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1人と7匹の物語 3 の変更点


カンネイは、いそいそと大学に行く準備をしていた。1回くらいサボりたくもなるものだが、使用人の、トウイン公が何とかっていう長いお説教を聞くくらいなら、大学に行っていたほうがはるかにマシなのだ。
 カンネイは、この間助けたサンダースを連れて、家を出た。しかし、リクソンから聞いていたが、この種族は本当にすばしっこい。今日も、先に走って行ってしまう。
「遅ーい」
 サンダースが十数メートル先で待っている。くそ、これじゃ身が持たん。こうなったら・・・。
「え?ずるーい。私も乗っけてぇ」
 ギャロップにまたがるカンネイを見てサンダースは言った。
「わかったよ」
 ギャロップは軽やかに走った。街並みが高速で後に流れる。
「きーもちいー」
 サンダースは嬉しそうだった。
 すぐに大学の正門に着いた。すると、ひとつ問題があった。正門前にはたくさん学生がおり、このまま突破するのは非常に危険だった。
「ギャロップ、止まれ」
「急ブレーキは逆に危険だ」
「じゃあ、減速してくれ」
「そりゃ、もう間に合わないな。我が脚力見せるときッ!!」
 ギャロップは大ジャンプで学生たちを飛び越え、敷地内に着地した。被害は出なかったが、警備員が血相を変えて飛んできた。
「ポケモンで来るのは構いませんが、大ジャンプはちょっと・・・。この間もやった人がいるんですよ」
「え、どんな人です?」
「白い眉毛の人です」
「・・・(あいつしかいないじゃん)」
 

 ちょっとした騒ぎが起きている頃、バショク、バリョウ、リクソンの3人と例の7匹は、ラウンジにいた。この前の一件が気になって、話し合っていたのである。もっとも、グレイシアの活躍で、3人に被害はなかったのだが。
「あ、そうだ。先輩のブースターに関係あるかもしれない記事を見つけたんで、持ってきたんですよ」
 バショクが新聞記事のコピーを二人に見せた。
「どれどれ」
 全員がその記事に見入る。日付は3月14日。そこには、こんな見出しが躍っている。
「ホクヘイタウンで、生物研究所が全焼 漏電が原因か」
「ブースター、この建物。見覚えある?」
「これだけ、焼けちゃってるし、それに・・・、火事が起きたのは確かだけど、捕まった後目隠しさせられてて、建物は見てないの。だから、この建物かは・・・」
「えっ?それ先に言ってくれよ」
「いや、例の一軒とこの日、ブースターがリクソンのもとに身を寄せた日は近いから、何らかの繋がりがあると見てもいいんじゃない?」
 と、バリョウが白い眉毛をいじりながら言う。
「で、その研究所が焼けた後、どこかに移されることになって、スキを見て脱走した。この前のヤツは、この研究所のさしがねで、バショクさんが捕まえた男は、この研究所の一員。そう言いたいんでしょ、バリョウさん」
「あ、うん。よくわかったね。エーフィ」
「ふふふー。ボクは読心術が使えるんですよ」
「あ、そうなの・・・」
 しばらく考えて、リクソンはこんな事を提案した。
「ここは、カンネイに頼もう」
「え、先輩それでどうするんです?」
「彼のお父上は、この国の前首相。諜報機関とも繋がりがある人だから、カンネイを通して頼めば、何か調べてくれるかもしれない」
「それ、いいかもしれないな。ちょっとトイレに行ってくるよ」
 丁度その時、バリョウと入れ違いにカンネイがやってきた。が、その時思いがけないことが起こった。
「え、お、お姉ちゃん・・・?」
「ブースター・・・」
 二匹は、互いに歩み寄るとひしと抱き合い、大粒の涙を流した。
「お姉ちゃん・・・あのときの火事でいなくなっちゃったから、死んじゃったと思ったから、でも生きてた」
「ごめんね。さびしい思いさせて・・・」
 その場にいた、4人と7匹はきょとんとしていた。一体、何が起こったのか?
「そ、そういえば・・・」
「ん?カンネイどうした?」
 ギャロップが聞く
「こいつ、生き別れになった妹がいる、とか言ってたな」
「ええっ、そうだったのかよ」
「まさか、リクソン家のブースターがそうだったとは・・・」
 再会した2匹の会話が続く。
「別れてから、今日までどうしてたの?」
「リクソンさんに助けてもらって、で、バリョウさんが手当てをしてくれて・・・」
「バリョウさん?」
「あそこにいるバショクさんのお兄さん。白い眉毛が特徴的で、すごく頭がいいの」
「白い眉毛って、外国の人?」
「自分は、セイリュウ国民ですよ?」
 その場の空気が凍りついた。最悪のタイミングでバリョウが帰ってきてしまった。
「兄さん、これには訳が・・・」
 バショクの必死の説明で、
「あ、そうなんだ。よかったじゃん」
 と、一応納得してくれた。バリョウが温厚な性格でなかったらどうなっていたか。
 ちなみにバリョウの眉毛は生まれつきのもので、何でそうなったのかはわからない。
 カンネイは、サンダースを叱りつけた。
「こらっ、妹の命の恩人に失礼なことを、謝れ!」
「え、どして?」
「・・・お姉ちゃんは、あんまり自分の非を認めることはしないの・・・」
 ブースターが、バリョウに申し訳なさそうに言った。
「そ、そうなんだ・・・。どうして、姉妹でこうも違うのか」
 バリョウはそう呟いた。もっとも、その場にいた誰もがそう思ったことだろうけれど。

