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無くしたもの、拾ったもの 2 の変更点


[[無くしたもの、拾ったもの]]の続きです

#hr

・・・

なんだ、ここは・・・

ふわふわしてる・・・

空間がゆらゆら揺れてる・・・
俺は前に歩いて行った。歩かざるを得なかった。
するとまぶしい光に目がくらんだ。
・・・
いつもの教室?いつの間にか俺は席に着いていた。
みんないる・・・席について授業を受けてる・・・
アルセウス先生が今授業でテーマにしている話の内容について解説していた

「記憶が無くなれば、その者は、すくなくとも自分の過去を否定されたような気分になるかも知れない。」
そんなことねえよ、と俺は思った。周りの誰かが自分のもののはずの自分のものでない過去を、肯定してくれる。
先生は続けた。
「記憶は科学的にいえば脳の海馬という部分に集積される。鍵のついたタンスのようなものだ。鍵があれば思い出せる。無くせば

見つかるまで思い出せない。さらにその者のパーソナルな経験的知識と一般教養のような知識に区分され・・・」
先生はしゃべり続ける。饒舌さは増すばかりだ。
「ともかく記憶というものは、生涯をもっとも支配するものだということだ。」
なんで俺は授業を受けているのか・・・
ハッと気付いた。
教室は揺らいでいないのに、周りのみんなは、みんなの像は揺らいでいる。
でも、アルセウス先生は揺らいでいない。そして俺も。
ホーちゃんは?

俺はホーちゃんがいつもいる席を見た。

・・・いない。席もない。
「どうしたルギア・・・」
先生は俺に呼び掛ける。俺は恐怖を感じた。

「なにもないのか?・・・なら授業を続けるぞ。」
怖い・・・何もないはずなのに・・・いや・・・なにもないから、何もないと感じるからこそ恐怖を覚える。
「ルギア、どう思う?」
突然、先生は俺を指名した。
「お、俺は・・・」
言葉が詰まってうまくしゃべれない。でも俺は声を振り絞って言った。
「記憶にのみ生涯は支配されるものではないと思います。」

先生はニヤリと笑って俺のほうを見た。
「そうか・・・ルギアは記憶が無くなるのが怖くないか?」
先生は何を言ってるんだろう・・・お、俺の記憶が無くなる?
「いえ、怖いです。」
そう答えるしかなかった。

「では経験したくはないということかな?」
いつも以上に低い声で、何かを狙ってるような甘えた声で俺に言った。
気づけば俺以外に教室で何かをしている生徒はいない。みんな像があるだけだ。

「この像も、そしてこの夢も、すべては記憶にすぎん。それが無くなるということはどうなるかな?」
俺は逃げ出したくなる気持ちでいっぱいだった。

「そうだ。その友人も、その絆もすべては記憶だ!その記憶が無くなれば生活は営めなくなるのだ。」
先生は黒板に向けて声を張り上げて叫んだ。そして俺のほうに踵を返すと俺を強く睨んだ。

「お前の大事な記憶・・・それを奪ってやる・・・」
何なんだ・・・これは・・・恐怖で手足が震えてきた。冷や汗も。

すると先生は強烈な光を放って・・・


「うわっ!!」
ゆ、夢か・・・心臓が高鳴り、異常な状態であることを如実に示していた。
ひとまず落ち着くために、記憶が無くなってないか、確かめることにした。
好きな雑誌の今月号の特集、所持金、課題の出来、去年の成績、クラスメート、好きな人、ホーちゃん。

「ホーちゃん?」

俺は横で寝ているはずのホーちゃんを見た。しかし、そこには布団以外何もなかった。
「いない!?」
パニックになった俺はとりあえず周りをよく見た。

・・・
いた。
布団から転げ落ちてた。
「あれだけ布団にくるまってたのに、なんで転げ落ちてるんだよ。えらく寝相悪いな。」
俺は布団から出て床に直に寝ているホーちゃんを布団に戻すことに。
うつ伏せになるように寝ているホーちゃん。俺はどうやって持ち上げるかを考えたがあきらめた。
とりあえず翼の付け根を持って引きずるようにホーちゃんを布団に戻そうとする。
うっし。よいしょっと。ホーちゃんはそんなに重く感じなかった。
元に戻されたホーちゃんは幸せそうな寝顔をしている。その幸せを俺も感じた。

落ち着いたら俺の寝汗で布団がびっしょりになっていたことに気付く。
布団に入ったらちょっと寒いし。我慢できるだろうか。おそらく風邪引くな。
「ちょっと失礼。」
俺はもう変だと誤解されること前提で着替えてホーちゃんの布団に勝手に入れてもらうことにした。
「よし、これでよく寝れるぞ。」
変に満足していたが、これでいいのか?俺。疲れていたのか俺はすぐに眠りに落ちる。

