ポケットモンスター……縮めてポケモン。
ポケモンとは簡単に言うと不思議な生き物である。
この世界の人々はみんなポケモンと一緒に暮らしています。
ポケモンと付き合うにも色々な手段がある。
ポケモンと一緒に戦う者、ポケモントレーナー。
ポケモンを育てる者、ポケモンブリーダー。
ポケモンを美しく、かっこよく、たくましく見せる者、ポケモンコーディネーター。
ポケモンを観察する者、ポケモンウォッチャー。
ポケモンを捕まえる者、ポケモンゲッター。
ポケモンを癒す者、ポケモンを研究する者などなど……。
そんな広い世界の中で人々は戦い、喜び、悲しみ、出会い、別れ……
そして、かけがえのないものを手に入れて、時には失っていく……。
物語はみんな一人ひとりが主人公なのである。
こんな広い世界の中で、今、一人の少年が旅立とうとしていた。
果たして、この少年はどのような世界を見ていくのであろうか?
―――「(ここは……どこだ?)」―――
―――「(見たことも無い街だ)」―――
とある街中で少年は、ポケモンバトルを見た。
―――「(ん?変な事を言っている二人と一匹がいる)」―――
―――「(このニャース、人の言葉を喋れるのか?)」―――
―――「(……とか言っているうちに、1匹のピカチュウの電撃で吹っ飛んじゃったようだ)」―――
周りのみんなは、謎の2人と1匹を倒したことに安堵したようだが、バンダナの少年が冷静に前を見据えていた。
―――「(で、今度は黒ネクタイのスーツみたいな男が5人の部下を引き連れてきたみたいだ)」―――
―――「(んー。夢なら、俺も戦えるかな。ようし……あれ?)」―――
少年もモンスターボールを取ろうとしたが、できなかった。
―――「(か、体が動かない!?よく見ると、みんなも動けないみたいだ。あの黒ネクタイの男の仕業か!?)」―――
黒ネクタイの男の傍らにいるのは、紫色の体をした目つきの悪いポケモンだった。
そのポケモンは、右手から巨大な黒い球を生み出した。
―――ぐっ!?攻撃が来るっ!! や、やられるっ!!―――
攻撃は確かに当たった―――。
「うわ―――――――――!! ……って、なんだ……夢か……はぁ、びっくりしたぁ」
ベッドから落ちた少年は目を覚ました。
彼の名前はヒロト。
緑色の髪をしたごく普通の少年である。
ヒロトは黄色のシャツにグレーのジーンズという格好で外へと飛び出した。
目的は明日からの旅に足りないものを買出しをするためである。
外に出たときはもう日が昇っていた。
「やっほー!ヒロト!」
そして、少し歩くと、不意に後ろから呼びかけられた。
「あ、ヒカリ!」
声をかけてきたのは幼馴染のヒカリという少女だった。
青い髪でツインテールのとても可愛い女の子だった。
ヒロトと同じ10歳で、明日旅立つ予定である。
「明日の準備?」
「まぁ、そんなところ。ちょっと、荷物をまとめていたら、足りないものとかあったからさ」
「そうね、ハンカチやちり紙は持っておかないとね」
「ピクニックに行くわけじゃないぞ」
「冗談に決まっているじゃない!」
そういって、ヒロトの背中を押すヒカリ。
「じゃあ、私も一緒に行っていい?」
「……別に、かまわないけど」
若干トーンを落として、ヒロトは頷いたのだった。
彼らが住む街の名前はノースト地方のマングウタウン。
ノースト地方とは、カントー地方の北に位置する地方であり、夏はそこそこ涼しく、秋はおいしい作物がとれ、冬は雪がたくさん降る自然に溢れる地方である。
その中のマングウタウンとは、他のノースト地方の街と比べると、面積が広く、お米が取れる場所である。
発電所もあり、その電気はほとんどがカントー地方の街へと送られているのである。
なくてはならない街の一つである。
しかし、それ意外の施設は乏しく、ポケモンセンターとこの街に住むトミタ博士の研究所があるだけである。
この町に残って、就職する子供はあまりいない。
ほとんどが10歳になってポケモンを持つ資格をもらったときに、トミタ博士から初心者用のポケモンを譲ってもらい、旅へ出るのである。
