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耐久泥棒 の変更点


※強姦っぽい描写があります。苦手な方はご注意を。
*耐久泥棒 [#kb7f27a8]
writer――――[[カゲフミ]]
#ref(耐久泥棒表紙.png)
[[九十九]]さんから表紙絵をいただきました。ありがとうございます。

―1―

 枝先で黄色い木の実が揺れている。ちょっとやそっとジャンプしただけでは届きそうにない、まだ他のポケモンが手をつけてないであろう位置。
木の幹に両手両足の爪を引っ掛けるようにして登っていた私は、安定した体勢のとれる太い枝の根元にゆっくりと這い上がる。
太いと言っても、丸みを帯びた枝の上。地面と比べると安定感はまるで違う。幹に片手を当て、体を支えながら私は立ち上がった。
目当ての木の実に手が届くまでおよそ二メートルと言ったところか。枝の部分は木の幹から遠ざかるにつれて段々と細くなっている。
私はそこまで体重が重いわけではないと思うけれど、はたして枝を折らずに木の実を取ることが出来るかどうか。
姿勢を低くし、慎重に一歩ずつ。私は枝先の方へ足を踏み出していく。徐々に枝がしなっていき、みし、ぎし、と樹木の悲鳴が聞こえてきた。
私だって食料を提供してくれる木を必要以上に傷めつけたくはない。あと少しで手が届く。枝よ、どうか折れずに頑張ってくれ。
片手で体を支えながら、恐る恐る右手を木の実の元まで伸ばしていく。爪の先が実と枝とを繋いでいる茎の部分に触れた。
爪の内側をそこへ引っ掛けて、さっと引く。瞬間、小気味よい音がして実と枝は見事に分離した。
地面に吸い込まれそうになった果実を私は素早く右手で受け止める。
三本ある爪の真ん中を下にずらして、実が安定して乗るように調節するのも忘れずに。
よかった。落とさずに済んだ。後は戻るだけ。木の実を脇に抱え、来た時よりもさらに用心しながら、私はゆっくりと後ずさっていく。
枝の根元まで戻れれば、登るよりもずっと楽。私がいる高さは三メートル程。剥き出しの地面に飛び降りるような馬鹿な真似はしない。
木の根元周辺にあったふかふかの柔らかい草むらの上目がけて。
勢い余って飛び越えてしまったら目も当てられないので、蹴る力は程々にしつつ。私は跳んだ。
地面に降りた途端、両足に強い圧力が加わるのを感じたが、草が衝撃を吸収してくれたおかげで痛みはなかった。私も、そして木の実も無事だ。
私が登っていた木の根元には、同じ種類の木の実が四つ無造作に転がっていた。今持っているのを合わせれば五個。まずまずの収穫か。
「そろそろ、戻るか……」
 採れた果実を両手で抱えながら、私は住処を目指す。この木の実は今食べるためではない、非常時のための貯蓄用だった。
周囲を見渡せば背の高い木、低い木。足元を覆う草むら。この森の植生は様々だ。日当たりのよい場所もあり、悪い場所もある。
偏りの少ないバランスのとれた環境であるため、自然豊かな森であると言えよう。
住んでいるポケモンの種類も数も多く、当然、食料である木の実を求めるライバルも多い。
目立つ所にある実はほとんど採られてしまっていて、辺りをくまなく探し回っても木の実にありつけなかった日もあった。
空腹が酷くなると身動きすることすら難しくなってしまう。そうならないためにも、私は余裕のあるときは住処に木の実を溜めるようにしているのだ。
今持っているのを合わせれば二十個くらいか。計画的に消費していけば半月は持ちこたえられるくらいの量。
ただ、私はあまり体の大きなポケモンではない。腕も細めなので木の実を抱えるにしても、五個がやっとだった。
一度、両手の爪一本一本に突き刺し、さらにその状態で抱えて大量に運んだこともあったが、一度傷をつけると痛むのが早くなるので貯蓄には向かなかった。
効率はあまり良いとは言えなかったが、こうして両手で木の実を抱えて持ち運ぶのが一番私の性に合っているようだ。
 さて、そろそろ寝床にしている古木の洞が見えてくるはずだ。樹齢を重ねた巨木が朽ち果て、何年も経ったことを感じさせる洞。
入り口は丁度私が入れるくらいの大きさの穴が開いており、中は外見よりも広く風通しが良い。暑いのが苦手な私には快適な空間。
内部の樹皮は凹凸も多いので、隙間に木の実を隠すにはもってこいなのだ。ただ、筒状になっているため雨を凌ぎきれないのが玉に瑕か。
そんなことを考えつつ、住処が視界に入るか入らないかの場所まで戻ってきた時だった。何やら黒い影が、洞の前から去って行ったのが見えたのは。
本当に一瞬のことだったので、黒い物体が動いていた程度の認識でしかない。そこまで大きくはなかったように思えるが、何のポケモンだったのかはさっぱりだ。
だが、住処の周りをうろうろされるのは気分の良いものではない。私の見間違いという可能性もあったが、どうにも嫌な予感が拭いきれなかった。
住処に向かう私の足も自然と早くなる。洞の入り口周辺には微かに他のポケモンの匂いが残っていた。何者かがさっきまでここにいたことは間違いない。
まさか、と思いつつ住処の中を確認する。激しく荒らされたような形跡はなかったものの、足元に何やら細長いものがいくつか落ちている。戻ってくる前はなかったはずだ。
私は抱えていた木の実を置き、それを手に取ってみる。黄色っぽくて表面は微かに湿っていた。これは、私が今採ってきた木の実の芯だ。
この実は果汁が多く水分もたっぷり含んでいるが、芯の部分はとても堅く全くと言っていいほど歯が立たないので残すしかない。
私自身も良く口にしているこの木の実を見間違えるはずがなかった。
と、言うことはこの芯はさっきここにいたポケモンが盗み食いをしていった残骸という結論にたどり着く。
「っ……!」
 私が頑張って集めてきた木の実を、留守なのをいいことに勝手に食い散らかされていたのだ。
何の苦労もせずこっそり腹を満たそうと忍び込んだポケモンのことを考えると、胸の奥からわなわなと怒りが込みあげてくる。
私は樹皮の空洞に取ってきた木の実を乱暴に押し込むと、勢いよく外へと飛び出していた。さっき見た影。逃がしてなるものか。このままでは絶対に済まさない。
僅かだけれど、まださっきのポケモンと思しき匂いが残っている。どの方向へ逃げたのかは判断がつきそうだった。
よくよく見てみると地面の上に丁寧に足跡まで残してくれていた。剥き出しの土の上に残されたものを見る限り、四足歩行のポケモンであることを窺わせる。
普通逃げるのならば足跡の残らない草むらの上を通るべきなのだが、私が突然帰ってきたため相手もかなり動揺していたのかもしれない。
何にしても好都合。時間が経てば経つほど他の匂いと紛れて分からなくなってしまう。追いかけるならば今しかなかった。
まだ収まりきらない憤りと共に私は勢いよく地面を蹴って、食い逃げしたポケモンの追跡を開始したのだ。

