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脇道9 歩み続けた印 の変更点


writter is [[双牙連刃]]

 彼はその身から溢れる程の力を持っている。けれど彼は、無敵の英雄でも不死身の怪物でも無かった。

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 午前10時のハヤト家、そこはご主人が連れて行かなかったポケモンが寛ぐ平和な日常が送られてます。今日は珍しくご主人がレオ君、ソウ君、プラス君を連れて行ってるから家に居るのは牝のポケモンとライトだけ。前は一応家に牝のポケモンだけになるのは何かあった時に危ないかもって事で、必ず牡のポケモンの皆が一匹は残るようにしてたんだけど、ライトが居てくれるようになったからね。ご主人も牡の三匹を連れて学校に行けるようになったの。ライトも何となく察してくれてるのか、こういう日は出掛けず家に居てくれてるよ。
 こういう日はリィちゃんやリーフちゃん、フロストちゃんも手伝ってくれるから家事もすぐに片付いちゃう。だからいつもより寛ぐ時間も増えるから、今は軽くテレビを観ながらお喋りしてるよ。

「紅葉シーズンも佳境、か。こういうのを見に行くのって行楽って言うんだっけ」
「そうね。うちもハヤトがこういうのにもう少し興味があれば、出掛けていくのかもしれないけどねぇ」
「ハヤトさんの秋は基本的に食欲ですからね。行楽も栗の木探そうぜ! とか言いそうですよね」
「見つけて集められても処理がねぇ……イガとか殻も硬いからそれだけで草臥れちゃいそう」

 なんてテレビに映し出された事を話題に話をするのも楽しい。行楽かぁ……皆でお弁当持って行ったりしたら楽しいだろうなぁ。あ、今度またジルさんの所に遊びに行くのも良いかもね。あそこも今は紅葉真っ盛りだと思うし。

「しっかし秋ねぇ……あたしはそこまで寒く感じないけど、気温は結構下がってきてるのよね」
「そうですねぇ。正直草タイプとしては外出を避けたい季節です」
「と言うか、フロスト姉ぇが寒くないのはライトに乗ってるからなんじゃ……?」
「ん? あーまぁ、それもあるわね」

 あぁ、ライトは喋らない、というか寝てるから今喋ってなかったの。……私もライトに告白してそういう相手になってるんだから、たまには私の方に来てくれてもいいのになって思うのは口にはしないでおくよ。けどその、ライトと密着状態になってるフロストちゃんが羨ましいと思っちゃう。ライトに告白する前は仲良しだなぁって思う程度だったんだけどね。最近自分でも、私ってヤキモチ焼いたり出来たんだって思うもの。
 まぁそれは置いといて、確かにライトにくっ付いてるんだからフロストちゃんが寒くないのも分かる。あとフロストちゃんはある程度自分が過ごし易いように周囲の気温を操作してるんだっけ。それもあって、家に居る間はそこまで気温の変化を気にしないのかもね。

「にしてもよく寝てるわねぇ……夜寝てるのよね、こいつ?」
「うん、それは私が保証するよ。たまにちょっと遅くまで起きて月を眺めてたりするみたいだけど、眠らないって事は無いよ」

 ……皆には言わないよう言われてるけど、実はライト、たまに夜中に出掛けて行くんだよね。昨日も出掛けていって朝方帰ってきてるから今寝てるの。何してるか聞いても、ちょいと野暮用の片付けとしか教えてくれないの。で、ライトが出掛けて行った日の次の朝には、アキヨで有名な悪い人が逮捕されたってニュースが流れるんだよね。多分、そう言う事なんだと思う。もぉ、ライトがそんな事する必要無いと私は思うんだけどなぁ。ライトが自主的にやってる事だから私がとやかく言う事じゃないって事にしてるけど、心配はいつもしてるんだよ。

