VS.電気蜘蛛!! written by [[アカガラス]] writer:[[朱烏]] かなり殺伐とした雰囲気の小説です。いろいろと外道です。作者自身引きました。苦手な方は『戻る』ボタンを押すことをお勧めします。 かなり殺伐とした雰囲気の小説です。いろいろと外道です。作者自身引きました。そんな雰囲気が苦手な方は『戻る』ボタンを押すことをお勧めします。 ---- 「バチュルたんマジ電気!!((某所でバチュルの絵に付けられるタグ))」 「……いやお前何言ってんだよ……」 「だってさあ、これ見てみろよ! マジでやばいよ……天使過ぎる……」 俺の友人Aは壮大な出オチをかましたあと、さらに意味不明なことを述べて机の中をガサゴソといじくりまわす。そうして出てきたのは、とても一人で撮ってきたとは思えないほどの大量の写真の束。バラバラにならないようにと使命を与えられた輪ゴムもとうに限界を通り越していた。 「やっぱり行ってきたんだ、電気石の洞穴」 Aは昨日、一昨日と休日をめいっぱい使って電気石の洞穴に出かけていた。「バチュルの写真を千枚撮ってくる!!」と息巻いて。流石に千枚は無理だったらしいが、写真の束の厚さを見ると軽く五百枚は超えているように思う。 「ほら、これなんか凄いだろ……星空みたいだ……」 Aは束の一番下にある写真を取り出し、俺に見せてくれた。なるほど、これはすごい。天井(壁かもしれない)に張りついた無数のバチュルが、体内から電気を放出して発光していた。Aの言うとおり、洞窟ならではの暗さも相まって、まるで星空のようだ。 俺が写真を手にとって感嘆しているうちに、Aは机の上にたくさんの写真を散らかした。 「みんなー!! 約束の品だぜー!!」 Aがスピーカーのように教室中に声を響き渡らせると、何人もの生徒が一斉にAを凝視する。そして、教室の隅で&ruby(たむろ){屯};している男子の集団も、朝の小テストにむけてテキストを見つめている女子たちも、みんなこちらに集まってきた。 「すげーなA、めっちゃいっぱいあるじゃん!」 「いいなー、私も行きたかったなー」 「これ見て○○ちゃん! 可愛くない!?」 Aやバチュルへの賛辞が次々と飛び交う中、俺はAの撮影技術のほうに目を向けていた。写真に関してど素人な俺でも、アングルや見せ方がより一層バチュルの魅力を引き出していることぐらいはわかっていた。「将来の夢は売れる写真家だ!」と普段から夢を語ってくるAは、その夢に向かってしっかりと前進しているわけだ。今のうちにサインでも貰っておこうか。 「一人三枚ずつ持ってっていいぜー」 「マジか!?」 「うそー!? ありがとー!!」 集まった生徒たちはそれぞれ気に入った写真を取り合い、俺とAのまわりは大混乱になった。 「はっはっは、あんまり乱暴に扱うと破けるから気をつけろよー」 Aが言い終わるか言い終わらないかのうちにどこかでビリッ、っと嫌な音がしたが、聞こえないふりをすることにした。 俺の名前はアサト。どこにでもいる平凡な中学二年生だ。 今俺の中学校で何が起こっているのかと言うと、空前のバチュルブームが校内中を席巻している。廊下に貼ってあるポスターにはなぜかバチュルの絵が描かれているし、女子のカバンにはよくバチュルのキーホルダーがつけられているのを見かける。この前は給食中の校内放送で誰が作詞作曲したかは不明だが、『バチュルの歌 〜黄色い天使より愛をこめて〜』なる歌が学校中を走り抜けた。黄色い悪魔も真っ青である。とりわけそのブームの凄まじさを顕著にしたのが文化祭での出来事。とあるクラスのブースでのゲームで景品をバチュルぬいぐるみにしたところ、客足が他のクラスの三倍以上だったらしい。 とにかく、バチュルは人気なのだ。 説明が遅れてしまった。バチュルというのは虫・電気タイプのポケモンで、体長は十センチと数多くののポケモンの中で最小を誇る。容姿は蜘蛛のようだが、足は四本しかない。主眼と複眼をそれぞれ二個ずつ持っていて、その複眼がまろ眉のようで可愛さを引き立てる(どこかの人面オタマジャクシはなしの方向で)。しかし何よりも注目したいのが、虫ポケモンらしからぬもふもふ感である。普段からAをはじめ、「もふもふは正義!!」とのたまう人たちにとってこれ以上の幸せはない。 ……何度でも言うが、バチュルは人気なのだ。 しかし俺はいまいちその巨大な波に乗れない。みんなの作り出す喧騒から一歩だけ遠ざかっている。別に「騒いでいる連中を冷静に見てる俺かっこいい」などと中二病的な考えを持っているわけではない(中二だけれど)。ポケモンは大好きだし、バチュルも例外ではない。じゃあ何で俺だけは学校のブームに乗れないのか。 こう考えてほしい。一日三食うどんを食べている人が、「今うどんがブームだから君も食べなよ」などといわれてもピンと来ないだろう。むしろ余計なお世話だと思う。ブームなど関係なく自分の中では当たり前になっているのだから。 そして、まさしく今の俺がそんな状況なのだ。 ……俺の家には、バチュルがたくさんいる。 ☆ アサト、まだ帰って来ないな。もうそろそろ帰ってきてもいいはずなんだけど。もしかしたら部活が長引いているのかもしれない。 「アトラス、アサトは今日遅くなるらしいわよ? 早くリビングに入りなさい」 キッチンからアサトママの声が聞こえる。なんだ、せっかく玄関で待っててアサトを驚かせようとしたのに。僕は、玄関のドアを開けたアサトに飛びかかっていっぱい甘えるという作戦を封印した。いつかまた機会があったら実行することにしよう。 夕餉の匂いが立ちこめるリビングを突っ切って、アサトの部屋に向かう。アサトママが食器の準備や料理をしているのを見たら、今日の夕食はなんだろうな、なんて浮ついた気分になって、何をしているわけでもないのに嬉しくなった。 アサトの部屋のドアを頭で押すと、蝶番が独特な音を鳴らす。僕はこの音を聞くと安心する。……音というよりは、ドアを開けた瞬間に広がるアサトの部屋の匂いが、僕を心地よくしてくれる。アサトがいれば完璧なんだけど、……今日はどうやら忙しいらしいから仕方ない。 僕はアサトのベッドに飛び乗った。僕の体毛とは正反対の青い色の布団が、しわもなさずにしっかりと本体に掛けられている。まるでアサトの几帳面な性格がそのまま現れ出たようだ。僕がその上で寝転がると、整った布団がくぼんで、放射状のしわを作った。 ……早く帰ってこないかな……。 やっぱりアサトがいないと寂しい。もっと甘えたり、頭を撫でてもらったりしたいよ……。 急に切ない気持ちになり、どうしようもなくなって、六本の尻尾を掛け布団に叩きつけた。そういえばアサトが、ほこりが舞うからベッドの上ではしゃいじゃだめだ、なんて言っていたような気がする。 僕はアサトの部屋ではなく、リビングでアサトを待とうと決めた。怪我をしないように、しっかりと床を見定めてから飛び降りた。いつかふざけて頭から落ちてしまって、アサトをものすごく心配させてしまったことがある。 そして、さあ部屋を出ようと開きっぱなしのドアを通り抜けようとしたときだった。 背筋に悪寒が走る。炎タイプの僕には似つかわしくない、背中が凍りつくという表現がぴったりだった。 