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警備部長はニドキング の変更点


作[[呂蒙]] 

 真夜中のハクゲングループラクヨウ支社ビルでちょっとした騒ぎがあった。
 事務用品などを買うための資金が入れてある金庫が盗まれたのである。とはいえ、ハクゲングループ側もそんなことが起こるのは、想定しておりそれなりの備えもあったが、今回ばかりは相手側が一枚上手だった。
「うわっ、なんだこれは」
「くそっ、解けないっ」
 相手側もポケモンを持っていたのである。ビルによってはポケモンが入ると警報アラームが鳴る場合もあるが、ハクゲングループではポケモンも貴重な労働力である。アラームなどつけたら、一日中鳴りっぱなしでうるさくてかなわない。今回はそれが裏目に出てしまった。
「へっへっへ、セイリュウ一の会社の警備も大したことないな」
 仲間8人が金を詰め込んだ鞄を持って、キャラバンに乗り込み、車を動かす。すると前に何かがいる。
「部長! 犯人グループの車がそっちに行きました」
 警備員の一人が叫ぶ。
「よし、後は私に任せろ!」
 その声に反応して、低い声が返ってくる。その直後、鈍い衝撃音が地下駐車場に響く。
「まったく、手こずらせてくれたな」
「なっ……」
 車が力ずくで止められてしまった。予想外の出来事。声の主は、運転席側のサイドガラスを叩き割る。そして、そして力ずくで運転席側のドアを引きちぎり、その席のリーダー格の男を引きずり下ろした。仲間の一人が声の主に向かって拳銃を発砲する。が、弾丸は当たったものの、皮膚を突き破らずに跳ね返った。
「まだ、抵抗する気か」
 車を蹴りあげ、横転させる。
(これ以上やれば騒ぎになるな……)
 もはや車はスクラップである。穴を開けぺちゃんこにしても良かったが、それはやり過ぎというものだ。
 しばらくして警察がやってきて、犯人8人とアリアドスは逮捕された。ちなみに例の車は盗難車だったので、元の持ち主に対しては、後日弁償することになったが、それでも奪われた金に比べれば、大した額ではなかった。

 朝日が昇り、社員たちが出社してくる。この一件は、ラクヨウ支社長のリクガイ=ハクゲンにすぐに報告された。リクガイはシュウユの長男で、まだ若いが、人当たりのよさや、よく働くこと、宣伝の巧みなことで評判だった。それでいて、給料は他の重役たちの何分の一かなので、同世代の社員たちからは文句を言われるはずもなかった。
「おう、ご苦労だったな」
「まぁ、車を止めて、ガラスをぶち破ったところで、相手はびっくりしてたからな、後は警察が車で逃げられないように取り押さえてただけだけどな」
「そりゃあな、自分がされても肝を潰すだろうな……」
「んじゃ、リクガイ。オレは警備部の朝礼の時間なんでな」
「待て」
「ん?」
「ニドキング。確かにお前は父のポケモンであり、自分のポケモンでもあるわけだがな。会社ではオレはお前の上司だ『リクガイ』は止めろ」
「へいへい、ししゃちょー」
 上司に「へいへい」はないだろう。が、これ以上説教して直るものならとっくに直っているだろう。リクガイ自身、朝からくどくど説教するのは、体力の無駄なので何も言わなかった。ポケモンの分際で「部長」とは、と思う人もいるかもしれない。しかし「警備部」の仕事は、会社の警備をし、昨夜のように、不審者を撃退あるいは捕まえて、警察に引き渡すのが仕事になるわけだ。「捜査して犯人を割り出し、そして逮捕」というのは警察の権限だが、現行犯逮捕に限っては一般人にも認められるのだ。ちなみにポケモンの場合は、その持ち主がその権限を行使した、ということになる。さすがに犯人を踏み潰してしまうと、リクガイが罪に問われてしまうが、あの程度なら問題は無い。
 警備部の仕事は、危険が付きまとうことが多い。特にハクゲングループは標的にされることが多い。フロア面積が広いので、どうしても死角が出てきてしまう。さらに、泥棒が凶器を持ている場合は、社員の負傷ということもあり得る。ごく稀にだが、ライフルや自動小銃などどこで手に入れのか、そんなもので武装している者もいる。しかし、ニドキングの体は強靭で、皮膚は花崗岩のごとく。ライフルの弾も跳ね返すほどだ。まあ、さすがに銃弾が当たるとちょっとは痛いらしいが、出血までには至らない。先日、ライフルで武装した3人組の強盗に立ち向かい、のしたことから、部長へと出世したというわけだ。シュウユ自身が「たとえポケモンでも、功績を出しかつ日頃勤勉な者は、誰であろうと出世させる」と言っている手前、少し悩んだがシュウユが認めたので周りも認めざるを得なくなったわけだ。
 警備部のフロアでは、ニドキングによる朝礼が始まっていた。
「それではー、朝礼を始めるーっ!」
 腹の底から出される低音域の声がフロア中に響き渡る。大抵の社員はこれで目が覚める。一つ上の階や下の階からもうちょっとトーンを落とせという苦情がないわけでもなかったが、このおかげで目が覚めたという社員もいる。どう感じるかは人次第といったところだろうか。あと「その威圧するような姿を何とかしてほしい」という訴えがリクガイのもとに来たことがあったが、これはリクガイでもどうしようもないことだった。最初は笑っていたが、やっぱり苦手な人もいるのだ。とりあえず、特注の制服と制帽を身につけさせてはいるが、顔までは無理だった。ちなみに脱ぎ着させるのはリクガイの仕事だ。
 ついでに部下にはポケモンもいるが、人間の方が数が多かった。ポケモンに使われるので不満があるかといえばない。上司が危険な場面でもズンズン前進していくのでやはり頼れるのだ。人間にライフルを持った凶悪犯に素手で立ち向かえとは「死ね」と言われているに等しい。しかし、ニドキングにはそれができる。が、タイプの関係から、雨の日の外仕事はできなかった。でかい図体して水が苦手なのだ。地面タイプの悲しい性である。とはいえ、社員たちは「うちには弾丸をもろともせず、車をはねる警備員がいる。だから安心だ」と常に不届き者から狙われている会社で安心して働くことができている。これは紛れもない事実だ。
 ついでに部下にはポケモンもいるが、人間の方が数が多かった。ポケモンに使われるので不満があるかといえばない。上司が危険な場面でもズンズン前進していくのでやはり頼れるのだ。人間にライフルを持った凶悪犯に素手で立ち向かえとは「死ね」と言われているに等しい。しかし、ニドキングにはそれができる。が、タイプの関係から、雨の日の外仕事はできなかった。でかい図体して水が苦手なのだ。地面タイプの悲しい性である。とはいえ、社員たちは「うちには弾丸をものともせず、車をはねる警備員がいる。だから安心だ」と常に不届き者から狙われている会社で安心して働くことができている。これは紛れもない事実だ。

