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この小説には官能表現があります。苦手な方は回れ右してください。
悪なんてそんな生温いものじゃない。
魔の付いた好奇心の塊。
欲しいものは欲しい、それが身を削ろうとも手にしたい。
満たすのは誰だ――
今宵は半月。満月から時が経ち、新月へとこれから変わろうとする月。
満天の星空が、月と共に輝く。
時に美しく、妖しく輝く、月は暗闇があってこそ輝くもの。
その光の下で、白く輝く美しい根毛をなびかせ、頭の黒い鎌が僅かな月明かりで鈍く光りを反射する。
「なるほど、思った通り溢れ出ている。未熟というか、心に落ち着きがないというか……」
凛とした口調。高貴な雰囲気の漂うアブソルの澄みきった赤い瞳。まるでこれから起こそうとする出来事を映し出すかのよう、妖しく輝いていた。
「さぁどうする。この深い森の中、お前は自ら上手くやり過ごしたなどと考えているのだろう。だがワタシは、闇に紛れようが地に這いつくばろうが当ててみせるぞ?」
足をたてる度に、森が音をたてる。搖動な流れに恐怖を抱いているかのように木々は忙しくざわつき始める。
赤い目が暗闇の中で不気味に輝きを増す。そして僅かな一瞬の空気の流れをアブソルは感じ取る。
「そこか」
気配を察知したアブソルは、でんこうせっかで間合いを一気に詰める。神速ともいえる風を斬る速さに、標的は手玉に取るように突き飛ばされ、後方の木に叩きつけられた。
「がっ……あ……あぁ……た、頼む……命だけは……」
恐怖に全て飲み込まれた表情を浮かべたポケモン。白い体毛と赤い模様ののはザングースだった。おぼろげな態度と口調に、アブソルはふっと表情が緩む。
「何もお前の命を差し出せとは言ってないだろう。そこまで恐がれてはワタシも心が痛むな」
相手をほぐすような口調で話すも何も変化はない。むしろより心に余裕はなくなっているようだった。
「ただ答えたらいい。……奴はどこにいる」
歯切れのいい言葉を放ち、アブソルは目を見つめた。
するとザングースは震える手を自分の鞄に伸ばし、一枚の紙切れを取り出した。
「それに所載が書かれているのか」
こくりと口を開けたまま頷く。圧倒的な威圧感に言葉も出ない。ザングースの取り出した紙切れを受け取り、アブソルはおもむろに読み始めた。
何かの地図のような絵に、説明書きとして汚い字で書かれていた。一見何を意味しているのか分からないが、よく読み返していると一つの合点に行きつく。アブソルは紙切れに意味している物を理解した。
「なるほど。これは見てしまったものは座視するわけにもいかない……か」
するとアブソルはザングースに再び目を向ける。だがザングースはそばにはいなく、四つ這いになりながらその場を去ろうとしていた。
フッと溜め息を軽く吐くと、アブソルはザングースの尻尾を前足で踏みつけた。
「まだ話は終わっていないのに、のこのこと逃げ出すような真似はよせ。また時間の無駄な追い駆けっこをしたいなら話は別だがな」
若干その状況を面白くとも感じる仕草に、ただザングースは全身を震え上がらせ瞳孔は完全に開いていた。
「本当にこの場所で間違いないんだな。まさかとは思うが、これがワタシを欺く偽の地図というなら――」
影でアブソルの表情が隠れる。
「ワタシの堪忍袋の尾を引くことになるからな」
光りを失った赤い瞳。慈悲など全くない。地の底を映し出すまさに地獄を表しているかの目に、まるで時が止まったかのように森のささやきがピタッと鳴り止む。
恐怖を通りこし何も感じなくなっていた。頭の回路がショートして、思考が自分で制御出来なくなる。自分の理性がパンクしたザングースは、慌てて口を開く。
「ウ、ウソなどついてない……間違いない……間違いなくその場所にいる……!」
「……その言葉に偽りはないな」
ザングースの言葉を確認すると、勢いよく首を上下に振る。
ふむ、と一言漏らすと、アブソルは足をどかし、ザングースを自由にさせた。
「行け」
用の済んだザングースは慌ててその場を立ち去る。
始めはただ情けなく何度か転びながら立ち去って行っていた。だがしばらくすると、ザングースの足が止まる。少しずつ自らの理性を取り戻しつつあると、ザングースはその場で膝を付き手を地に付ける。
「あっ……ああ……ああっ……!!」
頭の中が真っ白になり、目の前の光景が白と黒で埋め尽くされる。
どこか別の世界から現実に戻ったように、ザングースはその場でただ呻きながら佇んでいた。
森を抜け、草原へと駆け抜けたアブソルは夜空を見上げた。森の木々によって遮られていた空はここならよく見える。 月は薄い雲によって輝きが隠れ、また不思議な光を放っていた。
「今夜はいい夜風だな。透き通る」
山の背は静かにアブソルを見つめていた。薫風が何を意味するか語ってくれる。
「フフ……心が疼くな。いったいどんな面白いことが起こるのやら――」
雲に隠れた月が露わになり月明かりが一際輝く。
月の光がまるで正体を現すかのように照りかかる。
共鳴するかのように、月の輝きはより金色の明かりを放っていた。
だが何よりこの瞬間に光を強く発していたのは――
アブソルの赤い妖しい瞳だった。
お願いだから土下座しますから勘弁してくださいませ、とくらいに照り刺す太陽は今日も頭の上で鬱陶しいくらいに存在する。そんなお天頭様の下で、体力など関係なしに熱いバトルを繰り広げるポケモンは、太陽よりも熱く燃え上がっていた。
多数のポケモンたちが二匹のバトルを見守り、盛り上がっていた。
「これでとどめ!かえんぐるま!」
炎を身にまとい、ガーディは標的に向け勢いよく突撃する。素早い攻撃に、標的となったブイゼルは対応しきれずに、正面からクリーンヒットした。
ブイゼルの周りには飛び散った炎が散乱し、かえんぐるまの壮絶さを物語る。
見事ガーディはブイゼルをK.Oさせた。文字通り真っ黒焦げと無残な姿になり、太陽の下でさらに熱く焦げる。
「そこまで!」
勝負の決まった戦いに、レフリーを務めていたエレブーは両手を上げた。
「ふむ、お互いにいい戦いだった。では明後日の選抜会まで、各自訓練を怠わらないように!解散!」
エレブーの合図と共に、緊張の糸が切れた一同は各々自由に行動を開始した。
とあるタウンの広場にて、ポケモンたちが集まり各々ががやがやと賑わっている。エレブーの言った探検隊の選抜会に向け、皆は期待と話題の持ちきりだった。
憧れの仕事でもある探検隊は夢ある者たちの目標である。探検隊に選ばれる、即ちタウンのヒーローとも言うべき最高の仕事だ。
だが、危険な仕事なのでもちろん実力のあるポケモンでないといけない。また数も大勢だと小回りの利かない団体になるので、力はあっても全員は参加できない。その選抜会が明後日に行われようとしていた。
立候補したポケモンから選ばれるのは僅か数匹と聞いている。厳しい門だが、それだけに気合を爆発さえる者もいる。狭ければ狭いほど燃え上がるというやつだ。
実力を測るに最適なのがバトルだ。互いに全力を出し合い、力を比べるにはこれ以上はない方法。その勝敗や技のキレなどから推薦し、メンバーを決めるのだが、その中で一匹が落選確実と噂され続けていたポケモンがいた。
先ほど、ガーディの技で黒焦げになったブイゼルであった。
ブイゼルも気が付いたと同時に、エレブーから今後の予定を聞かされ、ひとり場から離れようとした。
「今回のバトルで晴れて十連敗達成っと……本当情けないな」
呆れるような口調でブイゼルに詰め寄るモココ。彼もこの探検隊の選抜メンバーの立候補していた。実力は電気タイプの中では並のクラスだが、トリッキーな戦略を得意とするモココは、戦いで他にはない特徴を持つ彼はすでに仲間内からも大きな評価を得ていた。
「どうすんだよ。これじゃあ明後日の選抜に選ばれるどころか、目も付けてくれないぜ」
小馬鹿にブイゼルを見る目でモココに、ブイゼルは覇気のない目で反らす。
「どうするんだよって……その時はボクの実力では探検隊に選ばれなかったこと。潔く諦めるよ」
「お前な……今回の結果を踏まえて、もっと自分をなんとかしなくちゃとかいう気分にはならないのかよ。どこからそんな言葉が出てくるのだか……」
「知らないよ。ボクはキミみたいに楽観的じゃないんだ」
「なっ……!」
ブイゼルの卑屈な言葉にモココの顔色が徐々に変わっていく。友として幼い頃から長いこといるが、いつからこんな性格になってしまったのだろうか。今回のバトルでも自分の気持ちに負けてこの結果のこと。それに拗ねているのだろう。
腹立たしい気持ちが湧き上がってくるが、モココはグッと胸にしまい込んだ。
「……ま、お前がそれでいいなら別にいいけどな。オレには関係ないし。そうして後になって辛くなって後悔するんだろ?そしたら泣きっ面くらいは拝ませてくれよ」
逆撫でして刺激を与えさせようとでも考えたのだろう。モココはワザとらしく生意気な口調でブイゼルに楯突く。
だがブイゼルはモココの視線を向けるも、表情は依然と変わらずにいた。
「言っとくけどね、ボクがそんな頭の悪い安っぽい言葉に激情すると考えていたらまずはキミの思考を見直さないといけないと思うけどね」
モココよりも更に生意気な口で言い返す。倍返しに皮肉をされたこともあるモココの表情は怪訝なものへと変わっていく。
右手に拳を作り、歯を食いしばると右足を勢いよく前へ出した。
「……調子に乗ってんじゃねぇ!!」
力を込めたモココのばくれつパンチはブイゼルの腹部へクリーンヒット。威力共に感情に任せた一撃は大きくブイゼルを突き飛ばした。
「ぐっ……あぁっ……キミねぇ……っ!!」
ばくれつパンチは混乱の作用がある攻撃。当たれば必ず混乱する技故、ブイゼルは立ち上がるもふらふらと足がおぼろついている。そして頭を押さえながら、ブイゼルはモココを睨みつける。
「何だよ」
怒りが収まっていないモココからはバチバチと静電気が飛び散る。ブイゼルもやり場のない、怒りに満ちた視線で拳に力を溜めていた。
しばらく目と目が合った後、ブイゼルは啖呵を切るようにその場を去って行った。こんなくだらない喧嘩に馬鹿らしくなったのか、冷たい視線を送りながらブイゼルは背中を向けていった。
「何なんだよアイツは……まったく……あああ!もう!何でヘタレなアイツのことでイライラするんだよ!畜生!」
ただ一匹で怒るその姿に、周りからは冷たい目で見られていた。
タウンの南。林が広がる地域にある湖。豊かな自然に囲まれたスポットは、草ポケモンや水ポケモンたちにとってはタウン屈指の癒しの空間だ。周りは静かで、心地よい風と水の音が身も心も綺麗にしてくれる。
その湖でブイゼルは一匹で泳いでいた。今なら誰もいない、この場所なら何も考えずにいられる。頭の中がごちゃごちゃになっても、ここでなら全てをリセットし、冷静に考えることが出来る。
水面に顔を浮かび上がらせ、ブイゼルは真夏の太陽が厚い雲に覆い被さった空を見つめていた。
先ほどのモココの言葉はブイゼルの頭の中で轟いていた。
『これじゃあ明後日の選抜に選ばれるどころか、目も付けてくれない』
まったくその通りだと感じていた。バトルでの結果を出さなければ、探検隊の一員になることなどまず不可能だ。
戦いにあるとどうしても緊張して本来の力が出せない。言い訳にしかならないが、探検隊を目指し血の気もにじみ上がるように腕を磨いているこのタウンに来るポケモンたちからしれみれば、迷いしかない自分はただのカモだ。そんな連中と渡り合って勝てるわけがない。
自分の実力なんてこの程度のものだ。卑屈な考えが更に卑屈な考えを生む。もがき続ければ続けるほど泥沼に沈んでいく様に、ブイゼルはすっかりマイナスの思考しか働かなかった。
「またここに来たのですか」
「あ……ミロカロス……」
突如水中から姿を現したのはブイゼルと同じくこの湖に来るポケモン、ミロカロスだった。誰が見ても美しいと阿鼻驚嘆させられるその優雅な容姿は、ブイゼルの脳裏にも焼き付いている。
さぞ異性から愛の告白を受けるのだろうなと、誰もが納得の美貌にブイゼルも虜になっていた。
「また一匹でこんな所に来るとは、差し詰めまたバトルで負けて拗ねているというところですか?」
「うっ……!」
会って数秒もしないうちに本心を見破られると。ブイゼルはバランスを崩し溺れかけた。
「図星、と言わんばかり分かりやすい……あなたほど単純なポケモンは他にはいないですね」
「それはボクを馬鹿にしてるの?」
ふふ、上品に笑いを浮かべ真意を濁すミロカロス。照れと拗ねが交差する感情に、ブイゼルはそっぽを向いた。
「そういうわけじゃないですが。ただ、そのままの意味を私は言ったまでですよ。けど、もし何か悩みがあるならいつでも相談に乗りますよ。私とあなたの仲じゃないですか」
くるりと体を優雅に回転させる。水しぶきが飛び散り、ミロカロスの美しさをより際立て太陽の下で輝く。見世物ならお金を払ってもいいくらいの独占のショーだ。だが今のブイゼルにはそんな楽観的な気分になるような余裕はない。
「別にミロカロスには関係ないよ。ただ、三日後にある探検隊の選抜会を辞退しようか考えてるだけ」
ブイゼルの澄みきった言葉にミロカロスは目を細めた。脱力感と虚無感が混じった台詞に何か感じ取ったらしい。
「それは何故?あんなにも張り切って挑んだ門なのでしょう?それを、ここで蹴飛ばすつもりですか?」
「そうだったけど……実力の差が歴然としているよ。元々バトルとか得意じゃないし、どうしても勝てない。万が一に奇跡が起こり、ボクが探検隊に入隊しても、力のないボクは足手まといなだけ。それだけじゃない。みんな本気で探検隊になろうとして頑張っているんだ。それなのに、こんな中途半端な気持ちで挑むボクが選抜会に出たら、それこそみんなの迷惑になる。ならさっさと素養のない奴は消えるが正論でしょ」
ネガティブな口調にやる気のない表情。完全に希望をなくしたブイゼルの口から出るのは何もかも否定的なことばかりだった。
水に浮くブイゼルだが、とてもその背中が弱々しく見える。目の前の現実から目を背けている。
「諦めるのですか?ずっと夢見てきた探検隊を」
ミロカロスの言葉にブイゼルは口を開かない。
「あなたはこの日のために一生懸命頑張ってきたのでしょう?行方不明になったお父様を探すために、そのために探検隊の一員になると」
「そうだけど!現実なんてこんなものだったんだよ!夢を見るだけじゃ願いなんて叶えられない!叶えるには力が必要なんだよ!ボクには……それがない……」
何年も前に連絡が途絶え、今どこでどう何をしているかまったく詳細の掴めていないブイゼルの父親。自分の父を探すため、ブイゼルは探検隊の門を叩いた。
だが日に日に感じる他者との劣等感に、気持ちは揺れ始め覇気もなくなっていった。自分には成し遂げられない。そう感じていたのだろう。
だがミロカロスはそうは思わないと、首を横に振った。ブイゼルはこんなところで諦める子じゃない。卑屈になっても、彼の本当の実力を感じ取っていた。
今は心に整理がついていないだけだろう。その状態であらゆることを選択しても良い結果など絶対に生まれない。
なら落ち着かせればいい。心を静めればいい。ミロカロスは一つ溜め息を吐くと、ブイゼルを見つめた。
「本当にしょうがない子ですね」
おしとやかに笑みを浮かべると、ミロカロスはブイゼルに身を寄せる。彼女の太くて長い胴は軽くブイゼルの体を一巻きにして、抱き寄せた。
「え……な、何を……?」
その魅惑の眼差しと特融のメスの匂いにブイゼルの顔はみるみると赤くなっていく。初めての感触に戸惑い、頭の中はパニック状態になっていた。
「そんな深く悩むことなどないじゃないですか。あなたはあなたなのですから、他の誰かの事を考える必要などありません。まだ可能性はゼロになったわけじゃないのですから、自分を追い詰めるような事を言ってはダメです。何事もやってみなくては。結果が出るまで諦めてはダメですよ」
心地よい香りと優しい口調に言葉があまり入ってこなかった気がする。だが何が言いたいかは分かった。
ミロカロスは信じているのだ。こんな自分に希望はまだあると言っている。何て健気でおひとよしなのだろうと。
ミロカロスの暖かい気持ちにブイゼルは目を覚ました。自分の事で他者に心配をかけるなど子どもの甘えだ。それに気付いたブイゼルは自分の行いを悔い改める。
「……そうだね……まだ終わったわけじゃないのに、全てを諦めるなんて……それこそ迷惑がかかるというものか……」
モココの言う通りだ。自分をなんとかしなくちゃ、どうしようもない。
「ええ、その通りです。……私もあなたがいてくれなかったら……何も出来ませんからね……」
「え……?」
よく聞き取れなかった声だったが、ミロカロスは笑顔を浮かべ誤魔化す。何やらとても大切な事を言ったような感じがしたが、これ以上は感傷に浸るなということだろう。
ミロカロスとの会話でブイゼルの心は軽くなっていた。次モココに会ったら、きっちりと話をして謝ろう。
どんよりとした雲から現れた太陽に、ブイゼルは真っ直ぐと空を見上げた。
その日の夜はいつにも増してじめじめと蒸し暑い夜だった。
湿気には強いブイゼルだが、昨晩とは一変、急な気候の変化に体が慣れていない。
まだ夏になったばかりだというのに、この暑さは我慢出来ないものがある。ブイゼルは探検隊の本部に近い、南の集落で暮らしている。だが、わらで出来た簡易な寝所は風を通すものの、ムシムシと湿気のこもる事でブイゼルの種族には合っていると思っていたがそうでもなかった。