何かを引っかくような、カリカリ、カリカリ、という音。注意していなければ簡単に聞き逃してしまうような音だ。でも僕は経験上、この音が何の音であるかわかっているし、耳に入ればまるで条件反射のように、体がそちらの方向へ向いてしまう。 音源はいつもどおり、アサトの学習机の下。具体的に言えば、その位置にあるコンセントプラグの差込口からだ。 僕は踵を返して、部屋の入り口とは真逆の位置にある机へ向かった。さっきまで僕の中にあった嬉しいとか切ないとかいう感情はどこかへ吹き飛んでいた。 机の下を覗き込むと、案の定バチュルがいた。しかも二匹。 部屋の照明と机の位置の関係で、薄暗闇が広がっているはずの空間は、バチュルがコンセントから電気を吸い取る際に光る電光で、パチパチという電気音とともに明るくなっていた。 二匹とも、まだ僕の存在には気づいていないようだ。 『……おい、そこで何してやがる』 僕は持てる限りの凄みとドスのきかせた声で、バチュルを睨みつけた。電気毛玉たちはようやく僕の存在に気がつき、お互いの顔を見合わせて慌てふためいている。 『ぴーーー!』 『ぴーー、ぴーー!』 『何がぴーだ馬鹿野郎、次にこんなことしてたらただじゃおかないって言ったよな?』 頭に血が上っているせいか口から炎が漏れる。それがバチュルたちの恐怖を増長させたらしく、がたがたと震え始めた。……残念、それで容赦されると思ったら大間違いだ。 『よーし、そこから動くなよ?』 僕はバチュルを押さえつけるべく前足を伸ばした。一匹でも仕留められれば、バチュルの悪さに対する抑止力になるし、場合によっては人質になる。……そんなことを余裕で考えられるほど、僕はバチュルをたいしたことがないものと高を括っていた。 だから、光る糸……そう認識したときには既に遅かったわけだ。 『いたたたっ!!』 “エレキネット”。その名のとおり電気をまとった蜘蛛の糸だ。バチュルの得意技のひとつで、威力はさほど高くないものの相手の俊敏さを下げることができる。そして今のように顔面にふっかけて目くらましにするなんて使い方もできないことはない。 勢いよくしりもちをついた僕は、急いで顔に絡まった糸を拭おうとするか、これがなかなか取れない。顔面がびりびりと痺れ、麻痺して閉じない口から呻き声が漏れた。 『ぴーーー!』 逃がすかこの野郎! 電気泥棒のくせに家の住人に攻撃しようとは……焼いて食ってやる! かさかさとバチュルの足音が聞こえる。ここがチャンスとばかりに机の下を脱出したらしい。追いかけようとするがまだ糸が張りついて、目も開けられない。 『くっそー!』 悔し紛れの声も出すだけ無意味だった。ようやく糸から開放されて目を開けたときには、既にバチュルは部屋のどこにもいなかった。 そういえばいつも同じやられ方をしているような気がする。僕は本当に学習能力がない。何かとバチュルには足元をすくわれていた。 あとに残ったのは顔の痺れだけだった。 ☆ 夕飯前の徒労を思い出すと虫唾が走る。虫だけに。 このイライラ感をどこにぶつければいいのだろう。壁? 椅子? 花瓶でも壊せばいいのか? ……でもその必要はないかも。アサトが全部いやなことを吸い取ってくれるような気がする。 「んー、やっぱりアトラスはふわふわだ……」 そう言ってアサトが僕を抱きしめると、僕も負けじとアサトの胸に顔をうずめまくる。ベッドの中で主人と抱きしめあうって最高だよね。世界中の幸せが僕の中に凝縮されている。そんな錯覚を覚えるほど、濃密で大切な時間……。 いや、変な意味じゃないよ? そりゃあそういう恋愛の形もあるかもしれないけども。そもそも男同士だし。……種は違うけど、愛……家族的な愛のことだから。 アサトの他愛のない言葉を聴いて、同じように言葉では返せないけど精一杯相槌をして……。俺、今度の試合でレギュラー取れるかもしれない。日曜日は公園で一生に遊ぼうな。進化するならいつがいい? ――――。 僕が寝てしまった後も、アサトはたくさん話しかけてくれた。試合勝てるといいね。知ってる、最近公園にはチルットがいっぱい来るようになったんだよ。まだ進化はしたくないかなあ。アサトと一緒にベッドで寝られなくなっちゃうから――――。 ☆ 僕は、背中側に回されているアサトの両腕の圧力で、気分よく目が覚めた。 「おはよう、アトラス……」 おはよう、アサト。朝から抱きしめてくれるのは嬉しいけど、もう少し緩めてくれると助かるな。思っている以上にアサトは力強いんだよ? 「はー、起きたくないなー……」 アサトは一度ベッドから降りて、机の上の青い目覚まし時計を持ってきた。時刻は七時きっかりを指し示していた。 「あと十分だな……」 アサトはアラームをセットするためのつまみを軽くひねって、それを枕の上に置くともう一度ベッドにもぐりこんだ。 よかった、あと十分はベッドでイチャイチャ……間違った、一緒に寝られるんだね。 僕は仰向けになっているアサトの胸の上によじ登る。アサトはいつものように両手を僕の背中に回した。 少し調子付いて、アサトの首筋をペロッと舐めてみる。 「ん……くすぐったいよ、アトラス……本当いたずら好きなんだな」 それ、僕の中では褒め言葉だよ。 「あと八分……」 そこまでにしきりに時計を気にしていたら、寝ている意味なんてないと思うんだけどな。ま、いっか。 「おっ」 アサトが何かに気付いたような声を上げる。同時に、少なくとも、僕の語彙力では到底説明できそうにない、あの嫌な感じが背後から僕を支配し始めた。背中から伝わるアサトの温もりすらその空気にひれ伏す。 「いつもの色違いバチュルだ。ここのところ毎日来るな」 たとえ僕がバチュルがぶら下がっているであろう天井に背中を向けていようと、その一挙手一投足が&ruby(て){前足};に取るようにわかる。 ツーっとゆっくり降りてきて、僕の姿を一瞬視認して驚いて止まった。が、無視を決め込むようにそのまま降りてくる。 そのままアサトの顔付近までやってくる。手を出そうにも、アサトの顔にも攻撃を加えてしまいそうでできない。このバチュルはそれを計算して行動している。……くそっ、腹立たしい 「近いぞ、お前」 僕の背中からアサトの温もりが消えた。そこには何の躊躇いもなく、僕を慰める意志もなく。アサトの手はただバチュルを優しく掴むためだけに動いた。 やめて。お願いだから、そんなやつの味方しないで。 「凄いふわふわしてるなー。そんなに俺のこと好きか?」 『バチュッ!』 アサトがバチュルの頭を撫でるたび、気持ちよさそうに鳴いた。 怒り。悲しみ。苛立ち。絶望。憎悪。怨恨。忌々しさ。憤慨。殺意。殺意。殺意。殺意。殺意。 不愉快な気持ちが僕をぐちゃぐちゃにする。自分の周りのものを全て焼き払ってしまいたい。電気泥棒なんてどうだっていい。でも、アサトの愛情は僕のものだ。それを奪うことだけは絶対に絶対に許せない。 ……アサトは何も悪くないんだ。アサトは目の前の『ただの一匹のポケモン』に普通に接しているだけ。悪いのはバチュルだ。この家を巣食うあいつらが、僕の全てを狂わせる。 ……自分でも気付かないうちに歯軋りをしていた。アサトにそれを気付かれなかったのは、ある意味で幸運だった。でも……バチュルは遊んでくれているアサトを横目に……その厭らしい目つきで僕を嘲笑った。 &size(9){『クケケケケケケケケケケケッ。バーカ★』}; 気付けば僕は、爪を目一杯立ててバチュルに振り下ろしていた。 『ぴーーー!!』 ふざけるな! お前なんて、お前なんて死んでしまえ! 「アトラス! 何やってんだ!!」 何で? 何でアサトはそんなやつの味方をするの? 僕よりもそんなやつと遊んでるほうが楽しいの? 許せない。二度とアサトの顔を拝めないようにしてやる。二度と僕の前に現れるな!! 「やめろ、アトラスっ!!」 もう一度振りかざした右前足を、アサトに強く掴まれた。怒りが滲み出ていることだけは理解できた。でも、何で怒っているのかまるでわからない。アサトは僕のこと嫌いになったんだ。いや違う。なんてこと考えてるんだよ僕。バチュルが全部悪い。あんなやつら死ねばいいんだ。死ね。しね。死ネ。シンデシマエ。 「何でいつもそうやって仲良くしようとしないんだ! 何度も言ってるだろ!」 あんなのと仲良くするぐらいなら死んだほうがマシだ。アサトは何もわかってない。僕の気持ちなんてわかりっこない。もうこんなの嫌だよ。苦しいよ。ダレカタスケテ。 アサトは無言のままリビングへ朝食をとりにいった。いつもなら僕を連れて行ってくれるのに、今日はしなかった。バチュルと喧嘩をするとアサトは僕を戒めようとするから、そのこと自体はたいしてショックではない。けれど、日ごろからバチュルに虐げられてきたストレスが溜まりに溜まって、切れてはいけない糸が切れてしまった。僕が独りになる。 バチュルは例によって煙のように消えていた。僕はアサトの枕をびりびりと掻き破った。爪が?がれるんじゃないかと思えるぐらいに、思い切り掻き破った。中身の綿に、少しの血と、溢れる涙が染み込んだ。 ここまで何かに対して憎しみを覚えたのは生まれて初めてだった。今までは何とか我慢できた。でも、もう出来そうになかった。これ以上アサトが僕から離れてしまうことは耐えられない。 ………………この家に棲むバチュルを全て消してしまおう。そうでもしなければ、僕の望むかつての純粋な幸福だけの日々は取り戻せない。一匹ずつ、確実に消す。僕を愚弄した罰として、最大限の恐怖を味わわせてから葬り去る。 想像するだけでわくわくした。誰にも邪魔なんかさせない。 ☆ 「じゃあ行ってくるわね」 アサトママは外へ出かけ、僕はそれを玄関で見送る。買い物、プラス近所の友達とお茶会となれば四、五時間は帰ってこないだろう。アサトはとっくに学校へ行っている。殲滅作戦を実行するのに申し分ない環境だった。 ガチャリ、とアサトママが玄関のドアに鍵をかけるのを見送ると、早速踵を返してアサトの部屋に向かった。 まず、どういうふうにバチュルを始末すればいいのかを考える。この家には十匹のバチュルたちがいる。経験上わかっていたことだった。一匹ずつ確実に、は目標ではあるけれど、ただ漠然と出会ったバチュルを片付けていただけでは皆が帰ってくるまでに終わるとは思えなかった。何せ相手は僕よりも何倍も体が小さくてすばしっこい。家の中は隠れられるところなど無数にあり、まさしくバチュルの独壇場であると言っても過言ではなかった。 タイプ的に有利であるとは言っても、家の中で使えるような炎タイプの技は限られている。“火の粉”は威力を弱めればいいとして……“はじける炎”はかなり危ないから自重しよう。あとは“妖しい光”を織り交ぜれば何とでもなる。 残りの問題はどうやってやつらをおびき寄せるか。まとめて一箇所に呼び込むことができれば一匹ずつ潰していくのは容易いのだけれど。 ……ふと、名案が思いつく。我ながら恐ろしい思いつき、それでいてとても簡潔で明瞭だった。 人質をとればいいじゃないか。ああ見えてなかなか強い仲間意識を持っているやつらだ。誰か一匹にでも命の危機があるとわかればわらわらと集まってくるはず。そこを一気に叩き潰す。もしくは、人質を公開処刑。一番嫌いなあの色違いバチュルを人質に取れればなおのこといい。どうやらリーダー格のようだし、そのほうがバチュルたちに精神的なダメージを与えられるだろう。……僕を苦しめてきた分だけ、同じ苦しみを味わわせてやる。 アサトの部屋はいつもどおり綺麗だった。ベッド上の掛け布団はしわがなくなっていたし、ぼろぼろになっていた枕は片付けられていた。アサトは驚いたかもしれないけど、結局僕には話しかけずじまいだった。決まりが悪くて、僕のほうがアサトからずっと身を隠していたというのもあるだろうけれど。 まず手始めに机の下を探してみた。黄色い毛が数本落ちているだけだった。昨日電気を盗んでいたときの痕跡だろう。続いてベッドの下。何かとバチュルの巣になることが多い場所だが、いなかった。もうこの部屋にはいないのかもしれないが、念のためクローゼットの中も探した。自力で開けられない扉が開いているのは助かった。が、肝心のやつらはどこにもいない。ハンガーに掛けられている洋服、ユニフォームも、床に置かれたサッカーボールも整頓されていて、改めてアサトの几帳面さを再確認しただけとなった。 次はリビング。アサトの狭い部屋と違い隠れ場所はいっぱいある。探すのが一番面倒な場所だけど、野望達成のためには頑張るしかない。手っ取り早い場所としてソファの下を探したが、そんなわかりやすい場所にはいなかった。 ……南側にある出窓なんでどうだろう。以前のんきに日向ぼっこをしているバチュルに遭遇したこともあるから、いる可能性は高い。 出窓の位置が少し高いので、雑誌でも重ねて土台にしようと考えた。本棚は出窓と真逆の場所にあって、いちいち取りに行くのが面倒くさかった。ぎゅうぎゅう詰めの本棚から雑誌を取り出すのは難しい。数冊取り出す予定が、摩擦のいたずらで下段全ての本が飛び出た。あとでアサトに直してもらおう。 何冊か雑誌を重ねたときには顎が凄く疲れていた。もっと顎を鍛えようと思った。雑誌に足を掛けて登ると、普段見ることのない出窓からの景色があった。でも、バチュルはいない。脇に引いてあるカーテンも調べてみたけれど、やっぱりいない。出窓に登るまでのプロセスは徒労に終わった。 次に引っ掻き回したのは台所だった。調理用具、調味料のボトルなどがいろいろ入っている戸を開けたけれど、期待は裏切られた。小麦粉の袋をひっくり返してしまって、フローリングが白くなった。……これはアサトママに直してもらおう。 しかし、思いのほかなかなか見つからない。僕以外の家の人間がいなくなると、いつもならバチュルたちがここぞとばかりに家の中を堂々闊歩し始める。それが一切ないことが僕に違和感を与えていた。何かこう……僕の意図がそっくりそのままバチュルに伝わってしまっているような……そんな感じがする。 杞憂かもしれないと、気にせず僕は廊下へと出た。気分を変えて二階を探索することにした。まだまだ一階には探すところはあるけど、何も気配を感じないので探しても無意味なような気がして、やる気が失せる。 廊下から続く階段をゆっくりと上っていく。体が小さく四足歩行の僕には、階段とは壁に限りなく近い障害物だった。だから二階には何か重要な用でもない限りめったに行くことはない。事実、階段に足を掛けたのは一ヶ月ぶりだった。