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時渡りの配達人 の変更点


writer is [[双牙連刃]]
う~ん、上手い説明が思いつかない……。
とにかく自由度の高いものを書きたいと思い作りました。
ツッコミ所は多々あるかもしれませんが、広い心で見てやって下さい。
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 何処の世界にも属さず、何処の空間とも交わらず、神々のみがその存在を知っている場所。
 それが、時空の狭間。
 『神』と呼ばれしポケモン達しか介入出来ない筈のそこに、一つだけ巨大な建造物が存在していた。
 その建造物の看板に掲げられている名は、

『HAZAMA POST OFFICE』

 この物語は、そんな摩訶不思議な郵便局から始まる……。

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「いよっしゃああああぁぁぁ! 遅刻じゃああああああぁぁぁ!」

 だーれも居らん無駄にだだっ広い廊下に空しく木霊するワイの声。シュールやねぇ。
 時間帯があれやしなぁ。仕事の奴はもう準備始めとる頃やろうし、非番の奴はまだ自分の部屋で寝とるんやろうなぁ。
 昨日、調子に乗ってネットし過ぎたわぁ。案の定遅刻して集積所へマッハ1.6(そんな出るわけはないんやけどな)で向かう事になってしもたわ。
 いよし! この曲がり角抜ければゴールや! ワイの飛行テクは伊達やないで!

「きょっくちょ~、おはようさ~ん!」

 勇んで集積所に飛びこんだんやけど、相変わらず物で溢れとるのぉ。あらゆる世界からここに届く配達品がぜ~んぶ集まるんやから、そら眺めはえらい事になっとんで。
 山や。荷物で山が出来とる。こんな中に一日中居て、局長も副局長も頭どうにかならへんのやろか? ……ならへんから今も局長なんやろな。納得。
 おっと、山の陰から同じくらいの大きさの青いのが出てきたわ。局長であり時の神、ディアルガさんの登場や。

「ウィレットか? お早う。今日も荷物が沢山で困ってるんだ。しっかり配達頼むよ」
「荷物が沢山なんは局長と副長がケンカするからやろ? 仲良うしてればこないな事にならんのに……」
「そう言わずに頼むよ。私達だって別に物をここに迷い込ませる為にケンカしている訳じゃないんだからさ?」

 そう、ここの物はみーんな局長と副長の力がぶつかりあった所為で、あっちゃこっちゃの世界に時空の歪みが生まれて、それに巻き込まれた物なんや。
 で、ワイ等はそれを元の世界に配達しに行っとるんやわ。
 そやそや、局長より名前が挙がったから自己紹介でもしとこか。ワイの名前はウィレット。世界中を飛び回って荷物を運ぶ、ムクホークの配達人や。覚えてな~。

「その前に遅刻した言い訳でも聞かせてもらおうか? 遅刻常習犯!」
「あっらー……副長もおったんかいな? 見逃してくれぇ、堪忍してぇな」

 堪忍袋の緒がゆーるゆるの局長に対して、ぱっつんぱっつんなのが副局長のパルキア殿。あかん、怒ってらっしゃるわ。肩の宝石みたいの光っとる~! 下手したら一瞬で空間の歪みに不法投棄が決定してまう。

「い、いやな? 今日はなんか毛並みがイマイチ決まらんくてセットに時間掛かっててん。ほら、この仕事やって身嗜みは大事やろ?」
「ふーむ? まぁ、50点位だな。パソコンのし過ぎで寝坊した言い訳としては」
「寝坊した事もその理由も、もう知っとるんやん……」
「まぁいい、ところでもう一人謝った方がいいのが居るんじゃないか?」

 副長が部屋の真ん中の辺りを指差した。見んでももう誰が居るかは分かってるんやけどな。
 濃い灰色位の体毛に、黒いタテガミ。子供っぽい顔付きの奴がこっちをめっちゃ見てるわ~。

「先輩……お早うございます」
「なはは~、お早うコマイヌ。今日も元気そうやね」

 こっちもあかん! 赤い目でこっちを全力で見んといて! 若干いじけてる様に見えへん事もないねんけど!

「僕ずっと待ってたのに、先輩、僕に話しかけてくれないんだもん。コマイヌって呼ぶし……」
「すまんすまん。ふてくされるなって! それに、コマイヌはコマイヌやろ?」

 さて、連続でからかってみたがどう返してくるかいの?
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 う~、先輩のイジワル……僕泣いちゃうぞ? 朝から待ちぼうけで、しかも名前違うし!
 僕の名前はコマ。フルネームだと、コマ=ランパート。コマイヌっていうのは先輩が勝手に付けた呼び名だから間違えないでね? ガーディじゃないよ? 立派なポチエナです。

「うぅ~、いっつも僕はコマイヌって呼ばないでって言ってるじゃないですか~。酷いよ~」
「おぉ!? 泣きそうになるなて! ジョークやジョーク!」

 とかなんとか言っても、呼び方変えてくれた事なんか無いんだよ? お陰で「コマの奴は本当はガーディなんじゃないか?」って変な噂がオフィス中に流れたこともあるんだよ! そんな訳無いのに!

「二人ともじゃれてないでさっさと準備してこい! 今日は遅刻の罰として、重大な時間の乱れになる恐れのある物を配達してもらうからな!」
「うげぇ~! マジで!? 嫌やわぁ~、責任問題とかめんどいやん!」
「僕に至っては遅刻してすらいないんですよ!? やだよ~」
「恨むんだったら、遅刻常習犯で、このオフィスで依頼成功率ナンバー1の自分達を恨むんだな」
「そうそう。コマもウィレットも頑張ってくれるからね。こういう重要な依頼も安心して任せられるよ」

 そうなんです。先輩と僕のコンビは、先輩の遅刻を除けば配達依頼成功率がほぼ100%の優良配達人なんです。何でかって言うと、先輩が「中途半端は嫌や!」って言うから届けるまで帰って来れないからなんですけど……。
 僕先輩に振り回されっぱなしなんですよ? 誰か、恵まれない僕にお慈悲を下さい。

「しゃあない。さくっと行ってさくっと終わらせよか。行くでコマイヌ」
「だぁかぁらぁ、僕の名前はコマですー!」

 はぁ、先輩と組んでる以上、僕はコマイヌって呼ばれ続けるんだろうなぁ。もう我慢して早く準備終わらせよう……。
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 んでもって配達人詰め所へ到着~! といっても、集積所の直ぐ横なんやけどな?

「え~っと、持ってくもんは配達袋と傷薬……あ、昼飯も欲しいのぉ」
「先輩一番大事な物忘れてますよ。はい」
「おぉ! ヘッドセット! すっかり忘れとった!」
「これ無かったら帰ってこれないじゃないですか。何忘れてもいいからこれだけは忘れないでくださいよ」
「まぁ、ワイが忘れてもサポートのお前が付けとれば帰ってはこれるんやけどな?」
「僕に頼らないで下さいよ……配達経験長いのは先輩なんですから」
「頼りにしてんでぇ? 天才サポーター!」

 何か分からんやろから、ちょこっとヘッドセットについて説明しとこか? 一言で言えば通信機器や。(副長のお手製なんやで?)
 配達先からここ、もしくは配達先で仲間と離れた時に会話するために付けとるんよ。
 こいつでここに帰還するっちゅうことを伝えんと、ワイらここに帰ってこれんようになってしまうんやで。
 他にも、配達人のダメージをヘッドセットが一定の電力消費して肩代わりしてくれたりとか、色々機能付いててかなり高性能な機械なんやで?
 副長がここに流れ着いた、人間が使うてる……スタイラーやったかな? そいつを調べ上げて作ったんやと。あないなデカイ体して器用なもんやで。
 こいつのイヤホンを耳に入れて電源点けてと……羽でやるのしんどいわぁ。慣れてんけどな。
 

「よっしゃ! 準備完了やで! コマイヌそっちは?」
「僕も準備出来ました」

 コマイヌんは耳に入れるんやなくて引っ掛けとくタイプやんな。サポート用の片目で見れるディスプレイ付き。そいつを右目の横の毛に専用のクリップ使うて固定しとるんや。ワイも人の事言えへんけど、あの前足でようやるわ。

「お~っし! 局長達んとこ戻んで」
「は~い」

 そういや、今日の依頼品何かまだ聞いてへんかった。めんどそうなもんやろなぁ、嫌やなぁ。
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 集積所に戻ってきたら、もう転送の準備も済んでるようやな。
 局長と副長の間の何も無かったとこに穴あいとる。他の世界と、時間と空間を繋ぐトンネルやな。

「来たか。これが今回の配達物だ。失くすんじゃないぞ!」
「なんや? これが時間に影響与えるもんなんか?」
「僕にはただの古ぼけた鈴に見えるんですけど?」

 副長から渡されたんはコマの言うとおり鈴や。しかも煤けた。な~んでこんなもんが時間と関係あるんやろ?