水辺に住んでいる他の水タイプのポケモンが羨ましい。ここから引っ越す時は水のある所に住もうと考えているほどだ。
そういう訳で、寝苦しい夜にブイゼルは気分転換にと夜のタウンを散歩していた。夜の雰囲気は、活気ある昼のタウンとは違い、物静かで独特の雰囲気がある。
長年このタウンに暮らしているが、毎日が退屈しないのはこの雰囲気にある。日に日に風景が変わる、まるで自ら成長していくようなタウンにここのポケモンたちは各々刺激されるのだろう。
夜の風景も例外ではないが、今一つ心に不快感を察するものがあった。
タウンのポケモンたちと、先ほどからすれ違うのはこの夏に出来たばかりのカップルのペアばかり。夏の夜ということで雰囲気はあるが、ブイゼルにとっては妬みの対象でしかない。
生まれてから一度も異性のペアなど出来たことがないブイゼルにとって、雌雄が特別な空間を作るその瞬間は永遠の憧れでもある。
そういえば、モココにも相方がいた記憶がある。やはりモココの種族の中でも容姿が惹き寄せるものがあり、バトルでも結果を残しているのだから、異性から求愛を受けるのだろう。
昼間は自分の不甲斐ない結果を受け入れることが出来ず、モココの言葉にそっぽを向き自ら根も葉もない言葉を言ってしまった。怒るのも当然だ、モココは自分のために言ったのにそれを蹴飛ばしてしまったのだから。
今頃は何をしているのだろうか。最愛の相方とこの熱帯夜を過ごしているのだろうか。この真夏の暑い夜にも負けないくらいに、熱く愛し合っているのがろうか。
熱く……燃え上がるような行為を……厭らしく……濃厚に……
……
「……なに馬鹿なこと考えてるんだろ……」
ふと現実に戻るかのように我に返った。自分にはパートナーがいないからと、何ひがみを生み出すような妄想に浸っているのだと。
それは自分だって共に愛せるパートナーが欲しいが、異性を惹き寄せるオーラのない自分に振り向いてくれるメスなどいない。そんな心情に溜め息が出る。
自分だって異性と当たり前のような求愛をしたが、自分から踏み出そうもせず相手が振り向いてくれるわけがない。今の自分に何かを惹き寄せる力などありやしないから。
今は誰かのことなんて考えず、眠れるよう気を紛らわすのが目的だったはず。なに目が冴えるようなことを考えているのだろうか。
マイナスの思考が更にマイナスの思考を生む。さっさと眠気を起こすため、タウンを一回りしたら自分の部屋に戻ろう。早めに割り切り、虚しいだけの思いを心にしまう。
そんな最中、西の広場の路地にて、ブイゼルは何か怪しげなポケモンを確認した。
「あれは……?」
どこかで見たことのある影に、ブイゼルは足を止める。とりあえず、物陰から相手に見つからないように、建物の陰に隠れて様子を伺う。ここからなら何とか姿が分かり、声もよく聞き取れれば耳に入る距離だ。
「……例のブツは見つからなかったのね……それじゃあ……」
見たことのある影と一緒にいるのはなにやら空中にふわふわと浮いているゴーストタイプのようなポケモン。首元の真珠が怪しく光り不気味さを際立てている。
そして見たことのある影は、昼間に会ったばかりのポケモン。長い胴体に美しい容姿のミロカロスだ。
何故ミロカロスがこんな所にいるのだろうか。それにあのポケモンはいったい何者だろうか。
何だか嫌な予感がしてならなかった。確証などないが、自分の勘がそう言っている。なぜこんな夜遅くに、こんな暗闇の気味の悪い所に来る必要があるのだろうか。
しばらくしないうちに、ミロカロスたちは建物の裏通りへと入って行った。西の広場の裏路地は明かりがなく、不良のポケモンたちが済みつく裏のタウンと呼ばれているところ。
ブイゼルも長いことタウンには暮らしているが、そんな気味の悪い場所に、あのモココも足を踏み入れたことはない。
そんな得体の知れない所に、ミロカロスが連れて行かれたとなると、これはただ事ではない。卑屈で気の弱いブイゼルだが、目の前で見かけてしまったらうずうずと黙って見逃すわけにはいかない。
だがそれと同時に恐怖が込み上がっていた。自分は力などないし、いざという時に自分の身を守れるだろうか。
いや、今はそんな事考えている暇などない。とにかくミロカロスが心配だ。ブイゼルはクッと目を細くし、覚悟を決めて、ミロカロスの消えた裏路地へと入って行った。
タウンの路地裏は木々と建物で視界が遮られた見通しの悪い通路。昼でも木の葉っぱで光が多いに遮られることもある。しかも夜となると、完全に闇の空間とも言うべき視界の悪い所だ。
おまけに何やら鼻につく異臭が経ちこもって息苦しく思える。言葉に出来ないくらい生臭い。ブイゼルはこの臭いに心当たりがある。この特融の嫌に鼻につく感じは間違いなく――
だが今はこの異臭について考えるよりミロカロスを探す方が先決だ。
しかしこんな得体の知れない所に、ミロカロスは何をしにきたのだろうか。良い噂のないこの西の路地裏、滅多に立ち入らない場所に来るなど危険すぎる。
そんな危険な所に、ブイゼルも立ち入っているのだが、周りにはポケモンの気配すらない。眠っていても、僅かな吐息や熱で分かるものだが、何もないというのはあまりにも不気味すぎる。
嫌な胸の圧迫感がしてブイゼルは息を飲んだ。いったいここはどうなっているのだと、苦い表情を露わにした。
「あれは……」
しばらく進み、何やら薄暗い灯りのようなものを発見すると、周りにはようやく数匹のポケモンの姿があった。ミロカロスの姿は分からないが、とにかく見つからないように気配を消して様子を伺う。
場の様子から察するに、何やら言い合いになっているようだ。
「――ということは、お前は――ということか」
ここからでは声の聞こえる範囲ではない。途切れ途切れで何を言っているのか分からない。
ミロカロスの姿も見えないということで、少しリスクはあるが声の聞こえる範囲へ移動する。
いったいここにはどんなポケモンが生活しているのか。素行の悪いポケモンが多い印象を持つ西の路地裏だ。もし誰かに見つかったとなると、いったいどんな仕打ちを受けるのかと不安が募る。
心臓はバクバクと大きく鼓動しているが、とにかくミロカロスの事だけを今は考え、余計な事は考えないようにする。音を殺し、最低限の呼吸で目の前のグループに近づいて行った。
「いったいどういうことなんだ?もうあれから数日経っている。一刻を争うんだ。これ以上無駄な時間がかかるというなら――」
「待ってください。今少しずつ情報を集めているのです。もう少しだけ時間を、時間をくださいませんか?」
ここからなら声がはっきりを聞こえる。それにミロカロスの姿もばっちりと確認出来る。何やらミロカロスの前のいる大柄なポケモンに言葉を浴びせられているようだ。ミロカロスの困惑した表情に、良い雰囲気は全く感じ取られない。
「いったいいつになったらその言葉以外の報告が開けるんだ、ミロカロス。儂らはこの町の探検隊より早く、礼の遺跡のお宝を発掘したいんだ。だから儂らの探している鍵……『悪魔の涙』が必要なんだ」
「……!」
そのポケモンの言葉を聞いたときにブイゼルは酷く驚いた。『悪魔の涙』とは、このタウンの探検隊が管理している秘密の鍵。まるで悪魔が一粒の涙を落としたかのような、邪悪で、かつ悲しげな色をした鍵。
なぜあんなチンピラみたいな奴らが探検隊の鍵を狙っているのか。礼の遺跡に何か関係するものだろうが、ブイゼルは遺跡などあまり興味がなかったため、その手の知識はほぼ皆無に等しい。
探検隊には家族を探すため入隊を希望したようなものなのだから。遺跡の調査も探検隊の仕事だがその辺については、ブイゼルは後回しという適当さだった。
「ふん、まぁお前が何を考えているのか、儂らには関係ないがな……けど契約は守ってもらうぜ……今日までにブツを手に入れられなかったというなら」
突然のことだった。
不気味な笑みを浮かべると、ミロカロスに迫り口づけをした。その展開にブイゼルは大きく目を見開き、動揺を隠せないでいた。
「……ということだったな、ミロカロス」
「うう……リザードン……」
リザードンと呼ばれたポケモンの笑みは邪悪さを兼ねそろえていた。口からはミロカロスとのキスで汚れた唾液でベトベトになっている。
「何だぁ?その顔は。一度交わした約束だろ。ならきっちりと守ってもらうぜ」
そしてリザードンは自らの股からヌルヌルと先走りの走る肉棒をミロカロスに見せつけた。炎タイプらしく、燃え上がるような赤く充血した肉棒にミロカロスはただじっと見つめている。
寒気が走るような恐怖を感じた。その光景を見てブイゼルはこれから何をするべきか分かった。紛れもない、あの路地裏に入った時の臭いは、アレだったんだと気付く。数々のオスメスが行為に勤しみ、まき散らした精液や愛液の臭いだったのだと。
誰もいないこんな所でヤることは一つ、ということだろう。西の路地裏に誰も近づけたくなかった理由はこれだったのだ。
「おいオノンド!ミカルゲ!お前たちもこの際だ!このメスで色々発散といこうじゃないか」
「い、いいんですか兄貴?へへ、俺っちもそのようなメスに有り付けるとはごっつぁんでありやす」
「おれは遠慮する。別にそのようなメスなど興味もないんでな」
左右に大きく生えた牙が目印の、オノンドと呼ばれたポケモンはその言葉を待ち構えていたように。ひび割れた石のような台座から、不気味に顔のような模様が浮かんでいるミカルゲは、場の空気に逆らうようにそっぽを向いた。
「相変わらずだなミカルゲは。まぁいい、儂らだけでお楽しみといくとするか」
「へいっ、兄貴」
オノンドは相槌を打つと、待ちかねていたかのようにミロカロスの体に飛び付く。ミロカロスの魅力的なボディに、同じドラゴングループの二匹はすぐに欲情し発っていた。
リザードンは自らの肉棒を、ミロカロスの口に無理矢理ねじこむ。大柄のポケモンらしい太ましく熱のこもった肉棒は、すっぽりと口内へと侵入した。
「はっは、こりゃいい具合だな」
恍惚な表情を浮かべたリザードンはミロカロスの頭を上下に動かす。滑らかな口内と舌触りに肉棒はビクビクとけいれんする。
「ぐっ……すごい湿り気ッス……」
オノンドはミロカロスの秘所を触り実感に酔っていた。水タイプらしい、じめじめと濡れているメスの秘所はオスを興奮させるのに最高の媚薬となる。
「ふへへっ、これは我慢しろと言われるほうが無理ッスよ」
そう言うと、オノンドは息を荒くしながら膣内に舌を入れた。
「……っ!?」
突然のことにミロカロスはピクリと体を起き上がらせる。刺激に耐えられるとは自分でも思ってもみなかったのだろうが、それでもオノンドの熱い舌に快楽を刺激した。
そんな一方的に攻められるミロカロスをただ傍観しているブイゼルは、両手を握りしめた。
真のヒーローならこの場面で助けに飛び込むだろう。だがブイゼルにそんな力も勇気もない。ましてやここから逃げ出したくて仕方なかった。
だが心のどこかで助けたいという気持ちはあるのだ。それが逃げるという選択肢を凝固させている。
心と頭の中が上手く整理できておらず、ブイゼルはただミロカロスが犯されるところを黙って見ているだけだった。目は涙を浮かべており情けない自分を攻めていた。
「あんた!そんなところで何をしているんだい!」
「うわ!」
窮地に立たされた。
ずっとミロカロスたちの方向へ意識を集中させていたため、後方からの気配に気づかなかった。声に動揺したブイゼルはバランスを崩し、その場で転倒する。
声の主は、最初にミロカロスと路地裏に入って行った、あの赤い宝石のようなものが特徴のゴーストのようなポケモン。このポケモンの存在をすっかり忘れていて油断していた。
「何だ?このガキ。ムウマ、お前のダチか?」
「んなわけないじゃない。そこで立ち聞きしていたらしいんだけど」
物音とブイゼルの声に反応した者たちは、全員がブイゼルに視線を向ける。完全に注目の的になっていた。
「く……くそ……」
明らかに敵意はブイゼルに向いている。身の毛からよだつ、心をえぐられるような視線にブイゼルは息を飲む。
「いったい誰なのか知らないけどさ。その子はあんたらに任せたよ」
無責任にムウマはブイゼルをほり、その場から立ち去った。
ムウマの言葉に同調するように、リザードンはミロカロスから離れブイゼルに近づく。大柄な巨体が目の前に来ると、感じたことのない緊迫感と威圧感に足が震えるようだった。
「何故……何故この場所に来たのですかブイゼル……」
「何だミロカロスの知り合いか。はっは、さてはオトナのお勉強のためにこんな所まで来たのか?だとしたら見上げた度胸だな」
突然の出来事に興ざめしたリザードンの目つきが変わる。尻尾の炎は激しく燃え上がり、感情が高ぶっている証拠だ。
「けどこそこそと傍観している悪い子には少しお仕置きしないといけねぇな。おいミカルゲ!お前今、手ェ空いているだろ。そのガキに教えてやれ。儂らのお楽しみの時間を邪魔する奴はどうなるかってな!」
「どこまでも勝手な……まぁいいだろう」
そうリザードンは言い残すと、自らの翼で風を起こし、辺りを吹き飛ばす。
強烈な風に視界は遮られ、ブイゼルは目を瞑った。
「なっ……ミロカロス!?」
次に目を開けたときにはあの三匹の姿はなかった。この場にはミカルゲと呼ばれるポケモンと一対一。邪魔する者も邪魔される者もいない。
「何でこうなっちまったか分からないが、恨むなよ」
石のような台座から不気味に黒い渦の巻いた奇妙なポケモン。見た目はゴーストのようだ。戦い方に癖があると聞いている。実戦経験の少ないブイゼルに対策など簡単に思いつきはしない。息を飲んだ。
戦いは得意ではない。今日もガーディとの模擬試合にボロ負けした。
得体の知れない相手と戦うなど、ブイゼルにとってこれ以上はない不利な状態だ。だがやるしかない。敵意を向けられた以上、背中を向けるわけにはいかない。
ミロカロスは自分が助けるんだ、と目に気迫を込めミカルゲに立ち向かった。
「はぁっ!」
みずてっぽうで牽制をかける。勢いを込めたが技の出が遅い。
案の定簡単に弾かれ、ミカルゲは反撃の態勢へと移る。
黒いエネルギーを収束させ、解放した。ゴーストタイプの代表的な技、シャドーボールがブイゼルを襲う。
それも勢いがあり重力に引き寄せられるかのような圧迫感がある。一発とはいえ、喰らったら一溜りもない。
「危なっ!」
紙一重で攻撃をかわし、直撃は免れた。後方で大きな爆発が起こり、シャドーボールは歪んだ空間を保ちながら消滅していった。
「くそっ!」
今の技の威力を、この身を持って感じ取り、早めに決着を付けなければこちらがやられると感じた。
ミロカロスのこともあり、うだうだと戦っている場合でもない。早期決着をつけるしかない。
ブイゼルの最も得意とする技、アクアジェットで一か八か。一気にケリを付けようと繰り出す。
全身に水をまとい、勢いよく突進する技だ。この技で何度かモココにも一矢報いたこともある。
焦る思いと負けられない気持ちを技に込め、ブイゼルはミカルゲに向かい突撃した。
「……っ」
衝撃と同時に、ブイゼルは反動で飛ばされる。だがミカルゲに与えた、手応えのある一撃にブイゼルは拳をグッと握り締めた。
だがブイゼルの思いとは裏腹に、ミカルゲは不気味に笑みを浮かべ笑っていた。
「この程度か、まるで話にならない。その程度で俺に立ち向かうなど愚の骨頂だ」
「うぐっ……ぐぁっ!」
あやしいかぜに吹き飛ばされ、ブイゼルは後方の壁に叩きつけられる。
今のアクアジェットは威力も、技の出も完璧だった。それなのにミカルゲはまるで何事もなかったかのようにピンピンしていた。
だとすれば原因は一つしかない。力が足りなかった。
ブイゼルは痛感した。圧倒的な力の差に絶望感を抱いた。歴然だ。実力や経験の差が激しすぎる。
自分なんかじゃ守れないと。
だが見過ごすことは出来なかった。いつもそばにいれくれた相手をほっとくことなど出来なかった。
何もかも無謀だったのだろうか。自分はただ大切に思っている相手を心配で来ただけなのに。
まさかこんなところでくたばるなど想像もしていなかった。これじゃあ皆に合わす顔がない。
絶体絶命のピンチに、ブイゼルは体の力が抜け完全に戦意を失う。
とどめを刺そうとミカルゲは再び黒い波導を集めこちらに向ける。逃げようにも体に力が入らない。胸を奥から絶望が支配する。ここでくたばるのかと頭の中で後悔の念が湧き上がっていた。
だがグッと目を閉じた瞬間に、事態は急変。
「ぐおおぉぉっ!?」
誰かの叫び声。ブイゼルはそっと目を開ける。
ミカルゲが吹き飛ばされていた。
冷たい風が辺りに吹き荒れる。
何事かとブイゼルは目を開けると、強烈な攻撃が目の前を交差する。凄まじい威力にミカルゲは後方の壁に吹き飛ばされた。ただ斬りつけただけなのに、紫炎の斬撃が威力を物語る。
「大丈夫か」
黒い大きな鎌が特徴のポケモン。白い体毛は暗闇の仲でも僅かに輝いており、ブイゼルを見つめる赤い瞳は、宝石のように美しく惹き込まれそうな輝きを放っていた。
「ぐっ……くそ……!」
予想もしなかった展開にミカルゲの様子が先ほどまでとは違う。重みのある一撃をくらった代償に、自らの精神を一気に乱していた。
「何者だ……貴様……」
「ワタシか?アブソルだ。だがお前は名乗らなくていいぞ。興味はないからな」
「馬鹿にしやがって……!」
しゃくに障ったのか、ミカルゲの渦は大きくなっていく。まるで恐怖を具現化させるような黒い渦に辺りの空気は重々しくなっていく。
「俺を怒らせたこと……ただで済むと思うなよ!」
敵意はこの白い体毛のポケモン、アブソルに向いていた。ミカルゲは青い炎を浮かび上がらせると、アブソルに向け勢いよく放つ。
相手を火傷状態にさせるおにびだ。
