&size(20){''ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語''}; 作者 [[火車風]] まとめページは[[こちら>ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語]] 第四十五話 ソウマとフレイム 「げほっ!!げほっ!!」 「うううう・・・。」 モリゾーとゴロスケは、たちの悪い風邪を引いて寝込んでいた。 周りではみんなが心配そうに二人をのぞきこんでいる。 「モリゾーさん、大丈夫ですか・・・?」 「ゴロスケ、大丈夫・・・?」 コンとソウヤは二人を気遣う。 すると、ソウマが奥のほうから戻ってきた。 「アニキ、どうだった?」 「だめだ・・・。特効薬が全部底をついてる・・・。今ある薬じゃ、ほとんど効果がない。」 ソウマは苦い顔をした。 「やばいな・・・。どないする?」 カメキチはソウマに聞いた。 「薬草を取ってきて、ここで調合するしかないな・・・。今から行ってくるよ。」 ソウマはマントを羽織ると部屋を出て行こうとした。 「アニキ!オレも一緒に行くぜ!」 「僕も連れてって!」 二人はソウマを呼び止めた。 「今からじゃかなり遅くなる。お前達はここにいろ。」 「嫌だ!僕だってゴロスケのために何かしたいんだ!」 「それに、人手が多いほうが探す手間が省けるだろ?」 ソウマに命令されたぐらいで引き下がる二人ではなかった。 二人の熱意にとうとうソウマは折れ、二人を連れて行くことにした。 準備を済ませると、三人は早速薬草を探しに出発した。 「あいつら大丈夫かな~・・・。」 シリウスは不安そうだ。 「心配せんでもええ。ソウマは薬草の知識もあるし、任せて大丈夫や。」 カメキチはそう言ったが、それでもシリウスは不安が抜けなかった。 「そういえば、前にもこんなことがあったわよね。」 ふとライナが言った。 「そう言えばそうやな~。あんときはお前が風邪引いて、オレとソウマと、フレイム先輩で薬草を取りに行ったんやったな~。」 「フレイム先輩って誰ですか?」 コンが聞いた。 ほかのみんなも聞きなれない名前だった。 「フレイム先輩は、オレらが修行しよるときにいろいろ教えてくれた先輩や。確か、オレが仲間になったときはもう先輩やったな~。」 カメキチは昔のことをみんなに話し始めた。 ソウマとライナがカメキチと出会ってから半年ほど後、ソウマはマグマラシからバクフーンに進化していた。 このころはまだ、一部の地域では普通に進化ができていた。 進化という言葉を聞かなくなったのは、それからもうまもなくだった。 ソウマは今よりずいぶんわんぱくで、ソウイチのような性格だった。 ライナも、今のようなお母さんタイプではなく、がみがみうるさいお姉さんのような性格だった。 そして、そのころのソウマとライナは今のような関係ではなく、けんかをすることのほうが多かった。 しかし、それはあくまでも愛情表現の裏返し。 本当は好きだけど、なぜかけんかをしてしまうのだ。 ライナも、カメキチに打ち明けたようにソウマのことが好きなのだ。 依頼を終えた三人は、部屋でのんびりしていた。 ソウマはしきりに奥で何かやっている。 「ソウマ、何やってるの?」 ライナが不思議そうにたずねるが、ソウマは聞いていないのか返事もしない。 「ちょっと、無視しないでよ!」 ライナはむっとして声を大きくした。 それでもソウマは返事をしない。 「ソウマ~・・・?」 ライナはとうとう頭にきた。 ソウマの肩をつかもうとすると・・・。 「できたああああ!!!」 いきなりソウマが大声を出したのでライナはしりもちをついた。 「ちょ、ちょっと!!おどかさないでよ!!」 ライナはソウマをにらんだ。 