むにゃむにゃ
ん?なんか目の前に柔らかいものが・・・ふさふさで気持ちいいし・・・あったかいし・・・

「ア・・ギア・・・ルギア!」
「わっ!」
あ、ホーちゃんだ・・・起きてるし・・・すっかりついさっきまでのことを忘れて俺は熟睡していた。

「なにしてんの?」
ホーちゃんは冷めた目で俺のほうを見た。謝るか・・・どうしようか・・・素直に経緯を説明して謝るか。
「ごめん・・・実は・・・・」
俺は今までの経緯、夢の内容、寝汗のこと、風邪をひくと思ったこと、勝手に寝させてもらおうと思ったことを話す。

するとホーちゃんはさっきの冷めた目から一転、ちょっと含み笑いをした顔をした。
「そうなんだ。そんな怖い夢、ルギアでも見るんだ。」
さらにホーちゃんは優しい目をしてくれて、俺の頭を翼で軽く撫でた。
「もしルギアが僕のことを忘れても、僕はルギアのことを忘れないし、僕はルギアを守るよ。」
俺はこの状況がおかしくて仕方なかった。いつもならどう考えても逆のシチュエーションだったからだ。
「あ、笑ったでしょ。」
そりゃそうだ。笑うしかない。昨日の晩、ホーちゃんは布団から転げ落ちててそれを俺が直したのに。
「笑うってことは、元気出た?」
「出た。ありがと。」
ホーちゃんは俺を笑わせるために今のセリフを言ったのかな?本気でも冗談でも俺はだいぶ元気が出たからま、いっか。

「ホーちゃん、先に起きたんでしょ?フリーザーからなんか連絡なかった?」
ホーちゃんはなかった、というようなジェスチャーをして朝ごはんの準備に取り掛かった。
俺はカバンにペンケースとノートを一冊いれて今日のフィールドワークの準備を終えた。

Prrrrr、Prrrrr
寮の内線の電話が鳴った。

すぐさま受話器を俺は取る。
「おはよう、ルギア。」
フリーザーだった。俺は返事をした。
「きょうの準備だけど、昼御飯だけでいいよ。私もいま作ってる。今日はそんなに遠くには行かないよ。」
質問をする間なくフリーザーはしゃべってる。
「じゃ、1時間半後に寮の門の前で。ホウオウにもよろしく。」
一方的に電話は切られた。

俺は一つ疑問に思うことがあった。
「ホーちゃん、フリーザーに内線の番号教えた?」
「ないよ。部屋の番号知ってるから推測されたんでしょ。」
フリーザーも恐ろしいな。俺たちの寮には電話機が付いてる。
って言っても、寮長さんが何かあったときのためにつけたもので、俺たちはほかの部屋の番号を知らないはず。
・・・知らないはず。フリーザーは同じ寮の違う棟に住んでるが、まず会うことはない。
雌雄で一応住むところは分けられている。

「ホーちゃん、フリーザーから電話あって昼御飯が必要だって。」
受話器を置くと俺はホーちゃんにそう言って、ごろんと寝ころんでご飯ができるのを待つ。
「わかった、ありがと。じゃあもうちょっと待って。」

しばらくして、ほいほいっという声がキッチンから聞こえて俺は起きて、ご飯を心待ちにする。
「できたよ。はい、フレンチトースト。」
きた。これは・・・いい。ホーちゃんはいつも以上の料理の腕だ。うむ、素晴らしい。
腹が減っていた俺は、それをすぐに食べる。
「ねえ、ルギア、うまくできた?」
それはもちろんだ。うまい。返事をする前に食べきってしまった。
ホーちゃんのほうを見るとマイペースにまだ食べてる。
俺は2杯お茶を淹れて1つをホーちゃんの前に置いた。やっと食べ終わったホーちゃんはそのお茶を嬉しそうに飲んだ。
それを見ていた俺は自分でいれたお茶をゆっくり飲みながら観た夢のことを少し気にしている。
記憶をなくす・・・か。本当だったらかなり怖いが。

「ルギア!」
その声にちょっとびくっとした俺をホーちゃんが呼んでる。
「ああ、ごめんごめん。何?」
「昼ごはんいるでしょ?ちょっと手伝ってくれる?」
断るわけはない。俺は急いでキッチンに向かう。えいっと言うとともにホーちゃんは赤い木の実を潰していた。
「今潰してる木の実を、マフィンの中に入れてくれる?」
手元を俺は見る。するとちいさなパンがいくつかある。

「ホーちゃん、この木の実は何?」
するとホーちゃんは潰した木の実を俺の口元に持ってくる。俺は迷わず口をあけた。
「ん・・・甘いなこれ。」
「でしょ。この木の実は熟れるとかなり甘くなるんだよ。長持ちするからいろいろと使えるし。」
確かに、パンと一緒に食べたらおいしいかもな。俺は潰れた木の実をマフィンの中に入れる。
しばらくして木の実を入れるマフィンがなくなった。
「できた。ルギア、ありがとう。」
木の実の汁がついた翼を洗っていた俺はちょっと嬉しくなる。

