前話は[[こちら>FREEBIRD 03]] 作品置き場は[[こちら>TAOの作品置き場]] ---- ゆっくりと目を開いていく……窓から差し込む朝日なんて何時振りだろうなぁ……。 ベッドで寝たのも本当に久々だよ。いつもはドラグニールの操縦席が寝床だからね。野宿よりは全然良いけどさ。 「ん、ふぁぁぁぁぁ……ふぅ」 思いっきり伸びをしてすっきりしたところで気付いた。隣のベッドで寝てた筈のディルが居ない。何処に……あ、居た。俺のベッドとディルのベッドの間、器用な格好して寝てるよ……。 ディルの寝相は壊滅的に悪いよ。ドラグニールでは、離れてる筈の俺の席まで転がってきて俺の足元で寝てた事もあるくらいにね。 今俺達が居るのは親父さんの家の二階。この部屋は昨日、食事が終わった後に親父さんに案内されたんだ。本当に美味しかった、昨日の晩御飯は。 此処に居る間は好きに使っていいって言われたから、何日間になるかは分からないけどお世話になる事になるね。 今日から色々と動かないとならないな……まずは情報収集かな。相手はこの町を牛耳る集団、しかも町のトップを相手にする可能性もあるんだからしっかりと調べないとね。 「よっと。天気良いなぁ……」 窓から見える景色は平和そのもの。自警団も見えないし……夜は見張りとかそういう事はしてないのかな? 確実にそうだとは言えないけど……。 自警団の代わりに町の人が外に居る……黒コート着てないってだけで決め付けるのはどうかなーとは思うけど。 笑ってる……この時間はやっぱり平和なのかな? 来た時の様子とは全然違うや。この風景が、この町の本当の姿……なんだよね。じゃなきゃ寂し過ぎるよ。通りに誰も居ない町なんて。 「自由を失った町……か」 ……ちょっと頑張ろうかな。誰かの自由を奪うなんて、俺は……許せない。 「ん~……んん? ここ何処?」 「あ、起きたディル? おはよう」 「んぁ~、おはよぉ兄貴~。まだ眠い~、お休み~……」 「って、こらこら。もう起きなってディル。今日から忙しくなるよ」 「んん~……」 ダーメだこりゃ。じきに目が覚めてくるだろうし、ほっとこうか。……立ったまま寝れるなんて、ディルも器用だねぇ。 さて、このままこの部屋に居てもする事は無いし、出ようか。荷物は……レク入りの袋だけだし、置いといていいか。 廊下へ続く扉を開けると、良い香りが辺りに満ちてた。朝食の香りだ。もう匂いだけで美味しそうなのが分かるよ。ありがたいなぁ~。 基本的にいつもは保存が効く乾し肉とかだけだから普通の食事のありがたさが身に沁みるんだよね。 おやっ、後ろからトコトコ足音が聞こえる。そういえば俺達の隣の部屋にも泊まっているポケモンが居たっけ。 「ロディー! おはよー!」 ……俺は今、選択を迫られてます。 後ろを向いた瞬間に驚愕したよ。淡い黄色の毛並みをしたポケモンがこっち目掛けて飛び込んできてるんだから。結構脚力あるのねアリム、このままじゃ俺はアリムに圧し掛かられる事になりそうだよ。 選択肢はいたってシンプル。この飛び込んできてるアリムを避けるか、それともこのまま受け止めるか。 受け止めれば……多分、勢いを殺し切れずに俺はアリムに押し倒された状態になる。避ければ……勢いをつけてる以上、アリムが体を床に打ち付けるのは明白。どうしたものかな……。 出来れば避けたい。俺、あまり牝にベタベタされるの嫌なんだよね……嫌いな訳では無いと思うんだけど、身がすくんじゃうんだよ。でも、避けた後も怖いな……「どうして避けたの!?」って詰め寄られる自分の姿がバッチリ脳内で再生されるんだもん。 どうせなら被害の少なそうな受け止めるをチョイスしよう……。因みに、これを考えてるのは約三秒ほどの間です……。衝撃に備えるんだ、俺! 「どっはぁ!」 アリムのダイナミック抱きつきは俺にヒット! 俺は25のダメージを受けた! そのままやっぱり倒れこむ事になったよ。