キュウコンに進化すればもっと楽に上れるのかも知れない。 足を滑らせることのないように一歩づつ上っていく。途中、何かの気配……具体的に言えば上から視線のようなものを感じた。バチュルが天井からぶら下がっているのかと警戒したが、少なくとも視界の範囲にはその存在はなかった。苛立ちすぎて五感が過敏になっているのかもしれない。少し落ち着こう。まだ時間はたっぷりとあるんだから。 二階には部屋が三つあった。アサトママの部屋、アサトパパの部屋、もう一つが空の部屋。空の部屋は将来必要になるそうだけど、それは親次第だとアサトが言っていた。……どういう意味なんだろう? アサトの両親の部屋は入るのを憚られたので、先に空の部屋を探索することにした。まっすぐとのびる廊下のつきあたり、その右側にあった。ドアは閉じていたので、ジャンプと同時に前足をドアノブに引っ掛けて開けた。うまく着地できずに滑って背中を打ったけど気にしない。ポケモンにあるまじき運動神経だな、とは思うけれども。 そんなのんきな考えも、部屋の中を一目見た瞬間に消し飛んだ。自慢のふわふわの体毛も、このときばかりは逆立って色艶を失ってしまっていたのではないか。 あたり一面の蜘蛛の巣。 なんで。どうして。僕が悪い夢でも見ているんじゃないか。それとも頭がイカれて幻覚を見ているんじゃないか。 縦横無尽に駆け巡る黄色い糸。まるで僕という侵入者を絡めとろうとするような意志を持っているのではとさえ感じた。浮かぶのは、この部屋を我がもの顔で行き交うバチュルたちの姿。僕を見て、一斉に笑い出す。 『クケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケ』 『うわああああああああ!!!!!』 頭の中で不快な音が反響して、僕の心を掻き乱す。視界がぐらぐらと揺れて、意識が飛びかけて、それでも黄色い毛玉がうねうねと蠢きながら僕に襲い掛かってくる。我を失って、気付けば火の粉が部屋中の蜘蛛の巣を焼き尽くしていた。黄金の糸の残骸がオレンジ色に散ってゆく様が、少しだけ僕の心に満足感を与えた。この家にある膨大な数のバチュルの巣の一部分を壊しただけだというのに、僕は限りなくちっぽけだった。 『はあ……はあ……まずいな……本当に幻覚が……』 もう何の迷いもいらない。害虫は消すのみ。 僕は怒り心頭のまま廊下へ飛び出した。アサトの両親の部屋のことなんか頭の中からすっぽり抜け落ちていた。冷静さなんて微塵もないまま、階段を下りようとした。罠が仕掛けてあることも知らずに。 何かが足に引っ掛かる感触。前のめりになっても急には止まれない。一寸先は、闇。 おそらく階段前に硬めの糸でも張ってあったんだろう。そんなことを朧げに考えながら、遥か下へと転がり落ちていった。 派手な音を立てて落ちても、今僕を心配してくれる人はこの家にはいなかった。代わりに聞こえるのは、バチュルたちの下卑た笑い声。 『クケケケケケケケケケケケケケケ、ザマーミロ』 『バーカ、ヒッカカッテヤンノ』 『ネエ、イマドンナキモチ? ドンナキモチ??』 全身が激しく痛む中、かすかに開く目にはバチュルの大群が映った。階段の上からちょうど僕を見下ろすような感じで、みんなケタケタ笑っていた。その大群の中央にはリーダー格の色違いバチュル。そいつだけは無表情で僕を見つめていた。やかましい不快な音が鳴り響く中で、僕と色違いバチュルだけ別の世界にいるようだった。 色違いバチュルが上位で、僕が下位。要するに、見下されていた。ただそれだけしかなかった。 『……上等だよ……』 怒りよりもっと凄まじく激しい黒い感情が、まるで水が沸騰してボコボコと泡をたてるかのように湧き上がる。 もはや痛みは感じない。アドレナリンが体中から染み出ているような感覚。視界がクリアになって、ヤクブツでもやったかのように気分がハイになった。 立ち上がり、階段の最上部に居座っているバチュルたちを睨み付ける。当然やつらは一目散に逃げようとした。 『死ね』 使わないと決めていた“はじける炎”を、やつらめがけて放った。 『ぴーーーー!?』 致命傷を与えずとも、逃げ遅れた何匹かにダメージを与えられればそれでいいという魂胆だったのだけれども……。僕を長年苦しめてきた相手がそうやすやすとこの距離から仕留められるはずがなかった。 階段の最上段に当たった火の玉は、文字通りはじけてベージュの壁紙に黒いシミを点描した。やつらも文字通り蜘蛛の子を散らすように四方へ逃げた。 元々どこに潜んで僕を観察していたのかは知らないが、バチュルのほとんどが二階にいるとわかっただけでも収穫だ。 階段を上る足が軽い。バチュルたちを討伐できることに嬉々とした感情を抱く。今ならアサトが僕に注いでくれる愛情すら霞んでいる。本末転倒? どうでもいい。バチュルが消えれば何もかもがうまくいくんだ。 廊下にはバチュルが一匹だけ佇んでいた。すぐに隠れられたはずなのに、わざわざこうして姿を曝け出しているのは余裕の表れか、はたまたただの馬鹿なのか。いずれにせよ、一匹分探す手間が省ける。 ちまちまと作戦を立てたりもしたが、一対一なら何も考えずに正攻法で行けるところまで行ってしまおう。と言っても僕の正攻法はバチュルの想像とは少しずれているだろう。 対するバチュルは特に間合いをつめようとせず、僕をずっと凝視していた。僕に何かしらの動きがあるまで待機しろと仲間たちから言われているようだった。……それ、結構致命傷なんだけどね。 僕の眼を見た時点で、君の負け。敵ポケモンの構成技くらい少しは考えようよ。……と言っても、バチュルたちには“火の粉”以外の技を使ったことがないから少々無理があるけど。 “妖しい光”を発動させると、面白いくらい即効でバチュルはふらふらし始めた。一生懸命に僕に向かおうとして“エレキネット”を放つけれど、たいした飛距離も出ずに床へ落ちた。 『バ、バチュゥ……』 拍子抜けだな。今までに僕を何度も手こずらせてきたのだから、何かしら驚かせてくれるのかと期待してたんだけど。 『この程度で……』 苛々する。今まで本気なんか出したことはなかったけど、ちょっと弄ればすぐにこうだ。束にならなきゃ僕に太刀打ちできないくせに、調子に乗って一匹で戦おうとする。……そんなに死にたいなら殺してやるよ。ただし、みんなまとめて、な。 まだふらついているバチュルに“火の粉”を浴びせかける。たっぷりと、怨念を込めて。 『ぴ、ぴーー……』 力ない声。まだ“火の粉”だけだというのに。僕はバチュルに近づいて、前足で思い切り蹴飛ばした。 『ぐえ……』 壁に叩きつけられ、床へと墜落するしかないバチュルをもう一度蹴飛ばす。バウンドしながらバチュルは廊下の突き当りの壁に再度激突した。 『まだまだ、足りないよなあ?』 じりじりとにじり寄ってくる僕から逃れようと、バチュルは床に爪を立てる。でも生憎立ち上がった頃には僕は目の前にいて。 思い切り蹴りを入れ、そのまま壁に押し付ける。 『げふっ……』 腹部に一撃が入り、バチュルは血を吐いた。虫特有の、青とも緑ともつかないような変な色の血だ。それでいて鮮やかで、僕の心をくすぐる。 『綺麗な色だね。僕は好きだよ』 『……』 バチュルは動かなくなった。