%%青大将%%[[狸吉]]の[[第四回仮面小説大会エロ部門>第四回仮面小説大会のお知らせ]]参加作品。 ---- ※ギド探偵事務所からのお知らせ。 本作品は官能小説であり、&color(red,red){♀→♂への強姦・輪姦・アナルプレイ};などの表現があります。 誤って読んでしまったこれらの表現が苦手な方は、&color(red){毒蛇に噛まれたと思って諦めてください。}; ---- 「いらっしゃい……ん?」 扉を軋ませ、薄暗く散らかった事務所の中へそろりと踏み入ってきた一匹のポケモン。その姿を目に捉え、部屋の奥に据えられた小汚いソファの上に気だるげに胡座をかいていた男は小さく眉を潜めた。 「はて? ズルッグ……じゃなさそうだが」 男がそう言ったのは、そのポケモンが腰から下に大きな布をしっかりと巻き付けていて、しかしその体格も体色も鶏冠の形状もズルッグの物ではなかったからだ。 「はぁ……見ての通りのバルキーです」 「……いや、バルキーにもあまり見えんのだがね」 身長約70cm。見ようによっては明るい紫色にも見える、微かに朱の入った淡い褐色の体色。そして卵形の頭の上には3本の短い鶏冠。なるほど、身体の特徴だけを見れば確かに自称した通りバルキーらしい。しかしバルキーと言えば〝喧嘩ポケモン〟の異名でも知られる勝ち気で覇気に溢れたポケモンのはずなのだが、目の前の彼ときたら酷くオドオドビクビクしていて、伏し目がちな眼は今にも潤み出しそうな気配を湛えている。何より、内股になった下半身に巻き付けた件の白い布をギュッと押さえつけ、しきりにそれを気にする仕草を繰り返しているのだった。 「それで、バルキーくんは何の用事でうちに来たんだい?」 ボサボサになった長めの黒髪をボリボリと掻きながら、男はバルキーに訪ねた。 「この〝ギド探偵事務所〟に何か相談事でもあるのかな?」 「はい……実は…………その………………」 男――即ち、この探偵事務所の主であるギドに見つめられ、バルキーは恥じらうかのように視線を逸らし、ためらいがちに唇を動かして、何とももどかしげに、どうにかこうにか、やっとの思いで言葉を紡いだ。 「……盗まれ、ちゃったんです…………」 「何を?」 「だから…………つまり………………」 頬を真っ赤に染めて、いよいよ目に涙を滲ませ、布を押さえている3本しかない指をモジモジと動かしながら、つかえた物を吐き出すようにして答えが打ち明けられる。 「ト……トランクス、を、です…………」 「分からないわね」 不意に。 明らかにギドの……男の声ではない、甲高く艶めかしい雌の声が。 「トランクス、って何かしら? もうちょっと分かりやすい、一般的な言葉で言ってちょうだいな」 それが、誰の声なのか。 それが、どこから聞こえてきているのか。 そんなことを考えている余裕などバルキーには一片もありはしなかった。 表面張力の限界を超えて溢れかえった涙に咽せながら、追い詰められたバルキーは壊れた声で悲鳴のように叫んだ。 「パ、パンツを! 僕……パンツを盗られちゃったんですよおおぉぉぉぉぉぉおぉっ!!」 「あら本当。可愛いお尻だこと」 その声の主は。 バルキーの足下で、笑っていた。 散らかったゴミの間から、紅く妖しく光る眼で腰布の中を覗き込みながら。 「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!?」 実に乙女チックな金切り声を上げながら、腰布を押さえてその場から跳びすさるバルキー。 その様子を楽しげに見据え、のっそりとゴミ屑を掻き分けてそれは起きあがった。 全長3m強、若草色の痩身に金色の唐草模様をまとわりつかせた、いくらゴミだらけとはいえこの狭い部屋の中にいてよく気付かなかったものだと思えるほど余りにも長大で絢爛たる姿だった。 「うふふ、ようこそ、美味しそうなお客様」 何とも不穏当極まる発言と、ナイフのように細く尖った口先からちろりと舌先を覗かせた悪戯気な表情とでバルキーを迎えたそれは、ジャローダと呼ばれるポケモンだった。 「私がこの〝ギド探偵事務所〟の真の主。人呼んで……」 ただのジャローダではない。背筋や襟周りなど、普通のジャローダなら落ち着いたブリティッシュグリーンであるべき箇所が、艶やかに、華やかに、孔雀色の光沢を煌めかせている。 そう――彼女は、色違いのジャローダだったのだ。 「〝青大将〟よ」 『からたち島の恋のうた・飛翔編』 ~青大将とパンツ泥棒~ ◎ 昨晩のことだった。 バルキー少年は&ruby(とび){鳶};色のトランクスを腰にまとい、暮れ切った闇夜の街をただ独り走っていた。 日頃から練習熱心な彼は、その時もトレーナーが眠り込んだ真夜中にモンスターボールを抜け出してランニングしていたのだった。特に最近は進化が迫っていることもあり、しっかりと鍛錬しておく必要があったのだ。 街灯が照らす光の間をくぐり抜け、裏路地の暗がりへと踏み込んだ、丁度その時。 「助けて! 助けてください!」 悲痛な声と共に決死の羽音を上げて路地から飛び出してきた者があった。 黒い羽に覆われたずんぐりとした身体。歪な髑髏を逆さにして腰に履いた、それは一羽のバルチャイであった。 「痴漢です! 暴漢があたしのオムツを脱がそうとしつこく追いかけてきて……」 「わかった。僕に任せて、君はここに隠れているんだ」 怯えて震えるバルチャイを建物の陰に隠して路地の奥に意識を向けると、ドタバタと慌ただしい足音が近付いてきた。 「ハァ、ハァ……おおい、そこのバルキーの坊主、こっちにバルチャイが一羽飛んで来やがらなかったか?」 闇の奥から荒っぽい声で問いかけてきたのは、直立した爬虫類系の小さな影。何か布状の物を頭に被り込んでいるように見える。ズルッグ……だろうか? 違うような気もするが暗くてよく判らない。何であるにせよ幼い雌ポケに狼藉を働こうなど、悪を許さぬ格闘ポケモンとして、また一匹の漢として見逃すわけにはいかないということだけは確かだった。 「お前のような悪党に語る言葉などない!」 「あぁ? 何言ってやがる……?」 「雄として恥ずべき下衆な行為は諦めて、さっさとここから立ち去れ! さもないと僕が承知しないぞ!!」 「わけの分からんことばかりぬかしやがって……やろうってのかてめぇ!」 険悪な闘気を交わし合い、バルキーは相手と対峙する。 もうすぐ進化を迎えるまで鍛えた身である。腕には自信があった。まずは猫騙しで牽制し、怯んだところにエビワラーだった父より受け継いだマッハパンチで一気にたたみかけてやる! 「行くぞぉぉっ!!」 トランクスを翻して暗闇の中の影へと一歩踏み出し、構えた両手を繰り出して柏手を炸裂させたその時、 衝撃と共に、意識が暗転した。 ◎ 「気が付いた時にはもう、丸裸にされてそこに倒れていたんです……」 くたびれかけた机を挟んでギドと青大将に向かい合って座り、涙ながらに語ったそれがバルキーの事情の一部始終だった。 「ふぅん……君が匿ったバルチャイさんもいなくなっていたんだね?」 「はい……」 確認したギドに、涙にひび割れた声がしゃくり上げながら答える。 「トランクスのことも問題ですが、それ以上に彼女があの悪漢に捕まっていたらと思うと心配で心配で……相手は雄の僕にさえこんな辱めを与えるような変態です。あのか弱げなバルチャイさんをどんなおぞましい目に遭わすつもりなのかなんて想像したくもありません……」 やにわにバルキーは、己がこぼした涙で濡れた机に両手を突いて頭を下げた。 「お願いします! いたいけな娘を付け狙った挙げ句僕のトランクスを奪い去ったあの破廉恥漢を、一刻も早く見つけ出して捕まえてください! ギドさん! 青大将さん!!」 「無礼者」 ぴしり。 突然、その下げた後頭部が孔雀色をした尻尾によってはたかれた。 「痛っ!? な、何するんですか!?」 「気安く〝青大将さん〟なんて呼ぶからよ。失敬な」 「は、はぁ!? いやあの、あなたが〝青大将〟って呼べって言ったんでしょう!?」 顔を上げたバルキーの頭上で、青大将はしかしその言い種とは裏腹に玩具を弄ぶような笑みを浮かべていた。 「仮にも大将の私に向かって〝大将さん〟だなんて、あなた元帥様にでもなったつもりなのかしら? たかが下賤の分際で。身の程をわきまえなさいな、この不埒者」 呆然となった顔面を、尻尾の先がぺちぺちと打つ。思わず勢いに流されるまま再度頭を下げてしまうバルキーだった。 「た、大変失礼しました……青大将〝閣下〟」 「うむ。苦しゅうない」 「……………………」 余りと言えば余りにも傲岸不遜。尊大を絵に描いたようなふてぶてしさに甚だ閉口したバルキーは、救いを求めるようにギドにすがりついた。 「ギドさぁん……何なんですかこのジャローダさんは!?」 「俺に訊かれても困るんだが」 「困らないでくださいよ! あなた以外の誰に訊けばいいんですか!? トレーナーでしょあなた!?」 「いや、別にこいつは俺の持ちポケってわけじゃない」 「はぁ!?」 「知らない内にいつの間にかここに住み着いていた、多分野生のジャローダだ。追っ払ってもしつこく居座ろうとするし、そのくせゲットしようとボールを投げると尻尾で弾き返してきやがる。どうにもこうにも食えない奴なんだよ。ちなみに青大将って言うのも名前じゃない。からかってそう呼んだらなんか気に入られて定着しちまっただけの呼び名なのさ」 苦笑いしながら、ギドは深々と溜息を吐いた。 「仕事の依頼が入る度に勝手に首を突っ込んできてな。いろいろ引っかき回されもするが、これで意外に強くて切れ者で総じて役に立ってるもんで、仕方がないから飯を食わせてやっているわけだ。ま、あの性格なもんで鬱陶しい事と思うが、放っておいても害は……」 「……ないんですか?」 「多々あるだろうが目を瞑ってくれ」 「そんな無責任な……」 ほとほと呆れ果てた眼で、バルキーはとぐろを巻いてふんぞり返っている孔雀色のジャローダを眺めた。 ギドは強いと言ったが、彼女は本当にそんなに強いのだろうか? とぐろを巻くと言ったら蛇型ポケモンにとっての戦闘姿勢。隙なく身を固め、敵が近づけば必殺必中の攻撃へと転じる攻防一体の構え、のはずだ。ところがこの青大将のとぐろの巻き方と見れば、だらしないというかしどけないというか、何とも自堕落に身をのたくらせている有様なのである。性格もそれ以上にのたくってねじくれ曲がっているようだし、とてもギドが言うほど頼りになるようには見えないのだが…… 「あ~、あいつのことはひとまず置いておくとして、だ」 青大将のいれた茶々のせいで盛大に脱線していた話を、ギドは強引に引き戻した。 「今回の件、君のトレーナーさんには?」 「え、はい。いえ……」 たちまちバルキーの面差しに影が射す。 「日頃トレーナーさんのおかげで強く鍛えてもらっているのに、僕の不覚でこんな恥辱を受けたなんて……とても言えません。今朝家に戻ったときにはまだお休みになっておられましたので、こうしてシーツを纏って『修行のためしばらく独りで出かけます。