「(もう……立てねぇ……。指一本も…動かせねぇ……)」 やりのはしらで最大の爆発が起こった。 それは、ゆびをふるによって出た、『大爆発』によるものだった。 シンクロしていたラグナはもちろん、近づいたエデンとグレイシアまでも瀕死にさせるほどの威力だった。 ピクシーはラグナの隣で目を回してダウンしている。 「……負けた……。いや、負けていない。でも、勝ってもいない……」 一方のエデンもボロボロになった柱にもたれて、座り込んでいた。 グレイシアも致命傷を負って立つことはできなさそうだ。 「ぐぅ……だけど、俺を倒したところでマイコンは変わらない。残りの大幹部のアソウや頂点<ボス>のジオンが人間を滅ぼすだろうぜ」 エデンは得意そうにニヤリと笑う。 「それに、俺にはサニエルもいる。あいつと俺がいれば、怖いものなんて何もない……」 「エデン」 「噂をすれば……」 やりのはしらに入ってきた一人の女がいた。 そいつは、テンガン山の洞窟で足止めをしていたサニエルだった。 「(あの女……レイタが足止めしてたはずなのに……やられたのか!?)」 ラグナは思い浮かべるが、もっと言うならば、シノブとヒロトもサニエルと対峙している。 そのことをラグナは知らないが。 「邪魔者は……始末したか?」 ニヤリと笑顔でエデンは問いかける。 「ウソッキー」 ドガッ!! 「……がっ!?」 一発エデンを殴りつけた。 すると、地面にガンガンと転がって行き、柱に大激突した。 「な……何をするんだよ……」 ダメージが限界のエデンは、もう立つことができなかった。 さっきの余裕のある笑みとは違い、険しそうな表情、信じられない表情でサニエルを見ていた。 「もう、私はあんたの命令は聞かない……。あんたなんて、出血多量で死んじゃえ!」 「なん……だと?サニエル……俺の言うことを聞かないと、弟達がどうなるかわからないわけじゃないよな……?」 「弟達なら、わたくしがもう助け出しました」 「誰だ!?」 一つの柔らかな女性の声が聞こえてきた。 表れたのは白い法衣を纏った女神のような女性だった。 その女性の肩を借りて歩いているのは、緑色のマフラーに黒いYシャツの緑髪の男だった。 「(……ココロとヒロト……?)」 ラグナはゆっくりとこちらへ向かってくる2人を冷静に見ていた。 「助けた……って……ウソ……だ……ろ?」 「これがその証拠です」 懐から水晶玉を取り出すと、それに何かを映し出した。 見えてきたのは、テンガン山の近くの森。 そして、そこにいるのは、数十人という子供たちだった。 「くっ……まさか……」 「もう……私があんたの言うことを聞く理由がないの」 冷たくサニエルはエデンを見下ろした。 「サニエルを手に入れようとして、非道な手を尽くしてきた結末でしょう」 ココロがそう言い放ったところで、ヒロトがふらふらとラグナに近づいていった。 「大丈夫……か?」 「あ……あ……」 「待ってろ」 「?」 そういって、ヒロトはリュックをガサゴソと漁り始める。 そして、中から取り出したのは3本のミックスオレだった。 「これをかけてやるからな」 「!?」 バシャッ バシャッ ヒロトは立て続けにラグナに向かってミックスオレを2本かけた。 「アホかっ!!」 ラグナはヒロトを殴った。 「ぐっ……痛いだろ!」 「ミックスオレは飲むもんだろ!?てゆーか、飲むんなら俺はサイコソーダーの方が好きだ!」 「ミックスオレのほうが回復量が上だろ?」 「回復量の問題じゃねぇよ!好みの問題だろ!」 「ヒロト様……かけるのなら、“おいしいみず”の方がよかったのではないでしょうか?さらさらと気持ちいいでしょう」 「そういう問題じゃねぇだろ!!」 ―――数分後。 「とりあえず、ラグナの体力は回復したな」 「よかったです」 「ま……なんとかな……」 ラグナは体力を回復する間にヒロトとココロからこれまでの状況について聞かされた。 主にアソウが死んだということと、サニエルがどうしてマイコンの組織に居るかということだが。 アソウの事を聞くと、ラグナはショックを受けていた。 だが、そうもばかり言ってられなかった。 「サニエルって言ったな」 ラグナは立ち上がる。 でも、立ち上がるものの、足元はおぼつかなかった。 しかし、ゆっくりとサニエルに近づいて行く。 「シノブとレイタはどうしたんだ?」 名前を呼ばれてエデンを蹴っ飛ばしてから、ラグナを見た。 「洞窟で戦った二人なら、その場所で倒れています。