ヒロトとヒカリはそのうちの2人であった。
2人は買い物をして店から出てきた。
買ったものといえば着替えに食料に雑貨用品などなど。
必需品ばかりだった。
ヒロトとヒカリは、他愛もない話をしながら歩き、今は、最初のポケモンの話をしていた。
「ヒロトって最初のポケモン決めた?」
「最初のポケモンか……。確か、トミタ博士の研究所にいる初心者用のポケモンって、9種類だったよな。まだ決めていないよ。9種類から決めろと言われても迷っちゃうよ」
「それもそうよね。私もよ。でも、私はフシギダネかチコリータで迷っているの」
「ヒカリらしいな。草系のポケモンとかやさしそうなポケモンが好きだもんな」
「わかってんじゃん!」
バシッと、背を叩くヒカリにこけそうになるヒロト。
「卒業して10歳になったらポケモンの扱いの免許が取れる。そして、旅に出たり、上の学校に進んだりするのも自由。友達に会えなくなるのはちょっと寂しいな」
「いつでも帰ってくればいいじゃない。一生会えないわけじゃないんだから、そんなこと言わないの!」
「まあ、そうだな」
フッと表情を明るくして、ヒカリに微笑みかけるヒロト。
「ヒカリ、ありがとう」
「…………」
ヒカリは不意に足を止めた。
「……?どうした、ヒカリ」
「ねぇ、ヒロト」
「?」
ヒカリは緊迫した様子だった。
ヒロトを呼ぶ声もかすれていたようだった。
「もしよかったら、私と一緒に旅をしない?」
突然だった。
ヒカリがそう言った事により風が止まり、周りがなんだか静まったように思えた。
「……ヒカリ。一緒には行けない」
「……っ!? な、なんでよ?」
「本当に悪いが、今はそれができない」
「ど、どうして!?」
「ごめん……ともかくできないんだ……」
「…………」
前を歩くヒロトを抜かして、ヒカリは振り向かずに言った。
「そう、わかったわ。ごめんね、無理言って。じゃあ、ヒロト、元気でね!」
そういってヒカリは走って行ってしまった。
そんなヒカリの目は潤んでいた。
ヒロトは彼女が走り去るまで、背を向けていたのだった。
「誰かそのポケモンを捕まえてくれ~!」
ヒカリと別れて、公園にやってきたとき、一人の白衣を着たおじさんの声が聞こえた。
「ん?ポケモン!?」
ヒロトがとっさに後ろを向いた瞬間、そのポケモンは通り過ぎていった。
「はぁ、はぁ、あれ?ヒロトくんではないか!」
「何をやっているのですか?トミタ博士?」
「ポケモンに逃げられたのだよ!見て分からないのか?」
「分からないこともないですが……」
すると、トミタ博士はじっとヒロトを見た。
「……その目線はもしかして、僕が追いかけろと?」
「年寄る波には勝てないんだよ。ハハハ……」
と、ちょっと涙目の博士である。
「わかりましたよ」
ヒロトは「面倒なことになったな」と呟きつつも、そのポケモンを追っていった。
―――10分後。
「待てー!よし捕まえた!かわいいなこいつ、『カゲー』って鳴き声が可愛いなぁ……って、アツッ!!」
ヒロトが追いかけていたこのポケモンの名前はヒトカゲといった。
そして今、ヒロトの顔面に火の粉がヒットした。
その隙にヒトカゲは逃げ出した。
「くぅ~可愛いくせにあんな炎を吐くなんて……。とにかく追いかけないと!」
―――さらに10分後。
「ど、どこにいった?あいつ?……ん!あっちみたいだな!」
なきごえを頼りに追ってみると、トミタ博士と会った公園とは別の公園に辿りついた。
そこには今にも倒れそうなヒトカゲがいた。
そしてそこには2人の不良少年がいた。
すぐにヒロトは状況を悟った。
「おい!何やっているんだよ、おまえら!!」
“あ、なんだあいつは?”
“かまうな、放っとけ”
「やめろ!」
不良たちがヒトカゲを蹴りつけるのをヒロトがヒトカゲを抱え込み、ヒトカゲの代わりに蹴られ続けた。
ヒロトは飛びついてヒトカゲが受けるはずだった攻撃を受けた。
「ぐっ……」
“なんだこいつ。ばかじゃない?ポケモンをかばうなんて”
“ああ、放っとけ!それより、ヒトカゲを捕まえ―――!?”