―2―

 木々の間、茂みの隙間を縫うように。地面に残された足跡と僅かな匂いを辿りながら。私は森の中を疾走する。
開けた土地の少ない場所だ。直進したのではいくら全速力でも樹木や草むらに阻まれてしまい、上手くスピードが出ない。
出来るだけ小回りを利かせ、目の前に来た障害物はぎりぎりのところで回避。無駄な動作を省くことで、速度を保ったまま突き進む。
素早く動くために日々特訓を重ねているとか、そういった修行のようなことはした覚えはなかった。基本的に木の実を探しては食べる生活だ。
探索するうちに他のポケモンの縄張りに入ってしまったことも何度かあったが、今のところ大きなトラブルには巻き込まれていない。
相手が好戦的ならば木の上に隠れたり、茂みに身をひそめたりしてやり過ごしてきたのだ。確かに逃げるために走ることはあっても、全力疾走とは無縁だった。
そんな私だったが、今回は自分でも驚くくらいの速さで森を駆け抜けている。風の音が普段と比べ物にならないくらい騒がしい。
私が通過することで足元の草むらが、木々の根元の茂みが、激しくざわついていることが分かる。何だか風にでもなったかのような気分だ。
木の実を盗まれたという激しい怒りが速さを生み出していたのだろうか。まあ、私が素早い身のこなしに恵まれた種族であることも大きかったのかもしれないが。
こんなに早く走ることが出来たんだ、という感動もあったのだろう。私の足は止まらなかった。結果、思っていたよりも早く、逃げていたポケモンの姿を捉えることに成功する。
さっき影のように見えたのは私の見間違いではなかったようだ。黒い影が動いていると言っても問題なさそうなくらい真っ黒な姿。
夜ならば完全に見失ってしまっていたであろう、闇に溶け込めそうな黒い毛並みだ。体の割には長めの耳、そして大きめな尻尾が見える。
走りながらだったので耳と尻尾の先しか確認できなかったが、黄色い輪っかを通したような模様があった。私の気配に気づき、振りかえったその瞳は私と同じ赤い色だ。
「……げっ」
 途端、黒い影――――ブラッキーの表情が引き攣る。無理もない。さっきまで存在を確認できなかった追手の姿がすぐそこまで迫ってきているのだ。
心なしかブラッキーの逃げるスピードが上がったような気がした。なかなか機敏に木や茂みの間を掻い潜っていく。
だが、私の方も匂いを頼りに追跡しているのとは違う。対象が定まったのだ。後はそれに向かって突き進めばいい。
私からすれば余裕を持って追いつける速度だった。私は徐々にブラッキーとの距離を縮めていき、後ろ脚に軽く爪の一撃を加えてやる。
「うあっ」
 精一杯走っていた所に突然足を引っ掛けられたブラッキーは一瞬宙を舞い、見事なまでに前方にあった草むらの上にすっ転ぶ。
逃げていたときの勢いは残っていたのか、そのままごろごろと何度か横方向に転がった後、草の上に横たわるようにしてブラッキーの動きは止まった。
足止めは出来た。この状況から私の不意を突いて逃げるのは至難の業。よほどの速さか力でもない限りは、逃がさない自信があった。
呻き声を上げながら、ブラッキーはのそのそと起き上がる。頭を打ったようにも見えなかったし、爪を足に伸ばした時もほとんど手ごたえがなかった。
派手に転びはしたものの、大したダメージは受けていないはずだ。私はゆっくりとこの食い逃げブラッキーの元へ歩み寄っていく。
一度にあれだけ木の実を食べ、腹が膨れて動きが鈍っていたであろうところを頑張って逃げた方だとは思うが。さて、こいつをどうしてくれようか。
「……マニューラだったのかよ。ついてねえ」
 全く悪びれる様子もなく舌打ちするブラッキー。盗んだ相手を前にしているのにこれか。癪に障る。
確かに留守にしていた住処の主が自分より足の遅いポケモンだったならば、もし出くわしたとしても逃げ切ることができるだろう。
こいつの態度を見る限り、今まで何度も同じ手口で食料を盗み食いしてきたことを予想させた。
今回、素早い種族である私の木の実に手をつけてしまったのは彼の言うように不運だったのかもしれない。
だが、こんな不当なやり方が常に成功すると思ったら大間違いだ。これは不届き者に灸を据えるちょうどいい機会なのではないだろうか。
私は右手の鍵爪をそっと自分の顔の前にかざしてみる。ブラッキーから見れば、これからその爪の餌食になることを連想させる行動だ。
尊大な態度を取っていたブラッキーもさすがにやばいと感じたのか、赤い瞳が僅かに揺れる。
思わず一歩後ずさった彼との距離を保つために、私は一歩前へ踏み出す。私が爪を掲げて近づいても、往生際悪く逃げだしたりはしなかった。
ここでいきなり走り出したとしても、再び草の上に転ばされるのが関の山。その辺りの器量の違いは心得ているらしい。
「わ……悪かったよ。腹が減っててさ。通りかかった木の洞からいい匂いがしたから、つい」
「あれだけ食っておいてつい、で済むとでも?」
 床に散らばっていた木の実の芯は少なくとも五つはあった。一個や二個ならまだしも、私が見逃せる範疇はとうに越えてしまっている。
いや、一個や二個でも追いかけていたかもしれないが、ここまで必死になって走ったり、歯を食いしばりたくなるほど憤ったりはしなかったはずだ。
木の実五個は私にとっては結構大きい。食べ物の恨みは恐ろしいのだ。
それに最初に聞こえた舌打ちのこともある。ブラッキーが心から謝罪の言葉を述べているようには到底思えなかったのだ。
とりあえず形だけ謝ってみせて、これで見逃してもらえれば運がいい程度にしか考えていないのではないだろうか。
どちらにしてもぺこぺこ頭を下げられたからと言って、はいそうですかと許してしまえるほど私の心は寛容ではなかった。
「もう二度とお前の木の実を盗ったりしないからさ、勘弁してくれよ、な?」
 もし、地面に頭を擦りつけて、震える声で懇願されていたのなら。私の憤りも少しは収まって、爪を掲げる気持ちも揺らいでいたかもしれない。
しかし、こいつときたら。若干強張っているとはいえ、笑みともとれる表情をしている。さらには、親しい友人に挨拶でもするかのような軽い口調の詫び。
そんな調子で言われて、誰が信用するというのだろう。半端な心意気での謝罪はむしろ逆効果。私の怒りを煽り立てるだけだ。
私は無言のまま、さらにブラッキーとの間隔を縮める。あと少し爪を伸ばせば、彼の鼻先に届いてしまう距離だった。
もはや何を言っても効果がないと悟ったのか。あるいは覚悟を決めたのか。ブラッキーは何も言わずに私の顔と、そして爪をじっと見つめていた。
追いつかれて悪態をついていたときとは比べ物にならない程、彼の体が強張っているのが手に取るように分かる。時折、ごくりと唾を飲み込む音さえ聞こえてくるくらいだ。
ブラッキーが最初から素直に謝っていたならば、私も多少は手加減していたかもしれないが。こいつにそんな必要性は感じられない。
私を本気にさせてしまったと知ったブラッキーがどんな表情をするのか、どんな反応を示すのか。食われた木の実の埋め合わせだ。そこも楽しませてもらうとしよう。
涙目になりながら命乞いをされれば、さすがに許してやるつもりではいた。余裕ぶった泥棒の心を打ち砕くにはそれでも十分だろうから。
彼の瞳が私から僅かに逸れた一瞬の隙を狙って。私はぎらりと光る爪を掲げたまま、ブラッキーに飛びかかっていた。

―3―

 一度の跳躍でブラッキーとの距離は一気に縮まる。私が迫ってくると分かっていても、私の姿が大きくなるのを感じつつも、彼が身じろぐことはなかった。
ただ、赤い瞳を見開いただけ。恐怖に震えていたブラッキーの目は私に心地よい優越感のようなものを与えてくれはしたが。
それだけで気持ちが治まりはしない。懐に飛び込んでしまえば隙だらけだ。私は何の躊躇いもなく、彼の脇腹に爪の一撃を加えていた。
衝撃が伝わったのか、ブラッキーの体がぐらりと揺れる。攻撃を加えつつ、彼の横を通り過ぎるように駆け抜け一メートル程の距離を取る。
ブラッキーはまだ完全に立ち直ってはいない。追撃は可能だ。私は再び地面を蹴り、今度は反対側の脇腹へ攻撃を試みる。
「ぐっ……」
 さすがに二発ももらうと堪えたのか、ブラッキーの口から呻き声が漏れた。もう一撃加えた後も、私は彼と距離を置くことを忘れない。
最初に私がブラッキーに飛びかかったのとほぼ同じ位置に足をつけていた。ほとんど動けない相手への攻撃だったから、距離感が掴みやすい。
相手の傍らを素早くすり抜ける瞬間に爪で切り裂く、辻斬り。私の得意とする技。今回は遅い相手だったので、二撃目を加えることが出来た。
爪の先や間にはブラッキーの短い黒い体毛が少しばかり残っていたが、あっという間に風で散っていく。
切り返しのスピードは申し分なかったものの、当たり所がいまいちだったのか。あるいは、私の狙いが甘かったのか。
血を見るほどのダメージには至ってない。虚勢を張った相手を動揺させるのに、血を流させるのはなかなか有効な手段ではあるのだが。
同じ悪タイプであるブラッキーに辻斬りは相性が良くないのは理解している。それでも、皮膚を割く傷すら負わせられないだなんて。
攻撃を受けた直後は、切り裂かれた個所をしきりに気にしていたブラッキーも自分の体に大した異常がないことが分かってしまったようだ。
さっきと同じ体勢に戻ると、黙ったまま私の方をじっと見ている。心なしかその表情には安堵の色が戻ったようにも思えてきた。
切りつけた所を見た感じでは、さっきの攻撃ではブラッキーの脇腹に細い引っかき傷を作ったに過ぎなかったようだ。
確かに私の腕は細い。力の足りない部分は鋭い爪を携えることで補っている。腕力のなさは自覚していたが、それがここまで響くとは。
 いくら泥棒を追いつめても、叩きのめす力がないのではどうしようもない。何とかしなければ。
今日、枝と木の実を切り離したときや、木の幹に爪を引っ掛けたときに異常は感じられなかった。
切れ味はいつも通りのはず。と、いうことはこのブラッキーがやたら頑丈ということも考えられる。
辻斬りではほとんどダメージになってないとなれば、攻撃手段を変えてみるのも一つの手だ。
幸いなことに、ブラッキーが私に攻撃を仕掛けてくるような素振りはなかった。力不足を悟られれば、押し切ろうと突撃してきてもおかしくはない。
追跡や辻斬りで素早い動きを見せているからか、私に攻撃を仕掛けてもどうせ避けられると諦めているのだろうか。
おかげで狙いは定めやすかった。私は小さく息を吸い込み、自分の体に宿る冷気の力を右腕に集中させ始める。
ぴしぴしと音を立てながら、爪の隙間や先端に細かい氷の粒が纏わりついていく。その様子が興味深かったようで、ブラッキーが目を丸くしているのが分かる。
辻斬りを構えていたときとは違った目、観察する余裕が彼の心に生まれている。この技がちゃんと通じればいいのだが。
私はころ合いを見計らって軽く地面を蹴ると、その勢いを利用し、ブラッキーの額目がけて冷気を込めた右手を叩き込んだ。
小気味良い音と共に、彼の額の黄色い模様を覆うようにぶわっと氷が広がる。冷凍パンチは氷タイプの技。悪タイプとの相性は普通。理論上ではダメージが通るはず。
右腕をブラッキーから離し、私は後ろに跳ぶ。相手と至近距離で長時間留まるのは危険だ。
目の前に爪が迫ってくれば、思わず瞼を閉じてしまう。ブラッキーも例外ではなかったようで、額に氷をくっつけたままぎゅっと目を閉じている。
ちゃんと打撃と同時に氷を放つことが出来た。技としては完璧だ。しかし、辻斬りのときと同じように威力が足りなかったということなのか。
目を開けたブラッキーが何度か頭を左右に振るうちに、額に張り付いていた氷はぱらぱらと地面に落ちてしまった。
パンチの衝撃も、氷からくる冷気の冷たさも、全くと言っていいほど通用していないかのような涼しい表情だった。
辻斬りも、冷凍パンチも、私からすれば渾身の攻撃。それでもブラッキーにはほとんど効いたように見えない。
まるで、私の体の何倍もある巨木を相手にしているような気分だ。何度か攻撃を加えて、手ごたえはあってもそれが目に見えて伝わってこない。
私も自分の器量くらいは判断がつく。こいつは私にどうこう出来るような相手ではなさそうな気がしてきた。
ただ、せっかく追いつめた泥棒をこのまま逃がしてしまうというのも癪だ。私の攻撃が怖くないと分かったブラッキーに、去り際に何を言われることか。想像もしたくない。
「……悪くない」
 これはどうしたものか、と私が考えあぐねていた所。ブラッキーがぽつりと呟くように言った。
表情はどことなくにやけていて締まりがない。許しを乞うていたときとは違う、引き攣っていない自然な感じの笑み。
くそ。私の攻撃なら耐えられると知っての余裕ぶりか。悔しいが、かっとなって殴りかかったところでこいつには効かないのだ。
何度も何度も攻撃すれば多少なりともダメージはあるかもしれないが、確実に私の方が先にばててしまう。ぎろりとブラッキーを睨みつけるくらいしか、今の私にはできなかった。
「何がだ」
「お前の一撃、丁度いいな。ちょっとした痛みはあっても苛烈じゃない。へへ……気持ちいいぜ」
 へらへらと笑いながら、ブラッキーが口にした言葉。それを聞いた瞬間、私は全身の毛が逆立つのを感じていた。
全然効かねえ、とか。弱いな、とかならば。苛立ちはしても、私自身の制御が効かなくなったりはしなかったかもしれない。
だが、ブラッキーは気持ちいいと言った。私が怒りと力を込めてぶつけた攻撃は、彼にとって心地よいマッサージ程度だったとでも言うのか。
どこまで私を怒らせれば気がすむんだ、こいつは。ええい、攻撃が効かないなんて知ったことか。どんな手段を使ってでもぶちのめしてやる。
「……っ、馬鹿にしているのかっ!」
 ブラッキーの一言で完全に頭に血が上ってしまった私は、半ば捨て身の勢いで彼の横腹に体当たりを食らわしていた。
肩の骨が軋み、ずきりと鈍い痛みが走る。全身を使っての一撃。普段はこんなリスクが高いうえに反動も大きい非効率的なことはしないのだが。
今はそんなことはどうでもよかった。こいつに何らかの仕打ちを与えなければ、居ても立っても居られないくらいに私は激昂していたのだ。
慣れない体当たりとは言え、ブラッキーを弾き飛ばす程度の威力はあったらしい。小さな悲鳴を上げながら、彼は草むらの上に転がって仰向けになった。
その無防備になった瞬間を狙って、私はブラッキーの腹の上に馬乗りになる。そして、喉元に鍵爪を突き付けた。
いくら頑丈だと言っても、弱い部分はある。背中や額に比べれば喉の皮膚は随分と柔らかい。十分傷を負わせられるレベルだ。
このまま一気に爪を突き立てればさすがのブラッキーも一溜りもないだろう。ただ、私も命を奪うつもりなんてなかった。
木の実を盗んだうえ、全力を込めた私の攻撃をこともあろうに気持ちいいなどとぬかして笑っていた、こいつの態度が気に食わなかっただけ。
ブラッキーが震える声で謝罪や助けを乞う台詞を叫んでくれさえすれば、私も爪を離す。そのはずだったのだ。

