Writer:[[&fervor]] ---- 太陽は、地の底へともぐっていった。月が、地の底から飛び出してきた。 天に敷かれた黒の絨毯の上には、無数の小さな星の光の粒が。 その下で、座ってそれらを眺めている僕。時たま吹く風は、僕の尻尾を軽く揺さぶって流れていく。 僕だけが知っている、僕だけの場所。遠くまで見渡せる、小高い丘の上。 僕はここで、この光たちを独り占めにするんだ。今日もまた、光たちが僕のために輝いてくれる。 昔は、いつも空ばっかり見てたけど。今は違う。 …変わっちゃったから。色々と。 …変えちゃったから。彼らが。 …ニンゲンたちが。 ---- 昔、僕はあの辺りで生まれた。…今はもう、どこだかは分からないけど。 五つの卵から生まれた、一匹のデルビル。それが僕だった。僕らはあの森で命を貰って、あの森に育てられて。 幸せな生活だった。僕は、僕らは、それがずっと続くんだって思ってた。 森だって、大地だって、太陽だって、月だって、星だって、他のポケモン達だって。 …ニンゲン達が近くに来て、住み始めた。 それからだった。森が、生活が、命が、壊されていったのは。 僕達も例外じゃなかった。僕の兄弟の内、二匹はニンゲンの「トレーナー」っていう人に捕まった。モンスターボール、って言ったかな? 一匹はどうなったか知らないけれど…もう一匹は、帰ってきたんだ。正確には、「捨てられた」らしいけど。 ひどく弱ってて。無理やり戦わされたって言ってた。…そのまま、彼の命は消えていった。 なんでも、「トレーナー」からすると、「強くない奴は要らない」んだそうだ。 その後、森はどんどん減っていった。僕らの住処も、えさも、全部。 ニンゲン達は「キカイ」を使って、木をなぎ倒して、土を掘り返して。森を、文字通り「消して」いった。 何匹ものポケモンが、彼らに抗ったんだけど。「テッポウ」って道具が、それを許さなかった。 それは、速くて、強くて。…一瞬で、命を消せる。 ポケモンには―もちろん、ヘルガーに進化していた僕達でも―、どうしようもない代物。 僕らはただ、黙って見ているしかなかった。彼らのわがままな行動を。 やがて、元は森だった場所に、変なモノがたくさん建ち始めた。聞くところによると、ニンゲン達の住処らしいけど。 彼らはたくさんえさを育て始めた。僕らの生活も苦しかったから、きっと僕達にも分けてくれると思ってた。 二匹とも、そのえさを取りにニンゲン達の住処へ向かって行った。 …僕は、一匹になった。 …勝手だ。ニンゲンって。ニンゲンだけが使える「力」を使って、好き放題。 あんなに美しかった森を消して、彼らだけのための、変な形の住処を作って。 自分達のために、他の命を奪いつくして。…訳分かんないや。 少なくとも僕は―いや、多分この森のポケモンはみんな―ニンゲンが嫌いだ。好きになれる訳、ない。 でも、一つだけ。たった一つだけ、僕はニンゲンに感謝してることがあるんだ。 それは夜、まさに今、彼らが僕にくれている、贈り物。彼らが作り出している、すばらしいもの。 ――地に煌く、星の数々。 ---- この丘から見下ろすと、たくさんの星達が、地面の上で輝いているのが分かる。 お昼に見えていた醜いモノは闇に呑まれ、星の光だけが僕の瞳に届く。 そのいくつもの粒が集まって、ひとつの大きな光に、星に。 天に落ちている星よりも、明るく、強く。 地から飛び出してきた月よりも、小さく、多く。 昼を照らしていた太陽よりも、広く、優しく。 僕のために、星達は今日も輝きだしている。 「綺麗」?「美しい」?…そんなのじゃなくて。 そうだなぁ…うーん…。 …「命」。この言葉が、しっくりくる。 地の星達は、動いたり、瞬いたり、変わったり。 弱くなって、消えていく星もあれば、新たに増えていく星もある。 …ほら、生き物みたい、でしょ? それにさ。こんな話を、いつか、どこかで、誰かから、聞いたことがあるんだ。 「命っていうのは、尽きたとき、星になる」って。 「星が消えたとき。それは、命になったんだ」って。 「天に輝く星々は、命の生まれ変わりだ」って。 ニンゲン達が作る、あの星達は、きっと。…きっと、犠牲になって、消えていったポケモン達。 彼らの、「命」の輝き、じゃないかな? 僕は、そう思うんだけどな。 ---- しばらく瞼を閉じて、彼らの声を聞いてみる。瞼の裏では、瞳に焼きついた命達が、なおいっそう輝いている。 僕の身体(からだ)をなでる風が、たくさんの音を運んでくる。静かに、ゆっくりと、慎重に。その音を壊さないように、そっと耳を澄ませていく。 ニンゲン達が作る、さまざまな音。それはまるで、鳴き声のようにも聞こえる。 …これが、彼らの声。…違う? 再び目を開いて、今度は彼らの動きを眺めてみる。 相変わらず、星達はそれぞれに「生きて」いる。…せわしなく、目まぐるしく。 …あれが、彼らの生活。…違う? こんなこと、考えてるとさ。なんだか、本当に、彼らに近づけた気がして。会えた気がして。話せた気がして。 ちょっぴり、嬉しくなる。 ――ひとつ、またひとつと、星は消えていく。 「わあ、おめでとう!…6匹?」 彼女の生んだ卵から出てきた、小さな小さな生き物。 「ええ。私の子供。…新しい、命たち」 彼女はその喜びを、しっかりと噛み締める。 ――ひとつ、またひとつと、命は増えていく。 ――ひとつ、またひとつと、星は増えていく。 「逃がすなよ!とにかく撃て!!」 幾度と聞こえる破裂音。消えていく命。僕は、それに懸命に抗う。 「うおぉっ!あちぃ!…こいつ、火を!…痛えっ…!!」 彼らの去った後に落ちているのは、命の抜け殻。 ――ひとつ、またひとつと、命は消えていく。 ---- 再び風が流れていった。…僕の記憶を、過去の出来事を乗せてから。 …なんか、寒くなっちゃった。…ちゃんと消せば、大丈夫、だよね。 近くにあった木の枝を寄せ集め、それにそっと火を灯す。 下の星達は、まだまだ元気に光り輝いている。より激しく、蠢いている。 隣で僕を照らす炎よりも、暖かく、活きて。 …風が、今度は一つの破裂音を運んできた。 逃げなきゃ。走らなきゃ。…だけど、動けない。どうしてかな? ――「俺に火ぃ吹いたお返しだ!ざまあみろ!」 そんな言葉が聞こえた気がする。 音は、僕の耳から遠ざかっていった。 ――地に煌く星々。 彼らはぼやけて、姿を消していく。 光は、僕の目から遠ざかっていった。 &br;&br; ――最後に残ったモノ。 命は、僕の身体から――。 &br;&br; 夜。地に煌く、星の数々。今、またひとつ――。 ――またひとつ、星は増えていった。 ――またひとつ、命は消えていった。 ---- -あとがき …短いですね。いくらなんでも。もう少し長くしたかったんですが。&br; この前、すばらしい「星々」をみたので、それを使って一つ、書いてみたかったんです。 もう少し暖かい終わり方も考えたんですが。結局、夜ということで、こんな感じに。 最初の9行にすべての力が注ぎ込まれている気がします。詐欺ですね、これじゃ。&br; これを読んで、ちょっと「自然」について、考えてみてほしいです。 「星々」は、いい表現ばかりを使って書いていますが。…不自然な気がしませんか? 言い方を変えると、「無理やり奪った命を、輝かせている」わけですから。 自分は、天に落ちている星々の方が好きです。…何といっても、「自然」、ですからね。&br; 「…訳分かんないや」。…だらだらとすいません。 こんな駄文をここまで読んで下さって、ありがとうございました。 ---- #pcomment(地に煌く星々/コメントログ)