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熱いハートと気弱な彼女 の変更点


「…はあ」
 気の落ちた溜め息が聞こえた。
 さんさんと降り注ぐ日光。森に吹く風でそよめく木の葉。爽やかな陽気とは裏腹に、暗い雰囲気が漂う場所があった。
 この島を分断するように流れる川。山から始まり、森を通って海に穏やかに流れる青い水は、まるで濾過したかのように澄んでいた。鏡面にさえ見えそうなその水面を、冴えない表情で覗き込む1体のポケモンがいた。
 全体的には、キノコ。拗ねたような目とふてくされたような口がついた茎の部分は白く、足の無い下部は直接地に付いていて茶色い。大きな特徴は、頭の上と腕の先についた笠がモンスターボールのような模様をしていること。そんなポケモン、モロバレル。
「…はあ」モロバレルはまた溜め息をついた。
 流れる水を、川を、ただ見つめ続けるモロバレル。その視線の先にあるのは、川であって川でないようだ。草ポケモンの喜ぶ快晴の日だというのに、光合成もせずに木陰で佇んでいる。
 モロバレルはひたすらに川面を見ていた。映るのは自分の顔。時折まばたきをしながら、暗い表情で自分を見つめ返していた。
 自然の音だけが響くこの空間にて。突然、水が跳ねた。
 否、実際は跳ねていなかった。モロバレルが、跳ねたように感じたのだ。川を見続けていたら、突如水が顔にかかったのだ。
「きゃっ!」モロバレルは小さく悲鳴をあげた。
 勢いよくかかった水をそのまま受け止め、びしょ濡れになるモロバレル。水がかかってきた方向を見ると、そこには1体のポケモンがいた。
「こんな晴れた日に、何シケたツラしてんだよ!」乱暴な口調で彼は言った。
  ◇
「くっそが…」
 機嫌の悪そうな声が聞こえた。
 ぎらぎらと降り注ぐ太陽。海流で揺らめく海藻。のんびりとした陽気とは裏腹に、気まずい雰囲気の漂う場所があった。
 島を包み込むように囲む海。川から流れ出、海に広がるその水は、まるで宝石のように輝いていた。眩しくさえあるその水面を、不機嫌そうに泳ぐ1体のポケモンがいた。
 全体的には、ハートマークを横倒しにしたようなポケモン。先端が口になっていて、両面に小さな黒い目が付いている。そんなポケモン、ラブカス。
「畜生…」ラブカスはまた、けなす言葉を吐いた。
 流れるその海流を、ただ泳ぎ続けるラブカス。彼が見ているのは、前方であって前方でないようだった。水ポケモンの喜ぶ静かな海流の日だというのに、それに乗りもせずに泳ぎ続けている。
 ラブカスはひたすら泳いでいた。何か目的があるようでもなくすいすいと泳ぎ続ける。やがて河口に進入し、川を遡り始めた。
 木の葉を通して差す日光には目もくれず、川を泳ぎ進むラブカス。顔を歪めていらいらとしているラブカスの視界に、暗い空間が飛び込んできた。
「ん?」
 その空間には、1体のモロバレルがいた。どんよりとした表情で川を覗き込んでいた。
「何だよ、あいつ…」
 ラブカスはいらついていた。目の前の光景が癪に障った。ただ、目の前でどんよりしているモロバレルに腹が立った。それだけだった。
 なぜ腹が立ったのかは分からない。自分がいらいらしていることに対しての八つ当たりだったのか。そんなことを考えることも無く、ラブカスは狙いを定め、口から水を噴射した。水はモロバレルに命中する。
「きゃっ!」小さな悲鳴。
 ラブカスは体を水面に出し、大声で言った。
「こんな晴れた日に、何シケたツラしてんだよ!」

「そんなんじゃせっかくの晴れた日も台無しじゃねーか!」ラブカスは叫んだ。
 モロバレルはきょとんとした表情でラブカスを見ていた。突然目の前に現れた彼に、怒声を浴びせられたことに戸惑っているようだった。
「ご、ごめんなさい」モロバレルはうつむき、謝罪する。
「ちっ…」ラブカスは顔をしかめる「誰も謝れなんて…言ってねえだろ…」
「え?」モロバレルはまたもやきょとんとする。
「いい天気なんだから、暗い顔すんなつってんだ!」ラブカスは語気を強めて言う。
「え、えぇ…」モロバレルは曖昧に答える。
 目の前のラブカスは、ひたすら腹立たしそうにしていた。そんな彼の前で、明るい表情なんてしにくかった。暗い表情のまま、モロバレルはラブカスを見ていた。
「…なんだよ」ラブカスは怪訝そうに言う。
「…いえ。あなたもなんだか辛そうだから…」モロバレルは言う。
「…ああ、そうか」
 ラブカスはモロバレルから目を逸らした。何かやましいことがあるような、何か悩んでいるような。そんな表情だった。ラブカスが黙り込むと、モロバレルも黙り込んだ。何を言うべきか、何をするべきかが分からなくて。気がつけば、先程の暗い空気に戻っていた。
 気まずい空気が漂い、ラブカスははっとする。この空気を晴らしたくてこの場所に現れたはずなのに、自分が来る前より空気が重くなっている。ラブカスの顔は再び険しくなった。
「おい!」ラブカスは叫んだ。
「えっ…!」あまりの大声に、モロバレルは思わず飛び上がる。
「確かに、オレにも暗い部分はあった!それはオレが悪い!けどな、お前にもあっただろ!」ラブカスは聞く。
「えぇ…」モロバレルは短く答える。
「雨だろうと晴れだろうと、暗い空気なんて作るもんじゃねえ!しかもそんな空気が2つもあったらさすがにダメだ!もっと明るくしようぜ!」ラブカスは言い聞かせる。
「ええ…。そうよね…」モロバレルは頷き、微笑を浮かべる。
 ラブカスはにやりと笑った。モロバレルの近くまで泳ぎ、見上げる。
「オレ、アッシュってんだ!お前は!?」ラブカスは自己紹介する。
「わたしは…モニカ」彼女も自身の名前を言う。
「そうか!よろしくな、モニカ!」
「よ、よろしく…アッシュ」

 これが、物語を紡ぐ2体のポケモン――アッシュとモニカの出会いだった。
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&size(25){熱いハートと気弱な彼女};
作者:[[カナヘビ]]

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 目が覚めると、そこはいつもの場所。自分の寝床だった。
 森に数え切れない程ある木。その1つに穴を開け、雨をしのいである程度の生活をできるようにしたモニカの住処。数多くの木にまぎれていて、特に個性など無い。
モニカはいつものように外に出る。足の無い体を跳ねさせて、触れ慣れた土の上に着地する。
『また明日な!』脳裏に蘇る、あの元気のいい声。
 昨日のことは鮮明に覚えていた。突然水をかけられ、勢いのままに自己紹介を受けた。
 しかし、雰囲気が悪かった。アッシュが落ち込んだ雰囲気を晴らそうとしたもののうまくいかず、互いに漂う気まずさ晴らすため、翌日に元気に会うことを約束していた。
「元気に…かぁ」モニカは呟く。
 元気に。それは、明るくということ。彼女は明るくなど振舞ったことがなかった。いったいどうすればいいのか分からず、考えこんでしまう。
 昨日と同じ快晴の陽気。にもかかわらず、やっぱり暗くなってしまう。明るく振舞う方法を考えて、悩んでしまうのだ。
「おはよう、モニカ」誰かが声をかけてきた。
「おはよう…ネイト」モニカは挨拶を返した。
 頭の上に咲く大輪の花。紫の体から出る短い手足に、小さな目と口が可愛らしい。そんなポケモン、ラフレシアだった。
「どうしたのかな?いつもに増して暗い感じだよ?」ネイトが聞く。
「分かるの?」と、モニカ。
「君とは毎日会ってるからね。そういう変化に気付かないほうがおかしいと思うな」ネイトは言う。
 確かに、ネイトとは毎日会っている。偶然なのか、はたまた狙ってなのか、彼はこうしてモニカの前に現れ、会話を交わしている。いつ頃からか、そんな関係になっていた。
「わたしは…いつもと同じだから」モニカは言う。
「そうは見えないんだけどな」ネイトはさらりと言った。
 モニカはネイトから目を逸らした。下を向きつつ、まっすぐ進んでいく。
「また明日、会おうよ」ネイトの声が聞こえた。
 モニカは黙々と進んでいた。周囲の木に目をやることも無く進む。
 いつもこうだった。毎日のようにネイトは朝話しかけてくる。そして、彼女はそれに応じない。嫌いだとか、鬱陶しいとか、そういったマイナスの思考があるわけではない。
 どう接すればいいのか分からなかった。何を話したらいいのか、どう話せばいいのか。こうして突っぱねるたびに罪悪感が湧き、いつの間にか川へと行っている。
 以前は、ネイトではなくて周囲とのコミュニケーションが取れないことに悩んでいた。今は、そういった不特定多数に対する悩みより、ネイトに対する悩みのほうが大きい。それは、いくら突っぱねても彼が毎日来てくれるからなのか。
 そして今、モニカはアッシュと話すことで悩んでいる。強引に付けられた約束とはいえ、あそこまでアタックされたのは初めてだった。恋などすることは無いが、モニカはアッシュともっと話したいと思っていた。ただ、何をどうして接すればいいのか。
 考えながら、モニカは川へと向かっていた。

 目が覚めると、そこはいつもの場所。自分の寝床だった。
 海底に数えきれない程ある海藻。その林の一角に寝床を構えただけのアッシュの住処。
 アッシュは林から体を出した。周囲にあるのは、いつもの海の光景。アッシュはゆっくりと泳ぎ始めた。
「…まいったな」アッシュは顔をしかめて言った。
 昨日のことは鮮明に覚えていた。いらいらしていたからといって突然水をかけ、強引に会う約束をしてしまった。相手は言われるがままに頷いていたが、普通なら憤慨する。
「なんであんなこと言っちまったんだ…」アッシュは呟く。
 あの時は何も考えていなかった。勢いのままに話を進めて、自分でも気がつかないうちに話をつけてしまっていた。
 そもそも。
「なんなんだ、あのキャラは。まるで熱血系じゃねえか」アッシュは自虐する。
 アッシュは島から離れた沖のほう、大陸棚へと向かっていた。小さな凹凸以外岩1つない平坦な海底は、まるでまな板のようだった。アッシュはまな板を見たことがなかったが、海の上を飛び回るペリッパーがそう形容していたのを聞いたことがあった。
 目的地は非常に分かりやすかった。大陸棚はかなりの広さがあるわけだが、そこに行くのはアッシュだけではない。大きな体を持った、目印になるようなポケモンがいるのだ。
「あら、おはよう、アッシュ」声が大きな振動となってアッシュの元へ届く。
 アッシュの20倍でも足らないほどの巨体を持っていた。体の上下が青と白で、腹には黒いラインが入っている。丸っこい口とつぶらな瞳のポケモン。
 アッシュはしかめた顔のまま、その目元に近づいた。
「ああ、おはよう。ミラ」アッシュは小さな声で返す。
「昨日はごめんなさいね、あなたに臨時を頼んでしまって。海王神様もすこぶる気分を悪くされてて、あなたに当たってしまったのよ。あの方も悪く思っていらしたわ」ミラが謝る。
「別にいいっての。お前も知り合いの番いパーティ楽しんできたか?」アッシュが聞く。
「ええ。あの2体、昔から一緒にいるのに全然結ばれないものだから、やきもきしてたのよ。思い切りからかってやったわ。あなたが変わってくれなかったから、行けなかったと思うわ。ありがとう」ミラが礼を言う。
「礼を言われるほどのことじゃねえ」アッシュは素っ気無く返す。
「そう?キスの1つでもプレゼントしてあげようと思ったんだけど」ミラが笑いを含みながら言う。
「ばっ…」アッシュは言葉を失いながら真っ赤になる。