大丈夫です、窒息死や衰弱死していません」 「そ、そうか……。それならいい」 ラグナに了承されるとサニエルは空を眺めた。 「ココロさん。私はこれからやぶれたせかいに行けばいいんですね?」 「はい。オトノさんを助けてあげてください。これはサニエルさんにしかできません」 「わかりました」 すると、サニエルはシンクロパスを行使して、ウソッキーに憑依した。 『『亜空断絶』!』 右手を振り上げると、空間に裂け目が入った。 そのまま、左手を横に振ると空間が開いた。 『ココロさん。ありがとうございます』 一言礼を言って、やぶれたくうかんと思われる場所へ入って行った。 「……ココロ。あの子は一体何者?」 「サニエルさんは“空間を裂く者”と呼ばれたクィエルの孫なのです」 「クィエル……?」 聞き覚えのない名前にヒロトは首を傾げる。 すると、ラグナは空間に近づいていく。 「オイ、ラグナ。どこへ行く気なんだよ!?」 ヒロトは慌ててラグナを止めた。 「どこへ行くって?そんなの決まってんだろ!俺はこれからオトノを追う!そして、ジオンを倒す!」 「…………」 ラグナのその一言にココロはだんまりとしてしまった。 「ラグナ……俺たちの役目は終わったんだ」 肩にぽんと手を置くヒロト。 「役目……?」 「そう。俺はアソウを止めること。お前はエデンを倒すこと。それが俺たちのこの未来での役目。それが終わった今、元の時間に帰らないといけないんだ」 「バカなことを言うんじゃねぇよっ!!」 ヒロトの手を思い切り振り払うラグナ。 「そんなのココロが決めたことだろ!俺の役目は自分自身で決める。俺はずっとオトノの傍に居続けてやるって決めたんだよ!」 「ラグナ様……」 「それに……まだ頂点<ボス>のジオンが残ってんだろ!!そいつを倒さないとこの世界は……」 「ラグナ……この時はお前が居るべき場所じゃないだろ。ジオンはこの時の人間に任せればいいんだよ」 バキッ!! 頬に鈍い衝撃を受けて、ヒロトは尻餅をついた。 「うるせぇ!!居るべき場所とか、役目とかそんなんじゃねぇよ!」 力いっぱい拳を握り締めるラグナ。 「第一、居るべき場所というのは、生まれながらに決まっているものなのか?」 「どういう意味だよ!」 「例えば、てめぇはノースト地方出身だったよな?それなら、てめぇが居るべき場所はノースト地方なのか?例えば、エースは“ティブス”出身だが、あいつは“アワ”に居るじゃねぇか!」 「地方と世界とはまた別だろ!」 「違わねぇよっ!!居るべき場所って言うのは、誰かが自身を必要としてくれ、自身も誰かに必要と思われるところにできるんだろうが!」 「……ラグナ……」 ラグナの剣幕にヒロトはたしろぐ。 「お前……本気でこの時間に残ろうって言うのか……?」 「本気に決まってんだろ」 そのやり取りの間にも、空間はどんどん閉じていく。 ヒロトはココロを見る。 ココロは困ったような表情をしているが、ヒロトを見て頷いた。 「フシギバナ、『つるのムチ』!」 「っ!!」 いきなりの攻撃にも関わらず、ラグナは体を反らしてかわした。 「ヒロト……てめぇ……どうしても俺を元の時間に戻そうって言うのか!?」 「フシギバナ、『桜風』!!」 葉っぱではなく、どこからともなく桜の花びらを飛ばすフシギバナ。 そして、ラグナの周りを覆い尽くした。 「そんな技……シンクロしたダーテングの…………!?」 ダーテングを繰り出したのはよかったが、懐に入っているはずのシンクロパスがなかった。 「悪いな。パスならここだ」 フシギバナのつるがパスを持っていた。 「(さっきのつるのムチか!?)舐めんなッ!!『裂水周覇<れっすいしゅうは>』!!」 ブワッ!! 360度の風の斬撃で桜吹雪を吹き飛ばした。 しかし…… 「……なっ……これは……」 ラグナは突如膝をついた。 桜の花びらが散った後で、微量な粉がラグナとダーテングに降り注いでいたのだ。 「てめぇ……『眠り粉』も……使って…………」 唇を噛み締めるラグナ。 「(寝て……たまるかよ……)」 だが、ラグナのテンガン山に入ってから、ここまで戦ってきたダメージは非常に大きかった。 意識を消失させるのは時間の問題だった。 「(俺は……オトノの傍に……居なくちゃ……ならねぇんだ……よ……オト……ノ……オ……ト…………ノ………………)」 バタッ 仰向けに倒れるラグナ。 「ラグナ……悪いな」 それを確認して、ヒロトはフシギバナを戻した。 