近寄っても動く気配を見せない。……まさか死んではいないだろう。この程度で死なれちゃ困るんだよな。 それにしても……楽しかった。人質作戦はやっぱり却下しよう。半殺しに出来るのが一匹だけなんてもったいない。とりあえずこのバチュルは空部屋の隅に置いておこう。 瀕死のバチュルを咥えて、空部屋へと移動する。少しだけ口が痺れたが、加える力を少し強めるとすぐに痺れは取れた。最後の抵抗がこれだけなんて、なんと歯ごたえ……違った、手ごたえのないことか。 好都合なことに、空部屋には二匹のバチュルがいた。僕を見て……僕の咥えているものを見て青ざめているようにも見えた。咥えているものを部屋の隅に捨てて、新たに対峙するバチュルたちと向き直る。 『お前らももれなくこいつみたいにしちゃうから』 ははっ、震えてるよ。そんなに僕が怖いの? あ、でも震えるのはバチュルの本能か。めんどくさいなほんとに。 『モドサナキャ……』 え? 『ボクタチガ……モドサナキャ』 戻す……? ああ、後ろのゴミを取り戻すってこと? そうだね。僕を倒してさっさと介抱してあげたほうがいいかもね。倒せればの話だけど。 『じゃ、まずはお前から……死ね!』 二匹並んでいるバチュルたちの、向かって右側のやつに“火の粉”を繰り出す。もちろんなバチュルはもともと素早い種族だから、これぐらい簡単に避けられる。 僕が右側のバチュルを攻撃している間に左側のバチュルは“エレキネット”を繰り出す。能がないなあ、本当に。僕を倒したいならもう少し技のバリエーション増やしたほうがいいんじゃない? “火の粉”の火力を強めて向かってくる黄色の網を攻撃する。網はいとも簡単にバラバラになって、あっけなく燃えて散った。 『もうちょっとましな攻撃を……!?』 右側のバチュルがいない。見失ったか……いや、上だ! 『ちょろちょろすんな』 上から糸を引いて降りてきたバチュルに飛び掛り、体をよじって尻尾で弾き飛ばす。 『ぴゃっ!』 バチュルを、例のゴミとは対角線上にあるもう一方の部屋の隅に飛ばす。もう一方のバチュルはそれを単純に無視しながら戦うだけの精神力は持ち合わせていなかったらしい。完全にやられたバチュルに気をとられていた。 『よそ見するな!』 一瞬で間合いをつめる。バチュルが僕に意識を戻し始めていたときには、既に前足で叩き潰していた。走ってきた勢いそのままに、今度は後ろ足で、さっき弾き飛ばしたやつと同じ方向へと蹴飛ばす。二匹固まったところで、すぐに“はじける炎”を二発打ち出した。狙い寸分違わず、二匹の頭に命中する。 以前アサトが河原で行われている花火大会へ連れて行ってくれたことがある。バチュルにあたった火の玉が火花を散らす様は、その花火大会のときに見た色鮮やかな花火よりも美しかった。 まだ与えたダメージが足りないと判断して、執拗に“火の粉”を浴びせた。バチュルの黄色い体毛が焦げ付いていく。少しずつ、少しずつ。本気なのか加減しているのか僕にもわからなかった。 『じゃ、お前らまとめて――』 刹那、何かに後ろから二、三度引っ掻かれた。 『っ!』 虫ポケモンの得意技、“連続切り”だとすぐに理解できた。左後ろ足を軸に体を反転させて、右前足をバチュルに叩き込む。 『バチュッ!』 バチュルは吹っ飛ばされて床の上を滑りつつも、何とか爪を立てて持ちこたえていた。あーあ、フローリングが傷だらけ……僕も言えたもんじゃないけどさあ……。 『バチュッ、バチュッ!!』 このバチュル、やけに好戦的だ。仲間がやられて憤っているのか。当然の感情だろうな。 『ボクガ……ボクガ、モトニモドス!』 『……! だから戻すってさっきから何なんだよ! てめーらには本当に苛々させられてばかりだ! 消え失せろ!!』 体中のエネルギーを口先に集中させ、今までで最大の“はじける炎”を炸裂させた。ごう、という効果音が出そうなほど、大きな塊が高速でバチュルへと向かっていく。一瞬バチュルがよける素振りを見せたけど、逃げ切れなかったようだ。 『ぎゃっ!』 激しい光が一瞬視界を奪った。自分の技で目が眩むなんて僕もまだまだだな。 痛々しい声を上げたバチュルは、今までのゴミと同じように壁へと激突した。そして同じように墜落した。しかし、必死で四肢に力を込めて立ち上がり、僕に立ちはだかろうとする。 『マッテ、イマタスケテアゲルカラ……』 仲間を助けるなんて到底無理だろう。もう体がぼろぼろ……なのに向かってくるんだな。めでたいやつだ。 『“火の粉”!!』 今のバチュルにこんなそこそこの威力の技でさえ避けるだけの力はなかった。 『ぐっ……』 これで気絶しないか……。苦手な炎タイプの技を受け続けて、これ以上苦しいものはないだろう。それでも立ち上がろうとするんだから、呆れを通り越して感心する。 わかった。その根性に敬意を表して、とっておきの技を見せてやるよ。これを使うってことは僕が相手を認めたってことなんだから。 『喰らえ』 僕の必殺技。バトルでもあまり使ったことがない。 『……ぐあああああ!!』 どう? “神通力”で内臓を攻撃される痛みは? 最近あまりつかってなかったから少し加減を間違えているかもね。 『ぐ……ふぅ……』 内臓から絞り出した血が、バチュルの口から漏れ出す。奇怪極まりない。記念に写真でも撮っておきたいけど、残念ながら僕は二足歩行じゃないんだよね。 『……』 こいつも終了だな。死の一歩手前までは追い込んだだろう。さっきの二匹と加えて四匹目か。あと六匹だな、と計算しつつ瀕死のバチュルたちをゴミ置き場へと移動させる。 さて、残りのやつらを捕らえるにはどうしたらいいだろうか。この戦闘の一部始終を見ていたバチュルがいたら、そう簡単に姿を現さないだろうな、と思った。でも、予想は簡単に翻された。 『マッテ!』 ……何を思ったか知らないけれど、ゴミを片付けている最中、後方に六匹全員姿を現した。 『……お前ら何? 少し死に急ぎすぎじゃない?』 『ナオス……』 『治す……?』 『ボクタチガナオシテアゲル!』 だからさぁ……さっきからこいつらは何の話をしているんだよ。全員体を寄せ合って、同じように震えて、意味不明な主張ばかり。僕の目には害悪なものにしか映らないし、実際にそのとおりだ。何かにつけて僕と対立して、挙句の果てにはアサトの愛情すら奪う。悪魔。死神。不幸の象徴。 また黒い感情が疼きだす。殺したい。全部まとめて焼き殺したい。そんな負の感情が、僕の体を滾らせる。……ああそうだ、ちょっと実験でもしてみようか。 『……ごめん、ちょっとやりすぎた……』 『エ?』 あまり上手くない演技だとは思うが。それでも薄気味悪い好奇心を抑えずにはいられない。気まぐれだった。バチュルたちが僕に対して何か勘違いをしているようで、利用できると思った。 『本当はちょっと懲らしめるだけのつもりだったんだ。君たちの仲間をここまで傷つけるつもりはなかったんだ……許してほしい……』 精一杯の笑顔を作る。噴き出してしまいそうになるのを必死にこらえる。心にもないことがすらすらと出てくる自分が怖い。 『あとらす……』 『あとらす……ナオッタ?』 バチュルたちが警戒しながらも、僕のほうへ近寄ってくる。まさかこんな演技に引っ掛かるのか? 