「技の出だしが遅い。そんなものでは簡単に見切られるぞ?」
不敵な笑みを浮かべると、アブソルの軌道を読み取りひらりとかわす。
おにびはアブソルの後方で弾け、地獄の炎の如く火柱を上げる。
何十発もののおにびを繰り出し、やけになったようにミカルゲは攻撃を続けた。
「往生際が悪いな。なら――」
体に力を溜めると、アブソルの体が虹色に輝きだす。相手の状態系の技を跳ね返すマジックコートだ。
アブソルはそのままマジックコートを使い、数発のおにびを軽々と跳ね返す。炎は一か所に集合してミカルゲに襲い掛かる。
だがアブソルはそれで終わろうとしなかった。自ら跳ね返したおにびに向かって、かえんほうしゃを放つ。おにびの火力で増幅し、何十倍もの威力を増したかえんほうしゃは、ミカルゲに向かって更に速度と威力を増した。
「ぐわあぁぁっ!!」
業火と化した技のコンビネーションはミカルゲを包み込み激しい奇声を上げながら炎に焼かれていく。元の技も凄まじいものだった。並の炎タイプのポケモンでもあれほどの火力は出せない。それを、悪タイプのアブソルがあれほどの火力を繰り出せるのは信じられないことだった。
(す、すごい……)
たった一匹でミカルゲを手玉に取るように善戦する光景を、間近で見るブイゼルには相当な衝撃を覚えていた。
――何て綺麗でキレの良い攻撃なのだろう、何て巧みな技とフットワークなのだろう。何て堂々と恐れのない精神なのだろう。
やがて炎が消えさり、現れたのは火傷を負い大きなダメージが伺えるミカルゲの姿。満身創痍の状態に見ていられないくらいだ。
「貴様……許せん……俺の最大の力で葬り去ってやるっ!!」
力を一点に収集させ、ミカルゲは黒い渦をまた大きくしながら叫ぶ。
だがアブソルは笑っていた。ミカルゲに衰えることなく、不気味に、また何かを核心したような。
その笑みをみるだけで心を奪われそうな、何やら不思議な魔力を持っている。不安など一切ない、まさに堂々とした強者の笑みだ。
「そんなことしたら自分の体力を削るだけだぞ?」
「黙れ!」
その言葉と同時に、ミカルゲはシャドーボールを放つ。先ほどよりも更に大きく、より強力な技だ。
どんな状況でもアブソルは動じなかった。先ほどのおにびのように軌道を見切り、赤い瞳を一際輝かせる。そしてシャドーボールに逆らうかのように体を動かし、頭の長い鎌が深淵を映し出すかのように黒く光る。
「ほら、返すぞ」
体を回転させ、勢いよく鎌を振る。シャドーボールは上手く鎌の重心にミートし、打ち返した。球威の増したシャドーボールは、凄まじい速さを保ったままミカルゲに向かい、反撃の隙すら与えない。
「うわあぁぁっ!!」
声にならない声を上げたかと思うと、爆発に飲み込まれ、かなめ石ごと夜空へと吹き飛ばされて行った。
余裕の笑みを浮かべながら、アブソルの勝利と終わった。
相手の攻撃を利用した応戦に、見たことのない戦いだった。そんなアブソルを前に、怖いと感じなかった。自分でもよく分からない。心の奥底でその光景に自分は魅入られていたのか。それとも頭の中がボーっとして上手く思考が働いてないのか。
だがもう敵はいないんだと思うと、ブイゼルはそのまま壁にもたれながら気を失っていた。
夢心地な匂いに頭がふわふわと宙に浮いているようだった。
この暖かく心地よい感触は何なのだろうか。
夢の中でブイゼルは光に包まれ目を閉じる。
この心が落ち着くような匂いはなんなのだろうか。
天使か悪魔かに出会ったこの日。
昼になっていた。目が覚めるといつもの自分の部屋で、いつもの簡易なわらの布団はブイゼルが寝入るお気に入りの布団。そこでうずくまっていた。
窓から照り刺す太陽の光がブイゼルに浴び、いつものタウンの昼がやって来ていた。
眠りすぎたのか、自分でも意識がないほど眠った直後の記憶がない。
昨日の出来事の記憶が薄らと欠けていて鮮明に思い出せない。ブイゼルは窓の外を見ながら思い返す。
あの寝苦しい夜で気分を紛らわそうとタウンに散歩に出かけ、その途中で見かけたミロカロスを追い路地裏に入って行った。
そこでミカルゲというポケモンに襲われ、やられたのだ。そうだ、あの時自分を助けてくれたポケモン。あの白い体毛と大きな黒い鎌を携えた謎のポケモンの事を鮮明に思い出す。
疾風のように攻撃を繰り出し、相手の技は我が物といわんばかりに利用する。今まで見たことにない戦いに自分は何も出来ずただ見ているだけだった。
気が緩んだと同時に気を失ったのか。前後の事は覚えていないが、恐らくそうなのだろう。
だとしたら誰が自分を部屋まで運んでくれたのか。あの場所に都合よく自分の知り合いが通りかかるはずがない。いったい誰が――
「目が覚めたか」
「え?うわぁ!」
突如後方からの声にブイゼルは反応する。振り返ったと同時に、鼻と鼻の先がコツンッと当たり、ブイゼルは後方へ転がり落ちた。
「そんな驚くことじゃないと思うがな」
「そ……そりゃいきなり目の前にいたら驚くよ!」
目覚めていきなりこのような体験をしたのは生まれて初めてかもしれない。
この悪戯に笑みを浮かべるポケモンは、昨日の助けてくれたポケモンで間違いないだろう。
独特かつ高貴な雰囲気と、透き通るように響く凛とした口調、何より宝石のように美しく輝く深い色をした灼眼は大きな印象を残してくれている。
「確かあなたは……アブソルさん……?」
「よく知っているな。名乗った覚えはないが……いや、昨日あのミカルゲに口述したな」
アブソルの言葉から核心を得た。
「やっぱり昨日のあれは夢じゃなかったんだ……」
あの出来事は間違いなく現実のものだった。まるで悪夢のような深夜の体験はブイゼルの脳内で色濃く記録されていくだろう。忘れようにも忘れられない。
「それより、ここはお前の部屋で間違いなかったか?」
「え、ええ……そうだけど……」
「そうか、ならよかった。大変だったんだぞ。お前の身元をあちこち訊きだしてこの場所を割り当てたのだからな」
「あ……それはお手数おかけしました……」
つまりあの後このアブソルはここまで自分を運んでくれたというわけだろう。はっきりと覚えてないが、どこか鼻につく心地よいいい香り。体毛が丁度いい具合にふかふかしており、何とも心地よい記憶が薄らとある。体の力が自然と抜けていく感覚は今になって理解する。このアブソルからふくよかな香りがしていた。
覇気のある堂々とした口調ながらも、ブイゼルには本能的にアブソルのことが分かった。心の底から熱くなるようなこの緊張感は異性と相対する時に起こる、つまりこのアブソルはメスなのだ。
一夜をこのアブソルと共にいたと考えると顔から火が出そうでしょうがなかった。異性と深く付き合ったこのないブイゼルにとってはそれだけでも刺激的なことだった。
「それより昨日は酷くやられていたが、体は大丈夫か?」
「う、うん。不思議と何も違和感はないけど……」
ミカルゲとかいう不気味なポケモンに一方的に攻撃され、容赦のない攻撃を受けたのだから、一晩で全てが回復するとは思わない。だが今はどこも痛くはないし、変な違和感もない。
「ふむ……昨日盛った薬がかなり効いているな。一夜でそこまでの回復が見込めるとは、予想以上の効果だな」
「一夜であのケガを……?い、いったいどんな薬を盛ったの……?」
「なに、気にしなくていい。治るのが早いというのは、お前が若いからということだよ」
笑いを混ぜ、アブソルは話を濁した。話の中身が物凄く気になるが、あまり詮索しすぎて痛い目をみるのも嫌だな、とブイゼルはこの手の話題は諦める。
「まぁ、あのとにかく……お礼を言ってなかったね。 えっと、昨日は危ない目にあっていたところを、そして治療していただきありがとうございました」
「どうってことはない。ワタシが勝手にやったことだ。見ず知らずとはいえ、目の前で気を失った少年をそのままほっとくほど鬼ではないからな」
香り沸き立つ緩やかな笑み。ずっと笑っているように思えるが一つ一つの笑みが全く違うように感じられる。
今までこのような気になることはなかったのに、このアブソルの前にいると意識しなくても緊張する。それほど魅力的なポケモンなのか、いつもの自分ではいられなくなりそうだった。
「そういえばミロカロスは……!」
今になって重要なことを思い出す。あの路地裏には、ミロカロスを助けるために行ったのだ。見つけたのはいいものの、リザードンに連れて行かれ行方が分からなくなってしまっては自力で再び探すことは困難だ。
「アブソルさん!ミロカロスは……あの胴の長い水タイプのポケモンは知らない!?」
連れ去られたとなって処遇は分からない。だがアブソルなら何か知っているのかもしれない。今、頼りになるポケモンはもうアブソルしか今はいないのだから。
「あの時はもう周りには気配もなかった。早々にあそこからもう立ち去っていたのかもしれないな」
「そ、そんな……」
それではミロカロスがどこに行ったのか所在が完全に断ち切ったということになる。頼みの綱が千切られては完全にお手上げ状態だ。
「心配か?」
「そりゃそうだよ。ミロカロスはボクに光を与えてくれた大切な存在なんだ!いつも情けないボクに、くだらない事で悩むボクに、優しくして言葉を受け入れてくれたミロカロスを……!あんな無理矢理汚すような奴らに拉致されたとなると……」
光が輝くブイゼルの瞳の奥から怒りが募らせる。辛辣な表情から読み取れる強い感情の表れを見ると、アブソルの目がキュッと細くなる。
「なるほど。だが何の情報も無しに、無闇に動き回るのはやめときなよ。無謀だからな」
何やら勘付かれたような口調にブイゼルは目を見開いた。先の言葉に早くも勘付かれてしまったのか。
相手はコテンパンにされた実力を持つ者たちだ。単身で彼奴らに挑んでも昨日のように返り討ちに遭うだけ。そうと言いたいのだろう。
あの時アブソルの助けがなければ、自分はあそこでくたばっていたのかもしれない。今の自分では敵わないのはブイゼル自身も分かっている。だが本心は黙っちゃいない。今すぐにでもミロカロスを探したい。
「心配するのはもちろんだが、少しは信じてやってはどうだ?焦る気持ちは分かるが、お前が冷静さを削いでしまっては何も得られないぞ」
その通りだ。最も理に適っていて現実的な言葉。
ミロカロスは強い。力だけでなく、心が。ヘタレな自分さえ受け入れるあの広く優しい心はミロカロスの光であり、憧れだ。
ただ無事でいてくれればいい。いったいそういう事情に巻き込まれているのか分からないが、ただ無事でいてくれればいい――情けないが、そう願うばかりだった。
「アブソルさんは……これからどうするの」
「ワタシはな、このタウンでやらなきゃいけないことがあるのでな。もう行くとするよ」
つまりここから立ち去るということ。ブイゼルの中でその言葉は名残惜しかった。
「で、でも――っ」
もう少し一緒にいたい……と言おうとしていたのか。自然と発しそうになった言葉を自力で抑え込んだ。
アブソルにはアブソルの事情がある。わがままを言って困らせては駄目だ。
「けど、達成するまではこのタウンにいるんだね」
「ああ、そのつもりだが」
だがやはり諦めきれない。ならこれだけ言ってもいいだろうと思う。
「だったら、いつでもこの部屋に戻って来てくれて構わないから。このタウンは休める場所がとても少ないからさ。ボクを助けてくれたお礼、こんな形でしか返せないけど……」
「それは助かる。ワタシには充分すぎる礼だよ。ありがとう。快く受け入れるとするよ」
凛々とした笑みが向けられるのと同時に、アブソルは部屋から出て行った。
ふわふわと心を刺激する香りを残して、最後までブイゼルの心を虜にさせた。
ブイゼルは横になって考えていた。アブソルと出会い大きな気持ちの変化に戸惑っていた。
(心がすごくドキドキする……何だろう……今までこんなことなかったのに……)
ミロカロスのように魅力的なメスと出会ってもこのような気持ちになることはなかった。何か根本的に違う。アブソルを見る目が他のメスを見る目と異なっている。
胸が苦しくなる。締め付けられるような。だが嫌な感じはしない。むしろ心から熱くなる感じが更に鼓動を高める。
不思議なくらい輝いて見える。アブソルに抱く感情、これはもしかすると――
「……あっ……」
唐突に自らの下半身を見ると、自らの肉棒が反り立っていた。
「そんなぁ……やっぱりか……」
ここで受け入れた。間違いない。
自分はアブソルを番いの相手として見ているのだと。
急激に恥ずかしくなりブイゼルはわらの上でうずくまった。
「あっつい……どれだけ正直なんだよボク……」
またアブソルはここに戻ってくるとなると簡単には処理できない。欲には申し訳ないがこのまま収まるまで我慢するしかない。
おとなしく変なことは考えないでいよう。そうブイゼルは平常心を保つために、時間を消費していった。
結局疲れていたのかまた眠ってしまい、次に目覚めた頃には太陽が西に向かい沈みかけていた。いつの間にか夕方になっていたらしい。
今日は連日のような蒸し暑いことはなく、カラッと夏の穏やかな日だった。
それでも、日中の暑さで目が覚めたときは、体が干上がりそうな温度に体が参っていたが。
まる一日寝ていたとなって、体が異様に重く感じた。明日は探検隊の選抜会があるというのに、体が鈍っていては示しがつかない。少しでも体を動かそうと、ブイゼルはタウンを散歩していた。
昨日の事で会いたい相手がいる。ブイゼルは面倒な用事は早く済まそうと考えていた。
タウンの東にある黄色い家。電気タイプのポケモンが住み付く一角。
ここでモココは雨風を凌いでいる。昨日口喧嘩をしてそれっきりなため、早いとこ謝っておこうと思っていた。
そして暇があれば、昨日の非礼の詫びを込め、モココと明日に向け特訓でもしようかと考えていた。
だが、部屋の前に立ち何かいつもとは違う異変にブイゼルは違和感を覚える。
「モココー?」
扉を確認すると、鍵はかかっていない。不用心だがあのモココが鍵をかけずに出掛けるはずがない。
だとすれば部屋の中にいるのか。一言ブイゼルは確認の言葉をかけ、扉を開けるがモココの姿はない。
「いないのかな……」
部屋にいないとなると、モココはどこにいるのだろうか。何か急な用事でいないのだろうか。
諦めて部屋を出て、建物から出る。次の目的地を考えていると、そこに何者かの陰が迫っていた。
「ブイゼル……?」
いつもの聞き覚えのある声にブイゼルはすぐさま振り向いた。
「ミロカロス……!無事だったんだね!」
ケガも何もなさそうなミロカロスの姿にブイゼルは安堵の表情を浮かべた。だが対照的に、ミロカロスの表情はいつにも増して暗い。
やはり昨日の行為で精神的にやられたのか。だが目の前にミロカロスの姿を確認出来ただけで、ブイゼルは満足だった。
「ミロカロス……何か様子がおかしいよ?……もしかして昨日のあのポケモンたちの事で?」
「いえ……あの程度で身を鎮めるようなことはないですよ。ただ……」
不安な口調にミロカロスは黙り込む。
「あなたは……モココを訪ねてきたのですよね」
「う、うん……昨日の喧嘩のことで謝らないといけないし、色々話したいこともあったから……」
「部屋にはいましたか?」
「いや。鍵はかかってなかったから、中にはいると思ったけど」
その言葉にミロカロスは顔を隠すように振り返る。
「やはり……」
「やはり……?ミロカロス、モココがどこにいるか知ってるの?」
すると突然ミロカロスは涙を浮かべ、寄り添って来る。突然の出来事にブイゼルはただ目を合わせたまま何も出来なかった。
「ど、どうしたの!?」
慌てて尋ねるブイゼル。あまりの事にブイゼルはそれしかかけてあげることが出来なかった。
「ごめんなさい……ブイゼル。昨日の出来事……あれからあなたのことを話したら、あなたが探検隊に関わるポケモンだと訊いて……」
あのリザードンたちのことだろう。自分が出しゃばったせいでややこしいことになっているのだろうか。
「あの時、どこまで聞いていたが私には分かりませんが、あなたの探検隊で管理する『悪魔の涙』……遺跡の鍵となるそれを、あの窃盗団は狙っているのです」
「遺跡の鍵……もしかしてその遺跡のお宝を?」
「恐らく。探検隊で近々その遺跡に行くと情報を入れたあの者たちは、いち早くその遺跡に乗り込もうとしています。ですが、鍵がなければ遺跡に入る事は出来なかったらしく、そこで『悪魔の涙』が必要というわけなのです」
「そんな……じゃあ、ミロカロスは奴らの言いなりに!?」
コクリと頷く。悲しげな表情でミロカロスはブイゼルを見つめた。
自分たちの私利私欲のために、探検隊を、ミロカロスを利用しているということなのか。許せない。ブイゼルの瞳から怒りが溢れてくる。
「結局、私には何も出来なかったですから。リザードンたちも時間が刻一刻と迫って焦っているのでしょうね。そして……あの者たちは……あなたを利用しようと企みました。それで……あなたの一番の友を……」
「まさか……モココを!?」
ミロカロスは目を反らす。分かりやすい仕草に図星なのだろう。苦しそうな表情にブイゼルはやるせない気持ちになる。
「で、でもモココは強いから、そんな簡単には捕まらないはず……」
だが相手は得体の知れない、ならず者だ。いくらモココといえども、実力があろうとまだ少年といえる年。経験と力の差がものを言う。
そうとなれば、いきなり襲われる身となっては何も準備出来ず一方的になってしまう。ブイゼルの中で焦燥感が湧き上がってくる。
「ごめんなさい……あなたたちは何も関係ないのに……こんなことに巻き込んでしまって……」
「そんな……ミロカロスは何も悪くない。悪いのは利用している奴らだよ」