無理、不意打ちだったし、足に踏ん張りが効きませんでした。 そして仰向けに倒された俺の上にはニコニコしてるアリムが居る。首だけ動かして見てみたら尻尾まで振ってる。なんでそんなに朝から上機嫌なんでしょうね? 「……おはようアリム、いきなり重いんだけど」 「ひどーい、牝の子にはそれ禁句だよ?」 「朝一でダイブを決められたら誰でもそう言いたくなるって……とりあえず降りてよ」 「嬉しくないの? 自分で言うのもなんだけど、こんなに可愛い子に抱きつかれてるんだよ? これでも結構牡にはモテるんだよ」 「まぁ、綺麗なのは認めるよ。キュウコンって元々人気のあるポケモンだし。でも俺は今苦しいから降りて欲しいの。分かる?」 「答えになってな~い~。あたしは嬉しいか嬉しくないか聞いてるの! ほらぁ、早く言って」 なんでまた自分から体を押し付けてくるのかねこの子は? こんな牝の子には初めて会ったよ……。 それはね? 俺だって牡だから多少は嬉しいとは思ってますよ? でもねぇ……正直昨日偶然出会った牝の子にいきなり次の日の朝からこんなアタックされても戸惑うだけだって。 「嬉し……くない事は無いでもないけど……」 「はっきり言ってよー。ちょ、ちょっと恥ずかしくなってきたんだから……」 「だったらやらなきゃ良いでしょ! もう、嬉しいよ! アリム可愛いし! これでいい!?」 恥ずかしい! なんで朝から赤面させられてるの俺は!? 恥ずかしい事も言わされるし! 言われたアリムはきょとんとしたと思ったら顔真っ赤にして俯いてそのままだし! こんなところ親父さんに見られたらどう思われる……か……。 「あー……うん。若いって……いいよなぁ……遇って一日でそんな関係になれるんだから……朝飯出来てるから、程々にして降りて来いよ~」 「ちょっ! お、親父さん!? 誤解だよ!? 待って! ニヤニヤしながら去っていかないで! ちょっと~!」 親父さん居たー! 完全に見られてたし聞かれてたよね!? 誤解だよ! 本当に誤解なんだよぉー! だからそのまま階段下りていかないでー! 「……………………………………あ、ありがと」 「えっ、何!? そそ、それより早く行って親父さんの誤解を解かないと! 絶対におかしな想像してたってあれ! アリムだって勘違いされたままは嫌でしょ!?」 「へ? グラヴィスさん居たの? あ、あたしは別に構わないけどな~」 とか言って降りてくれないんですか!? 俺は嫌です! 顔合わせるたびにニヤニヤされそうだもん! 「にゅう~……あれ? 兄貴とアリム姉ちゃんが抱き合ってる。仲良いね~」 「ちちち違う! 違うからディル!」 なんてタイミングで起きるの!? そりゃ起き上がろうとしてアリムの体に手は添えてたけどさ! 抱き合ってはいない! 断じて違う! 「じゃあおいら先に行ってるね~」 「待ってって! 誤解したまま行かないで!」 「ロ、ロディ苦しいよ……そんなに強く抱かないで……」 だから違うんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ---- 第四話途中までです。まだ先がありますが、とりあえず出来てる分だけの投下です。 うん、このスープ美味しい。ブレイクした俺のメンタルにも温かさが伝わってくるよ。 もう……色んな意味で挫けた。親父さんはニヤニヤしてるし、アリムは食べながらこっちちらちら見てくるし……唯一の救いはディルがいつも通りな事だけだよ。 あの後? 何かあるとでも? そのままアリムを降ろして普通に此処に座りましたよ? 誤解が誤解を呼んで捻じ曲がってゴッチャゴチャにはなったけどね。 もうね、色々自爆したね。寝起きでまだ頭の回転率が低かったとはいえ、あれは無かった。大変な事口走っちゃってるし、意識してないとはいえ牝の子抱きしめちゃってるし、それを誰かに見られるなんて……失態だ……大失態だ。 