みが持ち上がる。
夕刻。残暑が漸く影を潜めた街に、斜陽は橙色の西日をぎらぎらと照り付け、焼き付けられた石は必要以上に熱を帯びていた。
その夕焼け色は非常に火によく似た色で、整えられた羽根の輪郭を煌かせる。
まだ空が暗色に染まるには早いというに、電灯に明かりが灯る。それさえも空のライトには打ち消され、ぼやけたものでしかない。
長くたなびかせたその鶏冠は、するどく一度浮いたかと思えば、そのまま、空に釘付けられたかのように動きを止めた。
しかしそれも数時が刻まれたときには、靡いたときと同じように柔らかく着地した。その後は、そよそよとゆれるのみ。
だが確かに、彼・・・ピジョットの横を、何かが掠めた。空を切り裂いた細い何か、一瞬後に訪れる空気の乱れ。
その僅かな風は、確実に何かが瞬速で、それこそ目に見えぬほどの速さで通り抜けていったということだろう。
それは、彼以外の者ならば、唯の微風としかことをとることが出来なかっただろう。そう・・・彼意外、ならば。
敏感にもそれを感じ取った彼は一度首を傾げる。それは一般人がいぶかしんでいる様なものではなく――何か、ひねり出すような。
かちり、と一度嘴を叩いた。首はまっすぐに風が通り過ぎた方向を見つめ、もう一度嘴をかち合わせる。
その端に不適な笑み。少々歪んだそれさえも赤く染まり、より深く表情はねじれていく。
彼は町の中心で不気味な光沢のある羽根をつむいだ翼を開く。夜の仮面に手を伸ばした街、それに気を留めるものなど、無い。
広げきった翼を陽光が一度だけ駆けぬけ、ぎらりと羽根が光った。それもつかの間、彼は翼を大きく二度はためかせる。
土と塵と共に、かすかな潮の香りが舞い上がり、そのまま空気に溶けて馴染んだ。
もしも――もしも、それの落とし主がそれに気づいていたとしたら、事態もまだ加速することなどなかっただろう。
唯一つの救いは――密やかな海の名残に、彼が気づかなかったこと、それだけだったかもしれない。
一気に鍵爪の生えた猛禽の足は大地を蹴り、刻々と闇の迫る空に飛翔する。
翻した鶏冠は直ぐに空の彼方へと向かい、小さくなり、滲んでいったその姿は、そのまま空色に飲み込まれた。
その跡に残された、置き土産の真っ白な羽毛。それは早々に地平に姿を隠そうとした陽ではなく――街の灯に、煌いている。
街の灯――作られた存在。
ただ、それは目ににじんで見えるだけだった。




◇ 街灯の幻影 ◇




まるで世界は幻想のようだった。
細いガラスで作られた、固いというのに繊細な、脆すぎる幻想のようだった。




試し読みはここまでです。
あくまでも試し読みなので、本編投稿時に書き直しをする予定です。



誤字・脱字等あれば何なりと。

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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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