ポケモン小説wiki
音に含まれし思い の変更点


 作者:[[想夏]]

気分転換に新作を投稿することにしました。
これからも温かく見守ってくだされば幸いです。
投稿4/15
更新7/5

#contents

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*第一章 [#p0786358]


「これで今日の分の食料は採れたね。ピッチ」
 ここは山の中。木の実が採れるし、澄んだ小川が流れていて、ボクたちポケモンには住みやすい地形なんだ。ニンゲンが住んでいる町よりも静かだけど、いろんな命の営みの音があって暖かい場所。ボクはここでピクシーのピッチと助け合いながら住んでいる。一緒の住処には住んでないけどね。
「そうだな。お疲れさん、グラス」
 ピッチは一緒にいて飽きない。毎日の生活には退屈しないんだ。
「それにしても……まだ進化の兆候は無いのか? もうそろそろ進化してもよさそうなんだけどな」
「知らないよ。ボクの方が知りたいよ」
「ま、その間は俺が護ってやるからさ。安心しな、グラス」
「うるさい! ピッチに護られるほど、ボクは弱くないよ」
「くっくっく、そうやっていちいち反抗してるうちはまだまだだな。相変わらず可愛いよ、お前」
「可愛いっていうな!」
 ボクの事をいつもお子様呼ばわりするんだ。いい加減にして欲しいよ。あぁーあ、早くメガニウムにならないかなぁ……。確かに戦闘では、いつもピッチの足手まといになってるのは事実なんだよなぁ。
「ねぇ、どうやったら強くなれるかな」
「うーん、そうだなぁ……。おっ」
 えっ? 何かコツがあるの?
「町で綺麗なものが落ちる音が聞こえた。ちょっと行ってくる」
 ……またか。
 ピッチには変わった癖みたいなのがあるんだ。野生のポケモンなのにお金が大好きで、その音が聞こえると一目散に走っていく所。町は遠いのに、なりふりかまわず行くもんだから、戻ってくるのに何時間もかかるんだ。ニャースじゃないんだから、その癖勘弁して欲しいよ。ピクシーは人間にとって珍しいポケモンだって分かってるのかなぁ。……まぁ、強いから簡単には捕まらないと思うけどね。
 ピッチが遊びに行っている間、何してようかな。たまには一人で技の特訓でもしようかな。

「ふぅ、ちょっと休憩」
 ここはピッチが見つけてくれた練習にぴったりな空間。木にぶら下がった木の実を的に出来たり、体当たりに丁度いい切り株があるんだ。
 さっきまで、最近覚えたマジカルリーフの練習をしていたんだ。この技は、放った後も自分の意思で葉っぱを操る事が出来るから、はっぱカッターよりも相手に当たる。でも、覚えたばかりだから、まだ使いこなせてないけどね。とりあえず日々の練習だね。うん。頑張ってピッチを追い越してやるぞ。そして、ボクはこれからの事に意気込みながら、木の葉と風が奏でる音を聞いた。
 これがボクの日課なんだ。練習の後に聞くと、心が安らいでいく。
 でも、今日は少し違った。それの他にいつもは耳にしない音が聞こえたんだ。誰かが近くで歌っている声のように聞こえるけど……。
 ボクはちょっとした好奇心で聞こえてくる音の方へ行ってみた。
 やっぱり誰かが歌っているみたいだ。近づくにつれ明瞭になってくるその声は、落ち着いたアルトで心に染み渡るような感じだった。その歌に込められているものはどこか寂しくて、悲しくて……。
 こんな歌、今までで初めて聞いた。一体誰が歌っているんだろう。ボクは木に隠れながら、その姿を確かめてみた。
 そこにいたのは――ボクと同じ四足歩行のポケモンだった。
 そういうポケモンがいるって聞いた事はあったけど、この山で見かけた事がなかった。確か、昨日までそのポケモンがこの地に訪れたという事も聞いたことがない。
