&size(20){''ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語''}; 作者 [[火車風]] まとめページは[[こちら>ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語]] 第六十七話 いそのどうくつのカブトプス! いざ、まぼろしのだいちへ! 後編 「ここがいそのどうくつの入り口だ。このダンジョンの一番奥に、モリゾーが持っていたいせきのかけらと同じ模様が描かれているのだが・・・、そこにはある強敵が潜んでいる・・・」 どうくつの入り口に到着すると、ペラップは急に深刻な顔つきになった。 「きょ、強敵でゲスか・・・。おっかないでゲスね・・・」 ビッパは少し顔が青ざめている。 気合を入れてきたものの、いざ対面するとなると怖いのだ。 「ヘイ! ペラップ! 昨日親方がそんな話をしてたけどよう、ペラップは随分この洞窟に詳しそうだよな?」 ヘイガニはペラップに聞いた。 言われてみればその通りで、以前にもここへ来たことがあるような口ぶりだ。 「もしかして、ペラップさんは前にもここへ来たことがあるんでしょうか?」 「ああ、そうだ。昔、親方様と一緒にここを探検したのだ」 チリーンの問いに、ペラップは深くうなずいた。 「そして、この奥で不思議な模様を見たのだ。しかし、その時あいつらが・・・。あの手ごわいやつらが現れて・・・」 ペラップはそこで口をつぐみ、なんとも悔しそうな表情を浮かべた。 みんなのほうも、思わずごくりとのどが鳴る。 「そ、それで・・・、そいつらはどんなやつだったの・・・?」 ゴロスケは恐る恐る尋ねた。 だが、ペラップの返事は一言、全く覚えていないとのこと。 不意打ちに遭い、反撃する間もなくやられてしまったのだ。 「気がつくと親方様に介抱されていたのだが、それまでの記憶が一切ないので、やつらがどんな敵だったのかも思い出せないんだ・・・」 ペラップはすまなそうに言った。 あの時、なす術もなくやられてしまった自分を悔やんでいる。 「それやったら特徴が分からへんな~・・・」 「とりあえずは手探り進むしかないのかしら・・・?」 カメキチとライナは言った。 正体は不明だが、ここで足踏みしていても始まらない。 「おい、ちょっと待てよ。さっきやつらって言ったけど、まさか、一人だけじゃなかったのか?」 ソウイチはペラップに聞いた。 ペラップは少し悩んでいたが、徐々に思い出してきたようだ。 「そういえば・・・、一人だけじゃなかった・・・。何人かに一斉に攻撃されて、もうずぶぬれのびしょびしょだった気がする・・・」 ペラップは少しずつ思い出したことを話した。 「ずぶぬれのびしょびしょ・・・? それはもしかしたらみずタイプの技を中心にしてるのかな」 ソウヤは言った。 「私達はじめんタイプだから苦手だな・・・。できればそんなやつらとは戦いたくないが・・・」 ダグドリオの顔には不安の色が漂っている。 「僕も慎重に行かないと・・・」 ドンペイもかなり警戒心が強くなっていた。 もちろん、ソウイチはそんなことを気にかけることはしない。 「とにかく、単独行動は避けたほうがいい。何人かでグループを作って行動することにしよう」 まとまっていれば簡単にやられる心配はない。 ペラップの言うとおり、みんなはそれぞれ三、四人に分かれることに。 もちろん、敵に備えてタイプはバラバラだ。 そしてアドバンズは、昨日プクリンが言ったとおりペラップと行動することになった。 だが、さすがに八人は人数が多いので、カメキチ達三人とは別行動。 「いいか? あまり私の足を引っ張るんじゃないぞ。あと、あまり私に頼り過ぎないようにな。自分のことは自分でちゃんとするんだぞ」 ペラップはしつこく四人に念をおした。 四人は素直に返事こそすれ、心の中では舌を出したり文句を言ったりしている。 もちろん、ペラップには聞こえないのでやりたい放題。 そしてみんなは早速、未知なる強敵の待ついそのどうくつへと足を踏み入れる。 さすがにいそのどうくつというだけのことはあり、遭遇する全ての敵がみずタイプだった。 中にはじめん、ひこう、ドラゴンタイプなどを併せ持つものもおり、みずタイプを得意とするモリゾーやソウヤも苦戦する相手も出没。 だがひこうタイプに関しては、ゴロスケのれいとうビームやソウヤが空を飛べるのでまだましなほう。 十個もあったオレンの実やPPマックスもあっという間に半分を割り込み、四等分してようやくその場をしのぐほど。 ペラップの足を引っ張るまでには至らなかったが、それでも体力やPPの消費はかなり激しい。 そんなこんなで大分奥まで到達した一行は、模様のある場所までもう少しのところまで来ていた。 「ねえペラップ。不思議な模様の場所はまだ先なの?」 ゴロスケはペラップに聞いた。 「もう少しだ。もう少し行けばある。ただ、そこには強敵が潜んでいるから、くれぐれも油断するなよ」 ペラップはみんなのほうを振り返って言った。 「ああ。オレ達が必ず叩きのめしてやるぜ!」 「どんな敵だろうとひるんだりするもんか!」 ソウイチとモリゾーはすっかりやる気に満ち溢れている。 だが、そのやる気を葬るかのように誰かがモリゾーに体当たりをしてきた。 「うわあ!!」 モリゾーは岩に叩きつけられ、持っていたかけらは宙を舞った。 「も、モリゾー!!」 みんなはあわててモリゾーのそばに駆け寄る。 そして、暗闇の中から聞き覚えのある声が響いてきた。 