&size(20){''ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語''}; 作者 [[火車風]] まとめページは[[こちら>ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語]] 第五十五話 ソウマとライナの大喧嘩 心に秘める想い 後編 翌朝、ソウマは誰よりも一番遅く起きた。 昨日みたいなイライラはなかったが、やはりソウマはライナに対して謝る気にはならなかった。 ソウマにとって、渋いものを食べさせられるのは睡眠妨害をされることと同じくらい我慢ならないことだった。 前に薬の調合をしていたときに、ものすごく渋い薬を間違って飲んでしまったことがあり、死にそうな目にあったのだ。 その薬は、分量を間違えれば大惨事になるほどのもので、それ以来、渋いのだけはどうしても苦手なのだ。 それに加えて、おたずねものを取り逃がしたのも納得がいかなかった。 サイドンがいた気配もしなかったし、ライナの早とちりで逃がしたとしか考えられなかった。 「やっと起きたかねぼすけ。」 ふいに背後からカメキチの声がした。 「謹慎処分なんだから、少しぐらいゆっくり寝ててもいいだろ?」 ソウマはむっとして言った。 「ゆっくり寝よる暇があるんやったら、ライナに謝ってきたらどうや?」 カメキチは急に真顔になった。 「何でオレが・・・。悪いのはあいつだ。あいつが謝るまでオレは謝らねえ。」 ソウマはそっぽを向いた。 昨日より穏やかな口調ではあったが、それには断固とした意思が感じられた。 カメキチはため息をつくと、部屋を後にした。 そしてライナのいる部屋に行くと、ライナはちょうど買い物に出るところだった。 謹慎中でも、買い物には出ることができるのだ。 「あ、ライナ。ちょっとええか?」 「ごめん・・・。今から買い物に行くから、また後でね。」 ライナはカメキチの横を通り過ぎると、そのまま外へ行ってしまった。 カメキチの表情を見れば、ソウマと仲直りさせようとしていることは、ライナにはお見通しだった。 だが、今のライナにはそんな気はなかった。 ソウマに対する怒りもあったが、それ以上に、自分の気持ちを理解してくれないソウマへの悲しみのほうが大きかった。 例え寝不足でいらいらしていても、ちょっと考えれば分かるはずなのに・・・、ライナはずっとそう思っていた。 「きっとソウマは、私のことなんかどうでもいいのね・・・。あのどきどきっていったいなんだったのかしら・・・。」 ライナは沈んだ表情で交差点を曲がり、町のほうへ歩いていった。 二人の亀裂は、ピークに達していた。 「あいつだ。オレを捕まえに来たのは。」 「他の仲間に目に物見せてやろうぜ。」 木の陰からなぞの二人が見ていることにライナは気がつかなかった。 「(・・・遅いな・・・。もう昼過ぎなのに帰ってこねえ・・・。何かあったのか?)」 ソウマはだんだんとライナのことが心配になり始めた。 しかし、すぐに頭を振ってその考えを打ち消した。 「(オレはあいつに嫌われた・・・、あいつの心配してなんになる・・・。)」 さっきカメキチに謝らないといったのは、別の意味があったのだ。 謝る気がないというよりは、どう謝ればいいのかわからないのだ。 ライナが買い物に行ってから深く思い悩んでいたが、やはり妙案は浮かばず、ソウマは考えるのをやめた。 どうせ許してもらえそうもないのに、考えても仕方ないと思ったのだ。 「た、大変や~!!!」 突然カメキチの大きな声が響き渡った。 「なんだよ?そんな大きな声出して・・・。」 ソウマは呆れた顔でカメキチを見た。 「大変や!!ライナが、ライナがさらわれた!!」 「なにい!?」 「これ読んでみい!!交差点近くに張ってあったんや!!」 カメキチはソウマに一枚の紙を差し出した。 [バクフーンへ お前の仲間のライチュウは預かった。返してほしくば、日が暮れる前にカルストやまの山頂に一人で来い。こなければライチュウの命はない。おたずねもののストライク] 「早いとこ助けにいかな!こいつはお前に名指しで送ってきとる!今から行けば・・・。」 「・・・いかねえ・・・。」 