―4―

 私が彼の喉元に爪をあてがったまま、時間が流れていく。この状況になればいくら頑丈なブラッキーでもやばいと判断すると思っていたのだが。
ひどく怯えた表情や、命乞いの言葉。私が期待していたものはブラッキーから何一つ出てこなかった。
平然とした顔でブラッキーは私を見上げ、ぱちぱちと瞬きをしている。強がっているようには到底思えない、自然な表情。
ここまでされても恐れをなさないというのか。やれやれ。木の実を盗んだ後の態度と言い、嫌になるくらいの神経の太さだな。
だが、これならどうだ。私は喉元に触れている爪の角度を変え、仰向けになったブラッキーの首と垂直になるように持っていく。
そして、ゆっくりと下方向へと沈めていった。鋭く尖った爪の先端が、ブラッキーの皮膚にめり込んでいく。
表皮が裂けてしまわないぎりぎりの力加減。彼の喉元の脈拍が手に取るように分かるくらい、私はきつく爪を押し付けていた。
あと少しでもブラッキーが動けば。あるいは私の腕に余計な力が加われば。足元の草むらも地面も、真っ赤に染まってしまう。
もちろん、私には細かく力を調節する自信があった。脅しをかけているだけで、最初から殺す気はない。
ブラッキーに血は流させないつもりだ。しかし、相手にそれが分かるはずはないわけで。
彼からすれば殺される一歩手前。無表情というわけにはいくまい。何らかの動きは見せるはずだ。
さあ、どう出る。ブラッキーも変な意地を張って死にたくはないだろう。まあ、彼が本気で謝る気になったとしても、しばらくはこのままでいいかもしれない。
心が折れたブラッキーを眺めることで、私はこいつに勝ったのだという優越感に浸れる。そして、その瞬間は間もなく訪れる。そう思っていた。
ところが、いつまでたってもブラッキーの表情が恐怖に歪みはしなかったのだ。相変わらず黙ったままで、私の耳に届くのは彼の小さな呼吸音だけ。
ここまで反応がないと私の方もなんだか不安になってくる。彼には怖いという感情が欠落してしまっているのだろうか。
いや、私が最初に爪を見せたときはその鋭さに僅かではあったが、恐れを抱いていたような気がする。
命の危険にさらされている今は間違いなく、その時よりも危ない状況のはず。ならば、どうして。
「こ、こういう激しいのも、結構……」
 困惑していた私に、ブラッキーが小さく零す。私は意識を集中させていた自分の爪から彼へと視線を移し、目を疑った。
確かに、ブラッキーの表情は変化があった。ただそれは、私が望んでいたものとは全く逆のもの。
赤い瞳をとろりとさせて、どことなく頬は紅潮しているようにも見える。聞こえる息遣いも若干荒い。
私に馬乗りにされて。喉元に爪を押し当てられて、それでも彼は口元を吊り上げて笑っていたのだ。
声を上げてはいなかったが、表情は見紛うことなき笑顔。恐怖が臨界点を越えて、おかしくなってしまったのかと一瞬思ったが。
木の実を盗んだのを見つかったときについてないと舌打ちするような図々しい相手が、この程度で心が砕けはしないだろう。
その証拠にブラッキーの視線は焦点の合わない虚空ではなく、しっかりと私を見据えている。不気味な薄笑いを伴ったまま。
一体何なんだこいつは。私に肉薄されることが嬉しいとでもいうのか。わけがわからない。やはり私には手に余してしまう相手なのだろうか、こいつは。
さすがに気味が悪くなってきた私は爪を喉元から離し、ブラッキーのお腹に跨ったまま少し後ずさった。
その瞬間、私の背中に生温かくてふにゃりとした妙な感触が。振り返ってみるとそれはむくむくとそそり立ったブラッキーの、雄の証。
「……っ!」
 ほとんど反射のような動きで、私はぎょっとしてブラッキーの上から飛びのいた。
何が起こったのか。どうしてこうなったのか。突然あんなものを見せつけられ、頭の中がぐちゃぐちゃで理解に及ばなかった。
それでも咄嗟に彼の上から身を退いたのは、このブラッキーは果てしなくやばいと本能的な何かが働いたのかもしれない。
「もう、終わりなの?」
 仰向けのまま。まるで大好きな木の実を一口しか食べさせてもらえなかった時のような、物足りなさそうな目で私を見てくるブラッキー。
お、落ち着け。冷静になれ、私。二、三度息を吸い込んだ後、再び彼の方を見やる。相変わらずのだらしなく笑う顔。そして股間の肉棒がそこに。
普段は鞘の中におさまっているであろう肉棒がにゅっと外へ顔を覗かせている。雌の私にはないものだが、どういう仕組みでそうなるのかくらいは理解していた。
雄が性的に興奮した時、それは目に見えて大きくなると私は認識している。そうなると、至る結論は一つだった。信じ難くはあったが。
おそらく彼は、虐げられることで興奮を覚えている。私が攻撃を加えた時に気持ちいいと言ったのは、物理的なマッサージという意味ではなかったらしい。
爪から伝わった痛みが、ブラッキーの精神的な心地よさに繋がりでもしたのだろう。私の腕力の足りなさが彼にとって絶妙な力加減になっていたのかもしれない。
そんな性癖を知る由もなく果敢に突撃していった私の行動は、彼のさらなる興奮を呼び起こす結果となったわけだ。
あの状況でよりにもよって興奮するだなんて、とんでもない被虐嗜好の持ち主。いわゆるドMというやつか。いくらなんでもこれは想定外だった。
微量だろうが痛みは痛みだ。私からすればそんなものは苦痛でしかないのに、それが心地良いだなんて。
私に理解できる範疇は越えてしまっていた。だが、その常軌を逸脱した存在が、確かに今目の前にいる。
私の行動でブラッキーが性的な意味で悦んでいたのは紛れもない事実。体は正直なのだ。明らかに膨張している雄がそれを物語っていた。
大きさはブラッキーの体格からすれば平々凡々と言ったところだろう。目を見張るほど大きいというわけでもなく、かといって馬鹿にするほど貧相でもない。
ただ、黒い体毛を背景にしているせいか桃色のそれが余計に際立って見える。ぴんと真っ直ぐに上に向かって伸びており、形は悪くない。
程良い湿り気を帯びているせいか、表面にはつやつやしている。色合いも健康的で、一物としてはなかなか。って、私は何を考えているんだ。
別に見たくて見ていたわけじゃない。何の前触れもなくいきなりだったし、おまけに目立つ色のこともあって無意識のうちに目が行ってしまっていただけ。
それよりもこいつには羞恥心というものがないのだろうか。初対面の雌にこんな姿を曝け出して。見せびらかすほど立派というわけでもなかろうに。
「なんだ、そんなに物珍しいのか? あ……お前もしかしてちゃんと見るのは初めてだったりする?」
 からかいを含んだ声でブラッキーは私に聞いてくる。何を言い出すのかと思えば。物珍しいのはこいつの存在だけで十分だ。
確かに、ブラッキーという種族のものは初めてかもしれないが、雄を見るのは初めてではなかった。
経験豊富とはとてもじゃないが言えないけど、異性と関係を持ったことはある。どうすれば雄が気持ち良くなるのかは心得ているつもりだ。
「ふん……馬鹿にするな」
 そう言って私はブラッキーの方へ歩み寄る。傍から見ればどう考えても異常と思われる彼の性癖。私も例外ではなかった。
こんな奴とは関わろうとせずにさっさと逃げてしまった方が賢明だったのかもしれない。しかし、かつての異性と関係を絶ってから久しいせいか。
心の準備もなく唐突に生々しい雄を見てしまった私は、何だか妙な気分の高揚を覚えていた。異性と身を寄せ合っていたときの胸の高鳴りに似ている気がする。
このブラッキーに私が惹かれるような部分は何一つ見当たらないから、おそらくこれは本能的な興奮なのだろう。
彼は近づいてきた私に身構えることもせず、仰向けの無防備な姿のまま何かを期待するような視線を送ってくる。
もしかすると、予想だにしなかった出来事の連続で私も気が動転していたのかもしれない。目の前に寝転がっているこの変態を、私は弄んでみたくなったのだ。