「ん?どうした?なんか用か?」 ソウマはやっぱり話を聞いていなかったようだ。 「もう!さっきから私が・・・。」 「それよりさあ、やっと完成したんだ!」 ソウマは怒るライナをさえぎり、目の前に何かを出した。 「何・・・?これ・・・。」 ライナは目の前に出されたものが何か分からなかった。 「何って・・・、見りゃ分かるだろ!マントだよ!マント!」 確かに、よく見るとそんな感じのものだった。 「これどうしたの?」 「町の人から材料を分けてもらって自分で作ったんだ。どうだ?かっこいいだろ。」 ソウマは唐突にマントを羽織ると、ライナに自慢した。 「どこが・・・。だいたい、ソウマはバクフーンなんだから燃えちゃうんじゃないの?」 ライナは呆れてため息をついた。 しかし、ソウマはにっと笑った。 「そう来るだろうと思ったぜ。このときのために、オレは背中の炎を出さずに戦う練習をしてたのさ。」 ソウマにそう言われて、ライナも確かにと思った。 かなり前から、ソウマが背中の炎を出しているところを見ていないのだ。 「それに、万が一炎が出たときのために、絶対に燃えない材質にしてあるんだ。結構貴重なんだぜ?」 ソウマは鼻高々だった。 「だとしても、どこからかっこいいって発想が出てくるのよ・・・。」 「別にどっからだっていいだろ!女にはわかんねえ魅力があるんだよ。」 「なによ?私が鈍感だって言うの!?」 「そんなことは一言も言ってねえだろうが!!」 二人は顔をつき合わせてにらみ合った。 すると、ちょうどそこへカメキチとフレイムが帰ってきた。 「お前らまたけんかしよんかいな・・・。」 カメキチは二人を見て呆れた。 「だってソウマが・・・。」 「ライナのやつがさあ・・・。」 「おいおい、夫婦げんかなんか滅多にするもんじゃないぜ?」 フレイムがにやにやしながら二人をからかう。 「だ、だれがこんなやつなんかと!!」 「夫婦なんて冗談じゃないわよ!!」 二人は顔を真っ赤にして否定した。 「ジョークだよジョーク。あせんなって。」 フレイムはにっと笑った。 乗りがいいのも困ったものだ。 今から十三年ほど前、ジュプトル、ラグラージ、リザードで形成された探検隊があった。 その名前は、グラス、バーニー、フレイム。 世界をまたにかけ、いたるところを探検したとされる伝説の探検隊なのだ。 ところが、数年前に突然活動を中断、それ以降は個人での活動が多くなったとされている。 その中断した年というのが、グラスが行方不明になった年だった。 そして何よりも、ソウマがこの世界に来た年と、グラスが行方不明になった年が同じなのだ。 期間は違うが、同じ年の中ということにかわりはない。 その三人の中で、フレイムは唯一他の二人よりひとつ年下だった。 しかし、その実力は二人に劣らないほどのものだった。 冷静な判断力、的確な指示と作戦、地形の利用などいろいろな優れた面を持っていた。 そんな部分をソウマはすごく尊敬しており、いつか自分もそんな風になりたいと願っていたのだ。 フレイムはアドバンズの指導係として、ライナとソウマがギルドに来たときに仲間になった。 後から仲間になったカメキチともすぐにうち解け、四人はかなり親しい間柄だ。 明るく乗りがいいのでなじみやすかったが、だまされやすいという一面もあった。 「まあ、フレイム先輩はそんな感じやったな。ソウマはすっごい尊敬しとったけど、からかわれるんは苦手やったみたいやな。」 カメキチは笑いながら言った。 「もう・・・。本当に恥ずかしかったんだから・・・。」 ライナはあのときのことを思い出したのか、顔を赤くした。 「ハハハハ。まあええやん。いまやったら恥ずかしくないやろ?」 「それはそうだけど・・・。」 やっぱりライナは照れていた。 