「その鈴は『透明な鈴』って言ってね、どうやら伝説に名を残すポケモンに縁のある物なんだよ」
「その鈴が無ければ伝説にズレが生じてしまう。それだけは回避しなければならんのだ」
「何処が透明やねん? しかも四個もあるんかいな?」

 今ワイの手(羽)の中には似たような鈴が四個もあるねん。おんなじもんにしか見えへんけど。

「うん。本来五個揃って効果のある物らしいんだけど、一つは人間が管理しているらしくてここに来ていないんだ」

 なるほど、それなら同じでも納得やわ。配達ついでに磨いといたろかな? って人間!?

「それって、僕達ポケモンだけじゃなくて人間も居る世界に行くって事ですね? 厄介だな……」
「コマイヌ、ビビルなって! あいつ等の投げてくる変なボールさえ気ぃ付けとけばなーんも心配いらへん!」

 強がったけど人間めんどいんよなぁ、しつこくバトル仕掛けてくるし、弱ったと思われたらワイら捕まえるボール投げてくるし。
 会う事無いとええんやけど……。

「油断してゲットされないように気を付けるんだぞ。後の詳細な情報は、現地への到着を確認したらコマのヘッドセットに送る。頼んだぞコマ」
「了解です、副局長」
「長話になってもうたな。そろそろ行こか」

 めんどそうな事が多そうやけど行くしかない! 腹くくって行ったろやないか!

「時間調節完了済み! 二人とも、気を付けるんだよ!」
「空間連結安定! 行って来い!」
「行くでぇコマイヌ! 早ぅ乗らんと置いてくで! 後、鈴は任した!」
「あぁ、待って下さいよぉ~」

 コマの奴も背中に乗った。鈴もコマが配達袋の中に入れた。準備完了や!

「配達人ウィレット=チェンバー、行ってくんでー!」
「同じく配達人コマ=ランパート、行ってきま~す!」

 さぁ、時空を越えて、目指すは別世界の大空じゃ!
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 うわ、眩しい! オフィスって、太陽とか空とか無い空間にあるから電気の灯りしかないんだよね。でもやっぱり日光って気持ち良いな~。うん、無事に配達先の世界に来れたみたいだね。
 トンネル抜けるのって実はほんの一瞬なんだよね。場合によっては長い事もあるんだけど、此処はすんなり来れたみたい。

「うおー! コマイヌ見てみぃ! 青い空に白い雲、見渡す限りの綺麗な海! やっぱり飛ぶんならこうやないとな!」
「本当ですねー! すっごく気持ち良いです!」
「こんな良い世界来たんや、ちょっと観光でもして心の洗濯と洒落こもか?」
「あ、良いですねそれ! 賛成です!」
「おっしゃ! そうと決まれば膳は急げや! さ~て、何処行こか?」

 観光は賛成だけどやる事はやらないとね。お仕事お仕事。

「ちょっと待ってください。何処行く前に、局長達と通信出来るか確認しちゃいますね」
「そうやったな。散々遊んで帰られへんじゃ洒落にならんわな」

 まずは、ヘッドセット……ディスプレイもちゃんと動いてるし大丈夫そう。通信選んで通信先の設定、オフィス集積所っと。
 普通に操作してるけど凄いんだよこれ? 何にも無い場所にヘッドセットからの光でキーボード形成してそれで操作してるんだよ。四足歩行でこれ出来るのは僕くらいだろうね。
 って、何もかもが普通、ポケモンが出来ない事か。ヘッドセットとかキーボードが使えるのはもちろん勉強したからだよ? あそこで働く為には必要になるからね。

「通信のテスト開始。局長~、副局長~、聞こえてますか~」
「通信状態良好。やぁコマ、そっちの様子はどうだい?」
「天候、時間、空間共に安定してます。天気良くて凄く気持ち良いですよ」
「それは何よりだ。ウィレット! だんまり決めてないで喋ったらどうだ?」
「なんや居ない振りして心配させたろ思たのに、つまらんのぉ~」
「コマが普通に通信してきている時点でバレてるだろ……」

 先輩はこんな時でもそんな事考えてたのか……本当にマイペースというかなんと言うか。先輩らしいと言えばそれまでか。

「じゃあコマ、そこの情報とマップを送るよ。確認してね」
「了解です。通信終了します」
「局長も副長もまたな~」

 あ、来た来た。こうやってオフィスから送られてくる情報見てるといつも不思議な感じ。だって、まるっきり違う世界に居るのにちゃ~んと通信できてるんだもんね。それもこれも副局長が作ってくれるヘッドセットが、いつもオフィスのメインシステムとリンクしてるからなんだ。
 空間も時間も越えるリンクなんて張れる道具作っちゃうんだから、やっぱり神様のやる事は一般ポケモンとは一味も二味も違うよね。

「どや、コマイヌ。何かおもろい事あるん?」
「面白いかは分かりませんけど、此処が何処かは分かりましたよ」
「ほっほー、どんなとこなんやここ?」
「名称ジョウト。来る時に言われたとおりポケモンと人間が居る世界です。此処は渦巻き島って呼ばれてる場所の上空ですね」
「お! ホントや。下見たらなんや島囲んで海が渦巻いとるわ」

 のん気に言ってるけど、海が渦巻くほどの海流が出来てるってことだよね? 情報に載ってるこのポケモンと何か関係してるのかな?

「ここって、海の守り神って呼ばれてるルギアが現れる場所らしいですよ」
「むぅ!? 確かルギアも伝説になっとるよな? だったら目的地此処なんちゃうの?」
「違うみたいです。目的表示がもっと北の方を指してます」
「な~んや、速攻仕事終わらしてからブラブラすんのも有りかな~とか思ったんやけど」

 僕としてはホッとしたよ。あんな危険そうな所好きこのんで行きたくはないもん。水嫌いだし。
 う~んと、後、目ぼしい情報は……と? これは大事だから伝えておこっと。

「先輩。此処に僕達と同種族のポケモン居ないみたいです。あんまり目立たないようにしないと格好の的にされかねないですよ」

 特に人間のトレーナーからね。珍しいと見るやいなや、目の色変えて襲ってくるから困るよ。

「そうなん? 分かったわ。高いとこ飛んでるとワイら結構目立つな。どっか降りよか?」
「そうですね。ついでに夜まで時間潰しましょう。その方が動き易そうです」

 実は僕、遊びたいんです。時間とか僕達にはあまり関係無いし、何より僕まだ子供なんです。

「とか何とか言っちゃって、遊ぶ気満々やないかコマイヌ~」
「ぼ、僕だって遊びたい盛りなんだからいいでしょ! もう早く何処か行きましょうよ~」
「了解! しっかり掴まっとき!」

 先輩がスピードを上げていく。若干怖い~、下が水だらけだと思うと尚のこと心臓に悪いよ~。僕、溺れかけた事があるからトラウマあるんだよね。
 下に広がっていた景色があっという間に流れていって青から緑に変わった。もう陸地に着いたんだ。流石、遅刻ダッシュで鍛えた飛行テクニックだね。スピードが違うよ。

「なんかワイに失礼な事考えてへんかお前?」
「へ!? い、嫌だなぁ、そんな事考えてませんよぉ」
「そうかぁ? なんかワイの勘が訴えかけてくるねんけど」

 ……先輩の勘の良さが怖いです。
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「この辺で一先ずはええやろ。コマイヌ降りんで」
「分かりました」

 えっと、ここは何処かなっと……ふ~ん、コガネシティか。大きな人間の町、多数の建造物あり、ね。
 ま、町の中に堂々と降りれないから、町の近くに一軒だけあった人間の家の近くなんだけどね。

「ふぃ~、なんも食わんで飛ぶんはやっぱしんどいで。ここらで何か食うもん探そか」
「あれ? 先輩、昼ご飯用に何か持って来たんじゃないんですか? 詰め所でそんな事言ってましたよね?」
「いやな? お前にヘッドセット渡されて、それ付けとったやろ? それで忘れてしまってん。あ~腹減ったわぁ」

 え、僕の所為? やめてよ、こんな林の中でそんな簡単に食べ物が見つかる訳……あれ?