 授業後、日もすっかり暮れた正門前に4人はあつまった。あの後、カンネイはバリョウに、
「不愉快な思いをさせたお詫びに、うちで夕食を食べていって欲しいんだ。もちろんみんなも一緒に」
 と言ったのである。それで、待ち合わせをしていたというわけだ。が、まさかこの場に「招かれざる客」が現れるとは誰も予想し得なかった。その客は、地面の中から現れた。何だか、ずいぶんデカイ、というより長い。
「貴様らだな。我らが野望の邪魔立てをする者共は」
 と、ハガネールが言ってきたが、何のことだがさっぱりである。
「ウィンディなら、あんな鈍重なのから、逃げるのはカンタンだよ」
 バリョウがそう言うと、リクソンたちの周りをぐるりと10匹ほどのポケモンが取り囲んだ。何だか、定番になってないか?が、この間のよりは強そうだった。
「あのさー、野望って何だよ」
 どうせ、答えてくれないだろうと思ったが、リクソンは一応聞いてみた。
「くくく、冥土の土産に教えてやろう」
 あれ?答えてくれる?
「隊長、何もそんなこと教えてやる必要はありませんよ。こいつらは、我々が始末します」
 ち、下郎共が。
「オレの出番だな。リクソンこいつらはオレがまとめて・・・」
「ブラッキー、こいつらこの前のよりは強そうだけど?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
 そう言うと、近くにいた1匹に「だましうち」を食らわせた。当たり所が悪かったらしく、そいつは血を吐いて倒れた。
「不意打ちとは、卑怯だぞ」
「『奇襲』と言って欲しいな、それに、悪党に卑怯と言われる筋合いはなーい」
 ブラッキーはおどけた口調で、相手を挑発した。
「てめぇ、調子に乗りやがって!!!!!」
 相手は10体。しかし、一斉に襲い掛かってきたのに、ブラッキーは動じない。それどころか、口元に不敵な笑みさえ浮かべている。頭に血が上った10体は、ブラッキーの計略に引っかかったことにまるで気づいていない。ブラッキーの頭上には巨大な黒い球体が浮かんでいるのだが、そんなものは眼中になかった。
「夜、オレに戦いを挑むとはな。あの世で後悔しろッ!!!!!」
 ブラッキーがそう言い放つと、何かを押しつぶすような鈍い音が聞こえた。
 あの10体は、跡形もなく消えてしまった。
「何が起こったんだ?」
 リクソンが聞くと、ブラッキーが言った。
「さっき言ったぞ?まとめて潰した方が楽だからな。『シャドーボール』で・・・」
 で、残りはハガネールか。
「リクソンさん。ここは、私に。今までのお礼にあいつを倒します。バリョウさん。あいつを倒したら、お姉ちゃんを許してあげてください」
「あ、うん・・・。あの姉有りて、この妹か」
 二人してそんなことを言っていた。が、この時はカンネイのサンダースの本当の力を知らないから、そんなことが言えたのだ。
「くくく、さぁ、かかって来られよ」
 余裕なのか、ハッタリなのかは分かりかねたが、ハガネールはそんなことを言っていた。が、この後一同は、とんでもないものを目にすることになった。
「我が戦術、受けてみよ」
 ハガネールは大量の水を吐き出した。幸い攻撃はあたらなかったが、あたりは水浸しになった。
「なんで、あいつがあんな技を使えるんだ?」
 一同は、予想外の展開にただ驚くばかりだった。
 が、ブースターは冷静だった。
「ケガさえしてなければ、水なんて。今のもう一回してみれば?ま、やったらあなたが死んじゃうけど?」
「え?今なんて?」
「くくく、面白い」
「失われた中世の戦術、その身で知りなさいッ!!!!」
 ブースターの攻撃は普通の火炎放射攻撃っぽかったが、その炎は、ハガネールの吐いた水に消されることなく、その上を走るかのように炎の帯は移動し、ハガネール本体に達するとその体を包み込んだ
「くっ、がはっ、水が炎にやられるとは・・・」
 ハガネールは悶え苦しんで、息絶えた。
「兄さん、今の何?」
「さぁ・・・」
 さしものバリョウも答えが出せなかった。
「あのさ、似たようなの歴史の資料で見たことあるぞ」
 リクソンが言った。
「え?」
「あれ、多分、『ギリシャ火』だと思うんだけど」
「ね、ねぇ、リクソン。何なのそれ?」
 シャワーズが聞いてきた。水が炎に効かないなんて自分とっては衝撃的だったのだろう。
「まー、東ローマ帝国の戦術なんだけど、水では消えない特殊な炎で敵軍の船を焼き払ったのさ。でも、千年続いたその国も15世紀に滅ぼされて、その戦術は地球上から姿を消したというわけ」
「ところで、何でギリシャ?」
「ああ、ギリシャ人が開発したから」
 ブースターがリクソンのところに歩いてきて
「お礼になった?」
 と、聞いてきた。
「もちろん、十分すぎるくらいに。じゃあ、カンネイの家に行こうか。ご馳走してくれるって言うから」
 
 4人を乗せたウィンディは夜空の下を疾駆した。快い春の夜風が体を包んだ。

     1人と7匹の物語・第3話・再会 終わり
                                    つづく
 

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