「あなたからそんな逞しい言葉を聞けるなんて……皮肉なことですが嬉しいですね。けれど、私は従えさせられている身。逆らうことは出来ないのです。だから誰も巻き込みたくなかった。でも、結局こんな形であなた方を巻き込んでしまったことは私の罪です」
するとミロカロスはブイゼルから離れ、夕暮れの空を見上げた。
「私が間違っていました。ブイゼル、『悪魔の涙』はあなた方、このタウンの探検隊が持つべきもの。あのような下卑たる連中に渡してはいけません」
「え……じゃ、じゃあミロカロスはどうするんだよ!?」
「私が……この身に変えてもあなたの友を救います」
ブイゼルの目が大きく見開いた。そんな危険な真似を、ミロカロスは一匹でするというのだろうか。そんな無茶なことをして無事でいられるわけがない。今度は犯されるどころでは済まないかもしれない。
「そんな……キミだけじゃ危険すぎるよ!ボクも一緒に……」
「ブイゼル」
ミロカロスの鋭い眼差しにブイゼルは硬直したように体が動かなくなる。不思議な力で時を止められたかのような感覚に言葉も出ない。
「あなたは……明日の選抜会に参加して選ばれるのでしょう。でしたら、こんな所でくだらない争いに自ら飛び込む理由などありません。あなたの夢を叶えるために、今は前を向いてください。ここは……全て私に任せてください。あなたは何があっても来ては駄目です。いいですね?」
何も言い返すことが出来ず、ブイゼルは立ち去るミロカロスをただ茫然と見送るしかなかった。何も感情が浮かんでこない。
しばらくして、その場で立ちすくまったブイゼルの頭の中で色々な思いが入れ混ざる。
探検隊になりたい。それは幼き頃からの夢。だが自らの心の弱さが、大切な思いを失わせていた。
昨日の湖でのミロカロスとの会話で、その初心を思い出させてくれた事には本当に心から感謝している。昨日だけでなく、ずっと辛いことがあったときは話を聞いてくれたのだ。
そのミロカロスが、自分の仕出かしたミスを、巻き込まれたモココをも救おうと自ら身を投げ出そうとしている。
駄目だ、ここで全てをミロカロスに請け負うなんて出来るわけがない。ブイゼルの葛藤の思いは渦巻くばかり。
「ほっとけないよ……」
今回で引き起こしたツケをミロカロスに任せるわけにはいかない。自分にも責任はあるのだ。
太陽が西の空へ沈み始めた黄昏時の最中、ブイゼルはその足で探検隊の本部へ足を伸ばした。
西の路地裏。まさか昨日に引き継ぎ、再びこの場所に来るとは思ってもみなかった。
ここでモココが捕らわれているとミロカロスは言っていたのだ。間違いないだろう。
ブイゼルの肩からは、赤い柄が特徴の、ショルダー式の鞄が掛けられていた。ちびっ子探検家として利用していた頃の古い鞄だ。
路地裏の入り口に立つと、ブイゼルは鞄の中身を確認した。中には小さな布で包まれ、それをゆっくりと開くと、赤い鍵のようなものが手にあった。
『悪魔の涙』。一度探検隊の本部の中に入れてもらって実物を見せてもらったことがあったので、ブイゼルにはすぐに分かった。
探検隊の遺跡探索の鍵として、本部では保管していた。だが、探検隊の者たちなら簡単に分かるような場所に保存しているため、持ち帰るのは容易い。これは皆が共同して使うものだと、探検隊のリーダーが発足した案で、許可さえ申し込めば誰でも使うことが出来るからだ。
『悪魔の涙』はしばらくは使われていないので、すぐにはバレないだろう。だが後に使う機会が来るとなると、探検隊の本部は大騒ぎとなるだろう。
だが親友の命の危機が迫っているとなれば、そうも言っていられない。
だがそんな卑怯な奴らに簡単に渡すつもりもない。自分の考えている作戦に、相手がはまってくれればいいのだと、何度も暗示をかけた。
上空にはヤミカラスが目を光らせ、ブイゼルを見つめていた。恐らく監視かなにかの役割をしているのだろう。昨日不要に自分が侵入したことで警戒を強めているらしい。
だがヤミカラスたちは特に何も仕掛けてくる様子はなく、まるで通れ、と言わんばかりにこちらを見つめている。何とも気味悪い。
相変わらずこの場所は鼻につく臭いだ。しかも昨日とは更に臭いが強烈になっている。まるで今この場で交尾をやったような、そんな真新しい臭いに。
「やんっ……あぁっ……!」
甲高いメスの声にブイゼルは反応した。
聞きなれない声だが、この先で声はしている。
「はぁ……だめぇ……おなかこわれちゃ……っ」
予想通りだった。今まさにその行為が目の前で行われていた。
犯されているのはメスのフシギソウだ。様々な方向からオスの肉棒が反り立っている。
「ほらほら、もっとご奉仕してくれよ?弟を無事が返してほしかったらなぁっ!」
数匹のオスに囲まれ、フシギソウはめちゃくちゃになった顔で奉仕していた。見ているだけで吐き気が湧き上がってくる。
あのフシギソウも誰かに脅されあんな根も葉もない行為をやらされている。昨日のミロカロスと同じだ、ここにはこのようなポケモンが何匹もいるということなのだろうか。
「くそっ……!」
タウンの裏で、こんな闇の世界が広がっているなど今になっても信じられない。だが現実だ。自分の目で見なければ分からないことを改めて痛感する。
自分がもっと力を付けたら、この場所を闇から引きずり出してやる――
心の奥でブイゼルは硬く誓った。
フシギソウを助けてやりたい気持ちは山々だ。だが今はモココとミロカロスを最優先にしなければいけない。
心に突き刺さる罪悪感を胸に押し込み、ブイゼルはその場を離れる。
もう誰とも会わないよう、これ以上悪夢を見ないように、ブイゼルは急いで昨日の場所に向かう。
「あれは……!」
ブイゼルは昨日のあの場所に出た。強烈な印象を残してくれたこのポイントに立ち入ると、自然と足が震える。そばには灯りが点けられていた。
「モココ……!それにミロカロス……!」
やはり灯りのそばにはモココがいた。傷は負っていないようだがぐったりとして今にも倒れそうだ。
そしてその隣にはミロカロスがいた。目の前には先日ミロカロスに強姦したリザードン。
何やら話し込んでいるようだった。恐らくミロカロスが言っていた、リザードンと話し合いで解決しようとしているのだろう。
だがそんな事で何もかもが終わるとは思えない。ブイゼルは躊躇なく、その場に飛び込んだ。
「ま、待て!」
からからの喉も、勇気を振り絞り叫ぶ。ミロカロスとリザードンはその声の主に振り向いた。
「お前さんは昨日の小僧じゃないか。よく一匹でまたこんな場所に来れたものだな」
足が依然と震えている。恐怖がブイゼルを支配している。
このような修羅場を体験すること自体初めてなのに、今から自分はある作戦を実行しようとしているのだ。プレッシャーが大きくブイゼルを苦しめる。
「モココと……ミロカロスを返せ!お前が欲しいのはこれだろ!」
鞄の中から取り出した物をリザードンに見せつける。
「『悪魔の涙』……!まさか本当に持ってくるとはな」
「ブ、ブイゼル……」
ミロカロスの目を大きく開いた表情がブイゼルの瞳に映る。忠告を無視したのは悪いが、引き下がるわけにはいかない。
「こんなもの、お前にくれてやる。だが、これを渡したらモココとミロカロスを解放してもらう!」
「ほう、随分と威勢のいい小僧じゃないか。良いだろう、それさえ手に入ればこんな奴らはいらない。ほら、それを儂のところに持って来い」
こんな下卑たる奴に探検隊の鍵を渡すのは、まったくもって気分のいいものではない。
だがブイゼルの中に、そんな大切なものを易々と渡すような作戦はない。今手元に持っているのは鍵とまったく同じに偽装したレプリカだ。重さも質量も同じ。だが鍵としては役割を全く果たさない。
これで騙せれば頭の中で思い描いていたシナリオは最高のものとなる。一歩間違えば取り返しのつかないギャンブルだが、全員が無事に、ケガなく帰れるにはこれが一番なのだ。
ブイゼルは偽物の『悪魔の涙』をリザードンに手渡す。そしてリザードンから約二歩後方へ離れる。
第一の関門はクリアだ。後はモココを解放してもらい、次にミロカロスを――
「さてと、お疲れ様です。ブイゼル」
「えっ……!?」
突然の世界の反転にブイゼルは何が起こったのか分からなかった。いきなりの衝撃に体は突き飛ばされ、成すすべもなく壁に叩きつけられる。
「フフフ、まさかこんな茶番を仕掛けるとは、あなたにしてはあっさりと単純な作戦ですね。何故わざわざこんなまどろっこしく、不快なことを……」
目の前に起きておる今を信じることが出来なかった。先ほどの衝撃はドラゴンテールが炸裂した。リザードンは技を出すには距離があって尻尾が届くはずがない。モココはそんな技出せるわけがないし、ましてや目を瞑っている。だとしたらもう至近距離で技を出せるポケモンは一匹しかいない。
「ミロカロス……!?」
そんなはずはない。まずその可能性は捨てようとした。
だがミロカロスの様子がおかしい。いつもの穏やかな感じでない、何やら自分の本能が警告する。
「あなたにしては度胸のある策ということにしておきましょうか。ねぇ、ブイゼル?」
すると、ミロカロスはリザードンの持っている『悪魔の涙』の偽物を奪い取った。
「おい、何をするんだ!」
「この程度の模造品すら見抜けない阿呆に、鍵を渡す資格などありませんね……」
「!」
反抗するリザードンに構うなしに、鍵のレプリカを尻尾の圧力で粉々にした。
「こいつ……偽物か!」
バラバラになったレプリカは地面に砕け散り、跡形もなく原型をとどめなくなった。予想だにしなかったミロカロスの行動に、ブイゼルの思考は完全にストップした。
「最悪の結果を回避するために、本物は持っているはずですよね。それを私に渡しなさい」
ミロカロスは不気味に笑った。こちらの考えや行動を全て見透かしている瞳にブイゼルは息を飲む。
鞄の中にはもう一つ、本物の『悪魔の涙』がある。もしレプリカだと見破られてしまった時のために、最悪の事態を回避するために所持している。
だがこんなことになるなど思いもしなかったブイゼルは未だ動揺が隠せないでいた。本物をしゃくしゃくと渡すわけにはいかない。だがミロカロスの事だ、何かあるかもしれないと自分の中で考えが交差する。
「何もたもたしているのですか。ブイゼル、無駄な時間ばかりが過ぎていくのですから、早くするのです」
「な、何言ってるの……?やめてよそんな冗談は……。それにだめだよミロカロス……言ったよね、キミ……これは探検家みんなの鍵なんだって。例えキミでも……これを渡すわけには……」
ブイゼルの中でまだミロカロスの言葉は生きている。まだ自分の中のミロカロスと目の前のミロカロスはリンクしていない。
「少し私が喋りすぎたせいですかね。それでも融通が効くと思っていたのですが……仕方ない」
目つきを鋭くすると、ミロカロスは自らに尻尾に力を溜める。水の渦が高々と発生し、一種に芸術のような可憐な水の技。
しかし見世物ではない。その尻尾を気絶しているモココに向けた。長い尻尾は目の前のモココの範囲に入ることは容易い。水の渦は形状を変え、まるで鋭利な槍となった。
「な、何するんだよ!」
「ブイゼル、あなたならこの状況が分かりますね。この子の命が惜しかったら、持っている本物の鍵を私に渡すのですよ」
言葉の意味がすぐには理解できない。何故だとブイゼルは頭の中で呟いた。
あの優しくておしとやかなミロカロスがこんな汚い真似をするわけがない。そうだ、これは偽りだ。演技に決まっているんだ。
「そ、そうか……ミロカロス……そこのリザードンに無理矢理命令されているんでしょ?」
不安定な言葉にブイゼルの表情も歪んでいた。
「構う必要などないよ。大丈夫、キミはボクが何か困っていたらいつも助けてくれた。今度は……ボクが力になる。何か事情があるなら受け止めるよ。ねぇ……何故なの?」
望みを持ち、ミロカロスを必死に引き戻そうとした。ブイゼルの大切な存在、ミロカロスと一緒に帰るのだと。
しかしリザードンは一つ溜め息を吐くと、腕を組む。そしてミロカロスを見た。
「ガキに付き合いすぎだな、ミロカロス。完全に信じ込んでいるではないか」
「そのようですね。私もここまで真髄させるつもりはなかったのですが。引き際の判断を侮ってしまいましたね」
「え……?」
何でこうなってしまったのだ。自分は信じない。お前たちの言葉など――
「ブイゼル、もう茶番は終わりましたのよ。それにまるであなた一匹で何もかも出来るなんて言葉使わないでもらいますかね。まぁ、青い少年の代名詞ともいえる自分で何とかするなど、まるで夢を見ている言葉で嫌いではないですがね。……潰し甲斐がありますもの」
ドスの効いた言葉にブイゼルの頭の中で一線の電流が走った。目の前の光景が真っ白になるような感覚と、胸に重く伸し掛かる衝撃に何も考えられなくなる。
崩れ去る……思い出が、記憶が、感情が、全てが。
頭がおかしくなりそうだ。目の奥が渇く。瞳孔が開き焦点が合わなくなっていた。
「嘘だ……やだよ……やめてよ……違う……ボクの知っている……ミロカロスは……そんなこと言うポケモンじゃない……っ!!」
あの今まで優しくしてくれ、打ち明けられ、本当に心を許せる存在がいた。その存在が壊れていく。
「フフフ……その絶望に浸る姿……いつにも増して素敵ですよ……」
おしとやかなど微塵もないミロカロスの表情。黒い下衆の笑みがミロカロスの感情をそのままに表しているかのよう。相手の負の感情を自分の快楽に移し替えるその性癖は異常と感じる。
少しずつ、目の前の輝きは失われていく。
「ですが聞き分けはしっかりしてもらわなければ。こちらも事情がありますからね」
分からない。何でこんなことが起きているのか。これは夢なのか。
ミロカロスは尻尾の槍をゼロ距離までモココに接近させる。もう後は無いという警告。ここで答えを出さなければ時間切れという合図だ。
「さぁ……ブイゼル?」
最後の笑みに、ブイゼルの答えを待つのみとなった。選択の余地すら与えない、緊迫した空気にブイゼルは唸り声を上げる。
「……くそぉっ!!」
半ば乱心のまま、ブイゼルはミロカロスの言われるままに『悪魔の涙』を投げ渡した。高い放物線を描きながら、空中で赤いラインを紡ぎ、ミロカロスの触覚へと渡った。
「間違いなく本物。フフフ……こんなに上手くいくとは」
「流石だな。ミロカロス。さぁ、それをこっちに――」
リザードンが右腕を手渡す。目的の物を手に入れるため、ミロカロスを雇ったリザードンは、ここで受け取れば終了ということになる。
しかしミロカロスは鍵を見つめた後、不敵な笑みを浮かべる。辺りがヒヤリと冷たくなるような笑いに、リザードンは疑問の表情を浮かべる。
そしてミロカロスは、モココに向けていた尻尾の槍はリザードンに向け勢いよく振り被った。
「ぐっ……ミ、ミロカロス……貴様……!」
破壊力抜群のアクアテールがリザードンの急所を狙う。凄まじい威力の技に水しぶきが飛び散り、威力を物語る。
「言ったでしょう?模造品すら見抜けない節穴の目のあなたに、鍵を渡す資格などありませんと」
「な、何だと……!?約束が違うぞ!」
怒るのも当然の反応だろう。裏切りの行動に出たミロカロスを見る、リザードンの目つきは燃えたぎる炎のように渦巻いていた。
「このような極上のお宝をみすみすあなたたちのくだらない窃盗団に渡すとでも?あなたたちも同じですね。誰かに頼らなければ何も出来ないようでは」
真っ向から挑発するミロカロスの言葉に、リザードンの尻尾の炎はみるみるうちに大きくなっていく。
「屈辱だな。お前さんのような外道にそんな言葉を言われるとは……っ!」
「何とでも言って構いませんよ。ですが、今は……消えてください。私の目の前から。その品のない目を見るだけで虫唾が走ります」
見下すような視線に我慢の限界。瞳孔が開ききり、拳を握りしめた。
「この下衆が……っ!!」
「それはあなたもですよ……」
燃え上がる尻尾の如く、怒りに身を任せ、リザードンはりゅうのはどうを繰り出す。
対するミロカロスは、黒い色を帯びたはかいこうせんで応戦する。強力な技のぶつかり合いに火花が散るが、数秒も経たないうちにその差は大きく広がる。
「っ!!」
はかいこうせんはりゅうのはどうを打ち消し、力負けしたリザードンにはかいこうせんが襲い掛かった。
「ぐぅっ!くそがぁぁっ……!」
強烈的な爆音と爆風が辺りを包み、リザードンの姿は光に包まれていく。爆風は辺り一帯をなぎ飛ばし、残ったのは瓦礫が打ち砕かれた後しか残っていなかった。
「あっ……あっ……」
えげつない。目の前で起きた惨劇にかつてない恐怖を覚えた。容赦のない技にブイゼルは身震いをしていた。
ミロカロスの勝ち誇ったドスの効いた笑みは、まるで悪魔が憑りついたかのような邪悪さを潜めているかのよう。これがミロカロスの真の実力と思うと、とてつもない威圧感がまとう気はしていた。
「あの程度で死ぬような奴じゃないですから、逃げ出したのでしょうね。ま、今は視界から消え去っただけでよしとしましょう」
そして視線はブイゼルに向いた。光沢の消えたミロカロスの瞳に、かつてない恐怖を噛みしめブイゼルは脅える子どものようにその場に立ちすくんだ。
目の前で恐ろしい光景を見せられた直後もあり、こんな化け物に自分が太刀打ちできるわけがない。
涙腺が熱くなってくる。恐怖で涙も出ないということか。
「もう終わった?」
「ええ、何もかも全て終了しましたよ」
そこへモココの方から声がした。だがいつものモココの声ではない。甲高いメスの声にブイゼルは戸惑う。
「え……ええっ……!?」
モココは黒い光に包まれると、一瞬にしてその姿を変えた。
黒い体毛にと赤いライン。大きな髪のような先に、緑色の玉が付けられている。