―5―

 私はブラッキーに再び近づき、地面に寝そべっていた彼の尻尾を跨ぐ。桃色をしたブラッキーの雄が満遍なく見渡せる位置だ。
ついさっき自分を攻撃してきた相手に堂々と急所を晒すだなんて、私からすれば信じられないことだが。
こいつの場合は常識が通用しなくても仕方はない気はする。若干引き攣ってはいたが、未だブラッキーは笑みを浮かべていた。
息を荒げて、どことなく甘えたような目線で私を見て。これから何をされるのだろうという期待と不安が入り混じった瞳。
「うぁっ……」
 私は右足を前に出すと、踵でぐに、とブラッキーの肉棒を踏みつけてみた。彼の後ろ脚がぴくりと震え、口元からは小さな喘ぎ声。
さすがに敏感な部分。背中を引っ掻かれたときや、額を殴られたときとは違った反応を示すブラッキー。
これは痛みとは刺激の方向性が異なるもの。いくら彼が頑丈とは言え、急所を撫でられて無反応というわけにはいかなかったようだ。
それは、ブラッキーのお腹に跨っていたときに感じた彼の体温よりもずっと熱い。興奮によって硬くなってはいたが、確かな弾力を持ち合わせている。
雄の根元から先端まで踵をつうっと滑らせるようにして離してみる。ぷるんと揺れた肉棒はもう一度ぴんと空の方を指す。
呼吸が荒くなったブラッキーのお腹の上下に呼応しているのか、彼のものもぴくぴくと小さく震えていた。何かを待ちわびるかのように。
一度刺激を与えてやった場所だ。触れられて気持ちいい感覚を覚えたのならば、もっと欲しくなってくるのが本能だろう。しかし。
雄を足で弄くるだけではブラッキーを楽しませるだけにしかならない。痛みを覚えて悦んでいたこいつには、こっちがお似合いだ。
「いくらお前が頑丈でも、これは……どうだ?」
 彼の肉棒ではなく、根元にあった玉袋に向かって。足の裏を叩きつけるかのように、一気に振りおろしてみた。
もちろん、完全に壊してしまわないように最低限の加減はしてある。木の実を盗んだだけで不能にされてしまってはおしおきとしても度が過ぎる。
どこまでも無防備なブラッキーだったが、それくらいの情けはあった。私が満足するような反応を、ブラッキーが示してくれればそれで十分だ。
「あぐぅっ!」
 それなりに弾力はあるものの、そそり立った肉棒よりはずっと柔らかい。何やらぐりっと中身が動いたような感触。それと共に響き渡った、ブラッキーの悲鳴。
私の辻斬りや冷凍パンチでは威力が足りなくて、声すらまともに聞くことが出来なかったが。さすがにここならちゃんと衝撃が伝わったというわけか。
一物の下の雄の大事な個所。そこには雌の私には共感できない痛みがあるらしい。外部から刺激を受けたりすると、言葉に出来ない鈍痛が広がるとか。
このブラッキーも例外ではなかったのだろう。肉棒を踏んでいたときとは比べ物にならないくらい、目を大きく見開き表情を歪めている。効果は抜群だ。
それにしても、追いつめた泥棒をこんな手段で痛めつけることになるとは夢にも思わなかった。しかし、弱い部分があるのならそこを徹底的に攻めるまで。
私は踵に力を込め、ブラッキーの袋の部分へぐりぐりと押し付ける。潰してしまわないよう注意しつつ。それでも袋が凹む程度には力を加えて。
「がっ……あぁっ……ぐあぁっ……!」
 痛みに悶え苦しむブラッキーの前足や後足が空しく宙を引っ掻く。震える息遣いも途切れ途切れになり、目には涙まで浮かんでいる。
本来ならば、喉元に爪を宛がったときにこの顔が見たかったのだが。ブラッキーの性質が特異だっただけに仕方ないか。
苦悶に表情を歪め、涙目になって見上げるブラッキー。私が望んでいたものと大差ない顔つき。悪くない表情だ。
しかし、口元だけは違っていた。この上ない苦痛を味わっているはずなのに、微かに吊り上っている。涙が出るほどの痛みには間違いないはずなのだが、口だけは笑っていた。
こんな痛みでさえ彼にかかれば快楽へと変換されてしまうのか。とんでもないマゾヒスト。どこまでも気持ち悪い奴。
さすがに私もある程度の耐性はできた。もう驚いたり戸惑ったりはしない。そんなに嬉しいなら、もっと踏みつけてあげようじゃないか。
足先で玉袋の表面に円を描くかのように、全体を満遍なく。力加減はさっきと同じで刺激がちゃんと伝わるように調節して。私はまた足を動かしてみる。
やはりこの個所への直接攻撃はかなり堪えるらしい。後足をがくがくと震わせ、声にならない声を上げて身を捩るブラッキー。
体を捻った時に瞳から涙が零れ落ちるのが見えた。傍から見ればとてつもない拷問でも受けているような苦しみ様。
普通なら痛みから少しでも逃れたくて、無意識のうちに許しや助けを乞う言葉が飛び出して来てもおかしくないはずなのに。
ひたすら喘いでいるだけで彼は何も言おうとはしない。きっと痛みに身悶えながらも、心のどこかで私の足の動きを楽しんでいるからなのだろう。
攻撃が通用しなかった腹癒せのような形で、ブラッキーを弄ぶことになってしまったが。私が刺激を加えるたびに、飛び出してくるこいつの声が何だか心地良く思えてきた。
少し足を動かせば、体をぴくりと震わせて鳴いてくれる。扇情的な表情で、甘い声。なかなか良く出来た玩具だ。
ブラッキーの反応を聞いているうちに、私は自分の下半身にじわりと熱いものがたぎってくるのを感じていた。
外に溢れだす程ではないが、爪の先で股ぐらに触れれば表面に水気が付着するのは間違いない。
やれやれ。こんな奴の喘ぐ姿で濡れてしまったのか、私は。知らず知らずのうちに、雄に飢えていたのだろうか。
確かに、ブラッキーの健康的な肉棒や、はあはあと激しく善がる姿を見せつけられたのだから。
こうやって反応してしまうのは雌として自然なことなのかもしれないが。少しだけやるせないものを感じた私はブラッキーの袋から足を離した。
「はあ……はぁ……」
 衝撃の余韻が残っているらしく、ブラッキーはお腹を大きく上下させている。それに伴って揺れる肉棒は相変わらずぴんと張り詰めたまま。
いつしかその先端からは先走りの汁が流れ出ており、雄の表面をぬらりと光らせていた。玉袋を踏みつける前は見られなかった変化だ。
あんなに苦しんでいるように思えたのに、こんなにもじっとりと濡れているとは。やはり内心では悦んでいた、というわけか。
痛みを快感に変えてしまえるのだから、ある意味便利な体質なのかもしれない。そうなりたいとは微塵も思わないけれど。
私は黙ったまま、ブラッキーの肉棒を見やる。最初の頃より僅かではあったが大きさを増したように思えた。
表面が濡れているから余計に膨張して見えてしまうのだろうか。ぬらぬらと怪しくてかる雄はとても卑猥に感じられて。
こいつに欲情してしまったという事実をあまり認めたくはなかったのだが。しっとりと私の股ぐらを湿らせているものを否定できるはずもなく。
小刻みに揺れる肉棒が私を呼んでいるかのように思えてくるあたり、もうどうしようもない。自覚しないうちに、飢えていたんだな、私も。
はち切れんばかりに張りつめて。情欲の証をその表面に纏って。ここまで持ってきたのだ。それならば、その先を。最後まで見てみたくなった。
私はゆっくりと右足を上げ、ブラッキーの肉棒に当てる。これ以上玉袋を弄んでいると私の方が焦れったくなってきそうだ。
十分悲鳴は聞けたし良い表情も見られた。最初にこいつを追いつめた時に望んでいたのとは、ベクトルの違うものだったかもしれないが。そこは気にしないでおこう。
これでもかというくらい入念に弄くり回してやったのだ。先走りの量から見ても長くは持つまい。後は一気に、終わらせるのみ。