「どしたの兄貴? 難しい顔して」 「ん? あぁ、今日のやる事を考えてたんだよ。はははっ……はぁ……」 「本当か~? さっきまで嬢ちゃんと良い雰囲気になってたんだ。やっらしい事でも考えてたんじゃないのか~?」 「何処に難しい顔してやらしい事考えてる奴なんて居るのさ。見てみたいものだね。それにさっきのは事故であって、俺とアリムの間には仲間って言う事実以外あ・り・ま・せ・ん」 「……あたしの事抱きしめた癖に……」 「あ、あれは事故だったら! さっき散々謝ったじゃない!」 「牡にあんなにギュって抱きしめられたの初めてなんだからね……」 「ほぉ、そりゃあお前、責任とらないとな! ロディンス!」 「なんでそうなるの! うぅ~……」 目の前にあったスープに八つ当たり。粗末にする訳じゃないよ。一気に飲むだけ。 こうなったら話をそっちから真面目なのにすり替えよう! それしかない! 「ぷぁっ! ……よし! 今日のやる事を話し合おう! 俺、ちょっと考えてあるんだ!」 「お、はぐらかした」 「お黙る親父さん! 親父さんにもやってもらう事があるんだからしっかり聞いててね!」 よし、勢いで誤魔化した。さてさて、考えてるのはもちろん本当だよ。その場を凌ぐだけの為に言った訳じゃないさ。 まず俺達に絶対的に欠けているのは味方。たった四匹、ましてや親父さんは戦闘に参加するのは恐らく無理だから……現状三匹であの数を相手には出来ない。こっち側で戦ってくれる協力者が必要になってくる。 そしてさっきも言ったとおり情報。何故オルディリオは自警団を組織したのか、そしてフリーバードを無理矢理にでも自警団に入れようとする理由。自警団を何とかするだけなら調べるのはその辺りかな。 ただ……親父さんの話しにあった前領主の失踪にも疑問が多い。上手くすれば、領主の方を何とかする方が早いかもしれないね……。 よし、皆の食事の手が止まった事だし、説明を始めようか。 「まず、俺達に最も必要なのは協力者。出来れば一緒に戦ってくれるポケモンが良いけど、この際は後方支援だけでも良いからやってくれる仲間が必要になってくるよ」 「相手の数を考えれば当然だな」 「うん。で、これは親父さんに任せたいんだ。昨日親父さんが言ったとおり、この町の住民に協力を仰ぐなら……同じ町の住民の方が話もスムーズでしょ」 「おぅ! それは任せろ!」 「ありがとう。でも、あまり目立って行動はしないでね。自警団の奴に感付かれたら親父さんが捕まる可能性が出てくるから」 「……分かった。そうだな……よし、仕事が入ってきたらついでに話をしていくようにするか……」 「うん、それでいいと思う。あ、ついでにさ、前の領主が失踪前にどんな様子だったかとか、今の領主について何か知ってる事があるかも聞いてくれないかな。親父さんの知らない事とか知ってるポケモンが居るかもしれないし」 「え? それって自警団の事と関係無いんじゃないの? 兄貴」 「今の領主の方を引きづり降ろしても自警団は無力化出来るから……ってとこかしらね」 「アリム正解。そもそも領主になった経緯も素性にも謎が多過ぎるからね。もしかしたら……」 「もしかしたら?」 「いや、憶測じゃどうにもならないからね。親父さん、頼めるかな?」 「よし、任せろ。お前さんなかなか頭が働くじゃねぇかロディンス」 「どうも。あ、俺のことはロディでいいよ。その方が呼びやすいでしょ」 分かったと頷いてくれたのでこの話はこれでよし。……出来れば、俺の予想が確定されるような情報が聞こえてこない事を祈るよ。 「じゃあさじゃあさ兄貴。おいらはどうする? 何でもするよ!」 「ディルには親父さんと一緒に行動してもらうよ。遺産の事ならちょっとは手伝えるよね?」 「え!? 兄貴と一緒じゃないの!?」 「親父さんの護衛も兼ねてるんだよ。