ソウマはカメキチの言葉をさえぎりはっきりと言った。 「な・・・。何言うてんねん!!ライナがさらわれたんやぞ!!お前が行かんで誰が行くんぞ!!」 カメキチはソウマに怒鳴った。 「オレが行って何になる・・・。オレはあいつに嫌われた、あいつだって、オレが来ることなんかのぞんじゃいねえよ。お前が行ったほうが・・・。」 突然、カメキチはソウマの腹に蹴りを入れて吹っ飛ばした。 「がはっ・・・!て、てめえ!!いきなりなにしやがんだ!!」 「この大ボケが!!大概にせえや!!」 カメキチはどすの聞いた大声でソウマに怒鳴った。 ソウマは思わず怒りが引っ込んだ。 「お前、自分が原因やってことがわかってないんちゃうか!?お前の自分勝手な八つ当たりのせいで、ライナがどんだけ心に深い傷負うたかわからんのか!!」 ソウマは黙ってカメキチを見ていた。 とても反論できなかった。 「あのパイが渋かったんはソウイチのせいじゃ!!ソウイチが間違って、シーヤを大量に入れたけんあんなことになったんじゃ!!ライナはきちっと分量どおり入れとったわ!!だいたい、お前は誰にも渋いんが嫌いなんか言うてないわ!!ソウイチとソウヤでさえ知らんかったんやけんなあ!!」 「な、何!?」 ソウマは衝撃を受けた。 まさかソウイチがいれたなどとは思いもしなかったのだ。 それに今思い出してみると、渋いのが苦手だというと、どうしてもあの日のことを話さなければいけなくなるので誰にもしゃべっていなかったのだ。 それを、睡眠不足のせいで、とっくにしゃべったと思い込んでいたのだ。 「それにあの時も、サイドンがお前をねらっとったんは本当じゃ!!ライナがお前をかばったけん攻撃するんやめたんじゃ!!さっき見たらあいつもおたずねものやって、さっき連れてこられたから問い詰めて確認してきたんや!!」 「う・・・、うそだろ・・・?」 ソウマは視界が揺らぐような感覚に襲われた。 本当に何事も自分の勘違いで、ライナをひどく傷つけたことをようやく思い知ったのだ。 「それをお前は、自分が正しいみたいに散々ひどいこといいよって!!ライナのほうがお前に嫌われたっておもっとるわ!!昨日気になって様子見に行ったら、あいつ寝ながら泣いとったで・・・。」 ソウマはそれを聞いて完璧に打ちのめされた。 もう、ライナが悪いなどという感情は消えうせていた。 あるのは、八つ当たりでライナを思いっきり傷つけてしまった後悔だけだった。 「お前がそんな最低な男やとは思わんかったわ!!もうええ!!ライナはオレが助けに行く!!お前はずっとそこにおれ!!!ライナは・・・、ライナはなあ・・・、お前のことが、出会ったときからずっと好きやったんや!!!」 そう言い捨てて、カメキチは猛然と部屋を飛び出していった。 その後姿を見ながら、ソウマは頭の中で同じ言葉を繰り返していた。 「(ライナが・・・、オレのことを出会ったときから好きだった・・・?)」 ソウマのほうは、ライナとであったときはそれほどでもなかったが、時間がたつにつれてライナのことを意識するようになっていった。 しかし、まさかライナが自分のことを好きだったとは思いもしなかった。 「(オレは・・・、いったい何をやってるんだ・・・。)」 ソウマは急に立ち上がり、準備をすると部屋を飛び出した。 もう、心に迷いはない。あるのは、ライナを絶対に助けるという絶対的な意志のみ。 一方そのころ、カルストやまではストライクがソウマの来るのを待っていた。 「言っておくけど、ソウマを呼び出そうとしたって無駄よ!」 ライナはストライクに怒鳴った。 岩にロープで縛られており、身動きはできない。 「いや、やつは必ず来る。仲間のお前をほうっておくはずがないからな。」 ストライクは言った。 「あんたにソウマの何がわかるのよ!!ソウマは、私のことなんてどうでもいいんだから!知った風な口を利かないで!!」 すると、ストライクは急にライナののどもとへ腕を突きつけた。 「知った風な口を利いているのはどっちだ?これ以上騒いだら、あのバクフーンがこなくともお前をあの世行きにするぞ!」 ストライクはすごんだ。 さすがにライナも身の危険を感じ、黙り込んでしまった。 