「冗談よ。あなたと同じくらいの大きさならまだしも、ホエルオーじゃあね」ミラはにっこりと笑う。
「そ、そうかよ」アッシュは焦った様子で答える。
 ミラは、戸惑っている目の前のラブカスを見つめた。アッシュからすればその目も大きくて、何もかもが見透かされそうな錯覚さえした。
「それで、あなたの用は何?」ミラが聞いた。
「えっ…」アッシュが驚く。
「ワタシはあなたと毎日のように会ってるのよ?あなたが何かを相談したいことぐらい、分かるわ。こんな朝に、そんな顔してワタシの元にくるんだもの。分からないほうがおかしいわ」ミラが優しく言った。
「そうか。伊達に海王神の付きをやってるわけじゃねえんだな。相手の心なんて、すぐ見抜いちまう」アッシュは感心して言う。
 アッシュはミラの目を正面から見る。
「…実はよ。海王神と喧嘩した後、島に行ったんだ。なんか目的があったわけじゃねえんだが、気がついたら行っててよ。そこで、暗い顔したモロバレルの雌に会ったんだ」アッシュは話し始める。
「うんうん」ミラは聞き入っている。
「それでよ。あまりにもあいつが暗かったから、思わず水ぶっかけちまって。それで、なんか熱血キャラ演じてしまってよ」アッシュは話す。
「熱血?あなたが?」ミラはアッシュをまじまじと見る。
「るっせぇ!とにかく、互いに自己紹介もしてからまた会う約束をしたんだよ。それで、どう話せばいいのか、分からなくてよ」アッシュは言う。
「へえ。そんなことがあったの。確かに、陸上のポケモンとワタシ達とではあまり話題は合わないわ。あなたはそんなに話すようなタイプじゃないから、確かに悩むかもしれないわね」ミラは言う。
「…ああ。悩んでる」アッシュは不服そうにしながらも頷いた。
「それに、あなたの周りには暗いタイプの子がいないものね。ワタシやギロド、ケレチだって、よく話すもの。あなたが主導権を握って話すなんてこと、ほぼないから仕方ないわ」ミラは優しく言う。
「ああ、そうさ」アッシュはふてくされて言う。
「ふふ」ミラは笑った。「あなたを批判しているわけじゃないわ。ただ、あなたが自分から、他者に対して話したいって言ってるのが嬉しくて。そう拗ねないで」
「…ああ。分かってる」アッシュは言った。
「さて、話し方だけど。とりあえず、けなしちゃったことを謝ればいいと思うわ」ミラは短く言った。
「…それだけか?」アッシュは聞く。
「ええ、それだけ。それだけで、話は膨らんでいくわ。それで、もし相手が何か悩んでるようだったら、それも聞いてあげるの。もしかしたら解決できるかもしれないし、できないかもしれない」ミラは言う。
「おいおい、できないかもしれないって」アッシュは困惑する。
「それはそうよ。断言はできないわ。もし、できなさそうだったら、ワタシに相談して。ね?」ミラはまたにっこりと笑う。
「…ああ。分かった。ありがとな」アッシュは礼を言った。
 アッシュはミラの目からそっと離れた。優しく見守ってくれているミラの目に背を向け、アッシュは島へ向かっていった。
「がんばってね」ミラの声が聞こえた。
 2
「…はあ」
 気の落ちた溜め息が聞こえた。
 モニカは昨日と同じ場所、川辺に来ていた。今日も快晴だというのに、モニカは暗い表情をしていた。
 モニカは川を見渡した。静かに流れる川は今日もきれいだが、アッシュの姿は見えない。
「…まだ来てないみたい」モニカは言った。
 頭の中では、アッシュの声がまだ反芻している。忘れたいと思っているわけではなかったが、印象が強くて頭から離れなかった。
 あの元気のいいラブカスに対して、一体何を話せばいいのか。どう接すればいいのか。考えれば考えるほど、モニカは落ち込んでいく。
「来ないほうがよかったかなぁ」モニカは呟いた。
 アッシュと話すことが嫌なわけではなかった。あれだけ元気に話しかけられて、逆にこちらからも元気にしたいという気持ちもあった。だが、どうすれば元気に接することができるのかが分からなかった。そうして暗い表情で接して相手を不快にさせてしまうなら、いっそ来ないほうがよかったのではないのかと思ってしまうのだ。
 そういうことを考えているうちに、また暗くなってしまう。
「おい!モニカ!」昨日聞いたばかりの元気な声が聞こえた。
 モニカははっとして声の聞こえたほうを見た。目の前には、アッシュがまた不機嫌そうな顔をしてモニカを見ていた。
「今日も暗い顔してんのか?また水ぶっかけるところだったぞ!」アッシュが怒鳴る。
「ご、ごめんなさい…」モニカはしゅんとして謝る。
「だから、謝らなくていいっての。謝るんなら、暗い顔するな!」アッシュは叫ぶ。
「ええ…」モニカは俯いた。
 モニカは暗い表情のまま何かを考えている。いつまでも暗い表情でいるモニカを見て、アッシュはやれやれというように顔をしかめた。
「…昨日は、水かけて悪かった」アッシュはぶっきらぼうに言う。
「え?」モニカは顔を上げた。
「あの時さ、オレ機嫌が悪くてよ。で、それでお前に八つ当たりしちまったんだ。すまねえ」アッシュはモニカから目を逸らして言った。
「いえ、いいの。わたしも、暗かったから、アッシュにそうさせてしまったのだと思うし」モニカは戸惑いながら言う。
「…まあ、それもあるんだがよ」アッシュは言う。「昨日さ。お前、オレに辛そうって言ってたじゃねえか。口喧嘩してよ。ひきずっちまってさ」
「口喧嘩したの?」モニカは思わず聞いた。
「ああ。オレの友達のホエルオーがさ、海王神の付きをやってるんだ。そいつが知り合いの番いパーティに行くって言うから、オレが1日だけ変わってやったんだよ。オレ以外にも頼める奴なんかいっぱいいるだろうに、オレにしか頼めないって言うからよ。そしたら、海王神の機嫌が悪くってよ。雰囲気がすげえ悪かったんだ。それで、オレに対して当たるような口調で話すもんだから、さすがにキレちまってさ。そんで、壮大な口げんかをしちまったわけさ」アッシュは話す。
「そうだったの…」モニカは海王神という言葉は初耳だったが、とりあえず相槌を打った。
「まあ、それで勤めも半ばに飛び出しちまってさ。それで機嫌が悪くなってるところに、お前と会ったのさ」アッシュは話を結んだ。
 モニカは相変わらず暗い顔でアッシュを見ている。いたたまれなくなったアッシュは、思い切ってモニカに切り出す。
「なあ、モニカ。お前も何か悩んでるんじゃないのか?」
 モニカははっとする。目の前には、心配そうにこちらを見ているアッシュがいた。
「…ううん、何も。悩んでない」モニカは言う。
「おいおい、それじゃ昨日のオレと一緒じゃねえか。確かに、昨日はオレもどうかしてたから、お前に何も答えなかったさ。辛そうって言われて別にどうもない風に振舞っちまったさ。それがいけねえって思ったから、今日こうやってお前にわけを話して謝ったじゃねえか。だからよ、お前も話してくれよ」アッシュは諭すように言う。
「わたしは…その…」モニカはアッシュから目を逸らす。
「…ったく」アッシュはやれやれというふうに目を閉じる。「深く考える必要はねえだろ。今お前が悩んでることを話してくれよ。お前がそうやって、昨日も今日も暗い顔してここにいる理由が知りてえんだ。たとえそれが悩んでるからじゃなくても、嫌なことがあったとか、気分が乗らないとか、そういうのがあるだろ?オレが解決できるなんて言えねえけど、聞くことくらいはできるだろ?」
 モニカは再びアッシュを見た。自分と同じ大きさの体、そこに付いた小さな目。その目は、不安げでありながらもまっすぐ自分を見ていた。
「わたしは…」
 なんでもない。そう言いかけて、脳裏にネイトの姿がよぎった。
 いつも親しげに話しかけてくれるネイト。そのたびに、モニカは突き放していた。自分が他者と付き合うのが苦手なのか、話すことをいつも拒んでしまう。
 今、モニカはアッシュに何か話したいと思っていた。ネイトのことでもいい。自分のことでもいい。ネイトではなくアッシュに話したいと思ったのは、アッシュのアタックが強烈すぎるからか、ネイトがあまりアタックしてこないからか、あるいは。
「話したいことはあるんだけど、どう話したらいいか分からなくて」モニカはしょんぼりして言う。
「話し方が分からねえのか?」アッシュが聞く。
「ええ。いつも話しかけてくれるラフレシアの男の子がいるんだけど、彼に対してもどう接していいか分からなくて、突き放しちゃって」モニカは言う。
「おいおい」アッシュは呆れた様子で言う。「話し方分かってるじゃねえか。なんで最初からそうやって言わねえんだよ」
「え?」モニカはきょとんとする。
「話し方が分からねえってのがどんな意味なのかは知らねえが、そういう風に現状を話せばいいんだよ。さっきの一言で、お前の悩みなんか大体分かっちまったぞ」アッシュは言う。
「わ、分かるの?」モニカは信じられないと言った様子で聞く。
「そのぐらいの状況把握力くらい誰だってあるっての。つまり、お前は話すことが苦手で、他者との話し方も分からなくて、毎日話しかけてくれるラフレシアともまともに話せてないってんだろ?」アッシュは当然といった様子で言う。
「す、すごい」モニカは感心している。
「いや、普通だって。お前、どれだけ周りと付き合ってねえんだよ。こういうことに感心されると逆にこっちが動揺するぜ」アッシュは言う。
「…わたし、ほぼ全く周りと付き合ってないし、話してない。付き合い方とか、話し方とか、分からなくて」モニカは打ち明ける。
「だろうな」手があれば頭を掻いていそうな顔でアッシュは言う。
 アッシュは困っている様子だった。何かを迷っているようだった。そんなアッシュを、モニカは不安げに見ていた。
「えいくそ!」アッシュは叫んだ。「当たって砕けろだ!」
「え?」モニカは困惑する。
「明日から…、明日からだ!オレがお前に、周りとの付き合い方を教えてやる!それで、お前のその暗い雰囲気を取っ払って、ついでにそのラフレシアとも普通に付き合えるようにしてやる!これでいいか!」アッシュはかなりの早口で言った。
「…え?」突然のことに、モニカは反応が遅れている。
「いいならいい、嫌なら嫌と言え!」アッシュは叫ぶ。
「うっ」
 モニカはのけぞった。アッシュの勢いに押されたというか、それほどアッシュのアタックは激しかった。勢いに押されるがままに、モニカは頷いていた。
「よしっ!決まりだな!いいか、明日もここに来い!お前と話してやるから!いいな!」
 一方的にまくし立てた後、アッシュは凄まじい速さで川を下っていった。騒々しい空気が去った後に残ったのは、暗い顔をしたモニカだけだった。
「…なんで明日なんだろう」モニカは呟いた。
 3
「言っちまったよ。…ったく」アッシュは後悔するように言った。
 アッシュは川を下っていた。特に曲がることもなく、一直線に海に通じる川を、速度を落としつつ進む。
「付き合い方を教えてやるってなんだよ…。オレだってよく分かんねえってのに。なんであいつといると見栄みたいの張っちまうんだ。…でも、言ったものは仕方ねえよな」アッシュは自虐する。
 体に水温の変化を感じる。川から海へと移りかわり、淡水から海水へと水質が変わる。その境目で、アッシュはぎょっとした。
「げっ」
 正面にあるのはにやにやした顔。頭だけ切り落としたような体に、4方向に飛び出たひれ。血走ったように赤い目に、鋭利な牙。
「おいおーい、ミラから聞いたぞ?熱血キャラぁ?アッシュが?」からかうような口調。
「黙れギロド」アッシュはげんなりして言った。
 アッシュは知らぬ顔して泳ぎ続けようとするが、ギロドはにやにやしながらついてくる。
「暗くて寂しそうなモロバレルの女の子の前でいいかっこするたぁ、お前もませてきたなぁ」ギロドがからかい続ける。
