ポケモン小説wiki
1人と7匹の物語・グレイシアの作る氷のお味 の変更点


作[[呂蒙]]
<登場キャラ・超簡易説明>
法 孝直(49)・ラクヨウ大学法学部教授兼上院議員、酒好き。
諸葛 恪(42)・ラクヨウ大学文学部教授、リクソンの恩師。
リクソン=ハクゲン(21)・ブイズ7匹と暮らす大学生、文学部。
その他多数。 
 
 第1章 雪の降る日
「強い冬型の気圧配置で、ラクヨウ周辺では引き続き強い雪に警戒が必要です・・・・・・」
 天気予報のニュースを見ていたリクソンは呟く。
「昨日と言ってること同じだな」
 南部育ちのリクソンは、寒いのが苦手だった。そこでも冬になれば雪は降るが、何日も降り続くことは無かった。今日は大学で今年最後の授業がある。明日から年末年始の休みに入る。
 雪のため、外は不気味なほどの静寂が辺りを支配している。小さい頃は雪が降ると嬉しくなったものだが、今は何とも思わない。強いて言うならば、靴を濡らし、体から熱を奪っていく厄介者め、といったところである。
 7匹の反応も喜ぶ者、何とも思わない者に分かれる。雪になると車は使えないため、電車が混雑する。リクソンは、ブースター以外のポケモンをボールに入れる。必要なものをカバンに入れ玄関のドアを開ける。
「うわああっ、寒いいいいぃ」
「リクソンさん、反応が大げさ」
「ホントなんだから仕方ないだろ」
「やっぱ、いつもの手でいくのね」
 ブースターは嬉しそうな顔をして言った。
 リクソンはブースターを抱きかかえ、さらにその上からロングコートを羽織る。これで寒さに対する完全武装は完了だ。が、やはりこれにも欠点はある。胸から腹の辺りにブースターを入れていることになるため、そこの部分だけ不自然に膨らんで見える。本人も少し気にしていたようだが、寒いよりはマシなので、大学の行き帰りは我慢した。
「それにしても重い・・・・・・」
「ん? どーしたの?」
「い、いや何でもない。よーし明日から冬休みだ」
 左手でブースターを抱え、右手でカバンを持つ。なかなか難儀であるが、慣れてしまうと何とも思わない。背中には汗の滴る感覚が走る。何だかすごく贅沢な気分だ。
 大学のラウンジに着き、イスにカバンを置き、コートを脱ぐ。
「ブースター、もういいよ」
 暖房の効いたラウンジではこうしていられると暑いのだ。しかし、ブースターは離そうとしない。
「もうちょっといいじゃない。ぎゅ~」
「ああもう、しょうがないな」
 白いセーターにオレンジでは色彩的にも目立ちすぎる。ちょっとでも周りから見えないようにするためにも、リクソンはブースターを抱きしめる。
「・・・・・・何かポケモンとはいえ、こうして昼間っから人目につく場所でこんな事やってるのはどうなのかな」
「あら、異性同士がこうやるのは普通でしょ」
「ま、まぁそうだけど」
「オス同士でこんなことしてたら変でしょ。それじゃ、ホモよ」
「う~む・・・・・・」
 リクソンの頭には誰かと誰かが浮かんだ。
「ちょ、ちょっと水飲んでくる」
 リクソンは、セルフサービスの水をコップに注ぎ、氷を2、3個入れると一気に飲み干した。そして顔を左右に振った。頭に浮かんでしまったものを消すために。

  第2章 誘い
 諸葛恪の教授室は大学内でもかなり綺麗な方であった。少しでもいらないと思ったものはゴミ箱に捨ててしまうことにしているからだ。長い休みに入る前には必ず大掃除をする。その掃除もあらかた終わった頃、ドアをノックする音が聞こえた。恪がどうぞと言う前にドアが開く。
「あ、法さん。何か?」
「しょかっちん、今日で仕事終わりだろ?」
「え? ええ、まぁ」
「だったら、話は早い。仕事が終わったら、どっか飲みに行かないか?」
「いいですけど・・・・・・。年末年始は出費が増えるんで、ちょっとだけですよ」
「ああ、心配はいらない。おごるから」
「いや、でも・・・・・・」
「そうだ、2人だけっていうのもつまらないから、生徒を誰か連れてきてよ」
「ああ、はい・・・・・・」
 用事が済んだ孝直は部屋を出て行った。
 恪はあまり乗り気ではなかった。
「法さん、酒飲むと元気になっちゃうからなぁ」