「先輩、この林の奥に多数の木の実が密集してる地点があるみたいなんですけど……」

 僕のヘッドセットにはセンサーも付いてて、指定すればいろんな物探す事も出来るんだ。

「おおおお! 天の助けとは正にこの事! ダッシュじゃあああああぁぁぁぁ!」
「あ! 先輩待って! って先輩、地上なのに早っ! 本当に待って~!」
 
 あの二本の足に僕以上のパワーがあるとは、先輩って本当にムクホークなの? パソコンも、羽でキーボード打って使ってるらしいし……怪しい。
 本当はメタモンの変身!? でも矛盾は残るか。オフィスにムクホークは先輩だけだし、何よりメタモンじゃ結局キーボードの謎は解けないし。
 とか何とか考えてたら反応があった地点に着いた。けどこれは……。

「うぉー! 木の実の山やで! 良い仕事したのぉコマイヌ!」

 絶対に変だ。木の実がまだ木に実を付けているなら群生してるって事で僕も納得するよ。だけど、これはもう収穫された後の木の実が山になってる。自然な状態とは到底思えない。
 これがある場所も木を避けるように僅かに開けた草むら。ポケモンが木の実を集めるてるのなら、鳥ポケモンに見えるこんな場所はおかしい。寧ろ誘ってるような……まさか!?

「先輩、その木の実に近付かないで!」
「ん? なんやコマイヌ食わへんのか?」

 遅かったか! もっと僕が早くに結論を出してればよかったのに!
 何かが外れるような音……やっぱり罠か!?

「おぉ!? 何や何や? 急に地面から網出てきたで」
「罠ですよ、罠! まんまと引っ掛かっちゃってまぁ」

 先輩、木の実と共に宙吊りの図完成です。もぉ~、もうちょっと警戒心あってもいいんじゃないの~!
 こんな手の込んだ事するのはポケモンじゃないよね。もぉ、面倒だな。

「コマイヌ、気ぃ付けえ! お前の反対側の茂みから気配がさっきからしとる。ワイ挟んで反対側やで」
「気配に気付いてるなら罠にも気付いて下さいよ!」
「いやぁ、なんかあるんは分かったんやけど、何あるか気になるやん。罠って言うのは何も掛からんと空しいもんやろ?」
「だからって先輩が掛かる必要は無いでしょ! 早く出てきてくださいよ!」

 早くしないと面倒事が増えていく一方だよ。木の実の量からして多分一人じゃない。仲間呼ばれたりしたら目も当てられないよ。

「その前にポケモンの反応3つじゃ。敵意剥き出しやな。コマイヌ相手よろしく~」
「え!?」

 僕のディスプレイに反応は……来た! 先輩の勘ってどうなってるの!? センサーが反応する前に数まで当てるなんて……寧ろもうエスパーの領域だよ!
 しかも網の中で木の実食べ始めてるよ。自分の置かれてる状況分かってる? マイペースにも程があるでしょ!
 しかたないなぁ。とりあえず一人だけど戦闘準備!
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 どうも、網の中からこんにちわ。このバトルの実況を勤めさせて頂くウィレット=チェンバーです。
 ふざけてたら後でコマの奴にしばかれるな。うん。珍しく自重しとこか。
 さて、ワイがこん中やから必然的にコマが戦うんやけど、相手は何かいなっと。
 ふ~ん、コラッタにオタチ、それからホーホーか。ワイが出るまでも無いな。木の実食べんの再開~。

「先輩、僕はあくまでサポーターなんですよ? 攻撃用の技は『噛み付く』しかないんですからね?」

 なんやこんな相手に心配しとるんか? しゃあない、アドバイスしたろか。

「お前のほうがステータスで相手より上まわっとる。な~んも心配いらへん」
「ふぇ!? 先輩そんな事も分かるんですか!?」
「おぉ、分かるで?」

 ぬっふっふ~、ワイ位になるとヘッドセット無しでそんなんも分かるんやで。レベル73は伊達やない!
 因みにコマイヌがレベル50位、他の奴はみぃんな20程度やな。コマの奴の敵やない。てかなんでコマの奴進化せんのやろ?

「う~ん、やっぱり説得してみます。こっちが強いの分かってるのに戦ったら苛めてるみたいだし」
「そうか? 無駄やとワイは思うで?」

 相手は多分、トレーナーの指示で動いとるんやろ。せやからその指示には逆らえへんはずや。嫌やねぇ、自分の意思で動けへんのは。ワイは願い下げやで。

「ねぇ! 戦うのなんて止めようよ! 君達だって、僕に敵わないの分かってるでしょ!」

 うおお、ほんまに説得する気かいな。でもそんなに悪い策やないかもしれんな。
 オタチとホーホーには言ってること分かっとるようやな。そないな事言われたことないんか、戸惑っとるようや。
 せやけどやっぱりあかんか。コラッタが空気読めてへんわ。「キィィィィ」言うて威嚇を止めようとせん。

「コマイヌ残念やったな。駄目そうやで」
「交渉決裂、か。しょうがないなぁ、おいでよ。遊んであげる」
「なんか、似合わんな。弄られてこそのコマイヌがそう言うんわ」
「僕の事弄るの先輩だけじゃないですか」

 まぁ、そうやけどな。弄りやすい性格しとるんが悪いんや!
 それにしてもコマイヌの奴、構えとるとなかなか勇ましく見えるな。雰囲気出とんで。
 流石、悪タイプってとこかいの? 相手への威圧の方法は心得てるって感じやな。

「う、うわあああぁぁぁぁぁ!」

 おお、コラッタが叫びながら襲ってきおった。コマから出とる雰囲気に負けたな。明らかに軽く錯乱しとる。

「そんなんじゃ駄目だよ。もっと僕を楽しませるような襲い方してくれなくちゃ」
「いや、コマイヌ? 自分発言がおかしいし怖いで? 大丈夫なん?」
「おっと、僕はこんな事言うキャラじゃないですね。可哀想だけど決めさせてもらうよ!」

 体当たりしてきたコラッタをステップで避けて、噛み付くを隙だらけの脇腹に一撃! スマートな戦い方やな。一瞬、コラッタをいたぶるコマの様子を想像してまったけど、この方がコマらしいわ。

「コマイヌお見事! な~んや全然イケとるやん!」
「僕だってこれくらい出来ますよ。でもやっぱり後味悪いなぁ」

 若干、裏コマを垣間見たような気ぃしたけどこいつはこいつやな。礼儀正しい方がワイとしてもやっぱりええわ。

「後、ニ匹残っとるで。さっさと決めてまいや」
「レディに牙を剥くような無粋な真似はしませんよ。自分でお帰り頂きます」
「何故にいつも以上に丁寧口調なん? しかもよく相手が雌って分かったのぉ」
「嗅ぎ分ける使いました。オタチからもホーホーからも、コラッタとは違う匂いが出てたんです。相手が異性なら失礼の無いようにしなくちゃいけませんからね」

 そんなんで分かるんか。良い鼻しとるのぉ。
 しかし、コマイヌのくせに紳士ぶるとは、許せんのぉ! からかったろ。

「なぁ、コマイヌ? 具体的に言うと、相手からのどんな匂いでどっちか判別しとるんや?」
「え!? えっと、それは、その……」
「ん~? どした? 答えられへんのかいな?」
「も、もぉ! 先輩、僕が答えられないって分かってて聞いてるでしょ!」
「くふふふふ、あたりまえやろ~。じゃなきゃ面白ないし」

 コマイヌが顔赤くして慌てとるとこがおもろいわぁ~。しかもワイらの話聞いてたんか、向こうも顔赤くしとる。何を想像したのかな君達? ヤバイ壷ってまう。バトル中でもこんな面白状況を生み出してしまうとは、ワイのからかい道冥利に尽きるで。
 でも、相手が雌って分かってまうと戦いにくいやろ。コマの性格からして戦闘に向いてへんし、相手が異性ならなおさらや。自分で帰ってもらう言うてたけど、どうする気や?

「ふう、それじゃやってみようかな」

 コマイヌが一呼吸置いた? おぉ! 分かったで! それなら確かに戦わずに追っ払えるわ!

「ガアアアァァアアァァァア!」
「きゅぁ!? ひいぃぃぃぃぃ……」

 コマイヌの奴が使うたんは『吠える』。自分より格下ならこれで十分や。尤も、さっきのコラッタみたいに空気読めてへん奴には効くか怪しいねんけど。
 それでコマイヌ、コラッタだけ倒したんやな。冴えとるやないか。
 相手の二匹はすっかり怯えとるわ。あらもう戦える状態や無いな。

「相手の無力化に成功っと! これ位、簡単ですよ」
「お~お~言うのぉ! ワイが出るまでも無かったようやな!」
「それでもそろそろ出てきてくださいよぉ、僕も木の実食べたい~」
「分かった分かった、ちょっと待っとれよ。……ん?」

 さっきまで居た三匹が光になって消えた? あぁ、こいつ等のこと忘れとったわ。
 人間様が茂みから出てきよった。こいつ等が大元やったな。

「コマイヌ、どうやらまだのようやで?」
「そうみたいですね。ま、あの程度のポケモンしか居ないなら僕で十分ですよ」

 コマの言う事は正しいが、さぁて、どう出てくるかいな?