 白と紺のコントラストが綺麗で、惹きつけられるような容姿。でも、頭には不釣合いな大きな鎌。綺麗で怖い、しっかりしていて儚い、どこか温かみがあって……でもどこか冷たい。
 正と負が混ざった印象で、不思議さが漂う雌のアブソルというポケモンだった。
 ボクは彼女の歌を終わるまでずっと聴き続けていた。こんな歌を聴くことも、誰かに対してこんな矛盾したような印象を持つのも初めてだった。
 歌い終わると、すぐに彼女はどこかへ行ってしまった。ボクは彼女が立ち去った後も、先ほどまで見ていたものがあまりにも衝撃的すぎてその場に呆然と立ち尽くしていた。
「お、こんな所にいた。おーい、グラスー」
 ピッチの声を聞かなかったら、まだ動く事も出来なかったと思う。
「あ、お帰りー。今そっちに行くよ」
 ボクはピッチの声がした方へ走った。また彼女の歌、聴きたいな。もっと彼女の事、知りたいな。そんな気持ちを抱えながら。
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 あれから毎日、彼女はその場所で歌を歌っていた。彼女はいつも一人で来ていた。ここに新しく来たのか、一人で暮らしたいのか、一人でいる理由はボクには分からなかった。
 ボクはずっと木に隠れてその歌を聴いている。最近はこれが日課となっているんだ。
 話しかけてみたいけど、どうやって話しかけてみればいいかわからないし、歌を最後まで聞きたいから途中で彼女の前に現れたくない。かといって、終わったら……と思っていても、彼女は歌い終わるとすぐにどこかへ走り去ってしまう。彼女の事が知りたくても、きっかけが掴めなくて、ボクは途方にくれてしまった。
 今日もボクは彼女に話しかけるチャンスを窺いながら、彼女の歌を聴いていた。……相変わらず綺麗な声だった。このまま聴いているだけでいいかもしれない。それだけでボクは幸せだ。って思い始めていた。
 でも……この毎日が変わる事になったんだ。それは本当に突然の出来事だった。途中で彼女は歌うのを中断した。……どうしたんだろう?
「そこにいるのは一体誰なの」
 彼女は歌っている時の姿勢のまま、でも歌の時の声とは違った、強い口調で誰かに対して言った。
 ボクの事を言ってるのかな?
「前からそこにいる事は分かってたの。そのまましらばっくれるって言うなら、あなたのいる場所にかまいたちをお見舞いするわよ」
今度はボクのほうを見ながらはっきりと。
 かまいたちはやられたくないので、ボクはすぐに彼女の元へ行く。
「ごめんね。邪魔しようと思ってたわけじゃないんだけど」
「でしょうね。そしたらもうとっくに私の前に現れていてもおかしくないもの」
「え? いつから分かってたの?」
 ボクの事なんてぜんぜん分かってないと思ってたのに。
「最初っからよ。いつもその場所で聴いていたわよね」
「な、なんで分かったの?」
「あなたの香りよ。その蕾から漂ってくる匂い」
 あ……、匂いを制御し忘れてたんだ。
「あなたよほど馬鹿みたいね。その香りの件もそうだけど、見ず知らずのポケモンの歌をずっと毎日聴いているなんて、私がほろびのうたを歌ってたらどうするつもりよ? あなたこの世から消えていたわよ」
 何もいえなかった。アブソルがほろびのうたを覚えることなんて知らなかった。
「でも、歌わなかったね。ありがとう」
「別にあなたの為に歌わなかったんじゃないわよ。ただ、見ず知らずの人をすぐに殺したくなかっただけ。……で、どうして私の歌をずっと聴いていたの?」
 聴いていたの? っていわれてもなぁ……うーん、なんでだろ。
「声が綺麗だったからずっと聴いていたかったって感じかなぁ。……うーん、なんなんだろ?」
「ちょ、ちょっと何そんな事さらりと言ってるの? 恥ずかしくないの?」
 え? 今思っていた事、声に出てたの?