「さて、そろそろ日が暮れる時間だな。」 ストライクは遠くの空を見てつぶやいた。 「(くるわけないわよ・・・。あんなに私にひどいこと言ったのに・・・。それに、いまさら来たって・・・。)」 すると、トンネルのほうから足音が響いてきた。 その音に、ライナははっと顔を上げた。 「どうやらお出ましのようだな。」 ストライクは腕と腕をこすり合わせた。 しかし、出てきたやつを見てストライクは驚いた。 そう、来たのはソウマではなく、カメキチだった。 「だ、誰だお前は!?」 「ライナを返してもらうで!この犯罪者が!!」 カメキチは驚くストライクをにらみつけた。 「か、カメキチ!!」 ライナのほうも、カメキチが来たことにすごく驚いていた。 「ライナ、ちょっとの辛抱や!こんなやつすぐにぼこったるわ!!」 カメキチは早速戦う構えに入った。 「待って!ソウマは?ソウマは一緒じゃないの?」 「そ、それは・・・。」 ライナの問いにカメキチは詰まった。 さっきのことを話していいものかどうか、迷っていたのだ。 「じ、実は、ソウマは・・・。」 残りの言葉を言おうとしたそのとき、不意にカメキチに影が降りてきた。 「オレがどうしたって?」 横を見ると、そこに立っていたのは見慣れたバクフーンだった。 オレンジのハチマキを巻いてマントを羽織ったバクフーンが。 「そ、ソウマ!!」 ライナとカメキチは同時に声を上げた。 特にカメキチは、さっきの様子からして、ソウマがくるとはまったく思っていなかった。 「アホ!!くるんやったらもっとはよこんかい!!」 カメキチはソウマに怒鳴った。 「わりいな。途中でモンスターハウスに遭遇して、敵を全部倒すのに時間がかかってたんだ。」 ソウマは頭をかきながら謝った。 「これはどういうことだ?あの紙には一人で来いと書いてあったはず。なのに二人で来るというのは約束が違うんじゃないのか?」 ストライクは冷徹な目でソウマを見た。 「戦うのはあくまでもオレだけだ。カメキチは関係ねえ。」 「そうか。ならばいいだろう。今ここで、貴様を二度と立ち上がれないようにしてやる!」 その声とともに、周囲から大勢のごろつきが顔を出した。 その中には、ソウマの見覚えのある顔があった。 「お、お前は!?」 「久しぶりだなあ。ソウマさんよ?」 そう、ストライクとともにライナを拉致したのは、あのときヒカルやライナを襲ったごろつきの親玉、ザングースだった。 ちょうどザングースの仲間にストライクの弟がいて、今回の計画を実行するのにちょうどいいと思ったのだ。 ソウマから逃げおおせた後、早速計画をザングースに話し、一味総出で決行することとした。 「あの時は不意打ちでやられたが、今回こそはお前を倒してやるぜ。この人数に、一人で太刀打ちできるか?」 ザングースは不敵な笑みを浮かべた。 人数はあの時の倍ほど、今回はいくらソウマでも、一人で全員を相手にするのは無理がありそうだ。 「ひ、卑怯やぞ!!1対1やなかったんか!?」 カメキチは怒鳴った。 「一人で来いとは書いたが、誰が1対1で勝負すると手紙に書いた?勝つためならどんな手でも使う、それが悪党だろう?」 ストライクはせせら笑った。 「やろう・・・!!」 カメキチはつかみかかろうとしたが、ソウマが押しとどめた。 「手出しは無用だ。こんなことになったのも、全部オレの責任だ。落とし前は、自分自身でつける!!お前は、ライナのそばについていてくれ。」 ソウマはきっぱり言い切った。 カメキチはソウマのその表情を見て、いつもどおりに戻ったと確信し身を引いた。 「オレの仲間に手を出したらどうなるか、今この場で思い知らせてやるぜ!!」 ソウマは戦闘態勢に入った。 「思い知るのはてめえのほうだ!!野郎ども、やっちまえ!!」 ザングースの号令でごろつきが一斉に襲い掛かる。 「ソウマ、逃げて!!」 ライナは叫んだが、ソウマはその場から動かない。 あろうことか目を閉じている。 「おらああああ!!!」 フォレトスがこうそくスピン、フローゼルがアクアジエット、ヤミカラスがつばさでうつ、メタングがメタルクローで四方から突っ込んできた。 それでもソウマは目を開けずにたたずんでいる。 「アホ!!はよよけんか!!」 