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「お前が、こうしておけば楽にポケモンが集まるって言うから手伝ってやったのに、掛かったのは一匹だけだし、しかも物凄く強い奴が近くに居るじゃないか! どうするんだよ!」
「う、五月蝿い五月蝿い! 強いんならゲットしちまえば即戦力だろうが! それに見た事ない奴らだから、捕まえて従えれば幹部にだってなれるかもしれないぞ!」
「その前に弱らせられないじゃない! 一撃でやられてるのよ!? 私たちのポケモン!」

 なんや、やかましい奴らやのぉ。人間の男二人に女が一人か。
 話しぶりからすると、大して自分達が強ないから、野生のポケモン集めて手持ちの数だけ増やす作戦だったようやな。
 誤算として言えば、掛かったのがワイ一匹で、しかもコマっておまけがむっちゃ強くてゲット出来なさそうなことやろな。
 しっかし、はっきり言って格好がダッサイわ。黒ずくめの服もそうやけど、何より帽子に付いとるRのマーク。何がしたいんかわっからん!

「はーはっはっはー! 俺に秘策あり! こんなチビポケモン一匹なら余裕余裕!」

 あ、ヤバイ、こいつタブー言いおった。

「……なんか言われとんでコマイヌ」
「……(ブチッ)ブッ飛ばす!」

 あー、コマイヌ切れたわ。おーい逃げろー。下手したら殺されるぞー。って言っても、ワイ等の言うとる事はあいつ等にはガウガウクエクエとしか聞こえてないんやけど。

「うおおおぉぉらああああああぁぁぁ!」
「な、なんだこいつ、急に凶暴にぎゃあああああぁぁぁぁ!」
「ちょ、チョッと待ってぇ! こっちに飛んでこな……いやぁぁぁぁ!」
「ハーイ言い出しっぺ以外の奴激ちーん。二人リタイアやな」

 説明するとやなぁ、コマの奴をチビ呼ばわりした男じゃないほうにコマが全力体当たり。んで、その体当たりで吹っ飛んだ男に女が巻き込まれてダウンした、と。
 コマイヌ、チビて呼ぶと激変すんねん。力も普段の倍くらいになっとるようで、人間の男くらいなら楽に吹っ飛ばせるねん。
 なんで詳しいかて? もちろんワイも酷い目ぇに遭うたからや!
 しかも、この状態でも冷静やから困る。なんで言い出しっぺ以外をのしたか分かるか? 邪魔されんようにや。……じっくり料理すんのをな。

「な、なんだこのチビ! 二人やられたからってビ、ビビビるおおおお俺じゃななないぜぜぜ!」
「あかんやん……完っ全にビビっとるわ」
「まぁぁだ言うかこらあああぁぁぁぁぁぁ!」

 わーい、コマイヌイズオーバードラ~イブ。こうなったら、力ずくで止めんと止まらんねや。疲れるんは嫌やのに、めんどい事してくれたで。
 コマの全力の威嚇で人間は半泣きや。自業自得、因果応報。ワイに助ける義理は無し。さいなら~。

「わぁぁぁ……助けてミルタンクぅ~」

 ついに泣いたー。泣きながらボールからポケモン出してきたな。ミルタンクか。
 あ、こいつもヤバイ。あのミルタンク強いわ。55いっとるな。コマじゃちとキツそうや。秘策っちゅうのはこいつのことやな。

「退けやぁぁぁぁぁ! そいつをブッ飛ばすんだぁぁぁぁぁ!」

 コマイヌはバーサクモード入っとるから気付いてへんな。ミルタンクのはたくどーん! おぉ、コマの奴よく飛ぶわ。
 しゃあないのぉ、助けたるか。ワイ等のヘッドセットは技のダメージなんかは防いでくれんねんけど、地面にぶつかったりしたので受けたダメージは防いでくれないねん。
 助けるんには、まずは邪魔なこの網切らんとな。

「ほほいほいほーいっと」
「! ロープが鋼の翼で切れた!?」

 ほい人間、実況ご苦労! 本来、鋼の翼は自分の翼を鋼に変えて体当たりするだけの技やけど、工夫次第で十得ナイフに早代わりや!
 この場合は翼の羽の方でスパスパと……説明しとる暇無かったわ。コマイヌキャーッチ!

「ん? あれ、僕は何してたの?」
「おお! 吹っ飛んだついでに目ぇ覚ましたか! 良かった良かった」
「あれ、先輩が出てきてる? って、なんで僕が先輩の腕(羽)の中に?」
「詳しい話は後や。お前はあのミルタンクに吹き飛ばされたんやで?」
「へ? 全然覚えてないや。僕、どうなってたんですか?」

 世の中には知らんでええこともあるやろ? わざわざ説明するのもめんどいし。

「まぁ、とりあえずお前は下がっとき。あいつの相手はワイや」
「う~ん、釈然としないけど……分かりました」

 ん、いつも通りの素直さや。ちゃんと元に戻っとるな。
 さ~て、ワイは食後の運動と行こか!
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 ミルタンクはノーマルやったっけ? そんなら別にてこずる相手やない。

「よ、よし! いいぞミルタンク! 流石とっておきの一匹だ。二匹ともやっちまえ!」
「お前さんも馬鹿っぽい主人にこき使われて大変そうやのぉ。ワイのほうが強いん、分かってんやろ?」
「驚いてるわ。私より強い野生のポケモンが居るなんてね。いいえ、トレーナーとのバトルでも見た事無い位強いようね」

 ほ~ん、なかなか話せる奴やな。そんなら丁重にお帰り頂けんかな? それならさっきのコマとおんなじか。

「いけ! ミルタンク、転がる!」
「はぁ……無駄なのは分かってるけど、行くわよ!」
「ま、ゆるりと行こか」

 ミルタンクが転がってくる~。岩タイプの技やから避け……ない! 面白ないからな!
 翼を鋼に変えて、前に突き出して待機! 転がり始めを潰したるわ!

「んのおおぉぉぉ!」
「嘘! これ止めちゃうの!? 私、自分で言うのも悔しいけどかなり重いはずよ!?」
「ぬふふふ、ワイに不可能は無い!」

 と、言いつつ若干両翼が痛いんは我慢。技ダメージやなくて衝撃受け止める分のダメージが来よった。予想外や……。

「先輩、無理する必要無いじゃないですか。インファイト決めちゃえば終わりですよね?」
「コマイヌ分かってへんなぁ。それじゃつまらんやろ? 運動にもなれへんし」
「やっぱり正攻法じゃ敵わないわよねぇ。でも、私にだって勝つチャンスは残ってるわよ」
「ほう? 楽しみやな。早く出さんと、ワイやってまうで?」

 と言っても、ミルタンクは主人の指示で動いとるんやから待ってやるんやけどな。

「そ、そんなぁ……ミルタンクの攻撃を止めちまうなんて……」

 おおぅ、人間の方の精神ダメージが予想以上にデカかったようや。戦闘続行可能なんか?

「あ、ちょっと待っててもらえる? もうすぐケロッとして指示してくると思うから」
「う、うむ、なんか大変そうな主人やな?」
「そうなのよ~、分かってくれる人で助かったわ。バトルの度に相手のポケモンを説得するのが大変なのよぉ~」

 そいつは大変やな……同情するわぁ。

「なんで先輩もあなたもバトル中に会話してるんですか!? 真面目にやってください! 真面目に!」
「へぇへぇ、すまんな。こいつ真面目なんや」
「気にしないで。本当はこんな事、絶対にありえないことだろうし」

 そうやろな。人間には聞こえん言うても、今戦っとる相手と会話なんて絶対にありえんわな。

「そ、そうだ! 強くったって攻撃できないようにすればいいんじゃないか! 俺天才だな!」

 あ、人間立ち直った。本当にケロッとしとるわ。馬鹿やな。

「いっけぇミルタンク! メロメロだぁ!」
「へー、メロメロなんか使えるんや?」
「そう、これを待ってたのよ。私、この技失敗した事無いの。あなたにも、私の虜になってもらおうかしら?」
「やれるもんならな」

 そっけない振りしたって技には逆らえん。わかっとるよ? でもな、ワイには効かんねん。絶対に、特に目の前のミルタンクのはな。
 おぉ、乳揺らして色仕掛けか。なるほど、これは失敗せんわな。こないな事されたら堕ちるやろなぁ普通なら。

「どうして!? なんで何ともないのよ!? まさか、技が出てないの!?」
「いいや、ちゃ~んと技自体は出とるようやで? あれ見てみぃ」
「あれ? あ、あの子……」
「はわ~、ミルタンクさぁ~ん」

 コマのアホめ、がっつりやられてまっとるやん! あいつも雄っちゅう事か……。

「ちゃんとあの子には掛かってる? じゃあ、どうしてあなたは何ともないの!?」
「メロメロの特性と自分がメロメロを絶対に使わん相手を考えてみ。それが答えや」

 言うんと同時にダッシュ開始や! 決めないとコマの奴が直らんからな。堪忍してな?