「い、今ボクなんて言ってたの?」
「声が綺麗だからって言ってたわよ。……自分が言った事ぐらい覚えていなさいよ」
「え? ボ、ボクそんな事言ったの?」
「言ったわよ。ちゃーんと」
 うわぁ、恥ずかしい。失敗ばかりだな。……ボクは自分でも分かるくらいに顔を真っ赤にした。
「ま、悪意が無いって事は分かったわ。今まで聞いてくれてありがとうね。声が綺麗って言ってくれて……嬉しかったわよ。さようなら」
「えっ、もうちょっと話を」
「駄目よ」
 突然顔を険しくする彼女。その表情はどこか歌っているときの、あの寂しそうな声と一致していた。
「これ以上私と関わらないで欲しいの。あなたとはもうこれっきり。楽しかったわ。」
 そういって彼女はどこかへ行ってしまった……。
 ……彼女のあの寂しそうな表情や声に含まれていたものは何だったんだろう。
 そうして、ボクは彼女の名前を聞く事も出来ず、ただその場に立ち尽くしていた。
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「ふあぁ」
 朝がやってきた。一晩中ボクは彼女が何故あんな事を言ったのかを考えてた。
 でも、やっぱり分からなかった。いきなり私と関わらないでって何で? まだほんの二言、三言ぐらいしか言葉を交わしてないのに……。ボクが嫌い……なのかな? うーん、ありえそう。でも、ちょっと違うような気もする。実は彼女は意味も無いのに生きているものを殺す殺人鬼? それだったらすでにボクはほろびのうたであの世の仲間入りしてたよなぁ。
 いろいろな事をどう考えてもそれは予想でしかなくて、彼女の言った本当の意味は分からない。まだ彼女の事を何も知らないし……。とりあえず、ボクは今日もあの場所に行って彼女に会いに行くことにした。
 ……ボクは彼女が言ったもうひとつの事を忘れていた。『あなたとはもうこれっきり。楽しかったわ。ありがとう』と言われていた事を。その言葉の通り、彼女は今日は来なかった……。もちろんあの悲しげな歌も聞こえてこない。
 何でだろう。どうしてだか訳が分からない。
 それからもずっと待ってみたが、彼女は一週間経っても来なかった。もう会えないのだ。諦めるしかない。そう思うしかなかった。
「おっ、いたいた。最近よくここにいるなぁ」
「……ピッチ」
「ん? どうした? 童顔がそんな顔してても木の実をねだってるようにしか見えないぞ」
「そんなこと思ってない! ……はぁ」
「どうした? 何かあったのか?」
「別に何も」
 ピッチに言った所で何かが変わるわけが無い。また馬鹿にされるだけだろうし。
「ここで歌ってたアブソルの事か?」
「何でそれを!」
 ピッチは彼女に会った事が無いはずなのに。
「くっく、俺の能力を忘れていやしませんか、っと。くくく」
「あ……」
 そうだ、ピッチの耳は一キロ先でおちた針の音も聞き分けるほど耳がいい。彼女の歌が聞こえていても不思議じゃない。
「まさかお前が会っていたとはなぁ。通りでいつも聞いてる木のさざめきの音そっちのけでここへ来ていたわけだ。……で、何があったんだ? 詳しく話してみろよ」
 ボクは彼女に会った時の事を話してみた。話し始めてすぐに言われた事も、もう一度彼女の歌を聴きたいことも。
「それは……彼女に事情があるだけじゃないのか?」
「事情?」
「あぁ、確かにストーカー紛いの事はやっていたけど、その疑いは一応晴れたわけだろ? だったら彼女自身のほうに理由があったのかもしれない」
ス、ストーカーって……ボクのやってた事はストーカーなのかな?
「その理由が何なのかは俺にも分からない。お前が関わらない方がいいことかもしれない。それでもお前は彼女の事、知りたいのか?」
 関わらない方がいい事か……でも、ボクは彼女についてもっと知りたい。あのあまりにも悲しい歌にこめられたのは何なのかが知りたいんだ。できれば悲しげな歌だけじゃなく、彼女の明るい歌も聞いてみたい。
「うん。彼女についてもっと知りたい」
「そうか。ならちょっと待ってろ。……お前の初恋、実らせたいしなぁ」
「は、初恋!?」
 ぼ、ボクは彼女に対してそんな気持ちは全然。ただ、彼女を知りたいだけで。
「だってよぉ、彼女を知りたいと思っているって事はそういうことだぞ? 始めは誰だって知りたいと思う気持ちから始まる。そういうもんだろ?」
「そ、そうかなぁ? ……ってなんでボクの思ってた事、ピッチは分かるのさ」
「あ、やっぱりそう思ってたか。長年お前と一緒にいたからなぁ。単純で可愛いお前の事ならなんでも分かるってもんさ」
「だ・か・ら、可愛いっていうなぁ!」
「あぁ、煩い。後もう少しで彼女の位置が分かりそうなんだから静かにしとけ」
 彼女の居場所?
「あ、分かったぞ。山の頂上の方らしい。もちろん行ってみるよな?」
 あ、今まで音で彼女の居場所を探ってたのか。……その能力、便利だなぁ。
「えっ、今から? それにわざわざ行かなくても待ってれば」
「お前やっぱりまだまだ子供だなぁ。いいか、もし彼女の温かみを知りたいとする。そのためにまずは彼女に触れなきゃいけない。彼女に触れるためには近づく事が必要だ。想像で考えている事も実際に体験しなきゃ分からないだろ? 声を聞く事だって同じだ。だから、まずは彼女の元へ行ってみることが先決なんだって」
 理にかなっているようでいないような……。とりあえず、行ってみたほうが彼女の事、分かるのかな?