この二人の会話は続かなかった。
ヒトカゲが怒りの炎を吐き出して、上空へと吹っ飛ばしたのだ。
「ヒロトくん、ヒロトくん!」
「う~ん……あ!博士!」
数分後、トミタ博士が走ってやってきた。
その額には汗がびっしょりで、息切れが酷い。
「ぜぃぜぃ……大丈夫かい? ゴホゴホ……」
「博士こそ大丈夫ですか……?」
「ま、まぁ、なんとか……ところでそのヒトカゲ……」
「ん?あ、あれ?ってくすぐったいよ!」
ヒトカゲはヒロトに抱きついていた。
「どうやら君に懐いてしまったようだなぁ。そうだ!よければ、その子を旅に連れて行かないか?」
「んー、そうですね!ヒトカゲ、一緒に行くか?」
「カゲ~♪」
「よし決まりだよろしく!!ヒトカゲ!!」
こうして、ヒロトの最初のポケモンはヒトカゲに決まったのだった。
「よし、これで準備完了だ!」
夜になり、最後の荷物をリュックに詰め仕込んで、旅の支度を整えた。
「明日は旅立ちだ。一緒にがんばろうな」
モンスターボールを見つめ、ヒトカゲに語りかける。
「そうだ、名前をつけてあげなくちゃ。どんな名前がいいかな……」
ベッドに寝転がって、ヒトカゲの入ったモンスターボールを持ち上げる。
「んー、ザーフィなんてどうかな」
ふと、ヒロトはベッドに偶然置いてあった小説の内容を思い出した。
固い信念を持ち、どんなことがあってもパートナーと一緒に戦い抜くドラゴンの名前だった。
「俺の最初のポケモン……だから、俺の一番のパートナーになってくれ!」
ガタガタと反応するのを見て、ヒロトはにっこりと笑った。
「ふぁ~……眠くなってきた。俺もこんな冒険をしたいなぁ」
ヒロトは冒険小説を本棚にしまった。
「明日が気分よく起きられるように、いい夢見たいな……」
程なく、彼は眠りに落ちたのだった。
そして待っていたのは、いつもの夢だった。
マンションにゲームコーナー、そしてデパート。
見るからにヒロトがいる場所がとても栄えた大都市だという事が分かる。
―――「(ここって、どこだろう?ジョウチュシティよりもでかいぞ!)」―――
少しヒロトは歩くと、マンションの裏に人の集まりを見つけた。
赤いバンダナをした少女と少し背丈が小さいメガネをかけた少年と白い帽子を被った少年だった。
―――「(なんか黒服の集団に囲まれている……ポケモンバトルをしているのか?でも、どちらかというと襲われている感じだ……)」―――
ヒロトは考えた。
どう考えても周りを囲っている連中はロクでもない集まりに違いがないと。
ヒロトは決心をして、近づいていった。
―――「(あり??わぁ!!)」―――
だが、ヒロトは何かを踏みつけた。
そう思ったときには、眼前に地面のコンクリートが迫っていたのだった。
「イタタタタ……」
夢オチとはまさにこのことであり、ヒロトはベッドから落ちていたようだ。
「まったく……いつもながら狭いベッドだ!でも、それも今日で終わり!これからマングウタウンを旅立つんだ!」
ヒロトは素早く白いTシャツに黄色いシャツを羽織り、灰色のジーパンを穿いてダイニングへと降りていった。
「あら、おはよー、ヒロト。早いのね」
「おはよ~、姉さん」
緑色の長髪を一つに縛った彼女は、ヒロトの8つ年上のルカという。
しかし、この村に住む人は、彼女のことを親しみを込めて、ルーカスと呼んでいた。
朝食の準備は姉のルーカスが既に整えていた。
「ヒロトも旅立つのね」
「スクールを卒業した時からそういっているだろ!」
「ふふっ、そうだったわね」
笑って見せるルーカスだが、どこか寂しくも見えた。
ヒロトは自分を含め、姉、母、父の4人だった。
しかし、父はヒロトが生まれて旅に出て行方知らず、母は父が旅立ってからすぐに病気で亡くなった。
