#include(Wiki10周年記念祭情報窓,notitle)
&color(gray){&size(24){銀色の邂逅};};
世界は想像以上に何度も危機に瀕するものである。
そして、何度も救われるものでもある。
そんな内容の会話を奇怪な銀色の彼とするに至ったのは、私が起こした気まぐれに、故郷のオレンジ諸島にも似たこの地方が、不意に訪れた脅威から逃れたばかりであるというタイミングが重なったからである。
「あんた、この地方のポケモンじゃないな?」
銀色の羽根をもつポケモンは初めて見た、と彼は言った。そんな彼も、輝くような銀色を、頭部から肩口にかけてまとっている。
「――そうだ。オレンジ諸島のアーシアという島の海域が私の住まう場所だ。普段は海の底で眠っている」
「暇そうだな。――とても」
まさしく、その通りである。
海の静謐から引きずり出された機会は二回ほどあり、その時を除けば基本的に私は海底に意識を埋没させている。
一回目は、巨大な飛行物を駆動させていた妙な人間が、アーシアの海域に住まう伝説の三鳥――すなわち、サンダー、フリーザー、ファイヤーを捕獲しようとしたために、絶妙な&ruby(パワーバランス){力の均衡};の上に成り立っていたアーシアの深層海流が乱れ、自然界と生命に悪影響を与えたことで世界が危機に瀕した。
「酷い話だ」
「まったくだ。優れたる操り人が現れなければ、世界は終わっていたかもしれない」
「操り人? ――トレーナーのことか?」
相槌を打ち、優れたる操り人と、その仲間たちのことを話す。
身の丈よりも遥かに大きな危機に、年相応の臆病さを見せつつも、伝説の巨鳥たちを慰めるための大役を果たしたこと。
癒しの音を奏でる笛吹きの少女が、私に再び力を与えたこと。
彼らの仲間が常に支えようとしたこと。世界中のポケモンたちが己の無力さを知りながらアーシア島の近くに集まったこと。
「私の力だけではどうにもならない。諦めの気持ちもないわけではなかった。それでも世界を救えたのは、彼らが諦めなかったからだ。そんな彼らが生きる世界を私は尊く思う」
「俺がこの世に誕生する前の話だな。興味深い。似たようなことがこの地方にもあったから、なおさら――」
「それは本当か? ぜひ聞かせてもらいたい」
「まだあんたの話は終わっていないだろ? 二回も海から引きずり出されたなんて災難が過ぎる。笑い話だ」
「二回目は、右も左もわからないうちに終わってしまったがな」
私は、アーシアの海を回遊していたときに突然眼前に現れた金色の輪を思い返す。潜った瞬間、困惑する間もなく凶悪なポケモンと相対させられた。
どれほどの規模かは知らないが、やはり世界は危機に瀕していた。
「再び優れたる操り人にも遭遇したのは嬉しいが、危機的状況に立たされるのは慣れないものだ。それに、無我夢中で手助けをしていたらいつのまにか元いた海に戻されてしまった。舞い戻ろうにも、どこで戦いか行われているかを知る由はなかったし、きっと無事に解決されたと今も願っている」
青く透明な海の向こうを見つめる。あの少年はもう一度世界を救えたのだろうか。
「あんたに物憂げな表情は似合わない。心配せずとも、世界は救われるものだと相場は決まってる」
随分と変なことを言いだすものだ。
「ときに、お前は本当にポケモンなのか? 鳥類のような鉤爪、魚類のような尾ひれ、鉄の口に斧のような&ruby(とさか){鶏冠};、ちぐはぐな印象を受ける」
「俺はとある目的のために&ruby(つく){創造};られた人工のポケモンだ」
「人工――」
アーシアの海で世界を壊そうとした、横暴な人間に姿が頭によぎる。
「あんたが出会った世界危機とは違う種類の危機について話そう。このポニ島、そして近隣のメレメレ島、アーカラ島、ウラウラ島からなるアローラ地方には、たびたび異次元空間からウルトラビーストと呼ばれる奇妙な生命体がやってきては、ポケモンや人間に危害を加えることがあった」
つぎはぎだらけな彼自身も充分に奇妙な生命体だとは思うが、余計な感情は心のうちに秘める。
「俺はその危機への対抗策として創造された。だから――いずれ来る大規模なアローラの危機に立ち向かわなければならないのは必定だった――が」
ちぐはぐなポケモンはけたけたと笑いだす。
「俺を管理する財団の代表とその家族のゴタゴタに巻き込まれた。代表の息子――俺のマスターが俺を実験施設から連れ出して、アローラの危機ではなくてマスターの家族の危機を救うことになってしまった。結局、頭のおかしくなった代表はウルトラビーストを呼び寄せてアローラを危機に陥れるし、俺は俺でマスターとともに脇役という立ち位置に甘んじて、最前線とは程遠い場所にいた。筋書き通りの世界危機や救いなんて欠片もなくて――ごたごたしてるうちに、最後にはマスターの友人がすべて解決した。