引きつって、いかにも『君たちを陥れます』と宣言しているような笑顔に? だめだ、もう限界。笑わずにはいられない。 僕は静かに“妖しい光”を発動させた。 『エ?』 『あ、あとら……メ……ガ』 『ソンナ……』 六匹全て引っ掛かった。そりゃそうだ。一匹たりとも僕から視線を外していなかったんだから。 『アッハハハハハ!! お前ら揃いも揃って馬鹿かよ! ほんの少しも疑おうとしないんだからめでてーな!』 全員がふらふらしながらわけもわからず攻撃しあうのは抱腹絶倒ものだった。忌々しいやつらが、こんな滑稽な姿を見せてくれるんだから。笑いすぎてむせてしまう。 『面白いお芝居だな! 冥土の土産話になるんじゃないの?』 そう言いながら、僕の中のドス黒いエネルギーをもう一度口先に集めた。今までにないくらい、この部屋を全て消し飛ばしてしまうくらいに……。 “はじける炎”―――― ☆ ほとんど動かなくなったバチュルたちを、一匹ずつ一階のアサトの部屋へもっていく。焼却処分は家の中じゃ大々的にできないから、とりあえずこいつらはアサトの部屋にでも待機していてもらおうと考えていた。 それに、激しく炎技を使ってすすだらけになった空部屋のことや、その他諸々の探索で汚れてしまった部分の掃除もしなければならない。 『これで十匹目……』 順調に最後の一匹を、アサトの部屋に持ってきたときだった。 『あれ……?』 いない。瀕死のバチュルの山の中に、色違いバチュルがいない。そんなはずは……確かに十匹いる。それでも、紫色の爪や瞳を持つバチュルはいなかった。もともと十匹しかいないの考えていたのは間違いだったのか。ショックな誤算だった。あのリーダー格のバチュルを駆逐しない限り、僕の復讐は終わらないというのに。興奮しすぎて、まだ一番重要な敵を倒していなかったことに気付いていなかったのか……。 階段を駆け上がって、二回の廊下に出る。案外敵はすぐに見つかった。まっすぐ伸びた廊下の向こうに、ほかのバチュルよりも特異な外見を持つバチュルがいた。他のバチュルと同じように、馬鹿正直に僕の眼を見据えて。 『……これだけ仲間がやられているのを見ながら、隠れようともしないんだね』 『……モクテキガハタセテイナイカラネ』 目的、ねえ……。僕がバチュルを駆逐しようとするのと同じように、お前らも僕を家から追い出そうとしているんだろ。そういうことだろ? 『お前一匹じゃ僕に勝てないことはもうわかってるだろ』 『ウン、カテナイ。ゼッタイニ。デモアキラメタクナイカラ』 ……今まで小賢しいやつらだと思っていたけど、本当は頭の中身がスッカスカだったんだな。諦めたくない? 何の権利を主張している? 勝手にこの家に住み着いた害虫のくせに。 『オレガゼッタイニナオシテアゲルカラ。マッテテ』 まただ。戻すだの助けるだの治すだの。お前らのこと、死ぬまで一生理解できそうにないよ。でもまあ、どうせ死ぬやつなんだから、少しぐらい話しは聞いてやってもいいかな。 『……唐突で悪いけどさ、お前らは僕に何を求めてるの? 隠れもせずに向かってくるけど、頭おかしいの?』 思っていることをありのままに色違いバチュルに伝える。気の利いた答えや、納得できる理由はいらない。ただ、聞いてみたかった。 『……ワカラナイノ?』 あまりにも抑揚のない声だった。感情が読み取れずに戸惑う。僕の刃に倒れていったバチュルたちへの悲しみもなければ、憎むべき僕への怒りも見当たらない。無表情で、なお僕のことを嘲笑っているようにも見えたが、それも違う。 『……僕のことを疎ましく思ってるんだろ。違うか?』 『……』 色違いバチュルは無表情のまま口を開かなかった。図星か……。 ああ、苛々するなあ……もういいや、殺そう。視界に入るだけで目障りだ。“妖しい光”なんて小細工はいらない。力でねじ伏せる。 『消えろ』 “はじける炎”のエネルギーを溜め始める。同時に色違いバチュルの紫色の爪が、毒々しい光沢を帯び始めた。……避けるつもりは毛頭ないってか。いいよ、来てみろよ、一撃で決めてやる。 『オモイダサセテアゲル!』 バチュルが走って飛び掛ってくる。でも、僕の目の前に来る前にエネルギーは完全に溜まっていた。勝負はついた。僕の勝ち。お前だけはこの場で殺してやる。ありがたく思えよ、苦しまないように一瞬で死なせてやるんだから。 『クラエ!!』 ロックオン完了……発射―――― ――――できない。見慣れた黄色い網が、しかも幾重にも重なって僕に降りかかった。襲い掛かってくる痛み、痺れ。呆気にとられる間もなく、色違いバチュルの技が僕に叩きこまれた。 『かはッッ!!』 “クロスポイズン”。本気で僕を倒しにきたバチュルの渾身の一撃。 後ろに倒れてしまうのが自分でもわかる。数秒足らずの間にいろいろな思考が錯綜した、何が起こった? どういうことだ? 何で僕は倒れて…… 『オレダケジャカテナイケド、ミンナガイレバカテルヨ』 みんなって……何言ってんだ……お前以外全員倒したはずなのに。あれだけのダメージを受けておきながらみんな復活したって言うのか……? 『……ジッピキタオシタダケデマンゾク?』 十匹だけ……? ……そうか……あいつらのほかにも……まだたくさんいたってことか。最低最悪の大誤算だな……。 色違いバチュルの周りに、ぞろぞろとバチュルが集まってくる。数なんて数えない。僕の想像を超えた数がいる、その事実だけが目の前に突き立てられ、どうしようもないやるせなさだけが残る。 いつの間にか、口はバチュルたちの“糸をはく”の技で縛られ、同じように前足も後ろ足も縛られた。目は目隠しされるということもなく、特に何もされなかった。うまくいけば“妖しい光”が使えるかもしれないと目論むが、無駄な抵抗だ、と野暮な考えは消えた。僕の負け――。 意外と冷静だな、と自嘲する。このままバチュルに殺されても仕方ないと思った。ならせめて、何も痛みを感じないようにと願ってみるが、そんなものは我侭に過ぎなかった。できるだけ苦しめるようにとバチュルたちを半殺しにしてきた。こいつらからしてみれば、僕の罪は重いのだろう。涙すら流れない。絶望だけが重くのしかかってくる。 『ネエ……』 色違いバチュルが一歩前に出て僕に話しかける。 『イツカラあとらすハオカシクナッチャタノ?』 今更何を……白々しい。 『イツカラオレタチハ‘テキドウシ’ニナッタノ?』 いつから? ふざけるな! お前らがこの家にいるときから! ずっと! ずっと! ずーっと!! 僕は苦しめられて! 悲しくて! &ruby(ひとり){一匹};で泣いて! ……どうしようもなくなって……。 『オモイダシテヨ……』 何を…… 『ワスレタノ? オニゴッコ、カクレンボ、タンケンゴッコ、オレタチイッショニタクサンアソンダヨ?』 何を言ってるんだ、そんなはずない。お前は何の話をして――。 『オモイダシテ、あとらす!』 『モトニモドッテ!』 『ナンデワスレチャッタノ!』 『モドッテヨゥ……ウワアアアアアン!』 『グスッ……ワスレナイデヨ……ゥゥゥ』 バチュルたちが一斉に口を開き、泣き始める。頭が痛くなる。混乱して、吐き気がした。わけがわからなくなっても、バチュルたちの泣き声が嫌でも耳に入ってくる。耳を塞ぎたくてたまらなかったが、今の僕には出来ない。