今は、トミタ博士の助手をしている姉のルーカスだけだ。
「ヒロトは旅に出て何をしたいの?」
ルーカスが朝食のパンをほおばりながら聞いた。
「前も言っただろ!世界を見て回りたいんだって!」
「聞いたわよ!でも、それだけ?」
「それだけって?」
「ポケモンマスターになるとか、トップブリーダーになるとか、考えたことない?」
「ないよ」
ヒロトは即答した。
それにルーカスは溜息をついた。
「少しは自分の夢とか考えなさいよ!まぁ、一度ノースト地方を周ってから考えればいいけど」
「(夢かぁ……)」
ヒロトは手を止めた。
「(そう言えばまた変な夢をみたなぁ……あれは何なんなのだろう?)」
そんなことを考えていたヒロトだったが、思考を中断し、ルーカスの旅における注意事項を聞いていた。
姉の心配な気持ちを考えると、聴かずにはいられなかった。
「ありがとう、姉さん。俺はもう行くよ!」
「あ!待って!これ私からのプレゼント!!」
ルーカスはポケナビを渡した。
「ありがとう!」
「そう言えばヒカリちゃんは一緒じゃないの?」
「ああ、別々に旅をすることにしたんだ」
「そう……」
「それじゃ、もう行くよ!」
そうひとこと言うとヒロトは行ってしまった。
ルーカスは少し難しそうな顔をして弟の旅立ちを見送った。
「待っていたわよ!ヒロト!」
トミタ博士の研究所を出てきたヒロトを待ち構えていたのは、幼馴染のヒカリだった。
「ヒカリ!待っていたって……いっしょに行けないって言ったじゃないか」
「違うわ!ポケモンバトルをしましょう!! ……私、はじめてはヒロトがいいのっ!!」
ちなみに、通りかかったお兄さんや主婦がヒカリの発言に振り向いたのは、別の話である。
「そうか、じゃあ、やろう!ポケモンバトル!」
ヒロトはモンスターボールを握り、ヒトカゲを繰り出した。
「私は、この子よ!フシギダネ!」
ヒカリが出したのは、つぼみポケモンのフシギダネ。
相性から言えば、ヒロトが有利だ。
「フシギダネかチコリータで迷って、フシギダネにしたんだ」
「そうよ!研究所へ行ったら、急にこの子が飛び出してきて、私に抱きついてきたの。それでにすぐ決めたの!」
「そ、そうか……」
ヒロトは昨日のヒトカゲのことと、さっきトミタ博士へ挨拶をしたときのことを思い出した。
トミタ博士は、アチャモとワニノコを捕まえようとするが、逃げ回る2匹に翻弄されっぱなしだった。
だが、ヒロトとヒトカゲの助けもあり、なんとか状況を納めることができた。
ヒトカゲといいフシギダネといい、そして、研究所のポケモンといい、ほとんどのポケモンがボールから出た状態である。
これじゃ、逃げ出すのも無理はないと思った。
「それじゃ行くぞ!ザーフィ、『火の粉』だ!」
ヒトカゲは昨日、ヒロトの顔面に浴びせた火の粉を放った。
「かわすのよ!」
ヒロトが命令した直後すぐにヒカリは指示を出した。
フシギダネは見事に火の粉をかわした。
だが、ヒトカゲはもう間合いを詰めていた。
ヒトカゲの速さにフシギダネとヒカリは慌てた。
「上に飛ばせ!」
『ひっかく』攻撃が決まり、フシギダネが宙へと舞った。
「たたみかけろ!『火の粉』だ!」
空中にいるフシギダネにかわす術はなかった。
火の粉がクリーンヒットし、フシギダネはダウンした。
「俺の勝ちだ!」
「……うぅ……何もできなかった……。でも次は負けないわよ!」
そう言って、ヒカリはフシギダネを戻し、北へ行ってしまった。
「よし俺らも行くか!」
ヒロトとザーフィは西へと歩き出した。
こうして、彼らの旅は幕を開けたのである。
たった一つの行路
第一幕 Wide World Storys
№001 運命の始まるノースト地方① ―――ヒロトとヒカリの旅立ち――― 終わり
つづく