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暗中飛躍っ! の変更点


作[[呂蒙]] 

 ここは、セイリュウ国・国会議事堂内のとある一室。ここでは来年度の予算を決める委員会が開かれていた。ここで協議してある程度の合意が得られれば、議会へ送って本格的に審議がされ、多数決で決めて、上院議会へ送る。というわけだ。
 しかし、何やら議論がスムーズに進んでいない様子である。もっとも、シュゼン=ギホウ率いる最大野党が一たび抵抗すればこうなるのは珍しいことではないのだが。
「大臣、この写真見覚えありますか?」
「ございます……」
 予算ではなく、大臣の不正疑惑についての追求が行われていた。質問をしているのは前外相のカジュウ=コウリョ。シュゼンの側近である。そしてどこからかこのような情報を持ち出し、失脚に追い込まれた議員もいる。実に情報の集め方が巧妙で、どのような手段を使っているのか知る者はいない。それでいてガセネタがないので、敵に回すととんでもなくたちが悪い。
 厳しい追及が一段落したところで、本日の委員会は終わった。
(ふん、あの大臣も長くは無いな……)
 手ごたえを感じたカジュウは書類をまとめて、委員会室を後にした。
「おーい」
「おや、これは総理、じゃなかった総裁」
 下野したとはいえ、何故か口癖で「総理」と言ってしまう。シュゼンが呼び止めてどのような感じだったかを聞く。
「ええ、答弁もしどろもどろでした。あと一押しですね」
「おお、頑張ってくれよ」
(ふぅう。頼もしいが、敵に回したら怖い男だな)
 シュゼンは自宅に戻って鞄をソファに投げた。といっても、これで仕事は終わりではない。来客があり、政治とは別の打ち合わせをして、ようやく解放される。
(やれやれ)
 グラスに水を注いで、それを飲み干すと少し楽になった。
「お疲れ様です。先ほどの来客はどういった用件で?」
「あ、エルレイド。なんか、小学校の開校50周年とかで、航空写真を取る式典があるから、その際に祝辞を言って欲しいんだとさ。まあ、引き受けたけどな」
 イヤとか言うと、自分自身の評判が悪くなるし、それに国会での議論よりもこっちの方がはるかに楽だ。

 別の日のこと。党本部での話があるためシュゼンはそれに出席した。しかし、その日は朝から頭痛がしたので医者に処方してもらった薬を飲んでいたため、眠気を催してしまい、どうにも話が耳に入ってこない。若くやる気のある議員の発言が終わる。
「と、言うことで、いかがでしょうか? 総裁?」
(うーん、まずいなぁ。眠い……)
「総裁? 寝ちゃだめですよ?」
(寝てないよ、もう……)
 この日のシュゼンにはいつもの精彩がなかった。体の調子が悪いのでしょうがないといえばしょうがないのだが、どうにも体が言うことを聞かない。
「総裁? どうされました?」
「総裁は、体の調子が悪くて、今朝病院に行かれたんだ。こういう時に意見を求めなくてもいいだろう?」
「ありがとう、カジュウ君」
 カジュウがそう言ったので、司会役の議員は「それはそれは、どうかお大事に」と言ってくれ、他の議員たちの協力もあって、予定よりも早く終わった。しかし、シュゼンには気になることがあったので、カジュウを呼びとめた。
「何で、病院に行ったって知ってるの?」
 顔色やしぐさで体の調子が悪いことは分かるかもしれないが、病院に行ったことまでは分かるわけがない。すると、カジュウは背広のポケットから一枚の写真を取り出した。
「こういう写真が出回っていたので、独自のルートで入手したのですよ」
 その写真には、病院から出てくるシュゼンの姿が写っていた。角度からすると、相当高い位置から取ったに違いない。ラクヨウはビルが立ち並ぶエリアが多いので、恐らくその一室から取ったのだろうと思った。その日、シュゼンは家に帰ってその日は誰にも会わずに、ゆっくりと休んだ。

