&color(red){※この小説は偏った性的嗜好をテーマとしております}; author:[[macaroni]] ---- ひとは誰しも絶対に知られたくない秘密を持っている。 それはたとえ家族や恋人、親しい友人であっても、なかなか打ち明けられるものではない。 中でも性的嗜好(Sexually Interested)については多種多様であり、好みの香りや体型に関するこだわりなど比較的ライトなものから、他の者には理解できないようなヘビーなものも存在するだろう。 老若男女、あらゆるフェティシズムについての悩みを解消する為にこの学園に存在するのが、我々「S・I研究部」、通称フェチ研である。 ---- &size(20){S・I研究部〜SMのはなし〜}; 終業のチャイムが校内に鳴り響いた。 こんな間延びした単純なメロディが学生を教室に導き、拘束し続ける力を持っているのだから驚きである。 それはまるで条件反射的に行動してしまうというあれに似ているな、などとミルホッグのボッチはぼんやり考えていた。 確かなんとかの犬という名前だった気がするが、思い出せなかった。 こんなどうでもいい事を考えられるのも、授業という束縛から解放され自由を手に入れた者の特権である。 「ボッチー、いる?」 扉を開けたのは部員のミミロップ、やおいだった。 「静かにしたまえ。ボクは教室の持つ拘束力というテーマについて思考を深めているのだ」 「何かっこつけてんのよ。ただ5限目をさぼって部室でダラダラしてただけでしょ」 彼女は学園一の美女と言われるほど整った顔立ちをしており、その身体は決してやせすぎでもなく、かといってぽっちゃりしている訳でもない絶妙なバランスの肉付きをしている。 そしてその容姿を鼻にかける事の無いエネルギッシュな性格がさらに彼女の魅力を引き立てている。 噂ではモデルをやっているだとか、芸能プロダクションに頻繁にスカウトされているだとか言われているが、真偽を確かめた事は無い。 ちなみ「やおい」というのはフェチ研でのあだ名であるが、その理由というのは・・・ 「ボッチ、これを見て!」 彼女が荒い鼻息を俺の顔に吹きかけながら鞄から取り出したのは、「俺たちの遊び」というタイトルの小説だった。 この小説が普通の内容のものでないことは表紙を見ればわかる。 やや日焼けした艶のある肌をしたゴーリキーの男性。その男に後ろから抱かれるリーフィアは女の子のように見えなくもないが、おそらくそうでは無い事は承知している。 これは間違いなくBLものの小説だ。 そう、彼女は腐女子なのである。 「やおい、言っただろ。もううちの本棚はこれ以上ないほど腐りきってる」 フェチ研の部室の本棚には彼女が次々に持ち込んでくるBL小説でびっしりと埋まっており、その一角だけ異様な空気を放っている。 部員の嗜好を理解するのもフェチ研部長の勤めであると思い、彼女が最も愛する「先輩と僕」シリーズを何冊か読んだがやはり腐女子の気持ちは彼には理解できなかった。 「そんな物よりさぁ、これを見てくれよ」 ボッチは彼女の小説を脇に押しのけ、5限目をさぼって読みふけっていた雑誌を広げて見せた。 「・・・『ガルーラママさんバレー特集』ぅ?・・・あんたの熟女好きも相変わらずねぇ」 やおいはあきれた様に両手を広げ、ため息をついた。 「単なる熟女好きと一緒にされては困る。俺は中でもガルーラに重点を置いて・・・」 「わかったわかった!ボッチ、もういいからそれしまってよ」 やおいはさも辟易した表情を浮かべている。 まだ言い足りない様子であったが、仕方なく彼はブルマを身に着けたガルーラが表紙のそれを机に置いた。 「そういえばローリーは?まだ来てないの?」 「今日は掃除当番だから遅れるってさ。あいつそういうとこ無駄に真面目だよな」 フェチ研にはもうひとりメンバーがいるが、それがリングマのローリーだ。 ローリーというあだ名から何となく想像できるとは思うが、彼は重度のロリコンである。 しかも進化前の女の子しか興味を示さないという徹底ぶりだ。 ローリーとは部の発足以来ずっと一緒にいる。いわゆる腐れ縁ってやつだ。 ボッチというあだ名で呼び始めたのも彼だった。 お互い嗜好としては全くの正反対のはずだが、なぜかうまが合った。 お陰で一時期ホモ疑惑まで囁かれたぐらいだ。 「あーあ、ミルホッグ×リングマなんておいしいカップリングなのになぁ」 「俺たちにそういうのを期待するな」 フェチ研の活動は基本的にダラダラ過ごす事である。 ごく稀に依頼人がやってきて、自らの変わった性癖の悩みを打ち明けにくるが、そういった依頼は月に一回あれば良い方だ。 その依頼が舞い込んだのは、彼が空中で弾む淑女達の少し弛んだ肉に食い込むブルマをじっくりと観察している時だった。 