「あー聞こえねえ聞こえねえ!今オレは意地の悪いサメハダーじゃなくて、優しいホエルオーに用があんだよ!どっか行け!」アッシュは煙たがる。
「とーころが、だ。その意地の悪いサメハダーは、熱血ラブカス君に用があるんだよぉ」ギロドはねっとりとした口調で付きまとう。
「ああもう、なんだよ!」アッシュは面倒になって聞いた。
「実はなぁ」ギロドは笑いをこらえている様子で話し始める。「オレ様、今日ミラとなんか雑談しようと思ってミラんとこ向かってたわけさ。そしたらよぉ、ミラの所から離れていくちっちゃなピンク色を見つけちまってなぁ。ミラから色々話聞いてから、そのピンク色が向かったであろう川に向かったんだ。そしたらなぁ…」
「じゃな!」
 アッシュはギロドの元から最高速度で離れていった。後ろからギロドの笑い声が響いてくる。
「あいつ、見てたのかよ。全然気づかなかったぜ…」アッシュはやれやれといった様子で言う。「あの調子じゃ、絶対ケレチにも言うぞ、ギロドの奴。…ったくよ」
 アッシュは速く泳いでいた。ギロドから逃亡するためではなく、早くミラに会うため。自分の住処を通り越して、今朝ミラと会った大陸棚へと急ぐ。
「早くしねえと明日まで時間が無いぞ。でもミラ、大丈夫か?仕事が暇ならいいんだが」アッシュは独りで言う。
 大陸棚にミラはいなかった。アッシュは大陸棚全体を確認してから、海王神のいる場所へと向かった。
 海王神のいる場所は、大陸棚からそう遠くなかった。海溝を越えてすぐの場所に、岩を積み重ねたような外観をした宮殿がある。たいそうな見た目をしていて、見るたびにアッシュは閉口していた。
 宮殿が見えると、ミラの姿もすぐに見えた。なにやら困ったような表情をしている。
「ミラ!」アッシュは呼んだ。
「アッシュ?」ミラはアッシュに目を向けた。
 アッシュは努めて速く泳ぎ、ミラの元へといった。疲れた体を一瞬休ませた後、アッシュはミラの目を真っ直ぐ見た。
「ミラ!今、仕事大丈夫か?」アッシュは聞く。
「ええ、大丈夫。海王神様、まだ機嫌を悪くしていらっしゃるようでね。ワタシにもあたってしまうから、ちょっと外に出ててくれって言われたの」ミラは説明する。
「そうか。一体何があったんだろうな」アッシュは考え込む。
「それがね。どうやら、海洋神様と争ってるらしいの。どうしてなのかまでは聞けなかったけど、すごく険悪なムードみたいよ」ミラは言う。
「海の神が喧嘩してるのかよ。エスカレートして海が荒れなきゃいいんだけどな」アッシュは迷惑そうに言う。
「そうね。ところで、アッシュの用は?」ミラが聞く。
「おっといけねえ!時間も無いのに世間話にうつつを抜かすところだったぜ」アッシュは思い出したように言う。「実はな。今日お前に話したモロバレルとさっき話してきたんだよ。まあ、ちょっとばかり親しくなってなんだかんだで悩みを聞くことができたんだがよ。周りとどう話したらいいか分からねえって言うんだ。周りとの接し方が分かんねえらしいんだよ」
「へえ、そうだったの」ミラは聞き入っている。
「それでよ。あまりにひどいもんだからさ。つい、周りとの接し方を教えてやるって言っちまったんだよ。言ったもんは仕方ないから教えないといけねえけど、どう教えていいか分からなくてよ」アッシュは説明する。
「あらあら。また熱血系を演じてしまったの?」ミラがにやりとして聞く。
「っるせぇ!とにかく、モニカにそういうことを教えられるよう、明日までにミラに指導して欲しいんだ!頼むよ」アッシュは懇願する。
「別に構わないけれど、どうして明日までなの?」ミラは聞く。
「ミラに教えてもらおうと思って時間を取ろうと思ったんだけどよ、それをつい明日って言っちまったんだよ」アッシュは言う。
「そういうことね。分かったわ、色々教えてあげる。でも、時間が短いから、そう多くは教えられないし、海王神様に戻るように言われたら、仕事に戻らないといけないわ。それでもいい?」と、ミラ。
「ああ。頼む」アッシュは頷いた。
「じゃあ。始めるわね」
 穏やかに流れる海流。静かに差す日光。その中では、ミラの優しく教える声が遠くまで聞こえていた。
  ◇
 モニカは川辺で佇んでいた。騒がしいラブカスが去った後のこの空間は、何かしら静かに感じた。
「…周りとの付き合い方を、アッシュが教えてくれる…」モニカは呟いた。
 モニカにはいまいちピンと来なかった。周囲と接すること、話すこと。今まで全くと言っていいほどしてこなかったことを、会って間もないラブカスが教えてくれるという。
 実感がわかないというか、信じられなかった。なぜ、会ったばかりなのにそこまで言ってくれるのか。そこまでしてくれるのか。
 モニカは川を右から左にゆっくり眺めた。先程まで慌しかったこの空間。静かになった今では、アッシュのあの騒々しさが恋しくさえ感じていた。
 モニカは俯いた。心が曇りがかったような錯覚を覚えていた。今まで感じたことの無い、否、感じてはいたがほとんど感知していなかった感情だった。
 モニカはこの感情がどういうものか知っていた。常日頃感じていて、彼女にとっては日常的なものだった。
 しかし。この感情を今更、このような形で感じることにモニカは戸惑っていた。今までの中でも一番強く感じていた。それも、感情に揺さぶりがかかるほどに。
 モニカは顔を上げ、飛び跳ねて川に背を向けた。そして、何かに急かされるようにその場から去っていく。
 モニカは来た道を戻っていた。跳ねて着地するたびに土が飛び上がり、草がしなる。一直線に向かったその先は、やはり彼女の住処。
 そして。
「あ、おかえり」住処の前には、ネイトがいた。
 モニカは立ち止まっていた。その場でじっとネイトを見続ける。
 彼はいつも朝挨拶に来て、そしてモニカが帰ってくるまで待っていた。どうしてそんなことをしているのかモニカには分からなかったが、これも日常の1つだった。
 モニカは2回程跳ねて進んだ。ネイトに少しだけ近づき、ゆっくりと口を開く。
「…た、ただいま」
 モニカの言葉に、ネイトはにっこりと笑った。その笑顔は嬉しそうで、そしてほっとしているようだった。
「やっと、君からただいまって言われたよ。嬉しいな」ネイトは静かに言った。
 モニカはネイトをまっすぐ見た。彼女の顔は、何か申し訳なさそうだった。
「その…あの…」モニカは必死で言葉を紡ぎだそうとする。「今まで…その、ごめんなさい。突き放すように…してしまって」
「いいんだよ」ネイトは優しく言った。
「その…。わたし、ちゃんと話せるようになるから。ネイトとちゃんと、普通の話ができるようにするから。だから、明日まで…待って」モニカは言った。
「うん。待ってるよ」ネイトは言った。「じゃあ、僕は帰るね」
「ええ…」モニカは小さく返事を返す。
 ネイトは、重い頭をゆらゆら揺らしながらその場を去っていく。その姿が見えなくなるまで、モニカはずっと見ていた。
 不意に。頭の中に、アッシュの姿が出てくる。
『そこはさようならって言えよ!』
 モニカが気づいた時には、既にネイトの姿は無かった。モニカはうなだれて、自分の住処に入っていった。
 4
 この日。アッシュは先に昨日の場所へと来ていた。朝早くだから眠気もあるが、それをやる気が超越していた。
「モニカ…遅えな」そう言っては、川をぐるぐると泳ぎまわる。実際は彼が早すぎるのだが。
 この時間に来たのには2つの理由があった。1つは、モニカに教えるのにちょっとでも時間を無駄にしたくないこと。そしてもう1つは、いつもと同じ時間に行くと、ギロドなどに見つけられる可能性があるからだ。
「あ…アッシュ」何回か聞いた声が聞こえた。
 木々の間から跳ねてくるモロバレルがいた。つい昨日まで話していた彼女だ。
「お、モニカ!遅かっ…じゃなくて、おはよう!」アッシュはにこっと笑って挨拶する。
「お、おはよう…」モニカはポカンとして挨拶を返す。
 モニカは川のそばまで跳ねてくる。アッシュもモニカに近づいた。
「あのな、モニカ。お前がそんな顔をするのはよく分かるんだが、これにはわけがある。まあ、聞いてくれ。実はな、オレも周りとそんなに話すほうじゃねえんだ。逆に話しかけられるほうでな。自分から話すってことがほとんどねえんだ。だからよ、お前に教えるには、友達に教えてもらってからじゃねえと無理だったんだよ。それで、オレも今それを実践してるんだ。違和感感じるかもしれないが、我慢してくれ」アッシュは一気に話す。
「ええ。分かったわ」モニカは目を白黒させながらも承諾する。
「よし、早速始めるぞ!」アッシュは言った。
 アッシュはモニカを正面から見た。モニカも見返す。
「まずは基本、挨拶だ!オレに続け!おはよう!こんにちは!こんばんは!おやすみなさい!」アッシュは叫ぶ。
「おはよう、こんにちは、こんばんは、おやすみなさい」モニカは繰り返す。
「流れるように言うな!1つ1つ区切ってだ!そしてもっと元気よく!」アッシュは怒鳴る。
「おはよお!こんにちわ!こんばんわ!おやすみなさい!」モニカは甲高い声で叫ぶ。
「うお!?」アッシュは驚く。「なんだお前、そんな大きな声出るのかよ」
「で、出たみたい…」モニカは自分に驚いているようだった。
「いい感じだぞ!大声出せとまでは言わねえから、今よりかは大きな声で、そして明るくいけ!」アッシュは頷きながら言う。
「明るく?」モニカが聞く。
「そうだ。明るくするには、笑顔が大切だぞ!さすがに笑顔は分かるよな?」アッシュは問う。
「分かるけど…したことがなくて」モニカは答える。
「だろうな。いいか?したことがなくても分かるんなら、それをしようとしてみろ。そんな暗い顔で挨拶するのと、笑顔で挨拶するのとじゃ、笑顔のほうが気分がいいだろ?」アッシュが言う。
「そ、そうなの?」モニカは聞く。
「ったりめえだろ。暗い顔で挨拶されたってあんまり嬉しくねえぞ」アッシュは諭す。
「そうだったの…」モニカは、ネイトの顔を思い浮かべながら言う。
「よし、ちょっと笑顔を作ってみろ」アッシュは言った。
 モニカは顔を引きつらせ、目を閉じた。それを見てアッシュはやれやれといった様子で呆れる。
「あのな。それじゃ、苦しんでるようにしか見えねえぞ」アッシュは指摘する。
「ご、ごめんなさい」モニカは元の暗い顔に戻る。
「いいか、こうするんだ」アッシュは言うと、にこっと笑った。「分かるか?」
「や、やってみる」
 モニカは必死に顔を動かそうとしていた。丸い口を動かそうとして、四苦八苦する。喋る時は普通に動くのに、笑顔を作ろうとするだけで思い通りに動かない。目も同様に動かそうとするが、それもうまくいかない。目が引きつり、極端に閉じ、軽く閉じ、山なりになり…。
「それだ!」アッシュは叫んだ。
「えっ?」モニカは大きな声に驚く。
「一番最後のやつだ!ほら、もう1回やってみろ!」アッシュは興奮そた様子で言う。
「分かったわ」
 モニカは目を山なりにし、アッシュに向けた。まだぎこちないが、モニカは確かに
笑顔を作れていた。
「いい顔じゃねえか!まだちょっと不自然だが、そんな感じでいいんだよ!」アッシュは嬉しそうに言う。
「あ、ありがとう…」モニカは顔を染めて笑う。
「なんだよお前、かわいい笑顔ができるじゃねえか。なんでそれをしねえんだよ?」アッシュは何気なく聞いた。
「か、かわ…!」モニカは、顔はおろか体中真っ赤にして硬直した。
「お、おい?どうした?」アッシュはモニカに異変を感じて聞く。
「その…。わたし、かわいいなんて言われたの初めてで…」モニカはアッシュから目を逸らして言う。