「で、それは分かったけど、同じようなことってなんなんだ?」 シリウスはそこが気になって仕方ないようだった。 「おっと、そうやったな。あの時は大雨で、結構ずぶぬれになったな~。」 カメキチはその日のことをまた話し始めた。 その日は、午前中は晴れていたものの、ソウマ達が依頼を終えて帰るときになると土砂降りになった。 一寸先もほとんど見えないほどの強さだった。 「急げ!!もうちょっとだ!」 フレイムはみんなをせかす。 「先輩!もう少しゆっくり!」 ソウマはフレイムに向かって言った。 「そんなこと言ってる場合か!風邪引くぞ!」 フレイムはスピードを緩めない。 他の三人も仕方なくついていく。 階段を全速力でのぼりきり、ようやくギルドの中に駆け込んだ。 みんなびしょびしょだ。 体を乾かすために一時部屋へ引き上げる。 「へっくし!!ぶるるるる!」 ソウマは体を震わせて水気を飛ばした。 「ソウマ!こっちまで飛ばすな!」 カメキチが怒鳴った。 「わりいわりい。まだ水にはなれねえな~・・・。」 ソウマはそう言いながらマントを脱いで壁にかけた。 全部ぬれてしまったので、乾かさないと風邪を引いてしまうからだ。 「オレもしっぽの火が消えなくて幸いだぜ・・・。」 フレイムも体をぶるっと震わせた。 ヒトカゲ系列はしっぽの火に弱いのだ。 ふと、ソウマはライナが何も言わないことに気付いた。 ライナは座り込んだまま動かない。 「おいライナ、どうした?」 ソウマは気になってライナに声をかけたが、何の反応もなかった。 「おい、返事くらい・・・。」 ソウマがライナの肩をつかむと、ライナはそのまま倒れこんだ。 「ど、どうした!ライナ、しっかりしろ!!」 ソウマはライナを揺さぶった。 ライナは苦しそうに息をしている。 ときたま激しいせきも出た。 「どした?」 カメキチはソウマに聞いた。 「ライナの様子が変なんだよ!かなり苦しそうなんだ!」 ソウマの口調から、フレイムは急を察した。 すぐに部屋を飛び出すと、ペラップを引っ張ってきた。 「ちょ、ちょっと!いったいどうしたんだい!?」 「いいからすぐに来てくれ!」 フレイムはペラップを部屋につれてくると、早速ライナの様子を見てもらった。 「これはまずいな・・・。かなりひどい風邪だよ・・・。早く治療しないと大変なことに・・・。」 ペラップはライナをみるとうなった。 「ど、どうすりゃいいんだ!?」 「落ち着けソウマ!!今大事なのは冷静になることだ!」 フレイムはソウマを一喝した。 「この風邪を治すには、がんせきどうくつの奥に生えているアカダモという赤い花のような薬草を取ってくるしかない。その薬草は、摘み取ってから四時間以内に飲ませないと効果がなくなる。それに、水につけるのもだめだ。かなりリスクは高いぞ。」 ペラップはみんなに説明した。 「だとしても、ライナをこのままほっとくわけにはいかねえよ!!」 「そうや!わずかな可能性でもあきらめたりせんで!」 ソウマとカメキチは行く気満々だ。 「だが、外は大雨だ。逆にお前らが重度の風邪を引く可能性だってあるんだぞ?」 ペラップは心配そうに言った。 「オレなんかより、ライナのほうが大事だ!」 「こんな雨ぐらいで風邪なんか引かんわい!」 二人はどうしてもライナを助けたかった。 ライナのことをとても大事に思っているからだ。 「ペラップ、それしか方法がないんならやるしかないだろ。オレがついてるから大丈夫だ。」 フレイムもペラップを説得する。 ペラップはしばらく悩んでいたが、考えた末に行かせることにした。 「よし!すぐ出かけるぞ!!」 三人は早速準備をし、降りしきる雨の中、薬草を探しに飛び出していった。 そして、数十分ほどのところに洞窟はあった。 かなり広い空洞のようだ。 