ガラリ、という音を立てて部室の引き戸が開いた。 のしのしとゆったりした重みのある歩調で部室に入ってきたのはローリーだ。 今日は後ろに見知らぬ男子生徒を連れている。 「おいローリー、誰だそのオーダイルは」 オーダイルの体格はローリーに負けず劣らずがっしりとしていたが、どこかその風貌とは似合わない雰囲気を醸し出している。 具体的に言うと、強面な見た目に反しておどおどしているのだ。 ボッチはすぐにその男が今回の依頼人だと悟った。 「ボッチに相談したい事が、あるそうだ」 オーダイルは終始落ち着かない様子で辺りを見回していたが、ローリーに紹介されると軽く会釈した。 「あのー、フェチ研って恥ずかしい相談にも乗ってくれるんだよねぇ?」 「内容によるが」 「実はボク・・・」 青いはずのオーダイルの顔がみるみる赤く染まっていく。 「痛くされるのが好き、なんだ」 「つまり、マゾヒストってことか?」 ボッチの問いにオーダイルは小さく2度頷いた。 「へぇ。ウチに相談に来た割にはポピュラーな嗜好じゃない」 興味をもったのか、やおいも身を乗り出してきた。 「SMは、立派に確立されたカテゴリだからな」 ローリーはローリーでうんうん、となにやら頷いている。 「で?俺たちにどうして欲しいわけ。まさかヒールで踏んで下さいなんて言わないよな」 ボッチは冗談のつもりで笑いながら言ったのだが、オーダイルが差し出してきた物を見て笑うのをやめた。 男の両手には絵に描いた様な真っ赤なハイヒールが握られていた。 オーダイル、彼の事をこれから&ruby(マック){M};と呼ぶ事にするが、マックは最近ある女性から付き合ってほしいと告白されたらしい。 彼はこれを機にドMを卒業して、普通の男性として彼女と交際したいと思った。 そこで最後の思い出に、おもいっきりSMプレイを楽しみたいというのが今回の依頼の様だ。 「性的嗜好、簡単には捨てられないだろう」 ローリーの意見はもっともだ。 ボッチにも何度か今の趣味を無くしたいと思った事はあったが、結局今でもそれは継続している。 「ボクもそう思います・・・ですから、これが終われば家にあるSMグッズは全部破棄するつもりです!」 珍しく強い口調でマックは言った。 その目には強い決意が感じられる。 「よく言ったぞ、マック!よっしゃ、やおい!この依頼受けてやれ!」 「はぁ!?なんであたしなのよ!」 ボッチはやおいの言葉を無視し、マックに向き直った。 「マック、ウチのやおいじゃ不満か?」 マックは首を左右に振り、やおいの手を握りしめた。 「学園のヒロインに踏みにじってもらえるなんて本望です・・・」 まるで服従を誓った犬の様にしっぽを振る彼の様子を見て、やおいは呆れてため息をついた。 マックには三日間の猶予をもらい、その間にやおいを立派な女王様に変身させることを約束してその日は解散した。 しかしやおいは今回の依頼を受ける事をずっと嫌がっていた。 今日知り合ったばかりの男にSMプレイをするなど、その道にフェティシズムを感じる者でなければ当然だ。 「ローリー、SM指南のビデオとかあったらやおいに貸してやってくれ」 ローリーの実家はレンタルビデオ店を経営しているので、その手のビデオも揃っている。 「それは構わないが・・・やおいがこの依頼を引き受けるとはまだ決まって無いだろう」 「それについては俺に任せてくれ」 ボッチはなにやら自信ありげな口調で答えた。 彼が自信満々なときは大体良くないことが起こる事をローリーは今まで経験してきたが、今回は彼の言葉を信じるしかなかった。 翌日、部室の机にはボッチがマックから借りてきたという数々のSMグッズが広げられていた。 ムチやろうそくなど見覚えのある道具から、一体何に使うのか皆目見当がつかないものもあった。 「おいローリー、これは一体何だ」ボッチはグッズの中から一つを指差した。 素材はアクリルの様だがなにやら男根をかたどっているように見える。 「これは貞操帯だな。これを非勃起状態の男性器に装着して、勃起時に拘束感と苦痛を与えるものだ」 「・・・やけに詳しいな」 「一時期そっちの畑にいたことがあった」 ボッチは見慣れないSMグッズに興味津々の様子だったが、ローリーはそれよちも気になる事があった。 ボッチは見慣れないSMグッズに興味津々の様子だったが、ローリーはそれよりも気になる事があった。 ローリーはちらりとやおいの方を盗み見た。 やおいは金属の手錠を手に取って眺めていたが、かすかに笑みを浮かべている。 どうやら彼女はこの件を引き受ける気になったようだ。 もともとSっ気のある方だと思っていたが、これを機に彼女のSM嬢としての才能が開花してしまうのではないかと少し不安になったが、それ以上にボッチがどうやって彼女を説得したのかがローリーは気がかりだった。 