「なんだよ、いっちょまえに照れやがって。もっと照れさせてやろうか?」アッシュは不敵に笑う。
「え?」モニカは気の抜けた声を出す。
 アッシュは少し体を上げ、上を見る。小さな口を突き出すと、口の中から桃色のエネルギーが出てくる。口の中から出ると、それは小さなハートマークを形どった。空中をゆらゆらと揺れてモニカに当たると、はじけて消滅した。
「あう…」モニカはくらくらとする。そして、何かしら恥ずかしくなって、さらに紅潮する。
「はははっ、くらいすぎだっての。軽い天使のキッスだろうが!」アッシュはけらけらと笑う。
「あう…えへへ」モニカもくらくらしながらつられて笑う。
 アッシュはしばらくの間笑っていた。静かな森に響き渡るくらい大声で。モニカも照れながらも、アッシュと一緒に笑っていた。
「な。笑うって、気持ちいいだろ?」ひとしきり笑ったところで、アッシュが聞く。
「ええ。気分が晴れて、心地いいわ」モニカはにこにこしながら答えた。
「そうやってな、自然に笑顔を出して、元気よくすれば、周りとも溶け込むさ」アッシュはアドバイスする。
「うん。そんな気がする」モニカは頷いた。
「ただな。お前は基本的に暗いから、明るくなれっていうのは難しいと思うんだ。だからな、明るくしろ。言ってる意味、分かるか?」アッシュが問う。
「ちょっと分からない」モニカは答える。
「あのな。暗いやつが明るくなれったって、そんなのは無理なんだよ。元々生まれもっての性格だから、変えられねえんだ。だがな、明るくしようという心がけがあれば、『なる』ことはできなくても『する』ことはできるんだよ。公衆の面前でない時とかは別に暗くてもいいんだ。だが、周りと接する時は明るくしろ。こういうことだ」アッシュは説明する。
「わ、分かったわ」モニカは頷いた。
「しかし、よお」アッシュはにやりとする。「ちょっとかわいいって言っただけであんなに照れるかよ。お前、言われたことねえのか?」
「な、無い」モニカは再び顔を赤くする。
「確か、いつも話しかけてくるラフレシアがいるって言ってただろ?そいつも言わねえのか?」アッシュは聞く。
「ええ、言わない。いつもちょっと話して、別れちゃうから」モニカは答える。
「そうか。いつもってことは、毎日だよな。これは、ただごとじゃあねえな」アッシュのにやにやは止まらない。「また話すときがあるんだろ?その時聞いてみろよ。モニカがかわいいかどうか」
「えぇっ!?」モニカは驚愕して声を出す。
「普通に考えてみろって。ふと気が付けば、毎日男が女のもとに来るようになって、いくら突っぱねても懲りずに来るんだろ?誰がどう考えても惚れてんじゃねえか」アッシュは言う。
「惚れ…!」モニカは言葉を失う。
「そう思わねえか?」アッシュは聞いた。
 モニカは俯いた。照れながら、体を揺らしてもじもじしている。何か答えようと口をもごもごさせているが、何も出てこないようだ。
「ま、好きかどうか聞けなんてオレも言わねえさ。でも、お前がかわいいかどうかくらいは聞いたほうがいいと思うぞ。まあ、十中八九惚れられてるだろうから、世間話するうちにさりげなくコクられちまえよ」アッシュはさらりと言った。
 モニカは返事もできずに固まっている。アッシュはにやにや笑いをやめ、温かい目になる。
「何話していいか分からなかったら、天気の話なりなんなり、何でも話せ。そして適当な相槌を打て。さっきも言ったが、何より笑顔だ。そうすりゃ、そのラフレシアとも付き合えるだろうし、他の奴らとも付き合えるさ」アッシュは言う。
「え、ええ。あ、ありがとう」モニカは言葉を詰まらせながら言う。
「頑張れよ。じゃあ、今日はお開きにしようぜ。また明日、結果を聞かせてくれ」アッシュは突然言う。
「え?あ…」
 モニカが止めるまもなく、アッシュは川を下り始めてしまう。何か急いでいるような、そういう風に見えた。だが、モニカは何かしらの不足感を感じていた。それが何かはモニカははっきりと分からなかったが、しなければならないと思うことが1つ浮かんだ。
「アッシュ!!」モニカは精一杯叫んだ。
 アッシュは既に遠くに行っていた。だが、声は届いたようで、アッシュは振り返った。
「ええと…さようなら!また明日ね!」モニカは叫んだ。
 アッシュはにこりと笑って頷き、再び川を下っていった。モニカも満足した様子で、森の中へと跳ねていった。
 5
「うう…」アッシュはゆっくりと海を泳いでいた。
 その顔は、桃色の体でも目立つほど真っ赤になっていた。湯気でも立ちそうなほど顔が火照っている。
「なんでかわいいなんてさらっと言うんだよ…。しかも天使のキッスまで…。勢いに乗りすぎだっつの…」アッシュは自虐する。
 そして都合の悪いことに。
「アーッシュ君」にやにや全開の声が届く。
 火照った顔のまま前を見ると、そこにはやはりギロドがいた。鋭利な牙をのぞかせてあからさまににやにやしていた。さらに、その背びれにもう1体ポケモンが乗っていた。大きな目と袋のような嘴が特徴の鳥ポケモン、ペリッパーだ。
「…今日はケレチも一緒なのか」アッシュはげんなりした様子で言った。
「うん、そうだ。ぼくも一緒だ」ケレチと呼ばれたペリッパーは、アッシュをまじまじと見ながら言う。「それにしても驚いたさ。ギロドに誘われて付いていったら、そこにはなんと普段からは想像もできないアタッカーなラブカスがいるもんだから」
「…今日も見てたのかよ」アッシュの紅潮は増すばかり。
「ぎゃははははっ!いやすごかったぜぇ!笑いをこらえるのにどれだけ苦労したか、お前分かるかぁ?こらえすぎて体中が痛くなっちまったよ!」ギロドが大きな口を開けて笑う。
「後でそうやって恥ずかしがるくらいなら、ああいうキャラ演じないほうがいいとは思うけどね」ケレチは冷静に言う。
「オレだって、モニカに熱血を見せたいわけじゃないさ。でも、モニカの前にいると、なんか勢いづいちまって。オレ自身でも抑えきれないくらい、熱血が前に出ちまうんだよ」アッシュは言う。
「ぎゃはははは!なんちゅうかっこつけ精神だ!もし相手がモロバレルじゃなくてお前と同じタマゴグループなら、とっくに恋仲だろうなぁ!」ギロドは爆笑している。
「こいな…!」アッシュの赤面は最高潮だ。
「それはそうさ。あれだけアタックして、かわいいとまで言ってさ。同じことを、この海の中でやってみなよ。3、4体は落ちるさ」ケレチは淡々と言う。
「やべぇ…笑いすぎた…!」ギロドはがくがくと震えている。
「別に…オレは…」アッシュは小さな声で言う。「モニカを落としたくてやってるんじゃなくて…。勢いもあるけど…。ただ、モニカに元気になって欲しくて…」
「分かってるさ。アッシュがプレイボーイじゃないことくらい、ぼくもギロドもミラも知ってる。だからさ、こうやって駆けつけたんだよ」ケレチは言う。
「どういう意味だよ?」アッシュは聞いた。
「プレイボーイじゃないアッシュがさ。女の子の前で奮闘してるなんて、聞いただけじゃ誰も信じないわけさ。でも、目の前で実際に見たら信じないわけにはいかないわけさ。だから、心配して駆けつけたわけさ。ぼくらもミラと同じく、相談にも乗れるだろうし」ケレチは言う。
「そう…だったのか」アッシュはギロドとケレチをまじまじと見る。
「そうだとも!好奇心とかもあったがなぁ、お前を心配する気持ちだってあるんだぜぇ?そういうのを見守って、相談にものってやるのがダチってもんだろぉ?」ギロドはにやにやしながら言う。「アッシュだって、オレ様が嫌な奴じゃねえことくらい知ってるだろぉ?」
「…ああ、知ってる。ギロドは嫌な奴じゃない。嫌らしい奴だ」アッシュは答える。
「よく分かってるじゃねえかぁ」ギロドは嬉しそうに言う。
「これからミラに相談に行くんだろ?ぼくらにも乗らせてくれよ。ミラとは違う視点で答えられるかもしれないしさ」ケレチは言う。
「…そうか。ありがとな」アッシュはにこりと笑って言う。
「まぁ、用はそれだけじゃないんだがなぁ!」ギロドは付け加えるように言う。「お前、モロバレルのことで悩むのはいいけどよぉ。海流の儀のことは頭にあるかぁ?」
「あぁっ!」アッシュは大声を出す。
「やっぱり忘れてたか。言いにきてよかった。さて、ミラの所に行こうか。色々相談しなきゃいけないことがあるしな」ケレチは言った。
 ケレチはギロドの背びれを足で軽く叩いた。ギロドは180度回転し、先へと進んでいく。魂が抜けたようになっていたアッシュも、慌てて追いかけていった。
  ◇
 モニカは森の中を進んでいた。その速度はいつもより速く、身のこなしも軽やかに跳ねていた。その目はいつものように暗くはなく、きらきらと輝いていた。
 見慣れた住処が見えてくる。入り口が徐々に大きく見えてくると、そのそばに見慣れたラフレシアもいた。
「ネイト…!あの、ただいま!」モニカは声をかける。
「お、おかえり」ネイトは驚き気味に返す。
 モニカはネイトの近くまで行く。そして努めて笑顔を出し、口を開いた。
「あのね…。一昨日、だったかな。いつも行ってる川で、ラブカスの男の子に会ったの」
「うんうん」ネイトは聞く体勢に入っている。
「わたし、暗かったから、彼が明るくなれって盛んに言ったの。それで感じに話してるうちに、彼が、周りとの付き合い方を教えてくれるって言ってくれて」モニカは嬉しそうに話す。
「そうだったんだ。それで、教えてもらったのかい?」ネイトは聞いた。
「ええ、教えてもらったわ。すごくぐいぐいと来られて照れちゃったけど、何とか教えてもらったの」モニカは答えた。
「そして、僕に一番に話しかけてくれたんだ?」ネイトは微笑んで聞く。
「だって…。昨日、ちゃんと話せるようになるからっていったから。ネイトに、ちゃんと話せるようになったわたしを見て欲しかったから」モニカは言う。
「うん。ちゃんと、話せてる」ネイトは頷く。
「あ、ありがとう…」モニカは照れながら言う。「そうだ。1つ、聞きたいことがあるんだけど…」
「うん、何?」ネイトは促す。
「あのね…」モニカは言いにくそうに口をつぐんだが、やがて開いた。「わたしって…かわいいの?」
 ネイトはポカンとしていた。まじまじとモニカを見て、訳が分からないと言った様子だった。まばたきを何回かして、口を開く。
「何を言ってるのさ。当然じゃないか」
「えっ」一般常識のように言われたことに、モニカは驚きを隠せない。
 ネイトは頭の上の花を揺らしながらモニカに近づいていった。重そうにしながらも、モニカの頭の上の笠に触れないように注意を払って、小さな手をモニカの腕の笠に触れさせた。
「君は、いつも落ち込んでるよね。いつも暗い顔をしてるよね。ずっと前…、いつのことかは忘れたけど、そんな君を見かけて、もっと明るくなればいいのになって思った。そんなにかわいいのに、明るくないのはもったいないって思ったよ。何かできることがないかと思って話しかけてたけど、何もできなかった。でも、君は自分でそれを克服して、僕に話しかけてくれた。そんな君が、かわいくないわけがないじゃないか」ネイトはゆっくりと言った。
「えと…え…」モニカは自身の腕を見ながら固まっている。
「それにしても、僕はそのラブカスの男の子が羨ましいよ。君とそこまで触れ合って、積極的に君と接してさ。そして、僕と違って、君を変えたいっていう思いを行動で表したんだからさ。君に惚れてながら、何もできなかった僕は不甲斐ないよ」ネイトを俯き気味に言う。
「あの…ネイト?」モニカが声をかける。
 モニカは、ネイトの短い手を見ていた。それを両腕ではさみ、ネイトの目をまっすぐ見た。ネイトは顔をあげる。
「わたしも…。その、あなたの気持ちに気付けなくて、ごめんなさい」モニカは謝る。