「あら? 何かしら、これ?」
「ん? どうかしたんですかフロストさん」
「いや、今前脚を動かして背中を撫でちゃったんだけど、なんか触り心地が妙な所が……」
「ひょあん!? な、なんだなんだぁ!?」
「うわ!? ら、ライト!?」

 び、ビックリしたぁ……聞いた事無いような声を上げながらライトが目を覚ましたみたい。

「ち、ちょっと! いきなり体起こすんじゃないわよ!」
「おめぇが変な所触るからだろうが! 大人しく乗っかってろっての!」
「変な所って……フロスト姉ぇが触ったの背中だよ?」
「別に変な所ではないと思いますが……」
「あーまぁほら、あれだ。野良で戦った時にちょいと深めの傷を受けちまった事もあるんよ。今こいつが触ったのは、その時の古傷って奴なんよ」
「嘘ぉ、今までそんなのあるなんて気付かなかったわよ?」
「基本的にゃ毛で上手い事隠れてるから、見た目や表面撫でたくらいじゃ分からんの。おめぇは今毛を捲るように触ったから古傷に触れたんだっての」

 リィちゃんも驚いてるって事は気付いてなかったみたいだね。なんて言う私も実際にどんな傷かは知らない。けど、ライトのこれまでの話を聞かせて貰ってるから、何度か大怪我を負ってるって事は知ってたよ。そっか、古傷として残っちゃってるんだね。

「へぇ、そんなのあんたも受けた事あるのねぇ……どんなのがあるか少し見ちゃおうかしら」
「止めれっての。古傷なんざ見たって痛々しいくらいにしか思わんだろ」
「まぁ、好んで見るものでは無いかもしれませんね」
「そういうこった。俺に乗ってたかったら変に興味持たずに大人しくしてれ」
「ライトが深い傷を受けるなんて、ちょっと僕には想像出来ないかも。そんなに強い相手が居たの?」
「世の中ってのは広いもんさ。俺より強い奴も居るし、集団で連携してすげー力を振るう奴等も居る。俺はずっと一匹で居たし、限界はあるさぁな」

 ライトの話を聞く限り、どれも普通のポケモンじゃ戦いなんて言えるものにならない相手だったみたいだけどね。そんな戦いを繰り返してきたのがライトのこれまで、か。本当、これからはもっと自分を大事にしてもらいたいなぁ。

「ライトさんの限界ですか……実際のところ、どの位の相手ならライトさんに危険だと認識されるんですかね?」
「んー? そうさなぁ……チャンピオンリーグに出場するようなトレーナー10人くらいの手持ちから一斉に襲い掛かられたら、流石に俺も逃げ出すかな」
「……想像出来ないけど、まず普通じゃ一溜まりも無いのは間違いないわね」
「何をしたらそんな事になるの?」
「知りたいか?」
「いや経験あるんですかライトさん」
「似たようなのならな」

 だから大怪我してんだぜーって茶化す様に言うライトをフロストちゃんやリーフちゃんは溜め息交じりに見てる。リィちゃんはライトの言う事が本当かどうか分からなくて首を傾げちゃってるよ。ライトはきっと、俺の苦労話なんて本気で話しても詰まらんだろ、なんて思ってるんだろうなぁ。
 それからフロストちゃんがライトからその辺りの事を聞き出そうとしてたけど、ライトがはぐらかすから諦めたみたい。私もそろそろお昼の用意しようかと思ってソファーから立つと、手伝うって言ってリーフちゃんとリィちゃんも来てくれた。これならそんなに掛からずに準備出来ちゃいそうだね。

 お昼の片付けも済ませてまたゆったりとした時間が過ぎていく。リィちゃんがお散歩に行きたいって提案してリーフちゃんとフロストちゃんがついて行ってるから、今家には私とライトだけ。だからまぁ、ちょっとだけね、いつもは朝しかしてない膝枕をしてるところ。ライトはいつもフロストちゃんやリィちゃんを乗せてるし、枕だから少し違うかもしれないけど、たまにはライトに寛ぐ側になってもらっても罰は当たらないよね。
 ふと、ライトを撫でてた手の先が気になる。ライトの古傷、か。