「う……うそでしょ……」
モココではない。今まで目の前にいてミロカロスに刃を向けられていたポケモンは、幼い頃からいつも喧嘩していた奴じゃなかった。
「ゾロアークのイリュージョンで少しだけあなたのお友達の姿をお借りしましたよ」
「そういうこと」
考える必要もない。
もはや外道の域すら踏み外している。
無二の友の姿を装い、鍵を渡すよう騙すなど地獄に堕ちようが許されることじゃない。
「酷い……酷すぎる……ボクの友達を」
「友?私の言葉がなければ、あなたは自分で気付くこともなかったでしょうに。誰かからに指摘されなければ分からない、そんな半端な気持ちでよく言えますね」
ミロカロスの言葉に大きな衝撃を覚える。心臓の鼓動が一瞬痺れるように大きくなるような感覚に後ずさる。
「うるさい……!」
偽りの思い出。
「ぐっ……う……うああぁぁ!!」
楽しかった日々などなかった。
「……違う……!」
大きく崩れ去るような音。
「ああぁぁっ!!」
無駄だったんだ。
「……返せ」
いない。あの優しかったミロカロスはいない。
「返せよ!」
目の前にいるポケモンは敵だ。そう、敵なんだ。
「何もかも……全てを利用したお前たちが悪い……!……全部……お前たちの思惑だったんだな!」
「もう今更気づいても後の祭りですよ。私たちの手に『悪魔の涙』はあるのですから、もう用済みですので。では」
このまま黙って引き下がるわけにはいかない。先ほどまで隣で信頼していたポケモンの姿はブイゼルの目にはなかった。涙を流しながらも、剣幕の表情でブイゼルは立ち向かった。
「許さない……決してボクは……!!」
怒りに身を任せ、ブイゼルはアクアジェットをミロカロスに繰り出す。効果はいまひとつでも関係ない。気が動転してそんなことを思考する時間もない。
「盾突くつもりですか?あなたのような力もないポケモンが」
「いいじゃない。すこーし可愛がってやったらおとなしくなるかな?」
ゾロアークは一歩前に出た。ミロカロスの出番すらないということらしい。
「私はあなたにいつも言っているのに。くだらない争いに巻き込むのが本当好きなのですから」
やれやれとゾロアークは両手を上げた。
そして迫りくるブイゼルを見つめると、ゾロアークはブイゼルの腕を掴み、片方の腕に黒いオーラが漂わせた。
「そらっ!」
重みのあるつじぎりを与え、ブイゼルはそのまま声を上げずに腕を掴まれたまま倒れる。避ける隙すら与えてくれない、無慈悲の一撃はブイゼルを粉砕するのに充分だった。
「アッハハハ、弱いなんてレベルじゃないねこれ。論外だよ」
二匹どころか、一匹ですら一撃で仕留められた。やはり同時に相手するなど無策でしかない。今となってその重大性に気付く。
何をしても敵う相手ではない。何もかも相手の思惑通りというわけか。
「で、どうするのミロ姐、この子」
「そうですね。何度言っても分からない、しつけのわる~い子には屈辱と降伏を与えてやればいいのですよ。ここは私たちもそれなりの得をする一石二鳥の選択をするとしましょうか」
ミロカロスの目の色が変わった。獲物を狙うかのような眼差しで迫る。
だが心を砕けさせられたブイゼルはそれに何も行動しようとしない。あっさりとミロカロスの長い胴体に囲まれた。
「いつ見ても可愛い顔……何と愛おしいでしょうか」
「ホントにねー。早く泣きじゃくる顔が見たいな~」
狂気とも言うべきこのメス共の目はもう普通じゃない。こんな奴らに、これ以上思い通りに事が済んでたまるか。ここで易々と捕まるわけにはいかない。
必死の抵抗でミロカロスの胴体から脱出しようとする。だが、力の強いミロカロスは軽い力を入れるだけでブイゼルの抵抗を簡単に抑え込んだ。
「あ、この逃げる気?」
「暴れても無駄ですよ。ここは右も左も分からない故に、誰も助けなど来ません。彷徨い続けようがいずれは私たちに簡単に捕まってしまうでしょうね。ならここは素直に私たちの告げ口になるのが賢明なのでは?」
選択肢を強制的に無くしてきた。ゾロアークの力に抵抗出来ず、ミロカロスの放つ逃げ道のない言葉に、ブイゼルは絶望という状況に表情が青ざめていく。
「ウフフフ……その表情、本当いいですね……。全ての希望を失ったあどけない少年の表情ほど私の心をくすぐるようなものはありませんからね……」
「ぐっ……!ううぅ……」
これが本当のミロカロスなのかと、ブイゼルは絶句した。
いつも見ていたミロカロスはすでに闇の奥へと消えて行った。今いるのは手の打ちようのない自分を、必死に抵抗する自分を本当に楽しそうに見つめる目の濁った一匹のメスのポケモン。
それなのにメス特融の官能的なニオイに鼻は敏感になっている自分も恨めしくある。体が自然を欲しくなっているのを理性が抑え込もうとしている。
「ほら、お盛んなお年頃ですのに、私たちのような美貌に満ちたメスと勤しむのを拒むというのですか、ブイゼル」
「な、なるものか……!ボクはお前たちのような淫乱じゃない!離せ!」
「ほほー。生意気言うお子様だとこと。そんな口の悪い子はこうしてやるっ」
ゾロアークの二つの連山に頭をうずめられ、そのふくよかな香りと感触にブイゼルの鼓動は更に大きくなる。
息苦しく、息の出来ない空間。だがそれ故メスの匂いが敏感に感じ取られていく。
「ゾロアークの魅惑のボディなら、同じグループのブイゼルなら効果は覿面でしょうね。この前の二匹も私にメロメロでしたから」
「ちょっと待って……この前二匹って……」
ゾッとする感覚がする。これはもしや……
「先日のリザードンとオノンドですよ。ですが、彼らではどうも満足にいかなかったですからね。けどあなたなら満足できそう……あなたを見ただけでこんなに体が疼くなんて……久しぶりの感覚ですから」
甘い言葉だが、邪の帯びた口調。恐怖の冴えわたる悪しき笑みだ。
「そういえばブイゼル、あなたあの時私を助けようとしてくれたのですね。全く、好奇心で首を突っ込むのもいいですが、せっかくの楽しみだったのですから邪魔はしないでほしかったですね」
「え……?」
その言葉の意味がすぐには分からなかった。どういうことだ、あの時ミロカロスはリザードンとオノンドに無理やり犯されていたんじゃなかったというのか。
「あの二匹とは確かに行為に勤しむのは初めてでした。ですからこう胸の奥から湧き上がる楽しみというのがあるのではないですか。フフ、あの時の二匹の絶頂に達した表情は今思い出しても笑えてきますね」
次々と覚える衝撃にブイゼルの精神は耐えられなくなってくる。
その言葉の意味を理解するのにもう時間はかからなかった。そうだ、ミロカロスは嫌々犯されていたんじゃない。自らも求めていたんだと。
あの時の微妙な表情はブイゼルを騙す演技だった。何もかも騙されていたことに自分に腹を立てる。
無駄だったというのだろうか。それをミロカロスは知っていて、ありもしない罪悪感を与えてここまで利用したということなのか。
つくづくえげつないポケモンだ。ブイゼルは頭の仲がぐちゃぐちゃになる。心の中が混乱してくる。
「ミロ姉、あんまり子どもに残酷な事言っちゃダメじゃない。ポロポロ涙なんか流しちゃって、アッハハハ」
残酷な真実を、このメス共は自らの快楽に変えている。ふざけるのもたいがいにしてほしい。
「もう体ぴくぴくさせて涙なんか浮かべちゃって……」
「やめろ……もうやめて……」
「とか言いながら体は素直になってんでしょ。ほらほら、見せなさいよ」
どれだけ拒もうが興奮したメスに訊く耳は立たない。ただ精神的に消費していくだけ。
ボロボロになったブイゼルの心はもう限界寸前だった。抵抗する気力すら失い欠けている。
「だめですよゾロアーク。可愛いブイゼルをそんな乱暴に扱っては」
ミロカロスの言葉に、ゾロアークは動きを止める。
「出会ったときから、私はあなたを狙っていたのですよ。少年にしては可愛げのある表情、そして純粋な心。それ故、あなたは私ずっと欲しかったのですよ。今まで我慢してきた分、もう限界に近いのですから」
黒い笑みを浮かべながら、ミロカロスは頭の触覚を器用に使い、ブイゼルの股の辺りを探る。触覚の微妙な感触にブルブルと体が震え、思うがままに操られる。そして股を大きく開脚させる。
もちろんミロカロスの狙いはブイゼルの性器。ゾロアークの誘惑ですっかり出来上がったブイゼルの股間もそびえ立っていると考えていた。
「こ、これは……!」
ミロカロスは大きく可換すると、息を荒くした。
「なんと素晴らしいでしょうか」
ブイゼルという種族柄、サイズはそれほど大きくはないと過信していた。だが、ミロカロスの予想をはるかに上回るソレは、天に向かって反り立っていた。
「すっご……デカすぎでしょ、あんたの」
まさに誰もが羨むような極上サイズの肉棒がブイゼルの股間からそびえ立っていた。
誰にも見せたことのない、自らの肉棒を初めて異性の前に晒したのがこんな時だなんて――とブイゼルは悔しい思いが立ち上がってくる。
「いつも会っていて何故この存在に気が付かなかったのでしょう。嗚呼、自分の思慮の鈍さに腹が立ちます」
優雅な口調ながら、ブイゼルの反り立った肉棒をまじまじと見つめながら幸せそうに言う様は寒気が来るほど恐ろしい。
そして間もなく、ミロカロスはブイゼルの肉棒をくわえる。初めて体験するメスのフェラにブイゼルは胸の鼓動が最大限にまで加速した。水タイプらしく、口の中はほどよく湿っており、湿り気と舌の絶妙なコンビが刺激を加速させる。
ミロカロスといえど、予想を越える肉棒の大きさに口の中はいっぱいだった。まだ少年という若さなのに、オトナ顔負けの巨棒はこのメスたちを叫びあがらせるには満足だった。
「ミロ姐ずるい!アタシにもちょうだいよ!」
艶めかしく、美味しそうに舐めるミロカロスに我慢が出来なかったのか、ゾロアークはブイゼルから離れ、下半身へと顔を移した。
「ほらほら交代!こんな極上品、二度と味わえないんだから!」
まだ堪能していないミロカロスだが、ゾロアークの異様な欲望の表れに押されたのか口を離した。肉棒からは先走りが溢れ出ており、ミロカロスの口周りには唾液で汚れていた。
「……仕方ないですね」
その言葉を言い終わる前に、ゾロアークは尻尾をゆらゆらと揺らし、オスの棒に喰らいつく。その様はまさに淫らな獣だ。ただオスの肉棒に喰らいつき自らの欲を満たそうとする。
「ふぁ……手にとるとほんっとすごい……」
舌を肉棒でなぞるように舐めると、ブイゼルは体をビクリと刺激に反応する。ミロカロスに舐められた分、余計に敏感になっている。
「感じてるの?ならもっと感じてさせてあげる」
あまりの快感に言葉が出せず喘ぎ声と吐息だけ。抵抗する気力すら吸い取られていくようだった。
「射精しそうになっても我慢してくださいねブイゼル。あなたの精液を頂くのは私なのですから」
あくまでゾロアークにはやらないということなのだろう。どこまで傲慢なのか、ミロカロスの目が次第にゾロアークへ敵意を向いている。
情けなく、何も出来ない自分が恨めしい。嗚咽を響かせブイゼルは涙を浮かべていた。
「うっ……あぁっ……はぁっ……」
次の瞬間、ブイゼルの声に異変を感じたミロカロスはゾロアークを縛りつけ、上空へ放り投げた。
「この獲物は私のモノです。あなたはそこで指をくわえて見ていなさい」
自分が射精寸前だと悟ったのか。
ミロカロスの目つきにゾロアークは不満そうな表情を浮かべるも、反抗せず首を上下に振った。
逆らえない立場なのか、無理矢理力で押さえ込んだ印象だ。
「メインディッシュは私が担当です。さぁ、ブイゼル。あなたの欲望を私に――」
はち切れんばかりに赤く膨張した肉棒から大量の先走りが漏れ出ている。そのニオイに鼻を動かしミロカロスは勢いよく頬張りついた。
「んぅっ……!?」
始めに行った感覚とは大違いだった。まるで吸い付くようなミロカロスの口技に、快感が急激に迫ってくる。
言葉では言い表せない、絶妙な刺激。異性との性体験のないブイゼルには耐えられる要素など微塵もない。
すぐにでも絶頂を向かい朽ち果ててしまう。だがここで迎えてしまっては、ミロカロスの思うつぼ。良いようにされて自分の中の全てを駆逐されてしまう。
しかし心とは真逆に、体はこの痴女たちに全てを求めていると勘付いている。
情けなく思う。その証拠に、ブイゼルの両目からは大粒の涙が流れだしていた。
「我慢しないで、ほらぶちまけてみなさい。ミロ姐のフェラはこんなものじゃないから、きっとあんたじゃ壊れてしまうよ?」
仲介というかゾロアークの警告のように聞こえる言葉。これ本気じゃないとするといったいどんな快楽が襲ってくるというのだと。
「うっ……くっ……そぉ……!」
すでに頭の中が真っ白になりかけ限界はすぐそこまで迫っている。
ブイゼルにとってあまりにも刺激の強い体験。これで我慢しろなど、とてもじゃないが体が持たない。
もういっそ楽になれ、とも頭の中の自分が過る。しかしそれを阻止しようとする自分もいる。
天使か悪魔か。耳でささやくのはどっちなのか。
速度を増し、ミロカロスの舌が激しく肉棒に絡みつく。早く出せ、と目つきまで鋭くなっていた。
もうダメだ。
そうブイゼルは思った。
「――お前たちのような外道に」
目の前の光が暗転した。世界がひっくり返ったかのような光景にブイゼルは目を見開いた。
「少年の濃厚ミルクは贅沢すぎだ」
次の瞬間だった。
突如体が重くなり、痺れが襲う。
「ぐっ……いやああぁぁっ!」
それもブイゼルだけでなく、ミロカロス、ゾロアークも同じような反応を見せる。肉棒が離れ、ミロカロスは長い胴体を激しく暴れさせた。
「体が……胸が締め付けられるような感覚……これはまさか……ほろびのうた……!あああぁぁっ!」
これがほろびのうた?ブイゼルは信じられないミロカロスの言葉を疑う。
ほろびのうたはじわじわとお互いの戦意を奪い戦闘不能にさせる。自分と相手を共に滅ぼすという意味を込めたとても強力な技だ。
だがこの感覚は技というレベルを超えている。本当に身も心も砕け散りそうな、絶望に囚われる感覚。まさに悪魔が巣食うかのように今すぐにでも滅んでしまいそうだ。
「ブイゼル」
痛みに苦痛していると、何者かが隣に現れる。白い体毛と凛とした声にブイゼルはすぐに反応した。
「すまないな、お前まで巻き込んでしまって。すぐに治す」
アブソルだ。アブソルもほろびのうたのダメージが効いているのか多少苦しそうな表情をしていた。
それに今のアブソルの言葉。
この惨事はアブソルがやったというのか。ブイゼル、アブソルを含め、ここにいる四匹全員をこれほど苦しめる強力なほろびのうたを、この一匹のポケモンがやったというのか。
だが先ほどの強姦で思考が働かない。考えが上手くまとまらない。
すると、アブソルは口に何か種のような物をくわえ、ブイゼルを見つめる。そして、
「……⁉」
何が起こったのか、そのまま口づけをされブイゼルは目を見開いた。いったい何がどうなっているのか分からない。
口の中で種は砕かれ、舌を入れられたかと思うと、欠片のようなものが口の中に流し込まれる。
舌と舌が絡み合うと、アブソルは口を離した。
「いやしのタネだ。これで互いにほろびのうたの効果は無くなる」
口の中の欠片を噛み、飲み込む。口移しで柔らかくなった種はつっかえることなく、すぐに喉を通った。
すぐさま体の痛みは和らぎ、軽くなる。種の効果に強く驚いたが、それよりも精神的に軽くなったような気がした。絶望を一瞬で振り払った目の前のポケモンに、ブイゼルは涙を流す。
「やっと見つけたぞミロカロス。手間はかかったが、ようやくお前を捕らえることが出来そうだ」
「ぐっ……どうして……この場所が……しかもあなたが何故ここに……」
「お前の下僕のザングースに感謝するんだな。少し可愛がってやったら何もかも話してくれた。無論、この場所もな」
ミロカロスは大きく目を開いた。見たことのない動揺した表情はいつもの落ち着いた雰囲気から信じられないほどだ。
「あの役足らず……よりによって一番厄介な奴に……!」
「えげつないお前のことだ。色々と策を練っていただろうが、そんなものワタシには簡単に飛び越えられる低い壁だ。残念だったな」
一変してミロカロスの表情に焦りが浮かび上がる。全てをこのアブソルに壊された思いに瞳は憎悪に満ちていた。
「それより体が蝕むように痛むだろ。なら今はおとなしく眠っていろ、お前との会話はしゃくだからな」
アブソルの氷のような冷たい言葉と共に、ミロカロスは声を上げることもなくその場に倒れ込んだ。体力が一気に削られていったのだろう。
「思ったより手応えのない奴らだったな」
目の前の出来事がどんな衝撃的なことでも、光が闇を照らしてくれたようだった。恐ろしくはあったが怖くはない。
「しかしまたこんな所にいるなんてな。大丈夫か、体の方は」
「ア……アブソル……さん……」
光へ引きずり込まれるかのような希望に、ブイゼルはただ涙を流していた。
紛れもない、凛としたメスに似合わない表情に、この恐怖から解放されるんだと安堵感に満ちてくる。
「お、おい……!」
混乱の最中に無理矢理性行為を迫られたブイゼルに、心の余裕などなかった。
再びこの路地裏で、ブイゼルはアブソルの胸倉で気を失った。
信じていた相手が突然裏切るなんて想像出来ない。
自分は今その体験をした。
いや、裏切られていたんじゃない。
初めから騙していたのだ。
偽りの笑顔と光に、全てが霞んで見える。
胸が痛いほど締め付けられる圧迫感に圧されている。
頭の中が真っ白になり全てが絶望に感じる。
いったい自分はどうすればいい。
このぽっかり空いた穴を塞いでくれる者はいるの……???