 今日は件の式典の日である。小さな子どもたちが、小ざっぱリした格好をして、校庭に並んでいる。パイプ椅子に座ったシュゼンは、生徒たちを眺めながら、生後間もなく母親と死に別れた自分の長男、カンネイの事が脳裏に浮かんだ。男手一つで、よくまぁ、あそこまで大きくなったもんだなぁ、そう思ってしまう。首相になった時「独身の首相」というので話題になったが、それについてシュゼンはコメントを出すことを極度に嫌がった。マスコミなんて、何でも知ってるような顔をしてニュースを流すけど実際は何も知らないんだな、そう思ったものだ。
「え~、それでは、セイリュウ国前総理大臣、シュゼン=ギホウ先生よりお言葉を……」
 司会に促され、半ば決まり文句のような祝辞を述べた後、撮影が始まる。が、シュゼンはあることに気付く。航空写真と言えば、セスナ機やヘリコプターが上空を旋回して、パチリとシャッターを切る、そういうものだと思っていた。が、それらしいものは上空には見えない。やがて空にきらりと光るものが見えて、撮影終了となった。
「え? 終わり? セスナとかが飛んでくるんじゃないのか?」
 すると、横にいた校長が答えてくれた。
「ああ、あれは最近、始まったサービスなんです。セスナやヘリは墜落や転落といった危険が付きまといますからね」
 そう言うと、一枚のパンフレットを見せてくれた。そこには「HGPサービス・格安の料金で新しいサービスを始めました」とある。
 HGか。PはともかくHGはどこかで見たような気がする。シュゼンは考える。何だか一昔前にそんな芸能人がいたような気がしないこともない感じかもしれない。まあ、ある人物に聞けば一発で分かるだろう。シュゼンはこのパンフレットを持って帰り、ギャロップに見せた。
「ん~、あ~、あれだろ? 空を飛べるポケモンにカメラ持たせてやるやつだろ?」
「へ~、そんなのがあるのか、知らなかったなぁ……」
 そしてあるところに電話をする。電話をした先は、先輩のシュウユの携帯電話。
『おお、どうした?』
「いえ、実は面白いビジネスに出会ったんで、ちょっと情報を提供しようかと……」
『ほう?』
 案の定、食いついた。「経済界の虎」の異名を持つシュウユである。興味がないわけがない。説明を始めると、すぐにこんなことを言ってきた。
『ん? それうちの会社だぞ?』
「え? HGPとは何です?」
『HAKUGEN GROUP PHOTOの略だ。あ、そういえば、私が会長になった時にロゴのデザインを変えたんだ。言ってなかったな。いやぁ、悪かった』
「あ、そういえば、自分が初当選した時はまだ社長でしたね」
『ああ、懐かしいなっとそろそろ会議なんで、これで失礼するよ』
 シュウユは電話を切った。いやはや、シュウユ先輩は新しいビジネスを生み出し、軌道に乗せることに関しては右に出る者はいないなぁ。そう思ってしまう。まあ、創業家出身ゆえの苦労もあるだろうが。そうか鳥ポケモンか。カンネイにも話してやるか。

 次の日、夕方シュゼンはカンネイに話した。しかし本人は知っているようであった。よく考えてみれば、若い世代の方が、ポケモンに関しては詳しいのだ。
「でもな、それは欠点もあるんだぜ」
 ギャロップがそんなことを言う。タイプの関係上、雷や吹雪といった悪天候の日はだめらしいのだ。しかしそれは人間もだろう。しかしじゃんけんの何十倍も複雑なタイプの有利不利はシュゼンにとっては難しすぎた。ひとまず実験で身近なところからっと。
 ジョッキに注いだ水を、ギャロップにぶちまける。
「なっ、何すんだよ!」
 驚いたギャロップは、必死で水を落としている。
「あ~、なるほど、炎タイプは水に弱い、と」
「そんなこと試すまでもないだろ!」
「私としば漬けみたいなものか。なるほど」
「好き嫌いかよ、まあ、当たらずも遠からず、だな」
「では、私のようにタイプが二つになるとどうなりますか?」
 言われてみれば、エルレイドはエスパータイプであり、格闘タイプでもある。
「ううむ、タイプが二つってことは何か良さそうな気もするけどな」
「言い換えれば組み合わせ次第によっては、弱点の数が倍になるわけですから、注意が必要です」
「ははあ、なるほど……。しっかし、先輩はすごいなぁ。会社でもポケモンを働き手として本格的に雇っているらしいから。分野によっては人間よりも活躍しているらしいぞ」
「だろうな」
「これから先、マスコミが目をつけたとすれば、同じ手でスクープ写真を取ろうとしてくるかもしれませんね」
「父さんも公人なんだから、気をつけないとな」
「まあ、エルレイドやギャロップがいるから大丈夫だろう。それにポケモンを入手するルートなんてごくわずかだから、そう簡単にこの手のやり方が増えるとは思わん」
「そうかぁ?」
(それにしても、飛行タイプか……。正直苦手……)
 シュゼンは出かけて行った。目指すはラクヨウの行きつけのバー。ここで一人でビールとシーザーサラダ、フィッシュアンドチップスを食すのが楽しみとなっている。
 料理が運ばれ、ビールを飲む。が、最近仕事が忙しく自分の知らぬ間にストレスがたまっていたようで、いつも以上に多く酒を飲んでしまった。もはや足元はふらふら。それでも何とかタクシーに乗り込み家までもどり、そのまま寝てしまった。

