ポケモン小説wiki
風邪薬 の変更点



書いた人[[GALD]]
良い子はカンバックでお願いします。
----
彼女はいつでも頑張っていた。全力投球しかできないくせに、考えず変化球の練習すらしない。
ストレートをぶつけることしかできないくせに、球速が天才に及ぶこともなく平凡な域。
それでも彼女はぶつかることを諦めない球児のようであった。天才になることを夢見ることもなくただ必死に。
前向きそのもので表裏がなく、頑張るに頑張るを掛け合わせたような性格であった彼女はぶつかることが得意であった。
コントロールが乏しく、また火力の調整をするぐらいなら全力で臨む彼女には炎を吐き出す類の技は向かなかった。
物理攻撃で前に出ていくスタイルであったが、突進にすら変化がなく猪突猛進。玉砕覚悟も良いところである。
相手にも見切られ安いパターンであるために負けることが多いことも当然なのだが、彼女のいいのか悪いのか、へこまずに何度でもトライする。
その分学習することをしないのか、同じような負け方を繰り返すことが目立つのも愛嬌なのだろう。
勝ってる相手も悪い気分はしないのだろうが、一方的な戦いが続くことが多々ある。その中でも彼女が一番学んだことは頑張るだった。
只管走ったり、ぶつかったりと単調な行動を何度も積み重ねた。そのかいあってか、彼女の種族という枠組みを吟味すれば基本的なステータスは高いといえた。
背丈は俺自身の半分程度の割にはとっしんされると軽く吹っ飛ばされる。体重のことに関しては触れない方がいいのかもしれないが、まだ彼女の方が軽い。
そんな彼女の走り込みに今日も付き合っていた。もちろん並走なんてするわけもなく自転車にのって快適過ごさせてもらっている。彼女の根性論に付き合っていたら体が足りなくなってしまう。
「今日はどれぐらい走るんだ。」
「どこまでも限界を超えますよ、トレーナー。」
夕日を目指してとでも言わんばかりにかけていく。一歩一歩の歩幅は大きくないかわりに、足の回転速度を上げてスピードを出している。一人で走っていく後姿を追いかけていくが、一向に止まる気配はない。
距離なんて関係がなく、体力のある限り走り込んでいく。地面をける音は軽く、蹴りあがる砂煙も僅かなものであったが、回数が積み重なることで走った後が堤防に刻まれていく。彼女だけの軌跡は曲ることもなく直線で、た伸びていく。
元気だなぁと自転車の上から遠い目で見える彼女の横顔は、真剣というよりも笑顔に近いものであった。単調な動作に体力を費やしていくことのどこに楽しさを覚えるのかよくわからなかったが、彼女が楽しそうならそれで良かった。
「お前楽しいのか?」
けれども、何もなしに自転車をこいでおくのも飽きてきていた。
「はい。進んでることに意味があるんです。」
息を切らしながらも、返事をしっかり返しながら彼女は足を動かすことに集中していた。そのためか返事が返ってくるのにはラグが入った。
意味がよくわからなかったが、走って鍛えることに意義を見出しているのだろう。ペダルを蹴りながら小柄の彼女の後ろを追いかける。
足がだるくなってきたがついていくしかない。だから、立ち上がって自転車をこぎだした。彼女もそれを見て負けるかと思ったのかスピードを上げだした。
立ってこいだほうが速度が出せるのは事実であるが、そのためにたちがあったわけではなかった。しかし、闘争心の高い彼女にとっては油でしかなかったようだった。
彼女が走りつかれるまで、こちらも全力で自転車をこぎ続ける羽目になってしまった。走り終えた時には彼女は地面にへたれこんでいたが、こちらも立っているのがつらくなり自転車を止めて座り込んだ。
地面にへばりこんでいる彼女は全体的に毛の張力が落ちているのか、尻尾から耳まで全部だらけており全身で限界を語っていた。息を切らして口をあけっぱなしにしているせいか、舌が口からはみ出たままだ。
無駄なことで張り合ってしまったのは自分が悪いのかもしれないが、彼女を放っておけないというのが本音であったし、こちらが白けるような真似をして彼女のテンションが下がるのも避けたかった。