「ケッ! 久しぶりだな!」 「あ、あなた様たちは!?」 ペラップは声の主を見て驚いた。 何しろ、助っ人をお願いしたドクローズだったのだから。 「ほう。これがいせきのかけらか」 スカタンクはいせきのかけらを手に取り、しげしげと眺めた。 「ククククッ。これはオレ様がもらっておくぞ」 すると、スカタンクは自分のバッグにいせきのかけらをしまったではないか。 「な、何しやがんだてめえ!!」 「かけらを返せ!!」 ソウイチとゴロスケは三人を思いっきりにらみつけた。 だが、そんなことぐらいで物怖じする連中ではない。 「ケッ、しかし前と同じ手に引っかかるとは・・・」 「お前たち相当マヌケだな。ヘヘッ」 ドガースとズバットはニヤニヤしながら言い放った。 「だ、誰がマヌケだって!?」 「もう我慢できない!!」 これにはソウヤとモリゾーも大激怒。 今にもバトルが始まってしまいそうだ。 だが、その緊迫した状況の中で、一人蚊帳の外なのがペラップ。 「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 何がどうなってるのか・・・」 ペラップはアドバンズとドクローズを交互に見つめているが、ちっとも頭の中が整理できない。 「あなた様たちはどうしてまたここに? 大体遠征のとき、ドクローズの皆さんが急にいなくなったんで、私ずっと心配してたんですよ?」 それもそのはず、あの時はプクリンにこてんぱんにのされて、ギルドへ戻っている場合ではなかった。 しかしペラップはいつまで相手の本性に気がつかないのだろう。 ここまでくれば普通は気付くのだが、残念ながらそんな気配は微塵もない。 「心配ねえ・・・。クククククッ。オメエら本当におめでたいやつばっかりだな。ククククッ」 スカタンクはニヤニヤしながら言い放った。 「ん? なんか前よりも言葉使いが悪くなってるような・・・」 ペラップは不思議そうに首をかしげる。 「てめえいつまでんなことほざいてんだ!? こいつらは今までずっとオレ達のことだましてたんだよ!!」 「そうだよ!! 悪い探検隊はこいつらだよ!!」 そんな様子に業を煮やし、ソウイチ達は怒鳴りつけた。 相手を見る目が無いにもほどがある。 「えええええええ!? ほ、ほんとなのそれ!?」 ペラップはあいた口がふさがらなかった。 ソウイチ達はもうため息をつく気力さえもわかない。 「ケッ、当然のこと」 「今までだまされてたお前がマヌケなだけだ! ヘヘッ!」 ドガースとズバットはペラップをあざ笑った。 今回ばかりはソウイチ達もこの意見に賛成している。 「とにかく、いせきのかけらは手に入れた。後はまぼろしのだいちへ行くだけだ。あばよ! マヌケども! クククククッ!」 スカタンクはそう言い捨てると他の二人とともに奥の方へと走り去る。 ソウイチ達はあまりの愚弄に怒り狂った。 「野郎!! とことんバカにしやがって!!」 ソウイチは顔を真っ赤にして地団太を踏んでいる。 こうなったら是が非でも対決して立ち上がれないほどにのしてやりたい、今考えているのはそのことばかり。 「ほんと許せないよ!! 絶対かけらを取り戻してやる!!」 モリゾーもいつも以上にかっかしている。 あんな悪人達にまぼろしのだいちへ行かれたらたまったものではない。 「とにかくあいつらを追いかけ・・・、あれ・・・?」 ゴロスケは違和感を感じた。 真っ先に怒りそうなペラップがずっと黙っているのだ。 あまりにも侮辱されすぎて怒る気力も失せたのかと思いきや、それは皆の観察不足だった。 何しろ、怒りに全身を震わせているだけだったのだから。 「あいつら・・・。私を騙してたとは・・・! 許せない!! 絶対とっちめてやる!!」 ペラップは怒涛の勢いで走り出し、あっという間に見えなくなってしまった。 「お、おい!! チッ・・・、怒るぐらいならさっさと気付けってんだよ!」 ソウイチは勝手に走り去ったペラップに向かって舌打ちした。 「でも大丈夫かな・・・。この先には強敵だっているのに・・・」 ソウヤは少し心配そう。 場所を教えてもらうために一緒に行動しているのに、ペラップが先に倒れてしまっては大変だ。 みんなは急いで後を追いかけ始める。 一方そのころ、ペラップはスカタンク達に何か文句を言ってやろうと全力でやつらをさがしていた。 邪魔する敵はたちどころに一蹴し、ひたすら先へと突っ走る。 これも三人に対する怒りが原動力になっているのだろうか。 そして最深部までたどり着いたところ、奥のほうからなにやら声が。 強敵の可能性も捨てがたく、用心しながら進んだペラップだったが、声の主はドクローズだった。 例の強敵に遭遇したのか、すでに立ち上がる体力は残っていないようだ。 「こ、これは・・・」 「なんだ、キサマか・・・」 スカタンクはペラップを一瞥した。 「キサマとは何だ!! よくも私を騙してくれたね!! 大体私はあのときから・・・」 ペラップは怒りに任せて言葉を吐き出す。 言葉は水のようにとどまることを知らず、力なく横たわっていたスカタンク達もそれを聞くにつれてだんだん腹が立ってきた。 自業自得なのだが、やはり善悪問わず悪口を言われると頭にくるもの。 ペラップはさんざん罵詈荘厳を浴びせたが、それでもぶつぶつ文句を言いながら奥の方へと消えていった。 「あ、あの野郎・・・!」 三人はペラップの後姿に刺すような視線を向けた。 ここまで言われては、こんなところで気を失うわけにはいかない。 