「っ!」
暗い悪夢から覚めたみたいに、ブイゼルは飛び起きた。相変わらず目が覚めると、わらの布団が下に敷いている。
窓の外は未だに暗闇に迫っていた。どうやら今度はそんな長いこと眠ってはいなかったらしい。
「目が覚めたか」
アブソルはブイゼルの傍のそばにいた。また昨晩のように、部屋まで送ってくれたのだろうか。
二日連続で誰かにこの部屋に連れてこられるとは思いもしなかった。アブソルには本当に感謝しないといけない。
「今日は新月だ。月は出ていない。星だけが夜空で輝いている」
昨日で殆ど月は形を整えていなかったのだから、今日はその形すら消えている。月の無い夜というのはどこか物悲しい気分になる。
「元気ないな……といっても無理はないか」
ブイゼルは黙り込んだままだ。アブソルに何も非は無い。ただあの路地裏のことが鮮明に頭の中で渦巻いていて整理がついていない。
今まで優しくしてくれていたミロカロスの衝撃。探検隊で大切に保管されていた鍵『悪魔の涙』を手玉にとるように相手に奪われたこと。
そして、メスからオスへの強姦。
全てを一度に体験しては心の整理などすぐには到底出来るわけがない。ボロボロになった心は何もかもブイゼルの気持ちを奪っていった。
「そうだブイゼル、これを」
「これは……『悪魔の涙』……」
アブソルから渡されたのは間違いなく『悪魔の涙』だ。赤い鍵がブイゼルの目で確信する。
「そう言うのか、こいつは。なるほど、確かに言われてみれば妥当なネーミングだな。しかしそのような大切な物を、易々と誰かを救うために使うんじゃない。友を救う方法はまだ色々あったはずだろう。何故誰にも頼らなかった」
「……これはボクの問題だったから……そんなの、誰かを巻き込むわけにはいかなかったら……」
しかしそんな甘い考えが、結果身を滅ぼした。少しでも誰かを頼っていれば、こんな不様なことにはならなかったかもしれない。せめて探検隊の誰かにでも言伝していれば、手っ取り早く解決していたのかもしれないのに。
「まぁ今となって説教しても、お前には少し可愛そうだからな。あまりワタシからは言わない」
傷に塩を塗るような口は、逆に落ち込ませるだけだ。
黙り込むブイゼルに、アブソルは一つ口を開いた。
「あのミロカロスはな、ワタシが追っていた奴なんだ」
「え……?」
「奴は裏で遺跡や神殿の宝を、依頼主に任せ強奪を繰り返すお尋ね者なんだ。ま、ワタシはその他色々事情で奴を追っていたことになるがな」
いったいこのポケモンは何者だろうか。聞けば聞くほど謎に包まれていく。
「アブソルさんは……あのミロカロスの事を最初から知っていたんだ……」
「すまないな。隠すつもりは無かったのだが、まさかあそこまで過激な行動を行うなど、ワタシの予想の範囲を超えていた。その結果お前まで巻き込んでしまった。これはワタシのミスだ」
「別に……アブソルさんが悪いわけじゃない……あなたは何も悪くない……」
無気力にただ床を見つめるブイゼル。
悪いのはミロカロスだ。だが今までの思い出がそう決めつけるのを躊躇している。確かに一緒にいて楽しかったのは事実。それが今まで嘘の関係だったとしても、ブイゼルの心には深く刻まれているのだ。
割り切れるわけがない。楽しかった日々を全て否定するなど出来るわけがない。だからこそ辛い。
全てを壊された感覚に、何もかもが真っ暗に見えてくる。夢であってほしい。あの路地裏の出来事を全て無かったことにしてほしい。
ブイゼルの目は徐々に荒んでいっていた。
「ブイゼル、お前が何を考えているのか分からないが、早まるような行動は起こすな。辛い現実から目を背けるようでは何も変わらないぞ」
「うるさいよ……もういいんだ……こんな思いするなら信じないほうがいい。ボクが誰かを信じたって結局は良いように利用されるんだ。ボクがどんな思いを抱いていてもそれを踏み滲められるんだ!」
ブイゼルの叫びはアブソルを黙らせる。
「救おうと思えば空回り。挙句の果てに探検隊の鍵をみすみすと手渡してしまった。もう何やっても結果が生まれない。もう……こんなのならいっその事何もしなかったらいいんだ……」
涙を浮かべ、ブイゼルは拗ねるようにわらに寝そべる。
昨日ミロカロスの言ったあの言葉も全てがどうでもよくなってくる。自分の力などこんなもの、誰かの言葉など偽り。受け売りなんて所詮エゴ。
自分すら否定する言葉が頭の中で巡り巡り、心が痛くなる。自分でも制御できないくらい悲しい言葉が次々を浮かんでくる。
心の穴が痛い。壁でも防げない大きな穴がブイゼルを孤独にさせていく。
「そう悲壮するもんでもないと思うがな」
柔らかな口調だった。すると、アブソルはブイゼルに密着するように寄り添う。腹を背中に当て、包み込むようにアブソルは優しく抱いた。
「えっ?ちょ、ちょっと……!?」
突然の行動にブイゼルは戸惑う。朝に嗅いだ、ふわっとした特融のメスの匂いに、ブイゼルの鼓動は大きく音をたてる。
「いきなり何するんですか……」
「ほら、辛い時は抱き合うとその気持ちが共有できて和らぐと言うだろ」
和らぐどころか別の感情が湧き上がってくるのは何故だろうか。だがアブソルの行動にさっきまで感じていた冷たい気持ちは収まってきているようだった。
あれほど否定的な気持ちだったのに、急に楽な気持ちになってくる。強引な方法だが、今のブイゼルには充分な安楽方法だ。
「もしかして、ボクを慰めようと……?」
「まぁそんな所だ。どうだ?少しは気持ちに余裕ができたか?」
ブイゼルは「うん」と小さく頷く。だがそれよりも、アブソルから感じるほのかなメスの匂いに敏感になっていた。異性とこのような経験のしたことのないブイゼルにとっては整理がつく所がより頭の中が真っ白になってきている。意識する必要もないのに、胸が高まっているような気がしたならなかった。
「そうやって顔を真っ赤にするとは意外だな」
「フェッ!?」
からかうような口調に、胸の高まりから表情を隠しきれていなかった。
それよりも、いつの間にか体を起こされ、アブソルとほぼゼロ距離の状態で鼻が近づいていた。これほど密接した距離は急激な照れが襲ってき、更に顔が赤く染まる。
「な、なななな何でいつに間に……」
「この方がより楽に話せると思ってな」
「話せるどころか……より緊張するんだけど……」
これほど近くにいては目を合わせられない。合わせたら次は反らせなくなりそうだからだ。
しかしアブソルはこれほど大胆な行動をしても表情一つ崩さない。いったいどんな体験や経験を積めば、それほどの精神力を保てるのだろうか。
「お前は……今は誰も信じられないのだろう」
「え……」
アブソルの言葉に耳を傾ける。
「信じていた奴に利用され、酷い裏切りと仕打ちに心がついて行ってないのだろう」
「…………」
「けど別に一度二度失敗したところで何だ。お前は自分に出来ることをして救おうとしたのだろう。ならその行動には胸を張ったらいいじゃないか。今回のように失敗する時もある。だがそれを恐れて何になる。転んで立ち上がるのは普通のことだ。そのまま這いつくばったままの方がワタシはカッコ悪く見えるぞ」
お見通しと言わんばかりにアブソルの言葉が突き刺さる。相手が悪いとはいえ、全て身を任せた自分にも全く非がないとは言い切れない。
もう少し慎重に行動していればこのような惨事にならないで済んだのかもしれない。だがそう考えていてもキリがない。反省することは大切だが、過ぎたことをうだうだ言っても仕方ないからだ。
「どんな絶望と出会おうとも、お前は今ここで鼓動を鳴らし、息をしているんだ。なら全て否定するなどもったいない。先の事は分からないんだ。もう少し……足掻いてみたらどうだ」
するとギュッとアブソルはブイゼルを抱き締めた。柔らかな肉体と暖かい体毛に包まれるかのように、心をシンクロさせるようにアブソルは優しく抱く。
「心に負った傷はワタシには理解できない。だが、辛いならしばらくこうしていてやる。お前の気が済むまで」
「ア……アブソル……さん」
心が不思議と軽くなるような言葉にブイゼルは再び涙を流す。近くに理解してくれる者がいることがこれほど嬉しいことに、胸が暖かくなってくる。
改めて近くで見ると、凛々しい顔立ちからのはひっくり返したかのような可憐な表情。それに魅力的で無駄なラインのない体は、これまで出会った四足のメスの中でもトップクラス。同じ種族でなくとも分かる。このアブソルはとてつもなく惹き寄せる魅力を持っている。
ブイゼルは本能にすがるようにアブソルを抱き返した。
誰かとこうして体で理解し合うなどしたことはない。だがおのずと心地よい気分だ。
全身で心を受け止められ、体が楽になる感触。夢心地とはこのようなことを指すのだろうか。
幸せな表情を浮かべ、ブイゼルは笑みを浮かべた。
だが一つ、油断していることもあった。
本能は黙っちゃいない。それを忘れてはいけなかった。
「フッフ、そんな心地よいか。自らの欲望に気付かぬほど」
「えっ……?」
「下の方も気持ちに正直というわけだ」
アブソルの言葉でようやく気が付いた。慌てて離れると、ブイゼルの下半身からは壮大で逞しい、オスの肉棒が雄々しく発っていた。
「っ……!」
メスの匂いを十二分に感じ取った肉棒は、素直に興奮材料として期待するかのように、熱を帯びていた。
「ご、ごめんなさい!」
「ん?何故謝る?」
アブソルは満更でもない表情を浮かべ、ブイゼルを落ち着かせた。
「オスがメスに対する生理的な現象だ。ワタシは素直に、自分が魅力的だと自賛することにするよ」
妖しく微笑む仕草と共に、その図太い発言にあっけにとられる。
「え、ええ……でも……」
「ワタシは別に興奮したことを咎めるつもりはない。だったらもうそんな罪悪感に浸る理由はないだろ?」
その言葉でブイゼルの焦りは少しずつ小さくなっていく。アブソルがいいのなら……と、頭の中で冷静に割り切る。
「わ、わかったよ……」
「フフ、とは言っても、その見惚れるほど素晴らしいモノからは視線は外せないがな」
「うっ……」
少年ながら、オトナ顔負けの巨棒を元気よく発起させては、無視できないほうがおかしいというか。アブソルもとてつもない、そのブイゼルの肉棒には目が自然と行ってしまうのだろう。
「見てしまったものは座視できないからな。どうする?お前が望むならワタシが慰めてもいいぞ?」
この場合に起こりうる、慰めるの意味にブイゼルは光の速さで理解する。途端にブイゼルは目を見開き、頬を赤く染める。
「そ、そんな!ボクはそんな……!」
「断る理由はないぞ?ワタシが自ら許可を出しているのだ。後はお前が承諾したらお前にとっても色々楽になれるのではないか?」
不思議なアブソルの言葉の魔力にブイゼルの口から言葉が出なくなる。もちろん、こんな魅力的で自分の気持ちを受け入れてくれたメスとしたくないわけがない。寧ろおおいに望んでいる。
だが出会ってまだ二日という短い時間に、ブイゼルは大きな抵抗感を持っていた。自分はアブソルのことを何も知らないのに、一線を越えていいものかと。
「お前が望まないならワタシはいい。だがそれでいいのか?」
耳元までアブソルは近づき、アブソルは呟いた。
「ワタシは自らの欲を抑え込む相手を見るのが辛い……何故自らの感情を抑え込むのか理解できないんだ。楽しいことは楽しいと言えるだろ?なら何故それを実行しないのか。感情などに流されて欲を捨てるなどあまりにももったいない。何事も、貪欲にいかなければ楽しくないだろう?」
窓から照り刺す夜の明かりが悪魔のような微笑みを妖しく照らす。その瞳を見るだけで全てを取り込ませてしまいそうな魔の支配した眼にブイゼルは息を飲んだ。
「自分の欲に素直にならなければ、欲しいものなど手に入ることなどできない。夢も、願いも、異性も、己の欲を現さなかったらその手中に収めることなど出来るわけがない。もっと、もっともっと自分の欲を曝け出せ。欲しいものは何でも貪欲に行け。お前ならその力を持つことが出来るだろう?」
欲しいものは素直になれ。そう何度も頭の中で木霊する。まるで心の奥にある見たことのない『色』が眼に映り、目の前の『色』変わる。
体が熱い。自分は求めている。目の前の異性に。抑えようのない強大な欲望に。
「ボク……は……」
目の前に映るアブソルに迷いは生じない。
キュッとアブソルに抱き着くと、ブイゼルは猫のように擦り寄りメスの匂いをいっぱいに嗅ぐ。
互いに目を合わせると、ブイゼルは欲のままに口づけをする。アブソルも嫌な表情をせず、ブイゼルのキスを味わうように舌を絡めてくる。
初めての実行を戸惑うことなく行えるなど、今までのブイゼルからは想像もつかないことだ。だがアブソルの不思議な魅力に、ブイゼルは自分すら制御できなくなっていた。
口の中がトロトロに溶け出してしまいそうな濃厚なキスにブイゼルの目は徐々に虚ろになっていく。欲に溺れ初めている証だった。
舌と舌が交差し互いの欲を求め合い、互いが満たすまで永遠と続く。まるで短くて長いディープキスはアブソルから締め切った。
「フフ……そんなに求めて、少し苦しかったぞ」
ニヤリと口周りを舐めるアブソルはどこまでも妖艶で頭の中を染めてくれる。ぽっかりと空いた心に浸透するように、こんな魅力の溢れる相手とこうしていられるのが幸せで仕方なかった。
「そろそろこっち方も出番を与えないとな」
天に向かい突き刺すように反り発つ肉棒は、口づけの興奮ですでに大きく膨張していた。とてもブイゼルとは思えないほどの大きさを、これでもかと言うくらいアブソルに押し付ける。今にも射精してしまいそうにビクビクと震える肉棒にアブソルは優しく愛撫した。
無理矢理とはいえ、あのミロカロスたちと行為を行い未完のままアブソルに助けられたのだ。拒否感に遮られながらも、体はしっかりと求めていた。アブソルの強襲でそれは未遂に終わり、絶頂には達しなかったが中途半端に溜まった欲は不完全燃焼として、いつもより数倍増しの性欲が肉棒に滾っている。
「本当すごいな……鼻につくほどオスのニオイを放っている……」
肉棒を見る目はあのメス共と同じ反応だ。だが邪険に満ちた狂気の表情ではなく、本当に愛おしそうに見る目だった。
気の許した異性にまじまじと見られると、何故だか不思議と感情が高ぶってくる。今にも欲を爆発させ香りに溺れたい。
「ア、アブソルさん……」
ブイゼルも興奮がこれ以上我慢出来ない状態だった。充分な興奮材料を与えられ、すでに限界寸前の理性は歯止めが効かなくなっている。
まだ性行為の慣れていないブイゼルには耐えようのない興奮が体を、心を覆っている。息を荒くしてアブソルを見つめるその目を見れば一目瞭然だ。
何だ、とブイゼルの求めている事が分かっているのに言い分を申し込む表情。どこか憎らしくもあり、可愛げもあった。
「ボ……ボクのおちんちん……舐めて……ください……」
羞恥心など高ぶった感情の前には風前の灯。ただ目の前のメスに全てを捧げたい勢いだ。
フッと口を吊り上げると、アブソルはすぐさま口を開き肉棒をくわえた。
口を全開にしないといけないほどの太さはアブソルの想像を凌駕するほどだった。だがそれでも嫌な顔をせず、まだ新しい少年の巨根を味わうように口内で奉仕する。
くわえればよりブイゼルの肉棒の凄さがはっきりと分かる。燃え上がるような熱さとオスのフェロモンを十二分に放出しメスを虜にさせる要素を少年ながら惹きつけられる魅力を持っている。
口から伝わる熱い鼓動は全身に伝わり、アブソル自らの興奮も高まっていた。何てとんでもないモノをこの少年は持っているのだと、心の中で厭らしく、怪しく微笑んでいた。
「ふぁ……す、すご、きもちぃ……」
ミロカロスやゾロアークの時とは違う、刺激的な気持ち良さがブイゼルを痛感させた。心と体が自然と熱くなる。もっと感じたい、この快楽は今自分だけのものと奥底の欲望が更に膨れ上がってくる。
はち切れんばかりの肉棒にも関わらず見事な口使いで慰めるアブソルもすごい。顎の筋肉がよく鍛えられているのか微塵にも苦の表情を浮かばせない。
「やっ……そ……そこ感じるよ……」
更に先端を舌で器用に舐めまわす。最も敏感な部分を攻められブイゼルの表情は快楽と恍惚な表情でいっぱいだった。
「あっ……はぁ……はぁ……」
更に動きが激しくなったアブソルの行動にブイゼルも限界が近づいていた。これまで溜まっていたものとアブソルのメスとしての香り、肉棒の奉仕に頭の中は真っ白になっていた。
このまま絶頂に達せばさぞ物凄いことが起こるだろう。このまま楽になりたい、でもこの快感をもっと味わいたい。様々な欲が交差に混じり合うも、結局は限界には勝てないでいた。
「んっ……んぐっ……!」
「うあっ、うふぁぁぁ……!」
もう少しで絶頂に達しそうな勢いの所で、アブソルは途端に口を放した。するとそのまま間を空けず、両前足で肉棒を上下に抜き始めた。いつもやっている自慰の行為だが、異性にやってもらうのはまた全然違う刺激が襲う。
アブソルの足の裏の肉球がいい具合に合致し、また一味違う刺激が肉棒に伝わる。だがそんな快楽を味わう余裕などブイゼルにはなかった。
「うっ……ぐっ……もう……ダメ……ッ!で、でるうぅっ!!」
耐えようにもない快楽に飲み込まれ、ブイゼルは絶頂を迎えた。肉棒は口を離した位置にあったため、爆発的な精液がアブソルの顔に勢いよく直射する。暴れ馬のように肉棒から出る濃厚で熱い白濁液は止まることを知らず、アブソルの顔から額、角。垂れ落ちるものは胸へ、そして腹へとドロドロ汚していった。
「うっ……あっ……」
肉棒を上下に刺激を与える度に、溜まりに溜まっていた精液が止まることを知らずに溢れ出してくる。
いつも自慰で処理している並の量ではない。異性と行為を及ぼすだけでこんなにも違うものなのか。たった一回の射精でアブソルの全身は白濁液で汚れていた。
そんな全身にかかった精液を、アブソルは艶めかしく少量だけ口に含んだ。自分の精液など舐めて美味しいのだろうか。だが大射精を行い、体力を大幅に削られたブイゼルに、そんな頭を働かせるような余裕はない。
「想像以上でびっくりだぞ。それに、物凄い濃い味をしているじゃないか……」
息を荒くして絶頂の余韻に浸るブイゼルを、アブソルは艶めかしく見つめた。顔に付いた精液が更に官能さを増している。妖艶なんてレベルじゃない。刺激的で、まさにオスを性的な目で見させるだけの不埒な行動だ。
「とても少年とは思えないな。よくこんな量がそんな体から出るもんだ」
「そ……そりゃアブソルさんのフェラが……上手いからですよ……」
絶妙な口使いと舌使いに感動ともいえる気持ち良さだった。今のブイゼルはそう思えていた。
「そう言われて満更でもないな。だが流石にお前のそのデカブツに、最後まで口が耐えられなかったようだ。とんでもない一種の化け物だなこれは」