 夕方、とりあえず退社の時間になり、仕事が終わったので、ニドキングはリクガイのいる部屋まで行く。が、リクガイはいなかった。代わりにデスクにはカラフルな色の金属製の箱が置かれていた。ふたを開けると、中にはキャンデイーがたくさん入っていた。丁度小腹がすいていたので、リクガイに無断で少し食べることにした。10個ほどつまみそのまま口に放り込む。口の中に甘さが広がる。キャンディーが胃の方に転げ落ちると、キャンディーの小袋を口から吐き出した。袋に入ったキャンディーを口の中で袋とキャンディーを分けるなどという、器用かつ、お下品な技はいつの間にかできるようになってしまった。
(あー、うまかった……。リクガイの奴こんなうまいものを一人占めしてやがったな)
 次の日もまた10個つまみ食いをした。ばれないようにふたを閉めたところで、リクガイが社長室に入ってきた。
「仕事終わったぞ」
「ん、ご苦労」
 リクガイはデスクの上の箱を見つけると、それを抱えて部屋を出て行こうとした。
「おい、リクガイ。どこ行くんだ?」
「ん? これ宅急便で、本社に送らないといけないからな。集配所だ」
「ところで、その中身ってなんだ?」
 ニドキングはあたかも中身が知らないように装った。するとリクガイはあっさりと答えた。
「ん? ラクヨウ支社の新製品開発部で作ったやつだ。父に見せて良さそうなら全国で売り出す」
「その新製品ってのは?」
「キャンディー型の下剤。ポケモンは薬を嫌がるからね。まずいとか苦いとかが原因なんだろうけど。これで、3日分の便秘もすっきりらしいぞ」
(な、何だとぉ! ああ、何か腹が……)
「名前は『フンデル』にしようかな、なんてなって、あれ? ニドキング? すごい汗だぞ」
 昨日と合わせて、とんでもない数を服用してしまったことになる。体が大きいのですぐには効かなかったのだ。

 夜になっても調子は戻らなかった。ついにリクガイに全てを話した。リクガイは飛び上がらんばかりに驚いた。
「な、何だとぉ! 5日分の下剤を2日で服用してしまっただとぉ!」
「な、なぁ……。び、びょーいん……。あと、明日は会社を休む……」
 結局、ニドキングは入院するはめになった。
 翌日、リクガイは直接、警備課に出向いて訳を話した。お菓子と間違えて下剤をたっぷり飲んで入院だなんて、恥ずかしくて言えたものではなかったが、恥を忍んで真実を話した。
「いやぁー、さすがは我らがニド部長! 我々人間ができないことを体を張ってやってくださるとは! 新製品の効き目を自分の体で証明したわけですか」
 部下である副部長はこんな反応を示した。
「……。(これは、ほめられているのか? それとも、けなされているのだろうか?)」
 製品としては、素晴らしい効き目かもしれない。しかし、何故かリクガイには素直に喜べなかった。

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