作[[呂蒙]] セイリュウ国。ここは、ポケモントレーナーにとっては、あまり知られていない国であった。ポケモントレーナーで食っていこうとする人間がほとんどいないこともあって、この国にはポケモン同士を戦わせるという習慣があまりなかった。 もともとポケモンの個体数が多くないことや、規制がとにかく多いため、トレーナーから敬遠されているのである。時々、好奇心あふれるトレーナーがやってきても、バトルそのものをするのにも面倒であることが分かると、じゃあ「観光旅行でもして帰るか」となってしまう。 とにかく、トレーナーにとって優しくない国、それがセイリュウ国なのであった。 数年前、当時の首相・シュゼン=ギホウは「ポケモン保護法」という法案を国会に提出させて可決させた。ところがこの法律、中にとんでもない法律がいくつかあり、国内外のトレーナーたちのブーイングにさらされた。しかし、路上でいきなりバトルを仕掛けられるということがなくなったのも事実であった。 この法案ができたためか、それとも前からそうだったのかは分からないが、ポケモンをもつ人たちは、ポケモンに運動をさせるなど、健康に気を遣うようになったという。 首都に隣接するベッドタウンにすむリクソン=ハクゲン宅の朝は早かった。主であるリクソンがまだ眠っている最中のこと。何匹かのポケモンたちは目を覚ます。日課の早朝ランニングのためである。日課といっても雨や雪の日はやらないが。 ブースターにエーフィ、リーフィアの三匹である。三匹に共通するのは美しい毛並みである。ちゃんと世話をされていることの証拠である。もっとも、もとが同じとはいえ、共通点はそれくらいしかなかった。容姿は大きく異なるし、属性も違えば、それぞれが持つ能力も異なる。 三匹は、鍵を開けると、いつもコースを走る。一キロ半ほどの距離で平坦な道が続く。運動としてはいささか物足りないようにも思うが、家に帰るまでにへとへとになっては意味がない。三匹ともそれをよく分かっていた。 いつもは何も起きないが、時折、不埒なトレーナーのポケモンに出くわすこともある。好奇の目で見られるだけならまだいいが、捕まったら、後々面倒なことになるのは間違いなかった。運悪く、その日はトレーナーに出くわしてしまった。ポケモンを納めるボールを持っていたので、その可能性が極めて高かった。さっさと逃げようと思ったときに、トレーナーが近づいてきた。手にはボール。 「どうしよう? ぶちのめしちゃ後が面倒よ」 「先手必勝、逃げるに限るね」 エーフィは横目で標的を確認すると、スピードスターを乱射した。威力は低いが、とりあえず当たる。 「よし、早く逃げよう」 「当たったの?」 「多分」 三匹は、一目散に逃げ出した。トレーナーは追ってこなかった。エーフィは、いきなり先制攻撃をお見舞いしたのはちょっとまずかったかなと思ったが、どうせもう会うこともないだろうから、さっさと忘れることにした。 家まで、全速力で走ったこともあって、いつもよりも早く家に戻ることができた。 「家まで来れば、もう大丈夫だね……」 「喉渇きました……」 「お腹空いたわ……」 三匹とも息が荒い。ほんの軽い運動のつもりが、本格的な運動になってしまった。 三匹がリクソンに脚を洗ってもらい、ダイニングに行くと、朝食がテーブルに並んでいた。シリアルに卵料理、生野菜である。リクソンの作る朝食はどういうわけか洋食が多い。実家にいたときからこのような朝食が多かったため、習慣になっているのである。 その日の昼間。リクソンは大学のラウンジ内で自分や友達の手持ちのポケモンたちと一緒にいた。授業がないときは、授業に出ている友達のポケモンを見ているのが友人同士での決まりになっていた。 白を貴重としたラウンジには午後の暖かい日差しが差し込む。リクソンが大学に入る1年前に改装を行い、自然の日光を多く取り入れられるような工夫が施されている。ただ、夏は日光が差し込まないように、ブラインドを下げている。 リクソンは大学の図書館で借りてきた雑誌に目を通している。ポケモンにどういう運動させたらいいかといった特集が組まれていた。リクソンはポケモンを強くすることや、外国で開催される大会(そもそもセイリュウでは大会がほとんど行われない)には、興味がなかった。しかし、体力をつけることで病気にかかりにくくしたり、突然襲われても、ある程度は対応できるような護身術のようなものは身につけさせたいと思っていた。 