―6―

 私の足が雄に触れた瞬間、待ってましたと言わんばかりの嫌らしい笑みがブラッキーの顔に浮かぶ。袋ではなく竿に直接だ。
そう来れば、この後訪れるものが何なのか想像に容易い。こいつの望み通りに物事を運ぶのは、私からすれば不徳な部分もある。
肉棒を弄ると見せかけて、また玉袋を踏みつけてやればこいつはどんな顔をするだろうか。フェイントをかけてみても面白いかな、と一瞬思う。
しかし、私はあまり気が長い方ではない。いつまでも先に進まない雄をずっと眺めていると、何だかもやもやした気持ちが浮かび上がってくる。
ブラッキーならばどんな酷い焦らしにも耐えてしまいそうだが、あいにく私はそんな精神力は持ち合わせていなかった。
胸の奥で雌としての本能が疼いて仕方がない。ぬめぬめと光るこいつの肉棒が。一気に弾ける瞬間が見たくてたまらなかった。
「うぅ……」
 根元付近に触れた足を、私はそのままぐいと前に押し出す。最初に押し当てたよりもずっと強く。ブラッキーのお腹に押し付けてやる。
玉袋への拷問から解放されて、少しは安堵したのか。小さな喘ぎと共に、ブラッキーは何とも心地良さそうに目を細くした。
さっきまでの動きがかなり激しかったため、余計に肉棒への刺激が気持ちよく感じられてしまうのかもしれない。
完全に膨張しきった雄の弾力は袋の部分よりもずっと強い。さらに力を込めたとしても全く問題はなさそうだった。
雄の根元から先端へ、きつく踏みつけたまま滑らせてみる。先走りのおかげで途中で引っかかるようなこともなくするすると動く。
私の足にこし出された汁が、ブラッキーの体毛をみるみるうちに湿らせていく。生温かくてぬるぬるとした感触。
この艶めかしい光沢も粘性も、直接見るのは久しぶりだ。何度かその動きを繰り返すうちに彼のお腹には大きな染みが出来ていた。
ブラッキーの肉棒の小さな鼓動が、足の裏を通して私にもしっかりと伝わってくる。まるで、早く欲しいと不満を漏らしているかのように。
ふふ。待っていろ、もう少しだ。もう少しで。こうやって雄を弄んでいると無意識のうちに私の息も荒くなっていた。顔に血が上っているのが分かる。
氷タイプであっても興奮すれば体温は上がるし、汗だってかく。私の額から頬を伝って、小さな汗の粒が流れ落ちていった。
ブラッキーに負けず劣らず、この時の私も下品な笑みを浮かべていただろう。きっと、水面に映った自分の顔を直視できないくらいには。
もう早いところ終わらせてしまったほうがいいな。足先よりは踵の方がずっと力を込められる。踵ならば爪で一物を傷つけてしまう心配もないのだから思い切って。
完全に勃起したブラッキーの雄の根元から先端までは、私の足の踵から爪先までのサイズよりも若干大きいくらいだった。
これは丁度いい。私は玉袋を踏みつけていたときと同じ要領で踵に力を込めると、肉棒をすり潰すかのようにぐりぐりと足の裏を左右に動かした。
足先の方もさぼったりせずに、爪の先で雄の先端をつつくように軽く愛撫して射精を促してやる。局所的なものでなく、竿全体への刺激だ。
「や、らぁっ……も、もう……ああぁっ!」
 開始して数秒は激しい息遣いだけで何とかこらえていたブラッキーだが、どうやら限界だったようだ。
雄叫びとも取れるような悲鳴を上げ、瞳がひときわ大きく見開かれたと思うと後足をきゅっと強張らせる。そろそろだな。
出したかったのに中に中途半端に残ってしまったという不快感をこいつに与えてやっても良かったのだが。ここはちゃんと果てるのが見たいという私の欲望の方が優先されていた。
肉棒がぴくぴくっと震えた瞬間を見計らい、私は踵に込めていた力を僅かに緩めブラッキーの尿道を開けてやった。
「ああぁっ……」
 恍惚とした表情でうっとりと目を細めたブラッキーの切なげな声。刹那、大きく脈動した肉棒の先端から勢いよく白濁液が噴射される。
精の通り道は確保してやったが、未だ私は彼の雄を押さえつけたまま。放出された液は派手に飛び散ったりせず、ブラッキーの黒い毛並みを白く染めていく。
びくびくと痙攣する雄の感触が足の裏を通して私にも伝わってきた。何度か震えた後も、小さな律動で少しずつ精を外に送り出している。
今やブラッキーのお腹の上には、まるで小さな白い水たまりのように精液が吐き出されていた。漂ってきた生臭さがつんと私の鼻を突く。
彼の上に跨った時も、不本意ではあったものの興奮させてしまったみたいだし。玉袋への仕置きも合わせると前戯は十分だったのかもしれない。
あるいは、今まで溜めこんでいたせいか。どちらかは判断しかねるが、ブラッキーのお腹を白く彩っているものの量はなかなかだった。
濁った液が宙を飛び交う様子も見応えはあるものの、これはこれで別の良さが。彼が黒い体毛をしているから余計にその色が映えるというのもある。
 そのままとろけてしまいそうなくらい、幸せそうな表情でブラッキーは快感の余韻に浸っている。こうして見ると、結構可愛い顔をしているじゃないか。
このブラッキーも黙ってさえいれば、そこらの雌も放っておかないくらいの容姿は持ち合わせているような気がする。黙ってさえいれば、だが。
もちろん私は悪態をついていたときのこいつの憎らしさを知っているので、いくら外見が良くてもときめいたりはしなかった。
「この程度か」
 鼻で笑うように、蔑みながら。私はブラッキーの肉棒から足を離した。望むものは見せてもらえたし、もうこれは用済みだ。
雄からすればこれほどまでに屈辱的な言葉はない。ブラッキーの心に刺さるとは思えなかったが、これは私の自己満足のようなもの。
辻斬りや冷凍パンチではびくともしないくらい頑丈だと言っても、さすがに性感帯への刺激は耐えきれなかったということか。ざまあないね。
どんなに堂々とふんぞり返っていた雄でも、雌の前でこんな姿になってしまえばプライドも何もあったもんじゃない。
私はようやくこいつに勝てたのだという優越感を噛みしめる。勝利した手段は最初に予定していたものと方向性が変わってしまったが、勝ちは勝ちだ。そういうことにした。
全く、手こずらせてくれたものだ。私も随分と熱くなってしまった。勝ち負けに対してもだが、下半身の方も。まだじわりと濡れているのが分かる。
このまま住処に帰ると、こいつをおかずに処理してしまいかねないくらいに興奮している。それだけは何としても避けたいところ。
そうだな。気持ちを落ち着けるために、気分転換に近くの川で水浴びでもして――――。
「お前の方こそ……この程度なのか?」
 そんな私の思考を遮ってきたブラッキーの声。偉そうな物言いをするじゃないか。一度果てた奴が何を、と再び彼の肉棒を見やった私は唖然とする。
出渋った汁を先端からだらしなく垂れ流しながらもなお、ぴんと天を指している雄の姿がそこにあったのだ。萎えてないのだ。
完全に膨張しきっていたと比べると少しは収縮した感じがしないでもなかったが、雄としては十分機能しそうなくらいには張っている。
ばかな。発射してからまだ数分しか経っていないのに。こいつ、こっちの方面でもタフなのか。どこまでも痛めつけられることに特化した奴め。
これはもしや。ブラッキーは肉棒を弄られるとそこまで長持ちはしなかったが、その後の連射が可能なタイプということなのか。くそう。そこは盲点だった。
「まだ余裕だぜ。もっと強い刺激じゃないとなぁ?」
 くくく、と笑いながら私に挑発的な視線を送ってくるブラッキー。ついさっきまでのとろりとした顔つきはどこへやら。
すっかり元の憎々しげな表情に戻ってしまっている。さっきのは演技と言われても信じてしまいそうなくらいの変わりよう。
一度でもこいつの顔を可愛いだなんて思ってしまった自分を殴りたくなってくる。ああ腹立たしい。この期に及んでまだ私を馬鹿にするか。
つかの間の優越感はあっという間に吹き飛んでしまった。もう、ブラッキーが勃たなくなるくらいまで扱きぬかなければ、勝利したことにはならない。
ここで退いたりすれば、ブラッキーにどんな罵詈雑言を吐かれるか。想像しただけで虫唾が走る。
引き下がるという選択肢など、私の頭の中にはもはや存在しなかった。こうなったら、やれるところまでとことんやってやろうじゃないか。