 翌日、シュゼンは頭が痛かった。どうやら今度は飲み過ぎが原因らしい。しかし、今日も党本部での会議なのだ。総裁が二日酔いを理由に休むことなど許されない。
 どういうわけか、こういう時に限って議論が白熱する。大になった声が頭に響く。しかし、黙れとは言えるわけがない。我慢して乗り切る。
 会議後、カジュウが話しかけてくる。
「昨日はお酒を良く嗜まれたようで」
「あ、うん」
 内心、何で知っているんだ、と言いたくなってしまう。おまけに鳥ならば夜はダメなはずと踏んでいたのだ。カジュウは敵対グループのみならず身内の情報も良く知っている。前法務大臣の法孝直も結構酒に関しては注意されているらしい。
「しかし、プライバシーのことは全く知りませんし、こちらが羽目を外しそうなところで、ああやって注意してくれます。そのせいか、うちの幹部連中は特にやましいことはありませんよね。それはそれでいいんじゃないでしょうか?」
「そう言われてみればそうだなぁ」

 カジュウはその後、ラクヨウのマンションの一室に入った。ここが仕事場というわけだ。彼には妻子がいるが、地元からラクヨウまでは距離があるため、国会が開かれている時期はここに滞在している。
「おぅ、昨日のはあれでよかったか?」
「ああ」
 部屋の中にはドンカラスがいた。名前通り、威圧感たっぷりのポケモンである。
「けど、総裁のことについてはあそこまでしなくてもいいだろ?」
「今、自分も含め幹部連中が失態を犯せば、ウチの勢いはそがれてしまう。まあ、総裁に関して言えば、ほどほどでいいさ。しっかりした方だし」
「しかし何で夜にしかやらなくていいんだ?」
「昼は国会だからな。それに、夜なら鳥に上から狙われるとは思わないだろう。ポケモンの事をよく知らなければ、鳥=鳥目=夜は動けないという式しか成り立たないからな」
「ふん、つくづく感心するよ。カジュウの情報集めの熱の入れ方はな」
「正確な情報ってのは、強力な武器だ。情報を握った方が有利だ。情報戦は情報を集め、握り、それを操作することだ」
「で、例の大臣の奴はどうするよ?」
「なんだかんだで協力してくれるんだな」
「なんつーか、刺激? 刺激だな。こんなスリルを味わえるんだからな。こんな小部屋にいるよりずっといい。今夜探りを入れてみるぜ?」
「ああ頼む」

 数日後、例の大臣は辞任した。カジュウはその日はドンカラスを連れてケンギョウのとある部屋にいた。
「あなたも大変ですな」
「いいえ、これも部下の務めです」
「私が言うのもなんだが、シュゼン君は返り咲きを狙っているようでね、ぜひ協力してあげてください」
「もちろんです。シュウユ会長。あ、それと、御社のカメラと望遠レンズはこれからも愛用させていただきますので」
「こちらこそこれからもよろしく頼みます」
 そう言って両者は握手をした。

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