表情は変わらなかったが、内心ではかなり苦戦していたらしい。結局最後は我慢出来ずに離してしまったのだろう。
「それでも……あの、ありがとうございました……。こんな気持ちいいこと……初めてでしたので……」
恥ずかしさに目を反らすが、ブイゼルは満足気だった。性経験がこんなにも気持ちいいものだとは思いもしなかったため、それが理解できただけでもブイゼルは満足だった。
「ほうほう、そんなに気持ち良かったのか。ワタシとしては嬉しい限りだ」
可愛げに首を傾げ見つめる眼差しに、ブイゼルの心の振動はまた一つ大きくなる。
「だがな、ブイゼル」
口周りに付いた精液を拭い取り、アブソルはブイゼルに顔を近づける。
「まだ交尾など、こんなもの序の口なんだがな」
すると柔らかいものが口に当たったかと思えば、そのままアブソルは口づけをした。突然の行動にブイゼルはボケーッと目をぱちくりさせた。
精液が少量残っているのか少しほろ苦いが、それに負けない甘い香りが口いっぱいに広がり、脳内の直接伝わる。舌と舌を絡め、より色を濃く染められる。
互いに何も余計なことを考えず、まるで本当に愛し合う二匹のように深く、互いの芯まで欲するような、ブイゼルとアブソルのディープキスは長い時間続いた。
口を離すと、舌と舌に唾液が連なり、銀色の糸が垂れ下がっていた。深く長く接した時間と共に掛けられた橋はちぎれることなく床に落ちた。
「……可愛い奴だ」
母性の溢れる優しい声。愛らしくブイゼルの頭を撫で、抱き締めた。
まるで手玉に取られたような感触だが、悪い気分ではない。このまま身を任せるのも悪くないと思ったが、それでは何か納得できないような気がした。
「ア、アブソルさんも……すごく可愛いです……」
「褒め言葉か。そう言われて悪い気はしないな」
言葉に戸惑いがない。心を受け入れた相手だとこんなにも口からすいすい言葉が出てくるものなのか。
「にしても……」
アブソルは再びブイゼルの股を凝視した。
「まだまだ物足りないようだな」
「あ、そ、それは……」
先ほどのキスでブイゼルの肉棒を再び復活させるには容易いことだった。放水の如く大量に射精したにも関わらず、また大きく脈を打っていた。
おまけに、アブソルの怪しい瞳はより妖艶さを増しているようだった。肉棒に触れるだけでビクビクと刺激されるような感覚を帯びる。
「どれ、中途半端は嫌いなんでな。ワタシも満足したいし、お前も最後までいってみたいだろ?」
「まだ……してくれるというのですか……」
ブイゼル自身はここら辺で切ろうかと思っていた。あまり
それに、まだ若干の抵抗感があるからだ。
「何で……」
「何でアブソルさんはボクなんかに構うのですか……こんな情けなく、何も出来ないボクに……」
知りたかった。何故こんなにも自分に構ってくれるのかと。絶望で心は打ち砕かれ、周りが見えない自分にどうして付き添ってくれるのかと。
「気紛れだな」
「そんなわけないじゃないか!ボクは……あなたがいてくれなかったら何も出来なかった……ただあの汚いメス共に犯され続けていた……こんなボクだけじゃ何も出来ない……何の結果も出せないボクに……」
完全に穴は塞がっていない。自分の現実的な力には向き合えていなかった。
だから自分にこんな構ってくれるアブソルが嬉しく、不安であった。何かに惹かれる要素があるならまだしも、こんな何もない自分に付き合う理由が知りたい。
「一つ訊くが」
アブソルは口を開いた。
「ワタシはお前がいつから何も出来ないと言った?」
「え……?」
衝撃の言葉だった。
「お前は自分の力に気付いていないだけだ。ただそれだけのことなのに、どうしてそこまで悲観的になる」
「ボクに力……?そんな……デタラメは言わないでよ……」
フッとアブソルは笑った。
「教えてやろう、耳をよく開け。そして括目しろ少年」
力強い目で距離を近づけると、怪しく瞳が輝く。そして何かがまとわりつくような、官能的な声が頭の中で轟いた。
「お前は何も出来ないわけがない。自信を持て。失敗したらやり直せばいい。立ち上がれ。間違いはいくらでも取り返せる。何事も貪欲だ。貪欲にいけ。拒絶してばかりでは得るものも得られない。何もかも。夢も。なにもかも。今もそうだろう。メスを目の前にヤりまくりたいんだろう。その立派な巨棒で育みたいんだろう。なら自分に素直になれ。一度汚した相手なのだから遠慮などいらないだろう。犯せ。犯せ。お前は溜まった性欲を。貪欲に。この場で。まき散らすんだ。自らのために。自らの悪魔に問え。お前の欲を曝け」
アブソルの巧みな言葉はブイゼルの目を変化させていく。まるで悪魔の囁きをこの耳に取り入れるかのように、ブイゼルは目をとろけさせる。
そうだ、今は楽しまなきゃ。
目の前に極上の上玉がいるんだ。
何を怯む必要があるんだ。
貪欲に
そう、貪欲に。
止まる必要などない。
欲の正直になったらいい。
あなたはボクのモノだ。
「ア……アブ……アブソルさんっ……!!」
ブイゼルはアブソルを力のまま押し倒し、目と目を見つめ合う。先ほど出した射精でアブソルの体は精液で汚れていたが、そんなこと気にする間もない。
ブイゼルは目の色が完全に興奮しきった獣のように高ぶっていた。
そうだ、このアブソルを負かした肉棒で犯すんだ。アブソルは自分のモノ。躊躇う必要などない。今ここで汚さなければ、次は二度とない。
壊れてもいい。とにかく満たしたかった。
「はぁ……はぁ……」
すでに肉棒は最大サイズまで膨張しており、今にも射精してしまいそうに赤くなっている。先ほどあれほど出したというのに、この暴れ馬はそう簡単に満足はしてくれないらしい。
だがまだまだ自分の欲を発散させるのは早い。本能が言っている。まずは目の前の上玉を堪能しなくてはと。
意のままに、ブイゼルはアブソルの胸に顔を埋めた。首元から生える長い体毛と合わせ、弾力のある胸の膨らみに興奮は更に高まる。
「いきなり大胆なことをするな。そんなことされたらワタシも黙ってはいないぞ?」
アブソルはギュッと抱きしめ、柔らかい胸部から腹部にかけてブイゼルを拘束した。
「ふぐぐ……アブソルさんの……すっごい柔らかい……」
強く抱きしめる度に弾力と香りが全身に襲い、頭の中が狂いそうになる。
「どうだ?メスの身体の感想は」
言う間でもない。極上のメスの身体と匂いに、ブイゼルは上目使いで意志を示す。アブソルに伝えるにはそれで充分だ。
全身で感じ、メスのフェロモンに包まれるように実感する。
「次……!」
アブソルから解放され、次にブイゼルは右手をアブソルの秘所へ伸ばしていった。オスにはない、絶対的な領域にブイゼルは踏み込もうとした。
すでに湿ったような感触にブイゼルの胸の鼓動は早くなってくる。
「すごい……こんなに濡れているなんて……」
「あまりメスのデリケートゾーンを無闇に触るものじゃないぞ?」
からかうような口調に少し戸惑ったのかブイゼルは慌てて手を放した。何度も思うがメスの身体はオスとまったく違うためどうやり繰りをしたらいいのか混乱する。
だがここは本能に任せてみようと、ブイゼルは思い切って舌を入れた。
「ほら、どうした?そんな攻めじゃ満足しないぞ?」
だがこれ以上は慣れのないブイゼルには抵抗があり攻め切れていなかった。
それを察したのか、ブイゼルから離れアブソルは肉棒を持った。
「フッフッフ、ならこんなのはどうだ?」
アブソルは肉棒を秘所に当て、そのまま強くこすりつけた。
「うっ……これって……」
秘所から垂れ落ちる愛液が枯渇油となり、絶妙な滑り心地が興奮を生む。
「はぁっ……あぁっ……」
アブソルも表情が変化し、頬が赤く染まり息を上がっていた。初めてみせたアブソルの興奮する仕草に、胸の高まりは更に激しさを増す。
「ああ……直接触ると本当に凄まじい……フフ、最高だ……」
素股でこれほど興奮するとはアブソル自身も想像もしていなかった。
お互いの熱い所を直に感じ取るピンポイントに、また新しい快感が襲う。肉棒が巨大な分、アブソルも長い時間をかけ快楽を得ることが出来る。
「はぁ……はぁ……どうだ……ブイゼル……」
「うっ……すごい……不思議な感触に……ふぁ……」
激しく擦れば擦るほど、その快感は増す。だがそのような大それたこと今はしない。
手前で滑らせるだけでなく、真の目的。
このアブソルを満足させる最高の巨根を中に挿入したい。夢ではない、本当の欲望に現実となる。
前座でお互いに興奮しきった。証拠に肉棒からは先走りが流れており、アブソルの秘所からも多量の蜜が漏れ出していた。
「来い」
甘い声でアブソルは言った。それに答えるように、ブイゼルはアブソルに抱きつき挿入を始める。
「うっ……くっ……」
だが意外にも、うめき声を上げたのはブイゼルだった。
初体験というだけあって挿入に戸惑っていた。自分の肉棒のサイズに、秘所に入れていくのに意外にも苦戦していた。
アブソルの身体の大きさでは釣り合わない巨棒ということだろうか。ここに来て自分の肉棒の大きさが恨めしく感じた。
多少の不安感は拭えない。アブソルを傷つけてしまうのを恐れていた。
「やれやれ、仕方ないな」
そういうと、アブソルは逆にブイゼルを押し倒し、妖しく微笑んだ。
腰を上げ、秘所に肉棒を当て先端を挿入する。それだけでも敏感に感じてしまう辺り、改めてブイゼルの肉棒の大きさに驚嘆する。
そしてその体制のまま、アブソルはゆっくりと腰を下ろしていった。
「ぐっ……あぁぁっ」
「ぬっ!……やはり……さすがの大きさだな……っ!」
二匹が繋がる生々しい音と共に、初めての交尾にブイゼルは甲高い声を上げ、アブソルも巨物のキツさに表情が歪んだ。秘所からは愛液が大量に肉棒の間から垂れ流れていた。
感じたことのない刺激にアブソルも飲み込まれていた。挿入しただけなのにお互いに想像以上の快楽が襲い掛かってきている。
「フ……フフフ、お前の初めてはワタシが頂いてしまったな」
幸せそうな表情にブイゼルも自然と頬が緩む。慣れない肉棒の大きさに戸惑いを感じていたが、すぐにでも腰を動かしたい気分だ。
「動くぞブイゼル……ワタシも高ぶってきたからな……!」
お構いなしに、アブソルは自らの腰を突き上げた。はち切れんばかりの肉棒に圧迫され腰を動かすのも容易ではなかったが、それと同時に波打つ電流のように流れる刺激と快楽が襲う。
「あっ……ああぁっ……!」
膣内の刺激が肉棒に伝わりブイゼルも波に呑まれていた。先ほどの口の中とは比べものにならないほどの気持ち良さ。未知なる快感に、ブイゼルを更なる深みへ導いていく。
「やっ……はぁっ……すごい、中が、動くたび弾けていく……」
「あ……ああ……アブソル……さんっ……」
腰を突き上げる事に混ざり合った水音が弾け、下ろす度に極楽にでもいきそうな刺激が襲う。
少しずつ、次第に速度を速めていき、お互いの動きは止まることを知らない。
これが本物の交尾なのか、とブイゼルは耐えようのない快楽に声を上げるだけ。
もっと繋がっていたい、気持ちよくなりたい、と、貪欲な心が膨れ上がり、頭の中が濃く真っ白になっていく。
「ぐぐぅ……久しぶりだこんな気持ちは……もっと、もっとくれ、ブイゼル!!お前の全部を!!」
やがてアブソルの瞳も、凛とした輝きは多少感じるものの、ただ目の前の巨棒をただ求める一匹のメスへと化していた。まさかこうなるとは自分でも予想してなかった。いつもなら複雑な心境に陥っているが、今は何もそうは感じない。ただ肉欲にここまで純粋になれるのは久しぶりなのだから。
「ア……アブソルさん……!もっと……もっとはげしくやってくだ……さいっ!」
「あぁ、いいとも……限界まで付き合うぞ……!」
かなり理性を削られているはずなのに、アブソルは余裕に満ちた笑みを浮かべる。声や体の異変から相当快楽に溺れているはずだが、それだけアブソルの体力と精神力が強いという証拠なのか。
一方で刺激的を越えた刺激にメスのように喘ぐブイゼルは射精感が近づいていた。
それに反するように、アブソルは腰の動きを急激に速めた。肉棒に慣れてきたのか、それともブイゼル表情の変化を見たかったのか。
どちらにしろ、この行動はブイゼルを一気に陥れることとなった。
「ア、アブソル……さん……このままだとなかに……なかにぃぃぃっ!!」
襲い掛かる急激な快楽に、肉棒は我慢出来ず膣内で射精してしまった。
だが気持ちが遅れていたか、肉棒に歯止めが効き最低容量で射精は収まる。
「……大胆だな……中に出すなど」
意地悪に微笑むアブソル。無理な体制でしかも初体験のブイゼルにそんな余裕はないことを分かっているはずだ。しかも言葉なしに激しく動かすなど、とてもじゃないが耐えられない。
「ご、ごめん……」
だが膣内に出してしまったことは事実。一言の謝罪でブイゼルは肉棒を引き抜いた。
亀頭からは白い白濁液が垂れ、不発の後遺症かビクビクと震えている。
中途半端に射精したせいか、肉棒は不満そうに大きさを保っていた。無論、ブイゼルも全く満足していない。
自分の欲望は収まらない。もっと犯したい、自分の物にしたいと色欲に反応するように肉棒は縮まらない。
心情の読めないアブソルの限界というのが分からない限り、このままでは一方的に主導権を握られたままだろう。
そうはさせない。ブイゼルの中の黒い渦が遠慮なしに心に干渉する。このまま終わってたまるか、と
さっきの仕返しもしたい。軽い屈辱を与えられた借りは返さないといけない。
――次はボクが味わう番だ――
「ぐっ!」
力の限り、ブイゼルはアブソルに抱き付き体制を逆転した。今度はブイゼルがアブソルを見下す体制となった。
「ボクだって……欲のままメスを犯したいんだ……」
目の色は完全に変わっており、今はただ目の前のメスを肉欲に見る目と化していた。
押さえつける力が断然に違う。欲に支配されたのか息も断然荒くなり、今にも喰いつきそうな目つきにアブソルは笑みを浮かべた。
「いい表情だ。それほど自信があるなら見せてみろ。お前の真の欲望をな……」
アブソルは悪魔の如く不敵な笑みを浮かべた。それに鼓動するかのように、ブイゼルは軽い口づけをした。総計アブソルとの四回目のキス。何度味わっても甘い香りは衰えない。
「欲しい……あなたが欲しい……何もかも……ボクは……もうあなたしかいらない……アブソルさんの全てを……ボクのものにしたい……」
「その眼だ。欲に支配されありのままの自分を示せ。それがお前の最大の欠点を補うこととなるからな!」
抑制をかけた肉棒は、すでにはち切れんばかりに赤くなっており、ブイゼルも体験したこのないほど膨れ上がっている。ブイゼル自身も何となく感じていた。このまま攻め続ければ、先ほどよりもっと凄い大惨事になりそうだと。
それ故に攻め甲斐がある気がした。なら最後に盛大なハイドロカノンを打ち込んでやろうではないかと。
ブイゼルはアブソルを四つん這いにさせた。最もオーソドックスな方法が一番興奮を沸き立てる。
もう言葉などいらない。アブソルは尻を突き上げ、尻尾を左右に振る。肉棒にかき混ぜられた秘所からは滝のように蜜が流れだしており、アブソルの現時点を物語っている。
そしてブイゼルはアブソルに覆い被さり、両手で腰を持つ。そしてメインとなる特大の肉棒をアブソルの秘所に当てる。
一度体験した穴なら戸惑う必要なんてなかった。待ちきれない感情に後押しされ、肉棒を一気に秘所へ押し込めた。
「はぐっ……っ、……っ!!」
いきなりに挿入したため、アブソルは声にならない声を上げる。だがそれは苦痛の声ではないことをブイゼルは察した。
「それがあなたの気持ちいい声なんだね……アブソルさん……」
ブイゼルは笑っていた。甲高いメスの声と共に、アブソルが自分の行為を受け入れたことを嬉しく思ったからだ。
「な、なに言ってる……このくらい、どうってことない……だろ」
初めてみせたアブソルのブレのある口調。流れが一気に変わる予兆だ。
「そっか……なら動いちゃうね。ボクもう我慢できないから!」
一秒でも早く味わいたかった感触に、ブイゼルは腰を動かす。引き締まった膣内に耐えようのない刺激が一度に襲いかかる。
「うっ……あぁっ!ま、待て、そんないきなり激しく……っ!!」
「激しい……の?少し軽く動かしただけなんだけどね。まさかもう我慢できないとか?」
不気味な笑いがブイゼルの口から放たれる。立場の逆転した身となってはこれ以上最高の気分はない。
「ぐっ……な、なに……ここからだ……!」
後方に首を曲げ、引きつった笑みで強がった仕草をみせる。
「ほら、ブイゼル……!そのどんなモンスターよりも凌駕するデカいのでもっと本気を出してみろ!」
「言われなくても……分かっているよ……!」
連続で膣内を突き、乱れるように何度も上下運動を繰り返す。
「んあっ!!」
ビクンッ、とけいれんしたかと思えば、アブソルは足を崩し地面に這いつくばる姿勢になる。刺激に耐えられず、支えていた足に力がいかなくなったらしい。
「す……ごい……きもちよすぎるぅ……!」
甲高いアブソルの声にブイゼルは更なる興奮を感じ取る。
自分で攻めるとまた全然違う気持ち良さがある。後方から何度も何度も突き続ける肉棒の刺激は、幾度と味わっても新しい快感が来る。
「アブソルさん……アブ……ソル……ッ!」
肉と肉が激しく混じり合う感覚に、自分の中の悪魔に支配されたのかもしれない。
床には大量の愛液が垂れ流れており、まるで失禁したかのように行為の激しさを物語っている。
「はあぁっ、なかが……なかがぐしゃぐしゃにぃ……!」
奥まで激しく突く肉棒は少しずつ感情を壊していく。
「う、あぁ……た、たえりゃれない……にゃんて……しげき、にゃんだ……!」
アブソルも襲い掛かる快楽に言葉の呂律が回っていない。
ここまで表情を変えず楽しむようにしていたアブソルも、ブイゼルの巨根には勝てなかったらしい。目からは少量の涙が流れており、口からはだらしなく涎が垂れ流れている。ただオスに一方的に犯されている状況になっている。この時、ブイゼルは感じたことのない優越感に浸っていた。
「もっと……アブソルさんの……かわいいこえを……!!」
共に体温が上昇し、夢気分で乱れ狂う。この甘い空間を幾度なく続けていたいものだ。
このような化け物級を授けてくれた親には不謹慎だが感謝しなくてはいけない。身体の組織というのは殆どが親からの遺伝。父も自分と同じような肉棒を持っていてそれで母を汚したのだろうか。
自らの親でそのような妄想をするなんて思いもしなかったが、やはり自分は父に会いたいのだろう。
昔に誓った思いがブイゼルの心に蘇ってくる。そうだ、あの時は本当に目の前の事が楽しくて
あるときを境に、次第に荒んでいき今のような卑屈な性格になってしまった。その時に父を探すという強い思いも闇の中に消えていったのだろう。