「ありがとう。行ってみるよ」
「おぅ。……ストーカーに間違われないように気をつけろよー」
 た、確かに……でもどうやって証明すればいいの? もうほとんどストーカーと同じ事やっていると思うのはボクだけ?
 ピッチに見送られながら、ボクはその場所に向かった。
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 ……ピッチが言うには確かここら辺だったはず。でも、ボクにはまだ彼女の声が聞こえてこない。こんな時、ピッチの耳があったらなといつも思う。
 とりあえず近くを探す事にした。たまにボクの匂いを嗅いで、われを忘れて襲ってくるポケモンもいたけど、はっぱカッター蹴散らしながら、彼女を探す。
 ボクの匂いに誘われただけなのに傷つけてごめんね。今は匂いも抑える事も出来ないほど君たちに構ってる余裕が無いんだ。今はただ彼女に会ってみたいんだ。
 大分探して少し息切れをし始めた頃、やっと彼女の声を捉えることが出来た。もっとはっきりと彼女の声を聞きに近づいてみると。
「つれないなぁ。別に俺と一つになってくれてもいいだろぅ? 君となんか、俺みたいに対等に向き合ってくれる奴、いねぇぜぇ」
 どこか下卑た笑いをするヘルガーが一緒にいた。……そんなこと言ってる事こそ対等に向き合ってないじゃないか。
「邪魔よ。私と対等に付き合ってくれる存在は同族のアブソルぐらいしかいない事は重々承知の上よ。でもおあいにく様。だからってあなたと付き合う気はないわ」
「ほぅ、性交の悦びも知らないで一生を終えるつもりかぁ。つまらない人生じゃないかぁ」
「ほっといてよ。あなたに何が分かるっていうの? どいて」
 まだ少し状況が飲み込めていないけど、とりあえずヘルガーが悪いのと、アブソルが困ってる事は分かった。でも、どうやって助けよう?
「くぁはっはっは。どいてっていわれてどく奴がいるか! ……俺が今からお前に悦びを教えてやるんだ。感謝しろよ?」
 そういってヘルガーは彼女を押し倒す。
「い、いや。やめて」
「誰がここでやめるってぇ? お前を助けようなんて思う奴もいない。まっ、せいぜい俺にやられるのを喘ぎながら楽しむしかないんじゃないか?」
 ……彼女は本当に悲しそうなのになんでそんな事をやれるんだろう? これをみている他のポケモンたちは何を?
 周りを見てみると、見てみぬ振りをしているポケモンたちが多かった。この状況を見て楽しんでいるのさえいる。
「いやぁぁぁあ」
 叫んだ後、彼女は気絶をしてしまった。
 もう黙っていられなかった。この理不尽な状況に耐えられない。なにより……彼女の悲痛な叫びを聞くのも嫌だ! タイプの相性が悪くても、あのヘルガーに少しでも多くダメージを与えてやる。
 ボクは深呼吸した後、ヘルガーと彼女に近づいた。気配に気づいてもおかしくないのに、ヘルガーはボクの方に見向きもしない。……ボクの事、弱すぎて眼中に無いって判断したのかもしれない。舐めるなよ。ボクだって毎日特訓して少しは強くなってるつもりだ。
ボクは蔓の鞭を使いながら、ヘルガーを彼女から引き剥がすように体当たりをした後、のしかかりをした。……今までで一番うまく決まったかもしれない。
「ぐぉ、お、お前は誰だ?」
「何で名乗んなきゃいけないの? ……ボクは彼女の嫌がる顔を見たくなかっただけのただのベイリーフだよ」
「彼女? このアブソルの事か?」
 そうして、ヘルガーはボクを嘲笑する。
「だったらなんなんだよ」
 ここまでボクは誰かに対して怒った事は全くないと思う。ヘルガーの一挙一動全てに対して腹が立ってきた。ボクは覚えたてのマジカルリーフをそのまま至近距離でくらわし、蔓の鞭で顔をおもいっきり殴り飛ばした。もちろん反撃されないように、ヘルガーの口と尻尾をそれぞれ前と後ろの脚で抑えつけながら。
「ぐっ! ぐがぐぅぅう」
「これでもう彼女を酷い目にあわせようなんて思わないよね?」
 ヘルガーが頭を下の方へ力を入れているのを脚で感じ、頷く動作をしようとしているのを認めてボクは手を放す。
「あ、あぁ。思わない思わない。だから勘弁してくれ。……だけどいいのか? こいつはアブソルだぞ?」
 ……それになんの意味があるんだろう?