「ここだな。よし、早いとこさがしに行こうぜ。」 「待て、ソウマ。ここはオレも初めての場所だ。何があるか分からないから慎重に・・・。」 「心配ないですよ先輩。こんなことしてる間にも、ライナは苦しんでるんだ・・・。早く薬草をとってこねえと!!」 ソウマはフレイムの話をさえぎると、一足先に洞窟の中へ走って行った。 「お、おいソウマ!!」 カメキチが呼び止めたものの、ソウマはそのまま走って行ってしまった。 「チッ・・・。追いかけるぞ!」 「あ、はい!」 フレイムは舌打ちすると、カメキチとともにソウマを追いかけた。 しかし、それを見ている複数の影に、三人は気付くはずもなかった。 「う~ん・・・。ないな~・・・。」 ソウマは、岩陰や穴の中などいろいろな場所をのぞいた。 薬草はどの辺りに生えているのか分からなかったからだ。 「どこだ?どこに生えてるんだ・・・?」 ソウマはいろいろなところを探したが、やはり見つからなかった。 「お~い!!ソウマ~!!」 ソウマが振り向くと、カメキチとフレイムが走ってくるのが見えた。 「お前、勝手に行くなって先輩が言うたやろが!!」 カメキチはソウマに怒鳴った。 「仕方ねえだろ!早くしないとライナの病気がどんどん悪くなるんだぞ!?」 「やけんって話聞かんでいいわけないやろうが!!」 「じゃあお前はライナのことなんてどうでもいいのかよ!?」 「そんなこといいよんとちゃうやろが!!」 カメキチとソウマはとうとう言い合いをはじめた。 二人ともライナのことがすごく心配なのは同じだが、ソウマはカメキチが抱いているライナへの想いを知らなかったのだ。 「二人とも落ち着け!!言い合いしてる場合じゃないだろうが!!」 フレイムは二人を引き離した。 それでも二人はずっとにらみ合っていた。 「もういいぜ!薬草はオレが探す!!これ以上もたもたしてられるか!!」 ソウマはそう言い捨てると、全速力で次のフロアへ駆けて行った。 「ソウマ!ソウマ!!あいつ・・・。」 フレイムは追いかけようとしたが、カメキチは引き止めた。 「何するんだカメキチ!?」 「ほっといたらええんですよ。少し痛い目みんかったら分からんのですわ。」 カメキチはそのまま、フレイムをソウマが行ったのとは違う方向へ連れて行った。 フレイムはソウマを追いかけたかったが、カメキチの腕力があまりにも強かったので抜けられなかった。 「(あのアホ・・・!ライナのことが心配なんはお前だけちゃうぞ・・・。)」 フレイムを引っ張りながら、カメキチはそんなことを考えていた。 一方そのころ、ソウマは必死で薬草を探していた。 「くそお!なんでねえんだよ!!」 ソウマはいらいらして石を蹴った。 その石は暗闇の中へ飛んでいくと、ごつんと何かに当たった。 それはゴローニャの大群だった。 「おうおうおう!いてえじゃねえか!!」 ゴローニャはソウマをにらみつけた。 「ああ?今こっちは忙しいんだよ!!」 ソウマもゴローニャをにらみ返す。 「さては薬草を取りにきたんだな?そうはさせん!全員かかれええ!!!」 ゴローニャの号令で他のゴローニャたちがソウマに襲い掛かった。 一方そのころ、フレイムとカメキチは別の場所で薬草を探していた。 しかし、ソウマと同じくなかなか見つからない。 「う~ん・・・。見つからんな~・・・。」 「いったいどこに生えてるんだ?」 二人は薬草が生えていそうな場所を探したが、心当たりはほとんど探しつくしてしまった。 「しかたねえ。次の場所に行くぞ。」 フレイムはカメキチに呼びかけた。 「あ、はい!」 カメキチがフレイムのところへ行こうとすると・・・。 「あの~・・・。何か探しものですか?」 不意に声がした。 二人が声の主を探すと、暗闇の奥からゴローニャが顔を出した。 