&size(20){''ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語''}; 作者 [[火車風]] まとめページは[[こちら>ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語]] 第十九話 モリゾーの思い出 父の意思を継ぐ者 ベースキャンプにたどり着いた一行は、作戦会議があるとのことなので集合場所へ急いだ。 中に入ると、ソウイチは不思議な感覚を覚えた。 「(なんだ・・・?この感覚は・・・?何でかわかんねえけど、オレはここを知ってる・・・。もしかして記憶がなくなる前と関係あるのか・・・?)」 ソウイチは考えをめぐらせた。 ふと隣を見ると、ソウヤも同じように考え込んでいた。 「ソウヤ、どうしたんだ?」 ソウイチは聞いてみた。 「え?ああ・・・。僕思ったんだけど、もしかしたら、一回ここに来たことがあるかもしれないんだ。何でかはわかんないけど、なんとなくそんな気がするんだ・・・。」 「お前もか!?実は、オレも全くおんなじこと考えてたんだよ。」 「ソウイチもなの?いったいここに何があるんだろう・・・。」 二人は腕を組んで考え込んでしまった。 「お~い!二人とも~!早くおいでよ~!」 モリゾーが遠くから二人を呼んだ。 二人は返事をして、すぐにみんなのところへ集まった。 「え~、というわけで、みんな無事にベースキャンプにこれたようだし、これよりきりのみずうみの探索を行う・・・、といきたいところだが、今日は見ての通り日がくれてしまった。よって探索は明日行うものとし、今日は会議だけにするよ♪」 ぺラップの言うとおり、すでに太陽は沈みかけ、あたりは暗くなっていた。 この状態で森の中へ入るのは危険ということだろう。 「見ての通り、ここは深い森に覆われている。そして、この森のどこかにきりのみずうみがあるらしいのだが・・・、いまのところうわさでしかない。今までいろいろな探検隊が挑戦してきたが、まだ発見されていないのだ。」 「なんだあ、つまんねえの・・・。」 ペラップの言うことにソウイチはぼやいた。 「もう、ソウイチったら!そんなこと言ったら夢がないじゃないか!」 モリゾーとゴロスケがじろりとにらんだ。 本人は小声のつもりだったが、かなり大きかったようだ。 「いまさらそんなこと言ってどうするよ!」 ドゴームも続ける。 「普通思っててもそんなことは言わないよね。」 最後にソウヤがとどめをさした。 「うぐう・・・。」 ソウイチは完全にへこんで小さくなってしまったしまった。 口は災いの元である。 「あのう・・・、私ここに来る途中である伝説を聞いたのですが・・・。」 チリーンが遠慮がちに口を開いた。 「伝説?」 ぺラップが聞き返した。 「はい。きりのみずうみにまつわる伝説です。なんでも、きりのみずうみにはユクシーというとても珍しいポケモンがすんでいるそうです。そしてそのユクシーには、目を合わせたものの記憶を消してしまう力があるそうなんです。」 「(記憶を消す力!?)」 ソウイチとソウヤは思わず顔を見合わせた。 「なので、もしきりのみずうみに訪れたものがいたとしても、ユクシーによって記憶を消されてしまうので、湖の存在を伝えることができない・・・。ユクシーはそうやってきりのみずうみを守っていると、そういう伝説が残っているそうなんです。」 チリーンは話を締めくくった。 「ううっ・・・。ちょっとおっかない話でゲスね・・・。」 ビッパは青い顔になった。 「ワシ、記憶を消されたらどうしよう・・・。」 ドゴームの表情は深刻そうだった。 「あら!あなたは心配ないですわ。だってそうでなくても、あなた物忘れが激しいじゃない。」 キマワリのセリフに、ソウイチとシリウスは吹き出しそうになるのを必死でこらえていた。 ソウヤ達は白い目で二人を見た。 「(オレの記憶の抜けてるところも、そいつに消されたのか・・・?)」 ソウマも考え込んでいた。 ソウイチ達よりは記憶がはっきりしているとはいえ、どこから来たのか、何の目的で来たのかは分からないままだった。 「コホン・・・。」 ぺラップが咳払いをすると、あたりは水を打ったように静かになった。 