「アブソルってのはそいつの側にいるだけで災いが起きるって話を知らねぇのか? 通りでこんな事したわけだ。……だからこ」
「ただの迷信でしょ? ずっとボクは彼女の歌を聞いてたけど、災いは何も起こらなかったよ。それにしても……これが同じポケモンに対してやる事? これからは二度と彼女の前に現れないで」
 ボクはヘルガーの話を遮り、マジカルリーフをしながら脅しをかけた。こいつを見てると殴りたくなるけど、その衝動をなんとか抑えつける。
「い、いわれなくても。くそっ、まだあいつの純潔奪ってないのに!」
 そうしてヘルガーはどこかへ走り去っていった。
 ……あのヘルガー、最低だな。他のヘルガーよりもかなり弱いし、言う事やる事全て酷いし。それにしても、今回はヘルガーに対してやりすぎたかな。またピッチにそんなこと言うと、お前は優しすぎるんだよ。って言われそうだけど。
 やっぱりただ殴るって言う行為、ボクは苦手だ。
「うぅ……」
 あ、彼女が起きた。
「大丈夫? 怪我はない?」
 誰が見ても判るくらいに、彼女は衰弱していた。ヘルガーが絡んでくる前に、どこかでもう一戦していたのかもしれない。
「何とか……ね。それよりも何であのときのベイリーフがここにいるのかしら?」
 え? ……あぁ! あの出来事に意識を集中しすぎていたせいで、その言い訳をまだ何も考えてなかった。
 ただ気分転換に散歩してたら……今とっさに考え付きましたって感じの言い訳にしか聞こえないよなぁ。君の声が聞こえて……ってピッチじゃないし、何よりも変態さんみたいだし。あなたに会いたくて……これも変。というかどんどんストーカーみたいな考え方になってるよ。
「私に会いたかったのかしら?」
「うん! ……あ、いや、そうじゃなくて」
 ……最悪だ。変ないいわけだと思っていたのに。
「ふぅん……いろいろあなたに聞きたいことがあるけど、まぁいいわ。別に誰かに助けてなんていったつもりはないけど……君のおかげで助かったわ。ありがと」
 ボクの方へは顔を向けず、空の方を見上げながら感謝の言葉を彼女は言ってくれた。
「えっ、いや別に」
「それで……どうしてまた君が私に関わりたいと思ったのかしら? あれほど関わるなって言ったのに」
「え? いや……どうして関わっちゃいけないの? それが聞きたくて」
 ボクがそういうと彼女はかわいた声で、くすくすと笑った。そして、すぐにその笑いは収まり、あの悲しみに満ち溢れた表情になった。
「さっきのヘルガーを見たでしょ? 私は他の生物には忌み嫌われる存在なの。私は災いを知らせる存在。けれどもそれのせいで私が災いを呼び起こす元凶と他の生物には見られてるの。一部では私の種族をちゃんと分かってくれる者もいるけれども……多数はあんなのばっかり。誰も私を同じ生物だとは見てくれないの」
 そんなの……悲しすぎるよ。
「でも、ボクは……」
「えぇ、分かってるわ。あなたを見ている限りそんなことはなさそうね。……でもいいの? 私の存在が側にいるだけで君に不幸が訪れるかもしれないのよ? 君も一緒にあのヘルガーみたいな奴にやられるかもしれないのよ?」
「かまうもんか! あのヘルガーがまた来ても追い払ってやる」
 あまりにもかわいそうだよ。彼女はいいことをしていただけなのにひどい存在だって言われるなんて。
 彼女はボクの言葉を聞き、少し表情が和らいできた。良かった。
「ふふふ、君となら上手く付き合っていけそうね。……ケールよ」
 ケール? 何の言葉なんだろう?
