#include(第二回短編小説大会情報窓,notitle) writer is [[双牙連刃]] ふぅ、少し遠出をし過ぎたな。もう日が沈んで真っ暗になっちまった。 あいつ、もう寝てるかな? それなら助かるんだけど、起きてたらちょっと面倒だな。 見えた、俺が暮らしてる洞穴だ。 「ただい」 「うわーん! リングマのバカー!」 「まぎょふぉぉ!?」 せ、盛大な体当たりを腹の輪の中心に食らった。体当たりっていうか頭から突っ込んできたからもうロケットだぞこれ。 倒れこんだ俺の上で、体当たりをぶちかました犯人は泣きじゃくってる。まったく、どれだけ心配性なんだか。 機嫌を直してもらわないと寝るのがどんどん遅くなる。やれやれ、偶然とはいえ見つけておいてよかった。 「悪かったよ、遅くなって」 「くすん、もうここじゃないところに行っちゃったかと思ったじゃないかー……」 「木の実がなかなか見つからなくてな。でも、これもついでに見つけてきたぞ」 「あ、ロメの実」 倒れた時に潰しかけたが、なんとかなってた。これで潰れてたら目も当てられないところだったぞ。 目の前に置いてやったら手に取ったが、まじまじと見つめるだけで食べようとしない。なんだ、折角好きだっていう木の実採ってきてやったのに。 「遠慮しないで、食べていいんだぞ?」 「ううん、今食べるのは勿体無いから、明日の朝食べる」 「そっか。機嫌、直ったか?」 「うん! お帰り、リングマ」 「あぁ、改めて……ただいま、ジュペッタ」 頭を撫でてやると、嬉しそうに笑った。これだけで、見つけてきてよかったと本当に思う。 そう、俺はこのジュペッタと一緒に暮らしてる。ゴーストとノーマル、そんなのを気にしないでな。 ---- ~触れられない? んな事ない~ ---- 「リーングマ♪」 「なんだよ? ロメの実、美味かったか?」 「美味しかった! えへへ、リングマが採ってきてくれたからいつもより美味しかったな」 「そいつはよかった。採ってきた甲斐もあったよ」 出掛けようとする俺の腹に、ジュペッタが飛びついてきた。頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細めながらこっちを見上げてる。 どうやらこいつは、他のジュペッタよりもやや小さいらしい。だから抱きつかれると、丁度腹の辺りに腕が回される。といっても、他のジュペッタを見た事がある訳じゃないから何とも言えないんだけど。 三週間前に、瀕死でこの洞穴の前に倒れてたのが嘘みたいだろ? これでも、ここまで元気にするのにかなり苦労したんだ。木の実もどれだけ食わせてやったかな……数えるのも面倒なくらいだ。 「ねぇ、今日は一緒に出掛けていい?」 「ん? 行きたいのか? ここでゆっくりしててもいいんだぞ?」 「もう元気だもん。リングマのお手伝いしたいな」 「そういう事なら……行くか?」 「うん!」 洞穴の出口で、こいつ日光大丈夫なのか? とも思ったけど、考えてる間にジュペッタは日の下に出てた。よかった、これで消えられたりしたら今までの苦労が水の泡だったぞ。 とことこと歩くジュペッタに合わせ、ゆっくりと木の実を探しながら歩く。今日は良い風も吹いてるし天気も良い。こうして歩くのにはもってこいだな。 「気持ち良いね、リングマ」 「そうだな。疲れたらすぐに言えよ? 休憩するから」 「平気だもーん。あ、見て見てリングマ! 木にお花が咲いてるよ!」 本当だ。これは、ヒメリだな。もうしばらくしたら実になって食えるようになる。場所は覚えておこう。 見上げてるジュペッタを持ち上げて、花の近くまで寄せてやった。 「可愛いお花だねー。これも、木の実になるの?」 「あぁ。まだしばらく先だけどな」 「じゃあ、木の実になったら一緒に採りに来よう!」 「そうだな。じゃあ、他の木の実探すか」 「はーい!」 ジュペッタを下ろして、また歩き出す。ときどきこっちに笑いかけながら歩く姿はやっぱり可愛い部類に入るんだろう。 今はこうして笑ってるが、こいつ、しばらく笑う事も出来なかったんだ。あの洞穴の中で、ずっと泣きながら暮らしてた。 仲間から虐められて、捨てられて、な。 俺のところまで来たのは彷徨の末にだったらしい。ずっと独りで歩いて、力尽きたんだ。やるせなくなるよな。 「リングマー、どうしたの?」 「……少し考え事してただけだ。お前が元気になってよかった、ってな」 「うん……私、リングマに会ってなかったら死んじゃってたよね、ゴーストタイプなのに。死ぬって言うか分からないけど」 「馬鹿な事言うなよ。たとえそうだったとしても、今は元気なんだ。それでいいだろ?」 「だよね。ごめん、変な事言って」 「まったくだ」 笑いながら、ゆっくりと青空の下を並んで歩く。本当に、俺が助けてなかったらこうもならなかったんだ。運が良かったよ。ジュペッタも、俺もな。 俺には親も、仲間も居ない。