ポケモン小説wiki
第一話『ポケモン嫌いの青年』 の変更点






「…」


 トラックの荷台の中、一人の青年が気持ち良さそうに目を瞑り、その揺れを満喫していた。

 見た目は十六か十七歳程度であり、パッと見た感じ、白髪と見間違えてしまいそうなその帽子が特徴的であった。


「…っと、ようやく着いたか」


 そして、その揺れが無くなり、トラック独特の停車した際の音が聞こえ、目を瞑っていた青年はゆっくりと立ち上がり、その荷台から外へ、ホウエン地方への第一歩を繰り出した。


「お疲れ様、シオン。どう、新しい我が家は?」

「いや…母さん。俺、まだ中見ていないし」

「あら、それもそうね。じゃあ、早く入って入って」

「うわっと!? いいって、押さなくても、自分から入るから!!」


 外に出ると、一人の女性が青年の名前を呼びながら近づき、新築と思われる家へと指を差しながらやや興奮気味に話しかける。

 シオンと呼ばれたその青年は、その女性、興奮する母親に呆れながら返事をし、それを聞いた彼女は一瞬きょとんとした表情になった。

だが、すぐに笑顔になると、彼の背中に回りこみ、押しながら無理やり家の中に連れて行こうとし、それを受けたシオンは、慌てて家の中に入った。


「っ!!?」

「見て、家の中も綺麗でしょ?」

「あ、ああ…だけど、何でポケモンが荷物を運んでいるんだ?」


 そして、家の中に入ったシオンの目に入ってきたのは、綺麗なフローリングでも、大型液晶テレビでもなく、ダンボールを運んでいるポケモン、ヤルキモノの姿であり、それを見た彼はあからさまに不機嫌な態度になる。


「便利でしょう? きちんと育てられたポケモンは、こういう事だって出来るって事が良く分かるわ~」

「俺がポケモン嫌いなのは知っているだろ!!」

「で、でも~」

「もういい!! おい、お前!! 俺の荷物に勝手に触るな!!」


 だが、母親は特に気にせず、寧ろ荷物をせっせと運ぶヤルキモノの姿にのほほんとしていた。

 そんな母親に、シオンは怒り、それに反論しようとする彼女を無視し、ヤルキモノから自分の荷物が入ったダンボールを奪うと、そのまま二階へと駆け上がっていった。


「…?」

「ごめんなさいねぇ~。昔はあんな子じゃなかったの」


 自分の仕事を奪われ、訳の分からない顔をするヤルキモノに対して、母親は頬に手を当て、ため息をつきながらヤルキモノに謝るのであった。




※※※




「…くそっ!!」


 二階に上がったシオンは、自分のと思われる部屋に入り、ダンボールを下ろし、そのままドアを乱暴に閉める。

 そして、下唇を噛みながら、苛々する。

 自分の嫌いなものを知っていて、それでも嫌いなものを自分の傍にやる母親に対して、仕事とはいえ、自分の荷物を勝手に触るポケモンに対して、そして、何よりもそれらを見て、イラついてしまう自分に対して怒りを隠せなかった。


「全く…俺は何をしているんだ」


 彼自身も子どもではなく、自分が苛々する事で周りに迷惑が掛かっている事を知っていた。

 冷静に考えれば、引越しの作業でポケモンを使うのは、そのほうがお金を使わなくてすむというのであって、母親にも、ポケモンにも罪なんてあるはずがない。


「…部屋の片付けは、後でやろう」


 だが、それに気付いたところで、今更のこのこと下に降りる訳にも行かず、シオンは目に付いたベッドに近づき、うつ伏せで倒れこむと、そのまま眠りについた。




※※※




(…)


 夢を見ていた。

 彼、シオンにとってはいつもの夢であり、驚く事はなかった。

 それは、彼がカントー地方からジョウト地方へと引っ越す原因となった過去であり、何よりも彼がポケモンを嫌わなくてはいけなかった理由でもあった。


(…くそっ、またこの夢か)


 一人の少年と一人の少女、そして一匹のポケモン。

 その二人と一匹がかくれんぼをして遊んでいる光景を、シオンは斜め上から見下ろすように眺め、思わず悪態をつく。

 少女が鬼となり、目を瞑って数を数えている間に、少年とそのポケモンは嬉しそうにその場から離れていく。


(ああ、もういい。もういいから…)


 そして、シオンの視点は少年だけに絞られ、そう遠くない草むらの中で息を潜めて隠れる姿を確認した彼は、頬をつねって、何とかこの夢を終わらせようとする。

 だが、夢は終わる事無く、少年が少女の悲鳴を聞いて、その草むらか飛び出していき、少女のところまで走る。


(やめてくれ!! もういいだろ!!)


 少年が走り出した先にある結末を知っていた彼は、悲痛な叫びを上げながら、何とかこの夢から醒めようとする。

 しかし、それでも夢は終わる事無く、


(やめろおおぉぉぉぉっっ!!!!!!)


 少年が、顔から血を流して倒れる少女と、その少女の血がついた尻尾を舐めるところを見たシオンは絶叫した。

 そして、そのまま意識が反転し、彼の目の前を深淵が覆った。




※※※




「っ!!!!? はぁっ、はぁっ…」


 飛び起きる。そして、ここが夢の中ではなく、現実である事を手にしたシーツの感触で理解し、乱れた呼吸を落ち着かせる。


「…っ」


 時計を見ると、すでに夜の七時を回っており、それを見たシオンは舌打ちをしながらベッドから降りて、一階へと向かった。


「お、ようやく起きたか」

「…父さん」


 一階に行くと、そこには彼の父親であり、トウカシティのジムリーダーでもあるセンリが椅子に座っており、シオンを笑顔で出迎える。


「ほらほら、ご飯が出来ているわよ。早く座りなさい」

「あ、うん…」


 そして、その声を聞いた母親は台所から顔を出し、テーブルへと晩御飯を並べていく。

 先ほどの夢をまだ引き摺っていたシオンは、目の前のありふれた日常に戸惑ってしまい、素直にテーブルに向かい、センリの向かい側の椅子に腰を下ろした。


「…やれやれ、その様子じゃあ、まだオダマキ博士のところへ挨拶にいっていないな?」

「っ!? な、何で…?」

「髪、はねているぞ」

「うぇっ!?」

「…まったく、仕方の無い奴だな。明日にでも、お前一人でしっかりと挨拶してこい」

「はい…分かりました」


 そして、今日一日の行動をセンリに見抜かれてしまったシオンは、父親の言う事に反論できず、オダマキ博士のところへと、一人で挨拶しに行く羽目になってしまった。

 それが、ホウエン地方を揺るがす大事件へと巻き込まれてしまうと事に、今の彼はまだ知らなかった。





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お久しぶりです、初めての人は初めまして、アーベントです。

前回のコメントありがとうございます。

と、言う訳で、記念すべき第一話から、既にルビーサファイアのストーリーガン無視で話を進めておりますw

まあ、アクア団とマグマ団以外の新しい組織として『クサナギ団』とかいう謎の組織を作ってしまった時点で、後戻りは出来ないのですw

でもまあ、ルビーサファイアが出た後、エメラルドが出ると聞いた時は、兄弟でアクア、マグマときたなら残るはクサナギしかないだろ、と騒いでいた頃を思い出しました(笑)

そして、私はポケスペも大好きなので、ルビーサファイア編の影響はモロに受ける可能性もあります。と、いうか既に受けていますw

これからもこんな感じで進んでいきますが、楽しんでいただければ幸いです。

それではまた

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