話し合いの結果、プレイは部室で行う事にした。 両隣の教室に誰もいない事をしっかり確認し、ボッチとローリーは部室に誰も近づけさせないよう部室の前で警備することになっている。 万一学園でSMプレイをしていることが知られれば、S・I研究部がS・M研究部に変わるだけでは済まされないだろう。 マックは既に部屋の中で両手両足に枷をつけた状態でスタンバイしている。 「似合ってるぜ、姐さん」 ローリーが褒める。 この三日間SMについてみっちり勉強したやおいはすっかりSM女王の風格を放っていた。 ガーターベルトにハイヒール、右手にはムチを握っている。 「頑張れよ、やおい」 ボッチは彼女の肩にぽんと手を置いて激励した。 「気安く触るな、げっ歯類が」 「げっ、げっ歯・・・!?」 やおいはボッチの手を素早く払いのけるとスタスタと部屋の中へ入っていった。 「や・・・役作りはばっちりだな」 ボッチはローリーに向けて親指を立て、やや半泣きに近い表情で彼女を送り出した。 やおいが部室に入ってから5分ほど経過した。 いまごろ快楽の世界がこの部屋の中で繰り広げられている事だろう。 ボッチとローリーは多少の気まずさを抱えながら廊下に立っていた。 プレイの時間は特に決めていなかったが、おそらく30分は続くだろうと思われる。 ローリーは横目でボッチを伺ったが、彼は目を閉じてただじっと立っていた。 「しかしよくやおいはこの依頼を受ける気になったな」 ローリーはずっと抱いていた疑問を口にした。 「一体どうやって説得したんだ、ボッチ?」 しかしボッチは依然目を閉じたまま黙っていた。 少し顔が引きつっている様に思えたが、ローリーもそれ以上は聞かない事にした。 大方の予想通り、30分後二匹は部屋から出てきた。 マックの体中には軽い生傷がたくさん付いており、知らない者が見れば心配になるような状態だった。 口はやや半開きでよだれを垂らし、目はどこか虚空を見つめほとんど放心状態に近かった。 よほど満足してくれたのだろう。彼はほとんど何を言っているのか聞き取れない台詞を吐いて3匹にお礼を告げると、フラフラと廊下を歩いて去っていった。 「あんな変態が本当に女の子とつきあえるのか・・・?」 彼の後ろ姿を見送りながらローリーは苦笑した。 「あんただって立派な変態でしょ・・・あー、疲れた!」 「お疲れさまです、姐さん」 3匹はとりあえず部室に戻り、約束通り部屋の中のSMグッズをすべて処分した。 途中やおいは自身が少し気に入っていた手錠を名残惜しそうに抱えていたが、それもボッチが黙って取り上げてゴミ袋に入れた。 時計の針が午後6時を周り、ほとんどの学生も下校した頃ようやく掃除は終了した。 「ふぅ、やっと終わったな」 今回出番の少なかったボッチとローリーの二匹は率先して片付けをしたのですっかり汗だくになっていた。 「じゃあそろそろ帰ろう」 ローリーは鞄を抱え、いざ帰ろうとした時やおいに呼び止められた 「ちょっと待ちなさい」 「なんだ、まだ何か残ってたか?」 「約束はきっちり果たしてもらうわよ」 「約束って・・・ボッチ、何の話だ」 全く事態を飲み込めないローリーは、ボッチに訪ねた。 ボッチは気まずそうに床をじっと見つめながら言った。 「すまん、ローリー・・・今回の依頼をやおいに引き受けてもらう為にはこうするしかなかったんだ」 「おい、一体何の・・・」 やおいは興奮を抑えきれないと言った様子で、鞄からデジタルカメラを取り出した。 「さあふたりとも!!そこの椅子に座って、今すぐ抱き合いなさい!!」 「こういうことだ、ローリー」 「・・・最悪だ」 「ほらボッチ!ローリーの膝の上に座って!そうそう、そのまま両手を肩を掛けて・・・ほら何してるの、ローリーはボッチの腰に手を回すのよ!!」 きゃあきゃあと黄色い声をあげる彼女にただ促されるまま、2匹は汗だくの身体のまま被写体となる他なかった。 やおいは鼻血を流しながら何度もシャッターを切った。 ---- &size(20){あとがき}; フェチ研については一話完結型のシリーズ構成を考えていますが、第一話にはやっぱりポピュラーなテーマを採用しようと思いました。 フェティシズムについてあれやこれやと3匹が動き回る事が基本となっていくと思います。 今回の話の為にSMグッズについて少し調べる必要がありましたが、あまりのグッズの多さに少し驚きました(汗 第一話にしては各キャラクターの性格について書ききれなかったのが少し心残りです。 それについては今後補完していけるといいな。 今後もっとマイナーな性癖を扱ったり、学園モノとして恋愛要素も絡めていきたいと思っております。 ここまで読んで頂きありがとうございました。 #pcomment(フェチ研1コメントログ,10,)