タマゴから孵った時にはもうあそこの洞穴に居て、それからはずっとあそこに暮らしてる。 親があそこにタマゴを捨てていったのかとかそういう事は分からない。でも、俺はジュペッタと出会うまでずっと独りだった。それは確かだ。 別に他のポケモンに会った事がない訳じゃないぞ? ただ、深く関わろうとしたのがジュペッタが初めてってだけだ。 それからしばらく、他愛のない事を喋りながら歩き続けた。流石にそろそろジュペッタのほうがバテてきてもおかしくないかな。 木の実はそうそう見つかる訳じゃない。昨日も遠出してやっと見つけたくらいだ。今日はジュペッタも居るし、見つかるかは分からないな。 「ふぅ、ふぅ……」 「そろそろ疲れたか?」 「ま、まだ平気だもん」 とかなんとか意地を張ってるが、明らかに声のトーンが下がってる。まったく、世話が焼けるな。 「どーれ、よいしょっと」 「あ、わわわ」 ジュペッタを持ち上げて、肩の上に下ろす。まぁ、要するに肩車だ。こうすればジュペッタはより周りを見れる。別に休ませる為だけに担いだ訳じゃないぞ。 「も、もぉ、持ち上げるなら一言言ってよ」 「はは、悪い悪い。でもこれでもっと周り見れるだろ? ちゃんと木の実探してくれよ?」 「分かってるよ。……あ、ありがと」 「はは、どういたしまして」 俺の頭を抱え込むようにして、ジュペッタは大人しくしてる。ほんのりひんやりしてるのは、やっぱりジュペッタがゴーストタイプだからか? 他の奴から見たらおかしいのかもなぁ……ゴーストとノーマルタイプ、決して相容れないタイプ相性の相手と一緒に居るってのは。俺の技はジュペッタには効かないし、逆もそうなんだからな。 でも、俺はそれが悪い事だなんて思わない。だって、こいつを傷つける手段が無いって事は、物理的にとはいえこいつを傷つける心配が無いって事だからな。 「ねぇ、リングマ……聞きたい事があるんだけど、いい?」 「どうした?」 「どうして、私を助けてくれたの? 優しくしてくれるの? 怖くないの? 私、ゴーストタイプなのに」 「おいおい、纏めて聞かれても一気には答えられないぞ?」 「ごめん……」 「……助けた理由は、ほっとけなかったから。優しくするのは、俺がそうしたいから。怖くないかって? 怖い訳ないだろ」 矢継ぎ早に答えを並べて、ジュペッタを目の前に持ってくる。少し不安そうだな、今まで思ってたの隠してたのか? ジュペッタの目を見ながら、俺は続く言葉をしっかりと考え、口にした。 「俺の事をこんなに慕ってくれてる奴を、怖がったりする筈無いだろ?」 「で、でも私がリングマの事を騙してるとかそういう事とか」 「なんだ? じゃあ今までの演技だったのか?」 全力で、目の前で首を横に振って見せた。そうだろ? お前は俺の事を騙したりなんてしてない。ずっと、分かってたさ。 そっと、ジュペッタの事を抱き締めてやる。力を入れないで、包むように。 「優しくされすぎて、不安になったか?」 「だ、だって、こんな風にされだごとないがら、色々わがんなぐなっじゃって……」 「それなら、これから俺が一緒に居て教えてやるよ。だから泣くな。な?」 「う゛、う゛ん」 俺みたいに最初から独りならまだいい。こいつは、仲間から捨てられるっていう辛さを味わってきたんだ。だからこそ、優しさが怖くなったんだろうな。 また捨てられた時に、自分が傷付くのを恐れたってところか。三週間くらいじゃ、そうなるのかもな。 腹の毛が涙を吸うのが止まったのを確認して、抱き締めるのを止めた。離したそこには、また笑ったジュペッタの顔がある。やっぱり、笑ってたほうがずっといい。 「さ、また木の実探すか」 「うん♪」 またジュペッタを肩車して、のんびりと歩き出す。今日は、本当に散歩日和だ。 ---- 洞穴の近くの川で喉を潤す。ついでに多めに飲んで、今日の夜は凌ぐとしよう。 結局、やっぱり木の実は見つからなかった。残念そうにうな垂れるジュペッタを励ましながら、夕日を背にして俺達は洞穴に戻った。 今はもう夜。昼間にジュペッタの涙を受けてごわついた毛を洗うついでに、水を飲みに来たところだ。 「ぷはぁ、これで今晩くらいは凌げるだろ」 少し川べりに座って夕涼みでもしていくか。昼間が晴れてたから、今日は夜でも空が明るい。綺麗な満月と星空だ。 「リングマー? あ、居た」 「ん? どうした?」 「リングマが帰って来ないから見に来たの」 そうだったか。ちょこんと隣まで来て、同じように座り込んだ。 「お月様、綺麗だね」 「あぁ。今日は本当に空が綺麗だな」 並んで夜空を眺める。木の実は見つからなかったけど、悪い日ではなかったな。 ん? ジュペッタが動いたと思ったら、立ち膝で座ってた俺の立ててない方の足に座った。バランス悪そうだから、ちょっと支えてやるか。 「どうした?」 「えへへ、こうしたくなったの。ダメ?」 「したくなったんなら、しょうがないな」 夜風に当たりながら、笑いかけるジュペッタに俺も笑って見せた。