「えっと……」
 ボクが戸惑ってるのを見て、彼女は怒ったような、あきれているような表情をした。
「私の名前よ。何だと思っていたのよ」
「えっ、あ、あぁ! ごめんごめん。よろしくね、ケール」
「普通相手が名乗ったら、自分も名乗らない?」
「え、あ、あの」
 な、なんかあまり関わった事のない性格だな。ちょっと調子が狂うや。
「ボクの名前はグラス」
「グラスね。これからよろしくね」
「え、えっとケールっていい名前だね」
「言うタイミング遅いわよ。それに名前の意味分かっていってるの?」
「えっ、あっと、あぅ」
「もぅ、むやみにそんな言葉いっても駄目じゃない。ちゃんと分かってから言いなさいよ」
「ご、ごめんなさい」
「あ、謝らなくてもいいわよ。私の名前の由来は階段や音階という意味のscaleって言葉からつけられたの。私の親からつけられたとても自慢の名前よ」
 少し彼女は慌てながらそういった。本当にいい名前だな。
「そうなんだ。ボクは」
「草、でしょ。そのままの意味だから分かるわよ。いい名前ね」
「ちょっと! それどういう意味だよ」
「えっ?」
「いい名前ねって何か馬鹿にされてる気がする」
「あ、そういう意味で言ったわけじゃないわよ。ごめんなさい」
「えっと、まぁいいけど」
「ふふ、これからよろしくねケール」
「うん、よろしく」
 ケールはちょっと不思議な感じだけど、これからの生活は不幸にはならないで、楽しくなるような気がした。

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 あの出来事から数日、ボクはケールといろんな話を交えることが出来るようになっていった。まぁ、まだほんの少しずつだけど……。
 そして、分かった事が1つあった。彼女はボクなんかよりもとても強い事。あの日はたまたま技を使えるほどの気力が無かった事。ボクが彼女に頼んで、訓練に付き合ってもらったんだけど……、全く歯が立たなかったんだ。どうしてそこまで彼女が気力がなくなっていたのかは分からない。聞いても「いろいろあったのよ」って教えてくれない。少しずつ彼女の事が分かっていくと、どんどん彼女が分からなくなっていく。
 今日も彼女に訓練に付き合ってもらう事にした。
「よろしく!」
「貴方もこりないわね。私に負けるなんて惨めじゃないの?」
「なんで?」
「何でって……。あ、そうそう。いつも貴方の言うこと聞いてあげてるんだから、このあと貴方に私のして欲しい事をしてもらってもいいわよね?」
「何をすればいいの?」
「何をって……うーん、その時になったら言うわ」
「分かった」
 そして戦闘体制に入ろうとしたら、
「お、何か楽しい事しようとしてるじゃん。何やるつもりなんだ?」
 ピッチがいきなり現れた。いつもは練習場所にあんまり来ないのに……。
「誰なの?」
 そのケールの言葉に、ピッチはがっかりした様子で、
「グラスぅ、俺のこと紹介してなかったのかよー。彼女があの場所にいるのを教えたのは俺だよ? こ、の、俺」
 ボクが教えていなかった事に、余程不服だったみたい。『この俺』と強調されながらボクに対して不満を言う。
「いや、言うタイミングがなかったから……。じゃあケール、紹介するね。このピクシーの名前はピッチ。かなり変人に見えるけど、ボクの親友。いい人だから、安心して大丈夫だよ。ケールの居場所が分かったのも、ピッチのお陰なんだ」
「そういうこと。ケールって呼んでいいよね? よろしくな」
 ケールはピッチに戸惑いながら、
「え、えっと……よろしくね」
と、ケールが言うと、ピッチは手でケールの鎌を握り、二足歩行のポケモン同士で交わす、握手のような事をした。
 ピッチも加わったので、今日は訓練はせず、3人で談話をした。途中で、ピッチがケールの歌を間近で聴きたいというリクエストで、ケールが歌ったりしながら。
 ケールの歌には、まだあの悲しさや寂しさが込められていた。……むしろ、今のほうが大きいかもしれない。ケールと話していても、ふっとそういう表情が現れる事もある。彼女の第一印象の矛盾も、ボクの心の中で存在していた。ケールを少しずつ知る事が出来ても、まだ全然分からってないんだなと痛感する。
 でも、時折笑っている表情は確かに本物で、心の底から楽しんでいる事は分かる。今だって、ピッチの冗談に笑っている。
 そうして、3人で一緒に過ごす時間が増えていった。

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とりあえずここまでです。もちろんまだまだ続きます。
キャラの魅力を上手く引き出せるようにしたいです。

かなり更新が遅いのに、更新がほんの少しです。すいません。
前の文章も少し修正をしましたが……本当にまだまだ拙すぎますね。
地の文をもっと上手くかけるように頑張りたいと思います。
------------
感想、批評等はこちらにお願いします。
どんなものでもいただけたら嬉しいです。

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