「まあ、こういった場所にはたいてい伝説や言い伝えが残されているものだ。そして、わがギルドは、これまでもそういう困難を乗り越えて探検してきたんだ♪」 ぺラップは自信にあふれた調子で言った。 「その通りですわ!」 「それこそ、親方様のギルドが一流とされるゆえんだからな。」 キマワリもダグトリオも調子を合わせた。 「フフフ。心配はいらない。きっと大丈夫だよ♪今回の冒険も成功を信じて・・・、がんばろがんばろ♪」 プクリンもいつもの調子でみんなの志気を高めた。 「それで今回の作戦だが、まず、私と親方様はここに残りみんなから情報を集める。そして、みんなは各自、森の中を探索してくれ。ただしこの森は、奥へ進むともやがかかっていて非常に分かりにくい。たぶんきりのみずうみは、このもやのせいで発見しにくいのではないかと考えられる。」 確かに、森のほうはもやがかかっていて全く先が見通せなかった。 見つけるのはかなり難しいだろう。 「もしかしたら、このもやをとる方法があるのかもしれない。なので、もし探索中にきりのみずうみを見つけるか、もしくはもやをとる方法を見つけたら、ベースキャンプに戻って私か親方様に伝えてほしい。以上だ。」 そして会議は終了し、みんなは寝床についた。 みんなが寝息を立てている中、モリゾーだけはねつけずにいた。 興奮しているせいでもあるが、今までのことを思い返していたのだ。 「(ついに遠征まで来ちゃったんだな~・・・。いよいよ明日から探索開始か。)」 モリゾーはふと、隣にいるゴロスケを見た。 ぐっすりと眠っている。 「(オイラがここまでこれたのも、ソウイチやソウヤのおかげでもあるけど、探検隊になりたいって意思を固めてくれたのは、ゴロスケと父さんだったな・・・。)」 モリゾーは目を閉じて、昔を思い出し始めた。 昔、モリゾーとゴロスケが五歳ぐらいで、ギルドの周辺に住む前のことである。 二人は、もりのこはんという場所に住んでおり、二人は小さいころから大の仲良しだった。 二人だけでなく、家族もそろって仲がよかった。 モリゾーの両親は、父がグラス、母がナズナで、両方ともジュプトル。 ゴロスケの両親は、父がバーニー、母がミズヨ、バーニーはラグラージ、ミズヨはヌマクローだった。 グラスとバーニーも小さいころから仲がよく、森の中やいろいろなところを探索したりしていた。 その甲斐あってか、今では二人とも世界中をまたにかける有名な探険家になったのだ。 もちろん、おごり高ぶるようなことはなく、そんな肩書きを鼻にかけることもなかった。 そういうところもあってか、仲間や近所からの信頼は厚く、友人も多かった。 モリゾーとゴロスケは、そんな立派な父の背中を見て育ってきたのだ。 大きくなるにつれ探検が好きになり、立派な探険家になりたいという思いは強くなる一方だった。 ある日、モリゾーはゴロスケと一緒にコケのもりの奥へ探検に行こうと思った。 この森は、入り口近くまでは何度も来ているのだが、奥のほうへはまだいったことがなかった。 なんでも、奥には何かの遺跡があるらしいといううわさを耳にしており、一度見て見たいと思ったのだ。 森のみんなは顔なじみで、敵ポケモンもいなかったのでそこまで危険はなかった。 「じゃあ、ゴロスケと遊んでくるね~。」 「気をつけてね。暗くならないうちに帰るのよ~。」 モリゾーはナズナにいってきますを言うと、ゴロスケの家に向かった。 ゴロスケの家は湖のすぐそばにあった。 「こんにちは~。ゴロスケ君いますか~?」 モリゾーが家のドアを叩きながら呼ぶと、バーニーが顔を出した。 「おお、モリゾー君か。いつもうちの息子と遊んでもらって悪いね~。」 「いや~、オイラがつき合わせちゃってるような感じですから。」 モリゾーは照れくさそうに頭をかいた。 「ちょっと待っててね。すぐ呼んでくるから。お~い、ゴロスケ~!モリゾー君だぞ~!」 バーニーはゴロスケを呼びに家の中へ入っていった。 程なくして、ゴロスケが顔を出した。 「おまたせ!じゃあ行こうか!」 二人は森に向かって駆け出した。 「あんまり遅くなるんじゃないぞ~!」 かけていく二人に向かってバーニーは叫んだ。 「は~い!」 二人は素直に返事を返した。 しばらく歩くと、森の入り口に到着した。 ここから先は足を踏み入れたことのない、未知の場所だった。 