「……気になるかい?」
「え? あ……うん」
「まぁ、あんだけ思わせぶりに言やぁそうだよな。皆が帰ってくる前なら……ちっとだけなら、いいぜ?」
「いいの?」
「擽ったいから、本当にちっとだけな?」

 ライトから許可も貰ったし、そっとライトの毛を逆さに撫でる。……あった、毛皮に深く刻まれた傷跡。本当に、上手く隠れてる。けど、こうして毛を掻き上げればすぐに見える所にこんな傷が隠れてたんだ……。

「痛くは、ないんだよね?」
「あぁ、もう痛みは無ぇよ。ただやっぱり他のとこより敏感になっててな、直に触れられると擽ったいんだわ」

 それから擽ったそうにするライトにはちょっと申し訳なく思ったけど、ライトの体を調べさせて貰って幾つもの傷跡を見つけた。目元にも傷があるけど、スパッと切られてるから目立たないだけみたい。ライトの素早さから考えれば重い一撃を真面に受けるって事は無いだろうから、そういう一撃を掠めるように受ける事になるから切り傷って形になるのかな?

「切られ撃たれしてる内に綺麗にゃ治ってくれん傷も増えちまったもんだよ」
「そうなんだ……ライト、そんな無茶を繰り返してきたんだよね……」
「まぁ、無茶は数えたら切りが無ぇかな。それでも、どれも俺がやるって決めた無茶ばかりさ。やって助けられたもんもあるし、悪い事ばっかりでもないさな」

 そう言ったライトの顔は、何処か穏やかで嬉しそう。そっか、辛くて痛い思い出だけが残る傷跡じゃないんだね。

「ふふっ……ライト、いつもお疲れ様」
「ん? はは……好き勝手やってるだけなんだが、そう言われるのは悪くないな。ありがとう、レン」

 穏やかな日差しの照らすリビングで、ライトと一緒に居られる。けどこんな今に至るまでに、ライトは大変な道を歩き続けてきたんだね……その大変さ、私が少しでも受け止めてあげられたらなぁ。

「……ライト。ちょっと頼りないかもしれないけど」
「うん?」
「私、いつでもライトの事、受け止めるから。だから、疲れたり辛くなったら遠慮無く言ってね。待ってるから」
「おっ、おぉ……面と向かってそんな事言われんのは初めてだ。えっと、まぁその、そんな時が来たら、頼む」
「うん」

 って返事をしてからふと思う。ライトに甘えてもらうのって、別に特殊な時じゃなくてもいいんだよね。そもそも恋人ならぬ恋ポケ? なんだから何時だって、なんだったら今だって何も問題は無い訳だよね! いやリィちゃん達が帰ってくるかもって可能性はあるけども!

「ね、ねぇライ……」

 ライトの名前を呼ぼうと思って視線を下げると、そこには気持ち良さそうに寝息を立てるライトの姿がありました。あ、寝てる。これ完全に寝てるよ。えっ、えぇ? このタイミングで? いやまぁ完全に身を預けてくれてるのは嬉しいけども!

「あぅぅ……」

 折角場の勢いでもう少しくらいライトと触れ合おうって欲を出したのに、それはまた私の胸の中に秘めておく事になりそうです……けどまぁ、こうして身を預けてくれるライトを堪能出来るって事で今は納得しておこう。
 眠るライトをそっと撫でながら、暮れ始めようとしてる外を見る。きっと皆寒いって言いながら帰ってくるだろうし、今晩は体の温まりそうな物を作ろうかな。

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~後書き~
 今作をお読み下さりありがとうございます! 特別になっていく二匹の時間と特別じゃないライトの一部分を少しでも感じて頂けたのなら幸いです!

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