取り戻した。影の中から光が漏れ、自分の大切にしていた思いが蘇った。
そして光は新たな兆しを取り入れる。
「うう……うああぁ!!」
光を思い出したブイゼルの目には涙を浮んでいた。瞳の輝きはこれまで以上に光沢を表し、意志の強さに満ちている。
そして自分の可能な最高速度で腰を振り続けた。とてつもない振動が膣内で暴れ、声すらも出せないほど堕ちたアブソルは肉棒を締め付けた。
「あ……はぁ、はぁ、もう……だめぇ……イきそう……」
刺激を限界まで蓄え、ブイゼルは絶頂間際まで迫っていた。だが達してしまったらこの言葉に出来ない気持ち良さが終わってしまう。
そうふと頭に過ると、射精するのを耐えようとする。まだこの快楽を楽しめるはずだ。
射精感を無理やり押し殺そうとするも、体は正直なことに、自分では制御できないほど暴れまくっていた。
「ぐうぅっ……こ、こい……っ!!」
自我を保つギリギリのライン。アブソルの言葉と共に、膣内で肉棒を思いきり締め付ける。
「ぐっ……!がまん……できない……!あっ、はううぅぅっ!!」
大きく腰をのけ反る。絶頂に達したことによりアブソルは力なくその場に崩れ落ちた。
「も……もうだめぇ!ふぁああぁっ!!」
アブソルに続くように、激しい行為に絶頂を迎えたブイゼルは一気に突き上げ、奥に直接射精した。今度は何も制御なく、肉棒からは待ち構えていたかのように、勢いよく精液は子宮に到達し、あっという間に膣内を満たす。
「ああ……あぁ、あつい……きもちいい……とけてしまいそうだ……」
ブイゼルの思った通り、自分では制御出来ないくらい大量に射精している。先ほどの中途半端な射精とは一変、少年とは思えない爆発的な精液が何度も何度も脈打つ度に放出される。
膣内を満たしたと同時に、ブイゼルは肉棒を引き抜いた。
真っ赤に充血した肉棒からは未だに惜しみなく熱い白濁液が放出され、アブソルの身体に放物線を描くように降りかかる。
うめき声をあげながら、ブイゼルは欲望を振りまける。自分の部屋があちこち白濁液で汚れ、こびりついているがそんなこと気にする猶予もない。
目の前の欲に無我夢中でただ射精して欲を満たすだけ。一回目の非じゃない、とんでもない射精には自分すらも恐ろしく思える。
僅か数秒で満杯になったアブソルの秘所からは、溢れ出る精液が逆流しドロドロと流れ落ちる。収まりきれなかった分とはいえ、すでに床が真っ白に染まっているのを見る限り、アブソルの中は隅々まで真っ白に染まったのだな、と複雑な罪悪感が湧いてくる。
射精も次第には落ち着いてきているが、手で抜くように擦ればまだ出てくる勢い。こうなったら絞り出すまで出してやると、ブイゼルはアブソルに向け残った精液をトロトロと出し尽くした。
「うっ……はぁっ、はぁ……」
放心状態のアブソルには悪いとは思っているが、自分の欲望には逆らえなかった。自分の精液で汚れたアブソルの魅力にはまってしまったのだろうか。
ドクドクと何度も溢れ出る熱い射精は少しずつ収まり、後は残りの精液を床に落とした。
「はぁ……はぁ……」
全て出し終えると、ブイゼルはそのまま足をふらつかせ、壁にもたれるように座り込んだ。辺り一面が真っ白に変わってしまったのは自分の処遇だが、今はこれをどうにかしようという気分にはならない。
「うっ……はぁ……はぁ……」
少しずつアブソルの意識も戻って来ており、しばらくするとこちらに目を向ける。
身体全身にかかった精液を確認し、軽く振り払う。
「まったく、お前の絶倫には心底ゾッとするものがあるな」
アブソルはゆっくりと立ち上がる。すると、ゴボボ、と鈍く波打つような音と共に秘所からは未だに精液がこぼれ落ち、床を汚す。ニオイもそうだが、なにより三発目だというのに、あんなにもアブソルの中の射精したのかと自分の仕出かしたことなのに心の衝撃を覚える。
嗚呼、自分はなんてモノを持っているのだと、自分の性欲の強さを理解することとなった。
「それは……アブソルさんの中……言葉に言い表せないほど気持ち良かったから……」
息を荒くしながらも、ブイゼルのご満悦な表情に自然とアブソルの表情も緩んだ。
「お前に似合わず生意気な言葉だな。まぁ、謝らなくなっただけいいか」
そしてペロリと、ブイゼルの口を舐め、そのまま口づけをする。
締めのキスにブイゼルも自然に受け入り、舌を絡める。お互いが一つになったことで、キスはより甘いものへと上がっていく。
「ご馳走様。いい体験をさせてもらったぞ。ワタシも言葉に出来ない気持ち良さだった……。まったくお前のソレはワタシの予想を遥かに凌駕するシロモノだな。本当に素晴らしいよ」
「ボクも……交尾がこんなにも気持ち良いとは思ってなかったよ……。それにアブソルさんが満足してくれて、ボクも嬉しい……」
「ああ、最高だな。お前との行為は」
最後まで妖艶な笑みで締めくくる。その笑みに同調するようにブイゼルも笑みを浮かべる。流石に限界なのだろう。目の光が次第に失っていく。そのまま眠りについた。あれほどの大射精をしたならば、体力も根こそぎ持っていかれたのだろう。
「愛しいな……離すのがもったいないくらい輝いているよ」
頭を撫で、子どもをあやすかのように微笑む。
「お前に足りなかったのは光を見る心。それに気付いたお前にもう怖いものなどないだろ。ワタシも身体を張った甲斐があったというものだ」
抱き締め、アブソルは軽いキスをした。
「普通のポケモンとして置いておくのは惜しい少年だ。一度堕ちた身、これからは這い上がっていくしかないからな。この若さでその境地に達するなど、滅多にお目にかからない」
アブソルの目が段々と変わって行く。周りの風景はない、ブイゼルだけを見る目。
「どうやら、お前に妙な気を持ってしまったようだ。それはお前も同じかもしれない……かもな。フフフ……ハハハ……気に入った。お前は――」
目を妖しく光らせ、アブソルは口づけをする。
「ワタシのモノだ」
優しく、頭を撫でながら口を合わせると、甘い吐息と共に辺りは冷たく、時が止まったかのようになる。暗闇の空間の中で、ブイゼルは赤い光に包まれゆりかごのような物へと運ばれて行った。
甘言を放つ者は『悪魔』しかいない。
甘い言葉の裏に必ずなにかあるというのは大昔から言われている。
赤い瞳は暗い光を放ち、心を虜にさせる。
まさにその姿は悪魔と呼ぶのに相応しいのかもしれない――
「……おいブイゼル!聞こえてんのかよ!」
「えっ?ええっ!?」
白昼夢から覚めたかのように、ブイゼルは呼びかけに答えた。
「ったく、朝っぱらからボーっとして……そんなんで本当に大丈夫なのかよ……」
どうやらモココがブイゼルを気付かせたらしい。目をぎりぎりと尖らせたモココはブイゼルに一発グーを入れてやりたい気分だった。
「あれ……ボク、いったい何を……?」
「寝ぼけてないでしゃんとしろ。ほら、始まるぜ」
モココの視線の先にはエレブーがいた。
「それでは、今年の探検隊に選出するメンバーを決定する模擬戦を行う。では第一試合!ドッコラーとブイゼル!」
いきなり自分の名前が呼ばれ、ブイゼルは背筋を伸ばした。
どうやらブイゼルは選抜会の会場にいたらしい。頭がぼんやりして思い出せないが、今ここにいるのだから確かだろう。
「まずはドッコラーとブイゼル。お前たちから見させてもらおう」
オスのドッコラーと、ブイゼルが前に出る。周りのポケモンたちは一斉にざわつき始めた。
「いきなりドッコラーと万年負け越しのブイゼルかよ」
「こりゃやる前から勝負は見えているな」
すでに周りはドッコラーに軍配が上がっていると、ブイゼルに目を向けるものは誰もいなかった。
今回の選抜枠で最も最有力候補といわれているドッコラーも、余裕の表情でブイゼルを見下していた。
「頑張れよ、ブイゼル……。確かに勝ち目はないけど……」
モココも唯一ブイゼルをサポートする声をかけるが、勝てるかどうかは別。誰もがこの勝負の結果を核心していた。
「それでは、バトル開始!」
エレブーの合図と共に、火花が散る。
先制をとったのはドッコラーだ。手元の角材を大きく振りかぶり、攻撃を仕掛ける。
「一瞬で終わらせてやる!」
ドッコラーは角材を振り回し、ブイゼルに反撃の隙を作らないようにする。
逃げるブイゼルも、その角材の強襲に入り込む隙はない。
そしてドッコラーはマッハパンチをブイゼルに繰り出した。角材の振り回しで手一杯だったことで、簡単に攻撃を受けてしまう。
二発、三発と連続してマッハパンチを受け、次にけたぐりやばくれつパンチといった大技も混ぜてくる。
連続して受ける格闘タイプの猛攻。一撃が重く、大幅に体力を削られる。
「ぐっ……ううっ……!」
ふらふらと頭を押さえる。次の一撃をくらえば、確実に終わる。そんなあっけない勝負は……嫌だ!
力を……欲したい。
貪欲に、ただ自分の思う素直な欲をさらけ出せばいい。思い浮かぶのはあのアブソルの悪魔のような怪しい眼。自分を大きく変えてくれたアブソルがブイゼルの中で大きく渦巻いていた。
遠慮なんかする必要はない。もっと、相手を討ちのめすように慈悲など与えてやらなければいい。
自分の心の中で何かが大きく光った。赤い、血の色のような光にブイゼルの目つきが変わる。
ドッコラーの丸太がブイゼルに襲いかかる。ブイゼルの眼は、ドッコラーには向いていなかった。
今のブイゼルに怖いものなど何もない。ただ力を貪欲に晒したい、そう悪魔の心が全身を流れ出していた。
ブイゼルはリスクを考えず、突っ込んだ
「馬鹿野郎!相手にみすみす無防備に突っ込んでいく奴がいるか!」
モココの叫びも虚しく、ブイゼルは止めようとしない。そして真正面まで接近した時、ブイゼルは呟いた。
「――消えてくれ」
ドッコラーの目が大きく開いた。
ブイゼルのアクアテールが瞬時に怯んだ隙をつき、ドッコラーの腹部へクリーンヒットさせた。
全身がとてつもない衝撃に見舞われたかと思うと、ドッコラーは空中に弧を描きながらギャラリーの列へ飛ばされて行った。
一瞬の出来事に、周りのポケモンたちは何が起こったのか理解できていない。静まり返った空気が辺りを支配した。
「……ブ、ブイゼルの勝利だ……!」
エレブーは判定の合図を上げりと、一斉に歓声が湧き上がる。まさにどんでん返しとも言うべき、驚くべき結果となった試合は可換の声で溢れかえった。
「す、すげぇなブイゼル!お前、いつの間にそんな――」
モココが駆け寄り、祝福してくれた。しかし、ブイゼルは何の表情も浮かべない。
「ねぇモココ……キミはずっとボクを信じてくれる?」
突如発した言葉に、モココは首を傾げる。
「な、何言ってんだよ、いきなり。そんなことよりお前さ、勝っちまったんだぜ、あのドッコラーに」
「勝ったか……こんな雑魚相手にしたって、本当の強敵はこの世界にゴロゴロいるのに……」
「え……?」
ブイゼルの言葉に先ほどからモココは付いていけてない。いったい何を言っているのか、いつものブイゼルの感じがしない。
「ボクは……絶対に会わなきゃいけないんだ。また会って……次は本当の気持ち話さなきゃ……」
辺りに冷たい空気が流れる。夏なのに、この背筋の凍るような冷たさは一体なんなのだ。
「だからモココ、ボクは探検隊に入る。そして見つけるんだ。父さんも。あの方も……」
フフフ、と不気味に笑いを上げる。
「夢は貪欲にいかなきゃ。一度きりの生涯なんだ。欲しいものは欲しいと思うのが普通でしょ?そうだろう?モココ?」
そう言い残し、ブイゼルはふらふらとその場を後にした。
全身から震え上がるような感覚に、モココは息を飲んだ。目の前の友に、これほどの恐怖感を覚えるなど有り得ないことだ。
ブイゼルの背中が遠く見える。冷たい風によってその背は余計にかすんで見える。
言葉をかけたいが全てが打ち消される感覚がした。
「お前……いったい……」
声を震え上がらせ、モココは呟いた。
「――何者なんだよ」
静かな森の奥地で、アブソルは木の実を食べていた。
充分実った木からの恩恵は心を安らげる。
満腹になったアブソルは寝転がりながら、あるポケモンの姿を浮かべていた。
「お前はもうワタシのモノだ。ワタシを虜にしたその瞳は欲しいんだ」
無垢で一途なあの光。
「貪欲にいかねば面白くない、それはワタシも同じだ。欲しいモノはこの手に納めたいというのが生き物の本能だろ」
欲を失っては何も得られない。
「その身を呈して、しっかり暴れてくれよ……ワタシからの贅沢なプレゼントなのだから」
悪魔の囁き。その程度の代物ではない。
「そして悪魔の処遇をワタシに持って来いブイゼル。その時にお前の全てを受け取ってやるからな……フフフ……」
影の翼は邪悪なほど大きく広がり、辺りの木々は身を隠すかのように静かになった。
あの光ある瞳に惚れ込んだ一匹の悪魔は、今日もどこかでその欲を晒す。
戻れないだろ。一度味わってしまったら二度と戻れなくなる。
――決して戻さないけどなっ!!
あ・と・が・き
おはようございます。クロフクロウです。
今回大会に初参加ということで、二位という結果に終わりました。十四票をも多くの票を頂き、自分自身が非常に驚いています。
官能有りが今回初選出ということで、最初は難しさに試行錯誤していました。ここまで本格的に書くのが人生発なので……。
どうせならはっちゃけようかな、と荒削りの描写で投稿したわけですが、本当ここまで投票が来るとは思いもしませんでした。
変態選手権の開催が決定した時から描き始めていたのですが、途中でメガアブソルの情報が出たときには非常に動揺しましたw好きなポケモンが新しい可能性に踏み入るというのは、嬉しいものですねー。
本編の小説でも、メガシンカの詳細が分かったら活用していきたいなーと思っています。(というか本編ではトレーナーと共鳴しないと出来ないと出ているわけですがががが)
今回の小説は自信の作品 NO LIMIT とオーバーラップしているという前提で書いたものです。時系列的には、違うが、同じ世界というのは確かです。
NO LIMIT のテーマは、限界突破。自分の限界を見極め、そこからどう乗り越えていくかがキャラクターの成長としています。今回の「悪魔の処遇は光ある瞳と共に」は、心のリミッターを外せば、どういった道になっていくのか。それが道理的には間違った道でも、自分が納得し受け入れればそれは進むべき道になるのか。しかしアブソルの存在で大きく変わったブイゼルが今後どういった道を進むかは誰にも分かりません。
そこまで大それたことまで描写していませんが、コメントにもあったように、もし続編を書くとすればそういった方針になるかもしれないです。
実は、今回投稿時間ギリギリで後半スッカスカという状態で投稿してしまったので……。後々β版として修正したやつを載せていきたいと思います。(しかし時間がぁぁぁ……)
参加した皆様、投稿した皆様もお疲れ様でした。また機会があれば、積極的に参加していきたいと思います。
コメント返しとコメント返しとコメント返し
最高です!! (2013/09/01(日) 01:59)
>ありがとうございます!少しでも楽しめたなら光栄です!
ストーリーがしっかりしていてよかった (2013/09/01(日) 07:32)
>ストーリーは自信を持ちたい部分ですので、そう言ってもらえるととても嬉しいです!
官能もストーリーもどちらも存分に堪能できました。できることなら続編を読んでみたいです。 (2013/09/01(日) 07:38)
>ありがとうございます。続編は……要望があれば検討していきたいと思いますねー。
ミロカロスとゾロアークの鬼畜っぷりがすごいwww
ブイゼルもアブソルも好きなポケモンなのと、後半部分のエロさにグッときました。 (2013/09/01(日) 09:00)
>もちろん、この二匹も大好きですよ。今回は汚れ役として活躍してもらいましたがwメインとなる官能をお楽しみいただけたなら、こちらも嬉しい限りですねー。
アブソル可愛い。こういう子好きですわ (2013/09/01(日) 10:19)
>ですよねー。アブソルもっふるもっふる(
めがあぶそるたん解禁っ! (2013/09/01(日) 21:15)
>ついにアブソルが羽ばたく時が来ましたね!新しい可能性に期待大です!
その後が気になりました…! (2013/09/02(月) 01:06)
>続編は検討中ですが、前向きに考えていきたいと思いますー。
意味深な終わり方でしたけど、内気なブイゼルの豹変ぶりが凄まじかったです。アブソルの暗示恐るべし…。
欲と聞くと、どちらかと言えば強欲みたいに悪いイメージが強いんですけど、終盤の性行為やバトルを見て、時には“貪欲”にならなければ達成できない事もあるかな…と考えさせられました。
(2013/09/02(月) 23:28)
>悪魔の言葉というのは良くも悪くも心を変えますからね(
時には自分のわがままに耳を傾けないと、楽しめないですから。
アブソルさんかっこいい (2013/09/03(火) 00:32)
>クールビューティです。本当にありがとうござい(ry
アブソルの名言にグッときました。 (2013/09/03(火) 07:39)
>大した言葉じゃありませんが(それでも響いてくれたら光栄です!
続きが気になります!! (2013/09/06(金) 03:32)
>続編は(ry
緊迫感のある描写とエロが最高によかったです! (2013/09/07(土) 10:49)
>ストーリーは大いに力入れましたからね。満足してくれて私も最高です!
主人公が巨根・絶倫であるという小説は世の中にいくらでもありますが、
この作品は「それがいかに凄い物か」をしっかりと説明しているところがいいですね。
続きが気になる終わらせ方もグッドです。ぜひ続編も書いていただきたいです。 (2013/09/07(土) 10:54)
>あざとい描写でしたがwやはり官能には描写がしっかりしないと、読者にダイレクトに伝わらないですからね。
物語は終わらない~、と謎めいた終わりは割と好きな私ですから、続きは考えてないのですwしかしここまで言われたらやってみたいという気もありますね。
ブイゼルの欲が暴走するシーンがひたすらエロくて、ブイゼルの心情描写が素晴らしかったです (2013/09/07(土) 13:59)
>そりゃ目の前の美女にそんなこと言われたら(ry
少しくどかったかもしれないですが、一部分を評価してもらい励みになります!
たくさんのコメントありがとうございました!投票してくれた皆様に、感謝感激です!
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