カメキチが叫んだがもう遅かった。 すでに四匹はソウマの目前にまで迫っていた。 しかし次の瞬間、ソウマの姿はそこからかき消えていた。 もちろん四匹は止まれるはずもなく、そのままお互いに激しくぶつかり合った。 「いててて・・・。くそお!どこに消えた!?」 四匹は辺りを見回し、上を見上げた瞬間息を呑んだ。 なんと、ソウマは6~7mの高さの岩の上に、マントをなびかせながら立っていたのだ。 「な、なにい!?」 あまりの高さに、四匹だけでなくほかの敵やライナたちまでもが唖然としていた。 ソウマは降りてくる勢いを利用して、フローゼルとヤミカラスに回し蹴りをお見舞いし、一瞬の隙も与えず、かえんほうしゃでメタングとフォレトスを遠ざけてしまった。 「さあ・・・。今度はどいつが相手だ?」 ソウマはごろつきを鋭い目つきで眺めながら言い放った。 「ちょ、調子に乗るんじゃねえ!!ひるむな!行けえ!!」 ザングースはほかのごろつきに命令した。 ごろつきは我に返ったようにソウマに襲い掛かった。 ソウマはマントを脱いでカメキチに放り投げると、猛然と敵に突っ込んでいった。 だいもんじやかえんほうしゃで次々に敵を攻撃し、ひるんだ隙に蹴りやパンチで相手を地面に突っ伏させていった。 その手つきは鮮やかで、思わず見とれるほどだった。 大体半分ぐらいがうめき声をあげるほどになっただろうか、不意に地面からドサイドンが現れ、つのドリルでソウマを弾き飛ばした。 さすがのソウマも地面の下までは気が回らず、ドサイドンがいることに気がつかなかったのだろう。 「ぐはあっ!!」 ソウマはそのまま転がり、石灰岩の岩にたたきつけられた。 「そ、ソウマ!!」 ライナとカメキチは同時に叫んだ。 ソウマは起き上がろうとしたが、ストライクとザングースに腹と顔を踏まれて動くに動けなかった。 「ふん。無様だな。さっきはあれほど余裕だったのに、今はこんな惨めな姿を仲間の前でさらすとは。」 ストライクはソウマを鼻で笑った。 「これであのときの借りを返せるってわけだ。そら!!やっちまえ!!」 再びザングースの命令で、ごろつきは一斉にソウマを襲った。 「あの時はよくもやってくれたな!!倍にして返してやるぜ!!」 ニューラはソウマに容赦なく蹴りを入れた。 ほかのポケモンも殴ったり蹴ったりとやりたい放題だった。 「うぐう・・・。」 ソウマは立ち上がることもままならないままなされるがままになっていた。 「やめて・・・。やめてえええええええ!!!」 あたり一面にライナの叫び声が響き渡った。 みんなは思わず手を止めて、一斉にライナのほうを振り返った。 「ら、ライナ・・・。」 「やめて・・・。これ以上ソウマに乱暴しないで!!」 ライナの目には涙が浮かんでいた。 ソウマが苦しむ姿をこれ以上見たくなかったのだ。 ごろつきがひるんでいるすきに、ソウマは足を払って何とか立ち上がった。 「や、やろう!!」 ごろつきは再び戦う構えに入った。 「ソウマももうやめて!!」 「そうや!これ以上は危険や!オレと変われ!オレやったらなみのりで・・・。」 二人はソウマの身を案じた。 周りから見ても、ソウマの体はすでにぼろぼろで、これ以上戦えば取り返しのつかないことになる可能性もあった。 「だめだ・・・!こいつらは・・・、オレが一人で倒す!!」 ソウマは頑として二人の言うことを聞かなかった。 「どうして・・・?どうして私のことにそこまでこだわるの・・・?ソウマは、私のことが嫌いなんでしょ?だったら放っておけばいいじゃない!!なのにどうしてそこまでするのよ!?」 とうとうライナのためていた思いが爆発した。 嫌われたはずなのに、その自分を助けるソウマが理解できなかったのだ。 ソウマはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。 「あとでカメキチから聞いたんだ。パイの材料にシーヤを入れたのはソウイチだって。サイドンから、お前がオレを守ってくれようとしたことも本当だった。」 その言葉に、ライナははっとなった。 「よく考えたら、お前が分量のミスなんかするはずないのにな・・・。うそをつくはずだってないし・・・。