叫びたかった。頭がおかしくなりそうだ。 やめろ。泣くな。やめろ! 僕をこれ以上混乱させるな!! やめろ!!! 『思い出してよ! アトラスッ!!』 ……色違いバチュルの叫びが、やけに鮮明に響いた。 ☆ 『凄いね! 壁を歩けるの?』 『壁なんてまだまだ序の口! 俺たちは天井だって歩けちゃうんだから! 凄いだろ! なんたってくっつきポケモンなんだから!』 『む、壁ぐらい僕だって出来るもん!』 『じゃ、やってみなよ』 『いくよ……それっ! ……あれ、うわあああ!』 『うわっ、背中から落ちたよ……大丈夫?』 『いてて……くそお、もいっかい!』 『そんな無茶しなくても……』 『みいつけた!』 『ちぇっ、うまく隠れられたと思ったのに……』 『まだ君で一匹目なんだけどね……いつまでかかるやら……』 『じゃあ、こうしよう。見つけられたやつもどんどん鬼の仲間になっていくの』 『なるほど、いい案だね』 『まあ、俺以外全員外に隠れたけどね』 『はあ!? 範囲広すぎるだろ!』 ☆ 何だこれ…… ☆ 『待て! 逃がすか』 『そんな鈍足じゃ俺たちに追いつけないよーだ!』 『けけけ! 追いつけるものなら追いついてみろー!』 『喰らえ、“火の粉”!』 『あちっ! ず、ずるいぞ技を使うなんて!』 『そっちは数が多いんだからいいじゃないか! ハンデだよハンデ!』 『いいもん俺達だって! “糸をはく”!』 『ちょっ……目は禁止だろ! もっとましなところ狙えよ!』 『今日は探検するぞー!』 『どこに行くの?』 『公園の近くに森があったよ! そこに行こう!』 『初めてだね。わくわくする!』 『宝物見つけるぞー!!』 『いや、そんなものはないんじゃない?』 『えー無いの? ……俺は信じないよ! きっとあるもん!』 『夢見すぎだよ……。しょうがないから一緒に行ってあげるけど』 ☆ 嘘だ……こんなこと…… ☆ 『今日は楽しかったね』 『うん、楽しかった。……俺たちは屋根裏に戻るよ』 『うん。じゃあ、おやすみ。また明日遊ぼうね』 『おやすみ。また明日ね! ……あ、そうだ。ねえ、アトラス……』 『何?』 『俺たち、アトラスのこと大好きだよ』 『どうしたの、急に改まって……』 『アトラスは……俺たちのこと好き……?』 『もちろん大好きだよ。一生の、かけがえのない友達だよ』 ☆ ……僕が間違っていたの? 何で今まで忘れていたんだろう……。 ☆ 『戻さなきゃ……』 『僕たちが……戻さなきゃ』 『僕が……僕が、元に戻す!』 『待って、今助けてあげるから……』 『治す……』 『僕たちが治してあげる!』 『俺が絶対に治してあげるから。待ってて』 『思い出させてあげる!』 僕を昔のように戻す。おかしくなった僕を助ける。病んでしまった僕を治す。 バチュルたちが言っていた言葉は、仲間たちに向けていたものではなくて、僕に向けていたもの。 僕がどれだけバチュルたちに酷く惨たらしいことしても……僕だけのためにバチュルたちは必死になって……。 ☆ 『……思い出した?』 いつからだろう、バチュルたちがアサトから可愛がられるのを見て嫉妬し始めたのは。アサトからの愛情が欠けてしまったことなんか一度たりとも無いのに、バチュルたちにアサトを奪われたなんて思い込んで、勝手に恨んで、泣いて、怒って。 涙がとめどなく溢れた。僕のやったことは全部間違っていた。バチュルたちか隠れることなく僕に立ち向かおうとしたのは、ただ昔のような関係に戻りたかったから。僕のくだらない演技に引っ掛かったのも、僕が昔のように戻ったと勘違いしてしまったから。僕のしてしまったことは、バチュルやアサトに対する裏切り行為だ。何の罪も無いバチュルをたくさん傷つけた。 『元に戻ったね』 リーダーバチュルが僕の口を締め付けていた糸を爪で引っ掻いて切る。 『うああああああ……』 口から力ない嗚咽が漏れた。バチュルたちへの申し訳ない気持ちがいっぱいで、ただ呻きながら泣くことしかできなかった。 『う……えぐっ……ご、ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい――』 『謝らないで……俺たちもアトラスの気持ちに気付いてあげられなかった……ごめんね……』 バチュルたちは僕の足を縛っていた糸を次々と切っていく。体中に絡まっていた電気の糸も巻き取られていった。 『俺たち……傷ついた仲間たちを介抱してくる……』 そうだ……助けなきゃ。僕のせいで傷ついたバチュルたちを助けなきゃ。今の僕に出来る罪滅ぼしなんてこれぐらいしかない。 『……僕も行く』 立ち上がって、ゆっくりと階段を降りていく。まだ涙で前が見えなかった。バチュルたちもぞろぞろの僕の後ろをついてくる。一階に下り立ったときのことだった。 前方にある玄関のドアの鍵がガチャリ、と音を立てて開いた。 「ただいまアトラス。今日は学校が早く……あれ?」 アサトは、階段から下りたところで僕がバチュルに囲まれている異様な光景を不思議に思ったようだった。 アサトが自分の部屋の異常事態に気付いたときからの行動は早かった。電話でポケモンセンターに救急搬送を依頼して、数分後に酷い怪我をしているバチュルたちはポケモンセンターに連れて行かれた。 僕はただ見ていることしかできなくて、アサトに何かを話しかけられても上の空で反応できなかった ☆ 一週間後。 少なくとも形の上ではいつもどおりの生活を続けていた。 危険な状態だったバチュルたちをすぐにポケモンセンターに運んだのが功を奏してか、全員が回復したことは喜ばなきゃいけないけれど、素直になれない。 全てが遠く見える。バチュルも、アサトも、アサトの両親も。妙な距離感が僕を独りぼっちにさせる。 多分誰にも咎められていないせいだと思う。結局、アサトもアサトの両親も僕に何があったのかを聞こうとしなかった。聞かれたところで言葉を使って弁解できるわけでもないけれど、無視されているような気がした。 アサトがよそよそしい態度を見せているわけではない。いつもどおり、僕を撫でて、抱いて、遊んで。……僕のほうから無意識に避けているのかもしれない。 空部屋での戦闘の跡は綺麗さっぱり消えていた。黒く煤けた壁紙も、傷のあったフローリングも張り替えた。聞けば、実はあの部屋はバチュルたちの遊び部屋になっていたらしい。それも僕以外の住人から認められた上で。 バチュルにはしばらく会っていない。最後まで生き残っていたバチュルたちはもちろん、ポケモンセンターに運ばれていったバチュルたちも、家に帰ってきて放たれるや否や姿をくらましてしまった。大方屋根裏にいるのだろうが、当たり前だったバチュルたちの家での往来がなくなったのが寂しかった。自業自得なのだからしかたない。なんて容易く割り切れるほど僕は大人じゃないのだから。 ため息がひとつ流れて、余計に鬱屈した気分になる。 灰色の気分が抜けないまま、時計の針だけはどんどん進む。アサトは学校、アサトパパは仕事、アサトママは例によって遊びにいっている。僕はアサトの部屋で、死んだようにベッドの上でうずくまっていた。 『元に戻れるかな……』 心の奥底でつっかえていたものが口をついて出た。 『何で暗い顔してるのさ』 ……顔を上げるとリーダーがいた。