リクソンが読んでいる雑誌を覗き込んでいたブースターがこんなことを言った。 「そういえば、会長も若いときは『なんとか』っていうスポーツをやっていて、大会にも出たことがあるらしいわね」 「昔は遊び人だったらしいからね、不思議なことではないけど……。『なんとか』って何?」 「忘れたけど、滑るやつ。冬のスポーツだったわね」 それだけでは、判断のしようがなかった。スケートなのかスキーなのか、それとも別のスポーツなのか? 「スピードスケートかな?」 「違ったと思うけど」 「滑る……。う~ん、漫才?」 「漫才で滑っちゃダメでしょ、しかもスポーツじゃないし。今度帰省したら聞いてみれば?」 「そうだね、そうするかな」 リクソンは言った。そういえば、父親は日課で朝ランニングをしていたことを思い出す。今は歳を取ったためランニングではなく、ウォーキングになっているが、それでも朝はきちんと早い時間に起きて、ウォーキングをしてから、朝風呂に入り、朝食を取るという生活リズムは崩していない。 そしてブースターを見つめた。 (昔は病弱だったらしいけど、今はすっかりたくましくなってるからな、きっとランニングに付き合わせたんだろう……。ポケモン用のスポーツジムにも行っているし) 「シャワーズさんとかジムに行かないからもったいないわよ。会長のおかげでタダ同然で行けるのに」 「そうだよねぇ。だから太るんだよ」 「何か言った?」 シャワーズの冷たい視線がリクソンを捉えている。 「別にぃ?」 リクソンは雑誌の続きを読み始めた。記事を目で追い、必要なことだけを頭に入れていく。教科書ではないのだから、別に一字一句頭に入っている必要はないのだ。要点さえ分かっていれば、それでいいのである。リクソンはそう考えていた。 夜。リクソンとポケモンたちはテレビを見ながら夕飯を食べていた。この日の主食は白米ではなく、パンだった。パンに肉料理、ニンジンのグラッセにマッシュポテトである。 「ちくしょう、ニンジンのグラッセ、思ったよりも手間がかかった」 リクソンは時々こうした手の込んだ料理を作る。リクソンというよりもハクゲン家の一族に共通して言えるのが、どうも凝り性な一面があるということだった。外国語の習得であったり、スポーツであったり、料理であったりジャンルは問わない。 テレビでは外国のポケモンバトルの中継が行われていた。と、いってもリクソンはあまり興味がないので、感想という感想もなかった。試合を一通り見て「ふ~ん」というと 「じゃあ、別の番組に変えよう」 とチャンネルを回してしまう。面白い番組がないときは、一通りのチャンネルを回してからテレビのスイッチを切る。 夕飯の後片付けが終わった後はリクソンは自分の部屋でゆっくりすることにしている。自分だけの時間も必要なのだ。自分の部屋で自分宛に届いた郵便物の類をチェックする。大体は、ポケモンの健康診断であったり、ワクチンのことなどポケモン関連のものである。手続きがやたら面倒で出費もかさむ。しかし、国の法律で決まっているのだから従わなくてはならない。 他国では普通にあるジムリーダーと呼ばれる実力者がいるジムもこの国にはなかった。あるのは、フィットネス用のスポーツジムであり、バトルも届出が必要で、路上バトルは禁止されていた。他国からやってきたトレーナーはそのことを知らずに、路上でポケモンを連れた人にバトルを挑み、警察に逮捕されるようなこともたまに起きている。バトルは国が管理する施設があるのだが、誰でも使うことができるが、事前の届出と使用料がかかる。さらに激しいバトルで施設が壊れた場合は、罰金を払わなくてはならなかった。 だから、この国では、ポケモンバトルが行われることはほとんどなかった。ジムリーダーと呼ばれる実力者がいるジムは、他の国では国が運営しているところもあるが、セイリュウではジムを開くのは、許可さえ下りればどこで開こうが自由である。つまり、誰でもジムリーダーになれるのだが、国は一切面倒を見てくれないので、運営にかかる費用は全てジムリーダーが調達しなければならなかった。そのため、かなりの財力がないとジムを運営することは不可能であった。そのため、腕のあるトレーナーもこの国でジムリーダーになろうという者はいなかった。 (七面倒だけど、しょうがないよな……) リクソンは郵便物に目を通しながらそんなことを思った。煩雑で金もかかるシステムだけれど、ポケモンを使った犯罪はこの国ではめったに起きない。