こいつと居ると、自然に笑みが顔に浮かんでくる。 もたれ掛かってくるジュペッタの存在感を感じながら、さらさらと流れる川の流れに耳を傾ける。気持ちが落ち着いて、今にも眠りそうだ。 「あぁ、そっか。なんで昼間に、あんなに不安になったか分かった」 「へぇ、どうした?」 「もしかしたら、リングマにも捨てられちゃうんじゃないかなって、思ったんだ。そしたら、思うだけで耐えられなくなっちゃった」 ジュペッタの顔がこっちを向く。その顔は少し、赤くなってるように見えた。 「リングマの事が、大好きになっちゃったからね♪」 聞いた途端に俺が恥ずかしくなったわ。照れ隠しに頬を掻いてみたが、きっと赤くなってるんだろうな。 何かを期待する目でジュペッタはこっちを見てる。俺がどう思ってるか知りたいと、そんな辺りだろうな。 「あっと、俺も、嫌いではない、かな」 「何それ~? 歯切れも悪いし、もっとちゃんと言ってよぉ。それとも、やっぱり嫌いなの~?」 この野郎、からかう様に笑いながら言うなっての。口にするだけで恥ずかしいったらありゃしない。 でも言わないと逃がしてくれないだろうな。しょうがない、覚悟を決めろ、俺! 「あ~っと、その……」 「な~ぁに?」 「俺も嫌いじゃないぞ、お前の事」 「それじゃ変わってないー。っていうかこっち向いて言ってよ」 ダメだ、照れ臭さを隠せない。深呼吸深呼吸……。よし、もう大丈夫、な筈。 ジュペッタの目をちゃんと見て、ゆっくりはっきり言うぞ。 「……好きだよ、ジュペッタ。大好きだ」 「うん、嬉しい。私も大好きだよ、リングマ」 ジュペッタが口を重ねてきたのを、拒まずに受け入れた。 月明かりに照らされながら、俺達は口付けを続ける。まるでここだけ時間が止まったんじゃないかと錯覚するくらいに、この一瞬は静かだった。 一陣の風がさぁっと吹き抜けて、俺達の口付けは終わる。暖かな余韻を、しっかりと残して。 「これからも、一緒に居ていいよね? 私」 「あぁ、もちろん。というより、頼む」 「うん! ありがとう、リングマ」 「こちらこそ。ありがとう、ジュペッタ」 一緒に暮らしても、俺達に子供が出来る事は無いだろう。それでも、俺は幸せだ。もう独りじゃない。 並んで洞穴へ帰って、俺の腕枕の中でジュペッタは眠りだす。……今日も、良い夢が見られそうだ。 翌朝になって、自分の腹の虫の鳴く音で目が覚めた。やっぱり水だけじゃこうなるよな。 ジュペッタもそれを聞いて起きたみたいだ。なんか悪い事した気になるぞ。 「お早うリングマ。……お腹空いた?」 「流石にちょっとな。お早うジュペッタ」 今日も朝から木の実探しだ。出口へ向かうと、ジュペッタもついて来た。これからは、一緒に探す事になりそうだな。 今日も何も見つからないのは流石に不味い。ジュペッタ連れでも遠出するしかないな。 「う~、腹減った」 「大丈夫リングマ?」 「大丈夫じゃない、腹減って死ぬ」 「そんなぁ、私を独りにしないで~」 ふざけ合いながらも足を動かすのは止めない。今日は本気で見つけにいくからな。 「あ、でもそうなったら私とリングマでも子作り出来るのか」 「いや出来ないと思うぞ? っていうか殺すなし」 「冗談冗談。私もお腹空いたし、頑張って見つけようね!」 「もちろん!」 ジュペッタと一緒なら、何処までも行けそうな気がする。笑いながら、楽しみながらな。 これからも、一緒に歩いていこう。な、ジュペッタ。 ~FIN~ ---- ということで、どうも私です。多分書き方とかでバレましたかね? 折角のお祭り、私は踊り手に回らせて頂きましたよっと。結果は2票にて五位タイ! 投票して下さったお二方、並びにお読み頂きました読者の皆様、ありがとうございます! あまり主人公として見ない二匹をチョイスしてみましたが…上には上が居るといった感じですね、もっと精進しますよ! 本当は別の話の構成もあったのですけど、長過ぎて頓挫しましたw 一万文字の制限って、気にするとやはりちょっと難しいものですね。 さて、戯言はこの辺で。一応コメントエリアを設置してお開きということで! 最後にもう一度、ありがとうございました! #pcomment IP:219.115.200.118 TIME:"2012-07-01 (日) 02:06:55" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E8%A7%A6%E3%82%8C%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%AA%E3%81%84%EF%BC%9F%E3%80%80%E3%82%93%E3%81%AA%E4%BA%8B%E3%81%AA%E3%81%84" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; Trident/5.0)"