「じゃあ、行こうか・・・。」 緊張しているせいか、モリゾーの声はちょっと震えていた。 何しろ、人生で初めて探検らしい探検をやるのだ。 ゴロスケも同じく、不安ではあるが、期待に胸を膨らませていた。 道をどんどんたどっていくと、高い木が多くなり日の光はほとんど入らなくなった。 近くの岩や木などにはコケが生えており、物音もしないのでかなり不気味だった。 「だ、大丈夫かなあ・・・。」 ゴロスケはちょっと心配になってきた。 「大丈夫だよ。きっとたどり着けるよ。」 そうは言うものの、モリゾーも少し不安だった。 あたりがほとんど真っ暗なせいだろうか、二人には歩くにつれてだんだんと怖くなってきた。 突然、木の枝が激しく揺れた。 「わあああ!!」 二人はびっくりしてやみくもに走り出した。 ようやく走るのをやめると、自分達がどこにいるのか分からなくなっていた。 一方そのころ、グラスは用事を終えて家に帰ったところだった。 「ただいま~。あれ?モリゾーはどうした?」 この時間帯なら家にいるはずのモリゾーがいないので、グラスは不思議に思った。 「まだ帰ってこないの。いったいどうしたのかしら・・・。」 ナズナは心配そうだ。 「仕方ないな・・・。オレが探してくるよ。」 リーフは出かける準備を始めた。 「あ、そういえばゴロスケ君と遊ぶって言ってたわ。きっとバーニーさんのところじゃないかしら。」 ナズナが思い出したように言った。 「そうか。ならあいつの家に寄ってみるか・・・。じゃあ行ってくる。」 グラスは家を出ると、バーニーの家へ向かった。 「バーニー、いるか?」 「おお、グラス。どうしたんだい?」 ドアをノックすると、中からバーニーが出てきた。 「モリゾーをしらないか?まだ家に帰ってないんだ。」 「ゴロスケもだよ。暗くならないうちに帰って来いって言ったのに・・・。」 バーニーはため息をついた。 「どこに行ったか分からないか?」 グラスには心当たりがなかった。 「う~ん・・・。そうだ!もしかしたらコケのもりのほうへ行ったのかも。」 その言葉を聞いて、グラスの顔色が変わった。 「あそこへ!?だとしたらまずいぞ・・・。」 グラスの顔に不安の色が浮かんだ。 「どうしたの?そんなに深刻な問題でもあるのかい?」 バーニーは何のことだかさっぱりだった。 「実は・・・、いやなうわさを耳にしてな・・・。」 「いやなうわさ?」 バーニーは聞いた。 「ああ。森の奥に遺跡があるのは知ってるよな?」 「もちろん。僕達が以前見つけたあれだろ?」 どうやら、二人は以前訪れたことがあるようだ。 「そこに、おたずねものが住みついたという話を耳にしたんだ。おまけに、あの森は不思議のダンジョンの影響が出てきている。そのせいで、あそこに住むポケモンたちも移住を始めたところだ。仮に、ダンジョンを抜けてあいつらが遺跡にたどり着いたとしても、そいつに出くわしたら・・・。」 「大変じゃないか!早く探しに行かないと!!」 バーニーは事の重大さを理解した。 大事な息子に何かあっては大変だ。 「ああ。すぐに後を追うぞ!準備はできてるか?」 グラスはバーニーのほうを振り返った。 「もちろん!探しに行くつもりで準備はしてたのさ。」 バーニーはすでにバッグを首から提げていた。 「相変わらずだな。じゃあいくぜ!」 「ああ!母さん、ちょっと子供達を捜してくるよ!」 二人は全速力で森へと向かった。 太陽はかなり沈んでおり、状況はますます悪くなっていった。 そしてモリゾーたちはというと、ずっと森の中をさまよい、なかなか遺跡にたどり着かなかった。 「どうしよう・・・。きっと迷っちゃったんだ・・・。」 ゴロスケは消え入りそうな声でつぶやいた。 「だ、大丈夫だよ・・・。そのうち出られるって。」 確証はなかったが、モリゾーはゴロスケを安心させようとした。 「もうだめだよ・・・。僕たちここから出られないんだ・・・。」 ゴロスケは座り込むと、目からは涙がぽたぽたとあふれてきた。 「歩いてればきっとみつかるよ!さあ、行こう!」 本当はモリゾーも泣きたかったが、自分が泣いては余計にゴロスケを不安にさせるだけだと思い必死でがまんしていた。 そして、ゴロスケを何とか元気付けようとしたのだ。 「うん・・・。」 