「ま、まさかあなたは!」
「これで終いや!」

 ミルタンクが言い切る前にインファイト一閃! 決まったやろ! 羽で殴るんは結構しんどいからニ発目は打たんで!
 地面にへたり込んだけど、まだ意識は有るやろ。一応手加減はしたし。

「くぅっ……騙されたわ……あなたは……」
「そう、ワイは雌や。せやから雌のあんたのメロメロは絶対に効かんねん」

 へい、カミングアウト! そうやで、ワイ雌やねん。証拠見たいか? 絶対見せへんで。
 別に騙す気ぃも何もない。周りが勝手に勘違いしてるんや。ワイの喋り方でな。この事知っとるんはワイ自身と局長達ぐらいやろな。
 はい、ダウ~ン! ミルタンクがボールに戻ってくで。ワイ最強やな!

「そ、そんな……化け物おおおおぉぉぉぉ!」
「誰がじゃボケェ! 失礼なやっちゃなぁ。ちゃあんと一般のポケモンやっちゅうに」

 男が一人で逃げて行く~。仲間忘れてくなや……と思ったら戻ってきおった。

「おい! 早く起きないと食われるぞ! 逃げるんだよ!」
「う、ぐ……逃げる? 何からだ?」
「あいたぁ、いきなり何? 何が起こったの?」
「誰が人間なんか食うか! ポケ聞きの悪い事を勝手に言いよってからに、まったく」

 逃げようとした奴以外はコマにやられとったから意識飛んどるようやな。早く行ってまってくれや。やかましい。

「いいから早く!」

 結局、最終的には仲間引きずって逃げて行きおったわ。うぉぉ、なかなか力あるやん。ちょい驚きや。
 うん、これで本当に終いやんなぁ。消化不良な気もしないでも無いねんけど。
 おっと? 終いや無かったわ。コマイヌの事すっかり忘れとったわ。ちゃんとメロメロ解除されてるやろか?
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「おーいコマイヌー、終わったでー。ん? なんかまだおかしいのぉ?」

 目ぇがとろんとしたままやし、頬の赤みもまだ抜けきっとらんわ。
 あれぇ? ミルタンク居らんし技はもう解けてていい頃なんやけどな? あ、でもほんまにがっつりいっとったからな。その所為かもしれんな。

「もしもーし、コマイヌ? おーい聞こえとるかー」
「わ~い♪ 先輩だぁ~♪」
「ぬおぉ!? なんやなんや!?」

 コ、コマの奴がいきなり抱きついてきおった! なんやねん! メロメロ使うたんはミルタンクなのに何でワイに!?

「ふふっ、フカフカで柔らか~い♪」
「あ、あぅ! 何処に顔埋めとんねん! そこ胸! ちょ、あん!」

 押し返そうにもがっちり密着されて全足で固定されてまったから引き剥がせん! うぅ、雌っぽい声が出んの嫌や……なんかコマの奴に負けたような気ぃしてくる。
 鳥かて、そりゃあミルタンクや人間みたいな胸は無いねんけど、敏感なとこぐらいあるで? コマイヌの奴がそこに張り付いてしもうて……あかん、力が抜けるぅ……。

「きゅうん♪ あったかくて気持ちいいよぉ」
「いや、羽毛に包まれとればそうやろうけど、おいコマ? コマイヌ?」

 なんか慣れた。いやぁ、慌てて変な声出したんが恥ずかしいわぁ……足に力入らんくて座り込んどるんやけどな。ほっといてくれや!
 しっかしコマの奴、甘えん坊か! まぁ、まだ子供なんは確かやし、普段押し込めてた甘えたい衝動がメロメロの所為で開放されてもうたんかもしれんな。
 でもまさかワイに飛びついてくるとは思わんかったわ。それだけ慕われとった言う事にしとこか。
 ん? でもコマにワイが雌やって話した事無い……! さっきの嗅ぎ分けるか!? いや、それやったら急に心変わりした事になるしな?
 こうなったら直接聞いてみるか? でもまだワイが雌やゆう事に気付いてへんのやったら、自分でバラすみたいでプライドが許せん!
 しかも、それで雄や思われててこんな事されたと分かったら……無理や、流石にワイでもショックが大きすぎる事実や。

「ふぁぁ、気持ち良くて眠くなってきちゃった……先輩、お休み~」
「って、寝るんかい! 離れてから寝ろって!」
「スゥ……スゥ……スゥ……」
「寝んの早っ、ほんとしゃあない奴やのぉ」

 あれこれ考えんでもええか。こいつがどっちにしろワイの事慕ってんのは嬉しいことやし。
 本当の事は、コマが気付いてるにしろ気付いて無いにしろ、誤解のないように起きたら教えりゃいい事や。
 そういや仕事中なのすっかり忘れとった。一応、オフィスの方に連絡しとこか。

「もっしも~し、ダブル神聞こえるか?」
「誰がダブル神だ! まとめて表現するにももっと別な表現があるだろうに!」
「なんや副長かいな? 局長は?」
「ん、あいつなら自室に行くとか言っていたな。さっき配達から帰ってきた者からショコラケーキを受け取っていたから、今頃食べてるとこだろう」

 時の神とてポケモンである事は変わらへん。たまには自分の好きなもんぐらい食うても悪いことは無いやろ。

「局長の甘いもん好きは相当やからな。何箱貰ってたん?」
「三組に分けて十五箱。何処からそんな金が出てきたのか不思議なものだよ」

 じ、十五箱分のショコラケーキを貪るディアルガ……。想像したら負けやな。体デカ過ぎるのも考えもんやなぁ。

「で? いきなり通信してきてどうした? そういえばコマの声が聞こえんようだが」
「コマの奴なら寝とるわ。今さっきちぃっと変なカッコした人間のトレーナーにバトル仕掛けられてん」
「寝ている? 何か異常でも起きたのか? 状態異常ならヘッドセットで防げるはずだが……」

 むぅ、メロメロは状態異常のカテゴリーに入っとらんかったようやな。混乱も確か防げんかったし、精神に訴えかけるタイプの技は防いでくれんのか。初めてしったで。
 でもなぁ、メロメロ受けてワイに抱きついてきて寝てまった。な~んて事言うたらコマのショックがデカイやろな。これだけごまかしとこ。

「いや、疲れてしもて寝とるだけや。んで、仕事向かおうにもコマが起きんとどうもならんから、ワイもちと休むわ。起きたらちゃあんと行くから心配せんといてな」

 これでコマのメンツも守れるし、別段嘘ついとる訳でもないからええやろ。

「どうせフラフラしててバトルを仕掛けられてんだろ? 隠さなくていいから、土産の一つでも持ってこい! それで許してやる」

 笑いながら副長はそう言ってきおった。流石に付き合い長くなると読まれるか。バレバレならそうしとこか。

「はは、了解。そんならそろそろ切るで」
「寝るにしても気を付けるのだけは忘れるなよ? 優先するのは」
「無事に帰る事、やろ? 分かっとる。コマと一緒に必ず帰るっちゅうに」
「心配無用だったな。通信終了するぞ」
「おう! ほんなら今度は帰る時やな。そんじゃな~」

 よし、これで邪魔されずに休めるな。寝てんのに通信で起こされるのはつまらんからな。こうしとけば安心して休めるわ。
 それにしてもコマは人の胸の中で気持ち良さそうに寝とるのぉ。そんなに寝心地ええんやろか?
 ワイもこいつ抱っこしとったら温かくて気持ちよぅなってきたわぁ。別に変な意味やないで?
 このままでワイも寝よう。コマイヌ抱っこすると温かいの覚えとこ。今度からなんかあったら抱き枕代わり決定~。

「そんじゃ、お休みなコマ……」
 
 眠るコマに一言掛けて、両翼でコマを包んでやる。なんや抱き合うとるみたいでちと恥ずかしいな。でもこれでコマも寒くならんやろ。
 ワイもゆっくりと目を閉じる。こんだけ温かければすぐ寝れそうやな。お休み……。

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 ん、ん~、あれ? 僕は何処に居るんだろ? 温かくて柔らかくて……。
 凄く気持ち良いよぉ。耳を澄ますと胸の鼓動が聞こえてくる。誰かに抱っこされてるみたいだ。

「お母さん……」

 思わず言っちゃった。だって、お母さんと一緒に寝てる時に似てたんだもん。ずっとこうしてたいなぁ。

「起きたんかコマ? 寝ぼけるのはええけど、鳥であるワイの子にはお前はちょっと違和感あるで?」
「へ!?」

 不意に頭の上から声が掛かったからビックリしちゃった。今のは……間違えていなければ先輩の声、だよね?
 先輩の声が上からするってことは……え、ここって、先輩の翼の中!? とりあえず頭出さないと状況が分からないな。

「お早うコマイヌ。ワイの寝心地はどやった?」
「うわわわわ! せ、せせせ先輩近いです~!」

 這い出してみたら先輩の顔がすっごく近くにあったよ! これはもう間違いない! 僕は先輩の胸元で寝てたんだ! どうしよう、嬉しいけど恥ずかしいよぉ。
 なんで僕はこんな所で寝てるの? う~ん、全然思い出せないや。
 しかしこの状況、凄く不味いです。いや、嬉しいんだけどね? 先輩も僕も同性なんだからこれは色んな意味で危険な状態だよね? 赤くなるな僕の顔!

