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白色系彼女とアナタの色彩的関係。-Prologue- の変更点


 

&color(white,black){白};色系彼女と&color(#00bfff,#f0e68c){アナタ};の色彩的関係。

                                                    written by [[灯夜鳴]](Naru Toya)



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 「――それは、ある夕立ちの日の思い出。」


 雨が降っていた。土砂降りだった。
 真っ黒な雲から容赦なく叩きつける雨に土が抉られ、高地から低地へ水が流れていく。
 小さな川の様になって斜面を下る流れを飛び越えて地面に足を着くと、ぬかるんだ泥が跳ねて大変不快な思いをしたのも、実によく覚えている。
 そう、他愛も無い雨宿りの話さ。そして、俺が今の主人に出逢っただけの日の話。


 大きな木の洞に隠れ、その近所では珍しかったリオルの俺を手に入れるべく森をうろつくトレーナー達を撒きつつ、雨宿りをしていた所に突然転がり込んで来たのは、まだ年端もいかぬ――多分、十歳前後の――少女だった。
体毛の薄い人間が代わりに纏うという"服"なるものをびっしょびしょに濡らして、大きな瞳をうるうると涙で満たしながら、先客の俺にも気付かずにひたすら泣きじゃくるのだ。
その言葉の大半は、やだ だの、ぜったいなる だの、何かがあったようだが事情が分からないものばかり。あぁうるさいぞ、嘆くのならば他所でやってくれないか。ここは俺の隠れ場所なんだ。心の中でぶちぶちと愚痴りながら突然の闖入者を睨むも、気付く様子は無い。そうこうしている間にも孤独感に苛まれ始めたのか泣きじゃくりようは益々ひどくなっていくばかりで、朝昼と散々追い回されて疲れ果てていた俺の心の余裕をじわじわと削っていく。
そして三十分も経っただろうかという頃、まだ嗚咽を漏らしてぐずり続ける様子に、俺はついに爆発した。
「ええい、少しは静かにしたらどうだ!やかましいぞ!」
ひっ と肩を竦ませて、左右にきょろきょろした後、ようやく少女は足元の俺を見る。
両側で団子状にまとめ、しかし尚も腰近くまで尻尾が垂れ下がる長い長い茶色の髪を揺らしながらおどおどとした様子で、八の字に垂れ下がった眉とぽろぽろ落ちてくる大粒の雫に若干の罪悪感を覚えない事も無かったが、こちらは明日も続くであろう逃走劇に備えての貴重な睡眠がかかっているのだ。出て行くなり静かにしてもらうなり……。
「あの、ね……っく、わたし、ね」
こちらがさらに文句を重ねようとしたそのタイミングで、少女がおもむろに話し始めた。
嗚咽混じりに、それでも誰かに話さないと不安に押し潰されそうなのだろう、真っ直ぐにこちらを見つめながら言葉を紡いでいく。
その様子には流石の俺も無碍にする訳にもいかず――いや、もしかしたら既に眼前の少女から何らかの輝きを、俺的に言えば"波導"を感じ取っていたのかも知れないが――話を聞いてやる事にした。
というのも、最近出会う人間は俺を見ればモンスターボールを取り出すような奴らばかりだったし、野生のポケモンとはどうにも馴れ合う気にならず、久々にまともなと人間と会話がしたかったからだ。
見た感じ、少女はトレーナーには見えない。決して、寂しくなってきていたからとかではないぞ。断じてだ。
 それはさておき、少女が言う事をまとめるとこんな感じだった。




 彼女はこの地方でも有数の名門トレーナー一家の娘だが、まだ旅をした事は無いという。兄はポケモントレーナーとしてかなりの有名人で、時々ふらりと家に帰って来ては家から出た事の無い幼い妹に旅の土産話を聞かせてやっていて、少女はそれを何よりの楽しみとしていた。
そして、何故かまだ自分のポケモンを持つ事すらすら認められていないが、いつかは自分も兄のようにポケモンを連れて各地を旅して、時々家に戻ってはその話をポケモンバトルや勉強を教えてくれるじいやに聞かせて……。そう思っていた。

しかし、そんな無垢で純粋な少女の憧れを、現実は無情にもぶち壊していくもので。

広い庭で日課であるじいやとの楽しいバトルの訓練が終わり、自分の部屋に帰ろうと廊下を差し掛かった頃。少し耳を澄ますと近くの半開きの扉の向こうから、少女が生まれた頃から面倒を見てくれている医者と、両親の声が聞こえた。
その思い雰囲気、そして母の甲高い怒声を不思議に思った彼女が、話に加わろうと扉に手をかけると。
その重い雰囲気、そして母の甲高い怒声を不思議に思った彼女が、話に加わろうと扉に手をかけると。
「――お嬢様、いけませんぞ!」
話の内容、そして次に待つ、少女が知るべきでは無い事実をいち早く察したじいやが彼女の耳を塞ごうと手を伸ばすもしかし、既に少女はするりと扉の合間から部屋に入り込み……