すぐに戻るので心配しないでください』と書き置きして出てきたんです……」 そう言った後バルキーは、腰布に隠して腹に巻いていた包みをギドに差し出した。 「どんな難事でも引き受けてくださるというあなたの噂は依然から聞き及んでいました。少ないですが僕の小遣いを貯めたものです。不足分は分割してでも支払いますので……」 「ふむ…………」 包みを受け取ったギドの脇から、にゅっと青大将が首を伸ばしてバルキーに一枚の紙を差し出す。 「はい。これ契約書。まずあなたの種族と名前、それにトレーナーさんの名前と住所、電話番号も忘れずにお願いね」 言われるままにすらすらと記入して行くと、電話番号を書いたところで突然謎の機械音がピポパポパっと、 「って、ちょっと何してるんですかあんた!」 「あ! こら、俺の携帯! いつの間に!!」 振り返ったバルキーとギドの目に映ったのは、尻尾の先で絡め取ったギドの携帯電話にたった今バルキーが書いたばかりの番号を打ち込んでいる青大将の姿だった。 「もしも~し。私、とある悪の組織の者で~す。お宅のポケモンを一匹預かってま~す。彼の命が惜しかったら身代金を現金で十億円今すぐ用意して――」 ◎ 青大将から携帯電話を引ったくって、向こうでパニックに陥っているトレーナーを宥めて事情の一部始終を洗いざらい正直に説明した後、代わったギドがトレーナーと契約内容について相談をしている間、バルキーは恨みがましい形相で青大将の澄まし顔をギリギリと睨み続けていた。 「私のおかげでトレーナーさんに言えなかった悩みを打ち明けられたからって、そんな感謝の眼差しで見つめなくていいのよ?」 「どんな角度から僕の視線を受けたらそんな錯覚ができるんですか!?」 「大切な人に隠し事なんてするもんじゃないわ」 「悪戯電話はもっとするもんじゃありませんよ!」 「だったら普通に悪戯だけするわ」 「や、ちょっと何を!? きゃあぁやめろやめて脱がそうとしないでぇぇっ!!」 「ほらほら、こんな布切れで隠し事をするのももうおやめなさいな」 「そっちが破廉恥行為をやめてください!!」 腰布に食いついて引き下ろそうとする青大将を、決死の手が押し留める。 「別に見せてくれたっていいじゃないの減るもんじゃなし」 「嫌です! 嫌って言ったら嫌です!!」 「『嫌』って言ったら嫌」 「……いや、嫌がられても」 「相手の嫌がることをやったりしたら駄目じゃない!」 「はぁ……すみません」 「申し訳ないと思っているのなら素直にさっさと脱いだ脱いだ!!」 「嫌あぁぁぁぁぁぁっ!!」 股から切れ上がったラインが露わになるまで白い布地をズリ下げられ、あわやこれまでという際どいところでギドが電話を終えて戻ってきた。 「正式に契約を交わしてきたぞ。お金はトレーナーさんが出してくれることになったんで、これ返しとくな」 「そ、それはどうも……それよりこれ何とかしてくださいよぅ」 「ほらほら私がトレーナーさんに全てを話すように計らったおかげでお小遣いが帰ってきたじゃない。感謝と尊敬の証に裸身を晒しなさい」 「あんた今さっき『感謝の眼差しで見つめなくていい』って言ったじゃないですか!!」 「そうよ。だから眼差しだけですまそうと思わないで行動で示しなさいって言っているの」 「感謝を示すのも脱ぐのもまっぴらごめんです! どうあっても脱がそうとする気ですかあんた!!」 「往生際が悪いわねぇ。大体どうしてそんなシーツを巻いてきたのよ?」 「裸で人前に出るのが恥ずかしいからに決まっているじゃないですか!」 「別に裸で来たってさぁ。ほら、こうやって」 と言いながら青大将は尻尾でバルキーの胴を巻くと、股間に頭を潜らせて鎌首をもたげた。 「私が褌代わりになってあげたのに」 「あんたなんか履いて人前に出たら余計恥ずかしいでしょうが!!」 「あん……尻尾の大事なトコロに布越しにあなたの膨らみが当たって気持ちいいわぁ」 「ちょ、ちょっと、何やってるんですか!? 擦り付けるのやめてください、早く離れてくださいってば!」 「もうこの布外しちゃってもいいでしょう?」 「よくなぁい!!」 「……それにしてもなぁ」 依頼者に対する青大将の傍若無人に黙って手をこまねいていたギドが、ここでようやく口を挟んだ。 「バルキーの腰の鳶色の所ってやっぱりトランクスだったんだな。初めて知ったわ俺」 「当たり前でしょう! 一体何だと思っていたんですか!?」 「いやぁ、ポカブやコリンクみたく毛皮の模様だとばかり」 「恥毛だと思っていたわけよね嫌らしい」 「誰もあなたほど嫌らしくはありません! もう離れてください!!」 しつこくまとわりつく青大将を引き剥がしすと、はぁっと一息吐いてバルキーは続けた。 「実際毛皮のような物ですよあのトランクスは。僕が生まれたときに父の着衣を切り取って繕われたもので、身体が成長する度に繕い直して履き続けてきた僕の分身……身体の一部と言っても過言ではない、それほど大切な存在なんです」 「なるほどねぇ。そういえば、厚手の布地のことを〝バルキー生地((Buiky=かさばった、の意。))〟と言うが、そういう由来があったんだな」 「えぇ……まさしくあれには僕のバルキーとしての存在の全てがかかっているんです。あれがなければ僕は特性の〝不屈の心〟を発揮できませんし、何より進化もできません。解いて進化後の衣服に編み込まないといけませんので。それに、いずれ僕に仔供ができたらその仔にも受け継がせていかなければいけないんです。何としても取り戻さなければ……」 「ふぅん。つまり、バルキーくんのパンツは一族先祖代々の血やら汗やらが染み込んでいる物だったのね」 とことん〝パンツ〟という呼称にこだわりながらも、青大将は納得した表情を浮かべた。 「そうなんです。解っていただけましたか?」 「道理で……アカグロい焦茶色をしているわけよねぇ」 「鳶色って言ってくださいよ鳶色って! 何ですかまるで汚い物みたいに!!」 「そんなのだったら、穴はいくつ開いているのかしら?」 「開いてませんよ失礼な!? 破れたらいつもちゃんと自分で繕っています!!」 「嘘ね。あなたのパンツには、確実に大穴が開いているわ」 「な、何を根拠に!?」 ぎょっと驚いて青大将に食ってかかると、 「〝実用的な穴〟が開いているのでしょう。違って?」 飄々と答えを返され、バルキーは苦虫を噛み潰したような顔で俯いた。 「あら答えてくれないの? ねぇねぇ、その穴はどんな風に実用的なの? 一体何を通すための穴なのか言ってみなさいよ」 「どうしてそんなことを答えなきゃいけないんですか!?」 「勿論、捜査の為よ。探し物の特徴を把握するのは捜査の基本じゃないの」 「興味本位、いや、セクハラ目的で訊いているとしか思えませんが!?」 「へぇ、セクハラなんだ。つまりその穴はそんなにえっちな理由で実用的ってことね」 まんまと獲物を釣り上げた表情で、青大将はねっとりと詰め寄る。 「一体どんなえっちなモノを通す穴なのかしらねぇ。さぁ教えなさいなさぁさぁさぁ」 「言いません! 言いたくありません! 迫らないでください! やめてぇ!!」 頬を朱に染めて涙目でもがくバルキーをさすがに見かねて、ようやくギドが助け船を出した。 「胴体を通す穴が一つ、脚を通す穴が二つは確実に開いているはずだな」 「んもぅ、答えをバラさないでよ」 がっつん。 青大将がギドに不平を述べるのと、バルキーがおでこを机上に力一杯叩き付けるのとが同時だった。 「まぁ、穴のことはどうでもいいわ」 「どうでもいいってあんた、捜査の基本とまで言っておきながら!?」 「とにかく、バルキーくんのパンツはそんな大事な一張羅だから、家に戻っても代えのパンツなんかなかったわけね。だからシーツを巻いてくるしかなかった、と」 バルキーの抗議をどこ吹く風とばかりに受け流し、青大将は独り勝手にふんふんと頷いた。 「さっきはそう聞いたのよ。『どうしてシーツを巻いてきたの』って。あなたは世にも恥ずかしい勘違いをしたみたいだったけど」 「前後の文脈を考える限り『どうして裸で来なかったのか』という意味以外にとるのは不可能です! わざと紛らわしい言い方をしておいて、間違えた方が恥ずかしいみたいに言わないでください!!」 「じゃあ、どうして裸で来なかったのよ?」 「聞き直さなくてもいいでしょう!?」 「ちなみに私のこれも身体の一部でありながら脱げちゃうんだけど」 と、青大将は自分の孔雀色の襟首に手をかけた。開いた胸元から白磁の素肌が微かに晒される。 「別に見られたって恥ずかしくなんかないわよ」 「あんたそもそも恥じらいなんて概念あるんですか!?」 「っていうか、お前のはただの脱皮じゃないのか……?」 冷静にツッコんだギドを無視し、青大将はまたもやバルキーに絡み付きだした。 「何なら今ここで脱いで見せてあげてもいいわよ」 「見たくありません! 絡むのもやめてください!!」 「見せてあげるからあなたも腰布を取っておあいこにしましょう」 「そんなのあいこでも何でもありません! 僕は見せるのも見るのも嫌です!!」 「何よつまんない。まぁそうよね、ベイビィポケモンだもんね。お仔様なんだから興味ないのも当然よね」 「進化したってあなたみたいな雌なんか絶対お断りです!!」 「そういやもうすぐ進化なんだってな。何に進化するかはもう決めてあるのか?」 突然振られたギドの問いに、青大将を振り解きながらバルキーは頷いた。 「はい。父から受け継いだマッハパンチと不屈の心を活かすため、カポエラーになろうと思っています。僕らはイーブイさんたちのように道具や場所などの外的要因で進化先を変えられるわけじゃなくて、純粋に鍛えた肉体の能力で進化先が決まってしまうので日々の調整が大変なんですよ。特にカポエラーの場合、心体のバランスを徹底して研ぎ澄ます事が求められますから尚更です」 「ねぇねぇ、カポエラーって言うと逆立ちしてくるくる回るあれのことよね?」 そう訊いてきた青大将は、いかにもまた何か新しいからかいの種を見つけましたよとばかりに紅い瞳を爛々と輝かせていたのだった。嫌な予感しかしない。 「……そうですが、何か」 「ちょっと試しに今ここでそれやって見せてよ。今どれぐらいバランス取れてるか見てあげるから」 「できません! 無茶言わないでください!!」 「あらどうして?」 「解ってるくせに!! 今逆さになったりしたら、腰布が落ちちゃうじゃないですか! どうせそれが目当てなんでしょう!?」 「勿論よ。腰布を取らなきゃ真ん中の脚が見えないじゃない」 「あれは尻尾です! まだ進化してないから生えていません!!」 「何だ、生えていないの。まぁそうよね。ベイビィポケモンだもんね。タマゴ作れないのよね」 「あなたが想像しているモノまで生えていないわけじゃありません!!」 挑発されて反射的に言い返し、咄嗟に口を押さえたが時すでに遅し。青大将がこの発言を聞き流すはずもなく、大喜びでバルキーに飛び付いて腰布を強奪しにかかった。 「ほらほら生えているなら見せなさい!!」 