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守護の力 十一、十二話 の変更点


written by cotton 



十一, 翼と氷


昨日止んだ筈の雨はまた降り始めた。より大きな雨粒は、二匹と地面を叩きつける。 
俺達飛行タイプの羽根はデリケートだ。これほど大きな雨だと上空から捜すのは不可能となる。無論俺も例外ではないのだが。 
だとすれば、地上での捜索が主になる。足音は雨音にかき消されるため、気配を感じることも困難となる。 



「遠いなぁ…」 
今来た道を振り返るロヴィン。だが、その足跡は闇の中へと続いているだけだ。 
未だ目的地は見えない。これだけ歩いたのは初めてだろう。最後になるかもしれない任務は、今までで最も過酷なものとなった。今まで護っていた空がこんなに遠い存在だったなんて、思ってもみなかった。 



『目標を発見、捕縛に当たります!』 
念力による連絡が彼女の元に届く。 
「…了解、直ちにそちらに向かいます」 
ため息を一つ吐き、彼女は走り出した。 
ー翼の元へ。 



「覚悟してください、ディフさん?」 
「チッ…!見つかったか…!」 
後ろから呼ぶのは紫毛をもつ守護者、エーフィだ。躊躇うことなく戦闘の体勢をとる。 
「"聖女"か…」 
「強いって噂だけど、どうなのかしら?」 
力を額の紅玉に込める。 
「日の念:念力…」 
「空翼:エアスラッシュ!」 
少女は、雨が降り続く森の中をヒトリで駆ける。 
ーディフ…どうして…? 
理解できなかった。彼が使命に背くなど。任務から帰って来ないなど。 
遠くで音が聞こえた。戦いが始まったらしい。目指す彼は、近い。 
彼女の額の"氷石"が鋭く光る。あの日の傷は、今も深く刻まれている。 
雨粒は体を掠めて、後方へ次々と消えゆく。走る度に足元の水溜まりが跳ねる。 
そんなものを気にもせず、少女はただ走る。 
ー見つけた。漆黒の中、白銀の光。 



「ディフ…!」 
「…!?レーシャ…?」 
横たわるエーフィと、彼の姿がそこにあった。 
「申し訳、ありません…隊長…。私ではとても…」 
「…後は任せて」 
頷き、彼女はゆっくりと場を離れた。 



「ディフ…どうして…!?」 
厳しい目でレーシャは問う。 
「…俺は誓った。こいつを護り通す、と」 
ロヴィンは、今まで見たことがない状況に困惑の表情を浮かべる。 
「…理由になってない。守護の使命を破って、何が"誓い"なの?」 
呆れたようにため息をつき、問いを続けた。 
「もう隊には戻れない。だったら、最後だけは自分の誓いを守りたい。それだけだ」 
「…で、その"誓い"とやらを守った、その後はどうするつもり?」 
「さぁな…。この任務を終えてから決めることにする。…つーことで、通してくれねえか?」 



「冗談じゃない…!」 
右手を勢いよく降り下ろした。怒りを、悲しみを振り払おうとするように。彼女がここまで感情を露わにするのも珍しい。 
「…誓っただろ?お前の前でも」 
一度深呼吸をし、さっきまでの厳しい目に戻った。 
「…そこまで言うのなら試してあげる」 
辺りが眩しく光った。少し遅れて、轟音が鳴り響いた。 
「その"誓い"が、どれほど強いものなのか、を」 



十二, 翼と氷 ~over~


「氷花:霰」 
天を仰ぎ、そっと息を吐く。弾けて消える雨粒は白い欠片と化し、地面に叩きつけられる。彼女の姿はその中に溶け込んだ。 
霰の中、眼を凝らして彼女を探す。 
「…そこだッ!!」 
僅かに欠片が揺れた。その方向へ空翼を放つ。 
"雪隠れ"とはいえ、その技は何度も見ている。彼女の場所など簡単に把握できる。 
「…甘い」 
「…!?」 
声が聞こえた、と同時に、放った筈の風の刃は自身を切り裂く。 
霰の中には、ヴェールに包まれた彼女。 
「何…!」 
「氷鏡:ミラーコート。あなたの戦法なんて、お見通しよ」 
ヴェールを解き、彼女の姿はまた風景に溶けた。 
「さすがに、簡単には行かせてはくれねぇか…」 
降り続く霰が体力を奪う。できるだけ早く決着をつけたいが。 
「…どこ向いてるの?」 
「…ッ!?」 
後ろ…!?振り向くと、彼女はすぐ近くまで迫ってきている。爪を構え、ただ一点を狙いすまして。 
「鋼翼…ッ!」 
翼に爪が触れた瞬間ー 
「氷舞:アイシクル」 



「ディフ…!」 
翼は、右肩は、氷に覆われていた。 
「何…!?動けねぇ…?」 
「決着ね。氷舞は触れた者を氷づけにする技。…待ってたよ。あなたを越える日を。…さて、と…」 
背を向け、ロヴィンの方へ歩いてゆく。 
「これはそのために開発した技。いつまでも昔の私だと思わないで」 
あまりに呆気ない敗北。氷花の効果が切れたか、欠片はまた雫へと姿を変えた。 
「待て…!」 
「安心して。あなたには止めはささないで"あげる"から」 
そう言い、ロヴィンの目の前で立ち止まった。 
「何するつもり…?」 
さっき使った時と同じように、彼女は爪に冷気を纏い始めた。 
「こっちも任務だから、ね。あなた達を捕縛する、それが目的…」 
「させないよッ!!」 
突然声を張り上げ、同時に構えた大牙を紅蓮の炎が包み込んだ。 
「虹牙・紅ッ!!」 



「くッ…!?」 
苦手とする炎:炎の牙を叩き込まれ、苦痛で彼女の表情が歪む。 
牙は炎を防ぐことはできなかった。だが、熱を帯びていたのだろう、張り付いたそれらは薄く、フィルムのように剥がれ落ちた。 



やっと彼を越えられる。 
それは、ただの思い込みだった。やっぱり私は、いつまでも護られる存在でしかないのだろうか。詰めが甘いのはいつものこと。特に今回は彼に勝つことで頭がいっぱいだったんだろう。 
少女は彼の元へ駆ける。翼を覆う氷は、噛み砕かれて散った。 
自分の無力さが情けなかった。彼を神々しい光が包んでゆく。その様子を無力な自分はただ見ているしかなかった。 
ー神翼:ゴッドバード…!! 



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気になった点などあれば。
 
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