「ああ。実は、アカダモという薬草を探しているんだが、しらねえか?」 フレイムはゴローニャにたずねた。 「アカダモ・・・。ああ!あれですか!それなら知っています。ついてきてください。」 ゴローニャは二人を手招きした。 フレイムはこれ幸いとついていこうとしたが、カメキチは怪しいと思いフレイムを引き止めた。 「心配すんなよ。大丈夫だから。」 「や、やけど先輩・・・。」 「いいから。それより、お前はソウマを探してくれ。この辺はいわやじめんタイプのポケモンが多い。お前がいたほうがきっと戦いに有利なはずだ。」 フレイムはそう言うと、ゴローニャの後についていった。 「大丈夫やろか・・・。先輩結構だまされやすいし・・・。」 カメキチは多少不安が残ったが、ソウマのことも放っておけないので探しに行くことにした。 「ぐあああああああ!!!」 ソウマはすごい勢いで壁に叩きつけられた。 肺がつぶされるような感じがした。 「思い知ったか!キサマに薬草は渡さん!」 ゴローニャはさらに攻撃を加えた。 あまりの痛さにソウマは一瞬気を失いかけた。 「(くそお・・・!このままじゃ・・・、このままじゃライナが・・・!!)」 思いばかりが募る一方で、体はちっとも言うことを聞かない。 「これでとどめだ!!」 ゴローニャはたいあたりでソウマを押しつぶした。 これだけの巨体に押しつぶされたらたまったものではない。 「ガフッ・・・!げう・・・。」 とうとうソウマは気を失ってしまった。 ゴローニャたちは目的を達成したと思い、その場を去っていった。 それから数十分たって、ソウマはようやく目を覚ました。 体中痛くてなかなか動けずにいた。 「(くそお・・・!こんなことしてる間にもライナが・・・!)」 ソウマは体を無理やり動かして奥のほうへ進んでいった。 すると、今まで植物など何もなかった洞窟に、コケが生えているのだ。 コケは奥に行くほど深くなり、やがて水の流れるような音も聞こえてきた。 「(この音は・・・?)」 ソウマは足を引きずりながらさらに奥へと進むと、ぽっかりと明いた空洞に出た。 どうやらここで行き止まりのようだ。 小さな滝が数本、ちょろちょろと流れており、滝の近くには見慣れぬ赤い花のようなものが咲いていた。 「(あれがアカダモか・・・?滝の近くにあるから、ぬれないように取らないとな・・・。)」 ソウマは花に近づくと、ぬれないように慎重に花を取った。 思わず気が緩み、ほっとため息をついたその瞬間、ソウマはいきなり後ろからものすごい衝撃で突き飛ばされた。 そのまま滝に突っ込んでしまい、アカダモはぬれてしまった。 「だ、だれだ!!」 ソウマは振り返ったが、そこには誰もいない。 不審に思い辺りを見回すと、不意に後ろに大きな影ができた。 ソウマが振り返ると、そこに立っていたのはボスゴドラだった。 ボスゴドラはすでにメタルクローのためが終わっており、振り返ったソウマめがけて腕を振り下ろした。 「ぐああああああああ!!!」 あたりに悲痛な叫びがこだました。 しかし、それはソウマの叫びではなかった。 恐る恐る目を開けてみると、ソウマの目の前に倒れていたのはフレイムだった。 背中には大きな傷跡がざっくりと広がり、赤いものが流れ出していた。 「せ、先輩!!!」 ソウマはあわててフレイムに駆け寄り抱き起こした。 「先輩!!しっかりしてください!!先輩!!」 ソウマが必死で呼びかけると、フレイムはうっすらと目をあけた。 「ソウマ・・・、大丈夫か・・・?」 フレイムは自分のことよりも、ソウマのことを気遣った。 「何言ってるんですか!!先輩のほうが重傷じゃないですか!!何でオレを・・・。」 「大事な仲間をかばうのは・・・、先輩として当然だろ・・・?