だが、気力と体力は別物、やはりその場から動くことだけはできなかった。 そして数十分後、ようやくソウイチ達も最深部へ到着。 「お、お前ら!!」 「いったい何があったの!? ま、まさか、例の強敵に・・・」 みんなはスカタンクたちの有様を見て唖然とした。 「ケッ・・・、知ってるなら最初から言ってくれりゃあ・・・」 「って言っても、オレ達に教えるわけないよな・・・。ヘヘッ・・・」 ドガースとズバットは力なく笑った。 「ったりまえだ! 誰がお前らなんかに教えるかよ! それよか、ほんとに大丈夫か?」 悪態をつきつつも、三人のことを気にかけるソウイチ。 腹が立つ相手だろうが、ここまで傷ついていれば心配せずにはいられない。 「ククククク・・・。ここに来てオレ様たちを心配するなんて・・・、相変わらずめでたいやつだな・・・」 この期に及んでもまだ憎まれ口を叩くスカタンク。 だが、みんなはそんなことお構いなし。 「こんなに傷ついてるのに見過ごせるわけないよ・・・」 ソウヤはさも当たり前という風に言った。 「あいにく、オレ様たちなら心配無用だ・・・。ペラップが、オレ様の怒りに火をつけたからな・・・」 「ええっ!? ほんとに!?」 みんなはまたペラップが余計なことをしでかしたと思ったようだ。 火に油を注いでしまっては全く意味がない。 「そうだ・・・。あいつはオレ達が倒れているのを見て、これでもかというほど文句を言って去って行きやがった・・・」 スカタンクは言われたことを思い出しながら苦々しく言った。 「オレ様は本当にむかついたぜ・・・。正直、こんなところでくたばってる暇はない・・・。必ず這い出て、絶対にペラップを倒す! ・・・ってな」 スカタンクの目は怒りと闘志に燃えていた。 みんなはいよいよペラップが余計なことをしたと思い込む。 だが、実際はそうではなかった。 「まあ考えようによっちゃあ、あきらめかけてたオレ様は、ぺラップに元気をもらったのかもしれないがな・・・。クククククッ・・・」 みんなはスカタンクの言ったことが信じられなかった。 だが、たとえ怒るようなことであったとしても、そのおかげで気力を保てているのだから、きっと感謝しているのだろう。 「でも、元気をもらったって言っても、まだ苦しそうだよ・・・?」 モリゾーは三人を交互に見ながら言った。 「オレ様はこれまで、お前達にたくさん意地悪をしてきた・・・。散々嫌な思いやつらい思いもしたはず・・・。それなのに、お前達はオレ様のことを心配するのか・・・?」 「そりゃあ、頭にくることや腹が立つことはいっぱいあった・・・。でも、それとこれとは別問題だよ。やっぱり、こんなに傷だらけで倒れてたら見過ごせない」 ゴロスケはスカタンクにはっきりと言った。 「それに、アニキも前に言ってたんだ。最初から全部悪に染まってるやつは一人もいないって。」 ソウヤも穏やかに言う。 不思議と、みんなの心からはスカタンク達に対する憎しみが消えていた。 全部を帳消しにしたわけではないが、ちっとも腹が立ってこないのだ。 スカタンクはしばらく黙っていたが、やがて懐からかけらを取り出し、ソウイチ達の近くへ放った。 「あ! かけらが!」 モリゾーは小さく叫んだ。 「ククククッ・・・、しまった・・・。オレ様としたことが、いせきのかけらを落としちまった・・・。体も動かねえから、このままじゃモリゾーに取られちまうな・・・」 その言葉とは対照的に、スカタンクはわずかに笑みを浮かべていた。 あざけるような笑いではなく、ごく自然な笑い方だ。 「だが勘違いするな・・・。オレ様はかけらを落としただけ、拾うか拾わないかはお前達の自由だぜ・・・」 「・・・ありがとう。スカタンク」 モリゾーの口から、自然と感謝の言葉が流れ出した。 そしてモリゾーは、かけらを自分の首にぶら下げる。 「フン。なぜ礼を言う? 次に会った時は、またいつもどおり意地悪するから覚悟しておけ・・・。ククククッ・・・」 憎まれ口をたたくスカタンクだが、そこまで悪意がこもっているようには感じられない。 むしろ、ライバルに対して放つような口調だ。 「それに、今はオレ様達よりも、ぺラップのことを心配するんだな・・・」 その言葉を聞いて、みんなはようやくぺラップを追いかけていたことを思い出した。 話によれば、例の敵を追いかけて先へ進んだとのこと。 「ありがとう、スカタンク。オイラ達は先に行くけど、みんなもがんばってここを抜け出してね」 「フン。ドクローズを甘く見るんじゃねえよ・・・。ククククッ・・・」 モリゾーの励ましに対し、相変わらず目だけは穏やかなスカタンク。 みんなはぺラップの援護に加わるべく、駆け足でその場を後にした。 「・・・お前達・・・、動けるか・・・?」 スカタンクは二人に聞いた。 「ケッ、それは無理ですぜ・・・」 「あれだけ派手にやられちゃあね・・・。ヘヘッ」 二人は弱々しく笑う。 「そうか・・・。お互いざまあねえな・・・。ククククッ・・・」 スカタンクは自嘲的な笑いを浮かべた。 「ケッ、しかしアニキ。アニキも最後の最後で、ちょっとだけいいやつになっちまいましたね・・・」 「でも、そんなアニキもちょっと好きですぜ。ヘヘッ」 ドガーストズバットは言った。 「うるせえ。ククククッ・・・」 スカタンクの顔には、やはり笑みが浮かんでいる。 土壇場の土壇場で、かなり変わってきているようだ。 すると、どこからか足音が響いてくる。 また別の誰かがやってきたのかと思いきや、なんと、ソウイチが戻ってきたのだ。 手にはオレンのみを三個持っている。 