「あの子は失敗作だ。才能以前に旅に出せる身体では無いようでね。そうなんだろう、○○君?」
「残念ですが……はい。彼女はこのまま、この家で穏やかに一生を過ごした方が良いかと。トレーナーとしての道は諦めるべきです」
「ああなんてこと……!代々ジムリーダーやポケモンリーグ挑戦者を輩出してきた我が家の恥だわ!」

親達の元へ駆け出した足が、ぴたりと止まる。
「え……?」
しかし、返事の代わりに、呆然とする彼女を迎えたのは、振り返った医者の悲痛な表情と、普段はにこにこしている父の人形のような無表情、ちょっとお茶目で姉のようだった母のしかめっ面だった。
理解出来ない大人達の言動に呆然とする中、無機質な瞳で射竦めながら、父はさらに言葉を被せるべく、口を開こうと……
「お嬢様ッ、お行きなされい!」
放心していた少女の肩を、じいやがどんと突き飛ばした。絨毯の敷き詰められた廊下に投げ出されて尻餅をついた彼女の前で、居間の両開きの扉が重々しい音と共に閉まる。
最後に自分に向けられた父の声は、結局聞こえなかった。
行けと言われても家から出たことの無い少女だが、もう家に居れない事はなんとなく悟っていた。ついさっき見た両親の表情が泡の様に浮かび、弾ける。
頭の裏でフラッシュバックする光景は、彼女の足を家から遠ざける。とぼとぼとした歩みは早歩きに、早歩きは駆け足に。初めて向けられた悪意に恐怖し、恐怖という感情に怯えて、遠くなっていく生家の門を再びくぐる事など、もう考えられなかった。
いつしか視界は涙と暗い空から落ちてくる雨粒でぼやけ、土砂降りの中を右も左も分からずに駆けていた……というのが、どうやら事の次第であるようだ。
 全く奇妙な事だが、一通り聞き終えた後の俺の脳裏に過ぎった感情は共感だったという事も、一応付け加えておく。




 ところで全く突然なのだが、俺は捨てポケモンである。前の主人と袂を分かった理由なのだが、リオルにしてはやけに芝居がかった(俺としては、威厳に満ち溢れたと言って欲しい)口調や性格がどうにも気に入らなかったとかなんとか。
それを上手く手なずけ、分かり合ってこそ実力あるトレーナーだろうが、所詮はその程度だったのだろう。
俺も今いち仕え甲斐の無い主人だと思っていた所なので、何も言わずに野に放たれた次第だ。
野生に帰って数日は気の向くままに生活できたので割と楽しかった。が、じきに縄張りや派閥などの面倒なしがらみが見えてくるようになり、それ以来は各地を転々とするようになった。
さらに、武者修行と称して野生ポケモンに喧嘩を売りまくっていたせいか、トレーナーの間に俺の噂は徐々に広まっていき、この地方にはいないはずのリオル(しかもかなり強い)を求め、短パン小僧からベテラントレーナーまで様々な連中に昼夜問わず追い回される日々が幕を開ける事となる。
野を駆け山を抜け、川を渡り……時には思い切って谷に飛び込んだりもした。我ながら振り返ると生きた心地がしない。
そもそも生まれたばかりであったし、主人と別れて親も無い、つまり目標を見つける指標すら無かったのだから、まだ俺としての生は始まっていなかったので当然かも知れないが。

とにかく、凡庸な前の主人のせいでトレーナーに仕えるのは真っ平ゴメンな俺だったので、いくらうんざりしていてもトレーナーに仕えるのだけは願い下げであった。
捕獲されて無為な時間を過ごす位なら、自分よりも強い相手と全力を賭して戦い、華々しく散りたい……何度目かの喧嘩の果てに、いつしか軽い破滅願望さえ抱くようになっていたのだ。
そして、そろそろ海でも渡ろうか……そんな矢先に今に至る訳でだな、