「いいよ。気付くことができなかったのは悪いことじゃない。そもそも、僕が一方的に君に付きまとってただけだし」ネイトは恥ずかしそうに言う。「第一、君が僕のことをどう思ってるかなんて、考えてなかった。もしかしたら、僕のことを嫌いなのかもしれないとか、考えてなかった」
「ううん、嫌いじゃないわ」
 モニカは言った。だがその後、彼女は何か奇妙な感覚に襲われた。ネイトのことは嫌いではない。それは確かであり、事実だった。しかし、その後の言葉が見つからなかった。普通なら、これから言うべきであろう言葉があるのだが、なぜかモニカの口からそれが出なかった。モニカは一瞬自分の気持ちに戸惑い、考えてから結論を出した。モニカ自身その結論に罪悪感を覚えながらも、ゆっくり口を開いた。
「でも…、ごめんなさい。わたし、あなたのこと、まだ好きじゃないみたい…」
「…そう、なんだ」ネイトは寂しそうに言う。
「わたし、嬉しかった。あなたと話せて、あなたが毎日来てくれる理由を知れて、あなたにかわいいって言われて、嬉しかった。恥ずかしいなんて初めて思ったわ。でも、わたしはまだ、あなたに惹かれてないみたいなの」モニカは必死に自分の気持ちを伝える。
「…僕のアプローチが足りなかったのかな」ネイトは反省するように言う。
「ネイト。わたしはあなたを好きになりたい。だから、もっとあなたを見せて欲しいの。色んなあなたを見たいの。あなたを見せて、わたしを好きにさせてよ」モニカは必死に言う。
「うん…。ありがとう、モニカ。僕、がんばるよ」ネイトは笑みを浮かべて言った。
 ネイトはモニカをまっすぐ見た。その目は、モニカには純粋で濁りの無いように見えた。これでだけ純粋に自分を好きでいてくれているネイトを好きになれない自分はおかしいのか。そんなことを、モニカは考えていた。
「ねえ、モニカ。よかったら、一緒に海流の儀を見に行かないかい?」ネイトが言う。
「え?な、何?」モニカは戸惑う。
「…もしかして、知らない?海流の儀」ネイトは聞く。
「ええ。初めて聞いたわ」モニカは答える。
「年に1回ある行事なんだけどさ。満月の日、海のポケモン達が、海の中から空高く水を噴き出すんだ。水鉄砲だったり、バブル光線だったり、ハイドロポンプだったり。それが空中で離散すると、月の光と相まってすごくきれいに見えるんだ」ネイトは説明する。
「そうなんだ…」モニカは聞き入っている。
 聞きながら、モニカは今までのことを思い返していた。そういえば、この時期の早朝になると、突如空が明るくなったり、水が噴き出すような音がしたり、遠くから歓声が聞こえたりしていた。それが何か気になってはいたが、結局突き止めることは無く、こうしてネイトに教えられることになった。そして、それがどんな物なのか、モニカは見たいと思うようになっていた。
「ええ。一緒に行きましょう」モニカは言った。
「ありがとう。満月は明後日なんだ。明後日の朝、雨じゃなかったら迎えに行くね」ネイトは言った。
「雨じゃなかったらって?」モニカは聞き返す。
「海流の儀は月の光がいるからね。曇りや雨だったらできなくなって、延期になるんだ。延期になったら、満月じゃなくても次の晴れの日に行われるから、その日に迎えに行くよ」ネイトは説明する。
「分かったわ」モニカは答えた。
 当然、モニカは海流の儀について何も知らない。明日になったら、アッシュと色々なことを話すついでに海流の儀のことも聞いておこうと、モニカは思った。
「まあ、ちょっと雲行きが怪しいんだけどね。曇りになって、延期になる確率の方が高いかもしれない」ネイトが付け加える。
 モニカは空を見上げた。青空は見えるものの、大きな雲が太陽を隠したり出したりしていた。普通の白い雲ではなく灰色の雲だった。山のほうを見ると、空一面を多い尽くしそうな曇天が、徐々に徐々に迫ってきていた。
 6
 曇り空だった。太陽の光などほとんど通らず、世界を灰色が覆っていた。島の木々も、心なしか元気が無いように見えた。
 川もまた、今日は輝いていなかった。灰色の空を映す川は、本来のきれいさをほとんど感じられず、濁ってすら見えた。そんな川に、今日も慌しく2体のポケモンが到着する。
「アッシュ、おはよう!」
「おう、モニカ!おはよう!」
 2体は朝の挨拶をする。触れてしまいそうな至近距離で、アッシュはいつもの通り元気で、モニカは笑顔でいた。
「おお、なんだよモニカ。昨日までとは全然違うじゃねえか」アッシュは驚きながら言う。
「そ、そうかな…」モニカは照れて言う。
「ははーん。さては」アッシュはにやにやしながらモニカを見る。「結果は分かってるが、あえて聞くぞ。かわいいって言われたんだろ?」
「え、ええ」モニカは全身を真っ赤にして頷いた。
「それで、話のついでにコクられた、と?」アッシュのにやにやが加速する。
「そうなんだけど…その、断っちゃって」モニカは決まり悪そうに言う。
「えっ!?なんでだよ!?タイプじゃなかったのか!?」アッシュは見るからに驚いている。
「いえ、そうじゃないの。わたしの中に、彼が好きっていう感情がなかったの。そんなので受け入れちゃうのは、いけないと思って。だから、わたしを好きにさせてって答えたの。わたしも、どうにか彼を好きになりたいし…」モニカは説明する。
「あー、なるほど。そういうことだな。振ってもなきゃ、恋仲でもねえ、と。やるじゃねえか」アッシュは納得した様子だ。
「正直言うと、アッシュみたいにぐいぐい来て欲しかったかな」モニカは何気なく言った。
「ん?どういうことだよ?」アッシュは聞く。
「彼って、控えめなの。だから、あまり攻めてくることもなくて。アッシュみたいに、もっと積極的に来て欲しかったなって思ったの」モニカはアッシュをじっと見ながら言う。
「おいおい…。だったらよ。たとえばだが、オレが同じタマゴグループだったら、お前がオレに告白してたのかもしれないのか?」アッシュは恐る恐る聞く。
「ええ。だってわたし、ここまでしてくれて、嬉しかったし。感謝もしてるの。ありがとう」
 モニカは体を傾けると、アッシュの正面、眉間にあたる部分に口を付けた。口を離すと、モニカも照れていたが、アッシュはそれ以上に真っ赤になっていた。
「とと、ところでよ」アッシュはどもりながら言う。「そのラフレシアに、好きにさせてって言ったんだろ?向こうから、なんかアプローチあったのかよ?」
「それがね。一緒に海流の儀を見ようって誘われたの」モニカは言った。
「本当か?まいったな、だったら性根いれて練習しなきゃいけねえじゃねか」アッシュは困ったように言う。
「ねえアッシュ。わたし、昨日彼に言われるまで海流の儀のこと知らなかったの。海流の儀って、そもそもなんなの?」モニカが聞く。
「知らなかった?おいおい、この島に住んでるのに海流の儀を知らねえって、すげえ非常識だぞ?」アッシュはモニカをまじまじと見ながら言う。「まあ、いいや。海流の儀はな、オレ達みたいに、この島の周りに住む海のポケモンが行う行事だ。主に海藻が生い茂る海や、木々の繁茂する島の繁栄を願って執り行われるんだ。昔の話になるが、海と雨がすげえ喧嘩を繰り広げたことがあったんだ。その喧嘩は酷くなっていって、もちろん海は大いに荒れて、島も雨でめちゃくちゃになったんだとよ。そんな時、輝く光が割って入って、海と雨の喧嘩を止めたんだとさ。それから、もう2度と喧嘩が起こらねえように、オレたちが小さく喧嘩を表現して、その年はもう喧嘩は行われたからもうしないで下さいって意味でやってるんだ。ちなみに、オレ達の出す水の技が海、散った水飛沫は雨、月が輝く光を表してるんだ」
「へえぇ。アッシュって、詳しいのね」モニカは感心して言う。
「当然だろ?なんてったって当事者だぜ?」
 アッシュは不敵に笑いながらも、昨日のことを思い出していた。昨日、また外に出されていたミラに会いにいった時、海流の儀について相談しながらも、モニカについても相談していた。その際、周囲との付き合いが少ないモニカが海流の儀のことを知らない可能性を指摘され、ミラに指導されてなんとか覚えてきたのである。ミラの言ったことをちゃんと聞き入れていてよかったと、アッシュは内心ほっとしていた。
「ねえ。練習って、どんなことしてるの?」モニカが聞く。
「練習か?そうだな。なんてったって、色んな大きさの色んなポケモンが参加するからな。動きとか、出す技とかを決めて、練習するぜ。一番楽なのは、前言ったホエルオーだな。何せ大きすぎるから、動こうとすると邪魔になるんだよ。だから、一番最後にでかい潮吹きを出すのが役目なのさ」アッシュは説明する。
「練習は厳しいの?」モニカは更に聞く。
「厳しくはねえさ。海のポケモンって、基本的に束縛が嫌いだから、自由気ままにやってるんだよ。普通なら、気長に悠長に練習すりゃいいんだが、な。実はオレ、海流の儀の事をすっかり忘れてて、今すげえ練習してるんだよ」アッシュは言う。
「ええっ!?わたしと話してて大丈夫なの?」モニカは驚いて聞く。
「大丈夫だ。確かに海流の儀は明日だが、見る限り曇ってんじゃねえか。海流の儀はほぼ確実に延期だ。いつ晴れるかは分からねえが、ゆっくり練習するさ」アッシュは余裕そうに言う。
「後で慌てて練習するより、今練習するほうがいいと思うけど…」モニカが言いにくそうに言う。
「ははっ、大丈夫だって」アッシュは笑う。「それにしてもモニカ。やっぱり変わったな。そこまでオレに言ってくるなんてよ。こんな短期間でそこまで変わるなんて、すごいぞ」
「ううん、わたしの力じゃない。アッシュが教えてくれたから変われたの」モニカは微笑んで言う。
「まあ、実際そうだけどな」アッシュはにやりと笑った。
「…うん。アッシュのおかげ」モニカは賛同する。
「…そこまで言われると、さすがのオレも照れるぜ」アッシュは恥ずかしがりながら言う。「そんなモニカが練習したほうがいいって言ってるんだ。今日は練習しに帰るか」
「ちゃんと練習してね。わたし、彼と一緒に見てるから」モニカはにこにこしながら言う。
「分かってるって。忘れてた分、ちゃんと練習するさ」アッシュは頷いた。
「それで…。もし、余裕があったら、明日も会ってくれない?」モニカが聞く。
「ん?何言ってるんだよ。当然だろ?」アッシュは微笑みながら言う。「というかよ、なんかお前と毎日会うことがもう日課みたいになってるぞ、オレは」
「そ、そうなの?」モニカは目を見開いて聞く。
「まあ、その、なんだ。要するに、お前とオレは、もう親友ってことだ」アッシュが言う。「毎日会って当然って事だよ」
「アッシュ…!」モニカは感激している。
「ま、今日は練習がんばるからよ。また明日会おうぜ」
 アッシュはモニカと軽く目を合わせて、笑顔でその場を去っていく。
「あ…!じゃ、じゃあね!」モニカは慌てて言った。
 モニカは、アッシュが見えなくなるまでずっと見送っていた。互いにその姿が見えなくなった頃、アッシュがぽつりと言った。
「あいつ、あんな笑顔ができたのか。こんな曇りでも、まるで晴天みたいに晴れ晴れとしてたな。全く、モニカの相手っていうラフレシアは幸せ者だぜ」
 7
 その日。モニカは、今までにないイレギュラーな目覚め方をした。
 空気を引き裂くような轟音。気が付けば木の葉はざわめき、風がうなっている。まぶたの裏に飛び込んできた稲光に驚き、モニカは目を覚ました。
「…え?」モニカは自分の目を疑った。
 まるで針のような雨が、凄まじい勢いで降っていた。見える木々は風でしなり、木の葉は風で落ちて森を舞っていた。モニカの体も一部濡れていて、体に悪寒が走る。
「…寒い」モニカは震える。
