今回はなんと!!首が飛ぶよ、嫌な人はすぐに戻ろう♪ by[[春風]] [[Memory Lost existence]]に戻る ---- 「人間に逆らった奴がどうなるかぐらい、知っているよな?」 銃を突きつけられ、足に昨日の傷とは比べ物にならない重症を負い、今のこの状況をどうにかする方法は、俺には無かった。 (…これで、終わりだ…) 俺は諦めて、目を瞑り、銃の引き金が下されるのを静かに待った。 だが、発砲音よりも先に、今にも消え入りそうな息遣いが、聞えた。 &size(30){&color(Red){Lost existence 第十一章 災厄の白獣};}; 「……やめて……ルークは悪くない、…殺すならあたしだけ……」 ゆっくりと目を開けると、ミナモが右前足で鮮血が流れている肩を抑えながら、ゆっくりとよろめきながらノームの方に進んでいこうとしていた。 「…あたしが全部悪いの、……彼は何もしていない…、罪があるのはあたしだけ…」 かなり痛いのか、ミナモは顔を歪ませながら進む、そんな彼女にノームは銃口を突き付ける。 「ほぅ、そんなに死にたいのか、ではお前からあの世に行かせてやろう」 よく悪人が言いそうな台詞を言い放ち、ノームは微笑を浮かべ、瀕死のミナモに向かって容赦なく銃の引き金を引いた。 パンッと鈍い銃声が鳴り響き、叫ぶ間も無く、ミナモは血を吐いて、スローモーションのように地面に崩れ落ちた。 「……ミナモッ!!」 痛みを堪えて倒れたミナモに歩み寄ろうと体を起こした瞬間、俺の頬に銃弾がかすめ飛び、俺はその場に再び倒れる、銃弾がかすった頬には鮮血がにじみ出て、緑の草の上を瞬く間に紅く染め上げた。 「お前らがどんなに互いの命乞いをしても無意味だ、せいぜい死ぬ順番が入れ替わるだけだだな」 いつの間にか銃をこちらに向け直したノームが、文字通りの悪人面で、不気味な微笑を浮かべていた。 「…くそっ、この外道が!!」 「殺人鬼に付いていくお前の方が外道だろう、考えてみろ」 ノームは俺に近づくと、俺の顔面を力強く踏みつける。 「…せいぜい俺の出世の踏み台になれよ、大した成果にもならないが、少しは俺の評価も上がるものだ」 せせら笑いながら、ノームは靴にさらに力を込める、その彼の足元、つまり俺の顔面に、一陣の風が吹き、汚れた俺の体毛を揺らしだした、…そして。 今までゆっくり吹いていた風が、ビュゥゥッと音を立て、激しく轟いた、その不気味な出来事にさすがにノームも怖じ気ついたのか、慌てて俺の顔から足をどける。 「…なんだっ、この風は、…まさか!!」 ノームが悲鳴じみた声を上げる、その表情は強風が急に吹いたときの驚きの表情ではなく、完全な恐怖だった。 …そして、後ろの方に配備された兵士の首が、急に切り離され、風に煽られ遠くに転げ落ちた、その減少はただ一人に起きたわけではなく、初めに切り落とされた兵士のすぐ近くに立っていた兵士にも同じ現象が起き、連鎖するように隊列全体に広がって、終いにはその場にいた兵士の約半数の首が切り落とされ、首のない兵士の隊列が出来上がった。 「ひっ…、まさか、38号なのか…!?」 ノームは短い悲鳴を上げた後、一目散にジープに駆け寄り、扉も開けずに乗りこむと、勢いよく走り出した。 「……一体…何が…」 朦朧とした意識で周囲を見ると、すぐ隣に倒れているミナモの前に、一匹の獣が立っているのがぼんやりと見えた、その鎌のような黒い角は、鮮血で紅く染まり、朝日に照らされて不気味に光っていた。 「…おま……えは…?」 彼の姿をもう一度捉えようとしたら、急に体中に激痛が走り、俺は思わず目を瞑り、気を失いそうになる。 どうにか痛みを堪え、目をこじ開けると、少し血に染まった白い毛並みの美しい獣、アブソルの青年が、静かにミナモを見つめてながら、確かに傍に立っていた。 そして俺は痛みに負け、青年の姿を視界に捉える事が出来なくなり、そのまま気を失った…。 ---- ……俺が次に目を覚ましたのは、どこか場所も定かではない湖のほとりの、草の上だった。 「…助かった、のか…?」 立ち上がろうと体を動かすと、鈍い痛みが体を襲い、体を起こすことさえできなかった。 