「なんだ・・・? まだなんか用か・・・?」 スカタンクはソウイチを見上げる。 ソウイチは何も言わず、三人のところへオレンのみを投げた。 「それ食って、さっさとこの場所から消えな。次に会う時は容赦しねえぜ。本気でてめえらを倒してやるからな」 三人が考えあぐねている中、ソウイチは振り返らずに言い捨てると、あっという間に走り去った。 ソウイチは、仲間がいる場所ではなかなか表現できない優しさを見せたのだ。 三人を、ライバルとしてどこか認めた自分がいたから。 スカタンクの目には、どこかソウイチが笑っているようにも見えた。 (フン。相変わらずのバカだぜ・・・。ククククッ) ソウイチの後姿を見ながら、心の中でつぶやくスカタンクだった。 そして、ソウイチはようやく先を進んでいたみんなに追いつく。 「ソウイチ、忘れ物はとってきたの?」 ゴロスケは聞いた。 「ああ~、あれなんか勘違いだった。悪い悪い」 頭をかきながら謝るソウイチ。 本当のことは誰にも話したくないのだ。 「まったく・・・。ただでさえ急いでるんだから余計なことしないでよ!」 ソウヤは白い目でソウイチを見る。 ソウイチは特に反省するそぶりもなく、ソウヤの脇をすり抜けて走り出した。 「あ! 無視するな~!!」 ソウヤは腕を振り上げてソウイチの後を追いかけた。 モリゾーとゴロスケもあわてて後に続く。 そして行き止まりの部分まで来ると、ちょうどぺラップが立ち尽くしているところだった。 「おい! ペラップ!」 「む! お前達か!」 ぺラップはびくっとして振り返ったが、ソウイチ達であることを確認して胸をなでおろす。 「油断するな! やつらはこの近くにいる! 姿を見かけておってきたんだが、ここで見失ってしまった・・・。きっとどこかに潜んでいるはずだ」 ぺラップは再び視線を戻し、敵の様子を探り始めた。 だが、ここは空洞、隠れるのに最適な岩や壁などはどこにもないのだ。 みずタイプだから水中に潜んでいる可能性もあるが、水場も存在しないでそれもありえない。 「おかしいな~・・・。隠れるところなんてどこにもなさそうだけど・・・」 ソウヤは辺りを見回して言った。 (なんだろう・・・、この言いようのない不安感は・・・。やつらを見たときに、何かを思い出しかけたんだが・・・、むむむむ・・・) ぺラップは必死に考えをめぐらせる。 そして、ようやく一つの結論に達した。 (そうだ! 以前襲われたときは、不意打ちに近いものがあった。確かその場所は・・・) ゆっくりと上を見上げるぺラップ。 そこに張り付いていたのはなんと、カブトプスと二人のオムスターだった。 うなり声を上げてこっちをにらみつけている。 「お前達!! 気をつけろ!! やつらは上だ!!」 ぺラップは振り返って叫んだ。 だが、時すでに遅し、すでに三人は攻撃態勢に入っていた。 「ワシはカブトプス!」 「そしてオムスター兄弟!」 それぞれに名乗りを上げる三人。 「縄張りを荒らすものは、全力で叩きのめす! 覚悟しろ!!」 すかさずカブトプスはつじぎりを仕掛けてくる。 とっさのことでソウイチ達は反応できていない。 「わあああああああああ!!!」 あたり一面に絶叫がこだました。 だが、ソウイチ達の体に傷はついていない。 目に映っていたのは、自分達をかばって苦しそうにうめいているぺラップだった。 「ぺ、ペラップ!!」 「な、なんだ!?」 カブトプスは突然のことで動揺した。 まさかかばいに入るとは予想できていなかったのだ。 「うぐぐぐ・・・! お前達に、手出しはさせない・・・!!」 ペラップはものすごい形相で三人をにらみつけた。 だが、オムスターの弟は少しも気にするそぶりを見せない。 「あ! 思い出した! こいつ前にもここに来たことがあるやつだ!」 「確かあの時もこんな風にやられてたぜ!」 兄弟は口をそろえて言った。 「おろかなやつだ。同じことを繰り返すとはな! ハハハハハハ!!」 カブトプスはペラップをあざ笑ったが、ペラップは顔色一つ変えず三人をにらみ続けている。 「何とでも言え・・・! こいつらは、私のかわいい弟弟子なんだ・・・! お前達になんか、絶対に手出しはさせない!!」 必死にソウイチ達をかばおうとするペラップ。 その姿はとても勇敢で、普段からは想像もつかないほど立派だった。 みんなも、思わずその姿に心を打たれる。 いつもこそ口うるさい存在だが、本当に弟子のことを気にかけている人物は、紛れもなくペラップだったのだ。 だが、急にペラップのまぶたがふさがり、彼はその場へ崩れ落ちた。 「ぺ、ペラップ!! しっかりしろ!!」 ソウイチは駆け寄ってペラップを抱き起こしたが、すでに気を失っていた。 その姿を見れば見るほど、ソウイチの心に怒りが湧き上がってくる。 「てめえら・・・。ただで済むと思うなよ・・・? オレ達の大事な仲間に手を出したらどうなるか・・・、今この場で思い知らせてやる!!」 ソウイチは怒りに身を震わせながら怒鳴った。 ほかのみんなも、怒りのボルテージは最高潮に達している。 ここまで自分達のことを思ってくれている存在を、傷つけられ、バカにされては引き下がるわけにはいかない。 「そのセリフ、そっくりそのまま返してくれるわ!! 行くぞ!!」 カブトプスは再び鎌を構え、オムスターは両側から援護する体制をとる。 戦いの幕は、切って落とされた。 ゴロスケがペラップを安全な場所へ運んでいる間に、ソウヤとモリゾーは先制攻撃を仕掛ける。 「それえええ!!」 「これでも食らえええええ!!」 