ゴロスケはまだ目に涙をためていたが、モリゾーに元気付けられ再び歩き始めた。 それから二人は、遺跡を探してひたすら歩いた。 もうへとへとで今にも座り込みそうだったが、それでも二人は一生懸命歩いた。 そして、ようやく森を抜けたころにはすでに夕方になっており、空は赤くなっていた。 しかし、二人はそんなことよりも、別のことに見とれていた。 「うわあ~・・・。すごい・・・。」 そう、二人は偶然にも、遺跡の場所へ出ることができたのだ。 その遺跡は、何か神秘的なものを感じる、整然とした遺跡だった。 二人は遺跡を見渡し、近くによっていろいろ観察した。 「すごい!やっぱりうわさは本当だったんだ!」 「大発見だよ!やったね!」 二人は手を取り合って喜んだが、その喜びもつかの間、不意に背後から物音がした。 びっくりして振り返ると、それは、通常の倍ぐらいはあるガブリアスだった。 このガブリアスは、あちこちで強盗を働き、凶悪犯として全国に手配書が配られていたのだ。 どうやら、ここを奪ったものの隠し場所にしていたようだ。 「何だお前らは?ここへ何しに来た?」 ガブリアスは二人のほうへ近寄ってきた。 二人は逃げようとしたが体が動かなかった。 「そうか。さてはオレの盗んだものを取り返しに来たんだな?」 何を勘違いしたのか、ガブリアスは二人を追っ手だと思った。 「ち、違う・・・。オイラたちはただ・・・。」 モリゾーがようやく口を開いたが、ガブリアスはそれをさえぎった。 「言い訳しても無駄だ。存在を知られたからにはお前らを生かしておくわけにはいかねえ。今ここで消えてもらう!」 そして、ガブリアスはドラゴンクローで二人を攻撃しようとした。 二人はもうだめだと思い目をつぶった。 すると、ヒュンッと音がし、何かがガブリアスのドラゴンクローをはじいた。 「だ、誰だ!!でてこい!!」 ガブリアスは動揺して辺りを見回した。 「オレの息子に何しようとしてんだ?」 「手を出したら許さないよ?」 木の陰から出てきたのはグラスとバーニーだった。 間一髪間に合ったようだ。 「と、父さん!!」 「お父さん!!」 「モリゾー、ゴロスケ!お前らは攻撃が当たらないところに隠れてろ!早く!!」 グラスの目は真っ向からガブリアスをにらみつけていた。 すでに攻撃態勢を整えており、付け入る隙をなくしていた。 モリゾーとゴロスケはグラスの言うとおり遺跡の陰に隠れ、二人の様子を見守った。 「バーニー、気を抜くな!こいつは連続強盗で指名手配されてるやつだ!」 「ああ!わかってるよ!」 二人とも相手が相手なだけあってかなり真剣な表情だった。 先にガブリアスが動き、きりさくをしかけてきた。 二人は左右に交わし、グラスはエナジーボール、バーニーはハイドロポンプで同時に攻撃した。 「そんなので攻撃したつもりか!!」 ガブリアスはジャンプしてそれを交わす。 ジャンプの高さはかなりのもので、グラスに匹敵するぐらいのものだった。 「チィ・・・。ただではやっぱりやられねえか!」 「くるよ!!」 ガブリアスは上から落ちてくる勢いを使い、ほのおのキバでグラスを攻撃した。 「ぐああああ!!は、離れろおおお!!」 ガブリアスはグラスののどもとに食らいついてなかなかはなれない。 バーニーが手をかして何とか引き離したが、その間にダメージが蓄積し、グラスは軽いやけどを負ってしまった。 「へっ!オレをつかまえようなんて100年早いんだよ!!」 ガブリアスは余裕な表情を見せていた。 「くそお・・・。うう・・・。」 やけどのダメージが響くのか、グラスは顔をゆがませた。 「大丈夫?まだいける?」 バーニーが心配そうに聞いた。 「ああ、これぐらい大丈夫だ!!」 グラスはリーフブレードで再びガブリアスに切りかかった。 ガブリアスもドラゴンクローで応戦する。 モリゾーとゴロスケははらはらしながらその様子を見守っていた。 「(このままじゃまずいな・・・。体力、攻撃力はほぼ互角・・・。すばやさは若干向こうのほうが上だ・・・。そろそろ勝負を仕掛けるか・・・。)」 グラスはガブリアスといったん距離をとり、エナジーボールをため始めた。 「がらあきなんだよ!!おらあ!!」 ここぞとばかりにガブリアスはグラスを攻撃する。 グラスは攻撃に耐えながら必死にチャージしている。 