よく見ると、自分の右足には包帯が何重にも巻かれ、それ以外にも体のあちこちに包帯が巻かれていた、さらに地面には、なぜかメスなどの手術に使う器具などが置かれていた。 「気がついたか」 不意に横から声がして、声のした方を向くと、そこには気を失う前に見た、アブソルの姿があった、しかも、彼は何故か長い髪で、左目を隠していた。 「…お前は…?」 「俺か? 俺はただの旅の医者、セレナだ、お前たち二人が大怪我をしているのを見つけて、勝手ながら治療をしただけだ」 「……医者?」 嘘だ、あのとき彼の角には血が付着していた、多分こいつがあの数の人間を殺したのだ。 「君はそうでもなかったが、娘の方は傷がかなり深かった、一時は危険な状態にもなったが、今はもう峠を越えて、一命は取り留めている、ただ、完治するまでかなりかかると思うな」 セレナは俺の足の包帯を交換しながら、ミナモの容態について語りだした。 「…あいつは大丈夫なのか、それじゃあエルは、エルはどうなんだ?」 「……エル? それは誰のことか?」 「人間の、男の子だ。」 人間という単語を口にした瞬間、セレナの包帯を取り替える腕が止まった。 「さぁ、俺が来た時には、人間なんて誰もいなかったぞ。」 セレナは知らないそぶりをして、再び腕を動かす。 「……違う、お前は知っているだろう、お前はあの時、その鎌で沢山の人間の首を刎ねていた、俺はあのとき、はっきりと見ていたぞ!!」 再び、セレナの腕が止まる。 「…見ていたのか」 セレナは無表情のまま、俺の顔を見つめる。 「ああ、見ていた、あの時は助けてくれたのか?」 俺が質問すると、セレナは俺の足から手を離し、そのままゆっくりと前足で自分の、左側だけ長い前髪をまくしあげた。 「……!?」 前髪の下にあったセレナの左目を見たとき、俺は言葉を失った、彼の左目はいわゆる黒目に値するものがなく、無残につぶれたような真っ赤な目をしており、全く機能していないのがわかった。 「………お前は一体、何物なんだ…」 彼の左目の無残さに俺は少し怖じ気づき、少し怯えるような声で尋ねた。 「俺は…、そうだな、本当は…」 セレナは前髪を下ろすと、ちゃんと機能している右目を前足でこすり、大きく息を吐いて、感情の全くない言葉で答えた。 「…元実験動物、と言う所だな」 「実験動物!! それって、何だ……?」 「……知らないのか」 セレナはふぅとため息をつくと、自分の前髪を少し整える。 「実験動物というのは、新薬などの安全基準の確認のために、人間に使用される物のことだ」 「使用…って?」 「簡単に言うと、人間が薬を作る、しかしその薬が本当に安全なのか、それとも違うのか分からない場合が多い、そんなときポケモンで試すのさ、本当に安全かを確かめるために、……それが、実験動物というものだな」 「…じゃあ、その目は…」 「ああ、人間にいくつも変な薬を入れられて、つぶれてしまったんだ」 そう言うと彼は立ち上がり、再び包帯を取り換える作業に取り掛かった。 「それにしても、あの娘は殺人犯なんだろ、何故人間と一所にいたんだ?」 包帯を取りかえながら、唐突にセレナはミナモの起こした犯罪と、行方不明のエルについて尋ねてきた。 「…何故あいつが殺人鬼って……」 「有名な話だ、特に人間の間ではな」 確かにあり得る話だ、先ほど人間たちに囲まれていた時に68人殺害と聞いた、それほどの人間を殺しているとなると、名が知れても不思議ではない。 「…あの人間は、エルは人間だったけれど、ポケモンに育てられていて、ミナモは敵じゃないって判断していたんだ、あいつはもともと根っからの殺し屋ってわけでもなかったし、人間に家族を殺されたショックで、ああなったみたいなんだ」 「ふぅん、人間にね」 包帯を完全に取り換え終わったのか、セレナは俺の足から前足を放し、もともと巻いてあった血のついた包帯の後始末に取りかかっている。 「あいつも可哀想な奴なんだ、神官の末裔とかなんかだったみたいで、そのせいで家族を失って、悔しくて復讐したら一方的に悪人にされちまって、しかも変なポケモンの集団にも襲われるし、俺が初めてあいつに会った時にはちょっと…おかしなこととか言っていたし……」 俺は独り言のように呟き続けた、よく考えたらセレナも医者と名乗っていたが、何の躊躇もなく人間の首を切り落とす所を見ると、彼も殺人犯というわけだろう、おそらく彼ならミナモの気持ちが俺以上に分かるだろう、案の定、セレナの表情が曇った。 