つまり、個人が所有しているポケモンの情報は全て国に管理されていて、ポケモンを所有しながら届出を怠ると、悪質な場合は罰金刑や禁固刑が待っている。 それから数日後のこと。大学でいつもの仲間と雑談に興じているとき、タイプが不利でもバトルに勝てるかどうかということが話題になった。 リクソンのあまり興味を抱かない話題ではあったが、ポケモンバトルの番組を見ていると、タイプで不利なポケモンで勝ってしまうということが、時々ある。リクソンは八百長ではないのかと疑いを持つこともあった。電気タイプが地面タイプに勝つこともあったからだ。失策による自滅というのは真剣勝負の中で全く起こらないとはいえないが、上手く出来過ぎているような気もする。 「ぼくは八百長なんじゃないかと思うけどなぁ、もし正攻法で勝っているならね」 藤色の毛並みと額の宝玉、スリムな体が特徴のエーフィ。エーフィ得意の超能力は射程圏内に相手が入れば、動きを封じたり、地面に叩きつけるなど意のままにできる。が、1つだけ致命的な欠点があった。悪タイプには全く効かないので、相手が悪タイプだった場合、相手が自滅しなければ勝つのはきわめて難しい。エーフィが圧倒的に不利なタイプに正攻法で勝つのはおかしいと考えるのも納得のいく考えではある。 「要は、正攻法じゃなきゃなんとかなるかもしれないってことでしょ?」 「まぁ、そうだけど……」 ブースターは正攻法でなければ勝てると考えているようだった。だが、インチキやズルを好むような性格ではなかった。 結局、そのことを証明するために、シャワーズと後輩の手持ちであるラプラスはブースターとの手合わせに付き合わされることになってしまった。 その日のうちに、リクソンとラプラスの主人でリクソンの後輩、バショク=ヨウジョウは手合わせをするための書類を作るため役所に行かなければならなかった。 必要事項を記入して、承諾書にサインをし、その二つの書類に印紙を貼って役所に提出する。ここまでしてようやく、手合わせのために使う施設の使用許可申請ができるのである。必要な書類を提出するときに、リクソンはこんな事を聞いた。 「『許可申請』ということは、書類を出したからといって、許可が下りるとは限らないわけですか?」 「はい。そうです。あくまで許可の申請ということになりますので」 窓口の担当者が答えてくれた。許可が下りるまで数日かかるとのことであった。 (手合わせするのに、こんな七面倒な申請なんてやっていられないよな。トレーナーが敬遠するのも納得だわ) リクソンはそう思った。ただでさえ、時間と手間と金がかかる仕組みになっているのだ。そうまでしてバトルをするくらいなら、もっとバトルが盛んな外国に行くだろう。 数日後、無事に許可は下りた。 「とにかく面倒だったよね、申請するのにもお金が要るし……。ちょっと考えたんだけどさ、もし、申請が却下されたら、払ったお金は?」 「パーだな」 「まぁ、外国に行くときに必要なビザみたいなもんだろ。つまり『信用の置ける人じゃなきゃ使わせませんよ』っていうことだな」 「う~ん、そう考えると納得かな。まぁ、ブースターさんがどんな戦いを見せてくれるか、楽しみだね」 「エーフィ、手助けはダメだぞ?」 「分かってるって」 「超能力で、何かを伝えるのもダメだぞ」 「そんなことしないよ」 ちなみにブースターは「勝てる自信はある」と言っていたが、どうやって勝つつもりなのかは、エーフィにも見当がつかなかった。後輩のポケモンもタイプで言うなら、ブースターに対しては有利ではある。けれども、陸上では、素早い動きが取れないので、そこが弱点といえば弱点だった。 シャワーズもラプラスも、後で面倒なことにならないかが気になっていた。ブースターはリクソンの父親が溺愛しているポケモンでもある。特にシャワーズは帰省のたびに顔を合わせるので、ぶちのめしてしまったことで根に持たれ、後で何をされるか分かったものではないからだ。 普通に考えれば、シャワーズの方が有利なのである。少なくとも負けはしないだろう。誰もがそう思っていた。だが、ブースターもかなり賢い。猪突猛進で突っ込んでいき、やられるような単細胞ではなかった。何か作戦があるのかもしれない。よく考えてみると、不利なタイプを相手にする時点で、正攻法で挑むわけがないのだ。 第一試合は、シャワーズとブースターの手合わせであった。