「な~に照れとるん? これはな、お前がワイに抱きついてきたからこうなったんやからな? ワイの所為にするんやないで」
「ええええーーーーー! 僕が先輩に抱きついた!? ほんとなんですか!?」

 うわ僕何してんの! 覚えてないから自分じゃ分からないけど、先輩から僕を抱っこしてくれるのは考えにくいしな……。
 
「ご、ごめんなさい! 先輩、迷惑ですよね! もう離れます!」

 そう言って離ようとしたんだけど、抱きしめられてる状態なの忘れてたー!

「せ、先輩離してくれないと出られないじゃないですか。もう僕起きてるんだから出してくださいよ」
「そんな急いで出ること無いやろ。もう夜なんやし、ゆっくり星でも見ようやないか」

 夜? 本当だ。空はもう、日が沈んで星が出てるや。慌ててたから気付かなかったけど綺麗だなぁ。
 それとこれとは話が別! この状況がおかしいのは星と関係ないよ!

「いや、星は綺麗ですけど、同性で抱き合って見るもんじゃないですよ! もう離して……お願いです」

 僕としてはこのままがいいんだけど、先輩に嫌われちゃうよ……。
 一緒に居る内に僕は先輩の事が……。

「あぁ、やっぱり勘違いしとったか。すまんなコマイヌ。別に隠してた訳やないんやけど、ワイ、お前に言わなあかんことあんねん」

 僕が、自分の歪んでるだろうけど大切な気持ちを告白しようとするタイミングでこの人は……。
 でも、こんなマイペースさにも惹かれてます。そうだよ! 僕先輩のこと好きだよ! でも僕と先輩は同性で……

「ワイ雌なんよ~。どや、ビックリしたか?」
「は? 先輩、今なんて?」

 聞き間違いじゃなければ雌って聞こえたような? 気のせいだよね? だって一人称ワイだし、やる事成す事雌らしさなんて感じないし。

「だ・か・ら、ワイは雌。そう言ったんや」
「エーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! 嘘ですよね!? だ、だって先輩、今までそんな事言った事ないじゃないですか!」
「そうやけど、雄やって言った事も無いで? というか性別の事聞かれたこと無いし」

 確かに聞いたこと無い……だって、最初からワイって自分のこと言ってたし。勘違いしてもおかしくないよね?
 と、言う事は、僕は先輩の事を好きでもおかしくないって事、だよね。
 うわぁ! 普通に嬉しい! だって僕は普通に雌の事を好きになった雄のポケモンだって事だよね!
 因みに言うと僕は『先輩』が好きなんであって『雄』が好きなんじゃないからね? 間違えないでね?
 でもそうなるとこの状況が危ないよぉ。すんごくドキドキしてきちゃったよ。

「なんや? ぼ~っとしてんで? はっは~ん。ワイにドキドキしてるんか?」
「そんな訳……ある訳無いじゃ……ないですか」

 駄目だ、ドキドキし過ぎてうまく喋れないよぉ。言っちゃえばスッキリするんだろうな。でも今まで通り言えないよね。
 言っちゃったら先輩とギクシャクしちゃいそうだし、仮に先輩の方が良くても僕が先輩を直視出来なくなります。それも確実に。
 僕も今の今までなんで気付かなかったんだろ。さっきも嗅ぎ分けるまで使ったのに全然気付けなかった……。先輩、いつもシャンプーの香りしかしないんだもん。

「まぁ何でもええわ。起きたんやし、そろそろ行こか」
「う、うぇ? どこにですか?」
「お前仕事中なん忘れとるやろ。ちゃんと失くさんと鈴持ってるんやろな?」

 そうだった! 僕ら仕事でここに来たんだった! ええと、鈴、鈴っと……あった。四個とも無事だ。

「大丈夫です。四個とも傷一つ無いですよ」
「よ~しよし。なんかあったら一大事やからな。歴史捻じ曲がって、下手したら時空崩壊や。そんなんなったら洒落とかそんな事言える状況じゃ無くなるからな」

 歴史の綻びは、時にも空間にも多大なダメージを与えちゃうんだよ。少しくらいなら世界の崩壊まではいかないけど、今回みたいに伝説のポケモンや、歴史の大事件に繋がるような依頼の場合は、失敗するとあっという間に歪みが波及しちゃうんだよね。
 だから基本的に、この仕事が出来る配達員が限られてくるんだ。僕らみたいに。
 まぁ、来た先の世界で遊んでるのはご愛嬌って事で……。

「そんならそろそろ目的地に行こか? あんまり遅くなり過ぎると副長にどやされるし」
「あ、そういえば、よく寝てる間に通信来なかったな。催促来てもおかしくなかったですよね」
「それならワイが手ぇを打って、寝る前に通信で報告しといたから心配あらへん」
 
 そうだったんだ。僕が寝ちゃった所為で先輩に迷惑掛けちゃったなぁ。サポーターなんだからしっかりしないと。
 よし、いつも通りいつも通り。先輩の事が好きな事は、自分から言えるまでは胸にしまっておこう。
 
「あ! ヤバイ忘れとった!」
「うわぁ! 先輩耳元で大きな声出さないで下さいよぉ! ビックリしたぁ」
「す、すまんな。副長に土産頼まれたの忘れとった。なんか探さんと……」
「そうなんですか? だったら何か……あれ? これは……」

 キョロキョロしてたら木の実の山(先輩が食べてた奴ね)の近くに木の実じゃない物が落ちてる。

「先輩先輩。ちょっと離してくれます? もしかしたらあれ、お土産に出来るかもしれませんよ」
「なぬぅ? どれや?」

 先輩が僕を包んでた翼を広げる。名残惜しいけど、先輩とはいつも一緒に居るからいいもんね。
 見つけた物に近付くと……やっぱり、人間が僕達捕まえる時のボールだ。戦ってた奴らが落としていったのかな?

「副局長、こういうの解析して僕等の道具作ってくれるから、これでお土産になりませんかね?」
「ボールか……良いやろ。副長、機械弄り好きらしいし、これに決定!」

 ふぅ、良い所無しでは終われないからね。これぐらいしないとな。

「よし! 順当に土産も見つけたし、腹ごしらえしてそろそろ行こ! 食いもんは大量に残ってるし!」
「そうですね。僕、お昼に食べてないからお腹空いちゃいましたよ」
「バトルもしたしな。よし、いただこか」
「はい! って、よく考えたら先輩、食べてばかりのような……まぁ、いっか」

 木の実での夕食が済んだら、やっとこの鈴の配達だよ……僕達サボり過ぎかな? 他の配達員に怒られそう……。
 仕事はこなさない訳じゃないし、大丈夫だよね。さささっと食べて、次は目的地だ!
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 月明かりの照らし出す大地っていうのも、空から見ると結構綺麗。歩くのは勘弁だけどね。
 僕たちが休んでたコガネ近郊の林から飛び立って、現在はエンジュって街の上まで来ました。

「なぁコマイヌ、まだ先なんか目的地は?」
「もう少し先ですね。あ、でも、あの高い建物の辺りみたいです」

 僕の目は、紅葉した木々に囲まれている、良く言えば歴史のありそうな、悪く言えば古びた塔のよう建物を捉えた。けど先輩は多分……。

「あっかん、ワイ鳥目やからよう見えへん! コマイヌナビよろしく~」

 やっぱりね。見えてないかな~とは思ってたけど本当に見えてなかったんだ。月明かりがあるから見やすいと思うんだけどなぁ。

「先輩もう少し右です。これだけ近付けば分かりますよね?」
「ん~……おお! あれか!」

 先輩にも見えたみたいね。それにしても何でこんなところに塔が? いや、データ見たから塔の役割は分かってるよ? でもねぇ、こんな人間の街の近くにあるのが不思議。だってここは……。