もともとは自分で世話を自分で見るという事で手持ちにしたのだから、責任感という物を感じてもいた。ここまで世話の焼けるものだとはもちろん想定していなかったが。
「満足したか?」
「まだです、このままじゃいつまでたっても進化できませんから。」
彼女は立ち上がってこちらを向いたが、まだ汗は引いていないようで熱気が伝わってくる。小さな体格であるからこそ大きさに魅せられたのか、尻尾を振って興奮を抑えきれない彼女の眼は純粋に輝いていた。
別に進化すれば強くなれるといったような甘えた発想ではないことは日々の努力が語っていた。今もこうして立ち止まっているだけでは我慢できずそわそわして、何かに取り組みたそうにしていた。
走ることに疲れてしまったので、彼女の運動に合わせるのに難を感じたので技の練習にはいることにした。火力の高い技を不要に撃たせることは気が引けたのでひのこの練習をすることにした。
不満げなそぶりもなく、言われた通りに彼女は技を繰り出した。口を開けることで周囲から空気が集まったかのように見えると、口元が光った。石をこすり合わた時の摩擦のように、瞬間的に輝いたと共に口から光が球体となって飛び出した。
熱量を持ったそれは一定距離を直進すると力を失い空気へと帰っていった。技としての火の粉は成功していたが、課題はそんなレベルの低い話をしているわけではない。
走り追えた時に缶ジュースを二人で飲み干し、空き缶を的に使用している。火球は何個か飛び出していったが、空き缶は金属光沢を失うことなく立ったままであった。
もう一度落ち着いてうつように命令を出した。今度も同じようにいして空気が凝縮したかのように見えると同時に口元が輝く。そこですぐに吐き出さずに今度は狙いを定めてうちはなった。
溜め込んだ火球は鋭く二本の空き缶に向かって飛んだ。結果は片方を変形させることはできたものの、もう片方は未だに健在であった。一本を倒すところまではたどり着いたのだが、複数を同時にとなるとやはり物を飛ばすことが不得意な彼女には難しいようであった。
缶を立て直せる限り何度でも彼女はトライし続けた。そのせいもあってか、ひのこの生成の反動にもう一本空き缶が生まれ出てしまった。口元にあれだけの熱源を生成しているのだから喉が渇かないわけではないのだが、そこはポケモンとしてどうにかなるものではないのだろうかと疑問にも思った。
しかし、そんな疑念を晴らすかのように彼女のジュースを飲むときの笑顔は純粋であった。練習終わりは結果がどうであれ、へこむことなく目の前の報酬に喚起している彼女は単純なのかもしれないが少し眩しい。
彼女は直球ですぐに顔でるので、気にしていないことはわかっていた。けれども、そんな無邪気さが刺さっていた。何もない笑顔がしみ込んできて心苦しい。彼女が努力をしたとしても今の目標が叶えられないことは理解していた。彼女の限界をどう突き破ってもたどり着けないことぐらいわかりきっている。
進化への条件を揃えるのは彼女自身ではなく自分が成さねばならないことがあるということを、彼女自身では先に進めないことぐらいトレーナーとして知っていて当然だった。彼女の努力に協力しようとして、知ってしまってから黙り込んでいた。
もともとは知らなかったので、彼女との積み重ねが辿りつけるものになるのだと信じて走り込んでいた。何度も衝突しても、またぶつかる彼女には馬鹿だと笑うよりも他の言葉をかけてきた。
だから進化することを知った彼女が変わってしまうことを恐れて、情けないことに一緒に飲んでいるときも目線を合わせるよりも彼女と一緒に空を眺めて気をそらしている。結局今日も言うことを留めて終わった。
苦しさをジュースと共に呑み込めずに、もわもわしたまま彼女と並んで帰った。そんな日々の苦悩から解き放たれたくなってしまったのか、とうとう準備をしてきてしまった。いつものように練習を消化した。