「嫌あぁぁぁぁぁぁっ!! もう嫌! どう考えてもトランクス泥棒よりあんたの方が悪質じゃないですか! ふざけてばっかりで捜査どころか話も一向に進まないし!? 他を当たりますからもう帰らせてください!!」 「そう言われてもなぁ……もうトレーナーさんと契約を交わしちゃったし」 さすがに申し訳なさそうな顔になってギドが頭を掻く。 「第一、今更逃げ帰ったところでこいつがお前さんのことを飽きるまで追いかけ続けるのは変わらんぞ?」 「……………………」 ギドの言葉を青大将にうんうんと肯定され、バルキーは絶望的な表情で竦み上がるしかなかった。 その肩にギドの手が置かれる。 「トランクスの奪還とバルチャイの保護は必ず果たしてやるから、こいつに関してはもう、毒蛇に噛まれたと思って諦めてくれ」 ……どくへび!? 「の、野良犬に、じゃなくてですかぁ!?」 「いやいや、野良犬と毒蛇とでは全然意味が違うぞ? どちらも不幸な遭遇だからって言うのは一緒だけどな、野良犬に噛まれたと思ってっていうのは責任を取らせたくても取らせようがないからって意味で、毒蛇の場合はもう助からないからと」 「それ以上聞きたくなぁい! 助けてぇぇぇぇぇぇっ!!」 勿論本来ジャローダは&ruby(コンストリクター・スネーク){巻き付き型の蛇};で毒などは持っていない((現実の蛇であるアオダイショウも同様に毒はない。))のだが、ここにいるジャローダの青大将は生半可な毒ポケモンよりも毒々しい性格の持ち主なのだった。 「というわけで、諦めて脱いで逆立ちして回りなさい!!」 一瞬の隙をついて引っ張った青大将の手が、とうとうバルキーの尻を守っていた白いシーツを解き開けた。 「きゃひぃぃぃぃぃぃっ!?」 羞恥の悲鳴が跳ね上がる。最早腰布が隠しているのは辛うじて手で押さえ付けているその部分だけになってしまったのだ。 「ほらほら、手を離した方が楽になるわよ」 「だめぇぇぇぇぇぇっ!? 見ないでぇぇぇぇぇぇっ!!」 「もう、そんな嫌がってばっかりいるから脱がしたくなっちゃうんじゃないの。『脱がしてください』って言ってくれるのなら望み通りにしてあげるのにっ!」 「どっちにせよ結局脱がすんじゃないですかぁ!? やめてよぉっ!!」 もみ合っている内にバルキーは押し倒されて床に転がされ、強引に脚を開かされて押さえ込まれてしまった。後は力任せに布を引っ張って奪い取るだけで、世にも無惨な情景の出来上がりである。 「ほ~ほっほっほ! 観念おし!!」 「あーーれぇぇぇぇぇぇっ!?」 その時。 「邪魔するぜ!!」 との声を轟かせて、事務所の扉が勢いよく開かれた。 「あ……………………?」 突然踏み込んできたそのポケモンは、そこで繰り広げられている青大将とバルキーのあられもない痴態を目の当たりにしてしばし硬直した後、 「悪ぃ。邪魔したな」 とそそくさと回れ右をして出て行こうとした。が、 「ちょおっと待ったあぁぁぁぁぁぁっ!?」 そこをバルキーの決死の叫びによって呼び止められたのだった。 「そいつ! そいつですよギドさん!! バルチャイさんを付け狙い、僕のトランクスを奪い取った変態ズルッグは!!」 「あぁ? 何だって?」 振り返ったそのポケモン――覆面で顔をすっぽりと覆った、直立した茶褐色のトカゲ型ポケモンは、声からしても昨晩バルキーと向かいあった相手に違いなかった。だがしかし。 「あ! お前よく見りゃ夕べ邪魔しやがったバルキーの小僧じゃねぇか!? おいおい冗談じゃねぇぞ? 何でオイラがてめぇのトランクスを盗ったことになってんだよ!? 第一、一体誰がズルッグだ誰が!?」 自分を指差して、そいつはカンカンに声を張り上げた。 「よっく見やがれぃ! オイラはカラカラだよカ・ラ・カ・ラ!!」 「……いや、カラカラにもあまり見えんのだがね」 バルキーの時とそっくり同じツッコみをギドが入れる。 言われてみれば、ズルッグなら頭以上に特徴的な下半身の弛んだ皮がない。短いがガッチリと筋肉で膨らんだ土色の手足は紛れもなくカラカラの物だ。しかしカラカラ最大の特徴である骨製の仮面は被っておらず、代わりに頭部をすっぽりと厚い布切れで覆い隠している。一体このカラカラ、骨の仮面をどうしてしまったのだろうか? 骨の、仮面を。 骨。 「あっ…………」 バルキーの脳裏に、昨晩の情景がフラッシュバックする。 『暴漢があたしのオムツを脱がそうとしつこく追いかけてきて……』 そう言ってすがりついて来たバルチャイが、腰に履いていた歪な髑髏。 ズルックが、もといこのカラカラが脱がそうとしていたという、鼻先の尖ったあの髑髏は、つまり。 「まさか、それじゃひょっとして……?」 「嘘ね」 青大将の鋭い舌先が、バルキーが口にしようとした推論を遮った。 「な、何でぃジャローダの姉ちゃん。オイラ何にも嘘なんか言ってやしねぇぞ……?」 訝しげに反論しようとしたカラカラを、 「お黙り! 青大将閣下とお呼び!!」 ピシャッ!! っと鞭を鳴らすように床を長大な尻尾で叩いて沈黙させると、青大将は弄んでいたバルキーを放り出して新たな&ruby(おもちゃ){獲物};に向き合った。 「うふふふふ、下賤の者共の目は欺けても、この私の目は誤魔化せなくてよ」 「い、一体何のこってぇ……?」 異様な気配に竦み上がったカラカラを尻尾の先で指し示し、青大将は喜色満面の笑みを浮かべて高らかに言い放った。 「もしあなたが、本当にズルッグだって言うのなら!」 「待てやこらぁっ!? だからカラカラだっつってんだろぉ!?」 「私のリーフストームぐらい、余裕で受け止められるはずだわ!((レベル差を考慮しなければHP振りだけでも1発は耐えられる。))」 「ちょっとてめぇ話聞けや!? ……って、リ、リーフストーム!? うわ、やめやめ」 「もっとも、私の推理通りにあなたがカラカラだったりした場合は、まず一溜まりもないでしょうけどね!((レベル差がなければ特防特化でも確定1発。ついでに言えば、レベル28でガラガラに進化できるカラカラが最低レベル36のジャローダよりレベルが高い可能性は考慮しづらい。))」 「ったりめーだぁ! 耐えられるわけねーだろんなもん!? 冗談よせよ洒落んなってねーよ!? ぎゃああぁっ助けてくれぇっ!!」 「問答無用!! リィィィィィィッフ……」 つり上がった口の端から漏れた涎を舌で拭いながら、青大将は自らの襟首に手をかけて勢いよくそこを開き、剥き出しの牙のように白くギラつく胸元を晒す。 「ストオォォォォォォォォォォムっ!!」 瞬間、襟の内側から色香を伴って虚空に散った無数の葉が、爆発的に巻き起こった旋風に乗って舞い踊り、深緑の奔流となってカラカラに襲いかかった。 「ぎょえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」 それこそ一溜まりもあるはずがなかった。キリキリと吹き飛ばされたカラカラの身体は、木の葉の嵐に揉まれて全身ズタズタになるまで切り刻まれ、血と小便とその他色々な物を撒き散らしながら扉のすぐ外の壁へと叩き付けられた。 壁にめり込んだカラカラの頭から、覆面だった物の無惨な切れ端がはらりと床に落ちる。 咄嗟にバルキーは目を背けた。多分見ることを許される姿ではなかった。 「ほーほっほっほ!! やっぱりカラカラだったようね! 悪は滅ぼしたわ! これにて一件落着!!」 「あのー、すみません。彼が悪漢だったって言うの、多分僕の勘違いだったみたいなんですけど…………?」 「気にするな。理屈も事実も関係ない。あれは単にリフストをブッ放す口実が欲しかっただけだ」 やれやれ、とお手上げのポーズをするギドに、バルキーが嫌悪と罪悪感混じりの強ばった顔を向ける。 「ど、どうするんですか、彼……」 「何、心配はいらん。復活草ぐらい持ち合わせている」 「元気の塊にしてあげてくださいよ!? 物凄~く苦いんですよ復活草って!? っていうかそういう問題なんですかぁ!?」 バルキーの悲痛な叫びと青大将の勝ち誇った高笑いが、壮絶な惨状の中に響き渡った。 ◎ 「……つまり、君は件のバルチャイに仮面を奪われてしまったんだね?」 「あぁ、そういうこった。オイラがここにきたのも、そいつを取り戻してもらうことを頼むためでぃ」 とカラカラは、ギドから新しく貰った正直余り綺麗ではないボロ布を巻き付けた頭を頷かせて答えた。 苦いが超強力な漢方薬である復活草を口の中に流し込んで悶えさせながらも生き返らせた後、彼からも依頼として話を聞くことにしたのである。 カラカラのトレーナーにも連絡を付けて正式に契約を結んだ。カラカラも自分が受けた屈辱をトレーナーには内緒にしていたらしく連絡するのを嫌がっていたが、バルキーが自分が青大将にされた事を説明するとあっさり大人しく従った。あの悪魔に禄でもない悪戯をされるぐらいなら自爆した方がまだマシだと賢明に判断したようだ。 契約料はかなり安いものだった。バルキーと交わした契約も非常に安かったがそれよりもっと値を下げていた。あんな目に遭わせたのでは無理もないだろう。ギド探偵事務所がどんな難事でも引き受けるのは、青大将の悪評のせいでそうでもしないとやっていけなくなるからだったのだとバルキーは納得した。 「あのバルチャイは最近この当たりをうろつきだした野良なんだがな。度々ポケモンフーズをかっさらわれてるもんで辟易してたんでぃ。んで昨日の夕方、買い物帰りに背後から襲われてあっという間に仮面を差し押さえられちまった。あんのクソアマ、オイラの上に乗っかって自分が履いていた臭ぇ髑髏を被せてきやがって……」 「あらまぁ、幼女が履いていた物を頭に被って匂いまで嗅いだわけぇ? やっぱり変態さんだったのねあなた」 カラカラの背後で、青大将がニヤニヤと嘲笑した。 彼女の襟は先刻リーフストームを放った際にはだけられたままで、冷ややかに白い肩や胸元がすっかり露わになっていた。元よりのしどけないとぐろの巻き方と相まって、さながら娼婦を思わせる淫猥な雰囲気を醸しながらのたくっている。 リーフストームは肉体の消耗が非常に大きい技。まだその反動が残っているのだろう。だったら少しはしおらしくなってくれても良さそうな物なのに、全くテンションが落ちていないどころかますます図に乗ってバルキーやカラカラに絡んでくる。哀れな依頼者たちはすっかりげんなりとしてしまっていた。 「青大将のことは気にしないで、話を続けてくれ」 「と、とにかくだ。オイラが被せられたもんを脱ぎ取ったときには、あいつは既に、奪い取った仮面を……オイラが生まれたときにお袋が作ってくれた((図鑑説明だと母親の遺骨だとのことだが、育て屋で孵化した場合との整合性が取れないのでこのように解釈した。))、一生大切にしなければならないオイラだけの仮面を……こ、事もあろうに…………」 「オムツにしちゃってたのよね」 「そうなんだよおぉぉぉぉぉっ!!」 追い打ちをかけるようにズバリと言われ、カラカラは頭を抱えて爆涙した。 「なんて惨い! そんな大切な物を眼前で汚辱するなんて……」 身につまされたバルキーが涙ながらに憤激する。