 ◇◇◇

 リクソンと7匹はラウンジにいた。今日はゼミナールで発表をしなければならないので、リクソンは7匹を横目に資料をまとめていた。
(ああ、もう今年も終わりか)
 リクソンは外を眺めながらそんなことを思った。
 しばらくして、恪がやってきた。
「おお、リクソン君。ちょっといいかな?」
「何です? 大事な話ですか?」
「大事と言えば、大事だな」
「はぁ、で、大事な話とは?」
「うん、ゼミで使う教室のエアコンが壊れたんだ」
「へぇ~、ってつまり暖房が使えないと?」
「そーゆーことだ。ちなみに直るのは年明けだそうだ」
「困りましたね」
「そーだね」
「の割には、随分落ち着いてますね」
「さっき、教授室から湯たんぽを持ってきたんだ。だから大丈夫」
「はぁ、そうですか」
「それと、『温まれる話』を持ってきた」
「???」
「法さんが、酒をおごってくれるってさ。2人じゃつまらないから、生徒をたくさん連れてきてって言われてね」
「酒で温まると? おっさん的発想ですね」
「まぁ、彼もはや五十路だ。しょうがない。じゃ、そういうわけで」
「・・・・・・まぁ、いいか。明日の朝の食材は買ってあるし」
 恪は授業のため、その場を離れた。
 リクソンの場合かなりの大人数で暮らしていることになるから、1食分の食費がゼロになるということは、かなりの節約になることを意味していた。酒はほどほどにして料理をメインにしてしまえばいい、そう思っていた。
 恪と入れ替わりにバリョウとウインディが入ってきた。
「あ、バリョウ」
「授業終わり?」
「そうだけど」
「じゃ、話が早い」
 リクソンは先ほどの話をした。ただし、「酒をおごる」のところは「夕飯をおごる」に変えておいた。バリョウは酒に強くないので、断られると思ったからだ。でも、バリョウにはお見通しだったので、そんな小細工は無駄だったが。
 しかし、人がいいバリョウはあっさり承諾してくれた。
「じゃあ、授業なんでね、こいつら見てて」
「ああ」
 リクソンは7匹をバリョウに託すと教室へと向かった。
「ウインディ」
「あ? 何だバリョウ」
「リクソンの奴、たまに立てなくなるくらい飲んじゃうから、そうなったら家まで乗せてってやってくれ」
「っていうか、その前に何か手を打ったほうがいいんじゃないか」
「手、ねぇ・・・・・・。前足じゃなくて?」
「火炎放射いる?」
「冗談だよ、今からそれを考えるんだけど・・・・・・」
「何も思いつかない?」
「・・・・・・うん。どーしよう」
 バリョウは顔を曇らせた。時間だけが無駄に過ぎていった。
 で、苦し紛れに気付いたのがこれ。
「水に食紅を溶かして、酒と偽って渡す」
「あのなぁ、100%ばれるぞ。素面じゃなきゃ話は別だろうけど」
「熱燗にしてアルコールを飛ばす」
「ビールを熱燗にするのか?」
「いや、リクソンはビールよりもきっついやつが好きだからなぁ・・・・・・。あ、そうかこれは使えるかも」
「どうすんだよ?」
「それは・・・・・・。話すと長くなるけどいい?」
「出来ればまとめてくれた方がいい」
「要は、酒を薄めてしまえばいいわけだ」
「水で?」
「いや、氷を使う。多分、ウィスキーとか頼むだろうから、氷を細かく砕いてグラスに入れて、それから酒を注げばいい」
「氷を砕くのはどうして?」
「その方が早く解ける。解ければその水で少しは薄まるだろうというわけ」
「随分、手の込んだことを」
「じゃあ、店の前で××とかされて介抱するのとどっちがいい?」
「××って何だよ」
「お前な~、TPOっていうものをわきまえろよ」
「ふん・・・・・・。先に言ったのは誰だよ」
「というか、周りの視線が気になる」
 ポケモンと一緒にいるということ自体が珍しいことであるこの国では、それだけで好奇の目で見られる。人にもよるかもしれないが、少なくともバリョウには気になって仕方がなかった。今に始まったことではないのだけれど、気になるものは気になるのだ。ましてや、すらっとした青年と、大きな犬のようにも見えるウインディがタメ口で会話をしている光景は、ポケモンを持っていない人にとっては不思議な目で見られ、時には羨望の的となる。
「はい、お待ちどうさま。Bランチ」
 食堂のおばちゃんが、料理とコーヒーを乗せたトレーを持ってきた。
「あ、バリョウさん。お昼ごはんまだだったんだ」
「エーフィはもう食べた?」
「うん」
「さてさて、ペスカトーレか。好物なんだよな。好きなものを食べているときって幸せだね」
「そうだけど、食べるのが幸せって、意外だなぁ」
「いやいや、お腹が減っているときに好きなものを食べられるって普通に幸せだと思うけどなぁ」