あのゴローニャにだまされなかったら、もっと早くこれたのにな・・・。オレも相変わらずだな・・・。」 フレイムはふっと笑った。 ソウマはまだ何か言おうとしたが、ボスゴドラがまたメタルクローを繰り出してきたので、フレイムに攻撃が当たらないようにかえんほうしゃで応戦した。 その後はフレイムからボスゴドラを引き離して戦ったが、ボスゴドラの強さは尋常ではなかった。 当時のソウマの2・5倍ほどレベルの差があったのだ。 ソウマはあっという間に壁際に追いやられていった。 すると、背後から強力な水しぶきがボスゴドラを襲い、ボスゴドラは前のめりに倒れた。 カメキチがようやく追いついたのだ。 「ソウマ!!大丈夫か!?」 カメキチはソウマのそばに駆け寄る。 「オレより・・・、先輩が・・・。」 ソウマはフレイムのほうを指差す。 カメキチはフレイムの様子を見てすっ飛んでいった。 「せ、先輩!!しっかりしてください!!なんがあったんですか!?」 カメキチはフレイムに呼びかけた。 「いやあ、あのゴローニャにだまされて変なところへ連れて行かれた挙句、ソウマをかばってこのざまだ・・・。先輩なのに情けねえよな・・・。ははっ・・・。」 フレイムは自嘲した。 カメキチは何も言わなかったが、その手はぶるぶると震えていた。 すると、急にあたりがぐらぐらとゆれ始めた。 気がついたボスゴドラがじしんを起こしたのだ。 フレイムは苦しそうにうめき声を上げる。 「このやろおおおおおお!!!」 ソウマは猛然とボスゴドラに突っ込んでいった。 フレイムに更なるダメージを与えたのが許せなかったのだ。 カメキチもボスゴドラに攻撃しようとしたが、フレイムはカメキチの腕をつかんでそれを止めた。 「な、なにするんですか先輩!?」 「カメキチ・・・。あいつと戦うんじゃねえ・・・。あいつのレベルは、お前らのレベルをかなり超えてる・・・。戦っても、無駄に傷つくだけだ・・・。このまま全滅したら、せっかくここへ来た意味がなくなる・・・。」 「や、やけど!!」 「まだアカダモはいっぱい生えてる・・・。今のうちにそれをつんで、それからソウマを止めてここまで連れて来るんだ・・・。さっきあなぬけのたまを拾ったから、それを使ってギルドへ帰るんだ・・・。早く・・・!時間がない・・・!!」 フレイムの目は真剣だった。 カメキチは言われたとおりにアカダモをつんでバッグにしまうと、ソウマを止めに行った。 「ソウマ!!ソウマ、もうええ!これ以上戦ったらあかん!!」 カメキチはソウマを後ろから羽交い絞めにした。 「放せ!!放せカメキチ!!オレは、オレは先輩の敵を討つんだ!!いいから放せ!!」 ソウマはカメキチの腕の中でもがいた。 「こいつとはレベルの差がありすぎる!これ以上やっても傷だらけになるだけや!はよ脱出せんと・・・。」 「オレのことはほっといてくれ!!こいつにやられたまま引き下がれるわけねえだろうが!!」 ソウマはカメキチの言うことにちっとも耳を貸さない。 とうとうカメキチも我慢が限界に来て、ソウマを振り向かせると思いっきり殴り飛ばした。 「いってえ・・・。てめえ、何しやがんだ!!!」 「このドアホが!!!」 カメキチはソウマに向かって思いっきり怒鳴った。 ソウマは、カメキチがここまで怒ったのはみたことがなかった。 「お前、自分がどんだけ勝手なことしとんかわかっとんか!?お前一人で勝手なことするけん、先輩があんな目にあったんやろが!!」 ソウマは頭を思いっきり殴られたような気がした。 自分のせいで、フレイムは負わなくてもいい傷を負ってしまった、そう思ったのだ。 「こんなことしよる間にも、ライナは風邪で苦しみよんぞ!?ライナのこと心配しとんのはなあ、お前一人だけじゃないんじゃ!!!