実は俺、ホーちゃんにあんまりキッチン触らせてもらえないんだよな。
まったく触らせてもらえないっていうことでもないけど、俺も敬遠してる。
以前に俺が料理を作ったときに、調味料の配合を間違えてそれ以来。
あの時はホントに俺は罰ゲームみたいな料理を作ってしまったからな。

でもその時だったな。ホーちゃんの料理の腕が意外とうまいっていうことに気付いたのも。


ホーちゃんはマフィンを小さな弁当箱に詰めて、俺に渡してくれた。
「はい、ルギアの分。足りなくなったら、僕のをあげるよ。」
「ホーちゃん・・・ありがと。」
壁の時計を見た。約束の時間まであと10分もない。
「ホーちゃん。さて、そろそろ行くか。」
うん、という返事の後、俺たちはカバンを持って自分の部屋を出た。

寮の門の前には軽装のフリーザーがいた。
「お二人さん、おはよう。」
「おはよう。」
今日どこに行くの?という質問のあと、地図を見せたフリーザーは近くの遺跡をマークした。
「じゃあ行くよ!」
その声とともに俺たちは飛び立った。距離で見ても15分もかからない。
こんな近くに大きな遺跡があったのか、という感じだ。
といっても公園と遺跡が一緒になっているので公園としてのほうがよく利用する。

飛び立って5分もしないうちに、その公園が視界に入る。遺跡はその奥だ。
「見えたよ!あれが目的の遺跡!」
フリーザーは大声で俺たちに向かって叫んだ。
確かに石で組まれたような色の迷路みたいなものが見える。

遺跡の前に俺たちは降り立つ。
「で、フリーザー、ここに何しにきたわけ?」
「もちろん、遊びに。」
フィールドワークはどこに行ったんだ。俺たちはしばらく遊ぶことになった。

フリーザーは何やら怪しげな道具をカバンから取り出して遺跡の中に入っていく。
遺跡って言っても屋根はないし、飛んで行ったらすぐに追いつける。
ホーちゃんはじっと遺跡を見つめている。
「ホーちゃん何かあった?」
「このレリーフ・・・どっかで見たような・・・」
俺はホーちゃんが見つめる先を見た。すると円で模様が形取られているマークのようなものを見つけた。
「ホーちゃんは遺跡とか行ったことある?」
「ないよ、全然。ただね、見たことあるなあって思って。」

恐る恐るホーちゃんは遺跡の中に入って行こうとした。
俺は怖かったけど、ついていくことにした。
「怖いよね・・・」
「怖いな・・・」
ちょうど30分くらいして腹が少し減った俺はホーちゃんが作ってくれたマフィンを食べる。
ホーちゃんはそんな俺に気付かずゆっくりと前に進んでいく。

「ここは、何もないね。」
ホーちゃんはそう言った。
「早く帰りて。」
俺は呟く。
「あ・・・」

どんっ!
俺はいきなり押された。それとともに大きな爆発音がした。その爆発は明らかにホーちゃんの近くで起こったものだった。
転倒してうつ伏せになった俺は擦り傷ができたのか足に痛みを覚えた。
瞬間的なその痛みは目を開けられないもので、俺は目を閉じてうつ伏せになったまま身体を丸くした。

「・・・ル・・ギ・・ア・・・」
ホーちゃんの声らしいものを聞いた俺は痛みを抑えて起き上がる。
すると目の前には衝撃で壊れた遺跡と横に倒れたホーちゃんがいた。
「ホーちゃん!」
駆け寄った俺はホーちゃんに呼び掛けるが返事がない。
息もしてるし、脈もあるのにホーちゃんは呼びかけに答えない。

「どうしたの?」
爆発音を聞いたフリーザーが駆けつけたが、俺はパニックで何も言うことができない。
フリーザーは状況に気がついたのかあわてて俺を揺さぶる。
「早く運ばないと。」
俺たちは意識のないホーちゃんを抱えて病院まで連れて行った。

病院に着いた俺たちはホーちゃんを預けて自分のけがを診てもらった。
医者のサーナイトさんが消毒液を傷に塗る。傷に沁みて痛い。
「大丈夫、ただのかすり傷よ。」
俺は少しだけほっとして、
「あの、ホーちゃんは、ホウオウは大丈夫なんですか?」
そう俺が尋ねるとサーナイトさんはホーちゃんのカルテを捜した。
「・・・ただ気を失ってるだけで、とくに目立つけがもないけど・・・」
あいまいな返事で少し俺は気が立った。
「少し待合室で待っててくれる?もうそろそろ起きると思うから。」
待合室で俺はフリーザーと何があったか整理することにした。
確か、俺とホーちゃんは遺跡に入ってそれで・・・あの時・・・
俺は・・・押された?ホーちゃんに?
そうだ・・・ホーちゃんが俺を押した後に爆発が起きたんだ。
つまり・・・?

考えていると、診察室のドアが開いて俺は呼ばれた。目が覚めたホーちゃんの様子が変だというのだ。

つづきます

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