「あ、そういうことね」
 バリョウは、麺をフォークに巻き、嬉しそうに口に運んだ。
 チャイムが鳴り、学生たちがあわただしく外へ出て行く。次の授業が始まるのである。もっとも、バリョウは今日の授業が全て終わっているので関係なかったが。いるのはバリョウたちだけになった。
(テレビ見よう・・・・・・)
 バリョウは近くのテーブルにおいてあったリモコンを手に取り、スイッチをつける。ためしに4チャンネルに回してみる。
「戦国の梟雄 松永久秀の野望・主家簒奪編」
(歴史モノかぁ、あんまり興味ない)
 次に6チャンネル。
「3時だよ 芸人集合」
(この芸人キライ)
 適当に14チャンネル。
「THE・ニュース」
(これでいっか)
 ペスカトーレを食べながら、ニュースを見る。食べながらテレビを見るのって、行儀が悪いような気がするけど、たまにはいいよね? ニュースは経済と天気予報、あとは国会のニュース。といっても、野党が審議拒否に入ったので、これと言ったニュースは無かった。物騒な事件が起きているのはいつものことで、変わったニュースが無いまま、番組は終わってしまった。
(つまんねー)
 バリョウはテレビをつけたまま、定食を食べていた。食べ終わったものを下げて席に戻ってくると、別の番組がやっていた。
「集まれっ! ポケモントレーナー」
(なんじゃ、こりゃ?)
 バリョウがはじめて見る番組だった。
「ね、エーフィ。あれ、どんな番組?」
「どんなって、題名そのまんまだけど」
 内容はエーフィの言った通りで、全国津々浦々のトレーナーが集まってポケモンバトルをするというもの。さぞかし人気があるのかと思ったら、観客席はまばら。時間帯のせいだろうか?
「あれ? 何か観客が少ないぞ」
「あー、その辺はサンダースとかブラッキーの方が詳しいかも」
「まぁ、大体想像はつくんだけどね、一応・・・・・・」
 というわけで、ブラッキーの解説が始まった。
「まず、バリョウさん。ルールは知ってる?」
「勝てばいいんでしょ」
「まあ、そうだけど身も蓋もない答えだな。言っとくけど、ズルはだめだぞ」
「あ、ダメなんだ」
「ま、一応スポーツだからね。人間で言うところの格闘技かな。で、大きく昼の部と夜の部に分かれていて、さらに、いろいろな部門がある」
「へぇ~、知らなかった」
「知力勝負なんてのもあるぞ」
(・・・・・・数学オリンピックみたいなもんか?)
「ただ、やっぱ金がかかるからね、あんまり人気が無いんだ。セイリュウでは」
「あ、それは知ってる」
「試合を見るのも一試合で5000ルピー取られる」
「高すぎるぞ」
「いや、しょうがないんだよ。強力な技を発動してうまく相手に当たればいいけど、外れたらとんでもないことになるからな」
「試合会場が壊れちゃって、その修復費用にするからかな?」
「あ、それは知ってるんだ」
「いや、普通に考えればそうでしょ。あ、そうか、だから、決められた場所以外でポケモンバトルをしたり、挑んだりしてはいけないわけか」
 他の国ではポケモンバトルは一つの娯楽らしいが、この国がそうでないのはそれなりに理由があるのだ。さらに付け加えて言えば、セイリュウには「ポケモンセンター」なる便利な施設が無い。大火傷を負ったり、骨折でもしようものなら、多額の入院費用を要することになる。
 熱いコーヒーを飲んだので、冷たいものが欲しくなったバリョウは売店でスポーツドリンクを買ってきた。蓋を開けて、コップに注ぐ。その後、どういうわけかスプーンを持ってきた。
「おーい、グレイシア」
 バリョウは、隣のテーブルにいたグレイシアを呼ぶ。体全体から冷気を放出するグレイシアが、バリョウの方へやってきた。暖房効きすぎで暑く感じる空間が、肌寒く感じるようになった。
「なぁに?」
「実はね・・・・・・」
 バリョウがグレイシアに耳打ちをする。
「うまくいくかわからないけど、やってみるわ」 
 スポーツドリンクにグレイシアがこごえる風を吹きつけた。スポーツドリンクは凍る直前の、いわゆるシャーベットになった。
「よし、グレイシア特製の氷菓子の出来上がり」
「あ、うまそうだな」
「ウインディ、欲しいのか? じゃあ、一口だけだぞ」
 リクソンのポケモンたちにもおすそ分けをする。量が少し減ってしまったが、それでもまだ半分以上残っていた。
「お、おいしいぞこれ。冬のアイスは格別だな」
 その後、実験でオレンジジュースやリンゴジュースでも同じものを作ってみた。やはり、おいしい。しかし、このような絶妙な氷具合。やはり、このグレイシア、只者ではない。バリョウはそう思っていた。