その横で、 「まぁあれね。ありがちな話よね」 「割とよくあるケースだな」 と、青大将とギドは身も蓋もないことを言い合っていた。 「……それで、やはりあの時僕からトランクスを奪ったのもあなたじゃなかったんですね?」 頬を拭いながらバルキーが訊くと、カラカラは顔を起こして苦々しく吐き捨てた。 「ったりめーだ! オイラにゃそんな趣味はねぇよ!! それもあいつの仕業さ。オイラがてめぇの猫騙しで怯まされた瞬間、建物の影からあのバルチャイが飛び出しててめぇを背後からつつき倒したんだ! 坊主が崩れ落ちるよりも早く、奴はその脚からトランクスを剥ぎ取ってやがった。そして倒れたてめぇをオイラへの足止めに転がしてまんまとトンズラこきやがったんだよ!!」 ちょっと考えれば分かることだった、とバルキーは歯噛みする。あの時猫騙しは確実に決まっていたのだ。〝精神力〟の特性を持っているわけでもあるまいし、完全に怯み上がっていた彼に何かできたはずもない。あの場にいてバルキーを襲撃できたのは、完全に意識の外にいたバルチャイだけだ。 「申し訳ありません。騙されたとはいえ濡れ衣を着せた挙げ句、そんな妨害にまでされてしまって……」 「分かってくれりゃいいんだよ。信じてくれるんだな?」 「えぇ。証言に矛盾はないようですし、それに……」 青大将の方を一瞥した後、バルキーは空しく天井を仰いだ。 「つい昨晩まで僕は、雌という存在は全て清楚で可憐なものであるという幻想に捕らわれていました。だから通りすがっただけのあのバルチャイの言い分を何の疑いも持たずに信用してしまったんです。けれど今は……」 「皆まで言うない。こいつを見りゃ誰だって嫌でも幻想から目が覚めちまうわなぁ……」 この場にいる唯一の雌を睨みながらカラカラがぼやき顔で同意すると、その雌はいかにもわざとらしくすまなそうな顔を作った。 「そうだったの……私という究極この上なく完璧を極めた清楚で可憐な乙女の中の乙女を目の当たりにしたバルキーくんは、私以外の全ての雌に対して幻想を求められなくなっちゃったのね。あぁ何て罪作りなワ・タ・シ」 「いや違うから。あなた幻滅のモデルケースだから!!」 「てめぇの罪作りはまんま字面通りだろーが!!」 自己陶酔に浸りながら身をくねらせる青大将に向かって同時にツッコみを入れた後、2匹の雄は改めて向かい合った。 「あー、オイラも坊主に謝んなきゃな。夕べバルチャイに裸にされて転がされたお前を放っぽって行っちまった。悪かったよ」 「いえ、勝手に割り込んで邪魔をした僕なんか捨て置くのが妥当でしょう。奪われた物を追いかけることを優先したあなたの気持ちはよく解ります。僕が奪われたトランクスも同様に、父から貰った大切なものですから……」 どちらともなく、バルキーとカラカラは互いの手を取り握り合った。 「絶対に取り戻そうな。どんなにか惨い扱いを受けているかもしれんが……」 「えぇ、必ず。例えどんなことになっていたとしても!」 誓いを込めて、力強く視線を交わし合う。 ――深く、深く絆を絡め合っている内に、やがて2匹の思いは友情から愛情へと昇華していった。 握り合っていた手は解かれると同時に、互いの胴へと回される。2匹のシルエットが、一つになる。 百花繚乱の花畑が、2匹の周りで咲き乱れているかのようだった。心臓の鼓動がとくん、とくんと熱く激しく共鳴した。 『バルキー……』 『カラカラさん……』 もう、止まらない。 バルキーはカラカラを抱き上げると、机の上にそっと横たえた。 カラカラは瞼を閉じ、その身の全てをバルキーに委ねる。 バルキーの細くたおやかな手がカラカラの柔らかなお腹を優しく愛撫し、やがてその指先は尻尾の付け根に隠されたクレヴァスをこじ開けて中に潜む雄の棍棒を、 「やめなさあぁぁぁぁぁぁい!! 何ナレーションを乗っ取ってとんでもない妄想を垂れ流しているんですか!?」 「腐ってんのは根性だけにしとけや!! ってかオイラが受けってどういうこった!?」 〝――深く、深く〟から〝雄の棍棒を、〟までは全て青大将による妄想である。騙されることのないように。 ◎ 「さて、依頼内容を整理しようか。カラカラくんの骨仮面とバルキーくんのトランクスを奪い去ったバルチャイを見つけ出し、奪われた物を取り返す。これが正しい依頼でいいんだな?」 もういい加減、青大将が支離滅裂に引っかき回した状況をギドが強引に引き戻すというパターンに慣れてしまった。そんな自分に気付いてしまい、ますます鬱になる2匹であった。 「あぁ、それはそれで間違いないんだがな、しかしやっかいだぜあのバルチャイは。丸っこい体の割にやたらはしっこくって、ストーンエッジで仕留めようとしてもヒョイヒョイ躱されてトンズラされちまう。何とか対策立てて取り組まねぇといいように弄ばれちまうぞ?」 過去散々いいように弄ばれてきたのであろうカラカラの経験則に、バルキーもギドも険しい顔をして考え込んだ。 「私にいい考えがあるわ」 「難しいですねぇ。相手が飛行ポケモンとなると、僕は弱点を突かれますしカラカラさんの地面技も届きませんし」 「そもそもどうやって彼女を見つけ出すかも考えなくてはいけないな。下手に動き回るとそれだけで向こうに先に警戒されかねない」 「私にいい考えがあるわ」 「怖いのは、追いつめられたバルチャイが僕のトランクスやカラカラさんの仮面を人質に取ることです。奪還が最優先目的である以上その手に出られたら手も足も出ませんよ」 「ふぅむ、何かされる前に速攻で片を付けるか、それとも何らかの手段で動きを封じるか……」 「う~ん、何かうまい手は思いつかねぇもんかなぁ?」 ◎ ギド探偵事務所は、街のメインストリートから少し外れた、飲食店を中心とした店々の並ぶ裏通りに建つ10階建てビルの5階にある。 昼前である現在、通りの飲食店街にはそこそこに昼食客で賑わっており、また晴天にも恵まれた今日は周辺のビルのベランダで洗濯物を干している人影や日向ぽっこしているポケモンなどの姿もそこかしこに見られていた。 そんな景色の中で、突然あるビルの中程にある窓が割れんばかりの音を立てて激しく開かれた。 けたたましく響いた音に驚いて、店の客たちや周囲のビルの住人たちが一斉にその窓を振り返る。 と、孔雀色の襟を着崩したジャローダが窓から首をひょろりと伸ばし、通り一面、いや街中にすら染み渡るのではないかと思えるほどの大声で朗々と、 「さぁさぁ皆様、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!! こちらに世にも珍しい〝パンツを履いてないバルキー〟と〝仮面を付けてないカラカラ〟くんを展示中!! 今ならお一人様につき一時間千円ポッキリ……」 「わああああっ!? 待て、待ってくれぇ!? 分かった、無視したことは謝る!! オイラたちが悪かった!!」 「ちゃんと聞きます!! どうか聞かせてください!! 拝聴いたします青大将閣下!!」 ◎ 「あらあら、そんなにも期待されちゃうなんて。これもひとえに私の特の成せる業なのよねぇ」 開かれたままの窓から吹き込んでくる涼やかな風に悠然と襟を流しながら、青大将は禍々しくもにこやかな顔で振り返った。 バルキーとカラカラはがっくりと跪いた姿勢でぶるぶると震えていた。『そりゃあ悪徳の方だろう……』とツッコむ気力も枯れ果てていた。 「……なぁ、バルチャイより前に、このアホ大将を退治してもらうように依頼を変更できねえもんかなぁ?」 「そんな事ができるぐらいなら、とっくにギドさんが自分でやってると思いますよ……」 愚痴をこぼし合う2匹の肩を、ギドが背後からポン、と叩いた。 「まぁ、そういうことだ。悪いが毒蛇に噛まれたと思って諦めてくれ」 地の底まで落ち込むような深い深い溜息が揃って吐き出された。 「で? そのいい考えってのは一体何なんだ? 頼むからもう悪ふざけはやめてくれや!?」 力を振り絞って立ち直ったカラカラの詰問を受け、青大将はいかにも勿体ぶり気にニヤリと嘲笑う。 「まず、見つけ出す方法についてだけど……」 ふんふん、と2匹が身を乗り出すと、 「それは後のお楽しみで、先に動きを封じる手段から教えるわね」 とあしらわれ、盛大にズッコケさせられた。 「あ~ん~た~はぁぁぁぁぁっ!?」 「ざっけんなっつってんだろぉ!?」 「慌てなさんな、ちゃんと後で説明するわよ。でもあなたたち、本当に教えて欲しいの?」 「ったりめーだ!!」 「どっしよっかな~」 ますます勿体ぶってとぼけながら2匹を見下ろす青大将。と、その紅い視線に力の気配を感じ取り、バルキーははっと声を上げた。 「もしかして……〝蛇睨み〟!? 閣下は蛇睨みが使えるのではないですか!? もしそうならバルチャイを見つけ次第それで動きを封じれば……?」 蛇睨みは強力な眼力による威嚇によって相手の神経を麻痺させてしまう技。((技説明ではお腹の模様で威嚇するとあるが、これはアーボック専用の説明文だろう。))もし使えるなら、バルチャイの逃亡を阻止するとともにトランクスや仮面を盾にされることも防ぐ強力な武器になる、はずなのだが。 あくまでも不敵に胸を張り、いけ高々と青大将は答えた。 「ふん、まさかあなた、私がそんなありきたりな手段を言い出すとでも思っているわけぇ?」 ……使えないらしい。 ギドの方を振り向いて確認すると、肩を竦めて首を横に振った。やっぱり使えないようだ。もっともジャローダが蛇睨みを使えるかどうかは遺伝資質に関わることなので使えないからと言って嘲る所ではないのだが、だったら素直に使えないと言って欲しいものだと呆れるバルキーとカラカラであった。 「だから、ありきたりじゃなきゃどんな手段なんですか!? もういい加減教えてくくださいよ!?」 「もう一度確認するけど、本当の本当に教えて欲しいのね?」 「さっきからそう言ってんだろぉ!? てめぇ、こっちが無視したときはあんだけ言いたがった癖にいざ聞こうとしたら勿体ぶりやがって、ひねくれんのもいい加減にしろよ!!」 「それで本当にバルチャイを捕まえられるのなら、どうか教えてくださいお願いします!!」 詰め寄るカラカラと頭を下げたバルキーを面白そうに眺めながら、ようやく青大将は薄ら笑いを続ける唇でその技の名を告げた。 「〝コブラツイスト〟よ」 「……はぁ? 何じゃそりゃ。技の名前か? 聞いたこともねぇが」 カラカラは首を捻ったが、バルキーの方はさすがに格闘家のタマゴだけあってその技のことを知っていた。 「人間のプロレスラーが使う固め技ですね。蛇が相手に巻き付くように相手の全身を極めて痛めつける技です。あぁ、なんだ、要するに閣下がバルチャイに巻き付いて動きを封じてくださるということなんですか? コブラツイストは別名〝&ruby(グレープヴァイン・ホールド){葡萄のツタ固め};〟って言うぐらいですし」 「なんでぇ、そんなもん普通に巻き付きでいいじゃねぇか。何も格好付けて人間の技の名前を付けなくたってよぉ?」 