モリゾーはオムスター兄にタネマシンガン、ソウヤは弟のほうにかみなりを落とした。 レベルが高いとはいえ、効果が抜群なことに変わりはない。 「ぐううう! 調子に乗るな!!」 そうは言うものの、マッドショットやまもるを駆使しても、なかなかダメージを押さえることはできなかった。 そしてソウイチはというと、みず、いわタイプで圧倒的に不利なカブトプスを相手に健闘している。 「ハハハハハ! さっきまでの威勢のよさはどうした!? やはり不利な相手だと勝てんか!」 すばやさで有利なアクアジェットに加え、がんせきふうじやいわなだれなど直撃が痛い技を向こうは使う。 「ざけんじゃねえ!! んなこと言ってられんのも今のうちだ!!」 致命傷にならないよう攻撃地点を見極め、唯一大ダメージを与えられるばくれつパンチでソウイチは果敢に立ち向かった。 技の威力にはカブトプスも少々驚いたようだが、それでも余裕の表情を崩すことはない。 それに、カブトプスは確実にソウイチとソウヤを封じ込める策を用意していた。 ソウイチだけでなく、ソウヤとモリゾーのほうにまで攻撃を仕掛け、目がそれているうちにオムスター兄が姿を消す。 「おらおら!! さっきまでの軽口はどうした!?」 三対二となったのをいいことに、ソウイチは調子に乗ってガンガン攻める。 (フフフフフ・・・。このままこいつらをひきつけておけば・・・) カブトプスはそのまま三人を相手に戦ったが、攻撃を受けつつもニヤニヤ笑っているだけだった。 そして、いつの間にか弟のほうも姿を消している。 ソウヤとモリゾーは違和感を覚え、二人がどこへ消えたのかを探った。 「みんな!! 逃げて!!」 突然ゴロスケの声がした。 叫びながら全力でこっちへ走ってくる。 「フハハハハハハ!! もう遅い!! やれ!!」 カブトプスは高らかに笑いながらオムスターに命令した。 みんなが天井を見上げると、さっきと同じようにオムスター兄弟が張り付いている。 今度は固まってではなく、天井の端と端だ。 「了解! これでも浴びな!!」 二人は水を空間いっぱいに吐き出した。 しかも量はおびただしく、集中豪雨並みの激しさだ。 「おわああああ!!」 「いたたたた!! め、目が開かない!!」 みんなは慌てて目を押さえた。 なんと、二人が吐き出したのはしおみず、目を開けていられないのも当然だ。 「どうだ! もうキサマらに勝ち目はない!!」 カブトプスは視界を封じた四人に襲い掛かる。 つじぎりで足を狙い立てなくした後、アクアジェットで次々に吹っ飛ばしていく。 しおみずであたりは水溜りのようになり、その分アクアジェットの勢いも上がっていた。 「うがあ!!」 「ぎゃう!!」 みんなは勢いよく壁に叩きつけられ、意識が飛びそうになった。 だが、すんでのところで正気を保っている。 「く、くそお・・・!!」 ソウイチは憎悪の目でカブトプスを見る。 カブトプスはお構いなしでゆっくりと近づいてくると、ソウイチののど元に鎌を当てた。 「どうした? さっきまでの勢いはどこへ消えた? ええ?」 カブトプスはニヤニヤしながらソウイチを弾き飛ばした。 「うがあっ!!」 ソウイチは地面にいやというほど叩きつけられた。 「ソウイチ!!」 「おっと! 動くんじゃねえぞ!」 みんなは駆け寄ろうとしたが、オムスター兄弟にとげキャノンを構えられているため身動きが取れなかった。 ソウヤのでんき技も、地面がしおみずでぬれているため使えない。 「まずは見せしめに・・・、こいつから倒すことにしよう。仲間がやられる様子を、その目でじっくり見るんだな!!」 カブトプスは大きく鎌を振り上げた。 ソウイチはもうだめだと思いぎゅっと目をつぶる。 その時、ソウイチの頭上を何かが猛スピードで通過し、たちまちカブトプスを吹っ飛ばした。 「な、なんだ!?」 「何が起こった!?」 オムスター兄弟はそっちに気を取られ一瞬だけ監視の手が緩んだ。 すかさずゴロスケがれいとうビームで二人を凍らせ、三人はソウイチの下へ駆け寄った。 「ソウイチ、大丈夫?」 ソウヤはソウイチを抱き起こした。 「ああ・・・。なんとかな・・・。だけど、さっきのはいったい・・・」 ソウイチは倒れているカブトプスを見てつぶやく。 すると、後ろから聞きなれた声がまた響いてきた。 「ククククッ、かっこいいことを言う割には、ずいぶんと情けねえ姿だな?」 「ヘヘッ、オレ達が援護しなかったら助からなかっただろうぜ」 なんと、そこにいたのはスカタンクとズバット。 とっくに逃げたものと思っていただけに、その驚きは大きかった。 「お、お前ら! 何で逃げなかったんだ!?」 「フン。敵にやられたまま引き下がるわけにはいかねえのさ。それに、借りを作ったままなのも気持ち悪いしな」 スカタンクはにやっと笑った。 言い方は違うが、要はソウイチ達が気になって追いかけてきたのだ。 「・・・よく言うぜ。今度はやられんなよ?」 「ケッ、それはこっちの言うことだ」 いつの間に戻ってきたのか、ドガースはソウイチに言った。 「よっしゃあ! こっから反撃するぜ!!」 「おう!!」 みんなは一致団結してカブトプス達に立ち向かうことに。 急場を脱し、アドバンズ側に勝機が向いてきた。 「よくも凍らせてくれたな!! この礼はたっぷりしてやるぜ!!」 オムスター兄弟は触手をあらん限り震わせている。 「何人来ようが、我々の負けはない!!」 カブトプスは鎌と鎌をすり合わせ、アクアジェットで再び襲い掛かる。 オムスター兄弟は、ためていたとげキャノンを沿わせるように放った。 