制限時間は十五分である。 試合がつくまで勝負させると、時間がかかることが予想されたので、リクソンは時間が経っても、勝負がつかなければ、引き分けにするつもりなのだ。大怪我をされたら、後が面倒である。主人としての責任を問われることも考えられたからだ。リクソンはそれを恐れていた。両者はお互いに十メートルあるかないかのところで対峙している。だが、両者はいきなり攻撃を仕掛けなかった。 (ちょっと距離があるかな……) シャワーズが有利とはいえ、技を外してしまったら意味がないのだ。両者が少しだけ近づく、その距離、約八メートル。ブースターは左に右に動いている。技のねらいを外れやすくしているのだろうか。 (まだ、遠いかな……) (これなら、多分届く) シャワーズが先に仕掛ける。シャワーズの得意技の一つ、ハイドロポンプ。多量の放水を相手に浴びせる強力な水タイプ技である。 「あれ?」 河の堤防が決壊したときのような、大水がブースターに襲い掛かる。ブースターは、それに向かって、炎を放つ。しかし、相性が悪く、炎は水に消されてしまった。シャワーズの技が放たれたところにブースターはいなかった。 「え? 何、ブースターちゃんはどこ?」 大水の勢いでどこか遠くに飛ばされてしまったのだろうか、いやそもそも、それだけの実力差があるなら手合わせしようだなんて言わないはずである。 シャワーズが気づいたときにはもう遅かった。 「……つっ、熱いっ、痛いっ、いっ、いつの間に」 ブースターはシャワーズの尻尾の根元に食いついていたのである。ブースターの技、炎のキバである。もっとも、相手が相手なので大したダメージは期待できないかと思いきや……。 シャワーズは何とかブースターを引き離そうとするが、ブースターの力が強く、ビクともしなかった。それどころか、引き離そうとするたびにキバがどんどん食い込んでくる。 「痛たたっ、自慢の尻尾が……。私の、負けよ。降参するから離れて……」 ようやくブースターは離れた。シャワーズの尻尾には噛まれた痕とコゲ痕がくっきりと残っていた。 第二回戦は、ラプラスとの対戦であった。ブースターとラプラスは距離を保ち、対峙している。 (さっきは油断を衝いたから、良かったけど、今度は……) (ここは、下手に動かないで様子を見た方がいいかな) 「二匹とも動かないね」 「様子を見てるんじゃないですか? あ、一分経ちましたね」 バショクが懐中時計を見て、そう言った。 「あれ、腕時計じゃないんだね」 「実は、この勝負が終わったら、買いに行くつもりなんですよ。いつもしているのは、壊れてしまったみたいで……。この懐中時計は、洋弓の大会に出たときにもらった記念品なんです」 それぞれのポケモンの主人たちは、勝負とはまるで関係のない話をしている。 「何か長引きそうだね」 「ですね、自分、トイレに行ってきます」 数分後、バショクはトイレから戻ってきた。 (近づけなければ引き分けにはなる……) (何とかして、近づきたいけど……) お互い技を繰り出すが、距離があるため、決定打には至らない。お互いの距離は七~八メートルといったところだろうか。 ここで、ブースターが勝負を仕掛ける。火炎放射を放って、一気に接近する。 「知略は僕の方が上だったね?」 「え?」 ラプラスは火炎をあえて、避けもしなかったし、防ぎもしなかった。火炎を浴びながらも、左の肢でブースターを押さえ込んだ。ブースターは何とか抜け出そうとするが、ラプラスも力を入れて押さえつけているため、抜け出すことができない。 ブースターがじたばたしているときに十五分が過ぎた。 「ラプラスの判定勝ちかな?」 「いえ、奴も無傷ではないですからね。引き分けじゃないですか?」 結局、第二回戦は勝負がつかなかった。二人の主人の話し合いの結果、この勝負は引き分けになった。 「ラプラス君に裏をかかれたわ……。まさか、避けないなんてね」 「うん、多分避けたら、その隙を衝くんじゃないかと思ってね」 一方で、負けてしまったシャワーズは、ブースターの姿を見てこう言った。 「……なんか、会長が溺愛するのも分かる気がするわ。可愛いから、上品だからっていう理由じゃない気がしてきたわ」 「珍しいな。負けた言い訳をすると思ったのに」 と、リクソンは言った。シャワーズには負けず嫌いなところがあるからだ。 「そんな見苦しいことしないわよ」 リクソンは家に帰ると、食事の準備に取り掛かった。