それなのに、オレはお前の気持ちを全然理解しないで、ひどい言葉でお前の心を深く傷つけちまった・・・。お前が、オレのために一生懸命やってくれたのに・・・。」 ソウマはそこまで言って目を閉じた。 目にはうっすらと涙らしきものも見えた気がする。 ライナは、自分が思っている以上に、ソウマが昨日のことを悔いていることが分かった。 「お前に嫌われても、見放されてもいい・・・。でも、お前はオレにとってすごく大事な存在なんだ。そのためにも、オレは・・・、こいつらを一人で倒す!!それが、ライナに対するせめてもの償いだ!!」 ソウマはしっかりとした瞳でライナを見た。 ライナの目には、いつもの頼りがいのある、やさしいソウマが映っていた。 「ソウマ・・・。」 ライナはもう言葉が出なかった。 「はん!KO寸前のイタチが何をいきがってやがる!!そのの体じゃ、せいぜい二人ぐらいしか倒せねえよ!!」 ザングースは不敵な笑みを浮かべた。 「そう思ってるなら・・・、すぐ後悔することになるぜ?」 ソウマがそう言ったとたん、足元が急にゆれ始めた。 「な、なんだ!?」 みんなは動揺し始めた。 「まさか、これを使う日が来るとは思ってなかったぜ・・・。あまりに威力が強いから、封印してたんだけどな。」 「なんだと!?」 「だが、今なら心置きなく使える。ライナに手を出したことを、本気で後悔させてやる!!!」 揺れは徐々に大きくなり、ほとんどのものは立っていられなくなった。 「うなれ・・・。大地の赤い脈動・・・、ブラストバーーーーーン!!!」 直後に、じめんから赤い火柱が次々と上がり、ごろつきどもを飲み込んでいった。 「ど、どこにこんな力が!?う・・・、うぎゃああああああああああ!!!」 ザングースもほのおに飲まれ、辺りはものすごい熱気に包まれた。 しばらくして熱気が収まると、あたりには真っ黒になったごろつきが倒れていた。 もちろん、ザングースもだ。 ストライクはぎりぎり直撃は免れたようだが、岩壁にもたれて動けそうにない。 ソウマはゆっくりとした足取りでストライクのもとへ行った。 「く・・・、くそお・・・!」 ストライクは悔しそうに顔をゆがめた。 ソウマはストライクを冷酷な目でにらみつけ言った。 「例えどんな卑怯な手を使ってこようが、オレは、お前らみたいな悪党には負けねえ。それを、よく心に刻み込んでおけ!!」 ソウマはストライクにパンチを入れて止めを刺した。 ストライクはぐふっとうめき声を上げ、そのまま気絶してしまった。 それを見届け、ソウマはすぐさまライナのもとへ駆け寄り、縄を解いた。 「ライナ・・・、けがはねえか・・・?」 「私より、ソウマのほうがひどいけがじゃない・・・。こんなになるまで無理して・・・。」 「お前のためなら、命を賭けることになってもやりとげてみせるさ・・・。お前は、オレのパートナーだからな。」 もちろん、人生のという意味ではない。 だが、多少はそんな意味合いも含まれていたのかもしれない。 「ソウマ・・・。ありがとう・・・。」 ライナはしっかりソウマに抱きついた。 ソウマも、ライナをぎゅっと抱きしめた。 「(何はともあれ、仲直りできたみたいやな。ほんまよかったわ。)」 カメキチは二人の様子を見て安心した。 やっぱり二人はこうでないと。 ごろつきとストライクをギルドに送り、ソウマ達は山を降りた。 ちょうどトンネルを抜けたところで、ソウマはライナに話しかけた。 「なあ、ライナ。お前に聞きたいことがあるんだ。」 「え?なあに?」 しかし、いざ聞くとなると、ソウマは真っ赤になって言葉が出てこなかった。 自分のことをすきかどうか聞くのはいつでも緊張するものだ。 「え~と・・・、あの・・・、だから・・・。」 ソウマは言葉を探したが、逆に頭の中が白くなるばかりでなんと言い出せばいいか分からなかった。 「どうしたの?そんなに赤くなって。」 ライナは不思議そうだ。 「(お、落ち着け・・・。落ち着けオレ・・・。)」 ソウマはゆっくり息を吸い込み吐き出した。 少しは落ち着きが出てきたようだ。 「あのさあ、ライナ・・・。お前は、オレのこと・・・。」 ソウマがそこまで言うと、急に冷たいものが落ちてきた。 「ん?」 