とげのよろいでコーティングされたカブトプスは、先ほどたいあたりを食らわせたドガースに一直線に突っ込んだ。 「ケッ! 最初と同じ手は食うかよ!」 ドガースは軽々とカブトプスをかわし、Uターンしようとした時にズバットがちょうおんぱを浴びせる。 「ぐあああああ!! や、やめろおおおお!!」 カブトプスは頭を抑え、アクアジェットを解除した。 「おらあああああ!!」 その瞬間を狙い、ソウイチはありったけの力を込めてばくれつパンチを打ち込む。 カブトプスは抵抗するまもなく壁にめり込み、そのまま気を失った。 「さっきのお返しだ! 骨の髄まで思い知れ!」 ソウイチはカブトプスに向かって吐き捨てた。 「キサマらよくも!!」 今度はオムスター達がれいとうビームとマッドショットを浴びせてきた。 みんなはれいとうビームを避けたものの、かなり泥がかかってしまう。 「くそお! これじゃへたばっちまうぞ!!」 ソウイチは忌々しそうに怒鳴り散らす。 だが、ソウヤは違った。 汚れた自分の体を見て、ある作戦を思いついたのだ。 「みんな! このままマッドショットだけは浴び続けて! もちろん、倒れない程度に!」 最初はみんな意味がわからなかったが、ソウヤの作戦を聞いて納得した。 しばらくはマッドショットだけをあえてよけず、みんなはますます泥だらけに。 そして、一瞬の隙を突いて作戦は開始された。 「いくぞ! ドガース!」 「合点!」 スカタンクとドガースはオムスター兄弟に狙いを定めた。 「食らえ!! どくガススペシャルコンボ!!」 二人は口からどくガスを吐き出し、オムスター兄弟を包み込む。 「ぐほっ!! な、なんてにおいだ!!」 二人はあまりのにおいに地面に倒れこみ、必死でにおいから逃れようとしていた。 気をとられている今がチャンスだ。 「オイラ達の本気を見せてやる!!」 その直後、モリゾーの体から緑色のオーラが漂い始めた。 そしてモリゾーの周りを鮮やかな色の木の葉が舞い始める。 徐々に加速し、やがてモリゾーの姿が見えなくなった。 「いけえ!! リーフストーーーーム!!」 モリゾーが腕を振り上げると、木の葉は勢いよくオムスター兄弟に向かっていき、あっという間に二人を飲み込んだ。 「ぎゃああああ!!」 「いたたたたた!!」 刀のごとく木の葉は二人に襲い掛かり、あっという間に二人は傷だらけ。 「今度は僕の番だ! それええええ!!」 今度はゴロスケの頭上に巨大な渦が出現。 そしてリーフストームごとオムスターを飲み込む。 渦は徐々に回転数を増し、オムスター兄弟は目を回した。 「うおおお・・・! だ、だが、みずタイプの技はきかねえぜ!」 この期に及んでまだ強がるオムスター兄。 すでに体力は限界なのに、まだまだ戦う気でいる。 「そうだね。でも、これだけで終わりだと思った?」 ソウヤはほっぺから電気を流しながらゆっくりと言った。 「ど、どういう意味だ・・・? まさか!」 オムスター達は顔を引きつらせた。 「そのまさかだよ! 十万ボルトおおおお!!」 ソウヤは出せる力のすべてをもって十万ボルトに注いだ。 地面はさっきのしおみずでぬれてはいるが、わざとマッドショットを浴びていたため電気は誰にも届かない。 かつ、うずしおは塩水でてきているのでよく電気を通す。 みずとでんきの組み合わせは定番だ。 「ぎゃあああああああああ!!!」 兄弟は断末魔の叫び声を上げ、渦が消えると同時にその場へ崩れ落ちた。 ドクローズの登場で形勢逆転し、見事勝利を収めたのだ。 「スカタンク、ありがとう。おかげで助かったよ」 「あの時来てくれなかったら、きっとやられてたと思う」 モリゾーとゴロスケは礼を言った。 「フン。お前達に礼を言われる筋合いはない。ただリベンジのついでに借りを返しただけだ。」 スカタンクはそっぽを向いて言った。 「へっ、かっこつけやがって!」 そう言うものの、ソウイチの目は笑っていた。 相手の本心はとっくに読めていたのだ。 「さて、これでもうここにとどまる理由はねえな。お前ら、引き上げるぞ!」 「へい!」 スカタンクは二人を連れて、その場から立ち去った。 その後姿は、今までにないくらい立派なものだった。 「そうだ! ペラップは!?」 みんなはモリゾーの言葉で我に返り、ゴロスケがペラップを移した場所へ走った。 「おい、ペラップ! しっかりしろ!」 ソウイチはペラップをゆすったが、うめき声を上げるばかりでぐったりしている。 オレンのみがあればよかったが、残念ながらすべてなくなっていた。 「ペラップ!」 突然後ろのほうから声がする。 見るとそれはプクリンで、なんとソウマとグラスまで一緒にいるではないか。 みんなが驚いているのは顔を見なくても分かる。 「親方~!!」 今度は毎朝聞かされている声が響いてきた。 ギルドメンバーもようやく追いついたようだ。 もちろん、グラスとソウマが一緒にいるのを見て驚いた。 「な、なんで親方と一緒に二人がいるんだ?」 ドゴームは聞いた。 「訳は後で説明するよ! それよりペラップが!」 プクリンはペラップのことしか頭になかった。 他のみんなもペラップの状態を見て息を呑んだ。 「ペラップ、大丈夫? 痛くない?」 プクリンはすでに目が潤んできている。 それほど心配で仕方がないのだ。 「ハハハ・・・、大丈夫・・・。この通りぴんぴんして・・・、ううっ!」 ペラップは心配をかけまいと体を動かそうとしたが、激痛のあまり顔をゆがめた。 「無理しちゃだめ! ごめんね・・・。