昼食をちゃんと取り、夕飯は軽く済ませる家もあるようだが、リクソンの家では逆だった。夕飯を軽くすると、次の日の朝まで持たないのである。 シャワーズは運動でお腹が空いていたのか、いつもよりも食事を多めに取っていた。 それから、しばらく経ったある日、リクソンは手持ちのポケモンたちを連れて、実家に帰った。振替休日で月曜日が休みになる三連休を利用してのことであった。その日はリクソンの父親も会社が休みのため、屋敷にいた。 「そういえば、会長が若いときにやっていたスポーツって何だったっけ?」 「ん? ああ、バイアスロンか」 バイアスロンとはクロスカントリースキーと射撃を組み合わせたウィンタースポーツである。昔を懐かしむようにシュウユが言う。 「とにかく、昔は体力があったから、とにかく遊んだ。特に大学時代はな。ん? シャワーズどうした?」 シャワーズはシュウユのことをじっとみつめていた。 「昔から思ってたけど、仲いいなーと思って」 「『仲いい』って、私はみんな平等に愛情を注いできたぞ。だから、この屋敷にいなくても、お前たちがどうしているかというのは、大体分かる」 「……」 「シャワーズ、最近、暇でしょうがないだろ?」 「そうだといったら?」 「時間を無駄にしすぎだ。体を動かしたり、知識を増やすとかしたらどうだ。それに……」 「それに?」 「お前、太ったんじゃないのか? それじゃ、キレのある技も出せんだろ」 (あ、言っちゃったわ、会長ってば) 「く、ううっ、みっ、見てなさいよ、次に帰ってくるときはキレのあるハイドロポンプを披露するんだから」 シャワーズは庭に出て、技を試しに繰り出してみることにした。 「ねぇ、リクソン、ちょっと手伝って」 リクソンはシャワーズに言われたとおりに、庭においてあるテーブルの上にブロックを置いた。 「これを的にするから当たったかどうか見てて」 シャワーズは、約十メートル離れたところから、ハイドロポンプをこのブロックに当てると言う。リクソンはその様子を見ていたが、技は当たらなかった。 「おい、外れてるぞ」 「……まずいわまずいわ、前よりも絶対に下手になっているわ!」 「まぁ、肉弾戦という手もあるけど、肉弾戦は苦手だろ? 波乗りは水辺じゃないと使えないし」 日頃の訓練不足が証明された形となってしまった。だが、先ほど大見得を切ってしまった以上、残された選択肢は一つだった。 数日後。 シャワーズたちは、ラクヨウのジムでスポーツに勤しんでいた。しかしシャワーズは既に息が上がってしまっている様子。 「シャワーズさん、頑張ってください!」 「はぁっはぁっ……。リーフィアちゃん、ちょっと、休憩……」 「ダメですよ。まだ十分しか経ってないんですよ? 最低でも十五分は走ってからじゃないと」 「え~……。じゃあ、もっとスピードを落とすわ……」 日頃、運動をしているリーフィアとの差が出てしまっている。 「悪いね、リーフィア、付き合わせちゃって」 「いいえ、構いません。リクソンさんって、ランニングを普段からされてるんですか?」 「してないけど、これでも、中学のとき陸上部だったからね。走るのは苦手じゃないよ」 リクソンたちはランニングマシーンを使っているところであった。 「ポケモンと一緒にスポーツができるジムっていいよな」 「そうですね」 リクソンとリーフィアは走りながらも会話をする余裕があった。実はこのジム、リクソンの父親が経営している会社が運営しているのである。だから、創業者一族の特権でタダ同然の値段で使い放題というわけなのだ。 休憩を挟んでランニングのトレーニングは終わった。トレーニングといっても三十分ランニングをしただけなのだが。 運動後、シャワーズはリクソンが持参したスポーツドリンクを一気に飲み干した。大見得が大ボラで終わらないための訓練は始まったばかりである。 #pcomment IP:42.144.186.155 TIME:"2014-06-06 (金) 02:06:30" REFERER:"http://pokestory.dip.jp/main/index.php?guid=ON" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.0) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/35.0.1916.114 Safari/537.36"