もし戦闘になったりしたら、親父さんだけじゃ切り抜けられないでしょ? 大事な役だよ、ディル……頼めるね?」 「……は~い」 ……本音はね、ディルにはあまり深入りしてほしくないんだ。まだ子供なんだし、知らなくていい事も沢山ある。世の中の悪い部分じゃなくて、綺麗な部分を見せてあげたいんだよ。町の為に戦うのを決意した住民なんかをね。 汚れた部分を見るのは……俺だけでいいさ。 「じゃああたしは?」 「アリムも親父さんのカバーをお願いしたい。そうすれば、一匹が親父さんを守りながら戦って、もう一匹が相手を制圧するって戦い方が出来るでしょ?」 「それじゃ、兄貴は一匹で動くって事? 何するの?」 「別のアプローチで情報収集ってところかな。親父さんにだけ負担は掛けられないし、知っておきたい事もあるからね」 より危険度の高い所に、差別する訳じゃないけど牝の子であるアリムを連れて行く事は出来ないし、一匹の方が色々し易いからね。……合法的じゃない無茶な事でも。 こんな事、絶対に他のポケモンを巻き込む訳にはいかないよ。自警団の奴に一匹一匹奇襲掛けて情報を聞き出す、なんてね。あぁ、なんでもかんでも襲う訳じゃないよ? 知ってそうなのを選んで……ね。 「……あたし、ロディの方に行くわ。ディル君も昨日見た感じだと強いみたいだし、グラヴィスさんの事は任せていいでしょ」 「へっ!? いや、アリ」「決めたから! はい決定!」 「……まぁ、諦めろ。この嬢ちゃんは一度言い出したら聞かんタイプだし」 「で、でもこっちは動き回るからかなり危険……」 「ならなおさら一匹に出来ないじゃない。だ~い丈夫! 自分の身は守れるくらいの戦いは出来るからさ!」 「いいじゃん兄貴。アリム姉ちゃんが行くって言ってるんだから連れてってあげなよ」 「う~……」 参ったな……これじゃあまり無茶な事は出来そうにないぞ……。 「よーし、役割分担は終わり! 朝ご飯食べちゃって行動を開始しましょ!」 「お~!」 「そうだな! ……嬢ちゃんにも何か思うところがあるんだろ。お前さんが、守ってやんな」 「……努力はしますよ」 「ほらロディ! 元気無いわよ~? あたしが一緒なんだからもっと喜ぶ!」 「はいはい……」 こうなったら仕方ない……出来る限りで調べられる事を調べよう。アリムの事もちゃんと守りながらね。……すっごい気苦労が増えたような気がしてならないんだけど。 ---- ふぅ……さて、どうしようかな? 予定ではそこらの自警団の奴らを締め上げて情報を集めようと思ってたんだけど……。 「……あんたさ、まーた無茶な事考えてない?」 「!? い、いや!? 無茶な事なんて考えてないよ!? どうやって情報集めようかなって考えてただけで……」 「嘘。朝に一匹で動くって言った時と同じ顔してる。良くないって分かってるけどやらなきゃならないって言うか……とにかく、良い顔してない」 まさかそんなの読まれてたとは……そりゃあ俺だってしたくはないとは思ってたさ、実力行使なんて。でも情報があまりにも少ないし……。 「ロディ、頭良いんだからもっと考えなさいよ。どーせ自警団の奴らから情報を集めようって思ってるんでしょ?」 「……なーんで分かっちゃうかなぁ? そうだよ、自警団の内情とかはそこから聞き出した方が確実な情報が手に入るしね」 「ふっふーん♪ あたし、隠し事とかされるの嫌いだからそういうのは見抜いちゃうわよー♪ 自警団の内情ねぇ……」 「あいつらは元々フリーバードの寄せ集めでしょ? だから、一枚岩ではないと思うんだ。仮に一枚岩だとしたら纏め上げた要因が必ずある筈、それを突き止めて無くしてやれば……」 「自警団は弱る……もしくは、勝手に内輪もめを起こしだすって事ね!」 「当たり。でもそれをどうやって聞き出そうか……」 「それなら結構簡単かもよ? あたしについて来て」 そう言ってアリムが町の中を進みだした……何か考えがあるのかな? とにかく、ついて行ってみようか。 