しかし、セレナが反応したところは、彼女に対する感情面ではなかった。 「……神官…だと?」 今までほとんど無表情を貫いてきたセレナが見せた、初めての感情的な表情だった、それは怒っているようにも見えたが、少し寂しいそうな感じもある、複雑なものだった。 「あの娘は…本当に神官なのか?」 険しい表情で再度尋ねられ、俺は思わず身震いをする。 「…ああ、そうだ、だけどあいつは…」 「そして、そのポケモンの集団というのは血染めの楽団という者たちだな?」 「……っえぇ!?」 正答を突かれて、俺は再び身震いをする、俺の中で、一瞬セレナが危険な人物のようにも思えた。 「確かに…そうだが…。」 「…そうか、そうなのか」 俺の返事を聞くなり、セレナはゆっくりとうなずき、自分の前髪を暑そうにかきあげた、彼の隠していた真っ赤な左目が毛の間に垣間見える、その目の色が、俺には少し濁った血の色に見えた。 「最近はおとなしくしてると思ったが、あいつらはまだ無駄なことをしているみたいだな……」 「…そいつらのこと、知っているのか?」 「ああ、そこのボスと、少しばかり腐れ縁があるんだ」 セレナは青空を見上げ、ふっと微かに笑った、だがその表情は行動とは対照的に、曇っていた。 「……教えてくれっ、あいつらについて少しでもいいから、知りたいんだ!!」 何故か俺の目から涙がこぼれ、地面に落ちた、俺はただ楽団の情報を今後のためにも知っておきたかっただけで、何も悲しくなるようなことは行っていないはずだったし、目にゴミなども入っていなかったが、本当に自然に、涙がこぼれたのだ。 「ふぅん、お前はあの娘を心から守りたいのだな」 俺の話を無表情で聞いていたセレナは、今度こそ本当にほほ笑むと、使用済みの包帯を丸め、右前脚で勢いよく湖に放り投げた、包帯は水の上に落ちると、解けて波紋状に水面に広がった。 「…えっ、これは、自然に……」 涙のことを言われたと思って、俺は必死に弁解した。 「いや、物事に自然なんてものはない、お前は心のどこかで、娘を助けたいと思っているのだろう」 波紋状に広がる包帯を見つめながら、セレナは大きく息を吐いて、答えた。 「教えてやろう、血染めの楽団というのは、旧王朝の思想に取りつかれた者たちの集まりだ」 ---- 「……思想? それって…」 「先ほどの口ぶりだと、お前も何人か奴らに出会ったはずだろう、彼らの思想について少しはわかるはずだ」 確かに、彼らの内二名には会った、一人はそんなに危険そうではなかったが、もう一人は地盤沈下を広範囲で起こすなど、異常な行動を起こしている、その危険そうな方の奴は、確かに王制の復活だの何だの言っていた。 「まずは、集団の結成から話そう、昔…大体今から五年前だな、俺は実験材料として、とある研究施設にいた、その時にあいつらのボスも、そこにいたんだ」 「…えっ、本当か!!」 予想しない言動に少し驚いたが、セレナの表情などからして嘘は言っていないようだ、ひとまず俺は彼を信用し、次の質問に映った。 「それでそのボスって、なんて言う奴なんだ?」 「さあな、俺たちは実験の為に量産された固体で、しかもそのころは番号で呼ばれていて、名前なんて無かったからな」 セレナの話の中で、量産という言葉が少し引っかかった、響きが何だか人間の利益のために生まれてきているようで、代わりならいくらでもいるような、虚しい感じがしたからだ。 「そいつは、初めは人間のいいなりになっていただけの、実験体としては普通の少女だった」 「……少女ぉ!?」 ボスと聞いて、よくいそうなモジャモジャのおっさんを想像していた俺は、女性と聞いて思わず驚きの声を上げた。 「だけど、ある日を境に彼女は、どこで知ったのか旧王朝の思想を口にすることが多くなった、……それから一か月も経たない日に、あいつは自分の考えに賛同した実験動物三人と、そこで働いてた職員の手持ちだった奴と手を組んで、研究所を、爆破した」 「……爆破?