 穴の奥に行こうにも、これ以上奥には行けなかった。微妙に雨が当たるその位置で、モニカはずっと佇んでいた。すると。
「…この島は危険です。直ちに島の東の崖に行き、そこにいるホエルオーに乗ってください…」
 この豪雨の中声を張り上げているのか、空からそういう声が聞こえた。
「…そういえば、アッシュにホエルオーの友達がいるって言ってたっけ」モニカはポツリと言う。「…アッシュ?」
 モニカは外をまじまじと見た。変化も無く降り続ける雨。朝にもかかわらずあまりにも暗かったが、モニカにはずっと先にある川が見えていた。
「…行かなきゃ」
 モニカは言うと、土砂降りの中、体を出した。そして前を見据えると、泥を跳ねさせながら進んでいった。
  ◇
「うおわっ!」アッシュもまた、手荒い起床を体験していた。
 海藻が激しく揺らめき、海の流れが不安定に変わる。そんな中で、アッシュは目を覚ました。
「なん…だよ、これ!」と、アッシュ。
 アッシュの生きているうえで、これほどまでに海が荒れていることは初めてだった。どうすればいいか分からないアッシュは、ミラのいるであろう方向へと行こうとするが、体が思うように動かない。
「くっそ…!」アッシュは悪態をつく。
 海に遊ばれているうちにようやくコツを掴み、なんとか泳げるようになったところで、遠くにミラの姿が見えた。
「あ、おーい!ミラ!」アッシュは大声で呼ぶ。
 ミラはアッシュのいる方向へと泳いでいた。大きな体は荒ぶる海に流されることは無く、安定した水泳を見せていた。
「アッシュ、大変なの!海王神様と海洋神様がついに大喧嘩を始めちゃって。そのせいで今、海が大荒れなのよ!」ミラは狼狽している。
「何だと!?あいつら、自分が神だって自覚あんのかよ!?ていうか、仮にも海流の儀の当日だろうが!」アッシュは大いに呆れている。
「お二方とも、我を忘れてるみたいで。恐らく、周囲の状況なんて目に入ってないわ」ミラは諦め口調で言う。
「待てよ。ってことは、海の上はもちろん、島だって大雨だろ。海の神2体が争うんだ、津波だって起こりうる…!」アッシュはぶつぶつという。
「おぉーい!」遠くからギロドの声が聞こえた。
 遠くからかなりの速度でこちらへ向かってくるギロドが見える。一瞬でアッシュの元にたどりつくと、興奮した様子で口を開いた。
「すげぇぞ神の喧嘩!迫力満点なんてもんじゃねえぞぉ!」
「そんなこと言ってる場合か!」アッシュは怒鳴った。「ミラ。多分この調子じゃ、津波も起こると思うんだ。だから、島のポケモン達を背中に乗せて、安全なところに行って欲しいんだ」
「ええ、いいわ。でも、どうやってみんなを乗せるの?みんなに知らせないといけないんでしょ?」ミラが聞く。
「ケレチを使う。おいギロド、ケレチに伝えてくれ。島の東に避難するよう言いながら、島を飛び回れって」アッシュが頼んだ。
「おう、任せろ!」ギロドは言うと、向きを変えて加速しながら去っていった。
「どうして東なの?」ミラが聞く。
「今、ギロドは島の西から来ただろ?つまり、神どもは島の西側で争ってるってことだ。だったらその反対側、東側はより安全だって思ったんだ」アッシュは説明する。
「なるほどね。ワタシは、今から島の東側に行けばいいのね」ミラは頷く。
 荒れ狂う海の中、ミラは浮かび上がる。アッシュも続いて浮かび、水面に顔を出した。
「なんだこりゃ…」アッシュは呆然とする。
 海が針に刺されていた。空から降る大きな針が、次々と海を突き刺している。アッシュにはそう見えた。
「ワタシもこんな雨、初めて見たわ。海王神様のお怒りは、そこまで激しいのかしら…」ミラが呟く。
 ミラは、向かって右の方へと進んでいた。進む間も、雨音や雷鳴が絶え間なく鳴り響いていた。波も高めで、少しでも気を抜けば、流されることは想像に難くなかった。
 ふと、いつも入っている河口が目に入ってきた。アッシュの脳裏に、昨日モニカと話したことが蘇る。
「…なあ、ミラ」アッシュは声をかける。
「どうしたの?」ミラは反応する。
「昨日さ、モニカに言ったんだ。また会おうって」アッシュは静かに言った。
 ミラはアッシュをじっと見ていた。いたたまれなくなって、アッシュは言葉を続ける。
「分かってる。こんな雨の日だ。しかも、ケレチが島中飛んで、避難勧告を出してくれる。普通なら来ねえさ。でも…、あいつだったら、来る気がするんだ」
 ミラはじっとアッシュを見ていた。アッシュは、ずっと河口を見ていた。
「ワタシも、そう思うわ。可能性は充分あると思う。ワタシは島の東へ行くから、あなたはモロバレルの子の所まで行ってあげて」ミラは言った。
「ああ…!」
 アッシュは、一目散に河口へと泳ぎ進んでいった。
  ◇
「寒い…!」モニカは震えていた。
 川は明らかに増水し、雨はまともに体に降り注ぐ。もはや川底など見えず、濁った水が波打ちながら流れていた。先程から警告の声が聞こえ続けているが、モニカは従おうとせず、ずっとこの場所で待ち続けていた。
「アッシュ…まだかな…」モニカは呟く。
 モニカは下流の方向を見た。見えるのは、波打つ川面。木の葉や木屑なども時々混じって流れている。その狭間に、かすかに桃色が現れる。
「モニカぁーーー!」雨に負けまいと叫ぶ声が聞こえる。
「アッシュ!」モニカも叫び返した。
 小さな桃色はだんだん大きくなって、モニカの見慣れたラブカスの姿になっていく。
「モニカ!どうしてこんなところにいるんだよ!」アッシュは怒鳴った。
「ご、ごめんなさい。アッシュに会いたくて…」モニカはしょんぼりとする。
「あのな、さっきからペリッパーが飛んで警告してくれてるだろ?この島は危険かもしれねえんだ。原因はよく分からねえが、海王神と海洋神が大喧嘩おっぱじめて、そのせいでこうやって海が荒れてるんだ。だからよ、早く逃げたほうが安全なんだ」アッシュは言う。
「そうだったんだ…」モニカは納得して頷く。
「ったく、ここに来てよかったぜ。毎日って言ったけどよ、雨の日までとは言ってねえだろ?天気の悪い日は別に会いに来なくていいんだよ。こんなこと話してる場合じゃねえか。さ、早く避難してくれよ」アッシュは言った。
 モニカは動かない。俯いて、何かじっと考えているようだった。その腕は、心なしかわなわなと震えているように見えた。
「…アッシュ。喧嘩って、いつ止まるの?」突然モニカが聞く。
「それは分からねえな。イメージ的には、結構長く続くって感じがあるな」アッシュは曖昧に答える。
 モニカの目がアッシュに向けられる。その目を見て、アッシュは一瞬萎縮した。今までのモニカには無かった、決意に満ちた目だった。
「…アッシュ。わたし、喧嘩を止めたい」モニカは言った。
「…は?」アッシュは思わず間の抜けた声を出してしまう。
「ごめんね、アッシュ。わたしにも分からないの。なんだか、心の底から、黒いもやもやが出てきて。神様の喧嘩がすごく嫌で、それがあるだけで今日はいい気分で過ごせない感じがして。なんだか、わたし自身が介入しないとすっごい不足感を感じるの」モニカは懸命に説明する。
「…要するに、気に入らなくてイライラするんだな」アッシュは要約する。
「…そうだと思う」モニカは言った。
 アッシュはモニカをじっと見ていた。ずっと震えているその腕は、怒りによるものなのか。初めて見るモニカの本気の怒りに、アッシュは自然と納得していた。
「アッシュ!わたし、キノコのほうしっていう技が使えるの!当たったら確実に眠らせる技なの!いくら神様でもやっぱりポケモンだから、必ず眠ると思うの!でも、わたしだけじゃどうしてもできないの!だから、あなたに協力してほしい!お願い!」モニカは言う。
 アッシュは無表情にモニカを見ていた。
「わたし、アッシュを信じるから!だから、アッシュもわたしを信じて!」モニカは叫んだ。
 アッシュの口元が、大きく歪んだ。
「あの暗いお前が、そこまで言うようになったか。仕方のねえ奴だな。そこまで言われちゃ、断るにも断れねえじゃねえか。ちょうどオレも、神どもの動向は、気にいらねえって思ってたところさ。いいさ、一緒に神を止めようぜ!」アッシュは不敵に笑って言った。
「アッシュ…!ありがとう!」モニカはぺこりと頭を下げる。
「よし、決まったな。掴まれ」
 アッシュは言うと、川岸に近づいた。川の境目まで来ると、後ろを向いた。モニカは頷くと、両腕を広げ、2つの笠ではさむようにアッシュに掴まる。
 アッシュは岸から少し離れた。同時にモニカも動き、濁った川に飛び込む。冷たい水が体を覆い、モニカは一瞬震える。
「…仕方ねえことだが、すげえ泳ぎにくいな」アッシュは言う。
「ごめんなさい。わたし、泳げないから」モニカは申し訳なさそうに言う。
「いいって。こんな雨じゃ、いくら泳げる陸のポケモンでも、海は危険だ」アッシュは返す。
 遠くで轟音が鳴り響いた。雷鳴とは明らかに違う種類の音。聞きなれないその音に、2体ははっとする。
「…なんだ?今の音」アッシュが機械的に言う。
「えーと…あ、あれ!」モニカは山の方を向いて叫んだ。
 アッシュはモニカにつられて山を見る。島にそびえ立つ高い山から、川に沿って小さい石が流れていた。それは、高度を落とすたびに、そして近づくたびに大きくなっていき――
「土石流じゃねえか!やべえ、結構速えぞ!モニカ、悪いがしょっぱなからトップスピードでいくぞ!しっかり掴まってろ!」アッシュは叫ぶ。
「うん!」モニカは答える。
 アッシュは下流の方へと体を向けた。響き渡る轟音を背に、アッシュは泳ぎ始める。
「ひあっ!」モニカが小さな悲鳴を上げる。
 濁った水を顔に受けながらも、モニカはしっかりとアッシュに掴まる。離してしまえば最後、背後で悲鳴をあげている木々と同じ末路をたどることは分かっていた。
「どれだけでかいんだよ!思いっきり川幅超えてるじゃねえか!」アッシュが叫ぶ。
 泳いでいるうちに河口が見えてきた。アッシュはモニカの腕の感触を確認しつつ、体をやや右へ傾ける。
「モニカ!曲がるぞ!」アッシュは声をかけた。
 モニカから返事は無く、代わりに腕の力が若干強められた。
 河口に差し掛かると、アッシュは体を一気に傾けた。激しい水飛沫が円弧を描き、川から外れた所で停止した。それに続くように、巨大な岩が川から出現し、大きな水柱を立てて海に沈んでいった。
「ったく、とんでもねえな」アッシュは言う。
 モニカは何も言わなかった。アッシュを強く掴んだまま、1つ方向を見ていた。鳴り響く激しい雷鳴と波音が聞こえ、アッシュもその方向に体を向けた。
 無数の雷が落ちていた。無数の波が立っていた。無数の渦があった。そこだけ、雨が一層激しかった。そこで、2体のポケモンが向かい合っていた。
 1体は、青。海に沈むその体は、ホエルオーよりは小さいものの、その威厳と佇まいはホエルオーより上だった。魚が巨大化し、ひれが指のようになったようなポケモン。海王神カイオーガ。
 1体は、白。空に浮かぶその姿は、大きな渦の上にあった。大きな鳥のようであって、翼の先が指のように分かれているポケモン。海洋神ルギア。
 両者は同時に口を開いた。それぞれの口から、水と風の技が放たれ、互いに当たって相殺しあい、消滅する。
「……アッシュ。行こうよ」モニカが小さな声で言った。いや、周りがうるさくて小さく聞こえただけだろうか。
 モニカの手は震えていた。それは、先程までの怒りとはまた別のものだと、アッシュは感じた。モニカの精神の葛藤に、アッシュは思わず笑ってしまう。
「怖いのか?」アッシュは聞いた。
 モニカは答えなかった。ただ、前方で戦闘を繰り広げている2体の神を震えながら見ていた。そして、モニカも腕の先に違和感を覚える。