いつものようにジュースを手に取り彼女の横に並ぶところまでは同じだった。そこから、今日はやることがあったせいでちらちらと視線を送ってしまう。落ち着きのない態度が彼女にも流石に気になったようだった。
「どうかしましたか?」
「いや、どうというわけでもな。」
変にうじうじしてしまったが、彼女は素直なタイプなので言われたらその通りに理解したようですぐに引き下がった。変に肩すかしを食らってしまい、申し訳なさと恥ずかしさというコストを得た。
「ええい、受け取れ。」
差し出してしまえば、苦しさが薄れた。受け取れと差し出した手から物を受け取る手を彼女は持ち合わせていない。「はい。」と元気良く返事をした彼女も次の時には「で?」と首を傾げた。差し出した手には固形物が握られていた。
固さを言えば固く、握りつぶすことは無理だろう。更には変に光っており最初は持つことすらためらわれた。しかし、彼女のためを思って決心をしたのだが先ほどの躊躇いを考えると自分でも怪しくなってきた。
彼女は努力によることを進化の糧として必要していない代わりに、あるものを必要としていた。そんな条件が、努力をする彼女を否定してしまうように感じられて進化から遠ざけてしまっていた。
「今からお前を進化させる。」
「わかりました、来てください、全力で。」
驚いた素振りを期待していたわけではなかったが、ここまで素直でいつものように曲がらないとこちらが驚いてしまう。何の脈絡もなく進化をできると告げられたことに対する驚嘆や欺瞞で曇ることはなく、彼女はいつものように明るくでも前のめることもなくその場でただ待っている。
彼女の額に握りしめた石を触れさせるだけで、反応を起こし始めた。彼女の体は光出し、石が光に溶け込んでいく。目をそらすつもりはなかったが、あまりの眩しさと彼女との距離のせいでそらさざるえなかった。
眩しくて目を伏せたその一瞬のうちに光は新しい彼女を形成していた。体の配色は基本的に変わらずオレンジ色に黒いラインが走っている。そんな胴体から白い毛が爆発している。前までは頭も胴体と同じようなオレンジに染まっていたが、白い毛が暴発して顔を覆いそうな勢いになっている。
体格はいきなり数倍にまで巨大化し、以前は可愛く足元に収まっていたのがこちらの数倍の大きさにまで成長した。耳も以前より尖り、目もたくましくなっていた。
「これがウインディか。」
「みなぎってきましたよ、まだまだいけます。」
練習が終わったばかりというのに、彼女は元気に四足のそれぞれを動かしだした。新しいからだに喜びを隠しきれないようで、その場をくるくる回りだした。そしてそのまま走り出したのまではよかったのだが、急いで自転車をこぎだした。
今まではなら追い付けることはできたのだが、そうは簡単にいかなくなっていた。速度が今までとは違い過ぎたのだった。進化を他人事のようにとらえていたが、今身近に感じている。喜びよりも汗びっしょりでの危機感を感じて。
彼女はどうしても単純なところがどうしても傷なのである。自分の体格が大きくなったといえば失礼になるのだろうが、巨体で走り回るリスクを考えているのか不安である。しかも速度が速度のせいで突然止まれるとは思えない。そこで、止めるために追いかけていたが声すら届かない。
彼女はランニング気分なのか、軽々と巨体を操作していく。その後ろに続く自分自身は自転車という巨体を何とか進めている。結局練習以外にも無駄に走り込みをしてしまった。
体力も増えた彼女は何ともないような笑顔で、いい汗をかいたと満足げである。こちら側は冷や汗と汗がまじりあって、さっさとシャワーでリセットしたいというのが本音であった。
尻尾をぶんぶん震わせる彼女にはよかったと思える反面、尻尾が何かにぶつかりかねないことに不安も覚える。今日だけで筋肉痛に悩まされそうなのに、明日に対する打開策は未だにない。
「まだいけますよ。」
「俺はいけないから、今日は帰ろう。」
不完全燃焼な彼女でも、こういう時は素直にはいと従ってくれるだけましなのかもしれない。この元気よさが欠けてしまえばまた別の存在と化してしまうことを理解しているので、こういった発言はあまり気にならない。有り余るエネルギーを爆発させる意思よりも、単純な忠誠心のようなものが優先される。