僕が・・・、僕がもっと早く来ていれば・・・」 「そんな・・・。親方様のせいじゃないですよ・・・」 今にも泣き出しそうなプクリンをペラップは慰めた。 「しかし・・・、情けないですよね・・・。また同じ敵にやられるなんて・・・」 ペラップは自嘲的な笑いを浮かべた。 本当に情けなさで心がいっぱいだ。 「そんなことないよ!」 プクリンは強い口調で否定する。 「前に僕たちがここに来たとき、ペラップはすぐやられちゃったから覚えてないかもしれないけど・・・、あの時、ペラップはカブトプス達から僕をかばってくれたんだよ」 「えっ・・・?」 ペラップは信じられないという顔をしていた。 ただ単に敵の攻撃でやられたわけではなく、プクリンを守ろうとして自ら犠牲になったのだ。 「カブトプス達はあの後僕が追い払ったけど、ペラップがかばってくれなければ僕はやられてた。ペラップは、僕にとって命の恩人なんだよ?」 「そう・・・、だったんですか・・・」 その言葉で、ペラップの胸はいっぱいになった。 「ペラップは・・・、僕にとって、一番大切な相棒だよ・・・」 プクリンはそう言うと、ペラップをぎゅっと抱きしめた。 体はとても痛いが、心の中はすごく満ち足りた気分のペラップ。 「そんなこと、親方様に言っていただけるなんて・・・、とても、幸せです・・・」 その直後、ペラップの頭は力なく垂れ下がった。 「お、おいペラップ!!」 「しっかりしてください!!」 みんなペラップが死んでしまったのではないかと思い大慌てだ。 「みんな落ち着け! ちょっと静かにしてくれ」 ソウマはみんなを鎮めると、ペラップの胸に耳を当てた。 そこからは、ちゃんと規則正しい命の鼓動が聞こえてきている。 「大丈夫。気を失ってるだけだ。今すぐギルドで治療すれば間に合うはずだ」 ソウマは薬草入れから薬草を取り出し、プクリンに渡した。 薬草の調合の仕方はプクリンも知っているのだ。 「よし! それじゃあ早速・・・」 「いや、ペラップは僕達が連れて行く。ソウイチ達とグラスは先に進んで」 プクリンはソウイチの言うことをさえぎってきっぱりと言った。 「だ、だけど!」 「いいから。ここで君達が先に進まないと、ペラップも君達をかばった意味がなくなるよ。」 みんなはその言葉を聞いて押し黙った。 ペラップのことは気になるが、それより何より、今はまぼろしのだいちへ行くことが最優先だ。 「不思議な模様はこの先にある。さあ、早く!」 ここまで言われては、もう先へ進むしかあるまい。 「悪いな。ペラップのこと、くれぐれもよろしく頼む」 グラスはプクリンに言った。 「よし、行こうぜ」 ソウマはみんなの方を見て言った。 まだペラップのことが心配だったが、任務を優先するために心苦しい気持ちを押し込め、六人は洞窟の奥へと通じるトンネルへ入っていく。 「がんばって! まぼろしのだいちを見つけてね!」 プクリンはみんなの声を代表して六人の後ろに向かって叫んだ。 そして、みんなはペラップを手当てするためにギルドへ帰ろうとした。 すると・・・。 「はあ・・・、はあ・・・。ようやっと最深部来れたわ・・・」 「まさか、モンスターハウスがあんなにあるなんて・・・」 なんと、大分遅れてカメキチ達三人が到着したのだ。 これにはみんなもびっくり。 てっきりあの場にいるとばかり思っていたのだから。 「あれ・・・? みなさんどうしたんですか・・・?」 ドンペイはみんなの驚いた顔を見て尋ねる。 そして三人は今までの出来事を全部聞いた。 「えええ!? ソウマ達もう行っちゃったの!?」 「オレらのことほったらかしかい!」 「そんな~・・・」 三人は驚き呆れた。 自分達だって立派なアドバンズのメンバー、それなのに置いてけぼりを食うとは納得がいかない。 「今ならまだ追いつけるよ。急いで!」 プクリンは奥へ通じるトンネルを指差した。 「意地でも追いついたるわい! ったく!」 カメキチは鼻息を荒くした。 「とにかく急ぎましょ。私達だけ置いて行かれてなるもんですか!」 「そうですそうです!」 ライナとドンペイも少し腹を立てており、三人は急いで六人の後を追いかけた。 そしてそのころ、六人はひたすら奥へ通じるトンネルを歩いている。 「それにしても、なんでアニキ達はプクリンと一緒にいたんだ?」 ソウイチは二人に聞いた。 「プクリンが連れて来てくれたのさ。向こうはオレ達を探してたみたいで、会うなりまぼろしのだいちに行けそうだから来てくれと言ったんだ」 グラスは四人に説明した。 「まあ、オレ達もちょうど合流しようと思ってたから好都合だったんだけどな」 ソウマはにっと笑った。 「好都合? じゃあ、まさか・・・!」 「その通りだ。必要なときのはぐるまは全部集めた」 グラスはモリゾーにうなずいて見せた。 「やったあ!!」 みんなは飛び上がって喜んだ。 これで後はまぼろしのだいちへ行くだけ、集まっているのか分からなかった分、その喜びは大きかった。 「よ~し! これであとは模様の場所へ行くだけだな!」 うきうきしながら歩き出すソウイチ。 だが次の瞬間、ソウイチの横を何かが猛スピードで通り過ぎていった。 「いてててて・・・」 どうやらソウマが何かに突き飛ばされたようだ。 みんなは敵の可能性を考慮し、一斉に戦闘態勢に入る。 しかし聞こえてきたのは、敵の足音などではなかった。 「おい!! オレらをほったらかして自分らだけ行こうってのはどういう魂胆や!?」 「そうですよ!! 僕達だってアドバンズのメンバーじゃないんですか!?」 「ひどいわよみんな!!」 