天井からぶら下がってゆれている。僕は飛びかかって…… 『わわっ!?』 強く抱きしめた。二度と離れていってしまわないように、強く抱きしめた。 『うわああああああん!』 風のない日の湖面のように静かだった心が、嘘のように破裂した。抑えていた気持ちがはじけるように溢れ出て止まらない。 『アトラス、痛い……』 『ぐす……うぅ……我慢してよ』 『あ……うん』 『今までどこいってたの? ……寂しかったんだよ? やっぱり僕は嫌われてるの? やっぱり僕なんていないほうがいいんだ。僕なんかいたって迷惑――』 『そんなこと思ってないよ。俺はもちろん、みんな同じ気持ちだよ。……アトラスを昔のように戻すのに、全員犠牲になることだって覚悟してたんだから』 本当……情けないな僕は。……バチュルたちに重荷を負わせながら、少しも気付けなかった……。謝っても謝りきれないな……。 『この家の人たちに気を使って隠れてただけだよ。でもアトラスが全然元気なくて不憫だったから……ぐえ』 もう一回強く抱きしめた。 『だから痛いって……ていうかアトラス泣きすぎ。いつからそんなに涙もろくなったの?』 多分君らの前で涙を見せるのはこれで最後だから……。 『アトラスの泣き虫ー』 『これが噂のツンデレかー』 『ヤンデレじゃね? ……あれ、違う?』 いつの間にか何十匹も集まっていて、部屋中至るところが黄色く染まっていた。 『……うるさい黙れ。殴るぞ』 『うわーアトラスが怒ったー』 『逃げろー逃げろー』 『今度こそ殺されるー』 ……傷口に塩を塗りたくるようなことをズケズケと……でも、いつもどおりのバチュルたちだからこれでいいのかな。逃げるの速いな。 『元気になった?』 『うん。ちょっと楽になった』 リーダーが笑顔になる。僕もつられて笑顔になった。泣き笑いで顔がぐちゃぐちゃだけど。 『ねえ、アトラス?』 『何?』 『俺も逃げていい……ぐえ』 だからだめだってば。何度でも抱きしめるから。 ☆ よく晴れた日の昼下がり、僕たちは外へと繰り出した。特に目的はなく、誰かが言い出した『外で遊ぼう』の合図で家を抜け出した。バチュルたちは意外と器用に窓の鍵を開ける。いろいろと問題のある図だが、気にしたら負けだ。アサトの部屋に泥棒が入ってこないことを祈ろう。 傍から見れば何事だと思うだろう。一匹のロコンとその周りを取り囲む大量のバチュルたちが漫ろ歩きする姿はさながらパレードのようで。通行人の邪魔になるんだろうなと気にしつつも、宙にふわふわと浮いているような不思議な気持ちになってやめられない。 素直に、楽しいと思った。 いつの日か、遠い昔に置き忘れた思い出が次々に蘇ってくる。懐かしさ半分と、これからもずっとこんな気分が味わえるんだという嬉しさとに浸って、どう頑張っても顔が勝手にほころんでしまう。 『何ニヤついてんの?』 なぜか僕の頭に乗ってくつろいでいるリーダーが問いかける。 『だって楽しくてしょうがないから』 『平和な脳みそだね』 『振り落としてやろうか?』 『遠慮しとく』 他愛のない会話。平穏な日常。僕が本当に求めていたのは、アサトの愛情だけではなくて、それと同等に大切な気持ち。……正直なところ、まだ一週間前の所業から来るもやもやとした気持ちは払拭できていない。バチュルたちは『忘れよう』と気にしてくれてはいるが、おそらく二度と忘れることなんか出来ないし、負った傷も消えることはないだろう。 『でも……何年ぶりだろうね、アトラスから楽しいなんて言葉聞いたのは』 『さあ? 忘れちゃったよ』 それでも、一から思い出を作り直していけば、そんなことは瑣末な問題になるに違いない。 『で、どこ行くの?』 『知らないよそんなの。君たちが外で遊びたいっていんたんだから』 『じゃあ宝探ししようよ。もうずっと中途半端なままで、全然終わってないもん』 『オレもさんせー』 『ボクもボクもー』 賛同の声がひっきりなしに上がって、僕も同調せざるを得なくなった。 『しょうがないなー。迷子にならないでよ?』 どうせ宝物なんて見つかりっこないのになあ。よくもまあ飽きずにいられるよね。僕はすぐに飽きちゃうよ。だって、今よりも大切なものなんて見つかりそうにないから。 &ref(いただきもの。VS.電気蜘蛛!!.jpg); [[ウロ]]様からいただきました。 ---- 感想等ありましたらどうぞ↓ #pcomment あとがき。(反転) &color(White){まず、最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。自分でこの話の評価をつけるとしたら……星5つ中、2つと半分、もしくは2つだけ。正直いろいろと失敗したような気がします。そもそもこんな話をたかだか22000字程度で抑えるのには無理があったかなあと。完全に作者の力量不足でした。}; &color(White){もともとこのお話は完全にバッドエンドの予定でした。ひとつは、もともとバチュルに善意など存在せず、アトラスがやられて奴隷になるという誰得エンド。もうひとつはアトラスがバチュルの真意に気付かずに皆殺しにするという極悪エンド。しかし書ききる自信がなかったので今回のような終わり方にしました。結果的にはこっちでよかったなと思います。}; &color(White){少し作中解説をば。アトラスは最後の最後までバチュルたちに関する記憶を失っていました。特に頭をぶつけてもいないのにそんなことがありえるのかという話ですが……どうやらストレスが溜まりすぎて突然記憶を失うということがたまーにあるみたいです。あくまで聞いた話ですが。じゃあアサトのことも忘れるのでは?となりますが、記憶を部分的に失ったということでご愛嬌。}; &color(White){もういっこ。バチュルたちも途中でアトラスに悪態をついていますが、あれはアトラスに完全に敵意を向けさせるための罠、と考えていただければ。……といいたいところですが、この物語はあくまでもアトラス視点でのお話。たとえバチュルたちがちょっとからかったつもりでも、憎しみに囚われたアトラスからすれば物凄く不愉快な行動なわけです。たとえ「厭らしい目つきで僕を嘲笑った」とあっても、バチュルにはそのつもりはなかったのかもしれません。一人称はこのあたりで作者が遊べるので楽しいです。余談ですが「prismatic」でも似たようなことをしています。}; &color(White){楽しく書けた作品ですが、リハビリ作品ということもあり課題が残りすぎました。次回に生かして生きたいですね。……そういえばアサトが空気でした(}; IP:219.173.58.226 TIME:"2012-12-12 (水) 06:44:05" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=VS.%E9%9B%BB%E6%B0%97%E8%9C%98%E8%9B%9B%EF%BC%81%EF%BC%81" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64; rv:17.0) Gecko/20100101 Firefox/17.0"