拍子抜けした様子の2匹に、青大将はチッチッチ、と尻尾を振って否定した。 「ただの巻き付きと同じと思うなかれ。コブラツイストは掛けるとき後肢で相手の下半身を絡め取るの。つまりその点がミソなのよ。バルチャイを捕まえたとき、オムツを確保する手段が必要なのでしょう?」 「オムツ言わんでくれぇっ!!」 「……でも、確かにその点では有効そうに思えますね」 思案深く頷いたバルキーの前で、はだけられた肩が竦められる。 「そうよね? でも残念なことに、私のこのスマートで無駄のない洗練された下半身ではバルチャイにコブラツイストを掛けることなんてできないわ」 「そりゃ掛けようにも掛けるべき脚がないんじゃなぁ」 挑発気味にカラカラがからかうと、クスリ、と意味深な笑みが青大将の口元に浮かんだ。 「そこなのよカラカラくん、だから私は、後肢も尻尾も持っていてバルチャイと体格の近いあなたにコブラツイストをかける役を頼もうと思っていたの。やり方は今から私が相手になって教えるから……」 「やなこった!!」 「企みが見えましたよ! 技を教えると称してカラカラさんに巻き付いて悪戯する魂胆でしょう!!」 「ひっど~い。これでも一生懸命バルチャイに盗られたパンツとオムツを奪い返せるよう協力しようとしているのよ?」 「だからオムツ言うなっつってんだろぉっ!!」 「これまで散々僕らのことを玩具扱いしておいて、今更そんなことを言ったってもう騙されませんからね!」 疑いの眼差しに晒されて、青大将はすっかり拗ねた顔をプイっと背ける。 「いいわよいいわよ。そこまで疑うのなら私から技を掛ける手本を示すのは諦めるわ。指示するからカラカラくんが私にコブラツイストを掛けてみなさい。心配ならバルキーくんが監視してればいいわ、体得はしていなくたってどんな技かは大体知っているんでしょ?」 「はぁ……一応知ってますけど」 「なら問題ないわよね? それこそこれまであなたたちを好き放題いぢめてきた私を締め上げるチャンスをあげようって言っているのよ。それともカラカラくんは、そんな短い手足じゃ私を固める自信がないのかしら?」 「む……そこまで言われちゃやるっきゃねぇな」 「か、カラカラさん!? やるんですか!? 閣下のことだから絶対まだ何か裏があるとしか思えませんよ!?」 バルキーが心配げに引き留めようとしたが、完全に挑発に乗ったカラカラを留めることは叶わなかった。 「奴が何か変なことをしてきそうになったら指摘頼むぜ。すぐ離脱すっからな。見てろぉ、青大将もあのバルチャイも雑巾みてぇに絞ってヒィヒィ言わせてやっからよ!!」 意気揚々と腕を振るって、カラカラは青大将の脇に立つ。 「やあねぇ、雌の仔に絡みついてヒィヒィ言わせようだなんて本当にえっちなんだから」 先刻散々破廉恥行為を働いて僕にヒィヒィ悲鳴を上げさせた癖にどの口がそれを言うか、とバルキーは憤慨したが、下手に煽ると特訓の邪魔になると判断し黙っておいた。青大将が何を考えているのかは気にかかるが、フリでも真面目にやろうとしているうちはやらせておく方が無難だろう。 「バカぬかしてねぇでとっとと技の掛け方教えろや!」 「はいはい。それじゃまずは、私の肩から首を両腕でロック……するのは体格的に無理だから少しアレンジして、背筋を両腕と頭でロックして締め上げなさい」 アレンジ、と言うのが少し引っかかったバルキーだったが、実際体格差があるのだからこれぐらいは仕方がないだろう。 「こ、こうか?」 とカラカラが青大将を右後ろ脇から抱き竦めた姿は、普通に背面式のベアハッグに見えた。 「そうそう。で、そこから左脚で私の腰の上を跨ぐようにして押さえ込むの」 「よっと」 言われたとおりにするカラカラ。脚のないジャローダの腰がどこにあるのかは判りづらいが、カラカラが組み付いている箇所のすぐ下当たりがそうだったらしい。 「尻尾を私の尾の下に差し入れて、あなたの左脚と尻尾で私の腰を挟み込む感じで。そうよ、上手いわ……。後は軸脚に力を込めて、腰に掛けた左脚を支点に私の身体を捻り曲げてちょうだい……っ!」 「むん……っ!!」 カラカラの身体を中心にして、青大将の長い身体がくの字に反り返る。 これが、コブラツイスト……体格の関係で上半身のクラッチが下よりだったり、尻尾を掛け手の尻尾でクラッチしていたリなどのアレンジが加わってはいるものの、バルキーが知っている同じ名の技の特徴は確かに踏襲している。なるほど、この技がバルチャイに極まれば抵抗も逃亡も防げるであろうし、腰に掛けた脚で髑髏の仮面をガッチリと押さえ付けてもおける。巧く使えばそのまま引きずり下ろすことさえもできそうだ。 それはいい。それは、いいのだが。 しかし、これは。 「…………ツッコんでもいいか?」 「どうぞズコンとツッコんじゃって」 「ツッコんじゃダメえぇぇぇぇぇぇっ!!」 ようやく目の前で何が行われているかに気付いたバルキーがツッコんだ。その顔がオクタンの如く紅潮している。 「まんまとしてやられましたよ青大将閣下!! 真面目にやっているうちはなんて思った僕が愚かだった! あなたの行動に真面目なんて最初からなかった。カラカラさんにこの技をあなたへと掛けさせること、それ自体が罠だったんだ!!」 「へぇ、どんな罠なのかしら? はっきり言ってみなさいな。この〝コブラツイスト〟以外の何ものでもない状態が、つまり〝何〟だとあなたは言いたいわけぇ?」 愉悦に満ちた顔でとぼける青大将を、怒りと羞恥で震える指先で指し示してバルキーは叫んだ。 「そんなの見たまんまじゃないですか!? どう見たって今のあなたたちの格好は、こ、こ、こ、こ…………」 どもりまくってそれ以上言えない純情なバルキーの代わりに、ギドがカラカラと青大将の状態をはっきりきっぱり解説した。 「古式ゆかしき伝統作法に則った、爬虫類系の交尾姿勢だな」 ちろり、と青大将は舌を見せた。 つまり、それが答えだった。 「うわああっ、やっぱりそうだったのか!? ハメやがったなこの色狂いめ!!」 「いやねぇ、私は色違いよ」 「色狂いで正しいだろう」 「正しくちゃ駄目でしょうギドさん! あぁ、カラカラさんすみません。尻尾のない僕にはこの姿勢がそういうものだって判りにくかったんです。っていうかあなたももうちょっと早く気付いてくださいよ!?」 「しゃあねーだろオイラ経験ねーもん!?」 「僕だって童貞ですけどさすがに極まった状態を見たら気付きましたよ!?」 「あらあら、バルキーくんったら、カラカラくんの初めてを私に盗られそうだからってそんなに妬かないでよ」 「またそんな腐妄想を! 勝手に僕を変な趣味にしないでください!!」 「私をカラカラくんに先に盗られそうだからってそんなに妬かないでよ」 「正直そんな趣味に見られることの方がもっと不快です! 妬いて怒っているわけじゃありません!!」 「あらそうなの。だったらお仔さまは後学のためにも黙ってオトナのすることを見てなさいな。ふふっ」 興奮した青大将の紅い瞳がギラつき、妖しい光を放って背の上のカラカラを射抜いた。 「じょ、冗談じゃねぇ! ウワバミなんぞに童貞捧げる趣味はねーや!!」 その視線に怖気立ち、カラカラは慌てて身体を引き剥がそうとする。が、 「うぐっ!?」 しかし、ピクリと身を痙攣させてそのまま静止した。 「うふふ、棍棒が膨らんできたわよ。口では嫌がってもここは正直なのね」 「ち……違う……嘘だぁ……っ!?」 青大将の腰に絡みついたカラカラの尻尾の付け根がピクピクと蠢き、触れ合った青大将のその部分もぐちゅりと嫌らしい音を立てて蠕動した。 「あん、入ってきた……大きいわぁん……」 「ひ、ひいいっ!? 吸い込まれちまう!? 吸い取られちまう!? た、助けてぇっ!?」 「ちょ、ちょっとカラカラさん!? 何をいつまでそんなノリツッコミをやっているんです!? さっさとオリればいいじゃないですか!?」 戸惑って困惑した声を掛けるバルキーに、カラカラは絶望的な目を向ける。 「そ、それが……さっきこいつの目を見た途端、か、身体が思うように動かなくなっちまって……」 「もう、言い訳しちゃって。私の雌しべの感触が気持ち良過ぎておっきして離れたくなくなっちゃったって素直におっしゃい」 「違うあぁぁぁぁっ!?」 その時青大将が快感に身を揺すり、拍子でカラカラの身体を支えていた右足が地面を離れた。固まったままで。まるで、麻痺でもしているかのように。 麻痺。 目を見た、途端。 「え? あ、あれっ!? まさか、これって……!?」 驚愕の顔でバルキーがギドの方を振り仰ぐと、しれっとした頷きが返ってきた。 「〝蛇睨み〟だ。完全に極まってしまっているな」 「ってちょっと、使えたんですか蛇睨み!?」 「あぁ。使えるぞこいつ。さっき俺はジェスチャーで示したつもりだったんだがな。遠回しに使えないみたいなことを言っているけれど、実は使えないわけじゃないから信じるな、と首を横に振って」 「解りづらいですよ!? ちゃんと口頭で言ってくださいよ!? 蛇睨みが使えるのなら、こんな固め技の特訓なんて意味ないじゃないですか!?」 「勿論、ないだろう」 「いやあの、勿論ってそんな当然のように……」 「ちなみに『後肢がないからコブラツイストが使えない』とか言い訳していたが勿論これも出鱈目だ。別にコブラツイストの体勢にこだわらなくても、尻尾で相手の上体に絡み付きながら手で履いている物を取れば同じことだからな。現にあいつはさっきまでそうやってお前さんの腰布を剥ぎ取ろうとしていただろう?」 「あ゛~っ当然だったっ!? しまった、余りの忌まわしさに記憶を封印しちゃってたぁ!!」 この件に関してバルキーのために補足しておくと、なまじっかコブラツイストという〝型〟を知ってしまっていたが故に効果ではなく型を基準にして考えてしまったということも大きいだろう。格闘ポケモンの悲しい性である。 とまぁ、そうこうしている内にカラカラはどんどん青大将の奥深くへと飲み込まれていっていた。 「うぎゃあぁぁぁぁっ!? 助けて、助けてくれぇ!?」 「何を今更嫌がっているのよ。本当に教えて欲しいのかって何度も確認したでしょう?」 「雌を教えるなんて言われた覚えはなぁい!!」 「いいじゃない。別に取って食おうってわけなんだから」 「ぎゃあぁぁこいつ取って食う気しかねぇ!? 食われたくねぇよぉ!? 離してくれぇぇぇぇぇぇっ!?」 とても初体験の雄が上げる声とは思えない阿鼻叫喚の悲鳴を聞いて、憤然となったバルキーはギドに抗議の声を上げた。 「ギドさんは初めから青大将閣下の欺瞞に気付いていたんですよね? だったらこういう企みだって大体分かっていたんでしょう!? どうして止めてくれなかったんですか!?」 「止めて止まる奴なら苦労はしないさ」 悪びれもせず、空しさを顔に浮かべてギドは言った。 「それに、さすがの青大将も一発済ませばちょっとの間は大人しくなるだろうと思ってな」 「……僕ら生け贄ぇ!? カラカラさんはどうなるんですか!?」 「心配するな。力の根っこぐらい持ち合わせてある」 「あんた漢方薬しか持ってないんですか!? っていうかそういう問題じゃなぁい!!」 