のぼせあがるんもたいがいにせえ!!!」 カメキチの言葉に、ソウマはうなだれるしかなかった。 ようやく、今までの自分勝手な行動がみんなに迷惑をかけたことを理解したのだ。 すると、またボスゴドラが攻撃を仕掛けてきた。 カメキチはソウマを強引に引っ張り、フレイムのところまで連れて行った。 フレイムは持っていたあなぬけのたまを使い、みんなはどうくつから脱出した。 ギルドの入り口に戻ってくると、カメキチは早速フレイムを背負って中に入った。 ソウマはライナに薬草を届けにいった。 本当はカメキチがつんだのだが、ソウマが渡した方がきっといいだろうとカメキチが判断したのだ。 「ライナ!薬草取ってきたぞ!!」 ソウマは薬草をすりおろすと、すぐにライナに飲ませた。 しばらくたつと、ライナのせきはだいぶおさまり、呼吸も楽になっていった。 ソウマはその様子を見てほっとした。 「ありがとう・・・。ソウマ・・・。」 ライナはお礼を言った。 「気にすんなよ。当たり前のことをしただけさ。」 ソウマはにっと笑った。 「危なかったな。もう少し遅ければ命にかかわることだった。」 ぺラップもほっとしたように言った。 しばらくすると、ライナはぐっすりと眠ってしまった。 ソウマはフレイムの様子が気になり、別の部屋へかけていった。 フレイムはすでに手当てを受け終わり、横になって寝ていた。 カメキチはどこかへ行ってしまったようだ。 「先輩・・・、大丈夫ですか・・・?」 ソウマはおずおず尋ねた。 「ああ。いくらか楽になった。」 確かにさっきよりは落ち着いているようだ。 「先輩・・・、オレ・・・。」 「ん?どうした?」 「オレ・・・、リーダー失格です・・・。」 ソウマはその場にひざを突いた。 目には大粒の涙が浮かんでいた。 「オレ・・・、もうちょっとでライナを命の危険にさらすところでした・・・。それに、カメキチや先輩にまでとんでもない迷惑をかけてしまって・・・。オレの、自分勝手な行動のせいで・・・。本当に、本当にすみません・・・!!」 ソウマはとうとうこらえきれなくなり、涙を流して泣き始めた。 泣かまいと思えば思うほど、涙は後から後からあふれてきた。 フレイムはしばらくその様子を見ていたが、やがて、ソウマの肩に手を乗せた。 「ソウマ。リーダーにとって、一番大事なことって知ってるか?それはな、どんな状況でも、自分を見失わないことだ。怒りや焦りで自分を見失ったら、今一番すべきことがわからなくなる。怒ったり焦ったりするのが悪いんじゃない。それを自分でコントロールできなきゃいけねえんだ。」 ソウマは涙をためたままフレイムの話を聞いた。 「だから、これからは自分の理性をコントロールできるようにするんだ。お前は、探検家としてとても大事な、やさしさと勇気、そして思いやりを持っている。理性をコントロールできれば、その力をますます発揮することができる。そして、もうひとつ大事なことは、敵に極度な敵対心を持たないことだ。」 「敵対心・・・?」 「そうだ。向こうが戦うからには何かしらの事情がある。もちろんこっちを全力で倒そうとするやつには容赦しちゃいけねえが、そうでないときはできるだけ相手を傷つけずに倒すんだ。本当の探検家なら、例え敵でも、必要以上に相手を傷つけたりしねえからな。わかったな?」 「は・・・、はい・・・。」 フレイムの言葉は、ソウマの心に深く刻まれた。 ソウマは今までの考えが情けなくなり、また涙を流し始めた。 ソウマの性格が変わったのは、このときからだった。 いつの間にか部屋の近くに戻ってきたカメキチは、その様子を黙って見つめていた。 それからしばらくして、ライナとフレイムはすっかり元気を取り戻した。 フレイムの背中の傷跡は残ったが、本人は大して気にしていないようだった。 