家々の間、路地裏をアリムはずんずんと進んでいく。へぇ~、路地裏と言えばあまり清潔感が無いイメージだったけどこの町のはそうでもないな。通りほどとは言わないけど目も当てられないほど汚れてる訳じゃない。 曲がり角がある度にアリムは止まって周囲の様子を伺ってる。自警団を警戒してるのか? でもちょっと違う感じ……。 あ、また止まった。と思ったら今度は手招きされた。なんだろ? 「どうし……」 「しっ、あれあれ」 アリムが指す先には……黒コート! 自警団か! 何か話してるみたいだな。 「しっかし、この巡回なんて必要なのかね? この町の奴はびびってなんにもする訳ないのに」 「でも、これだけ余所者の俺達が幅効かせてるんだ。よく思ってない奴なんてごまんと居るだろうな」 「だよなー。この前なんかめっちゃくちゃ睨んでくる奴が居たから脅し掛けてやったしなぁ……」 「へぇ~そんな事が……」 なるほど、町のポケモンにも反発してるポケモンがやっぱり居るんだな。良い事聞いたかも。 そうか! これを続ければ……。 「こうやってサボって話してる時って、結構本音とか出してると思わない?」 「うん、良いかもしれない。現に今、なかなか良い事聞けたし」 「でしょ? 協力してくれるポケモン、結構居るかもね」 「うん。よし、他も当たってみよう!」 「当然!」 これなら締め上げるよりリスクは遥かに低いし、何より良い情報が聞けそうだね。俺もなんでこういうの先に思いつかないかなぁ……。 さてさて、やる事が決まったら実行するのみ。場所はこのまま路地裏が良さそうだな、サボるにはもってこいだし。それじゃ、行ってみようか。 「で、やってみたんだけど……」 「なっかなか良いこと言うのが居ないわねー」 そうだなぁ……時間にして3時間くらいかな?なんともそうそう上手くはいかないもんだよ。 決定的に少ないのは遭遇率。そりゃあサボってるんだから一箇所にそんなに長くは居ないよね。 で、たまに遭遇しても話すのは愚痴ばっかり。まぁ、その愚痴からでも拾える情報はあったけどね。 例えば、自警団をの中でも現領主と繋がってるのはあのガンズだけとか、領主が他のポケモンを入れようとしない部屋が領主館にはある、とかかな。 領主しか入らない部屋……気になるね。そこに何があるのか……。 そういえば、もう一つ気になるのが『閉じ込められてるイーブイ』。この単語が話の中に含まれてる事があるんだよね。 俺あのイーブイに飯運んだーとか、なんであれ閉じ込められてるんだろうなーっとかって言ってるんだよ。気になるよね? まぁ、大体使えそうなのはそんな辺り。団員同士は割と仲が悪い事は無さそうだし……愚痴はあっても辞めないような要因がやっぱりあるんだろうね……。 ……ん? 「どうしたのロディ? 急に険しい顔して」 「何か……こっちに来る。探してる?」 「へ? なんで分かるのよ?」 「この無駄に大きい耳も、こういう時は役に立つのさ」 俺の耳が捉えた声……「何処へ行った!?」「探せ! 見つけないと領主が……」こんな感じ。これはどう考えても何か、もしくは誰かを探してるでしょ。恐らく後者だろうけどね。 領主って単語を聞く辺り、自警団に入ってた奴でも逃げた? いや、それなら領主の事には触れないか……だとしたら一体何が? 「何があったか知らないけど面白そうじゃない?」 「ちょ、アリムそっちは!」 「向いてるほうからしてこっちが騒がしいんでしょ? だったら行ってみて……きゃっ!?」 声のするほうに行こうとするアリムを止めようとしたら勝手に止まった……いや、曲がり角から何か飛び出してきてぶつかったのか。 「アリム大丈夫!?」 「いたた……ちょっと! 危ないじゃない!」 「ご、ごめ、んなさ、い! 急、いでた、んで……」 この茶色い毛の小さいポケモンは……イーブイ? ……毛がぼさぼさになっちゃってる。