「まぁ、これも運命だ。毒蛇に噛まれたと思って諦めるんだな」 「そんなぁ……」 絶望に泣き崩れるバルキー。トランクスを奪われた今のその身ではカラカラを青大将から救い出す力もない。せめて惨状から目を背けることだけが彼にできる精一杯であった。だが、どんなに耳を塞ごうと青大将の淫らな嬌声とカラカラの悲痛な叫びが指の隙間を割って鼓膜を陵辱してくる。 「ヒィィィィッ!?」 「ほらほらぁ、ヒィヒィ言うのは私の方じゃなかったの?」 「頼むからもう許してくれぇっ!? このままじゃオイラぁイかれちまいそうなんだよぉ!?」 「ああん、イきそうなのね。いいのよ、このまま出しちゃっても……」 「うあ、締めんなぁ!? も、もう、駄目……ひぎゃあぁはあぁぁぁぁぁぁあぁっ!!」 「ふふ……一杯出てるわぁ……」 「あがががが……た、種袋の奥まで搾り取られそうだ……助けでぐれぇぇっ……」 あんまりだ。 大切な物を無理矢理奪い取られるという辱めを受けたために救いを求めに来たここで、どうして更にこんな惨すぎる目に合わされなければいけないんだ!? この世には神も仏もないというのか!? 泣き濡れたバルキーの頬を、窓から吹き込んだ風が撫でる。 あぁ、さっき青大将閣下が開けた窓、そのまんまだったっけ。ここは5階だから覗かれる心配は少ないとしても、こんな悲惨な声が外に漏れ聞こえでもしたらカラカラさんが気の毒過ぎる。せめて閉めておいてあげよう…… 思い立ったバルキーはよろよろと立ち上がり、フラついた足取りで窓枠へと歩み寄って手を伸ばした。 そして、それと目が合った。 「……………………」 呆然と顎を落としたバルキーの目の前で。 それは&ruby(ヘイゼル){榛色};の瞳を宿した眼を瞬かせ。 地肌剥き出しの頭を巡らせて。 真っ黒な翼を羽ばたかせ。 腰に履いた歪な、前が張り出た髑髏を揺らしながら、窓から飛び退いていった。 「いっ……いたあぁぁぁぁぁぁっ!? 僕らが探しているバルチャイが、窓の外から閣下とカラカラさんの痴態を覗き込んでたぁっ!?」 「計画通り!!」 力尽きたカラカラに絡みついたままの青大将が、何かの漫画の悪役にも似た身の毛もよだつ笑みを浮かべて勝ち誇った。 「カラカラくんの&ruby(オムツ){髑髏};はともかくバルキーくんのパンツまで盗んでいくような性癖の持ち主なら、窓を開けっぱなしにして雄の仔のえっちな声を響かせれば覗き込んでくるだろうと思っていたのよ!!」 え、さっき言いかけて後回しにした見つけだすための手段ってこれ!? 眉唾臭っ!! 怪我の功名じゃないのか!? いやむしろ、変態は変態を知るというべきなのか…… 色々とツッコミがバルキーの頭を駆け巡ったが、すぐに今はそんなことを言っている場合じゃないと思い直した。どっちにせよバルチャイは現れたのだ。カラカラの犠牲を無駄にしないためにも、絶対にあいつを捕まえて奪われた物を取り返さなくては!! 「追いかけますよ! 早く! 何をしているんです!?」 「いやん、もうちょっと余韻を楽しませてよぉ。無粋なんだから」 「あああっもう! ギドさん、僕は今から下に降りて追いかけますから、窓からあいつがどっちに逃げるか見ておいてください!」 「分かった。青大将が回復したらすぐに追いかける」 まったく、どうして僕が仕切らなきゃいけないんだろうか? 悶え喘ぐ青大将を尻目に毒づきながら、バルキーは腰布を堅く結びつけて独りで部屋を飛び出した。 ◎ 「待て待てぇっ!!」 ギドの指示は的確だった。言われた通りに角を曲がるとバルチャイの丸いシルエットが上空を飛んでいくのがすぐに見えた。 所詮バルチャイの小さな翼。高度も速度もたかが知れている。((図鑑説明では飛べないことになっているが、空を飛ぶは使えるためこのように解釈した。))たちまち追い付き追い越したバルキーは、振り返りざまに跳躍して目前に柏手を炸裂させた。 「!?」 突然の猫騙しに怯んで身を竦ませたバルチャイは、バランスを崩して地面に落下する。すかさずバルキーが取り押さえようと跳びかかったが、爪で反撃しつつ立ち上がったバルチャイは大声で喚きだした。 「誰かあぁぁぁぁっ!! 助けてください! 暴漢です! あぁ、あたし犯されちゃう!!」 「そうやって僕のことも騙したんだな! まだベイビィの僕がそんな行為をするなんて誰が信じるか! 無駄な抵抗はやめて、カラカラさんの髑髏と僕のトランクスを今すぐ返すんだ!!」 「いやぁん、やっぱりオムツを脱がそうって言うのね!? 痴漢! スケベ! 変態!!」 「そう言えば雄が怯むとでも思っているのか!? 昨夜までの僕なら騙せたかも知れないけど、生憎お前以上の外道雌に弄ばれた後なんだからな!」 そう怒鳴りつけた途端、円らだったバルチャイの眼が釣り上がる。 「はん! 可愛い顔してるから騙し甲斐があると思っていたのに、あっさりスレちまいやがって!!」 すっかり凶悪な形相に豹変して唾を吐くバルチャイ。これをか弱げだとかいたいけだとか思っていた自分に吐き気がするバルキーだった。 「それがお前の本性だっていうのならもう容赦しないぞ。痴漢呼ばわりしようが裸に剥いてでも髑髏とトランクスを返してもらうからな!!」 「ひひひ、あんたのトランクスってのはこいつのことかい?」 バルチャイが翼の先でひょいと髑髏をずらすと、彼女の股間の前の方を覆う形で鳶色の布地が折り畳まれて詰め込まれている様子が見て取れた。 「このカラカラの髑髏、格好いいのはいいんだけどあたしのお尻には合わなかったんでね。スペーサーにさせてもらってんのさ」 「貴様ぁぁっ!! 合わないんだったらまとめて返せばいいだろう!?」 「いやぁ、坊やもあのカラカラもいい雄だからねぇ。あんたらが身につけていたもんだと思うと……」 髑髏の鼻先を翼で押さえて引きつけ、バルチャイは淫蕩な表情を浮かべた。 「くふぅ……濡れちまうんだよぉ……」 「ぎゃあぁやめろおぉぉぉぉぉぉっ!? 僕のトランクスに何てことをするんだぁっ!!」 怒り心頭にバルキーがマッハパンチを繰り出す。超高速の拳が黒い羽を宙に散らすが、一瞬早くバルチャイは巧みなステップで身を翻していた。カラカラの情報通り、彼女のフットワークは相当な物のようだ。あっという間に間合いを広げると、バルチャイは翼を広げてバルキーを制した。 「それ以上一歩でも近付くんじゃないよ! さもないと……」 やはりトランクスを人質にする気か!! バルキーの背筋に戦慄が疾る。だが、続けて彼女が口にした脅迫はバルキーの想定を超越したものだった。 「…………漏らすよ!?」 し、しまったあぁぁぁぁぁぁっ!! 怖気に震え上がり声にならない絶叫をあげるバルキー。こんな手に出られたのでは固め技だろうが蛇睨みだろうが何の意味もなさない。相手は初めから常時人質の首にナイフを押し当ててるも同然の状態だったのだ。 「おのれ……汚い! 本当に汚いぞこの恥知らずめっ!! そこまでするかぁっ!?」 「あっはっは! さすがに目の前で大事なトランクスちゃんを小便まみれにされるのは耐えられないだろう!? 悪いけどこのままバイバイさせてもらうよ!!」 「くっ……くっそおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 悔し涙を流しながら、それでも踵を返すバルチャイを見逃すしかない。例え汚されても今は取り戻すことを優先するべきだと分かっているのに、異臭を放つ液体を無惨にも滴らせたトランクスを想像するとどうしても脚に力が入らない。万事休す、か……? 「お待ちなさい!!」 疾風の如く渦を巻いた声と共に、押し寄せた深緑の長大なうねりがバルチャイの行く手を遮る。 その身にまとうは金色と孔雀色の煌めき。見紛う事なき青大将の美麗なる姿がそこにあった。裏道を回り込んで追い付いてきたのだ。 「まだまだお楽しみはこれからだっていうのに、一体どこへ行こうというのかしら? この私から逃げられるなんて思わないことね!!」 鎌首をもたげてきりっと釣り上げた紅色の瞳を光らせる青大将は、実に凛々しく映え渡っていた。いまだにはだけられっぱなしの襟と、尻尾の付け根とおぼしき箇所から滲み漏れている白濁液に気を留めなければ、の話だったが。 「はぁ!? 草ポケ風情が笑わせんじゃないさ! 啄まれたくなかったらいつまでもあの部屋でカラカラとよろしくやってな!!」 「あら残念だけど、啄まれるのは私じゃないわ」 「何だって!? どういう意味だいそりゃ……!?」 「あ、ちなみにカラカラくんなら、ほら」 と青大将が指差すと、バルキーの背後の道からギドがカラカラを抱いて駆けてきたところだった。 「もうカラカラになるまで搾り取っちゃったから。次はあなたの番よ」 初めっからカラカラでしょう……そんなツッコミを入れるのが躊躇われるほど干からび切った惨たらしい姿がそこにあった。おいたわしや。 「な、何があたしの番だってんだい!? あたしをカラカラなんかと一緒にすんじゃないよ!? ただでさえタイプ相性でこっちが有利な上に、あんたそのヨレヨレのなりはリーフストームでもブッ放した後なんじゃないのかい? いくら最終進化系だからって、デカい顔をするにも程度ってもんが……」 「お黙り! 青大将閣下とお呼び!!」 尻尾を地面に叩き付け、天上天下唯我独尊の花文字を背景に飾りたてたかの如く睥睨する。程度など知らぬ圧倒的な威圧っぷりに、さしものバルチャイもタジタジと後ずさった。 「ふふふ、あなたの方こそ、この青大将様をそんじょそこらの草ポケどもと一緒にしないでくれる?」 眼をパチクリとさせるばかりの相手を前にして、青大将ははだけかけた自らの襟首に手を掛けた。 「リーフストームは草ポケモンがその身に宿した草の葉を直接飛ばして攻撃する技! 従って使う毎に飛ばせる葉の数が減り、振るえる威力も落ちていくのが当然の道理! 然るにこの私の放つリーフストームは……」 孔雀色の襟が更に大きく開かれる。露わになった地肌が真珠色に眩く輝く。 「脱ぐほどに!!」 一気に腰まで草の鱗を脱ぎ落とす。流れるように滑らかな背筋のラインが剥き出しにされて扇情的に波打つ。 「はだけるほどに!!」 遂に全ての鱗がかなぐり捨てられる。恥じらうこともなく晒された瑞々しくも赤裸々な肢体から、深緑のオーラが燦然と沸き上がって光り輝く。 「ひけらかすほどに!!」 迸った光は爽やかな風を呼び、脱ぎ散らかされた孔雀色の鱗を宙に飛ばす。旋風の中で鱗は無数の葉と化し、官能的な鳴動を上げて舞い上がる。 「熱くっ!! 激しくぅっ!! 萌え盛るのよぉぉっ!!!!」 咆哮一閃―― 旋風は爆発的に躍動し、嵐となった。 「ひいぃぃぃぃぃぃっ!?」 「わあぁぁぁぁぁぁっ!?」 凄まじい草エネルギーの爆風に巻き込まれ、バルチャイはおろかバルキーまでもが虚空に吹き飛ばされる。 加速を増してその周囲に展開された孔雀色の葉の群は、演舞を踊るかの如く軌道を転じて、ある一点を、目指すべき目標を目掛けて集束していく。 