「ねえ、ちょっと……誰と話してるの?」
「ん?」

 誰と、というか、これは俺の脳内回想的モノローグな訳で……ってどうして分かるんだお前は。
「だって、頭に浮かんでくるの。君の考えてる事……」
当たり前の様にそう言ってのけるのは、さっきまで三十分以上もぐずっていたその少女だ。
俺が彼女の事の顛末をこうして振り返っている間に、いつの間にか落ち着いたらしい。
「君も、一人ぼっちになっちゃったんだ……」
それどころか、逆に哀れまれている。不思議な事だが、俺はこいつに心の中を見透かされている挙句、同情されているようだ。なんだこれ。訳分からん。
「ねえねえ、君って変わってるよね?だから、ちょっと前のご主人様とは伝わらなかったんだね、お互いに」
本人の言う通りならこちらの考えはリアルタイムに伝わっている筈なのだが、こいつ都合いいところしか人の話を聞いてないな。ああ伝わらないよ、お前の考えが。
「でもね、わたし分かるんだ。だから……お友達になりませんか?」
だから、俺の頭の中を覗けるのなら俺がトレーナーに仕えるのはゴメンだと知って……ん?
「そうだよ、わたしまだトレーナーじゃないの。ダメなトレーナーに命令されるのは嫌なんだよね?」
ああ、そうだとも。俺は野生に戻って嫌と言うほど痛感したんだ。
トレーナーに命令された通りに戦うより、自分の判断で戦う方が全然良く動ける事をな。だからお前の下になんか……
「うん、だからお友達になって?わたしと一緒にいるだけでいいの……命令とかしないよ?」
だからってお前……そんな事言う奴は今まで会った事無いし……困るんだが。
こちらの困惑もやはり伝わっているのか、そいつは少し楽しげな目をしてじっと見つめてくる。
なんというか、大人しめだが非常に人懐っこい印象で……こう、悪い気分じゃないのが腹立たしい。
「ダメかな……っくしゅ!」
口元押さえてくしゃみをひとつ。続いてぶるりと身を震わせる。
ほれみろ、人間が土砂降りの中で外に居ると大体そうなるんだ。
「風邪ひいた、かな……うぅ」
気のせいか熱のせいか、頬も赤くて目もさっきと同じ位に潤んでいる。こうなると、ここで雨を凌ぐだけでは具合はどんどん悪くなるだろう。どこか、温度管理の利いた宿泊施設でも見つけて早めに休むべきだな……。
「でも……そんな所知らないよ?世の中は怖いんですよってじいやも……」
あぁもう、この温室育ちのぼんぼんめ!ポケモンセンターを知らんとは予想外過ぎるぞ……!
思わず頭を抱えてしまう程のお嬢様ぶりだった。というか、それだけ大事にされ過ぎていたから身体が弱いんじゃ無かろうか。
「いいからちょっとついてこい、この近くの街のポケモンセンターなら俺が知ってる!」
「わ、ちょっと待ってっ……」
自分より背の低い俺に手を引かれてつんのめる少女に転ぶ暇も与えない勢いで、俺は走り出す。
風邪というものは時間が経てば経つほどしんどくなっていくものと決まっているし、動けるうちに動くんだ。善は急げとも言うしな!別に楽しくなってなどいないからな!

 ――と、その前に訊いておかねばならない事があった。おい、名前を言ってみろ、お前。

「え……?うん、&ruby(ハクノ){白乃};。白乃です!君の名前も教えて……?」
「ん、俺か?そうだな……おい白乃、お前に俺の名前を付ける栄誉を与えてやろう」

え、えぇ~っ!?と情けない叫び声が木霊する。
打ち付ける様に激しかった土砂降りは見渡す限りの雲を拭い去り、路頭に迷った一人と一匹が行くべき道を、鮮やかな夕陽の茜が照らしていた。



 「――これが、わたしとノアの、一年前の出逢いのお話。」




 これはまた後々語る事になるのだろうが、一年経った今、俺と白乃の道中には仲間が集まりつつあり、リオルだった俺はルカリオになっている。
驚いた事に、俺が進化を迎えたのは白乃が俺についてくるようになってから僅か一週間だったのだが……特に理由は無いのだろう。多分。
 




 ~to be continued~


#hr


 ○あとがき兼自己紹介的な。○

 初投稿…では無いのです。
 多分大半の人とは初めまして、お久しぶりの方は…まだ活動してる方もいらっしゃるみたいですね、
 5、6年前に"孔明"と名乗って活動しておりました。当時の作品は全て消してしまったので、またゼロからのスタートです。
 実はだいぶポケモンから離れてまして、つい二週間前にホワイト2買ったばかりな位で…。
 つまり白乃ちゃんの見た目はBW2女主人公のメイちゃんです。ちなみにネーミングの由来はホワイト=白という安直さ。

 この作品は長編を見据えた作品になる予定で、今回はその序章となっています。
 昔、ゲーム本編みたいに人間の主人公とポケモン達が悪の組織をやっつけるバトル風な物を書いてましたが、大体同じ路線になるかな…?
 久々に執筆をやってみると大変ですね。ずっと創作側じゃなくて消費側のオタクをやってたので語彙力も想像力も低下している、、
 あの時は「書いてて楽しい」の一心で書いてたのですが、文章力は低下しているのにクオリティーは上げたいと欲を張った結果、
 なぜか語り部のノア君が中二病に…リオルの段階でこの口調、どうなんでしょう。邪気眼の申し子。
 これからもノープランで迷走を極めていくとは思うのですが、どうぞ生暖かい目で見守って頂けると嬉しいです。

 ――ちなみに次回からノア君は花園を守護するナイト的ポジションに落ち着きます。意味深。

                                            2013.4.20.

 追記:6年ぶりに続きを書こうかな、、まったく文章書いて無かったのでリハビリがてらにちょこちょこと。
    ついでに気分一新、名前も変えました。わーい!
    中二っぽい名前の由来は私の誕生日(鳴→なる→メイ=May=5月 灯→トウ=10 夜→ヤ=8)だったり。作者ページはまたそのうち作り直します…!

                                            2019.6.24.

#hr


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