―7―

 何とかしてブラッキーを打ちのめしてやろうと再び意気込んでみたものの。これと言って秘策のようなものがあるわけではなかった。
そもそも雄との経験に乏しい私だ。こういった方面での技術は皆無に等しい。こいつのものを足で踏みつけたのも咄嗟の思いつきによるもの。
どこをどうすればいいのか勝手も分からないまま適当に踵でぐりぐりやっただけなのだが。意外とブラッキーには好評だったらしい。なかなかの反応を見せてくれた。
まあ今の彼の態度からすれば、感じているふりをしていたとも考えられる。ただ、彼のお腹にどろりと溜まっているものを見る限りは全てが偽りだったわけでもなさそうだ。
どれだけ表面を取り繕ったとしても、体の反応は正直なもの。雄を弄られるうちに出してしまったのだから、少なからず悦に浸っていた部分もあるだろう。
「へへ、次はどうしてくれるんだ?」
「……黙ってな」
 ブラッキーの茶々を聞き流しつつ、私は次をどうするか考えを巡らせる。確かに、足での効果は十分だったと言えよう。
しかし今度もそれでは捻りがないというか、同じ手口でブラッキーがもう一度達するかどうかも疑問が残る。足だけではだめだ。他に何かないだろうか。
私に長くてしっかりした尾でもあれば、それを肉棒に巻き付けたりして足とはまた別の刺激を与えられそうだが。
生憎このひらひらの尻尾では大したダメージになりそうもない。そもそも何かに絡ませられるほど柔軟に動かせないのが現実だ。
それならば、何か技を取り入れてみるのはどうだろうか。いや、やめだ。私に出来ることと言えば、せいぜい両手から氷を出すことや素早さを生かして切りつけることくらい。
戦闘ならばまだしも、こっちの方面で役に立つとは到底思えなかった。肉棒に直接物理技を叩き込むのは、さすがの私でも良心が咎める。
ブラッキーがいくら憎たらしい泥棒だとしても、それだけはやってはいけないような気がしてならなかったのだ。
「ここ、があるんじゃねえの?」
「……っ!」
 ふいに私の股ぐらに衝撃が走った。全身の毛がぞわりと逆立つ。おそるおそる目をやると、ブラッキーの尻尾の先が私の秘所をつついている。
地面にだらりと寝そべっていた尾が突然動き出すだなんて誰が想像できようか。どうやらこいつはかなり器用に尻尾を動かせるらしい。
割れ目の表面が濡れてしまうほど興奮していたところへの、思いがけない刺激。軽く表面を撫でられただけとはいえかなり来るものがあった。
危うく膝が崩れてしまいそうになり、どうにか片手で支える。甘い声で反応してしまわなかったのは僅かばかりの抗いだ。
「や、めろ……」
 私がきっとなって睨みつけると、ブラッキーは意地の悪そうな笑みを浮かべはしたものの尻尾は離してくれた。
秘所から溢れ出した愛液がブラッキーの尾へと糸を引き、やがて消える。触れられたことが引き金になったらしく、その量は私が思っていたよりも多い。
尻尾の感触がなくなった今も体の奥からじわじわと湧き出してくるのが分かる。そのうち重力に負けて、滴る雫が出てきてもおかしくないくらいだ。
「来てみろよ。お前の締め付けくらい、耐え抜いてやる」
 自信ありげに含み笑いをするブラッキー。彼の台詞の意味するところは、足などではなく私の雌で肉棒の相手をしろということだ。
直接全体を締め上げてやれば、踵で踏みつけるよりも満遍なく刺激が伝わるかもしれない。より強い攻めを求めるならば合理的な方法ではある。
しかし、足を使っていたときとはわけが違う。確かに怒りをぶつけきれなかった不満と、いきなり雄を見せつけられた興奮もあってブラッキーの雄を弄くる結果になってしまったが。
今回ばかりはいくら挑発されたからと言ってやすやすと乗るわけにはいかない。私も一匹の雌としての節操くらいはあった。
そりゃあ興奮はしていたが、誰にでも股を開くと思ったら大間違いだ。それくらいの理性はちゃんと残っている。
会って間もない、そしてよりによってこんな奴の一物を受け入れなくてはならないだなんて。考えただけで背筋が寒くなる。
こいつをうち負かしてやりたい気持ちはあったが、今の場合はそれよりも拒絶反応の方が大きい。ブラッキーのものは願い下げだった。
いざ肉棒をすぐ近くに出されると、一時的な感情で突っ走ってはいけないと言う自制心が不思議と湧きあがってきたのだ。
「冗談じゃないね」
 軽く鼻で笑うと、肩をすくめて私は小さくため息を漏らした。何を寝ぼけたことを言っているんだ、という私の否定の態度はブラッキーにも伝わっただろう。
健康的な桃色をして、真っ直ぐにぴんと上を向いている彼の肉棒。大きさも体相応で貧弱じゃない。
単なる生殖器として見た場合、雌としてそそられるものはもちろんあった。実際、目の当たりにして胸の高鳴りを覚えたことは間違いない。
ただ、私の木の実を盗んだこのブラッキーの雄だと言うこと。その事実が越えることが出来ない壁を作り出していたのだ。
私が誘いに乗ってこなかったのが意外だったらしく、ブラッキーの余裕ぶった笑みが消える。
この程度かと言われ、歯を食いしばるくらい怒りに震えていた私だ。見境なしに売り言葉には買い言葉で突撃してくると思っていたらしい。
どちらかと言えば短気な方だと自覚がある私でも、怒りにとらわれて完全に冷静さを失ってはいなかったようだ。ここは自分を褒めたい。
彼からすれば、私の割れ目がどんな具合なのか味わってみたかったところなのだろうけれど。応えてやる気などさらさらない。お生憎様。
しかし、これで終わったわけではない。私の気を晴らすためには、もう一度くらいはブラッキーに果ててもらう必要がある。
何か他に手はないものかと考えようとした矢先、再び私の股ぐらを撫でるものが。しかもさっきよりもぴったりと密着させてさわさわと。
「んあっ……」
 これがブラッキーの尻尾なのだと言うことは分かっていた。同じ手口で捻りがない。そう分かってはいても、悲しいことに体は正直だ。
一連の行為ですっかり準備が整っていた私には、表面を撫でられるだけでも十分な刺激に。思わずがくりと片膝を付いてしまう。
「……!」
 私に見えたのは、ブラッキーがごろりと体を捻って起き上がったところまで。あんなに素早く動けるくらいの余力は十分に残っていたらしい。本当に一瞬だった。
気がつけば私は彼に押し倒されて、前足で両肩を押さえつけられていた。何が起こったのか分からずに、私は何度も目瞬きをしてみる。
しかし、それでもこの状況は変わらない。見上げた彼の表情はぞっとするくらいに無表情で、下品な笑みすら浮かべていなかった。
ぎらぎらとした赤い瞳は私を一匹の雌としてしか映していない。飢えた獣の色だ。あれだけ出しておきながら、そんなに物足りなかったのか。
彼のお腹に溜まっていた白い汁がぽたぽたと私のお腹の上に落ちてくる。冷たい。紺色をした私の体も、その色は良く映える。
ブラッキーの出したものが私の体に。そこからくる嫌悪感よりも、今はこいつに犯されるかもしれないという恐怖が私を襲った。
「踏まれるのも飽きてきたんでね」
 ブラッキーは笑っていなかった。行為のときはあのだらしない笑みを浮かべているものだとばかり思っていたため、かえって不気味だった。
だが、彼の股ぐらから伸びている物を見ればやる気満々だということは分かる。あれが、私の中に入ってくるだなんて、嫌だ。厭だ。冗談じゃない。
まずい。何とかしなければ。こいつ、ただ踏みつけられて悦んでいるだけのドMじゃなかったのか。まさかあそこから攻めに転じてくるだなんて。
押さえつけているブラッキーの前足を振り払おうと、私は両手に力を込める。傷を負わせる力はなくとも、撥ね退けるくらいはできるはず。
「ひあっ!」
 腕を振り上げようとした瞬間を見計らうかのように、ブラッキーの尻尾の先が私の割れ目を這う。先端をまるで舌のように小刻みに動かして、離してくれない。
尾の先がすじに沿って上下するたび、私の腕からどんどんと力が抜けていく。どんなに抵抗しようとしても、浮かび上がってくる快感には逆らえなかった。
秘所がどんな感じなのかこの体勢では見えなかったが、表面を撫でられるだけでも水音が聞こえてくるくらいだ。相当湿ってしまっているのだろう。
「こんなに濡れちまって……お前もやらしい雌だなあ?」
「だ、黙れ……やっ、あっ」
 濡れているのは紛れもない事実だ。否定できない。そして、紛うことなきこの心地良さも本物だ。
ブラッキーの尾に、精力を吸い取られているのではないかと錯覚してしまうくらい。だめだ。何だか頭がぼうっとしてきた。
振り上げかけた両手を草むらの上にだらりと投げ出してしまった、その瞬間。これから自分の身に降りかかるであろうことを、私は諦めとともに受け入れるしかなかった。
畜生。こんな、こんな奴に。ドMはドMらしく、大人しく踏まれて悦んでいればいいものを。こんな果敢に突撃してくる心意気なんて隠し持ってるんじゃないよ全く。
私が何をしようと抵抗する素振りすら見せず、へらへらと笑ってばかりいたブラッキーだ。
そんな姿を見るうちに、反撃なんかしてくるわけがないと思い込んでしまったのかもしれない。私は、油断していたのか、な。