これだけ大きくなっても、中身は子供のまま。変わってしまうなんて心配はただの杞憂なだけで、汗と一緒に流しだしてしまったようだ。沢山のカロリーの死骸はまだ体から流れ出ている。
無邪気な横顔は相変わらずで、いかついと感じた顔つきも笑顔ばかりだと拍子抜け。自転車よりも大きいのと横に並んで歩くのは流石に邪魔になるので、すれ違う時には彼女を後ろに下げて歩いて帰った。
そんなそぶりは流石に彼女にも気にかかったのか、次からの練習はとんでもない方式へと変換されることになる。
「私も随分大きくなりましたし、どうですか、ここは乗ってみるというのは。」
期待の熱い眼差しが送られてきた。純粋無垢なそれは心臓を貫いて刺さる。断りたくても息が苦しくて言葉が出ない。
彼女の熱意に押し負け、自転車ではなく彼女の背中に乗ることになった。以前までは自分よりも小さかった相手が、こんな立派な背中になったことには感動もあるが、それ以上にやはりこういった性別の違う相手にこうも接してしまうことは少し気が引けた。
彼女に触れたことはあったが、撫でる程度のことしかなかったのもあり、彼女の毛並みを改めて感じさせられることになる。体格の割に毛並みは柔らかく何度か触りなおしてしまう。
そんなことには気を止めない彼女は、一言声をかけるとそのまま走り出した。それに合わせて彼女の背中に倒れ込んだのは、わざとではなく不可抗力であった。彼女の背中に張り付いたまま動けない、それぐらいの速度で彼女は駆け出した。
もちろん姿勢を起こしたままだとバランスが悪いという物あったが、昨日の彼女がこちらに合わせて力をここまで抑え込んでいたとは予想もしなかった。そして、こんなにも偶然に彼女と距離を縮めてしまった。
彼女も進化を得て成長したのか、直接的にはそうでないようなでも確かに感情に語り掛けてくるような異性の感じ。物理的に弾こうとしても、物理的に死んでしまう可能性があるせいで逃れることができない。生き地獄の様な状況下で精神的に狂いそうになる。
止まれと叫ぼうとしても、まともに声が出せないことに加えて彼女のきる風に混ざって正確な意味を含んだ音ではなくなってしまっていた。彼女のエンジンは止まらず、ブレーキはノルマを達成するまでかからないようになっている。
河原のいつものコースを駆け抜けていく。自転車とは速度は違うせいでいつもの景色も意味合いを変えた。目まぐるしいこの景色にしがみつくように彼女に力を入れた。毛が柔らかく気持ちがいい反面、過ぎる風が冷や汗を煽る。
もちろん彼女の毛は温かいし、毛布に体を突っ込んでいるようなものである。それが理由で汗をかかないわけではないが、この額にあふれる汗は緊張感によるものに違いなかった。踏ん張りを頑張るほど彼女の体にめり込んでいく。
「止まれ。」
暴走列車にようやく声が届いたかと思うと今度は勢い余って背中から落とされそうになる。更に強く彼女に抱き付いたが、行動の重さを考える余裕はなかった。
「何か言いましたか。」
「いや、もういい。」
真直ぐなのはいいが、彼女についていくことは無理なようだった。それを運動していないのに流れる汗が証明している。
「俺がここでタイムをはかってやるから、お前は走れ。全力でな。」
「わかりました。」
全力という単語に強い返事を彼女は返した。そして全力で走り出した。一歩一歩の地面に刻む跡の大きさが、前とは比べ物にならないせいで走ったルートが容易にわかる。
彼女は道作りを全力で、何週も全力で、体力を全力で削り続けた。通り過ぎるときの音の迫力といったら数日前のことが嘘の様な轟音を立てる。彼女の全身に生える毛も進む速さに合わせて倒れ込んでいる。全力という言葉を燃焼しきるまで何週も走るのを、ただ時間だけをはかりながらまった。帰り道では背中に乗るのがあれだけで済んだ事にどれだけ安心したか。