「……アッシュも?」モニカは聞き返す。
 アッシュの体も震えていた。それは、寒さのせいでもなければ怒りのせいでもないと、モニカでも分かった。
「まあ、な」アッシュは答えた。「正直、あんな中になんて行きたくねえ。神2体相手にできるほどオレは強くねえし、そういう自信もねえ。他の時だったら、一目散に逃げてるだろうさ。でもな、今は無理だ。オレを信じてくれてる奴がいるからな。そいつの前で、逃げたくねえ」
「アッシュ…」モニカもゆっくりと口を開く。「わたしも怖い。アッシュと同じで、あそこになんて、行きたくない。でも、逃げるのはもっといや。アッシュから神様の喧嘩のことを聞いたとき、もしかしたらって思った。もしかしたら…アッシュと一緒なら、止められるかもって。アッシュが言った、気に入らないっていうのもあったけど、大きな事をしたいって気持ちもあったの。そして、アッシュはわたしを信じてくれた。だから、逃げたいなんて言わない」
 アッシュとモニカは互いに震えていた。目の前に広がる、常識を超えた光景に恐怖していた。しかし、互いの存在が、前に進む勇気を与えていた。
「……いくぞぉっ!」アッシュは叫んだ。
「うんっ!!」モニカも負けじと叫んだ。
 アッシュは発進した。発進という表現がふさわしいほど、突発的に猛スピードで泳ぎ始めた。泳いだ後には飛沫とともに、小さな白波が立っていた。
 近づくにつれて雨が激しくなっていく。互いに技を放っている2体も、徐々に大きくなっていく。
「できるだけ近づいて!じゃないとキノコのほうしがとどかないから!」モニカは言う。
「分かった!やってみるぜ!」アッシュは叫んで答える。
 アッシュは気分が上がっていた。今感じている恐怖も、モニカへの信頼も、全てが相乗して笑いすら出ていた。雨が降っているおかげか、泳ぐ速度も普段より格段に上がっていた。
 アッシュはまっすぐ泳いでいた。神々の戦闘領域は、それほど遠くなかった。だが、簡単には入れないようだった。無数の渦と雷が、領域の壁のように周囲に点在していた。
 渦の流れは凄まじかった。アッシュの速度ですら、巻き込まれないようにするのがやっとだった。そのうえ、ロックオンしたかのような標準制度で雷が落ちてくる。これもまた、間一髪避けるので精一杯だった。
 ただ。2体は確実に回避していた。渦に巻き込まれかけるたびに速度を限界まであげても、雷に狙われるたびに直角に曲がっても、着々と神々に近づいていた。回避のたびに大きなアクションを起こすため、互いの安否を取り合うことも欠かさなかった。
「モニカ!大丈夫か!?」
「ええ、大丈夫!ちょっと雷がかすっちゃったけど、これ位なら問題ないわ!」
 これは、一種の勇気付けだった。互いの安否など、それぞれが触れている感触で分かるようなもの。しかし、あえて声を掛け合うことで、互いの心を支えあっているのだった。
 荒れ狂う渦と狙い済ました雷をある程度突破したとき、新たな課題が生まれた。
「お、大きい…」モニカは感嘆した。
 神々は、体のサイズが非常に大きかった。遠くから見ていたモニカは、それほど大きいとは思わなかったのだ。
 突然、アッシュの体が直角に動いた。またも雷が落ち、ぎりぎりのところで避ける。
「あっぶねえ!モニカ、大丈夫か!?」アッシュが叫ぶ。
「うん、大丈夫!それより聞いて!神様の体が大きすぎて、キノコのほうしがとどきそうにないの!」モニカも叫び返した。
「何!?そんなにでかいのか!?」アッシュは聞いた。
「ええ!晴れなら問題無いんだけど、こんな雨じゃ、胞子は舞い上がらないわ!上から振りかけないと!」モニカは言った。
「よし、なら…」アッシュは何かを言いかける。
 その時。巨大な風のエネルギー、エアロブラストが、アッシュとモニカのいる場所ぎりぎりをかすった。同時に大きな衝撃波が発生し、波が大きく荒れる。
「うおわっ!」
「きゃあっ!」
 2体はなんとか吹き飛ばされなかったが、その表情は更に険しくなる。
「参ったな。海に潜ってから、飛び出した勢いで上に行こうと思ったけど、これじゃいつ技が流れてくるか分からねえな」アッシュは言う。
「じゃあ…。2体ともおびき寄せて、一気に眠らせるのはどう?」モニカは提案する。
「いい案だが、どうやっておびき寄せるんだよ?神どもは喧嘩に夢中だぜ。ちっさいオレらなんか、どうして気にするんだよ?」アッシュは疑問を投げかける。
「ポケモンをおびき寄せる技も持ってるわ」モニカはさらりと答える。
「……そ、そうか」アッシュは思わず感心して言った。「つまり、神のポケモン2体に本気で追いかけられるっていう、貴重な体験ができるってことか」
 その場の空気が微妙になる。アッシュは乾いた笑みを浮かべていて、モニカは何も言わない。
「…いいか、モニカ。オレが合図したら、すぐにキノコのほうしを撒け」アッシュは突如言う。
「…うん。分かったわ」モニカも察して答えた。
 モニカはアッシュに掴まったまま、頭の笠を揺らした。笠の下から赤い粉が出てきて、モニカの体にまんべんなくまぶされた。それは、雨が降っているからといって効果の無くなるものではないようで、これまで聞こえていた戦闘音がぴたりと止まった。
「…来るぞ」アッシュは戦慄する。
 見れば、2体の神は目をこちらに向けていた。元々怒りに満ちていた目に、地味ないらいらが加わった、一般のポケモンならまともに見れないような目。
「すげえ効果だな。オレも結構いらいらするぜ。まあ、神どものあんな目を見たんじゃ、我慢しざるを得ないけどな。命の危険すら感じるぜ」アッシュの震えが増大している。
「ええ。そういう技だから…」モニカは申し訳なさそうに言う。
 目の前で、2体の神は大きく口を開けた。口内にエネルギーが収束していき――
「うおおおおおおっ!!」アッシュは絶叫した。
 アッシュが正反対の方向へ泳ぎ始めると同時に、凄まじい衝撃波とともに両サイドをハイドロポンプとエアロブラストが通り過ぎていく。そして、2体の神はアッシュとモニカを追いかける。
 その速度の差は歴然としていた。神2体が本気で追いかけているにもかかわらず、アッシュの本気の逃げが、それを遥かに上回っていた。
 両者の距離は見る見るうちに開いていくものの、技にはあまり関係がなかった。神の放つ技の射程は凄まじく、衝撃波と共にアッシュとモニカを襲っていた。だが、技の速さも凄まじいが、それを避けるアッシュの速さのほうがまだ上だった。飛んでくる技のエネルギーや気を瞬間的に察知し、的確に回避していく。右に、左に、真ん中に回避するたびに白波が立ち、危ないながらも安定した泳ぎを見せていた。
 やがて、アッシュは体を傾け、円弧を描いて180度ターンした。目の前には、技を放つ寸前の2体の神がいた。
「モニカ!海の中に潜るぞ!息止めてしっかり掴まってろ!」アッシュが叫んだ。
「うん!」モニカは腕の力を強めて答えた。
 アッシュは、小さな水柱をたてて海に潜った。それと同時に、海上で大きな衝撃波が発生する。海の中は非常に暗く、濁っていた。アッシュはそれを気にすることなく、深く深く潜っていく。そして海面を見上げ、上がって行く。海面に近づくにつれて速度を上げていき、海を飛び出した。
「ぷはっ!」モニカは息をついた。
 アッシュは、神2体のまさに目の前から飛び出していた。泳ぐ勢いに任せて空中に出た2体の体は、空中でも弧を描き、神々の上を滑空する。
「モニカ!今だ!」アッシュは叫んだ。
「それぇっ!!」モニカは頭の笠を全力で揺らした。
 アッシュの描く空中の弧に続いて、緑色の粉末が落ちていく。それは、神々の体にまんべんなくかけられた。弧を描く2体の体も、やがて勢いよく着水した。
 明らかに神々の勢いは無くなっていた。見る見るうちにその体は崩れ落ち、海に沈んでいく。
「やった!アッシュ、やったわ!」モニカは喜んでいる。
 しかし、アッシュの様子がおかしかった。体がふらふらしていて、海に浮いているのも辛そうだった。
「モニカ、すまねえ…。どうも、オレも浴びちまったみてえだ…」アッシュは言う。
「え?アッシュ?アッシュ!?」モニカは声をかけた。
 アッシュの体が徐々に横倒しになり、沈んでいく。モニカは懸命に声をかけるが、反応はなかった。
 そして。神々の体が海に沈んだ衝撃で巨大な水柱が発生し、大きな波が発生する。
「アッシュ!…きゃあ!」
 アッシュとモニカも波にさらわれる。横倒しのアッシュの体は掴んでいることもままならず、波の勢いで離してしまう。
「アッシ…げほっ!アッシュ…!」
 モニカの叫びもむなしく、アッシュの体は遠くへと離れていく。そして、荒れ狂う大波の中に、アッシュは消えていった。
「げほっ!アッ…シュ…」
 モニカの体もまた、大波の中へと吸い込まれていった。
 8
「…はあ」気の落ちた溜め息が聞こえた。
 モニカは川辺で佇んでいた。今まで会っていたラブカスに会いたい一心で、そこに立っていた。しかし、太陽は既に真上に昇っていた。アッシュが来る時間にしては、あまりにも遅すぎた。
 あれから1週間が経っていた。運良く島の浜辺に打ち上げられ、3日もの間眠っていた。その間、ネイトが付きっきりで看病していたらしい。雨が降る中、住処までモニカを運び、ほとんど眠らなかったらしい。
 回復してからは、モニカはずっと川に通っていた。しかし、アッシュは来なかった。これを、モニカは仕方が無いと自身に言い聞かせていた。モニカが目覚めてから、ずっと雨だった。雨だから来ないのだと思いながら、雨の日も佇んでいた。
 そして、今日。太陽が昇ってからしばらくして晴れ間が見え、葉から滴る雫さえきれいに見えるようになったというのに、アッシュは来なかった。
 水が跳ねる音がした。
「アッシュ!?」モニカは川を見渡した。
 アッシュではなかった。川の水が、川岸に当たって水音がしただけだった。アッシュがいない事実に、モニカの落ち込みは増す。
「…ここにいたんだね」聞き覚えのある声がする。
 モニカはゆっくりと後ろを見た。草花をかきわけて、ネイトがゆっくりとモニカの元へ歩いてきていた。
「最近、ずっと住処にいないものだからさ。心配してたんだ。朝来てもいないし、夜も遅くまで帰ってこないし。でも、モニカにも事情があったんだね」ネイトは穏やかに言う。
「…アッシュが、来なくて」モニカは小さな声で言う。
「アッシュ…ああ、前言ってた、ラブカスの男の子だね」ネイトは納得して頷く。
「もしかして、途方も無く遠くに流されたのかな…」モニカは呟く。
「分からないな。僕や島のみんなが見た限りでは、この島にラブカスは打ち上げられてなかったよ。海の中か、あるいは他の島か…だね」ネイトは言う。
「アッシュ…」モニカは再び川を見た。
 あの日とは違い、透き通るように澄んでいる川。以前まで、ここにラブカスが来ていたのだ。騒々しくて、積極的で、なにより心のより所となる彼が。
「つくづく、安心したよ」突然ネイトが言う。
「どうしたの?」モニカは聞いた。
「君とそのラブカスが、同じタマゴグループじゃなくてよかったって、安心してるんだ。もし同じだったら、絶対恋仲だったと思うんだ。僕も、好きにさせてなんて言われなかっただろうなって思ったんだ」ネイトは言う。
「…ええ。わたしも、そう思う」モニカは頷いた。
 モニカは、ここでアッシュに口付けした時のことを思い出していた。明らかに照れて、露骨に話題を変えた彼。その姿をかわいいと思ってしまったことは、アッシュには内緒だった。
「モニカ」ネイトが声をかける。「明日、なんだけどさ。多分晴れだと思うんだ。そしたら、海流の儀があるんだ。だから、行かない?」ネイトが聞く。
