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-Ruined City- ver5 の変更点


この物語には流血表現が入る可能性があります


ACT13 暗殺者

ムウマージが部屋に入った後、ジュエルは分秒を争ってその場から逃げ出す。
宿屋から出るときにアリゲイツに何かを言われたが、何も覚えてない・・・
今、瞳に映っているのはクロイツに犯された部屋の窓、あの部屋で何が起きてるのか、だいたい想像はついていた。
それゆえ恐ろしかった・・・今、誰かに言えばあのグラエナは助かるかもしれない・・・
でも何故?あいつは私の事を犯したのに助ける義理はないじゃない・・・
頭の中で争う天使と悪魔は、ジュエルの心を『きりきり』と締め上げていった。
ジュエルは、人通りの少ない裏通りに出ると、頭を抱えその場にうずくまる。
瞳からは涙がぼろぼろと溢れ、石作りの通り道を濡らしてゆく
「貴方・・・泣いているの?」
突然誰かが話しかけ『はっ』と我にかえるジュエル、目の前には一匹のエーフィが二足立ちで立っている。
エーフィは黒い布切れのようなまとい、ジュエルが見ることが出来たのは足と顔だけだった。
「なにかあったの?」
心配そうに聞いてくるエーフィ、ジュエルは首を左右に振る。声からして相手のエーフィが雌だということが分った。
「・・・・・・そう・・・それなら早くお家に帰りなさい・・・これから先は私達の時間」
それだけエーフィは言うと、黒い布切れの後ろについていたフードをかぶり、黒一色に染まる。
その最中、彼女の口から聞いた事のない名前が漏れる・・・いや、その名前はどこかで一度聞いたような気がしないでもない・・・。
たった一言だけだったが、憎しみのこめられたような強い口調で「アーク」と呟いた気がした。
ふと空を見上げると、日は沈み空には星がちかちかと見え始めていた。
「お家に・・・帰らないと」
ジュエルは両足に力をこめ立ち上がると、家に向かってふらふらとした、まるで千鳥足のような足取りで向かっていく。
裏通りから大通りに出ると、夜だというのに大賑わいをしていた。
しかし、昼とは打って変わり、商人達が売っているものも怪しく、娼婦達も我が物顔で大通りを歩いている。
脇目も振らずジュエルは大通りを歩くと、見慣れた相手とすれ違う・・・。
急いで振り向くと、一瞬だがレインの後ろ姿を確認する事ができたが、すぐに人ごみに紛れ見えなくなる。
家の前にたどり着いた時には、空は完全に夜空とになり、家々からは香しい夕食の香りが鼻をつく
だが、彼女の心はその香しい香りにまったく興味を示す事ができない・・・。
「ただいま・・・」
そして彼女は家に帰宅した・・・。心の中にもやもやとした物を抱え。
夕刻、ムウマージは自分の依頼の目標となる相手の部屋へと入る。
部屋には椅子に腰掛けたグラエナが、お前は誰だ?というような顔で見つめていた。
「なんだお前は?俺に何か用か?」
「用が無くてきちゃいけないの?・・・ふふ、あんな子供の相手もいいけどもう少し年上もどうかしら?」
まるで雄を誘惑しているかのような色香を撒き散らしムウマージはグラエナに接近する。
グラエナもその気らしく、立ち上がると、すぐにムウマージを自分の傍に抱き寄せる。
「いいぜ・・・俺もたまには大人の色香を啜っておかないと・・・クク・・・」
「うふ・・・嬉しい・・・」
彼女の手には窓から入る光を反射するナイフが握られ、グラエナと抱きついた時にナイフは彼の背中を捕らえていた。
「まずはキスでいいかしら・・・?」
そのキスはグラエナが最後に啜る性を意味し、そのキスが終わった時に彼の生命は絶たれる事も意味していた。
「俺のキスでお前を極楽に送ってやるぜ」
そして二人は口付けを交わす・・・刹那、ナイフが彼の心臓めがけて音も無く振り落とされる。
・・・・・・ムウマージが口を離した時、グラエナの瞳は見開き、苦痛に満ちた表情を浮かべていた。
ムウマージは部屋にあったベッドのシーツで、ナイフに付いた血糊をふき取ると、
まるでローブのような自分の体でナイフを隠し、足音を立てずに部屋からそっとでていく。
「おや、お帰りですかい?」
「ええ・・・結構いい口付けでしたわ・・・」
年老いたアリゲイツにムウマージはそう言うと、宿屋を後にする。
大通りを横切り裏道に入ると、ムウマージは隠していたナイフを排水溝の僅かな隙間に入れ中に落とす
顔をあげてその場を立ち去ろうとした時、彼女の目の前に黒いフードをかぶり、体も黒い布切れを纏った不思議な者に出会う。
「貴方、見るからに怪しそうね・・・まあ、どうでもいいけどね」
ムウマージがその場を去ろうとすると、黒い布切れを纏った者はその進行を妨害するようにムウマージの前に出る。
「・・・・・・私に何か用かしら?」
「ええ・・・貴方に御用があります・・・いえ、むしろ貴方の亡骸に用があると言ったほうが正しいですね」
その刹那、黒い布切れが宙を舞い、布切れの下からエーフィが電光石火でムウマージに突進してくる。
「くっ・・・命を狙われる理由が分らないわね!?」
ひらりと身をかわし、攻撃をやりすごすムウマージ、顔はニヤケテいるが臨戦態勢に入っている。
「亡者に語る術はなし・・・漆黒の闇に抱かれ露と消えよ」
再度、エーフィが電光石火を使い距離を縮める。そのエーフィの後ろからは石や紙くず等、地面に転がっていた物が時間差で追いかけてくる。