「先輩、ここはホウオウが休みに来るために立てられたらしいですよ」
「ホウオウ? お! それってワイと同じ鳥タイプのポケモンやったな! いいのぉ。こないなもんを独り占めかいな。流石空の守り神やな」
「へぇ~、先輩も結構物知りですよね。僕まだ説明してないのに当てちゃうんだもん」
「いやいや、それだけ向こうが有名ってことや」

 確かに、伝説になるくらいだから有名さは折紙付きだよね。居るか居ないか定かではないけどさ。
 先輩が塔に着地。結構高い……落ちたら痛いじゃ済まなさそうだよ。

「さぁて、コマイヌ。鈴はここから狭間に入ってまったんやろ? 時空の裂け目探せるか?」
「ちょっと待ってて下さいね。ええと……」

 時空の裂け目っていうのは文字通り、この世界の時と空間に出来た裂け目のこと。局長達がケンカして出来た時空の歪みに物が巻き込まれると、その物があった場所には裂け目が残っちゃうんだよ。
 僕たちはその裂け目を探して配達をする訳。じゃないと配達物が何処にあったか分かんないもんね。

「……捉えた! この屋根の四隅に裂け目が出来てます!」
「おっしゃあ! 場所さえ分かればこっちのもんや! そんじゃさくっと行くでぇ!」

 これから何するかって? もちろん鈴を元の場所に戻すんだよ。
 といっても、僕達はもちろん人間の道具は使えない(使えそうだけどね)から、ドライバー使って金具で留めるなんてことは出来ないよ。
 サポートの僕には出来ないけど、メインである先輩にしか出来ないようになってる力があるんだ。

「時と空間を越えし旅人よ、汝があるべき場所に帰らん! いったれぇ!」

 そう言った後、先輩が、僕が手渡した鈴を空中に放り投げる。
 空中で鈴が光に包まれ、それぞれが自分のあるべき場所、塔の四隅へと飛んでいって……。
 時空の裂け目と衝突! 光が止んで、はい! 鈴は元通り、と

「ふぃぃ~、時空の修復と配達終わり~」
「先輩、お疲れさまです」

 先輩が今したのは、ずれて歪んだ時空の修復。これをしないと裂け目が少しずつ大きくなっちゃうんだよね。
 で、これは配達物が無くても出来るんだけど、配達物が無い状態でやると、その物がそこにあったっていう事実を消しちゃうから取り付けが面倒になっちゃうんだ。
 そこで先輩は、時空修復の力に鈴を乗せて、修復すると同時に鈴がそこに固定されていた事実を元に鈴も元通り取り付けたわけ。
 そう、メインの配達人が使えるのは時空へ干渉する力。僕も空間の方には少しだけなら出来るけど、先輩みたいにコントロールするのはまだ無理。
 ヘッドセットに付加されてる能力の一つだから配達人なら誰でも出来るんだけど、先輩はずば抜けて時空制御が上手いの。それが僕たちがナンバーワンでいられる理由の一つ。(他にも理由はあるけどね)

「しっかし、これするのにいちいちあの台詞言うんがめんどいんよなぁ」
「いいじゃないですか。カッコよかったですよ先輩」
「そうかぁ?」
「そうですよ!」

 なんていうか、不思議~な雰囲気に包まれてる先輩も素敵……ん、んん、何でもないよ。

「そういや、結局鳴らんかったなあの鈴」
「仕方ないですよ。どうやらあの鈴が鳴る時って、ホウオウがここに来る時だけみたいですよ。逆に言えば、鳴らす方法があればホウオウに会えるってことですけど」
「そうなん? そんなら一度見てみたいもんやな。伝説のポケモンなんて滅多に会えるもんやないんやし」
「……僕たち、毎日のように神って呼ばれてるポケモン達に会ってますよね」
「あれはニュートラやからええねん」

 普通ならとんでもなく罰当たりなこと言ってるよね。局長達もちゃんと伝説になってるのになぁ。
 高い塔の上を風が吹き抜けていく。もうやる事も無いし、先輩にそろそろ帰る提案しようかな。

「何もすること無くなったし、帰るか。のぉ、コマイヌ」
「あ、はい。了解です」

 提案する前に言われちゃった。いいけど。局長達に通信飛ばしてトンネル作ってもらわなくちゃ。

……りぃーーーーーーーん……

「ん? ちょい待てコマ! なんか聞こえへんか?」
「これは……鈴が鳴ってる! うっそぉ!」

 四方に散った鈴が一斉に鳴り出しちゃったよ! これってつまり、ホウオウがここに来るってこと!? 今、このタイミングで!?

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中書きです。
パソコンの調子が悪くて、フリーズする事が数回。その度に書いた内容が飛んでしまいバラバラな文章になってしまった……。
すいません、言い訳です。
なんだかんだと進めてきました時渡りですが、次回でクライマックス予定です。
よろしければ、ドタバタコンビに最後までお付き合い下さい。
 うぉぉぉぉ! やばいんちゃう!? めっちゃ鈴鳴っとんで!
 どないなんのこれ? ってか、どっから来るんやホウオウは!? くそぅ! 遠くが見えへん自分の鳥目がこないな所でネックになるとは……。

「先輩、あそこ!」
「ど、どこや! ワイは見えんけど!」

 コマの指し示した方ぐらいは分かるな。月の方? ん! 月に重なっとるけどなんかこっちに飛んできとる。
 はて? ホウオウて確か七色の羽を持っとって、輝きながら空を翔るポケモンやったはずやな。そないな光は出とらんようやな?
 でも影はこっちに近付いて来よるし、なんなんやあれは?
 飛んできた奴がワイらの前に降りてきた。で、でかい! ワイの三倍はあるで! でもなんか布かぶっとる。飛びにくそうやなぁ。

「あらあら、ここに他のポケモンはんが居るのは珍しいわぁ」

 独特な言い回しをしながらかぶっとった布から顔だけ出してきおった。黄色い鶏冠に黄色い嘴、オレンジ色の毛をした顔がこっちを見とる。

「最近休みに来ても鈴の音の導きが無いから困ってたんやけど、急に鈴が鳴り出したから驚いたわぁ。あんさんら何があったか知らはりまへんか?」
「鈴? それなら外れとったからワイらが今付けたとこやで」

 あ、普通に返してしもうた。なんやろ、なんか妙に親近感のある喋り方やからつい、な。

「あらぁ、外れてしもうてたんどすか。通りで鳴らしまへん訳や。で、あんさんらが付けてくれたと。それはありがたいわぁ」
「いや、ワイらも仕事やからやっただけや。気にせんでええで」
「せ、せせせせせせせんんんぱぱぱぱぱぱぱいいいい、こ、ここっここっこ!」
「ふぬぅ!? どないしたんやコマイヌ? とりあえず落ち着け」

 尋常じゃないきょどり方やな。そんなに驚く事があったんか? まぁ、こんなにでかい鳥ポケに会うんわワイもビックリしたけど。

「この方がホウオウですーーーーー!」
「おぉ、喋れたか。ほー、ホウオウさんかいな……ん何ぃーーーーー!」
「あら、よう分かったねぇ。分からんようにするためにこの布羽織ってきたんやけど」

 いや、コマならデータベースにアクセスして調べれば分かるけど、目の前に居るんが伝説の空の守り神!? ビックリしすぎて心臓が止まるかと思ったわ!

「ウチはホウオウのミコト。二人ともよろしゅうねぇ」
「お、おぉ、ワイも自己紹介せんとな、ウィレットや。種族はムクホーク。よろしゅう」
「ふぁぁぁぁ……」

 コマは自己紹介出来る状態やないな。ワイがしとこか。

「で、こいつがコマ。ワイのパートナーや」
「パートナー? つまり、お二人は番いなんどすか?」
「ぶぅーーーーー! な、なんでそうなるんや! こいつまだ子供やで!」
「あらぁ? 愛の前に年齢は壁にならしまへん。雄と雌が一緒なら好きになることもある思いますよ」

 つ、強い! バトルが強いとかそういう強さやないけど、おそらく口喧嘩とかしても勝てる気がせん! 経験値が違うというか、ペースが掴める気がせんというか。
 しかもワイが雌やってことを見抜いとる!? かなりのやり手や、流石伝説。

「いや、パートナーって仕事での話や。仲がええのは認めるけど、そういう関係やない!」
「ほぉん、なんかもったいない気がしますなぁ。こんなに可愛らしい子ぉといらっしゃるのに」
「ひゃん、くすぐったいですよぉ。止めてください~」

 おおぅフリーダム。いきなりコマの頭撫でだしたで。しかも、ワイが雄でコマが雌やと思っとるようやな。逆や逆!