そんな調子だったから、彼女はばててさっさと寝てしまっただろうと部屋の電気を消した。そんな矢先に訪問者が訪れる。
「トレーナー、その。私病気みたいで。」
歯切れの悪さが物語っていた。昼間はあれだけ好調で走り回っていたこともあったので、体調は問題ないと踏んでいたが甘かったようだ。進化による環境変化が彼女に負荷をかけているのかもしれない、そうも考えられた。
「体が熱っぽくて寝れないんです。頭が痛いわけじゃないんですけど。」
風邪ひいてしまったみたいなことを言いだすせいで、流石に耳を疑った。進化する前ですら、外を走り回って病気にならない健康体であった彼女が、進化をきっかけに病気にかかるなんて信じられなかった。
「トレーナーは風邪じゃないんですか。私、トレーナーを乗せてから変になっちゃったみたいで、病気をもらってしまったのかと。」
風邪といっても他人に伝染する可能性はある。風邪は引いてはいなかったが、体内に病原菌を抱え込んでいてそれを渡してしまったこともありえた。
「もうだめです、限界です。」
弱弱しく彼女が言葉を吐き捨てたかと思うとそのまま倒れた。寝ようとした直後だから布団の中には入っていた。そして、彼女はせめて倒れ込むならと思ってかこの布団に倒れ込んだ。そして、布団の中にいた俺ごと倒れ込んだ。
下敷きになるだけではすまなかった、彼女の荒い息が顔に当たっているかと思うと、その息がこちらの唇を乾かすかのように口ばかりに当たるようになり、その乾いた唇をなぞるように水気のあるものが触れる。同時に前足にがっちりと固定される。
それが何かかを悟った瞬間に言葉を発しようとはしたが、それはなしえなかった。彼女の顔が、目と鼻の先にまで近づいていたことをこの時初めて気が付いた。視界には入っていたが、立て続けに起こるイベントに意識が追い付いていなかった。
昔にぺろぺろと舐められることがあったが、そんなときの舌とは異なっていた。ざらつきがあり、そしてねっとりと温かい。口内は体温があるので温かいはずなのに、熱のある彼女の舌は熱いではなく温かいと感じた。驚いて話せないのに対して、彼女は落ち着いてやることを理解しているかのように舌を絡ませてきた。
それから逃げるなんて思考回路がなく、ねっとりとした感触に体を動かせないまま時間が過ぎた。彼女は気が済むまで何度も何度も顔を寄せてくるせいで鼻同士が軽くぶつかったりした。おかまいなしに彼女は何度も何度も続けて、ようやく熱をある程度吐き捨てたのか口元から離れた。
解放されてから久しく呼吸が雑であったこともあり、呼吸を整えることに時間を取られてしまう。
「風邪だと思ってました。でも、いつまでたっても熱いままなんです。」
いつもの明るい彼女の顔はなく、病気にかかったかのような不安そうな顔が上からこちらを見下ろしていた。
「病気なのに、体が抑えられなくって。寝ておかなきゃいけないのに、できなくて。」
かかっていた暗雲は雨を降らせていた。傘を持ち歩ていない下にいる者の胸元に、ぱらぱらと温い液体が染み渡る。
「何でもぶつかるだけじゃダメだってわかってるんです、でもそれしかできないから。」
彼女なりにも悩んでいたのか、らしくもないことを口にするせいでこちらもどう出ていくべきなのかわからない。でも、彼女にしてあげられることなんて数えるほどもないことを悟る。
撫でるなんて行動は少し子供じみていたので、彼女の首回りに両腕を回した。ある程度離れていたので勿論彼女を引き寄せることにはなったが、それでも大きな首回りを囲むのは容易ではなかった。
彼女の顔は丁度横に寄せてしまったせいで彼女がどんな表情をしてこの行動に応えているのかわからなかったが、数分沈黙が続いた。耳元でただ涙を流す音だけが微量に流れるだけで。
そんな声がやむと彼女は落ち着いたのか、手の中から解き放たれる。改めて向かい合った時には不満そうなことはなく何かをつかんだように納得しているような感じがする。
「気はすんだか。」
「ありがとうございました。もう大丈夫です。」