急いでるって言ってたけど、よっぽどなんだろうね。息も絶え絶えで謝ってる。 あれ、毛に隠れて見えにくくなってるけど……この子、怪我してる。擦り傷みたいだけど。 「ちょっと擦りむいてるみたいだけど大丈夫? 何処かに行くんなら連れて行ってあげようか?」 「あ、あの、そうじゃないんです! 本当に急がないと!」 「……もしかして君……自警団に追われてる?」 聞いた瞬間に耳と尻尾がピーンと立って、泣きそうな顔になっちゃった。これは……。 「ビンゴ、みたいね」 「お願い……見逃して……」 「あぁ、怖がらなくていいよ。俺達に君を捕まえる気もあいつ等に引き渡す気も無いからさ」 「え?」 「……話を聞きたいけど、奴等をまくのが先かな。どうしようか……」 「ここ、隠れる場所無いわよ?」 「あ、あの……」 「ぶつかられてちょっとムッとしちゃったけど、だ~い丈夫。逃がしてあげる。主にこっちのミミロップが」 「俺任せなの?」 「当然! 頑張れ牡の子!」 やれやれ……ま、任された以上どうにかしますか。 地形的に逃げ場は無し……アリム+このイーブイの子か……いけるかな? 「じゃあ、頑張るしかないね。アリム、背中に乗って」 「え? あたし?」 「まずはだよ。君は悪いけど、抱っこさせてもらうね」 「あ、わわ」 よし、アリムは背に乗ったし、この子も抱えた。後は自分の脚力を信じるだけ……。 「アリム、かなり揺れるけどしっかり掴まっててよ!」 「どうする気? って、なんとなーくはやろうとしてる事は分かるけど、この状態でいけるの?」 「さぁね。でも、やるしかないでしょ?」 「どう……するんですか?」 「横に逃げれないなら縦にってね。穴を掘るなんて使えないから……」 グッと両脚に力を溜めて~……。 「こうするんだ!」 飛び上がる! ……それでもやっぱり屋根まではいけない。 だから次は側面の壁を蹴る! よし、いける! このまま屋根の上へ! 「おぉ! ロディ凄い凄い!」 「だ……りゃあああああ!」 うおぉぉぉぉ! ……くぁー! やっぱりきつい! 他のポケモン抱えて背負ってでなんてやった事無かったからな。 秘技、壁蹴りジャンプ! 地形としては幅も丁度良かったし、なんとかなった。あ~脚がきつい。 これも遺跡探索の賜物ってね。ミミロップの身体能力をこれでもか、っていう位発揮するジャンプだけど高い所に行くのには重宝するんだよね~。 暗い路地裏から一気に青空の下に出たから少し眩しいな。 「本当に屋根の上まで跳んじゃった……」 「まぁね。一先ずはまけたんじゃないかな」 「どうやらそうみたいよ。ほら、下見てよ」 ちょっと騒いじゃったから自警団の奴らが集まってるね。でも何にも無いからキョロキョロしてる。これは間抜けっぽいや。 あの分だと上に居るのは気付かないでしょ。同じ状況になったら、俺だって気付かないと思うし。 「これで一安心ね」 「安……心?」 「そう。奴らは君を見失った……って、あれ?」 腕の中でぐったりしちゃった……。息とかは……うん、大丈夫みたいだ。 「……寝ちゃったみたいね。よっぽど緊張してたんでしょ」 「そうらしいね。このまま屋根伝いにギルドまで戻ろうか。この子を休ませてあげないと」 「そうね。あ、あそこにギルドの旗見えるわよ」 「オッケー。行こうか」 こんなに小さいのにかなり疲労してるみたいだな……毛に艶が無いのもその所為かな? 本当は、どうして追われてたのか聞きたいところだけどまずは元気になってもらってからか。 ……イーブイ、か。もしかしたら……いや、恐らくは確実に……。 とにかくまずはギルドに戻ろう。親父さん達、戻ってきてるかな。 ---- 第四話完結となります。大分時間が開いてしまいました……。 第五話にも結構な時間が掛かると思われます。忘れられてしまいそうですが……お待ち頂けましたら幸いです。 感想はこちらへ #pcomment