―8―

 私が抵抗する意気込みを見せなくなったら、ブラッキーは油断して力を抜いてくれやしないかとちょっぴり期待していたのだが。
私を押さえつけている前足も、うねうねと這いまわる尻尾の先も、依然として同じ状態のまま抜かりがない。狙った獲物を逃がすつもりはないということか。
尻尾を割れ目に沿って何度も上下に。彼の尾は先っぽが細くなっているから、細かいところを撫でまわすのには丁度いい作りになっている。
単純で単調な動作を繰り返しているだけなのに、私の感覚は次から次へと掻き乱されていく。
背中や下半身がびくりと引き攣るのを、口元から荒い息が零れるのを、抑えられずにいた。
あれから私は何度、こいつの目の前に喘ぎ声を、恍惚とした表情を曝け出していたのだろうか。
ブラッキーを楽しませてなるものか、という心意気も空しく。時折体を痙攣させ、甘い声を漏らすばかり。
我ながら本当に情けないことこの上ない。精神面での抵抗すら、出来ずにいるのか、私は。
絶え間なく伝わってくる刺激のせいで、悔しいと感じる余裕もなかなか与えてくれやしない。私の感覚は、緩やかな悦楽の沼地に沈みつつあった。
ふと、ブラッキーの尻尾の動きが止まった。尻尾を離してくれたわけではなく、先端は私の秘所に触れたまま。
伝わってくる刺激は少なくなったが、私の雌からは未だに愛液がじわじわと流れ出ている。
行き場を失った液がぽたりと草むらの上に落ちていくのを感じていた。自重を知らない私の本能は、まだまだ欲しがっているらしい。
「そろそろ、か」
 表面を十分に撫でまわして慣らした。その後に何が待っているのか。皆まで言わずとも分かる。
視界の端に映ったブラッキーの肉棒ははち切れんばかりに膨張していた。あれだけ派手に精液をぶちまけておきながら、結構なことで。
まあ、自身の動きで目の前の雌が喘いでいるのを見ていれば、無理もないことなのかもしれないが。
「く、来るなら、さっさと……来なよ」
 そう言ってみたものの、受け入れる覚悟なんてありはしなかった。逃げ出せるものなら逃げ出してしまいたい。
しかし、私の両肩はブラッキーにしっかりと押さえつけられたまま。彼の前足を振り払う力なんて、もはや私には残されてはいない。
それに私が嫌がったところで結果は同じこと。それならば、出来る限り早く。この鈍い快楽に溺れさせられるような地獄から抜け出したかった。
「そう焦るなって。俺は長く楽しみたいんだ」
「んあぁっ!」
 ブラッキーがそう言うや否や、私の体に衝撃が走った。背中と太腿の筋肉がきゅっと硬直する。彼に動きを制限されていなければ、もっと激しく反応していたことだろう。
何が起こったのかは想像に容易い。私の中に、私以外の何かが入ってくる。
心を許した相手ならともかく、半ば強姦に近い形で。しかもこのブラッキーのものと来た。耐えがたい異物感が私に襲いかかる。早く、早く終わってくれ。
む、何だろう。覚悟していたものとは何だか感触が違うような。思ったよりも熱くないし、表面がさわさわしている。ブラッキーの肉棒に毛なんて生えてなかったような。
何かがおかしい。自分がこいつと結合している部分なんて、正直わざわざ確認したくはなかったけれど。
やっぱり気になったのだ。どうにか頭を持ち上げ、若干焦点の合わなくなった目で恐る恐る眺めてみる。
「まずはこっちから。お楽しみは後に取っておく」
 そう言ってブラッキーは己の肉棒――――ではなく、ずっと密着させていた尻尾の方を、さらに私の中に沈めてきた。
ああ、この感覚は尾だったのか。確かに、一物にしては何だか変な感触だった。なるほど、器用な尻尾はこんな風にも使えるんだね。
尻尾なら肉棒よりは大丈夫かな、と思っていたが案外そうでもない。こいつの尻尾がずぶずぶと深く入ってくるたびに、私は自分の限界が近付いているのを感じていた。
元々の太さもあってか、しっかりとした感触があって割れ目を押し広げるには十分。表面の細かい毛も私の膣内を満遍なく撫でまわしていく。
表面への刺激だけでも十分すぎる程だったというのに。このまま内部を直接弄ばれて、長持ちするとは到底思えない。
ブラッキーの目の前で達してしまうのは嫌だった。嫌だったが、避けられないこともある。こいつに押し倒された瞬間、私の敗北は確定してしまったのかもしれない。
彼を押しのける力も、彼の尻尾の動きに打ち勝つ耐久力も、私は持ち合わせていないのだから。もう、どうしようもなかった。
「こういうのは、どうだ?」
 かなり深くまで入り込んだブラッキーの尻尾がぬぷりと音を立てて。私の秘所から僅かに引き抜かれたらしい。
瞬間、ようやく尻尾から解放してくれるのかなという淡い期待を抱いてしまったが、その後さらに押し込んできた彼の動きでそれは粉々に打ち砕かれてしまった。
軽く尾を抜いては、再びずぶりと挿入。繰り返される前後運動。尻尾でやっているということを除けば、行為の最中からすると変哲もない動き。
てっきりこういうのは肉棒だけでやるものだと思っていたけど、尻尾でも同じようなことが出来る奴はいるのか。虚ろな瞳でブラッキーを見上げながら、私はふと感じた。
「ああっ、だ、だめっ……動かしちゃ、やっ、あっ!」
 敏感になりきっていた私がどうにか耐え忍ぶことができていたのは、ブラッキーの挿入が慎重だったからだ。
尻尾が入ってくるだけでも正直かなり危なかったのだが、どうにか込み上げてくるものを押さえ込めてはいた。
それをこんな風に激しく攻め立てられては、一溜りもない。尻尾の表面の細かい毛が、私の内部を無慈悲に這いまわる。
ブラッキーに肩を押さえられているだけでは、全身ががくがくと震えるのを制御できなかった。ああ、もう、だめ、だ。
だらしなく開けられた口からは何の言葉も出てこない。ただ、荒い息を零すだけ。焦点の合わなくなった私の目から、涙が零れ落ちたような気がした。
「ああああぁぁっ……!」
 激しい悲鳴と共に、私は絶頂を迎えた。秘所から勢いよく愛液が吹き出していくのが分かる。
差し込まれたままのブラッキーの尻尾に押し戻されて行き場を失った液が、私のお腹にもぴちゃぴちゃと飛び散った。
誰かの動きで達するなんて久しぶりのこと。直前の愛撫もあってか、その量は多いように思えた。そして、快楽の継続も。
こんな盗人のブラッキーに、だなんて考えている余裕はありはしない。股ぐらからじんじんと伝わってくる快感は尋常ではなかった。
抵抗だとかプライドだとかそんなものはすべてどうでも良くなってくるような心地よさ。うっとりと目を細め、締まりのない笑みを浮かべて私はそれに入り浸る。
ふわふわと宙を漂うような心地よい充実感。頭の中が真っ白に満たされていく。できることならずっと味わっていたい。
しかし、永遠に続くはずもなく。快楽が治まりはじめると徐々に気だるさが広がってきたのだ。
その疲労感は私の意識までも蝕み始めた。瞼がとてつもなく重くなって、目を開けているのが辛くて。
ここで気を失うのは、さすがにまずいんじゃないか。気絶している間に、ブラッキーにあれこれ好き放題されそうな気がする。
いや、どうせ意識があったとしても結果が同じこと。これだけで彼が満足するとは思えない。それならば、いっそない方がいいか。
こいつの表情も、肉棒の感触も、分からないまま終わってしまうならその方がずっとありがたい。ぼんやりとそんなことを考えながら、私は静かに意識を手放したのだ。