そして巨竜が顎を閉ざすように、孔雀色の軍勢は目標点で交錯し炸裂した。 その刹那、花びらが虚空に舞い散った。 白い、悲しいほどに白い、それは花びらだった。 即ち―― 「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」 リーフストームの一撃はバルチャイを素通りし、あろう事かバルキーの腰布を、腰布だけを剥ぎ取って微塵切りに引き裂いたのだった! 花吹雪と化した腰布の切れ端の中で、バルキーは金切り声を上げながら咄嗟にそこを両手で隠そうとした。 彼は猫騙しやマッハパンチの使い手である。一瞬でその手を繰り出し、隠しおおせるはずだった。はずだったのだ。 だが。 「おおっと、先生は許さなくってよ!!」 青大将が一本の付け爪を飾った手を振るう。 その付け爪――〝先制の爪〟は秘められた効果を発揮して時空を引き裂き、間隙を縫った真珠色の裸体がバルキーの懐に飛び込んで手足を手早く絡め取る。最早成す術もなく、幼さのベール((包茎。))でしか隠し得なくなった真ん中の脚が剥き出しに晒された。 「な、何で!? 一体どうしてこんなことを……!?」 「ごめんなさ~い。いつも変な風にとぐろを巻いていたから手元が狂っちゃって」 「嘘だ! わざとだ!! っていうか僕自身には傷一つ負わせず腰布だけを正確に切り刻んでおいて、それがわざとじゃないっていうのならそっちの方が[[怖い!!>カラタチトリックルーム飛翔編短編#sfc2096a]]」 困惑しながらも、混乱しながらも、ひたすら手足をバタつかせて逃れようとしていると、 「あんらまあ、何て美味しそうな小虫ちゃん!」 バルチャイがいつの間にか傍にきて、青大将に縛られたバルキーの身体を覗き込んでいた。 「夕べは一瞬だったし暗かったからよく見てなかったけど、この仔こんなに可愛い小虫ちゃんも持ってたのね。むふぅん、食べちゃいたぁい!」 一体彼女は何のことを言っているのか!? 分かるような気も、分かりたくないような気もしてバルキーは身を震わせた。 と、青大将の尾の先がヒョイヒョイとバルチャイを誘う動きを見せる。 「どうぞ、好きなように召し上がれ」 「え? いいの?」 「だっ……駄目えぇっ!? 食べちゃ嫌あぁぁぁぁぁぁっ!?」 本能的な恐怖を感じたバルキーが悲鳴を上げて抗議したが、当然相手になどされるはずもない。 「勿論いいのよ。私はさっきカラカラくんを食べちゃったばっかりだし。それにさっき言ったじゃない。『啄まれるのは私じゃない』って」 「ちょ、あれ僕だったってこと!?」 「当たり前でしょうバルキーくん。他の誰のことだって言うの? それに私はこうも言ったわよ。『この私から逃げられるなんて思わないことね』『次はあなたの番よ』ってね」 「それも全部僕に言ってた!? っていうかやっぱりあんた最初から僕を狙ってたんじゃないかぁ!!」 「さぁさぁバルチャイちゃん、活きの良い内に早くおあがんなさい」 「うわぁやめて!? 来ないで! 助けてぇぇぇぇぇぇっ!!」 泣き叫ぶバルキーが股間に揺らした小虫ちゃんこと中脚を見据え、嘴から涎を溢れさせたバルチャイは、 「ぐへへへへ、それじゃ遠慮なく」 と、髑髏とトランクスをまとめて脱ぎ下ろして蹴り捨てると、 「いっただっきま~~~~す!!」 鉤爪を貪欲に広げ、漆黒の翼を勢いよく羽ばたかせて、バルキーの上へと挑みかかっていった。 「ぃいやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」 ◎ その蹴り捨てられた髑髏とトランクスは―― 「よし、リバウンドキャッチ成功!」 すぐ後ろに控えていたギドによって無事回収された。 「ふむ、少々汚されてはいるが、まだ洗えば問題ないレベルだろう。ともあれこれで事件は万事解決だな」 「いやあのおいこらちょっと待てっ!? いいのか……それで本当にいいのかぁ!?」 髑髏と一緒にギドに抱えられた髑髏同然にカラカラなカラカラが溜まらず乾いた声でツッコミを入れたが、あっさりと事もなげに切り替えされる。 「何だねカラカラくん、こうして奪われたものは取り返したんだ。特に問題はないだろう?」 「大ありだ……アイアントよりもでっかい大ありだ! どこの世界に依頼者を餌にしちまう探偵がいるか!?」 「依頼されたのは泥棒の捜索と盗難品の奪還だ。依頼者の身の安全は契約の範囲外だぞ」 「だっ……だからってなぁ……」 「ほら、昔話にもあるじゃないか。旅人のマントを脱がそうと&ruby(トルネロス){北風};と&ruby(ウルガモス){太陽};が勝負する話。まさにあの話の通り、力ずくでは攻略するのが難解だったバルチャイは自ら脱がせるようにし向けるのが最善の適策だったのさ」 「ほら、昔話にもあるじゃないか。旅人のマントを脱がそうと[[&ruby(トルネロス){北風};と&ruby(ウルガモス){太陽};>カラタチトリックルーム飛翔編短編#a5c90675]]が勝負する話。まさにあの話の通り、力ずくでは攻略するのが難解だったバルチャイは自ら脱がせるようにし向けるのが最善の適策だったのさ」 「バルキーからは目一杯力ずくの強風で引っぺがしたけどな! 奪い返したんならもういいだろ、何とかあいつを助けてやってくれよ……っ!!」 「救ってやれるものなら救ってやりたいが、ああなった青大将が相手では手の施しようもないよ。もっとも、彼の負担を半減してやるだけなら可能だがね」 「そんな手段があるのか!? だったら……」 「簡単だよ。啄まれる餌を増やしてやればいい」 その言葉が終わるより早くカラカラはひっと声を上げ、すっかり肉の落ちた腕でギドの胸にすがりついていた。先刻よっぽど恐ろしい思いをしたのだろう。勿論、バルキーと一緒に陵辱されてやることなど体力的にも精神的にもできる余地なんてあるわけがなかった。 「毒蛇に噛まれたと思って……諦めろってか……?」 「そういうことだ」 駄目だこりゃ、とカラカラは力なく天を仰ぐ。 先程バルキーがカラカラの惨状から目を背けるしかできなかったのと同様に、カラカラもまたバルキーの惨状を前にしてできることは、ただ小さく念仏を唱えて手を合わせることだけであった。 南無阿弥陀仏。 ◎ 「やめてぇ! 離してぇ! 触らないでぇぇっ!!」 抵抗など何一つできなかった。青大将に身体を縛り上げられたまま、バルキーの敏感な中脚はドス黒い羽毛に包まれて揉みしだかれた。過激すぎる愛撫を受けて無垢な肉体は脆くも容易く屹立し、そのまま羽毛の奥深くに開いた&ruby(ネスト){巣};へと引きずり込まれる。 「くはぁ~っ、やっぱベイビィの小虫ちゃんは格別だわぁ」 「ぁあぁぁっ! いやぁっ! いやあぁぁぁあぁっ!!」 上にのしかかったバルチャイが忙しなく蠢くとともに、間断無き責め苦が中脚に加えられる。先端から根本までを幾度となく蝕まれ、その度に悲しげな喘ぎが宙を舞う。足掻くことも身を捩ることも満足には叶わず、今やバルキーの幼い身体は2匹の&ruby(サキュバス){雌淫魔};たちの思うがままに翻弄されていた。 「ほっほっほ、初体験の気分はいかがかしらバルキーくん?」 「こんなのやだあぁぁっ!! やめてよおぉぉっ!!」 「あらあらお気に召さないようねぇ。それじゃあ、あたしが気持ちよくしてあげちゃうわ」 青大将の尻尾に残っていた孔雀色の葉っぱが持ち上がり、限界まで押し広げられているバルキーの内股を這いさする。 「いひゃんっ!? やめっやめやめやあぁぁっ!?」 悪戯な葉は脚を伝って奥へと伸び、バルチャイの愛液でしとどに濡れぼそった中脚の付け根とそのすぐ下の魂袋をくすぐり回す。 「だめらったらあぁぁぁぁっ!? ぁはなしてえぇぇぇぇっ!?」 呂律の回らなくなってきた声を余所に、青大将は葉にしっとりと愛液を含ませた後、魂袋から離れて会陰を撫で下ろし、ついに禁断のやおい穴へと狙いを定めた。 「そ、そこはっ!? そんな……あぁたすけてぇぇぇぇっ!!」 空しく響いたその声をも引き裂くように。 孔雀色の葉は、青白くすぼまった儚い純潔を突き破った。 「ーーーーーーーーーーっ!!」 描写不可能な悲鳴が天を貫き、足が膝から爪先までビンッと跳ね上がる。 「うはっ!? このコ、急にこんなにも熱くなって……んはぁぁぁぁっ、イきそう……」 興奮を増したバルチャイが更に律動をヒートアップさせる。闇色の羽根が、バルキーの視界を覆う。 真芯を前後から滅茶苦茶に掻き回されながら、とうとうバルキーは断末魔の叫びを上げるに至った。 「ぁあぅあ、おあぉ、おか、おか、おかぁさあぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁんっ!?」 はて、バルキーの母親というのはやっぱりメタモンなのだろうか。それとも実はバルキー族にも人に知られていない雌が存在するのか、もしくは彼が口にしたのはトレーナーの女性などのことだったのか……? そんな疑問はさておき、臨界を突破したバルキーは砕け散らんばかりに全身を戦慄かせながら、まだ子種を宿さぬ故に涙と同じ色をした澄んだ液体を噴出させてバルチャイの巣を浸し切った後、哀れにも真っ白になって燃え尽きたのだった。 ◎ 後日。 無事……などと言うには余りにも多大な代償を支払ってトランクスを取り戻したバルキーだったが、何はともあれ程なくしてめでたく進化の儀を迎えた。 だが、散々嫐りものにされた挙げ句精神のバランスを取り返しの付かないほどに崩壊させられてしまった為に、志望していたカポエラーへの道を断念せざるを得なくなってしまったのだった。 かくしてすっかり下半身のガードが堅くなってしまった結果、もしくは耐久力に優れるバルチャイに鍛えられた成果((バルチャイの取得努力値は防御+1。))かも知れなかったが、とにかく彼は父親と同じエビワラーへと進化の道を歩むこととなった。 その後は一切雌を寄せ付けないストイックなストラグラーとして修行の日々を送っているようだ。 &ruby(ストラグラー){格闘家};の語原は〝足掻く者〟であり、蛹から羽化するとき誤って地面に落ちてしまった虫のこともそう呼ぶらしい。その意味では彼ほどのストラグラーもそうはいないであろう。 どうかいつの日にか彼が素敵な恋ポケと巡り会い、その果てしなく傷ついた心が癒される時が訪れんことを。 ◎ 一方、バルチャイもまた、オムツを脱ぎ捨てて雄体験をこなしたことが良い刺激になったのか、見事堂々たるバルジーナに進化していた。 今日も真っ黒な翼で空を覆い、頭頂部の飾り羽根にどこで見つけたのか不釣り合いなほどに太く巨大な骨棒を挿してビルの合間を悠々と飛んでいる。 と、その下では、 「返せぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 骨棒の出元が泣き咽びながらバルジーナを追いかけていた。 カラカラはまったくもって相変わらずで、やっと仮面を取り返したと思ったら今度は武器の骨棍棒を盗られてしまったようだ。