そしてそれは、いっせいに三人に降り注いできた。 「きゃあ!」 「おわあ!夕立や!!」 「とりあえず雨宿りできる場所探すぞ!」 ソウマは二人に言って先陣を切って走り出した。 二人もそれについていく。 「(くそお~・・・。後ちょっとで聞けたのに・・・。)」 ソウマは走りながら奥歯を噛み締めた。 しかし、この近辺はカルスト地形のせいか、大きな木が生えている場所はなかった。 「まずいな~・・・。木がどこにもあらへんわ・・・。」 「どうしよう・・・。」 みんなはその場に立ち止まった。 ソウマはしばらく考えていたが、マントをめくりあげるとライナに言った。 「とりあえずこの中に入れよ。たぶんぬれないと思うぜ?」 「え・・・?」 ライナはソウマの言ったことが分からないようだった。 「ほら、風邪引くから早くしろよ。」 「で、でも・・・。カメキチが・・・。」 ライナはカメキチのほうを見た。 もちろんカメキチに気をつかったのもあるが、恥ずかしかったのだ。 「ああ、オレやったら気にせんでええで。雨は慣れとるし。」 もちろん、二人に気をつかったのは言うまでもない。 さっきの様子からしてなれている可能性は少ないだろう。 「なら、いいけど・・・。」 「ほら、入れよ。」 「うん・・・。」 ライナは少し赤くなってマントの中に入った。 中は思っていたより広く、少し温かだった。 ソウマの近くにいるからだろうか。 「じゃあ、行こうぜ。」 ソウマに促され、二人は歩き出した。 カメキチはムードを邪魔したくないのか、多少距離をとっている。 「ねえ、ソウマ。さっき聞きかけたことって何?」 ライナがマントの下で言った。 「え・・・?あ、ああ、あれか・・・。」 ソウマはもう一度言おうと思ったが、ふと言うのをやめた。 カメキチから聞いて最初は信じられなかったが、さっきのライナのそぶりを見て、それは確信に変わった。 それに、万一自分の勝手な思い込みだったとしても、ライナのそばにいられるだけでかまわないと思ったのだ。 ライナと一緒にいることが、本当に幸せだから。 「・・・なんでもねえよ。気にしないでくれ。」 「ならいいけど・・・。」 ライナはちょっと不満そうだ。 そして、交差点が見えてきたところでようやく雨はやんだ。 いつまでも入っているのもあれなので、ライナはマントの下から出た。 「結構長かったな~・・・。」 ソウマは独り言のようにつぶやいた。 階段を上っているときにふと海のほうを見ると・・・。 「おおお!すげえ!二人とも見てみろよ!」 「え?」 二人もソウマの言うほうを見ると、すぐに感嘆の声を上げた。 なんと、海の上に大きな虹がかかっていたのだ。 夕日が出ているのに色もくっきりと浮かび、写真に残したくなるようなワンシーンだった。 「うわ~!きれい・・・。」 「ほんまやな~・・・。これはすごいわ~・・・。」 二人も思わずその風景に見とれていた。 すると、ソウマは突然、ライナの手を握った。 「!!!」 最初はびっくりしたが、手から伝わる温かさを感じるうちに、ライナはだんだんと嬉しい気持ちになった。 ソウマと手を繋いだのは、今回が初めてなのだから。 それも、すごく幻想的な光景というおまけつきで。 「なあ、ライナ・・・。また、あのパイ作ってくれねえか?」 「え・・・?」 「もう一回、お前の手料理食べてみたいんだ。作ってくれねえか?」 ソウマはライナの顔を見て言った。 「い、いいわよ・・・。今度こそはおいしいの作ってみせるわ。」 ライナは笑顔でソウマにうなずいた。 「ありがとな。楽しみにしてるぜ。」 ソウマも自然と笑顔になった。 「(お礼を言うのは私のほうよ。ソウマ、ありがとう。)」 ライナはソウマの笑顔を見ながら、心の中でお礼を言った。 「(ほんま、二人はぴったりやな。)」 カメキチは二人の様子を見てとても幸せそうだった。 二人のことを気にかけていただけあって、本当にほっとしたようだ。 三人はしばらく、きれいな風景を眺めていた。 ---- [[アドバンズ物語第五十六話]] ---- ここまで読んでくださってありがとうございました。 誤字脱字の報告、感想、アドバイスなどもお待ちしてます。 #pcomment(above)