「サイコキネシス・・・やっかいね、ここは逃げるのが得策かしら」
ムウマージは手のひらに小さな黒い球体を作ると、エーフィめがけてそれを投げつける
しかし、エーフィはムウマージの作り出したシャドウボールをいとも簡単にかわすと、ムウマージの首筋にナイフを突きつける 
「チェックメイト・・・貴方、死んだわよ?」
ムウマージにはどうする事もできなかった、体は完全に硬直し、喉が酷いほど渇き、心臓の鼓動は酷いほど早かった。
「うふふ・・・どうする?このまま死んじゃう?」
「し、死にたいわけなんて・・・な、ない、ないじゃない・・・」
「クス・・・安心して、貴方を殺す気なんてないわ・・・ただ、頼みたい事があるの」
そう言うとエーフィはナイフを腰につけていた鞘に戻す。それと同時にムウマージの体から力が抜けその場に『へなへな』と座り込む
「貴方にお願いしたい事はたった一つ・・・エクトルの南、港町ホプリに私の妹がいるの・・・その妹の面倒を見てもらえないかしら?」
「そ、それだけ?」
ムウマージの質問にエーフィは「クス・・」と微笑むとまるで神風のようにその場から消える。
残されたムウマージは、瞳を白黒させながらその場に座り込んでいた。
やがてムウマージは立ち上がると、急ぎ足でその場から逃げ去る。
その途中ムウマージはあのエーフィの事をずっと考えていた。電光石火の速度、フェイントに使ったサイコキネシス
そして、一瞬で正確に首筋めがけてナイフで詰め寄った事。
そのような事が出来るのは熟練の暗殺者・・・そう、少なくとも子供の頃から殺しの術を叩き込まれてきた自分よりあのエーフィは
数倍強かった。しかし、彼女の知る限り、エーフィの暗殺者は聞いたこともなければ見たこともなかった。
軽く舌打を打った彼女は、日の光が消え月明かりが支配する下の中、漆黒の衣を纏い黒い風となり街の中を疾走していた。
目指す場所は町外れの焚き木、そこに自分の仲間が待っているからだ。
「遅かったな」
焚き火についた時、まず最初に耳に入ったのはその言葉だった。
自分の向かい側にいるヘルガーが、タバコを咥えながら石の上に腰掛けていた。
その隣にはザングースとレントラーが、石に腰掛焚き火に木の枝などを放り投げていた。
「なにかあったのか?」
何時もと様子の違うムウマージの気配を感じ取ったヘルガーが口を開く。
「ええ・・・ちょっと、厄介な事かも知れないけど・・・やたら強いエーフィに殺されかけたわ」
「ふうん、君を殺しかけるなんて凄いなぁ・・・僕も戦ってそのエーフィをきりぎざみたいなぁ」
ザングースが口に手をあてくすくすと小さな笑い声をあげる。その後ろではレントラーが心配そうにムウマージを見つめていた。
「エーフィか・・・ギルドの方に連絡を入れておこう・・・俺達が休暇から戻る頃には調べが付くだろうよ」
ヘルガーはそう言うと、ムウマージめがけて金貨のぎっしり詰まった布袋を投げる。
その布袋を受け取ったムウマージは、エーフィの言っていたホプリという港町を思い浮かべる。
漁業が盛んな町だが、大都市との交流があるため、とても栄えている町だった。昔はホプリという名前ではなく違った名前だったが
かなり昔の事のため、書物程度にしか名前は記されていない。
「それじゃあいくか、シルク、クロード、スロコ」
ヘルガーが腰をあげると、シルクと呼ばれたムウマージと、クロードと呼ばれたレントラーがゆっくりと立ち上がる
しかし、スロコと呼ばれたザングースは立ち上がらない。
「僕はいいよ、もっといろんな奴を倒したいからね・・・出来ればシルクを殺しかけたエーフィを仕留めたいな」
またもくすくすと小さな笑い声をあげると、スロコは大きな伸びをし、ヘルガー達に無言で手を振りその場を去る
「餓えてるな・・・」
クロードが一言漏らすと、シルクは肩をすくめ、首を左右に振る。
「オルガ、私ね・・・実はそのエーフィに頼まれ事をされてるの・・・ホプリの港町に妹がいるから面倒を見てって」
オルガと呼ばれたヘルガーは、「ふうむ」と顎に手をあて考えると、すぐに
「それじゃあホプリの港町に行くか」とシルクとクロードに言うのであった。
「でも、いいの?私が不甲斐ないばかりに・・・こんな事・・・」
シルクはうつむき、申し訳なさそうな表情を浮かべ、オルガの顔を上目遣いで見つめる。
「心配するな・・・それぐらいどうと言う事はない、いざとなればその妹を殺してやればいいことだ」
「それは可哀想だろ」
オルガの仰天発言に、クロードはすぐに反論し、彼の肩を二三度叩き、考え直すようにと言う。
「馬鹿だなぁ・・・本気になるなよ、そのエーフィには、そうでもしないといけない理由があったんだろ
それなら恩を売って逆に利用してやるのが一番だろうが」
「う・・・うぅむ、まあそれはそうだが・・・」
クロードは、オルガのもっともな発言に押され口を閉ざし、シルクを見つめる。
シルクは、まだ申し訳なさそうな顔をしていたが、オルガがホプリに行くと言ったため内心安心していた。
「それじゃあ、港町ホプリに向けてのんびりと行くとするか~」
オルガの後に続き、シルクとクロードが「お~!」と子供の遠足のような掛け声を上げホプリへと続く
街道を進んでいくのであった・・・。それはジルド達が出発してから約22時間後の事であった。 


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