あの様子ではガラガラに進化するのはまだ当分先だろう。 「おやおや、どうやらまた仕事のようだな」 5階の窓から2匹の様子を見下ろし、ギドは面倒臭そうに呟いた。カラカラをあれ程の目に遭わせておきながらまた雇ってもらおうと平然と考えているあたり、この男の根性も相当なものである。 「おい、依頼を取りに行くぞ」 そんなギドの呼び掛けに、青大将はのったりと自堕落なとぐろを巻きながら、ちろり、と舌を出して答えたのだった。 ~Fin~ ---- *ノベルチェッカー結果 [#a2ae3041] ※ノベルチェッカー結果 【合計枚数】 100.8枚(20字×20行) 【総文字数】 30939文字 【行数】 2015行 【台詞:地の文】 53:47(%)|16382:14533(字) 【漢字:かな:カナ:他】 22:57:8:17(%)|6724:17724:2464:5391(字) ---- *☆泥棒のトリックルーム・~実は大会中隠されていたあとがき~ [#kdbf49a4] *☆泥棒のトリックルーム・~実は大会中隠されていたあとがき~ [#mb4f22cf] &color(red){※注意};・このあとがきは冗談です。[[真の作者>狸吉]]の正体、本作の内容解説などは一切書いてないのでお許しください。 「ハイハ~イ、私がこの作品の作者である美少女新人ポケモン小説作家、青大将様よ。読者ども頭が高い!!」 「こらこら読者様に威張るな。それにポケモン小説作家ってお前、意味が違うだろう」 「ギドさんツッコむところそこじゃないです!!」 突然扉を押し開いて飛び込んできたエビワラーが、椅子の上にふんぞり返った青大将とその脇に立つギドにツッコミを入れた。 「何をやっているんですか!? 今はまだ大会期間中ですよ!? あとがきを書くのはルール違反です!! っていうか第一あんた作者じゃないでしょう!?」 「御覧の通り、今回のお話はバルキーくんとカラカラくんが終始に渡って見る者を蕩かすような熱烈ラブシーンを延々と繰り広げ続けるという薔薇エロティックストーリーになってるわ」 「あなたの妄想の中だけですそんな腐展開! いい加減こっちの話を聞いてください!!」 激しく重ねられるエビワラーのツッコミに対し、青大将はけろりとした顔で、 「あら、作者でもないポケモンが、作品と無関係の妄想を語る分には問題ないんじゃない?」 「なるほど。確かに」 「だから、丸め込まれないでくださいギドさん! 駄目に決まってます!!」 「そういうことなら、少しは真面目にこの作品の話もするけど」 「しちゃいけませんってば!!」 「本当は私、エロ部門じゃなくって非エロ部門に出たかったのよね」 「そりゃ僕だってこんな恥ずかしい思いをするぐらいなら非エロの方に出たかったですけれど。でも意外ですね、あなたにそんな自重の意志があったなんて」 「まさか。このまんまの内容で非エロ部門に出るつもりだったに決まっているじゃない」 「認められるわけないぃっ! 真の作者のポケモン作家人生を終了させる気ですか!?」 「もう、あれ駄目これ駄目って本当に天邪鬼なんだから」 「あんたがだっ!!」 「まぁ、実際天邪鬼だからなこいつは。あとがきを書くなという大会のルールがある以上何がなんでも書こうとする奴だ」 ほとほと呆れ果てた顔でギドは肩を竦めた。 「ど、どうするんですか? このままじゃ僕ら良くて減点か、下手をすれば失格にされちゃいますよ!? まさか作者にまで『毒蛇に噛まれたと思って諦めろ』と言うつもりじゃないでしょうね!?」 パニック気味な顔でエビワラーが詰め寄ると、ギドは口の端に小さく笑みを浮かべる。 「心配は無用だ。真の作者はそれほど馬鹿じゃない。このあとがき、大会期間中はコメントアウトだそうだ。大会作品の編集画面を下の方まで覗くような酔狂な奴がいない限り見られる心配はない」 「ちっ、やってくれるわね」 「残念でしたねぇ青大将閣下。いかに天邪鬼なあなたでも、表示を封じられては手も足も出ないでしょう!!」 「もともとこいつには足はないけどな」 「以上、蛇足なコーナーでした」 「それが言いたかったんですか……」 ---- *本当のあとがき [#kaf7e984] *本当のあとがき [#sa6005e8] 前大会の大遅刻の反省から今回は真っ先に投稿しようと意気込んだのですが、やっぱり推敲が足らずに誤字と語表記を連発orz 修正すると共に隠していた注釈とあとがき(笑)を公開しました。青大将が青大将である限り、どうしても書かずにはいられなかったんです。 「あら、まだ誤字が残ってるじゃないの。ほら、私が窓を開けた後で室内に向き直った時、カラカラくんが言った台詞の中で私の名前が1文字間違ってる」 ……そこはそれで合ってますよ! ◎ Wiki一番人気のイーブイと同様の分岐進化ポケモンでありながら、♂のみという理由で小説に扱われることの少ないバルキーですが、ショタにネタを絞れば実に弄び甲斐のあるポケモンだったりしますw いつか散々に苛めた末に、ガードが堅くなって進化する、という話をやってやろうとネタを集めていました。 で、これまたポケモンネタではあまりない『脱衣』をテーマにしようと決めました。 第5世代に入って実にお誂え向きなことにタイプ相性でバルキーに優位を取れ、しかも♀限定で、なおかつ下半身に衣類(?)を着けていて、ついでのおまけに取得努力値防御+1wというバルチャイが登場したので、彼女にバルキーのトランクスを盗ませることに。 髑髏つながりのお約束でカラカラを巻き添えwにすることもすぐ決定。 そして、もう一匹。 隠し特性『天邪鬼』ジャローダ。あとがき(笑)以外では明記していませんでしたが勿論青大将はこれでした。 存在が判明した頃、2cnの草ポケスレとツタージャ系萌えスレに匿名で[[台本形式>カラタチトリックルーム飛翔編短編#d981d9b8]]の[[小ネタ>カラタチトリックルーム飛翔編短編#x861089e]]を投稿したことがあったりしましたが、満を持してのWikiへの出演となります。 リーフストームで舞い散る葉をその身にまとった服に見立て、脱ぐほどにはだけるほどにひけらかすほどに威力の上がる露出狂wということにし、更に天邪鬼であることも大いに活かしてバルキーくんを苛める役に抜擢しました。 この時点で大筋の物語は組みあがったんですが、困ったのがバルキーくんが盗まれたトランクスを取り返そうとする動機作り。替えの下着ではどうしていけないのか、と。 何かいい案はないものか、と試しに『バルキー トランクス』でググって見たところ、『バルキータイツ』という名前が出てきて語源判明。唖然呆然の後、腹を抱えて大爆笑www語源がそういうことなら、そのトランクスは特別な一張羅でいいんじゃないかと判断しました。 オリジナル設定をデッチ上げるときは、元々あるものと言葉を刷り合わせて関連付けるとグンと説得力が出ます。参考になるので心に留めて置きましょう。 コブラツイストネタは某サイトでトカゲの交尾動画を見ながら閃いたものですw 最初はバルチャイはふと外を見たら偶然飛んでいるのを見つけた、という具合にするはずだったんですが、コブラツイストでカラカラを弄っていたら勝手に覗き込んできやがりましたw本当に悪ポケって美味しいです。 ◎ 何はともあれ、6票もの指示をいただき準優勝に輝くことができました。みなさん本当にありがとうございます! ---- *大会中に頂いたコメントへのレス [#y033a457] *大会中に頂いたコメントへのレス [#v9abe184] >>(2012/04/05(木) 01:38)さん >>青大将閣下はいろいろと流石ですね! >>実際に作品を読ませて頂き、これは(笑い)涙無しでは読めないと思いました。 そうなんですよ。あの見出しは『ペンギンの問題』のCMのパクリだったのです。 「ほんと、キャプション詐欺もいいところよねぇ」 「大体合ってたじゃないですか……」 >>そしてバルチャイの進化、確かに進化が近づくと脱ぐとか書いてある以上 >>ある意味正しいかもしれませんねww 良く気付きました。まさしくバルチャイの進化も図鑑説明からの発想です。あるものは徹底して使うことをモットーにしていますので。 投票ありがとうございました! >>(2012/04/05(木) 01:47)さん >>ボケとツッコミがいいタイミングで出てきて、エロなのに笑ってしまう所が沢山ありましたww 今回全編掛け合いギャグということで、バルキーくんは銀魂の志村新八や化物語の阿良々木暦などのツッコミキャラを参考にして書きました。特に前者の影響は強いので、ボクの脳内ではバルキーくんの声優は&ruby(ジュンイチ){阪口大助};だったりします。 「じゃあ、エビワラーくんにメタモンが変身したヘルメットを持たせて」 「『……母さんです((機動戦士Vガンダムのウッソ・エヴィンのパロディ。鬱ネタ。))』なんてやりませんからね!!」 投票ありがとうございました! >>(2012/04/06(金) 12:55)さん >>自分的に好きだからですかね…。 好きになってくださってありがとうございます! >>(2012/04/07(土) 21:40) さん >>性格が捻じ曲がってずる賢い青大将閣下が素敵です。 なんといってもあまのジャローダですからね。ゲーム本編でも猛威を振るわせる日が楽しみです。 投票ありがとうございました! >>(2012/04/07(土) 21:54) さん >>とても笑わせてもらいましたw 非常にツッコミどころ満載のギャグながら、ポケモンの特徴を上手く捉えていて、物語も読みやすく入り込めました。 登場ポケモン4匹、全て徹底して特徴を描き、他のポケモンに置き換える余地のない彼らならではの物語にしようと努めました。評価してもらえて嬉しいです! >>(2012/04/10(火) 06:57)さん >>凄く笑わせて頂きました。 >>超面白かったです。 楽しんでいただけて何よりです。 投票ありがとうございました! ---- *青大将閣下を称える声援の数々 [#m93db51a] *青大将閣下を称える声援の数々 [#h2a204d6] 青大将「『泥棒のコメント帳』にするとでも思った? この私がそんなありきたりなコメントコーナー名にするわけがないじゃないの」 #pcomment(青大将閣下を称える声援の数々); ---- [[歪んでいます……おかしい……何かが……物語のっ……>カラタチトリックルーム飛翔編短編#qbc74b32]] ---- IP:119.150.181.226 TIME:"2012-04-30 (月) 23:23:36" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?guid=ON" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 5.1; rv:11.0) Gecko/20100101 Firefox/11.0"