夜中にその大声はまずいと思ったが彼女が元気を取り戻したことで一件を収めようとした。彼女もようやく立ち退いてくれて布団をかぶりなおそうとしたときだった。
彼女が不意にあっとだけ、その一言を漏らさなければ何もないまま終わっていた。その言い方には語弊があって、何もないまま終わらせていたというのが正直なところであった。
「あの、その。私でよければ……私の責任みたいなところもありますし。」
こればかりは大声が出せないようで、どこか恥ずかしげに控えめであった。もちろん、そんな申し出にどうかえせばいいかわからなかったわけで固まった。
「いいですよね。責任がありますから。」
彼女は強引に沈黙を打ち破った。言い訳を盾にするにしてはシールドバッシュも良いところである。そのまま下半身をめくりだす彼女を止めるのか止めないのか、どのように止めるのか悩んでいるうちに彼女の行動は進んでいく。
最初に舐められただけで、もうどうしようもないことを悟った。どこで勉強してきたのか純粋で元気が取り柄な彼女が、慎重に丁寧な行動に出るだけでも頭を打ったことを疑った。
しかし、知識をもっていることは疑いようのないことで何度か舐めたかと思うと、今度は根元から下でなぞってくる。ゆっくりとそういった行動をとる彼女に身震いする。
舐めるだけの子犬のような大型犬は身長過ぎてじれったくもあった。わからないことが多くとも突き進む勢いはいつもほどではなく、何回か同じ動作を繰り返してらちが明かないことを確かめているようであった。
身震いに当たりを感じていた彼女もこれだけではループすることに気が付いたのか次の手を考えた。涎かそれとも別の体液かはっきりしないものがたまり込んだ口が線を引きながら開いた。単純な彼女はすぐにくわえることにした。最初は唐突に口に飲み込まれたせいで寒気がした。あれだけ鋭い歯がならび、更には常時ちらっと見えているのだからシュレッターに取り込まれてしまったかのような恐怖を覚える。
そのまま、彼女は勢いよく丸呑みしてそのまま舐めた。先ほどまでは空気に面していることが多かったが、今度は口の中というのもあり生暖かい中で、ほどよいざら突きの物体が撫でまわしてくる。流石に彼女を眺めているだけというわけにはいかなくなっていた。
真剣な彼女を茶化すつもりはなかったが、ほほの毛に手をうずめた。炎タイプのせいなのか、動物だからなのか温もりが手のひらを覆った。彼女も少し驚いたようで手を止めたが、彼女なりに解釈して再開した。
懐かしむように撫でてはいたが、いつまでも余裕が続くわけではない。限界は着実に迎えようとしている。しかし、どうにかしてそれを伝えようとすることもしなかった。真剣な彼女に水を差す方に気が引けたからであった。
前触れもなしに口内に爆発したことで彼女も驚いたようであったが何がどうなったのかを察して口元から離した。どろっと、彼女の唾液とまじりあいながら光を反射する。不気味な液体が自分のに絡みついている光景は感じさせられるものがあった。
「大丈夫か。」
口を離してからどこか視線を合わせてこない彼女に一言かけてみたが、間が悪かったというわけではないようですぐに返事を返してきた。変に飲み込んでしまった液体が予想とは違ったもので、微妙だというジャッジでも行っているのだろうか。
「何というかその、トレーナーの情熱を確かに受け取りました。」
感想を考えていたようだが、結局難しい言葉が思い当たらずにストレートな感想にまとめたようであった。直球すぎる分気恥ずかしいということは彼女には悟られないだろう。
元気を取り戻した彼女らしい感想ではあったが、以降はまた黙り込んでしまう。変にもじもじして視線を泳がせているわりに時より横目でこちらを見ている。
分かりやすい態度で察してほしいといいたいんだろう。馬鹿なことを馬鹿みたいに大声で話す彼女が、ここまで恥ずかしがるというのも稀であった。
「どうかしたのか。」
「こっ、ここまで来たんですから。やっぱり、続きを。」