「(父さん、負けないで・・・!!)」 「(おじさん、がんばって・・・!!)」 モリゾーとゴロスケは心の中でグラスを応援した。 「(そろそろだ・・・!!)くらえええ!!」 チャージが終わり、グラスはエナジーボールを放った。 攻撃に夢中になっていたガブリアスは、よけることができず至近距離で攻撃を受けた。 「うぐう・・・。でも、これだけで終わると思ったら大間違いなんだよ!!」 「そうだ、これで終わりじゃねえ!バーニー、いけええええ!!」 「何!?」 ガブリアスが振り向くと、れいとうビームを最大までためたバーニーが背後にいた。 「遅い!!れいとうビーム!!!」 バーニーは通常の三倍はあろうれいとうビームを放った。 「くそお!!」 ガブリアスは防御体制に入ったが、全てを防ぎきれるはずもなかった。 ドラゴンとじめんで効果は四倍、かなりのダメージを負ったが、それでもまだ立っていた。 「はあ、はあ・・・。負けてたまるか・・・!!」 ガブリアスはさらに攻撃しようとしたが、体が動かなかった。 下を見ると、足元が凍り付いて動けなくなっていたのだ。 「ば、ばかな!!」 「これでとどめだ!!」 目いっぱい力をためたリーフブレードでグラスが切りかかる。 勝負あったと誰もが思ったそのとき・・・。 ドドドドドオオオオオン!!! 突然あたりが激しく揺れ始め、みんなまともに立っていることができなかった。 「な、なんだ!?何が起こったんだ!?」 ガブリアスはものすごく動揺した。 「地震だ!!よりによってこんなときに・・・!」 グラスは奥歯をかみ締めた。 「早く逃げないと!このままここにいたら木が倒れてくる!!」 バーニーはグラスを促した。 「チィ・・・。しかたない!」 グラスはリーフブレードを解除した。 そのとたん、今度は大きな横揺れが来たて木々や遺跡がぐらぐらと揺れた。 モリゾーとゴロスケはあまりの衝撃で立っていることができず、その場に座り込んでしまった。 ガラガラガラガラ!!! 突然、遺跡に大きな亀裂が入り、高い位置にあった建造物が二人のほうへ落下してきた。 このままではつぶされてしまう。 「!!モリゾー、ゴロスケ!!」 グラスがいち早く気付き、全速力で二人のところへ走った。 ズドドドドオオオオン!!! 大音響が響き渡り、辺りが砂煙に包まれた。 ガブリアスはこれに便乗して、森の中へと姿を消した。 砂煙が晴れ、バーニーが見たものは、モリゾーとゴロスケをかばい瓦礫に埋もれているグラスの姿だった。 そして埋もれたグラスを、モリゾーとゴロスケが必死で助け出そうとしていた。 「ぐ、グラス!!」 バーニーは瓦礫に手をかけ必死でどかそうとした。 しかし、あまりにも瓦礫が積み重なっていたため無理だった。 「バーニー・・・、お前は二人を連れて早く逃げろ・・・!オレのことはいいから、早く逃げるんだ!!」 「そんな!大事な親友をほっていけるわけないじゃないか!!」 バーニーはさらに力を込めて瓦礫をどかそうとした。 「バカ野郎!!このまま第二波がきたらみんな埋もれちまうんだぞ!?」 グラスはバーニーに向かって怒鳴った。 その顔は、子供達を、友達をせめて助けたいという思いであふれていた。 「・・・わかった・・・。」 バーニーはその思いを感じ取り、嫌がるモリゾーとゴロスケを抱え上げその場を走り去った。 「いやだ!!父さん!!とうさあああああん!!」 モリゾーは何度も叫んび、バーニーの腕から抜け出そうとした。 しかし、バーニーがしっかりつかんでいたため腕から抜け出すことができなかった。 「モリゾー・・・。強くなれよ・・・。」 グラスがそうつぶやくと同時に、地震の第二波が来て、遺跡は全て崩壊し、グラスの体は大量の瓦礫の下に埋もれてしまった。 その上からは木々が折り重なり、もうそこに何があったのか分からなくなってしまった。 大地震はあちこちに爪あとを残し、深刻な被害を出した。 バーニーはすぐに人手をかき集め、グラスの救助に向かった。 救助は思った以上に難航し、木をどかすだけでも三日もかかってしまった。 そして、救助開始から二週間後、ようやく全ての瓦礫をどかすことができた。 ところが、グラスの遺体はどこからも見つからず、かわりに、小さな遺跡のかけらが見つかった。 