「海流の儀?あるの?」モニカは聞き返す。
「島のみんなの話によると、あるみたいだよ」ネイトは答えた。
 モニカは考え込んだ。海流の儀は、そもそも雨と海の喧嘩を表現したもの。それが行われるのは、その年に喧嘩が行われないことを願ってだとアッシュが言っていた。しかし、実際先日喧嘩が行われてしまった。果たして行う意味があるのかどうか、モニカは疑問に感じていた。
「…うん。行く」モニカは短く答えた。
 海流の儀。アッシュも参加すると言っていた。もしかしたら、会えるかもしれない。モニカはそう思っていた。何より、ひょっとしたら、練習で忙しくて来れないのかもしれない。モニカの中に、そういった望みが出てきていた。
 気が付いたら、ネイトはいなかった。モニカをそっとしておこうと思ったのか、声もかけずにいなくなっていた。
 それから、モニカはずっと川辺で立っていた。アッシュに会いたいという一心が、モニカをその場所に立たせていた。
 その気持ちは凄まじく。太陽がさらに傾き、夕方になり、夜になっても、モニカは住処に帰らずそこにいた。ずっと、川を見ていた。ずっと、立ち続けていた。
「…カ…ニカ…モニカ」体が揺らされている。
 モニカは目を覚ます。知らないうちに眠っていたようだった。きれいな月が昇り、空には明るみが見えている。
「時間が迫ってるよ。行こうよ」ネイトが言う。
 モニカは頷いた。ネイトは微笑み、先に進み始める。モニカも後を追った。
 ネイトは山に向かっていた。川に沿うように歩いていく。その足取りはゆっくりしているが、急いでいるようにも見えた。
 山は、それほど険しくなく、坂もゆるやかだった。木々や所々にある石に気をつけながら、2体はゆっくり登っていく。登りながら、モニカはちらちらと海のほうを見ていた。海は、あの日とは違って穏やかな一面を見せていた。空の光を反射してきらきらと光り、小波すら輝いていた。
 それほど疲れないうちに頂上が見えてきた。モニカとネイトの他に、たくさんの森のポケモン達が集まって、海流の儀の開始を今か今かと待っていた。
「モニカ、海を見てごらん。もうそろそろ、始まるよ」ネイトが言う。
 頂上に着いたモニカは、改めて海を見た。木々の間から、太陽が地平線に見えかけていて、海の輝きが更に増していた。砂浜から少し離れたところには、海のポケモンであろうと思われる影が見えていた。
「アッシュもいるのかな…」モニカは呟いた。
 モニカの呟きを狙ったかのように。海から1つの小さな水柱が立ち、空中ではじけた。
 それを皮切りに、次々と水柱が立っていく。最初に立ったところを中心に、リズミカルに水柱が立つ。1つ、また1つと、空中ではじけていく。
 続いて、少し太い水柱が立った。斜めに打ち出されたそれは、大きなアーチを描いて空中で消える。さらに反対側からもう1つ飛び出し、2つの水柱は交差する。
 次に、大きな水柱が海から飛び出した。それは生き物のようにうねりながら、海に着水した。
「きれい…」モニカは呟く。
 水柱は段々と高くなっていた。右から、左から、正面から、様々な角度で水が噴き出される。明らかに水ポケモン達が噴き出したものだというのに、その中にアッシュの姿を見つけることができない。遠すぎて見えるはずがないのに、モニカは水柱を見ながら、影を1つ1つ観察していた。
 水柱が1つ立った。その両サイドに、1つずつ水柱が高さを増して立った。それが何回も繰り返され、水柱で大きなVの字が形成される。そこに、影の中でも1番大きなものが大きく水を噴き出し、Vの字を装飾する。
 そして、その下方から、桃色の輝きが見えた。それは、ゆらゆらと漂いながら上昇していき、Vの字の根元で大きくはじけた。はじけた直後、大きなハートマークが空中に浮かび上がり、輝きながら消えていった。
「あれは…」
モニカには、確かに見覚えがあった。大きさは全く違う。しかし、以前見たものと同じものだという確信があった。
「アッシュ…!」
  ◇
 モニカは飛び出していた。いても立ってもいられなかったのか、体を今までになく跳躍させて、頂上から飛び出した。後ろから誰かの止めるような声がしていたが、モニカは振り返らず、一心に前を見ていた。
 山は非常に危なかった。登るときは、坂で少々疲れただけだったのに、下るときは、立ちふさがる木々が邪魔をしていた。坂の勢いを借りて凄まじい速度で下るモニカに避けられるはずも無く、衝突する。顔を上げ、痛みを振り払って再び下るも、またぶつかる。それでも、モニカは顔を上げ、痛みをこらえて下った。
 木にぶつかることはなくても、下り坂はモニカには苦しかった。足が無いため、飛び跳ねて進むしかない。結果、着地の仕方を失敗してつまずき、横倒しになって転がってしまう。大きな悲鳴をあげるがどうにもならず、坂のなすがままに転がっていく。
 幸運にも木にぶつかることはなく、山のふもとまでずっと転がっていた。山のふもとでやっと止まったモニカは、すぐには起きられず、横たわっていた。
 しばらくして起きあがったモニカは、目を回していた。顔を青ざめさせながらも、モニカはかなりの速度で跳ねていく。
 いつもいる森のはずだった。いつもいる大地のはずだった。しかし、そうは思えないほど海までの距離が長く感じていた。体中を痛みで覆いながらも、顔をくらくらとさせながらも、モニカは進んでいく。
 草は静かにしなっていた。土は何も言わず舞い上がっていた。モニカに踏まれても、彼女に害をなすことは無かった。
 しかし。ダメージが大きすぎたのか、モニカはついに止まってしまう。呼吸は激しく乱れ、体中についた傷が痛々しい。顔は赤く腫れ、小さな声で呻いていた。
 モニカはゆっくりと前を見た。遥か向こうに見える地平線から、太陽が昇りかけている。モニカは両腕を大きく広げ、目を閉じる。すると、体中が光り輝き、大きな光を放った。みるみるうちにモニカの体の傷は癒えていき、顔の腫れも引いていく。
 やがて光は収束し、モニカの体から光が消える。モニカ目を開き、前を見た。先程までの苦しそうな表情ではなく、行くべきところに行くための表情だった。
 モニカは再び進み始める。心なしか、さっきより速くなったように感じられる。草は音を立てて折れ曲がり、土は砂煙を上げる。目指すのは、ただの1点だった。
 次々と過ぎていく木々。だんだんと近づいてくる海、そして地平線。ひたすらに跳ね続け、木のトンネルを抜ける。
 辺り一面、砂だった。この島に長いこと住んでいながら、モニカは砂浜にあまり来たことがなかった。白い砂が果てしなく敷き詰められている光景を目にして、モニカは一瞬目をとられる。
 すぐに我に返り、海に目を向けた。そこには。
 海流の儀は既に終わったはずなのに、大勢の海のポケモン達がいた。砂浜の浅瀬から少し離れた沖のほうで、何かを待っていたかのように。
 海のポケモン達は、モニカの姿を確認すると、全員がにこりとした。その群生は左右に割れ、1つの道のようになった。
 道の先には、ホエルオーがいた。大きく目立つその体のふもとに、見覚えのある桃色があった。
 モニカは思わず、1度跳ねる。
 桃色は、海のポケモン達が作った道をゆっくりと泳いできていた。どこに行くでもなく、まっすぐ一点を目指して。
 モニカもまた、進んでいた。ゆっくりと、1回ずつ跳ねながら。どこに行くでもなく、まっすぐ一点を目指して。
 やがて。海岸の浅瀬まで近づいてきたアッシュは、不敵な笑みを浮かべてウィンクした。
 モニカは、体を震わせながら大きく跳ねた。円い跡を作りながら猛スピードで進み、海に飛び込む。ぎりぎり立てる海底を跳ねながら、勢いよく正面からアッシュに抱きついた。
 アッシュの顔が真っ赤になる。モニカは1度抱擁を解き、険しい顔でアッシュに問いかける。それに対して、アッシュは苦笑して答える。
 モニカはじっとアッシュを見ていた。アッシュもモニカをじっと見ていた。アッシュは俯き、小さな声で短く何か言った。モニカは小さく答え、再びアッシュに抱きついた。
 突如、歓声が聞こえた。海のポケモン達が、喜びの声、からかいの声をあげていた。モニカもはっと何か気付いたようで、しきりに照れながらもアッシュに抱きついていた。アッシュもまた、照れながらモニカに体をゆだねていた。
 とあるサメハダーは、爆笑しながら海上を何度も旋回していた。とあるペリッパーは、素直に喜びながら空を飛んでいた。とあるホエルオーは、集まった中でも1番喜びながら、大きく潮吹きをした。
 吹き出された潮は空に大きく舞い上がり、昇ったばかりの太陽に照り付けられる。離散して水滴となり、空中で瞬時に蒸発した。水分が蒸発したばかりの空間に太陽光が当たり、巨大な虹が誕生する。
 海は更に盛り上がる。アッシュとモニカも、できあがった虹をじっと見ていた。
 モニカは抱擁を解く。そして突然、笑い出した。急にこみ上げてきた笑いにこらえきれず、モニカは笑った。アッシュもつられて笑いがこみあげてきて、一緒に笑った。
 巨大な7色の橋のかかった島で、アッシュとモニカは嬉しそうに、そして幸せそうに笑っていた。

 END
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 あとがき
『その邂逅は、1つの友情を生み出し、物語を紡ぎ出す。
 種族を超えた絆の織り成すジュブナイル・ロマンス』
 こんな表明文を投下してから3ヶ月。やっとこさ、作品を投稿することができました。
 というか、最後の更新から既に10ヶ月も経ってました。執筆ペースは最悪ですが、失踪する気はないです。今も失踪同然だけど。
 
 作品について
 自分でも、どうしてこんな物語を思いついたんだろうってびっくりしてます。キャラクター的な意味でも、内容的な意味でも。
 構想時期はお団子エッジと同時期なんですが、ちゃんとした物語の骨組みが出来上がるのはこっちが遅かったです。
 難点としては、海や島といった広い舞台を扱っているにも関わらず、舞台の広がりやその他大勢の様子が分かりにくかったことです。欠点が分かってても、表現方法が分からないです。
 
 キャラクターについて
 綴りはそれぞれ『Asch・Lovdisc』、『Monica・Amoongus』。熱い気性の男の子と暗い女の子のやりとりを僕なりに表現しました。
 海をかなり速く泳げるラブカスと、いい表情じゃないモロバレルを笑顔にしたくて、こんな組み合わせにしました。
 ほぼまったく接点のない2体がひょんな偶然から出会い、なんだかんだで友達になる。照れたりとかさせたかったので、異性にしました。抱きついたり、口付けしたって絶対に恋には発展せず、親密な友達になる関係はこれしかありません。
 その他、ホエルオー、サメハダー、ペリッパー、ラフレシアなど、僕の色が出たチョイスになりました。

 読んで下さってありがとうございます。コメント、アドバイスなどがあればよろしくおねがいします。
#pcomment(熱くて気弱なコメントログ);
 
IP:124.37.140.170 TIME:"2013-07-11 (木) 09:08:13" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?guid=ON" USER_AGENT:"Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 5.1; Trident/4.0; .NET CLR 1.1.4322)"

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