歯切れの悪い彼女も本心ははっきりとしているようであった。そんな気持ちが決まった彼女とは裏腹に、まだ不安を捨てきれていなかった。進化することにも怖がっていた関係性の崩壊を捨てきれずにいた。本当に今回ははっきりしておかないと後悔する気がした。
「怖いんだ。ここから先に進んでお前とまた歩いていけるのか。」
不意に前から力がかかったかと思うと、体はそれを中和しきれずに後ろに倒れる。上から覆いかぶさる隙間の少ない毛並みに覆われて少し息が辛い。毛並みだけのせいではなく、彼女との距離の問題もあった。ただ彼女は耳元にまで顔をよせて大丈夫とだけ響かせて、毛並みが優しく触れ合ってくる。
「どんな形でもトレーナーの情熱を灯していける、いつだって貴方に応えて見せますよ。」
こんな時に笑顔はずるいと言い返すか悩んだが、子供じみた喧嘩な気がして言葉を飲み込んだ。緊張していた割にここぞというときに素になる彼女の方が大人にみえたというのもあるかもしれない。
しかし、そんな彼女だからこそ先のことなんて何も考えていないようで思ったことをその場で発言するストレートなことはかわっていないようだった。だから、どうやってこれから進むのかを聞いた時には言葉がなくなってから慌てふためいた。
結局恥ずかしそうに後ろからと言い出した彼女を否定することはできなかった。彼女の後ろに立ってみると尻尾が殆どを覆っているせいでよく見えなかった。手を彼女の尻尾をくぐりながら這わせると、彼女が不意に変な声を漏らすせいで少し咳ばらいをした。彼女もはっとして謝罪を繰り返した。
馬鹿なところが抜けない不変さに少し安心すると、彼女の後ろ脚の間を弄る。毛はぱさついているので湿っていることはすぐにわかった。汗をかいていたなんてこともないだろう。どうしたらいいのかよくわからなかったこともあり、とりあえず指を突き入れたり周囲を触り場所を大まかにつかもうとした。
指はすんなりと中に入り込み、容易に飲み込まれてしまった。人の指なんて骨のように食いがいがないとでもいいたいのか、指で中をかき混ぜることすら何ともない。抵抗力が思った以上に皆無だとことはよく分かった。
一方で彼女は意図もわからなければ、本来自分では届かない領域を侵略される彼女はされれるがままに、ただ沈黙を保っていた。手にはただ液体が絡みつくだけ、粘り強くなかなか落ちそうにない。
これが正しいのかわからなかった。彼女の体格的にも微力なものでは意味がないと勝手に判断して、段階を一気に踏み込んだ。尻尾を持ち上げてから後ろから差し込むと、彼女は遂に声を上げたのには、流石に驚いて急いで離れた。
「急にそういうのは、やっぱりその心がですね。」
どうしようかと首をかしげて、我ながら悪知恵が働く方だと思った。彼女を床に寝かせると共に体を横にさせた。そして上になった後ろ足の片方を両腕で挟んで持ち上げた。予想していなかった彼女は羞恥と覚悟を戦わせながら黙っていた。ただ自分の体に入ろうとしているだけの彼女に、声を渡しずらく引けないことを悟った。
気にして力の抜けきらない彼女とは逆にずっぷりと簡単に刺さってしまう。しかし、指を入れた時とは感想は全く異なっていた。神経が互いに集まっている部分であるせいなのか、それともこの部位が合わさることで初めて効果がでるものなのか、ねっとりとしているだけではなかった。
口内よりも隙間なく肉壁に囲まれてしまっていた。かかってくる圧力がほどよく体を温めてくる。微量な熱力だけではなく感触までもがはっきりと脳内に語ってくる。来てしまったからには進むことしかできなかった。彼女の最後の砦すらも、正面から突き破った。再生しない砦など落ちてしまえば何の意味も持たなかった。
そのまま何度も何度も彼女の足の間を打ち付けた。彼女も見ている余裕を失いだらしなく口を開けだしてしまらなくなっていった。彼女の声なのか、それともこういう時に出ると音なのかわからないぐらいに聞き覚えがない。それに加えて体同士ぶつかる音が周波数を重ねて、もう誤魔化し様のない物になっていた。