「おやぁ、恥ずかしがる所も可愛らしいねぇ。ウチが貰ってしまいまひょか」
「ふぇぇ~先輩助けて~」
「あー、うん、盛り上がってるとこ水差して悪いんやけど、そいつ野郎やで」
「其の位ウチかて分かっとりますえ? ちょっと抱っこさせてな」
「ひゃああああ! 僕、伝説のポケモンに抱っこされちゃってるよぉ!」
「……もう勝手にしてくれ」

 サイズの違いの所為でコマが小さめの縫いぐるみに見えるで。えらい差やなぁ。
 ワイの事、やっぱり見抜かれてたようや……掴めん、全く掴み所が無さ過ぎる。そして自由すぎる。ほとぼり冷めるまで待っとこう。

  ~10分後~

「いやぁ楽しかったわぁ。久々ですわぁ、他のポケモンとこんなにお話したり触れ合ったりするんわ」
「そ、それはよかったなぁ、うん」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ……」

 コマイヌ、10分間ずっと撫で回されてたから疲れたやろうなぁ。動いてないのに息上がっとんで。

「空の守り神なんて呼び名が付いてるから、崇められたり怖がられたりはするんやけど、こんな風に向き合ってくれたんはお二人が初めてやわぁ。ありがとうねぇ」
「いや、ワイはなんもしとらんけど……」
「ううん、お話するだけでも嬉しいんよ。逃げずにここに居てくれた事が嬉しい!」
「ふごぉ!」

 こ、今度はワイの番か……ワイが抱きしめられるんは斬新やな。喋り方のお陰なんやけど。

「いきなりゴメンねぇ。えっと、コマ君にウィレットちゃんやったっけ? ウチも久々のことに舞上がってしまったわ。いっつも一人やから寂しいんよ」
「別にかまわんけど、いつも一人か……そら寂しいのぉ」

 強いやつには強いなりの悩みがあるっちゅうことやな。局長達もそうなんやろか?

「そや! こんな風に会えたのも何かの縁やね! お友達になってくれへん!?」
「ぬぅ!? また急な話やなぁ。おい、コマイヌ起きれ」
「はふぅ……話は聞いてましたけど、僕達は本来、この世界には属さない存在なんですよ? いいのかなぁ?」

 コマ、立ち直り早っ! そして的確! ワイのサポーターだけあるわ。バイタリティが違うで。
 そうやんなぁ。折角友達になっても会いに来れるか分からんしなぁ。

「二人が何やら訳有りなのは分かってる。ウチも毎度此処に休みに来れる訳やないから、友達が居るって気持ちだけ貰えたらそれでいいから」
「何でです? ここはあなたが休むために作られた塔なんですよね? それなら堂々と休めばいいじゃないですか」

 確かに、コマの言うとおりやな。でも、目の前に居るホウオウ、ミコトは首を横に振っとる。

「人間達にウチが此処に休みに来てるのを知られたくないの。ちょっと訳有りでね」

 ありゃりゃ、俯いてまった。なんか、触れちゃいけないことやったようやな。
 しょげられると困るなぁ。元気になってもらうには……。

「よっしゃ! 友達なったろ!」
「え?」
「せ、先輩いいんですか? 相手は伝説ですよ!?」
「だからおもろいやん。コマイヌ嬉しくないんか?」
「そりゃ、僕だって嬉しいですけど……」
「なら決まりや! 友達、友達!」
「ふ、二人とも……ありがとぉ……」

 ミコトが泣きながら笑顔になっとる。よかった、ちょっと元気出たみたいやな。

「そうだ! 友達の印に二人にこれあげるわ!」

 嬉しそうにかぶった布の中でごそごそしとる。な、なんやろ?

「はい!」
「これは……」
「羽?」

 布から顔が出てきた思ったら渡されたんは羽。ヤバイ綺麗や。七色に光っとる。

「それはウチの羽。綺麗でっしゃろ? それにはね、此処で掲げると、鈴がウチに二人が来た事を教えてくれるようになってるんよ」
「へぇ、便利やなぁ。いいんか? 貰ってまって?」
「もっちろん! 友達の印やってウチは言うたよ?」
「う~ん、僕としてはどんな原理でそれが起こるか知りたいんですけど」
「それはウチにも分かりまへん。ゴメンねコマ君」

 会ってから一時間も経ってないのにホウオウと友達になってしもうたで。ってか怒涛過ぎて脳がついて来てないわ。なんにしても、友好関係が増えるんは良い事っちゅうことで……ええよね?
 それにしてもビックリやなぁ。伝説になる位のポケモンやからどんなんかと思ってたら、結構ワイらとおんなじやわ。体のサイズ以外やけど。
 悩んだり、悲しんだり、喜んだり……一緒やね。ポケモンなんやし。本当に急やけど、友達になってもよかったわ。アブノーマルさがちぃっと気になるけど。

「あ、あとおまけでこれもあげるわ」
「ん? なんやこの巾着?」

 またなんか手渡されたわ。こっちばっか貰ってまってなんか申し訳ないなぁ。

「それは『聖なる灰』っていってね、生命力を活性化させて、病気とか怪我とか治してくれるの。瀕死の重傷でも治してしまえるんよ。凄いでしょ」
「僕聞いたことありますよ! 確か、ホウオウが転生した時に残す灰がそれだって! 凄い!」
「え、マジで? そんなん貰ってええのん? それってすんごく貴重ってことやろ?」
「う、う~ん、これ作るのってウチとしては簡単だから貰っちゃって。もしまた会えたら、今度はこれ作るところも見せてあげる」

 なんか複雑な顔されたで。もしかしてこれ、そんな大げさな物じゃないんかな? 効果はあるみたいやからええけど。

「さてと、折角話が出来るポケモンに会えて、二人が友達にまでなってくれたんは嬉しいけど、ウチそろそろまた行かなきゃ。人間に見つかると大変だし」
「そ、そうか、そんなら引き止める訳にはいかんな」
「じゃあ、お礼言わなきゃですね。ホウオウさん!」
「もぉ、コマ君? ウチの友達になってくれたんやから名前で呼んでよ。ウチはミコト。ミコトお姉さんて呼んで」
「あう、じゃあミコト、お姉さん。最初はビックリしたけど楽しかったです。ありがとうございました」
「こっちもありがとう。突然過ぎてあれだったけど、今度はゆっくりお相手出来るようにするから、今度はその羽使って呼んでね」
「分かった。驚いてばっかやったけどおもろかったわ。そんじゃな~」
「は~い、またいつか会いましょうね~」

 ミコトがまた月夜の空を飛んでいく。またいつか、か。非番の時にでも遊びに来てみようかのぉ。
 っていうか起きた事全てがシュール過ぎてわっけわからーーーーーーん! 脳が追いつかん!

「先輩、僕達は……起きてたんですよね? 今のは全部現実で起きたんですよね? 僕たちはホウオウのミコトさんに会ったんですよね?」

 めっちゃコマが戸惑っとる。そしてワイも混乱しとる。

「一旦オフィス帰って起きた事全部局長達に話そう。な?」
「う、うぐっ、はい……」

 なんか混乱しすぎて泣けてきた。コマの奴はもう泣いとるし、正常な判断が出来とる自信が無い!
 もう言ってることも滅茶苦茶になりそうやからもう帰って休もう。頭痛くなってきたわ。
 それほどのインパクトと虹色の羽、そして聖なる灰が今あった事が現実やっちゅう証拠やな。

「ワイら、仕事はやったよな?」
「はい……帰還要請出しますね」
「あぁ、頼んだわ」

 こうして、ワイらの仕事は終わった……。
 いつもこうな訳やないんやで? こんなんめっちゃレアなケースや。毎度毎度こんなんやったら死んでまうっちゅうに。
 ワイらの普通の仕事してるんは、また別の機会に話そうかのぉ。
 次はあんたのとこに配達に行くかもしれんのぉ。なんせワイらは……。

 時渡りの配達人や! 
  
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後書きです。
これにて完結! するんですが、時空間の移動という設定が一話じゃもったいない気がするんで続きを何話か書く予定です。
次はポケダン探検隊シリーズ辺りの世界を予定中です。
予定ばかりですが、ウィレットとコマのドタバタコンビ、まだまだ配達(あまりしてないですが)いたします。
それでは、失礼しました~。
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御意見がありましたらこちらへ。
  
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