機械じみた、感情のこもっていないよううな瞳が海と空の境界を見つめる。
「元々、全部決まっていたことなんだ。下手な筋書きを遂行するために創造された俺は、どれだけ小さな存在なんだろうって思った。もっと複雑で奇妙で――美しい筋書きが、最上位にいる何者かの意思の下にあって、それを皆が好き勝手に、でも緻密になぞってゆくんだ」
鉄の口は笑わない。しかし、彼が語る出来事が彼にとってどれだけ愉快なものだったかは、その語り口だけでよく伝わった。
「この世界は面白い。そんな世界が救われないような物語なんて、存在しえない。だって、そうでなきゃ――」
つまらない、と彼は付け加えた。
「なあ、あんたは何のために生きてる?」
「――何のために?」
唐突で、哲学的というにはあまりにも安易な問い。
「世界が危機に陥るたびに海底から引きずり出されるみたいだけど、そのためだけに生きているわけじゃないだろう? そりゃもちろん、あんたにはそういう役目もあるのかもしれないが、そうやって小さな筋書きの上だけで演じるのはつまらない」
「私は――」
「じゃなきゃ、あんたはこんなとこに来ないよ。数百年だか海の底にいて、突然気まぐれ起こして遠いアローラに来るなんて考えるわけがないんだ」
淡い海の向こうがだんだんと赤みを帯びてきた。
「わかったことを言う」
「わかるよ、だって俺は――」
飛び立って後ろを見やると、美しい原野が見えた。彼を迎えに来た色白で金髪の少年は、ずっとこちらを眺めていた。それから島の全貌が見えて、さらにその島の向こうに佇む三島が夕陽に照らされていた。
彼は、この世の最上位の存在を模して創造されたらしい。人工の生き物は、最上位の存在の意思を司れるものなのだろうか。
きっと彼が、そのほうが面白いと思って嘯いただけだろう。
ようやく、くすぶっていた心に火がついた。
「もう三鳥の子守などするものか!」
叫んで撃ったエアロブラストは筋書きを突き破って、青い空を駆け抜けた。
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どうも、[[超絶遅刻マン>朱烏]]です。ずっと前の大会も2回ほど遅刻しましたが今回も案の定でした。ごめんなさい。
なんと2票分もいただくことができました。ありがとうございます!
頂いたコメントは以下に返信いたします。
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これぞ短編、と思える作品ですね。
ルギアの回想は、フーパを見た人間としては気になって仕方ないところの一つだったので
やっぱりあのルギアだよなぁと思いつつ、どんなことを考えていたのか妄想が捗ります。
もしかしたら前も遅刻してた人の雰囲気を感じましたが、違うにしても推した作品がこのような形で減点されるのはとても悲しく思います。 (2017/03/08(水) 20:22)
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小説版ではルギアが「優れたる操り人」と口に出す場面があるので、同一個体だと思われます。たぶん映画で登場した伝説ポケモンの中では一、二を争うくらい性格がよすぎるポケモンだと思うんですが
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「~美しい筋書きが、最上位にいる何者かの意志の下にあって、それを皆が好き勝手に、でも緻密になぞってゆくんだ」の言い回しにヤラれました。さすがに物語性がもう少し欲しい気もしますが、言葉の選び方が秀逸でこのセリフだけで満足感があります。少し中二感がするのはご主人の影響かな? (2017/03/11(土) 21:54)
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もともと物語はあんまり詰め込まずに掌編として詩的にまとめるつもりでした。もしかしたらもっと物語性を重視して書き直すかもしれません。
シルヴァディは間違いなく厨二だと思います。なにしろパートナーに似てくるものですからね('ω')
お二方、投票ならびにコメントありがとうございました!!
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↓感想等ありましたらどうぞ!
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