「ココロ……これで……いいんだよな?」 ココロを見ずにヒロトはそう呟くように言った。 「はい。ありがとうございます……」 ラグナを哀れむように、ココロは呟くのだった。 『『ストライク・リーフブレード』!!』 やぶれたせかい。 ここでようやく、戦いの一区切りが着いた。 爆発の推進力を利用して、ジュカインがリーフブレードをギラティナに叩き込んだのである。 そのまま力の限り、ブレードを振るい、ギラティナを捻れた地面にぶつけたのだ。 『はぁはぁ……ようやくギラティナを倒せたわね……』 捻じ曲がった地面に降り立ち、一旦シンクロを解くオトノ。 パチリスをはじめとしたシンクロできないポケモンと、ヤドキングとスピアーはすでに倒されている。 残りはもうジュカインしか居ないのだ。 『ギラティナで充分だと思っていたが、そうも行かないらしいな』 オトノが見上げると、逆さに立っているジオンの姿があった。 妙な気もするが、この世界にいる間はそういうものだと理解をして、オトノは言葉を継ぐ。 「ギラティナを倒したわよ!あんたは一体何者なの?教えなさい!」 『いいだろう。我の正体を教えてやろう。我は“強大な光と闇の存在”の片割れ……光だ』 「……強大な光の存在……」 『かつて、月島の踊り子……つまり、貴様の先祖によって封じ込められた存在だ!』 オトノはココロに言われていたことと一致したことに納得した。 「私の先祖に……。昔封印されたはずなのに、なんで今になって出てきているのよ?」 『それは、アソウとエデンが我を頼って探し出してくれたからな。この“宿主”の子供も我の意思と力が最大限に引き出せる器を探し出してくれたのもアソウとエデンだ』 「じゃあ、その子はただ操られているだけというのね……!?」 『そして……我にふさわしいポケモンとの意思疎通も完璧だ』 ジオンがモンスターボールを取った。 その中から一匹の巨大な鳥ポケモンが飛び出してきた。 「……!!このポケモンって!?」 オトノはそのポケモンの華麗さに息を呑んだ。 七色に輝く体に見る者を虜にする煌びやかな翼と長い尾。 噂には聞いていたけど見るのは初めてだった。 「……ホウオウ。……なんでホウオウが!?ホウオウは心正しきトレーナーの前にしか現れないのに!」 『世界の危機に瀕した時も現れるという説もある。ホウオウはそれを知っていたのだ』 “はい。ジオンの言うとおりです” ホウオウがテレパシーでオトノに語りかけてきた。 “私は今まで、たくさんの人間を見てきました。100年から50年ほど前まではまだ人間とポケモンたちは信頼関係を持ち、仲良くやっていました。しかし、ここ数年の人間のポケモンに対する扱いは目にあまるものがあるのです。このままではポケモンたちは人間達の手によって追い立てられるかもしれません。そこで私は決断しました。人間達を一掃することでポケモンたちを護ると……” 「そんな……ウソでしょ?」 『ウソではない。もう我とホウオウの考えることは同じ。人間を排除すること。そして、我の光で新たな世界を作り上げることだ』 ジオンは改めてオトノを見る。 「ホウオウが人間のことを見捨てたというの……?」 “そう理解して構いません” 『…………。この話を聞いて貴様はどうする?大人しく消されるか?それともまだ抵抗するか?』 オトノはホウオウを見た。 「確かに……ポケモンのことを大事にしないトレーナーは徐々に増えているよ。でも……それでも、大切にしているトレーナーもいるの。そのトレーナー達のためにも、あたしはここから逃げるわけには行かない!それに……あたしには進みたい未来があるの。その場所へ行くためにあたしは戦う!!」 『飽くまで我に歯向かうか……』 “それなら、私にその力をぶつけてきなさい” ジオンが取り出したのはシンクロパスだ。 そして、ホウオウに乗り移った。 「(“強大な光の存在”はジオンに乗り移っていたはず……その上からホウオウにシンクロしたの!?)」 やぶれたせかいの空間に飛び上がる。 真っ直ぐにオトノに向かって飛んできた。 「(これが最後の戦いね……)行くわよ、ジュカイン!!」 シンクロパスを翳して、ジュカインと一体になった。 そのまま、その場で華麗に舞って、ビシッと一撃を放った。 『『月舞踊:朔凪<さくなぎ>』!!』 ホウオウが存在する空間軸に見えない風の刃を巻き起こす。 ズバズバッ!と切り刻んでいく。 『その程度……我には効かん』 全く勢いを止めず、ジュカインに向かってきた。 