…あっ!!」 爆破と聞いて、俺はどこかで聞いた覚えのある、一つの事件を思い出した。 「三年前なら、もしかして北東部の研究施設同時多発テロのことか? 反政府思想の集団がやったって聞いたけれど…」 「五年前なら、もしかして北東部の研究施設同時多発テロのことか? 反政府思想の集団がやったって聞いたけれど…」 「……」 セレナは黙り込むと、ふぅっとため息をついた。 「そうだ、報道された内容とはだいぶ違うが、これが奴らのやった最初の犯行だ、そしてその後、彼女ら五人は証拠隠滅のためか、俺以外の生き残った者全てを殺した、それも人間、ポケモンの区別もなく、本当に全員だ」 聞くだけで、俺の脳裏にその惨状が浮かんだ、想像とは思えない無残な光景に、自分で考えといて身震いしてしまう。 「逃げるためにした犯行でおとなしくしてくれればよかった、しかしあいつらはその後もテロ活動を続けた、そして何人かはわからないが新たなメンバーも増え、彼らは自分たちのことを、王朝崩壊時に軍隊以外で、初めて人間と戦った集団が楽隊だったという言い伝えにあやかって、血染めの楽団と呼ぶようになった、彼らのことを人間の政府は確認してはいるが、混乱を抑えるために奴らがした数例の強盗事件を山車に、強盗団として全国指名手配をしている、でもテロリストに変わりはないからか、元からのメンバーは伏せられていて、公表されていない」 「…でも、そんな危険な集団が、何であいつを襲うんだよ!!」 俺は一番聞きたかった本音を、半ば叫ぶようにセレナに尋ねる。 「……お前も必死だな」 呟くようにセレナが言う、一件同情しているように聞えるが、その言葉に重みなどは感じられなかった。 「違う、必死なのは俺じゃない、誰よりも必死なのはミナモだ!!」 叫んだとたん、また涙がこぼれた。 「…そうか」 セレナは顔を上げ、少しだけほほ笑んだ。 「そうだな、多分あいつらは神官の末裔を使って、アルセウスの力を引き出そうとしている」 「…アルセウス!! 大神のことじゃないか、そんなこと……」 「無論、出来るわけがない、アルセウスなど存在しないからだ、ただ奴らは王すなわち神官の家系がアルセウスに繋がっていて、神の力を使用することが出来るという伝説を信用して、自分たちの上に立つ者として利用しようとしているだけだ、全く、妄想ともとれる狂言だよ、ただ…」 そこまで言うと、セレナは一瞬口をつぐんだ。 「ただ…王という存在が出来ると、それによる効果は大きい、王朝の名をかたった指導者が現れて、人間社会の転覆などを語れば、それに賛同するものも少なからず出てくる、そのまま彼らが大規模なテロ活動を行ったら、転覆までとはいかないが人間社会にとって多大な被害を及ぼすだろう、そしてその情報をどこで掴んだのか知らないが、人間たちはおそらく知っている、だから人間は罪もない神官の末裔達を狩っているんだ、も神官のうちの誰かが楽団につかないように、不安の種を断っておくためにな、…幸いあの娘は殺人鬼の肩書が大きすぎるせいか、人間たちに神官だとはバレてはいないようだが、命を脅かされるのは同じだ」 「………」 話を聞いて、俺は前よりも納得がいかなくなった、昔伝えられていた神話を今さら信じ込むカルト教団のような奴らに襲われて、しかも人間の政府にも命を狙われて、大きな脅威に板挟みになっている、ただ彼女の家系が、少し特殊だっただけで…。 「人間はともかく、楽団に捕まって王国作りに利用されても、いずれは人間に滅ぼされるだろう、どちらに転んでも、彼女のいきつく先は、破滅だ」 破滅、その二文字が俺の頭のなかに浮かんだ瞬間、何故だか全身の力が抜けたような気がした。 「それともう一つ、お前の傷は浅い、数日もすれば歩けるようになるぐらい回復できるだろう、ただ…」 「ただ…って、何だよ?」 俺は不安になり、セレナに聞き返す。 「…ただ、娘の方は重症だ、歩けるようになれるかも定かではない、仮に回復したとしても、激しい運動など体に負担をかけるようなことは出来なくなるだろう」 「……え…?」 もしかしたら、ミナモは歩けなくなる? そんなことになったらあいつは…。 