そう、それは必死で六人に追いついたカメキチ達だった。 みんなを目の前にして怒りが膨れ上がったのか、鋭い目でにらみつけている。 「ま、待て! お前らあの場にいなかったじゃねえかよ! だからてっきり・・・」 「てっきりなんや? まぼろしのだいちには行かん思うたんか? ああ!?」 カメキチはぐいぐいとソウマに詰め寄る。 他の二人も徐々にみんなとの間合いを詰めた。 仲間はずれのような扱いを受けたのがよっぽど我慢ならなかったのだ。 置いて行くつもりはなかったが、ペラップのことがあったのでその場にいなかったライナ達にまで気が回らなかったのは事実。 みんなはひたすら謝り、それで三人の怒りも収まった。 「ま、今回だけは許したるわ」 「だけど、忘れちゃ絶対嫌ですからね?」 「世界を救いたい気持ちは私達も同じなんだから。」 三人はいつもの表情に戻り、みんなもほっとする。 そして、しばらくぶりのフルメンバーで、みんなは模様のある場所を目指した。 数十分ほど歩くとトンネルを抜け、洞穴のような場所に出た。 「あ、水がここまで来てる。ちょうどいいや。のども渇いたし飲もうっと」 ソウヤは水の近くまで小走りで行くと水を飲み始めた。 「おい! 抜け駆けすんな!」 慌ててソウイチも水を飲みに行こうとしたが・・・。 「うえ! これ塩水だ! 海の水がここまで来てたのか!」 ソウヤは飲んだ水をまずそうに吐き出していた。 自分は飲まなくてよかったと密かに思うソウイチ。 「みんな見て! 洞窟が大きく裂けて海が見えるよ!」 みんなはゴロスケの指差す方を見た。 確かに、円形状に切り取られた部分からは海が一望できる。 かなり時間が経っていたのか、もう夕方だ。 「外が暗かって気付かんかったけど、時間経つん早いな~・・・」 カメキチは夕日を眺めて言った。 「岩の裂け目から潮が満ちてきてるんだろうな」 グラスは岩の形を観察しながら言った。 「あっ! これは・・・!」 突然モリゾーが声を上げた。 「ん? どうした?」 ソウイチがモリゾーの目線の先を見ると、そこにはなんとも大きな幾何学模様が描かれていたのだ。 しかも、その模様はモリゾーのかけらと極めて似ている。 これがペラップの言っていた模様だろうか。 「とりあえず、かけらを出してみろ。」 「あ、うん」 グラスはモリゾーに言い、モリゾーはバッグに入れていたかけらを出してみる。 すると、かけらと壁に描かれた模様が共鳴するかのように光り始めたのだ。 光はだんだんと強くなり、みんなはまぶしさのあまり目を覆った。 その光は一直線に海に向かって飛び出し、やがて消滅。 「今の、なんだったのかしら・・・」 ライナは光の指した方向を見ながらつぶやいた。 「光が海へ向かって飛び出していったみたいですけど・・・」 ドンペイも不思議そうに言った。 そして海を見ると、遠くに二つの影が現れた。 その影はだんだんと大きくなり、こっちに向かってきているようだ。 「グラスさんと、アドバンズのみなさんですね?」 「オレ達の名前を知ってるのか?」 ソウマは影の主に問いかける。 「はい。プクリンさんから伺っています。」 主は丁寧に答えた。 みんなはプクリンと知り合いだということに驚いたが、まだ分からないことがある。 「お、お前たちは誰なんだ? さっき光が海に向かって飛び出したと思ったら、お前らが来て・・・」 ソウイチは二人に聞いた。 「申し遅れました。僕はラプラスのラスティ、そして左にいるのは、妹のステラです」 「よろしく」 二人はゆっくりとお辞儀をした。 「そして僕達は、まぼろしのだいちへいざなう者」 「えええ!?まぼろしのだいちに!?」 みんなはまたしてもびっくり。 まぼろしのだいちへ行く方法が、ラプラスに乗ることだとは思ってもみなかった。 「君達は模様の光を放った・・・。それこそが、まぼろしの大地へ渡るしるしなのです」 そう、あの光線は、ラスティ達をここへ誘導するものだったのだ。 「海の向こうにそれはあります。さあ、僕たちに乗って海を渡りましょう」 ラスティはみんなに言うが、乗れといわれても、全員が乗れるのかどうかみんなは不安だった。 それを伝えると、ステラは笑って言う。 「大丈夫です。私達は特別ですから、半分ずつに分かれてもらえれば乗れますよ。」 みんなはその言葉を聞いて安心し、ラスティにソウイチ達四人とグラス、ステラにソウマ達四人が乗ることになった。 「いよいよ出発だな」 「うん、いよいよだね」 ソウイチとソウヤは顔を見合わせてうなずく。 とうとうここまでやってきたという思いが、二人の心にはあった。 「父さん、頑張ろうね!」 「ここまで来たんだ、なんとしてもほしのていしを止めようね!」 「ああ、なんとしても世界を救おう!」 モリゾー達もお互いに意気込んでいた。 「ライナ、こっからさきは想像以上に厳しくなる。それでもついて来てくれるか?」 「もちろんよ。私はずっとソウマのそばにいるわ。」 「オレもずっと一緒やで!」 「僕も最後までついて行きますよ! 先輩!」 ソウマ達も、お互いの決心を確かめ合った。 「よ~し! 海の向こうへ出発だぜ!!」 「おう!!」 みんなは気合を入れるとラスティ達の背に乗り、広い広い大海原へと繰り出していった。 大事な仲間を、家族を、そして世界を守るために。 ---- [[アドバンズ物語第六十八話]] ---- ここまで読んでくださってありがとうございました。 誤字脱字の報告、感想、アドバイスなどもお待ちしてます。 #pcomment(above)