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漆黒の満月 六話 の変更点


written by cotton 



漆黒の満月 六, 



丘は、若草色を鮮やかに反射する。青空には白雲が漂い、二色は混ざることなく、そのままの形を保つ。木の洞から見える風景は、世界の平和さを表しているようだ。 



ー支えあって生きてゆく、か。 
アブソルはまた、イーブイの寝顔を見、呟いた。彼は昨日の事件で疲れてしまったようで、なかなか深い眠りから覚めようとはしない。 
もう疑問は消えてしまっていた。その決意を自分の三日月に、しっかりと刻んだのだから。額の右から伸びるそれは、いつもより鋭く光って見えた。寝息をたてるイーブイを見て、もう一度微笑んだ。 



「一つ、聞いてもいいか?」 
「ん?何?」 
「お前は、何に進化したい?」 
イーブイの寝顔を見ていると、ふと、ロンのシャワーズを思いだし、質問した。 
7種類のポケモンに進化できることから、イーブイは進化ポケモンと呼ばれる。彼の明るい性格なら、ブースターとか、リーフィアとかを選ぶと思っていた。 
「ボク…ブラッキーになりたい」 
予想外の答えが返ってきた。 
「ブ、ブラッキー?」 
「だって…兄ちゃんみたいに黒くて、格好いいから」 
「…やめておけ」 
「…何で?」 
イーブイは問う。 
「悪タイプになっても、ろくな事ないぞ」 
それは、彼が一番よく知っていた。誰も手を差し伸べてはくれない。一生孤独に暮らしていかなければならないのだ。 
「そんなこと、ないもん」 
イーブイは呟いた。 
「…え?」 
「だって、兄ちゃんは優しいじゃない。ボク、兄ちゃんみたいになりたい」 
「…駄目だ。お前に、俺と同じ思いはさせたくない」 
「なるもん。絶対」 
いつも素直なイーブイが、今回は言うことを聞こうとしない。 
「…兄ちゃん?」 
イーブイに呼ばれ、また深刻な顔をしていたのに気づいた。 
「…知ってるか?進化したら、その姿を一生持たなければならない。…後悔しても遅いんだぞ」 
深刻な顔のまま話す。 
「…何でさ」 
イーブイは問うことをやめない。 
「…いつもは、ボクの言うこと聞いてくれるじゃない。…昨日だって、あの場所に行きたいって言ったら、連れていってくれたじゃない…」 
「…」 
「…ボクのこと、嫌いになった…?」 
まただ。また、首を絞められるような感覚がする。前までとは、違う痛みが…。 
何も言い返せない。選択肢は二つしかなく、どちらも選ぶことができない。二匹とも黙り込んでしまった。 



「…イーブイ?」 
妙に静かになり、話しかけた。…返事をしない。不思議に思って見てみると、…いない、どこにもいない! 
「イーブイ!」 
足跡は、外へと続いていた。 




「…何処に行った…?」 
アブソルは息を切らし、イーブイを捜していた。…もう日が沈む。異様に濃い朱が森を包んでいる。 
ー早く見つけなければ。支えあうと誓った自分にまた嘘をついてしまう。イーブイにまた、孤独な思いをさせてしまう。 
「…何処だ。…何処にいる…!」 
焦りが顔に表れた。 



既に陽は沈んでしまっていた。空にはまだ星も、月も見られない。何にも照らされぬ夜の中、イーブイはただ走る。哀しさを紛らわすために。 
もう、ここはどこだか分からない。帰り道も分からない。無事帰れたとしても、いつもの優しい「兄ちゃん」はそこにはいない。 
ブラッキーになりたい。あの優しい「兄ちゃん」のようになりたい。しかし、どうすることもできない。進化するには、「月の祝福」が必要だった。 
帰りたい。泣きたい。でも、立ち止まれない。ただ、走るしかない。 



ーお前、名前は? 
ー…無いよ。気がついたら御主人、いなかったから。 
ー…そうか。俺も無い。 
ー…一緒だね。「兄ちゃん」って、呼んでいい? 
ー…ああ、いいよ。 
ー…兄ちゃん。 



「…兄ちゃん…」 
止めたはずの涙が溢れ出た。 
一緒に御主人を捜してくれた。傷を手当てしてくれた。七色の空間を見せてくれた。ボクをかばってくれた。いつだって、傍にいてくれた。 
ーそんな兄ちゃんは、もういないー 



「シャワーズ。一体何処へ…うん?」 
「あ…御主人…」 
「シャワーズが急に走り出したから何処に行くかと思えば…」 
森には、沈黙が続いていた。 



[[漆黒の満月 七話]]へ。 



気になった点などあれば。

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