ソウマがいないある日、ライナはカメキチを呼び止めた。 「カメキチ、この間はありがとう。私を助けてくれて。」 「へ?なんのことや?あれはソウマが・・・。」 カメキチはあわてて視線をそらす。 「あれってカメキチが取ってきてくれたんでしょ?」 「な、何でそう思うんや?」 「だって、ソウマの手には赤いものがついてなかったけど、カメキチの手にはついてたもの。あれって、アカダモを取ったときの汁でしょ?取った本人にしか、あの汁はつかないんだって。さっきぺラップに聞いてきたの。」 カメキチはしまったと思った。 そこまで細かいことには気を使っていなかったのだ。 「ソウマが持ってきたことにして、ソウマの顔を立てようとしてくれたのよね。私とうまくいくように。」 どうやらライナには何もかもお見通しのようだ。 カメキチは正直に話した。 「ソウマが持ってきてくれたって思ったときはうれしかったけど、本当はカメキチが持ってきてくれたってわかって、すごくうれしかった。ありがとう、カメキチ。」 ライナはにこっと笑うと、部屋を出て行った。 「やっぱりあいつにはかなわんな~・・・。」 カメキチは頭をかきながら苦笑いした。 ソウマの顔を立てようとして、結果ばれてしまったのだから。 でも、ライナにお礼を言われて悪い気はしなかった。 「まあ、そんなことがあって、ソウマは今みたいな感じになったんや。先輩に言われたことが、相当深く残ったみたいやな。」 「へえ~・・・。昔のソウマって今とぜんぜん違うのか~・・・。」 みんな始めて聞かされてかなり驚いたようだ。 「そういえば、フレイムさんはどうしたんですか?話からすると、今もカメキチさん達のチームにいるはずじゃあ・・・。」 コンの思うことももっともだった。 「先輩は、あれからしばらくして探検隊を辞めたんや。」 「えええええええええ!?」 予想外のカメキチの言葉にみんなは驚いた。 「先輩が言うには、探検隊としてではなくて、個人で世界のいろんなとこを旅したくなったんやて。理由はよくわからんけど、先輩にはなんか考えがあったんやろな。なんかしらの。」 「なるほどね~・・・。」 モリゾーはうなずいた。 「で、先輩がギルドを去るときに、連れてきたやつがおるんや。」 「連れてきたやつって・・・?」 ゴロスケが聞いた。 「先輩の息子、ドンペイや。」 カメキチはドンペイのほうを見て言った。 「ええええ!?ドンペイが、フレイムさんの息子!?」 みんなはまたしても驚いた。 「まあ、今まで話してなかったけん、おどろくんも当然やろな。先輩は、自分が旅をしとる間、ソウマに、ドンペイを立派な探険家にしてくれって頼んだんや。『オレの言ったことは、お前は十分わかってる。だからこそ、ドンペイをお前に預けるんだ。リーダーとして、しっかりがんばれよ。』先輩はそう言うて旅に出ていったんや。」 「そうだったのか~・・・。」 モリゾーとゴロスケはドンペイを見た。 「僕も、お父さんみたいな立派な探検隊になりたいって思ってたんです。お父さんが、『ソウマなら、きっとお前を立派に育ててくれる。あいつは立派な探険家に、リーダーになれる。』そう言ったんです。だから、僕はソウマ先輩のことをすごく尊敬してるんです。お父さんが他人をほめることなんてめったにないですから。」 ドンペイは言った。 めったに他人をほめないフレイムがソウマをほめたということは、やはりかなりの能力があるということだろう。 「お父さん、今何してるのかな?」 ドンペイは、夕暮れの空を見つめてつぶやいた。 ---- [[アドバンズ物語第四十六話]] ---- ここまで読んでくださってありがとうございました。 誤字脱字の報告、感想、アドバイスなどもお待ちしてます。 #pcomment(above)