  ◇◇◇

 一方その頃、リクソンはというと・・・・・・。件の暖房が壊れた教室にいた。こんな寒い教室で発表しろだなんて、拷問に近い。
「せんせ~い、やっぱ無理です。寒すぎますよぉ」
「冬は寒いもんだ。少しは我慢・・・・・・」
「マイナス5度、暖房なしは我慢の限度を超えてます!」
 このまま生徒たちに、我慢を強いることは困難なようにも思えた。「反乱」が起きかねない。
「わかった。わーかった。じゃあ、授業はおしまいっ! 皆さんよいお年を」
 恪は90分の授業を30分で切り上げた。仮にこのままやっていたとしても、能率が悪いようにも思えたからだ。

  ◇◇◇

 孝直もさっさと授業を切り上げて、ラウンジにやってきた。その後4人と8匹は近くの居酒屋に行った。
「人数? 多いね」
 孝直は、リクソンやバリョウのポケモンを物珍しそうに見ている。
「襲われない?」
「襲われませんよ」
 バカな質問をするなといいたくなるが、ポケモンを持っていない孝直にとっては不思議な光景であるのだ。
「ところでさー、ポケモンを数えるときの単位って、匹?それとも人?」
「・・・・・・」
 この孝直の質問に3人はすぐに答えることができなかった。「匹」が順当なんだろうが、それでも、あからさまに動物扱いするのはどうなんだろう? リクソンにとっての7匹はもはや「家族」である。人間と同じ扱いをするから、「人」とした方がいいのではないだろうか? いや、しかし・・・・・・。
「では、法さん。『人魚』は「匹」ですか? それとも、『人』ですか?」
「ううん、しょかっちん、なかなか難しい質問だね、それ」
「ですよね。単位がはっきりしないものなんて、世の中にいっぱいありますね。ポケモンもまたしかり、というわけですよ」
 バリョウやリクソンが返答に困っていると、恪が助け舟を出してくれた。
 居酒屋に着くと、すぐに大部屋に通された。20畳はあるかという大きな部屋だ。孝直が顔なじみで、あらかじめこの日に来ることを伝えていたので、特別にキープしておいてくれたらしい。


 終章

「じゃ、好きなの頼んで」
 孝直はそう言うと、さっさと自分の酒を決めてメニュー表を渡した。
「この、『ピカチュー』てのはなんだ?」
「ピカチュウが出てきたりして」
「まさか・・・・・・」
 この怪しげなメニュー。普通なら選ばないだろうが、3人は好奇心に駆られて、その酒を注文した。やがて、その酒が運ばれてきた。ピカチュウが出てきたわけではないことにひとまず安心したが、味のほうはどうなのか?
「じゃあ、じゃんけんで負けた人が毒味をすることにしよう」
 恪の提案で、師弟間のじゃんけんが始まる。その様子を孝直はコニャックをちびちびとやりながら眺めている。
2回あいこが続いた。
「ゲッ・・・・・・」
 結局、バリョウが毒味をすることになってしまった。
「ううう・・・・・・」
 グラスに注がれた淡いピンク色の酒をバリョウは飲めずにいた。そして、何を思ったかウインディの方を向き
「頼む、代わりにこれ飲んで」
「やだよ。さっさと飲んじまえよ。男らしくない」
「何だ? 主人の言うことが聞けないのか?」
「万が一、毒でも入ってて、オレが死んじゃってもいいのか?」
「ウインディが? まぁ、毛皮屋さんに持っていったら、いくらかの金にはなるな」
 バリョウ流のブラックジョークが飛び出した。
「お前、踏み潰してやろうか、って」
 ウィンデイはあることに気がついた。バリョウは喋りながらも、個々の酒とは別に頼んだビールを飲んでいた。そして、顔が少し赤い。
 ウインディはあることに気がついた。バリョウは喋りながらも、個々の酒とは別に頼んだビールを飲んでいた。そして、顔が少し赤い。
(こいつ、酔ってるな。ふん、だったら・・・・・・。悪く思うなよ、まぁ、ひとつ教えといてやるよ。どんなときでも言葉には気をつけることだな)
 ウィンデイは口元に笑みを浮かべながら、バリョウに歩み寄った。

 この後、バリョウがどんなことをされたかは、貴殿のご想像に任せることにしよう。

 終わり


#Pcomment(呂蒙の作品、グレイシアの作る氷のお味は?のコメログ,7,)
 

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