『ゴッドバード』だ。 『っ!!』 攻撃が効かないことに驚いていたが、驚いてばかり入られない。 物理攻撃を無効化する『流漂<りゅうひょう>』の構えを取った。 ズドガ―――ンッ!! 『きゃっ!!』 あまりにも大きい衝撃に、弾き飛ばされた。 攻撃によるダメージはそれほどなかったが、体勢を崩されて、歪な空間の地面を転がっていった。 『『聖なる炎』だ』 地面に倒れているジュカインに向かって、ホウオウは最大の炎攻撃で追撃する。 『『月舞踊:無姫<なきひめ>』!!』 手を前に出し、オーラを張り巡らせることで、何とか攻撃を防いだ。 『(あつっ……)』 ダメージはそれほど負っていない。 しかし、手に火傷を負ってしまった。 『『フレイムバード』!!』 大文字を前方へ飛ばし、同時にブレイブバードでホウオウが向かってくる。 ドガンッ!! 『がっ!!』 攻撃は派手にクリーンヒットした。 吹っ飛んだ勢いで、捻じ曲がった地面にぶつかった。 『(『月舞踊:受風<じゅふう>』でもダメージを軽減しきれないなんて……)』 立ち上がろうと手をつくが、肘がガクッと折れて、体が寝てしまう。 『(もう……あたし自身の体力が残ってないの……?ここまで来て、あたしは負けちゃうの……?マホを死なせた時のような悲しみを他の誰にも背負わせないようにここまで戦ってきたのに……)』 バンッと地面を叩くジュカイン。 『(未来を掴むために戦ってきたのに……。……ラグナ……)』 思い浮かぶのは一人の目つきの悪い表情をした男の顔。 しかし、そんなジュカイン=オトノに向かって、灼熱の炎をホウオウは放った。 『終わりだ』 ホウオウは勝利を確信していた。 『『ミラーコート』』 『!?』 確かに、オトノとの一騎打ちだったら、ホウオウが勝利で終わっただろう。 しかし、灼熱の炎はホウオウに向かって跳ね返ってきたのだ。 慌てて回避して、周囲を見回した。 『こんなことをするのは誰だ?』 トッ そして、その少女はオトノの近くに降り立った。 「大丈夫?」 『あんたは……甘い光<スウィートライト>のチョコ……?』 手を差し出されて、驚くしかないジュカイン。 「もう私はマイコンのメンバーじゃない。サニエルよ」 サニエルの傍にはサニーゴとウソッキーが居る。 ホウオウの攻撃を見張っているのだ。 『チョコ……サニエル?何故だ。アソウは我が始末したからいいとして、エデンは何をやっている?』 「エデン?もうそんな名前は聞きたくない。私を縛るものなんてもう何もないの。私は妹弟<きょうだい>たちの未来を守るために戦う」 シンクロパスを取り、決意を宿した目でホウオウを睨んだ。 「ジオン……岩石を脳天にくらって撲死する覚悟はできてる?」 ウソッキーを戻して、サニーゴにシンクロする。 『『パワーストーム』!!』 猛烈な岩石の嵐をホウオウに向けて飛ばす。 『我を相性で倒せると思うな』 『(速いっ!?)』 あっという間に、パワーストームの範囲を抜けて、サニーゴに向かってきた。 『『セブンスフェザー』!!』 ホウオウの輝く翼から7色の羽根のエネルギー弾が飛んできた。 『(この技は何?) 『ミラーコート』!!』 しかし、羽根はミラーコートを突き破り、サニーゴに被弾していった。 『ぐっ……』 『サニエル!?』 吹っ飛ばされたサニーゴをジュカインはキャッチした。 『あいつ……強い……』 『ええ……強い……』 二人は同じことを考えて、顔を見合わせた。 『オトノ……一緒に戦って……』 『もちろん……それしか方法は無いもんね……』 ジオンという少年に取り付いた強大な光の存在とホウオウ。 月島の末裔のオトノと元マイコンの幹部の甘い光<スウィートライト>のサニエル。 やぶれたせかいでの最後の戦いが幕を開けたのだった。 たった一つの行路 №210 第三幕 The End of Light and Darkness 未来の運命の戦い⑨ ―強大な光の存在とホウオウ― 終わり そして、未来は再び時を刻み始めるのか……? IP:153.226.50.235 TIME:"2015-08-02 (日) 17:17:47" REFERER:"http://pokestory.dip.jp/main/index.php?guid=ON" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/44.0.2403.125 Safari/537.36"