それは、グラスがいつもお守りとして持っていたものだった。 バーニーはモリゾーたちに対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 自分の力不足のせいで、グラスを助けられなかったことを泣いて謝った。 それほど悔やまれてならないのだ。 ナズナやモリゾーは、バーニーのせいでないことは分かっていたが、それでもグラスを失ったショックからなかなか立ち直ることはできなかった。 モリゾーは自分の部屋に閉じこもり、ゴロスケとも会おうとしなくなった。 モリゾーはずっと部屋で泣いていた。 尊敬する、愛する父を失った悲しみは計り知れなかった。 ナズナもそれを察してか、無理に声をかけることはしなかった。 モリゾーはグラスがいなくなった今、もう探険家になろうという意思を失いかけていた。 そんな生活が一週間ぐらい続き、とうとうゴロスケがモリゾーに会いに来た。 ゴロスケがモリゾーの部屋のドアをノックすると、少し間があいてモリゾーが顔を出した。 モリゾーの目は泣き腫らして真っ赤になっていた。 「どうしたの・・・?何か用・・・?」 モリゾーは抑揚のない声で言った。 「これ・・・。おじさんがもってたんだって・・・。モリゾーに渡しておいたほうがいいかなって思って。元気出してね・・・。それじゃあ・・・。」 ゴロスケはそういってかけらを手渡し、モリゾーの家を後にした。 モリゾーは遺跡のかけらを手にとってじっと眺めていたが、真ん中にくぼみがあることに気がついた。 中には、モリゾーにあてたグラスの手紙が入っていた。 【モリゾーへ これをオレがお前に渡すときは、お前もかなり立派になっていることだろう。これは、オレがオレの父さん、お前のじいちゃんからもらったものだ。じいちゃんは、オレが探検隊としてひとり立ちするときにこれをくれた。旅先でのお守りとしてな。このかけらには何か謎があるってじいちゃんは言ってた。オレも、その謎を解こうと思っていろいろなところへ行ったが、結局何も見つけられなかった。お前なら、じいちゃんとオレの血を引いているお前ならきっと解き明かせるはずだ。その時を楽しみにしているぞ。モリゾー、強くなれ。そして、一人前の探険家になるんだぞ。がんばれよ。 父さんより】 「・・・父さん・・・。父さん・・・!ううう・・・、うあああああ!!」 モリゾーの目から大粒の涙がこぼれ始めた。 手紙を抱きしめたまま、声にならない思いを吐き出すかのように・・・。 しばらく泣いた後で涙を拭くと、モリゾーの心には、探険家になりたいという強い思いが再び宿った。 モリゾーは部屋を飛び出し、ゴロスケの家へ向かった。 「ど、どうしたのモリゾー!?」 ゴロスケはモリゾーがいきなりたずねてきたのでびっくりした。 「ゴロスケ・・・、さっきはありがとう。ゴロスケのおかげで、オイラ、またがんばろうって気になったよ。」 モリゾーはゴロスケに丁寧に礼を言った。 「それで、お願いがあるんだ。」 「お願い?」 ゴロスケはモリゾーに聞いた。 「独り立ちするときがきたら、オイラと一緒に探検隊をやってくれない?ゴロスケと一緒ならできそうな気がするんだ。」 「もちろんだよ!一緒にがんばろう!」 ゴロスケは笑顔になり、モリゾーもそれを見て笑顔になった。 家の中からのぞいていたバーニーとミズヨも、二人の様子を見て安心したようだ。 それから、二人は独り立ちするまでの間に経験を積み、独り立ちするとギルドの近くへ住み着いた。 そして、ギルドに弟子入りするところまでたどり着き、海岸でソウイチ達とであったのだ。 「(今思えば、みんなのおかげでここまでこれたんだよね・・・。)」 モリゾーは三人の寝顔を見た。 三人ともすっかり夢の中だ。 「(ゴロスケがあのかけらを持ってきてくれなかったら・・・、父さんの手紙がなかったら・・・、きっとオイラ立ち直れてなかっただろうな。ありがとう、ゴロスケ、父さん。)」 モリゾーは二人に心の中で礼を言った。 外では、満天の星がきらきらと輝いていた。 モリゾーのこれからを励ますように・・・。 ---- [[アドバンズ物語第二十話]] ---- ここまで読んでくださってありがとうございました。 誤字脱字の報告、感想、アドバイスなどもお待ちしてます。 #pcomment(above)