「歩けなくなったところでさらに危険なるのは、人間の方だな、彼らの目を欺きながら生きることはただでさえ難しい、それでいて歩行が困難となると、彼らに捕まって殺されるのは目に見える」 …殺される、確かに人間は見てきた限り、神官や犯罪者に容赦はしない、その両方を持っているミナモが生き残る術は、ほとんど無い、あるとすればただ一つ……。 逃げなければ、彼女を連れて、エデンに、本当にあるかどうかは疑わしい場所、いや絶対ないと言い切れる場所に。 「…なぁセレナ、エデンって、知っているか?」 俺は思い切って、セレナに尋ねてみた。 「知っているも何も、有名だろ? そんなおとぎ話、…まさかそれが本当にあるか、聞きたかったわけではないよな?」 「……!!」 あまりにも的辺りな予想をされ、俺は文字通りぎくりとした反応をしてしまう。 「…そのまさかだよ、あいつが前々から行きたがっていた所なんだ、…でもあいつ自身も信じていなかったみたいで、生きるための目標として定めていただけらしいんだ、だけど…」 いつの間にか、俺の目の前のセレナの姿がぼやけて、見えなくなった。 これは、涙、涙が自然に流れ出るのは今日だけでも二回あったが、これは違う、俺は悲しくて泣いているんだ。 今まで俺は泣いたことなんてそれほど無かった、人間のもとで暮らしていく上で、泣くなど弱みを見せると主人に殴られる為、泣いたのは仲のよかった仲間が死んだ時などの、数回ほどだった。 それなのに、今は自然に泣ける、多分俺はセレナの言っていた通りに、心からミナモを守りたいんだろう。 「…涙を拭け、腕は普通に動かせるだろう」 セレナは眉ひとつ動かさず、冷たい口調で言い放つ。 「お前の言いたいことは大方わかる、彼女を助けたいんだろう? 確かに今の娘には楽園以外生きていける場所はない…、そうだな…」 そう言うとセレナは、少し口をつぐんだ。 「楽園とは違うが、ここから西方にだいぶ進んだ所にある森に、一つの集落がある、そこに住む者は人間との接触はおろか、他の集落との交流もない、いわば閉ざされた場所だ、そこに行けば少なくとも人間から逃れられるだろう、今のところは人間も彼らの存在を正確に把握できていない、それに彼らの大半は娘と同じ種族だ、仲間としてすぐ迎えてくれるさ」 「……そんなところが、本当にあるのか?」 俺は何だかだいぶ気分が晴れたような気がした、今までは先が見えなかったが、これで確定的な目標が出来た。 楽園ではないにしろ、そこに行けばミナモをかくまえるかもしれない、ミナモに連れて行かれてから、いや、人生で一番大きい希望ができた 「…しかし、逆に考えてみるとあの娘が、あのような身体になって、良かったかもしれないな」 いきなりセレナが、おかしなことを言い出す。 「なっ、そんなこと何で言うんだよ!!」 「簡単なことだ、あいつがもう、誰も殺せなくなったってことだ、命は何よりも大事だからな、人間にとってもな。」 上体を起こし、くってかかる俺をセレナは軽くあしらう。 「…なんだよ、あんなに人間を殺しておきながら、そんなこと言っちゃって」 俺は少しむっときて、彼がしたことを指摘した、するとセレナは 「……そうか、お前にも影響があったんだな」 「…へ?」 言葉の意味が理解できず、俺はセレナの顔を見る、セレナはあいかわらず無表情だったが、始めてあった時よりも、少し顔色が良くなっているような気がした。 「言っておくが俺は医者だ、薬で人を救えても、人を殺すことはできない、今回も、薬で人助けをした、それだけだ」 「……はぁ?」 説明になっていない気がしたが、俺は何故かそれから、何も言い返せなかった。 十一章終わり、[[Memory Lost existence 楽園とは違うけれど]]に続く ---- セレナが「実験動物」と言う場面、不自然ですかなぁ、実験ポケモンだとちょっとあれだし…。 ちなみに、エル君が使いにくくなってきたからおさらばさせたわけじゃないですよ、ちゃんと考えてあります。 何だか説明臭くなったなぁ。 それでは、感想とか意見とか誤字報告とかクレームとかスパムとかはこちらに、あ、スパムはしないでください(笑) #pcomment(災厄の白獣 コメント,10,);