音を気にする理性なんて残されているわけもなく、最初は離すように心がけていた顔も彼女の足にべったりだった。彼女の後ろ脚は抱き枕のようになっていた。抱き心地良さよりも気になるものがはっきりとある今ではどうでもいい要素だった。
擦れて加熱していくのは摩擦熱なんてものではなかった。体中から熱量を発しているような感じがして、彼女も同じようにこの熱を共有していた。
体の動かす必要のない彼女は口だけを動かした。舌が噛みそうなほどはっきりした言葉は出ていないようで、舌が口から垂れ下がっていた。そして、体を打ち付けられる都度に巨体を揺らした、舌の先まで。
そんな彼女の上げる歓声ような悲鳴のような曖昧な音でさえも、感情を昂らせた。息を吐いているのか言葉を投げかけているのかわからなかったが、息を吸うよりもはいている動作であるということだけは確かであった。
「このままでいいんだな。」
返事はまともなことが返ってこなかった。聞こえたのはひゃいなのかひょいなのか、擬音語のようにも聞こえた。けれども何もしてこないからこのままでいいと思った。
何もエンジン全開なのは彼女に限った話ではない。鼻から荒い息を彼女の太もものあたりに吹きかけていたが、彼女は気にしている余裕はなさそうだった。頭を床につけながら前足もだれていた。
こちらの力をもろに受けて揺れているだけで、あとはラジオと変わらなかった。そんなラジオにも雑音が乗ったのか、急に変な音を上げた。彼女の体が遂に動き出した。
両足の空間に栓がされているにも関わらず、隙間を見つけては飛び出した。色々なところに付着した、互いの体に、周囲の無機物に。彼女の方は息を整えようと、全てを終えたように息を吐く速度がゆっくりになろうとしていた。
「とっ、トレーナー、今はちょっと。」
彼女一人だけがブレーキをかけても二人三脚は止まらなかった。引きずってでも進んでいこうとした。この不完全燃焼を抱えたまま安眠できる自信はなかった。
彼女は済んだあとだというに、むしろ済んだあとだからなのか、こんどはやめての三文字を言おうとしてる意思が伝わるように叫んでいた。
そうはいっても、行動は以前と変わらず言葉でしか説得できない弱い存在のまま。こちらの要求を拒否することはできても、止めることはできはしない。
痴態と悲鳴を晒しながらただ彼女はされるだけの一匹の雌、そんな存在に雄のすることなんて選択する必要すらない。
ゴールが見えてくると走り出すマラソンのように、速度があがると彼女はもう言葉を諦めてただ叫んだ。言葉なんてものではなく鳴き声であることに違いなかった。
そんな彼女に選択る余地のない行動を刻み込んだ。深くにまで、彼女にはもう抜き取ることのできない体内に。流れ込んでいくそれがどんな感触なのか理解のしようがなかったが、達成感は確かにあった。
正しいとか間違っているとかじゃなくて、ただこの行動は避けようながなかったと、彼女の体から離れると自分のは役目を果たしたかのように垂れていた。
そこから深呼吸をして息を整えるまでそんなに時間はかからなかった。しかし、日々のトレーニングの差があったのか彼女の方が先にたちがあった。
そして向かい合うとともに彼女はまた無理やりこちらに飛びついた。やめろと三文字を聞こえる声で言っても彼女にしては珍しく命令に従わない。
「私の風邪、まだ治ってないんですよ。」
そういって、口元に無理やり細長い口を押し込むようにぶつけてきた。そして口の中に口が入らないと、次には口から舌がでしゃばった。無理やりこじ開けて中を荒らし放題暴れまわった。
彼女も歯止めがなくなってしまったのか、増して積極的にこちらの舌の動きなんて気にするそぶりもなくただ気が済むまでしゃべらせてはくれなかった。挙句には終わった後にもしゃべったのは彼女であった。
「まだ風邪薬が足りないみたいです。それにトレーナーにもうつっちゃったんじゃないんですか、風邪。」
----
稀によくある投稿
----
何かありましたら
#pcomment

トップページ   編集 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.