―9―

 目を開いた。遥か遠くの空が映る。随分と窮屈そうな狭い空。それでも、何だか見覚えがあって安心できる風景だ。何故だろう。
私ははっとなって体を起こした。乾いた樹皮の凹凸、吹き抜けの天井から見える小さな空。見慣れた私の住処。木の洞の中だった。
どうして私はこんなところに。ブラッキーに反撃されて、あのまま気を失って。確か場所は草むらだったような気がするのだが。
ああ。あれはもしかして、夢か。ブラッキーに木の実を奪われて追いかけたのも。仰向けになった彼の肉棒を足先で弄んでいたのも。
そして、ブラッキーに押し倒されて犯されたのも。住処で居眠りしてしまった私が見た、夢なのか。だがそれにしては記憶が生々しすぎる。
「気が付いたか」
「……!」
 入り口の方を振り返ると、そこにはブラッキーの姿があった。私の方を静かな瞳で見据えている。
私が何度目瞬きしても、手の甲で目を擦っても、消えてはくれなかった。ああ、やっぱり一連の出来事は夢じゃなかったのか。
薄々感づいてはいたのだ。ただ、どこかでそれを認めたくなくて。私は無理やりあれは夢なのではと思いこもうとしていた。
いくら鮮明な夢だからと言って、においまで残っているはずはない。少し乾きかけている、私のお腹や太腿に付着しているものの香りは本物だった。
私がこいつに辱めを受けたのは紛れもない事実。尻尾の動きで秘所を決壊させられて、私はあまりの衝撃に気を失ってしまい、その後は。
これほどまでに想像したくなくて、それでも想像が簡単に出来てしまうことも珍しいかもしれない。ブラッキーはさぞかしご満悦だったことだろう。
こんな時、どんな顔をすればいいのか私には分からなかった。ほろほろと涙を流すのか。それとも、烈火のごとく憤りを撒き散らすのか。
泣いたりするのは私の柄じゃないし、ブラッキーの前でそんな無様な姿を見せたくはない。
かと言って、怒ったところで私の身に降りかかった現実が変わるわけでもないだろう。
殴りかかっても、彼には何の効果も成さないことは良く知っている。もっとも、激しく喘いで達した直後の倦怠感が酷くて、立ち上がる気にもなれなかったのだが。
その疲労のせいなのか、私は自分でも信じられないくらい冷静にブラッキーと目を合わせることができてしまっていたのだ。
ぶつけるべき感情が次から次へと湧きあがってくるかと思えば、そうでもなく。ただ、何を言えばいいのか分からずに戸惑っているだけ。
「ここまで運んでくるの、大変だったんだぜ?」
「お前が……?」
 ブラッキーは黙って頷く。まさかそんなはずは、と思いはしたものの。それでなければ私がここにいることの説明が付かない。
地面を引きずられたような跡は体に残っていなかった。おそらくは、彼が私を背中に乗せて運んできてくれたのだろう。
手先が器用に使える二足歩行ならまだしも、ブラッキーのような四足歩行のポケモンが誰かを背負って移動するのはかなり困難を極めたはずだ。
いったい何のために彼はそんな手間も労力もかかるようなことをしたのか。私は解せなかった。
「あのままほっとくのはちょっとな。においとか、姿とか。やばかったと思うぞ」
 そう言われ、私は自分のお腹から下半身にかけて一瞥してみる。若干乾燥し始めてはいるが、ブラッキーの精液と私の愛液が混じり合って、濁った色合いになっていた。
ブラッキー程ではないが、私の体も白っぽい色はかなり目立つ。乾く前はもっと生々しく、においもかなりのものだったことが想像された。
そんな状態で意識がないまま放置されれば、漂うにおいと私の姿に他の雄が触発され、二次被害にあう可能性も無きにしも非ず。
ここまで避難させてくれたブラッキーには感謝するべきなのかもしれない。だが、それは私を運んできてくれた行動だけを見た時の話。
その前にこいつが私に何をしていたかを考えれば、とてもじゃないがそんな気持ちにはならない。
膨大なマイナスの行い前で、僅かなプラス行動を掲げられても焼け石に水。ほとんど無意味だ。
「ふん……良く言えたものだな。気を遣ったつもりなのか?」
 私はこれ以上ないくらいの冷やかな視線で、ブラッキーを射抜いてやった。これが、私に出来る彼への精一杯の非難。
この程度のことで心が揺らぐような可愛げのある精神なんて、こいつは持ち合わせていないだろうけど。
「勘違いするなよ。言っとくが、お前が気絶した後俺は何もしちゃいないからな」
「えっ……?」
「意識がない相手をどうこうする趣味はねえ。それに、反応が見られないんじゃ面白くないし」
 一瞬、耳を疑った。突然告げられた言葉に、頭が付いていかず私は暫し無言になる。何もしていない、だと。ばかな。
気絶した後、私はブラッキーにとことん凌辱されたのだとばかり思っていたのに。それじゃあ、こいつはあの後私をここまで運んできてくれただけなのか。
確かに言われてみれば、内部に何かが残っているような違和感はなかった。もちろん、感覚だけで全て判断できるものではないだろう。
しかし、私を押し倒した後もしつこいくらいに尻尾で弄んで、なかなか入れてこようとはしなかった。おかげで随分と喘ぐはめに。
それを鑑みれば。反応を楽しむことに重きを置いていた、というブラッキーの言葉にも説得力があるような気がしたのだ。
「まあ、信じるか信じないかはお前の勝手だがな」
 ブラッキーの言っていることが本当なのか、そうでないのか。どちらにしても完全に意識をなくしていた私に、真実を知る由はない。
もし事実ならば、私は尻尾で弄ばれただけになるわけだ。それでも十分屈辱ではあったが、内部を直接汚されてはいないためまだ救いがありそうな。
確かに、私がこのブラッキーに抱いている印象は最悪だった。彼の言葉をすんなりと信用しろというのが無理な話ではある。
しかし、喋っていた彼の表情は至って真剣そのもの。あのへらへらとした私の神経を逆撫でする顔つきはどこへやら。
一応真面目になるときはなる、ということでメリハリはつけているつもりなのだろうか。凛々しさすら窺えるくらいだ。
最初からこの表情で、心から謝罪してくれていれば。私はブラッキーを許していたかもしれない。
彼の主張を鵜呑みにするつもりはもちろんなかったけれど。私が気絶していた間に彼が何をしたのか、プラス思考で考えてみても良いような気はしてきた。
「それにしても、あんなすぐにイっちまうなんてなあ。お前、一人でする時も早かったりする?」
「……うるさいよ」
 ああもう。本当にこいつは。私がせっかく再評価しようとしている時に、簡単にそれを台無しにしてくれるんだから。
黙っている時と、口を開いた時の落差がとんでもない。喋れば喋るほど、彼に対する評価は坂道をとてつもない勢いで転げ落ちていく。
突拍子もなく異性にこんなことを聞いてくる雄に、誰が惹かれると言うのだろう。そりゃあ、早いと言われて否定はできないのが事実ではある。
さっきはまあ、仕方がなかった。雄を近くで見ること自体が久々で。さらに、はあはあと喘ぐブラッキーの姿も手伝って最高潮までに興奮しきっていて。
そこへの太い尻尾の一撃は、堪えた。格闘技を叩き込まれたときにも負けず劣らず。効果は抜群だったのだ。
いや、待てよ。普段自分で処理するときも早いと言えばそうなのか。私は器用に動かせる指先は持ち合わせていない。必然的に爪を使うわけだが。
性器を傷つけてしまわないよう、手加減して爪で弄くっているつもりでもそんなに長くは掛からずに――――って私は何を考えている。
軽く頭を振って考えを振り払う。激しく絶頂を迎えさせられて、疲れているんだなきっと。さっさとブラッキーを追い返して、今日はゆっくり休んだ方が良さそうだ。
「まあ、いいさ。それじゃあ俺はそろそろ行くぜ」
 洞の入り口から一歩外へ踏み出し、くるりと背を向けるブラッキー。憎たらしいその背中に石でもぶつけてやりたくなったが、手ごろな大きさの石ころは見当たらない。
あるのは木の実くらいか。投げつけるには丁度良いサイズだ。しかし、ブラッキーに食われてしまった分もある。これ以上無駄にはできなかった。
こいつに何かをぶつけたところで効果はないだろうけどね。とりあえず今は私の視界から一刻も早く消えてほしい。ブラッキーに望むのはそれだけだ。
「ああ、早く行きなよ」
 私はため息交じりに片方の爪をひらひらと振り、あっちにいけと態度で示す。名残惜しいものなんて何もありはしない。
やっとこいつとの関わりを断ち切れると思うと、体に纏わりついていた倦怠感もどこかに吹き飛んでしまいそうだった。
「じゃあな。……お前の足コキ、かなり良かったぜ?」
 不愉快なにやにやとした笑みをその顔面に張り付けて。去り際のブラッキーの一言。終わりよければすべて良し、で収まらせるつもりはなかったらしい。
「……っ、とっととどっかに失せろ!」
 私は思わず落ちていた木の実の芯をブラッキーに投げつける。怒っていたとは言え、ここで実の方を投げなかった自分を褒めたい。
芯はちゃんとブラッキーの背中目がけて飛んで行ったが、軽くて細長い形をしているため大した勢いもつくはずもなく。
苛立ちを隠しきれなかった私を見てブラッキーはにやりと笑うと、ひょいと身軽にそれをかわし、草むらの向こうに消えていった。
おのれ。最後の最後まで私を引っ掻きまわしていくか。このもやもやした気持ちのやり場が分からずに、私は右腕の爪を思い切り地面に叩きつける。
鈍い音がして地面がざっくりと抉れた。壁を殴らなかったのは、住処に穴を開けたくなかったからだろう。それくらいの判断力は残っていたようだ。
「はあ……」
 大きく息をつくと私はどかりと腰を下ろし、洞の壁にもたれかかる。爪の先から伝わってきた鈍い痛みと、何かに感情をぶつけたことで少しは頭が冷えてきた。
落ち着いて自分の行動を顧みれば、私が嬉々となってブラッキーの一物を弄んでいたことは紛れもない事実。
見ず知らずの、あんな奴のものを笑いながら、弄り倒して。思いもよらない状況で興奮していたとはいえ、私は何をやっていたんだか。
もちろん、怒りで感情的になっていた所にさらに興奮した私を見越して、ブラッキーが挑発していた部分も少なからずあっただろう。
しかし、それに乗ってしまったのは私の配慮が足りなかったから。最初の段階で身を退いていれば、反撃を受けてブラッキーに蹂躙されるようなこともなかったはずだ。
もともと私は気が短いという自覚はあったが、その短気さがこんな事態を招いてしまうとは。もっと冷静さを大切にしなければいけないな。
 まあ、起こってしまったことは仕方がない。日が経てば傷も癒えてくるさ。そんなこともあったな、と笑い飛ばせるようになるには随分と時間がかかりそうだが。
もう早いとこ寝てしまおうと横になろうとして、私はまだ体を洗っていなかったことに気が付く。お腹や下半身にかけて、白濁した水溜りが広がった後がしっかりと残っている。
さすがにこんなものを身に纏ったまま眠る気にはなれなかった。完全に乾いてしまうと後の処理が大変になる。洞ににおいが残るのもごめんだ。
半分くらいは私のも混じっているだろうが、もう半分は。あいつのが私の体についていると考えただけで鳥肌が立つような思いだった。
あんな奴の痕跡はきれいさっぱり洗い流してしまわなければ。近くを流れる川に向かおうと立ち上がる。いや待てよ。この周辺での水辺はそこしか思い当たらない。
そうなるとブラッキーも体を洗いにそこへ訪れている可能性がある。体に彼の抜け殻が残っているのは確かに嫌だが、再び顔を合わせてしまうのはもっと耐えられない。
私が無視を決め込もうとしてもブラッキーは黙っていてはくれないだろう。もうあいつの言葉を聞いて、心を乱されるのは懲り懲りだ。
癪だが、水浴びするのは少し時間を置いてからの方が良いか。それまでは、そうだな。散らばった木の実の整頓でもしておこう。
今日採ってきた木の実はブラッキーのせいで片付ける余裕がなかったため、乱雑に床に転がったまま。私はそれらを一つ一つ拾い上げ、洞の隙間に詰め込んでいく。
樹皮の凹凸と、洞の中の薄暗さは良い具合に木の実を覆い隠してくれる。ぱっと見た感じでは、ここに木の実があると判断するのは難しい。
それでも食べられてしまったということは。私の隠し方が甘かったのか。あるいはブラッキーの木の実泥棒としての経験が勝ったのか。
どちらにしても他のポケモンに見つかるようではまだまだ改善の余地がある。今度はもっと凝った収納の仕方も考えておくことにしよう。

 END
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-あとがき

ネタばれを含むので物語を全て読んでから見ることをお勧めします。

・この話について

ブラッキーは能力値から見てもドMだろうなという勝手な妄想から生まれたお話です。
相手は同じ悪タイプからマニューラ。マニューラの雌はなんかこういうイメージでした。踏みつけてるのが似合う。
ストーリーとかそっちのけで官能描写メインになってしまいましたが。濃い目の描写は久々でしたので楽しかったです。

・マニューラについて
最初、雌ポケは似たような爪を持っているポケモンとしてザングースとする案もありました。
しかし、ザングースだと木に登る描写に違和感を覚えたので、ブラッキーと同じ悪タイプ同士で仲良くやってもらうことに。
Sっ気のある雌がいざ攻められる側になると、戸惑ったり弱気になったりすると可愛いです。
本来は7話の時のブラッキーの挑発に乗ってしまい、自ら突撃して自滅してしまうという流れだったのですが。
ブラッキーを毛嫌いしているマニューラの行動にしては矛盾してしまうように思えたので、後半は攻守交替してもらいました。

・ブラッキーについて
最初から登場させることは決まっていました。何かお仕置きを受ける名目が必要でしたから、溜めてあった木の実を盗むという展開に。
追いつめられても全く悪びれない、小悪党といった感じのブラッキーとして描写しました。
気絶してしまったマニューラに手を出させなかったのは、ブラッキーを完全な憎まれ役にしたくなかったというのが大きいです。
やはり好きなポケモンですからね。泥棒行為や態度は褒められたものではないですが、最後にちょっとだけフォローを。
久々にブイズを官能に絡めましたが、やはりどの子も魅力的です。

ノベルチェッカーでの調査結果。
マニューラとブラッキーがフレンドリーな関係ではなかったせいか、台詞が少なめでした。
【原稿用紙(20×20行)】 91.7(枚) 
【総文字数】 30457(字) 
【行数】 590(行) 
【台詞:地の文】 3:96(%)|1112:29345(字) 
【漢字:かな:カナ:他】 34:64:3:-1(%)|10368:19639:1004:-554(字)

最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました。
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何かあればお気軽にどうぞ
#pcomment(泥棒のコメントログ,10,)

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